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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K |
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管理番号 | 1368106 |
異議申立番号 | 異議2019-700489 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-06-19 |
確定日 | 2020-10-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6440317号発明「内服固形錠剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6440317号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6440317号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6440317号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願(優先権主張、平成26年4月17日、日本国)は、平成27年4月14日に出願され、平成30年11月30日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年12月19日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和1年 6月19日 : 特許異議申立人岡ヤエ子(以下、「申立人」という。)による請求項1?5に係る特許に対する特許異議の申立て 令和1年 8月27日付け: 取消理由通知書 令和1年10月31日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和1年11月19日付け: 申立人に対する訂正の請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項) 令和1年12月25日 : 申立人による意見書の提出 令和2年 3月 9日付け: 取消理由通知(決定の予告) 令和2年 5月 8日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正の請求 なお、令和2年6月10日付けの、申立人に対する訂正の請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)に対する申立人からの応答はなかった。また、令和1年10月31日に提出された訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定より、取り下げられたものとみなされる。 第2 訂正の適否についての判断 1.請求の趣旨 令和2年5月8日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6440317号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。 2.訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)、分子量が1000以上の水膨潤性高分子化合物、及び20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上であり、分子量が1000以上の水溶性高分子化合物からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、20℃の水に対する溶解度が5mg/mL超であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)を含む造粒粒子(A)と、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有する、内服固形錠剤。」とあるのを、 「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)、分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)を含む造粒粒子(A)と、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有し、 前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、 前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上であり 前記水溶性粉体(a3)は、アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上である、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。」 に訂正する。 (請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?5も同様に訂正されることになる。) (2)一群の請求項について 本件訂正は、訂正前の請求項1?5を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?5は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?5は一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項〔1?5〕について請求されたものである。 3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1による訂正について 訂正事項1による訂正は、 (I)「水膨潤性高分子化合物」について、訂正前の請求項1に「分子量が1000以上」と特定されていたのを、「分子量が5000以上」であり、かつ、「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上」である「(a21)成分」に限定し、 (II)「20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上」の「水溶性高分子化合物」について、訂正前に「分子量が1000以上」と特定されていたのを、「分子量が5000以上」であり、かつ、「カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上」である「(a22)成分」に限定し、 (III)「分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)」について、「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL超」と特定されていたのを、「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上」であって、「アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上」であるものに限定し、さらに、 (IV)内服固形錠剤から、「繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く」ものであるから、 訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記(I)の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の【0016】及び【0017】の記載に基づくものであり、上記(II)の訂正は、本件特許明細書等の【0016】及び【0018】の記載に、また、上記(III)の訂正は、本件特許明細書等の【0022】及び【0023】の記載に基づくものであり、さらに、上記(IV)の訂正は、訂正前の請求項1に係る発明から、令和1年8月27日付けの取消理由通知書において新規性違反の取消理由の証拠として記載されていた特開2008-127319号公報(甲第13号証)に記載された発明(甲13発明)を除くものであるから、これらの訂正は、本件特許明細書等の記載の範囲内のものであって、新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?5についての訂正も同様である。 (2)小括 上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明 1 本件訂正発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)、分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)を含む造粒粒子(A)と、 炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有し、 前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、 前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上であり、 前記水溶性粉体(a3)は、アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上である、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 【請求項2】 前記造粒粒子(A)中の前記水溶性粉体(a3)の含有量が、10質量%以上である、請求項1に記載の内服固形錠剤。 【請求項3】 前記粒子(B)が、前記炭酸水素塩(b1)と、前記炭酸塩(b2)とを含有する請求項1又は2に記載の内服固形錠剤。 【請求項4】 前記炭酸水素塩(b1)が炭酸水素ナトリウムであり、前記炭酸塩(b2)が炭酸ナトリウム、及び炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の炭酸塩であり、炭酸水素塩(b1)/炭酸塩(b2)で表される質量比が2以下である、請求項3に記載の内服固形錠剤。 【請求項5】 前記粒子(B)の体積平均粒子径が、10?1000μmである、請求項1?4のいずれか一項に記載の内服固形錠剤。」 以下、請求項番号に対応して、それぞれ「本件訂正発明1」等ともいい、本件訂正発明1?5をまとめて「本件訂正発明」ともいう。 また、以下において、請求項1に特定される所定の水難溶性薬物(a1)、水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、水溶性高分子化合物である(a22)成分、水溶性粉体(a3)、炭酸水素塩(b1)、炭酸塩(b2)を、それぞれ、単に、(a1)、(a21)、(a22)、(a3)、(b1)、及び(b2)ともいい、(a21)、(a22)からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)を(a2)、(b1)及び(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)を(B)成分ともいう。 第4 本件特許明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識を示す文献の記載 1.本件特許明細書の記載 本件特許明細書には、以下の記載がある。なお、下線は当審合議体が付した。以下同様である。 ・背景技術、発明が解決しようとする課題、課題解決手段、及び発明の効果についての記載 「【背景技術】 【0002】 非ステロイド性抗炎症剤の中でもイブプロフェンやアスピリン等は、優れた鎮痛、解熱等の作用を有することから、鎮痛・解熱剤の成分として広く用いられている。 イブプロフェンやアスピリン等は、水に溶解しにくい水難溶性の酸性薬物である。このため、イブプロフェンやアスピリン等を含有する内服固形錠剤(イブプロフェン等含有錠剤)は、水溶性高分子化合物等の賦形剤と共に湿式造粒されて造粒粒子群とされ、この造粒粒子群が打錠されて錠剤とされるのが一般的である。 【0003】 錠剤の解熱鎮痛作用等の即効性を良くするには、体内での錠剤の崩壊性を高めて、体内における薬物の溶出性を向上させる必要がある。しかし、イブプロフェン等含有錠剤は、薬物固有の物理化学的性質などから、体内での崩壊性が悪い傾向にある。 これに対し、体内における薬物の溶出性の向上を図ることを目的として、水難溶性薬物と賦形剤との共粉砕物に、水溶性又は水膨潤性高分子化合物を含有する水性液を噴霧しながら湿式造粒してなる造粒粒子、及び、該造粒粒子と他の原料とを混合し打錠して得られた錠剤が開示されている(特許文献1参照)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】国際公開第2007/126063号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところで、薬物を含む造粒粒子を製造する際には、一般に、薬物の体内での吸収性や、錠剤の服用性の向上のために、添加剤の種類の選択や粒子のコーティング等の様々な検討が行われる。特に、イブプロフェンやアスピリン等の水難溶性薬物は、体内に吸収されるのが遅い。このため、造粒粒子に含まれる薬物が水難溶性薬物である場合、従来、錠剤の崩壊性を高めるだけでは、薬物の即効性を良くすることができなかった。 【0006】 本発明者らは、検討を行った結果、体内で崩壊した錠剤から溶け出す薬物の、体内での分散性を高めることが、錠剤の即効性をより高めるのに非常に効果的である、という知見を得た。 しかしながら、その反面、体内での薬物の分散性を高めようとすると、錠剤硬度が経時に伴って低下しやすかった。そして、経時に伴う錠剤硬度の低下により、移送時の振動によって、又は実使用において、錠剤が割れたり欠けたりする、という問題があった。 【0007】 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制された内服固形錠剤、を課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは鋭意検討により、イブプロフェンやアスピリン等の水難溶性薬物及び賦形剤と、炭酸塩又は炭酸水素塩と、を併有させることで、該水難溶性薬物の体内での分散性が高くなり、薬物の即効性が向上すること、を見出した。加えて、特定の水溶性粉体を組み合わせることで、該水難溶性薬物の体内での分散性がより高まると共に、経時において錠剤硬度が保たれることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明の内服固形錠剤は、以下の態様を含む。 ・・・ 【発明の効果】 【0009】 本発明の内服固形錠剤によれば、体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制される。」 ・発明を実施するための形態についての記載 「【0013】 ≪水難溶性薬物(a1)≫ 本発明における(a1)成分は、20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の薬物である。中でも、好ましい(a1)成分は、該溶解度が0?5mg/mLの薬物である。 (a1)成分としては、特に限定されず、例えば、イブプロフェン、アスピリン、ナプロキセン、ケトプロフェン、インドメタシン、ブフェキサマック、ジクロフェナック、アルクロフェナック、エトドラック、フルルビプロフェン、メフェナミック、ピロキシカム等の非ステロイド性抗炎症剤;ニトラゼパム、トリアゾラム、フェノバルビタ-ル、アミバルビタ-ル、アリルイソプロピリアセチル尿素等の催眠・鎮静剤;フェニトイン、プリミドン、クロナゼパム、カルバマゼピン、バルプロ酸等の抗てんかん剤;塩酸メクリジン等の鎮うん剤;ハロペリドール、クロルジアゼポキシド、ジアゼバム、スルピリド等の精神神経用剤;アトロピン等の鎮けい剤;ジゴキシン等の強心剤;ピンドロール、ジソピラミド等の不整脈剤;ヒドロクロロチアジド、スピロノラクトン、トリアムテレン、フロセミド、ブメタニド等の利尿剤;塩酸プラゾシン等の抗高血圧剤;硝酸イソソルビド、ニフェジピン、ジピリダモール等の冠血管拡張剤;ノスカピン、ツロプテロール、トラニラスト等の鎮咳剤;塩酸ブロムヘキシン等の去痰剤;エリスロマイシン、ジョサマイシン、クロラムフェニコール、リファンピシン、グリセオフルビン等の抗生物質;フマル酸クレマスチン等の抗ヒスタミン剤;デキサメタゾン、ベタメタゾン、プレドニソロン、ダナゾール、酢酸クロルマジノン等のステロイド剤;ビタミンA類、葉酸(ビタミンM類)等のビタミン剤;ファモチジン、メトクロプラミド、オメプラゾール、トレピブトン、スクラルファート等の消化器系疾患治療剤;クロフィブラート、メルカプトプリン、メトトレキサート、水酸化アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。 尚、(a1)成分は、市販品があればそれを用いてもよいし、又は、原料化合物から公知の方法により適宜合成したものを用いてもよい。 【0014】 (a1)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 上記の中でも、(a1)成分としては、本発明による効果が特に顕著に得られることから、非ステロイド性抗炎症剤が好ましい。非ステロイド性抗炎症剤の中でも、イブプロフェン、アスピリン、ナプロキセン及びケトプロフェンからなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、イブプロフェン、アスピリンが特に好ましい。」 「【0016】 ≪高分子化合物(a2)≫ 本発明における(a2)成分は、分子量が1000以上の水膨潤性高分子化合物(以下「(a21)成分」ともいう)、及び、20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上であり、分子量が1000以上の水溶性高分子化合物(以下「(a22)成分」ともいう)からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物である。内服固形錠剤において、(a2)成分は、主に結合剤として機能する成分である。 本明細書で、(a2)成分の分子量は、重量平均分子量を意味し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される。(a2)成分の重量平均分子量は、(a21)成分及び(a22)成分のいずれも1000以上であり、5000以上が好ましく、1万以上がより好ましく、3万以上13万以下がさらに好ましい。 (a21)成分について「水膨潤性」とは、水を加えると膨潤し、透明、混濁又は懸濁の粘稠な液性を示すこと、を意味する。 (a22)成分は、20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上の高分子化合物である。中でも、好ましい(a22)成分は、該溶解度が100mg/mL以上の高分子化合物であり、より好ましくは200mg/mL以上の高分子化合物である。 【0017】 (a21)成分としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン等が挙げられ、中でも、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。 低置換度ヒドロキシプロピルセルロースにおいて、「低置換度」とは、置換基(ヒドロキシプロピル基)のモル置換度が5?16であることを意味し、好ましくは7?12程度である。 【0018】 (a22)成分としては、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等が挙げられ、中でも、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコールが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースがより好ましい。 ポリビニルアルコールとしては、けん化度が96モル%以下のものが好ましい。 【0019】 (a2)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 好ましい(a2)成分としては、2質量%水溶液の20℃における粘度が、6.0mPa・s未満のものであり、より好ましくは1?5.5mPa・sのものであり、さらに好ましくは1.2?5.0mPa・sのものであり、特に好ましくは1.5?4.0mPa・sのものである。該粘度が、前記の好ましい下限値以上であれば、(A)成分の造粒性がより良好となり、前記の好ましい上限値以下であれば、体内での(a1)成分の分散性がより高まる。 本明細書において「(a2)成分の2質量%水溶液の粘度」は、単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールド社製の「LVDV-II+Pro」、スピンドルNo.ULA、回転数:60rpm、測定時間:4分間、測定温度:20℃)を用いて測定される値を示す。 【0020】 上記の中でも、(a2)成分としては、(a21)成分の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、(a22)成分のヒドロキシプロピルセルロース、又はこれらの組合せが好ましい。その中でも、(a21)成分の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと(a22)成分のヒドロキシプロピルセルロースとの組合せが特に好ましい。 【0021】 (A)成分中の(a2)成分の含有量は、特に限定されないが、(A)成分の総質量に対して、例えば5?45質量%が好ましく、15?35質量%がより好ましい。 かかる(a2)成分の含有量が、前記の好ましい下限値以上であれば、(A)成分の造粒性がより向上し、前記の好ましい上限値以下であれば、体内での(a1)成分の分散性がより高まる。」 「【0022】 ≪水溶性粉体(a3)≫ 本発明における(a3)成分は、20℃の水に対する溶解度が5mg/mL超の粉体である。中でも、好ましい(a3)成分は、該溶解度が10mg/mL以上の粉体であり、より好ましくは該溶解度が13?1000mg/mLの粉体である。 加えて、(a3)成分は、分子量が1000未満の粉体である。中でも、好ましい(a3)成分は、分子量が50以上1000未満の粉体であり、より好ましくは分子量が100?500の粉体である。 但し、(a3)成分には、(B)成分に該当する化合物は含まれないものとする。 (a3)成分としては、例えば、マンニトール(分子量182.2)、乳糖、乳糖水和物(分子量360.3)、ショ糖、果糖等の糖類;エリスリトール(分子量122.12)、キシリトール、ソルビトール等の糖アルコール類;無水リン酸二水素カリウム(分子量136.1)、塩化ナトリウム(分子量58.4)、塩化カリウム等の無機塩類;アセトアミノフェン(分子量151.2)、無水カフェイン(分子量194.19)、カフェイン水和物等の水溶性の活性薬物などが挙げられる。 【0023】 (a3)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 上記の中でも、(a3)成分としては、経時に伴う錠剤硬度の低下がより抑制されることから、乳糖又はその水和物、水溶性の活性薬物が好ましい。これらの中でも、乳糖又はその水和物、マンニトール及びアセトアミノフェンからなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、マンニトール及びアセトアミノフェンからなる群より選ばれる1種以上がさらに好ましい。」 「【0029】 <炭酸水素塩及び炭酸塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)> 粒子(B)は、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる。以下、炭酸水素塩(b1)、炭酸塩(b2)を、それぞれ(b1)成分、(b2)成分ともいう。 (b1)成分、(b2)成分は、主に、体内での(a1)成分の分散性向上を図るために配合する成分である。 【0030】 (B)成分の平均粒子径は、10?1000μmが好ましく、30?1000μmがより好ましく、70?900μmがさらに好ましい。(B)成分の平均粒子径が、前記の好ましい下限値以上であれば、(B)成分の流動性が良好になるため、製造時に扱いやすくなり、前記の好ましい上限値以下であれば、体内での(a1)成分の分散性がより高まる。」 「【0033】 ≪炭酸水素塩(b1)≫ (b1)成分における炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。(b1)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、(b1)成分としては、体内での(a1)成分の分散性向上の効果がより高いことから、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが好ましく、炭酸水素ナトリウムがより好ましい。 内服固形錠剤中の(b1)成分の含有割合は、特に限定されないが、内服固形錠剤の総質量に対し、例えば0.05?15質量%が好ましく、0.1?6質量%がより好ましく、0.3?2質量%がさらに好ましく、0.5?1.5質量%が特に好ましい。錠剤中の(b1)成分の含有割合が前記の好ましい下限値以上であれば、体内での(a1)成分の分散性が向上する。一方、錠剤中の(b1)成分の含有割合が前記の好ましい上限値以下であれば、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制される。 (b1)成分の粒子群の平均粒子径(体積平均の粒子径)は、30?1000μmが好ましく、より好ましくは70?500μm、さらに好ましくは120?300μmである。(b1)成分の粒子群の平均粒子径が前記の好ましい下限値以上であれば、錠剤を製造する際のハンドリング性がより向上し、一方、(b1)成分の粒子群の平均粒子径が前記の好ましい上限値以下であれば、体内での(a1)成分の分散性がより向上する。 【0034】 ≪炭酸塩(b2)≫ (b2)成分における炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。(b2)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、(b2)成分としては、炭酸ナトリウムまたは炭酸カルシウムが好ましく、炭酸ナトリウムがより好ましい。炭酸ナトリウムを用いる場合、炭酸ナトリウムの水和物が用いられてもよく、無水炭酸ナトリウムが用いられてもよいが、無水炭酸ナトリウムを用いることが好ましい。 錠剤中の(b2)成分の含有割合は、特に限定されないが、内服固形錠剤の総質量に対し、例えば1?10質量%が好ましく、3?9質量%がより好ましく、5?9質量%がさらに好ましく、7?8質量%が特に好ましい。錠剤中の(b2)成分の含有割合が前記の好ましい下限値以上であれば、包装体の薬物収納部の経時に伴う膨張が少なく、体内での(a1)成分の分散性がより向上する。一方、錠剤中の(b2)成分の含有割合が前記の好ましい上限値以下であれば、錠剤の小型化が容易となり、服用性を高められやすい。 (b2)成分の粒子群の平均粒子径(体積平均の粒子径)は、30?1000μmが好ましく、より好ましくは100?900μm、さらに好ましくは250?800μm、特に好ましくは400?600μmである。(b2)成分の粒子群の平均粒子径を前記の好ましい範囲内とすることで、包装体の薬物収納部の経時に伴う膨張が生じにくくなる。 【0035】 本発明では、(B)成分は、(b1)成分を少なくとも1種と、(b2)成分を少なくとも1種とを含有することが好ましい。(B)成分が(b1)成分と(b2)成分とをいずれも含むことにより、分散性が良好で、経時による錠剤硬度低下がさらに抑制され、包装体の薬物収納部の膨張も抑制できる。 【0036】 内服固形錠剤が(b1)成分と(b2)成分とを両方含む場合、(b1)成分と(b2)成分との質量比、すなわち、(b1)成分/(b2)成分で表される質量比(以下「b1/b2比」とも表す)は、2以下であり、好ましくは0.01?2、より好ましくは0.03?1.0、さらに好ましくは0.07?0.2である。b1/b2比が前記の上限値以下であれば、包装体の薬物収納部の経時に伴う膨張が生じにくくなる。b1/b2比が前記の好ましい下限値以上であれば、体内での(a1)成分の分散性がより向上する。また、b1/b2比を好適範囲に設定することで、錠剤硬度の低下がさらに抑制される。」 「【0059】 上述した本発明の内服固形錠剤は、(B)成分を含有するため、体内での(a1)成分の分散性が高くなり、薬物の即効性が向上する。 また、(a1)成分が(a2)成分と(a3)成分とを組み合わせて造粒されているため、体内での(a1)成分の分散性がさらに高まる。 加えて、経時に伴う錠剤硬度の低下も抑制される。錠剤硬度の低下は、錠剤内での(a1)成分と(B)成分との反応に起因する、と推定される。本発明においては、(a1)成分を造粒することで、(a1)成分と(B)成分との反応が生じにくくなっている。このため、経時において錠剤硬度が保たれる、と考えられる。」 ・実施例の記載 「【0060】 以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、「%」は、特に断りがない限り「質量%」を示す。 本実施例において使用した原料は下記の通りである。 【0061】 ・造粒粒子(A) ・・水難溶性薬物(a1) イブプロフェン、商品名「イブプロフェン25」(BASF社製)。20℃の水に対する溶解度0.077mg/mL。 【0062】 ・・高分子化合物(a2) ヒドロキシプロピルセルロース、商品名「HPC-SSL」(日本曹達株式会社製)。重量平均分子量40000、2質量%水溶液の20℃における粘度2.45mPa・s。 低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、商品名「LH-31」(信越化学工業株式会社製)。重量平均分子量100000。 【0063】 ・・水溶性粉体(a3) アセトアミノフェン、商品名「ピレチノール」(岩城製薬株式会社製)。20℃の水に対する溶解度14mg/mL、分子量151.2 平均粒子径30μm。 マンニトール、商品名「ペアリトール50C」(ロケット社製)。20℃の水に対する溶解度200mg/mL、分子量182.2、平均粒子径50μm。 乳糖水和物、商品名「Pharmatose 50M」(DFE Pharma社製)。20℃の水に対する溶解度161mg/mL、分子量360.3、平均粒子径50μm。 【0064】 ・・水難溶性粉体(a3’):(a3)成分の比較成分 結晶セルロース、商品名「セオラス PH-302」(旭化成ケミカルズ株式会社製)。20℃の水に対する溶解度0.0001mg/mL以下、分子量16200?48700、平均粒子径90μm。 【0065】 ・炭酸水素塩及び炭酸塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B) ・・炭酸水素塩(b1) 炭酸水素ナトリウム、商品名「重炭酸ナトリウムKF」(旭硝子株式会社製)。平均粒子径110μm。 ・・炭酸塩(b2) 無水炭酸ナトリウム、商品名「乾燥炭酸ナトリウム」顆粒グレード(高杉製薬株式会社製)。平均粒子径564μm。 無水炭酸ナトリウム、商品名「乾燥炭酸ナトリウム」粉末グレード(高杉製薬株式会社製)。平均粒子径45μm。 炭酸カルシウム、商品名「炭酸カルシウム」(和光純薬工業株式会社製)。平均粒子径90μm。 炭酸マグネシウム、商品名「炭酸マグネシウム」(協和化学工業株式会社製)。平均粒子径100μm。 炭酸カリウム、商品名「炭酸カリウム」(和光純薬工業株式会社製)。平均粒子径120μm。 【0066】 ・その他の成分(C) ラウリル硫酸ナトリウム、商品名「SLS」(日光ケミカルズ株式会社製)。 クロスポビドン、商品名「Kollidon CL-SF」(BASF社製)。 マンニトール、商品名「ペアリトール200SD」(ロケット社製)。 ステアリン酸マグネシウム、商品名「ステアリン酸マグネシウム」(太平化学産業株式会社製)。 【0067】 <内服固形錠剤の製造方法> まず、(a1)成分と、(a2)成分と、(a3)成分又は(a3’)成分と、を含む造粒粒子1?7をそれぞれ製造した。次いで、各造粒粒子と、(B)成分と、その他の成分と、を混合して打錠することにより内服固形錠剤を得た。 【0068】 ≪造粒工程≫ 表1に示す組成(配合成分、含有量(質量%))に従い、造粒粒子を下記の製造方法によりそれぞれ製造した。表1中、配合成分の含有量は純分換算量を示す。 造粒粒子の粒子群の平均粒子径は、レーザー回折・散乱粒度分布測定装置「LS230型」(ベックマン・コールター社製)を用いて測定した。 表1に記載の「質量比(a3)/(a1)」は、造粒粒子中の、(a1)成分の含有量に対する、(a3)成分の含有量の質量割合を意味する。造粒粒子7については、造粒粒子中の、(a1)成分の含有量に対する、(a3’)成分の含有量の質量割合を意味する。 【0069】 (造粒粒子1の製造) イブプロフェン((a1)成分)2145gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース((a2)成分)858gとを混合して混合物を得た。次いで、該混合物を粉砕機コロプレックス(株式会社パウレック製、160Z型)に投入し、回転数12000rpmの条件で粉砕して粉砕物を得た。該粉砕物の平均粒子径は12μmであった。 次いで、該粉砕物1365gを、予熱しておいたスパイラフロー(フロイント産業株式会社製、SFC-5型)に投入し、給気温度55℃、排気風量2.7m3/分、ローター回転数200rpmの条件で流動を開始した。 排気温度が43℃以上であることを確認した後、ヒドロキシプロピルセルロース((a2)成分)の水溶液(HPC-SSL:精製水=150:2350(質量比))6000gを、2流体ノズルATF型(穴径φ1.8mm)を用いて噴霧した。 前記噴霧の後、給気温度を65℃に変更し、乾燥を行った。排気温度が43℃に達した時点で、乾燥を終了して造粒物を得た。 得られた造粒物を、目開き850μmの篩を用いて篩過し、造粒粒子1を得た。造粒粒子1の粒子群の平均粒子径は182μmであった。 【0070】 (造粒粒子2の製造) 上記造粒粒子1の製造と同様にして、イブプロフェンと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとの粉砕物を得た。 次いで、該粉砕物1365gと、所定量の(a3)成分と、を予熱しておいた前記スパイラフローに投入し、上記造粒粒子1の製造と同様にして流動を開始した。 その後、表1に示す組成となるように、上記造粒粒子1の製造と同様にして、噴霧、乾燥、篩過を行い、造粒粒子2を得た。造粒粒子2の粒子群の平均粒子径を表1に示す。 【0071】 (造粒粒子3?6の製造) 表1に示す組成に従い、(a3)成分の種類、各成分の配合量を変更した以外は、上記造粒粒子2の製造と同様にして造粒粒子3?6をそれぞれ得た。造粒粒子3?6の粒子群の各平均粒子径を表1に示す。 【0072】 (造粒粒子7の製造) 表1に示す組成に従い、(a3)成分を(a3’)成分に変更した以外は、上記造粒粒子2の製造と同様にして造粒粒子7を得た。造粒粒子7の粒子群の平均粒子径を表1に示す。 【0073】 ((b2)の造粒) 実施例31?33で用いた炭酸ナトリウムには、以下に示す方法によって作製したものを用いた。 平均粒子径45μmの無水炭酸ナトリウム、商品名「乾燥炭酸ナトリウム」粉末グレード1kgを、撹拌造粒機(ハイスピードミキサFS-10、深江パウテック株式会社製)に投入した。ここに水50gを添加し、アジテーター回転数300rpm、チョッパー回転数1500rpmにて撹拌、造粒した。撹拌造粒機内の粉体を回収し、恒温槽にて乾燥した。乾燥した粉体を、篩によって所定の粒径毎に分級し、表6に示す平均粒子径の無水炭酸ナトリウムの粒子群を得た。 【0074】 【表1】 【0075】 ≪打錠工程≫ 表2?6に示す組成(配合成分、含有量(mg/錠))に従い、各例の内服固形錠剤を下記の製造方法によりそれぞれ製造した。表2?6に記載されている各成分の含有量(mg/錠)は、錠剤1錠当たりの各配合成分の質量である。表2?6中、配合成分の含有量は純分換算量を示す。 表2?3中、「(A’)成分」は、(A)成分の比較成分であることを示す。 表2?6に記載の「合計(mg)」は、錠剤1錠当たりの配合成分の質量の合計である。「質量比(a3)/(B)」は、錠剤1錠中の、(B)成分の含有量に対する、(a3)成分の含有量の質量割合を意味する。 【0076】 (実施例1?33、比較例1?3) 1錠当たりの組成が表2?6に示す配合割合になるように、混合機(寿工業株式会社製のボーレコンテナミキサー「LM20」、寿工業株式会社製のコンテナ「MC20」)に、(A)成分又は(A’)成分と、(B)成分と、(C)成分とを投入した。投入した粉体の総質量を約2kgとした。各配合成分を投入した後、回転数21rpmで混合を20分間行い、混合粉体を得た。 次いで、ロータリー式打錠機(株式会社菊水製作所社製、リブラ)を用い、得られた混合粉体を、錠剤硬度が約78.5Nとなるように打錠圧を設定し、約9mm径の内服固形錠剤を得た。 【0077】 <評価> 各例の内服固形錠剤について、以下に示す分散性評価試験、及び、錠剤硬度試験をそれぞれ行った。 【0078】 [分散性評価試験] パドル溶出試験器(富山産業株式会社)を用いて分散性評価試験を実施した。 パドルの撹拌翼が充分に隠れる程度の胃モデル液(塩化ナトリウムと塩酸とを水に溶かし、pHを1.8に調整した液)に、錠剤2錠を添加し、崩壊した錠剤が強制的に液中で分散しない程度に撹拌した。 錠剤2錠を、胃モデル液に添加してから5分間経過後に、その液を採取してバイアル瓶に移し、アセトニトリルと酢酸とを添加してイブプロフェンを溶解した。 イブプロフェンを溶解した後、0.45μmのフィルターでろ過し、高速液体クロマトグラフィでイブプロフェンの量を測定した。この高速液体クロマトグラフィの測定結果から、錠剤から試験液に分散したイブプロフェンの量を逆算した。 錠剤を添加してから5分間経過後の分散率は、添加した錠剤中のイブプロフェンの総質量に対する、該錠剤から分散したイブプロフェンの質量の割合(%)、を求めることにより算出した。 本実施例において、かかる分散率が50%以上であれば、体内でのイブプロフェンの分散性が充分に高い、と言える。また、かかる分散率が70%以上であれば、体内でのイブプロフェンの分散性が顕著に高く、80%以上であれば、体内でのイブプロフェンの分散性が極めて顕著に高い、と言える。 【0079】 [錠剤硬度試験] 錠剤硬度破壊測定機(富山産業株式会社製、TH-203CP)を用いて、錠剤の硬度を測定した。 測定用の試料として、製造直後の錠剤(初期品)、及び、製造直後の錠剤を50℃で24時間保存したもの(保存品)のそれぞれ10錠ずつを用いた。そして、錠剤10錠の各硬度を測定し、これらの平均値を求めた。 初期品と保存品との錠剤硬度の差が小さいほど、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制されている。かかる錠剤硬度の差は、10N以下が好ましく、6N以下がより好ましく、5N以下がさらに好ましい。 【0080】 [包装体における薬物収容部の膨張を抑制する効果についての評価] PTP(プレススルーパッケージ)として、径11.5mm、深さ7mmのポケット(薬物収容部)が成型されたプラスチックシート(厚さ0.30μm、VSL-4610N、住友ベークライト株式会社製)を用いた。 各例の錠剤を、それぞれ前記PTPの薬物収容部に収容し、薬物収容部を塞ぐようにアルミフィルムをPTPにヒートシールすることにより、PTP包装体を作製した。尚、薬物収容部の縁から、プラスチックシートのミシン目(隣接する包装体)までの距離は4mmであるプラチックフィルムを用いた。 次いで、得られたPTP包装体を、温度50℃、相対湿度75%RHの条件下で、2週間保管した。そして、下記の評価基準に従い、包装体における薬物収容部の膨張を抑制する効果について評価した。 図1は、上述の保管を行った後のPTP包装体の状態(外観)を示す写真であり、下記評価基準(I、II、III、IV)のそれぞれの状態を示すPTP包装体の一例である。 図1に示すPTP包装体においては、平面視略円形状の薬物収容部1に錠剤が収容され、アルミフィルム2が薬物収容部1を塞ぐように設けられている。 評価基準 I:薬物収容部1の膨張も、アルミフィルム2の剥がれも認められなかった(全く膨れなし)。 II:薬物収容部1の膨張が少し認められたが、プラスチックシートからのアルミフィルム2の剥がれは認められなかった(膨れあり、シール剥がれなし)。 III:薬物収容部1が膨張し、アルミフィルム2がプラスチックシートから剥がれているが、ミシン目までは到達していなかった(膨れあり、シール剥がれあり)。 IV:薬物収容部1が膨張し、アルミフィルム2がプラスチックシートから剥がれてミシン目まで到達していた(シール剥がれあり、ミシン目まで到達)。 【0081】 【表2】 【0082】 【表3】 【0083】 【表4】 【0084】 【表5】 【0085】 【表6】 【0086】 表2?6に示す結果から、本発明を適用した実施例1?33の内服固形錠剤は、比較例1?3の内服固形錠剤に比べて、体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制されていること、が確認できる。 また、炭酸水素塩(b1)として炭酸水素ナトリウム、炭酸塩(b2)として炭酸ナトリウム又は炭酸カルシウム、を含み、かつ炭酸水素塩(b1)/炭酸塩(b2)で表される質量比が2以下である実施例22?33では、包装体の薬物収容部の膨張が抑制されていることが確認できる。」 2.技術常識を示す文献の記載について ア 本件特許の出願時の技術常識(以下、単に「技術常識」という。)を示す文献である、「NEWパワーブック物理薬剤学・製剤学」(株式会社廣川書店、2007年発行、P330-331)には、以下の記載がある。 「固形製剤には,主として賦形剤,崩壊剤,結合剤,滑沢剤,コーティング剤などの添加剤が用いられる.それらは,同一の物質であっても,複数の機能を併せもつことも多い(表4.2). A 賦形剤 diluents,fillers 賦形剤は製剤の増量あるいは希釈剤として添加されるが,製造の工程や製剤からの主薬の放出などにも大きな影響を及ぼすのでその選択は重要である.賦形剤の中では乳糖,白糖,D-マンニトール,デンプン,結晶セルロース(MCC)が繁用されており,その他,無機塩のリン酸カルシウムや炭酸カルシウムなども用いられる. 乳糖 水溶性であるが,臨界相対湿度が高く,吸湿性が小さいため使いやすい.また,安全で,配合変化も少なく,甘みも強くないことから広く用いられている.まれに,乳糖に不耐性の患者において下痢などの消化器症状を呈することがあるので注意を要する. D-マンニトール 配合変化が少なく,吸湿性も小さい.清涼感を伴う甘味を有し,乳糖とならび広く用いられている.湿式造粒による顆粒剤や錠剤の賦形剤として添加される. デンプン トウモロコシデンプンが繁用されている.その他,局方にはコメ,コムギ,バレイショデンプンが収載されている.配合変化が少なく,水中で直ちに膨潤するため崩壊剤としても有用であるが,大量の添加でキャッピングの原因となることがある. 結晶セルロース 植物繊維のパルプとして得たΑ-セルロースを鉱酸で加水分解し,精製したものである.多孔質性の微粉末粒子で,薬物の吸着能力に優れている.打錠時のキャッピングも起こしにくく,結合性や崩壊性を兼ね備えた添加剤として広く用いられている. B 結合剤 binders 乾式造粒や直接打錠では粉末に混合し,湿式造粒では溶液あるいは懸濁液として粉末に添加する.結合剤は,粒子間を強い力で凝集させるが,添加量が多いと崩壊性の低下をきたすため,最適濃度で用いる.セルロース系のMCC,メチルセルロース(MC),ヒドロキシプロピルセルロース(HPC),ヒプロメロース(HPMC)やポリビニルピロリドン(PVP),ゼラチン,デンプン糊などが用いられる. HPC セルロースのヒドロキシプロピルエーテル.少量(2?6%)の添加で良好な結合性を示し,水でもエタノール溶液でも使用できるため繁用される.また,水溶性コーティングのフィルム基剤としても用いられる.特に高濃度溶液(15?35%)は徐放性製剤のコーティング剤に利用される. PVP ビニルピロリドンをラジカル重合させた合成の高分子化合物.安全性は高く,水またはアルコール溶液として用いられる.粉末でも使用できるが,吸湿性が大きいので注意を要する. C 崩壊剤 disintegrators 経口製剤の消化管内での崩壊性の良否は,主薬の吸収性に直接影響を及ぼすため,ぬれやすく,膨潤力のすぐれた崩壊剤を選ぶ必要がある.デンプン,MCC,カルメロースとそのカルシウム塩,クロスカルメロースナトリウム,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)などがよく用いられる.崩壊の機構については,主に膨潤と毛細管現象によるものと考えられている. カルメロース セルロースをカルボキシメチル化した半合成高分子.膨潤性にすぐれ,また,賦形剤として良好な圧縮成形性も示す.多くの薬物との配合が可能であるが,吸湿性のため,保管には注意が必要である.クロスカルメロースナトリウムは,本剤の架橋重合体である.」 イ 技術常識を示す文献である、「医薬品添加物事典 2007」(株式会社薬事日報社、2009年11月6日第2刷発行、P382-383の「結合剤」の項目)には、本件訂正発明1における(a22)に相当する化合物であるアラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロースと同義)、メチルセルロース、ポピドン、ポリアクリル酸部分中和物、ポリビニルアルコールが例示されている。 第5 令和2年3月9日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由 1.取消理由通知(決定の予告)における取消理由 取消理由通知(決定の予告)における取消理由は、以下の取消理由1であり、令和1年10月31日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された、以下の請求項1?5に係る特許に対するものである。 <取消理由1(サポート要件)> 請求項1?5に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、令和1年10月31日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された請求項1?5は、以下のとおりである。 「【請求項1】 20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)、分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)を含む造粒粒子(A)と、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有し、 前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、 前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上である、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 【請求項2】 前記造粒粒子(A)中の前記水溶性粉体(a3)の含有量が、10質量%以上であり、 前記水溶性粉体(a3)は、糖類、糖アルコール類、無水リン酸二水素カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、アセトアミノフェン、無水カフェイン、及びカフェイン水和物からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の内服固形錠剤。 【請求項3】 前記粒子(B)が、前記炭酸水素塩(b1)と、前記炭酸塩(b2)とを含有し、前記水難溶性薬物(a1)は前記粒子(B)と反応し得る薬物である、請求項1又は2に記載の内服固形錠剤。 【請求項4】 前記炭酸水素塩(b1)が炭酸水素ナトリウムであり、前記炭酸塩(b2)が炭酸ナトリウム、及び炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の炭酸塩であり、炭酸水素塩(b1)/炭酸塩(b2)で表される質量比が2以下である、請求項3に記載の内服固形錠剤。 【請求項5】 前記粒子(B)の体積平均粒子径が、10?1000mmである、請求項1?4のいずれか一項に記載の内服固形錠剤。」 (以下、「本件発明1」等といい、本件発明1?5をまとめて「本件発明」ともいう。) 2.取消理由通知(決定の予告)における取消理由1の指摘内容 取消理由1に関し、取消理由通知(決定の予告)においては、本件発明1?5については、主に以下の点を指摘した。 (1)本件発明が解決しようとする課題について 本件発明が解決しようとする課題(以下「本件発明の課題」という。)は、「体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制された内服固形錠剤を提供すること」であると認められる。 (2)本件発明1について ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、特に、本件発明の課題と、課題解決手段との関係に関する【0008】、【0016】、【0024】及び【0059】の記載によれば、発明の詳細な説明には、体内での薬物の分散性を高めるという課題の解決が、主に、錠剤中に「炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)」を含有させることでなされるとされている。 また、経時に伴う錠剤硬度の低下を抑制するという課題の解決は、内服固形錠剤が「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)」を水難溶性薬物(a1)及び主に結合剤として機能する高分子化合物(a2)と組み合わせて造粒した造粒粒子を含むものとすることでなされるとされており、錠剤硬度の低下の原因として、錠剤内での(a1)成分と(B)成分との反応が推定され、(a1)成分を造粒することで、(a1)成分と(B)成分との反応が生じにくくなることで経時に伴う錠剤硬度が保たれると考えられるとされている。 イ 発明の詳細な説明には、具体的な実施例として、水難溶性薬物(a1)としてのイブプロフェンと、水膨潤性高分子化合物(a21)としての低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「L-HPC」という。)を共粉砕した上で、水溶性粉体(a3)としてのアセトアミノフェン、マンニトール又は乳糖水和物を投入して流動させ、さらに水溶性高分子化合物(a22)としてのヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」という。)の水溶液を噴霧して乾燥させることで得られた造粒粒子(A)と、粒子(B)及びその他成分(C)とを打錠して製造した特定の内服固形錠剤(以下、単に「本件実施例」という)(表2?6の実施例1?33)が、(a3)及び(B)を配合しない特定の対照例(比較例2)に比して、分散性が高く、(a3)を配合しない、又は(a3)でない結晶セルロースを配合した特定の対照例(比較例1及び3)に比して分散性を下げることなく経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制されたことを示す結果が記載されている。 ウ そして、本件発明は、発明の詳細な説明の記載によれば、従来、難溶性薬物と水溶性又は水膨潤性高分子化合物を含有する造粒粒子と他の原料とからの錠剤における分散性の問題を解決しようとしたときに生じた経時に伴う錠剤硬度の低下の問題を解決したものであること(【0003】-【0007】)を踏まえると、実施例の記載から、当業者は、次のことを理解できる。 本件発明では、難溶性薬物を含む錠剤の分散性を改善するために、イブプロフェンに例示される難溶性薬物(a1)に加えて、L-HPCに例示される、崩壊剤として機能する所定の水膨潤性高分子化合物(a21)、HPCに例示される、結合剤として機能する所定の水溶性高分子化合物(a22)からの造粒粒子を含むものとした従来の錠剤の分散性の問題を、粒子(B)を含む錠剤とすることで解決できること。 一方で、錠剤に粒子(B)を含有せしめることで、経時に伴う錠剤硬度の低下の問題が生じること、そして、この問題は、当該造粒粒子を、さらに、アセトアミノフェン、マンニトール又は乳糖水和物を加えた造粒粒子(A)とすることで解決できること。 エ しかしながら、本件発明1の(a3)は、「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満」の化合物であって、これには、本件特許明細書の【0022】に記載のとおり、ショ糖等の糖類、ソルビトール等の糖アルコール類、無水リン酸二水素カリウム、塩化ナトリウム等の無機塩類;アセトアミノフェン等の活性薬物など、無機化合物から有機化合物までを包含する化学構造の異なる多種多様な化合物が包含されており、その性質としても、酸性のものも塩基性のものも含まれるし、「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上」には、医薬分野における一般的な基準からすると「溶けにくい」化合物から極めて溶けやすい化合物までもが包含される(必要なら、申立人の提出した甲17である第16改正 日本薬局方(平成23年3月24日)の「4 通則」の項目29参照。)。 このように、本件発明1の(a3)には、化学構造及び性質の異なる多種多様な化合物が包含される一方で、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例において錠剤硬度の低下の問題が解決できることが確認された造粒粒子(A)内における「アセトアミノフェン、マンニトール、乳糖水和物(a3)」が、どのような作用機序で錠剤硬度の低下を抑制するのかについて何ら説明されていない。 そうすると、発明の詳細な説明の記載からは、「アセトアミノフェン、マンニトール、乳糖水和物」に共通する物性であるとして特定されている所定の「20℃の水に対する溶解度」及び「分子量」を有することが、錠剤硬度の低下を抑制できることに寄与していることを、当業者は理解することができない。 また、(B)に起因する経時に伴う錠剤硬度の低下の抑制作用と、錠剤に含まれる成分の「20℃の水に対する溶解度」や「分子量」とに相関関係があり、錠剤中に含まれる、(a1)、(a21)及び(a22)を含有する造粒粒子に、本件発明1で特定される「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)」を含有させれば、(a3)の化学構造や性質に関わらず、アセトアミノフェン、マンニトール又は乳糖水和物と同様に、(B)に起因する経時に伴う錠剤硬度の低下を抑制することができるとの技術常識があったとも認められない。 オ したがって、上記アの、本件発明の課題と、課題解決手段との関係に関する発明の詳細な説明の記載にかかわらず、造粒粒子(A)中に溶解度及び分子量のみが特定される(a3)を含有する本件発明1は、出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により、当業者が、「体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制された内服固形錠剤を提供する」という本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。 (3)本件発明2?5について 本件発明2?5もまた、出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により、当業者が、「体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制された内服固形錠剤を提供する」という本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。 第6 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由1についての判断 1.本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項、本件訂正発明が解決しようとする課題、本件訂正発明の技術的意義、及び出願時の技術常識について (1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項 上記第4の1.によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されているといえる。 ア 発明が解決しようとする課題に関する記載事項 従来、体内における薬物の溶出性の向上を図ることを目的として、水難溶性薬物と賦形剤との共粉砕物に、水溶性又は水膨潤性高分子化合物を含有する水性液を噴霧しながら湿式造粒してなる造粒粒子、及び、他の原料とを混合し打錠して錠剤としたものが知られていた(【0003】)が、イブプロフェン等の水難溶性薬物は、体内に吸収されるのが遅いため、崩壊性を高めるだけでは、薬物の即効性を良くすることができなかった(【0005】)。 そこで、発明者らは、体内で崩壊した錠剤から溶け出す薬物の体内での分散性を高めて錠剤の即効性を高めるようにしたが、その場合、錠剤硬度が経時に伴って低下し、移送時又は実使用において、錠剤が割れたり欠けたりするという問題生じた。(【0006】) 本件訂正発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、「体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制された内服固形錠剤、を課題とする。」(【0007】) イ 課題を解決するための手段に関する一般的な記載事項 ・本発明者らは鋭意検討により、イブプロフェン等の水難溶性薬物及び賦形剤と、炭酸塩又は炭酸水素塩と、を併有させることで、該水難溶性薬物の体内での分散性が高くなり、薬物の即効性が向上すること、を見出した。加えて、特定の水溶性粉体(合議体注;本件訂正発明1の(a3)に相当する。)を組み合わせることで、該水難溶性薬物の体内での分散性がより高まると共に、経時において錠剤硬度が保たれることを見出し、本発明を完成するに至った。(【0008】) ・水難溶性薬物(a1)は、20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の薬物であり、特に限定されないが、本発明による効果が特に顕著に得られることから、非ステロイド性抗炎症剤が好ましく、特に、イブプロフェンが好ましい。(【0013】-【0014】) ・高分子化合物(a2)は、主に結合剤として機能する成分であり、分子量が1000以上、好ましくは5000以上の水膨潤性高分子化合物(a21)、及び、20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上であり、分子量が1000以上、好ましくは5000以上の水溶性高分子化合物(a22)からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物であり、(a21)としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン等が挙げられ、(a22)としては、カルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等が挙げられる。(【0016】-【0018】) ・水溶性粉体(a3)は、20℃の水に対する溶解度が5mg/mL超、好ましくは10mg/mL以上で、分子量が1000未満の粉体であり、(B)成分に該当する化合物は含まれない。経時に伴う錠剤硬度の低下がより抑制されることから、乳糖又はその水和物、水溶性の活性薬物が好ましく、乳糖又はその水和物、マンニトール及びアセトアミノフェンからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。(a3)の含有量が造粒粒子(A)の総質量に対して10質量%以上であれば、錠剤の濡れ性が改善され、体内での(a1)の分散性がより高まるし、経時に伴う錠剤硬度の低下も抑制される。(【0022】-【0024】) ・粒子(B)は、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなり、(b1)及び(b2)は、主に体内での(a1)の分散性向上を図るために配合する成分である。また、(B)成分の体積平均粒子径は10?1000μmが好ましい。(【0029】-【0030】) ・(b1)としては炭酸水素ナトリウム等、(b2)としては炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等が挙げられ、(b1)/(b2)で表される質量比は2以下である。(【0033】-【0034】、【0036】) ・本発明の内服固形錠剤は、(B)を含有するため、体内での(a1)の分散性が高くなり、薬物の即効性が向上する。また、(a1)が(a2)と(a3)とを組み合わせて造粒されているため、体内での(a1)の分散性がさらに高まり、加えて、経時に伴う錠剤硬度の低下も抑制される。(【0059】) ウ 発明の効果に関する記載事項 本発明の内服固形錠剤によれば、体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制される。(【0009】) エ 実施例の記載事項 実施例(【0060】-【0086】)の記載、特に【0082】の【表2】の記載からは、以下の記載事項が示されているといえる。 (i)比較例1と比較例2の比較から、粒子(B)が存在しなければ(比較例2)、水難溶性薬物(a1)であるイブプロフェンの分散性が劣り、また、実施例1-4の比較から、粒子(B)を増やすと分散性が向上すること。 つまり、粒子(B)は、分散性に寄与していること。 (ii)比較例1と比較例2,3の比較から、水溶性粉体(a3)を含まない造粒粒子(A)を含む錠剤であっても、粒子(B)が存在しない場合(比較例2)には、錠剤硬度の経時低下は生じないこと。 つまり、錠剤硬度の経時低下の問題は、錠剤が粒子(B)を含む場合に生じる問題であること。 (iii)比較例3から、造粒粒子(A)が、本件訂正発明で特定される水溶性粉体(a3)以外の他の結合剤・崩壊剤である結晶セルロースで造粒されている場合には、粒子(B)が含まれている場合に生じる錠剤硬度の経時低下の問題は解決できないこと。 (iv)比較例3から、マンニトールが、錠剤中に造粒粒子(A)とは別の成分(C)として、大量に含まれている場合であっても、造粒粒子(A)中に水溶性粉体(a3)としてマンニトールが含まれていない場合には錠剤硬度の低下が抑えられないこと。 (v)実施例9-11の比較から、水溶性粉体(a3)であるマンニトールを増やしても薬物(a1)の分散性は変わらないが、錠剤硬度の経時変化はマンニトール含有量に応じてより抑えられること。 また、【0082】-【0085】の【表2】-【表6】の実施例の記載によれば、難溶性薬物(a1)としてのイブプロフェン、水膨潤性高分子化合物(a21)としての低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、水溶性高分子化合物(a22)としてのヒドロキシプロピルセルロース、及び、水溶性粉体(a3)であるアセトアミノフェン、マンニトール又は乳糖水和物を含む造粒粒子(A)(造粒粒子2-6)と、炭酸水素ナトリウム(b1)及び/又は炭酸ナトリウム(b2)からなる粒子(B)を含有する錠剤は、造粒粒子(A)中に上記水溶性粉体(a3)を含まず、錠剤が分散性を高めるための(B)を含む錠剤(比較例1)で生じる錠剤硬度の経時低下の問題は解決されており、体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の経時低下が抑制された錠剤となっていることが示されている。 (2)本件訂正発明が解決しようとする課題 上記(1)アで指摘した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項(特に、【0007】)によれば、本件訂正発明が解決しようとする課題は、「体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制された内服固形錠剤を提供すること」であると認められる。 (3)本件訂正発明の技術的意義 上記(1)イ及びエによれば、本件訂正発明は、上記(2)に記載の課題、より具体的には、水難溶性薬物(a1)、水膨潤性高分子化合物(a21)及び水溶性高分子化合物(a22)から選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)を含む本件訂正発明の造粒粒子(A)に対応する、上記(1)アの【0003】の従来技術あるいは上記(1)エの比較例2に記載の造粒粒子を含む錠剤における即効性、つまり、薬物の体内での分散性の改善のために、粒子(B)を構成する(b2)及び(b1)にそれぞれ相当する、炭酸塩又は炭酸水素塩を組み合わせて、薬物の体内での分散性を高め、薬物の即効性を向上させるようにした錠剤とした場合に生じた問題、すなわち、上記(1)アの【0006】あるいは上記(1)エにおける比較例3に記載の錠剤で生じる、錠剤硬度が経時に伴って低下し、移送時又は実使用において、錠剤が割れたり欠けたりするという問題を解決するものである。 そうすると、本件訂正発明は、水難溶性薬物(a1)、所定の水膨潤性高分子化合物(a21)及び所定の水溶性高分子化合物(a22)から選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)を含む造粒粒子からの錠剤を、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)を併有する内服固形錠剤として、体内での(a1)の分散性を高め、薬物の即効性が向上できる錠剤とすることで生じる経時に伴う錠剤硬度の低下の問題を、上記造粒粒子を、水溶性粉体(a3)であるアセトアミノフェン、マンニトール又は乳糖水和物のいずれか1種以上も含む造粒粒子(A)とした本件訂正発明の錠剤とすることで解決したものであり、本件訂正発明により、水難溶性薬物の体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う硬度の低下が抑制された錠剤となる(上記(1)ウ)という効果が奏される、という技術的意義を有するといえる。 (4)出願時の技術常識 上記第4の2.のア及びイによれば、本件訂正発明1の「水膨潤性高分子化合物(a21)成分」は、水膨潤性を有し、いずれも崩壊剤として機能するものであること、本件訂正発明1の「水溶性高分子化合物(a22)成分」として特定される化合物はいずれも結合剤として機能するものであることが理解できる。 2.本件訂正発明1について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識等に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件訂正発明1 本件訂正発明1は、上記第3に記載した以下のとおりのものである。 「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)、分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)を含む造粒粒子(A)と、 炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有し、 前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、 前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上であり、 前記水溶性粉体(a3)は、アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上である、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。」 (3)本件訂正発明1についての判断 上記1.(1)で記載した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項、特に、エの実施例の記載事項によれば、水難溶性薬物(a1)としてのイブプロフェン、崩壊剤として機能する本件訂正発明1の水膨潤性高分子化合物(a21)としての低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結合剤として機能する本件訂正発明1の水溶性高分子化合物(a22)としてのヒドロキシプロピルセルロース、及び、水溶性粉体(a3)であるアセトアミノフェン、マンニトール又は乳糖水和物を含む造粒粒子(A)と、炭酸水素塩(b1)である炭酸水素ナトリウム(b1)及び/又は炭酸塩(b2)である炭酸ナトリウムからなる粒子(B)を含有する錠剤は、造粒粒子(A)中に上記水溶性粉体(a3)を含まず、錠剤が分散性を高めるための(B)を含む錠剤で生じる錠剤硬度の経時低下の問題を解決することができ、体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の経時低下が抑制された錠剤となっており、本件訂正発明1の課題が解決できることが理解できる。 そして、本件訂正発明1で特定される(a1)、(a21)、(a22)、(b1)及び(b2)は、いずれも、実施例で使用されているものよりも広範囲のものとなっているが、まず、(b1)及び(b2)については、上記1.(1)のイ(【0008】)によれば、これらは、水難溶性薬物の体内での分散性を高める成分であって、実施例の化合物はその具体例に過ぎず(【0033】-【0034】)、これらに限定されるものではないし、当業者は、(b1)及び(b2)が、錠剤の服用時に胃液と反応することで、発泡し、錠剤の分散を助ける機能を発揮するものであり、この機能は実施例の化合物に限らず、錠剤に含まれる任意の炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)でも発揮される機能であることを理解できる。 また、(a1)については、上記1.(1)イ(【0013】-【0014】)によれば、発明の詳細な説明には、(a1)は、20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の薬物であり、特に限定されないが、本発明による効果が特に顕著に得られることから、イブプロフェンが好ましいと記載されている。そして、例えば、薬物がイブプロフェンのように酸性の化合物である場合に炭酸ナトリウム等の粒子(B)と反応する可能性はあるにせよ、比較例3において、(a3)以外の他の結合剤・崩壊剤である結晶セルロースで造粒された粒子を含む錠剤では錠剤硬度の経時低下の問題が解決できなかった点(上記1.(1)エで指摘した(iii))に照らせば、本件訂正発明の課題は、イブプロフェンのような酸性の化合物に限られず、あらゆる水難溶性薬物(a1)の場合にも解決できることを当業者は理解できる。 さらに、(a21)及び(a22)については、上記1.(4)に示した技術常識から、本件訂正発明1の(a21)は、水膨潤性を有し、いずれも崩壊剤として機能するものであり、(a22)は、いずれも結合剤として機能するものであることが理解できる。そして、崩壊剤あるいは結合剤として機能する具体的な成分によって、得られる錠剤の性質に差が生じ、効果に差が生じる場合であっても、(a21)及び(a22)を含む造粒粒子を(a3)を含むものとすることで、(a3)を含まない場合に比べて錠剤硬度の経時低下が抑制でき、本件訂正発明の課題が解決できることを、当業者は、発明の詳細な説明の記載(特に、上記1.(1)エ(v))から理解できる。 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、本件特許の出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。 (4)本件訂正発明2?5について 本件訂正発明2?5は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する内服口固形錠剤であり、本件訂正発明1と同様に、「体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の低下が抑制された内服固形錠剤を提供すること」を課題としているところ、本件訂正発明2?5で特定される(a3)は、本訂正件発明1と同じである。 したがって、本件訂正発明2?5は、本件訂正発明1について記載したと同様の理由により、本件特許の出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (5)申立人の主張について 特許異議申立書(73?76頁)において、申立人は、設定登録時の請求項1?5についてのサポート要件違反の取消理由に関し、項目(B4)として、造粒粒子(A)の形態に関し、本件特許明細書において、課題を解決できたことが具体的に確認されているのは、イブプロフェンと、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとの共粉砕物であって、所定の平均粒子径を有する共粉砕物を、特定の水溶性粉体[マンニトール(平均粒子径50μm)等]とともに流動し、特定のヒドロキシプロピルセルロース(すなわち、2質量%水溶液の20°Cにおける粘度「2.45mPa・s」のもの)の水溶液を噴霧して得られた(湿式)造粒粒子(平均粒子径182μm等)を使用した場合のみであり、あらゆる「造形粒子(A)」についてまで、当該課題を解決できたことを確認することができない旨主張する。 しかしながら、上記1.(1)エ(iv)のとおり、当業者は、発明の詳細な説明の比較例3の記載から、マンニトールが、錠剤中に造粒粒子(A)とは別の成分(C)として、大量に含まれている場合であっても、造粒粒子(A)中に水溶性粉体(a3)としてマンニトールが含まれていない場合には錠剤硬度の低下が抑えられないことが理解できるし、同(v)のとおり、実施例9-11の比較から、錠剤硬度の経時変化はマンニトール含有量の増加に応じてより抑えられることが理解できる。 また、【0082】-【0085】の【表2】-【表6】の実施例の記載から、水溶性粉体(a3)がマンニトールではなくアセトアミノフェン又は乳糖水和物である場合についても、体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う錠剤硬度の経時低下が抑制された錠剤となっていることが理解できる。 そして、造粒粒子(A)の具体的な造粒形態により、得られる錠剤の性質に差が生じ、効果に差が生じる場合であっても、造粒粒子に(a3)が含まれない場合に比べて錠剤硬度の経時低下が抑制でき、本件訂正発明の課題が解決できることは、上記の本件特許明細書の記載から当業者に明らかであるといえる。 したがって、申立人の(B4)の主張には、理由がない。 3.小括 以上のとおりであるから、取消理由1には理由がなく、訂正後の請求項1?5に係る特許は、上記取消理由1によっては取り消すことはできない。 第7 令和2年3月9日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1.取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由の概要 申立人が、訂正前(特許の設定登録時)の特許請求の範囲の請求項1?5に係る特許に対して申し立てていた特許異議の申立ての理由であって、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立理由は、概略、以下の(1)?(3)のとおりであって、申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」ともいう。)に添付して、証拠方法として下記(4)の甲第1号証?甲第17号証(以下、「甲1」等という。)を提出した。 (1)申立理由1(新規性) 請求項1、2、5に係る発明は、甲1、6、8、10、及び13に記載された発明であり、また、請求項3、4に係る発明は、甲1、8、10及び13に記載された発明であり、請求項1?5に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、請求項1?5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (以下、甲1、6、8、10及び13基づく新規性違反の申立理由を、それぞれの新規性違反の申立ての証拠番号を付して「申立理由1(甲1)」等という。) (2)申立理由2(進歩性) 請求項1?5に係る発明は、主引例である甲1?6、8、10及び13のそれぞれに記載された発明、及び、副引例である他の証拠(甲1?15)に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、請求項1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (以下、甲1?6、8、10及び13のそれぞれを主引例とする進歩性違反の申立理由を、主引例となる甲号証番号を付して、それぞれ、「申立理由2(甲1)」等という。) (3)申立理由3(明確性要件) 請求項1?5に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるために特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (4)証拠方法 甲1:特表2008-534477号公報 甲2:特開平6-239738号公報 甲3:特開2013-245173号公報 甲4:特開2001-342128号公報 甲5:国際公開第2007/126063号 甲6:特開昭63-501503号公報 甲7:特表平5-501413号公報 甲8:中国公開第1748759号公報(引用箇所の和訳添付) 甲9:瀬崎仁ら編集「薬剤学一第2版-」株式会社廣川書店、第2版第9刷、平成10年3月15日、188頁(合議体注:氏名の「崎」は原文では異なる表記であるが、この決定中では表記できないため上記の「崎」と表記としている。) 甲10:国際公開第01/52820号 甲11:特開2001-170153号公報 甲12:特開2012-240921号公報 甲13:特開2008-127319号公報 甲14:特表2011-506279号公報 甲15:特開平5-155711号公報 甲16:日本医薬品添加剤協会編集「医薬品添加物事典 2007」株式会社薬事日報社、第2刷、2009年11月6日、93頁「クロスポピドン」の項目 甲17:「第十六改正 日本薬局方」、平成23年3月24日、「4 通則」の項目29 なお、申立人は、申立書において、請求項1?5に係る特許についての、サポート要件違反に基づく取消理由も申し立てていたが、当該サポート要件違反に基づく取消理由は、取消理由通知(決定の予告)において、採用されており、上記第6で検討したとおり、当該取消理由によって、本件訂正発明1?5についての特許を取り消すことはできない。 2.申立理由1(甲1)及び申立理由2(甲1)について (1)甲1発明 甲1には、甲1の請求項1を引用する請求項18を引用する請求項19を引用する請求項21を引用する請求項22を引用する請求項51を引用する請求項61を引用する請求項62を引用する請求項63を引用する請求項64に係る発明として、 「顆粒の形態の可溶化イブプロフェンと、付加的に、炭酸水素ナトリウムおよび/またはカリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、三塩基性リン酸ナトリウムおよびカリウムならびにその混合物からなる群より選択される塩基性化合物、及び、1種または複数の医薬上許容される賦形剤を含む医薬組成物であって、 前記顆粒の形態の可溶化イブプロフェンは、 固形イブプロフェンと、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、グリシン酸ナトリウム、グリシン酸カリウム、三塩基性リン酸ナトリウムおよびカリウム、ならびにこれらの混合物からなる群から選択された第1の塩基と、付加的に充填剤、結合剤、崩壊剤、流動促進剤および抗析出剤からなる群から選択される1つまたは複数の医薬上許容される賦形剤を含む混合物を得、本質的に乾燥状態で当該イブプロフェンと当該第1の塩基を反応させることを含む方法により製造されたものである、 錠剤、フィルムコート錠、糖衣錠、サッシュまたはカプセルの形態である医薬組成物。」が記載されている。 そして、上記顆粒の形態の可溶化イブプロフェンの製造に関し、甲1の【0069】に「本発明の方法の特に好ましい・・形態では、前記方法は押出造粒機で行われる。」と記載され、また、【0070】に「押出造粒機、好ましくは二軸スクリュー押出機」と記載されていることを踏まえるに、甲1には、請求項64に係る発明の具体的な態様に相当する実施例22に記載の発明として、以下の発明が記載されているといえる。 「可溶化イブプロフェン顆粒と、塩基性化合物である炭酸水素カリウムと、賦形剤であるステアリン酸を含む医薬組成物であって、 前記可溶化イブプロフェン顆粒は、 固形イブプロフェンと、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、グリシン酸ナトリウム、及びグリシン酸カリウムである第1の塩基と、二酸化ケイ素、塩化カリウム、Povidone K25、およびラウリル硫酸ナトリウムである賦形剤を含む混合物を得、本質的に乾燥状態で当該イブプロフェンと当該第1の塩基を反応させることを含む方法により、二軸スクリュー押出機を使用して製造されるものである、 錠剤の形態である医薬組成物。」(以下「甲1発明」という。) なお、甲1の【0098】の記載からみて、実施例22において、グリシン酸ナトリウム及びグリシン酸カリウムは、2軸スクリュー押出機内で生成しているものと認められる。 (2)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。 ・甲1発明の「可溶化イブプロフェン」は「薬物」であるところ、甲1の【0035】に「本発明の範囲において、「可溶化イブプロフェン」という用語は、イブプロフェンの少なくとも一部が塩の形態で存在する、イブプロフェンの水溶性形態を意味する」と記載されるとおり、甲1発明の「可溶化イブプロフェン」は「水溶性」であるといえる。 ・甲1の【0052】の記載によれば、甲1発明の「Povidone K25」は、非架橋ポリビニルピロリドン(つまり、「ポピドン」)であって、本件訂正発明1の「高分子化合物」に相当する。 ・通常、錠剤の打錠のための各原料は、固体であれば、粒子(粉体粒子)として供給されるから、甲1発明の「塩基性化合物である炭酸水素カリウム」は、本件訂正発明1の「炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)」が、「炭酸水素塩(b1)の化合物からなる粒子」である場合に相当する。 ・甲1発明の錠剤には、繊維素グリコール酸は含まれていない。 そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 薬物、及び、高分子化合物を含む造粒粒子と、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有する、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 <相違点1-1> 錠剤に含まれる薬物が、本件訂正発明1では「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」であるのに対し、甲1発明では、「水溶性」の「可溶化イブプロフェン」である点。 <相違点1-2> 薬物、及び、高分子化合物を含む造粒粒子について、本件訂正発明1では、水難溶性薬物(a1)の他に、所定の「高分子化合物(B)」、すなわち、「分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度がlmg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)」であって、「前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース カルメロースカルシウム クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上」であるもの)、及び、所定の「水溶性粉体(a3)」、すなわち、「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)」ものであって、「水溶性粉体(a3)は、アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上」であるもの、を、含むものあることが特定されているのに対し、甲1発明では、高分子化合物である「ポピドン」を含むものの、それが、本件訂正発明1の所定の「高分子化合物(B)」に相当するかは不明であるし、また、所定の「水溶性粉体(a3)」は含んでいない点。 イ まず、新規性について検討する。 上記相違点1-1は、実質的な相違点であるから、少なくとも相違点1-1で甲1発明と相違する本件訂正発明1について、甲1発明(甲1に記載された発明)であるということはできない。 ウ 次に、進歩性について検討する。 甲1の【0026】に、「本発明の・・目的は、血中濃度の急速な上昇および鎮痛作用の急速な開始を実現する、イブプロフェンをベースとした新規な顆粒および他の医薬剤形、特に経口剤形を提供することである。」と記載され、また、【0027】に、「このような目的に従って、固形イブプロフェンと、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、・・グリシン酸ナトリウム、グリシン酸カリウム・・からなる群から選択された第1の塩基とを含む混合物を提供する工程、ならびに本質的に乾燥状態でこのイブプロフェンとこの塩基を反応させる工程を伴う、好ましくは顆粒として可溶化イブプロフェンを製造する方法・・により得られる新規な可溶化イブプロフェン顆粒・・を含む新規な医薬剤形が提供される。」と記載されるとおり、甲1発明は、錠剤中に薬物であるイブプロフェンが「可溶化」された状態(すなわち、「水溶性」薬剤の形態である状態)で含まれる点に特徴を有している発明である。 そうすると、甲1発明において、錠剤中の薬物を、「可溶化イブプロフェン」に代えて本件訂正発明1の「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」との条件を満足する「イブプロフェン」の形態とし、本件訂正発明1に係る相違点1-1の構成を備えたものとすることには、阻害要因がある。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、少なくとも相違点1-1で甲1発明と相違する本件訂正発明1について、甲1発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明2?5(申立理由1(甲1)、2(甲1))について 本件訂正発明2?5に係る発明は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件訂正発明1を限定した発明に相当する。 そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件訂正発明1について、甲1発明であるということはできないし、また、甲1発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明2?5についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲1発明であるということはできないし、また、甲1発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)以上のとおりであるから、申立理由1(甲1)及び申立理由2(甲1)には理由がない。 3.申立理由1(甲6)及び申立理由2(甲6)について (1)甲6発明 甲6には、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4に係る発明として、 「少なくともそれぞれ一種の溶解速度の遅い、或いは難溶性の薬剤学的作用物質と、一種の崩壊剤とを含む錠剤であって、該錠剤が、その他に少なくとも一種の充填剤を有し、該充填剤は、室温の水と接触した時の溶解速度が遅く、その為前記崩壊剤の水の吸収及びその作用を妨げないような形状及び/又は大きさで、好ましくは0.1乃至0.6mmの粒径に粉砕した溶融物から成る、マンニトール、ソルビトール、キシリトールの少なくとも一つから成る充填剤粒子である錠剤。」 が記載されているところ、 当該請求項に係る発明の具体的な態様に相当する実施例2の記載及び実施例2が引用する実施例1の記載によれば、甲1には、実施例2に記載の発明として、以下の発明が記載されているといえる。 「溶解速度の遅い、或いは難溶性の薬剤学的作用物質であるペニシリンVと、崩壊剤のミクロセルロースとを含む錠剤であって、該錠剤が、その他にマンニトールである充填剤、澱粉、フマール酸、芳香剤及び甘味剤を有し、前記充填剤は、室温の水と接触した時の溶解速度が遅く、その為前記崩壊剤の水の吸収及びその作用を妨げないような形状及び/又は大きさである0.2?0.6mmの粒径に粉砕したマンニトール・セルロース溶融物粒子の形態である、錠剤。」(以下「甲6発明」という。) (2)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と甲6発明とを対比する。 ・甲6発明の「難溶性の薬剤学的作用物質であるペニシリンV」は、本件訂正発明1の「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」に相当する。 ・錠剤を構成する造粒粒子を製造するための原料は、固体であれば、通常粉体として供給される。 ・甲6発明の「ミクロセルロース」及び「澱粉」は、本件訂正発明1の「高分子化合物」に、「マンニトール」は、「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)」であって、「アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上」に、相当する。そして、甲6発明においては、マンニトール及びミクロセルロースは、マンニトール・セルロース溶融物粒子の形態、つまり、「造粒粒子」の形態で錠剤中に存在する。 ・甲6発明の錠剤には、繊維素グリコール酸は含まれていない。 そうすると、本件訂正発明1と甲6発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)であって、アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上である水溶性粉体(a3)と高分子化合物を含む造粒粒子と、20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)とを含む、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 <相違点2> 水難溶性薬物(a1)と高分子化合物とマンニトールを含む錠剤について、本件訂正発明1では、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)を含み、また、水難溶性薬物は、所定の高分子化合物(a2)とマンニトールとともに造粒された造粒粒子の形態で含まれることが特定されているのに対し、甲6発明では、錠剤中に粒子(B)は含まれておらず、また、水難溶性薬物(a1)は、高分子化合物とマンニトールとともに造粒された造粒粒子の形態ではなく、単独の状態で含まれており、錠剤に含まれる高分子化合物も本件訂正発明1の所定の高分子化合物(a2)とは異なるものである点。 イ まず、新規性について検討する。 上記相違点2は、実質的な相違点であるから、相違点2で甲6発明と相違する本件訂正発明1について、甲6発明(甲6に記載された発明)であるということはできない。 ウ 次に、進歩性について検討する。 甲6の2頁左上欄12?14行には、本件訂正発明1の(a2)の「ポピドン」に相当するポリビニルピロリドンが崩壊剤であることが記載され、また、請求項10には、錠剤を多層錠剤として、該層の少なくとも一方の側が沸騰混合物(これは、甲6の3頁右上欄9?10行によれば、本件訂正発明1の粒子(B)(炭酸塩(b2))である。)に相当する炭酸カルシウムを含む層で被覆されているものとすることができることは記載されている。 しかしながら、甲6には、本件訂正発明1の(a1)に相当する甲6発明の「難溶性の薬剤学的作用物質であるペニシリンV」を、本件訂正発明1の「造粒粒子」に相当する「マンニトール・セルロース溶融物粒子」中に含まれるものとすること、つまり、造粒粒子の形態で含まれるものとすることを示唆する記載はない。 一方、本件訂正発明1では、造粒粒子を構成する高分子化合物を所定の高分子化合物(a2)とし、錠剤を炭酸塩等の粒子(粒子(B))を含有する錠剤とするとともに、水難溶性薬物(a1)を、高分子化合物とマンニトールとともに造粒された造粒粒子の形態で含むものすることで、水難溶性薬物の体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う硬度の低下が抑制された錠剤となるという(上記第6の1.(3)参照)、甲6及び申立人が提出した他の証拠からは予測できない効果が奏される。 そうすると、相違点2で甲6発明と相違する本件訂正発明1について、甲6発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明2及び5(申立理由1(甲6))、本件訂正発明2?5(申立理由2(甲6))について 本件訂正発明2?5に係る発明は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件訂正発明1を限定した発明に相当する。 そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件訂正発明1について、甲6発明であるということはできないし、また、甲6発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明2及び5についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲6発明であるということはできないし、また、本件訂正発明1?5について、甲6発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)以上のとおりであるから、申立理由1(甲6)及び申立理由2(甲6)には理由がない。 4.申立理由1(甲8)及び申立理由2(甲8)について (1)甲8発明 甲8には、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項8に係る発明として、以下の発明が記載されているといえる。 「1000個の錠剤の各成分が以下の通りであることを特徴とする発泡錠剤: 騏麟血(有効成分) 200g 微晶性セルロース(充填剤) 110g プレゼラチン化デンプン(充填剤) 60g クエン酸(酸塩基発泡剤の酸源) 120g 炭酸水素ナトリウム(酸塩基発泡剤の塩基源) 90g 炭酸ナトリウム(酸塩基発泡剤の塩基源) 10g ドデシル硫酸マグネシウム(潤滑剤) 5g でんぷんスラリー(結合剤) 5g(デンプン計で) 製造方法は次の工程を含む:最初に上記各材料を100メッシュの篩に通して粉砕し、麒麟血、部分微晶性セルロース、プレゼラチン化デンプン及びクエン酸を十分に混合し、適量のでんぷんスラリーを加えて軟材を作成し、20メッシュの篩で造粒し、50?60℃で2?4時間乾燥し、16メッシュの篩で整粒し、必要に備える;炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、残量微晶性セルロースを取り、均一に混合した後、前述の方法で顆粒に製造する;2種類の顆粒を混合し、ドデシル硫酸マグネシウムを混合後、プレスして麒麟血膣発泡錠剤とする。」(以下「甲8発明」という。) (2)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と甲8発明とを対比する。 ・甲8発明の「騏麟血」は「薬物」であるし、また、「微晶性セルロース」及び「プレゼラチン化デンプン」は、「高分子化合物」であるし、これらから製造される顆粒は「造粒粒子」であるといえる。 ・甲8発明の「炭酸水素ナトリウム」、「炭酸ナトリウム」は、それぞれ、本件訂正発明1の「炭酸水素塩(b1)」、「炭酸塩(b2)」に相当するし、これらは、顆粒を製造するために、通常「粒子」の形態で供給されると解される。 ・甲1発明の錠剤には、繊維素グリコール酸は含まれていない。 そうすると、本件訂正発明1と甲8発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 薬物及び高分子化合物を含む造粒粒子と、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有する、固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 <相違点3-1> 本件訂正発明1の錠剤は「内服」用の錠剤であるのに対して、甲8発明の錠剤は、「膣」用の錠剤である点。 <相違点3-2> 錠剤に含まれる造粒粒子について、本件訂正発明1では、薬物が所定の「水難溶性薬物(a1)であり、また、所定の「水溶性粉体(a3)」を含むことが特定されているのに対し、甲8発明では、かかる特定はなされていない点。 イ まず、新規性について検討する。 上記相違点3-1は、実質的な相違点であるから、少なくとも相違点3-1で甲8発明と相違する本件訂正発明1について、甲8発明(甲8に記載された発明)であるということはできない。 ウ 次に、進歩性について検討する。 相違点3-1に関し、甲8には、甲8発明の「膣」用の錠剤を「内服」するものとすることを示唆する記載はない。また、申立人が提出した他の証拠のいずれにも、甲8発明の「膣」用の錠剤を「内服」用とすること動機付ける記載や示唆はないし、その点が本件特許の優先日前の技術常識であったともいえない。 そうすると、申立人が提出したいずれの証拠からも、甲8発明を、本件訂正発明1の相違点3-1に係る構成を備えたものとすることを動機付けることができないのであるから、他の相違点について検討するまでもなく、少なくとも相違点3-1で甲8発明と相違する本件訂正発明1について、甲8発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明2?5(申立理由1(甲8)、申立理由2(甲8))について 本件訂正発明2?5に係る発明は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件訂正発明1を限定した発明に相当する。 そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件訂正発明1について、甲8発明であるということはできないし、また、甲8発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明2?5についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲8発明であるということはできないし、また、甲8発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)以上のとおりであるから、申立理由1(甲8)及び申立理由2(甲8)には理由がない。 5.申立理由1(甲10)及び申立理由2(甲10)について (1)甲10発明 甲10には、請求項1を引用する請求項11に係る発明として、「主薬顆粒と、炭酸塩顆粒と、有機酸顆粒とを含む混合物が圧縮成形されて錠剤にされており、且つ、前記錠剤の表面に、前記混合物を杵及び臼を用いて圧縮成形する際に、前記杵及び前記臼に塗布した滑沢剤粉末が転写されて付着している、前記主薬顆粒、前記炭酸塩類粒及び前記有機酸穎粒の各々が、水に濡れやすい糖類を含む結合剤を用いて造粒した造粒物である、発泡経口投与錠。」の発明が記載されているところ、 当該請求項に係る発明の具体的な態様に相当する実験例4の記載によれば、甲10には、以下の発明が記載されているといえる。 「主薬顆粒と、炭酸塩顆粒と、有機酸顆粒とを含む混合物が圧縮成形されて錠剤にされており、且つ、前記錠剤の表面に、前記混合物を杵及び臼を用いて圧縮成形する際に、前記杵及び前記臼に塗布した滑沢剤粉末が転写されて付着している、主薬顆粒、炭酸塩顆粒及び酸顆粒の各々が、水に濡れやすい糖類であるマンニトールを含む結合剤を用いて造粒した造粒物である、発泡経口投与錠であって、 前記主薬がアスコルビン酸であり、前記炭酸塩類が炭酸水素ナトリウムであり、前記有機酸がクエン酸であり、前記結合剤が、さらに、水溶性高分子ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SL)を含む、発泡経口投与錠。」(以下「甲10発明」という。) (2)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と甲10発明とを対比する。 ・甲10発明の「水溶性高分子ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SL)」は、分子量が10万で、20℃で2%水溶液とすることができるものであるから(https://www.nissoshoji.com/jp/products/chemical/organic/hpc.html参照)、本件訂正発明1の「20℃の水に対する溶解度がlmg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a223)成分」である「高分子化合物(a2)」に相当する。 ・甲10発明の「水に濡れやすい糖類であるマンニトール」は、本件訂正発明1の「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)」であって、「アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上」に、相当する。 ・甲10発明の炭酸塩顆粒に含まれる「炭酸水素ナトリウム」は、本件訂正発明1の「炭酸水素塩(b1)」に相当するし、これは、顆粒を製造するために、通常「粒子」の形態で供給されると解される。 ・甲10発明の錠剤には、繊維素グリコール酸は含まれていない。 そうすると、本件訂正発明1と甲10発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 薬物、分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度がlmg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)を含む造粒粒子(A)と、 炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有し、 前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、 前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上であり、 前記水溶性粉体(a3)は アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上である、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 <相違点4> 薬物が、本件訂正発明1では、「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」であるのに対し、甲10発明では、「アスコルビン酸」である点。 イ まず、新規性について検討する。 上記相違点4は、実質的な相違点であるから、少なくとも相違点4で甲10発明と相違する本件訂正発明1について、甲10発明(甲10に記載された発明)であるということはできない。 ウ 次に、進歩性について検討する。 甲10の34頁下から2行?35頁5行には、主薬顆粒を構成する薬物として、甲10発明のアスコルビン酸を含め、水溶性の薬物が多く列記されており、甲10には、薬物を「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」とすることについての記載はない。 また、甲10は、従来の発泡錠は、水に溶解すると、その水溶液の表面に、錠剤成形時に添加された滑沢剤による油膜が現れるという問題や、滑沢剤の撥水性に起因して、発泡錠を水中に入れた際、錠剤内部に水が浸透し難く、錠剤の溶解が遅くなり、服用時に水剤とするまで(即ち、錠剤が完全に水に溶解するまで)に、ある程度の時間を必要とするという問題を解決するものであって、これらの問題を、甲10発明では、圧縮成形して錠剤の形態に成形する混合物中に、滑沢剤を含ませず、錠剤の表面に、杵及び臼に塗布した滑沢剤粉末が錠剤表面にわずかに転写されているに過ぎないものとすることで解決するものであり、錠剤を水中に入れた際に、錠剤内部に、水が速やかに浸透して溶解し、また、錠剤を水に溶解しても、その水溶液の表面に油膜が現れないという効果が奏されるものである(甲10の明細書1頁下から9行?同3頁17行)。また、甲10の請求項11に係る発明において、結合剤を「水に濡れやすい糖類」と「水溶性高分子」の両方を含むものとすることが必須とされているのでもない。そうすると、仮に、薬物として本件訂正発明1に記載の所定の「水難溶性薬物(a1)」が周知である場合であっても、薬物として斯かるものを採用する際に、甲10の実施例4に記載される特定の「水に濡れやすい糖類」及び「水溶性高分子」を含む結合剤を採用する必然性があるともいえない。 一方、本件訂正発明1は、水難溶性薬物(a1)及び所定の高分子化合物(a2)を含む造粒粒子からの錠剤を、炭酸塩等の粒子(粒子(B))を含有する錠剤として、体内での水難溶性薬物の分散性を高めて、薬物の即効性を向上させることで生じる経時に伴う錠剤硬度の低下の問題を、造粒粒子を、所定の水溶性粉体(a3)であるマンニトール等を含む造粒粒子(A)とした本件訂正発明1の錠剤とすることで解決したものであり、本件訂正発明1により、水難溶性薬物の体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う硬度の低下が抑制された錠剤となるという効果が奏されるという技術的意義を有するものであって(上記第6の1.(3)参照)、甲10には、本件訂正発明1の構成を備えたものとすることで奏される上記効果について何ら記載されていない。 また、申立人が提出した他の証拠のいずれにも、炭酸塩等(粒子(B))を併有する錠剤とする際に生じる問題や、その問題の解決手段、効果についての記載はない。 そうすると、相違点4で甲10発明と相違する本件訂正発明1について、甲10発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明2?5(申立理由1(甲10)、申立理由2(甲10))について 本件訂正発明2?5に係る発明は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件訂正発明1を限定した発明に相当する。 そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件訂正発明1について、甲10発明であるということはできないし、また、甲10発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明2?5についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲10発明であるということはできないし、また、甲10発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)以上のとおりであるから、申立理由1(甲10)及び申立理由2(甲10)には理由がない。 6.申立理由1(甲13)及び申立理由2(甲13)について (1)甲13の実施例3(【0036】)及び【0001】の「本発明は、・・口腔内速崩壊性錠剤に関する。」なる記載によれば、甲13には、以下の発明が記載されているといえる。 「プランルカスト水和物を225g、コリドンK30を2g、繊維素グリコール酸を102g、アスパルテームを8g、タウマチンを1gとり充分に混合した後、182gの水を添加して練合し、造粒、乾燥したものに、重炭酸ナトリウムを45g、オレンジミクロンを0.36g、ステアリン酸マグネシウムを2g混合して、直径8mmの平面杵で1錠195mgの錠剤とした、口腔内速崩壊性錠剤。」(以下「甲13発明」という。) (2)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と甲13発明とを対比する。 ・甲13発明の「プランルカスト水和物」は水に『ほとんど溶けない』薬物であり(例えば「オノンカプセル112.5mg」の添付文書(https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051193.pdf)、3頁右欄参照)、ここでいう『ほとんど溶けない』とは、20℃±5℃で溶質1gを溶解するのに10000mL以上の溶媒を要するものといえるので(必要であれば、申立人が提出した甲17の29段落参)、本件訂正発明1における「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」に相当する。 ・甲13発明の「コリドンK30」はポピドンであり高分子化合物であるし、甲13発明の「造粒、乾燥したもの」は造粒粒子であるといえる。 ・甲13発明の「重炭酸ナトリウム」は炭酸水素ナトリウムであり、通常打錠のための各原料は粒子として供給されることから、本件訂正発明1の「炭酸水素塩(b1)化合物」である「粒子(B)」に相当する。 そうすると、本件訂正発明1と甲13発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)と高分子化合物を含む造粒粒子と、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有する、内服固形錠剤。 <相違点5-1> 内服固形錠剤について、本件訂正発明1では、「ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く」と特定されているのに対し、甲13発明では、「繊維素グリコール酸を含む」点。 <相違点5-2> 内服固形製剤に含まれる造粒粒子について、本件訂正発明1では、水難溶性薬物(a1)の他に、所定の「高分子化合物(B)」、及び、所定の「水溶性粉体(a3)」を含むことが特定されているのに対し、甲13発明では、かかる特定はなされていない点。 イ 新規性について検討する。 上記相違点5-1は、実質的な相違点であるから、少なくとも相違点5-1で甲13発明と相違する本件訂正発明1について、甲13発明(甲13に記載された発明)であるということはできない。 ウ 進歩性について検討する。 相違点5-1に関し、甲13の【0015】に記載のとおり、甲13発明は、「発泡性を有しながら口腔内で発泡性を感知させず、口腔内で速やかな崩壊性、溶解性を有する口腔内溶解型圧縮成型物を提供すること」等を課題としている。そして、【0020】に、「本発明者らは、口腔内での発泡性を感じることなく発泡性を利用して錠剤を速やかに崩壊させる方法に関して検討し、酸源として水に溶解しない繊維素グリコール酸を用いることで、目的とする固形錠剤を製することができることを見いだした。」と記載されているとおり、甲13発明では、酸源として水に溶解しない繊維素グリコール酸を用いることでこの課題を解決したもので、繊維素グリコール酸を用いることは必須である。 そうすると、甲13発明において、錠剤を、繊維素グリコール酸を含まないものとし、本件訂正発明1に係る相違点5-1の構成を備えたものとすることには、阻害要因がある。 したがって、少なくとも相違点5-1で甲1発明と相違する本件訂正発明1について、甲13発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明2?5(申立理由1(甲13)、申立理由2(甲13))について 本件訂正発明2?5に係る発明は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件訂正発明1を限定した発明に相当する。 そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件訂正発明1について、甲13発明であるということはできないし、また、甲13発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明2?5についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲13発明であるということはできないし、また、甲13発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)以上のとおりであるから、申立理由1(甲13)及び申立理由2(甲13)には理由がない。 7.申立理由2(甲2)について (1)甲2発明 甲2の請求項1には、「S(+)イブプロフェンを90.0?99.0重量%および塩基性無機塩または水酸化アルカリ金属希薄溶液を0.1?10.0重量%を含有するS(+)イブプロフェンのペレット。」の発明が記載されているところ、当該発明の具体的な態様に係る発明として、甲2の実施例4(【0064】)には、以下の発明が記載されているといえる。 「S(+)イブプロフェン92.0に対し、微晶質セルロースを5.0、HPMCを1.0、塩基性無機塩であるリン酸水素二ナトリウムを3.0の重量割合で含むペレットであって、該ペレットは、S(+)イブプロフェン、微晶質セルロース、HPMCおよびリン酸水素二ナトリウムを混合し、この混合物を十分量の純水と共にディオスナミキサーまたはロータリープロセッサー内に所望の大きさのペレットを得るまで噴霧し、得られたペレットを乾燥し、ふるいで分級して得られたものであるペレット。」(以下「甲2発明」という。) なお、上記の「HPMC」は、甲2の【0023】に記載のとおり、「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」のことである。 (2)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。 ・甲2発明の「S(+)イブプロフェン」は、本件訂正発明1の所定の「水難溶性薬物(a1)」に相当する。 ・甲2発明の「微晶質セルロース」及び「HPMC」は、本件訂正発明1の「高分子化合物」に相当する。 ・また、本件訂正発明1の錠剤と甲2発明のペレットは、いずれも「固形製剤」であるといえる。 ・甲2発明の錠剤には、繊維素グリコール酸は含まれていない。 そうすると、本件訂正発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)と高分子化合物を含む造粒粒子を含有する固形製剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 <相違点6> 水難溶性薬物(a1)を含む固形製剤について、本件訂正発明1では、「水難溶性薬物(a1)、所定の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び所定の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、所定の水溶性粉体(a3)を含む造粒粒子(A)と、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)とを含有する」、「錠剤」であると特定されているのに対し、甲2発明では、水難溶性薬物(a1)を含む造粒粒子に相当するペレットを、上記特定の(a2)及び(a3)を含むものとすることは特定されていないし、また、造粒粒子(ペレット)を、上記所定の粒子(B)とともに、錠剤としたものとすることも特定されていない点。 イ 相違点6について検討する。 甲2には、塩基性無機塩として、リン酸水素二ナトリウムの他に、本件訂正発明1の(b2)に相当する炭酸ナトリウムや炭酸カリウムも記載されている(請求項2)し、ペレットに、助剤としてラクトース(つまり、乳糖)を含ませることも記載されている(請求項5)が、炭酸塩を、イブプロフェンを含有するペレット中には含有させず、別途配合することについての記載はないし、ラクトースが(a3)のような水和物であることは記載されていない。 また、甲2の【0019】に、「ペレットの好ましい具体例としては、S(+)イブプロフェンを90重量%から99重量%、好ましくは97重量%、二酸化シリコンを0.1重量%から5.0重量%、好ましくは1.0重量%および炭酸ナトリウムを0.1重量%から10.0重量%、好ましく2.0重量%を含有するペレットが挙げられる。これらの塩基性無機塩または水酸化アルカリ金属希薄溶液を造粒過程において添加するため、溶解性が改善されるのみならずS(+)イブプロフェンをある程度溶解し、後者をわずかに粘性とし、これによってさらなる結着剤の添加の必要性が除かれる。」と記載されていることからすると、甲2発明において塩基性無機塩として炭酸塩を選択する場合であっても、これをペレット以外に含ませた錠剤とする動機はない。 その上、甲2発明は、「可能な限り少量の助剤を含有し、S(+)イブプロフェンを迅速に放出するS(+)イブプロフェンを含有する薬剤を提供すること」(【0011】)を目的とするものであって、本件訂正発明1のように、水難溶性薬物(a1)及び所定の高分子化合物(a2)を含む造粒粒子からの錠剤を、炭酸塩等の粒子(粒子(B))を含有する錠剤として、体内での水難溶性薬物の分散性を高めて、薬物の即効性を向上させることで生じる経時に伴う錠剤硬度の低下の問題を、造粒粒子を、所定の水溶性粉体(a3)であるマンニトール等を含む造粒粒子(A)とした本件訂正発明1の錠剤とすることで解決するものではないし、水難溶性薬物の体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う硬度の低下が抑制された錠剤となるという効果が奏されるという本件訂正発明1の効果(上記第6の1.(3)参照)についても何ら記載されていない。 また、申立人が提出した他の証拠のいずれにも、炭酸塩等(粒子(B))を併有する錠剤とする際に生じる問題や、その問題の解決手段、効果についての記載はない。 そうすると、相違点6で甲2発明と相違する本件訂正発明1について、甲2発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明2?5(申立理由2(甲2))について 本件訂正発明2?5に係る発明は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件訂正発明1を限定した発明に相当する。 そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件訂正発明1について、甲2発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明2?5についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲2発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)以上のとおりであるから、申立理由2(甲2)には理由がない。 8.申立理由2(甲3)について (1)甲3発明 甲3には、請求項1に係る発明として、「(A)薬物及び(B)水溶性高分子化合物を含有する造粒粒子と、(C)1質量%水溶液のpHが0.1以上7.5未満である水溶性の塩と、を含有する錠剤」が記載されているところ、当該請求項に係る発明の具体的な態様に相当する実施例1(【0035】-【0042】)の記載によれば、甲3には、以下の発明が記載されているといえる。 「以下の、造粒粒子P1、造粒粒子P2、及び、顆粒外成分の混合物である第一粉体と、第二粉体との混合物からなる錠剤。 (A)薬物である、イブプロフェン65質量部、アセトアミノフェン65質量部、アリルイソプロピルアセチル尿素30質量部、(B)水溶性高分子化合物であるヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SSL)9質量部、及び、その他として、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LHPC)26質量部並びにD-マンニトール8質量部、を原料とする造粒粒子P1、 (A)薬物である、乾燥水酸化アルミニウムゲル30.8質量部、(B)水溶性高分子化合物であるヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SSL)1.8質量部、及び、その他として、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LHPC)7.7質量部並びに乳酸9.0質量部、を原料とする造粒粒子P2、 (A)薬物である、無水カフェイン40質量部、(C)1質量%水溶液のpHが4.3-4.9である水溶性の塩である、リン酸二水素カリウム5.7質量部、及び、その他として、結晶セルロース39質量部並びに含水二酸化ケイ素7質量部、からなる顆粒外成分、 第二粉体であるステアリン酸マグネシウム(滑沢剤)」(以下「甲3発明」という。) (2)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と甲3発明とを対比する。 ・甲3発明の造粒粒子P1に含まれる、「イブプロフェン」は、本件訂正発明1の所定の「水難溶性薬物(a1)」に相当するし、また、「水溶性高分子化合物であるヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SSL)」及び「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LHPC)」は、「分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度がlmg/mL以上であり、分子量が.5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)」に相当するし(https://www.nissoshoji.com/jp/products/chemical/organic/hpc.html参照)、「D-マンニトール」は、「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)」であって、「アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上」のものに、それぞれ、相当する。 ・甲3発明の錠剤には、繊維素グリコール酸は含まれていない。 そうすると、本件訂正発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)、分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度がlmg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)を含む造粒粒子(A)を含有し、 前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、 前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上であり、 前記水溶性粉体(a3)は アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上である、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 <相違点7> 内服固形錠剤が、本件訂正発明1では、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)を含むのに対し、甲3発明では、含んでいない点。 イ 相違点7について検討する。 甲3の【0016】には、(C)成分として種々の塩が記載されているが、本件訂正発明1の(B)成分に相当する塩の具体的な記載はないし、甲3には、他に、錠剤を(B)成分に相当する塩を含むものとすることを示唆する記載はない。 また、甲3発明は、結合剤として水溶性高分子化合物を含有する錠剤の場合に、結合剤が水に接触してゲル化することで生じると考えられる錠剤の崩壊遅延を抑制し、速崩壊性に優れた錠剤を提供することを目的とし、当該目的を、薬物及び水溶性高分子化合物を同一の造粒粒子中に含有させるとともに、該造粒粒子の周囲に中性?酸性の水溶性の塩を存在させることで解決したものである(【0004】?【0005】)。 一方、本件訂正発明1は、水難溶性薬物(a1)及び所定の高分子化合物(a2)を含む造粒粒子からの錠剤を、炭酸塩等の粒子(粒子(B))を含有する錠剤として、体内での水難溶性薬物の分散性を高めて、薬物の即効性を向上させることで生じる経時に伴う錠剤硬度の低下の問題を、造粒粒子を、所定の水溶性粉体(a3)を含む造粒粒子(A)とした本件訂正発明1の錠剤とすることで解決したものであり、本件訂正発明1により、水難溶性薬物の体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う硬度の低下が抑制された錠剤となるという効果が奏されるという技術的意義を有するところ(上記第6の1.(3)参照)、甲3には、上記の本件訂正発明1の解決しようとする課題も本件訂正発明1の構成を備えたものとすることで奏される上記効果についても何ら記載されていない。 また、申立人が提出した他の証拠のいずれにも、炭酸塩等(粒子(B))を併有する錠剤とする際に生じる問題や、その問題の解決手段、効果についての記載はない。 そうすると、相違点7で甲3発明と相違する本件訂正発明1について、甲3発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明2?5(申立理由2(甲3))について 本件訂正発明2?5に係る発明は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件訂正発明1を限定した発明に相当する。 そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件訂正発明1について、甲3発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明2?5についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲3発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)以上のとおりであるから、申立理由2(甲3)には理由がない。 9.申立理由2(甲4)について (1)甲4発明 甲4には、請求項1に係る発明として、 「医薬成分及び水溶性結合剤を含有しかつ実質的に崩壊剤を含有しない口腔内崩壊錠であって、前記水溶性結合剤が、以下の特性を有する口腔内崩壊錠。 (1)37°C、20%水溶液の粘度が、2000cps以下である。 (2)25℃、相対湿度75%での平衡水分含有量が20%以下である。」 が記載されているところ、 当該請求項に係る発明の具体的な態様に相当する実施例1の記載によれば、甲4には、以下の発明が記載されているといえる。 「医薬成分である塩酸メクリジン、以下の(1)及び(2)の特性を有する水溶性結合剤であるヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C-SSL)、並びに、賦形剤であるエリスリトール及びマンニトールを含む造粒粒子に、滑沢剤として、フマル酸ステアリルナトリウムを添加混合して調製した打錠用顆粒を打錠して得られた、実質的に崩壊剤を含有しない口腔内崩壊錠。 (1)37℃、20%水溶液の粘度が、2000cps以下である。 (2)25℃、相対湿度75%での平衡水分含有量が20%以下である。」(以下「甲4発明」という。) (2)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と甲4発明とを対比する。 ・甲4発明の造粒粒子に含まれる、「塩酸メクリジン」は、薬物である。 ・甲4発明の、「水溶性結合剤であるヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C-SSL)」及は、「20℃の水に対する溶解度がlmg/mL以上であり、分子量が.5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分」である「高分子化合物(a2)」に相当する(https://www.nissoshoji.com/jp/products/chemical/organic/hpc.html参照)。 ・「マンニトール」は、「20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)」であって、「アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上」のものに、相当する。 ・甲4発明の錠剤には、繊維素グリコール酸は含まれていない。 そうすると、本件訂正発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 薬物、分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度がlmg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)を含む造粒粒子(A)を含有し、 前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、 前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上であり、 前記水溶性粉体(a3)は アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上である、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 <相違点8-1> 内服固形錠剤が、本件訂正発明1では、炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)を含むのに対し、甲4発明では、含んでいない点。 <相違点8-2> 造粒粒子に含まれる薬物が、本件訂正発明1では「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」であるのに対し、甲1発明では、「塩酸メクリジン」である点。 イ まず、相違点8-1について検討する。 甲4には、錠剤を、本件訂正発明1の粒子(B)を含むものとすることを示唆する記載はない。 また、甲4発明は、従来の口腔内崩壊錠では、錠剤自体の強度が大きくないために搬送中等に、錠剤が欠け、取扱い上不便であることや、錠剤が吸湿しやすく、特に、崩壊剤を配合した揚合、崩壊剤は水分吸収性が大きく錠剤の強度が低下しやすく、嚥下するまで湿度との接触をできるだけ制限する必要があり、取扱い上の制限があるという問題を解決し、取扱いが容易でかつ錠剤強度が空気中の水分に曝されても、実質的に変化せず、嚥下する場合に、唾液中の水分によって、急速に崩壊する錠剤を提供することを目的とする。 そして、甲4では、この目的を、錠剤において使用されている崩壊剤を実質的に使用することなく、その代わりに、特定の水溶性結合剤を使用することにより解決したものである(【0002】-【0005】)。 一方、本件訂正発明1は、水難溶性薬物(a1)及び所定の高分子化合物(a2)を含む造粒粒子からの錠剤を、炭酸塩等の粒子(粒子(B))を含有する錠剤として、体内での水難溶性薬物の分散性を高めて、薬物の即効性を向上させることで生じる経時に伴う錠剤硬度の低下の問題を、造粒粒子を、所定の水溶性粉体(a3)を含む造粒粒子(A)とした本件訂正発明1の錠剤とすることで解決したものであり、本件訂正発明1により、水難溶性薬物の体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う硬度の低下が抑制された錠剤となるという効果が奏されるという技術的意義を有するところ(上記第6の1.(3)参照)、甲4には、上記の本件訂正発明1の解決しようとする課題も本件訂正発明1の構成を備えたものとすることで奏される上記効果についても何ら記載されていない。 また、申立人が提出した他の証拠のいずれにも、炭酸塩等(粒子(B))を併有する錠剤とする際に生じる問題や、その問題の解決手段、効果についての記載はない。 そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、少なくとも相違点8-1で甲4発明と相違する本件訂正発明1について、甲4発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明2?5(申立理由2(甲4))について 本件訂正発明2?5に係る発明は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件訂正発明1を限定した発明に相当する。 そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件訂正発明1について、甲4発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明2?5についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲4発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)以上のとおりであるから、申立理由2(甲4)には理由がない。 10.申立理由2(甲5)について (1)甲5発明 甲5には、甲5の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項6に係る発明として、「水難溶性薬物(A)と賦形剤(B)を含有する造粒粒子であって、前記(A)と前記(B)とは共粉砕されており、 前記(A)成分の粒子と前記(B)成分の粒子の平均粒子径が0.01?35μmであり、 2質量%水溶液の20℃における粘度が6.0mPa・s未満である水溶性または水膨潤性高分子化合物(C)をさらに含有する造粒粒子を含有する錠剤。」の発明が記載されているところ、 当該請求項に係る発明の具体的な態様に相当する実施例10([0039]-[0041]、[0050]、[0052]の[表1]、[0054]の[表3])の記載によれば、甲5には、以下の発明が記載されているといえる。 「水難溶性薬物(A)であるイブプロフェン60質量部と賦形剤(B)である低置換度ヒドロキシプロピルセルロース30質量部との共粉砕物であって、前記(A)と(B)の粒子の平均粒子径12μmである共粉砕物と、2質量%水溶液の20℃における粘度が3.0mPa・sのポリビニルアルコール10質量部を含有する造粒粒子70質量部に対し、乳糖10質量部、結晶セルロース16質量部、クロスカルメロースナトリウム3質量部、ステアリン酸マグネシウム1質量部を含む錠剤。」(以下「甲5発明」という。) (2)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1と甲5発明とを対比する。 ・甲5発明の造粒粒子に含まれる、「水難溶性薬物(A)であるイブプロフェン」は、本件訂正発明1の「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」に相当するし、また、「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」は、「分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分」である「高分子化合物(a2)」に相当する。 ・甲5発明の錠剤には、繊維素グリコール酸は含まれていない。 そうすると、本件訂正発明1と甲5発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)、分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度がlmg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)を含む造粒粒子を含有し、 前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、 前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上である、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 <相違点9> 本件訂正発明1では、内服固形錠剤に含まれる造粒粒子に所定の(a3)成分が含まれ、かつ、錠剤が炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)を含むことが特定されているのに対し、甲5発明では、錠剤は、乳糖(つまり、ラクトース)を含むが、本件訂正発明1の(a3)成分に相当する水和物であることの特定はないし、造粒粒子中には含まれておらず、また、錠剤に、粒子(B)は含まれていない点。 イ 相違点9について検討する。 甲5発明における乳糖は、錠剤中に造粒粒子とは別に添加される賦形剤であって(甲5の[0029])、甲5には、乳糖を造粒粒子中に含めることを動機づける記載はないし、また、乳糖を水和物形態とすることも記載されてない。さらに、粒子(B)を含有することを当業者に動機付けるような記載もない。 一方、本件訂正発明1は、水難溶性薬物(a1)及び所定の高分子化合物(a2)を含む造粒粒子からの錠剤を、炭酸塩等の粒子(粒子(B))を含有する錠剤として、体内での水難溶性薬物の分散性を高めて、薬物の即効性を向上させることで生じる経時に伴う錠剤硬度の低下の問題を、造粒粒子を、所定の水溶性粉体(a3)を含む造粒粒子(A)とした本件訂正発明1の錠剤とすることで解決したものであり、本件訂正発明1により、水難溶性薬物の体内での薬物の分散性が高く、かつ、経時に伴う硬度の低下が抑制された錠剤となるという効果が奏されるという技術的意義を有するところ(上記第6の1.(3)参照)、甲5には、上記の本件訂正発明1の解決しようとする課題も本件訂正発明1の構成を備えたものとすることで奏される上記効果についても何ら記載されていない。 また、申立人が提出した他の証拠のいずれにも、炭酸塩等(粒子(B))を併有する錠剤とする際に生じる問題や、その問題の解決手段、効果についての記載はない。 そうすると、相違点9で甲5発明と相違する本件訂正発明1について、甲5発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明2?5(申立理由2(甲5))について 本件訂正発明2?5に係る発明は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する発明であり、本件訂正発明1を限定した発明に相当する。 そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件訂正発明1について、甲5発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明2?5についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲5発明及び申立人が提出した他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)以上のとおりであるから、申立理由1(甲5)及び申立理由2(甲5)には理由がない。 11.申立理由3(明確性要件)について 申立人が主張する申立理由3は、申立書の3.(4)ウ(C)(76?77頁)によれば、請求項1に「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」と規定されるところ、「薬物」は極めて広い概念の成分を含むものであり、当該「薬物」にどのような成分が含まれるのか不明であるから、請求項1?5に係る発明は不明確であるというものである。 しかしながら、当業者は、本件訂正発明1?5に関し、請求項1の「20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)」における「薬物」が、内服固形錠剤に含まれる一般的な「薬物」、つまり、「医薬品の有効成分である薬物」を意味すると認識すると認められ、当業者は、「薬物」にどのような成分が含まれるかを明確に理解できるといえる。 したがって、本件訂正発明1?5について、明確性要件を満たしていないということはできない。なお、この解釈は、本件特許明細書の【0013】の水難溶性薬物(a1)の例示の記載とも符合している。 よって、申立理由3には理由がない。 12.小括 以上のとおり、申立理由1?3には理由がなく、本件訂正発明1?5は特許法第29条第1項第3号に該当するもの、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件訂正後の請求項1?5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである、とすることはできないし、本件訂正後の請求項1?5に係る特許について、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであるとすることもできない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正後の請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 20℃の水に対する溶解度が5mg/mL以下の水難溶性薬物(a1)、分子量が5000以上の水膨潤性高分子化合物である(a21)成分、及び20℃の水に対する溶解度が1mg/mL以上であり、分子量が5000以上の水溶性高分子化合物である(a22)成分からなる群より選ばれる1種以上の高分子化合物(a2)、並びに、20℃の水に対する溶解度が10mg/mL以上であり、分子量が1000未満の水溶性粉体(a3)(但し、下記粒子(B)を除く)を含む造粒粒子(A)と、 炭酸水素塩(b1)及び炭酸塩(b2)からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる粒子(B)と、を含有し、 前記(a21)成分は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びクロスポピドンからなる群から選択される1種以上であり、 前記(a22)成分は、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポピドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される1種以上であり、 前記水溶性粉体(a3)は、アセトアミノフェン、マンニトール、及び乳糖水和物からなる群から選択される1種以上である、内服固形錠剤(ただし、繊維素グリコール酸を含む錠剤を除く)。 【請求項2】 前記造粒粒子(A)中の前記水溶性粉体(a3)の含有量が、10質量%以上である、請求項1に記載の内服固形錠剤。 【請求項3】 前記粒子(B)が、前記炭酸水素塩(b1)と、前記炭酸塩(b2)とを含有する請求項1又は2に記載の内服固形錠剤。 【請求項4】 前記炭酸水素塩(b1)が炭酸水素ナトリウムであり、前記炭酸塩(b2)が炭酸ナトリウム、及び炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の炭酸塩であり、炭酸水素塩(b1)/炭酸塩(b2)で表される質量比が2以下である、請求項3に記載の内服固形錠剤。 【請求項5】 前記粒子(B)の体積平均粒子径が、10?1000μmである、請求項1?4のいずれか一項に記載の内服固形錠剤。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-09-30 |
出願番号 | 特願2015-82396(P2015-82396) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K) P 1 651・ 537- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 常見 優 |
特許庁審判長 |
藤原 浩子 |
特許庁審判官 |
前田 佳与子 渕野 留香 |
登録日 | 2018-11-30 |
登録番号 | 特許第6440317号(P6440317) |
権利者 | ライオン株式会社 |
発明の名称 | 内服固形錠剤 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 川越 雄一郎 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 川越 雄一郎 |
代理人 | 鈴木 三義 |