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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41M
管理番号 1367554
審判番号 不服2020-843  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-22 
確定日 2020-11-10 
事件の表示 特願2016- 82785「インクジェット用光沢紙及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月26日出願公開、特開2017-193059、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-82785号(以下「本件出願」という。)は、2016年(平成28年)4月18日にされた特許出願であって、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 3月27日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 5月20日提出:意見書・手続補正書
令和 元年 6月 3日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 8月 6日提出:意見書・手続補正書
令和 元年10月15日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 1月22日提出:審判請求書・手続補正書
令和 2年 5月12日提出:上申書

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?請求項6に係る発明(令和元年8月6日付け手続補正書による補正後のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2013-59939号公報
引用文献2:特開2011-5753号公報
引用文献3:特開2000-292964号公報
引用文献4:特開2008-36962号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献1?2であり、引用文献3?4は請求項1?6に対しての周知技術として、それぞれ引用されたものである。)

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は、令和2年1月22日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項6に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
紙基材の片面に顔料と結着剤を含有するインク受容層を設けたインクジェット用光沢紙において、
前記インク受容層が、前記顔料として平均二次粒子径が20?1000nmの多孔質微細顔料を含有し、
前記インク受容層を設けた前記片面の反対面が、前記紙基材の表面又はサイズプレス処理面であり、かつ前記反対面が、カレンダー処理面であり、
前記インク受容層の写像性が、JIS H 8686-2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法」による光学くし幅2mm入反射角度60°による条件において、55%以上であり、かつ、前記反対面のベック平滑度が5秒以上20秒以下であることを特徴とするインクジェット用光沢紙。
【請求項2】
前記多孔質微細顔料は、気相法シリカ、沈降法シリカ、γ‐アルミナ、θ‐アルミナ、ベーマイト(擬ベーマイトも含む)、アルミナ修飾シリカより選ばれる1種以上であり、前記多孔質微細顔料のBET比表面積が100?400m^(2)/gであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用光沢紙。
【請求項3】
前記多孔質微細顔料は、平均一次粒子径が5?30nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット用光沢紙。
【請求項4】
前記インク受容層の最表面に単分散球状コロイダルシリカが分布していることを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載のインクジェット用光沢紙。
【請求項5】
前記反対面が宛名面である、葉書用紙としての、請求項1?4のいずれか一つに記載のインクジェット用光沢紙。
【請求項6】
紙基材の片面に顔料と結着剤を含有するインク受容層を設けたインクジェット用光沢紙の製造方法において、
前記インク受容層を設けることとなる面の反対面が、前記紙基材の表面又はサイズプレス処理面であり、カレンダーによって前記反対面のベック平滑度を10秒以上40秒以下に調整した紙基材を準備する工程と、
前記顔料と前記結着剤とを含有し、前記顔料として平均二次粒子径が20?1000nmの多孔質微細顔料を含有するインク受容層用塗工液を前記紙基材の前記インク受容層を設けることとなる面に塗工して塗工層を形成する工程と、
前記結着剤を凝固させる凝固剤を前記結着剤に対して5質量%以上含有する凝固液を、前記塗工層が湿潤状態にあるうちに塗布して凝固処理をした後に、キャストドラムに圧接する工程とを、有し、
該工程を経た後の前記インク受容層の写像性が、JIS H 8686-2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法」による光学くし幅2mm入反射角度60°による条件において55%以上であり、かつ、前記インク受容層を設けた面の反対面のベック平滑度が5秒以上20秒以下であることを特徴とするインクジェット用光沢紙の製造方法。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2011-5753号(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用光沢紙に関し、特に銀塩写真並の光沢感を有し、写真画質に近い印字品位を有し、かつ、光沢発現層を設けた面の反対面に凸版印刷などを施す場合にも印刷インキの着肉性に優れ、かつ、光沢発現層の変形を極力抑制できるインクジェット記録用光沢紙に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・中略・・・
【0012】
前記文献のごとき銀塩写真に非常に近い光沢感を有するインクジェット記録用媒体は銀塩写真の代替として提案されているが、葉書用途として使用される場合も多くなってきている。葉書用途の場合、光沢発現層が設けられている面とは反対面に郵便枠などのデザイン画をオフセット印刷することが多い。また、例えば年賀葉書用途の場合、お年玉くじのナンバーを印刷するときには凸版印刷が施されることが多く、この印字部が光沢発現層表面に凹凸のパターンとして浮き出てしまって欠点となる問題がある。以下、光沢発現層表面に凹凸パターンが浮き出る現象を「エンボス」と略称する。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記のようなエンボスは、いわゆるマット調インクジェット記録用媒体と比較して銀塩写真代替を狙った光沢発現層を有するインクジェット記録用光沢紙の方が顕著である傾向が強い。この理由は、光沢発現層に使用される顔料が、いわゆるマット調インクジェット記録用紙に使用される顔料より小粒子径であることが多く、よって、必然的に表面が高平滑かつ高光沢になるために僅かな凹凸でも人間の目には見えてしまうという現象による。よって、このエンボス問題については、光沢発現層を有するインクジェット記録用紙の方が、その他のインクジェット記録用紙よりも深刻であるといえる。
【0016】
また、光沢発現層が設けられている面とは反対面にお年玉くじなどのナンバーを凸版印刷する場合、前記エンボス現象を極力抑制するために凸版印刷の印圧を下げることがある。このような場合に、ナンバー画線部に欠けが生じてしまい、着肉不良の欠点となることが多い。よって、光沢発現層を設けた面の反対面に印刷を施す用途のインクジェット記録用光沢紙の場合には、この反対面に優れた着肉性も同時に要求されることが多い。以下、光沢発現層が設けられた面の反対面の印刷インキの着肉性を単に「着肉性」と略称する。
【0017】
インクジェット記録用光沢紙に関しては、エンボスの抑制と着肉性の両立が非常に重要であるが、実際は困難であるのが現状である。例えば、特許文献5に記載された技術は、エンボスを抑制できるというが、エンボスの抑制と着肉性との両立に対しての具体性がなく不満足である。
・・・中略・・・
【0020】
本発明の目的は、インクジェット記録用光沢紙において、前記従来技術の問題点である、良好なインク吸収性をもちながら、銀塩写真並の高光沢感を有し、写真画質に近い印字品位を有し、かつ、光沢発現層を設けた面の反対面に凸版印刷を施しても印刷インキの着肉性に優れ、かつ、光沢発現層の変形を抑制できるインクジェット記録用光沢紙を提供することである。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0028】
本発明のインクジェット記録用光沢紙は、表面光沢感及びインク吸収性を高いレベルで両立させながら、かつ、着肉性と耐エンボス性を両立させるものである。特に、高い光沢感のあるインクジェット記録用光沢紙は葉書用途で使用されることも多く、凸版印刷加工時の生産性の観点から、着肉性と耐エンボス性の両立に対する要求は益々レベルが上がっていくものと容易に推察されることから、本発明の有意性は大きいと考えられる。」

イ 「【0035】
また、本発明においてはインクジェット記録用光沢紙の厚さが150?300μmであることが必須である。150μm未満では、厚さが薄すぎて耐エンボス性が悪化する。300μmを超える場合は、厚すぎてプリンター搬送性に悪影響を及ぼす。好ましくは170?280μmである。更に好ましくは180?250μmである。インクジェット記録用光沢紙の比容積と同様に、厚さは紙基材からの影響が大きいため、紙基材抄造時にソフトキャレンダー処理などの処理を行って、適度な厚さに調整する必要がある。紙基材の厚さが130?290μmであることが好ましい。更に好ましくは、紙基材の厚さが140?280μmである。また、インク受容層塗工時若しくは光沢発現層塗工時又はそれら両方の塗工時に適宜キャレンダー処理などの処理によって厚さを調節することもできる。
【0036】
また、本発明においては光沢発現層を設けた面の反対面に、プリズムの平坦面を3.4MPaの押し圧で押し当て、0.16mm^(2)未満の面積を有する微小非接触部を含む接触部と0.16mm^(2)以上の面積を有する非接触部とに分類したとき、測定部面積に対する非接触部の合計面積の割合を示す「非接触部の合計面積率」(以下、この面積率の値をMA値と省略する)が5.0%以下であることが必須である。MA値が5.0%を超える場合は、大きな凹みが多いために着肉性が悪化する。好ましくはMA値が3.5%以下である。厚さと比容積と同様に、光沢発現層を設けた面の反対面の平滑性は紙基材からの影響が大きいため、紙基材抄造時にソフトキャレンダー処理などの処理を行って、適度な平滑性に調整する必要がある。紙基材のMA値が5.0%以下であることが好ましい。更に好ましくは、3.5%以下である。また、インク受容層塗工時若しくは光沢発現層塗工時又はそれら両方の塗工時の乾燥工程で塗工面と反対面の平滑度が低下する場合が多いため、適宜キャレンダー処理などの処理によって平滑度を調節することが必要である場合が多い。特にキャストコート法は、乾燥時に蒸気が塗工面の反対面へ抜けていくために、平滑性が低下しやすい傾向にある。MA値を5.0%以下にする具体的手段としては、例えば後述するカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)を特定範囲内に収めること、紙基材抄造時のソフトキャレンダー処理を行うこと、又は、インク受容層塗工時若しくは光沢発現層塗工時又はそれら両方の塗工時に適宜キャレンダー処理などの処理を行うことである。本発明において光沢発現層を設けた面の反対面の平滑性について一定加圧時の非接触面積率で規定した理由は、パーカー・プリント・サーフ(PPS)やベック平滑度などの、いわゆるエアリーク法による平滑度測定法よりも直接的な表面状態を把握できるために、ロトグラビア印刷・オフセット印刷・フレキソ印刷・凸版印刷などの印刷時の平滑性をより再現しやすいという理由による。本発明では、一定加圧時における非接触面積率を測定する手段としてPST2600(FIBRO system ab社製)を使用した。また、本発明においては、測定時の条件としてクランピング時間を0.02秒で行った。以下、測定方法について説明する。
・・・中略・・・
【0042】
本発明においては、キャストコート法が凝固法であることが好ましい。キャストコート法が凝固法であることによって、光沢感とインク吸収性及び画像鮮明性とを高いレベルで両立することがより可能となる。
・・・中略・・・
【0044】
光沢発現層は、結着剤としてポリビニルアルコールを含有し、かつ、ホウ素化合物を含有することが好ましい。ポリビニルアルコールとホウ素化合物とを含有することで発色性と表面強度を両立させやすい。光沢発現層のポリビニルアルコールの含有量は、光沢発現層中の顔料100質量部に対して1質量部?30質量部が好ましい。1質量部未満では表面強度に劣る可能性があり、30質量部を超える場合はインク吸収性に劣る場合がある。更に好ましくは3質量部?20質量部である。また、本発明で使用できるポリビニルアルコールは、カルボキシル変性ポリビニルアルコールやシラノール変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコールなどの変性ポリビニルアルコールをも含む。また、ホウ素化合物の含有量は、ポリビニルアルコール100質量部に対して5質量部以上が好ましい。5質量部未満の場合は、表面強度が低下する可能性がある。更に好ましくは10質量部以上である。ホウ素化合物の種類は特に限定されないが、ホウ酸ナトリウム若しくはホウ酸のいずれか一方又はそれらの両方が好ましい。
・・・中略・・・
【0047】
本発明においては、光沢発現層が、平均二次粒子径が500nm以下であるシリカ若しくはアルミナのいずれか一方又はそれら両方を含有することが好ましい。平均二次粒子径が500nm以下であるシリカ若しくはアルミナのいずれか一方又はそれら両方を含有することによって光沢感とインク吸収性及び画像鮮明性とをより高いレベルで両立させることが可能となる。光沢感を更に向上するために、平均二次粒子径が450nm以下であるシリカ若しくはアルミナのいずれか一方又はそれら両方を含有することがより好ましい。シリカとアルミナの両方を用いる場合は、例えば質量比でシリカ:アルミナ=95:5?5:95、好ましくはシリカ:アルミナ=90:10?10:90とする。本発明では、平均二次粒子径は、動的散乱法(例えば大塚電子社製、DLS-6500)によって測定した値を用いる。また、球状コロイダルシリカ(凝集体コロイダルシリカを除く。)は、二次粒子を形成せずに一次粒子で存在しているため、本発明ではシリカとして球状コロイダルシリカを用いる場合には、平均二次粒子径が500nm以下のシリカの概念に、平均一次粒子径が500nm以下の球状コロイダルシリカを含むものとして扱う。
・・・中略・・・
【0051】
光沢発現層のJIS H 8686-2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法」に準じ、光学くし幅2mm入反射角度60°による条件の写像性が50%以上であることが光沢感の観点から好ましい。さらに好ましくは、写像性が55%以上を有することである。写像性が60%以上であれば、更に優れた光沢
感を有するといえる。ここで、入反射角度を当該JIS記載の45°を60°と変更した理由は、光沢感の差異を評価しやすくするためである。
・・・中略・・・
【0060】
透気性を有する紙基材としては、上質紙、中質紙、白板紙などの紙基材を用いることができる。また、酸性紙及び中性紙も使用することが可能である。また、保存時の耐変色性に優れている傾向があることから、使用する紙基材が酸性紙であることが好ましい。ここで記述される酸性紙とは、タルク、カオリンクレーなどの酸性填料と硫酸バンドなどの酸性薬品とが添加されて抄紙される紙のことをいう。また、本発明においては、燃料としてリサイクルされる場合を考慮し原料パルプとしては、塩素含有量の少ないECF(Elemental Chlorine Free)パルプ又はTCF(Totally Chlorine Free)パルプの使用が望ましい。また、使用する填料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、合成シリカ、アルミナ、タルク、焼成カオリンクレー、カオリンクレー、ベントナイト、ゼオライト、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛などの公知の顔料を使用することが可能である。
【0061】
また、紙料中には前記パルプ、填料以外にも公知の紙力剤、硫酸バンド、歩留まり向上剤、サイズ剤、染料、蛍光染料などの各種抄紙用薬品が適宜用いられる。各紙料の調成方法、配合、各抄紙薬品の添加方法については、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されない。また、前記紙料を用いて円網抄紙機、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの公知の抄紙機又はこれらのコンビネーションを適用して抄造することが可能である。
【0062】
また、光沢発現層塗工液の過度の浸透を抑えるために、サイズプレスなどで澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの公知の水溶性高分子を塗布することが好ましい。また、抄紙機のウェットプレス、ソフトキャレンダーなどの設備を用いて適宜処理を施すことによって、所望の比容積、厚さ及びMA値(平滑性)に調整することが可能となる。」

ウ 「【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り固形質量部及び固形質量%を示す。
【0064】
(実施例1)
(紙基材)
紙基材として、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)490mlに叩解したL-BKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)100部に対して、内添填料としてタルク(商品名:Tライト83、太平タルク社製)5部を添加し、更に硫酸バンド3%、酸性ロジンサイズ剤(商品名:AL-120、星光PMC社製)0.25部、カチオン化澱粉(商品名:マーメイドC-50、敷島スターチ社製)1.1部を添加して紙料を調成し、長網抄紙機で3層抄きにて抄紙した後に酸化澱粉(MS#3600、日本食品化工社製)をサイズプレスにて絶乾塗付量2.0g/m^(2)となるよう表面処理し、次いでソフトキャレンダーにてキャレンダー処理を施して坪量180g/m^(2)、厚さ216μm、比容積1.20cm^(3)/g、塗工する面とは反対面のMA値が2.8%である上質紙を作製した。
(インク受容層の塗設)
次いで、合成シリカ(ミズカシルP-78A、水澤化学工業社製)100質量部、結着剤としてポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)10質量部、エチレン-酢酸ビニル(ポリゾールEVA AD-10:昭和高分子社製)40質量部、カチオン性高分子(パピオゲンP-105:センカ社製)30質量部を用い、固形分濃度22%の塗工液をエアーナイフコーターで絶乾塗工量10g/m^(2)となるように前記紙基材の塗工する面に塗布・乾燥してインク受容層を塗設した。
(光沢発現層の塗設)
次いで、光沢発現層塗工液の顔料として球状コロイダルシリカ(アデライトAT-20Q、平均一次粒子径10nm:ADEKA社製)100質量部、結着剤としてアクリル樹脂エマルジョン(リカボンドES-63:中央理化工業社製)12質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA-R1130:クラレ社製)3質量部、離型剤としてポリエチレンエマルジョン(ノプコートPEM17:サンノプコ社製)1質量部を用いて固形分濃度18%の塗工液を得た。この塗工液をエアーナイフコーターで絶乾塗工量9.6g/m^(2)となるように前記インク受容層の表面に塗布し、次いでホウ酸ナトリウム1.0%、カチオン性高分子(スミレーズレジン1001:住友化学工業社製)1.0%となる混合水溶液を乾燥塗布量0.4g/m^(2)となるように塗布して凝固処理を行ったのち、得られた塗工層表面が湿潤状態にあるうちに表面温度105℃のキャストドラムに圧着し、乾燥し、光沢発現層を塗設した。その後にキャレンダー処理で厚さを調整してインクジェット記録用光沢紙を作製した。
(インクジェット記録用光沢紙)
作製したインクジェット記録用光沢紙は、坪量200g/m^(2)、厚さ240μm、比容積1.20cm^(3)/gであった。また、このときの光沢発現層とは反体面のMA値は3.0%であった。
【0065】
(実施例2)
実施例1において、光沢発現層塗工液として顔料をアルミナ(PG-003、平均二次粒子径150nm、結晶形-γ、θ混合:CABOT社製)60質量部、気相法シリカ(レオロシールQS-102、平均二次粒子径160nm:トクヤマ社製)40質量部とした以外は、実施例1に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。なお、ソフトキャレンダー処理及びキャレンダー処理の条件は、実施例1と同じとした。
【0066】
(実施例3)
実施例1において、光沢発現層塗工液として顔料を複数個の1次粒子がランダムに結合した凝集体形状を有するコロイダルシリカ(スノーテックスHS-M-20、平均二次粒子径278nm:日産化学社製)100質量部とした以外は、実施例1に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。なお、ソフトキャレンダー処理及びキャレンダー処理の条件は、実施例1と同じとした。
・・・中略・・・
【0082】
得られたインクジェット記録用光沢紙について、次の試験を実施し、結果を表1及び表2に示した。
【0083】
【表1】

・・・中略・・・
【0085】
(1)MA値の測定
PST2600(FIBRO system ab社製)を使用し、0.16mm^(2)以上の非接触部の合計面積の、測定部面積に対する比率をMA値(%)として求めた。また、このときのクランピング圧力条件を3.4MPaとし、クランピング時間を0.02秒で行った。
・・・中略・・・
【0088】
(4)光沢発現層表面の写像性
得られたインクジェット記録用紙の光沢発現層表面の鏡面性を評価するために写像性を測定した。写像性は、JIS H 8686-2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法」に準じて、光学くし幅2mmにて入反射角度60°とし、写像性測定器(ICM-1T:スガ試験機社製)にて測定した。評価としては、写像性が50%以上は、反射した像が鮮明に写り、光沢感に優れている。50%未満では、反射した像が不鮮明に写り、光沢感に劣る。ここで、入反射角度を当該JIS記載の45°を60°と変更した理由は、光沢感の差異を評価しやすくするためである。」

エ 上記ア?ウによれば、引用文献2には、実施例1(【0064】)及び実施例2として、「インクジェット記録用光沢紙」が記載されており、【0065】によれば、実施例2の「インクジェット記録用光沢紙」は、実施例1において、「光沢発現層塗工液として顔料をアルミナ」「(平均二次粒子径150nm」「)60質量部、気相法シリカ(」「平均二次粒子径160nm」「)40質量部」とした以外は、実施例1として記載したとおりの条件で作製したものであることが理解できる。
また、引用文献2の【0001】及び【0028】には、当該文献において「本発明」とされる発明の技術分野及び発明の効果について記載されるとともに、【0083】【表1】には、「インクジェット記録用光沢紙」の「塗工する面とは反対面のMA値(%)」及び「写像性(入反射角度60°)(%)」の評価値が示されている。ここで、これら「MA値」及び「写像性」は、それぞれ【0085】の「MA値の測定」及び【0088】の「光沢発現層表面の写像性」に記載された測定方法で得られるものである。
以上勘案すると、引用文献2には、実施例2として、次の「インクジェット記録用光沢紙」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(ア)引用発明
「 銀塩写真並の光沢感を有し、写真画質に近い印字品位を有し、かつ、光沢発現層を設けた面の反対面に凸版印刷などを施す場合にも印刷インキの着肉性に優れたインクジェット記録用光沢紙であって、
表面光沢感及びインク吸収性を高いレベルで両立させながら、かつ、着肉性と耐エンボス性を両立させるものであり、
紙基材として、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)490mlに叩解したL-BKP100部に対して、内添填料としてタルク5部を添加し、更に硫酸バンド3%、酸性ロジンサイズ剤0.25部、カチオン化澱粉1.1部を添加して紙料を調成し、長網抄紙機で3層抄きにて抄紙した後に酸化澱粉をサイズプレスにて表面処理し、次いでソフトキャレンダーにてキャレンダー処理を施して、塗工する面とは反対面のMA値が2.8%である上質紙を作製し、
次いで、合成シリカ100質量部、結着剤としてポリビニルアルコール10質量部、エチレン-酢酸ビニル40質量部、カチオン性高分子30質量部を用い、前記紙基材の塗工する面に塗布・乾燥してインク受容層を塗設し、
次いで、光沢発現層塗工液の顔料としてアルミナ(平均二次粒子径150nm)60質量部、気相法シリカ(平均二次粒子径160nm)40質量部、結着剤としてアクリル樹脂エマルジョン12質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール3質量部、離型剤としてポリエチレンエマルジョン1質量部を用いて塗工液を得、この塗工液を前記インク受容層の表面に塗布し、ホウ酸ナトリウム1.0%、カチオン性高分子1.0%となる混合水溶液を塗布して凝固処理を行ったのち、キャストドラムに圧着し、光沢発現層を塗設し、キャレンダー処理で厚さを調整してインクジェット記録用光沢紙を作製し、
塗工する面とは反対面のMA値は3.0%であり、JIS H 8686-2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法」に準じて、光学くし幅2mmにて入反射角度60°とし、写像性測定器にて測定した光沢発現層表面の写像性が70%であるインクジェット記録用光沢紙。」

(2)引用文献3について
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2000-292964号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。

ア 「【請求項1】 合成樹脂フイルム又は合成紙と、前記合成樹脂フイルム又は合成紙の裏面の一端部に糊層を介して剥離可能に一端部を接着して前記合成樹脂フイルム又は合成紙と重なり合うようにした台紙とからなるプリンタ用又は複写用の合成樹脂フイルム又は合成紙において、前記台紙の表面を前記合成樹脂フイルム又は合成紙と静電気的に密着できるように平滑にすると共に、裏面を重送防止できるように粗面に形成したことを特徴とするプリンタ用又は複写用の合成樹脂フイルム又は合成紙。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、合成樹脂フイルム又は合成紙と、前記合成樹脂フイルム又は合成紙の裏面の一端部に糊層を介して剥離可能に一端部を接着して前記合成樹脂フイルム又は合成紙と重なり合うようにした台紙とからなるプリンタ用又は複写用の合成樹脂フイルム又は合成紙に関する。
・・・中略・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】すなわち、本発明は、プリント又は複写の際に、フイルムが台紙すべりしにくく、また、プリンタ又は複写機の紙づまりや重送性を防止できるようにしたプリンタ用又は複写用の合成樹脂フイルム又は合成紙を、提供するものである。
・・・中略・・・
【0006】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態が図1に示されている。10は表面11がプリント又は複写される厚み70ミクロンの透明ポリ塩化ビニルフイルム、20は台紙で、表面21はフイルム10の裏面12に静電気的に重なり合うように平滑に形成され、裏面22は重送防止のため粗面に形成された55g/m^(2)の上質紙である。また、台紙20の一端部211は、無色透明又は着色透明のアクリル系糊層30が接着され、フイルム10の裏面12の一端部121と剥離可能に接着される。なお、糊層30の塗布は、台紙20の上端213から下端214にかけて連続的に塗布される場合と、不連続的に塗布される場合がある。糊層30は、着色透明によりフイルムの一端部121か他端部122かを容易に識別できるが、台紙20の一端部221にフイルム10の一端部121を識別できる矢印や着色等の目印を印刷等により入れてもよい。従つて、台紙20をフイルム10の裏面12に重ね、フイルム10の一端部121と台紙20の一端部221とを糊付けした本発明品を、レーザプリンタ又は電子複写機でプリント又は複写すると、フイルム10は台紙20に対し何ら台紙すべりすることなくプリント又は複写されて出てくる。従つて、プリンタ又は電子複写機は紙づまりすることなく、また、台紙20の裏面22は粗面に形成されているので、重送されることもない。本発明品は、プリント又は複写後、フイルム10は、台紙20から剥離されて使用される。」

(3)引用文献4について
原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2008-36962号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性部材用工程材料、およびこれを用いた機能性部材の処理方法に関する。
・・・中略・・・
【0018】
まず、第1の工程用部材5について説明する。第1の工程用部材5は機能性部材1上に剥離層2を有するものである。本発明でいう機能性部材1とは、所望の機能を有する部材のことであり、所望の産業的処理を施すための主となる部材のことである。このような機能性部材1としては、種々のものがあげられるため特に限定されるものではないが、例えば、紙、布帛、プラスチック、ガラス等のシート状や板状のもの(基材11)に、所望の機能層12を設けたもの(図4、図5)や、基材11自体に所望の機能性を有するもの(図6)などがあげられる。
【0019】
紙の種類としては、例えば和紙、上質紙、再生紙に表面処理を施したものや、合成紙、ポリエチレンラミネート紙等があげられ、布帛の種類としては、例えば木綿、絹、毛、化学繊維、合成繊維やこれらを混合したもの、不織布等で表面処理を施したものがあげられる。またガラスの種類としては、例えばケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス等の酸化ガラスがあげられ、プラスチックの種類としては例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアリレート、アクリル、アセチルセルロース、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン/ 塩化ビニル共重合体等の合成樹脂があげられる。このような基材11は用途に応じて、適宜選択して用いることができる。」

イ 「【0036】
機能性部材1が、例えば各種出力機用の記録フィルムであり、施す産業的処理が出力機により印刷することである場合、機能性部材1の厚みが薄く出力機内でうまく搬送されないときや、機能性部材1にコシがなく出力機内でうまく搬送されないときなどは、基材4としてはうまく搬送できる程度の厚みをした紙、プラスチックや、コシのある紙やプラスチックなどを用いることが好ましい。また、機能性部材1の搬送ローラーと接する面が平滑すぎてうまく搬送されないときなどは、基材4としては円滑に搬送できる程度に表面を粗面化したプラスチックや紙などを用いることが好ましい。」

2 対比及び判断
(1)対比
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 顔料
引用発明の「顔料」は、その文言が意味するとおり、本願発明1の「顔料」に相当する。
また、引用発明の「顔料として」の「アルミナ」は「平均二次粒子径150nm」であり、「顔料として」の「気相法シリカ」は「平均二次粒子径160nm」である。
技術的にみて、引用発明の「アルミナ」及び「気相法シリカ」は、多孔質であるということができる。
そうすると、引用発明の「アルミナ」及び「気相法シリカ」は、本願発明1の「平均二次粒子径が20?1000nmの多孔質微細顔料」に相当する。

イ 結着剤
引用発明の「結着剤」は、その文言が意味するとおり、本願発明1の「結着剤」に相当する。

ウ インク受容層
引用発明の「光沢発現層」は、顔料として気相法シリカ(多孔質微細顔料)を含有するため、記録時にはインクを少なからず受容する。そうしてみると、引用発明の「インク受容層」及び「光沢発現層」からなる積層構造は、その機能からみて、本願発明1の「インク受容層」に相当するといえる。
そして、引用発明の「光沢発現層」は「顔料としてアルミナ(平均二次粒子径150nm)」及び「気相法シリカ(平均二次粒子径160nm)」を含むとともに、「結着剤」を含むものである。
そうすると、上記イとウより、引用発明の「インク受容層」及び「光沢発現層」からなる積層構造は、本願発明1の「インク受容層」における、「前記顔料として平均二次粒子径が20?1000nmの多孔質微細顔料を含有し」及び「顔料と結着剤を含有する」との要件を満たす。

エ 紙基材
引用発明の「紙基材」は、その文言が意味するとおり、本願発明1の「紙基材」に相当する。
また、引用発明は、「紙基材として」、「抄紙した後に酸化澱粉をサイズプレスにて表面処理し、次いでソフトキャレンダーにてキャレンダー処理を施して、塗工する面とは反対面のMA値が2.8%である上質紙を作製し」、「次いで」、「前記紙基材の塗工する面に」「インク受容層を塗設し」、「次いで」、「前記インク受容層の表面に」「光沢発現層を塗設し」たものである。
引用発明の製造工程からみて、引用発明の「インク受容層」及び「光沢発現層」は、「紙基材」の「サイズプレスにて表面処理」及び「キャレンダー処理」が施される面とは「反対面」である片面に設けられていることが理解される。
そうすると、引用発明は、本願発明1の「前記インク受容層を設けた前記片面の反対面が、前記紙基材の表面又はサイズプレス処理面であり、かつ前記反対面が、カレンダー処理面であり」という要件を満たす。

オ 写像性
引用発明の「光沢発現層表面の写像性」は、「JIS H 8686-2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法」に準じて、光学くし幅2mmにて入反射角度60°とし」て測定していることから、本願発明1の「JIS H 8686-2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法」による光学くし幅2mm入反射角度60°による」とされる「インク受容層の写像性」と同一視できるものである。
また、引用発明においては、「光沢発現層表面の写像性が70%である」。
そうすると、上記エより、引用発明は、本願発明1の、「前記インク受容層の写像性が、JIS H 8686-2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法」による光学くし幅2mm入反射角度60°による条件において、55%以上であり」との要件を満たす。

カ インクジェット用光沢紙
上記ア?オより、引用発明の「インクジェット記録用光沢紙」は、技術的にみて、本願発明1の「インクジェット用光沢紙」に相当する。
また、上記アとエより、引用発明の「インクジェット記録用光沢紙」は、本願発明1の「インクジェット用光沢紙」における、「紙基材の片面に顔料と結着剤を含有するインク受容層を設けた」との要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
「 紙基材の片面に顔料と結着剤を含有するインク受容層を設けたインクジェット用光沢紙において、
前記インク受容層が、前記顔料として平均二次粒子径が20?1000nmの多孔質微細顔料を含有し、
前記インク受容層を設けた前記片面の反対面が、前記紙基材の表面又はサイズプレス処理面であり、かつ前記反対面が、カレンダー処理面であり、
前記インク受容層の写像性が、JIS H 8686-2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法」による光学くし幅2mm入反射角度60°による条件において、55%以上であるインクジェット用光沢紙。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点)
「インク受容層を設けた前記片面の反対面」が、本願発明1は、「ベック平滑度が5秒以上20秒以下である」のに対し、引用発明は、ベック平滑度が明らかではない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
ア 本件出願の明細書の記載(段落【0039】、【0054】?【0056】等)を参酌すると、本願発明1は、紙基材のインク受容層を設けた片面の反対面のベック平滑度を5秒以上20秒以下とすることにより、写像性を維持しつつ、プリンター搬送性に優れた(重送の問題がないこと等)、インクジェット用光沢紙の発明である。一方、上記1(2)に示した引用文献3の記載事項及び上記1(3)に示した引用文献4の記載事項から理解されるとおり、合成樹脂フイルム、合成紙、紙、布帛、プラスチック、ガラス等のシート状や板状のものの搬送性向上のために、その表面を粗面化することは、本願出願前における周知技術であるものの、引用文献3?4のいずれにも、プリンター搬送性を優れたものにするために、インクジェット用光沢紙の紙基材のインク受容層を設けた片面の反対面のベック平滑度をどの程度の値に設定すればよいかについて何ら手がかりは記載されていない。また、インクジェット用光沢紙のプリンター搬送性の観点から、紙基材のインク受容層を設けた片面の反対面のベック平滑度を5秒以上20秒以下とするとの技術思想が、本件出願時における当業者の技術常識であったことを示す他の証拠もない。
そうすると、上記周知技術を心得た当業者が、仮に引用発明に当該周知技術を採用したとしても、引用発明の紙基材のインク受容層を設けた片面の反対面のベック平滑度が5秒以上20秒以下という、相違点に係る構成に容易に想到するとはいえない。
さらにすすんで検討する。
引用発明の「インクジェット記録用光沢紙」の紙基材のインク受容層を設けた片面の反対面のベック平滑度は不明であるから、引用発明が、プリンター搬送性の問題を有しているか否かは不明というほかない。仮にそのような問題があるとしても、これを解決するために、上記周知技術を心得た当業者は、「反対面」の粗面化を試みると考えられるところ、そうして得られた「インクジェット記録用紙光沢紙」の「反対面」は、引用発明において必須とされる要件(MA値が5.0%以下、【0036】)を必ずしも満足するとはいえない。 あるいは、引用文献1の【0035】に接した当業者は、プリンター搬送性の問題に対して、「反対面」の平滑度を調整するよりも、インクジェット記録用光沢紙の厚さを調整することで対処すると考えられる。

イ また、本願発明1の効果として、本件出願の明細書の【0019】には、写像性が高品位の光沢紙であり、かつ搬送性の良いことが記載されている。そして、この効果は、本件出願の明細書の【0055】【表1】の実施例のものが、比較例(ベック平滑度が5秒以上20秒以下でないインクジェット用光沢紙)と比較して、プリンター搬送性が向上していることからも理解することができる。ここで、インクジェット用光沢紙の紙基材のインク受容層を設けた片面の反対面のベック平滑度を5秒以上20秒以下とするという技術思想がいずれの文献に記載されていないことは上記アのとおりであるから、上記効果は、引用発明や引用文献3?4に記載された事項から当業者が予測し得る効果とはいえない。

ウ 以上ア?イのとおりであるから、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献3?4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、引用文献2に記載の他の実施例から、引用発明を認定したとしても判断は同様である。
さらに、原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2013-59939号公報(以下「引用文献1」という。)に記載の実施例に基づいて、引用発明を認定したとしても判断は同様である。

(4)請求項2?5に係る発明について
本件出願の請求項2?5に係る発明は、いずれも、本願発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明であるから、本願発明1における全ての発明特定事項を具備するものである。
そうしてみると、前記(3)で述べたのと同様な理由により、これらの発明も、引用文献1?2に記載された発明及び引用文献3?4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(5)請求項6に係る発明について
本件出願の請求項6に係る発明(以下「本願発明6」)は、前記「第1」「3」に記載したとおり、インクジェット用光沢紙の製造方法に関する発明であって、本願発明1と同じ、「インク受容層を設けた面の反対面のベック平滑度が5秒以上20秒以下である」という発明特定事項を具備してなる発明である。
そうしてみると、前記(3)で述べたのと同様な理由により、本願発明6も、引用文献1?2に記載された発明及び引用文献3?4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

第3 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1?6に係る発明は、引用文献1?2に記載された発明及び引用文献3?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-10-16 
出願番号 特願2016-82785(P2016-82785)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B41M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 樋口 祐介廣田 健介  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 神尾 寧
河原 正
発明の名称 インクジェット用光沢紙及びその製造方法  
代理人 岡田 賢治  
代理人 今下 勝博  

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