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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1367759
審判番号 不服2019-12254  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-17 
確定日 2020-10-28 
事件の表示 特願2017- 22867「人間の歩容及び姿勢バランスを解析するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月17日出願公開、特開2017-140393〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月10日(パリ条約による優先権主張2016年2月12日、インド)の出願であって、平成30年3月22日付けで拒絶理由が通知され、同年8月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年9月21日付けで拒絶理由が通知され、平成31年2月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年4月24日付けで2月22日付け手続補正の却下の決定がなされ、そして同日付で拒絶査定(以下「原査定」という。)されたのに対し、令和元年9月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲についての補正であり、請求項1に対する以下の補正を含むものである。
(1)本件補正前の請求項1の記載
「【請求項1】
人間の姿勢バランスを解析する方法であって、前記方法は、
3Dモーションセンサを用いて前記人間の骨格データを取得するステップと、
ノイズクリーニングモジュールを用いて、取得された前記骨格データから複数のノイズを除去するステップと、
取得された前記骨格データから、x面及びy面における前記人間の足首座標を追跡するステップと、
前記人間の追跡された前記足首座標から導出された複数の歩容パラメータに基づいて、前記人間の前記姿勢バランスを推定するステップと、
前記人間の静的片脚立脚(static single limb stance(SLS))期間を測定するステップであって、前記SLS期間は、前記人間の前記姿勢バランスを示す、ステップと、
のプロセッサにより実装されたステップを備える
方法。」

(2)本件補正後の請求項1の記載
本件補正前の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
人間の姿勢バランスを解析する方法であって、前記方法は、
3Dモーションセンサを用いて前記人間の骨格データを取得するステップと、
ノイズクリーニングモジュールを用いて、取得された前記骨格データから複数のノイズを除去するステップであって、前記複数のノイズは1つ以上の誤差を含み、前記複数のノイズは、次の(a)-(c)のステップによって除去される、ステップと、
(a)取得された前記骨格データを、前記人間の物理構造に関連する構成のセットに変換するステップ、
(b)各フレームにおいて、前記物理構造の静的な構成を演算するステップ、
(c)前後のフレームに基づいて、前記静的な構成の変化を追跡するステップ、
取得された前記骨格データから、x面及びy面における前記人間の足首座標を追跡するステップと、
次の(d)-(h)のステップによって、前記人間の前記追跡された足首座標を使用して、前記人間の複数の歩容パラメータを算出するステップと、
(d)対応する足首の速度プロファイルを得るステップ、
(e)前記速度プロファイルに基づいて、特定の脚の2つの連続した立脚相の開始を示す2つの点である曲率点を演算するステップ、
(f)前記速度プロファイルからピーク領域とトラフ領域とを検出し、前記ピーク領域と前記トラフ領域のデータ点のセットを得るステップ、
(g)前記データ点のセットの平均と標準偏差を算出することによって得られる正規化されたデータの共分散行列を演算するステップ、
(h)前記共分散行列の固有値分解を演算することにより、固有ベクトルベースの曲率解析を行って、前記脚に対する遊脚相の開始を示す曲率点を得るステップであって、最小固有値に対応する固有ベクトルは、データ点のセットの最小変動の方向を提供し、前記遊脚相の開始の曲率点に向かう方向を明らかにし、前記遊脚相の開始の曲率点、2つの連続した立脚相の開始の曲率点、及び前記速度プロファイルの前記ピーク領域と前記トラフ領域で検出されたデータ点のセットは、前記複数の歩容パラメータの算出に使用される、ステップ、
次の(i)-(j)のステップによって、前記人間の静的片脚立脚(SLS)期間を測定するステップと、
(i)前記人間の前記追跡された足首座標の変化を取得するステップ、
(j)前記追跡された足首座標の取得された変化に対して固有ベクトルベースの曲率解析を実行して、2つの負の曲率点を決定するステップであって、前記決定された負の曲率点の間の期間が、静的SLS期間である、ステップ
のプロセッサにより実装されたステップを備える
方法。」(下線は補正箇所である。)

2 補正の適否
(1)補正の目的について
本件補正により、補正前の請求項1の「複数の歩容パラメータに基づいて、前記人間の前記姿勢バランスを推定する」事項、及び「SLS期間は、前記人間の前記姿勢バランスを示す」事項が削除された。これらの発明特定事項を削除することは、特許法第17条の2第5項に掲げる各号のいずれを目的とするものではない。
なお、前者については、下記の第3の3(1)で述べるように、新規事項の追加に該当することから、場合によっては不問に付すとの対応もあり得なくもないところ、後者の「SLS期間は、前記人間の姿勢バランスを示す」ことを削除することは、SLS期間が人間の姿勢バランスを示さないものにまで拡張することになり、同項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的には該当せず、そして、同項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正、第4号に掲げる明りようでない記載の釈明のいずれにも該当するものではない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものである。

(2)独立特許要件について
請求人は、本件補正について、審判請求書で「補正の根拠は、明細書の段落[0022]-[0044]の記載です。」と説明するのみであり、その目的を明らかにしていないものの、上記(1)で指摘した点を除けば、補正前の「ノイズを除去するステップ」、「歩容パラメータ」を「導出」こと、「(SLS)期間を測定するステップ」の各々について、より限定したものともいえることから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものとして、上記1(2)で記載した本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア ノイズを除去するステップについて
(ア)取得された前記骨格データから複数のノイズを除去するステップについて、補正発明で
「前記複数のノイズは1つ以上の誤差を含み、前記複数のノイズは、次の(a)-(c)のステップによって除去される、ステップと、
(a)取得された前記骨格データを、前記人間の物理構造に関連する構成のセットに変換するステップ、
(b)各フレームにおいて、前記物理構造の静的な構成を演算するステップ、
(c)前後のフレームに基づいて、前記静的な構成の変化を追跡するステップ、」と特定してきた。

(イ)ノイズの除去について、本願明細書には、以下の記載がある。
「【0024】
本開示の実施形態によれば、ノイズ除去モジュール108は、Kinectセンサ102を用いて人間から取得された骨格データから複数のノイズを除去するように構成される。骨格データのノイズは、人間が完全に固定されているときに事実上可視であるが、Kinectセンサ102により記録される関節位置は、時間と共に変化する。ノイズの特徴及びレベルに影響を及ぼす多くのパラメータが存在し、室内照明、IR干渉、Kinectセンサからの被験者の距離、センサアレイの位置、量子化、演算時に導入される丸め誤差等を含む。きれいな骨格データを得るために、ノイズクリーニングモジュール108を用いて被験者の物理構造に関連する構成の大きなセットに変換される。各フレームにおいて、腕、脚、身長の長さ等のような静的な構成が演算され、2つの直前及び2つの直後のフレームで変化が追跡される。ノイズクリーニング後のデータは、歩容パラメータ推定モジュール110及び静的SLS測定モジュール112への入力として用いられる。」

(ウ)判断
a 「複数のノイズは1つ以上の誤差を含」むとは、どのようなことを特定しようとしているのか不明確である。
ノイズとは、処理対象となる信号以外の不要な信号すなわち雑音のことである一方、誤差については、上記本願明細書に「演算時に導入される丸め誤差等を含む」と記載されており、「丸め誤差」とは四捨五入等の計算処理によって生じるもののことである。そうすると、「ノイズ」と「誤差」とは、物理・数学的に異なる事象であり、「複数のノイズは1つ以上の誤差を含」むとは、本願明細書を参照しても、明らかではない。さらに、「複数のノイズは1つ以上の誤差を含」むと文字どおり解釈しても、ノイズを除去するとは、その計算処理によって生じる「誤差」を除去するとも解されることになり、その意味においても不明確である。

b 「骨格データから複数のノイズを除去する」ことを、「(a)取得された前記骨格データを、前記人間の物理構造に関連する構成のセットに変換するステップ、(b)各フレームにおいて、前記物理構造の静的な構成を演算するステップ、(c)前後のフレームに基づいて、前記静的な構成の変化を追跡するステップ」によって行うところ、「人間の物理構造に関連する構成」及び「前記物理構造の静的な構成」とは、上記本願明細書を参照すると、「腕、脚、身長の長さ等」と一応理解される。そうすると、上記(a)及び(b)のステップを経て「前後のフレームに基づいて、前記静的な構成の変化を追跡する」、すなわち前後のフレームに基づいて「腕、脚、身長の長さ等」の変化を追跡することになるが、「腕、脚、身長の長さ等」の変化を追跡することが、いかに「骨格データから複数のノイズを除去する」ことになるのか不明確である。
この点、本願明細書にも、「腕、脚、身長の長さ等」の変化を追跡することによって「骨格データから複数のノイズを除去する」方法が記載されていないことから、発明の詳細な説明は、当業者が補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(エ)小括
よって、ノイズを除去するステップにおいて、補正発明は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

イ 歩容パラメータを算出するステップについて
(ア)歩容パラメータを算出するステップについて、補正発明で
「(d)対応する足首の速度プロファイルを得るステップ、
(e)前記速度プロファイルに基づいて、特定の脚の2つの連続した立脚相の開始を示す2つの点である曲率点を演算するステップ、
(f)前記速度プロファイルからピーク領域とトラフ領域とを検出し、前記ピーク領域と前記トラフ領域のデータ点のセットを得るステップ、
(g)前記データ点のセットの平均と標準偏差を算出することによって得られる正規化されたデータの共分散行列を演算するステップ、
(h)前記共分散行列の固有値分解を演算することにより、固有ベクトルベースの曲率解析を行って、前記脚に対する遊脚相の開始を示す曲率点を得るステップであって、最小固有値に対応する固有ベクトルは、データ点のセットの最小変動の方向を提供し、前記遊脚相の開始の曲率点に向かう方向を明らかにし、前記遊脚相の開始の曲率点、2つの連続した立脚相の開始の曲率点、及び前記速度プロファイルの前記ピーク領域と前記トラフ領域で検出されたデータ点のセットは、前記複数の歩容パラメータの算出に使用される、ステップ」と特定してきた。

(イ)歩容パラメータを算出について、本願明細書には、以下の記載がある。
「【0027】
更に、歩容パラメータ検出モジュール110は、2つの負の曲率点「A」及び「S1」を検出するための標準的な第2の導関数ベースの曲率検出アルゴリズムを用いるように構成される。X方向の変化に沿う左脚足首の速度プロファイル300は、図5に示される。足首は、遊脚相(図5に示される「B」と「S1」との間)中に最大水平速度に到達し、立脚相(「A」と「B」との間)でほぼゼロに到達することが当業者には広く知られている。図5は、点「T1」、「T2」及び「P」での左足首の速度V_(AnkleLeft)の実質的な変化を示す。このことに留意して、対応する足首(ここでは左足首)の速度プロファイルは、所望の曲率点「A」及び「S1」を演算するために用いられている。具体的には、これらの点は、提案された方法でマーカーとして機能するであろう。曲率解析を行う前に、標準的なピーク アンド トラフ検出アルゴリズムは、図5に示されるような速度プロファイルからピーク(「P」及び)トラフ(「T1」,「T2」)を検出するように採用される。領域「T1」から「P」及び「P」から「T2」での最終的なデータ点Xは、曲率解析に考慮される。曲率点は、データの最小変動の方向にあると仮定される。次のステップでは、正規化されたデータ
【数1】

の共分散行列
【数2】

が演算される(つまり、
【数3】

、ここでX’及びσは、それぞれ、Xの平均及び標準偏差である)。
【0028】
更に、行列の固有値分解が演算される。主成分分析(principle component analysis(PCA))も最大変動の方向を発見するために同一の原理を用いることが理解されるべきである。少なくとも固有値に対応する固有ベクトル(Eminという)は、データの最小変動の方向を提供し、そのため、曲率点に向かう方向を明らかにする。図6は、共分散行列の固有値分解から得られた2つの方向ベクトル400を示す。(円弧「T1」から「P」の間の)曲率点「B」は、最小固有値に対応する固有ベクトルの最小投影誤差を演算することにより得られ、以下の式を用いて演算される。
【数4】

ここで、
【数5】

は、フレームr(又は時間t)における元の信号値(X_(AnkleLeft )(r))であり、
【数6】

は、
【数7】

に従う単位ベクトルである。
フレーム(点)「S1」は、同様に演算され、「P1」フレームと「T2」フレームとの間のデータは、固有ベクトルベースの曲率解析に用いられる。最後に、重複歩距離及び時間は、「A」フレーム及び「S」フレームそれぞれに対応する変位とタイムスタンプとの間の差異を見出すことにより測定される。曲率点「B」は、立脚相(図5について「A」から「B」)により先行される遊脚相(図5について「B」から「S1」)の開始を示す。よって、4つの全ての歩容変数は、以下の式を用いてモデル化される。
重複歩距離=|(「A」での)X_(AnkleLeft)-(「S1」での)X_(AnkleLeft)|、
重複歩時間=|(「A」での)タイムスタンプ-(「S1」での)タイムスタンプ|、
遊脚時間=|(「S1」での)タイムスタンプ-(「B」での)タイムスタンプ|、
立脚時間=|(「B」での)X_(AnkleLeft)-(「A」での)X_(AnkleLeft)|。」

そして、図4、図5及び図6として、以下の図面が記載されている。
【図4】

【図5】

【図6】


(ウ)判断
a 「(e)前記速度プロファイルに基づいて、特定の脚の2つの連続した立脚相の開始を示す2つの点である曲率点を演算するステップ」について、「立脚相の開始を示す2つの点である曲率点」という限りにおいては、上記図5におけるT1及びT2のことであると一応理解できるが、「特定の脚の2つの連続した立脚相」とは、何を特定しようとしているのか不明確である。「特定の脚」とは右脚又は左脚のことで、2つの「立脚相」の間に「遊脚相」があるから、2つ「立脚相」は「連続」することはない。この点、本願明細書にも「2つの連続した立脚相」との記載はないことから、本願明細書を参照しても不明確である。

b 「(f)前記速度プロファイルからピーク領域とトラフ領域とを検出し、前記ピーク領域と前記トラフ領域のデータ点のセットを得るステップ、(g)前記データ点のセットの平均と標準偏差を算出することによって得られる正規化されたデータの共分散行列を演算するステップ、」について、ピーク領域、トラフ領域とは、上記図5(X方向での左足首速度プロファイル)における山部分がピーク領域、平坦な部分がトラフ領域のことであり、「前記ピーク領域と前記トラフ領域のデータ点のセット」とは、ピーク領域とトラフ領域における、(横軸:フレーム(時間))に対する(縦軸:速度)の各点に対応する実際の測定データ(速度)のセットであると一応仮定される。そして、その仮定に立てば、それら実際の測定データについて、「平均と標準偏差を算出することによって得られる正規化されたデータ」とすることにより、上記図5のようなスムーズな曲線が描かれたものと一応理解することはできる。
しかしながら、その「データ」について「データの共分散行列を演算する」と記載されており、「共分散」とは数学的に複数の要素の相関をみるものであるから、「速度」以外の要素もあり、速度とそれ以外の要素の値を含めて「共分散」行列を演算するものといえる。そうすると、「前記ピーク領域と前記トラフ領域のデータ点のセット」とは、実際の速度の測定データである仮定も成り立たなくなる。
この点、上記本願明細書には「図5に示されるような速度プロファイルからピーク(「P」及び)トラフ(「T1」,「T2」)を検出するように採用される。領域「T1」から「P」及び「P」から「T2」での最終的なデータ点Xは、曲率解析に考慮される。」と記載されるのみで、これを参照しても不明確である。
よって、「前記ピーク領域と前記トラフ領域のデータ点のセット」とは、どのようなデータの点のセットを特定しているのか不明確である。

c 「(h)前記共分散行列の固有値分解を演算することにより、固有ベクトルベースの曲率解析を行って、前記脚に対する遊脚相の開始を示す曲率点を得るステップであって、最小固有値に対応する固有ベクトルは、データ点のセットの最小変動の方向を提供」することについて、「共分散行列」を構成する要素について明確でないものの、共分散行列の固有値分解を演算して、最小固有値に対応する固有ベクトルを求め、最小変動の方向を提供することは、数学的に主成分分析として知られていることである。しかしながら、「固有ベクトルベースの曲率解析を行って、前記脚に対する遊脚相の開始を示す曲率点を得る」ことについて、「前記脚に対する遊脚相の開始を示す曲率点」は上記図5及び図6における「B」点であると理解できるが、そのB点がなぜ「データ点のセットの最小変動の方向を提供」する「最小固有値に対応する固有ベクトル」(上記図6を参照しても最小変動する点とはいえないのではないか)となるのか、さらに、幾何学的に固有ベクトルを使って曲面を解析することは一般に知られているものの、補正発明における「固有ベクトルベースの曲率解析」とは、どのような解析を行うことを特定しているのか明確といえない。
この点、上記本願明細書には「フレーム(点)「S1」は、同様に演算され、「P1」フレームと「T2」フレームとの間のデータは、固有ベクトルベースの曲率解析に用いられる。」とのみ記載され、具体的な計算は示されていない。
なお、「固有ベクトルベースの曲率解析」については、平成30年3月22日付けの拒絶理由で具体的内容、算出理論が不明であることから、明確性及び実施可能要件を満たしていないことを通知したのに対し、請求人は、それを削除することにより対応しており、何ら説明をしていない。
よって、「固有ベクトルベースの曲率解析を行って、前記脚に対する遊脚相の開始を示す曲率点を得るステップであって、最小固有値に対応する固有ベクトルは、データ点のセットの最小変動の方向を提供」することは不明確であり、発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

d 「前記遊脚相の開始の曲率点、2つの連続した立脚相の開始の曲率点、及び前記速度プロファイルの前記ピーク領域と前記トラフ領域で検出されたデータ点のセットは、前記複数の歩容パラメータの算出に使用される」ことについて、「歩容パラメータの算出」には、上記本願明細書の記載(図4)を参照すると「A」、「B」及び「S1」が必要であるところ、「遊脚相の開始の曲率点」は図4、5及び6の「B」点、「2つの連続した立脚相の開始の曲率点」は図5における「T1,T2」点であるが、「A」及び「S1」について請求項の記載として特定していない。「前記ピーク領域と前記トラフ領域で検出されたデータ点のセット」から「A」及び「S1」は求まるものといえるが、「歩容パラメータの算出に使用される」ものとして「B」点及び「T1,T2」点のみを記載するのは明確とはいえない。

(エ)小括
よって、歩容パラメータを算出するステップにおいて、補正発明は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

ウ (SLS)期間を測定するステップについて
(ア)人間の静的片脚立脚(SLS)期間を測定するステップについて、補正発明で
「(i)前記人間の前記追跡された足首座標の変化を取得するステップ、
(j)前記追跡された足首座標の取得された変化に対して固有ベクトルベースの曲率解析を実行して、2つの負の曲率点を決定するステップであって、前記決定された負の曲率点の間の期間が、静的SLS期間である、ステップ」と特定してきた。

(イ)(SLS)期間の測定について、本願明細書には、以下の記載がある。
「【0030】
本開示の実施形態によれば、静的SLS測定モジュール112は、人間の姿勢バランスを解析するために用いられる。姿勢バランスは、静的SLS運動を用いて測定される。静的SLS運動は、一方の脚を上げて地面から離し、他方の脚により身体のバランスを維持することが全てである。静的SLS運動を用いる実験は、y座標での変化に焦点を当てる。左足首のy座標での変化(左脚が持ち上げられた)Y_(AnkleLeft)は、図7に示されるような、人間が、脚(ここでは左脚)を挙げて、地面から離したときの運動タイミングについての情報を与える。図7は、フレーム「R」及び「F」でのY_(AnkleLeft)の変化を示す。ゾーン「R」から「F」は、SLS姿勢の所望のゾーンである。広い視野で物事を見るために、「R」は、脚が屈曲されて床から離れるフレームであり、「F」は、脚が再び地面に接触するフレームである。「R」と「F」との間の期間は、静的SLS期間として考慮される。
【0031】
それらのフレームを検出するために、k平均法アルゴリズムを採用して、フレームにおけるY_(AnkleLeft)の変化を捉える。次に、片脚立脚部分(ゾーン「R」から「F」)を差別化することの助けるであろう。図7は、k平均法アルゴリズムの出力、つまり、所望のフレーム「R」及び「F」からかなり離れたフレーム「K1」及び「K2」も示す。最後に、提案された曲率解析アルゴリズムは、領域「S」から「K1」及び「K2」から「E」のそれぞれにおけるデータ点を与える曲率点「R」及び「F」を見出すために用いられる。」
そして、図7として、以下の図面が記載されている。
【図7】


(ウ)判断
a 「前記追跡された足首座標の取得された変化に対して固有ベクトルベースの曲率解析を実行して、2つの負の曲率点を決定する」ことについて、「足首座標の取得された変化に対して固有ベクトルベースの曲率解析を実行」するとは、どのようなことを行うことを特定しているのか明確でない。
この点、本願明細書には、「それらのフレームを検出するために、k平均法アルゴリズムを採用して、フレームにおけるY_(AnkleLeft)の変化を捉える。次に、片脚立脚部分(ゾーン「R」から「F」)を差別化することの助けるであろう。図7は、k平均法アルゴリズムの出力、つまり、所望のフレーム「R」及び「F」からかなり離れたフレーム「K1」及び「K2」も示す。最後に、提案された曲率解析アルゴリズムは、領域「S」から「K1」及び「K2」から「E」のそれぞれにおけるデータ点を与える曲率点「R」及び「F」を見出すために用いられる。」と記載されており、足首座標の取得された変化をk平均法アルゴリズムにより得て、それを提案された曲率解析アルゴリズムを実行して、曲率点「R」及び「F」を見出すことが記載されている。
k平均法アルゴリズムは、データクラスターを分類する際に使用する手法であるが、それによって分類されたデータに対して「提案された曲率解析アルゴリズム」を実行するとは、どのようなことを行うことか、そして、それによって「2つの負の曲率点」いかに「決定する」のか明確とはいえない。
なお、平成30年9月21日付けの拒絶理由で、図7を参照すると「曲率」といえるものがなく「曲率検出アルゴリズム」(「k平均法アルゴリズム」と「提案された曲率解析アルゴリズム」をまとめたもの)でSLS期間を測定することは明確でないことを通知したのに対し、請求人は、それを削除することにより対応しており、何ら説明をしていない。
よって、「前記追跡された足首座標の取得された変化に対して固有ベクトルベースの曲率解析を実行して、2つの負の曲率点を決定する」ことは不明確であり、発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

b 「2つの負の曲率点を決定するステップであって、前記決定された負の曲率点の間の期間が、静的SLS期間である」ことについて、「2つの」「曲率点」は上記図7の「R」点及び「F」点のことであるが、両者とも「負の曲率」というのは、技術的に正当に理解できるものではない。
この点、上記イの「歩容パラメータを算出について」において摘記した本願明細書の部分に「歩容パラメータ検出モジュール110は、2つの負の曲率点「A」及び「S1」を検出する」(【0027】)の記載があり、「A」及び「S1」の両者が「負の曲率」となるのは理解できるが、「R」点及び「F」点の両者とも「負の曲率」となるのは理解できない。
よって、「2つの負の曲率点を決定するステップであって、前記決定された負の曲率点の間の期間が、静的SLS期間である」との記載は、不明確である。

(エ)小括
よって、(SLS)期間の測定するステップにおいて、補正発明は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

エ 独立特許要件のまとめ
したがって、上記ア?ウの点で、補正発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、また、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成30年8月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1及び3に係る発明は、以下のとおりである(請求項1については、すでに上記第2[理由]1(1)で記載したが再掲する。)。
「【請求項1】
人間の姿勢バランスを解析する方法であって、前記方法は、
3Dモーションセンサを用いて前記人間の骨格データを取得するステップと、
ノイズクリーニングモジュールを用いて、取得された前記骨格データから複数のノイズを除去するステップと、
取得された前記骨格データから、x面及びy面における前記人間の足首座標を追跡するステップと、
前記人間の追跡された前記足首座標から導出された複数の歩容パラメータに基づいて、前記人間の前記姿勢バランスを推定するステップと、
前記人間の静的片脚立脚(static single limb stance(SLS))期間を測定するステップであって、前記SLS期間は、前記人間の前記姿勢バランスを示す、ステップと、
のプロセッサにより実装されたステップを備える
方法。」(以下「本願発明」という。)
「【請求項3】
前記人間の前記SLS期間を、曲率検出アルゴリズムを用いて測定されたSLSと比較するステップを更に備える請求項1に記載の方法。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
1.(新規事項)平成30年8月13日付け手続補正書でした補正は、下記の点で外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由1(新規事項)について
平成30年8月13日付け手続補正書による請求項1-8に関する補正は、「前記人間の追跡された前記足首座標から導出された複数の歩容パラメータに基づいて、前記人間の前記姿勢バランスを推定するステップ」に補正することを含むものである。
しかしながら、外国語書面の翻訳文には、静的SLS期間から姿勢バランスを測定することは記載されているものの、歩容パラメータから姿勢バランスを推定することについて記載されているとは認められず、当該事項が当業者にとって自明な事項であるとも認められない。
したがって、この補正は、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてするものとはいえない。

理由2(進歩性)について
・請求項1-2、4-8
・引用文献等1-2
1.国際公開第2014/112632号
2.Richard W. Bohannon,Single Limb Stance Times: A Descriptive Meta-Analysis of Data From Individuals at Least 60 Years of Age,Topics in Geriatric Rehabilitation,2006年,Vol.22 No.1,p.70-77

理由3(明確性)について
(1)本願請求項1、7-8には、「前記人間の静的片脚立脚(static single limb stance(SLS))期間を測定するステップであって、前記SLS期間は、前記人間の前記姿勢バランスを示す、ステップ」を備えることが記載されているが、当該ステップと、その他のステップ(骨格データを取得するステップ、足首座標を追跡するステップ、歩容パラメータに基づいて姿勢バランスを推定するステップ)との関係性が不明確である。
すなわち、現状の記載では、静的片脚立脚期間の算出に、骨格データも足首座標も歩容パラメータも用いるとは認められず、各ステップ間の関係性が不明確となっている。(無関係の場合も含まれている。)したがって、本願請求項1、7-8に係る発明は不明確である。

(2)本願請求項3には、曲率検出アルゴリズムを用いて測定されたSLS期間(「静的片脚立脚期間」と認められる。)を用いて比較することが記載されている。しかしながら、本願明細書(特に[図7])及び出願時の技術常識を参酌しても、どのように曲率検出アルゴリズムを用いて静的片脚立脚期間を測定するのかが明確であるとは認められない(図7を参酌すると、「曲率」といえるものがあるとは認められず、当業者が当該グラフから曲率検出アルゴリズムを用いて静的片脚立脚期間を算出できるとは、現状認められない。)。したがって、本願請求項3に係る発明は不明確である。

(3)本願請求項1、7-8の「取得された前記骨格データから、x面及びy面における前記人間の足首座標を追跡するステップ」における「前記骨格データ」について、3Dモーションセンサを用いて取得された骨格データを意味するのか、複数のノイズが除去された後の骨格データを意味するのかが不明確である。したがって、本願請求項1、7-8に係る発明は不明確である。

3 当審の判断
(1)理由1について
外国語書面の翻訳文(翻訳された当初の明細書、特許請求の範囲及び図面を以下「翻訳文等」という。)には、「本開示の実施形態によれば、静的SLS測定モジュール112は、人間の姿勢バランスを解析するために用いられる。」(【0030】)との記載はあるものの、「歩容パラメータに基づいて、前記人間の前記姿勢バランスを推定する」との直接的な記載はない。 そこで検討するに、歩容パラメータを算出することについては、上記第2の2(2)イ(イ)で摘記した箇所に記載されており、(SLS)期間を測定することについては、上記第2の2(2)ウ(イ)で摘記した箇所に記載されており、前者は、歩いている状態で測定するものであるのに対し、後者は、一方の脚を上げて地面から離し、他方の脚により身体のバランスを維持する状態で測定するものであり、測定する状態は異なるものである。
そうすると、一方の脚を上げて地面から離し、他方の脚により身体のバランスを維持する状態で測定することにおいて解析される姿勢バランスを、別の測定状態である歩いて測定する時に導出されるパラメータに基づいて推定することが、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。 なお、請求人は、理由1については、すでに却下の決定がなされた平成31年2月22日付け手続補正においては、削除することにより対応している。
よって、平成30年8月13日付け手続補正書でした補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)理由3について
ア 上記2の理由3の(1)について、請求人は、平成31年2月22日付け意見書で「請求項1において、「前記人間の静的片脚立脚(static single limb stance(SLS))期間を測定するステップであって、前記SLS期間は、前記人間の前記姿勢バランスを示す、ステップ」を、「取得された前記骨格データの複数の時空間変化を解析することによって、前記重複歩距離、前記重複歩時間、遊脚時間及び立脚時間を測定するステップ」と補正しました。この記載は、完全に明確であり、そして静的片脚立脚期間算において、骨格データ、足首座標、および歩容パラメータを使用していると認識されます。したがって、理由3の(1)は解消しています。」と述べている。
これを参照すると、補正によって明確になったと主張しているが、その補正が却下された以上、各ステップ間の関係性が明確であるとはいえない。

イ 上記2の理由3の(2)について、すでに却下の決定がなされた平成31年2月22日付け手続補正においては、削除することにより対応している。
よって、上記2の理由3の(2)は解消しているとはいえない。

ウ 上記2の理由3の(3)については、請求人は、平成31年2月22日付け意見書で「請求項の限定は、複数のノイズを除去することを指しており、請求された発明が、複数のノイズが除去された後の骨格データに言及していることが明らかです」と述べているが、指摘した点については、すでに却下の決定がなされた平成31年2月22日付け手続補正においても限定されておらず、ましてや、上記本願発明において「取得された前記骨格データから、x面及びy面における前記人間の足首座標を追跡するステップ」と記載されているのであるから、文脈のとおり「取得された骨格データ」を意味するのか、技術的な考慮を加えた「複数のノイズが除去された後の骨格データ」と解するのかは不明確といわざるを得ない。

(3)理由2について
本願発明は、上記(1)及び(2)で判断したとおり、新規事項を含み、かつ、不明確であるから、詳細には検討できる状態ではないが、以下のとおり、進歩性を認めるには至らないものである。
ア 引用文献について
(ア)引用文献1について
a 本願の優先日前に頒布され、原査定の理由2で引用された上記引用文献1には、以下の事項が
記載されている。
(1a)「[0009] (第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る動作情報処理装置100の構成の一例を示す図である。第1の実施形態に係る動作情報処理装置100は、例えば、医療機関や自宅、職場等において行われるリハビリテーションを支援する装置である。ここで、「リハビリテーション」とは、障害、慢性疾患、老年病など、治療期間が長期にわたる患者の潜在能力を高めて、生活機能ひいては、社会的機能を回復、促進するための技術や方法を指す。かかる技術や方法としては、例えば、生活機能、社会的機能を回復、促進するための機能訓練などが含まれる。ここで、機能訓練としては、例えば、歩行訓練や関節可動域訓練などが挙げられる。また、リハビリテーションの対象となる者を「対象者」と表記する。この対象者は、例えば、病人やけが人、高齢者、障害者等である。また、リハビリテーションが行われる際に、対象者を介助する者を「介助者」と表記する。この介助者は、例えば、医療機関に従事する医師、理学療法士、看護師等の医療従事者や、対象者を自宅で介護する介護士、家族、友人等である。また、リハビリテーションは、「リハビリ」とも略記する。
[0010] 図1に示すように、第1の実施形態において、動作情報処理装置100は、動作情報収集部10に接続される。
[0011] 動作情報収集部10は、リハビリテーションが行われる空間における人物や物体等の動作を検知し、人物や物体等の動作を表す動作情報を収集する。なお、動作情報については、後述の動作情報生成部14の処理を説明する際に詳述する。また、動作情報収集部10としては、例えば、Kinect(登録商標)が用いられる。
[0012] 図1に示すように、動作情報収集部10は、カラー画像収集部11と、距離画像収集部12と、音声認識部13と、動作情報生成部14とを有する。なお、図1に示す動作情報収集部10の構成は、あくまでも一例であり、実施形態はこれに限定されるものではない。
・・・
[0016] 動作情報生成部14は、人物や物体等の動作を表す動作情報を生成する。この動作情報は、例えば、人物の動作(ジェスチャー)を複数の姿勢(ポーズ)の連続として捉えることにより生成される。概要を説明すると、動作情報生成部14は、まず、人体パターンを用いたパターンマッチングにより、距離画像収集部12によって生成される距離画像情報から、人体の骨格を形成する各関節の座標を得る。距離画像情報から得られた各関節の座標は、距離画像の座標系(以下、「距離画像座標系」と呼ぶ)で表される値である。このため、動作情報生成部14は、次に、距離画像座標系における各関節の座標を、リハビリテーションが行われる3次元空間の座標系(以下、「世界座標系」と呼ぶ)で表される値に変換する。この世界座標系で表される各関節の座標が、1フレーム分の骨格情報となる。また、複数フレーム分の骨格情報が、動作情報である。以下、第1の実施形態に係る動作情報生成部14の処理を具体的に説明する。
[0017] 図2Aから図2Cは、第1の実施形態に係る動作情報生成部14の処理を説明するための図である。図2Aには、距離画像収集部12によって生成される距離画像の一例を示す。なお、図2Aにおいては、説明の便宜上、線画で表現された画像を示すが、実際の距離画像は、距離に応じた色の濃淡で表現された画像等である。この距離画像において、各画素は、距離画像の左右方向における「画素位置X」と、距離画像の上下方向における「画素位置Y」と、当該画素に対応する被写体と距離画像収集部12との「距離Z」とを対応付けた3次元の値を有する。以下では、距離画像座標系の座標の値を、この3次元の値(X,Y,Z)で表記する。
[0018] 第1の実施形態において、動作情報生成部14は、様々な姿勢に対応する人体パターンを、例えば、学習により予め記憶している。動作情報生成部14は、距離画像収集部12によって距離画像情報が生成されるごとに、生成された各フレームの距離画像情報を取得する。そして、動作情報生成部14は、取得した各フレームの距離画像情報に対して人体パターンを用いたパターンマッチングを行う。
[0019] ここで、人体パターンについて説明する。図2Bには、人体パターンの一例を示す。第1の実施形態において、人体パターンは、距離画像情報とのパターンマッチングに用いられるパターンであるので、距離画像座標系で表現され、また、距離画像に描出される人物と同様、人体の表面の情報(以下、「人体表面」と呼ぶ)を有する。例えば、人体表面は、その人物の皮膚や衣服の表面に対応する。更に、人体パターンは、図2Bに示すように、人体の骨格を形成する各関節の情報を有する。すなわち、人体パターンにおいて、人体表面と各関節との相対的な位置関係は既知である。
[0020] 図2Bに示す例では、人体パターンは、関節2aから関節2tまでの20点の関節の情報を有する。このうち、関節2aは、頭部に対応し、関節2bは、両肩の中央部に対応し、関節2cは、腰に対応し、関節2dは、臀部の中央部に対応する。また、関節2eは、右肩に対応し、関節2fは、右肘に対応し、関節2gは、右手首に対応し、関節2hは、右手に対応する。また、関節2iは、左肩に対応し、関節2jは、左肘に対応し、関節2kは、左手首に対応し、関節2lは、左手に対応する。また、関節2mは、右臀部に対応し、関節2nは、右膝に対応し、関節2oは、右足首に対応し、関節2pは、右足の足根に対応する。また、関節2qは、左臀部に対応し、関節2rは、左膝に対応し、関節2sは、左足首に対応し、関節2tは、左足の足根に対応する。」
[0021] なお、図2Bでは、人体パターンが20点の関節の情報を有する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、関節の位置及び数は操作者が任意に設定して良い。例えば、四肢の動きの変化のみを捉える場合には、関節2aから関節2dまでのうち、関節2b及び関節2cの情報は取得しなくても良い。また、右手の動きの変化を詳細に捉える場合には、関節2hのみならず、右手の指の関節を新たに設定して良い。なお、図2Bの関節2a、関節2h、関節2l、関節2p、関節2tは、骨の末端部分であるためいわゆる関節とは異なるが、骨の位置及び向きを表す重要な点であるため、説明の便宜上、ここでは関節として説明する。
・・・
[0036] 図1の説明に戻る。動作情報処理装置100は、動作情報収集部10から出力される動作情報を用いて、リハビリテーションを支援するための処理を行う。具体的には、動作情報処理装置100は、動作情報収集部10によって収集された歩行訓練を行う対象者の動作情報を用いて、歩行状況を評価しやすい表示情報を生成して表示する。また、動作情報処理装置100は、動作情報収集部10によって収集された歩行訓練を行う対象者の動作情報を解析する。
[0037] 上述したように、従来、リハビリテーションの機能訓練の一つとして、歩行訓練が行われている。歩行訓練においては、対象者によって実行された歩行を医師や理学療法士などが観察して、当該対象者の歩行状況が評価される。例えば、歩行訓練においては、足の運びや、上半身のぶれ、歩く速度、歩幅、歩隔などの種々の歩行状況が評価される。ここで、従来においては、医師や理学療法士ごとにこれらの歩行状況の評価にブレが生じる場合があった。そこで、本実施形態に係る動作情報処理装置100は、歩行状況を評価しやすい表示情報を提供することで、歩行状況の評価のブレを抑制することを可能にするように構成される。また、本実施形態に係る動作情報処理装置100は、対象者の歩行における足の着地点を含む歩行状態を解析することで、歩行状況の評価を容易にすることを可能にするように構成される。
[0038] 例えば、動作情報処理装置100は、コンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置であり、図1に示すように、出力部110と、入力部120と、記憶部130と、制御部140とを有する。
・・・
[0056] 次に、動作情報処理装置100の制御部140の詳細について説明する。図4に示すように、動作情報処理装置100においては、例えば、制御部140が取得部1401と、解析部1402と、生成部1403と、表示制御部1404とを備える。
[0057] 取得部1401は、歩行訓練を実行する対象者の動作情報を取得する。具体的には、取得部1401は、動作情報収集部10によって収集され、動作情報記憶部1301によって記憶された動作情報を取得する。例えば、取得部1401は、後述する解析部1402による解析内容に応じて、動作情報記憶部1301によってフレームごとに記憶されたカラー画像情報、距離画像情報、音声認識結果及び骨格情報のうち少なくとも一つを取得する。
[0058] 一例を挙げると、後述する解析部1402によって足の着地点、角度、速度などが解析される場合に、取得部1401は、対象者の歩行訓練における一連の歩行動作にかかる全てのカラー画像情報、距離画像情報及び骨格情報を取得する。
[0059] 解析部1402は、取得部1401によって取得された歩行動作を実行する対象者の動作情報を用いて、種々の解析を実行する。具体的には、解析部1402は、取得部1401によって取得されたカラー画像情報、距離画像情報、音声認識結果及び骨格情報などの動作情報を用いて、対象者の歩行時の足の着地点、角度、速度、加速度、歩数、歩幅、重複歩行距離、歩隔、歩行率などの解析情報を算出して、算出した解析結果を解析情報記憶部1302に格納する。
[0060] まず、足の着地点を解析する場合について説明する。図7A及び図7Bは、第1の実施形態に係る解析部1402による足の着地点の解析の一例を説明するための図である。図7A及び図7Bにおいては、動作情報収集部10によって収集された動作情報における骨格情報を用いて、対象者の足の着地点を算出する場合について示す。図7Aは、動作情報収集部10によって収集された1フレームの骨格情報について模式的に示す。また、図7Bは、足の着地点の算出の一例を示す。
・・・
[0069] また、上述したように、解析部1402は、足が着地したことを判定するだけではなく、足が浮いていることを判定することもできる。例えば、解析部1402は、z座標の単位時間当たりの値の変化が所定の閾値を超えている場合に、足が浮いていると判定する。また、例えば、解析部1402は、y座標の値が所定の閾値を超えている場合に、足が浮いていると判定する。また、例えば、解析部1402は、x座標の値が小刻みに変化している場合に、足が浮いていると判定する。そして、解析部1402は、浮いていると判定した足とは反対側の足が地面に着いていると判定する。例えば、解析部1402は、歩行中に右足が浮いていれば、左足は着地していると判定できる。また、予め地面の座標をシステムにインプットしておくことで、解析部1402は、足が地面の座標に近くなった場合に、着地していると判定することも可能である。
・・・
[0096] ここで、例えば、生成部1403は、図10Cに示すように、体がブレたときや、バランスを崩したときなどの足跡を強調した軌跡情報を生成することも可能である。例えば、生成部1403は、図10Cに示すように、5歩目の足跡を強調した軌跡情報を生成することも可能である。」

(1b)「[0300] (第5の実施形態)
次に、第5の実施形態に係る動作情報処理装置100bの構成について説明する。第5の実施形態に係る動作情報処理装置100bは、第1の実施形態にて説明した構成(図1に示す構成)のもと、以下、詳細に説明する構成により、臨床上有用な歩行解析を行うことを可能にする。以下では、歩行動作を行う対象者が、部屋の奥から手前に向かって歩く場合を例示して説明する。なお、実施形態は、これに限らず、例えば、部屋の手前から奥に向かって歩く場合にも適用することができる。
・・・
[0302] 深度画像情報記憶部1306は、動作情報収集部10によって生成された深度画像情報を記憶する。例えば、深度画像情報記憶部1306は、動作情報収集部10によって生成された深度画像情報を、フレームごとに記憶する。なお、上述したように、1フレームの深度画像情報は、撮影時刻情報と、撮影範囲に含まれる各画素の位置情報と、各画素の深度とが対応付けられた情報である。また、上述したように、深度画像情報は、距離画像情報の各画素に対応付けられた距離情報に代えて深度情報を対応付けたものであり、距離画像情報と同様の距離画像座標系で各画素位置を表すことができる。また、深度画像情報は、動作情報収集部10によって生成されるごとに深度画像情報記憶部1306に格納される。
・・・
[0316] 図34に示すように、抽出部1409は、取得部1408によってフレームTの深度画像90が取得されると、フレームTの深度画像90の深度からフレームT-1の深度画像90の深度を画素ごとに減算する。そして、抽出部1409は、減算した値が閾値以上である画素を白とし、閾値未満である画素を黒とする2値化を行うことで、フレームTの2値化画像92を生成する。この2値化画像92において、黒い画素の領域は、フレームT-1からフレームTの間に深度方向に閾値より動きのないもの、例えば、床面や壁、机、椅子等の物体の位置を表す。また、白い画素の領域は、フレームT-1からフレームTの間に深度方向に閾値以上に動きのあるもの、例えば、撮影された人物(被写体)の位置を表す。すなわち、抽出部1409は、動きのないものと動きのあるものとをそれぞれ識別することで、歩行動作を行う対象者の位置を表す被写体領域93を抽出する。なお、図34では、動きのあるものを抽出するために、隣り合う2つのフレーム(フレームT及びフレームT-1)の深度画像情報の差分を算出する場合を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、フレームT及びフレームT-t(tは1以上の整数)の深度画像情報の差分を算出しても良い。具体例を挙げると、抽出部1409は、取得部1408によってフレームTの深度画像90の深度からフレームT-2の深度画像90の深度を画素ごとに減算し、減算した値が閾値以上か否かに基づいて、2値化を行うことで、動きのあるものを抽出しても良い。 [0317] また、抽出部1409は、生成した2値化画像92からノイズを除去するノイズ除去処理を行う。」

b 引用発明
引用文献1には、上記aで摘記した「第1の実施形態」(特に下線参照)から、以下の発明が記載されていると認められる。なお、「人物」及び「対象者」は同じ意味であるから、「対象者」に統一して記載した。
「動作情報処理装置100において、動作情報収集部10によって収集された歩行訓練を行う対象者の動作情報を解析する方法であって、
動作情報処理装置100は、コンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置であり、取得部1401、解析部1402、生成部1403を備え、動作情報収集部10に接続され、
動作情報収集部10は、Kinect(登録商標)が用いられ、距離画像収集部12、動作情報生成部14を有し、
動作情報生成部14は、対象者の動作(ジェスチャー)を複数の姿勢(ポーズ)の連続として捉えることにより生成され、距離画像収集部12によって生成される距離画像情報から、人体の骨格を形成する各関節の座標を得るものであり、
距離画像において、各画素は、距離画像の左右方向における画素位置Xと、距離画像の上下方向における画素位置Yと、当該画素に対応する被写体と距離画像収集部12との距離Zとを対応付けた3次元の値を有し、
上記関節には、右足首に対応する関節2o、左足首に対応する関節2sがあり
取得部1401は、距離画像情報、骨格情報を取得し、
解析部1402は、取得部1401によって取得された距離画像情報、骨格情報などの動作情報を用いて、対象者の歩行時の足の着地点、角度、速度、加速度、歩数、歩幅、重複歩行距離、歩隔、歩行率などの解析情報を算出し、
生成部1403は、体がブレたときや、バランスを崩したときなどの足跡を強調した軌跡情報を生成する、
種々の解析を実行する方法。」

(イ)引用文献2について
本願の優先日前に頒布され、原査定の理由2で引用された上記引用文献2(タイトル:「Single Limb Stance Times: A Descriptive Meta-Analysis of Data From Individuals at Least 60 Years of Age」)には、以下の事項が記載されている。なお、文献番号を示す添え字は省略した。
「TESTS AND MEASURES ofbalance are a fundamental component of clinicians’ examination of patients with a varietyof diseases and disorders. Although there are numerous options for quantifyingstanding balance, the time an individual can stand on one lower limb (ie,single limb stance [SLS] or unipedal balance) has been used widely, eitheralone or as part of a larger test battery. Wolfson et al described SLS time as “oneof the most challenging gauges of stability while standing on a narrow area ofsupport” and averred it to be “themost frequently used measure of balance in physical training studies involvingolder adults.”」(70頁左欄1?15行)
(当審訳:バランスのテスト、測定は、様々な病気、身体障害を持つ患者の医学的検査の基本的な要素である。立っている際のバランスを定量化する多くの選択があるが、個人が一本の下肢で立つことができる時間(すなわち片脚立脚期間、又はユニペダル(1つの足)バランス)が、それ単独あるいは組み合わせたテストとして、広く使われてきた。ウオルソン等は、SLS期間について、狭い支持エリアで立っている際の安定性を計る最も有力な測定手段の1つであるとし、老人を含む人たちの身体的な訓練の研究においてバランスを測る最も頻繁に使われる測定手段であると断言している。)

イ 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「Kinect(登録商標)」は、本願発明の「3Dモーションセンサ」に相当する。そして、引用発明の「Kinect(登録商標)」の「距離画像収集部12によって生成される距離画像情報から、人体の骨格を形成する各関節の座標を得る」ことは、本願発明の「3Dモーションセンサを用いて前記人間の骨格データを取得するステップ」に相当する。

(イ)引用発明の「距離画像の左右方向における画素位置Xと、距離画像の上下方向における画素位置Y」を含む「距離画像情報」において「人体の骨格を形成する各関節の座標」から「対象者の歩行時の」「右足首に対応する関節2o、左足首に対応する関節2s」である「関節の座標を得る」ことは、本願発明の「取得された前記骨格データから、x面及びy面における前記人間の足首座標を追跡するステップ」に相当する。

(ウ)引用発明の「対象者の歩行時の」「右足首に対応する関節2o、左足首に対応する関節2s」である「関節の座標を得る」「距離画像情報、骨格情報などの動作情報を用いて、対象者の歩行時の足の着地点、角度、速度、加速度、歩数、歩幅、重複歩行距離、歩隔、歩行率などの解析情報を算出」することは、本願発明の「前記人間の追跡された前記足首座標から」「複数の歩容パラメータ」を「導出」すること(ステップ)に相当する。

(エ)引用発明の「動作情報処理装置100は、コンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置」であるから、引用発明の「方法」(ステップ)は、本願発明の「プロセッサにより実装されたステップを備える方法」に相当する。
また、引用発明の「対象者の動作(ジェスチャー)を複数の姿勢(ポーズ)の連続として捉える」「対象者の動作情報を解析する方法」と本願発明の「人間の姿勢バランスを解析する方法」とは、「人間の姿勢を解析する方法」で共通する。

(オ)そうすると、本願発明と引用発明とは、
「人間の姿勢を解析する方法であって、前記方法は、
3Dモーションセンサを用いて前記人間の骨格データを取得するステップと、
取得された前記骨格データから、x面及びy面における前記人間の足首座標を追跡するステップと、
前記人間の追跡された前記足首座標から複数の歩容パラメータを導出するステップと、
のプロセッサにより実装されたステップを備える
方法。」
の点で一致し、以下の点で相違するといえる。

(相違点1)
本願発明は、「ノイズクリーニングモジュールを用いて、取得された前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ」があるのに対し、引用発明では、そのようなステップがない点。

(相違点2)
本願発明は、「人間の静的片脚立脚(static single limb stance(SLS))期間を測定するステップであって、前記SLS期間は、前記人間の前記姿勢バランスを示す、ステップ」があるのに対し、引用発明では、そのようなステップがない点。

(相違点3)
人間の姿勢を解析することが、本願発明では、「人間の姿勢バランスを解析」するのに対し、引用発明では「バランス」までは解析していない点。

(相違点4)
本願発明は、歩容パラメータに基づいて「人間の前記姿勢バランスを推定する」ステップがあるのに対して、引用発明は、算出した対象者の歩行時の足の着地点、角度、速度、加速度、歩数、歩幅、重複歩行距離、歩隔、歩行率などの解析情報を算出し、体がブレたときや、バランスを崩したときなどの足跡を強調した軌跡情報を生成しているものの、「姿勢バランスを推定」するものか明らかでない点。

ウ 判断
(ア)相違点の判断
a 相違点1について
引用文献1の(第5の実施形態)(特に下線部参照)には、(第1の実施形態)と同じ装置構成を用いて、深度画像情報を得て、それから2値化画像を生成する際に、ノイズを除去するノイズ除去処理を行うことが記載されている。ここで(第5の実施形態)には「深度画像情報は、距離画像情報の各画素に対応付けられた距離情報に代えて深度情報を対応付けたものであり、距離画像情報と同様の距離画像座標系で各画素位置を表すことができるものである。」と記載されている。
そうすると、距離画像情報を用いている(第1の実施形態)においても、ノイズの入る余地はあるといえることから、ノイズ除去処理を行う、すなわち「ノイズクリーニングモジュールを用いて、取得された前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ」を行うことは当業者が容易になし得たことである。

b 相違点2
上記引用文献2のSLS期間は、狭い支持エリアで立たせるものであるから、「静的」なものであり、そして、引用文献2に記載されている、立っている際のバランス、身体的なバランスは、「姿勢バランス」であるといえる。してみると、引用文献2には、人間の静的片脚立脚(static single limb stance(SLS))期間が、人間の姿勢バランスを示すことが記載されている。
引用発明は「歩行訓練を行う対象者の動作情報を解析する方法」であり、引用文献1の摘記(1a)の[0009]に記載されているとおり、その対象者は、引用文献2と同様に様々な病気、身体障害を持つ患者であるから、対象者の動作情報の解析として、SLS期間の測定による姿勢バランスを加えること、すなわち「人間の前記姿勢バランスを示す」「静的片脚立脚(static single limb stance(SLS))期間を測定するステップ」を追加することは当業者が容易になし得たことである。

c 相違点3について
相違点2の「静的片脚立脚(static single limb stance(SLS))期間を測定するステップ」を追加し「姿勢バランス」を解析することになると、引用発明は、本願発明と同様に人間の姿勢「バランス」を解析する方法となる。

d 相違点4について
相違点4は、上記(1)で判断したように、新規事項の追加に該当する発明特定事項あるが、検討すると以下のとおりである。
引用発明の「生成部1403」は「体がブレたときや、バランスを崩したときなどの足跡を強調した軌跡情報を生成する」ものであり、それは「解析部1402」が「算出」した「対象者の歩行時の足の着地点、角度、速度、加速度、歩数、歩幅、重複歩行距離、歩隔、歩行率などの解析情報」により「生成」するものであるから、これらの解析情報に基づいて「姿勢バランスを推定」することは当業者が容易になし得たことであるといえる。

(イ)効果について
本願発明の効果は、引用文献1又は2の記載事項から、格別顕著なものとはいえない。

(ウ)請求人の主張について
審判請求書における、請求人の主張は、上記第2の1(2)で記載した補正発明が、引用文献1に教示、提案又は開示されていないという主張であり、本願発明に基づく主張ではないことから、受け入れられない。

エ 小括
よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項から、当業者が容易に発明できたものである。

第4 むすび
以上のとおり、平成30年8月13日付け手続補正書でした補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、そして、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について特許法第29条第2項の規定に対する検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-05-26 
結審通知日 2020-06-02 
審決日 2020-06-15 
出願番号 特願2017-22867(P2017-22867)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 572- Z (A61B)
P 1 8・ 55- Z (A61B)
P 1 8・ 536- Z (A61B)
P 1 8・ 537- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋行清水 裕勝  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 三崎 仁
松谷 洋平
発明の名称 人間の歩容及び姿勢バランスを解析するシステム及び方法  
代理人 齋藤 拓也  
代理人 林 一好  
代理人 岩池 満  
代理人 小菅 一弘  
代理人 芝 哲央  

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