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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A41D
審判 全部無効 2項進歩性  A41D
審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  A41D
管理番号 1368448
審判番号 無効2019-800042  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-05-29 
確定日 2020-10-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第6404413号発明「マスク用耳ゴム及びマスク」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6404413号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、4?6〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6404413号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年7月13日の出願であって、平成30年9月21日に請求項1?6に係る発明についての特許権が設定登録されたものであり、本件無効審判請求以降の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和元年5月29日
審判請求書
同年5月29日
検証申出書
同年7月19日
検証物指示説明書
同年8月7日付け
無効理由通知(被請求人宛)
職権審理結果通知(請求人宛)
同年10月15日
審判事件答弁書
訂正請求書(当該訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)
同年10月31日付け
審理事項(1)通知
同年12月20日
口頭審理陳述要領書(1)(請求人)
令和2年1月20日
口頭審理陳述要領書(1)(被請求人)
同年2月17日付け
審理事項(2)通知
同年3月3日
第1回口頭審尋
同年3月6日付け
審理事項(3)通知
同年3月27日
口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
同年4月10日
口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
同年7月1日付け
書面審理通知
同年7月28日付け
補正許否の決定、審理終結通知

以下、審判請求書及び審判事件答弁書をそれぞれ、「請求書」及び「答弁書」と、請求人あるいは被請求人が提出した口頭審理陳述要領書(1)等を、「請求人要領書(1)」等と、「甲第1号証」等を「甲1」等と、甲第1号証等に記載された事項及び発明をそれぞれ、「甲1事項」等及び「甲1発明」等と略記する。
また、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面を「本件特許請求の範囲」、「本件特許明細書等」などという。
さらに、本審決において、書証等の記載箇所を行数により特定する場合、書証等自体に行番号が付されているときはそれに従い、付されていないときは空白行を含まない行数による。
そして、書証等の摘記において、原文が○で囲まれた数字や文字の場合は、「○1」、「○2」、「○R」等と代用記載する。


第2.本件訂正
1.訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に、
「マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が束ねられて形成された組が、複数編み込まれてなることを特徴とするマスク用耳ゴム。」
と記載されているのを、
「マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が束ねられて形成された組が3?15組で編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれており、
幅5?7mmの扁平な帯状であることを特徴とするマスク用耳ゴム。」
に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4?6も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
本件特許明細書等の段落【0006】に、
「上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれていることを特徴とする。
本発明によれば、着用者の耳への負担を軽減できるマスク用耳ゴムを提供することができる。
請求項2に記載の発明は、
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が束ねられて形成された組が、複数編み込まれてなることを特徴とする。
本発明によれば、着用者の耳への負担を軽減できるマスク用耳ゴムを提供することができる。」
と記載されているのを、
「上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれていることを特徴とする。
本発明によれば、着用者の耳への負担を軽減できるマスク用耳ゴムを提供することができる。
請求項2に記載の発明は、
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が束ねられて形成された組が3?15組で編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれており、
幅5?7mmの扁平な帯状であることを特徴とする。
本発明によれば、着用者の耳への負担を軽減できるマスク用耳ゴムを提供することができる。」
に訂正する。

2.一群の請求項
訂正前の請求項4?6は、訂正前の請求項2を直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであり、請求項〔2、4?6〕に係る本件訂正は、特許法第134条の2第3項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。

3.本件訂正の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項2における「複数のゴム紐が束ねられて形成された組」について、「3?15組で」あることに限定するとともに、「ゴム紐」について、「前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれており、幅5?7mmの扁平な帯状であ」ることに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書等には、以下の記載がある。
「【請求項1】
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれていることを特徴とするマスク用耳ゴム。」
「【0041】
具体的には、組211…は、1?4本のゴム紐201…によって形成され、このような組211…を3?15組で編み込むことによって耳ゴム200が形成されることが望ましい。
また、耳ゴム200は、幅5?7mm程度の扁平な帯状に形成されることが望ましい。
【0042】
なお、耳ゴム200は、上記のようにゴム紐201…のみによって形成されていてもよいが、図5に示すように、ゴム紐201…の周囲をポリエステル等の繊維状部材202…で巻いた上で、これを編み込んでもよい。この場合、耳ゴム200の質感を柔らかいものとすることができ、より装着感を向上させることができる。また、ゴム紐201…の周囲を巻く繊維状部材202…としては、ポリエルテルの他にナイロン等を用いることもできる。また、捲縮された繊維を用いると、よりふんわりとした柔らかい質感とすることができる。」

よって、訂正事項1は、上記記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の明細書の記載において、請求項2の発明特定事項を記載した箇所である段落【0006】の記載を、本件訂正後の請求項2のものに整合させるためのものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
さらに、訂正事項2に係る請求項2、4?6の全てについて訂正が請求されるものであるから、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合する。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔2、4?6〕についての訂正を認める。


第3.本件訂正発明
上記第2.のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?6は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された、次のとおりのものである。
なお、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明を、以下「本件訂正発明1」などという。

「【請求項1】
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれていることを特徴とするマスク用耳ゴム。
【請求項2】
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が束ねられて形成された組が3?15組で編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれており、
幅5?7mmの扁平な帯状であることを特徴とするマスク用耳ゴム。
【請求項3】
前記繊維状部材は、捲縮された繊維からなることを特徴とする請求項1に記載のマスク用耳ゴム。
【請求項4】
前記組を形成する複数のゴム紐が捻られてまとめられていることを特徴とする請求項2に記載のマスク用耳ゴム。
【請求項5】
複数のゴム紐が、前記マスク用耳ゴムの長さ方向に対して斜めに配置されるように編み込まれてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のマスク用耳ゴム。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか一項に記載のマスク用耳ゴムを備えたマスク。」


第4.請求人の主張
1.無効理由の概要
請求人は、本件特許の請求項1?6に係る発明についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。
その理由の概要は、以下のとおりである。
なお、以下に示すように、理由2については撤回され、理由4については許可しない。

(1)理由1
本件訂正発明1?6は、本件特許の出願前に公然実施された甲2に係る発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)理由2(撤回)
本願に記載されたマスク用耳ゴムの発明者は、「櫻井久之」ではなく、「吉本勇人」であり、その特許を受ける権利が、特許権者に承継された事実はないため、その特許は、特許法第123条第1項第6号に該当し、無効とすべきである。

なお、理由2は、請求人要領書(2)第2.(1)により撤回された。

(3)理由3
本件訂正発明2は、「幅5?7mmの扁平な帯状である」ところ、明細書には、扁平な帯状の組紐を製紐する方法が記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(請求人要領書(2)5.第2.(3)及び第5.)

(4)理由4(許可しない)
本件訂正発明2は、本件特許の出願前に公然知られた、または公然実施をされた甲8に記載された品番「FTY3-17P」(以下「甲8製品」という。)を実施した発明(以下「甲8発明」という。)、または、甲13に記載された品番「F-7(FTY3-17P)」(以下「甲13製品」という。)を実施した発明(以下「甲13発明」という。)であり、特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当するものである。
また、本件訂正発明2は、甲8発明または甲13発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(請求人要領書(1)5.(1)○1、請求人要領書(2)5.第2.(2))

なお、理由4は、令和2年7月28日付けの補正許否の決定に示したように、次の理由により、許可しない。

請求人の理由4に係る主張は、新たに甲8、甲13を主引用例とする無効理由を追加するものであるから、審判請求書に記載された請求の理由を実質的に補正するものである。
そして、新たに追加された甲8、甲13により立証しようとする事実に基づく請求の理由の補正は、請求の理由に当初から記載された理由を追加的に主張立証したものとはいえず、請求の理由の要旨変更にあたる。
また、前記要旨変更については、審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかとはいえないし、審判請求時の請求書に記載しなかったことにつき合理的な理由があるともいえない。

ここで、本件訂正発明2は、訂正前の本件発明2を全て包含し、さらに限定するものである。
そうすると、理由4は、訂正前の本件発明2について審判請求時に存在していた理由であることが明らかであるところ、理由4を審判請求時の請求書に記載せず、訂正請求後に追加補正する合理的な理由はない。
よって、上記要旨変更は、訂正の請求により請求の理由を補正する必要が生じたとするものではない。

よって、請求人の主張する理由4に係る審判請求書の補正は、許可しない。

2.証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
なお、令和元年5月29日付けの検証申出書による検証の申出は、令和2年3月3日に行われた第1回口頭審尋において撤回(第1回口頭審尋調書の請求人の欄1)された。

甲1:マスクゴムの購入に関する証明書(作成者:原ウール株式会社代表取締役 西川保彦)
甲2:マスクゴム(品番:KH-1/JANコード0451925990653)
甲3:マスクゴム(品番:KH-1/JANコード0451925990653)のギ酸による溶解試験結果
甲4:カバリング糸の納入に関する証明書(作成者:GSIマルロンテックス株式会社従業員 橋爪健治)
甲5:マスクゴム試作品 規格一覧表(作成者:請求人従業員 吉本勇人)
甲6:納入仕様書(品名:マスクゴム(HS375-39E))
甲7:株式会社気谷の工場見学時に受け取った名刺
甲8:白元向けサンプル提供に関する書類
甲9:原ウール宛て請求書及びこれに対応する銀行取引明細
甲10:成績書(試料名:ふんわりやわらかマスクゴム、作成者:石川県工業試験場)
甲11:録音データ(作成者:株式会社気谷従業員 筑波剛)
甲12:マスクゴム 規格一覧表
甲13:マスクゴムサンプル帳
甲14:(株)コクブンリミテッド ウェブページ(製品紹介)
甲15:打ち合わせメモ(作成者:株式会社気谷従業員 筑波剛)
甲16:原ウール(株)宛 見積書(再)
甲17:(株)白鳩宛 見積書
甲18:清原(株)宛 見積書
甲19:成績書(試料名:FTY3-17N-C、作成者:石川県工業試験場)
甲20:北陸横捲工業協同組合 ウェブページ
甲21:(株)気谷 ウェブページ(”ウーリーナイロンとは”)
甲22:ポリウレタン弾性繊維ライクラファイバー製品情報
甲23:織ゴム製造二口製紐 ブログ(作成者:(株)二口製紐)
甲24:特殊弾性糸について(作成者:大法紡績有限会社)
甲25:製紐分野の技術常識に関する見解書(作成者:石川県繊維資材工業組合理事長 中村脩一)
甲26:製紐分野の技術常識に関する見解書(作成者:石川県製紐工業協同組合代表理事 表和博)

以上の証拠方法のうち、甲1?甲7は請求書に添付され、甲8?甲11は請求人要領書(1)に添付され、甲12?甲26は請求人要領書(2)に添付されたものである。


第5.被請求人の主張
1.要点
これに対し、被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。(答弁書 7答弁の趣旨)

2.証拠方法
被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

乙1:実験成績証明書(作成日:令和元年10月8日、作成者:大王製紙株式会社 岩崎稔)
乙2:実験成績証明書(作成日:令和二年1月15日、作成者:大王製紙株式会社 岩崎稔)
乙3:発明届(作成者:大王製紙株式会社 櫻井久之)
乙4:発明アイデアシート(作成者:大王製紙株式会社 櫻井久之)

以上の証拠方法のうち、乙1は答弁書に添付され、乙2?乙4は被請求人要領書(1)に添付されたものである。


第6.当審の判断
1.令和元年8月7日付け無効理由通知について
(1)訂正前の本件特許の請求項2、4?6に係る発明に対して、当審が特許権者に通知した令和元年8月7日付けの無効理由の要旨は、次のとおりである。

ア.本件特許の請求項2、4?6に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

イ.本件特許の請求項2、4?6に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1.実公平7-2635号公報

(2)刊行物の記載
刊行物1には、以下の記載がある。
ア.「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】熱加塑性合成繊維を伸縮性かさ高加工法にてS方向(右方向)に仮撚してからなる右仮撚糸と、Z方向(左方向)に仮撚してなる左仮撚糸とを、同じ撚り数とし適テンションのもとでバランスを取りながら一本若しくは複数本を同数平行に揃えて一本の平衡糸とし、平衡糸任意本数を編組したことを特徴とする伸縮自在な組紐。」
(第1ページ第1欄第1?8行)

イ.「【考案の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本考案はゴム糸を用いなくても伸縮を可能としソフトに働く伸縮自在な組紐に関するものである。
・・・
(考案が解決しようとする問題点)
このようにゴムの弾性による伸縮力を用いたゴム紐を直接人体に触れさせて使用した場合、時間の経過と共にゴム紐が人体に食い込むような状態となって苦痛となる。特に風邪を引いてマスクをした場合、マスクの紐が掛けている内にだんだん耳に食い込む状態となり途中ではずしてしまうのが常である。そのために食い込まないような耳に苦痛を与えないようなゴム紐が考えられているのが、結果的には多少苦痛が緩和するのみで余り効果なく使用上非常に不都合を感じていた。
・・・
(作用)
このような組紐を用いると、組紐自体の伸縮性によって、伸びたまゝとならず自由に伸び縮みが出来、長時間用いてもゴム糸のように食い込むことがないし又、一般的には平組紐とするため人体への接触面も広くビロードのような風合を有するためソフトな感触を与える。
(実施例)
以下本考案の一実施例を図面について説明する。
図中(1)は右仮撚糸であって、熱加塑性合成繊維(通常ウーリー加工糸)を伸縮性かさ高加工法にてS方向(右方向)に仮撚してチーズにしたものである。
(2)は左仮撚糸であって、熱加塑性合成繊維(通常ウーリー加工糸)を伸縮性かさ高加工法にてZ方向(左方向)に右仮撚糸(1)と同じ撚り数で仮撚してチーズにしたものである。
(3)は特殊ボビンワインダー(図では省略)のテンション調整装置であって、ボビン(4)に巻取る右仮撚糸(1)及び左仮撚糸(2)のテンションを調整自在としている。
(5)は平衡糸全体であって、特殊ボビンワインダーを用い前記テンション調整装置(3)にてテンションを調整しながら一本若しくは複数本の右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)を同数同じ状態の適テンションでバランスを取りながら平行に揃えて案内環(6)を通して一本とし、バランスの崩れを防ぐためボビン(4)に巻取っている。
(7)は伸縮自在でビロードの様な感触を持つ組紐であって、任意数の平衡糸(5)を公知の平型製組機械に掛けて編組し製造したものである。(参考資料1参照)
使用に当たって、第5図に示す如くマスク(8)の掛紐に組紐(7)を用いると、組紐(7)の伸縮性によって伸びて耳に掛けることが出来、時間が過ぎても組紐(7)が耳に食い込むことが無くソフトに作用している。
そして使用し終わってマスクを取ると、組紐(7)の伸縮性によって縮み、元の状態に戻どる。
(考案の効果)
上述の如く本考案は、撚糸であっても平行に揃えて一本とし、互いに捩れを相殺しているため一方向への絡み付きがなく、組紐全体に伸縮性を持たせたことによって、ゴムを用いなくても伸縮を自在に行なえ且つ、ゴムによる締付(食い込み)が全くなくソフトにタッチし長時間使用しても耳が少しでも痛くならないと共に、ビロードのような風合を持つため使用時の感触がよく快的な気分で用いることが出来る等多くの特長があり実用上非常に優れた考案である。」
(第1ページ第1欄第9行?第2ページ第4欄第23行)

ウ.「【第2図】



エ.「【第3図】



オ.「【第4図】



カ.「【第5図】



上記ア.?カ.によれば、マスク(8)に用いられる組紐(7)の具体的構成が記載されており、本件特許の訂正後の請求項2の記載ぶりに沿って整理すると次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「マスク(8)の掛紐に用いられ、伸縮性によって伸びて耳に掛ける組紐(7)であって、一本若しくは複数本の伸縮性かさ高加工法により仮撚した右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)とが同数平行に揃えられて一本とされた平衡糸(5)が、任意本数、平型製組紐機に掛けられて編組されて平組紐とした組紐(7)。」

(3)本件訂正発明
本件訂正発明1?6は、上記第3.に示したとおりのものである。

(4)本件訂正発明2について
ア.対比
本件訂正発明2と引用発明1を対比する。
引用発明1の「伸縮性によって伸びて耳に掛ける組紐(7)」と、本件訂正発明2の「耳ゴム」とは、「伸縮性耳紐」である点で共通する。
また、引用発明1の組紐(7)が「マスク(8)の掛紐に用いられ」ることは、組紐(7)の取付け態様からみて、本件訂正発明2の耳ゴムが「マスク用」であって「マスク本体部の左右に備えられる」ことに相当する。

引用発明1の「伸縮性かさ高加工法により仮撚した右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)」のそれぞれと、本件訂正発明2の「ゴム紐」とは、「伸縮性紐」である点で共通する。
また、引用発明1の「平衡糸(5)」は、本件訂正発明2の「組」に相当する。
そして、引用発明1の平衡糸(5)が、「一本若しくは複数本」の右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)とが「同数平行に揃えられて一本とされた」ものであることは、本件発明2の組が、複数のゴム紐が「束ねられて形成された」ものであることに相当する。

引用発明1の平衡糸(5)が、「任意本数、平型製組紐機に掛けられて編組され」ることは、「所定本数で編み込まれ」ることの限りにおいて、本件訂正発明2の「3?15組で編み込まれ」ることと一致する。

引用発明1の「平組紐」は、本件訂正発明2の「扁平な帯状であること」に相当する。

以上のことから、本件訂正発明2と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「マスク本体部の左右に備えられるマスク用伸縮性耳紐であって、複数の伸縮性紐が束ねられて形成された組が、所定本数で編み込まれてなり、扁平な帯状であるマスク用伸縮性耳紐。」

<相違点1>
伸縮性耳紐とこれを構成する伸縮性紐について、本件訂正発明2では、「耳ゴム」とこれを構成する「ゴム紐」であるのに対し、引用発明1では、「組紐(7)」とこれを構成する「右仮撚糸(1)」及び「左仮撚糸(2)」である点。

<相違点2>
編み込む組数について、本件訂正発明2は、「3?15組」であるのに対して、引用発明1は、任意本数である点。

<相違点3>
ゴム紐について、本件訂正発明2は、「前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれ」たものであるのに対して、引用発明1は、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)がそのようなものであるのか不明な点。

イ.相違点についての検討
事案に鑑み、まず<相違点3>について検討する。
刊行物1には、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)について、周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれたものとすることの記載も示唆もない。
しかも、刊行物1には、
「(従来の技術)
現在組紐は、・・・丸ゴム組の場合には芯材にゴム糸を用い他の糸で被覆しており、・・・いずれの場合もゴムを用いゴムの弾性をそのまゝ利用しているのが現状である。
(考案が解決しようとする問題点)
このようにゴムの弾性による伸縮力を用いたゴム紐を直接人体に触れさせて使用した場合、時間の経過と共にゴム紐が人体に食い込むような状態となって苦痛となる。・・・」
(第1ページ第1欄第13行?第2欄第11行)
と記載されており、従来技術として、ゴム糸の芯材を他の糸で被覆したものには問題があることが指摘されているから、ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれてものを用いることにつき、阻害事由があるといえる。

そして、本件訂正発明2は、上記<相違点3>に係る構成により、「耳ゴム200の質感を柔らかいものとすることができ、より装着感を向上させることができる。」(段落【0042】)という格別の作用・効果を奏するものである。

よって、引用発明1において、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)を、ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれたものに変更することは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

ウ.請求人の主張について
請求人は、以下のように主張している。
「訂正発明2について、・・・構成要素gの「ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻か」れる点、・・・いずれも当業者が適宜選択する設計事項である。」
(請求人要領書(2)5.第2.(4))

そこで検討すると、引用発明1は、上記イ.に示したとおり、従来技術であるゴム糸の芯材を他の糸で被覆したものには問題があることから、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)として、熱加塑性合成繊維(通常ウーリー加工糸)を伸縮性かさ高加工法にて仮撚したもの(上記(2)イ.)を用いているのだから、これをゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれてものに変更することには阻害事由があり、設計的事項であるとはいえない。
よって、請求人の上記主張は、採用することができない。

エ.以上のとおり、<相違点3>は、実質的な相違点であるから、本件訂正発明2は、引用発明1であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない発明とはいえない。
また、引用発明1において、本件訂正発明2の<相違点3>に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到することができたものではないから、<相違点1>及び<相違点2>について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

(5)本件訂正発明4?6について
本件訂正発明4?6は、本件訂正発明2の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明4?6についても同様に、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない発明とはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

(6)小括
以上のとおり、本件訂正発明2、4?6は、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない発明とはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえなから、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、当審が通知した無効理由によっては、無効とすることはできない。


2.請求人の主張する理由1(甲2に基づく進歩性)
(1)証拠
以下の証拠には、次の記載がある。
ア.甲1(マスクゴムの購入に関する証明書)
「私は、以下の事項を事実であると証明します。
原ウール株式会社が株式会社気谷から、遅くとも平成26年2月から現在まで、藤久(株)向け商品である商品名「ふんわりマスクゴム」(品番:KH-1/JANコード:0451925990653)を購入していること。
上記の期間、下記商品の仕様、パッケージデザイン、品番、及びJANコードの変更が無かったこと。」

イ.甲2(マスクゴム(品番:KH-1/JANコード0451925990653))
(ア)製品としてのマスクゴムそのものである
(イ)パッケージには、以下の記載がある。
a.「ふんわり やわらか 極上 マスクゴム」(前面上部)
b.「ふんわり やわらか マスクゴム」(背面上部)
c.「長時間のご使用でも耳が痛くならないようソフトな風合いで織ったマスク用替えゴムです。」(背面の「特長」欄)
d.「マスク用替えゴム など」(背面の「用途」欄)
e.背面の「品質表示」欄には、以下の記載がある。
(a)「素材:ウーリーナイロン」
(b)「(組み糸):ポリウレタン(LYCRA○R)」
f.発売元として「藤久株式会社」
g.背面下部のバーコードシールには、以下の記載がある。
(a)「極上ふんわりマスクゴム」
(b)「(抗菌)約4mm×3m」
(c)「SAX(ブルー)」
(d)JANコードとして「0451925990653」

ウ.甲3(マスクゴム(品番:KH-1/JANコード0451925990653)のギ酸による溶解試験結果)
「青色の着色されたナイロン糸が溶解し、白色のポリウレタン製紐が露出している。」

エ.甲4(カバリング糸の納入に関する証明書)
「GSIマルロンテックス株式会社(旧丸一産業株式会社)が、株式会社気谷に対して、遅くとも平成26年2月から現在まで、マスクゴム用のカバリング糸(品番:S-270-A)を納入していること。
上記カバリング糸は、ポリウレタン製のゴム糸1本に対して、ウーリーナイロンを巻き付けたものであること。」

オ.甲10(成績書)
(ア)提出試料名として「ふんわりやわらかマスクゴム」
(イ)「図1 提出試料」として示された写真のバーコードシールには、以下の記載がある。
a.「極上ふんわりマスクゴム」
b.「(抗菌)約4mm×3m」
c.「SAX(ブルー)」
d.JANコードとして「0451925990653」
(ウ)「図2 提出試料(解じょ後)」として示された写真によれば、マスクゴムを解じょすると、矢印Aで示された糸(以下「糸A」という。)が36本あることが看て取れる。
(エ)「図3 提出試料(解じょ後)(図2内のAを拡大したもの)」及び「図4 提出試料(解じょ後)(図3を拡大したもの)」として示された写真によれば、多数の繊維が矢印B(以下「繊維B」という。)で示されており、本数不明の繊維が矢印C(以下「繊維C」という。)で示されていることが看て取れる。
(オ)「図5 提出試料(ぎ酸処理後)」及び「図6 提出試料(ぎ酸処理後)」として示された写真によれば、矢印Dで示された本数不明の繊維束(以下「繊維束D」という。)が9束あり、9束の繊維束Dによって紐状体を形成していることが看て取れる。
(カ)「図7 提出試料(解じょ後)の走査型電子顕微鏡写真(図4内のCを断面観察したもの)」として示された写真によれば、繊維Cは、2本の繊維で構成されていることが看て取れる。
(キ)「図8 提出試料(ぎ酸処理後)の走査型電子顕微鏡写真(図6内のDを断面観察したもの)」として示された写真によれば、繊維束Dは、8本の繊維で構成されていることが看て取れる。
(ク)上記(カ)及び(ク)から、繊維束Dは、2本で一組の繊維Cを四組8本で1束としたものであることが理解できる。

(2)甲2の公然実施について
ア.甲2として提出されたマスクゴムは、製品自体(以下「甲2製品」という。)であり、甲2製品のパッケージをみても、製造年月日が記載されていないから、甲2製品がいつ生産、譲渡等されたのか把握することはできないが、請求人要領書(2)5.第3.2.(1)によれば、甲2製品は、「本件特許の出願日より後に製造されたものである。」から、甲2製品を生産、譲渡等をする行為により実施した発明(以下「甲2発明」という。)は、本件特許の出願前にした発明ではない。

イ.請求人は、甲2製品が、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において公然実施された当時の製品(以下「当時製品」という。)と実質的に同一である旨を主張(請求書7.(4)イ(ア)、請求人要領書(1)5.(2)○1、請求人要領書(2)5.第3.2.(1)ア.)している。
そこで、甲2製品が当時製品と実質的に同一のものであるか否かについて検討する。

(ア)現在の製品と当時の製品が、実質的に同一である場合、その製品に関する設計書、規格書、仕様書等が、当時から現在まで変更されていないことが一般的であるところ、甲2製品については、設計書、規格書、仕様書等の製造に必要な書類は、証拠として提出されておらず(請求人要領書(1)5.(2)○2イ.)、甲2製品と当時製品が、同じ設計書、規格書、仕様書等に基づいて製造され実質的に同一のものであるとは、立証されていない。

(イ)ここで請求人は、甲1(マスクゴムの購入に関する証明書)を根拠として、甲2製品が当時製品と実質的に同一のものである旨、主張しているから、この点につき、以下に検討する。
a.甲2製品の販売元は、藤久株式会社である(上記(1)イ.(イ)f.)。

b.甲2製品は、請求人である株式会社気谷が製造した後、原ウール株式会社、藤久株式会社、一般向けの順に販売される(請求人要領書(1)5.(2)○1ウ.(ア))ものである。

c.甲1は、上記b.に示した中間購入者である原ウール株式会社が作成した書類であって、「私は、以下の事項を事実であると証明します。・・・上記の期間、下記商品の仕様、パッケージデザイン、品番、及びJANコードの変更が無かったこと。」(上記(1)ア.)と記載されている。

d.しかしながら、甲2製品のような繊維製品は、その構造や材質を目視確認することが実質的に不可能であるから、購入者側としては、購入当初から現在に至るまで構造や材質等の「仕様」変更がなかったことを自ら確認することが容易ではなく、製造者側からの報告によって「仕様」変更を認識することが通常であるところ、甲2製品について、「仕様」変更の有無が報告されていたか否かは、不明である。

e.そして甲2製品は、「販売形態としては、(株)気谷が、甲2のマスクゴムのパッケージングまで行い、JANコードを付けて、原ウール(株)に納入している。藤久(株)が運営する手芸専門店Tokaiでは、(株)気谷がパッケージングした状態のままで、甲2のマスクゴムが販売されている。」(請求人要領書(1)5.(2)○1ウ.(ア))ものであるから、購入者である原ウール株式会社及び藤久株式会社は、甲2製品について何ら手を加えることなく、購入・販売しているものであって、原ウール株式会社や藤久株式会社が、自ら甲2製品の構造や材質について定期的に検査等を行っていることを示す証拠や、甲2製品の「仕様」が変更されていないことを定期的に製造者側から購入者側に報告していたことを示す証拠は、提出されていない。

f.さらに、甲2製品は、微細な糸やゴム紐を編み込んだものであるから、このようなものの詳細な構造や材質を把握するためには、甲10(成績書)に示されているような有機溶剤試験や走査型電子顕微鏡による観察等が必要であることは明らかである。

g.そうすると、甲1の証明書は、作成者である原ウール株式会社が、甲2製品の外観から目視できる「パッケージデザイン」、「JANコード」や、取引に使用している「品番」、品質表示されている程度の材質や、製品の外観から把握できる程度の構造に関しては、当時製品から甲2製品まで変更がなかったと把握していることを意味するものであって、上記f.のような試験・観察等が必要な、甲2製品と当時製品の同一性を示すレベルの商品の「仕様」に関してまで、変更がなかったことを意味するものではないと理解するのが自然である。

h.そして、甲1以外の証拠を参酌しても、甲1の作成者である原ウール株式会社が、甲2製品と当時製品の同一性を示すレベルの商品の「仕様」を把握していたことを示す根拠は、ない。

i.次に、「JANコード」について検討する。
JANコードの登録、管理を行っている一般財団法人 流通システム開発センターによると、JANコードの変更ルールとして、新しいGTIN(JANコード)の設定が必要になる10の基準(https://www.dsri.jp/jan/gtin_rules.html)が定められており、それらは以下のとおりである。
【基準1】新商品を発売した場合
【基準2】商品表示の変更をともなう成分・機能を変更した場合
【基準3】商品表示の変更をともなう正味内容量を変更した場合
【基準4】包装の外寸、または総重量の20%以上を変更した場合
【基準5】認証マークを追加、または削除した場合
【基準6】ブランドを変更した場合
【基準7】販促のために期間限定で包装を変更、または景品・試供品を付けた場合(【基準7】の場合、JANコードに変更なし)
【基準8】集合包装の入数を変更した場合(【基準8】の場合、JANコードに変更なし)
【基準9】セット商品や詰め合わせ商品の中身を変更した場合
【基準10】商品本体に表示された価格を変更した場合(国内ではほぼ適用なし、一部の輸出の場合のみ)
すなわち、JANコードの変更(新たなJANコードの設定)は、上記の【基準1】?【基準10】に該当した場合になされるものであるから、一般に、JANコードが変更されていないことは、その製品に一切の変更がなされていないことを示すものではない。
よって、甲2製品のJANコードが当時製品から変更されていないことをもって、甲2製品と当時製品が実質的に同一であるとまでいうことは、できない。

j.請求人は、さらに以下のように主張している。
(a)「甲2のマスクゴムは、手芸専門店Tokaiを介して、主に手芸愛好家に販売されており、数千個/月で継続的に出荷されている。このような定番商品であるマスクゴムの仕様が無断で変更されれば、消費者からクレームとなって販売元に伝えられるはずである。
・・・
組紐の構成(組数など)の変更に関しては、量産に用いる製紐機はバリエーションが少なく、生産キャパシティーの関係からも、組紐の構成(組数、打ち数)を、消費者に感得されずに変更することはできない。具体的には、・・・消費者は一目で違いに気づくはずである。
以上より、組紐の糸又は構成を、消費者に気づかれずに量産することは不可能である。」
(請求人要領書(1)5.(2)○1ア.)

(b)「上記のように、甲2のマスクゴムは、定番商品として継続的に手芸愛好家に販売されたものであり、同一の品番及びJANコードであるにも関わらず、内容物の仕様が変更されれば、消費者のクレームとなって、藤久(株)から原ウール(株)に伝えられるはずである。」
(請求人要領書(1)5.(2)○1ウ.(ウ))

(c)「なお、甲2のマスクゴムに関して、原材料が安定的に供給されるものであり、同一の仕様で生産した方が、製紐機の設定を変えることなく連続生産でき、経済的に合理的である。定番商品の仕様をあえて変更する合理的な理由がない。」
(請求人要領書(1) 5.(2)○2イ.)

上記(a)?(c)の主張について検討する。
消費者からのクレームがないことは、製品について、消費者に察知されないようなわずかな仕様変更も一切なされていないことを示すものではないし、仕様変更を察知したからといって必ず消費者からクレームがあるわけでもない。
また、生産性に関しては、製品の仕様を変更することにより生産性が向上する場合や、仕様を変更しても生産性が変わらない場合もあること、さらには生産性が低下しても必要な仕様変更を行う場合などがあることは、証拠を示すまでもない技術常識であるから、生産性は、必ず同一仕様で生産し続けることをただちに意味するものではない。
よって、上記請求人の主張(a)?(c)は、採用することができない。

(ウ)したがって、甲1を参酌しても、甲2製品は、当時製品と実質的に同一のものであるとまではいうことができない。

ウ.小括
そうすると、甲2発明は、本件特許の出願前にした発明ではないから、この甲2発明に基いて本件訂正発明1?6を、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とすることはできない。
よって、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、請求人の主張する理由1によっては、無効とすることはできない。

(3)予備的検討
上記(2)において検討したとおり、甲2製品は、本件特許の出願前に生産、譲渡等がされたものではなく、また、本件特許の出願前の当時製品と実質的に同一のものであるともいえない。
しかし、念のために、請求人が主張するとおり、甲2製品が当時製品と実質的に同一のものであって、当時製品が本件特許の出願前に生産、譲渡等がされたものであるとして、以下に検討する。

ア.甲2’発明について
(ア)甲2製品及び当時製品に関する設計書、規格書、仕様書等といった、製品の構造や材質を特定し、製造するために必要な書類は提出されていないから、書類によって甲2製品及び当時製品の構造や材質を特定することはできない。
請求人の主張によれば、「製品規格に関する書類は作成し、原ウール(株)に提示していると思われるが、発見されなかった。」(請求人要領書(1)5.(2)○2イ.)ものである。

(イ)ここで請求人は、甲2製品の具体的な構造、材質等を示す証拠として甲3(ギ酸による溶解試験結果)及び甲10(成績書)を提出している。
そこで、甲2と合わせて、甲3及び甲10を参照して甲2’発明を検討する。
a.甲2のパッケージには「マスクゴム」と記載(上記(1)イ.(イ)a.?e.)されているから、甲2製品は「マスクゴム」である。

b.甲10に参考用として添付された「提出試料(図4内のCを測定したもの)の赤外スペクトル」と「ポリウレタンの赤外スペクトル」を重ね合わせたグラフによれば、繊維Cは、ポリウレタンでなるものであることが理解できる。
このことは、甲2のパッケージに記載の「(組み糸):ポリウレタン(LYCRA○R)」(上記(1)イ.(イ)e.(b))、及び甲3に記載の「白色のポリウレタン製紐」(上記(1)ウ.)と整合する。
よって、繊維Cは、「ポリウレタン(LYCRA○R)繊維」である。

c.甲10によれば、2本で一組の繊維C(上記(1)オ.(カ))を四組で1束とした繊維束D(上記(1)オ.(ク))があり、9束の繊維束Dによって紐状体を形成している(上記(1)オ.(オ))ことが理解できる。
そして、甲2製品を解じょすると、36本の糸A(上記(1)オ.(ウ))に分かれることと、9束の繊維束Dの中に四組の繊維Cがあることをあわせみると、糸Aは、2本で一組の繊維Cを備えるものであることが理解できる。
また、糸Aは、多数の繊維Bを備えるものである(上記(1)オ.(エ))ところ、甲10に参考用として添付された「提出試料(図4内のBを測定したもの)の赤外スペクトル」と「ナイロンの赤外スペクトル」を重ね合わせたグラフによれば、繊維Bは、ナイロンでなるものであることが理解できる。
このことは、甲2のパッケージに記載の「素材:ウーリーナイロン」(上記(1)イ.(イ)e.(a))、及び甲3に記載の「青色の着色されたナイロン糸」(上記(1)ウ.)と整合する。
よって、繊維Bは、「ウーリーナイロン繊維」である。

d.上記b.及びc.によれば、甲2製品は、「2本のポリウレタン(LYCRA○R)繊維と、多数のウーリーナイロン繊維で構成された糸」を備えるものである。

e.甲2のパッケージには「織ったマスク用替えゴム」(上記(1)イ.(イ)c.)、「(組み糸)」(上記(1)イ.(イ)e.(b))と記載されており、糸Aを織ったものであるのか、組んだものであるのか不明な記載があるけれども、甲10の「図5 提出試料(ぎ酸処理後)」及び「図6 提出試料(ぎ酸処理後)」をあわせみれば、組んだものであることが理解できる。
よって、上記c.も考慮すると、甲2製品は、「2本一組の繊維Cを四組束ねて糸束とし、当該糸束9束を組むことによりマスクゴムを構成している」ものである。

f.甲2製品の外観から、その断面は、円形であることが看て取れる。
よって、甲2製品は、「断面が円形」である。

(ウ)上記(イ)a.?f.を総合すると、甲2製品から、以下の甲2’発明が導くことができる。
「2本のポリウレタン(LYCRA○R)繊維と、多数のウーリーナイロン繊維で構成された糸と、
前記糸を四組束ねて糸束とし、当該糸束9束を組むことによりマスクゴムを構成している、
断面が円形の、
マスクゴム。」

イ.本件訂正発明
本件訂正発明1?6は、上記第3.に示したとおりのものである。

ウ.本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲2’発明を対比する。
甲2’発明の「マスクゴム」は、「長時間のご使用でも耳が痛くならないようソフトな風合いで織ったマスク用替えゴム」(上記(1)イ.(イ)c.)であり、マスクゴムが「マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴム」であることは技術常識である。よって、甲2’発明の「マスクゴム」は、本件訂正発明1の「マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴム」、「マスク用耳ゴム」に相当する。

ポリウレタン(LYCRA○R)繊維が弾性を有する糸であることは技術常識である。よって、甲2’発明の「ポリウレタン(LYCRA○R)繊維」は、本件訂正発明1の「ゴム紐」に相当する。
また、甲2’発明の「ポリウレタン(LYCRA○R)繊維」を備えた「糸」が「4組束ねて糸束とし、当該糸束9束を組むことによりマスクゴムを構成している」ことは、「複数のゴム紐で構成される」ことの限りにおいて、本件訂正発明1の「複数のゴム紐が編み込まれてな」ることと一致する。

甲2’発明の「多数のウーリーナイロン繊維」は、本件訂正発明1の「繊維状部材」に相当する。そして、甲2’発明の「糸」が「2本のポリウレタン(LYCRA○R)繊維と、多数のウーリーナイロン繊維で構成され」ていることは、「ゴム紐と繊維状部材で糸が構成されている」ことの限りにおいて、本件訂正発明1の「前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれていること」と一致する。

そうすると、本件訂正発明1と甲2’発明は、以下の点で一致している。
<一致点>
「マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐で構成され、
ゴム紐と繊維状部材で糸が構成されている、
マスク用耳ゴム。」

そして、本件訂正発明1と甲2’発明は、以下の点で相違している。
<相違点A>
本件訂正発明1は、「複数のゴム紐が編み込まれて」いるのに対して、甲2’発明は、糸束9束が組まれている点。

<相違点B>
本件訂正発明1は、「前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれている」のに対して、甲2’発明は、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維が2本であり、また、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維と複数のウーリーナイロン繊維がどのように糸を構成しているか不明である点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、<相違点B>から検討する。
a.2種類の繊維で糸を構成する場合、一方の繊維を芯として他方の繊維を巻回した糸の他、2種類の繊維を撚った糸、2種類の糸を引き揃えただけの糸、一方の繊維を芯として他方の繊維をランダムに絡ませた糸など、多種多様な糸があることは、文献を示すまでもなく、当該技術分野における技術常識である。

b.一方、甲2製品の糸は、一方の繊維を芯として他方の繊維を巻回した糸でなければならないとする根拠はないから、甲2’発明は、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維と複数のウーリーナイロン繊維がどのように糸を構成しているか不明であるといわざるを得ない。

c.さらに、ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれている糸とする動機付けを示す証拠は、提出されていない。

d.そして、本件訂正発明1は、上記<相違点B>に係る構成により、「耳ゴム200の質感を柔らかいものとすることができ、より装着感を向上させることができる。」(段落【0042】)という格別の作用・効果を発揮するものである。

e.よって、甲2’発明において、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維を1本とした上で、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維の周囲を個々に巻回するようにウーリーナイロン繊維が巻かれている糸とすることで、上記<相違点B>に係る本件訂正発明1の構成を備えることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

f.請求人の主張について
上記<相違点B>について、請求人は、以下のように主張している。
(a)「また、このマスクゴムは、ポリウレタン製ゴム紐にウーリーナイロンを巻き付けたカバリング糸を4本束ねて組とし、9組を組紐のように編み込んでなるマスクゴムである。」
(請求書7.(4)イ.(イ))

(b)「甲第4号証には、甲第2号証のマスクゴムの製造に用いられるカバリング糸が、ポリウレタン製ゴムそれぞれに対して、ウーリーナイロン糸を巻き付けたものであることが記載されている。」
(請求書7.(4)イ.(エ))

(c)「また、ギ酸によりナイロン糸を溶解させたものと、溶解させていないものとを比較することにより、捲縮されたナイロン糸がゴム紐に巻き付けられていることがわかる。」
(請求人要領書(1)5.(2)○2ウ.)

(d)「(2)甲10の写真について
図2は、・・・
図7は、図4の繊維Cを電子顕微鏡で観察したものであり、2本のフィラメントが接合された1本の糸であることがわかる。
図8は、図6のD部分(1組分)を電子顕微鏡で観察したものであり、2フィラメントの糸が4本存在していることがわかる。」
(請求人要領書(2)5.第3.2.(2))

(e)「(3)甲2のマスクゴムが備える構造について
ア.ウーリーナイロンについて
・・・
イ.ポリウレタン(LYCRA□)について
LYCRA□は、甲10の図4に表された繊維Cであり、図7に示すように、2本のポリウレタンフィラメントを接合したものである。・・・
ウ.ウーリーナイロンとポリウレタン
甲10の図2をみると・・・
また、カバリング糸が、弾性糸の周囲に合成繊維をらせん状に巻き付けたものであることは技術常識である。・・・」
(請求人要領書(2)5.第3.2.(3))

(f)「甲20に示すように、・・・が開示されている。
以上より、カバリング糸を用いてゴム紐を編み込むこと自体は、技術常識である。」
(請求人要領書(2)5.第3.6.)

そこで、上記請求人の主張について検討する。
主張(a)は、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維にウーリーナイロン繊維が巻き付けられていることを主張しているところ、その根拠は示されていない。

主張(b)は、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維にウーリーナイロン繊維が巻き付けられているとする主張(a)の根拠が甲4であることを主張するものである。
そこで甲4をみると、「マスクゴム用のカバリング糸(品番:S-270-A)を納入している」(上記(1)エ.)と記載されているが、当該「カバリング糸(品番:S-270-A)」が甲2製品に用いられているとする証拠はないから、甲4と甲2製品の関係は不明である。

主張(c)も、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維にウーリーナイロン繊維が巻き付けられているとする主張(a)の根拠が甲4であることを主張するものである。
そこで、ギ酸によりナイロン糸を溶解させた状態を示す甲3、及び甲10の図5、6と、溶解させていない甲2製品、及び甲10の図2を比較しても、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維にウーリーナイロン繊維が巻き付けられているか否かは、不明である。

主張(d)では「カバリング糸が、弾性糸の周囲に合成繊維をらせん状に巻き付けたものであることは技術常識である。」、主張(f)では「カバリング糸を用いてゴム紐を編み込むこと自体は、技術常識である。」と主張しているが、上記(b)で述べたとおり、甲2製品がカバリング糸を用いているか否かが不明であるから、カバリング糸の技術常識と甲2’発明には関係がない。

主張(e)では、ポリウレタン(LYCRA○R)繊維について甲10を根拠として「2本のフィラメントが接合された1本の糸である」「2本のポリウレタンフィラメントを接合したものである。」と主張している。
そこで甲10の図7と図8をみると、いずれも複数の繊維が密着配置した状態を示すものであり、接合しているのか否かは明らかでなく、図7の2本の繊維が接合して1本となっていること、及び図8の8本の繊維が、2本の繊維が接合した繊維が4組あり、4組の繊維は分離していることを示す証拠は、提出されていない。
そうすると、請求人の主張する「図7は、図4の繊維Cを電子顕微鏡で観察したものであり、2本のフィラメントが接合された1本の糸であることがわかる。」とする点については根拠がなく、「図8は、図6のD部分(1組分)を電子顕微鏡で観察したものであり、2フィラメントの糸が4本存在していることがわかる。」ことにも根拠がない。

よって、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

(ウ)以上のとおり、<相違点A>について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

エ.本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用する形式ではないけれども、本件訂正発明1の構成を全て含み、さらに「ゴム紐」が「束ねられて形成された組が3?15組」であること、「繊維状部材」が「ポリエステル」であること、「マスク用耳ゴム」が「幅5?7mmの扁平な帯状」であることを限定するものである。
したがって、本件訂正発明2と甲2’発明を対比すると、本件訂正発明1と甲2’発明を対比した上記ウ.と同様に、少なくとも<相違点A>及び<相違点B>で相違することは、明らかである。

そして、<相違点B>について上記ウ.で述べたとおり、本件訂正発明1は、甲2’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないのであるから、本件訂正発明2も同様に、甲2’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

オ.本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1の構成を全て含み、更に限定するものであるから、本件訂正発明3についても同様に、甲2’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

カ.本件訂正発明4
本件訂正発明4は、本件訂正発明2の構成を全て含み、更に限定するものであるから、本件訂正発明4についても同様に、甲2’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

キ.本件訂正発明5及び6
本件訂正発明5及び6は、本件訂正発明1又は2の構成を全て含み、更に限定するものであるから、本件訂正発明5及び6についても同様に、甲2’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

ク.小括
以上のとおり、本件訂正発明1?6は、甲2’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるといえず、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、仮に、請求人が主張するとおり、甲2製品が当時製品と実質的に同一のものであって、当時製品が本件特許の出願前に生産、譲渡等がされたものであるとしても、請求人の主張する理由1によっては、無効とすることはできない。


3.請求人の主張する理由3(実施可能要件)
(1)請求人の主張
理由3について、請求人は、根拠条文を示して主張していないけれども、「幅5?7mmの扁平な帯状である」点につき、発明の詳細な説明には、製紐機で扁平形状の組紐を製紐する方法が開示されていないことを根拠として実施可能要件違反を主張をするものであるから、請求人の主張する理由3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきであることを主張しているものと理解して、以下検討する。

(2)本件特許の発明の詳細な説明には、
「【0041】
具体的には、組211…は、1?4本のゴム紐201…によって形成され、このような組211…を3?15組で編み込むことによって耳ゴム200が形成されることが望ましい。
また、耳ゴム200は、幅5?7mm程度の扁平な帯状に形成されることが望ましい。」
との記載があるから、編み込む組数は、3?15組の中から選択できるものである。
一方、実施例としては、
「【0043】
[製造方法の説明]
(1) 例えば、被服用の紐を製造する製紐器のボビンに糸の代わりにゴム紐201を巻き、それを編み込むことで耳ゴム200を形成する。・・・
【0047】
(実施例1)
・・・このような組211を6組編み込むことによって形成された耳ゴム200である。
(実施例2)
・・・このような組211を6組編み込むことによって形成された耳ゴム200である。
(実施例3)
・・・このような組211を6組編み込むことによって形成された耳ゴム200である。」
との記載があるから、実施例1?4は、特殊な製紐機を用いるものではなく、全て6組で編み込まれていることが理解できる。

(3)ここで、一般的な製紐機で製造された組紐では、打ち数(組数)が偶数であれば断面が丸になり、打ち数(組数)が奇数であれば、断面が扁平になることは、製紐分野における技術常識である。
この技術常識は、請求人も主張(請求人要領書(2)5.第3.4.(4))しているものであり、また甲25、26にも裏付けられている。

(4)そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に触れた当業者であれば、扁平形状の組紐を製紐する方法や、扁平な形状とした実施例が記載されていなくとも、当該技術分野の技術常識を鑑みれば、3?15組という選択肢の中から奇数の組数を選択すれば扁平形状の組紐が製紐できることは、理解し得ることが明らかである。

(5)小括
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしているから、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当するものとはいえず、請求人の主張する理由3によっては、無効とすることができない。


第7.むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した理由、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明1?6の各々に係る特許を無効にすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
マスク用耳ゴム及びマスク
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク用耳ゴム及びマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
マスクの左右に備えられ、着用者の耳に係止される耳掛け部は、着用者の顔面にマスクを固定させるため、紐や伸縮性の素材を使用して作成されるが、近時はマスクを顔の大きさに拘わらず使用できるようにするため、ゴムを用いることが多くなっている。
耳掛け部に用いるゴム(以下「耳ゴム」という。)としては、マスク本体部の顔面への密着性を高めるためには張力の強いゴムを使用することが望ましいが、張力の強いゴムを使用すると、これが耳に食い込むように当たり、着用者が痛みを感じることとなる。一方、着用者の痛みを和らげるために張力の弱いゴムを使用すると、マスク本体部の顔面への密着性が低下してしまう。
そこで、耳への負担を軽減するために、耳ゴムの途中にゴムの長さや強さを調整するための調整部を設けたマスク(例えば、特許文献1参照)や、耳ゴムに弾性部材を取り付けたマスク(例えば、特許文献2参照)が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-210153号公報
【特許文献2】特開2015-42231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、いずれの特許文献に記載のマスクにおいても、耳ゴムとしては一本のゴム紐を用いることが想定されており、耳ゴムの長さ方向に集中して張力が掛かるものであるため、ゴムの張力が全て耳ゴムの伸縮方向、すなわち耳掛け部による締め付け方向と同じ方向に働くこととなる。したがって、耳に痛みが生じる等、耳ゴムによって締め付けられることによって着用者の耳に生じる負担を十分に軽減することができなかった。
【0005】
本発明は、着用者の耳への負担を軽減できるマスク用耳ゴム及びマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれていることを特徴とする。
本発明によれば、着用者の耳への負担を軽減できるマスク用耳ゴムを提供することができる。
請求項2に記載の発明は、
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が束ねられて形成された組が3?15組で編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれており、
幅5?7mmの扁平な帯状であることを特徴とする。
本発明によれば、着用者の耳への負担を軽減できるマスク用耳ゴムを提供することができる。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のマスク用耳ゴムにおいて、
前記繊維状部材は、捲縮された繊維からなることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載のマスク用耳ゴムにおいて、
前記組を形成する複数のゴム紐が捻られてまとめられていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載のマスク用耳ゴムにおいて、
複数のゴム紐が、前記マスク用耳ゴムの長さ方向に対して斜めに配置されるように編み込まれてなることを特徴とする。
本発明によれば、着用者の耳への負担を軽減できるマスク用耳ゴムを提供することができる。
【0010】
請求項6に記載の発明は、
請求項1?5のいずれか一項に記載のマスク用耳ゴムを備えたマスクである。
本発明によれば、着用者の耳への負担を軽減できるマスクを提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、着用者の耳への負担を軽減できるマスク用耳ゴム及びマスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るマスクを示す斜視図である。
【図2】実施形態に係るマスクを示す正面図である。
【図3】図2のIII-III部における断面図である。
【図4】耳ゴムの編み方を示す図である。
【図5】ゴム紐を繊維状部材で巻いた場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態であるマスク100の具体的な態様について、図1から図4に基づいて説明する。ただし、本発明の技術的範囲は図示例に限定されるものではなく、あくまで特許請求の範囲の記載を基に判断される。
なお、以下においては、図1に示すように、マスクの着用者を基準として、前後、左右及び上下を定めて説明する。
【0014】
[構成の説明]
(全体構成)
マスク100は、図1及び図2に示すように、着用者の顔面の鼻、口、顎等を覆うマスク本体部1と、マスク本体部1を着用者の右耳に係止するための右耳掛け部2と、マスク本体部1を着用者の左耳に係止するための左耳掛け部3と、を備えている。なお、マスク100は、マスク本体部1の後面側を着用者の顔面に向けて着用される。
【0015】
(マスク本体部)
マスク本体部1は、図2に示すように、3枚以上の複数のシート材によって形成されたシート部11と、シート部11の上端部付近に取り付けられた鼻部補強部材12と、シート部11の上下方向中央部付近に取り付けられた口部補強部材13と、を備える。
【0016】
(シート部)
シート部11は、図2に示すように正面視略矩形状に形成されたシート状の部材であり、複数のシート材を積層して形成されている。
シート部11は、左右方向120mmから210mm、好ましくは145mmから175mm、上下方向70mmから100mm、好ましくは80mmから90mmに形成される。
【0017】
シート部11は、図3に示すように、肌から遠い面から順に、シート部11の肌から最も遠い面に位置する外面側不繊布111、フィルター112、シート部11の肌から最も近い面に位置する着用者側不繊布113の順にシート材を積層して形成されている。具体的なシート材としては、例えば不繊布として、ポリプロピレンスパンボンド、ポリエチレンスパンボンド、ナイロンスパンボンド等が用いられ、フィルターとして、ポリプロピレンメルトブロー、レーヨンスパンボンド等が用いられる。また、着用者側不繊布113には、保湿剤、柔軟剤、抗菌剤等を塗布することも可能である。
最も好適には、外面側不繊布111としてポリプロピレンスパンボンドが用いられ、着用者側不繊布113として保湿剤を塗布したナイロンスパンボンドが用いられ、これらの間に挟み込むフィルター112としてポリプロピレンメルトブローが用いられる。
【0018】
シート部11を形成する外面側不繊布111、フィルター112及び着用者側不繊布113は、上下及び左右の端部付近において、熱・超音波等によって前後に溶着されており、上端部付近に上端部接続部11aが、下端部付近に下端部接続部11bが、右端部付近に右端部接続部11cが、左端部付近に左端部接続部11dが形成されている。
【0019】
シート部11の上部には、後述の鼻部補強部材12を取り付けるため、鼻部補強部材12を囲むように外面側不繊布111、フィルター112及び着用者側不繊布113を、熱・超音波等によって溶着した鼻部補強部材周辺接続部11eが形成されている。
鼻部補強部材周辺接続部11eは、正面視において鼻部補強部材12の形状と略一致するように形成されていることが望ましいが、鼻部補強部材12の周囲に若干の間隙が存在し、鼻部補強部材12を動かすことが可能であってもよい。
【0020】
シート部11の上下方向中央部付近には、後述の口部補強部材13を取り付けるため、口部補強部材13を囲むようにフィルター112及び着用者側不繊布113を、熱・超音波等によって溶着した口部補強部材周辺接続部11fが形成されている。
口部補強部材周辺接続部11fは、正面視において口部補強部材13の形状と略一致するように形成されていることが望ましいが、口部補強部材13の周囲に若干の間隙が存在し、口部補強部材13を動かすことが可能であってもよい。
【0021】
また、図1及び図2においては夫々の接続部11a?11fが別個に設けられた場合について図示したが、これに限られず、複数の接続部を兼ねる部分が存在していてもよい。例えば、上端部接続部11aと鼻部補強部材周辺接続部11eの上部とが重なり、上端部接続部11aが鼻部補強部材周辺接続部11e上部を兼ねていてもよい。
また、これらの接続部は、前後にシート材が接続されていればよく、必ずしも熱・超音波等による溶着によって形成されている必要はない。
また、図1及び図2においてはこれらの接続部が実線状に形成された場合につき図示したが、これに限られず、接続部は例えば破線状に形成されていてもよい。
【0022】
(プリーツ)
シート部11は、図3に示すように上下方向に折り返されており、これによって、前面側に、図1から図3に示すように、上部プリーツ11gと、下部プリーツ11h、11hとが形成されている。マスク100の着用時には、これらを上下方向に展開することによって、シート部11が外側に膨出する山型の立体形状となって、着用者の顔面の鼻、口、顎等が覆われるようになっている。
【0023】
上部プリーツ11gは、図1から図3に示すように、シート部11前面の上下方向中央部よりも上部に形成された、上方に凸となる折り目であり、上下方向に展開することができる。本実施形態においては、上部プリーツ11gは、シート部11の1か所に備えられている。
【0024】
下部プリーツ11h、11hは、図1から図3に示すように、シート部11前面の上下方向中央部よりも下部に形成された、下方に凸となる折り目であり、上下方向に展開することができる。本実施形態においては、下部プリーツ11h,11hは、シート部11の2か所に備えられている。
【0025】
上部プリーツ11g及び下部プリーツ11h,11hは、シート部11の上下方向中央部を含む、上部プリーツ11gと下部プリーツ11h,11hのうち上方に形成されたものとの間の部分の間隔が、最も広くなるように配置され、特に当該部分が、シート部11の上下方向の幅の3分の1以上の幅を有するように配置されていることが望ましい。これによって、着用者の口元の空間を確保し易くなる。
【0026】
また、上部プリーツ11g及び下部プリーツ11h,11hは、これらの配置間隔が全て異なる間隔となるように配置されていることが望ましい。これによって、プリーツごとに配置間隔を変え、適切な位置に配置することが可能となる。
なお、プリーツの配置間隔には、上部プリーツ11gとマスク上端縁との間隔及び下部プリーツ11h,11hのうち下方に形成されたものとマスク下端縁との間隔を含むものとする。
【0027】
(鼻部補強部材)
鼻部補強部材12は、マスク本体部1の上部が着用者の鼻付近の形状に沿って、隙間が生じないようにするためのものであり、図2に示すように、シート部11の上端縁に沿って備えられている。
鼻部補強部材12は、左右方向に長い可塑性を有する部材であり、シート部11の横幅よりも短く、左右方向に80?135mm、好ましくは90mm?120mmの長さを有し、上下方向に幅3mm?5mm、前後方向に厚み0.5mm?1.0mmとなるように形成されている。
【0028】
鼻部補強部材12の材料としては、可塑性を有する任意の材料を使用可能であるが、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂等が用いられ、最も好適には、ポリプロピレン樹脂が用いられる。
【0029】
鼻部補強部材12は、フィルター112と、着用者側不繊布113との間に配置され、外面側不繊布111、フィルター112及び着用者側不繊布113を、鼻部補強部材12の上下及び左右において熱・超音波等を用いて前後に溶着させることで、鼻部補強部材12を囲むように形成された鼻部補強部材周辺接続部11eによって、シート部11に取り付けられている。
【0030】
なお、鼻部補強部材12は、マスク本体部1の上部に隙間が生じないようにすることが可能であれば、任意の配置及び取り付け方法によってシート部11に取り付けることができる。
例えば、後述の口部補強部材13と同様に、外面側不繊布111は溶着されないようにして鼻部補強部材周辺接続部11eを形成し、鼻部補強部材12をシート部11に取り付けてもよい。また、例えば、鼻部補強部材12は、外面側不繊布111と、フィルター112との間に配置されていてもよい。
【0031】
(口部補強部材)
口部補強部材13は、マスク本体部1の着用者の口元付近の形状を維持するためのものであり、図2及び図3に示すように、シート部11の、上部プリーツ11gと、下部プリーツ11h,11hのうち上方に形成されたものとの間の位置の、シート部11の上下方向中央部付近に取り付けられている。
なお、口部補強部材13の取り付け位置としては、シート部11の上下方向中央部から5mmから10mm程度下方にずれた位置に取り付けられていることが望ましいが、マスク本体部1の着用者の口元付近の形状を維持することができればよく、このような配置位置には限られない。
【0032】
口部補強部材13は、左右方向に長い可塑性を有する部材であり、図2に示すようにシート部11の横幅よりも僅かに短く、左右方向に100?150mm、好ましくは115mm?145mmの長さを有し、上下方向に幅3mm?5mm、前後方向に厚み0.5mm?1.0mmとなるように形成されている。
【0033】
口部補強部材13の材料としては、可塑性を有する任意の材料を使用可能であるが、例えば、鼻部補強部材12と同様、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂等が用いられ、最も好適には、ポリプロピレン樹脂が用いられる。
【0034】
口部補強部材13は、図3に示すように、フィルター112と、着用者側不繊布113との間に配置され、フィルター112と着用者側不繊布113とを、口部補強部材13の上下及び左右において、熱・超音波等を用いて前後に溶着させることで、口部補強部材13を囲むように形成された口部補強部材周辺接続部11fによって、シート部11に取り付けられている。
これによって、口部補強部材13が、フィルター112と、着用者側不繊布113とに対して固定され、フィルター112、着用者側不繊布113及び口部補強部材13が、着用者の口元付近において固定されるが、外面側不繊布111については、シート部11の四辺の端部付近以外においては、他の部材に固定されていないこととなる。
【0035】
なお、マスク本体部1としては、着用者の対称部位を覆い、耳掛け部を取り付けた際にマスクとして機能し得るものであれば任意の構成を用いることが可能である。
【0036】
(耳掛け部)
右耳掛け部2及び左耳掛け部3は、いずれも耳ゴム200をマスク本体部1に取り付けることによって形成されている。
具体的には、図1及び2に示すように、右耳掛け部2はマスク本体部1の右側において、耳ゴム200の一方の端部をシート部11の右端部の上部に熱・超音波等によって溶着させ、他方の端部をシート部11の右端部の下部に熱・超音波等によって溶着させることによって形成されている。また左耳掛け部3はマスク本体部1の左側において、耳ゴム200の一方の端部をシート部11の左端部の上部に熱・超音波等によって溶着させ、他方の端部をシート部11の左端部の下部に熱・超音波等によって溶着させることによって形成されている。
【0037】
(耳ゴム)
耳ゴム200は、図4に示すように複数のゴム紐201…によって形成された組211…を編み込むことによって形成されている。
【0038】
(ゴム紐)
ゴム紐201…は、伸縮性の材料によって形成された細い紐状の部材である。ゴム紐201…の材料としては、例えば、天然ゴムの場合にはラテックス等が、合成ゴムの場合にはポリウレタン等が用いられる。なお、ゴム紐201…としては、全て同じ太さのものを用いてもよいし、異なる太さの複数種類のものを混合して用いてもよい。
【0039】
(組)
所定数のゴム紐201…を束ねることによって、図4に示すように組211…が形成される。組211としては、複数のゴム紐201…を束ねたのみでもよいし、これを捻る等してまとめてあってもよい。図4においては3本のゴム紐201…によって組211…が形成された場合につき図示したが、組211…を形成するゴム紐201…の数はこれに限られない。各組211…を形成するゴム紐201…は、全て同じ太さであってもよいし、異なる太さの複数種類のゴム紐201…が混合されていてもよい。
【0040】
耳ゴム200は、図4に示すように、複数の組211…を所謂三つ編みの要領で編み込むことで、各組211…が、耳ゴム200の長さ方向に対して斜めに配置され、かつ、各組211…が一組ずつ交差するように編み込まれる。また、耳ゴム200は、全てのゴム紐201…が耳ゴム200の長さ方向の全体に亘って延在するように形成される。また、これによって、組211…を形成するゴム紐201…が、耳ゴム200の長さ方向に対して斜めに配置されるように編み込まれることとなる。
【0041】
具体的には、組211…は、1?4本のゴム紐201…によって形成され、このような組211…を3?15組で編み込むことによって耳ゴム200が形成されることが望ましい。
また、耳ゴム200は、幅5?7mm程度の扁平な帯状に形成されることが望ましい。
【0042】
なお、耳ゴム200は、上記のようにゴム紐201…のみによって形成されていてもよいが、図5に示すように、ゴム紐201…の周囲をポリエステル等の繊維状部材202…で巻いた上で、これを編み込んでもよい。この場合、耳ゴム200の質感を柔らかいものとすることができ、より装着感を向上させることができる。また、ゴム紐201…の周囲を巻く繊維状部材202…としては、ポリエルテルの他にナイロン等を用いることもできる。また、捲縮された繊維を用いると、よりふんわりとした柔らかい質感とすることができる。
【0043】
[製造方法の説明]
(1) 例えば、被服用の紐を製造する製紐器のボビンに糸の代わりにゴム紐201を巻き、それを編み込むことで耳ゴム200を形成する。
(2) 肌から最も遠い面から順に、外面側不繊布111、フィルター112、着用者側不繊布113の順でシート材を重ね、フィルター112と、着用者側不繊布113との間の所定の位置に、鼻部補強部材12及び口部補強部材13を配置する。
(3) 外面側不繊布111、フィルター112及び着用者側不繊布113を、鼻部補強部材12の上下及び左右において熱・超音波等を用いて前後に溶着させ、鼻部補強部材周辺接続部11eを形成する。また、フィルター112と着用者側不繊布113とを、口部補強部材13の上下及び左右において熱・超音波等を用いて前後に溶着させ、口部補強部材周辺接続部11fを形成する。
(4) 重ねられたシート材を、上部プリーツ11g及び下部プリーツ11h、11hが形成されるように折り畳む。
(5) 折り畳まれたシート材の上下及び左右の端部付近を、熱・超音波等を用いて前後に溶着させ、上端部接続部11a、下端部接続部11b、右端部接続部11c及び左端部接続部11dを形成する。
(6) 耳ゴム200の両端部を、シート材の右端部の上下に熱・超音波等を用いて溶着させ右耳掛け部2を形成し、耳ゴム200の両端部を、シート材の左端部の上下に熱・超音波等を用いて溶着させ左耳掛け部3を形成する。
【0044】
[効果の説明]
本実施形態に係るマスク100によれば、右耳掛け部2及び左耳掛け部3は、複数のゴム紐201…が、長さ方向に対して斜めに配置されるように編み込まれた耳ゴム200によって形成されている。これによって図4に示すように、各ゴム紐201…の張力が掛かる方向Aと、マスク100の装着時に耳ゴム200が伸縮する方向Bが異なるため、力が分散され、右耳掛け部2及び左耳掛け部3による耳への負担を軽減させることができる。
【0045】
また、所定数のゴム紐201…を束ねることによって組211…が形成され、複数の組211…を所謂三つ編みの要領で編み込むことで、耳ゴム200が形成されるようにすることよって、多数のゴム紐201…をそのまま編み込んだ場合と比較して、耳ゴム200に幅及び厚みを出すことができる。また、組211…と同じ幅、厚みを有する太いゴム紐を用いて編み込んだ場合、耳ゴムが硬くなってしまうが、本構成によれば、耳ゴム200に柔らかさを出すことも可能となる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の実施例及び比較例について、引張強度の測定及び実使用評価を行った結果について説明する。以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
天然ゴム(ラテックス)によって形成された、太さ550dtexのゴム紐201を3本束ねることによって組211を形成し、このような組211を6組編み込むことによって形成された耳ゴム200である。
(実施例2)
天然ゴム(ラテックス)によって形成された、太さ550dtexのゴム紐201を4本束ねることによって組211を形成し、このような組211を6組編み込むことによって形成された耳ゴム200である。
(実施例3)
天然ゴム(ラテックス)によって形成された、太さ550dtexのゴム紐201を5本束ねることによって組211を形成し、このような組211を6組編み込むことによって形成された耳ゴム200である。
(比較例1)
天然ゴム(ラテックス)によって形成された、太さ550dtexのゴム紐201を直線状に18本束ねることによって形成された耳ゴムである。
(比較例2)
天然ゴム(ラテックス)によって形成された、太さ550dtexのゴム紐201を直線状に24本束ねることによって形成された耳ゴムである。
(比較例3)
天然ゴム(ラテックス)によって形成された、太さ550dtexのゴム紐201を直線状に30本束ねることによって形成された耳ゴムである。
【0048】
上記実施例及び比較例の耳ゴムを用いて、以下の試験を行った。
【0049】
(引張強度の測定)
実施例及び比較例の耳ゴムにつき、チャック間距離50mm、速度300mm/分で、耳ゴムを長さ方向に200%(100mm)伸ばした時の強度を測定した。なお、引張試験機としては、AND社のTENSILON RTG-1210を用いた。
【0050】
(実使用評価)
実施例及び比較例の耳ゴムにつき、マスク本体部1に取り付けて、5人の評価者が実際に3時間着用し、着け心地、ずれ難さ及び長時間着用の可否について評価した。
具体的には、外面側不繊布111として秤量17gsmのポリプロピレンスパンボンド、フィルター112として秤量20gsmのポリプロピレンメルトブロー、着用者側不繊布113として秤量20gsmのナイロンスパンボンドを用い、左右方向175mm、上下方向90mmに形成されたシート部11に、鼻部補強部材12及び口部補強部材13を備えたマスク本体部1を用い、その左右に、長さ160mmの耳ゴムを取り付けて右耳掛け部2及び左耳掛け部3を形成し、実使用評価に用いるマスクを作成した。
なお、試験結果は、比較例1(△)を基準として、とても優れていた場合は◎、優れていた場合は○、劣っていた場合は×とした。
【0051】
試験の結果を表Iに示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(評価)
実施例1と比較例1との比較、実施例2と比較例2との比較及び実施例3と比較例3との比較により、同じ本数のゴム紐を用いても、これを耳ゴムの長さ方向に対して斜めに配置されるように編み込むことにより、耳ゴムの長さ方向の引張強度が弱まり、ひいては耳ゴムによる締め付けが軽減され、耳への負担を軽減することができることが分かる。
【0054】
比較例1と実施例2とを比較すると、引張強度の数値はほとんど同じであるにもかかわらず、実施例2が、着け心地、ずれ難さ及び長時間使用の可否の全てにおいて大きく上回っている。また、比較例2と実施例3を比較すると、引張強度の数値に大きな違いがないにもかかわらず、実施例3が、着け心地、ずれ難さ及び長時間使用の可否の全てにおいて大きく上回っている。
したがって、長さ方向の引張強度が同一であっても、長さ方向に対して斜めに配置されるようにゴム紐を編み込むことにより形成された耳ゴムの方が、着け心地、ずれ難さ及び長時間使用の可否の点で優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0055】
100 マスク
1 マスク本体部
200 耳ゴム(マスク用耳ゴム)
201 ゴム紐
202 繊維状部材
211 組
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれていることを特徴とするマスク用耳ゴム。
【請求項2】
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が束ねられて形成された組が3?15組で編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれており、
幅5?7mmの扁平な帯状であることを特徴とするマスク用耳ゴム。
【請求項3】
前記繊維状部材は、捲縮された繊維からなることを特徴とする請求項1に記載のマスク用耳ゴム。
【請求項4】
前記組を形成する複数のゴム紐が捻られてまとめられていることを特徴とする請求項2に記載のマスク用耳ゴム。
【請求項5】
複数のゴム紐が、前記マスク用耳ゴムの長さ方向に対して斜めに配置されるように編み込まれてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のマスク用耳ゴム。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか一項に記載のマスク用耳ゴムを備えたマスク。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-07-28 
結審通知日 2020-07-31 
審決日 2020-08-28 
出願番号 特願2017-137332(P2017-137332)
審決分類 P 1 113・ 152- YAA (A41D)
P 1 113・ 121- YAA (A41D)
P 1 113・ 536- YAA (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木原 裕二  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
中村 一雄
登録日 2018-09-21 
登録番号 特許第6404413号(P6404413)
発明の名称 マスク用耳ゴム及びマスク  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 博司  
復代理人 赤澤 高  
復代理人 赤澤 高  
復代理人 井上 修一  
代理人 荒船 良男  
代理人 荒船 良男  
復代理人 井上 修一  
代理人 横井 敏弘  

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