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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B |
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管理番号 | 1367960 |
審判番号 | 不服2019-15007 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-08 |
確定日 | 2020-11-12 |
事件の表示 | 特願2014-238554「有機EL素子」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月30日出願公開、特開2016-100297〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特願2014-238554号(以下「本件出願」という。)は、平成26年11月26日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成30年10月 5日付け:拒絶理由通知書 平成30年12月 7日提出:意見書 平成30年12月 7日提出:手続補正書 平成31年 3月19日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書 令和 元年 5月27日提出:意見書 令和 元年 5月27日提出:手続補正書 令和 元年 7月25日付け:令和元年5月27日の手続補正についての補 正の却下の決定 令和 元年 7月25日付け:拒絶査定 令和 元年11月 8日提出:審判請求書 令和 元年11月 8日提出:手続補正書 令和 2年 4月28日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 7月22日提出:意見書 令和 2年 7月22日提出:手続補正書 第2 本願発明 本願の請求項1?3に係る発明は、令和2年7月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「 樹脂からなる透明基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極が順次積層されるEL素子であって、 前記透明基板が、前記透明基板の樹脂材料を押し出す際に算術平均粗さ2.5nm以下の挟圧ロールに接触することにより前記陽極側の表面が形成され、かつ、マイクロレンズの母型を持つ金型ロールに接触することにより光射出面が形成され、かつ、 前記陽極側の透明基板の表面にスパッタ膜からなるバリア層が直接形成されていることを特徴とする有機EL素子。」 第3 拒絶の理由 令和2年4月28日付けで当合議体が通知した拒絶理由のうちの理由4は、概略、本件出願の請求項1に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 記 引用文献1:特開2005-327689号公報 第4 引用文献1及び引用発明 1 引用文献1の記載事項 当合議体の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2005-327689号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等で活用した箇所である。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明はエレクトロルミネッセンス素子、並びにこれを用いた照明装置および表示装置に関する発明である。詳しくは、本発明は高輝度で電力消費の少ないエレクトロルミネッセンス素子、およびこれを用いた照明装置、あるいはこれを直接またはバックライトとして用いた表示装置に関する発明である。 【背景技術】 【0002】 一般的なエレクトロルミネッセンス素子は原理的には図5のような構造になっている。平面の透明基板1とその下部の第一電極層2、発光層3、第二電極層4の積層構造となっている。発光層3で発生した光は第一電極層2を通って透明基板1の上方のエレクトロルミネッセンス素子外部へ射出される。通常、発光層3で発生した光を、エレクトロルミネッセンス素子の外部へ射出できる効率すなわち光取出効率は20%以下であり、この光取出効率向上はエレクトロルミネッセンス素子開発の大きな課題となっている。その解決手段として、透明基板1とエレクトロルミネッセンス素子外部との界面における反射損失の低減が考えられている。たとえば、特許文献1や特許文献2には、透明基板1とエレクトロルミネッセンス素子外部との界面の光の反射損失低減法が開示されている。光が透明基板1から外部に射出される際、透明基板1とエレクトロルミネッセンス素子外部との屈折率の違いによりその界面で全反射してしまう光があるが、これを抑えるため、この界面の形状を工夫している発明である。 ・・・(省略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 エレクトロルミネッセンス素子の発光強度の増加や消費電力の低減の要求は大きく、上述のように発光層からの射出光を有効に取り出すための色々な工夫がなされている。しかし、まだ十分な反射損失低減技術はなく、満足する光取出効率とはなっていない。したがって、本発明の目的は、従来のよりも透明基板中の透過損失、透明基板とエレクトロルミネッセンス素子外部との界面の光透過損失などを改善し、更に光取出効率の優れたエレクトロルミネッセンス素子を提供することである。 また、本発明の他の目的は、上記のようなエレクトロルミネッセンス素子を用いた新しい、あるいは高性能の照明装置や表示装置を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 上述の課題を解決するための第一の発明は、透明基板上に第一電極層、発光層、第二電極層を順次積層したエレクトロルミネッセンス素子であって、前記透明基板の第一電極層側と反対側の表面に、前記透明基板より屈折率の低い低屈折率層を設け、かつ前記透明基板の屈折率をn_(S)、低屈折率層の屈折率をn_(L)、の外部の屈折率をn_(A)としたときn_(S)>n_(L)>n_(A)であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子である。一般に屈折率の大きい媒体から小さい媒体へといろいろな方向からの光(散乱光)が透過する場合、境界面での光の反射損失は屈折率の差に大きく依存している。それ故、これらの媒体の間に、両媒体の中間の屈折率を持つ媒体を挿入してやれば全体としての光の反射損失は減少する。本発明はこの効果を利用した発明である。 【0007】 ・・・(省略)・・・ 第三の発明は、透明基板が、少なくとも片面に複数の凹凸構造を有する上記第一または第二の発明に記載のエレクトロルミネッセンス素子である。上述のようにいろいろな方向からの光は高屈折率媒体から低屈折率媒体に透過していく際、平面状の境界面よりも凹凸構造の境界面の方が入射角が変化して光の反射損失が少ないという原理を利用して、さらにいっそうの透過光の反射損失低減を図っている。・・・(省略)・・・ 【発明の効果】 【0009】 本発明のエレクトロルミネッセンス素子は透明基板とエレクトロルミネッセンス素子外部(通常、大気中)との界面での光反射損失を抑制し、非常に光取出効率が優れている。さらに、第三から第五の発明においては優れた光取出効率のうえに、性能の安定した寿命の長いエレクトロルミネッセンス素子を提供している。また、第六、第七の発明ではこれらの高性能エレクトロルミネッセンス素子を用いた高機能の照明装置や表示装置を提供している。」 (2)「【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 本発明の好適な実施形態を、図1から図4を参照としながら詳細に説明する。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であり技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られない。 【0011】 図1は、本発明によるエレクトロルミネセンス素子の、第一の実施形態の構成を示している。図1において、エレクトロルミネセンス素子は、上から順に低屈折率層5、透明基板1、第一電極層2、発光層3、第二電極層4を積層して構成されている。このエレクトロルミネセンス素子は、第一電極層2と第二電極層4との間に、図示していないが駆動電源から所定の駆動電圧を印加することにより、発光層3がエレクトロルミネセンス効果により発光し、その光が透明な第一電極層2、透明基板1、低屈折率層5を通過して、低屈折率層5の上方に出射する。つまり、エレクトロルミネセンス素子外部の大気中に射出する。この射出光を利用して各種の照明装置、表示装置を提供することが出来る。 ・・・(省略)・・・ 【0016】 第三の態様は、図3のように透明基板1上部側表面に低屈折率層5を備え、かつ透明基板1が少なくとも片面に複数の凹凸構造を有するエレクトロルミネッセンス素子である。前述の第一、第二の発明である低屈折率層5の光取出効率向上効果、および凹凸構造の界面の光取出効率向上効果を利用している。 凹凸構造としては例えば六角錐・四角錐・三角錐・円錐・三角柱・レンズドームあるいは凹や凸のレンズ形状のように透明基板表面に対し凹凸の構造をもち、発光層3からの光が第一電極層2から透明基板1を通過し透明基板1の外部(通常大気中)へと射出される際入射角を変化させ全反射による損失を抑える構造であれば良い。具体的な例としては、図3に示す四角錐状の場合がある。凹凸構造は上方に頂点を持つ四角錐状であり、透明基板1と一体に形成されている。この四角錐状凹凸構造は透明基板1の長辺方向及び短辺方向に沿って所定の、例えば0.01?1mmの配列ピッチ6で並んで、高さが0.01μm?100μmの範囲内に選定されていると好適な光取出効率向上効果が得られる。円錐状の凹凸構造の場合には各配置枠毎に上方に向かって突出した円錐状の凹凸を形成している。その円錐の底面が、上記配置枠の外接円となるように形成されている。円錐の底面近傍の、上記配置枠から上記長辺方向及び短辺方向に突出する部分が切除されることにより、互いに隣接する円錐同士が干渉しないようになっている。さらに、これらの円錐は、透明基板1の長辺方向及び短辺方向に沿って所定の、例えば0.01?1mmの配列ピッチで並んで、高さが0.01?100μmの範囲内に選定されていることが好適である。 ・・・(省略)・・・ 【0020】 本発明における凹凸構造は、透明基板1の縦横方向にピッチが1μm?1mm、好ましくは10μm?0.1mmであり、高さ0.01?100μm、好ましくは1?100μmの範囲で凹凸構造が複数配置されていることが好ましい。凹凸構造は、透明基板1の表面の一部に配置されていてもよいが、エレクトロルミネッセンス素子全体としての機能発揮には透明基板のどちらかの表面全体に配置されていることが好ましい。図3では透明基板1の低屈折率層側表面に凹凸構造を付けているが、透明基板1の下側表面にも上述した凹凸構造を取り付けておけば、さらに透過率向上効果を発揮して効率よく光を外部へ射出することが出来る。これにより、発光層3からの放射光の取出効率は飛躍的に向上する。凹凸構造はどのような方法で製造しようと上述の機能を発揮する凹凸構造になっていれば良い。通常の製造法としては、溶融成型法、射出成型法、キャスティング法、エンボス加工法、電子線微細加工法、ロール成型法、インフレーション法などを利用すればよい。 【0021】 好ましい発明の態様のひとつは、透明基板1と低屈折率層5との間または透明基板1と第一電極層2との間に、水蒸気透過速度が0.1g/m^(2)日以下のガスバリア層を有するエレクトロルミネッセンス素子である。薄くしかも柔軟性に優れたエレクトロルミネッセンス素子を得るには、透明基板としても柔軟性に優れた樹脂製が適している。しかし、一般に樹脂はガスバリア性が十分ではなく、このような場合には、ガスバリア層を有することが好ましいことになる。ガスバリア層は透明基板1と低屈折率層5との間または透明基板1と第一電極層2との間に設置し、水蒸気透過速度が0.1g/m^(2)日以下であるような材料が好適である。なお、水蒸気透過速度の測定はJIS-K7129B法の赤外センサー法に準拠して、例えば、市販のMOCON社製の「PERMATRAN-W」水蒸気透過速度測定器を用いて、温度40℃、湿度90RHの雰囲気下で行う。ガスバリア層と低屈折率層5の機能を同じ層で兼用しても良い。ガスバリア層は屈折率が、隣接する透明基板1、第一電極層2および低屈折率層5、低屈折率層が複数ある場合はそれぞれの低屈折率層の屈折率のあいだの値となるようにすることが好ましい。このようにすればガスバリア層は低屈折率層の機能も果たすからである。 【0022】 ガスバリア層の機能は、発光層3あるいは電極層2の劣化を防ぐことである。発光層3が有機材料であったり、電極層が金属材料であったりすると、これらが大気雰囲気中の水蒸気により劣化するおそれがあるからである。透明基板1の水蒸気透過性が低い場合(一般には酸素透過性も低い)、透明基板1と第一電極層2との間に高いガスバリア性を有するガスバリア層を挿入することが有効となる。ガスバリア層は0.1g/m^(2)/day以下、好ましくは0.08g/m^(2)日以下とすることが適している。このガスバリア層の材質は、化学式で表せば例えばSiO_(x)、Al_(2)O_(3)、AlO_(x)、SiO_(x)N_(y)、SiN_(x)などがある。ガスバリア層を透明基板1と第一電極層2との間に配置する場合は、このガスバリア層の屈折率は透明基板1と第一電極層2との間の屈折率であることが好ましい。ガスバリア層の製法の例としては蒸着法、スパッタリング法、CVD法が一般的である。なお、ガスバリア層は上述のように低屈折率層5と兼ねることもできる。ガスバリア層の厚さは、通常0.02?1μmであり、好ましくは0.05?0.2μmである。 ・・・(省略)・・・ 【0034】 本発明のエレクトロルミネッセンス素子においては、透明基板、第一電極層、発光層、第二電極層の他に、他の層を有していてもよい。 他の層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、封止層が挙げられる。これらの層を構成する材料は、従来エレクトロルミネッセンス素子における各層を構成する材料として公知の材料を用いることができる。」 (3)「【実施例】 【0036】 (実施例1) 図1に示す構成のエレクトロルミネッセンス素子を作製した。透明基板1の材質はノルボルネン系樹脂(屈折率n_(S)=1.5,吸水率0.05%,熱線膨張係数70ppm/K)を用いた。透明基板は縦40mm、横40mm、厚さは1mmである。低屈折率層5は屈折率n_(L)=1.45のシリカ(SIO_(2))であり、DCスパッタリング法により膜厚が100nmとなるように透明基板1上面に製膜した。この低屈折率層5の水蒸気透過速度は0.1g/m^(2)日であり、ガスバリア層としての機能も兼ねることが出来た。第一電極層2は屈折率n=2の亜鉛添加酸化インジウム(IZO)をDCスパッタリング法により透明基板1下面に膜厚が100nmとなるように製膜した。発光層3としてアリルアミン系材料であるTPDとアルミニウム錯体Alq3の積層体を用い、真空蒸着法により膜厚が約100nmとなるように製膜した。第二電極層4はアルミニウムを真空蒸着法により膜厚が100nmとなるように製膜した。このエレクトロルミネッセンス素子の第一電極層2と第二電極層4の間に5Vの電圧をかけエレクトロルミネッセンス発光をさせた。このエレクトロルミネッセンス素子表面から射出される光をPrometric社製輝度計にて測定した。なお、光取出効率は後述の比較例1を基準としてそれに対する比率で表した。また、半減期は輝度計による輝度の測定値が半減するまでの発光時間を日で表した。測定結果は表1に示した。なお、素子の外部の屈折率n_(A)=1.0であった。 【0037】 (実施例2) 図3に示す構成のエレクトロルミネッセンス素子を作製した。実施例1との違いは透明基板1の上面が透明基板面に対し縦横に連続した、四角錐状の凹凸構造となっている点である。各凹凸素子はそれぞれ上方に頂点を持つ四角錐で底辺ピッチは50μm、高さは25μmとした。底辺ピッチは図3におけるマイクロレンズアレイのピッチ6に相当する透明基板1の製法は樹脂の凹凸構造を持つ金型への射出成型によった。他の部分の構成や製造方法は実施例1と同様である。光取出効率の測定等も同様に実施し、測定結果も表1に示した。 ・・・(省略)・・・ 【0041】 【表1】 【0042】 表1の結果から以下のことがわかる。本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、実施例1?3に示すように、発光輝度及び光取出効率が高く、半減期も大きい。 一方、比較例のエレクトロルミネッセンス素子は、発光効率及び光取出効率が低く、半減期が短い場合もある。 【産業上の利用可能性】 【0043】 本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、光の取出効率が向上し、輝度が向上し、寿命が延びる。本エレクトロルミネセンス素子は各種の高輝度、長寿命の照明装置や表示装置として利用するのに適している。また、液晶等の表示装置のバックライトとして使用する場合に、表示装置の高輝度化や省電力化に容易に対応することができる。」 (4)図1 「 」 (5)図3 「 」 2 引用発明 上記1より、引用文献1には、実施例2として次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「 透明基板の材質はノルボルネン系樹脂(屈折率n_(S)=1.5,吸水率0.05%,熱線膨張係数70ppm/K)を用い、透明基板は縦40mm、横40mm、厚さは1mmであり、低屈折率層は屈折率n_(L)=1.45のシリカであり、DCスパッタリング法により膜厚が100nmとなるように透明基板上面に製膜し、この低屈折率層の水蒸気透過速度は0.1g/m^(2)日であり、ガスバリア層としての機能も兼ね、第一電極層は屈折率n=2の亜鉛添加酸化インジウムをDCスパッタリング法により透明基板下面に膜厚が100nmとなるように製膜し、発光層としてアリルアミン系材料であるTPDとアルミニウム錯体Alq3の積層体を用い、真空蒸着法により膜厚が約100nmとなるように製膜し、第二電極層はアルミニウムを真空蒸着法により膜厚が100nmとなるように製膜して作製したエレクトロルミネッセンス素子であって、 透明基板の上面が透明基板面に対し縦横に連続した、四角錐状の凹凸構造となっていて、各凹凸素子はそれぞれ上方に頂点を持つ四角錐で底辺ピッチは50μm、高さは25μmとし、底辺ピッチはマイクロレンズアレイのピッチに相当する透明基板の製法は樹脂の凹凸構造を持つ金型への射出成型によるエレクトロルミネッセンス素子。」 第5 対比 1 本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)樹脂からなる透明基板について 引用発明の「透明基板の材質はノルボルネン系樹脂」である。 上記組成からみて、引用発明の「透明基板」は、その文言どおり、本願発明の「透明基板」に相当し、本願発明の「透明基板」の「樹脂からなる」との要件を満たす。 (2)陽極、陰極、発光層 引用発明は、「透明基板の材質はノルボルネン系樹脂(屈折率n_(S)=1.5,吸水率0.05%,熱線膨張係数70ppm/K)を用い、透明基板は縦40mm、横40mm、厚さは1mmであり、低屈折率層は屈折率n_(L)=1.45のシリカであり、DCスパッタリング法により膜厚が100nmとなるように透明基板上面に製膜し、この低屈折率層の水蒸気透過速度は0.1g/m^(2)日であり、ガスバリア層としての機能も兼ね、第一電極層は屈折率n=2の亜鉛添加酸化インジウムをDCスパッタリング法により透明基板下面に膜厚が100nmとなるように製膜し、発光層としてアリルアミン系材料であるTPDとアルミニウム錯体Alq3の積層体を用い、真空蒸着法により膜厚が約100nmとなるように製膜し、第二電極層はアルミニウムを真空蒸着法により膜厚が100nmとなるように製膜して作製したエレクトロルミネッセンス素子であ」る。 ここで、仕事関数の高いほうの亜鉛添加酸化インジウムが陽極で、仕事関数の低いほうのアルミニウムが陰極であることは技術常識であるところ、引用発明の「第一電極層」は、「亜鉛添加酸化インジウムを」「製膜し」たものであり、引用発明の「第二電極層」は、「アルミニウムを」「製膜し」たものである。そうしてみると、引用発明の「第一電極層」及び「第二電極層」は、それぞれ、本願発明の「陽極」及び「陰極」に相当する。 また、上記組成からみて、引用発明の「発光層」は、その文言どおり、本願発明の「発光層」に相当する。 (3)EL素子について 上記(2)の構成及び製法からみて、引用発明の「エレクトロルミネッセンス素子」は、本願発明の「EL素子」に相当する。 また、上記(2)の構成及び製法から、引用発明の「第一電極層」は、「透明基板下面」に「製膜し」たものである。さらに、技術常識から、引用発明の「第一電極層」、「発光層」、「第二電極層」が順次積層されていることは明らかである(当合議体注:このことは、引用文献1の図3の記載からも理解される。)。 そうしてみると、引用発明の「エレクトロルミネッセンス素子」と本願発明の「樹脂からなる透明基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極が順次積層されるEL素子」とは、「樹脂からなる透明基板、陽極、発光層、陰極が順次積層されるEL素子」である点で共通する。 (4)透明基板の陽極側の表面、光射出面について 引用発明の「透明基板下面」に、「第一電極層」を「屈折率n=2の亜鉛添加酸化インジウムをDCスパッタリング法により」「膜厚が100nmとなるように製膜し」たものであり、また、引用発明の「透明基板の上面」は、「透明基板面に対し縦横に連続した、四角錐状の凹凸構造となってい」るものである。 ここで、技術常識から、引用発明は、「透明基板の上面」から光が射出するものである(当合議体注:このことは、引用文献1の【0016】に「図3のように透明基板1上部側表面に低屈折率層5を備え、かつ透明基板1が少なくとも片面に複数の凹凸構造を有するエレクトロルミネッセンス素子である。前述の第一、第二の発明である低屈折率層5の光取出効率向上効果、および凹凸構造の界面の光取出効率向上効果を利用している。」と記載されていることからも、理解される。)。 そうしてみると、上記構成からみて、引用発明の「透明基板下面」及び「透明基板の上面」は、それぞれ本願発明の「透明基板」の「陽極側の表面」及び「透明基板」の「光射出面」に相当する。また、引用発明の「透明基板」は、本願発明の「透明基板」の「陽極側の表面が形成され、かつ、光射出面が形成され」との要件を満たす。 (5)有機EL素子について 上記(1)?(4)を総合すると、引用発明の「エレクトロルミネッセンス素子」は、本願発明の「有機EL素子」に相当する。 2 一致点及び相違点 (1)一致点 以上の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。 「 樹脂からなる透明基板、陽極、発光層、陰極が順次積層されるEL素子であって、 前記透明基板が、前記陽極側の表面が形成され、かつ、光射出面が形成された、有機EL素子。」 (2)相違点 本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点1) 「EL素子」が、本願発明は、「樹脂からなる透明基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極が順次積層される」のに対して、引用発明は、「透明基板」、「第一電極層」、「発光層」、「第二電極層」を順次積層したことにとどまる点。 (相違点2) 「透明基板」が、本願発明は、「透明基板の樹脂材料を押し出す際に算術平均粗さ2.5nm以下の挟圧ロールに接触することにより前記陽極側の表面が形成され、かつ、マイクロレンズの母型を持つ金型ロールに接触することにより光射出面が形成され、かつ、前記陽極側の透明基板の表面にスパッタ膜からなるバリア層が直接形成されている」のに対して、引用発明は、「透明基板下面」の算術平均粗さが明らかでなく、「透明基板の上面」は「四角錐状の凹凸構造となってい」ると特定されるにとどまる点。 第6 判断 1 相違点についての判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用文献1の【0034】には、「本発明のエレクトロルミネッセンス素子においては、透明基板、第一電極層、発光層、第二電極層の他に、他の層を有していてもよい。他の層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、封止層が挙げられる。これらの層を構成する材料は、従来エレクトロルミネッセンス素子における各層を構成する材料として公知の材料を用いることができる。」と記載されている。ここで、上記「他の層」として、「インターレイヤー層」は、特段、列挙されていないが、有機EL素子の技術分野において、インターレイヤー層を用いることは、本件出願前において既に周知技術(特開2014-72013号公報の【0020】、特開2014-194017号公報の【0174】?【0176】、特開2014-197573号公報の【0003】参照。)であったことを踏まえれば、上記「他の層」として、当業者が「インターレイヤー層」を想起することは自然なことといえる。 そうしてみると、上記周知技術を心得た当業者が、引用文献1の上記記載にしたがって、引用発明の「エレクトロルミネッセンス素子」の性能の向上を図るために、上記周知技術を適用して素子構造を最適化し、相違点1に係る本願発明の構成に想到することは容易である。 (2)相違点2について ア まず、本願発明の「透明基板」の「陽極側の表面」について検討する。 引用文献1の【0021】、【0022】には、それぞれ、「好ましい発明の態様のひとつは、透明基板1と低屈折率層5との間または透明基板1と第一電極層2との間に、水蒸気透過速度が0.1g/m^(2)日以下のガスバリア層を有するエレクトロルミネッセンス素子である。」、「このガスバリア層の材質は、化学式で表せば例えばSiO_(x)、Al_(2)O_(3)、AlO_(x)、SiO_(x)N_(y)、SiN_(x)などがある。ガスバリア層を透明基板1と第一電極層2との間に配置する場合は、このガスバリア層の屈折率は透明基板1と第一電極層2との間の屈折率であることが好ましい。ガスバリア層の製法の例としては蒸着法、スパッタリング法、CVD法が一般的である。なお、ガスバリア層は上述のように低屈折率層5と兼ねることもできる。ガスバリア層の厚さは、通常0.02?1μmであり、好ましくは0.05?0.2μmである。」と記載されている。上記記載から、引用文献1には、透明基板と第一電極層との間にスパッタリング法によるガスバリア層を設けることが記載されている。 また、ガスバリア層を基板に安定して得られるように、基板のガスバリアを有する表面の算術平均粗さを2.5nmよりも小さくすることは、周知技術(特開2006-247894号公報の【0020】、特開2014-151571号公報の【0042】参照。)である。 そうしてみると、引用発明の「透明基板下面」の算術平均粗さを2.5nmより小さくして、スパッタリング法によりガスバリア層を形成するようにすることは、当業者にとって格別の困難性はない。 イ 次に、本願発明の「透明基板」の「光射出面」について検討する。 引用文献1の【0016】には、「第三の態様は、図3のように透明基板1上部側表面に低屈折率層5を備え、かつ透明基板1が少なくとも片面に複数の凹凸構造を有するエレクトロルミネッセンス素子である。前述の第一、第二の発明である低屈折率層5の光取出効率向上効果、および凹凸構造の界面の光取出効率向上効果を利用している。凹凸構造としては例えば六角錐・四角錐・三角錐・円錐・三角柱・レンズドームあるいは凹や凸のレンズ形状のように透明基板表面に対し凹凸の構造をもち、発光層3からの光が第一電極層2から透明基板1を通過し透明基板1の外部(通常大気中)へと射出される際入射角を変化させ全反射による損失を抑える構造であれば良い。」と記載されている。そうすると、上記記載に接した当業者は、引用文献1には、「複数の凹凸構造」として、「レンズドームあるいは凹や凸のレンズ形状」のように、透明基板表面に沿って凹凸が配列された構造が示唆されていると理解する。 そうしてみると、引用文献1の上記記載に基づいて、引用発明の「透明基板」の「上面」の「四角錐状の凹凸構造」を、マイクロレンズ(アレイ)とすることは、当業者にとって適宜選択可能な設計変更である。 ウ ところで、本願発明は「有機EL素子」という物の発明であり、透明基板をどのようなロールを用いて形成するか(透明基板(表面)の形成方法)は、物の発明の構成(要素)ではないから、本来は上記ア及びイの検討で充分であるが、さらにすすんで検討する。 引用文献1の【0020】には、「図3では透明基板1の低屈折率層側表面に凹凸構造を付けているが、透明基板1の下側表面にも上述した凹凸構造を取り付けておけば、さらに透過率向上効果を発揮して効率よく光を外部へ射出することが出来る。これにより、発光層3からの放射光の取出効率は飛躍的に向上する。凹凸構造はどのような方法で製造しようと上述の機能を発揮する凹凸構造になっていれば良い。通常の製造法としては、溶融成型法、射出成型法、キャスティング法、エンボス加工法、電子線微細加工法、ロール成型法、インフレーション法などを利用すればよい。」と記載されていて、引用文献1には、ロール成型法によって凹凸構造を製造することが記載されている。 そして、上記アで示したように、引用発明の「透明基板下面」の算術平均粗さを2.5μmよりも小さくすることは当業者にとって格別の困難性はなく、上記イで示したように、引用発明の「透明基板」の「上面」の「四角錐状の凹凸構造」をマイクロレンズアレイにすることは当業者にとって適宜選択可能な設計変更にすぎない。 そうしてみると、引用発明の「透明基板」の製造法としてロール成型法を用いる際に、引用発明の「透明基板下面」の算術平均粗さを小さくするとともに、引用発明の「透明基板」の「上面」をマイクロレンズアレイにするために、「透明基板下面」側のロールの算術平均粗さを小さくし、かつ、「透明基板」の「上面」側のロールをマイクロレンズの母型を持つようにすることは、当業者が当然なし得る設計事項である。 エ 以上勘案すると、引用発明に周知技術を適用して上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 2 効果について 本願発明に関して、本件明細書の【0031】には、「本発明により、従来よりも汎用性があり、製造工程数を低減でき、光取出し効率も良好な有機EL素子、照明器具、光源及び表示装置の提供を提供することが可能となる。また、更に水蒸気バリア膜の形成に適した表面粗さを有することで、有機EL素子の長寿命化を図ることも可能となる。」と記載されている。 しかしながら、このような効果は、引用発明及び周知技術が備える効果であるか、または予測できる範囲内のものである。 3 審判請求人の主張について 審判請求人は、令和2年7月22日提出の意見書において、「引用文献1は、透明基板の樹脂材料を押し出す際に算術平均粗さ2.5nm以下の挟圧ロールに接触することにより平坦化する技術は開示されておりません。周知技術にあっても当該平坦化技術については記載されておりません。」、「引用文献1は、透明基板とバリア層の位置が特定されておらず、バリア層を複数の位置候補から適宜選択して形成される引用発明1において本願発明1は開示されていないものと考えます。」、「本願発明1は、透明基板の樹脂材料を押し出す際に算術平均粗さ2.5nm以下の挟圧ロールに接触することにより、スパッタ膜からなるバリア層を設けた場合にであっても高いバリア性を備え、発光層寿命を向上させることができるという効果を奏するものです。本願発明1は、引用発明1等から容易に推考できる発明ではないものと思量いたします。」と主張している。 しかしながら、上記1及び2のとおりであるから、審判請求人の上記主張は、採用することができない。 4 小括 本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本件出願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-09-07 |
結審通知日 | 2020-09-08 |
審決日 | 2020-09-25 |
出願番号 | 特願2014-238554(P2014-238554) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大竹 秀紀 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 関根 洋之 |
発明の名称 | 有機EL素子 |