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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1367445
審判番号 不服2019-9393  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-12 
確定日 2020-11-10 
事件の表示 特願2017-236412「PSUの待機電源が機能しない場合に動作可能なサーバシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月27日出願公開、特開2018-206342、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続きの経緯

本願は、平成29年12月8日(パリ条約による優先権主張2017年5月31日、米国)の出願であって、平成30年10月30日付けで拒絶理由通知がされ、平成31年2月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成31年3月5日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和元年7月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2.原査定の概要

原査定(平成31年3月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?4、6?10に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、また、本願の請求項5に係る発明は、以下の引用文献1?3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、原査定の拒絶の理由を構成しないものの、原査定は、備考欄の最後段のなお書き(括弧書き)として、本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1、及び、拒絶査定で新たに引用された引用文献4に基づいても、当業者が容易に発明できたものである点について、付記している。

引用文献等一覧
1.特開昭63-211416号公報
2.特開2009-131129号公報
3.特開平8-33235号公報
4.特開平5-94242号公報

第3.本願発明

本願の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は、令和元年7月12日になされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である(下線部は、補正箇所である。)。

「 【請求項1】
サーバシステムの電源ユニット(PSU)の待機電源が機能していない場合に、前記サーバシステムに基本電力を供給するコンピュータ実施方法であって、
前記サーバシステムの前記PSUの待機電源が正常ではないと判別する工程と、
前記PSUの主電源が所定範囲内にあるか否かを判別する工程と、
前記PSUの主電源が所定範囲内にないと判別した場合に、前記サーバシステムをシャットダウンする工程と、
前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記サーバシステムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程と、を含む、
方法。
【請求項2】
前記待機電源が正常ではないと判別する工程は、
前記PSUのステータス情報を受信する工程と、
少なくとも前記PSUのステータス情報に基づいて、前記待機電源が正常ではないと判別する工程と、を含む、
請求項1の方法。
【請求項3】
前記PSUのステータス情報を受信する工程は、前記PSUのマイクロコントローラ又は前記サーバシステムの管理装置から前記ステータス情報を受信する工程を含む、
請求項2の方法。
【請求項4】
前記PSUの待機電源が正常である場合に、前記待機電源を前記電源スイッチの入力電源として用いて、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程と、
パワーオンコマンドを受信する工程と、
前記主電源を用いるように前記サーバシステムを切り替えて、起動する工程と、を含む、
請求項1の方法。
【請求項5】
前記サーバシステムの重要性の低いコンポーネントを判別する工程と、
前記PSUの主電源が機能していないと判別した場合に、コマンドを前記サーバシステムの管理装置に送信して、前記重要性の低いコンポーネントのパワーダウンを開始する工程と、を含む、
請求項1の方法。
【請求項6】
プロセッサと、
電源スイッチと、
複数の命令を記憶するコンピュータ可読記憶媒体と、を備えるシステムであって、
前記命令は、前記プロセッサによって実行されると、
前記システムのPSUの待機電源が正常ではないと判別する工程と、
前記PSUの主電源が所定範囲内にあるか否かを判別する工程と、
前記PSUの主電源が所定範囲内にないと判別した場合に、前記サーバシステムをシャットダウンする工程と、
前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記システムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、基本電力を前記システムに供給する工程と、
を含む動作を前記システムに実行させる、
システム。
【請求項7】
前記待機電源が正常ではないと判別する工程は、
前記PSUのステータス情報を受信する工程と、
少なくとも前記PSUのステータス情報に基づいて、前記待機電源が正常ではないと判別する工程と、を含む、
請求項6のシステム。
【請求項8】
前記PSUのステータス情報を受信する操作は、前記PSUのマイクロコントローラ又は前記システムの管理装置から前記ステータス情報を受信する工程を含む、
請求項7のシステム。
【請求項9】
前記命令は、前記プロセッサによって実行されると、
前記PSUの待機電源が正常である場合に、前記待機電源を前記電源スイッチの入力電源として用いて、前記基本電力を前記システムに供給する工程と、
パワーオンコマンドを受信する工程と、
前記主電源を用いるように前記システムを切り替えて、起動する工程と、
を含む動作を前記システムに実行させる、
請求項6のシステム。
【請求項10】
複数の命令を含むコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令は、システムの少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、
前記システムの電源ユニット(PSU)の待機電源が正常ではないと判別する工程と、
前記PSUの主電源が所定範囲内にあるか否かを判別する工程と、
前記PSUの主電源が所定範囲内にないと判別した場合に、前記サーバシステムをシャットダウンする工程と、
前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記システムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、基本電力を前記システムに供給する工程と、
を含む動作を前記システムに実行させる、
コンピュータ可読記憶媒体。」

第4.引用文献、引用発明等

1.引用文献1の記載事項について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審付与。以下同様。)。

(1)
「この発明は、商品販売データを登録処理するとともにレシート発行を行なう複数台のターミナルと、この各ターミナルが処理するデータをファイリングするファイルユニットをインライン接続してなるインラインシステムにおいて、ファイルユニットを2台インライン接続して一方をメインとし、他方をバックアップ用とし、メインファイルユニットは、自己のダウンを検出して回線から切離す手段を設け、バックアップ用のファイルユニットは、メモリバックアップ用バッテリーと、このバッテリーの電圧低下を検出する電圧検出手段と、この電圧検出手段によるバッテリー電圧の低下検出に応動して一定時間メイン電源を立ち上げバッテリー充電を行なう充電手段と、各ターミナルからの電源コントロール信号に応動してメイン電源を立ち上げる電源立ち上げ手段と、この電源立ち上げ手段による電源の立ち上がりを検出して自己を回線に接続し各ターミナルとデータ伝送制御を行なう伝送制御手段とを設け、各ターミナルは、メインファイルユニットのダウンを検出する手段と、この手段によってメインファイルのダウンが検出されるとバックアップ用のファイルユニットに電源コントロール信号を送信する手段を設けたものである。」(第2頁右上蘭第9行?同頁左下欄第12行)

(2)
「このような構成の本発明においては、メインファイルユニットがダウンすると回線から切り離れ(当審注:「切り離され」の誤記と認める。)、ターミナルはそれを検出してバックアップ用ファイルユニットに電源コントロール信号を送信する。これによりバックアップ用ファイルユニットは自己のメイン電源を立ち上げる。以降はバックアップ用ファイルユニットと各ターミナルとでデータ伝送制御が行われる。またバックアップ用ファイルユニットはメインファイルユニットが各ターミナルとデータの伝送制御を行なっているときには電源の供給が停止され、この間はバックアップ用バッテリーによってメモリのバックアップが行われる。そして途中でバッテリー電圧が低下するとメイン電源が一次的に立ち上がりバッテリーに対する充電が行われる。」(第2頁左下欄第14行?同頁右下欄第8行)

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「商品販売データを登録処理するとともにレシート発行を行なう複数台のターミナルと、この各ターミナルが処理するデータをファイリングするファイルユニットをインライン接続してなるインラインシステムにおいて、ファイルユニットを2台インライン接続して一方をメインとし、他方をバックアップ用とし、
メインファイルユニットは、自己のダウンを検出して回線から切離す手段を設け、
バックアップ用のファイルユニットは、メモリバックアップ用バッテリーと、このバッテリーの電圧低下を検出する電圧検出手段と、この電圧検出手段によるバッテリー電圧の低下検出に応動して一定時間メイン電源を立ち上げバッテリー充電を行なう充電手段と、各ターミナルからの電源コントロール信号に応動してメイン電源を立ち上げる電源立ち上げ手段と、この電源立ち上げ手段による電源の立ち上がりを検出して自己を回線に接続し各ターミナルとデータ伝送制御を行なう伝送制御手段とを設け、
各ターミナルは、メインファイルユニットのダウンを検出する手段と、この手段によってメインファイルのダウンが検出されるとバックアップ用のファイルユニットに電源コントロール信号を送信する手段を設け、(上記(1)参照。)
メインファイルユニットがダウンすると回線から切り離され、
ターミナルはそれを検出してバックアップ用ファイルユニットに電源コントロール信号を送信し、
これによりバックアップ用ファイルユニットは自己のメイン電源を立ち上げ、以降はバックアップ用ファイルユニットと各ターミナルとでデータ伝送制御が行われ、またバックアップ用ファイルユニットはメインファイルユニットが各ターミナルとデータの伝送制御を行なっているときには電源の供給が停止され、この間はバックアップ用バッテリーによってメモリのバックアップが行われ、そして途中でバッテリー電圧が低下するとメイン電源が一次的に立ち上がりバッテリーに対する充電が行われる、(上記(2)参照)
インラインシステムにおけるバックアップ用ファイルユニット。」

2.引用文献2の記載事項について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0009】
本発明の半導体装置は、1)主電源を接続する主電源端子と、第1バックアップ電源を接続する第1バックアップ端子と、前記主電源端子と前記第1バックアップ端子間に接続された第1スイッチ手段と、前記第1バックアップ端子と前記第1スイッチ手段の接続ノードと接地電位間に接続されたリアルタイムクロック(RTC)回路と、切換電圧を生成する切換電圧発生回路と、前記主電源の電圧と、前記切換電圧を比較する比較回路とを備え、該比較回路の出力に応じて、前記主電源の電圧、もしくは前記主電源の電圧に比例した電圧が前記切換電圧以上の場合には、前記第1スイッチ手段がオンとなり、前記主電源により前記第1バックアップ電源を充電すると共に、前記RTC回路に電力を供給し、前記主電源の電圧、もしくは前記主電滞の電圧に比例した電圧が前記切換電圧未満まで低下した場合には、前記第1スイッチ手段をオフにして、前記主電源と、前記第1バックアップ電源および前記RTC回路との接続を遮断し、前記RTC回路への電力供給を前記第1バックアップ電源から行うようにしたRTC回路のバックアップ電源切換回路を備えた半導体装置において、前記切換電圧の電圧値を変更する電圧変更手段を備えることを特徴としている。」

したがって、当該引用文献2には、RTC(リアルタイムクロック)回路を備えた半導体装置において、RTC回路の電力を供給する主電源の電圧が、切換電圧未満まで低下した場合には、前記RTC回路への電力供給をバックアップ電源から行うように切り換えるという技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3の記載事項について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0031】また、第2情報処理制御部2では、優先順位登録手段15が、第2情報処理制御部2を複数の処理ユニットに分割しこれらの分割された処理ユニットについて過渡時切断処理の優先順位をつけてこれを登録する。そして、バッテリ電源情報適応型過渡時切断処理部10Aが、制御手段8からの第2制御信号を受けて、優先順位登録手段15で登録された処理ユニットのうち優先順位の高い処理ユニットから順に処理する。」

「【0036】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
(a)第1実施例の説明
図5は本発明の第1実施例としての情報処理装置における電源切断時制御装置の全体構成を示すブロック図あるが、この実施例にかかる電源切断時制御装置は、図5に示すように、主に第1情報処理制御部1、第2情報処理制御部2、電源3、バックアップ用電源(バッテリ)4、電源制御部5から構成されている。
【0037】第1情報処理制御部1は、電源3から電力の供給を受けている状態で電源3が切断されると電源3の瞬断が可能な制御部であって、第2情報処理制御部2は、電源3から電力の供給を受けている状態で電源3が切断されるとバックアップ用電源4に切り換えてファイルクローズ等の過渡時切断処理(シャットダウン処理)が必要な制御部である。
【0038】さらに、第1情報処理制御部1には、それぞれ別の情報処理を行なう処理ユニット1A,1B,1C,・・・がそなえられるとともに、第2情報処理制御部2にも、やはりそれぞれ別の情報処理を行なう処理ユニット2A,2B,2C,・・・がそれぞれそなえられている。そして、これらの処理ユニット1A,1B,1C,・・・,2A,2B,2C,・・・は、第1情報処理制御部1,第2情報処理制御部2にそれぞれに設けられたスイッチ部19,20を介して電源3からの電力供給を受けて、情報処理を行なうようになっている。
【0039】また、本装置には、電源投入切断処理制御手段11が設けられており、停電等により電源3が切断されると、この電源投入切断処理制御手段11により第2情報処理制御部2への電力供給源が電源3からバックアップ用電源(バッテリ)4に自動的に切り換えらるようになっている。これにより、電源3が停電等により突然切断されても、シャットダウン処理が必要な第2情報処理制御部2は瞬断されることがないようになっている。」

「【0048】また、第2情報処理制御部2に設けられたバッテリ電源情報適応型過渡時切断処理部10Aは、制御手段8からの第2制御信号を受けて、バックアップ用電源4を用いたシャットダウン処理を行なうものである。そして、このバッテリ電源情報適応型過渡時切断処理部10Aは、これに加えて、バッテリ4の充電状態に応じて、シャットダウン処理を行なうようになっている。」

「【0052】そして、第2情報処理部2のバッテリ電源情報適応型過渡時切断処理部10Aでは、バッテリ4の充電状態に応じて(即ち、バッテリ4の残量に応じて)、第2情報処理制御部2のシャットダウン処理を行なうのである。まず、バッテリ4が十分に充電されている場合について説明する。電源3が切断されることにより電源切断検出手段6から電源切断信号ACOFFが発信されると、制御手段8によりこの信号が検出される。そして、図7のタイムチャートに示すように、この信号が検出されてから所定時間t1以内にバッテリ4の供給不可通知信号BTLが検出されない場合は、制御手段8においてバッテリ4が十分に充電されているものと判断するのである。」

「【0060】また、停電発生時等の電源切断時のバッテリバックアップにおいて、バッテリ4の充電状態を検出することにより、バッテリ4の充電状態に応じた適切なシャットダウン処理を行なうことができるようになる。これにより、停電等の電源切断時におけるシャットダウン処理中に、バッテリ4の容量が無くなることを防止することができ、また、バッテリ4の容量が少ない場合であっても最低限必要なシャットダウン処理を行なうことができ、処理データを保護することができる。」

したがって、上記引用文献3には、電源と、バックアップ用電源と、第2情報処理制御部とを備えた「情報処理装置」において、第2情報処理制御部は、電源から電力の供給を受けている状態で電源が切断され、過渡時切断処理を行うとき、優先順位登録手段に登録された過渡時切断処理の優先順位が高い処理ユニットから順に処理を行うことにより(段落【0031】、【0036】-【0039】、【0048】、【0052】)、電源が突然切断されても、シャットダウン処理が必要な第2情報処理制御部は瞬断されることがなく、また、シャットダウン処理中にバッテリの容量が無くなることを防止することができる(段落【0039】、【0060】)、という技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4の記載事項について
上述したように、原査定の拒絶の理由を構成しないものの、原査定の備考欄の最後段のなお書き(括弧書き)として付記された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は主電源と補助電源を利用し主電源がオフ時には補助電源から電源供給を受けデータをバックアップするマイコンシステム、あるいは主電源がオフ時にはデータを不揮発性メモリに退避してバックアップするマイコンシステム等におけるバックアップ処理を改善した電源バックアップ方法及び装置に関する。」

「【0018】また、本願第2の発明は、供給される電源によって駆動し該電源がオフしたときにはバックアップ処理終了後に停止状態とするマイコンシステムの電源バックアップ装置において、前記電源のオンとオフとを判別する判別手段と、この判別手段によって電源のオフが判別され、開始されたバックアップ処理の終了後に再び当該判別手段によって電源のオンとオフとを判別したときに、電源がオフであるときには停止状態とし、電源がオンであるときには駆動状態とする制御手段とを有することを要旨とする。」

したがって、上記引用文献4には、主電源と補助電源を利用し主電源がオフ時には補助電源から電源供給を受けデータをバックアップするマイコンシステムにおいて、主電源がオフ時に開始された補助電源によるバックアップ処理の終了後、再び主電源のオンとオフとを判別し、主電源がオフであるときにはマイコンシステムを停止状態とするという技術的事項が記載されていると認められる。

第5.対比・判断

1.本願発明1について

(1)対比
上記本願発明1と上記引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア.引用発明の「メイン電源」及び「メモリバックアップ用バッテリー」は、それぞれ本願発明1の「主電源」及び「待機電源」に相当する。また、引用発明のファイルユニットが複数台のターミナルと接続し、データ伝送制御が行われている間、引用発明の前記「メイン電源」による「電力」は、当該ファイルユニットに当然供給されているといえることから、本願発明1の「基本電力」に相当する。

引用発明の「バックアップ用のファイルユニット」は、商品販売データを登録処理するとともにレシート発行を行う複数台のターミナルとインライン接続し、当該各ターミナルが処理するデータをファイリングすることから、サーバとしての機能を有しているといえる。したがって、引用発明の当該「バックアップ用のファイルユニット」は、本願発明1の「サーバシステム」に相当するといえる。

引用発明における「バックアップ用のファイルユニット」が実施する処理の方法は、本願発明1の「コンピュータ実施方法」に相当するといえる。

よって、引用発明の「バックアップ用のファイルユニット」が、「メイン電源の電力供給を受け、複数台のターミナルとインライン接続し、データ伝送制御を行う」処理の方法は、本願発明1に記載された「サーバシステムの電源ユニット(PSU)の待機電源が機能していない場合に、前記サーバシステムに基本電力を供給するコンピュータ実施方法」と、「サーバシステムに基本電力を供給するコンピュータ実施方法」である点で共通するといえる。

イ.引用発明の「バックアップ用のファイルユニット」は、「メモリバックアップ用バッテリーの電圧低下を検出し、当該バッテリーの電圧の低下検出に応動して、メイン電源を立ち上げバッテリー充電を行う」ことから、引用発明における上記「バッテリーの電圧の低下検出」は、本願発明1の「前記サーバシステムの前記PSUの待機電源が正常ではないと判別する工程」と、「前記サーバシステムの待機電源が正常ではないと判別する工程」である点で共通するといえる。

ウ. 引用発明の「バックアップ用のファイルユニット」は、メインファイルユニットが各ターミナルとデータの伝送制御を行なっているときには電源の供給が停止され、この間はバックアップ用バッテリーによってメモリのバックアップが行われ、各ターミナルは、メインファイルユニットのダウンを検出すると、バックアップ用のファイルユニットに電源コントロール信号を送信し、これにより「バックアップ用ファイルユニットは自己のメイン電源を立ち上げ、以降はバックアップ用ファイルユニットと各ターミナルとでデータ伝送制御が行われる」ものであり、上記ア.で示したとおり、バックアップ用ファイルユニットが自己のメイン電源を立ち上げた以降は、「データ伝送制御が行われている間、バックアップ用ファイルユニットはメイン電源の電力が供給されている」といえることから、このことは、本願発明1に記載された「前記サーバシステムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程」と、「前記サーバシステムの入力電源を主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程」である点で共通するといえる。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「サーバシステムに基本電力を供給するコンピュータ実施方法であって、
前記サーバシステムの待機電源が正常ではないと判別する工程と、
前記サーバシステムの入力電源を主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程と、を含む、
方法。」

<相違点>
(相違点1)「サーバシステムに基本電力を供給する」契機が、本願発明1では、「サーバシステムの電源ユニット(PSU)の待機電源が機能していない場合」であるのに対し、引用発明では、メインファイルユニットがダウンし、代わってバックアップ用のファイルユニットが各ターミナルから電源コントロール信号を受信し、自己のメイン電源を立ち上げる場合であって、「バッテリー(本願発明1の「待機電源」に相当する。以下同様。)が機能していない場合」ではない点。

(相違点2)本願発明では、「前記サーバシステムの前記PSUの待機電源が正常ではないと判別する工程」を備えるのに対して、引用発明では、「前記PSUの」待機電源が正常ではないと判別していない点。

(相違点3)本願発明1は、「前記PSUの主電源が所定範囲内にあるか否かを判別する工程」を含むのに対し、引用発明には、そのような工程が特定されていない点。

(相違点4)本願発明1は、「前記PSUの主電源が所定範囲内にないと判別した場合に、前記サーバシステムをシャットダウンする工程」を含むのに対し、引用発明には、そのような工程が特定されていない点。

(相違点5)本願発明1は、「前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記サーバシステムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程」を含むのに対し、
引用発明では、バックアップ用のファイルユニット(サーバシステム)の入力電源を主電源に切り換えるのは、メインファイルユニットがダウンし、バックアップ用のファイルユニット(サーバシステム)が各ターミナルから電源コントロール信号を受信し、自己のメイン電源(主電源)を立ち上げる場合であって、本願発明1のように「前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合」ではない点、
また、引用発明では、「ファイルユニット」を2台用いて、一方をメインとし、他方をバックアップ用とした現用予備の構造となっており、当該「ファイルユニット」の一方にメイン電源(主電源)による電力(基本電力)を供給するという構成であって、そもそも「バッテリー」(待機電源)を予備用の「基本電力」として使用していないため、本願発明1のように、(基本電力を)「PSUの待機電源から前記PSUの」主電源に切り替えるものではない点、
さらに、サーバシステムの主電源に切り替える入力電源は、本願発明1では、「電源スイッチの」入力電源であるのに対し、引用発明には、そのような特定がされていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、主電源が所定範囲内にあるか否かを判別することで相互に関連する、相違点3?5について、先にまとめて検討する。
相違点3に係る本願発明1の「前記PSUの主電源が所定範囲内にあるか否かを判別する工程」と、相違点4に係る本願発明1の「前記PSUの主電源が所定範囲内にないと判別した場合に、前記サーバシステムをシャットダウンする工程」と、相違点5に係る本願発明1の「前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記サーバシステムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程」という構成は、上述した「第4.2.」の引用文献2?「第4.4.」の引用文献4のいずれにも記載されていない。
引用文献2には、上述したとおり、半導体装置が備える回路に電力を供給する主電源の電圧が切換電圧未満まで低下した場合(主電源が所定範囲内にないと判別した場合)、回路への電力供給を、主電源からバックパップ電源(待機電源)に切り換える技術的事項が記載されるものであり、特に、主電源が所定範囲内にないと判別した場合におけるシャットダウンについては記載されていない。
また、引用文献3には、上述したとおり、情報処理装置の第2情報処理制御部は、電源からの電力の供給を受けている状態で電源が切断されると、過渡時切断処理を行い、優先順位登録手段に登録された過渡時切断処理の優先順位が高い処理ユニットから順に処理を行う技術的事項が記載されるものであり、特に、上記相違点5に係る本願発明1の「前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記サーバシステムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程」という構成は、記載も示唆もされていない。
また、引用文献4には、上述したとおり、主電源がオフであるとき(主電源が所定範囲内にないと判別した場合)には、マイコンシステム(サーバシステム)を停止状態(シャットダウン)する技術的事項が記載されているものの、引用文献4では、マイコンシステムの入力電源として補助電源(待機電源)は使用されておらず、主電源がオフ時、補助電源はデータのバックアップ処理に使用されるものであるから、本願発明1のように「待機電源から」切り替えるものではない。
さらに、上記相違点3?5に係る一連の工程が、周知技術であるとも認められない。

したがって、上記相違点1、2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、及び引用発明2?引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明6及び10について

本願発明6及び10は、それぞれ本願発明1に対応するシステム及びコンピュータ可読記憶媒体の発明であり、本願発明1の「前記PSUの主電源が所定範囲内にあるか否かを判別する工程」と、「前記PSUの主電源が所定範囲内にないと判別した場合に、前記サーバシステムをシャットダウンする工程」と、「前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記サーバシステムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明、及び引用発明2?引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3.本願発明2?5について

本願発明2?5も、本願発明1の「前記PSUの主電源が所定範囲内にあるか否かを判別する工程」と、「前記PSUの主電源が所定範囲内にないと判別した場合に、前記サーバシステムをシャットダウンする工程」と、「前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記サーバシステムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明、及び引用発明2?引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4.本願発明7?9について

本願発明7?9も、本願発明6の「前記PSUの主電源が所定範囲内にあるか否かを判別する工程」と、「前記PSUの主電源が所定範囲内にないと判別した場合に、前記サーバシステムをシャットダウンする工程」と、「前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記サーバシステムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明6と同じ理由により、当業者であっても引用発明、及び引用発明2?引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6.原査定について

審判請求時の補正により、本願発明1?10は、「前記PSUの主電源が所定範囲内にあるか否かを判別する工程」と、「前記PSUの主電源が所定範囲内にないと判別した場合に、前記サーバシステムをシャットダウンする工程」と、「前記PSUの主電源が所定範囲内にあると判別した場合に、前記サーバシステムの電源スイッチの入力電源を前記PSUの待機電源から前記PSUの主電源に切り替えることによって、前記基本電力を前記サーバシステムに供給する工程」と同一の構成を備えるものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?引用文献4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7.むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-10-20 
出願番号 特願2017-236412(P2017-236412)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐賀野 秀一松浦 かおり征矢 崇  
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 角田 慎治
小田 浩
発明の名称 PSUの待機電源が機能しない場合に動作可能なサーバシステム  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  

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