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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1367514
審判番号 不服2019-9187  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-09 
確定日 2020-10-21 
事件の表示 特願2014-206933「画素回路、その駆動方法及び表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年5月12日出願公開、特開2016-75836〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成26年10月8日にされた特許出願である。
そして、平成27年8月31日に明細書及び図面についての補正がされ、平成29年9月7日に明細書及び特許請求の範囲についての補正がされ、平成30年7月19日に明細書及び特許請求の範囲についての補正がされた。さらに、平成31年2月18日に明細書及び特許請求の範囲についての補正がされたが、この補正は、同年4月9日付けの決定をもって却下され、同日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、同16日に査定の謄本が送達された。
これに対して、令和元年7月9日に拒絶査定不服審判(本件審判)が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。そして、令和2年1月16日に上申書が提出された。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
以下に述べるとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、本件補正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。すなわち、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は明確でないから、本願は本件補正後の特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下するべきものである。

1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についての補正を含む。
本件補正前(平成30年7月19日にされた補正の後をいう。以下同じ。)及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。下線は、補正箇所を示すために当合議体が付した。

(1)本件補正前
「【請求項1】
発光素子と、
印加された電圧に応じた電流を前記発光素子へ供給する駆動トランジスタと、
前記駆動トランジスタの閾値電圧及びデータ電圧を含む電圧を保持し、前記閾値電圧及び前記データ電圧を含むこの電圧を前記駆動トランジスタに印加するコンデンサ部と、
前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧を前記コンデンサ部に保持させるスイッチ部と、
を備えた画素回路において、
前記スイッチ部は、前記駆動トランジスタから供給される電流を、前記発光素子を通さずに基準電圧電源線へ迂回させる電流迂回用トランジスタを有し、前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧を前記コンデンサ部に保持させる前に、一定時間前記電流迂回用トランジスタを線形領域で動作させ、前記駆動トランジスタをオンにし、前記駆動トランジスタから流れる電流を前記電流迂回用トランジスタを介して前記基準電圧電源線へ迂回させる、
ことを特徴とする画素回路。」

(2)本件補正後
「【請求項1】
発光素子と、
印加された電圧に応じた電流を前記発光素子へ供給する駆動トランジスタと、
前記駆動トランジスタの閾値電圧及びデータ電圧を含む電圧を保持し、前記閾値電圧及び前記データ電圧を含むこの電圧を前記駆動トランジスタに印加するコンデンサ部と、
前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧を前記コンデンサ部に保持させるスイッチ部と、
を備えた画素回路において、
前記駆動トランジスタは、ゲート端子、ソース端子及びドレイン端子を有し、
前記スイッチ部は、前記駆動トランジスタから供給される電流を、前記発光素子を通さずに基準電圧電源線へ迂回させる電流迂回用トランジスタを有し、前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧を前記コンデンサ部に保持させる前に、前記発光素子と前記駆動トランジスタとの間に接続されたトランジスタをオフにすることにより前記駆動トランジスタから前記発光素子へ供給される白表示レベルの電流を遮断するとともに一定時間前記電流迂回用トランジスタを線形領域で動作させ、前記駆動トランジスタをオンにし、前記駆動トランジスタから流れる前記白表示レベルの電流を前記電流迂回用トランジスタを介して前記基準電圧電源線へ迂回させ、
前記駆動トランジスタの前記ドレイン端子に流れる前記白表示レベルの電流の値は、次式で与えられる値であって、
1/2β((VB-VA)-Vth)^(2)…(式)
前記式のVAは、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子の電圧であり、
前記式のVBは、前記駆動トランジスタの前記ソース端子の電圧であり、
前記式のVthは、前記駆動トランジスタの閾値電圧であり、
前記式のβは、前記駆動トランジスタの構造及び材質によって決まる定数である、
ことを特徴とする画素回路。」

2 本件補正の目的
本件補正のうち、請求項1についての補正は、第1に、「駆動トランジスタ」が「ゲート端子、ソース端子及びドレイン端子を有」する旨の限定を付加するものであり、第2に、「スイッチ部」が「一定時間前記電流迂回用トランジスタを線形領域で動作させ、前記駆動トランジスタをオンにし、前記駆動トランジスタから流れる電流を前記電流迂回用トランジスタを介して前記基準電圧電源線へ迂回させ」る際の「電流」が「白表示レベルの電流」であって、その値が本件補正後の請求項1に記載される式で与えられる旨の限定を付加するものであり、第3に、「スイッチ部」が「一定時間前記電流迂回用トランジスタを線形領域で動作させ、前記駆動トランジスタをオンにし、前記駆動トランジスタから流れる電流を前記電流迂回用トランジスタを介して前記基準電圧電源線へ迂回させ」る際に「前記発光素子と前記駆動トランジスタとの間に接続されたトランジスタをオフにすることにより前記駆動トランジスタから前記発光素子へ供給される白表示レベルの電流を遮断する」旨の限定を付加するものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められる。
したがって、本件補正のうち、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすか)否かについて検討する。

3 独立特許要件についての判断
(1)当合議体の判断
本件補正後の請求項1に記載された「白表示レベルの電流」は、「白表示レベル」という文言の意味が曖昧であるから、どのような電流なのかを「白表示レベルの電流」という文言自体から理解することはできない。
そこで、これ以外の記載を参照すると、本件補正後の請求項1には、「白表示レベルの電流」の値が本件補正後の請求項1に記載される式で与えられる旨の記載がある。しかし、この式は、駆動トランジスタのゲート端子の電圧VA及びソース端子の電圧VBが特定されていないから、駆動トランジスタのドレイン端子に流れる電流と駆動トランジスタのゲート端子及びソース端子の電圧並びに閾値電圧との関係を表す一般式にすぎず、これによって「白表示レベルの電流」がどのような電流なのかを実質的に特定することはできない。
したがって、本件補正後の請求項1の記載自体からは、「白表示レベルの電流」がどのような電流なのかを理解することができない。
そこで、発明の詳細な説明の記載を参照すると、「白表示レベルの電流」について、本件補正後の明細書には次の記載がある。

「【0059】
このとき、このとき、ノードAの電圧VAは第5トランジスタM5を介して第3電源電圧Vrefとなり、ノードBの電圧VBは第2トランジスタM2を介して第1電源電圧VDDとなる。つまり、ノードAの電圧VA及びノードBの電圧VBは次式のようになり、第1及び第2コンデンサ21,22に保持された電圧が初期化される。
VA=Vref
VB=VDD
【0060】
一方、第3トランジスタM3及び第6トランジスタM6がオンになることにより、第3トランジスタM3に電流i1が流れ、その電流i1が第6トランジスタM6を介して発光素子11へ流れずに第3電源線P3へ流れる。
【0061】
このとき、第3トランジスタM3のゲート端子とソース端子との間に印加される電圧はVB-VAであるから、そのドレイン端子に流れる電流i1は次式で与えられる。
i1=1/2β((VB-VA)-Vth)^(2)
=1/2β(VDD-Vref-Vth)^(2)
【0062】
上式からわかるように、電流i1は白表示レベル程度の十分に大きな値であるので、第3トランジスタM3のヒステリシス特性の初期化が防止される。これが、画素回路10のイメージリテンション防止機能である。なお、上式中のβは、第3トランジスタM3の構造及び材質によって決まる定数である。」

この記載は、駆動トランジスタである「第3トランジスタM3」のゲート端子及びソース端子にそれぞれ「第3電源電圧Vref」及び「第1電源電圧VDD」を印加する(つまり、「VA=Vref」及び「VB=VDD」とする)と、そのドレイン端子に流れる「電流i1」が「白表示レベル程度の十分に大きな値」になるという趣旨である。
しかし、「VA=Vref」及び「VB=VDD」であること、すなわち、駆動トランジスタのゲート端子の電圧VA及びソース端子の電圧VBがそれぞれ「第3電源電圧Vref」(本件補正後の請求項1に記載された「基準電圧電源線」の電圧)及び「第1電源電圧VDD」であることは、本件補正後の請求項1に記載されていない。したがって、本件補正後の請求項1に記載された「白表示レベルの電流」は、駆動トランジスタのゲート端子及びソース端子にそれぞれ「第3電源電圧Vref」及び「第1電源電圧VDD」を印加したときにそのドレイン端子に流れる「電流i1」に特定されているということはできない。
また、「第3トランジスタM3」のドレイン端子に流れる「電流i1」の値は、そのゲート端子及びソース端子に印加される電圧(すなわち、「第3電源電圧Vref」及び「第1電源電圧VDD」)の値に依存するにもかかわらず、「第3電源電圧Vref」及び「第1電源電圧VDD」の値は特定されていない。そうすると、「電流i1」の値である「白表示レベル程度の十分に大きな値」も特定されていないことになる。
したがって、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「白表示レベルの電流」がどのような電流なのかを理解することができない。

(2)請求人の主張について
請求人は、上申書で、「白表示レベル」とは黒表示レベルの反対であり、発光素子の輝度が高いため発光素子が白く見える状態を指すと主張し、このことは本願の図面の図1B等のVdataにおけるWhite、Blackや図9BのVdataにおける白電位、黒電位などから明らかであると主張する。
請求人は、「白表示レベル」とは駆動トランジスタのゲート端子に印加される電圧Vdataが「白」に対応する特定の値になった状態を指すと主張するものと解される。
しかし、本件補正後の請求項1に記載された式では、駆動トランジスタのゲート端子の電圧VAは何ら特定されていない。
そうすると、請求人の主張は、本件補正後の請求項1の記載に基づくものでないから、採用することができない。

(3)独立特許要件についての判断のまとめ
本件補正後の請求項1に記載される「白表示レベルの電流」がどのような値の電流なのかを理解することができないから、本件補正後の請求項1に係る発明は明確でない。すなわち、本願は、本件補正後の特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下するべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願に係る発明についての判断
1 本願に係る発明
前記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1ないし請求項18に係る発明は、本願の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項18に記載された事項により特定されるとおりのものである。
その中でも、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の1(1)のとおりのものである。

2 原査定の理由の概要
本願発明は、引用文献1ないし引用文献4に記載された発明と引用文献5ないし引用文献9に記載された周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

引用文献1:米国特許出願公開第2013/0043802号明細書
引用文献2:特開2012-14136号公報
引用文献3:特開2004-191388号公報
引用文献4:特開2008-203659号公報
引用文献5:特開2004-133240号公報
引用文献6:特開2007-52422号公報
引用文献7:特開2006-71686号公報
引用文献8:特開2008-176287号公報
引用文献9:中国特許出願公開第103440843号明細書

3 引用文献に記載された発明等
(1)引用文献2
ア 引用文献2の記載
引用文献2には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「【0034】
図2は、本発明の実施例による有機電界発光表示装置の画素を示した回路図である。便宜上、図2ではn(nは自然数)番目水平ラインに位置され、第mデータ線Dmに接続される画素を図示する。
【0035】
図2を参照すれば、本発明の実施形態に係る有機電界発光表示装置の画素は、第1電源ELVDDと第2電源ELVSSとの間に接続された有機発光ダイオードOLEDと、第1電源ELVDDと有機発光ダイオードOLEDとの間に接続された第1トランジスタT1と、第1トランジスタT1の第1電極とデータ線Dmとの間に接続された第2トランジスタT2と、第1トランジスタT1の第2電極とゲート電極との間に接続される第3トランジスタT3と、第1トランジスタT1の第2電極と有機発光ダイオードOLEDとの間に接続された第4トランジスタT4と、第1トランジスタT1のゲート電極が接続される第1ノードN1と第2電源ELVSSまたは初期化電源である第3電源VINTとの間に接続される第5トランジスタT5と、第4トランジスタT4と第2電源ELVSSまたは第3電源VINTとの間に接続される第6トランジスタT6と、第1電源ELVDDと第1トランジスタT1の第1電極との間に接続される第7トランジスタT7と、第1電源ELVDDと第1ノードN1との間に接続されるストレージキャパシタCSTと、を含む。」

「【0037】
このような第1トランジスタT1は、第1ノードN1の電圧に対応して有機発光ダイオードOLEDに供給される駆動電流を制御することで、画素の駆動トランジスタとして機能する。」

「【0051】
言い換えれば、第4トランジスタT4及び第7トランジスタT7がターンオフされるハイ電圧の発光制御信号は、以前走査信号が供給される期間中に供給が開始されて現在走査信号の供給の完了するまでに供給が維持される。このような図3の駆動信号によって駆動される画素の動作過程は、図4Aないし図4Dを参照して詳しく説明する。図4Aないし図4Dは、図3の駆動信号によって駆動される図2の画素の駆動方法を順次示した回路図及び波形図である。
【0052】
図4Aを参照すれば、以前走査線Sn-1に以前走査信号が供給される初期化期間(t1、t2)中、第1期間t1の間、発光制御線Enにはロー電圧の発光制御信号が供給される。以前走査線Sn-1にロー電圧の以前走査信号が供給されれば、第5トランジスタT5及び第6トランジスタT6がターンオンされる。
【0053】
(省略)
【0054】
(省略)
【0055】
このように第2電源ELVSSまたは第3電源VINTの電圧は、低い電圧に設定されることで、以前走査線Sn-1に以前走査信号が供給される初期化期間(T1ないしT2)の間、第1トランジスタT1をもターンオンされる。一方、発光制御線Enにロー電圧の発光制御信号が供給されれば、第4トランジスタT4及び第7トランジスタT7がターンオンされる。
【0056】
したがって、第1期間t1の間、第1ノードN1に第2電源ELVSSまたは第3電源VINTの初期化電圧が印加されるとともに、第1電源ELVDDから、第7トランジスタT7、第1トランジスタT1、第4トランジスタT4及び第6トランジスタT6を経由して第2電源ELVSSまたは第3電源VINTへの電流パスが形成される。
【0057】
これによって、第1トランジスタT1の第1電極及び第2電極とゲート電極それぞれに所定のバイアス電圧が印加されながら第1トランジスタT1に電流が流れるようになる。これにより、第1トランジスタT1のヒステリシスが補償されるのは勿論、前記電流が第4トランジスタT4から第6トランジスタT6側に迂回されて流れるようにすることで、有機発光ダイオードOLEDが発光することを防止してブラック輝度の上昇を防止する。すなわち、第1期間t1は、第1トランジスタT1にバイアス電圧を印加して所定の電流を流すことにより、第1トランジスタT1のヒステリシスに起因した応答速度の低下を防止して応答速度を改善するための応答速度改善区間で、特に本実施形態ではこの期間の間、さらに有機発光ダイオードOLEDが発光することを防止してブラックを鮮明に表示することができる。
【0058】
その後、図4Bに示されたように、初期化期間(t1、t2)のうち、第1期間t1に後続する第2期間t2の間、発光制御線Enに供給される発光制御信号の電圧がハイ電圧に変更される。すなわち、第2期間t2の間、以前走査線Sn-1にはロー電圧の以前走査信号の供給が維持されるとともに、発光制御線Enにはハイ電圧の発光制御信号が供給される。
【0059】
発光制御線Enにハイ電圧の発光制御信号が供給されれば、第4トランジスタT4及び第7トランジスタT7がターンオフされつつ第1期間t1に第1トランジスタT1を経由して流れていた電流が遮断される。そして、ロー電圧の以前走査信号は第1期間t1においてと同様に第2期間t2の間にも供給が維持されるので、第5トランジスタT5はターンオン状態を維持し、したがって、第1ノードN1は第2電源ELVSSまたは第3電源VINTの電圧に安定的に初期化される。
【0060】
その後、図4Cに示されたように、第3期間t3の間、現在走査線Snにロー電圧の現在走査信号が供給される。これにより、第2トランジスタT2及び第3トランジスタT3がターンオンされ、第1トランジスタT1は第3トランジスタT3によってダイオード接続される。 この第3期間t3の間、データ線Dmにはデータ信号が供給され、データ信号は第2トランジスタT2、第1トランジスタT1及び第3トランジスタT3を経由して第1ノードN1に伝達される。この時、第1トランジスタT1がダイオード連結された状態なので、第1ノードN1にはデータ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧が伝達される。
【0061】
すなわち、第3期間T3は、第1ノードN1にデータ信号より第1トランジスタT1のしきい値電圧分低い電圧に相応する電圧を印加する、データプログラミング及びしきい値電圧の補償期間であり、このような第3期間t3に第1ノードN1に伝達された電圧はストレージキャパシタCSTに格納される。
【0062】
現在走査線Snへの現在走査信号の供給が完了した後、図4Dに図示されるように、第4期間t4の間、発光制御線Enにロー電圧の発光制御信号が供給される。これによって、第4トランジスタT4及び第7トランジスタT7がターンオンされて、第1電源ELVDDから第7トランジスタT7、第1トランジスタT1、第4トランジスタT4、及び有機発光ダイオードOLEDを経由して第2電源ELVSSに駆動電流が流れるようになる。
【0063】
この時、駆動電流は第1ノードN1の電圧に対応して第1トランジスタT1によって制御されるもので、先立った第3期間t3の間、第1ノードN1にはデータ信号の電圧とともに第1トランジスタT1のしきい値電圧に相応する電圧が格納されたので、第4期間t4の間には第1トランジスタT1のしきい値電圧が相殺されて第1トランジスタT1のしきい値電圧偏差に依存せず、データ信号に対応する駆動電流が流れるようになる。すなわち、第4期間t4は画素の発光期間であり、第4期間T4の間有機発光ダイオードOLEDはデータ信号に対応する輝度に発光する。」

「【図2】



「【図4A】



「【図4B】



「【図4C】



「【図4D】



イ 引用文献2に記載された発明
引用文献2の前記アの記載(特に下線を付した部分)によれば、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「第1電源ELVDDと第2電源ELVSSとの間に接続された有機発光ダイオードOLEDと、
第1電源ELVDDと有機発光ダイオードOLEDとの間に接続された第1トランジスタT1と、
第1トランジスタT1の第1電極とデータ線Dmとの間に接続された第2トランジスタT2と、
第1トランジスタT1の第2電極とゲート電極との間に接続される第3トランジスタT3と、
第1トランジスタT1の第2電極と有機発光ダイオードOLEDとの間に接続された第4トランジスタT4と、
第1トランジスタT1のゲート電極が接続される第1ノードN1と初期化電源である第3電源VINTとの間に接続される第5トランジスタT5と、
第4トランジスタT4と第3電源VINTとの間に接続される第6トランジスタT6と、
第1電源ELVDDと第1トランジスタT1の第1電極との間に接続される第7トランジスタT7と、
第1電源ELVDDと第1ノードN1との間に接続されるストレージキャパシタCSTと、
を含む有機電界発光表示装置の画素であって、
第1トランジスタT1は、第1ノードN1の電圧に対応して有機発光ダイオードOLEDに供給される駆動電流を制御する駆動トランジスタとして機能し、
第1期間t1の間、第5トランジスタT5及び第6トランジスタT6がターンオンされ、第4トランジスタT4及び第7トランジスタT7がターンオンされ、第1ノードN1に第3電源VINTの初期化電圧が印加されるとともに、第1電源ELVDDから、第7トランジスタT7、第1トランジスタT1、第4トランジスタT4及び第6トランジスタT6を経由して第3電源VINTへの電流パスが形成され、電流が第4トランジスタT4から第6トランジスタT6側に迂回されて流れるようにすることで、有機発光ダイオードOLEDが発光することを防止し、
第2期間t2の間、第4トランジスタT4及び第7トランジスタT7がターンオフされ、第5トランジスタT5はターンオン状態を維持し、第1ノードN1は第3電源VINTの電圧に安定的に初期化され、
第3期間t3の間、第2トランジスタT2及び第3トランジスタT3がターンオンされ、データ線Dmにはデータ信号が供給され、第1ノードN1にはデータ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧が伝達され、第1ノードN1に伝達された電圧はストレージキャパシタCSTに格納され、
第4期間t4の間、第4トランジスタT4及び第7トランジスタT7がターンオンされて、第1電源ELVDDから第7トランジスタT7、第1トランジスタT1、第4トランジスタT4、及び有機発光ダイオードOLEDを経由して第2電源ELVSSに駆動電流が流れ、有機発光ダイオードOLEDはデータ信号に対応する輝度に発光する、
有機電界発光表示装置の画素。」

(2)引用文献7
引用文献7には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「【0039】
また、図3に示した実施の形態においては、各表示用画素10aを構成するTFTによる発光駆動用トランジスタTr2は、飽和領域で動作させることで定電流特性を持たせるように説明しているが、この発光駆動用トランジスタTr2は、線形領域で動作させることで定電圧動作(スイッチング動作)を行なわせることもできる。この様に発光駆動用トランジスタTr2を定電圧動作させるようにしても、定電圧駆動される各画素10aに対して、適切な点灯駆動電圧を与えることができる。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

(1)引用発明の「第1電源ELVDDと第2電源ELVSSとの間に接続された有機発光ダイオードOLED」は、本願発明の「発光素子」に相当する。

(2)引用発明の「第1電源ELVDDと有機発光ダイオードOLEDとの間に接続された第1トランジスタT1」は、「第1ノードN1の電圧に対応して有機発光ダイオードOLEDに供給される駆動電流を制御する駆動トランジスタとして機能」するから、本願発明の「印加された電圧に応じた電流を前記発光素子へ供給する駆動トランジスタ」に相当する。

(3)引用発明の「データ信号」、「第1トランジスタT1のしきい値電圧」及び「データ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧」は、それぞれ本願発明の「データ電圧」、「駆動トランジスタの閾値電圧」及び「前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧」に相当する。

(4)引用発明の「第1電源ELVDDと第1ノードN1との間に接続されるストレージキャパシタCST」は、「第1ノードN1に伝達された」「データ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧」が「格納され」る。そして、「第1ノードN1に伝達された」「データ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧」は、「第1ノードN1の電圧」にほかならないから、引用発明の「第1トランジスタT1」は、「データ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧」に「対応して有機発光ダイオードOLEDに供給される駆動電流を制御する駆動トランジスタとして機能」することになる。これは、「ストレージキャパシタCST」に「格納され」た「データ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧」が「第1トランジスタT1」に印加されることを意味する。
すなわち、引用発明の「第1電源ELVDDと第1ノードN1との間に接続されるストレージキャパシタCST」は、「第1ノードN1に伝達された」「データ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧」を「格納」し、これを「有機発光ダイオードOLEDに供給される駆動電流を制御する駆動トランジスタとして機能」する「第1トランジスタT1」に印加するから、本願発明の「前記駆動トランジスタの閾値電圧及びデータ電圧を含む電圧を保持し、前記閾値電圧及び前記データ電圧を含むこの電圧を前記駆動トランジスタに印加するコンデンサ部」に相当する。

(5)引用発明の「第1トランジスタT1の第1電極とデータ線Dmとの間に接続された第2トランジスタT2」、「第1トランジスタT1の第2電極とゲート電極との間に接続される第3トランジスタT3」、「第1トランジスタT1の第2電極と有機発光ダイオードOLEDとの間に接続された第4トランジスタT4」、「第1トランジスタT1のゲート電極が接続される第1ノードN1と初期化電源である第3電源VINTとの間に接続される第5トランジスタT5」、「第4トランジスタT4と第3電源VINTとの間に接続される第6トランジスタT6」及び「第1電源ELVDDと第1トランジスタT1の第1電極との間に接続される第7トランジスタT7」は、「第1期間t1」ないし「第4期間t4」の間にそれぞれ「ターンオン」又は「ターンオフ」されるから、いずれもオンオフされるスイッチである。そして、各トランジスタがオンオフされる結果、「第3期間t3の間」に「第1ノードN1に伝達された」「データ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧」が「ストレージキャパシタCSTに格納され」る。
したがって、引用発明の「第2トランジスタT2」ないし「第7トランジスタT7」からなる回路は、本願発明の「前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧を前記コンデンサ部に保持させるスイッチ部」に相当する。

(6)引用発明の「有機電界発光表示装置の画素」は、本願発明の「画素回路」に相当する。

(7)引用発明の「初期化電源である第3電源VINT」は、本願発明の「基準電圧電源線」に相当する。

(8)引用発明の「第4トランジスタT4と第3電源VINTとの間に接続される第6トランジスタT6」は、「第1期間t1の間」に「ターンオンされ」、「第1電源ELVDDから」「第6トランジスタT6を経由して第3電源VINTへの電流パスが形成され、電流が」「第6トランジスタT6側に迂回されて流れるようにすることで、有機発光ダイオードOLEDが発光することを防止」するから、本願発明の「前記駆動トランジスタから供給される電流を、前記発光素子を通さずに基準電圧電源線へ迂回させる電流迂回用トランジスタ」に相当する。

(9)引用発明が「第2トランジスタT2」ないし「第7トランジスタT7」を含み、その中の一つが「第6トランジスタT6」であることは、本願発明の「前記スイッチ部」が「電流迂回用トランジスタを有」することに相当する。

(10)引用発明の「第3期間t3の間」の動作、すなわち、「第1ノードN1にはデータ信号と第1トランジスタT1のしきい値電圧の差電圧が伝達され、第1ノードN1に伝達された電圧はストレージキャパシタCSTに格納され」る動作は、本願発明の「前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧を前記コンデンサ部に保持させる」動作に相当する。

(11)引用発明の「第3期間t3の間」より前の「第1期間t1の間」の動作、すなわち、「第6トランジスタT6がターンオンされ」、「第1電源ELVDDから」「第1トランジスタT1」「及び第6トランジスタT6を経由して第3電源VINTへの電流パスが形成され、電流が」「第6トランジスタT6側に迂回されて流れるようにする」動作は、本願発明の「前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧を前記コンデンサ部に保持させる前に、一定時間前記電流迂回用トランジスタを」「動作させ、前記駆動トランジスタをオンにし、前記駆動トランジスタから流れる電流を前記電流迂回用トランジスタを介して前記基準電圧電源線へ迂回させる」動作に相当する。

5 一致点及び相違点
前記4の対比の結果をまとめると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(1)一致点
「発光素子と、
印加された電圧に応じた電流を前記発光素子へ供給する駆動トランジスタと、
前記駆動トランジスタの閾値電圧及びデータ電圧を含む電圧を保持し、前記閾値電圧及び前記データ電圧を含むこの電圧を前記駆動トランジスタに印加するコンデンサ部と、
前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧を前記コンデンサ部に保持させるスイッチ部と、
を備えた画素回路において、
前記スイッチ部は、前記駆動トランジスタから供給される電流を、前記発光素子を通さずに基準電圧電源線へ迂回させる電流迂回用トランジスタを有し、前記閾値電圧及び前記データ電圧を含む電圧を前記コンデンサ部に保持させる前に、一定時間前記電流迂回用トランジスタを動作させ、前記駆動トランジスタをオンにし、前記駆動トランジスタから流れる電流を前記電流迂回用トランジスタを介して前記基準電圧電源線へ迂回させる、
ことを特徴とする画素回路。」

(2)相違点
本願発明は、「電流迂回用トランジスタ」を「線形領域で」動作させるのに対し、引用発明は、「第4トランジスタT4と第3電源VINTとの間に接続される第6トランジスタT6」(本願発明の「電流迂回用トランジスタ」に相当する。)を線形領域で動作させるか明らかでない点。

6 相違点についての判断
トランジスタにスイッチング動作を行わせるときに、トランジスタを線形領域で動作させることは、例えば引用文献7(前記3(2))に記載されているように、当業者に周知の事項である。
引用発明の「第4トランジスタT4と第3電源VINTとの間に接続される第6トランジスタT6」は、「ターンオン」又は「ターンオフ」されるから、スイッチング動作をすることが明らかである。スイッチング動作をする「第6トランジスタT6」を線形領域で動作させることは、前記周知の事項をわきまえた当業者にとって自明のことにすぎない。そして、引用発明の「第6トランジスタT6」を線形領域で動作させることにより、引用発明が相違点に係る本願発明の構成を備えるようになることは明らかである。
したがって、本願発明は、引用発明と当業者に周知の事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をするべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-05-21 
結審通知日 2020-05-26 
審決日 2020-06-08 
出願番号 特願2014-206933(P2014-206933)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G09G)
P 1 8・ 537- Z (G09G)
P 1 8・ 121- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 小林 紀史
中澤 真吾
発明の名称 画素回路、その駆動方法及び表示装置  
代理人 高橋 勇  

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