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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1367781
審判番号 不服2019-15848  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-26 
確定日 2020-11-05 
事件の表示 特願2015- 3792「誘導加熱調理器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月21日出願公開、特開2016-131062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月13日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年5月11日:拒絶理由通知書
平成30年7月13日:意見書および手続補正書
平成30年12月27日:拒絶理由通知書
平成31年3月8日:意見書および手続補正書
令和1年8月22日:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和1年11月26日:審判請求書

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成31年3月8日提出の手続補正書に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「本体と、該本体に設置され、被調理鍋が載置されるトッププレートと、該トッププレートの下方に設置される加熱コイルと、該加熱コイルに電流を流すための電子部品が実装される基板と、前記加熱コイル及び前記電子部品を冷却するファン装置と、を備え、
前記トッププレートをホウケイ酸ガラスで構成し、前記加熱コイルがアルミを基材としたリッツ線を巻いて構成されることを特徴とする誘導加熱調理器。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
この出願の請求項1ないし4に係る発明は、下記の引用例1-8に記載された発明および周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1.特開2011-029104号公報
引用例2.国際公開第2014/068242号
引用例3.特開2004-192980号公報(周知技術を示す文献)
引用例4.特開昭49-064042号公報(周知技術を示す文献)
引用例5.特開2008-039195号公報(周知技術を示す文献)
引用例6.特開2006-286499号公報(周知技術を示す文献)
引用例7.特開2012-195059号公報
引用例8.特開2009-295454号公報
引用例9.特開2005-322561号公報

第4 引用例
1.引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2011-29104号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)引用例1の記載
1a)「【0049】
(実施の形態1)図1は、(a)本発明の第1の実施の形態における誘導加熱調理器の断面図(b)本発明の第1の実施の形態における誘導加熱調理器の平面図、図2は(a)本発明の第1の実施の形態における誘導加熱調理器の加熱コイルのA-A断面図(b)本発明の第1の実施の形態における誘導加熱調理器の加熱コイルの平面図を示すものである。
【0050】
図1において、厨房装置のキャビネット(以下、キッチンカウンターという)9の天板20には開口部10が設けられ、誘導加熱調理器の外郭12の一部を構成する収容部8が挿入されている。
【0051】
誘導加熱調理器の外郭12の上部は、耐熱性ガラスなどの非金属で構成された平坦なプレート1で覆われている。外郭12は、プレート1とキッチンカウンター9の天板20間に載置されるフランジ6と、フランジ6の下部に配置される収容部8から構成される。」

1b)「【0053】
外郭12内には、プレート1の裏面から約5mm程度の空間を介してプレート1上に配設される鍋などを誘導加熱するための巻線25(図2)とフランジ側に高周波磁界が向かうのを抑制するための防磁用防磁体27とを備えた左部加熱コイル2と右部加熱コイル3が配置され、それぞれの加熱コイルは外径の少なくも一部が、フランジ6とプレート1の間に形成された加熱コイル収容空間13内に位置するように配置される。」

1c)「【0055】
また、加熱コイル2、3を加熱コイル収容空間13内に配置する際には、前記加熱コイル2、3の一部の下面とフランジ6との間には防磁材7を配置する。外郭12の収容部8内で、左部加熱コイル2の下方には、電気ヒータを用いて焼き魚などの調理を行うロースタ5が配置され、右部加熱コイル3の下方には左部加熱コイル2及び右部加熱コイル3に高周波電力を供給するインバータ装置4が配置される。」

1d)「【0060】
この冷却については、収容部8内のインバータ装置4を冷却するファンを設けているので、この冷却風を防磁材7に当てれば、加熱コイル収容空間13内の加熱コイル2、3の一部分も効率よく冷却できることになる。」

1e)「【0064】
次に、加熱コイル2、3の詳細について図2より説明する。図2に示すように、ドーナツ状の巻線25は電気絶縁材料で構成された支持板26上に固定される。巻線25は電気抵抗が小さく熱伝導率のよい銅線あるいはアルミニウム線の表面を絶縁材料で被覆した素線を複数線毎束ねた集合線とし、この束ねた集合線を巻回してドーナツ状に形成されている。」

1f)「【0078】
誘導加熱調理器の使用者は、プレート1上の定められた位置(外郭12内の加熱コイル2、3との磁気的な結合が強い加熱コイル直上の位置)に鍋などの被加熱物を載置し、加熱コイル2、3にインバータ装置4より高周波電流を供給する加熱指示することで、被加熱物を誘導加熱する。」

1g)「【0093】
この冷却風は収容部8内に配された冷却ファン(図示せず)で収容部8内のインバータ装置(スイッチング素子などの発熱部品を含む)4を強制冷却する冷却風を発生させている。
【0094】
このインバータ装置4を強制冷却した後の冷却風、あるいは冷却ファンからの冷却風の一部を分岐して加熱コイル2、3は冷却されるが、上述したとおり加熱コイル収容空間13内は高さ寸法が小さく、前後左右方向に広くなるので、その加熱コイル収容空間13内の通風抵抗は大きく、収容部8内からの冷却風は届きにくくなる。」

1h)「【図1】



1i)「【図2】



(2)引用発明
上記(1)及び図面から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「外郭12と、前記外郭12の上部を覆う耐熱性ガラスなどの非金属で構成された平坦なプレート1と、プレート1の裏面から約5mm程度の空間を介してプレート1上に配設される鍋などを誘導加熱するための巻線25とフランジ側に高周波磁界が向かうのを抑制するための防磁用防磁体27とを備えた左部加熱コイル2と右部加熱コイル3と、左部加熱コイル2及び右部加熱コイル3に高周波電力を供給するインバータ装置4と、収容部8内のインバータ装置4を冷却する冷却ファンとを備え、前記冷却ファンからの冷却風の一部を分岐して加熱コイル2、3は冷却され、前記加熱コイル2、3の巻線25は、アルミニウム線の表面を絶縁材料で被覆した素線を複数線毎束ねた集合線とし、この束ねた集合線を巻回してドーナツ状に形成されている誘導加熱調理器。」

2.引用例2
原査定の拒絶の理由に周知例として引用され、本願の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2014/068242号(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

2a)「

(第2頁第6-22行)」
(当審注:「括弧」内は、翻訳である。また、下線は参考のため当審で付与したものであり、「・・・」は、文の省略を意味する。以下同様である。
誘導調理機器はまた、ディスプレイ手段、例えば発光ダイオード(LED)を使用する手段を組み込んでいる。多年にわたりこの用途のために使用されるLEDは多くの場合赤色であったが、現在では、青色、緑色又は白色光を発するLED、あるいはより一般的に言えばディスプレイ手段を使用することが提案されている。この場合、プレートを通して見られるこれらの発光デバイスの色の表示が重要な課題となっている。
本発明の1つの目的は、現在市場で入手可能な暗色のガラスセラミックの色相と同様の色相を有する誘導調理機器のためのガラスプレートを提供し、それにより機器の内部エレメントを視界から隠すのを可能にすることである。さらに、本発明の別の目的は、ディスプレイ、特に白色ディスプレイが、大きな色ずれなしに正しく表示するのを保証することである。)

2b)「

(第4頁第26行-第6頁第6行)」
(本発明によるプレートのガラスは、下記の6つの特性のうちの少なくとも1つを任意の可能な組み合わせで有することが好ましい。
1. ガラスのヤング率(Pa)と線熱膨張係数(K^(-1))との積E・α が0.1MPa・K^(-1)と0.8MPa・K^(-1)の間、特に0.2MPa・K^(-1)と0.5MPa・K^(-1)の間であり、とりわけ0.2MPa・K^(-1)と0.4MPa・K^(-1)の間である。積E・αが小さすぎると熱テンパー処理が難しくなるのに対して、積E・αが大きすぎると耐熱衝撃性が低くなる。
2. ガラスの歪点が少なくとも500℃、特に600℃、場合によっては630℃である。この温度は好ましくは最高でも800℃以下、特に700℃以下である。歪点は、ガラスの粘度が10^(14. 5)ポアズ(1ポアズ= 0.1Pa・s)である温度に相当する。高い歪点は、調理機器の操作中にガラスの強化が損なわれるのを防止することを可能にする。
3. ガラスの線熱膨張係数は最大で50×10^(-7)/Kであり、特に30×10^(-7)/Kと45×10^(-7)/Kの間、場合によっては32(又は35)×10^(-7)/Kと45×10^(-7)/Kの間である。熱膨張係数が大きいと、申し分のない耐熱衝撃性が得られなくなる。反対に、熱膨張係数が小さすぎると、ガラスを充分に強化することが難しくなる。
4. 強化前のガラスのc/a比は最大で2 .8、特に2.7又は2.5であり、場合によっては0.5又は0.2又は0.1である。この比はゼロであるのが一層好ましい。驚くべきことに、この特性は、ガラスが強化される前に測定されるという事実にもかかわらず、本発明による調理機器を実際に使用する際のプレートの強度に決定的な影響をもたらすことになる。
5. ガラスのσ/(e・E・α)比は少なくとも20、特に30K・mm^(-1)である。σ/(e・E・α)比は通常、最大で200K・mm^(-1)、場合によっては100 K・mm^(-1)である。この特性は、調理機器使用中にプレートが破断するリスクを防止するのに大きな影響をもたらすことが観察されている。
6. 強化によってガラスのバルクに生じる最大応力は好ましくは少なくとも20MPa、特に25又は30MPa、そして場合によっては40MPaである。)

2c)「

(第10頁第6-7行)」
(第2の好ましい実施形態によれば、ガラスの組成はホウケイ酸塩タイプである。)

2d)「

・・・.(請求項1)」
(1. 誘導調理機器のための強化ガラス製のプレートであって、その化学組成が下記の着色剤を下記に規定される重量による範囲内で変動する含有量で含む、誘導調理機器のための強化ガラス製のプレート。・・・)

2e)「

(請求項2)」
(2.前記ガラスの線熱膨張係数が最大で50×10^(-7)/Kであり、特に30×10^(-7)/Kと45×10^(-7)/Kの間に含まれる、請求項1に記載のガラスプレート。)

2f)「

(請求項3)」
(3.前記ガラスの化学組成がリチウムアルミノケイ酸塩タイプ、ホウケイ酸塩タイプ、又はアルミノホウケイ酸塩タイプのものである、請求項1又は2に記載のガラスプレート。)

3.引用例3
原査定の拒絶の理由に周知例として引用され、本願の出願日前に頒布された特開昭49-64042号公報(以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。

3a)「この発明はこのような誘導加熱調理器用上板(3)としてガラス、結晶化ガラス又はセラミックスを用いることにより、熱変形をできるだけ小さくし、かつ、熱応力を小さくして、調理の際、熱が発生しても調理器の性能を低下させず、かつ、振動・騒音の小さい安全な構造を備えた誘導加熱式調理器を提供するものである。(第2ページ右上欄第6-12行)」

3b)「この発明の装置の上板としては、第1にガラス、特に強化処理を施したガラスが用いられる。例えば強化処理を施したホウケイ酸ガラスがそれであり、パイレックスガラス(商標名、コーニング社製)として知られているものがその一例である。(第2ページ右上欄第20行-左下欄第5行)」

4.引用例4
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された特開2012-195059号公報(以下「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。

4a)「【0054】
(実施の形態1)図1は、本発明の第1の実施の形態における加熱コイルとそれを使用した誘導加熱調理器の要部断面図、図2は本発明の第1の実施の形態における加熱コイルとそれを使用した誘導加熱調理器の加熱コイルの要部拡大断面図、図3は本発明の第1の実施の形態における加熱コイルとそれを使用した誘導加熱調理器の加熱コイルの要部拡大断面図である。」

4b)「【0059】
また、加熱コイル34は、図2に示すように、耐熱樹脂性のコイルベース38上に載置されており、加熱コイル34を形成する素線は、図3に示すように、中心がアルミ39aで周囲が薄い層の銅39bで形成された複数の細い銅クラッドアルミ導線39からなり、それぞれの外周に耐熱ワニス等によって絶縁処理39cを施し、撚り合わせたものをうず巻状に巻回して形成してある。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「外郭12」、「前記外郭12の上部を覆う耐熱性ガラスなどの非金属で構成された平坦なプレート1」、「プレート1の裏面から約5mm程度の空間を介してプレート1上に配設される鍋などを誘導加熱するための巻線25と・・・防磁用防磁体27とを備えた左部加熱コイル2と右部加熱コイル3」は、それぞれ本願発明の「本体」、「該本体に設置され、被調理鍋が載置されるトッププレート」、「該トッププレートの下方に設置される加熱コイル」に相当する。
引用発明において、左部加熱コイル2及び右部加熱コイル3に高周波電力を供給するインバータ装置4を有しているが、当該インバータ装置4が、電子部品と当該部品を実装するための基板を有しているのは自明である。よって、引用発明の「左部加熱コイル2及び右部加熱コイル3に高周波電力を供給するインバータ装置4」は、本願発明の「加熱コイルに電流を流すための電子部品が実装される基板」に相当する。
引用発明の「収容部8内のインバータ装置4を冷却する冷却ファン」は前記冷却ファンからの冷却風の一部を分岐して加熱コイル2、3の冷却にも供していることから、本願発明の「前記加熱コイル及び前記電子部品を冷却するファン装置」に相当する。
引用発明の加熱コイル2、3は、その巻線25をアルミニウム線の表面を絶縁材料で被覆した素線を複数線毎束ねた集合線で形成していることから、本願発明の「前記加熱コイルがアルミを基材とした」「線を巻いて構成される」ことに相当する。

よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「本体と、該本体に設置され、被調理鍋が載置されるトッププレートと、該トッププレートの下方に設置される加熱コイルと、該加熱コイルに電流を流すための電子部品が実装される基板と、前記加熱コイル及び前記電子部品を冷却するファン装置と、を備え、
前記加熱コイルがアルミを基材とした線を巻いて構成されることを特徴とする誘導加熱調理器。」

[相違点1]
本願発明のトッププレートは、ホウケイ酸ガラスで構成されているのに対し、引用発明のトッププレートは、耐熱ガラスではあるものの、当該耐熱ガラスとしてホウケイ酸ガラスが用いられているか不明な点。

[相違点2]
本願発明の加熱コイルは、リッツ線(撚り線)を用いているが、引用発明の加熱コイルの集合線は撚り線を用いているか不明な点。

第6 判断
1.相違点1について
引用発明はトッププレートに耐熱ガラスを用いるものである。
トッププレートとして用いる耐熱ガラスとしては、引用例2の上記第4 2.2c)ないし2f)や引用例3の上記第4 3.3a)及び3b)には、誘導加熱調理器のトッププレートにホウケイ酸ガラスを用いることが選択肢として記載されており、さらに引用例2の上記第4 2.2b)及び2c)には、耐熱衝撃性を考慮しながらトッププレートに用いる材質を選定する必要があることが言及されている。つまり、トッププレートの耐熱衝撃性を確保する上でホウケイ酸ガラスが有力な選択肢となることを示唆しているといえる。
また、ホウケイ酸ガラスを誘導加熱調理器のトッププレートとして用いる点は、上記引用例2および3以外にも、例えば特開2004-193050号公報にも記載がある。当該公報の段落【0032】-【0033】には、調理器用トッププレートとして透明低膨張ガラスを用いること、当該透明低膨張ガラス板は耐熱衝撃性が高い低膨張ガラスであれば使用可能と記載されており、ホウケイ酸ガラスがその一つとして挙げられている。当該公報も、トッププレートの耐熱衝撃性を確保する上でホウケイ酸ガラスが有力な選択肢となることを明らかにしているといえる。
以上を総合すると、トッププレートに用いる耐熱ガラスとして、耐熱衝撃性を確保するためにホウケイ酸ガラスを採用することは本願出願前周知の技術的事項であったと認められる。
そして、引用発明においても、トッププレートに用いる耐熱ガラスに耐熱衝撃性が求められるのは明らかであり、当該課題解決のためにホウケイ酸ガラスを採用することは、当業者にとって何ら困難性なくなしえることである。
よって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明及び本願出願前周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

2.相違点2について
引用例4の上記第4 4.4a)及び4b)には、誘導加熱調理器の加熱コイルに銅クラッドアルミ線を撚り合わせたものを用いる技術的事項が記載されており、銅クラッドアルミ線を撚り合わせたもの(リッツ線)を加熱コイルに用いることは本願出願前周知の技術的事項であったと認められる。
引用発明においてはアルミを用いた集合線を用いており、当該集合線を巻線にするにあたり、上記周知の技術的事項に倣って、当該集合線を撚り合わせてリッツ線とすることに何ら技術的困難性はない。
よって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明及び本願出願前周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

3.効果
本願発明の効果も、引用発明及び本願出願前周知の技術的事項から予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

審判請求人は、特に相違点1に関連して、「引用文献2、3および4は、トッププレートとしてホウケイ酸ガラスを用いることは開示されていますが、トッププレートの耐熱衝撃性についての記載はありません。
・・・(中略)・・・
拒絶査定で請求項1について審査官殿は「耐熱性等という課題を考慮するだけでも、耐熱性を考慮してトッププレートとしてホウケイ酸ガラスを用いる技術が周知である以上、引用文献1に記載の発明の「プレート1(トッププレート)」にホウケイ酸ガラスを選択することは、公知材料の中からの最適材料の選択にすぎないと言わざるを得ない。」とご指摘されています。
しかしながら、耐熱性とはどの温度まで耐えられるかを示す指標であり、一方耐熱衝撃性とは急激な温度変化にどこまで耐えられるかを示す指標であります。つまり、耐熱性と耐熱衝撃性とは異なる指標です。いずれの引用文献にも耐熱衝撃性は記載されていないことから、トッププレートの上面と下面との間に急激な温度差が生じてしまうという課題を解決する手段について記載も示唆もありません。
よって、審査官殿のご指摘の通り、耐熱性に着目して引用文献1に記載の発明のトッププレートにホウケイ酸ガラスを選択したとしても、引用文献1に記載されている加熱コイルの線として銅線およびアルミニウム線を同列に扱っていることから、上述の課題を解決するために銅線ではなくアルミニウム線を用いた加熱コイルを採用することには想到しないと思慮いたします。」(令和元年11月26日提出の審判請求書)と主張する。
しかしながら、上記第6 1.で述べたとおり、耐熱衝撃性への言及は引用例2においてなされているし、特開2004-193050号公報にも同様の記載がある。両者とも、誘導加熱調理器のトッププレートとして、ホウケイ酸ガラスを採用することにより耐熱衝撃性が確保できることを示すものであるから、ホウケイ酸ガラスが引用発明の耐熱ガラスとして採用するのに適したものであることは明らかである。
また、ホウケイ酸ガラスの採用によってトッププレートの耐熱衝撃性は既に確保されているから、アルミニウムのリッツ線を用いた加熱コイルと組み合わせた本願発明の作用効果が格別であるとも認められない。よって、上記審判請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び本願出願前周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-08-27 
結審通知日 2020-09-01 
審決日 2020-09-17 
出願番号 特願2015-3792(P2015-3792)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 沼田 規好  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 川上 佳
松下 聡
発明の名称 誘導加熱調理器  
代理人 戸田 裕二  

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