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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01D
管理番号 1367301
審判番号 不服2019-11845  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-09 
確定日 2020-10-14 
事件の表示 特願2016-536621「洗浄ノズル及びガスタービンエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日国際公開、WO2015/082610、平成29年 2月16日国内公表、特表2017-505396〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2014年(平成26年)12月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年(平成25年)12月6日 イタリア(IT))を国際出願日とする出願であって、平成30年9月26日付けで拒絶理由が通知され、平成30年12月25日に意見書の提出及び手続補正がなされ、平成31年4月23日付けで拒絶査定(発送日:令和1年5月7日)がなされ、これに対し、令和1元年9月9日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成30年12月25日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明という。」)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
ガスタービンエンジンのコンプレッサ(1)へ向けて液体物質を噴射するためのノズル(4)において、
前記液体物質を放出するための端部を有する長尺体(20)と、
前記長尺体(20)の内部にあって前記端部に至るまで延びる前記液体物質のための導管(21)と、
前記端部に位置される凹部(22)であって、前記導管(21)が前記凹部(22)で終端する、凹部(22)と、
を備え、
前記凹部(22)が前記長尺体(20)の側面へ向けて開放し、前記導管(21)が前記凹部(22)の底部に対して接線方向にあり、
前記凹部(22)の断面の形状の平坦部と前記凹部(22)の断面の形状の湾曲部とを接合する部分が前記凹部(22)の底部に対応し、
前記湾曲部が放物線又は双曲線を成す、
ノズル(4)。」

第3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1?6、9
・引用文献等 1及び2

・請求項 7、8
・引用文献等 1?3

<引用文献等一覧>
1.米国特許第5011540号明細書
2.特開平05-317755号公報
3.特開平10-034024号公報

第4.引用文献、引用発明
1.原査定の拒絶の理由に引用した米国特許第5011540号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、「METHOD AND APPARATUS FOR CLEANIMNG A GAS TURBINE ENGINE」(当審訳:ガスタービンエンジンの洗浄方法及び装置)の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「1.Field ofthe Invention
The present invention relates to the cleaning of gas turbine enginesand specifically to a method and apparatus which can be employed to providethorough cleaning of a compressor of a gas turbine engine while the engine isrunning at or near full engine speed and load.」(1欄6ないし11行)
(当審訳:1.発明の分野
本発明は、ガスタービンエンジンの洗浄に関し、具体的には、エンジンが全エンジン速度及び全負荷またはその近くで稼働している間に、ガスタービンエンジンの圧縮機を完全に洗浄するために使用できる方法及び装置に関する。)

(2)「SUMMARY OFTHE INVENTION
The method and apparatus involve a series of nozzles arranged tocreate a cloud of cleaning fluid around the entire engine intake in the area ofrelatively low speed turbulent air in front of the engine. Specifically, aplurality of nozzles are positioned adjacent the lip of the bellmouth of theengine because in this area the air speed is quite low and therefore does notdisturb the function of the nozzle apertures in properly dispersing the flow offluid from the nozzle orifice into an approximate 90 DEG dispersion across theface of the air being drawn into the compressor inlet/bellmouth.」(1欄64行ないし2欄8行)
(当審訳:発明の概要
この方法及び装置は、エンジンの前の比較的低速の乱流空気の領域で、エンジンの吸気全体の周りに洗浄流体の雲を生成するように配置された一連のノズルを含む。具体的には、複数のノズルがエンジンのベルマウスのリップに隣接して配置されており、この領域では空気速度が非常に低く、したがって、ノズルオリフィスからの流体の流れを、コンプレッサーの入口/ベルマウスに引き込まれる空気の面全を横切って、約90度で、適切に分散させる際のノズル開口部の機能を妨げないためである。)

(3)「A principalobject of the present invention is the provision of a method and apparatus foruniformly cleaning the compressor of gas turbine engines. A further object ofthe present invention is the provision of a method and apparatus for thecleaning of gas turbine compressors when the engine is operating at or nearfull operating speed and load. A further object of the present invention is theprovision of a method and apparatus for cleaning gas turbine compressors whichemploys the spraying of a cleaning fluid across the front of the engine intothe area of relatively low speed turbulent air. A further object of the presentinvention is the provision of a method of cleaning a gas turbine compressorwhich employs a cleaning fluid sprayed in front of the engine inlet.」(2欄39ないし54行)
(当審訳:本発明の主な目的は、ガスタービンエンジンのコンプレッサーを均一に洗浄するための方法及び装置を提供することである。本発明のさらなる目的は、エンジンが全作動速度及び全負荷またはその近くで作動しているときにガスタービンコンプレッサーを洗浄するための方法及び装置を提供することである。本発明のさらなる目的は、エンジンの前部を横切って比較的低速の乱流空気の領域に洗浄流体を噴霧することを利用する、ガスタービンコンプレッサーを洗浄するための方法及び装置を提供することである。本発明のさらなる目的は、エンジン入口の前に噴霧された洗浄流体を使用するガスタービンコンプレッサーを洗浄する方法を提供することである。)

(4)「A furtherobject of the present invention is to clean a compressor with an apparatusemploying a series of nozzles whose spray pattern effect is an approximately 90DEG fan spray with no relative air flow and which reduces to approximately 60DEG when the engine is running, such that a continuous covering of cleaningfluid covers the surface area in front of the engine.」(2欄55ないし61行)
(当審訳:本発明のさらなる目的は、スプレーパターン効果が相対的な空気流なしで約90°のファンスプレーであり、エンジンが作動している時に約60°に減少し、洗浄液の連続的なカバーが、エンジンの前の表面積をカバーする、一連のノズルを使用する装置で、コンプレッサーを洗浄することである。)

(5)「A furtherobject of the present invention is to provide a spray pattern of the cleaningfluid around the inlet of an engine to allow for a squeezing effect by the fanof the engine reducing the nozzles' spray pattern to an angle of 60 DEG whenthe engine is running. A further object of the present invention is to providea spray cleaning method and apparatus such that the spray occurs in the zone oftransition from a turbulent to an accelerating laminar flow.」(2欄62行ないし3欄2行)
(当審訳:本発明のさらなる目的は、エンジンの入口の周りの洗浄流体のスプレーパターンを提供して、エンジンのファンによる絞り効果を可能にして、エンジンが作動した時のノズルのスプレーパターンを60°の角度に減少させることである。本発明のさらなる目的は、乱流から加速層流への移行領域でスプレーが発生するようなスプレー洗浄方法及び装置を提供することである。)

(6)「FIG. 1 is adiagramatic side view of a gas turbine engine's mouth with the spray apparatusof the present invention mounted thereon;」(3欄10ないし12行)
(当審訳:図1は、本発明のスプレー装置が取り付けられたガスタービンエンジンの口の概略側面図である。)

(7)「FIG. 3 is anenlarged view of one of the spray nozzles employed in the invention;」(3欄15ないし16行)
(当審訳:図3は、本発明で使用されるスプレーノズルの1つの拡大図である。)

(8)「In FIG. 1,the bell-mouth portion of the gas turbine engine is shown having a cylindricalhollow portion 2 and a curved air-flow directional portion 4 mounted therein asis well-known in the art of gas turbine engines. Mounted about the periphery ofthe bell-mouth of the engine is an apparatus which consists of twelve nozzlesmounted at a 30 DEG pitch. The nozzles are mounted such that the spray patternthereof is set to occur in a zone, 22, between the cylindrical portion 2 and thetapered air-flow portion for the gas turbine engine.」(3欄27ないし37行)
(当審訳:図1において、ガスタービンエンジンのベルマウス部分は、ガスタービンエンジンの技術で周知のように、円筒形の中空部分2と、その中に取り付けられた湾曲した空気流方向付け部分4とを有するように示されている。エンジンのベルマウスの周囲に取り付けられているのは、30°ピッチで取り付けられた12個のノズルからなる装置である。ノズルは、そのスプレーパターンが、円筒形部分2とガスタービンエンジン用のテーパー空気流部分との間のゾーン22で生じるように設定されるように取り付けられる。)

(9)「FIG. 3 showsthe special nozzle utilized in the apparatus of the present invention. Morespecifically, in FIG. 3, the spray nozzle head portion 60 is coupled to thesupport wall portion 38 of the mounting frame 38 via suitable connections showngenerally at 66. The details of this coupling arrangement are left to the skillin the art being simply that the spray head 60 be firmly affixed to the supportframe 38. A suitable connection formed in the mounting plumbing 66 couples thespray head 60 to the manifold ring 20.」(3欄54ないし63行)
(当審訳:図3は、本発明の装置で利用される特別なノズルを示す。 より具体的には、図3に示されるように、スプレーノズルヘッド部分60は、全体的に66で示される適切な接続を介して、取り付けフレーム38の支持壁部分38に結合される。この結合構成の詳細は、単にスプレーヘッド60が支持フレーム38にしっかりと取り付けられることであるということだけで、当業者に委ねられている。取り付け配管66に形成された適切な接続は、スプレーヘッド60をマニホールドリング20に結合する。)

(10)「As shown inFIG. 3, the spray head 60 has a bend portion 64. This bend occurs at an angleof 30 DEG with respect to the horizontal. The exit aperture of the spray head60, shown at 62, is notch-shaped such that the bulk of the spray produces a fanshaped pattern which is 90 DEG with respect to the center of the apertures whenno relative air-flow is present in the space 22 and approximately 60 DEG whenthe engine is running and air-flow is present in space 22.」(3欄64行ないし4欄4行)
(当審訳:図3に示すように、スプレーヘッド60は屈曲部分64を有する。この屈曲は、水平面に対して30°の角度で生じる。62で示される、スプレーヘッド60の出口開口部は、空間22内に相対的な空気流が存在しない時には、開口部の中心に対して90°であり、エンジンが作動していて空間22内に空気流が存在する時には、約60°である扇形のパターンをスプレーのバルクが生成するような切欠き形状をしている。)

(11)「



(12)「



上記(12)に摘記したFIG3から、ノズルは、スプレーヘッド部分60の側面に向けて開口する出口開口部62を備えていることが看取される。
また、上記(3)に摘記した「・・・本発明のさらなる目的は、エンジンの前部を横切って比較的低速の乱流空気の領域に洗浄流体を噴霧することを利用する、ガスタービンコンプレッサーを洗浄するための方法及び装置を提供することである。本発明のさらなる目的は、エンジン入口の前に噴霧された洗浄流体を使用するガスタービンコンプレッサーを洗浄する方法を提供することである。」なる記載を踏まえると、上記(12)に摘記した記載における「スプレーのバルク」は、「洗浄流体のスプレーのバルク」と解される。
そして、引用発明1における「ノズル」は、「スプレーノズルヘッド部分60」と、「スプレーノズルヘッド部分60の側面に向けて開口し、扇形のパターンをスプレーのバルクが生成するような切欠き形状をしている、出口開口部62」を備えていることから、上記「スプレーノズルヘッド部分60」は、その内部に、上記「出口開口部62」に至る、「洗浄流体」を供給するための洗浄流体供給通路を備えるものであることが明らかである。

以上を踏まえ、上記(1)?(12)に摘記した事項を、本願発明に照らして整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

《引用発明1》
「ガスタービンエンジンの前の比較的低速の乱流空気の領域で、エンジンの吸気全体の周りに洗浄流体の雲を生成するように配置され、コンプレッサーを洗浄するためのノズルであって、
スプレーノズルヘッド部分60と、
前記スプレーノズルヘッド部分60の側面に向けて開口し、洗浄流体のスプレーのバルクが、扇形のパターンを生成するような切欠き形状をしている、出口開口部62とを備え、
前記スプレーノズルヘッド部分60は、その内部に、前記出口開口部62に至る、前記洗浄流体を供給するための洗浄流体供給通路を備えた、
ノズル。」

2.原査定の拒絶の理由に引用した特開平5-317755号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「スプレーノズル」の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、丸数字は、(丸1)等と表記する。)
(1)「【0002】
【従来の技術】従来、上記した冷却塔における温水の冷却は、スプレーノズルを用いて行われており、冷却効率を高めるために、スプレーノズルには下記性能が要求されている。
(丸1)噴霧範囲が広範囲であること。
(丸2)粒子径が小さいこと。
(丸3)噴射口の穴径が大きく、目詰まりが発生しにくく、ノズルの初期性能を長期間持続出来るようにすること。
【0003】上記の要求に従い、噴霧角度が広く、噴射口の穴径を大きくして、粒子径を比較的小さくしたものとして、図6(A)(B)(C)に示す広角扇形スプレーノズルが提供されている。上記スプレーノズル1は、ボデイ2の後端より軸線Lに沿って形成した流入孔3の先端に絞りをかけずに同径のままとした噴射口4を設け、該噴射口4の部分に外周面側より図示のような切欠5を入れて、噴射口4から噴射される流体の受液面6を形成している。
【0004】上記した切欠5はフォームド・フライス・カッターを用いてボデイ軸線と直交する方向より加工して形成しているもので、図示のように受液面6は、軸線方向には、図6(B)に示すように、噴射口4の内端4aより曲率Rで湾曲した曲面C1を備えると共に、該曲面C1と直交する方向には、図6(A)に示すように、噴射口4の内端4aと軸線方向に連続した点を中心として直交する方向に湾曲した一つの円弧曲面C2を備えている。
【0005】上記スプレーノズル1では噴射口4から噴射された液体は受液面6に衝突することにより粒子が小径となると共に、広い噴射角度となって噴霧される。」

(2)「【図面の簡単な説明】
・・・
【図6】 従来のスプレーノズルの示し、(A)は正面図、(B)は断面図、(C)は底面図である。」

(3)「



上記(2)に摘記した記載によると、上記(3)に摘記した【図6】(B)は、広角扇形スプレーノズル1の断面図であるところ、同図から、切欠5における、噴射口4が設けられた部分の断面形状は、平坦であることが看取される。

以上を踏まえ、上記(1)?(3)に摘記した事項を、本願発明に照らして整理すると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

《引用発明2》
「ボデイ2と、
ボデイ2の後端より軸線Lに沿って形成した流入孔3と、
前記流入孔3の先端に絞りをかけずに同径のままとした噴射口4を設け、
該噴射口4の部分に外周面側より切欠5を入れて、噴射口4から噴射される流体の受液面6を形成し、
上記切欠5における、噴射口4が設けられた部分の断面形状は、平坦であり、
曲面C1を備えた上記受液面6の断面形状は、軸線Lの軸線方向に、噴射口4の内端4aより曲率Rで湾曲している、
広角扇形スプレーノズル1。」

第5.対比
引用発明1と本願発明とを対比する。引用発明1における「スプレーノズルヘッド部分60」、「出口開口部62」及び「洗浄流体供給通路」は、おのおの、本願発明における「液体物質を放出するための端部を有する長尺体(20)」、「凹部(22)」及び「導管(21)」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。

《一致点》
「ガスタービンエンジンのコンプレッサへ向けて液体物質を噴射するためのノズルにおいて、
前記液体物質を放出するための端部を有する長尺体と、
前記長尺体の内部にあって前記端部に至るまで延びる前記液体物質のための導管と、
前記端部に位置される凹部であって、前記導管が前記凹部で終端する、凹部と、
を備え、
前記凹部が前記長尺体の側面へ向けて開放する、
ノズル。」

《相違点》
本願発明では、「導管(21)が凹部(22)の底部に対して接線方向にあり、前記凹部(22)の断面の形状の平坦部と前記凹部(22)の断面の形状の湾曲部とを接合する部分が前記凹部(22)の底部に対応し、前記湾曲部が放物線又は双曲線を成」しているのに対し、引用発明1では、「洗浄流体供給通路」(本願発明の「導管(21)」に相当。)と「出口開口部62」(本願発明の「凹部(22)」に相当。)との位置関係、及び、「切欠き形状をしている」「出口開口部62」の断面形状が規定されていない点。

第6.判断
上記相違点について検討する。
引用発明1は、上記したように「洗浄流体のスプレーのバルクが、扇形のパターンを生成するような切欠き形状をしている、出口開口部62」を備えたものである。
ここで、引用発明2は、扇形のスプレーパターンを生成するためのスプレーノズルという点で上記引用発明1との共通点を有するものであることを踏まえ、上記引用発明2と本願発明とを対比する。
引用発明2の「ボディ2」、「流入孔3」及び「切欠5」は、おのおの、本願発明の「長尺体(20)」、「導管(21)」及び「凹部(22)」に相当する。
また、上記引用発明2において、「上記切欠5における、噴射口4が設けられた部分の断面形状は、平坦であり」、「曲面C1を備えた上記受液面6の断面形状は、軸線Lの軸線方向に、噴射口4の内端4aより曲率Rで湾曲している」こと、及び、「流入孔3」は「軸線Lに沿って形成した」ものであることを踏まえると、引用発明2における上記「噴射口4の内端4a」は、本願発明における「凹部(22)の底部」に相当するといえる。
ゆえに、引用発明2は、上記相違点における本願発明の「導管(21)が凹部(22)の底部に対して接線方向にあり、前記凹部(22)の断面の形状の平坦部と前記凹部(22)の断面の形状の湾曲部とを接合する部分が前記凹部(22)の底部に対応」するものである。
してみると、引用発明1における「洗浄流体供給通路」と「出口開口部62」との位置関係、及び、「切欠き形状をしている」「出口開口部62」の断面形状について、引用発明2を採用し、「洗浄流体供給通路」が「出口開口部62」の底部に対して接線方向にあり、上記「出口開口部62」の断面の形状の平坦部と「出口開口部62」の断面の形状の湾曲部とを接合する部分が上記「出口開口部62」の底部に対応するように、その構成を変更することは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。
そして、上記採用にあたり、上記「出口開口部62」の断面の形状の湾曲部が、幾何学曲線として、ごくありふれたものである、放物線又は双曲線をなすようにするか否かは、当業者が適宜決定し得た設計的な事項にすぎない。

ところで、審判請求人は、審判請求書の4.で、本願発明において、「凹部(22)の断面の形状の湾曲部」が「放物線又は双曲線を成す」ことによって、噴出口から凹部(22)に向けて噴射された液体物質を、その凹部(22)の放物線弧状の表面で反射させることで、ノズルから外への噴出方向を揃えて噴出させることができるので、ノズルから噴出される液体物質の噴霧密度の均一化や、噴霧方向、噴霧領域の制御性を向上させることが可能になる・・・すなわち、放物線状の断面形状を有する湾曲部である凹部(22)は、放物線の幾何学的乃至物理学的な特質を利用して、液体物質の噴出口を、その放物線の幾何学的な焦点の位置乃至その近傍に配置する(本願の当初出願明細書に添付の図2Aに示した如く)ことにより、流体力学的に観て一般に、多様な方向の速度ベクトルを有する流体要素の束であると見做され得る、噴出口から凹部(22)に向けて噴射された液体物質を、その凹部(22)の放物線弧状の表面で反射させることによって、同じ方向に反射させることができるという作用を奏し、放物線(当審注:双曲線を誤記したものと解される。)についても、放物線の場合と同様に(特に、例えばy=1/xなる双曲線における対称軸y=xとの交点を放物線y=x^(2)における原点(0,0)に重ね合わせたときにその前後近傍の曲線部分において)上記のような液体物質の反射作用が期待できる旨を主張している。
しかしながら、上記「凹部(22)の断面の形状の湾曲部」が「放物線又は双曲線を成す」ことについて、本願明細書には、段落【0038】に「また、放出される液体物質Lの方向及び口径は、凹部22の断面の形状によって決まる。図2の実施形態において、この形状は一部が平坦(マウス表面に近い部分を参照)であるとともに、一部が湾曲(図2A参照)している、例えば円弧又は放物線又は双曲線を成している。平坦部と湾曲部とを接合する部分が凹部22の底部に対応する。」(下線は、当審にて付与。)と記載されているのみであって、上記「凹部(22)の断面の形状の湾曲部」が「放物線又は双曲線を成す」ことによって奏される作用や効果は何かといった、上記「凹部(22)の断面の形状の湾曲部」が「放物線又は双曲線を成す」ことの技術的意義が、全く説明されていない。
ゆえに、上記主張は、明細書の記載に基づかない主張であるから、採用することができない。

したがって、本願発明は、引用発明1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものであり、原査定は妥当である。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-05-08 
結審通知日 2020-05-12 
審決日 2020-05-27 
出願番号 特願2016-536621(P2016-536621)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 大輔倉田 和博  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 北村 英隆
渡邊 豊英
発明の名称 洗浄ノズル及びガスタービンエンジン  
代理人 特許業務法人サカモト・アンド・パートナーズ  

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