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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1368539
審判番号 不服2018-16422  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-07 
確定日 2020-11-18 
事件の表示 特願2016-243972「標的治療薬を作製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年3月30日出願公開、特開2017-61564〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、2006年1月12日(パリ条約による優先権主張、2005年1月12日、米国(US))を国際出願日とする特願2007-551343の一部を平成25年2月18日に新たな特許出願とした特願2013-028521の一部を平成27年1月28日に新たな特許出願とした特願2015-013910の一部を、平成28年12月26日に新たな特許出願としたものであって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。

平成28年12月16日 :手続補正書の提出
平成29年 9月26日付け:拒絶理由通知
平成30年 4月 2日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年 8月 1日付け:拒絶査定
平成30年12月 7日 :審判請求書及び手続補正書の提出
平成31年 1月31日 :手続補正書(方式)の提出

第2 平成30年12月7日提出の手続補正書による手続補正についての
補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成30年12月7日提出の手続補正書(以下「本件補正書」という。)による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

本件補正は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号に掲げる場合の、拒絶査定不服審判の請求と同時にされた補正であって、本件補正前の特許請求の範囲(平成30年4月2日提出の手続補正書を参照。)に記載された請求項1、即ち、

「【請求項1】
二官能性タンパク質を含有する組成物であって、
前記二官能性タンパク質は、
病変細胞の表面において発現されている、マーカーと選択的または優先的に結合する、第一の非抗体タンパク質部分、
その際、該第一の非抗体タンパク質部分は、mRNA-タンパク質の同族対(cognate pair)のライブラリーを、前記病変細胞の表面において発現されている、マーカーに対して、スクリーニングすることで、特定された、第一のmRNAによりコードされており;
抗体の定常領域の部分と結合する、補体以外の非抗体の第二の部分;ならびに
前記第一の非抗体タンパク質部分と、前記非抗体の第二の部分とを連結するリンカーとを含んでいる
ことを特徴とする、組成物。」
(当審注:本件補正による変更箇所の変更前の記載に、当審合議体が下線を付した。)

を、本件補正後の特許請求の範囲(本件補正書を参照。)に記載された請求項1、即ち、

「【請求項1】
二官能性タンパク質を含有する組成物であって、
前記二官能性タンパク質は、
病変細胞の表面において発現されている、マーカーと選択的または優先的に結合する、第一の非抗体タンパク質部分、
その際、該第一の非抗体タンパク質部分は、mRNA-タンパク質の同族対(cognate pair)のライブラリーを、前記病変細胞の表面において発現されている、マーカーに対して、スクリーニングすることで、特定された、第一のmRNAによりコードされており;
抗体の定常領域の部分と結合する、補体以外の非抗体の第二の部分;ならびに
前記第一の非抗体タンパク質部分と、前記非抗体の第二の部分とを連結するリンカーとを含んでおり、該リンカーが可動性ペプチドである
ことを特徴とする、組成物。」
(当審注:下線部は本件補正による変更箇所であり、本件補正書に記載されたとおりである。)

とする補正を含むものである。

2 本件補正の適否

(1)本件補正の目的について

本件補正のうち、請求項1についての補正は、前記「1」に摘示したとおり、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「リンカー」について、本件補正後の請求項1では、「該リンカーが可動性ペプチドである」という特定を追加することによって具体的に限定する補正事項を含むものであり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(2)本願明細書等の記載

本願明細書及び図面には、本件補正発明に関係する主な事項として、以下の(摘記a)?(摘記p)の記載がある。
なお、下線は、特に言及がない限り全て当審合議体が付したものである。

ア 「技術分野」及び「背景技術」の記載事項

(摘記a)
「【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、個々の患者または患者の亜集団に合わせて調整した治療薬を作製する方法、またこのような治療薬を用いて、悪性疾患、病原体感染および他の状態を治療する方法、ならびに移植拒絶反応を減少させるかまたは阻止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の説明
多くの悪性細胞は、悪性疾患のタイプに特異的であるばかりでなく、個々の患者にも特異的であるエピトープを示す。ある態様では、本発明は悪性リンパ球上に示されるエピトープのような患者特異的なエピトープを標的にできる治療薬に関する。
・・・
【0004】
リンパ腫、白血病および多発性骨髄腫などの血液癌の病因は、異なるかまたは知られていない。・・・。しかしこれらの癌の共通性は、これらの癌は全て分裂して、これらの癌がその表面に発現する免疫グロブリンタンパク質上に同じFabイディオタイプを発現する細胞のクローンを生ずる悪性に形質転換したB細胞またはT細胞で始まることである。これらの癌を治療する困難性の1つは、それぞれの癌が特有なイディオタイプ発現することである。・・・。
【0005】
血液癌のための従来の治療は、・・・、骨髄を患者または適合するドナーの骨髄から分離した幹細胞で置換する方法を一般的に含む。・・・。1つの方法は、同定の「マーカー」として利用する細胞表面タンパク質を認識するモノクロナール抗体ワクチンを用いる治療を含む。・・・。しかし、これらのモノクロナール抗体に基づく治療薬についての深刻な限界は、標的細胞表面抗原が正常および悪性腫瘍細胞両方上にしばしば見出されることである。さらに、ヒトモノクロナール抗体の生成が困難であるため、モノクロナール抗体ワクチンは、通常は「キメラ」抗体、すなわち2つ以上の異なる種(例えば、マウスおよびヒト)由来の一部を含む抗体を利用する。このような外来抗体の注射を繰り返すと、有害な過敏性反応を招く免疫反応の誘導を引き起こす。・・・。さらに、モノクロナール抗体ワクチンの他の欠点は、モノクロナール抗体を生成するため要する時間および費用である。標的エピトープ、例えばCD20、CD19、CD52wおよび抗クラスII HLAが容易に突然変異して、以前の治療薬に抵抗性の新たな腫瘍を生ずることができることを考慮すると、これは特に問題である(・・・)。したがって本技術分野において、良性の細胞に対して個々の癌細胞を選択的に標的にする悪性疾患を治療する効果的で低コストの治療薬に対する必要性が存在する。
【0006】
悪性細胞のように移植組織および移植臓器の細胞は、生来の細胞と比べて移植された細胞で発現の異なる細胞表面エピトープを示す。ある態様では、本発明はこのような変異するエピトープを認識することにより、移植組織または臓器の細胞を標的にすることができる治療薬に関する。個々の患者(ドナーを含む)にとって特異的なタンパク質であり、したがってレシピエントにより異種であると認識される移植された細胞上の同種抗原に対する免疫応答により、移植拒絶反応が生じる。・・・。」

イ 「発明の概要」の記載事項

(摘記b)
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
・・・、外来の病原体からの防御を保持しながら、移植された細胞に対する体の免疫応答を選択的に阻害することにより、および/またはより大きな免疫応答を刺激する特定の細胞型を選択的に破壊することにより、移植拒絶反応を減少させるかまたは予防する効果的で低コストの治療薬に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の開示(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
様々な態様において、細胞表面マーカー(例えばエピトープ、イディオタイプなど)、または悪性腫瘍細胞、病原体、移植された細胞、および/または治療の標的にされる他の物により、あるいはその極めて近傍で発現の異なる他の分子を標的にすることにより、広範な状態の治療に有効な、標的治療薬を開発するための方法が本明細書において提供される。・・・。」

ウ 「発明を実施するための形態」及び「図面」の記載事項

(摘記c)
「【発明を実施するための形態】
【0013】
いくつかの好ましい実施形態では、本明細書で提供される方法は、タンパク質をその対応するmRNAに連結し、タンパク質mRNA複合体を1つまたは複数の病因決定因子と関連した分子標的への結合についてスクリーニングする新規の技術を利用する。様々な好ましい実施形態では、本明細書で提供される治療法は、治療を望む個々の患者、または特定の株または疾患もしくは状態の亜型を有すると診断された患者のような患者の亜集団で、発現の異なる分子標的を認識するように設計されている。対象の標的に対して高親和性を有するタンパク質を好ましくは分離し、治療している疾患に対して有効な1つまたは複数の治療薬(例えば、細胞毒性薬剤)に連結して、種々の標的治療薬を生成する。・・・、対象の標的を認識できるタンパク質の迅速かつ効率的な同定、分離および生成が、患者および/または疾患に特異的な治療薬の生成のための効果的かつ低コストの方法を提供する。・・・。
【0014】
様々な態様において、癌および他の状態を治療するための調整治療薬を生成する方法が、本明細書で提供され、調整治療薬は治療のために選択される疾患または状態と関連した分子標的に結合する「標的領域」、および前記疾患または状態を治療するかまたは予防できる「治療薬」を含む。いくつかの好ましい実施形態では、標的領域が、特定の患者または患者の亜集団で発現の異なる標的を認識するように調整されるが、これらおよび/または他の実施形態では、本治療薬は個々の患者または患者の亜集団に対して実質的な調整を必要としない。標的領域を含む投与可能な治療薬の小部分だけの調整による、個別化した治療薬の作製のために、この「モジュラー」構造は有利であり、次いでこの治療薬を種々の既存のまたは容易に調製できる治療薬の有効性を増強するために用いることができる。
【0015】
いくつかの好ましい実施形態では、治療を望む患者で、標的領域は選択的にエピトープと結合するように調整されるか、または非癌性細胞に比べ癌細胞で優先的に発現され、治療薬は抗体または患者で免疫応答を促進できる他の分子(以下「免疫エフェクター」と呼ぶ)である。いくつかの好ましい実施形態では、標的エピトープは非癌性細胞には実質上存在せず、治療薬は別の方法で非癌性細胞に実質上結合しない。いくつかの好ましい実施形態では、癌はイディオタイプでありうる患者特異的なエピトープを発現する癌性および/または悪性細胞であるリンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫)、白血病、または多発性骨髄腫のような血液癌である。
【0016】
・・・。いくつかの実施形態では、標的結合領域は、免疫エフェクターと結合する第2の領域に融合した標的結合領域を含む二官能性タンパク質の一部である。免疫エフェクター結合領域は、抗体の可変領域、またはFc領域などの抗体の他の領域と結合する分子によって認識されるエピトープを含むことができる。・・・。二官能性タンパク質は、融合タンパク質を含むことができるか、または2つのドメインは、共有結合または非共有結合することができる。標的結合領域および免疫エフェクター結合領域は、直接的に連結できるかまたは間接的に、例えば可動性のリンカーペプチドを介して連結できる。
【0017】
他の態様では、本発明は、mRNA発現ライブラリーから、発現したmRNA分子およびそれらの新生ポリペプチドの複合体を分離すること、タンパク質mRNA複合体を、癌細胞で示されるエピトープのような病因決定因子と関連した分子標的への結合についてスクリーニングすること、標的エピトープと結合するタンパク質をコードするmRNAを分離して発現させること、および標的エピトープ結合タンパク質(または誘導体、フラグメント、もしくはこれらのサブユニット)を、治療薬、例えば標的に対して免疫応答を誘発できる抗体に誘導体化することを含む癌治療の治療薬を調製するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本治療薬の調製は、・・・、標的結合領域をコードする分離したmRNAに、in vitro進化、選択的な突然変異誘発、および/または標的エピトープに対しより強いかまたはより効果的な結合を示すmRNAを同定して分離する当該技術分野で周知の他の方法を受けさせることをさらに含む。」

(摘記d)
「【図1】


「【0026】
図面の簡単な説明(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
図1、標的エピトープ結合タンパク質および免疫エフェクター抗体を含む複合体は、細胞表面上に発現したFabイディオタイプを介して悪性細胞と反応した。」
「【図2】


「【0027】
図2は、小さなヒトタンパク質(Ebbd)に対する既知のヒト抗体(Ab)を示す。このタンパク質は、抗体(Ab)を治療薬に連結するエピトープとして機能できる。Abの役割は、最終的に免疫応答を誘発する免疫エフェクターとして作用することである。」
「【図3】


「【0028】
図3は、治療薬の二官能性タンパク質成分をコードするオリゴヌクレオチド配列の作製における、ライゲーションの目的のための免疫エフェクター結合タンパク質(Ebbd)をコードするmRNAの拡大生成を示す。」
「【図4】


「【0029】
図4は、特定の癌細胞表面で発現したエピトープと選択的に結合するタンパク質改良用のProteoNovaシステム。このシステムは、それぞれのタンパク質が、その同族のmRNAと連結したままであるタンパク質ライブラリーをもたらすmRNAライブラリーのin vitroでの翻訳を含む。選択は、癌エピトープと選択的に結合するが、正常細胞で発現するエピトープには結合しないタンパク質を同定するステップを含む。用いられる選択法は、用いられるエピトープ分離および表示方法に依存する。このシステムは、迅速な指向性進化法(directed evolution)、選択および標的特性を有するタンパク質(複数可)の大量な生成も含む。」
「【図5】


「【0030】
図5は、悪性細胞上のイディオタイプまたは標的エピトープと結合するmRNAをタンパク質から分離する過程。・・・。」(当審注:「・・・と結合するmRNAをタンパク質から分離する」という記載は、図5の記載及び文脈からみて、「・・・と結合するタンパク質からmRNAを分離する」の誤記と認める。)
「【図6】


「【0031】
図6は、オリゴヌクレオチド配列から翻訳される二官能性タンパク質が、標的エピトープ結合タンパク質およびヒト抗体が結合するヒトタンパク質(免疫エフェクター結合領域(Ebbd))をコードするmRNAのライゲーションにより作製されることを示す。」
「【図7】


「【0032】
図7は、免疫エフェクターAb(抗Ebbd抗体)およびFabイディオタイプまたは標的エピトープに対するエピトープを有する、二官能性タンパク質を含む複合体形成により調製された、個別化した癌治療薬を示す。」
「【図8】


「【0033】
図8は、イディオタイプもしくは標的エピトープとイディオタイプもしくは標的エピトープと結合するタンパク質との結合を介して、治療薬により標識された悪性細胞の図を示す。露出したヒト抗体は、治癒的免疫応答を誘発する。」
「【図11】


「【0036】
図11は、修飾されたtRNAまたは類似体により連結されたとき、mRNAおよびそのタンパク質生成物により形成される複合体の1つの例を、図式的に説明する。図のように、mRNAのコドンは修飾されたtRNAのアンチコドン塩基対を形成し、UV照射によってソラレンモノ付加体、または非ソラレン架橋剤もしくはアリールアジドと共有結合的に架橋結合する。翻訳されたポリペプチドは、リボソームのペプチジルトランスフェラーゼを介して修飾されたtRNAに連結される。いずれの連結も、mRNAおよび新生タンパク質がリボソームによって適所に保持されている間に起こる。」
「【図12】


「【0037】
図12は、in vitroでの選択および進化過程の1例を示す模式図であり、開始核酸およびそのタンパク質生成物は連結されており(例えば図1参照)、タンパク質によって示される特定の特徴によって選択される。特定の特徴を示さないタンパク質は廃棄され、特徴を有するタンパク質は変異を有して増幅する、好ましくは変異を有するmRNAの増幅を介して増幅して新しい集団を形成する。様々な実施形態では、結合していないタンパク質が選択される。新しい集団は翻訳され、修飾されたtRNAまたは類似体を介して連結され、選択過程が繰り返される。タンパク質生成物を最適化するために、所望するだけの回数の選択および増幅/突然変異を行うことができる。」(当審注:「(例えば図1参照)」という記載は、「(例えば図11参照)」の誤記と認める。)
「【図13】


「【0038】
図13は、本発明のtRNA分子を構築する1方法を例示する図である。この実施形態では、tRNAの5’末端と、アンチコドンループをコードし、mRNAに安定して連結することができる分子(本例で用いるソラレンなど)を有する核酸と、末端ピューロマイシン分子で修飾されたtRNAの3’末端とをライゲーションして、本発明のin vitro進化の方法で用いる完全な修飾されたtRNAを形成する。他の実施形態にはピューロマイシンは含まれない。」
「【図14】


「【0039】
図14は、本発明の方法において、mRNAをtRNAに連結することができるように架橋結合分子であるソラレンを配置することができる2つの代替実施形態について記載した図である。第1の実施形態には架橋剤(例えばソラレンモノ付加体)をmRNAに連結させることが含まれ、第2の実施形態には架橋剤をtRNA分子のアンチコドンに連結させることが含まれる。架橋剤は、知られているもしくは部分的に知られているメッセージの読み枠のアンチコドンまたは3’末端コドンのどちらかとのモノ付加体とすることができる。これは翻訳とは別の手順、例えば翻訳が起こる前に行うことができる。」
「【図16】


「【0041】
図16は、本発明のいくつかの実施形態を示す図である。特定の実施形態におけるSATA、連結tRNA類似体およびナンセンスサプレッサー類似体を示す。」

(摘記e)
「【0042】
好ましい実施形態の詳細な説明(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・
【0045】
用語「エピトープ」は、免疫グロブリンV領域の抗原決定基またはエピトープ決定基(すなわちイディオトープ)のセット(すなわち相補性決定領域、V_(H)およびV_(L)領域の会合により形成される抗原結合部位を表す。)を表す。(当審注:「用語『エピトープ』は、・・・」という記載は、文脈からみて、「用語『イディオタイプ』は、・・・」の誤記と認める。)
【0046】
用語「イディオトープ」は、免疫グロブリン分子のV領域の一部に沿って位置する単一のイディオタイプのエピトープを表す。
【0047】
用語「免疫エフェクター」は、治療している対象で、免疫応答を促進できる分子、または分子の誘導体、フラグメント、もしくはサブユニットを表し、抗体、または抗体の誘導体、フラグメント、もしくはサブユニット、または非抗体分子を含むことができる。」
「【0049】
「悪性細胞」は、未治療で放置した場合、癌を生じる細胞を表す。」

(摘記f)
「【0051】
本明細書で提供するのは、特定の疾患もしくは状態を病む、特定の患者または患者の亜集団に合わせて調整した治療薬を生成する方法である。様々な実施形態で、治療薬は、1つまたは複数の患者マーカーおよび/または疾患特定マーカーと結合するように、小タンパク質領域の調整を可能にし、かつ治療標的にした状態に効果的である様々な既存のまたは容易に生成される治療薬を指示する調整された領域の使用を可能にする「モジュラー」構造で構成される。・・・。好都合にも、治療標的にした状態の病因決定因子上で、あるいはその極めて近傍でマーカーは発現し、治療薬の活性を病原性細胞、病原体、タンパク質、および/または治療状態の他の決定因子に集中する。
【0052】
いくつかの実施形態では、モジュラー治療薬は血液癌治療用に調整され、悪性B細胞および/またはT細胞の表面の特有なFabイディオタイプに結合するように設計される。・・・。
【0053】
本明細書で記載される方法に従って作製した、血液癌を治療するためのモジュラー治療薬の作用機序を図1に示す。投与された治療薬は、悪性B細胞および/またはT細胞の表面の特有なFabイディオタイプに結合し、イディオタイプが関連する血液癌の病因決定因子は、標的イディオタイプを発現する悪性および/または癌性細胞を含む。イディオタイプへの標的領域の結合は、悪性細胞を破壊する免疫応答を生じる。標的結合タンパク質は、単独で免疫応答を誘発するにはあまりに小さく、したがって標的イディオタイプへの結合がない場合は、結合した免疫エフェクターはIRを生じない。標的結合タンパク質が、悪性細胞の表面のFabイディオタイプに結合するとき、悪性細胞は標的エピトープ結合タンパク質に免疫原性を与えるキャリアとして作用し、免疫エフェクターに悪性腫瘍細胞を標的にするIRを生じさせる。・・・。
【0054】
様々な好ましい実施形態では、標的マーカーは、(i)同様の診断を有する他の患者と比べて個々の患者において、または限定された患者の亜群で、および/または(ii)状態と関連せず、好ましくは治療薬の影響を受けない細胞/分子と比べて、細胞または状態の病因と関連した他の分子標的に関連して発現が異なる。・・・。例えば血液癌の場合、標的イディオタイプは、患者および悪性細胞の両方に特有のもので、治療薬(免疫応答をもたらす)の活性を非癌性細胞は免れて、標的細胞に選択的に向けるようにする。さらに、イディオタイプがそれぞれの患者に特有なので、無調整治療薬は非選択的またはより選択的でない治療的応答をもたらすであろう。
【0055】
悪性細胞により発現の異なる細胞表面マーカーの例には、リンパ管腫に関しては、CD-20およびCD-22などの安定な細胞表面抗原エピトープ、ならびに固形腫瘍に関しては、mAbと結合した際に内部に取り入れられるCD-19およびCD-33などの表面エピトープが挙げられるが、それらに限定されない。他の発現の異なる細胞表面マーカーは当該技術分野で周知であり、CD-52wおよびクラスII HLA抗原を含むがこれらに限定されない。いくつかの好ましい実施形態では、標的エピトープは、治療対象患者で変異する(・・・)癌細胞特異的なエピトープである。・・・。
【0056】
いくつかの好ましい実施形態では(例えば、図2に示すように)、モジュラー治療薬の標的結合領域は、標的(例えば、標的エピトープ結合領域(Tebd))と結合する第1のサブドメイン、および治療薬(例えば、免疫エフェクター結合領域(Ebbd))と結合する第2のサブドメインを含む。いくつかの実施形態では、治療薬は、治療の標的である対象における免疫応答を促進できる薬剤、例えば抗体、または抗体の誘導体、フラグメント、もしくサブユニットであり、治療薬と結合する領域は、治療薬により認識される小タンパク質、例えば、治療薬抗体により認識されるエピトープである。当該技術分野で周知である、はっきりと特徴付けられた抗体-抗原の組合せも利用でき、市販で入手可能である。本発明で有用な抗体は、任意の哺乳動物から得られるか、または異なる哺乳動物の組合せから得られるキメラ抗体でありうる。・・・。抗体は、ヒト抗体であるのが好ましい。ウエスタンブロット、免疫沈降、ELISA、および適切なFabイディオタイプフラグメント、ペプチド、イディオタイプ-発現細胞またはこれらの細胞抽出物を用いるFACS分析を含む多数の周知の方法により、標的抗原に対する抗体の反応性を確立できる。・・・。
【0057】
様々な実施形態で、所望の結合活性を有するヒトモノクロナール抗体は、当該技術分野で周知の方法(・・・)を用いて、・・・、ファージディスプレイライブラリーのスクリーニングにより生成され、・・・。典型的には、所望の大きさの結合親和性を生じる抗体に対応するクローンを同定し、標準的な組換え発現方法を用いるDNAを用いて、所望の抗体を生成する。
【0058】
・・・、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むように操作したトランスジェニックマウスを用いて、完全ヒトモノクロナール抗体も生成でき、・・・。この方法は、ファージディスプレイ技術で要求されるinvitroの操作を回避し、高親和性真正ヒト抗体を効率的に生成する。
【0059】
いくつかの実施形態では、免疫エフェクター結合領域のような、対象の抗原に対する抗体が、モジュラー治療薬を用いる治療に選択された患者で生成される。例えば、いくつかの実施形態では、・・・、患者は対象の抗原を用いる「ワクチン接種」を受け、抗原に対する患者の抗体が、対象の抗原への結合により選択される。
【0060】
いくつかの実施形態では、スクリーニングを追加実施して、最初に分離した抗体の親和性を増加させる。例えばいくつかの実施形態では、抗体の親和性は、超可変抗体領域が変異して多数の組合せを生じ、対応する抗体変異体をファージディスプレイによりスクリーニングして、抗原に対し所望の親和性を有する抗体を選択する、親和力成熟により増強される。さらなる実施形態では、小さなタンパク質エピトープは、invitro進化を行い、・・・、抗体に対するそのエピトープの結合親和性を増加できる。・・・、いくつかの実施形態では、例えば、患者に「予防接種をする」ことにより抗体が産生される実施形態では、同様な方法が宿主免疫系により(例えば、クローン選択を介して)行われて、対象の抗原に対して特異的な高親和性抗体を生成する。」

(摘記g)
「【0066】
本発明に用いる二官能性融合タンパク質は、当業者には周知の標準的な組換えDNA技術に従って生成できる(・・・)。いくつかの実施形態では、精製した二官能性タンパク質は、免疫エフェクターと反応でき、図7に示しているような、治療薬を含む結合したエフェクター-二官能性タンパク質複合体を産生する。当該技術分野で周知の方法により、二官能性タンパク質を、免疫エフェクターに化学的に結合させることもできる。」
「【0068】
いくつかの実施形態では、標的-エピトープ結合タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチド配列、またはその誘導体、フラグメントもしくはサブユニットを、キメラコード配列を作製するために免疫エフェクターと結合するエピトープまたは他のタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチド配列に連結すること、キメラコード配列を発現ベクターにサブクローニングすること、発現ベクターを用いて細胞をトランスフェクションすること、およびトランスフェクション細胞により発現される融合タンパク質を精製することにより、組換え型の融合タンパク質を作製する。いくつかの実施形態では、キメラポリヌクレオチドは、原核生物および/または真核生物のin vitro翻訳系で適切な翻訳開始配列、および/または選択可能なマーカーを含むことができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、両方のタンパク質をコードするmRNA、およびいくつかの実施形態では、主要組織適合複合体Iおよび/またはIIをコードするmRNAを含むmRNAオリゴのin vitroでの翻訳により、二官能性タンパク質複合体を作製する。mRNA配列に対するcDNAは、合成または市販品として入手でき、図3に示すようにPCRにより転写して充分なmRNAを得ることができる。様々な実施形態で、免疫エフェクター結合領域をコードしているmRNAと、標的エピトープ結合領域をコードしているmRNAをライゲーションすることにより、オリゴを形成する。ある場合にはこの融合は、図6に示すように親水性アミノ酸をコードするmRNAブリッジを介して連結できる。次いで、mRNAは原核生物または真核生物の翻訳系を用いてin vitroで翻訳でき、得られた二官能性タンパク質は、ゲル電気泳動または当該技術分野で周知の任意の他の方法により精製できる。」
「【0075】
・・・。・・・、本治療薬複合体のエピトープ結合部分が、悪性細胞表面で発現するエピトープまたは他の標的と結合できる。一旦結合すると、複合体のIRを誘発する抗体成分が免疫系を刺激して、図8に示すように正常な細胞を残しつつ標識された細胞を攻撃し排除する。」

(摘記h)
「【0076】
様々な実施形態で、タンパク質をその対応するmRNAに連結(「同族対」として)する新規の方法を使用して、患者および/または疾患特異的な標的に結合する本明細書で提供される個別化した治療薬の調整が可能になる。いくつかの好ましい実施形態では、多数の同族対を含むタンパク質ライブラリーを作製し、対象の標的、例えば本明細書に記載した個別化された標的に結合する同族対に関して、ライブラリーをスクリーニングする。
【0077】
本発明の様々な態様では、修飾したtRNAおよび/またはmRNA分子を用いて、翻訳されたタンパク質生成物をtRNAリンカーを介してそれらの対応するmRNAに連結して「同族対」を形成する。いくつかの実施形態で、未知の配列を有するmRNA、例えばmRNAライブラリーからのmRNAをin vitro翻訳系で発現し、それらの対応するタンパク質を、1つまたは複数の所望の特性、例えば標的エピトープ結合領域への結合、または対象の別のリガンド、および/または1つまたは複数の新たなリガンド、例えば健全な細胞により表示されるエピトープに対する選択性に関してスクリーニングする。さらなる実施形態では、1回または複数回の選択で同定されたタンパク質およびタンパク質と連結した核酸を、例えば核酸進化(図4)を通じて修飾して、標的リガンドに対して増強された親和性をもつタンパク質を生成する。次いで、標的リガンドに対する高親和性のような所望の特性を有するタンパク質を、標準的なクローン技術を使用して、タンパク質-mRNA同族対から、それらの対応するmRNAを分離することにより多量に生成できる。」(当審注:「例えば標的エピトープ結合領域への結合」という記載は、文脈からみて、「例えば標的エピトープへの結合」の誤記と認める。)
「【0079】
様々な実施形態で、リボソームのペプチジルトランスフェラーゼの作用により、同族対を含むタンパク質を、tRNAまたはtRNA類似体に連結する。いくつかの実施形態では、タンパク質を安定なアミノアシルtRNA類似体に連結させる(SATA)。いくつかの実施形態では、SATAは天然の構造で対応する高エネルギーのエステル結合と比べて、安定な結合を介してtRNAの3’末端に結合したアミノ酸またはアミノ酸類似体を有するtRNAである。SATAが特定のコドンを、例えば水素結合を介して認識し、リボソームのペプチジルトランスフェラーゼの作用により新生ペプチド鎖を受容する場合、安定なアミノアシル結合が、ペプチジルトランスフェラーゼによるポリペプチドからのtRNAの脱離を防ぎ、その後のステップの間tRNA-ポリペプチド構造も保つ。」
「【0080】
いくつかの実施形態では、SATAは、・・・において一般に説明された方法により作製され、tRNAまたはtRNA類似体を3’-アミノ-3’-デオキシtRNAへと変換することを含む。これは、天然のアデノシンを取り除いた後に、tRNAヌクレオチジルトランスフェラーゼを用いて、天然tRNAの末端に3’-アミノ-3’-デオキシアデノシン付加することにより達成され、次いでそれぞれのアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)によって、修飾されたtRNAにアミノ酸を荷担する。いくつかの実施形態では、aaRSは、tRNAの2’ヒドロキシルではなく3’ヒドロキシルに荷担して、通常の不安定な高エネルギーのエステル結合ではなく、安定なアミド結合によってtRNAにアミノ酸を連結する。したがってSATAがリボソームのペプチジルトランスフェラーゼからペプチド受容した際、ペプチドは安定して保持されて別のアクセプターに供与することができなくなる。」
「【0083】
いくつかの実施形態では、SATAは、アクセプター基部(・・・)または分子の別の領域に、1つまたは複数の修飾された塩基を有するtRNAまたはtRNA類似体である。・・・。いくつかの実施形態では、tRNAは、tRNAがアミノアシル-Tyr tRNAを模倣するように、ピューロマイシンで修飾され、新生ポリペプチドに取り込まれて翻訳を停止する。・・・。」
「【0085】
いくつかの実施形態では、tRNAは、新生タンパク質がペプチジルトランスフェラーゼによりtRNAに結合する時に翻訳が停止するように、好ましくはコドン-アンチコドンの水素結合により、ストップコドンまたは疑似ストップコドンを認識する修飾されたtRNAもしくは修飾されていないtRNA、またはtRNA類似体を含むナンセンスサプレッサーtRNAである。・・・。・・・「疑似ストップコドン」とは、天然にはナンセンスコドンではないが、メッセージがさらに翻訳されることを防ぐコドンを意味する。疑似ストップコドンは、・・・、「安定なアミノアシルtRNA類似体」もしくはSATAにより認識されるコドン、または存在しないtRNAが要求されたとき、すなわち疑似ストップコドンで翻訳が停止するように、相補的アンチコドンを有するtRNAが実質的に枯渇するかあるいは存在しないコドンを含むことができる。・・・。
【0086】
・・・。・・・、特定の条件下においては、ピューロマイシン(および類似のリンカー)は、伸長因子(複数可)とtRNAとの相互作用を干渉することで低収率をもたらしうると考えられる。
【0087】
・・・。1つの実施形態では、架橋剤は活性化されることにより、tRNAおよび/またはmRNAと1つまたは複数の共有結合を形成することができる作用物質である。・・・。1つの実施形態では、架橋剤はソラレンまたはソラレン類似体である。
【0088】
いくつかの好ましい実施形態では、例えば、ソラレンで連結されたオリゴヌクレオチド(図3)を連結することにより、または天然もしくは修飾されたtRNAもしくはtRNA類似体、好ましくアンチコドンもしくはポリペプチドとの連結とは異なる別の部位へのモノ付加(・・・)により(図4)、ソラレンをtRNAまたはtRNA類似体(例えば、3’修飾されたSATA)とのモノ付加体とする。所望の波長のUV光で照射を受けたとき、以下にさらに詳細に説明するように、共有結合のソラレン架橋結合が、SATAとmRNAの間に形成される。・・・。(当審注:「(図3)」及び「(図4)」という記載は、図の記載と文脈からみて、それぞれ「(図13)」及び「(図14)」の誤記と認める。)
【0089】
様々な実施形態で、SATA-ポリペプチド複合体またはtRNA-ポリペプチド複合体が、mRNA上および/またはtRNA上に位置することができるリンカー部分を介して、ポリペプチドをコードするmRNAに連結される。いくつかの好ましい実施形態では、mRNAは、好ましくは転写物の3’末端のストップコドンまたはその近隣で架橋剤を含み、mRNA-tRNA連結は、mRNAに基づく架橋剤により完全に媒介される。さらなる実施形態では、tRNAは、その3’末端で修飾されていない(例えば、ナンセンスサプレッサーtRNA)。いくつかの好ましい実施形態では、mRNAは、翻訳可能な読み枠の最後に位置する疑似ストップコドンを含む。疑似ストップコドンがmRNAの3’末端に位置する、翻訳系が疑似ストップコドンの3’側のコドン対応するtRNAを枯渇する、および/または疑似ストップコドンに対応する3’修飾されたtRNAが使用され、転写物を翻訳不可能にして放出因子の活性化ができないようにする読み枠の最後に、疑似ストップコドンを効果的に配置することができる。いくつかの実施形態では、mRNAはtRNAストップアンチコドンに対応するストップコドンを含む。・・・。
【0090】
いくつかの方法では、SATAは、コドンとアンチコドンとの間でソラレン架橋結合によって翻訳されたメッセージに結合している。・・・。・・・好ましい実施形態では、ストップコドンを連結コドンとして用い、SATAは連結コドンを認識するという意味でナンセンスサプレッサーとして機能する。・・・。
【0091】
いくつかの好ましい実施形態では、SATAまたはペプチジルtRNAは、例えばコドンとアンチコドン間でソラレン架橋結合によって、・・・、翻訳されたmRNAに架橋結合する。・・・。
【0092】
様々な実施形態で、ペプチジルトランスフェラーゼにより、新生タンパク質がSATAに結合された際に、および/または読み枠の最後に到達した際に翻訳が停止する。多数のリボソームがこの位置にあるとき、SATAおよびmRNAはUV光の処理によって架橋結合される。・・・。ソラレンはフラン側鎖およびピロン側鎖を含み、これらは二本鎖DNA、RNA、およびDNA-RNAハイブリッドの相補的塩基対の間に容易にインターカレートする(・・・)。いくつかの好ましい実施形態では、ソラレン架橋結合は、・・・ピロン側鎖またはフラン側鎖のモノ付加体であるモノ付加体を形成する。・・・。」

(摘記i)
「【0097】
様々な実施形態で、1つまたは複数の所望の特性に基づき同族対が選択される。いくつかの実施形態では、同族対の選択は、・・・、標的細胞、タンパク質、および/または他の生体分子の結合に基づく。いくつかの好ましい実施形態では、ハイスループットスクリーニング手法を用いて、選択基準が測定される。・・・。いくつかの好ましい実施形態では、配列が未知のmRNA(例えば、患者、組織、または所望の他の供与源からのmRNAライブラリーの形態で)を発現させ、本明細書に記載する方法を用いてそれらのコードされたポリペプチドに連結し、同族対を所望の特性に関し選択するためにスクリーニングする。例えば、いくつかの好ましい実施形態では、同族対を、所望のリガンド、例えば悪性細胞により表示されるFabイディオタイプ、または標的細胞の他の表面的特徴への結合に関して分析する。所望の結合特性を示すタンパク質に対するmRNAが分離でき、当該技術分野で周知の標準的な分子クローン技術を用いて大量のタンパク質が生成できる。・・・、次に所望のタンパク質をモジュラー治療薬に組み込み、例えば作用物質を患者および/または疾患特異的標的に向けることができる。
【0098】
様々な実施形態で、選択された同族対は、リガンドによく結合する同族対またはよく結合しない同族対であってもよい。例えば、タンパク質が熱力学的に有利な反応を加速するためには、例えばその反応の酵素として作用するためには、基質および遷移状態の類似体のどちらにも結合するべきである。しかし、遷移状態の類似体は基質よりもはるかに密に結合しているべきである。」
「【0103】
正常細胞および悪性細胞により発現されるエピトープを同定する、当該技術分野で周知の多くの方法がある。例えば、いくつかの実施形態では、・・・、組合せライブラリーからの細胞特異的なマーカーペプチドの分離に、ペプチドマイクロアレイが使用できる。いくつかの好ましい実施形態では、タンパク質mRNA複合体ライブラリーを悪性細胞の分離した集団と反応させ、正常細胞の集団に対して観察される結合と比較して、悪性腫瘍細胞エピトープに結合する程度を測定する。いくつかの実施形態では、悪性細胞に対してかなりの親和性を有し、正常細胞に対しては、かなり低いかまたは親和性を有さないタンパク質が選択される。・・・。スクリーニング法は、潜在的なリガンド(例えば、その同族mRNAに連結されたタンパク質)およびいろいろな配向の標的(例えば、治療対象の細胞)を用いて実施することができる。例えば、いくつかの実施形態では、悪性細胞はガラススライドのような平坦な表面上にあり、mRNA-タンパク質同族対を含む溶液に曝露される。結合したタンパク質(同族対)は、当該技術分野で周知のいろいろな方法で検出できる。例えば、いくつかの実施形態では、好ましくはmRNAおよび/またはtRNAリンカー上で、その後第2のリポータープローブを用いて、例えばアビジンでコーティングした磁気ビーズ用いて検出できるビオチン部分のような検出可能なプローブを用いて、同族対は誘導体化される。得られたイディオタイプ-(タンパク質:mRNA)-ビオチン-アビジン-磁気ビーズ複合体は、・・・のシステムを用いて同定できる。」
「【0105】
本発明のいくつかの方法は、核酸分子および/またはタンパク質の進化を含む。・・・、このような方法は回収された複合体の核酸成分(RNAまたは対応するcDNAとして)を増幅すること、および例えばエラープローンPCRにより、変異を核酸の配列に導入することを含む。・・・。さらなる実施形態では、この方法は、増幅して変化した核酸からポリペプチドを翻訳すること、tRNAを用いてそれらを一緒に連結すること、および、結合した複合体の別の新しい集団を選択するためにそれらをリガンドと接触させることをさらに含む。本発明のいくつかの実施形態では、in vitro進化の過程で、特に選択されたmRNAが変異を持って複製され、翻訳され、選択のために再度同族タンパク質に結合される反復過程において、選択されたタンパク質mRNA複合体を用いる。」

エ 実施例の記載

(摘記j)
「【0136】
実施例1:SATAの生成(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・。以下の実施例中に記載したプロトコルは、tRNA上にピューロマイシンおよび架橋剤の両方を有するSATA、またはtRNA上にピューロマイシンを有しmRNA上に架橋剤を有するSATAに用いることができる。架橋剤がmRNA上にあるものは、以下の実施例4に指針が提供されている。・・・。(当審注:「以下の実施例4に」という記載は、文脈からみて、「以下の実施例5に)の誤記と認める。)
【0137】
例えば、好ましい実施形態では、3つのフラグメント(図1)を商業的な供与源(・・・)から購入した。修飾された塩基、ならびにその3’末端上に事前付着されたピューロマイシンおよびその3’末端上にPO_(4)を有するフラグメント3が含まれ、これらの全てが市販されていた。3つのフラグメントは、モノ付加体の形成においてフラグメント2の操作を容易にするために用いた。
【0138】
酵母tRNA^(Ala)または酵母tRNA^(Phe)を用いた。しかし、配列は広く知られているtRNAから、またはtRNA様の構造を形成する配列を選択することによって選択することができる。フラグメント2に対応する部分中に限定数のUしか有さない配列を用いるのが好ましい。ソラレンは優先的に5’UA3’配列に結合するので、僅かなUのみを有する配列の使用は必須ではない(・・・)。・・・。」
「【0140】
フラグメント2およびcRNAを、緩衝50mMNaCl溶液中で結合した。・・・。2つの分子を再アニールして、選択されたソラレンと共に、Tmよりも約10℃低い温度で1時間インキュベートした。ソラレンは用いた配列に基づいて選択した。より高い配列ストリンジェンシーを有するが補充する必要があるかもしれない、8MOPなどの比較的不溶性のソラレンを選択することが可能であった。AMTのような可溶性の高いソラレンは、ストリンジェンシーが低いが、ほとんどの部位を埋める。HMTを用いるのが好ましい。・・・。
【0141】
インキュベーション後、ソラレンを約400nmよりも高い波長で照射した。照射は選択した波長および用いたソラレンに依存する。・・・。この処理は、ほぼ全部がフラン側鎖のモノ付加体をもたらす。
【0142】
モノ付加体の精製(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
次いで、・・・HPLCによってモノ付加体を精製した。・・・、フラグメント2がフラグメント3から分離されたことで、精製ステップが容易になった(・・・)。
【0143】
フラグメント2および3のライゲーション(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
T4 RNAリガーゼを用いて、フラグメント2を、フラグメント3にライゲーションした。3’末端のピューロマイシンは保護基として役割を果たした。・・・。フラグメント2+3とフラグメント1の3’末端との結合は、・・・に記載の方法に従って実施した。フラグメント2+3をポリヌクレオチドキナーゼによって5’リン酸化し、2つの半分子をアニールした。
【0144】
代替方法では、フラン側鎖のモノ付加体としたUの相当量を、ポリUAをそれ自体にハイブリダイズさせて、上記のように照射することにより形成した。・・・。
【0145】
上記の方法によって生成したSATAはUAG(アンチコドンCUA)を読み取った。さらに、UAAまたはUGAも用いた。様々な実施形態では、「連結コドン」として選択されたストップコドンを有する任意のメッセージを用いた。」

(摘記k)
「【0146】
実施例2:ソラレン化したフラン側鎖のモノ付加体の生成(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
RNA:DNAハイブリッドのUV光露光
・・・、等容積の3ng/mlのRNA:cDNAハイブリッドセグメントおよび10μg/mlのHMTを、新しい1.5mlのキャップ付ポリプロピレンマイクロ遠心チューブに移し、37℃で30分間、暗所でインキュベートした。・・・。これを、照射量が約6.5mW/cm2であるように約12.5cmの距離で光化学反応器(419nmのピーク、・・・)内に配置し、60?120分間照射した。
・・・
【0149】
HPLCを用いたソラレン化したRNAフラグメントの分離
・・・。ソラレン化したRNAをHPLCにかけ、次いで・・・、オリゴヌクレオチド解析を行った。採取された分画は以下を表した:
・5’CUAGAΨCUGGAGG3’、ここで、Ψはプソイドウリジンである(配列番号1)
・フラン側鎖の5’CUPsoralenAGAΨCUGGAGG3’モノ付加体(配列番号2)
【0150】
【化1】

・・・
【0153】
ゲルからのRNAの抽出
・・・。
・・・
【0160】
RNAフラグメント2および3のライゲーション
・・・。
【0161】
アルコール沈殿
・・・。混合物を・・・電気泳動した。以下が、各フラグメントの移動速度の順(速いものから遅いものの順)であった:
a)フラグメント2
【0162】
【化4】

【0163】
b)フラグメント3
【0164】
【化5】

【0165】
c)フラグメント2+3
【0166】
【化6】

・・・
【0168】
RNAフラグメント1とフラグメント2+3とのライゲーション
・・・。
・・・
【0169】
アルコール沈殿
・・・。混合物を・・・電気泳動した。以下が、各フラグメントの移動速度の順(速いものから遅いものの順)であった:
a)フラグメント1
【0170】
【化7】

【0171】
b)フラグメント2+3
【0172】
【化8】

【0173】
b)フラグメント1+2+3
【0174】
【化9】

・・・
【0197】
RNAの翻訳(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
20μl/mlの濃度の腸阻害ペプチド(GIP)mRNA、2μlを、250μlのスナップキャップポリプロピレンマイクロ遠心チューブに入れた。・・・。メチオニンを含まないアミノ酸混合物(・・・)を1μl加えた。^(35)S メチオニンまたは非標識のメチオニンを1μlえた。^(32)P GIPmRNAまたは非標識のGIPmRNAを2μl加えた。・・・。好ましい実施形態では、GIPmRNAの代わりにルシフェラーゼを用いた。当業者は、実際に適切な配列を含む任意のmRNAフラグメントを用い得ることを理解するであろう。
【0198】
SATAを実験チューブに加えた。・・・。
・・・
【0200】
各チューブは、すぐにキャップを締め、パラフィルム処理し、翻訳反応のために30℃で90分間インキュベートした。・・・、各チューブの内容物に2?10J/cm^(2)、約350nmの波長の光を照射して、SATAをmRNAと架橋結合した。光架橋結合の後、各チューブの内容物を新しいスナップキャップマイクロ遠心チューブに移した。2μlの10mM EDTAを各チューブに加えてカルシウム陽イオンをキレートして、リボソームを解離させた。・・・。
【0201】
最終的な実験を行う前に翻訳に最適なRNAを決定した。・・・。
【0202】
・・・、各試料でSDS-Page電気泳動を行った。・・・。
【0203】
上記実施例は、SATA(例えばtRNA上のピューロマイシン+tRNA上の架橋剤)の生成および使用、ならびに連結tRNA類似体(例えばピューロマイシンを有さないがtRNA上に架橋剤を有する)の生成および使用を教示している。
【0204】
別の実施例では、ウリジンをプソイドウリジンで置き換えた以外は上記方法と同様の方法によってSATAを生成した。プソイドウリジンによる置換は、架橋剤モノ付加体形成(例えばソラレンモノ付加体の形成)の形成を容易にするので、連結tRNA類似体にも用いることができる。この技術は以下の実施例2で説明する。」(当審注:「以下の実施例2で・・・」という記載は、文脈からみて、「以下の実施例3で・・・」の誤記と認める。)

(摘記l)
「【0205】
実施例3:プソイドウリジンを用いたSATAの生成(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・。プソイドウリジンは、ウリジンと同じように水素結合を形成するが、ソラレンの標的である5-6二重結合を欠くtRNAにおいて見出される天然の塩基である。・・・。・・・、プソイドウリジンを用いてSATAを生成した。連結tRNA類似体もプソイドウリジンを用いて生成することができる。・・・。それぞれの3’末端にピューロマイシンおよびPO_(4)を事前に結合させた、修飾された塩基およびフラグメント3(「フラグメント3」)が含まれ、これらは全て市販されている。3つのフラグメントは、モノ付加体の形成においてフラグメント2(「フラグメント2」)の操作を容易にするために用いた。いくつかの実施形態によれば、3つのフラグメントの配列は以下のとおりである(各フラグメントにつき2つの配列例を提供する):
フラグメント1
【0206】
【化10】

【0207】
フラグメント2
【0208】
【化11】

【0209】
フラグメント3
【0210】
【化12】

【0211】
フラグメント3に挙げた上記配列はSATAに適用可能である。連結tRNA類似体では、ピューロマイシンがアデノシンで置き換えられる以外は配列は類似している。
【0212】
修飾された酵母tRNA^(Ala)または酵母tRNA^(Phe)を本発明の1つの実施形態に従って用いた。・・・。いくつかの実施形態においてプソイドウリジンを用いる利点の1つは、フラグメント2中にプソイドウリジンがあることで、対象外のUのソラレン標識化が回避されることである。ウリジンの代わりにプソイドウリジンを用いることにより、tRNA類似体に対するリボソームのA部位の結合力が減少するが、末端ウリジンとソラレンとの相互作用が排除される。・・・。
・・・
【0214】
プソイドウリジンを有する以下のcRNA配列を本発明の好ましい実施形態に従って用いた。・・・。例えば以下に記載の配列番号19では、配列は以下のものであることもできる。
【0215】
【化13】

【0216】
ステップ1:フラグメント2へのソラレンのフラン側鎖のモノ付加体(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
フラグメント2の標的ウリジンを用いたフラン側鎖のソラレンモノ付加体の形成を以下のように行った。
【0217】
反応緩衝液を以下のように調製した:
・・・
次いで、4’-ヒドロキシメチル-4,5’,8’-トリエチルソラレン(HMT)を最終濃度0.32mMまで加え、等モル量のフラグメント2およびcRNAをフラグメント2:cRNA:ソラレンの最終モル比=1:1:1000まで加えた。100μlの全容量を一度に照射した。
・・・
【0221】
ステップ2:HPLCによるHMTとコンジュゲートしたフラグメント2(2MA)オリゴの精製(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・
【0227】
ステップ3:HPLCによるHMTとコンジュゲートした、cRNAからのフラグメント2オリゴの精製(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・
【0229】
・・・
ステップ4:精製した2MAオリゴの脱塩、沈殿および採取(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
【0231】
ステップ5:2MAオリゴのフラグメント3オリゴへのライゲーション(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・
【0236】
ステップ6:ライゲーションしたフラグメント3オリゴ複合体の精製(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・
【0237】
ステップ7:精製した2MA-フラグメント3の脱塩および沈殿(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・
【0240】
ステップ8:SATA(または他のtRNA分子)の調製(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・
【0244】
RNAの翻訳(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
SATAのアンチコドンによって認識されるコドンに対応するストップコドン(この場合はUAG)を有するように修飾されたルシフェラーゼmRNAを、1μlの濃度1μg/μlを・・・in vitro翻訳キットで用いた。当業者は、実際、適切な配列を含む任意のmRNAフラグメントを用い得ることを理解するであろう。
【0245】
SATAを実験チューブに加えた。・・・。
・・・
【0247】
各チューブは、直ちにキャップを締め、パラフィルムで覆い、翻訳反応のために30℃で90分間インキュベートした。・・・、各チューブの内容物に2?10J/cm^(2)、約350nmの波長の光を照射することにより、SATAをmRNAと架橋結合させた。光架橋結合の後、各チューブの内容物を新しいスナップキャップマイクロ遠心チューブに移した。2μlの10mM EDTAを各チューブに加えることによってカルシウム陽イオンをキレートして、リボソームを解離させた。・・・。
【0248】
最終的な実験を行う前に翻訳に最適なRNAを決定した。・・・。
【0249】
・・・、各試料でSDS-Page電気泳動を実施した。・・・。
【0250】
上記実施例は、SATA(tRNA上のピューロマイシンおよびtRNA上の架橋剤)の生成および使用、ならびに連結tRNA類似体(ピューロマイシンを有さず、tRNA上に架橋剤を有する)の生成および使用のために有用である。」

(摘記m)
「【0251】
実施例4:架橋剤を形成するよう修飾したリボヌクレオチドを用いたtRNA類似体の生成:ソラレンおよび非ソラレン架橋剤の使用(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・。
【0252】
上記のように、当業者は、SATA、連結tRNA類似体およびナンセンスサプレッサー類似体を多くの異なる方法によって生成することができることを理解するであろう。・・・。以下のプロトコルをtRNA上に位置する架橋剤に用いることができる。当業者は、このプロトコルはmRNA上に位置する架橋剤にも用いることができることを理解するであろう。・・・、以下の実施例は、SATA、連結tRNA類似体、およびナンセンスサプレッサー類似体の生成ならびに使用に関して有用である。
【0253】
修飾されたヌクレオチドの生成(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・
【0255】
PO_(4)U_(ソラレン)は以下のように生成することができる:
【0256】
【化14】

・・・
【0258】
【化15】

・・・
【0260】
標的ウリジンを用いたフラン側鎖のソラレンモノ付加体の形成は、以下のように実施する:
反応緩衝液を調製する。・・・。
【0261】
その後、4’-ヒドロキシメチル-4,5’,8’-トリエチルソラレン(HMT)を最終濃度0.32mMまで加え、等モル量の配列A1および配列A2を配列A1:配列A2:ソラレンの最終モル比=1:1:1000まで加える。100μlの全容量を一度に照射した。
・・・
【0265】
DNA/RNA二重鎖中のRNAのRNase H消化(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
・・・。
・・・
【0269】
・・・。次いでソラレンモノ付加体としたモノヌクレオチド(PO_(4)U_(psoralen))を、逆相HPLCによってモノ付加体化されなかったモノヌクレオチド(PO_(4)UおよびPO_(4)A)から分離する。
・・・
【0271】
tRNA成分オリゴリボヌクレオチド内への光感受性ヌクレオチドの組み込み(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
pU_(crosslinker)をCUAストップアンチコドン内に組み込むために以下のプロトコルを用いることができる。・・・。
・・・
【0273】
5’OH CUC OH3’オリゴリボヌクレオチド(配列B1)は・・・、ライゲーションにおいてアクセプターとすることができる。B1対ソラレン化したモノヌクレオチドのモル比は、修飾されたUの数が大きく下回るように10:1?50:1を保つのが好ましく、それによりCUC(U_(crosslinker))_(N)の形成を妨げる。これにより、好ましい反応の1つが行われる:
【0274】
【化16】

【0275】
・・・。その後、pApとライゲーションすることによって7量体を3’保護してCUCU_(crosslinker)Ap(フラグメント2B)を得る。
・・・
【0277】
フラグメント2Bと1Bもしくは1B_(1)との第1のライゲーション(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
この2Bフラグメントは、安定したアクセプターを有するtRNA類似体または、天然のエステル化されたアクセプターを有するtRNA類似体において用いることができる。・・・。SATAのバージョンでは、1つの実施形態では、3’フラグメントは市販の調製されたピューロマイシンをアクセプターとして保守する。・・・、1つの実施形態では、異なる2つの5’末端において以下を用いる:
【0278】
【化17】

【0279】
(安定したピューロマイシンアクセプターを有するtRNA類似体と共に用いる)および
【0280】
【化18】

【0281】
(天然のエステル化されたアクセプターと共に用いる)。
【0282】
T4 RNAリガーゼを用いて再度ライゲーションを行い、長さによって精製する。配列1Bの場合の反応式は以下のとおりである:
【0283】
【化19-1】

【0284】
配列1B_(1)の場合:
【0285】
【化19-2】

【0286】
tRNA類似体の2つの半分子のライゲーション(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
3’リン酸を除去して5’リン酸を付加するために、上記生成物を、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて2つの個別のステップで処理する。
【0287】
その後、新しく調製した5’および3’の半分子末端を、一般に以前のプロトコルに従ってライゲーションする。それぞれの5’配列に対応する3’配列は以下のとおりである:
配列1B:(Ψ=プソイドウリジン)
【0288】
【化20】

【0289】
3’の半分に対応:
【0290】
【化21】

【0291】
3Bおよび配列1B1、
【0292】
【化22】

【0293】
3’の半分に対応:
【0294】
【化23】

【0295】
後者は、大腸菌のアラニンに対するアミノアシルtRNA合成酵素によって認識可能である。
【0296】
上記の実施例は、SATA、連結tRNA、およびナンセンスサプレッサーtRNAを作製および使用するために用いることができる。」

(摘記n)
「【0297】
実施例5:SATAおよびナンセンスサプレッサーtRNAに対するmRNA上への架橋剤の配置(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
いくつかの実施形態では、架橋剤(ソラレンまたは非ソラレン架橋剤など)はtRNA上に配置されず、mRNA上に位置する。例えば、1つの実施形態では、SATAはtRNA上に位置するピューロマイシンを含むが、架橋剤はmRNA上にある。さらに別の実施形態では、ナンセンスサプレッサーtRNAを用い、これはピューロマイシンを有さないtRNAを含み、架橋剤はmRNA上にある。架橋剤のメッセージ(mRNA)上への配置は、以下に示すように達成することができる。関連する配列は以下のとおりである:
【0298】
【化24】

・・・
【0302】
精製を容易にするために、修飾された5’モノリン酸ヌクレオチドをまず六量体内に組み込む。架橋剤を含むウリジンの構築を示すが、いくつかの実施形態では、類似の技法を用いて他の塩基をストップコドンおよび疑似ストップコドンのどちらにも組み込むことができる:
【0303】
【化25】

【0304】
は、pN_(crosslinker)の3’保護が存在しないことによるAUGの優位点を用いたこと以外は上記のプロトコルと同様のプロトコルを用いて達成した。・・・。次いでT4 RNAリガーゼを用いて5’pAGビオチン3’を付加した。3’ビオチンは、・・・便利な3’ブロッキング基であった。得られたAUGU_(crosslinker)AG_(biotin)を再度精製し、次いで5’リン酸化し:
【0305】
【化26】

【0306】
にライゲーションして、
【0307】
【化27】

【0308】
を得た。
【0309】
収率は精製が不要となるほどに十分に高い。したがって、上記のプロトコルを用いて、本発明のいくつかの実施形態に従ってSATAおよびナンセンスサプレッサーtRNAを作製および使用することができる。」

(摘記o)
「【0310】
実施例6:ピューロマイシンを必要としないtRNA系の使用(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
本発明のいくつかの実施形態は、ピューロマイシン、ピューロマイシン類似体、または他のアミドリンカーを必要としない系および方法を提供する。1つの実施形態では、連結tRNA類似体およびナンセンスサプレッサーtRNAはピューロマイシンを必要とせず、以下の例に従って作製および使用することができる。
【0311】
ピューロマイシンを用いない系では、tRNAをアミノアシル化するための翻訳系を用いることができる。他の実施形態では、化学的にアミノアシル化を達成できる。・・・
【0312】
以下のmRNAの各3μgを、Promega S30 大腸菌翻訳混合物の各40マイクロリットル中で翻訳する:
【0313】
【化28】

【0314】
上記のように製作したアンバーサプレッサーtRNAの3μgを、第1配列に加える。アンチコドン上に架橋剤を有するサプレッサーの3μgを、第2配列に加える。35S-メチオニンを両方に加えた後、混合物を37℃で30分間インキュベートする。その後、・・・、混合物が約350nm光源から1.5cmだけ下方にあるように氷浴中に浮かべる。これらを約20J/cmで15分間露光させる。
【0315】
照射後、混合物をフェノール抽出し、エタノール沈殿する。このようにして、連結tRNA類似体およびナンセンスサプレッサーtRNAなどの系をアミノアシル化し、本発明のいくつかの実施形態に従ってメッセージ(mRNA)をそのコードされたペプチドに結合させるために用いる。」

(摘記p)
「【0316】
実施例7:代替配列(当審注:左記下線は明細書に記載のとおり。)
好ましい実施形態では、上記の実施例1に記載したフラグメント1、2および3は、以下の代替配列を有する:
フラグメント1(配列番号13):
【0317】
【化29】

【0318】
フラグメント2(配列番号14):
【0319】
【化30】

【0320】
フラグメント3-先に記載した配列(配列番号6)から変化なし:
【0321】
【化31】

【0322】
上記の方法を用いると、代替フラグメント1+2+3の配列は(配列番号15)であった:
【0323】
【化32】

【0324】
tRNA類似体とナンセンスサプレッサーtRNAの連結に関して、アデノシンがピューロマイシンの置換に用いられていることを除いて、上記の配列は類似している。」

(3)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)に
ついて

実施可能要件の判断の前提

特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないと定めるところ(いわゆる「実施可能要件」)、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物の生産、使用等をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、出願時の技術常識に照らして、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産(即ち「製造」)することができ、かつ、使用することができる程度のものでなければならない、というべきである。
以上のことを前提として、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件補正発明について実施可能要件を満たすか否か、以下、検討する。

イ 本件補正発明についての実施可能要件の検討

(ア)本件補正発明の特定事項について

本件補正発明は、本件補正後の請求項1の記載からみて、「二官能性タンパク質を含有する組成物」という「物」の発明であり、この組成物に含まれる成分である「二官能性タンパク質」は、「第一の非抗体タンパク質部分」と、「補体以外の非抗体の第二の部分」と、これらの2つの部分を連結する「可動性ペプチド」である「リンカー」とを含むものである。
「物」の発明としての本件補正発明について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすためには、出願時の技術常識に照らし、当業者が、上記「二官能性タンパク質を含有する組成物」を過度の試行錯誤を要さずに製造し使用できることを理解し得ることが必要であり、そのためには、当該組成物が含有する成分である「二官能性タンパク質」を、当業者が過度の試行錯誤を要さずに入手又は製造できることが必要である。

同請求項1の記載によれば、上記「二官能性タンパク質」を構成する「第一の非抗体タンパク質部分」は、(a)「病変細胞の表面において発現されている、マーカーと選択的または優先的に結合する、」という性質ないし機能によって規定されており、さらに、(b)「mRNA-タンパク質の同族対(cognate pair)のライブラリーを、前記病変細胞の表面において発現されている、マーカーに対して、スクリーニングすることで、特定された、第一のmRNAによりコードされており」というスクリーニング方法を含む条件によって規定されている。
また、同請求項1の記載によれば、上記「二官能性タンパク質」を構成する「補体以外の非抗体の第二の部分」も、(c)「抗体の定常領域の部分と結合する、」という性質ないし機能によって規定されており、当該「第二の部分」については、「タンパク質」又は「ペプチド」であるとの特定はないから、上記「二官能性タンパク質」は、タンパク質に限定されない構造部分を有し得る化合物であると認められる。

一般的に、化合物については、所望の性質ないし機能を規定するだけでは当該化合物を特定する具体的な構造を把握することができず、再現性のある裏付けとともに、その入手方法や製造方法が十分に特定されなければ、当業者が入手又は製造することは困難である。そして、この理は、上記「二官能性タンパク質」にも当てはまるものである。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件補正発明における「二官能性タンパク質」を構成する、それぞれが性質ないし機能によって規定された、「第一の非抗体タンパク質部分」及び「補体以外の非抗体の第二の部分」について、本願出願時の技術常識に照らして、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、入手又は製造できる程度に記載されたものであるか否かについて、以下、順に検討する。

(イ)「第一の非抗体タンパク質部分」について

前記「(ア)」で説示したとおり、本件補正発明における「第一の非抗体タンパク質部分」は、(a)「病変細胞の表面において発現されている、マーカーと選択的または優先的に結合する、」、及び、(b)「mRNA-タンパク質の同族対(cognate pair)のライブラリーを、前記病変細胞の表面において発現されている、マーカーに対して、スクリーニングすることで、特定された、第一のmRNAによりコードされており」という、2つの条件によって規定されている。
上記「(a)」の条件における「病変細胞」という事項は、本願明細書に少なくとも形式的には全く記載されておらず、如何なる細胞までを意味するのか直ちに理解できないが、「病変」とは、一般的に「病気になったために現れる変化」のことをいうから(要すれば、新村出編、『広辞苑』、5版、2280頁、「びょうへん【病変】」、(株)岩波書店、1998年11月11日発行を参照)、「病変細胞」とは、「病気になったために現れる変化を有する細胞」を意味するものと解し得る。また、この「病気」は、特定の疾患等に限定されておらず、本願明細書に「悪性腫瘍細胞、病原体、移植された細胞、および/または治療の標的にされる他の物により、・・・、広範な状態の治療に有効な、標的治療薬を開発するための方法が本明細書において提供される。」((摘記b)【0011】)という記載もあることから、あらゆる不特定な病気を包含するものと認められる。
上記「(a)」の条件における、当該「病変細胞」の表面において発現されている「マーカー」については、本願明細書の記載によれば、未治療で放置した場合に癌を生じる「悪性細胞」((摘記e)【0049】)の表面において発現される、悪性疾患のタイプ及び個々の患者に特異的なエピトープやイディオタイプを含むものと解され((摘記a)【0002】、【0004】?【0005】、(摘記b)【0011】、(摘記c)【0015】?【0017】、(摘記f)【0051】?【0056】)、悪性細胞により発現の異なる細胞表面マーカーの例として、リンパ管腫では、CD-20及びCD-22等の安定な細胞表面抗原エピトープが挙げられている((摘記f)【0055】)。
上記「(b)」の条件は、「第一のmRNA」のスクリーニング方法を規定しているが、上記「(ア)」の条件を満たすタンパク質部分をコードするmRNAを得る工程を示したものと認められるから、上記「(a)」の条件を満たす「第一の非抗体タンパク質部分」について、さらに物として実質的な限定を加えるものではない。
そうすると、上記「第一の非抗体タンパク質部分」は、あらゆる不特定な病気になったために現れる変化を有する細胞の表面において発現されている疾患のタイプ又は個々の患者に特異的なエピトープ又はイディオタイプ等のマーカーと選択的または優先的に結合する、抗体以外の全てのタンパク質を包含するものと認められるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件補正発明について実施可能要件を満たすには、このようなタンパク質の全体について、本願出願時の技術常識に照らし、当業者が、過度の試行錯誤を要さずに、入手又は製造できる程度に記載されていなければならないものと解される。

本件補正発明における「第一の非抗体タンパク質部分」という事項は、本願明細書において、当該表記としては全く記載されていないが、文脈からみて、これを包含するか、これに対応し、いずれも同じものを意味していると解し得る事項として、「標的領域」((摘記c)【0014】?【0015】)、「標的結合領域」((摘記c)【0016】?【0017】)、「標的エピトープ結合タンパク質」((摘記c)【0017】、(摘記d)【0026】、【0031】、(摘記f)【0053】、(摘記g)【0068】)、及び、「標的エピトープ結合領域(Tebd)」((摘記f)【0056】、(摘記g)【0069】、(摘記h)【0077】)が記載されている(以下「標的エピトープ結合領域(Tebd)」という。)。
そして、本願明細書には、当該「標的エピトープ結合領域(Tebd)」を得るための方法として、上記「(b)」の条件におけるスクリーニング方法に対応する方法により、当該「標的エピトープ結合領域(Tebd)」のタンパク質をコードするmRNAを得た後に、これをin vitro翻訳する旨が記載されており((摘記c)【0013】、【0017】)、当該方法は、概略、以下の(i)?(vi)のステップからなるものであることが記載されている((摘記d)【図4】、【0029】、【図5】、【0030】、【図6】、【0031】、【図12】、【0037】、(摘記g)【0068】?【0069】、(摘記h)【0076】?【0077】、(摘記i)【0097】?【0098】、【0103】、【0105】)。
(i)不特定で未知の多数のmRNAと、それらの個々のmRNAを翻訳した対応する個々のタンパク質を、tRNAリンカーを介して連結させた、複合体(同族対)を形成し、mRNA-タンパク質の同族対のライブラリーを用意する(【図4】の1)。
(ii)上記mRNA-タンパク質の同族対のライブラリーから、所望のリガンド(標的とするエピトープないしイディオタイプ等)と選択的に結合するタンパク質部分を有する同族対をスクリーニングする(【図4】の2、【図5】)。
(iii)上記スクリーニングした所望のリガンドと結合するタンパク質部分を有する同族対から、当該タンパク質部分をコードするmRNAを採取する(【図4】の3、【図5】)。
(iv)必要に応じて、上記採取したmRNAを、エラープローンPCR等により、in vitro進化させ、所望のリガンドに対して、より強い選択的な結合を示すタンパク質部分をコードするmRNAを同定し、増幅させて分離する(【図4】の4a、【図12】)。
(v)上記の所望のリガンドに対して選択的な結合を示すタンパク質部分をコードするmRNAから、in vitro翻訳等によって、当該所望のリガンドに対して選択的な結合を示すタンパク質部分(標的エピトープ結合領域(Tebd))を大量に製造する(【図4】の4b)。
(vi)上記標的エピトープ結合領域(Tebd)をコードするmRNAは、後述する免疫エフェクター結合領域(Ebbd)をコードするmRNAと、親水性アミノ酸をコードするmRNAブリッジを介して連結でき、この連結されたmRNAを、in vitro翻訳等することにより、二官能性タンパク質の複合体を一体的に作製することもできる(【図6】)。

本願明細書には、上記(i)のステップにおいて、mRNA-タンパク質の同族対を作成する際に、mRNAと当該mRNAを翻訳した対応するタンパク質とを連結するためのtRNAリンカーとして、「安定なアミノアシルtRNA類似体(SATA)」なるものを用い得ることが記載されており、SATAは、mRNAの(疑似)ストップコドンに結合するものであって、その近傍でmRNAと架橋を形成するソラレンを含み得ること、mRNAのin vitro翻訳により当該mRNAとそれに対応するタンパク質との結合を形成するピューロマイシンを3’末端に含み得ること、が記載されている((摘記d)【図11】、【0036】、【図13】、【0038】、【図14】、【0039】、【図16】、【0041】、(摘記h)【0079】?【0080】、【0083】、【0085】?【0092】)。
そして、本願明細書には、実施例1?7として、上記SATAの幾つかの具体的な製造例等が記載されており((摘記j)?(摘記p))、実施例2には、SATAと腸阻害ペプチド(GIP)のmRNAを用いて、実施例3には、SATAとルシフェラーゼのmRNAを用いて、それぞれin vitro翻訳を行ったことが記載されている((摘記k)【0197】?【0202】、(摘記l)【0244】?【0249】)。

このように、本願明細書には、本件補正発明における「第一の非抗体タンパク質部分」に対応する「標的エピトープ結合領域(Tebd)」の製造について、一般的かつ概念的な説明は記載されており、その製造過程においてスクリーニング対象とされるmRNA-タンパク質の同族対のライブラリーを構築するためのツールであるSATAについて、幾つか具体的な製造例等が記載されている、ということは認められる。

しかしながら、本願明細書には、上記スクリーニング方法によって実際に上記「第一の非抗体タンパク質部分」に対応する上記「標的エピトープ結合領域(Tebd)」に該当するタンパク質部分を得たことは全く記載されておらず、スクリーニング対象とされるmRNA-タンパク質の同族対のライブラリーを実際に構築したことさえも記載されていない。
また、本願明細書には、悪性細胞により発現の異なる細胞表面マーカーについて、CD番号による例示は記載されているが、悪性疾患のタイプや個々の患者に特異的なエピトープ又はイディオタイプが具体的に如何なるアミノ酸配列を有するものであるか特定した記載はなく、mRNA-タンパク質の同族対のライブラリーについて、如何なるmRNAの集合を用いて構築するかといった、具体的な説明も記載されていない。
さらに、抗体の多様性を勘案すれば、細胞表面マーカーとしての種々のエピトープ又はイディオタイプに結合する抗体が存在する可能性はあり得るが(例えば、本願の審査において、平成29年9月26日付け拒絶理由通知書で引用された引用文献1(The Journal of Immunology,1989,Vol.142, No.8,p.2771-2777)の2771頁右欄の下3?1行には、主に悪性腫瘍由来の急速に増殖する細胞の表面で高度に発現したトランスフェリン受容体に対するモノクローナル抗体(mAb)が記載され、同引用文献2(米国特許第4661347号)の請求項1には、細胞の表面構造に結合親和性を有するモノクローナル抗体が記載されている。)、種々のエピトープ又はイディオタイプに結合する非抗体のタンパク質部分とは、如何なるものであって、実際に存在するのか否かさえ不明であるから、そのような非抗体タンパク質部分をコードするmRNAを、mRNA-タンパク質の同族対のライブラリーからスクリーニングすることによって特定できると、当業者が認識し得るとはいえないし、そのような技術常識が本願出願前に存在したとも認められない。
なお、仮に、ある特定の細胞表面マーカーであるエピトープ又はイディオタイプについて、上記スクリーニング方法により、選択的又は優先的に結合する非抗体のタンパク質部分が得られたとしても、前述のとおり、本件補正発明における「第一の非抗体タンパク質部分」は、あらゆる不特定な病気になったために現れる変化を有する細胞の表面において発現されている疾患のタイプ又は個々の患者に特異的なエピトープやイディオタイプ等のマーカーと選択的または優先的に結合する、抗体以外の全てのタンパク質を包含するものであるから、そのようなタンパク質の全体について、当業者が入手又は製造するためには、無数のマーカーに対し、無数のライブラリーのスクリーニングを繰り返して確認するという、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を求めることになる。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件補正発明における「第一の非抗体タンパク質部分」について、本願出願時の技術常識に照らして、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、入手又は製造できる程度に記載したものでない。

(ウ)「補体以外の非抗体の第二の部分」について

前記「(ア)」で説示したとおり、本件補正発明における「補体以外の非抗体の第二の部分」は、「抗体の定常領域の部分と結合する、」という性質ないし機能によって規定されている。
本願明細書において、上記「補体以外の非抗体の第二の部分」という事項は、当該表記としては全く記載されていないが、文脈からみて、これに対応する可能性がある事項として、「免疫エフェクターと結合する第2の領域」((摘記c)【0016】)、「免疫エフェクター結合タンパク質(Ebbd)」((摘記d)【0028】)、及び、「免疫エフェクター結合領域(Ebbd)」((摘記c)【0016】、(摘記d)【0031】、(摘記f)【0056】、【0059】、(摘記g)【0069】)が記載されている(以下「免疫エフェクター結合領域(Ebbd)」という。)。
しかしながら、本願明細書には、当該「免疫エフェクター結合領域(Ebbd)」が、「抗体の可変領域」又は「Fc領域などの抗体の他の領域と結合する分子」と結合する、「エピトープ」を含み得ること、即ち、免疫エフェクターが「抗体」である場合には、その「可変領域」と結合することは記載されているが((摘記c)【0016】、(摘記d)【図2】、【0027】、【図7】、【0032】、(摘記f)【0056】)、抗体の「定常領域」の部分と結合することについては全く記載されていない。
そうすると、本願明細書には、本件補正発明における「補体以外の非抗体の第二の部分」について、具体例はおろか一般的な説明すら何ら記載されていないということになる。しかも、前記「(ア)」で説示したとおり、当該「補体以外の非抗体の第二の部分」は、「タンパク質」又は「ペプチド」であるとの特定もないところ、抗体の定常領域の部分と結合する、タンパク質及びペプチド以外の化合物が、具体的に如何なるものであるか、本願明細書には何らの説明もなく、本願出願時の技術常識が存在したとも認められないから、そのような実体が不明な態様も包含する「補体以外の非抗体の第二の部分」は、当業者が入手又は製造できるものとはいえない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件補正発明における「補体以外の非抗体の第二の部分」について、本願出願時の技術常識に照らして、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、入手又は製造できる程度に記載したものでない。

(エ)「二官能性タンパク質を含有する組成物」について

前記「(ア)」で説示したとおり、本件補正発明の「二官能性タンパク質を含有する組成物」の成分である、「二官能性タンパク質」は、「第一の非抗体タンパク質部分」及び「補体以外の非抗体の第二の部分」を構成部分として含むものであるが、前記「(イ)」及び「(ウ)」で説示したとおり、これらの構成部分は、いずれも、本願出願時の技術常識に照らして、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、入手又は製造できる程度に、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないから、本件補正発明の「二官能性タンパク質を含有する組成物」についても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願出願時の技術常識に照らして、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、製造し使用することができる程度のものであるとはいえない。
また、仮に、本件補正発明の「二官能性タンパク質を含有する組成物」を製造することができたとしても、当該「二官能性タンパク質」は、「補体以外の非抗体の第二の部分」が「抗体の定常領域の部分と結合する、」とされており、当該「抗体」が何に対するものか特定されていないから、不特定な種々の抗体が定常領域の部分を介して当該「第二の部分」に結合し得ることになり、その場合には、それらの抗体の「可変領域」が露出した状態となるところ、そのような「二官能性タンパク質」を含有する「組成物」を対象に投与しても、「病変細胞」との関係において、本願明細書に記載されている所期の免疫応答(IR)((摘記d)【図1】、【0026】、【図8】、【0033】、(摘記f)【0053】、(摘記g)【0075】)は生じないと解されるので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、そのような本件補正発明の「組成物」を、当業者が使用することができる程度のものであるとはいえない。

実施可能要件に係る請求人の主張について

請求人は、平成31年1月31日提出の手続補正書(方式)によって補正された審判請求書(以下「補正審判請求書」という。)において、実施可能要件について、概略、次の「(ア)」?「(エ)」の主張をしている。

(ア)本件補正発明の説明

「本発明にかかる二官能性タンパク質を含有する組成物は、病変細胞を抗体あるいは抗体を介在して攻撃する治療薬の病変細胞への攻撃をより効果的に行なうための手段としての機能を有し、個々の患者または患者の亜集団に合わせて構成し得る治療薬として利用されます。
本発明にかかる二官能性タンパク質を含有する組成物は、病変細胞の表面マーカーと結合する第一の部分と、治療薬そのもの、または介在により治療薬を運搬する抗体の定常領域と結合する第二の部分の2つの結合部分、すなわち二官能性を有します。これらの部分はいずれも非抗体であり、目的とする結合相手に対する特異性が向上しております。第一の部分が病変細胞のマーカーに結合することで、このマーカー近傍にある治療薬の攻撃部位へ第二の部分に定常領域を介して結合した治療薬としての抗体やかかる抗体に結合している治療薬が効果的に病変細胞に作用することが可能となります。
例えば、血液癌細胞は、血液中に含まれ、特定の器官や組織における癌細胞のように治療薬が攻撃する場所が固定されません。このような血液癌においても、本願発明にかかる二官能性タンパク質を含有する組成物によって、血液癌細胞への治療薬の効果的な運搬を達成することが可能となります(本願明細書の段落0055及び0056等参照)。
本願明細書の段落0051等に記載のとおり、治療標的の病因決定因子上、やその近傍にマーカーが位置する場合が多いことは公知であり、本願発明にかかる二官能性タンパク質を含有する組成物は、かかる状況を効果的に利用してその効果を発揮することができます。
更に、本願請求項1には、第一の部分が、病変細胞のマーカーによりスクリーニングして得られたmRNAにコードされたタンパク質からなり、そのマーカーとの結合性に関して明確に規定されたものとなっています。」

(イ)本件補正発明の二官能性タンパク質の製造に必要な工程について

「本願発明にかかる二官能性タンパク質の製造において必要とされる工程は以下のとおりです。
・工程1
mRNA-タンパク質の同族対(cognate pair)のライブラリーを、標的としての病変細胞の表面において発現されているマーカーに対してスクリーニングすることで、特定された第一のmRNAによりコードされた情報を用いて第一の非抗体タンパク質部分を製造する。
・工程2
第一の非抗体タンパク質部分と、第二の非抗体部分を可動性ペプチドリンカーで連結する。」

(ウ)工程1について

「工程1について、対象となるヒトのmRNAライブラリーは公知の方法で入手可能であり、このRNAライブラリーを用いたmRNAライブラリーの翻訳によるmRNA結合タンパク質(mRNA-タンパク質の同族対)のライブラリーの作製はin vitroの翻訳系を用いる公知の方法で実施可能です。
こうして得られたmRNA-タンパク質の同族対は、タンパク質とそれをコードするmRNAとの結合体であり、この同族対からなるライブラーを、病変細胞のマーカーでスクリーニングすることで、病変細胞のマーカーに結合するタンパク質を選択することができます。このスクリーニングも公知の方法によって実施することができます。
このスクリーニングしたタンパク質は、抗原抗体反応により選別されたものではなく、in vitro翻訳で形成されたもので、非抗体のタンパク質となります。
こうして病変細胞のマーカーでスクリーニングして得られた同族体のmRNAは、病変細胞のマーカーに結合するタンパク質をコードするもので、このmRNAを用いて公知の方法により病変細胞のマーカーと結合するタンパク質を生産することができます。
以上の方法の一例が本願の図4に示されております。
なお、参考に、工程1に関する参考資料1を添付します。
・参考資料1:「In Vitro Selection of Protein and Peptide Libraries Using mRNA Display」, Terry T.Takahashi and Richard W. Roberts, Nucleic Acid and Peptide Aptamers; Methodsand Protocols, vol.535, 293-314, 2009
上記の情報に基づいて当業者であれば、工程1を実施することが可能です。」

(エ)工程2について

「次に、工程2は、工程1のスクリーニング法を利用して実施することができます。
本願の図6は、第一の非抗体タンパク質が免疫エフェクター結合領域(Ebbd)、第二の非抗体部分が標的エピトープ結合領域(Tebd)である場合の二官能タンパク質の作成方法を示しております。
Ebbd mRNA、リンカーとなるBridge mRNA及び抗体との結合用のTebd mRNAを用意し、公知のin vitro翻訳にかけることで(標的エピトープ結合領域)免疫エフェクター結合領域と標的エピトープ結合領域がリンカーを介して結合した二官能タンパク質を得ることができます。
工程1でスクリーニングしたmRNAと、抗体の定常領域に結合する公知のタンパク質をコードするmRNAを、リンカーとしての公知の可動性ペプチドをコードするmRNAを介して結合し、翻訳を行なうことで本願発明にかかる二官能タンパク質を得ることができます。
また、第一の非抗体タンパク質部分と第二の非抗体部分を別々に調製し、公知の方法にを用いてこれらを可動性リンカーペプチドを介して結合する方法により、本願発明にかかる二官能タンパク質を得ることができます。
なお、参考に、工程2に関する参考資料2を添付します。
・参考資料2:「Engineering RNA endonucleases with customized sequence specificities」、Rajarshi Choudhury,et al., NATURE COMMUNICATIONS, 3: 1147, 1-8, 2012」

しかしながら、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。その理由は次のとおりである。

請求人の主張のうち、上記「(ア)」の点については、そもそも本件補正発明の「二官能性タンパク質を含有する組成物」は、本願出願時の技術常識に照らして、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく製造できると認識し得るものでないが、仮に、当該組成物を製造することができたとしても、前記「イ(エ)」で説示したとおり、本件補正発明における「二官能性タンパク質」は、「補体以外の非抗体の第二の部分」が「抗体の定常領域の部分と結合する、」とされており、当該「抗体」が何に対するものか特定されていないから、不特定な種々の抗体が定常領域の部分を介して当該「第二の部分」に結合し得ることになり、その場合、それらの抗体の「可変領域」が露出した状態となるため、請求人が主張するような、「第一の部分が病変細胞のマーカーに結合することで、このマーカー近傍にある治療薬の攻撃部位へ第二の部分に定常領域を介して結合した治療薬としての抗体やかかる抗体に結合している治療薬が効果的に病変細胞に作用することが可能」となるものとは認められない。

請求人の主張のうち、上記「(イ)」?「(ウ)」の点については、請求人が主張する「工程1」及び「工程2」に対応するような、本件補正発明における「二官能性タンパク質」の製造工程は、前記「イ(イ)」で説示したように、一般的かつ概念的な説明として、本願明細書に記載されているが、同明細書には、本件補正発明における「二官能タンパク質」の「第一の非抗体タンパク質部分」を、実際に上記「工程1」のように製造した、具体的な実施例等は全く記載されていないし、標的としての病変細胞の表面において発現されているマーカーに結合する非抗体のタンパク質部分とは、如何なるものであって、実際に存在するのか否かさえも不明であるから、そのような非抗体のタンパク質部分をコードするmRNAを、mRNA-タンパク質の同族対のライブラリーからスクリーニングすることによって特定できると、当業者が認識し得るとはいえず、そのような技術常識が本願出願前に存在したとも認められない。
また、請求人が提示した上記「参考資料1」には、ペプチド及びタンパク質のリガンドのデザインを可能にする、in vitro選択技術として、in vitro進化により、mRNAとそれに対応するタンパク質が結合したものについて、10兆を超えるライブラリーを合成でき、それを結合の厳密性と特異性の絶妙な制御とともに選別できること、が記載されているが(293頁「Abstract」、同頁「1.Introduction」2?6,9?10行、294頁「Fig.17.1」)、ライブラリーに含まれる配列の数が非常に多くても、その中に標的としての病変細胞の表面において発現されているマーカーに結合する非抗体のタンパク質部分に該当するものが実際に存在するか否かは、スクリーニングを現実に行ってみなければ確認することはできない。
なお、前記「イ(イ)」で説示したように、仮に、ある特定の標的としての病変細胞の表面において発現されているマーカーについて、上記スクリーニング方法により、選択的又は優先的に結合する非抗体のタンパク質部分が得られたとしても、本件補正発明における「第一の非抗体タンパク質部分」は、あらゆる不特定な病気になったために現れる変化を有する細胞の表面において発現されている疾患のタイプ又は個々の患者に特異的なエピトープやイディオタイプ等のマーカーと選択的または優先的に結合する、抗体以外の全てのタンパク質を包含するものであるから、そのようなタンパク質の全体について、当業者が入手又は製造するためには、無数のマーカーに対して、無数のライブラリーのスクリーニングを繰り返して確認するという、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を求めることになる。

請求人の主張のうち、上記「(エ)」の点については、請求人が主張する「工程2」は、前記「工程1」でスクリーニングして得られた、「第一の非抗体タンパク質部分」をコードするmRNAを用いることを前提としているところ、前述のとおり、そもそも「第一の非抗体タンパク質部分」をコードするmRNAについて、mRNA-タンパク質の同族対のライブラリーからスクリーニングすることで特定できると、当業者が認識し得るとはいえず、そのような技術常識が本願出願前に存在したとも認められない。

実施可能要件の判断の小括

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、その記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、本件補正発明の「二官能性タンパク質を含有する組成物」を製造し使用することができることを、当業者が理解することができる程度に記載されていないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件補正発明について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に
ついて

ア サポート要件の判断の前提

特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲の記載が適合するものでなければならない要件として、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」(いわゆる「サポート要件」)を規定している。
そして、特許請求の範囲の記載が、同要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、を検討して判断すべきものである。
そこで、本件補正発明に係る請求項1の記載が、サポート要件を満たすか否か、以下、検討する。

イ 本件補正発明についてのサポート要件の検討

本件補正発明に係る請求項1の記載、及び、本願明細書の発明の詳細な説明における前記「(2)」(摘記a)?(摘記b)(特に【0011】)の記載からみて、本件補正発明が解決しようとする課題は、悪性腫瘍細胞等において異なって発現された細胞表面マーカー(例えば、エピトープ、イディオタイプ、等)を標的にすることによって、広範な状態の治療に有効な標的治療薬を提供すること、であると認められる。
しかしながら、前記「(3)イ」において説示したように、本件補正発明の「二官能性タンパク質を含有する組成物」は、本願明細書の発明の詳細な説明において、実施例等による具体的な裏付けがなされておらず、本願出願時の技術常識に照らし、これを当業者が製造し使用できると当業者が理解することができる程度に記載されているとはいえないのであるから、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとはいえず、当業者が本願出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
したがって、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

ウ サポート要件に関する請求人の主張について

請求人は、補正審判請求書において、サポート要件について、概略、次の主張をしている。

「(a)本願請求項1の「二官能性タンパク質を含有する組成物」との構成については、段落0013及び段落0054の記載に支持されております。
(b)本願請求項1の「病変細胞の表面において発現されている、マーカーと選択的または優先的に結合する、第一の非抗体タンパク質部分、
その際、該第一の非抗体タンパク質部分は、mRNA-タンパク質の同族対(cognate pair)のライブラリーを、前記病変細胞の表面において発現されている、マーカーに対して、スクリーニングすることで、特定された、第一のmRNAによりコードされており;」
との構成については、本願明細書の段落0011、0054、0076.0103の記載、並びに段落0012、0029、0077、0088における図4についての説明に支持されております。
(c)本願請求項1の「抗体の定常領域の部分と結合する、補体以外の非抗体の第二の部分」の構成は、本願明細書の段落0015、0016、0053、0103の記載に支持されております。
(d)本願請求項1の「前記第一の非抗体タンパク質部分と、前記非抗体の第二の部分とを連結するリンカーとを含んでおり、該リンカーが可動性ペプチドである」との構成は、本願明細書の段落0016、0067?0069の記載に支持されております。」

請求人は、本件補正発明を幾つかの特定事項に分け、それぞれに関係する事項が記載された本願明細書の段落番号を単に示すのみであって、それらの記載に基づく具体的な反論を行っていない。
そして、請求人が段落番号で指摘する本願明細書に記載された事項を考慮しても、請求項1の記載がサポート要件を満たすものとはいえないことは、前記「イ」において、前記「(3)イ」で検討した結果を踏まえて説示したとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

エ サポート要件の判断の小括

以上のとおり、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでない。
よって、本件補正発明に係る請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび

以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するため、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

前記「第2」のとおり、平成30年12月7日提出の手続補正書による手続補正(本件補正)は却下されたので、本願に係る発明は、本件補正前の平成30年4月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2[理由]1」に記載した、次のとおりのものである。

「【請求項1】
二官能性タンパク質を含有する組成物であって、
前記二官能性タンパク質は、
病変細胞の表面において発現されている、マーカーと選択的または優先的に結合する、第一の非抗体タンパク質部分、
その際、該第一の非抗体タンパク質部分は、mRNA-タンパク質の同族対(cognate pair)のライブラリーを、前記病変細胞の表面において発現されている、マーカーに対して、スクリーニングすることで、特定された、第一のmRNAによりコードされており;
抗体の定常領域の部分と結合する、補体以外の非抗体の第二の部分;ならびに
前記第一の非抗体タンパク質部分と、前記非抗体の第二の部分とを連結するリンカーとを含んでいる
ことを特徴とする、組成物。」

2 原査定の拒絶の理由

原査定は、「この出願については、平成29年 9月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由2及び3によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由2及び3は、
「2.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」、
及び、
「3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
というものである。

原査定の備考欄には、上記理由2及び3のいずれについても、請求項1?8を査定の対象とすることが示されており、そのうちの請求項1に係る発明が、前記「1」で認定した本願発明である。
そして、原査定の備考欄では、上記理由2及び3について、両者の理由を併せて、概略、次のことが指摘されている。

請求項1に記載の「病変細胞の表面において発現されている、マーカーと選択的または優先的に結合する、第一の非抗体タンパク質部分」と「抗体の定常領域の部分と結合する、補体以外の非抗体の第二の部分」について、「該第一の非抗体タンパク質部分は、mRNA-タンパク質の同族対(cognate pair)のライブラリーを、前記病変細胞の表面において発現されている、マーカーに対して、スクリーニングすることで、特定された、第一のmRNAによりコードされており」と特定され、本願明細書において、第一の非抗体タンパク質部分及び補体以外の非抗体の第二の部分を取得するためのスクリーニング方法が他にも記載されているものの、当該スクリーニング方法により、該第一の非抗体タンパク質部分と補体以外の非抗体の第二の部分を取得し、それらを用いて組成物を製造したことは記載されていない。
本願明細書には、第一の非抗体タンパク質部分及び補体以外の非抗体の第二の部分を識別するためのスクリーニング方法は記載されているものの、有効成分を得るための化学構造等の手がかりが記載されておらず、かつ、抗体以外のタンパク質であって細胞表面マーカーと選択的または優先的に結合するタンパク質や抗体の定常領域の部分と結合する補体以外の非抗体の第二の部分がどのようなものであるか、本願出願時において当業者において自明であったとも認められないので、請求項1に包含される有効成分を当業者が理解できず、発明の実施にあたり、無数の化合物を製造、スクリーニングして確認するという当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を求めるものである。
さらに、上記第二の部分が結合する「抗体」は、何と結合する抗体であるか不明であるから、該抗体に結合する第二の部分を含む組成物を何に使用できるか不明である。
請求項2乃至8についても同様である。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1乃至8に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、本願の発明の詳細な説明には、請求項1乃至8に係る組成物なるものは実質的に開示されておらず、上記の各成分が当業者において自明ともいえないため、請求項1乃至8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

3 当審の判断

(1)理由2(実施可能要件)について

本件補正前の請求項1に係る発明である本願発明は、本件補正発明の発明特定事項の全体を上位概念として包含するものであり、「リンカー」について「可動性ペプチドである」という限定条件が付されていない点で、本件補正発明とは相違する。
そうすると、本願発明と比べて、「リンカー」が限定された本件補正発明について、前記「第2[理由]2(3)」で説示したように、本願明細書の発明の詳細な説明には、その記載又は示唆及び本願出願時の技術常識に基づいて、「二官能性タンパク質を含有する組成物」を製造し使用できることが当業者に理解できるように記載されていないのであるから、本件補正発明を概念上包含する関係にあり、同じく「第一の非抗体タンパク質部分」と「補体以外の非抗体の第二の部分」を特定事項とする本願発明も、本願明細書の発明の詳細な説明に、その製造及び使用をすることができることが当業者に理解できるように記載されているとはいえない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)理由3(サポート要件)について

本願発明と本件補正発明との関係は、前記「(1)」で説示したとおりである。
そして、本願発明と比べて、「リンカー」が限定された本件補正発明が、前記「第2[理由]2(4)」で説示したように、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、又は、本願出願時の技術常識により、悪性腫瘍細胞等において異なって発現された細胞表面マーカー(例えば、エピトープ、イディオタイプ、等)を標的にすることによって、広範な状態の治療に有効な標的治療薬を提供する、という課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものでないから、本件補正発明を概念上包含する関係にあり、同じく「第一の非抗体タンパク質部分」と「補体以外の非抗体の第二の部分」を特定事項とする本願発明も、当該課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものではない。
したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願発明に係る請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび

以上のとおり、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、また、請求項1に係る発明が明細書の発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許請求の範囲の記載が同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-06-16 
結審通知日 2020-06-23 
審決日 2020-07-06 
出願番号 特願2016-243972(P2016-243972)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 六笠 紀子  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 井上 典之
松本 直子
発明の名称 標的治療薬を作製する方法  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  

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