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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C11C |
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管理番号 | 1368153 |
異議申立番号 | 異議2020-700685 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-09-11 |
確定日 | 2020-11-30 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6664328号発明「エイコサペンタエン酸アルキルエステルを含有する組成物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6664328号の請求項1ないし27に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6664328号の請求項1?27に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)9月17日(優先権主張 平成26年9月17日、日本)を国際出願日とする出願であって、令和2年2月20日にその特許権の設定登録がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?27に係る特許に対し、令和2年9月11日に特許異議申立人松田晴行(以下、単に「申立人」ということもある。)が、特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許第6664328号の請求項1?27の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明27」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?27に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ガスクロマトグラフィーにより測定した場合に、エイコサペンタエン酸アルキルエステルを96?98面積%含有し、アラキドン酸アルキルエステルの含有量が0.7面積%以下であり、エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計が1.417面積%以上、2.5面積%以下であり、エイコサテトラエン酸アルキルエステルの含有量が0.3面積%以下であり、原料油が水産物原料由来の油脂である、エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物。 【請求項2】 エイコサペンタエン酸アルキルエステルの5位、14位、及び17位二重結合のうちのいずれか一つがトランス型である、モノトランス体の含有量がそれぞれ0.5面積%以下である請求項1の組成物。 【請求項3】 エイコサペンタエン酸アルキルエステルの11位の二重結合がトランス型である、モノトランス体の含有量が1.0面積%以下である請求項1または2の組成物。 【請求項4】 ガスクロマトグラフィーを用いて下記分析条件により測定した場合に、エイコサペンタエン酸エチルを96?98面積%含有し、アラキドン酸エチルの含有量が0.7面積%以下であり、エイコサペンタエン酸エチルの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量が1.417面積%以上、2.5面積%以下であり、エイコサテトラエン酸アルキルエステルの含有量が0.3面積%以下であり、原料油が水産物原料由来の油脂である、組成物。 [ガスクロマトグラフィー分析条件:GC-FID測定条件] GC: 6890N (Agilent Technologies) カラム: DB-WAX (Agilent Technologies) 30m x 0.25mm ID, 0.25 μm film thickness キャリアガス: ヘリウム, 0.5 mL/min 注入口: 300℃, 1 μL, Split (1:100) カラム温度:200℃恒温 検出器: FID, 300 ℃ メークアップガス:窒素 40mL/min. 【請求項5】 アラキドン酸アルキルエステルの含有量が0.1面積%以下である請求項1?請求項4いずれか1項の組成物。 【請求項6】 オクタデカテトラエン酸アルキルエステルの含有量が、0.4面積%以下である請求項1?請求項5いずれか1項の組成物。 【請求項7】 ノナデカペンタエン酸アルキルエステルの含有量が、0.2面積%以下である請求項1?請求項6いずれか1項の組成物。 【請求項8】 エイコサペンタエン酸アルキルエステルが、エイコサペンタエン酸エチル又はエイコサペンタエン酸メチルである請求項1?請求項7いずれか1項の組成物。 【請求項9】 n-ノナデカン酸(C19:0)アルキルエステルの含有量が0.1面積%以下である、請求項1?請求項8いずれか1項の組成物。 【請求項10】 アラキジン酸(C20:0)アルキルエステルの含有量が0.2面積%以下である、請求項1?請求項9いずれか1項の組成物。 【請求項11】 飽和脂肪酸のアルキルエステルの含有量が0.5面積%以下である請求項1?請求項10いずれか1項の組成物。 【請求項12】 イコサ- 5,9,11,14,17-ペンタエン酸(C20:5n-3(5,9,11,14,17))アルキルエステルの含有量が0.2面積%以下である、請求項1?請求項11いずれか1項の組成物。 【請求項13】 ヘンイコサペンタエン酸アルキルエステルの含有量が、0.2面積%以下である請求項1?請求項12いずれか1項の組成物。 【請求項14】 ジホモ-γ-リノレン酸アルキルエステルの含有量が、0.05面積%以下である、請求項1?請求項13いずれか1項の組成物。 【請求項15】 炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸のアルキルエステルの含有量が、0.05面積%以下である、請求項1?請求項14いずれか1項の組成物。 【請求項16】 請求項1?請求項15いずれか1項のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物を有効成分として含有する、医薬組成物。 【請求項17】 更に、医薬的に許容可能な添加成分を含む請求項16の医薬組成物。 【請求項18】 動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療又は予防剤である請求項16又は請求項17の医薬組成物。 【請求項19】 エイコサペンタエン酸を含有する原料油をエチルエステル化したのち、蒸留及びクロマトグラフィーを行うことによって、高濃度エイコサペンタエン酸エチル含有組成物を製造する方法において、蒸留を、0.2 Torr以下の真空度及び全塔190℃以下の温度での精密蒸留を行うことにより行い、アラキドン酸エチルを低減させ、かつ、熱によるトランス体の生成を抑える、高濃度エイコサペンタエン酸エチル含有組成物の製造方法であって、 前記組成物は、請求項1?請求項15いずれか1項の組成物であり、 原料油が水産物原料由来の油脂である、前記方法。 【請求項20】 エイコサペンタエン酸を含有する原料油をアルキルエステル化することにより得られたエイコサペンタエン酸アルキルエステルを含有する組成物に対して、0.2 Torr以下の真空度、及び、全塔190℃以下の温度で、精密蒸留を行うこと、 精密蒸留後の組成物に対して、クロマトグラフィーを用いた濃縮処理を行うこと、 を含む高濃度エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の製造方法であって、 前記組成物は、請求項1?請求項15いずれか1項の組成物であり、 原料油が水産物原料由来の油脂である、前記方法。 【請求項21】 アルキルエステル化が、炭素数1又は炭素数2の低級アルコールを用いて行われる請求項20の方法。 【請求項22】 精密蒸留が、2塔以上の蒸留塔を用いた連続精密蒸留である請求項19?請求項21いずれか1項の方法。 【請求項23】 クロマトグラフィーが、逆相クロマトグラフィーである請求項19?請求項22いずれか1項の方法。 【請求項24】 請求項1?請求項15いずれか1項のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の、食品の製造における使用。 【請求項25】 請求項1?請求項15いずれか1項のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の、医薬組成物の製造における使用。 【請求項26】 医薬組成物が、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療又は予防剤である請求項25の使用。 【請求項27】 請求項1?請求項15いずれか1項のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療又は予防剤の有効成分としての使用。」 第3 申立理由の概要 申立人は、下記2の甲第1?8号証及び参考資料1、2を提出し、次の1について主張している(以下、甲号証は、単に「甲1」などと記載する。)。 1 特許法第29条第2項(進歩性)について(同法第113条第2号) 本件発明1?18及び24?27は、甲1に記載された発明に基づいて、本件発明19?23は、甲1及び甲6?8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?27は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 証拠方法 (1)甲1:特表2013-516398号公報の写し (2)甲2:特願2016-548928の令和1年12月23日提出の手続補正書の写し (3)甲3:特願2016-548928の令和1年12月23日提出の審判請求書の写し (4)甲4:再公表WO2016/043251号公報の写し (5)甲5:特願2016-548928の平成31年4月25日提出の手続補正書の写し (6)甲6:特開平5-222392号公報の写し (7)甲7:国際公開WO2014/054435A1の写し (8)甲8:特開2001-303089号公報の写し (9)参考資料1:ウィキペディア「ω-3脂肪酸」(令和2年8月21日出力) https://ja.wikipedia.org/wiki/%CE%A9-3%E8%84%82%E8%82%AA%E9%85%B8 (10)参考資料2:ウィキペディア「ω-6脂肪酸」(令和2年8月21日出力) https://ja.wikipedia.org/wiki/%CE%A9-6%E8%84%82%E8%82%AA%E9%85%B8 第4 当審の判断 1 甲1の記載 甲1には、「擬似移動床式クロマトグラフ分離方法」(発明の名称)について、次の記載がある(引用されている図面は省略した。下線は当審が付与した。)。 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)およびそれらの誘導体を精製するための改善されたクロマトグラフ分別方法に関する。特に、本発明は、PUFAおよびそれらの誘導体を精製するための改善された擬似または実移動床式クロマトグラフ分離方法に関する。 【背景技術】 【0002】 脂肪酸、特にPUFA、およびそれらの誘導体は、血漿凝固、炎症および免疫応答などの生物学的機能の調節に重要な役割を果たす生物学的に重要な分子の前駆体である。したがって、PUFAおよびそれらの誘導体は、CNS状態を含む広範な病理的状態;糖尿病性神経障害を含む神経障害;心臓血管疾患;炎症性皮膚疾患を含む全身的免疫系および炎症性状態を治療する上で治療的に有用であり得る。 【0003】 PUFAは、植物油および魚油などの天然原料に見いだされる。しかし、そのようなPUFAは、そのような油の中で飽和脂肪酸および多くの他の不純物と混合して存在することが多い。したがって、PUFAは、望ましくは、栄養または医薬用途に使用する前に精製される。」 「【0018】 本発明の方法によって得られるPUFA生成物も提供される。 【0019】 本発明の方法によって製造されるPUFA生成物は、高収率で製造され、高い純度を有する。さらに、典型的にはPUFAの蒸留により生じる特有の不純物の含有率が非常に低い。本明細書に使用されているように、「異性体不純物」という用語は、典型的にはPUFA含有天然油の蒸留を通じて生成される不純物を表すように使用される。これらは、PUFA異性体、過酸化生成物およびオリゴマー化生成物を含む。」 「【発明を実施するための形態】 【0021】 「多価不飽和脂肪酸」(PUFA)という用語は、1つを超える二重結合を含有する脂肪酸を指す。そのようなPUFAは、当業者に周知である。本明細書に使用されているように、PUFA誘導体は、モノ、ジもしくはトリグリセリド、エステル、リン脂質、アミド、ラクトンまたは塩の形のPUFAである。トリグリセリドおよびエステルが好適である。エステルがより好適である。エステルは、典型的には、アルキルエステル、好ましくはC_(1)?C_(6)アルキルエステル、より好ましくはC_(1)?C_(4)アルキルエステルである。エステルの例としては、メチルエステルおよびエチルエステルが挙げられる。エチルエステルが最も好適である。」 「【0028】 典型的には、PUFA生成物は、少なくとも1つのω-3またはω-6PUFA、好ましくは少なくとも1つのω-3PUFAを含む。ω-3PUFAの例としては、アルファ-リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸(SDA)、エイコサトリエン酸(ETE)、エイコサテトラエン酸(ETA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)が挙げられる。SDA、EPA、DPAおよびDHAが好適である。EPAおよびDHAがより好適である。ω-6PUFAの例としては、リノール酸(LA)、ガンマ-リノレン酸(GLA)、エイコサジエン酸、ジホモ-ガンマ-リノレン酸(DGLA)、アラキドン酸(ARA)、ドコサジエン酸、アドレン酸およびドコサペンタエン(ω-6)酸が挙げられる。LA、ARA、GLAおよびDGLAが好適である。 【0029】 一実施形態において、PUFA生成物は、EPAおよび/またはEPAエチルエステル(EE)である。」 「【0159】 本発明の方法は、従来のクロマトグラフ技術を用いた場合よりはるかに高純度のPUFA生成物を達成することを可能にする。本発明の方法によって製造されたPUFA生成物は、既知の技術によって調製された油に認められるものとは全く異なる特に有利な不純物プロファイルをも有する。したがって、本発明は、また、PUFA生成物、例えば、本発明の方法によって得られるPUFA生成物を含む組成物に関する。」 「【0162】 PUFA生成物およびω-6PUFAは、場合により、それらのアルキルエステル、典型的にはエチルエステルの形である。好ましくは、EPAPUFA生成物は、そのエチルエステルの形である。」 「【0235】 以下の実施例は、本発明を例示するものである。 【実施例1】 【0236】 図8に概略的に示されるシステムにより、固定相として結合C18シリカゲル(粒径300μm)を、溶離剤として水性メタノールを使用する実移動床式クロマトグラフィーシステムを使用して、魚油由来原料(55重量%のEPAEE、5重量%のDHAEE)を分別する。図8に示されるように、15個のカラム(直径:76.29mm、長さ:914.40mm)を縦列に接続する。 【0237】 動作パラメータおよび流速は、8つの異なる事例に対して以下の通りである。以下の条件では、EPAEEが高度な純度(GCFAMESにより85から98%)で生成される。帯域1の抽出液および抽残液、ならびに帯域2の抽出液および抽残液のGCFAMESトレースをそれぞれ図11および12に示す。 ・・・ 【実施例2】 【0246】 エイコサテトラエン酸エチルエステル(ETAEE)、EPAEE、それらの異性体およびDHAEEを含む魚油由来原料を、図10に概略的に示されるシステムにより、固定相として結合C18シリカゲル(粒径40?60μm)を、溶離剤として水性メタノールを使用する実移動床式クロマトグラフィーシステムを使用して分別した。図10に示されるように、19個のカラム(直径:10mm、長さ:250mm)を縦列に接続する。 ・・・ 【実施例3】 【0250】 図8に概略的に示されるシステムにより、固定相として結合C18シリカゲル(粒径300μm、粒子多孔度150オングストローム)を、溶離剤として水性メタノールを使用する実移動床式クロマトグラフィーシステムを使用して、魚油由来原料(55重量%のEPAEE、5重量%のDHAEE)を分別した。図8に示されるように、15個のカラム(直径:10mm、長さ:250mm)を縦列に接続する。 ・・・ 【実施例4】 【0254】 図8に概略的に示されるシステムにより、固定相として結合C18シリカゲル(粒径300μm)を、溶離剤として水性メタノールを使用する実移動床式クロマトグラフィーシステムを使用して、魚油由来原料(70重量%のDHAEE、7重量%のEPAEE)を分別する。図8に示されるように、15個のカラム(直径:76.29mm、長さ:914.40mm)を縦列に接続する。 ・・・ 【実施例5】 【0258】 図8に概略的に示されるシステムにより、固定相として結合C18シリカゲル(粒径300μm)を、溶離剤として水性メタノールを使用する実移動床式クロマトグラフィーシステムを使用して、魚油由来原料(33重量%のEPAEE、22重量%のDHAEE)を分別する。図8に示されるように、15個のカラム(直径:76.29mm、長さ:914.40mm)を縦列に接続する。 ・・・ 【実施例8】 【0267】 本発明の方法の2つのEPAリッチの生成物と、蒸留によって製造されたEPAリッチの油とを比較した。それらのPUFA成分の分析結果(重量%)を以下に示す。 【0268】 【表3】 」 2 甲1に記載された発明(甲1発明) 甲1には、多価不飽和脂肪酸(PUFA)およびそれらの誘導体を精製するための改善されたクロマトグラフ分別方法(【0001】)によって得られたPUFA生成物(【0018】)について記載されている。 そして、PUFA成分を含むEPAリッチの生成物(【0267】)の具体例である「本発明によるPUFA生成物[1]」に着目すると、魚油由来の原料から得られたものであって、その成分は、表3(【0268】)から、次のようなものであると認められる(「本発明によるPUFA生成物[1]」を、以下、「甲1発明」という。)。 なお、【0267】から、表3中の数値は重量%であることは明らかである。また「<LOD」は、検出限界(Limit of Detection)以下を意味することは技術常識からみて明らかである。 [甲1発明] 「魚油由来原料からクロマトグラフ分別方法によって得られた、以下のPUFA成分を含むEPAリッチの生成物。 オメガ-3脂肪酸として(オメガ-3総量 99.27重量%)、 EPA (C20:5n-3) 98.33重量%、 DHA (C22:6n-3) 0.15重量%、 Cl8:3n-3 検出限界未満、 Cl8:4n-3 0.33重量%、 C20:4n-3 0.14重量%、 C21:5n-3 検出限界未満、 C22:5n-3 0.32重量%、 オメガ-6脂肪酸として(オメガ-6総量 検出限界未満)、 Cl8:3n-6 検出限界未満、 C20:3n-6 検出限界未満、 C20:4n-6 検出限界未満」 3 対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1の【0029】の「PUFA生成物は、EPAおよび/またはEPAエチルエステル(EE)である。」という記載、及び、【0236】、【0246】、【0250】、【0254】、【0258】の「魚油由来原料」として「EPAEE」が含まれるという記載からみて、甲1発明の「EPA」は、エイコサペンタエン酸エチルエステルであるといえるから、甲1発明の「EPA」は、本件発明1の「エイコサペンタエン酸アルキルエステル」に相当する。 また、甲1発明の「EPAリッチの生成物」は、本件発明1の「エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物」に相当する。 そして、本件発明1における「面積%」は、本件明細書の【0042】の「油化学分野では面積%を重量%とほぼ同義のものとして用いられている。」という記載からみて、ガスクロマトグラフィーにより測定したものであるかどうか不明であるものの、甲1発明の「EPA」の含有量は、本件発明1の「エイコサペンタエン酸アルキルエステル」の含有量の範囲に含まれる。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「エイコサペンタエン酸アルキルエステルを96?98面積%含有し、原料油が水産物原料由来の油脂である、エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点1) 本件発明1は、アラキドン酸アルキルエステルの含有量が0.7面積%以下である点が特定されているのに対し、甲1発明は、「C20:4n-6」(アラキドン酸)の含有量については、検出限界未満であるものの、アラキドン酸アルキルエステルの含有量は不明な点。 (相違点2) 本件発明1は、エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計が1.417面積%以上、2.5面積%以下である点が特定されているのに対し、甲1発明では、そのような物質の含有量は不明な点。 (相違点3) 本件発明1は、エイコサテトラエン酸アルキルエステルの含有量が0.3面積%以下である点が特定されているのに対し、甲1発明では、「C20:4n-3」(エイコサテトラエン酸)の含有量については、0.14重量%であるものの、エイコサテトラエン酸アルキルエステルの含有量は不明な点。 (相違点4) 含有量の測定方法について、本件発明1では、ガスクロマトグラフィーが用いられているのに対し、甲1発明ではどのように測定されたものか不明な点。 ここで、相違点について検討する。 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 甲1には、エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体(以下、「特定の異性体」ということもある。)についての記載は見当たらない。しかも、甲1発明の「魚油由来原料」の具体的な成分は不明であり、クロマトグラフ分別方法によって、上記「特定の異性体」がどの程度の含有量となるかも明らかではないから、甲1発明の「EPAリッチの生成物」に上記「特定の異性体」がどの程度含まれるかは不明としかいうほかない。 これに対し、本件明細書の【0034】には、次のような記載がある(下線は当審が付与した。)。 「本発明の一実施形態における組成物は、上述したようなモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計は、1.417面積%以上とすることができる。組成物が、モノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体を特定量以上含む場合、これらの異性体の含有量に応じて、EPAと構造の異なる他の脂肪酸の含有量が低い傾向がある。組成物がこれらの異性体を特定以上含む場合には、EPAから分離がしにくい他の脂肪酸、特にアラキドン酸アルキルエステルの含有量が低い傾向があり、組成物におけるEPAアルキルエステルと分離しにくい傾向にある他の脂肪酸アルキルエステルとの含有量バランスがより良好であり、また生産性も向上する傾向がある。」 そして、本件明細書の【0110】の【表1】には、上記「特定の異性体」を1.417面積%以上含むものにおいて、エイコサペンタエン酸エチルエステルの含有量が97.155面積%に対し、アラキドン酸エチル(エステル)の含有量の平均値が、0.090面積%であることが示されており、上記「これらの異性体の含有量に応じて、EPAと構造の異なる他の脂肪酸の含有量が低い傾向がある・・・特にアラキドン酸アルキルエステルの含有量が低い傾向があ」ることが確認されているといえる。 したがって、本件発明1は、上記相違点2に係る発明特定事項を備えることで、EPAと構造の異なる他の脂肪酸、特にアラキドン酸アルキルエステルの含有量が低くなり、EPAアルキルエステルと分離しにくい傾向にある他の脂肪酸アルキルエステルとの含有量バランスがより良好となって、生産性が向上したものとなる、という格別顕著な作用効果を奏するものであると認められる。 そうすると、甲1発明では、上記「特定の異性体」の含有量は不明であるところ、その含有量を本件発明1の範囲のものとする動機付けはなく、しかも、本件発明1は甲1発明に比較して格別顕著な作用効果を奏するものであるから、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。 なお、甲2?甲8には、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項については、記載も示唆もされていない。 (申立人の主張について) 申立人は、「仮に、引用発明1に『エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体』が含まれていたとしても、その含有量の合計が1.417面積%以上になることはない。・・・ このことは、相違点2(当審注:上記相違点2と同じ)に係る発明特定事項である『エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計が1.417面積%以上、2.5面積%以下である』のうち、『1.417面積%以上』との下限値の限定には何ら技術的意義がないことを示している。」と主張している(特許異議申立書26頁10?23行)。 しかしながら、上述したように、本件発明1においては、上記「特定の異性体」の含有量に応じて、EPAと構造の異なる他の脂肪酸の含有量が低い傾向があるというのであるから、上記「特定の異性体」の下限値である1.417面積%に技術的意義がない、とはいえない。 また、仮に、甲1に記載された発明では、上記「特定の異性体」の含有量の合計が1.417面積%以上になることがないのであれば、甲1発明において、上記「特定の異性体」の含有量の合計を1.417面積%以上、2.5面積%以下とすることは当業者にとって容易想到とはいえない。 (まとめ) 以上のとおり、本件発明1は、上記相違点1、3及び4について検討するまでもなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (2)本件発明4について 本件発明4は、「エイコサペンタエン酸エチルの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量が1.417面積%以上、2.5面積%以下であ」る点を発明特定事項に備えているところ、これは上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項と実質的に同等であり、本件発明4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (3)本件発明2、3、5?27について 本件発明2、3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、本件発明5?27は、本件発明1又は4を直接的又は間接的に引用するものであるから、同様に、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (4)まとめ 上記(1)?(3)で述べたとおり、申立人の申立理由には、理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?27に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?27に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-11-17 |
出願番号 | 特願2016-548928(P2016-548928) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C11C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 古妻 泰一 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
川端 修 瀬下 浩一 |
登録日 | 2020-02-20 |
登録番号 | 特許第6664328号(P6664328) |
権利者 | 持田製薬株式会社 日本水産株式会社 |
発明の名称 | エイコサペンタエン酸アルキルエステルを含有する組成物及びその製造方法 |
代理人 | 一宮 維幸 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 一宮 維幸 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 山本 修 |