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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06Q
審判 全部申し立て 特29条の2  G06Q
管理番号 1368150
異議申立番号 異議2020-700544  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-03 
確定日 2020-11-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6640395号発明「情報処理システム及び情報処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6640395号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6640395号の請求項1-14に係る特許についての出願は、平成31年3月4日に出願され、令和2年1月7日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年8月3日に特許異議申立人 飯村 重樹は、特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6640395号(本件特許)の請求項1-14の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルが記憶されているストレージと、対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換する変換部と、前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する予測部と、前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する出力部と、を備える情報処理システム。
【請求項2】
前記出力部によって出力された前記非類似条項のベクトルを入力とし当該条項に対してユーザが割り当てた条項の種類を識別する条項種類識別情報を出力とする教師データを用いて、機械学習することにより分類モデルを更新する更新部を更に備え、前記予測部は、更新後の前記分類モデルに前記変換後のベクトルを入力して、前記対象の条項の種類を識別する条項種類識別情報を出力する請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと当該条項の種類を識別する条項種類識別情報が関連付けられて記憶されているストレージと、対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換する変換部と、前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する予測部と、前記予測部による比較の結果、前記ストレージを参照して前記標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち、前記変換後のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力する出力部と、を備える情報処理システム。
【請求項4】
前記ストレージには、契約書の条項が変換されたベクトルと当該条項の種類を表す条項種類識別情報もしくは当該条項に対する条項メタデータとの分析した関係が記憶されており、前記予測部は、前記分析した関係に基づいて、前記変換後の前記ベクトルを入力として、前記対象の条項の種類を識別する条項種類識別情報もしくは前記対象の条項に対する条項メタデータを予測して出力する請求項1から3のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記ストレージに記憶されている分析した関係は、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がない条項のベクトルを入力とし当該条項に対してユーザが割り当てた条項種類を識別する条項種類識別情報を出力とする教師データとして機械学習した分類モデルであり、前記予測部は、前記分類モデルに前記変換後のベクトルを入力して、前記対象の条項の種類を識別する条項種類識別情報を出力する請求項4に記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記ストレージに記憶されている分析した関係は、標準契約書に含まれる条項それぞれに対応するベクトルと、当該条項の種類を表す条項種類識別情報との組であり、前記予測部は、変換後の前記ベクトルを、前記ストレージに記憶されている、標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較し、比較の結果、類似度が基準を満たすベクトルに前記ストレージにおいて関連付けられた条項種類識別情報を出力する請求項4に記載の情報処理システム。
【請求項7】
前記ストレージには、標準契約書に含まれる条項それぞれに対応するベクトルと当該条項に付された条項種類識別情報との組に対して、契約書の種類が更に関連付けられて記憶されており、前記対象の契約書の種類を取得する取得部を更に備え、前記予測部は、前記変換後のベクトルを、前記取得部によって取得された前記対象の契約書の種類と同じ種類の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する請求項6に記載の情報処理システム。
【請求項8】
前記ストレージには、条項種類識別情報に対して、一以上の条項データ及び/または条項メタデータが関連付けられて記憶されており、前記対象の契約書に含まれる特定の条項に対するユーザの特定の操作を受け付けた場合、当該特定の条項の種類を識別する条項種類識別情報と同じ条項種類識別情報に前記ストレージにおいて関連付けられた条項データ及び/または条項メタデータを出力する条項データ出力部を更に備える請求項1から7のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項9】
前記変換部は、対象の契約書の条項を日本語から外国語へ翻訳し、翻訳後の外国語の条項をベクトルに変換する請求項1から8のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項10】
前記外国語は、英語である請求項9に記載の情報処理システム。
【請求項11】
前記対象の契約書を、条項毎に分割する分割部を更に備え、前記変換部は、前記分割部による分割後の条項をベクトルに変換する請求項1から10のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項12】
前記ストレージには、ユーザ区分と当該ユーザ区分にとって有利もしくは不利な標準条項のベクトルとの組と、条項メタデータとの分析した関係が記憶されており、前記予測部は、前記分析した関係に基づいて、対象のユーザの区分と前記対象の条項のベクトルとを入力として、条項メタデータを予測して出力する請求項4に記載の情報処理システム。
【請求項13】
対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルが記憶されているストレージを備える情報処理システムが実行する情報処理方法であって、対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換するステップと、前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較するステップと、前記比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力するステップと、を有する情報処理方法。
【請求項14】
対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと当該条項の種類を識別する条項種類識別情報が関連付けられて記憶されているストレージを備える情報処理システムが実行する情報処理方法であって、対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換するステップと、前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較するステップと、前記比較の結果、前記ストレージを参照して前記標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち、前記変換後のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力するステップと、を有する情報処理方法。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人 飯村 重樹は、主たる証拠として甲第1号証(特開2014-238629号公報)及び従たる証拠として甲第2号証(米国特許出願公開第2015/0161102号明細書)、甲第3号証(特開2010-92227号公報)、甲第5号証(情報処理学会研究報告 Vol.2015-NL-221 No.4 Vol.2015-SLP-106 No.4)、甲第6号証(特開2002-123764号公報)を提出し、請求項1-14に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1-14に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

また、特許異議申立人 飯村 重樹は、証拠として甲第4号証(特開2019-212115号公報)を提出し、請求項1-8、11、13、14に係る特許は同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、請求項1-8、11、13、14に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

4 文献の記載
(1)甲第1号証(特開2014-238629号公報)
甲第1号証には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下、同様である。)。

ア「【0001】
この発明は契約書分析システム及びプログラムに係り、特に、入力された契約書データに関連する法律の条文や判例を提示したり、注意すべき文言を指摘したりする、契約書チェックの支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
法律専門家ではない一般のビジネスパーソンであっても、取引に際して契約書を作成したり、相手方から提示された契約書の内容をチェックしたりする場面に遭遇することがある。
このような場合、弁護士等の専門家に相談するのが理想ではあるが、月額の顧問料を含め比較的高額の報酬を覚悟する必要がある。
また、最近ではネット上で法律専門家による契約書のチェックを受けられるサービスも存在しており、顧問弁護士を抱える場合に比べてリーズナブルな価格で専門的なアドバイスを得ることができるようになってきている。
【非特許文献1】契約書作成・リーガルチェックサービスインターネットURL:http://www.miraio.com/service/keiyaku/keiyakusho/検索日:2013年4月30日
【非特許文献2】契約書チェック/作成業務のご案内インターネットURL:http://www.keiyaku-sakusei.net/contractservices.html検索日:2013年4月30日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このようなネット経由のサービスを利用する場合であっても、判断自体は法律専門家によってなされるため、契約案件が生じる度に専門家に対する費用が発生することとなり、企業の規模や案件の重要度によっては、頻繁に利用することが許されない場合も多い。
【0004】
この発明は、このような現状に鑑みて案出されたものであり、法律にあまり詳しくない一般のユーザであっても、当該契約書が孕む危険性や問題点を自ら認識できるように、契約書の内容に応じて必要な情報を提示可能な技術を提供することを目的としている。」

イ「【0012】
図1は、この発明に係る法律文書解析システム10を含む契約書分析システム11を示すブロック図である。
この契約書分析システム11は、Webサーバ12とAPサーバ14から構成され、APサーバ14は、法律文書解析部16と、文書ベクトル生成部18と、関連条文特定部20と、分析画面生成部22と、解析ルール記憶部24と、法律条文記憶部26と、関連文献記憶部28とを備えている。
【0013】
上記法律文書解析部16、文書ベクトル生成部18、関連条文特定部20及び分析画面生成部22は、OS及び専用のアプリケーションプログラムに従って動作するAPサーバ14のCPUによって実現される。
また、上記解析ルール記憶部24、法律条文記憶部26及び関連文献記憶部28は、APサーバ14の外部記憶装置内に設けられている。
【0014】
上記法律条文記憶部26には、主要な法令(民法、商法、会社法、特許法、商標法、著作権法、不正競争防止法、独占禁止法、刑法、民事訴訟法等)における主要な条文や規則のテキストデータが格納されている。
【0015】
また、上記関連文献記憶部28には、主要な法令における主要な条文毎に、様々な関連文献情報が格納されている。
図2はその一例を示すものであり、民法709条について、複数のコメント(弁護士等の法律実務家によるワンポイントアドバイス)、判例及び学説が関連文献として紐付けられている様子が描かれている。
各関連文献中には、文献のタイトル、概要、他の関連文献や関連画像、関連動画等とのリンク情報が含まれている。
関連文献の種類としては、上記のコメントや判例、学説に限定されるものではなく、契約文例等であってもよい。
【0016】
上記Webサーバ12は、会員ユーザのリクエストに応じて、各種画面(Htmlファイル)を生成・送信する機能を担うものであり、インターネット30を介して多数の会員ユーザ32のクライアント端末34と接続されている。
【0017】
この契約書分析システム11の利用を希望する会員ユーザ32は、まずクライアント端末34からWebサーバ12にアクセスし、契約書分析サービスにログインする。
この結果、Webサーバ12からクライアント端末34に対して、契約書入力画面が送信され
る。図3(a)は、クライアント端末34のWebブラウザ上に表示された契約書入力画面40を示している。
【0018】
会員ユーザ32は、この契約書入力画面40に対して、契約書の各条項42をキーボードやコピー&ペーストによって入力し、送信ボタン44をクリックする。
この結果、クライアント端末34からWebサーバ12に契約書データが送信される。」

ウ「【0052】
法律文書解析部16において形態素解析、構文解析、注釈情報の付加、文字列変換等の加工処理が施された契約書データは、文書ベクトル生成部18に渡され、契約条項単位で文書ベクトル化される(S14)。
例えば、図7に示すように、契約書中に複数の条項が含まれていた場合、文書ベクトル生成部18は、条項単位で複数の文書ベクトル47を生成する。
【0053】
ここで「文書ベクトル化」とは、各文書に含まれるキーワードの組合せと出現頻度に基づいて文書の特徴をベクトルとして表現する技術であり、既存のベクトル化エンジンに各テキストを投入することにより、算出される。
ただし、文書ベクトル化処理の対象となるのは契約書に元から含まれていたテキストと、法律文書解析部16によって置換された文字列に限定され、法律文書解析部16によって付加された注釈情報は対象外となる。
上記のように、法律文書特有の構文解析が必要な文については、事前に法律文書解析部16によって最適化された文に変換されているため、文書ベクトル化処理に際し文意に沿った正しい文書ベクトルが生成される。
【0054】
法律文書解析部16は、上記した契約書データ46の解析処理と平行して、法律条文記憶部26に格納された法律条文についても、上記と同様の形態素解析処理(S10)及び解析ルール適用処理(S12)を実行し、解析済みの法律条文データを文書ベクトル生成部18に渡す。
【0055】
これを受けた文書ベクトル生成部18は、図7に示すように、まず法律の条文単位で文書ベクトルを生成するベクトル化処理を実行する(S16)。この際、条文が複数の条項を含む場合には、条項単位で文書ベクトルが生成される。
【0056】
つぎに文書ベクトル生成部18は、条文単位の文書ベクトルを比較し、相互間のなす角が閾値内にあるもの同士を集めて各条文を1文書に合体させるグループ化処理を実行する(S18)。
この際、各法律条文は「民法」や「不正競争防止法」といった法域の垣根を越えて、純粋に記述内容の類似度に応じて集められたグループ化文書48が生成される。
【0057】
つぎに文書ベクトル生成部18は、各グループ化文書48に対して、再度ベクトル化処理を施す(S20)。この結果、グループ化文書48単位での文書ベクトル49が得られる。
最後に文書ベクトル生成部18は、各グループ化文書48のベクトルデータ49と、各契約条項のベクトルデータ47を関連条文特定部20に渡す。
【0058】
これを受けた関連条文特定部20は、各契約条項のベクトル47と法律条文のグループ化文書48のベクトル49をマッチングし(S22)、相互間のなす角が最も小さくなるグループ化文書48に含まれる各法律条文を、当該契約条項の関連条文として特定する。
図7においては、契約書の第21条に対して、民法709条及び不正競争防止法4条が関連条文として特定された例が示されている。
この関連条文情報50は、分析画面生成部22に渡される。
【0059】
分析画面生成部22は、関連文献記憶部28を参照し、上記関連条文に係る関連文献(コメントや判例、学説等)を抽出する(S24)。
つぎに、分析画面生成部22は契約書の分析画面を生成し(S26)、分析画面データ52をWebサーバ12に渡す。
【0060】
この分析画面データ52は、Webサーバ12からクライアント端末34に送信され、Webブラウザ上に表示される。
図3(b)は、Webブラウザ上に表示された契約書分析画面60を示すものであり、契約書中の条項42毎に関連条文62が列記されている。各関連条文62は、契約条項の文書ベクトルとの類似度が高い順に表示される。
【0061】
各関連条文62には、それぞれの関連文献の存在を示すボタン(コメントボタン64、判例ボタン66、学説ボタン68)が表示されている。
ここでユーザ32が、例えば不競法第4条の「判例1」のボタン66をクリックすると、同条に関連付けられた判例のタイトル、概要、リンク情報が表示されたポップアップウィンドウ70が画面60上に表示される。
【0062】
また、契約条項42の文中に注釈情報が付された文字列が含まれている場合、その存在が明確となるように、下線やハイライト等の強調表示がなされると同時に、注釈情報が明示される。
図においては、契約条項中の「速やかに」に下線が引かれると共に、「<緊急度:中>」の注釈タグ72が表示されている。
【0063】
このように、契約書分析画面60において契約条項42毎に関連条文のリストと、各関連条文に係る関連文献情報が提示され、かつ法律解釈上特に注意すべき文言には注釈タグ72が付加されて注意が喚起されるため、法律にあまり詳しくないユーザ32であっても、問題の所在を確実に認識することが可能となる。
【0064】
上記のように、文書ベクトル化処理に先立って、法律文書に対して最適化処理(構文解析の最適化、文字列の変換)が施されているため、正確な文書ベクトルを生成することができ、マッチングの精度を高めることができる。
【0065】
また、法律条文のベクトル化に際しては、まず個々の条文単位で文書ベクトル化した後、そのベクトルの類似度に応じて、法律の垣根を越えてグループ化が図られるため、契約条項に関連のある条文を複数の異なる法域から網羅的に抽出することが可能となる。
【0066】
上記においては、契約書データ46の解析及びベクトル化と平行して、法律条文の解析、ベクトル化、グループ化及び再ベクトル化が実行されるため、法律改正があった場合にも常に最新のデータに基づいてマッチング処理がなされる利点を有している。」

エ「【0067】
しかしながら、この発明はこれに限定されるものではない。
すなわち、法律条文については予め解析、ベクトル化、グループ化及び再ベクトル化を実行すると共に、その処理結果を所定の記憶手段に格納しておき、契約書の文書ベクトルとのマッチング処理時に関連条文特定部20がこれを参照するようにシステムを構成することもできる。
この場合、法律文書解析部16及び文書ベクトル生成部18は、何れかの法律について改正が生じたタイミングで、全法律条文の解析、ベクトル化、グループ化及び再ベクトル化を実行することで、データの鮮度を維持する。
【0068】
また上記においては、各契約条項のベクトル47と法律条文のグループ化文書48のベクトル49とのマッチングに際し、相互間のなす角が最小となる一つのグループ化文書48が類似する条文グループとして特定される例を示したが、この発明はこれに限定されるものではない。
例えば、各契約条項のベクトル47との間のなす角が所定の閾値内に収まるベクトル49を備えた複数のグループ化文書を特定し、それぞれのグループ化文書48に含まれる法律条文を、当該契約条項の関連条文と認定することもできる。
あるいは、各契約条項のベクトル47と各グループ化文書48のベクトル49との間のなす角を小さい順に整列させ、上位N%のグループ化文書48に含まれる法律条文を、当該契約条項の関連条文と認定してもよい。この場合、「N」の値については、事前にユーザが1%刻みで設定しておく。」

オ「図3



カ「図4




以上の記載から、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「法律文書解析部と、文書ベクトル生成部と、関連条文特定部と、分析画面生成部と、解析ルール記憶部と、法律条文記憶部と、関連文献記憶部とを備え、会員ユーザが入力した契約書を分析する契約書分析システムであって(上記イ)、法律文書解析部において形態素解析、構文解析、注釈情報の付加、文字列変換等の加工処理が施された契約書データは、文書ベクトル生成部に渡され、契約条項単位で文書ベクトル化され、法律条文記憶部に格納された法律条文についても、法律の条文単位で文書ベクトルを生成するベクトル化処理を実行し、条文が複数の条項を含む場合には、条項単位で文書ベクトル条項単位で文書ベクトルを生成し、つぎに文書ベクトル生成部は、条文単位の文書ベクトルを比較し、相互間のなす角が閾値内にあるもの同士を集めて各条文を1文書に合体させるグループ化処理を実行し、これを受けた関連条文特定部は、各契約条項のベクトルと法律条文のグループ化文書のベクトルをマッチングし、相互間のなす角が最も小さくなるグループ化文書に含まれる各法律条文を、当該契約条項の関連条文として特定し、関連条文情報は、分析画面生成部に渡され、分析画面生成部は、関連文献記憶部を参照し、上記関連条文に係る関連文献(コメントや判例、学説等)を抽出し、つぎに、分析画面生成部は契約書の分析画面を生成し、分析画面データをWebサーバに渡し、この分析画面データは、Webサーバからクライアント端末に送信され、Webブラウザ上に表示されるものであって、Webブラウザ上に表示された契約書分析画面において、契約書中の条項毎に関連条文が列記されており、各関連条文は、契約条項の文書ベクトルとの類似度が高い順に表示され、各関連条文には、それぞれの関連文献の存在を示すボタン(コメントボタン、判例ボタン、学説ボタン)が表示され、ユーザが、例えば不競法第4条の「判例1」のボタンをクリックすると、同条に関連付けられた判例のタイトル、概要、リンク情報が表示されたポップアップウィンドウが画面上に表示されるものであって(上記ウ)、関連文献情報として、契約文例等を含み得るものであって(上記イ)、法律条文については予め解析、ベクトル化、グループ化及び再ベクトル化を実行すると共に、その処理結果を所定の記憶手段に格納しておき、契約書の文書ベクトルとのマッチング処理時に関連条文特定部がこれを参照するように構成することができる(上記エ)、契約書分析システム。」

(2)甲第2号証(米国特許出願公開第2015/0161102号明細書)
甲第2号証には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下、同様である。)。

ア「[0006] ?Frequent changes in contracts often present challenges to conventional approaches for finding contracts and amendments, as conventional approaches typically focus on the unstructured text only and are not able to extract relevant and important information correctly. In addition, conventional approaches find information only at the document level and attempt to locate actual text, sentences or sentence boundaries to allow for indexing. These approaches do not facilitate recognition, extraction, and grouping of clause types.」
(当審訳:[0006] 契約の頻繁な変更は、契約と修正を見つけるための従来のアプローチにしばしばチャレンジを与えるが、従来のアプローチは、典型的には、非構造化テキストのみに焦点を当てており、正確に関連する重要な情報を抽出することができないからである。加えて、従来のアプローチでは、文書レベルでのみ情報を見つけて、索引付けを可能にするために、実際のテキスト、文または文の境界を突き止めようとする。これらのアプローチは、認識、抽出、及び条項のタイプのグループ化を容易にするものではない。)

[0007] Moreover, conventional approaches cannot identify standard clauses that are distinctive clauses or terminologies used in each contract. Furthermore, conventional approaches cannot identify non-standard clauses that are unusual variations of the standard clauses and that are no longer reflecting the meaning of the standard clauses. For example, a contract and amendments may include the standard clauses that contain wording such as “net 30 days,” “within 30 days,” “30 day's notice,” and “2% penalty.” On the other hand, one of the amendments may include the non-standard clauses such as “5 working days” with “60% penalty.” Without the ability to discover the non-standard clauses, any party not keeping track of the amendments or the addendums is vulnerable to a significant amount of risk of overlooking unusual contractual terminologies.
(当審訳:[0007]さらに、従来のアプローチは、各契約において使用される特有の条項または用語の標準的な条項を識別することができない。さらに、従来のアプローチは、標準的な条項の異常な変形であって、もはや標準条項の意味を反映していない非標準条項を識別することができない。例えば、契約及びその修正は、“net 30 days(30日以内の支払い条件),” “within 30 days(30日以内),” “30 day's notice(30日前の通知),” and “2% penalty(2%の罰金).”のような表現を含む標準条項を含み得る。一方、修正の1つは、“5 working days(5営業日)” with “60% penalty(60%の罰金).”のような非標準条項を含むことができる。非標準条項を発見する能力が無ければ、変更又は追加を追跡し続けないあらゆる関係者は、顕常でない契約用語を見過ごす顕著な量のリスクに対して脆弱である。)」

イ「[0022] FIG. 1 illustrates one exemplary embodiment of a non-standard and standard clause detection system including one or more input processors (generally an input processor 110), a discovery engine 120, an analysis engine 130, a semantic language evaluator 140, an analysis database 150, and a discovery database 160. As illustrated in FIG. 1, the input processor 110 aggregates one or more raw data 100(0), 100(1) . . . 100(N) (generally 100) and processes them in an appropriate format. Also, the discovery engine 120 is communicatively coupled to the input processor 110. In addition, the analysis engine 130 is coupled to the discovery engine 120. The discovery engine 120 develops a predefined policy and initial search results. Additionally, the analysis engine 130 performs a semantic language analysis by applying two sets of policies to the semantic language evaluator 140, and determines the non-standard and standard clauses used in the raw data 100. Throughout the process the discovery database 160 stores the initial search results, metadata, and the predefined policy. In addition, the discovery database 160 is communicatively coupled to the input processor 110, the discovery engine 120, and the analysis engine 130. Additionally, the analysis engine 130 is coupled to the analysis database 150.
(当審訳:図1は、1つまたは複数の入力装置(概して、入力プロセッサ110)、発見エンジン120、解析エンジン130、意味論的言語評価部140、データベース150、及びデータベース160を含む非標準条項および標準条項の検出システムの1つの例示的な実施形態を示す。図1に示すように、入力プロセッサ110は、1つまたは複数の生のデータ100(0)、100(1). . .100(N))(総括的に100)と適切な形式で処理させる。また、発見エンジン120は、入力プロセッサ110に通信可能に結合される。また、解析エンジン130は、発見エンジン120に結合されている。発見エンジン120は、予め定義されたポリシーと初期サーチ結果を発生する。さらに、解析エンジン130は、2組のポリシーを意味的言語評価器140に適用することによって、意味論的言語解析を行い、生データ100で使用される非標準条項及び標準条項を決定する。プロセスを通して発見データベース160は、最初の検索結果を、メタデータ、及び予め定義されたポリシーを記憶する。更に、発見データベース160は、入力処理部110、発見エンジン120、分析エンジン130に通信可能に結合される、解析エンジン130は、分析データベース150に結合されている。)」

ウ「[0035] ?Referring now to FIG. 5, illustrated is one embodiment of the analysis engine 130, which performs the key function in identifying non-standard and standard clauses. As illustrated, the analysis engine 130 includes an analysis engine queue module 531, a custom feature generation module 532, a document segmentation module 533, a policy definition module 534, a standard clause detection and processing module 535, a non-standard clause detection and processing module 536, and an update discovery database module 537.」
(当審訳:[0035]ここで図5を参照すると、解析エンジン130の一実施形態が示されており、それは非標準条項および標準条項を識別する際に重要な機能を果たす。図示されているように、解析エンジン130は、解析エンジンキューモジュール531、カスタム特徴生成モジュール532、文書分割モジュール533、ポリシー定義モジュール534、標準条項検出及び処理モジュール535、非標準条項検出及び処理モジュール536と、更新発見データベースモジュール537を含む。)

[0036] The discovery engine 120 transfers a data set including the predefined policy, search indexes, the initial search results to the analysis engine queue module 531. Following the analysis engine queue module 531, the custom feature generation module 532 allows the end user to customize the predefined features obtained from the discovery engine 120 and to define primary features.
(当審訳:[0036]発見エンジン120は、予め定められたポリシー、検索インデックス、初期検索結果を含むデータセットを解析エンジンキューモジュール531に転送する。解析エンジンキューモジュール531に引き続き、カスタム特徴生成モジュール532は、エンドユーザが、発見エンジン120から得られた事前定義された特徴をカスタマイズするとともに、主たる特徴を定義することを可能とする。)

[0037] With the user defied primary features, the document segmentation module 533 replaces the actual text, phrases or clauses with the primary features. The semantic language evaluator 140 formed with the primary features replaced data set, ensures the accuracy and quality of the data. That is, the semantic language evaluator 140 accounts for minor anomalies within the clauses, allowing the analysis engine 130 to locate and group clauses based on the core semantics. The document segmentation module 533 transfers clause examples to the semantic language evaluator 140, and the semantic language evaluator assesses the similarity to each of the examples. In one exemplary art, the semantic language evaluator 140 may be a Latent Symantec Index (LSI) module, which may provide a cosine vector score based on the similarity and classify clauses accordingly. For instance, a cosine vector score of 1 indicates a high degree of similarity, when 0 indicates a low degree of similarity.
(当審訳:[0037]ユーザが主たる特徴を定義することで、文書分割モジュール533は、実際のテキスト、句又は条項を主たる特徴に置換する。データセットを置換した主たる特徴により形成される意味論的言語評価器140は、データの正確さ及び品質を確保する。すなわち、意味論的言語評価部140は、条項内の小さな異常を考慮するものであって、解析エンジン130が、中心的な意味に基づいて条項を特定しグループ化することを可能にする。文書分割モジュール533は、条項の例を意味論的言語評価器140に転送し、意味論的言語評価は、各例の類似度を評価する。1つの例示的な技術では、意味論的言語評価器140は、Latent Symantec Index (潜在的意味指数)(LSI)モジュールであってよく、類似度に基づいてコサインベクトルスコアを提供し、それにより条項を分類付けてもよい。例えば、1のコサインベクトルスコアは類似度の高いことを示し、0は類似度の程度が低いことを示す。)

[0038] The policy definition module 534 allows the end user to define the primary policy that includes primary rules, primary features, primary clause examples and a first threshold. In one exemplary embodiment, a recommended value for the first threshold is ‘95’ or between ‘90’ and ‘99,’ when the semantic language evaluator is the LSI module. In addition, the standard clause detection and processing module 535 applies the primary policy and extracts a first feature data set. The primary policy allows the analysis engine 130 to locate all clauses that are almost identical to the primary clause examples.
(当審訳:[0038]?ポリシ定義モジュール534は、エンドユーザが、一次規則、一次特徴、一次条項例、及び第一閾値を含む一次ポリシーを定義することを可能とする。1つの例示的な実施形態では、意味論的言語評価器がLSIモジュールである場合において、第一閾値のための推奨値は、「95」、または「90」と「99」の間の値である。さらに、標準条項検出及び処理モジュール535は、一次ポリシーを適用し、第一の特徴データ集合を抽出する。一次ポリシーは、解析エンジン130が、一次条項例とほとんど同一であるすべての条項を特定する。)

[0039] Afterward, the non-standard clause detection and processing module 536 may create a secondary policy, which is a copy of the primary policy that does not contain any rules and applies a second threshold, lower than the first threshold. In one exemplary embodiment, a recommended value for the second threshold is ‘60’ or between ‘50’ and ‘70, when the semantic language evaluator 140 is the LSI module. In addition, the non-standard clause detection and processing module 536 extracts a second feature data set with the secondary policy. The secondary policy allows the analysis engine 130 to locate all clauses that are semantically similar to the primary search examples. It is to be noted that, not only the second feature data set contains more data, but also contains exact match from the first feature data set. That is, the second feature data set encompasses the first feature data set. Since the first feature data set represents the standard clauses, the non-standard clause detection and processing module 536 can subtract the first feature data set from the second feature data set to extract the non-standard clauses.
(当審訳:[0039]その後、非標準条項検出及び処理モジュール536は、一次ポリシーの複製であり規則を全く含まず、第一閾値よりも低い第二閾値を適用する二次ポリシーを作成してもよい。1つの例示的な実施形態では、意味論的言語評価器がLSIモジュールである場合において、第二閾値に対する推奨値は「60」、または「50」と「70」の間の値である。さらに、非標準条項検出及び処理モジュール536は、二次ポリシーにより第二の特徴データ集合を抽出する。二次ポリシーは、解析エンジン130が、一次検索例と意味的に類似する全ての条項を特定する。第二の特徴データ集合は、より多くのデータを含むということに加えて、第一の特徴データ集合から正確な一致を含むことに留意されたい。すなわち、第二の特徴データ集合は第一の特徴データ集合を包含する。第一の特徴データ集合は標準条項を示し、非標準条項検出及び処理モジュール536は、非標準条項を抽出するために第二の特徴データ集合から第一の特徴データ集合を差し引くことができる。)

[0040] Once the analysis engine 130 obtains the non-standard and standard clauses, the update discovery database module 537 may update the discovery database 160 with the non-standard and standard clauses obtained.
(当審訳:[0040]いったん解析エンジン130が、非標準条項及び標準条項を取得すると、更新発見データベースモジュール537は、取得された非標準条項及び標準条項により発見データベース160を更新することができる。)」

エ「[0052] ?It is noted that although the configurations as disclosed are in the context of contracts, the principles disclosed can apply to analysis of other documents that can include data corresponding to standard clauses and non-standard clauses. Advantages of the disclosed configurations include promptly identifying semantically related terminologies and extracting unusual variations of the semantically related terminologies in a large volume of documents. Moreover, while the examples herein were in the context of a contract document, the principles described herein can apply to other documents, including web pages, having standard and non-standard clauses.
(当審訳:[0052]開示された構成は、契約の文章に関連しているが、開示された原理は、標準条項及び非標準条項に対応するデータを含み得る他の文書の解析に適用可能であることに留意されたい。開示された構成の利点は、速やかに意味的に関連する用語を識別し、大量の文書の中で意味的に関連した用語の通常でない変化を抽出することを含む。さらに、本明細書の実施例は、契約文書の文章におけるものであったが、本明細書に記載された原理は、標準条項及び非標準条項を有するウェブ・ページを含むその他の文書に適用することができる。)」

以上の記載から、甲第2号証には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「契約文書において、標準条項と、標準的な条項の異常な変形であって、もはや標準条項の意味を反映していない非標準条項とを識別するための解析エンジン130であって、解析エンジン130は、標準条項検出及び処理モジュール535、非標準条項検出及び処理モジュール536を含み、2組のポリシーを意味的言語評価器140に適用することによって、意味論的言語解析を行い、生データ100で使用される非標準条項及び標準条項を決定するものであって、意味論的言語評価部140は、条項内の小さな異常を考慮するものであって、解析エンジン130が、中心的な意味に基づいて条項を特定しグループ化することを可能にするものであって、文書分割モジュール533は、条項の例を意味論的言語評価器140に転送し、意味論的言語評価は、各例の類似度を評価するものであって、意味論的言語評価器140は、Latent Symantec Index (潜在的意味指数)(LSI)モジュールであってよく、類似度に基づいてコサインベクトルスコアを提供し、それにより条項を分類付けてもよく、例えば、1のコサインベクトルスコアは類似度の高いことを示し、0は類似度の程度が低いことを示し、第一閾値のための推奨値は、「95」、または「90」と「99」の間の値であり、標準条項検出及び処理モジュール535は、一次ポリシーを適用し、第一の特徴データ集合を抽出するものであって、一次ポリシーは、解析エンジン130が、一次条項例とほとんど同一であるすべての条項を特定し、その後、非標準条項検出及び処理モジュール536は、一次ポリシーの複製であり規則を全く含まず、第一閾値よりも低い第二閾値を適用する二次ポリシーを作成してもよいものであって、第二閾値に対する推奨値は「60」、または「50」と「70」の間の値であって、非標準条項検出及び処理モジュール536は、二次ポリシーにより第二の特徴データ集合を抽出し、二次ポリシーは、解析エンジン130が、一次検索例と意味的に類似する全ての条項を特定し、第二の特徴データ集合は、より多くのデータを含むということに加えて、第一の特徴データ集合から正確な一致を含み、第二の特徴データ集合は第一の特徴データ集合を包含し、第一の特徴データ集合は標準条項を示し、非標準条項検出及び処理モジュール536は、非標準条項を抽出するために第二の特徴データ集合から第一の特徴データ集合を差し引くことができるものであること。)」

(3)甲第3号証(特開2010-92227号公報)
甲第3号証には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下、同様である。)。

ア「【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、契約書の作成段階において、改変された契約条件に係るリスクの認識、改変された契約条件が妥当であるか否かの意思決定、リスクに対する対応策の提示などの審査業務を支援する技術を提供することを目的とする。」

イ「【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る文書作成支援装置10を含むシステムのシステム構成図である。文書作成支援装置10は、一般ユーザからの要求に基づいて、予め格納した雛型契約書と一般ユーザが作成した改変契約書とを各条文単位(章、条、項などの単位)に比較し、両者の差異部分と差異部分に係る審査項目とを各条文単位に一般ユーザに出力する文書作成支援機能を備える。なお、審査項目は、改変契約書を審査するために雛形契約書の条文毎に規定された項目である。」

ウ「【0050】
分割データ生成部144は、属性タグ付与部142から属性タグ付き雛形契約書データおよび属性タグ付き改変契約書データを取得する。分割データ生成部144は、属性タグ付与部142から属性タグ付き雛形契約書データおよび属性タグ付き改変契約書データを取得した場合には、属性タグ付き雛形契約書データに付されている属性タグに基づいて雛形契約書分割データを生成し、属性タグ付き改変契約書データに付されている属性タグに基づいて改変契約書分割データを生成する。
【0051】
分割データ生成部144は、生成した雛形契約書分割データを雛形契約書情報記憶部102(雛形契約書データテーブル)に出力(記憶)し、生成した改変契約書分割データを改変契約書情報記憶部104(改変契約書データテーブル)に出力(記憶)する。雛形契約書分割データおよび改変契約書分割データを出力した分割データ生成部144は、雛形契約書分割データおよび改変契約書分割データを出力した旨を示す情報を共通部分抽出部152に通知する。
【0052】
以下、分割データ生成部144による分割に関して詳細に説明する。分割データ生成部144は、予め定義した分割規則に従って、属性タグ付き雛形契約書データを章タイトル、章番号、条タイトル、条番号、項番号および条文(規定内容)などの単位に分割し、雛形契約書分割データとして雛形契約書情報記憶部102(雛形契約書分割データテーブル)に出力する。なお、分割規則は、属性タグ付き雛形契約書データに付されている属性タグの種類と分割の方法とを対応付けて規定したものである。属性タグ付き改変契約書データについても同様である。」

エ「【0055】
共通部分抽出部152は、分割データ生成部144から雛形契約書分割データおよび改変契約書分割データを出力した旨を示す情報を取得する。共通部分抽出部152は、雛形契約書分割データおよび改変契約書分割データを出力した旨を示す情報を取得した場合には、雛形契約書記憶部102から雛形契約書分割データを取得し、改変契約書情報記憶部104から改変契約書分割データを取得し、改変契約書分割データの条文と雛形契約書分割データの条文とを比較し共通部分(共通する文字)を抽出する。共通部分を抽出した共通部分抽出部152は、改変契約書分割データの条文毎に、雛形契約書分割データの全条文うち共通部分が最多(共通する文字数が最多)である1つの条文を選択する。
【0056】
改変契約書分割データの条文毎に雛形契約書分割データの1つの条文を選択した共通部分抽出部152は、改変契約書分割データ、改変契約書分割データ、改変契約書分割データの条文と雛形契約書分割データの条文との対応関係を示す対応関係データおよび対応関係にある条文同士の共通部分を示す共通部分データを対照データ生成部154に供給する。
【0057】
以下、共通部分抽出部152による共通部分の抽出に関して説明する。例えば、改変契約書分割データの条文a「甲は乙に対して、第4条5項に定める損害賠償責任を負うものとする。」、雛型契約書分割データの条文A「甲は乙に対して、第3条5項に定める損害賠償責任を負わないものとする。」、雛型契約書分割データの条文B「本契約書で用いる用語は以下の通り定義する。」がある場合、共通部分抽出部152は、条文aと条文Aの共通部分として、文字の並び順を維持し一致する文字「「甲」「は」「乙」「に」「対」「し」「て」「、」「第」「条」「5」「項」「に」「定」「め」「る」「損」「害」「賠」「償」「責」「任」「を」「負」「も」「の」「と」「す」「る」「。」」を抽出する。同様に、共通部分抽出部152は、条文aと条文Bの共通部分の文字「「は」「す」「る。」」を抽出する。次に、共通部分抽出部152は、条文aと条文Aの共通部分(文字数「30」)と、条文aと条文Bの共通部分(文字数「3」)を比較し、条文aと共通部分が最多である条文Aを選択する。
【0058】
なお、ある改変契約書分割データの条文と共通部分が最多である雛形契約書分割データの条文が複数である場合には、条文毎の類似度を算出し、類似度を表す値が最大である雛形契約書分割データの条文を選択する。類似度は改変契約書分割データの条文と雛形契約書分割データの条文からそれぞれ抽出した単語ベクトルの余弦値を採用する方法や、改変契約書分割データの条文と雛形契約書分割データの共通部分の文字数÷雛形契約書分割データの条文の文字数×100(単位%)で算出する値を採用するなどの方法がある。後者の場合、例えば、条文aと条文Aの類似度は、約88.2%(条文aと条文Aの共通部分の文字数「30」÷条文Aの文字数「34」×100)である。」

オ「【0061】
対照データ生成部154は、共通部分抽出部152から改変契約書分割データ、改変契約書分割データ、対応関係データおよび共通部分データを取得する。対照データ生成部154は、共通部分抽出部152から改変契約書分割データ、改変契約書分割データ、対応関係データおよび共通部分データを取得した場合、改変契約書分割データ、改変契約書分割データ、対応関係データおよび共通部分データに基づいて対照データを生成する。なお、対照データ生成部154は、共通部分抽出部152から取得した共通部分データを参照し、共通部分に該当しない部分を差異部分として特定する。なお、図7(b)に示す対照データは、改変契約書の条文と雛形契約書の条文との対応関係および対応関係にある条文同士の差異部分(タグではさまれた文字列)を示している。
【0062】
対照データ生成部154は、生成した対照データを出力基礎情報記憶部108(対照データテーブル)に出力(記憶)する。対照データを出力した対照データ生成部154は、対照データを出力した旨を示す情報を審査項目情報抽出部160に通知する。
【0063】
審査項目情報抽出部160は、対照データ生成部154から対照データを出力した旨を示す情報を取得する。審査項目情報抽出部160は、対照データ生成部154から対照データを出力した旨を示す情報を取得した場合には、出力基礎情報記憶部108から対照データを取得し、審査項目情報記憶部106から審査項目データを取得し、審査項目データの全項目のうち対照データに関わる項目を抽出して抽出審査項目データを生成する。
【0064】
審査項目情報抽出部160は、生成した抽出審査項目データを出力基礎情報記憶部108(抽出審査項目データテーブル)に記憶する。抽出審査項目データを出力した審査項目情報抽出部160は、抽出審査項目データを出力した旨を示す情報を出力データ生成部170に通知する。
【0065】
出力データ生成部170は、審査項目情報抽出部160から抽出審査項目データを出力した旨を示す情報を取得する。出力データ生成部170は、抽出審査項目データを出力した旨を示す情報を取得した場合には、出力基礎情報記憶部108から対照データを取得し、出力基礎情報記憶部108から抽出審査項目データを取得し、出力データを生成する。
出力データ生成部170は、生成した出力データをユーザインターフェース部120に供給する。
【0066】
なお、出力データ生成部170によって生成される出力データにおいて差異部分は強調して表示される。一例として、例えば、差異部分であるタグではさまれた文字列を太い文字で表示させる場合、出力データ生成部170は、タグをユーザ端末30において当該文字列を太い文字で表示させるためのタグ(例えば、)に変換した出力データを生成する。」

カ「【0079】
図13および図15は、出力画面の一例である。図14は、出力画面の一部である。文書作成支援装置10は、差異部分に加え、例えば、図13に示すように、変更条項または重要情報を強調表示した出力画面301を送信元のユーザ端末30に送信してもよい。なお、図13に示す出力画面301において、破線枠内に太文字で表示した条項が変更情報である。なお、重要条項を強調表示させる場合、例えば、雛形契約書データとして重要条項である旨を示すデータを追加し、重要条項である旨を示すデータである条項については差異部分がなくても対照データに含まれるようにすればよい。」

キ「【0082】
以上、上記実施形態によれば、ユーザが改変契約書データを登録することによって、改変契約書の変契約書に対する変更部分が表示されるため、改変契約書の注目すべき条項を迅速かつ容易に把握することができるようになる。また、改変された条項毎に審査に必要な情報が提示されるため、知識の少ないユーザであっても審査作業を簡便に行うことができるようになる。即ち、契約書の作成段階において、改変された契約条件に係るリスクを的確に認識し、改変された契約条件が妥当であるか否かを的確に判断でき、リスクに対する対応策に係る審査を充分に実施することができるようになる。特に、相手方から変更された契約条件に係るリスクを的確に認識し、相手方の契約条件を受け容れるか否かを妥当に判断し、相手方から変更された契約条件におけるリスクに対する対応策に係る審査を充分に実施することができるようになる。」

以上の記載から、甲第3号証には以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「一般ユーザからの要求に基づいて、予め格納した雛型契約書と一般ユーザが作成した改変契約書とを各条文単位(章、条、項などの単位)に比較し、両者の差異部分と差異部分に係る審査項目とを各条文単位に一般ユーザに出力する文書作成支援機能を備える文書作成支援装置10において、共通部分抽出部152は、雛形契約書分割データおよび改変契約書分割データを出力した旨を示す情報を取得した場合には、雛形契約書記憶部102から雛形契約書分割データを取得し、改変契約書情報記憶部104から改変契約書分割データを取得し、改変契約書分割データの条文と雛形契約書分割データの条文とを比較し共通部分(共通する文字)を抽出し、共通部分を抽出した共通部分抽出部152は、改変契約書分割データの条文毎に、雛形契約書分割データの全条文のうち共通部分が最多(共通する文字数が最多)である1つの条文を選択し、ある改変契約書分割データの条文と共通部分が最多である雛形契約書分割データの条文が複数である場合には、条文毎の類似度を算出し、類似度を表す値が最大である雛形契約書分割データの条文を選択し、該類似度は改変契約書分割データの条文と雛形契約書分割データの条文からそれぞれ抽出した単語ベクトルの余弦値を採用し得るものであって、対照データ生成部154は、共通部分抽出部152から取得した共通部分データを参照し、共通部分に該当しない部分を差異部分として特定し、対照データは、改変契約書の条文と雛形契約書の条文との対応関係および対応関係にある条文同士の差異部分(タグではさまれた文字列)、変更条項、重要情報を、画面上において太い文字で強調表示するように出力すること。」

(4)甲第4号証(特開2019-212115号公報)
甲第4号証には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下、同様である。)。

ア「【0004】
しかしながら、特許文献1に係る発明は、一般的な文法の誤りなどを推定しているのみであり、文書自体の趣旨に沿って具体的な内容の瑕疵を検出するに至っていない。
【0005】
一つの側面では、契約書の記述内容を適切に検査することができる検査装置等を提供することを目的とする。」

イ「【0009】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は、契約書検査システムの構成例を示す模式図である。本実施の形態では、契約書内の記述で誤り等と推定される注意箇所を検出する契約書検査システムについて説明する。契約書検査システムは、情報処理装置(検査装置、学習装置)1、端末2、2、2…を含む。各装置は、インターネット等のネットワークNを介して通信接続されている。
【0010】
情報処理装置1は、種々の情報処理、情報の送受信が可能な情報処理装置であり、例えばサーバ装置、パーソナルコンピュータ等である。本実施の形態で情報処理装置1はサーバ装置であるものとし、以下の説明では便宜上サーバ1と読み替える。サーバ1は、所定の契約書の雛形を用いて、契約書に出現する語句を学習する機械学習を行い、契約書内の注意箇所を識別可能な言語モデルを生成する。言語モデルは、自然言語の文章が生成される確率をモデル化したものであり、例えばN-gramモデル、隠れマルコフモデルなどがある。後述するように、本実施の形態においてサーバ1は、学習用に与えられる契約書群から再帰型ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network、以下では「RNN」と記す)を言語モデルとして構築し、当該RNNを用いて検査対象の契約書から注意箇所を検出する。
【0011】
本実施の形態でサーバ1は、契約書の種別、及び契約書に含まれる条項毎に異なる言語モデルを生成する。サーバ1は、本システムを利用するユーザが作成した契約書を端末2から取得し、当該契約書の種別、及び契約書に記述された各条項を判別して文書の構造化を行う。そしてサーバ1は、構造化した契約書の各条項の文章を、条項及び種別毎に異なる言語モデルを用いて分析し、注意箇所を検出する。
【0012】
端末2は、契約書を作成する各ユーザが使用する端末装置であり、例えばパーソナルコンピュータ、多機能端末等である。端末2は、ユーザが作成した契約書をサーバ1に送信し、契約書の検査処理を要求する。端末2は、サーバ1から検査結果を受信し、契約書の注意箇所を表示する。
【0013】
図2は、サーバ1の構成例を示すブロック図である。サーバ1は、制御部11、主記憶部12、通信部13、補助記憶部14を備える。
制御部11は、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置を有し、補助記憶部14に記憶されたプログラムPを読み出して実行することにより、サーバ1に係る種々の情報処理、制御処理等を行う。主記憶部12は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の一時記憶領域であり、制御部11が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。通信部13は、通信に関する処理を行うための処理回路等を含み、外部と情報の送受信を行う。
【0014】
補助記憶部14は大容量メモリ、ハードディスク等であり、制御部11が処理を実行するために必要なプログラムP、その他のデータを記憶している。また、補助記憶部14は、カテゴリ判別モデル141、言語モデル142を記憶している。カテゴリ判別モデル141は、契約書の種別、及び契約書内の条項を判別するためのモデルデータである。言語モデル142は、上述の如く、学習用の契約書群から生成される言語モデルのデータであり、各種契約書に含まれる各条項のモデルデータである。後述するように、本実施の形態でサーバ1は、契約書の種別及び条項毎に言語モデル142を生成して補助記憶部14に記憶してある。
【0015】-【0016】(省略)
【0017】
図3は、契約書学習処理に関する説明図である。図3では、サーバ1が学習用の契約書から複数の言語モデル142、142、142…を生成する様子を概念的に図示してある。以下では、サーバ1が実行する処理の概要について説明する。
【0018】
サーバ1は、契約書の雛形である雛形契約書群を外部から取得し、各雛形契約書の文章を学習する機械学習を行う。雛形契約書は、サーバ1が学習対象とする契約書の雛形であり、例えば人手で作成された既存の契約書である。サーバ1はまず、各々の雛形契約書から、その契約書の種別、及び契約書に含まれる各条項を判別し、契約書の構造化を行う。そしてサーバ1は、構造化した契約書の各文章を、契約書の種別、及び条項毎に学習して別々の言語モデル142を生成する。
【0019】
契約書の種別は、契約内容を大別する分類であり、例えば秘密保持契約、業務委託契約、共同研究契約などである。なお、上記はいずれも一例であって、契約書の種別は特に限定されない。図3左側に一例として、秘密保持契約に係る契約書を概念的に図示してある。図3で太線枠に示すように、一般的な契約書は、複数の条項に区分して契約内容が記述される。サーバ1は、契約書の条項毎に、各条項の文章を学習する。なお、本明細書では「文章」と言う場合、文章は一文(センテンス)に限定されず、複数の文から成る文章も含まれる。後述するように、サーバ1は、各条項に出現する語句を、契約書における各語句の並び順に従って学習する。これによりサーバ1は、各条項に応じた言語モデル142を生成する。
【0020】
まずサーバ1は、複数の雛形契約書を、契約書の種別に応じて分類する。例えばサーバ1は、契約書の種別を表すキーワードをカテゴリ判別モデル141に予め格納(記憶)しておき、当該キーワードが雛形契約書に記述されているか否かに応じて、契約書の種別を判別する。より詳細には、例えばサーバ1は、契約書の書面名として記述されるキーワードをカテゴリ判別モデル141に格納しておき、契約書の見出し(タイトル)に記述されている書面名をキーワードと比較して、雛形契約書の種別を判別する。図3に示す契約書では、サーバ1は表題の「秘密保持契約書」から、当該契約書が秘密保持契約に係る契約書であることを判別する。
【0021】
さらにサーバ1は、カテゴリ判別モデル141を参照して、契約書内の各条項に相当する文章部分を特定する。例えばサーバ1は、上記の契約種別の判別時と同じく、キーワードに基づいて各条項を特定する。例えばサーバ1は、各条項を表すキーワードを予めカテゴリ判別モデル141に格納(記憶)しておき、当該キーワードが記述された文章部分を条項部分として特定する。例えばサーバ1は、各条項のタイトルに相当する小見出し(サブタイトル)を、カテゴリ判別モデル141に格納されたキーワードと比較し、条項を特定する。図3の例では、サーバ1は「第1条」の小見出し「目的」から、当該文章部分を契約の目的に関する条項として判別する。
【0022】
なお、上記ではサーバ1がキーワードに基づくルールベースで契約書の種別及び条項を判別するものとしたが、本実施の形態はこれに限定されるものではない。例えばサーバ1は、学習対象である契約書の各文章の特徴量を算出し、これと事前に学習済みの各種別及び条項の文章の特徴量との類似度を算出して、算出した類似度に基づき種別及び条項を特定してもよい。
【0023】
契約書内の各文章の特徴量を算出する手法としては、tf-idf法がある。tf-idf法は、文章(文書)群の中のある文章において、その文章を特徴付ける単語を抽出する手法であり、各単語の出現頻度(tf;Term Frequency)及び逆文書頻度(idf;Inverse Document Frequency)に基づいて、単語の重要度(tf-idf値)を算出する手法である。tf-idf法を用いることで、文章内に出現する各単語の重要度を算出し、当該文章を、各単語の重要度を変数とする多次元の特徴量(ベクトル値)で表現することができる。
【0024】
例えばサーバ1は、契約書において各条項の文章に出現する各単語の出現頻度及び逆文書頻度を算出し、算出した出現頻度及び逆文書頻度から各単語の重要度を算出することで、各文章の特徴量を算出する。サーバ1は、各種別の雛形契約書に含まれる各条項の文章について、上述の如く特徴量を算出する。そしてサーバ1は、算出した各種別及び条項の文章の特徴量と、事前に学習済みの各種別及び条項の文章の特徴量との類似度(例えばコサイン類似度)を算出する。サーバ1は、算出した類似度を所定の閾値と比較する等して、各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別する。
【0025】
文章特徴量から類似度を算出して各文章の種別及び条項を判別する場合、キーワードに基づくルールベースで種別及び条項を判別する場合と比較して、より適切に判別を行うことができる。例えば条項名が「秘密保持義務」となっていても、実際には当該条項に知的財産に関わる内容が記載されていた場合、キーワードに基づくルールベースではこの記載内容を秘密保持義務に係る条項の文章と判別するが、類似度に基づいて判別を行う場合、当該文章の特徴から知的財産に係る条項の文章と判別することができる。このように、文章の特徴量から類似度を算出することで、契約書内の各文章の種別及び条項を好適に判別することができる。
【0026】
サーバ1は各契約書について上述の処理を繰り返し、複数の雛形契約書それぞれの種別を判別し、各雛形契約書に記述されている各条項を判別する。すなわちサーバ1は、契約書の構造化を行う。サーバ1は、構造化した各契約書において種別及び条項が共通する文章を元に、各言語モデル142を生成する。例えば図3右側に示すように、サーバ1は、種別が「秘密保持契約」であり、かつ、条項が「損害賠償」で共通する各契約書の文章を元に、一の言語モデル142を生成する。その他の言語モデル142についても同様に、サーバ1は種別及び条項に応じて言語モデル142を生成する。」

ウ「【0027】
図4は、言語モデル142の生成処理に関する説明図である。本実施の形態でサーバ1は、言語モデル142としてRNNを構築する。具体的には、サーバ1は、RNNの一種であるLSTM(Long Short-Term Memory)を構築する。
【0028】
サーバ1は、上記のように種別及び条項に応じて構造化した文章をRNNに入力し、当該文章に出現する語句を学習する。ここでサーバ1はまず、RNNに入力する文章に対して形態素解析等の自然言語処理を行い、所定単位の文字又は文字列である語句(要素)毎に分割する。この分割単位は、例えば単語、文節等の単位であるが、特に限定されない。例えばサーバ1は、複数の語句を格納した辞書(不図示)を予め記憶しておき、当該辞書に格納された語句に従って文章を分割する。
【0029】
なお、サーバ1は単語、文節等の単位ではなく、その他の単位で文章を分割してもよい。その他の分割単位としては、サブワード(部分語)と呼ばれる単位が想定され得る。サブワードは通常の分かち書きとは異なり、文章中に出現する頻度に応じて文章を区分した語句の単位である。一般的に文章の最小構成単位として用いられる「単語」は、文章中の文字又は文字列を意味、文法等の観点から最小化した単位であるが、サブワードは意味、文法等による単位ではなく、文章中で用いられる頻度に応じて最小化した単位である。サブワード単位で分割した場合、サーバ1は契約書特有の専門用語も分割可能であるため、より好適に文書の分割を行うことができる。このように、サーバ1は所定単位の文字又は文字列である要素毎に契約書の文章を分割可能であればよく、分割単位とする要素は単語等の単位に限定されない。
【0030】
サーバ1は、分割した各語句をRNNに係る入力層に入力し、機械学習を行う。図4に、RNNの構成を概念的に図示する。図4に示すように、RNNは、入力層、中間層(隠れ層)、及び出力層を有する。入力層は、文章の先頭から順に出現する各語句の入力をそれぞれ受け付ける複数のニューロンを有する。出力層は、入力層の各ニューロンに対応して、各ニューロンに入力される語句の次に出現する語句をそれぞれ推定して出力する複数
のニューロンを有する。そして中間層は、入力層の各ニューロンへの入力値(語句)に対して出力層の各ニューロンにおける出力値(語句)を演算するための複数のニューロンを有する。中間層の各ニューロンは、過去の入力値に関する中間層での演算結果を用いて(図4では右向きの矢印で図示)次の入力値に関する演算を行うことで、直前までの語句から次の語句を推定する。
【0031】
なお、図4に示すRNNの構成は一例であって、本実施の形態はこれに限定されるものではない。例えば中間層は一層に限定されず、二層以上であってもよい。また、入力層及び出力層のニューロンの数は同数に限定されず、例えば入力に対して出力の数は少なくともよい。
【0032】
また、本実施の形態でサーバ1はRNNのアルゴリズムに従って学習を行うが、例えばその他の深層学習、N-gramモデル、SVM(Support Vector Machine)、ベイジアンネットワーク、決定木など、他のアルゴリズムに従って学習を行い、言語モデル142を生成してもよい。
【0033】
サーバ1は、学習用文章の各語句を、当該文章内での並び順に従って入力層の各ニューロンに入力し、出力層の各ニューロンから出力値を得る。図4の例では、サーバ1は学習用文章の各語句「甲」、「が」、「開発」、「した」…を、文章内での順番に従い、対応する入力層の各ニューロンに入力する。サーバ1は、中間層を経て出力層の各ニューロンでの演算を行い、文章内の任意の位置(順番)に出現する語句の生起確率を、直前までに出現する語句に基づいて算出し、次に出現する語句を推定する。図4の例では、サーバ1は1番目の語句「甲」に基づき、2番目に出現する語句の生起確率を算出して推定を行う。また、サーバ1は1番目及び2番目の語句「甲」及び「が」に基づき、3番目の語句の生起確率を算出して推定を行う。以下同様にして、サーバ1は各語句を推定する。
【0034】
サーバ1は、推定した語句を実際の語句(正解値)と比較し、出力層の各ニューロンからの出力値が正解値に近似するよう各ニューロンのパラメータを調整し、RNNを構築する。例えばサーバ1は、「甲」に続く語句として推定した語句が、実際の語句「が」となるように、各ネットワーク層のニューロンの重み等を調整する。これによりサーバ1は、学習用文章の順方向における語句の並び順を学習した言語モデル142を生成する。
【0035】
サーバ1は、上述のRNNに係る言語モデル142を、契約書の種別及び条項毎に生成する。サーバ1は、生成した各言語モデル142を用いて、端末2から取得する検査対象の契約書から、誤り等の瑕疵と推定される注意箇所を検出する。」

エ「【0036】
図5は、契約書検査処理に関する説明図である。図5に基づき、サーバ1が検査対象の契約書から注意箇所を抽出する処理について説明する。
サーバ1は、ユーザが作成した契約書を端末2から取得する。サーバ1はまず、取得した契約書の種別を判別すると共に、契約書内の各条項を特定する構造化処理を行う。具体的には、サーバ1は契約書の学習時と同様に、カテゴリ判別モデル141を参照して、キーワードに基づくルールベース、あるいはtf-idf法等の文章特徴量に基づく類似度によって契約書の種別及び条項を判別する。
【0037】
これによりサーバ1は、図5に示すように、契約書の種別を判別した上で、契約書の文章を条項毎に分類する。そしてサーバ1は、契約書内の各条項の文章を、対応する種別及び条項のモデルデータ(言語モデル142)と比較して、注意箇所を抽出する。
【0038】
具体的には、サーバ1は、契約書の各条項の文章を所定単位の語句毎に分割し、分割した各語句を、その並び順に従って上述のRNNのニューラルネットワークに入力する。そしてサーバ1は、当該文章の先頭から順に出現する一又は複数の語句に基づき、当該一又は複数の語句の次に出現する語句の生起確率を算出する。例えば図5に示す「損害賠償」の条項について考えた場合、サーバ1は1番目の語句「甲」及び2番目の語句「が」に基づき、3番目の語句「独自」の生起確率を算出する。また、サーバ1は同様に、1?3番目の語句「甲」、「が」及び「独自」に基づき、4番目の語句「に」の生起確率を算出する。以下同様にして、サーバ1はその他の条項についても各語句の生起確率を算出する。
【0039】
サーバ1は、算出した生起確率に応じて、雛形契約書を学習して構築したモデルデータ(言語モデル142)と、検査対象の契約書との差分に基づき、注意箇所を抽出する。例えばサーバ1は、算出した生起確率を所定の閾値と比較し、生起確率が閾値以下の語句を差分と判定する。例えば図5の「損害賠償」の条項では、「独自」及び「に」の生起確率が低くなっている。サーバ1は、生起確率が閾値以下の当該語句を差分と判定する。
【0040】
サーバ1は、差分に相当する語句を注意箇所として抽出し、端末2に出力する。例えばサーバ1は、図5の右側に概念的に示すように、注意箇所として抽出した語句を色分け等の方法によりその他の語句と異なる態様で表示させることで、注意箇所をユーザに識別可能とする。
【0041】(省略)
【0042】
図6は、検査結果の出力処理に関する説明図である。上記では、サーバ1が注意箇所を色分け等の方法で出力(表示)する旨を説明した。本実施の形態ではさらに、サーバ1は注意箇所を出力するだけでなく、注意箇所の修正候補を出力、及び記述されていない条項の例文(雛形)の出力を行ってもよい。
【0043】
例えば図6の右側上段に示すように、サーバ1は、注意箇所を含む文章の修正候補を端末2に出力する。上述の如く、サーバ1は言語モデル142を用いることで、各条項の文章に出現する語句の生起確率を、直前までの語句から算出することができる。サーバ1は、注意箇所として抽出した語句において、当該語句が記述されている位置(順番)で生起確率が最大となる語句を修正候補として端末2に出力する。図6に示す例では、サーバ1は注意箇所として抽出した語句「理由」に代えて、生起確率が最大となる語句「事由」を修正候補として出力する。なお、サーバ1は語句の変換だけでなく、語句の削除、追加等を行った文章を修正候補として出力してもよい。
【0044】
また、サーバ1は、カテゴリ判別モデル141を参照して、検査対象の契約書に記述されていない条項を特定し、特定した条項の例文(雛形)を出力してもよい。例えばサーバ1は、各種契約書の条項の例文を記憶しておき、検査対象の契約書から必要な条項が判別されない場合、当該条項の例文を出力する。これにより、ユーザは必要な条項の記述漏れを防ぐことができる。
【0045】
以上より、サーバ1は検査対象の契約書を条項毎(及び種別毎)に構造化し、条項毎にモデルデータ(言語モデル142)と比較して注意箇所を抽出する。条項毎に上記の処理を行うことで、注意箇所を精度良く抽出し、ユーザに通知することができる。」

オ「【0046】
図7は、契約書学習処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。図7に基づき、サーバ1が実行する学習処理の処理内容について説明する。
サーバ1の制御部11は、契約書の雛形である雛形契約書を取得する(ステップS11)。制御部11はカテゴリ判別モデル141を参照して、取得した雛形契約書の種別、及び当該契約書に含まれる各条項を判別する構造化処理を実行する(ステップS12)。例えば制御部11は、各種別及び条項のキーワードである語句をカテゴリ判別モデル141に予め格納しておき、当該キーワードを雛形契約書から判別することで、契約書の種別と、契約書に含まれる各条項の文章とを判別する。また、例えば制御部11は、tf-idf法等によって事前に各種別及び条項の文章の特徴量を格納したカテゴリ判別モデル141を用意しておき、カテゴリ判別モデル141に格納されている各文章の特徴量と、雛形契約書に含まれる各文章の特徴量とから類似度を算出し、算出した類似度に応じて種別及び条項を判別する。
【0047】
制御部11は、各条項の文章を、所定単位の文字又は文字列である複数の語句(要素)に分割する(ステップS13)。例えば制御部11は、単語、文節等の意味単位で文章を分割してもよく、サブワード等の出現頻度に応じた単位で文章を分割してもよい。
【0048】
制御部11は、分割した各語句の次に出現する語句を、文章における並び順に学習する機械学習処理を行い、条項及び種別毎にモデルデータ(言語モデル142)を生成する(ステップS14)。例えば制御部11は、RNN(LSTM)のアルゴリズムに基づく機械学習を行い、文章の先頭から順に出現する一又は複数の語句から、当該一又は複数の語句に続いて出現する語句を推定する言語モデル142を生成する。制御部11は、契約書の種別及び条項に応じて別々の言語モデル142を生成する。制御部11は、生成した各種別及び条項の言語モデル142を補助記憶部14に格納する。制御部11は、一連の処理を終了する。
【0049】
図8は、契約書検査処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。図8に基づき、サーバ1が実行する検査処理の処理内容について説明する。
サーバ1の制御部11は、検査対象である契約書を端末2から取得する(ステップS31)。制御部11はカテゴリ判別モデル141を参照して、取得した契約書の種別及び条項を判別する構造化処理を実行する(ステップS32)。制御部11は、判別した各条項の文章を、所定単位の語句毎に分割する(ステップS33)。
【0050】
制御部11は、条項毎に対応するモデルデータ(言語モデル142)と、検査対象の契約書から判別した条項毎の文章との差分に基づき、検査対象の契約書の注意箇所を抽出する(ステップS34)。具体的には、制御部11は、上述の言語モデル142を用いて、各条項の文章に出現する各語句の生起確率を算出し、算出した生起確率に基づいて学習用の契約書との差分に相当する語句を判定する。上述の如く、制御部11は、言語モデル142であるRNNに各語句をその並び順に従って順次入力し、先頭から順に出現する一又は複数の語句から、当該一又は複数の語句に続く語句の生起確率を算出する。制御部11は、生起確率が所定の閾値以下の語句を注意箇所として抽出する。
【0051】
制御部11は、抽出した語句を注意箇所として端末2に出力する(ステップS35)。例えば制御部11は、注意箇所に相当する語句を、色分け等によりその他の語句と異なる態様で端末2に表示させる。また、ステップS36において制御部11は、言語モデル142を参照して、注意箇所として出力した語句の修正候補を併せて出力してもよい。また、制御部11はカテゴリ判別モデル141を参照して、検査対象の契約書に記述されていない条項の例文を出力してもよい。制御部11は、一連の処理を終了する。」

カ「【0072】
(実施の形態3)
本実施の形態では、各条項の文章から抽出した注意箇所の数に応じて、条項全体を注意箇所として出力する形態について説明する。
図12は、実施の形態3の概要を示す説明図である。本実施の形態に係るサーバ1は、実施の形態1と同様に、言語モデル142を参照して検査対象の契約書の各条項から注意箇所を抽出し、端末2に出力する。本実施の形態ではさらに、サーバ1は各条項における注意箇所の数に応じて、注意箇所が多い条項自体を注意箇所として出力する。
【0073】
図12の左側に示す例では、「秘密保持契約書」において「支払方法と時期」の条項が記述されているが、秘密保持契約書には本来、金銭の支払に関する条項はないはずである。しかし、ユーザが他の契約書と間違える等して当該契約書に上記の条項を記述したため、サーバ1は、当該条項の文章部分から多数の注意箇所を抽出する。本実施の形態でサーバ1は、このように多数の注意箇所を抽出した条項を、それ自体が通常記載すべきでない条項としてユーザに通知する。
【0074】
例えばサーバ1は、図12右側に示すように、条項全体を注意箇所として端末2に表示させる。例えば端末2は、色分け等の方法によって該当する条項を他の条項とは異なる態様で表示する。これにより、ユーザは、契約書に通常記載されないはずの条項を容易に把握することができる。
【0075】
なお、上記では条項単位で注意箇所を出力するものとしたが、例えばサーバ1は、一文毎、段落毎などの単位で上述の処理を行ってもよい。つまり、サーバ1は、複数の注意箇所を検出した文章をユーザに提示可能であればよく、当該文章の単位は特に限定されない。」

以上の記載から、甲第4号証には以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「サーバ装置と端末を含む契約書検査システムにおいて(上記イ)、
前記サーバ装置は、契約書の雛形である雛形契約書群を外部から取得し、各雛形契約書の文章を学習する機械学習を行う際には、各々の雛形契約書から、その契約書の種別、及び契約書に含まれる各条項を判別しカテゴリ判別モデルを生成するとともに、契約書の構造化を行い、構造化した契約書の各文章を、契約書の種別、及び条項毎に学習して別々の言語モデルを生成するものであって(上記イ、オ)、
前記サーバ装置は、前記契約書の種別、及び契約書に含まれる各条項を判別するために、契約書内の各文章の特徴量を算出する手法としてtf-idf法等により、文章内に出現する各単語の重要度を算出し、当該文章を、各単語の重要度を変数とする多次元の特徴量(ベクトル値)で表現し、算出した各種別及び条項の文章の特徴量と、事前に学習済みの各種別及び条項の文章の特徴量との類似度(例えばコサイン類似度)を算出し、算出した類似度を所定の閾値と比較する等して、各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別できるように各種別及び条項の文章の特徴量をカテゴリ判別モデルとして補助記憶部に予め格納するとともに(上記イ、ウ、オ)、
前記サーバは、各条項の文章を、単語、文節、サブワード等の所定単位の文字又は文字列である複数の語句(要素)に分割し、分割した各語句の次に出現する語句を、文章における並び順に学習するRNN(LSTM)のアルゴリズムに基づく機械学習処理を行い、条項及び種別毎に文章の先頭から順に出現する一又は複数の語句から、当該一又は複数の語句に続いて出現する語句を推定する言語モデルを生成し、契約書の種別、及び条項毎に学習して生成された別々の言語モデルを前記補助記憶部に格納し(上記イ、ウ、オ)、
前記サーバ装置は、当該システムを利用するユーザが作成した検査対象の契約書を検査する契約書検査処理を行う際には、前記サーバ装置は本システムを利用するユーザが作成した検査対象の契約書を前記端末から取得し(ステップS31)、前記サーバ装置は、前記カテゴリ判別モデルを参照して、取得した契約書の種別及び条項を判別する構造化処理を実行し(ステップS32)、判別した各条項の文章を、所定単位の語句毎に分割し(ステップS33)、条項毎に対応するモデルデータである前記言語モデルと、検査対象の契約書から判別した条項毎の文章との差分に基づき、前記言語モデルであるRNNに各語句をその並び順に従って順次入力し、先頭から順に出現する一又は複数の語句から、当該一又は複数の語句に続く語句の生起確率を算出し、生起確率が所定の閾値以下の語句を注意箇所として抽出し(ステップS34)、抽出した語句を誤り等の瑕疵と推定される注意箇所として前記端末に出力し(ステップS35)、前記サーバ装置は、注意箇所に相当する語句を、色分け等によりその他の語句と異なる態様で前記端末に表示させる機能を有するとともに(上記イ、ウ、エ、オ)、前記カテゴリ判別モデルを参照して、検査対象の契約書に記述されていない条項の例文を出力したり(上記オ)、多数の注意箇所を抽出した条項を、それ自体が通常記載すべきでない条項として条項全体を注意箇所として端末に表示させるように出力してもよいものである(上記カ)
契約書検査システム。」

(5)甲第5号証(情報処理学会研究報告 Vol.2015-NL-221 No.4 Vol.2015-SLP-106 No.4)
甲第5号証には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下、同様である。)。

ア「自然言語処理の分野において,単語の意味を理解することは対話システムや機械翻訳,情報検索,構文解析等の有用で様々なタスクでの活用が期待できるため,重要な課題となっている.単語の意味を計算機で扱うために様々な手法が提案されているが,その中で最も成功しているものの一つに単語の分散意味表現として単語ベクトルを構築する手法がある.・・・(省略)・・・本研究では,厳密に日本語の単語ベクトルを評価することを目標とする.・・・(省略)・・・この結果から,日本語と英語の単語ベクトル間の差異や日本語特有の問題について考察する.(p.1左欄)」

イ「また,英語の実験では,今回比較手法として設定したn-gram言語モデルの正答率を上回っている.そのため,英語の場合n-gram言語モデルよりも英単語ベクトルは文完成タスクを解く性能が高いといえ,日本語単語ベクトルに比べ文完成のタスクを解く性能に優れているということもいえる.(p.7右欄)」

ウ「本研究では,Skip-gramモデル及びGloVeを用いて日本語の単語ベクトルを構築し,単語類推タスク,文完成タスクについて評価を行った.単語類推タスクでは,同義語や表記ゆれなど日本語に多い存在する問題のためのため英語と同様の評価を行うことが難しいことが明らかになった.また,単語ベクトルに存在する語義曖昧性の問題や日本語特有の単語の活用形間の学習に関する問題の影響により,英単語ベクトルに比べて正答率が低くなることがわかった.(p.8左欄)」

以上の記載から、甲第5号証には以下の技術的事項(以下「甲5技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「英語の場合n-gram言語モデルよりも英単語ベクトルは文完成タスクを解く性能が高いといえ,日本語単語ベクトルに比べ文完成のタスクを解く性能に優れており、単語ベクトルに存在する語義曖昧性の問題や日本語特有の単語の活用形間の学習に関する問題の影響により,日本語の単語ベクトルは英単語ベクトルに比べて正答率が低くなること」

(6)甲第6号証(特開2002-123764号公報)
甲第6号証には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下、同様である。)。
ア「【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の技術では、契約を締結するための交渉過程における説明の経過等を証明することが困難であり、留意すべき事項に関する説明が欠落したり、不十分であったりするために、契約当事者間で契約内容の解釈に齟齬が生じたり、誤解を招くことがあった。また、従来では、締結手続が完了したのちの契約書のみが保存されるため、未署名の状態の契約書や、契約当事者の一部のみが署名した契約書といった、中間の状態にある契約書を保管するには、当事者が別途にコピーを作成するなどの手間が掛かっていた。
【0007】契約を締結するための手続を電子的に履行させる場合には、契約条項のうちで同意できない部分について変更を加えたり、一部の条項についてのみ部分的な合意を成立させることはできなかった。また、こうした手続を電子的に履行する場合、未署名の状態の契約書や、契約当事者の一部のみが署名した状態の契約書といった、中間の状態にある契約書は、セキュリティ保護の対象となっておらず、適切に保管することができなかった。
【0008】この発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、契約締結のための手続における不正な改竄を防止すると共に、契約の交渉過程を確実に証明可能とし、契約業務を適切に支援することができる契約支援サービス方法、および契約支援システムを、提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、この発明の第1の観点に係る契約支援サービス方法は、契約支援サービスを提供するサーバが、契約内容を提示するための画面を端末に表示させ、契約当事者が契約を締結するための手続を電子的に履行させる方法において、各契約当事者に対応して設けられた前記端末に対して、順番に契約内容を提示する画面を表示させ、契約の合意または署名を実施する旨の指令が入力されるごとに、署名の実施前と実施後の契約条項を示す情報を、実施日時と実施者とを特定可能として記憶手段に保存することを特徴とする。
【0010】この発明によれば、署名の実施前と実施後の契約条項を示す情報を、実施日時と実施者とを特定可能として記録する。これにより、契約締結のための手続における契約書の不正な改竄を防止すると共に、契約の交渉過程を確実に証明することができる。」

イ「【0017】契約内容を提示するための画面は、契約当事者にとって留意すべき条文、および/または不利益な条文、および/または重要事項について、契約当事者に注意を喚起する態様で表示し、かつ、注意を喚起した事実を示す情報、および/または契約当事者が認諾した事実を示す情報を、記憶手段に保存してもよい。これにより、契約内容について当事者間で齟齬や誤解が生じることを防止すると共に、契約の交渉過程を確実に証明することができる。」

ウ「【0054】条項テーブル21は、契約内容の合意が成立するまでの各契約条項を管理するため、各種の情報を記録する。図4は、条項テーブル21に記録される情報の一例を示す図である。条項テーブル21には、図4に示すように、例えば各契約条項に対応するレコードが設けられており、契約条項が変更されるごとに、変更された契約条項の条文を示す情報が記録される。さらに、条項テーブル21は、作成者情報、変更者情報、設定日時情報、状態情報、保留期限情報、設定情報、重要度情報、留意識別情報等を、各契約条項に対応づけて記録する。ここで、作成者情報は、契約条項の作成者(入力者)を示す情報である。変更者情報は、契約条項の変更を指示した契約当事者等を示す情報である。設定日時情報は、契約条項の作成や変更、保留、合意などの設定がなされた日時を示す情報である。状態情報は、保留状態や合意状態など、各契約条項についての業務の進行状況を識別するための情報である。保留期限情報は、契約条項が保留状態にある場合の保留期限を示す情報である。設定情報は、各契約条項に対して割り当てられた保留期限を経過した場合に、当該条項について自動的に合意を成立させるか、契約当事者に差し戻すか、無効とするかといった、各契約条項の取扱を示す情報である。重要度情報は、各契約条項の重要度を示す情報である。留意識別情報は、契約当事者が留意すべき条項であるか否かを識別するための情報である。」

以上の記載から、甲第6号証には以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「契約支援サービス方法は、契約支援サービスを提供するサーバが、契約内容を提示するための画面を端末に表示させ、契約当事者が契約を締結するための手続を電子的に履行させる方法において、各契約当事者に対応して設けられた前記端末に対して、順番に契約内容を提示する画面を表示させ、契約の合意または署名を実施する旨の指令が入力されるごとに、署名の実施前と実施後の契約条項を示す情報を、実施日時と実施者とを特定可能として記憶手段に保存するものであって、契約内容を提示するための画面は、契約当事者にとって留意すべき条文、および/または不利益な条文、および/または重要事項について、契約当事者に注意を喚起する態様で表示し、かつ、注意を喚起した事実を示す情報、および/または契約当事者が認諾した事実を示す情報を、前記記憶手段に保存してもよく、契約内容の合意が成立するまでの各契約条項を管理するため、各種の情報を記録する条項テーブルに作成者情報、変更者情報、設定日時情報、状態情報、保留期限情報、設定情報、重要度情報、契約当事者が留意すべき条項であるか否かを識別するための情報である留意識別情報等を、各契約条項に対応づけて記録すること。」

5 当審の判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 請求項1に係る発明について
(ア)対比
請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「契約書分析システム」は、契約書データを用いた情報処理によって契約書の分析を行うものであるので、後述する相違点を除いて本件発明1の「情報処理システム」に相当する。
b 甲1発明の「会員ユーザが入力した契約書」は、本件発明1の「対象の契約書」に相当する。
c 甲1発明の「所定の記憶手段」は、予めベクトル化した法律条文を格納するものであるから、「ストレージ」といえる。甲第1号証の【0055】の「条文が複数の条項を含む場合には、条項単位で文書ベクトルが生成される。」という記載を考慮すると、甲1発明の「所定の記憶手段」は、予めベクトル化した法律条項を格納するものであるといえる。してみると、甲1発明の「所定の記憶手段」は、本件発明1の「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルが記憶されているストレージ」と、「文書に含まれる条項それぞれのベクトルが記憶されているストレージ」という点で共通する。
d 甲1発明の「文書ベクトル生成部」は、「会員ユーザが入力した契約書」を契約条項単位で文書ベクトル化するものであるので、本件発明1の「対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換する変換部」に相当する。
e 甲1発明の「関連条文特定部」は、「各契約条項のベクトルと法律条文のグループ化文書のベクトルをマッチングし、相互間のなす角が最も小さくなるグループ化文書に含まれる各法律条文を、当該契約条項の関連条文として特定」するものである。してみると、甲1発明の「関連条文特定部」は相互間のなす角が最も小さくなるベクトルの組を検出するためのベクトル同士の比較を行う機能を有し、当該比較機能を実現するための比較部を有していることは当業者にとって自明である。また、甲1発明の「グループ化文書」は、法律条文の条文単位の文書ベクトルを比較し、相互間のなす角が閾値内にあるもの同士を集めて各条文を1文書に合体させるグループ化処理により得られたものである。そして、甲1発明は「法律条文については予め解析、ベクトル化、グループ化及び再ベクトル化を実行すると共に、その処理結果を所定の記憶手段に格納しておき、契約書の文書ベクトルとのマッチング処理時に関連条文特定部がこれを参照するように構成することができる」ものである。そして、甲1発明の「関連条文特定部」は、ベクトル演算によって法律条文候補の中から契約条項と類似度が高い関連条文を特定するものであるから、関連条文を予測する機能を有しているといえ、当該予測機能を実現する「予測部」を有しているといえる。
してみると、甲1発明の「関連条文特定部」は本件発明1の「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する予測部」と「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記記憶手段を参照して他の文書に関するベクトルと比較する比較部」という点で共通する。
f 甲1発明の「分析画面生成部」は、「契約書の分析画面を生成し、分析画面データをWebサーバに渡」すものであって、「この分析画面データは、Webサーバからクライアント端末に送信され、Webブラウザ上に表示されるものであって、Webブラウザ上に表示された契約書分析画面において、契約書中の条項毎に関連条文が列記され」るものである。そして、関連条文は「各契約条項のベクトルと法律条文のグループ化文書のベクトルをマッチングし、相互間のなす角が最も小さくなるグループ化文書に含まれる各法律条文を、当該契約条項の関連条文として特定」されたものであることから、「相互間のなす角が最も小さくなるグループ化文書に含まれる各法律条文」である「関連条文」は各契約条項のベクトルと類似度が高いものであるといえる。
また、甲1発明の「分析画面生成部」は、ベクトル比較の結果に基づいて、関連条文と列記される契約書中の条項の情報を含む分析画面データをWebサーバに出力する「出力部」といえ、「関連条文と列記される契約書中の条項契約書の文書ベクトルに対応する条項」を出力する出力部であるといえる。
してみると、甲1発明の「分析画面生成部」は、本件発明1の「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する出力部」と「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、他の文書の条項のベクトルと所定の類似度を有するか否かに応じて抽出されたベクトルに対応する条項を出力する出力部」という点で共通する。

(イ)一致点
「文書に含まれる条項それぞれのべクトルが記憶されているストレージと、対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換する変換部と、前記変換後のベクトルそれぞれを、前記記憶手段を参照して他の文書に関するベクトルと比較する予測部と、前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、他の文書の条項のベクトルと所定の類似度を有するか否かに応じて抽出されたベクトルに対応する条項を出力する出力部と、を備える情報処理システム」

(ウ)相違点
(相違点1-1)ストレージが格納するデータが、本件発明1では「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトル」であるのに対して、甲1発明では「予めベクトル化した法律条項」である点。
(相違点1-2)予測部が、本件発明1では「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ものであるのに対して、甲1発明では「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記記憶手段を参照して、法律条文のグループ化文書のベクトルと比較する」ものであり、予測部が変換後のベクトルと比較する対象が異なる点。
(相違点1-3)出力部が、本件発明1では「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する」のに対して、甲1発明では「各契約条項のベクトルと類似度が高い関連条文と列記される契約書中の条項として、契約書の文書ベクトルに対応する条項を出力する」ものであり、出力部が出力する対象が異なる点。

(エ)判断
上記相違点1-1及び1-2は関連しているので併せて検討する。
a 甲第1号証の【0001】-【0004】の記載によれば、甲1発明の課題は「法律にあまり詳しくない一般のユーザであっても、当該契約書が孕む危険性や問題点を自ら認識できるように、契約書の内容に応じて必要な情報を提示可能な技術を提供する」であると認められる。
そして、甲1発明では会員ユーザが入力した契約書と、法律条文記憶部に格納された法律条文とについて条項単位でベクトル演算を行い、相互間のなす角が最も小さくなるグループ化文書に含まれる各法律条文を、当該契約条項の関連条文として特定し、契約書中の条項毎に関連条文を列記して表示させることによって上記課題の解決を図るものである。つまり、甲1発明では、契約条項に関連した法律条文をベクトル演算に基づく類似度(相互間のなす角)によって特定し、特定された法律条文の情報をユーザに提示するものであって、甲第1号証には契約書と当該契約書と同種の雛形契約書とを比較することについて記載も示唆もされていない。

b 甲2発明は、契約文書において、標準条項と、標準的な条項の異常な変形であって、もはや標準条項の意味を反映していない非標準条項とを識別するために、意味論的言語評価器140は、Latent Symantec Index (潜在的意味指数)(LSI)モジュールを用いて、類似度の高低を示すコサインベクトルスコアを算出するものである。
甲2号証には、標準条項と、非標準条項の具体例として「例えば、契約及びその修正は、“net 30 days(30日以内の支払い条件),” “within 30 days(30日以内),” “30 day's notice(30日前の通知),” and “2% penalty(2%の罰金).”のような表現を含む標準条項を含み得る。一方、修正の1つは、“5 working days(5営業日)” with “60% penalty(60%の罰金).”のような非標準条項を含むことができる」ことが記載されている。
しかしながら、甲第2号証には「対象の契約書と同種の標準契約書」や「対象の契約書の条項のベクトルと同種の標準契約書の条項のベクトルについてベクトル比較すること」について記載されていない。

c 上記a及びbより、甲第2号証には「対象の契約書と同種の標準契約書」や「対象の契約書の条項のベクトルと同種の標準契約書の条項のベクトルについてベクトル比較すること」について記載されておらず、甲1発明に甲2発明を適用する動機付けも存在しない。
よって、甲1発明及び甲2発明に基いて、上記相違点1-1及び1-2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

d 甲3発明は、予め格納した雛型契約書と一般ユーザが作成した改変契約書とを各条文単位(章、条、項などの単位)に比較し、両者の差異部分と差異部分に係る審査項目とを各条文単位に一般ユーザに出力する文書作成支援機能を備える文書作成支援装置に関するものである。
そして、甲3発明は、改変契約書情報記憶部104から改変契約書分割データを取得し、改変契約書分割データの条文と雛形契約書分割データの条文とを比較し共通部分(共通する文字)を抽出し、共通部分を抽出した共通部分抽出部152は、改変契約書分割データの条文毎に、雛形契約書分割データの全条文のうち共通部分が最多(共通する文字数が最多)である1つの条文を選択し、ある改変契約書分割データの条文と共通部分が最多である雛形契約書分割データの条文が複数である場合には、条文毎の類似度を算出し、類似度を表す値が最大である雛形契約書分割データの条文を選択し、該類似度は改変契約書分割データの条文と雛形契約書分割データの条文からそれぞれ抽出した単語ベクトルの余弦値を採用し得るものである。
しかしながら、甲3発明において、単語ベクトルの余弦値を採用する場合は、ある改変契約書分割データの条文と共通部分が最多である雛形契約書分割データの条文が複数であるという特定の場合に限られており、このとき、条文毎の類似度を算出し、類似度を表す値が最大である雛形契約書分割データの条文を選択するものである。してみると、甲3発明は、本件発明1のように「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ことを想定しているとはいえず、かかる点は甲第3号証に記載も示唆もされていない。また、甲3発明は、条文毎の類似度を算出しており、本件発明1のように条項単位で類似性の検証を行うものではない。

e 上記a及びdより、甲第3号証には「ある改変契約書分割データの条文と共通部分が最多である雛形契約書分割データの条文が複数である場合に、単語ベクトルの余弦値を用いて条文毎の類似度を算出すること」は記載されているが、本件発明1のように「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ことは記載されておらず、甲1発明に甲3発明を適用する動機付けも存在しない。
よって、甲1発明及び甲3発明に基いて、上記相違点1-1及び1-2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

上記相違点1-3について検討する。
f 甲1発明は、相互間のなす角が最も小さくなるグループ化文書に含まれる各法律条文を特定し関連条文として出力するものであるが、相互間のなす角が最も小さくなる法律条文は類似度が高い条文であり、甲第1号証には相互間のなす角が大きくなる法律条項、すなわち非類似条項を提示することについて記載も示唆もされていない。

g 甲2発明は、第一閾値を用いて第一の特徴データ集合(標準条項)を抽出し、第一閾値よりも低い第二閾値を用いて第一の特徴データ集合を包含する第二の特徴データ集合を抽出し、第二の特徴データ集合から第一の特徴データ集合を差し引くことで非標準条項を抽出するものである。甲2発明において、第一閾値及び第二閾値は、共に類似度の高低を示すコサインベクトルスコアに関連して設定される値であると解されるところ、上記cにて上述したとおり、甲第2号証には「対象の契約書と同種の標準契約書」や「対象の契約書の条項のベクトルと同種の標準契約書の条項のベクトルについてベクトル比較すること」について記載されているとは認められない。また、甲第2号証には本件発明1のように「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する」ことも記載されていない。

h 上記f及びgより、甲第2号証には「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する」ことが記載されておらず、甲1発明に甲2発明を適用する動機付けも存在しない。
よって、甲1発明及び甲2発明に基いて、上記相違点1-3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

i 甲3発明は、上記dにて上述したとおり、本件発明1のように「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ことを想定しているとは認められず、かかる点は甲第3号証にも記載も示唆もされていない。また、甲3発明は類似度を表す値が最大である雛形契約書分割データの条文を選択するものであり、本件発明1のように「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する」ことうを想定しているとは認められず、かかる点は甲第3号証に記載もされていない。

j 上記f及びiより、甲第3号証には「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する」ことが記載されておらず、甲1発明に甲3発明を適用する動機付けも存在しない。
よって、甲1発明及び甲3発明に基いて、上記相違点1-3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

k 申立人が提出した証拠(甲第1-3、5-6号証)のいずれにも上記相違点1-1乃至1-3に対応する記載や示唆はなく、それが技術常識であることを示す証拠も示されていない。他に本件特許出願時に、上記相違点1-1乃至1-3に係る構成が知られていたことを認めるに足りる証拠は見当たらない。

よって、請求項1に係る発明は、甲1発明、甲2-3、6発明、甲5技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 請求項3に係る発明について
(ア)対比
請求項3に係る発明(以下「本件発明3」という。)と甲1発明とを対比する。
本件発明3と本件発明1とは、「ストレージ」、「予測部」、「出力部」を具備する情報処理システムという点で共通するため、「上記ア 請求項1に係る発明について(ア)対比」にて上述し、重複する点は省略する。
甲1発明の「分析画面生成部」によって抽出される「関連文献」の情報は、コメントや判例、学説、契約文例等であり、契約条項の関連条文に関する情報であると認められる。
してみると、甲1発明の「分析画面生成部」は、本件発明3の「前記予測部による比較の結果、前記ストレージを参照して前記標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち、前記変換後のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力する出力部」と「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、他の文書の条項のベクトルと所定の類似度を有するか否かに応じて抽出されたベクトルに対応する条項に関する情報を出力する出力部」という点で共通する。

(イ)一致点
「文書に含まれる条項それぞれのベクトルが記憶されているストレージと、対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換する変換部と、前記変換後のベクトルそれぞれを、前記記憶手段を参照して他の文書に関するベクトルと比較する予測部と、前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、他の文書の条項のベクトルと所定の類似度を有するか否かに応じて抽出されたベクトルに対応する条項に関する情報を出力する出力部と、を備える情報処理システム」

(ウ)相違点
(相違点3-1)ストレージが、本件発明3では「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと当該条項の種類を識別する条項種類識別情報が関連付けられて記憶」するものであるのに対して、甲1発明では「予めベクトル化した法律条項を格納する記憶手段」であり、記憶部に格納する対象データが異なる点。
(相違点3-2)予測部が、本件発明3では「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ものであるのに対して、甲1発明では「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記記憶手段を参照して、法律条文のグループ化文書のベクトルと比較する」ものであり、予測部が変換後のベクトルと比較する対象が異なる点。
(相違点3-3)出力部が、本件発明3では「前記予測部による比較の結果、前記ストレージを参照して前記標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち、前記変換後のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力する」のに対して、甲1発明では「契約条項の関連条文に関する情報(「契約条項」、「関連条文」、「コメントや判例、学説、契約文例等の関連文献の情報」)」であり、かかる構成が特定されていない点。

(エ)判断
上記相違点3-1及び相違点3-2は関連するので併せて検討する。
上記相違点3-1は、「上記ア 請求項1に係る発明について(ウ)相違点」において上記相違点1-1として示した相違点に加えて、さらに本件発明3の「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと当該条項の種類を識別する条項種類識別情報が関連付けられて記憶される」点が甲1発明には記載されていない点で相違するものである。
また、上記相違点3-2は、「上記ア 請求項1に係る発明について(ウ)相違点」において上記相違点1-2として示した相違点と同様の内容である。
したがって、上記相違点3-1及び相違点3-2についての判断は、上記相違点1-1及び相違点1-2にて上述した判断と同様に、甲1発明及び甲2発明及び/又は甲3発明に基いて、上記相違点3-1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

上記相違点3-3について検討する。
甲1発明は、相互間のなす角が最も小さくなるグループ化文書に含まれる各法律条文、すなわち契約文書と類似度が高い法律条文を当該契約条項の関連条文として特定し、関連条文情報と関連文献情報を出力するものであるが、甲第1号証には契約文書の条項と標準契約書の条項とのベクトル演算を行い類似度を算出することは記載されていない。
また、甲1発明は、相互間のなす角が最も小さくなるグループ化文書に含まれる各法律条文を特定するものであるが、相互間のなす角が最も小さくなる関連条文は契約文書との類似度が高い条文を示すものであり、対象の契約文書に不足している条項を出力することについての動機付けが存在しない。
甲第2号証には、上記相違点1-3の判断で上述したとおり、「対象の契約書と同種の標準契約書」や「対象の契約書の条項のベクトルと同種の標準契約書の条項のベクトルについてベクトル比較すること」が記載されているとは認められない。
また、甲第2号証には本件発明3の「標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち前記対象となる契約書の条項のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報」が記載されておらず、「標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち前記対象となる契約書の条項のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力する」ことも記載されていない。
甲3発明は、上記相違点1-3にて上述したとおり、「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ことを想定しているとは認められず、かかる点は甲第3号証に記載も示唆もされていない。また、甲第3号証には、「標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち前記対象となる契約書の条項のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報」について記載されておらず、「標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち前記対象となる契約書の条項のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力する」ことも記載されていない。
そして、本件発明3の契約書の作成及び/またはチェックを効率化するために、対象となる契約書の条項のベクトルと標準契約書のベクトルとを比較し、標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち前記対象となる契約書の条項のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力することは、申立人が提出した証拠(甲第1-3、5-6号証)のいずれにも記載や示唆はなく、それが技術常識であることを示す証拠も示されていない。
そして、他に本件特許出願時に、上記相違点3-3に係る構成が知られていたことを認めるに足りる証拠は見当たらない。
よって、請求項3に係る発明は、甲1発明、甲2-3、6発明、甲5技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 請求項13、14に係る発明について
請求項13、14に係る発明は、それぞれ請求項1、3に係る発明とカテゴリーの異なる発明であるから、上記ア及びイにて上述した理由と同様の理由により、甲1発明、甲2-3、6発明、甲5技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 請求項2、4-12に係る発明について
請求項2、4-12に係る発明は、請求項1又は請求項3を引用する発明であり請求項1又は請求項3の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記ア及びイにて上述した理由と同様の理由により、甲1発明、甲2-3、6発明、甲5技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 小括
以上のとおり、請求項1-14に係る発明は、甲1発明、甲2-3、6発明、甲5技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許法第29条の2について
ア 請求項1に係る発明について
(ア)対比
請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)と甲4発明とを対比する。
a 甲4発明の「契約書検査システム」は、サーバ装置における情報処理によって契約書の検査を行うものであるので、後述する相違点を除いて本件発明1の「情報処理システム」に相当する。

b 甲4発明の「当該システムを利用するユーザが作成した検査対象の契約書」は、本件発明1の「対象の契約書」に相当する。
c 甲4発明の「契約書の雛形である雛形契約書群」は、本件発明1の「対象の契約書と同種の標準契約書」に相当する。
d 甲4発明の「条項の文章の特徴量」は、「契約書の雛形である雛形契約書群」から「多次元の特徴量(ベクトル値)で表現」されるものである。そして、本件甲第4号証の【0019】には「本明細書では「文章」と言う場合、文章は一文(センテンス)に限定されず、複数の文から成る文章も含まれる。」と記載されており、条項は一文又は複数の文から構成されることを考慮すると、甲4発明の「条項の文章の特徴量」は、本件発明1の「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトル」といえる。
e 甲4発明の「補助記憶部」は、各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別できるように各種別及び条項の文章の特徴量をカテゴリ判別モデルとして予め格納するものであるので、本件発明1の「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルが記憶されているストレージ」と、「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルに関する情報を格納するストレージ」という点で共通する。
f 甲4発明は、「当該システムを利用するユーザが作成した検査対象の契約書を検査する契約書検査処理を行う際には」、「前記カテゴリ判別モデルを参照して、取得した契約書の種別及び条項を判別する構造化処理を実行(ステップS32)」するものであり、「前記契約書の種別、及び契約書に含まれる各条項を判別するために、契約書内の各文章の特徴量を算出する手法としてtf-idf法等により、文章内に出現する各単語の重要度を算出し、当該文章を、各単語の重要度を変数とする多次元の特徴量(ベクトル値)で表現し、算出した各種別及び条項の文章の特徴量と、事前に学習済みの各種別及び条項の文章の特徴量との類似度(例えばコサイン類似度)を算出し、算出した類似度を所定の閾値と比較する等して、各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別できるように各種別及び条項の文章の特徴量をカテゴリ判別モデルとして補助記憶部に予め格納する」ものである。
ここで、甲4発明において、「検査対象の」「契約書内の各文章の特徴量」は、「当該文章を、各単語の重要度を変数とする多次元の特徴量(ベクトル値)で表現」されるものである。
してみると、甲4発明の「契約書検査システム」が、「検査対象の」「契約書内の各文章(各条項)の特徴量」をベクトル値で表現するための変換機能を有し、ベクトル値に変換するための「変換手段」を有することは、当業者にとって自明である。
よって、甲4発明の「検査対象の契約書内の各文章(各条項)の特徴量」を「多次元の特徴量(ベクトル値)で表現」するための「変換手段」は、本件発明1の「対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換する変換部」に相当する。
g 甲4発明は、「検査対象の契約書内の各文章(各条項)の特徴量」と「事前に学習済みの各種別及び条項の文章の特徴量との類似度(例えばコサイン類似度)を算出」するものである。
ここで、「事前に学習済みの各種別及び条項の文章の特徴量」は、「契約書の雛形である雛形契約書群」を用いて、「各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別できるように各種別及び条項の文章の特徴量をカテゴリ判別モデルとして補助記憶部に予め格納されたものである。
してみると、甲4発明が、「検査対象の契約書内の各文章(各条項)の特徴量」と「事前に学習済みの各種別及び条項の文章の特徴量との類似度(例えばコサイン類似度)を算出」すべく、各文章(各条項)の特徴量(ベクトル値)ごとの比較処理によって類似度を算出し、算出された類似度に基づいて、各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別する予測機能を有しているといえ、当該予測機能を実現するための「予測部」を有しているといえる。
よって、甲4発明の各文章(各条項)の特徴量(ベクトル値)ごとに比較して類似度を算出するための「予測部」は、本件発明1の「予測部」と、「前記変換後のベクトルそれぞれを」、「前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する予測部」という点で共通する。

h 甲4発明は、「当該システムを利用するユーザが作成した検査対象の契約書を検査する契約書検査処理を行う際には」、「前記カテゴリ判別モデルを参照して、取得した契約書の種別及び条項を判別する構造化処理を実行」「(ステップS32)」するものであり、「算出した類似度を所定の閾値と比較する等して、各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別」するものである。
そして、甲4発明の「契約書検査システム」は、「判別した各条項の文章を、所定単位の語句毎に分割し(ステップS33)、条項毎に対応するモデルデータである前記言語モデルと、検査対象の契約書から判別した条項毎の文章との差分に基づき、前記言語モデルであるRNNに各語句をその並び順に従って順次入力し、先頭から順に出現する一又は複数の語句から、当該一又は複数の語句に続く語句の生起確率を算出し、生起確率が所定の閾値以下の語句を注意箇所として抽出し(ステップS34)、抽出した語句を誤り等の瑕疵と推定される注意箇所として前記端末に出力し(ステップS35)、前記サーバ装置は、注意箇所に相当する語句を、色分け等によりその他の語句と異なる態様で前記端末に表示させる機能を有するとともに、前記カテゴリ判別モデルを参照して、検査対象の契約書に記述されていない条項の例文を出力してもよいものである」。
ここで、甲4発明の「生起確率が所定の閾値以下の語句」は、検査対象の契約書内の語句であるから、「検査対象の契約書に関するデータ」といえる。してみると、甲4発明の「契約書検査システム」は、「前記変換後のベクトルそれぞれを」、「前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較」した結果に基づいて、類似度の大きさを算出し、算出された類似度と所定の基準値とを比較した結果に基づいて「検査対象の契約書に関するデータ」を出力する出力機能を有し、出力機能を実現するための「出力手段」を有することは、当業者にとって自明である。
よって、甲4発明の「前記変換後のベクトルそれぞれを」、「前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較」した結果に基づいて、類似度の大きさを算出し、算出された類似度と所定の基準値とを比較した結果に基づいて「検査対象の契約書に関するデータ」を出力する「出力手段」は、本件発明1の「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する出力部」と「前記変換後のベクトルそれぞれを前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較した結果に基づいて、類似度の大きさを算出し、算出された類似度と所定の基準値とを比較した結果に基づいて検査対象の契約書に関する情報を出力する出力部」という点で共通する。

(イ)一致点
「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルに関する情報を格納するストレージと、対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換する変換部と、前記変換後のベクトルそれぞれを、前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する予測部と、前記変換後のベクトルそれぞれを前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較した結果に基づいて、類似度の大きさを算出し、算出された類似度と所定の基準値とを比較した結果に基づいて検査対象の契約書に関する情報を出力する出力部と、を備える情報処理システム。」

(ウ)相違点
(相違点1-1)ストレージが格納するデータが、本件発明1では「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトル」であるのに対して、甲4発明では「各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別するためのカテゴリ判別モデル及び契約書の種別、及び条項毎に学習して生成された別々の言語モデル」であり、ストレージに格納する対象となる情報が異なる点。
(相違点1-2)予測部が、本件発明1では「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ものであるのに対して、甲4発明では「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ものであるものの、「前記ストレージを参照して」比較するものではない点。
(相違点1-3)出力部が、本件発明1では「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する」のに対して、甲4発明では「前記変換後のベクトルそれぞれを前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較した結果に基づいて、類似度の大きさを算出し、算出された類似度と所定の基準値とを比較した結果に基づいて検査対象の契約書に関するデータ」として「生起確率が所定の閾値以下の語句」を出力するものであり、「前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する」ものではない点。

(エ)判断
上記(ウ)にて上述したとおり、本件発明1と甲4発明とは相違点1-1乃至1-3を有するので、両者は同一ではない。以下、本件発明1と甲4発明との間の相違点1-1乃至1-3について、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であって両者が実質同一であるかどうかについて検討する。
事案に鑑み、上記相違点1-3について検討する。
契約書の作成及び/またはチェックを効率化するために、対象となる契約書の条項のベクトルと標準契約書のベクトルとを比較し、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力することについては、申立人が提出した他の証拠(甲第1-3、5-6号証)のいずれにも記載や示唆はなく、それが技術常識であることを示す証拠も示されていない。
また、他に本件特許出願時に、契約書の作成及び/またはチェックを効率化するために、対象となる契約書の条項のベクトルと標準契約書のベクトルとを比較し、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力することが知られていたことを認めるに足りる証拠は見当たらない。
してみると、甲4発明において、「前記変換後のベクトルそれぞれを前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較した結果に基づいて、類似度の大きさを算出し、算出された類似度と所定の基準値とを比較した結果に基づいて検査対象の契約書に関するデータとして生起確率が所定の閾値以下の語句を出力する」構成に換えて、「前記予測部による比較の結果、前記変換後のベクトルのうち、標準契約書に含まれるいずれの条項のベクトルとも設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項を非類似条項として出力する」構成を採用することは周知技術の付加等にすぎないとはいえない。
また、甲4発明は、条項に対応するベクトルの比較処理によって、検査対象の契約書の条項と雛形契約書の条項との類似度を算出し、当該類似度に基づいて、検査対象の契約書の各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別するものであり、本件発明1のようにベクトルの比較処理によって雛形契約書にない非類似条項を検出するものではない。
そして、甲4発明は「前記サーバ装置は、注意箇所に相当する語句を、色分け等によりその他の語句と異なる態様で前記端末に表示させる機能を有するとともに、前記カテゴリ判別モデルを参照して、検査対象の契約書に記述されていない条項の例文を出力したり、多数の注意箇所を抽出した条項を、それ自体が通常記載すべきでない条項として条項全体を注意箇所として端末に表示させるように出力してもよい」ものであるところ、注意箇所に相当する語句を抽出する処理は、「機械学習処理により生成された条項及び種別毎に文章の先頭から順に出現する一又は複数の語句から当該一又は複数の語句に続いて出現する語句を推定する言語モデル」を用いるものである。このことから、甲4発明は、ベクトルの比較処理によって直接的に非類似条項を抽出するものではない。
さらに、本件発明1は、上記相違点相違点1-1乃至1-3に係る本件発明1の構成を具備することにより、本件特許明細書の【0088】に記載された「ユーザは標準的な契約書にない条項を把握することができるので、契約書の作成及び/またはチェックを効率化できる」という効果を奏するものである。
よって、上記相違点1-3は課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとは認められない。
それゆえに、上記相違点1-1及び相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1と甲4発明とは実質同一であるとは認められない。
したがって、請求項1に係る発明は、甲4発明と同一又は実質同一ではない。

イ 請求項3に係る発明について
(ア)対比
請求項3に係る発明(以下「本件発明3」という。)と甲4発明とを対比する。
本件発明3と本件発明1とは、「ストレージ」、「予測部」、「出力部」を具備する情報処理システムという点で共通するため、上記ア 請求項1に係る発明について(ア)対比にて上述し重複する点は省略する。
甲4発明の「検査対象の契約書に記述されていない条項の例文を出力」することは、本件発明3の「前記対象の契約書に不足している条項として出力する」ことと、「前記対象の契約書に不足している条項に関する情報を出力する」点で共通する。

(イ)一致点
「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルに関する情報を格納するストレージと、対象の契約書に含まれる条項それぞれをベクトルに変換する変換部と、前記変換後のベクトルそれぞれを、前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する予測部と、前記変換後のベクトルそれぞれを前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較した結果に基づいて、類似度の大きさを算出し、算出された類似度と所定の基準値とを比較した結果に基づいて前記対象の契約書に不足している条項に関する情報を出力する出力部と、を備える情報処理システム。」

(ウ)相違点
(相違点3-1)ストレージが、本件発明3では「対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと当該条項の種類を識別する条項種類識別情報が関連付けられて記憶」するものであるのに対して、甲4発明では「各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別するためのカテゴリ判別モデル及び契約書の種別、及び条項毎に学習して生成された別々の言語モデルを格納する」ものであり、ストレージに格納する対象データが異なる点。
(相違点3-2)予測部が、本件発明3では「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記ストレージを参照して前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ものであるのに対して、甲4発明では「前記変換後のベクトルそれぞれを、前記対象の契約書と同種の標準契約書に含まれる条項それぞれのベクトルと比較する」ものであるものの、「前記ストレージを参照して」比較するものではない点。
(相違点3-3)出力部が、本件発明3では「前記予測部による比較の結果、前記ストレージを参照して前記標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち、前記変換後のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力する」のに対して、甲4発明では「前記対象の契約書に不足している条項に関する情報」として「前記カテゴリ判別モデルを参照して、検査対象の契約書に記述されていない条項の例文を出力」するものであり、「前記変換後のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力する」ものではない点。

(エ)判断
上記(ウ)にて上述したとおり、本件発明3と甲4発明とは相違点3-1乃至3-3を有するので、両者は同一ではない。以下、本件発明3と甲4発明との間の相違点3-1乃至3-3について、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であって両者が実質同一であるかどうかについて検討する。
事案に鑑み、まず上記相違点3-3について検討する。
契約書の作成及び/またはチェックを効率化するために、対象となる契約書の条項のベクトルと標準契約書のベクトルとを比較し、標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち前記対象となる契約書の条項のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力することについては、申立人が提出した証拠(甲第1号証乃至甲第6号証)のいずれにも記載や示唆はなく、それが技術常識であることを示す証拠も示されていない。他に本件特許出願時に、契約書の作成及び/またはチェックを効率化するために、対象となる契約書の条項のベクトルと標準契約書のベクトルとを比較し、標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち前記対象となる契約書の条項のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力することが知られていたことを認めるに足りる証拠は見当たらない。
してみると、甲4発明において、「前記カテゴリ判別モデルを参照して、検査対象の契約書に記述されていない条項の例文を出力」する構成に換えて、「前記予測部による比較の結果、前記ストレージを参照して前記標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち、前記変換後のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力する」構成を採用することが周知技術の付加等にすぎないとはいえない。
また、甲4発明は、条項に対応するベクトルの比較処理によって、検査対象の契約書の条項と雛形契約書の条項との類似度を算出し、当該類似度に基づいて、検査対象の契約書の各文章が契約書のいずれの種別及び条項に相当する文章であるかを判別するものであり、本件発明3のようにベクトルの比較処理によって標準契約書に含まれる条項のベクトルのうち、対象の契約書の高条項のベクトルとの間で設定基準以上の類似性がないベクトルに対応する条項の種類を表す条項種類識別情報に対応する情報を、前記対象の契約書に不足している条項として出力するものではない。
そして、甲4発明は「前記カテゴリ判別モデルを参照して、検査対象の契約書に記述されていない条項の例文を出力」するものであるところ、検査対象の契約書に記述されていない条項自体を出力するものではなく、条項種類識別情報に対応する情報を出力するものでもない。
さらに、本件発明3は、上記相違点3-1乃至3-3に係る本件発明3の構成を具備することにより、本件特許明細書の【0088】に記載された「ユーザは標準的な契約書にない条項を把握することができるので、契約書の作成及び/またはチェックを効率化できる」という効果、及び本件特許明細書の【0114】に記載された「対象の条項に条項種類識別情報を割り当てることで、ユーザは対象の条項の種類を把握することができるので、契約書の条項がどのような条項であるのかをユーザが把握するのを容易化することができる」という効果を奏するものである。
よって、上記相違点3-3は課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとは認められない。
それゆえに、上記相違点3-1及び相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明3と甲4発明とは実質同一であるとは認められない。
したがって、請求項3に係る発明は、甲4発明と同一又は実質同一ではない。

ウ 請求項13、14に係る発明について
請求項13、14に係る発明は、それぞれ請求項1、3に係る発明とカテゴリーの異なる発明であるから、上記ア及びイにて上述した理由と同様の理由により、甲4発明と同一又は実質同一ではない。

エ 請求項2、4-8、11に係る発明について
請求項2、4-8、11に係る発明は、請求項1又は請求項3を引用する発明であり請求項1又は請求項3の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記ア及びイにて上述した理由と同様の理由により、甲4発明と同一又は実質同一ではない。

オ 小括
以上のとおり、請求項1-8、11、13、14に係る発明は、甲4発明と同一又は実質同一ではない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1-14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1-14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-11-18 
出願番号 特願2019-38397(P2019-38397)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G06Q)
P 1 651・ 16- Y (G06Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大野 朋也  
特許庁審判長 佐藤 聡史
特許庁審判官 岡 裕之
相崎 裕恒
登録日 2020-01-07 
登録番号 特許第6640395号(P6640395)
権利者 株式会社日本法務システム研究所
発明の名称 情報処理システム及び情報処理方法  
代理人 齋藤 拓也  
代理人 菅沼 和弘  

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