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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1367857 |
審判番号 | 不服2020-1279 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-30 |
確定日 | 2020-11-02 |
事件の表示 | 特願2015-185311「発光装置および照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日出願公開、特開2017- 59755〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は、平成27年9月18日の出願であって、その後の主な手続きの経緯は、以下のとおりである。 平成30年 3月 7日 :出願審査請求書の提出 平成31年 1月15日付け:拒絶理由通知(同年1月17日発送) 同年 3月15日 :意見書・手続補正書の提出 令和元年 6月 6日付け:拒絶理由通知(同年6月11日発送) 同年 8月 9日 :意見書の提出 同年10月31日付け:拒絶査定(同年11月5日送達) 令和2年 1月30日 :審判請求書・手続補正書の提出 第2 令和2年1月30日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年1月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [補正の却下の決定の理由] 1 補正内容 本件補正は、特許請求の範囲及び明細書についてするものであり、特許請求の範囲については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成31年3月15日付け手続補正後のもの)に、 「【請求項1】 基板と、 前記基板の上に設けられた発光素子と、 前記基板の上および前記発光素子の上に設けられ、蛍光体粒子を含む蛍光体層と、 を備え、 前記発光素子から放出される光と蛍光体層から放出される光とを含む混合色において、 相関色温度は、2200K以上、2800K以下であり、発光強度が最大となる波長は、640nm以上、680nm以下であり、平均演色評価数Raは、95以上であり、特殊演色評価数R9は、90以上である発光装置。」とあったものを、 本件補正後に、 「【請求項1】 基板と、 前記基板の上に設けられた発光素子と、 前記基板の上および前記発光素子の上に設けられ、蛍光体粒子を含む蛍光体層と、 を備え、 前記発光素子から放出される光と蛍光体層から放出される光とを含む混合色において、 相関色温度は、2200K以上、2800K以下であり、発光強度が最大となる波長は、640nm以上、680nm以下であり、平均演色評価数Raは、95以上であり、特殊演色評価数R9は、90以上であり、 前記混合色は、特殊演色評価用の試験色R9の色票を照らしたときのL*a*b*表色系のa*値と、b*値と、は、(62,36)、(62,37)、(61,43)、(60,45)、(59,47)、(58,50)、(56,53)、(53,57)、(93,100)、(100,100)、(100,58)の座標で囲まれる領域に存在することを特徴とする発光装置。」と補正する内容を含むものである(なお、下線は、請求人が手続補正書において付したものである。)。 2 補正目的 (1)本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な、 「『相関色温度は、2200K以上、2800K以下であり、発光強度が最大となる波長は、640nm以上、680nm以下であり、平均演色評価数Raは、95以上であり、特殊演色評価数R9は、90以上』の『混合色』」について、 「特殊演色評価用の試験色R9の色票を照らしたときのL*a*b*表色系のa*値と、b*値と、は、(62,36)、(62,37)、(61,43)、(60,45)、(59,47)、(58,50)、(56,53)、(53,57)、(93,100)、(100,100)、(100,58)の座標で囲まれる領域に存在する」と限定するものであって、 その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (2)よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められることから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を、以下に検討する。 3 独立特許要件 (1)本願補正発明 本願補正発明は、上記「第2 1」に、本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。 (2)引用文献 ア 原査定の拒絶の理由において、引用文献1として引用された特開2012-77289号公報(平成24年4月19日公開 以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、以下の記載がある(なお、下線は、当審で付した。以下同様。)。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 波長380nm?470nmの光を発する発光素子と、 前記発光素子上に配置され、下記一般式(1)で表わされる組成を有し、樹脂中に分散された第1の赤色蛍光体と、 前記発光素子上に配置され、下記一般式(2)で表わされる組成を有し、樹脂中に分散された第2の赤色蛍光体と、 前記発光素子上に配置され、下記一般式(3)で表わされる組成を有し、樹脂中に分散された緑色蛍光体と、 を備えることを特徴とする発光装置。 (Ca_(1-x1)Eu_(x1))_(a1)AlSi_(b1)O_(c1)N_(d1):Eu (1) (上記一般式(1)中、……省略……) (Sr_(1-x2)Eu_(x2))_(a2)Si_(b2)AlO_(c2)N_(d2 )(2) (上記一般式(2)中、……省略……) (Sr_(1-x)Eu_(x))_(3-y)Si_(13-z)Al_(3+z)O^(2+u)N_(21-w) (3) (上記一般式(3)中、……省略……) 【請求項2】 前記発光素子が波長440nm?470nmの青色光を発することを特徴とする請求項1記載の発光装置。」 (イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、発光素子と蛍光体を用い、高い演色性を実現する発光装置を提供することにある。」 (ウ)「【0026】 第1の赤色蛍光体は、CASN系の蛍光体である。第1の赤色蛍光体は波長380nm?470nmの青色光で励起した際に、例えば、波長640nm?660nmにピークを有する赤色光を発する。 【0027】 第2の赤色蛍光体は、サイアロン系の蛍光体である。第2の赤色蛍光体は、波長380nm?470nmの青色光で励起した際に、例えば、波長590nm?640nmにピークを有する赤色光を発する。」 【0028】 …… 【0031】 緑色蛍光体は、サイアロン系の蛍光体である。この緑色蛍光体は波長380nm?470nmの青色光で励起した際に、例えば、波長510nm?530nmにピークを有する緑色光を発する。 【0032】 …… 【0035】 本実施の形態によれば、特に、赤色蛍光体として、いわゆるCASN系とサイアロン系の2種の蛍光体を用いることで、白色(4200K)および電球色(2800K)について平均演色評価数Raが95以上の高い演色性が実現される。また、特に特殊演色評価数R9およびR15について高い演色性が実現される。」 (エ)「【0078】 (実施例8) 図7に示した第7の実施の形態の発光装置を製造した。発光素子にInGaN系化合物半導体を活性層とし、青色455nmに発光ピーク波長をもちいたLEDチップ12を用い、8mm角のAlNパッケージ10上に半田を用いて接合し、金ワイヤ14を介して電極に接続した。このLED上にドーム状に透明樹脂18を塗布し、その上に第1の赤色蛍光体として、表3の実施例8の欄に示すCASN系赤色蛍光体を10重量%分散させた平板状の透明樹脂20aを層状に塗布し、その上に、第2の赤色蛍光体として、表2の実施例8の欄に示すサイアロン系赤色蛍光体を30重量%分散させた透明樹脂20bを層状に塗布し重ね、さらに、この上に透明樹脂30を平板状の層で覆い、その上に緑色蛍光体として、表1の実施例8の欄に示すサイアロン系緑色蛍光体を30重量%分散させた平板状の透明樹脂22を層状に塗布、積層し、さらにその上の最外周に透明樹脂層24を層状に塗布し、発光装置を製造した。第1の赤色蛍光体、第2の赤色蛍光体、緑色蛍光体の混合比等は、色温度が電球色(2800K)近傍になるよう設計した。実施例1と同様に発光装置を評価した。結果を表4に示す。」 (オ)表1(緑色蛍光体)は、以下のものである。 (カ)表2(第2の赤色蛍光体 サイアロン系赤色蛍光体)は、以下のものである。 (キ)表3(第1の赤色蛍光体 CASN系赤色蛍光体)は、以下のものである。 (ク)表4は、以下のものである。 (ケ)図7は、以下のものである。 10 基板 12 LEDチップ 14 ワイヤ 16 透明樹脂層 20a 第1の赤色蛍光体層 20b 第2の赤色蛍光体層 22 緑色蛍光体層 24 透明樹脂層 30 透明樹脂層 イ 引用文献に記載された発明 (ア)上記ア(ア)及び(イ)の記載からして、引用文献には、 「波長440nm?470nmの青色光を発する発光素子と、 前記発光素子上に配置され、樹脂中に分散された第1の赤色蛍光体と、 前記発光素子上に配置され、樹脂中に分散された第2の赤色蛍光体と、 前記発光素子上に配置され、樹脂中に分散された緑色蛍光体と、を備えた、 特殊演色評価数R9及びR15について高い演色性を実現した発光装置。」が記載されているものと認められる。 (イ)上記ア(ウ)の記載からして、以下のことが理解できる。 a 第1の赤色蛍光体は、CASN系の蛍光体であること。 b 第2の赤色蛍光体は、サイアロン系の蛍光体であること。 c 緑色蛍光体は、サイアロン系の蛍光体であること。 d 白色(4200K)及び電球色(2800K)について平均演色評価数Raが95以上、特殊演色評価数R9及びR15について高い演色性が実現されること。 (ウ)上記ア(エ)の「実施例8」に関する記載を踏まえて、表1ないし表4及び図7を見ると、実施例8の発光装置は、以下のものであることが理解できる。 a 発光装置は、凹部を有する基板を有すること。 b 発光素子は、ピーク波長が455nmの青色光を発するLEDチップであること。 c 発光素子は、基板の凹部に実装されていること。 d CASN系赤色蛍光体のピーク波長は、652nmであること(平板状の透明樹脂20a)。 e サイアロン系赤色蛍光体のピーク波長は、598nmであること(平板状の透明樹脂20b)。 f サイアロン系緑色蛍光体のピーク波長は、520nmであること(平板状の透明樹脂22)。 g 蛍光体を含有する、各「平板状の透明樹脂」は、凹部の上端で支持されていること。 h 色温度は、電球色(2800K)であること。 i 平均演色評価数Raは、98であること。 j 特殊演色評価数R9は、99であること。 (エ)上記(ア)ないし(ウ)の検討からして、引用文献には、実施例8に関する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されてるものと認められる。 「凹部を有する基板と、 前記凹部に実装されたピーク波長が455nmの青色光を発するLEDチップと、 前記凹部の上端で支持された、ピーク波長が652nmのCASN系赤色蛍光体を含有する平板状の透明樹脂20aと、ピーク波長が598nmのサイアロン系赤色蛍光体を含有する平板状の透明樹脂20bと、ピーク波長が520nmのサイアロン系緑色蛍光体を含有する平板状の透明樹脂22と、を備え、 色温度は電球色(2800K)であり、 平均演色評価数Raは98であり、 特殊演色評価数R9及びR15について高い演色性を実現した発光装置。」 (3) 対比 ア 本願補正発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。 (ア)引用発明の「凹部を有する基板」は、本願補正発明の「基板」に相当する。 以下、同様に、 「凹部に実装された…LEDチップ」は、「基板の上に設けられた発光素子」に、 「凹部の上端で支持された、…平板状の透明樹脂20aと、…平板状の透明樹脂20bと、…サイアロン系緑色蛍光体を含有する平板状の透明樹脂22」は、「基板の上および発光素子の上に設けられ、蛍光体粒子を含む蛍光体層」に、 「色温度」は、「相関色温度」に、 「発光装置」は、「発光装置」に、それぞれ、相当する。 (イ)引用発明の「発光装置」から放出される光の色は、「青色光を発するLEDチップ」から放出される光と「『CASN系赤色蛍光体』、『サイアロン系赤色蛍光体』及び『サイアロン系緑色蛍光体』」から放出される光との混合色になることは、当業者にとって明らかである。 してみると、本願補正発明と引用発明とは、「発光素子から放出される光と蛍光体層から放出される光とを含む混合色において、 相関色温度は、2200K以上、2800K以下であり、平均演色評価数Raは、95以上であり、特殊演色評価数R9は、90以上である」点で一致する。 (ウ)また、引用発明の「特殊演色評価数R9」は99であるから、L*a*b*表色系のa*値及びb*値(以下「座標」等という。)は、基準光源(2800K)の座標から内側又は外側にずれた位置ではあるものの、その色差ΔE(約0.21)及びΔC*abは僅かであり、試験色R9の色票の見え方(色相・彩度)は基準光源(2800K)と同程度であると認められる。 なお、L*a*b*表色系については、例えば、以下の図を参照。 (特開2014-206451号公報の図8) (特開2012-142163号公報の図7) (特開2014-7142号公報の図13) よって、本願補正発明と引用発明とは、「混合色は、特殊演色評価用の試験色R9の色票を照らしたときのL*a*b*表色系のa*値と、b*値と、は、所定領域に存在する」点で一致する。 イ 上記アからして、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。 〈一致点〉 「基板と、 前記基板の上に設けられた発光素子と、 前記基板の上および前記発光素子の上に設けられ、蛍光体粒子を含む蛍光体層と、 を備え、 前記発光素子から放出される光と蛍光体層から放出される光とを含む混合色において、 相関色温度は、2200K以上、2800K以下であり、平均演色評価数Raは、95以上であり、特殊演色評価数R9は、90以上であり、 前記混合色は、特殊演色評価用の試験色R9の色票を照らしたときのL*a*b*表色系のa*値と、b*値と、は、所定領域に存在する、発光装置。」 一方、両者は、以下の点で相違する。 〈相違点1〉 発光強度が最大となる波長に関して、 本願補正発明は、「640nm以上、680nm以下」であるのに対して、 引用発明は、そのような範囲内であるか否か不明である点。 〈相違点2〉 混合色のa*値と、b*値に関して、 本願補正発明は、「(62,36)、(62,37)、(61,43)、(60,45)、(59,47)、(58,50)、(56,53)、(53,57)、(93,100)、(100,100)、(100,58)の座標で囲まれる領域に存在する」のに対して、 引用発明は、そのような領域に存在するか否か不明である点。 (4)判断 ア 上記〈相違点1〉及び〈相違点2〉について、まとめて検討する。 (ア)まず、本願補正発明において、上記〈相違点2〉に係る構成を採用する技術的意義について、本願明細書及び図面を参酌して検討する。 本願明細書には、以下の記載がある。 「【0021】 図2に表すように、発光装置20は、特殊演色評価用の試験色R9の色票を照らしたときのL*a*b*表色系のa*値とb*値がB1(62,36)、B2(62,37)、B3(61,43)、B4(60,45)、B5(59,47)、B6(58,50)、B7(56,53)、B8(53,57)、B9(93,100)、B10(100,100)、B11(100,58)の座標で囲まれるa*b*領域Bに含まれている。ここで、特殊演色評価用の試験色R9の色票を照らしたときのL*a*b*表色系のa*値とb*値とは、特殊演色評価用の試験色R9の色票をL*a*b*表色系で表したときのL*a*b*表色系のa*値とb*値を意味する。さらに、L*値は、44以上である。なお、B2?B7は図示を省略する。また、a*b*領域Bの点線は、1800Kから3800Kの黒体放射の光で試験色R9の色票を照らしたときのa*値およびb*値の座標である。 図2は、以下のものである。 上記記載からして、 図2におけるB1とB8は、「『相関色温度1800Kから3800Kの黒体放射の光で試験色R9の色票(赤色)を照らしたときの座標』であるB1ないしB8の8点」のうちの2点であり、点線上には他に図示されていないB2ないしB7が位置することが理解できる。 本願明細書には、B9ないしB11の座標をどのように設定したのかは具体的には説明されていないものの、座標の数値からして、B9は原点(0)とB8を結ぶ延長線上に位置し、B11は原点(0)とB1を結ぶ延長線上に位置することが理解できる。 そうすると、図2において、点線と実線により囲まれた領域B(以下「囲まれた領域B」という。)は、基準光源と比較して、色票(赤色)の見え方がより高彩度であることが理解できる。 (イ)一方、引用発明は、「特殊演色評価数R9及びR15について高い演色性を実現した発光装置」であるところ、特殊演色評価数R9を評価していることからみて、赤色の見え方を意識していることは明らかである。そして、色の見え方への要請は、その周知な用途(食肉用照明等)によるものであるから、赤色の見え方をより鮮やかにするために、座標の位置を「囲まれた領域B」に存在するようになすことは、用途などを勘案して容易になし得ることである(相違点2を充足する。)。 (ウ)その際、引用発明は、「ピーク波長が652nmのCASN系赤色蛍光体を含有する平板状の透明樹脂20aと、ピーク波長が598nmのサイアロン系赤色蛍光体を含有する平板状の透明樹脂20bと、ピーク波長が520nmのサイアロン系緑色蛍光体を含有する平板状の透明樹脂22と、を備え」たものであって、そのスペクトル形状は、同様の蛍光体を利用した実施例2に関する図10からして、青色光(ピーク波長が455nm)よりも長波長側に青色光よりも大きなピークがあり、そのピーク波長は、630?650nm程度であると解されるところ、 赤色の見え方をより鮮やかにする(赤色領域の光量を増す)ために、「ピーク波長が652nmのCASN系赤色蛍光体を含有する平板状の透明樹脂200a」の発光強度を大きくすることは、当業者が適宜なし得た設計事項である(必然的にピーク波長は長波長側にシフトすることから、相違点1を充足する。)。 図10は、以下のものである。 (エ)以上の検討からして、本願補正発明は、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 イ 効果 本願補正発明の奏する効果は、当業者が引用発明の奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 ウ まとめ 本件補正発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)審判請求書における主張について 請求人は、引用文献1には、閾値境界の内側(a*値、b*値、L*値を満たす側)の点については示唆されていたとしても、閾値境界の外側の点については示唆されていないため、引用文献1からは、閾値境界となるa*値、b*値、L*値を想到することは不可能である旨主張する(第5頁後段ないし第6頁上段)。 当審注:引用文献1は、審決で引用する引用文献である。 しかしながら、閾値境界のうち、原点(0)側の境界(点線)は「相関色温度1800Kから3800Kの黒体放射の光で試験色R9の色票(赤色)を照らしたときの座標」を結ぶことにより形成されるものであって、座標の位置がより外側、つまり、囲まれた領域Bに存在すれば赤色の彩度が向上することは、当業者にとって明らかであり、採用し得る範囲であるといえる。 よって、請求人の主張は、採用できない。 必要ならば、下記の図を参照。 (特開2012-142163号公報の図7) 4 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて、本件補正前の請求項1に係る発明として記載したとおりのものである。 念のため、本願発明を再掲すると、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 基板と、 前記基板の上に設けられた発光素子と、 前記基板の上および前記発光素子の上に設けられ、蛍光体粒子を含む蛍光体層と、 を備え、 前記発光素子から放出される光と蛍光体層から放出される光とを含む混合色において、 相関色温度は、2200K以上、2800K以下であり、発光強度が最大となる波長は、640nm以上、680nm以下であり、平均演色評価数Raは、95以上であり、特殊演色評価数R9は、90以上である発光装置。」 2 対比・判断 本願発明は、前記「第2 2 補正目的」の検討によれば、本願補正発明から「混合色は、特殊演色評価用の試験色R9の色票を照らしたときのL*a*b*表色系のa*値と、b*値と、は、(62,36)、…(100,100)、(100,58)の座標で囲まれる領域に存在する」との限定を省いたものに相当する。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 3 独立特許要件」で検討したとおり、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものあるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 3 令和元年8月9日提出の意見書における主張について 請求人は、L*a*b*表色系でのパラメータは光源のスペクトル形状によって異なるから、スペクトル形状が開示されていない引用文献1から本願発明を想到することは困難である旨主張する(第3頁下段)。 当審注:引用文献1は、審決で引用する引用文献である。 (1)本願明細書には、以下の記載がある。 「【0027】 また、図4に、第1実施例および第1参考例の発光スペクトルを示す。この発光スペクトルにおいては、発光素子19から発せられた青色光の波長領域(430nm以上、470nm以下)にピークがあり、青色光よりも長波長側に青色光よりも大きなピークがある。この大きなピークは、第1蛍光体から放出された緑色光(500nm以上、550nm以下)と、第2蛍光体から放出された赤色光(650nm以上、680nm以下)とが重なって形成された光のピークである。図4に表すように、第1実施例の発光分布は、第1参考例の発光分布に比べて、530nm以上の波長域において長波長側にシフトしている。換言すれば、第1実施例は、530nmから発光強度が最大となる波長までの波長域が第1参考例に比べて、相対的に低くなっている。 【0028】 第1実施例も第1参考例も赤色光を発する蛍光体としてはCASNを使用している。それぞれの発光スペクトルについては、波長530nm付近および波長630nm付近にあるピークを結んだ直線に対して、スペクトル波形は下に凹んでいる。このスペクトル波形の凹みの深さは、第1参考例に比べて第1実施例の方が大きくなっている。これは、第1実施例の方が第1参考例よりも長波長側に発光ピークを有するCASNを使用しているためであり、このような特殊な蛍光体を使用することによってa*値と、b*値と、を領域B内に入れることが可能になる。」 また、図4は、以下のものである。 (2)上記記載からして、 スペクトル形状は、「青色光よりも長波長側に青色光よりも大きなピークがあり、この大きなピークは、第1蛍光体から放出された緑色光(500nm第1蛍光体から放出された緑色光(500nm以上、550nm以下)と、第2蛍光体から放出された赤色光(650nm以上、680nm以下)とが重なって形成された光のピークであって、波長530nm付近および波長630nm付近にあるピークを結んだ直線に対して、下に凹んでいる」点に特徴のあることが理解できる。 (3)しかしながら、本願発明のスペクトル形状は、「発光強度が最大となる波長は、640nm以上、680nm以下」であって、その他の点は特定されていない。 (4)請求人の主張が、仮に、上記(2)で指摘するスペクトル形状であることを前提にしているとすれば、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるから、採用できない。 (5)また、引用発明において、「発光強度が最大となる波長は、640nm以上、680nm以下」との発明特定事項を採用することは、上記「第2 3(4)判断」で検討したように、赤色領域の光量(強度)を増やすために、当業者が容易になし得たことである。 (6)よって、請求人の主張は、採用できない。 4 まとめ よって、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-08-20 |
結審通知日 | 2020-08-27 |
審決日 | 2020-09-09 |
出願番号 | 特願2015-185311(P2015-185311) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小濱 健太 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 吉野 三寛 |
発明の名称 | 発光装置および照明装置 |
代理人 | 河野 仁志 |