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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C02F
管理番号 1368968
異議申立番号 異議2020-700023  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-15 
確定日 2020-10-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6547055号発明「シアノ錯体の生成抑制方法、排ガスの処理方法、及び排ガス処理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6547055号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕、10、11について訂正することを認める。 特許第6547055号の請求項1?3、5?7、9?11に係る特許を維持する。 特許第6547055号の請求項4、8に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6547055号は、平成30年12月14日(優先権主張 平成29年12月20日)の出願であって、令和1年6月28日にその特許権の設定登録がされ、令和1年7月17日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年 1月15日付け:特許異議申立人 埴田眞一(以下「特許異議申立人」という。)による請求項1?11に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年 3月31日付け:取消理由通知書
令和 2年 6月 2日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 7月15日付け:特許異議申立人による意見書の提出

第2.訂正請求について

1.訂正の内容

令和2年6月 2日付け訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。」)は、次の訂正事項1?10からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、「一酸化炭素、シアン成分、鉄、及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系に酸化剤を供給して」との記載を、「一酸化炭素、シアン成分、鉄、及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を供給して」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、5?7、9も同様に訂正する。)

訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1について、「前記廃水を処理する前段である前記気液固混合系において、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制することを特徴とする」との記載を、「前記廃水を処理する前段である前記気液固混合系において、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記気液固混合系から生じる前記廃水中の前記シアン成分の主をシアン化物イオンとすることを特徴とする」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、5?7、9も同様に訂正する。)

訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5が引用する請求項を、「請求項1?4のいずれか1項」から、「請求項1?3のいずれか1項」に訂正する。

訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9が引用する請求項を、「請求項1?8のいずれか1項」から、「請求項1?3、5?7のいずれか1項」に訂正する。

訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10について、「前記固液分離工程で得られる処理水の一部に酸化剤を添加する工程」との記載を、「前記固液分離工程で得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する工程」に訂正する。

訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10について、「前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用することで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給し、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する工程」との記載を、「前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用することで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給し、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記湿式集塵工程で得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする工程」に訂正する。

訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11について、「前記固液分離装置により得られる処理水の一部に酸化剤を添加する酸化剤供給装置」との記載を、「前記固液分離装置により得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する酸化剤供給装置」に訂正する。

訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11について、「前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する、排ガス処理システム」との記載を、「前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記湿式集塵装置により得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする、排ガス処理システム」に訂正する。

一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を請求項2?9が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?9に係る発明は一群の請求項である。
したがって、請求項1に係る訂正事項1、2を含む本件訂正事項1?6は、この一群の請求項について請求したものと認められる。
また、訂正事項7、8は、請求項10に係る訂正事項であり、訂正事項9、10は、請求項11に係る訂正事項である。

2.訂正の判断

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、請求項1に記載された「一酸化炭素、シアン成分、鉄、及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系に酸化剤を供給して」との記載を、「一酸化炭素、シアン成分、鉄、及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を供給して」に訂正して、シアノ錯体の生成抑制方法をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、酸化剤を過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種とすることは、本件訂正前の請求項8に記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、請求項1に記載された「前記廃水を処理する前段である前記気液固混合系において、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制することを特徴とする」との記載を、「前記廃水を処理する前段である前記気液固混合系において、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記気液固混合系から生じる前記廃水中の前記シアン成分の主をシアン化物イオンとすることを特徴とする」に訂正して、シアノ錯体の生成抑制方法をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、気液固混合系から生じる廃水中の前記シアン成分の主をシアン化物イオンとすることは、本件訂正前の請求項4に記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項2は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3、5について

訂正事項3、5は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4、6について

訂正事項4、6は、いずれも上記(3)で検討した請求項を削除する訂正事項にともない、削除した請求項を引用する請求項から削除するものであり、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項は、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、引用する請求項を削除することにより、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項7について

訂正事項7は、請求項10に記載された「前記固液分離工程で得られる処理水の一部に酸化剤を添加する工程」との記載を、「前記固液分離工程で得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する工程」に訂正し、排ガス処理方法をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、固液分離工程で得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する工程は、本件明細書の段落0028に「そのような酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。」と記載されており、さらに段落0033に「固液分離工程S4で得られる処理水W_(3)の一部に酸化剤を添加する工程S6」と記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項7は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項8について

訂正事項8は、請求項10に記載されていた「前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用することで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給し、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する工程」との記載を、「前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用することで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給し、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記湿式集塵工程で得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする工程」に訂正し、排ガス処理方法をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、湿式集塵工程で得られる集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする工程は、本件明細書の段落0044に「上述の通り、上記排ガスの処理方法及び排ガス処理システムでは、湿式集塵装置2からの集塵水W_(2)を固液分離して得られる処理水W_(3)が酸化剤を含んだ状態の処理水W_(4)となって、湿式集塵装置2における排ガスG_(1)の洗浄水W_(1)として循環使用される。そのため、排ガスG_(1)を連続的に湿式集塵処理しつつ、集塵水系(湿式集塵装置2内)における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を連続的に抑制することができる。よって、集塵水系(湿式集塵装置2)から生じる廃水(集塵水W_(2))中のシアン成分の主を、シアン化物イオンにすることが可能となり、その結果、その廃水からのシアン成分の除去処理を容易に行うことが可能となる。」と記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項8は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項9について

訂正事項9は、請求項11に記載された「前記固液分離装置により得られる処理水の一部に酸化剤を添加する酸化剤供給装置」との記載を、「前記固液分離装置により得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する酸化剤供給装置」に訂正し、排ガス処理システムをより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、固液分離装置により得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する酸化剤供給装置は、本件明細書の段落0028に「そのような酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。」と記載されており、さらに段落0034に「固液分離装置4により得られる処理水W_(3)の一部に酸化剤を添加する酸化剤供給装置6」と記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項9は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項10について

訂正事項10は、請求項11に記載されていた「前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する、排ガス処理システム」との記載を、「前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記湿式集塵装置により得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする、排ガス処理システム」に訂正し、排ガス処理システムをより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、湿式集塵装置により得られる集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとすることは、本件明細書の段落0044に「上述の通り、上記排ガスの処理方法及び排ガス処理システムでは、湿式集塵装置2からの集塵水W_(2)を固液分離して得られる処理水W_(3)が酸化剤を含んだ状態の処理水W_(4)となって、湿式集塵装置2における排ガスG_(1)の洗浄水W_(1)として循環使用される。そのため、排ガスG_(1)を連続的に湿式集塵処理しつつ、集塵水系(湿式集塵装置2内)における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を連続的に抑制することができる。よって、集塵水系(湿式集塵装置2)から生じる廃水(集塵水W_(2))中のシアン成分の主を、シアン化物イオンにすることが可能となり、その結果、その廃水からのシアン成分の除去処理を容易に行うことが可能となる。」と記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項10は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)独立特許要件について

特許異議申立ては、全ての請求項1?11についてされているので、訂正事項1?10に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.まとめ

以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕、10、11について訂正することを認める。

第3.本件発明について

本件特許の請求項1?3、5?7、9?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」、「本件発明5」?「本件発明7」、「本件発明9」?「本件発明11」といい、これらの発明をまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める(下線部は訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
一酸化炭素、シアン成分、鉄、及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を供給して、前記廃水を処理する前段である前記気液固混合系において、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記気液固混合系から生じる前記廃水中の前記シアン成分の主をシアン化物イオンとすることを特徴とする、シアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項2】
前記鉄は、前記気液固混合系において鉄(II)イオンを生じるものを含み、
前記酸化剤は、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化可能なものを含む請求項1に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項3】
前記気液固混合系における液相のpHが6.0以上である条件において前記酸化剤を用いる請求項1又は2に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項5】
前記気液固混合系が、一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを、洗浄水を用いて湿式集塵処理する場であり、
前記廃水が、前記湿式集塵処理により得られる集塵水であり、
前記湿式集塵処理する場に前記酸化剤を供給することにより、前記湿式集塵処理する場における前記鉄シアノ錯体及び前記鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する請求項1?3のいずれか1項に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項6】
前記洗浄水に前記酸化剤を含有させることにより、前記湿式集塵処理する場に前記酸化剤を供給する請求項5に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項7】
前記湿式集塵処理後の前記集塵水を固液分離処理して得られる処理水の一部が、再度、前記湿式集塵処理する場に流入して前記洗浄水として循環使用される循環水系における前記処理水に、前記酸化剤を含有させておくことにより、前記湿式集塵処理する場に前記酸化剤を供給する請求項5又は6に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項9】
前記酸化剤は、過酸化水素を含む請求項1?3、5?7のいずれか1項に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項10】
一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを湿式集塵装置により洗浄水で洗浄する湿式集塵工程と、
前記湿式集塵工程で得られる集塵水を固液分離処理する固液分離工程と、
前記固液分離工程で得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する工程と、
前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用することで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給し、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記湿式集塵工程で得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする工程と、
を含む、排ガスの処理方法。
【請求項11】
一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを洗浄水で洗浄する湿式集塵装置と、
前記湿式集塵装置により得られる集塵水を固液分離処理する固液分離装置と、
前記固液分離装置により得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する酸化剤供給装置と、
前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用させることで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給する循環機構と、を備え、
前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記湿式集塵装置により得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする、排ガス処理システム。」

第4.取消理由について

1.令和2年3月31日付け取消理由について

(1)取消理由の概要

取消理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1?7、10、11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の文献2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。

取消理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?3、5?11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(2)引用文献

文献1:特公平1-31925号公報(特許異議申立人が甲第1号証として提示した文献)
文献2:特開2013-56327号公報(特許異議申立人が甲第3号証として提示した文献)
文献3:特開2015-174949号公報

(3)引用文献の記載事項

ア.文献1

文献1には、以下の記載がある。

(ア1)
「この発明は、シアン成分を含有している排ガスを無害化処理する方法に関する。
塵埃と共に微量ではあるがシアン成分を含有する排ガスを水洗除塵した場合、除塵後の水中にシアン成分が溶入するため、環境面において排水前にシアン成分を除去する必要がある。
而して排ガス中には金属そのものや金属酸化物が含まれている場合があり、これら金属を水洗吸着すると、金属の一部は水中で溶解したり、イオン化する。この金属イオンは水中に同時に吸着されたシアンイオンと化合し、ある種のものは後述の薬剤処理による分解の困難なシアン錯イオンやロダン化等の塩類を作るためシアン除去効率を低下させる。
即ち、これら塩類は、シアン化水素の金属塩で一般式M(CN)nのものと、金属が過剰のシアンイオン(CN^(-))と結合したシアン化錯イオンの金属塩であるシアン錯塩とに大別される。前者の場合比較的酸化処理し易いが、後者の場合は溶存シアンを根絶するのが困難であり、従来の処理方法では不可能な場合さえ生じている。」(第1頁左下欄第9行?右下欄第6行)

(ア2)
「含塵排ガス中のシアン成分が水と接触し、水中においてロダン塩や錯塩となる場合、塩の生成量は時間に比例して増加することは既に説明した。
そこで本発明においては、排ガス中のシアン成分量に対応する当量のシアン除去剤を排ガスに直接吹き込んでシアン成分を分解処理することにより、後工程の湿式集塵時には処理水中にシアンイオン及びシアン塩が全く存在しないようにしたものである。
第3図に示す実験装置を用い、従来法と本発明の比較実験をした結果を以下に説明する。
第3図において、ガス導入口1からガスを吸引させ、洗滌水相当の液(pH6?8)2を入れた容器3に導いてガス中の塵埃やシアン成分等の溶入成分を吸着させる。4はドレン切ビン、5は吸引流量調整コツク、6は吸引ポンプであり、吸引洗滌後のガスは排気管7から排出する。
まずこの実験ではN_(2)、O_(2)、CO_(2)等が主体のガスに、シアン(as500mg/Nm^(3)のガス)、硫化水素(asH_(2)S5Kg/Nm^(3)のガス)及び鉄(asFe1g/Nm^(3)の微粉)を混合させた後、容器3内の水で洗滌し、処理水中にシアン5?10ppm、ロダン系シアン40?50ppm、その他シアン錯塩状シアン40?50ppmを生成させた。
かゝる条件の溶液に、従来実機で使用していると同様の薬品処理法に従い、5種の薬剤を夫々CN塩に対し当量を注入した。この実験を各薬剤につき5回ずつ行ない、処理水中の残留シアン値を測定した結果を第1表の上欄に示す。
第1表で明らかな如く、この方法では各薬剤ともシアンを完全には除去し得ないことが確認された。
次に本発明に基づき、前記従来法の実験と同じ条件のガスを第3図のガス導入口1から容器3に通過させつゝ薬剤供給管8からシアン処理剤を噴霧注入した。
なお9はコツクである。
このときの使用薬剤とその使用量は、沈澱処理法を除く従来法の場合と等しくし、4種の薬剤について各5回実験し、溶液2中のシアン残留状態を夫々測定した結果を第1表の下欄に示す。
上記実験結果によれば、本発明によりガスに直接薬剤を接触させた場合は、4種のいずれの薬剤を用いても処理水中に残留シアンが検出されず、シアン塩やロダン塩を生成しないことが証明された。このことは、水中に比しガス中でのシアン分解は、シアンイオンがシアン錯イオンやロダン化する以前に完全に分解されていることを意味する。
なお、本発明で用いるシアン酸化剤は、液状、粉状、ガス状又はこれらの混合状態のいずれでもよいが、適当な圧力で通過ガス中に噴霧すればガス中シアン成分との接触機会が増し効果的に酸化できる。」(第2頁右欄第37行?第3頁右欄第19行)

(ア3)


」(第3頁?第4頁)

(ア4)


」(第4頁)

上記(ア2)で摘示したとおり、文献1には、N_(2)、O_(2)、CO_(2)等が主体のガスにシアン、硫化水素、及び鉄粉を混合したガスを、上記(ア4)で摘示した第3図のガス導入管1から容器3の水に通過させるにあたり、過酸化水素水を薬剤供給管8から噴霧注入し、溶液2中のシアン残留状態について測定すること、及び過酸化水素水がシアン酸化剤であることが記載されている。そして、上記(ア3)で適示したとおり、溶液2中にはシアン塩やロダン塩の生成がないものである。
さらに、上記(ア2)で適示したとおり、文献1には、排ガス中のシアン成分量に対応する当量のシアン除去剤を排ガスに直接吹き込んでシアン成分を分解処理することにより、後工程の湿式集塵には、処理水中にシアンイオン及びシアン塩が全く存在しないことが記載されている。
また、上記(ア1)で適示したとおり、文献1には、排ガスを無害化処理する方法が記載されている。

したがって、文献1には、
「N_(2)、O_(2)、CO_(2)、シアン、硫化水素及び鉄粉を含む排ガスに、過酸化水素水からなるシアン酸化剤を供給し、後工程の湿式集塵において水を通過させた際に水中にシアンイオン及びシアン塩を全く存在させない排ガスの無害化処理方法。」の発明(以下、「引用発明1-1」という。)、及び
「N_(2)、O_(2)、CO_(2)、シアン、硫化水素及び鉄粉を含む排ガスに、過酸化水素水からなるシアン酸化剤を供給し、後工程の湿式集塵において水を通過させた際に水中にシアンイオン及びシアン塩を全く存在させない排ガスの無害化処理装置。」の発明(以下、「引用発明1-2」という。)が記載されている。

イ.文献2

文献2には、以下の記載がある。

(イ1)
「【0001】
本発明は、シアン含有水の処理方法及び処理装置に関するものであり、詳しくは、シアン含有水中の遊離シアンのみならず、各種のシアノ錯体をも効率的に酸化分解することができるシアン含有水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銑鉄製造に用いられる高炉から排出されるガス(高炉ガス)は、多量の粉塵と炉内での反応により生じた各種反応ガスを含むことから、湿式集塵器を通して除塵した後、有用なガスをガスホルダーに回収して再利用する方式が一般に採用されている。
【0003】
湿式集塵器で除塵に用いられた水、すなわち高炉集塵水には、鉄鉱石、コークス及び石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛及びマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁している。
【0004】
高炉集塵水に含まれる溶解・懸濁物のうち、水に溶解しないダストについては、凝集剤添加により凝集処理され、シックナーなどの沈殿槽で沈殿除去されることが多い。また、水に溶解している塩類については、高炉集塵水のpHをアルカリ性に調整して水酸化物として析出させ、ダストと共に凝集沈殿処理されることがある。通常、このような凝集沈殿処理水は、その一部又は全部がガス洗浄水として湿式集塵器に循環されるが、高炉集塵水中には、休風時および炉内温度が大きく変化する際等に、ガス中にシアンが発生してこれが水中に取り込まれ、シアン含有水となる。」

(イ2)
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来、シアン含有廃水の処理方法としては、多種多様な方法が提案されているが、いずれも、ホルムアルデヒドのように有害物質を必要とする;複数の薬剤タンクや混合タンク、注入設備等を必要とし、薬注設備費や処理設備費が高くつく;pH調整等、薬注管理や水質管理に煩雑な手間を必要とする;全シアン成分(全てのシアン化合物、即ち、遊離シアンであるシアン化物イオンとシアノ錯体の双方)を分解除去する技術がない;全シアン成分を処理できる技術では、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のための設備に広いスペースと、そのための莫大な費用と手間が必要となる;といった問題がある。
【0016】
なお、過酢酸や過酢酸塩は、廃水の酸化処理剤として公知であり、シアン化合物の酸化分解の酸化助剤として用い得ることも知られているが、過酢酸或いは過酢酸塩単独でシアン含有水中の全シアン成分の酸化分解に適用することは行なわれていない。
即ち、従来、過酢酸或いは過酢酸塩のみで、他の薬剤を併用することなく、遊離シアンのみならず、シアノ錯体をも酸化分解するという認識は全く存在しない。
【0017】
本発明は上記従来の問題点を解決し、シアン含有水中の全シアン成分を、
・ 有害な物質を必要とすることなく、安全性の高い薬剤を用いて、
・ pH調整等、煩雑な水質管理を必要とすることなく、
・ 煩雑な薬注管理や高価な薬注設備を必要とすることなく、
・ 遊離シアンのみならず難分解性のシアノ錯体をも酸化分解することにより、
シアン含有汚泥を発生させず、従ってシアン含有汚泥の沈殿分離のための設備と費用
を必要とすることなく、
効率的に処理する方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、シアン含有水の全シアン成分を過酢酸及び/又は過酢酸塩のみで、他の薬剤を併用することなく効率的に酸化分解して除去することができることを見出した。」

(イ3)
「【0033】
一方、高炉集塵水は、製鉄所の高炉ガスの湿式集塵器においてガス洗浄に用いられた高炉ガス洗浄廃水であり、通常、この廃水は、凝集沈殿処理された後、その一部又は全部がガス洗浄水として湿式集塵器に循環される。高炉集塵水中には、休風時および炉内温度が大きく変化する際等に、ガス中にシアンが発生し、集塵水中に取り込まれるため、遊離シアン、Fe、Zn等の金属のシアノ錯体が、全シアン濃度として、0.1?100mg/L程度含有されている。
【0034】
このような高炉集塵水に対する本発明によるシアン成分の酸化分解処理は、好ましくは、湿式集塵器から排出され、凝集沈殿処理槽で凝集沈殿処理されることにより高炉集塵水中の金属成分が除去された分離水に対して施される。
即ち、前述の如く、高炉集塵水中には、懸濁物質(SS)として、Fe、Zn等の金属成分が含有されているが、これらの金属成分を含む高炉集塵水に過酢酸(塩)を添加した場合、シアン以外の物質を酸化してしまい、過酢酸(塩)の酸化力が消費され、全シアン成分を効率的に酸化分解することができない。
一方で、湿式集塵器からの高炉集塵水中には、これらの金属成分が0.1?10重量%程度含まれており、通常高炉集塵水の処理設備には、これらの金属成分の凝集沈殿槽が設けられているため、本発明による酸化処理は、このような凝集処理槽で金属成分等が固液分離された分離水に対して行うことが好ましい。
【0035】
なお、高炉集塵水中の金属成分は、Fe、Zn等であるため、凝集処理を行わず、単なる沈殿槽における固液分離であっても十分に除去することができるため、凝集沈殿槽の代りに沈殿槽が設けられている高炉集塵水の処理設備であれば、この沈殿層の分離水に対して本発明を適用すればよい。
【0036】
このようにして、過酢酸(塩)の添加に先立ち、高炉集塵水中の金属成分を除去することにより、高炉集塵水中の金属成分含有量を懸濁物質(SS)濃度として100mg/L以下に低減しておくことが好ましい。
【0037】
ところで、高炉では、その休風時と炉内温度が大きく変化する時等にシアン成分が発生し、発生したシアン成分を含むガスが高炉集塵水に吸収されることにより、高炉集塵水中にシアン成分が含まれるようになる。このシアン成分を含むガスが発生する前に、予め高炉集塵水に過酢酸(塩)を添加しておくと、ガス中のシアン成分が高炉集塵水に吸収されて高炉集塵水中の他の金属成分と反応して難分解性のフェロシアンやフェリシアン等の鉄シアノ錯体を形成する前に或いは形成中に高炉集塵水中に過酢酸(塩)が共存することとなり、この結果、このようなシアン成分含有ガスを吸収することにより持ち込まれた高炉集塵水中のシアン成分の酸化分解効率を高めることができ、好ましい。」

(イ4)
「【0042】
なお、本発明による処理に供されるシアン含有水のpH値には特に制限はない。通常、一般シアン含有排水のpHは3?9程度、高炉集塵水のpHは7?9程度であり、このようなpH値のシアン含有水であれば、特にpH調整を行なうことなく、過酢酸(塩)を添加して、全シアン成分の効率的な酸化分解を行うことができる。」

(イ5)
「【0047】
図1は、このような本発明のシアン含有水のシアン処理方法を高炉集塵水の処理に適用して実施する場合に好適な本発明のシアン含有水のシアン処理装置の一例を示すものであって、湿式集塵器からの高炉集塵水は、受け入れピット1から、凝集沈殿槽2、集水ピット3を経て湿式集塵器に循環されるが、その際、集水ピット3からの流出水に対して、過酢酸(塩)タンク4より薬注ポンプPで過酢酸(塩)が添加されて、水中の全シアン成分の酸化分解が行われる。この過酢酸(塩)が添加された後の水は、別途設けた反応槽で攪拌混合してもよいが、過酢酸(塩)による全シアン成分の酸化分解の反応時間は短時間でも十分であるため、配管内での流動作用による混合によっても十分に酸化分解を行える。」

(イ6)
「【0054】
[実施例5?7、比較例4?10]
高炉の休風後、シアン含有ガスが発生する前の高炉集塵水の給水(SS濃度:56mg/L)をサンプリングし、このサンプリング水に、表2に示す薬剤を表2に示す量添加し(ただし、比較例4では薬剤添加せず。)、薬剤添加後10分後に試薬のシアン化ナトリウム(NaCN)をCNとして2.4mg/L添加し、更に60分撹拌混合した。その後、ガラスフィルター濾紙で濾過し、濾液について全シアン濃度の測定を行った。結果を表2に示す。
なお、表2において、過酢酸としては過酢酸を用い、6重量%水溶液として添加した。表2中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。また、次亜塩素酸ナトリウムは有効塩素濃度12重量%水溶液として添加した。表2中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。また、ホルムアルデヒド及び亜硫酸水素ナトリウムは、これらをそれぞれ19重量%、21重量%の濃度で含有する水溶液として添加した。表中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。
【0055】
[実施例8?10]
実施例5?7において、高炉集塵水の代りに高炉集塵水の戻り水(SS濃度:430mg/L)をサンプリングして処理したこと以外は同様に処理を行い、結果を表2に示した。
【0056】
【表2】

【0057】
表2より、本発明によれば、高炉集塵水中の全シアン成分を効率的に酸化分解して除去することができることが分かる。なお、実施例8?10と実施例5?7との対比より、原水中に、高炉集塵水由来の金属成分を含むSSが含まれていると、全シアン成分の酸化分解効果が損なわれることから、これを予め固液分離して除去しておくことが好ましいことが分かる。」

上記(イ6)で摘示した段落0054、0055及び表2には、シアン含有ガスが発生する前の高炉集塵水の給水又は高炉集塵水の戻り水に対して、過酢酸を50mg/L、100mg/L又は200mg/L添加した後にシアン化ナトリムを添加し撹拌混合した水中の全シアン化濃度は、給水においては0.1mg/L未満、戻り水においては0.9?1.4mg/Lであることが記載されている。さらに、上記(イ5)で摘示した段落0047には、湿式集塵器からの高炉集塵水は、受入れピット、凝集沈殿槽、集水ピットを経て、湿式集塵器に循環されること、及び集水ピットからの流出水に対して過酢酸を添加して、水中の全シアン成分の酸化分解を行うことが記載されている。また、上記(イ4)で摘示した段落0042には、一般的な高炉集塵水のpHは7?9程度であることが記載されている。そして、上記(イ3)で摘示した段落0033、0034には、高炉集塵水中にシアンが含まれ、さらにFeが懸濁物質として含まれることが記載されており、上記(イ1)で摘示した段落0001には、文献2に記載されている発明が、シアン含有水の処理方法であることが記載されている。
したがって、文献2には、
「受入れピット、凝集沈殿槽、集水ピットを経て、湿式集塵器に循環される高炉集塵水において、該高炉集塵水はシアン、Feを含みpHが7?9であり、高炉集塵水の集水ピットからの流出水に対して過酢酸を添加して、全シアン成分の酸化分解を行うシアン含有水の処理方法」の発明(以下、「引用発明2-1」という。)が記載されている。

また、上記(イ1)で摘示した段落0001には、文献2に記載されている発明が、シアン含有水の処理装置であることが記載されており、上記(イ5)で摘示した段落0047には、過酢酸を添加する薬注ポンプが記載されていることから、文献2には、
「受入れピット、凝集沈殿槽、集水ピットを経て、湿式集塵器に循環される高炉集塵水を有するシアン含有水の処理装置において、該高炉集塵水はシアン、Feを含みpHが7?9であり、集水ピットからの流出水に対して薬注ポンプにより過酢酸を添加して、全シアン成分の酸化分解を行うシアン含有水の処理装置。」の発明(以下、「引用発明2-2」という。)も記載されている。

ウ.文献3

文献3には、以下の記載がある。

(ウ1)
「【0028】
高炉ガス(Blast Furnace Gas)は、高炉で鉄鉱石を還元して銑鉄を製造する際に連続的に発生する副生ガスである。高炉ガス(BFG)は、COを23?30%、N_(2)を約60%、CO_(2)を10?18%の割合でそれぞれ含む。高炉ガス(BFG)の発熱量は、800kcal/Nm^(3)である。」

(4)取消理由1について

ア.本件発明1について

本件発明1と引用発明2-1を対比する。
上記(3)のイ.(イ1)で摘示した段落0002には、高炉ガスは多量の粉塵を含むものであり湿式集塵器を通して除塵することが記載されており、引用発明2-1の高炉集塵水は、シアン及びFeを含むものであるから、本件発明1における「シアン成分を含有し得る廃水」に相当し、上記(3)のウ.(ウ1)で摘示したように、高炉ガスは一般的にCO_(2)、N_(2)、COを含むものであるから、引用発明2-1の高炉ガスは、一酸化炭素を含有するものであって、引用発明2-1の湿式集塵器は、本件発明1における「一酸化炭素、シアン成分、鉄及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系」に相当する。そして、引用発明2-1の過酢酸はシアン成分を酸化分解するものであるため、本件発明1における「酸化剤」に相当する。
また、引用発明2-1の高炉集塵水は集水ピットからの流出水に対して過酢酸が添加され湿式集塵器に戻されるものであり、上記(3)のイ.(イ6)で摘示した表2には、実施例5として50mg/Lの過酢酸を添加した際の全シアン濃度が0.1mg/L未満であることから、100mg/L又は200mg/L添加した実施例6、7においては、過酢酸は高炉集塵水中に残存しているものと推認できる。さらに、上記(3)のイ.(イ3)で摘示した段落0034には、高炉集塵水にはFe、Zn等の金属成分が含まれており、これらの金属成分が含まれる高炉集塵水に過酢酸を添加するとシアン成分以外の物質を酸化してしまうことが記載されていることから、引用発明2-1においては、廃水を処理する凝集沈殿槽より前の気液固混合系において鉄イオンが酸化されるものと認められる。そして、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体は鉄イオンが存在することにより生成されるものであって、引用発明2-1の湿式集塵においては上記のとおりFeイオンが酸化されるため、Feイオンは過酢酸を添加しない場合に比べて減少しているものであるから、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体はその発生が抑制されていると認められる。してみると、引用発明2-1の高炉集塵水の集水ピットからの流出水に対して過酢酸を添加して、全シアン成分の酸化分解を行うことは、本件発明1の「廃水が生じる場である気液固混合系に酸化剤を供給して、前記廃水を処理する前段である前記気液固混合系において、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する」ことに相当する。
したがって、本件発明1と引用発明2-1とは、「一酸化炭素、シアン成分、鉄、及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系に酸化剤を供給して、前記廃水を処理する前段である前記気液固混合系において、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制することを特徴とする、シアノ錯体の生成抑制方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1
本件発明1は、酸化剤が「過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む」のに対し、引用発明2-1は、酸化剤が過酢酸である点。

相違点2-2
本件発明1は、「前記気液固混合系から生じる前記廃水中の前記シアン成分の主をシアン化物イオンとする」のに対し、引用発明2-1は、廃水中のシアン成分の主が記載されておらず不明である点。

上記相違点2-1は、実質的な相違点であることから、本件発明1は引用発明2-1と同一の発明ではなく、本件発明1は文献2に記載された発明ではない。
したがって、取消理由1に理由はない。

イ.本件発明2、3、5?7、9について

本件発明2、3、5?7、9は、本件発明1を引用し、上記相違点2-1に係る発明特定事項である酸化剤が「過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む」ことを有するものであり、当該点は、上記ア.で検討したとおり、実質的な相違点であることから、本件発明2、3、5?7、9は引用発明2-1と同一の発明ではなく、本件発明2、3、5?7、9は文献1に記載された発明ではない。
したがって、取消理由1に理由はない。

ウ.本件発明10について

引用発明2-1の湿式集塵器は、高炉ガスを湿式集塵して高炉集塵水を得るものであるから、引用発明2-1の湿式集塵器により行われる工程は、本件発明10における「一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを湿式集塵装置により洗浄水で洗浄する湿式集塵工程」に相当する。また、引用発明2-1の凝集沈殿槽による処理は、本件発明10における「前記湿式集塵工程で得られる集塵水を固液分離処理する固液分離工程」に相当する。そして、引用発明2-1は、凝集沈殿槽後の集水ピットからの流出水に対して過酢酸を添加していることから、当該工程は本件発明10における「前記固液分離工程で得られる処理水の一部に」「酸化剤を添加する工程」に相当する。さらに、過酢酸が添加された高炉集塵水は湿式集塵器に戻され、当該高炉集塵水中には過酢酸が存在することでFeイオンが酸化されて鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成が抑制されるものであることは、上記(ア)で検討したとおりであるから、引用発明2-1は、本件発明10における「前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用することで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給し、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する工程」を有するものである。
したがって、本件発明10と引用発明2-1とは、「一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを湿式集塵装置により洗浄水で洗浄する湿式集塵工程と、前記湿式集塵工程で得られる集塵水を固液分離処理する固液分離工程と、前記固液分離工程で得られる処理水の一部に酸化剤を添加する工程と、前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用することで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給し、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する工程と、を含む、排ガスの処理方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1’
本件発明10は、酸化剤が「過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む」のに対し、引用発明2-1は、酸化剤が過酢酸である点。

相違点2-2’
本件発明10は、「前記湿式集塵工程で得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化合物イオンとする」のに対し、引用発明2-1は、廃水中のシアン成分の主が記載されておらず不明である点。

上記相違点2-1’は、上記ア.の相違点2-1で検討したとおり、実質的な相違点であることから、本件発明10は引用発明2-1と同一の発明ではなく、本件発明10は文献1に記載された発明ではない。
したがって、取消理由1に理由はない。

エ.本件発明11について

引用発明2-2の湿式集塵器は、高炉ガスを湿式集塵して高炉集塵水を得るものであるから、引用発明2-2の湿式集塵器は、本件発明11における「一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを洗浄水で洗浄する湿式集塵装置」に相当し、引用発明2-2の凝集沈殿槽は、本件発明11における「前記湿式集塵装置により得られる集塵水を固液分離処理する固液分離装置」に相当する。そして、引用発明2-2は、凝集沈殿槽後の集水ピットからの流出水に対して薬注ポンプにより過酢酸を添加していることから、引用発明2-2の薬注ポンプは、本件発明11における「前記固液分離装置により得られる処理水の一部に」「酸化剤を添加する酸化剤供給装置」に相当する。さらに、引用発明2-2の高炉集塵水は受入れピット、凝集沈殿槽、集水ピットを経て、湿式集塵器に循環されるものであるから、引用発明2-2は、本件発明11における「前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用させることで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給する循環機構」を備えるものである。また、過酢酸が添加された高炉集塵水は湿式集塵器に戻され、当該高炉集塵水中には過酢酸が存在することでFeイオンが酸化されて鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成が抑制されるものであることは、上記(ア)で検討したとおりであるから、引用発明2-2は、本件発明11における「前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する」ものである。
したがって、本件発明11と引用発明2-2とは、「一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを洗浄水で洗浄する湿式集塵装置と、前記湿式集塵装置により得られる集塵水を固液分離処理する固液分離装置と、前記固液分離装置により得られる処理水の一部に酸化剤を添加する酸化剤供給装置と、前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用させることで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給する循環機構とを備え、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する、排ガス処理システム。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1’’
本件発明11は、酸化剤が「過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む」のに対し、引用発明2-2は、酸化剤が過酢酸である点。

相違点2-2’’
本件発明11は、「前記湿式集塵装置により得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化合物イオンとする」のに対し、引用発明2-2は、廃水中のシアン成分の主が記載されておらず不明である点。

上記相違点2-1’’は、上記ア.の相違点2-1で検討したとおり、実質的な相違点であることから、本件発明11は引用発明2-1と同一の発明ではなく、本件発明11は文献1に記載された発明ではない。
したがって、取消理由1に理由はない。

オ.特許異議申立人の主張について

令和2年7月15日付け意見書における、特許異議申立人の新規性に係る主張は、要するに、以下の(i)及び(ii)のとおりである。

(i)文献2には、酸化剤として次亜塩素酸塩が記載されており、過酸化水素を用いることは公知技術であるから、本件発明1は文献2に記載の発明と同一である。(第3頁第4行?第9行)
(ii)本件発明の「気液固混合系」は、文献2の「集塵水系」そのものである。(第3頁第10行?第12行)

特許異議申立人の上記主張について検討すると、文献2に記載された発明が、酸化剤として過酢酸及び/又は過酢酸塩のみを用いることであることは、上記1.(4)ア.で検討したとおりであるから、酸化剤として次亜塩素酸塩を用いることが文献2に記載されているとしても、文献2に記載された発明において、酸化剤を過酢酸及び/又は過酢酸塩から、次亜塩素酸塩又は過酸化水素に変更することには、阻害要因が存在する。
さらに、次亜塩素酸ナトリウムを酸化剤として添加することが記載されている、文献2の比較例5?7(上記第4の1.(3)イ.(イ6)参照。)を引用発明とした場合についても検討する。
文献2の比較例5?7は、次亜塩素酸ナトリウムを50mg/L、100mg/L及び200mg/L添加するものであるが、添加後においても全シアンは2.2?2.4mg/Lの濃度で残存しており、湿式集塵器に循環される水中には次亜塩素酸ナトリウムが残存しているとは推認できないから、比較例5?7は、湿式集塵器中の気液混合系に酸化剤が供給されていると推認することもできない。
したがって、文献2の比較例5?7を引用発明とした場合においても、本件発明1?3、5?7、9?11は、文献2に記載された発明といえない。また、本件発明1?3、5?7、9?11は、文献2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

カ.小括

以上で検討したとおり、本件発明1?3、5?7、9?11に係る発明は、文献2に記載された発明ではないから、取消理由1に理由はない。

(5)取消理由2について

ア.本件発明1について

本件発明1と引用発明1-1を対比する。
引用発明1-1の排ガスは、シアン成分及び鉄微粉を含むものであり、引用発明1-1の排ガスの無害化処理方法は、当該排ガスを水に通過させて廃水を得るものであるため、気体(排ガス)、液体(水)及び固体(鉄微粉)が共存するものであって、引用発明1-1の「N_(2)、O_(2)、CO_(2)、シアン、硫化水素及び鉄粉を含む排ガス」を「水」に「通過させ」ることは、本件発明1における「シアン成分、鉄、及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系」が存在することに相当する。
また、引用発明1-1の過酸化水素水からなるシアン酸化剤は、本件発明1における「過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤」に相当し、当該過酸化水素水は排ガス中に供給され、過酸化水素水を含む排ガスは水を通過することから、本件発明1における「気液固混合系に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を供給」することに相当する。
そして、引用発明1-1においては後工程として湿式集塵が実施され、排ガスにシアン酸化剤を供給することが湿式集塵の前段にあたり、さらに鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体はシアン化物イオンが存在することにより生成されるものである。してみると、湿式集塵において水を通過させた際に水中にシアンイオン及びシアン塩が全く存在しない引用発明1-1においては、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体はその発生が抑制されており、引用発明1-1の排ガスの無害化処理方法は、本件発明1の「鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する」「シアノ錯体の生成抑制方法」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1-1とは、「シアン成分、鉄、及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系に、過酸化水素水、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を供給して、前記廃水を処理する前段である前記気液固混合系において、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制することを特徴とする、シアノ錯体の生成抑制方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1
本件発明1は、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系が「一酸化炭素、シアン成分、鉄、及び水が共存」しているのに対して、引用発明1-1は、「シアン成分、鉄、及び水が共存」しており、一酸化炭素が共存していることが明示されていない点。

相違点1-2
本件発明1は、「前記固液混合系から生じる前記廃水中の前記シアン成分の主をシアン化物イオンとする」のに対して、引用発明1-1は、湿式集塵において水を通過させた際に水中にはシアンイオン及びシアン塩が全く存在しない点。

始めに、上記相違点1-1について検討する。
上記(3)のイ.(イ1)で摘示したように、高炉ガスは多量の粉塵を含むものであり、さらにシアンを含有するものである。ここで、高炉ガス中の粉塵には鉄粉が含まれることは当業者には周知の事項であり、上記(3)のウ.(ウ1)で摘示したように、高炉ガスは一般的にCO_(2)、N_(2)、COを含むものである。そして、シアン及び鉄粉を含む高炉ガスを湿式除塵し、シアン成分を除去することは、上記(3)のイ.(イ1)及び同(イ2)で摘示したように当業者に周知の事項である。
一方、上記(3)のア.(ア1)で摘示したように、引用発明1-1は、シアン含有水を湿式除塵すること、及びシアン成分を除去することを目的とするものである。
してみると、引用発明1-1の排ガスと高炉ガスは共にシアン成分、二酸化炭素及び鉄粉を含有し、シアン成分の除去を行うガスであるから、引用発明1-1の排ガスの無害化処理方法を高炉ガスに適用し、一酸化炭素を含む高炉ガスの無害化処理方法とすることは、当業者ならば容易に想到することができたものである。
次に、上記相違点1-2について検討する。
上記(3)のア.(ア2)には、「そこで本発明においては、排ガス中のシアン成分量に対応する当量のシアン除去剤を排ガスに直接吹き込んでシアン成分を分解処理することにより、後工程の湿式集塵時には処理水中にシアンイオン及びシアン塩が全く存在しないようにしたものである。」と記載されており、当該記載によると、引用発明1-1においては、シアン成分を分解処理することにより処理後にはシアンイオン及びシアン塩が全く存在しないものであるため、廃水中にシアン成分は存在しておらず、廃水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとすることは不可能である。
してみると、引用発明1-1において、上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到することができたものではない。
したがって、本願発明1は、文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明2、3、5?7、9について

本件発明2、3、5?7、9は、本件発明1を引用し、上記相違点1-2に係る発明特定事項である「前記固液混合系から生じる前記廃水中の前記シアン成分の主をシアン化物イオンとする」ことを有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明10について

本件発明10と引用発明1-1を対比する。
引用発明1-1の排ガスは、シアン成分及び鉄微粉を含むものであり、引用発明1-1の排ガスの無害化処理方法は、当該排ガスを水に通過させて廃水を得るものであるため、引用発明1-1の「N_(2)、O_(2)、CO_(2)、シアン、硫化水素及び鉄粉を含む排ガス」を「水」に「通過させ」ることは、本件発明10における「シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを湿式集塵装置により洗浄水で洗浄する湿式集塵工程」に相当する。
そして、引用発明1-1においては後工程として湿式集塵が実施され、排ガスにシアン酸化剤を供給することが湿式集塵の前段にあたり、さらに鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体はシアン化物イオンが存在することにより生成されるものである。してみると、湿式集塵において水を通過させた際に水中にシアンイオン及びシアン塩が全く存在しない引用発明1-1においては、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体はその発生が抑制されており、引用発明1-1の排ガスの無害化処理方法は、本件発明10の「鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する」「排ガスの処理方法」に相当する。
したがって、本件発明10と引用発明1-1とは、「シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを湿式集塵装置により洗浄水で洗浄する湿式集塵工程と、前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給し、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する工程と、を含む、排ガスの処理方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1’
本件発明10は、排ガスが「一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有」しているのに対して、引用発明1-1の排ガスは、「シアン成分、鉄、及び水」を含有しており、一酸化炭素が明示されていない点。

相違点1-3
本件発明10は、「前記湿式集塵工程で得られる集塵水を固液分離処理する固液分離工程」を有し、「前記固液分離工程で得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加」して「前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用」しているのに対して、引用発明1-1は後工程の湿式集塵における水を循環使用していることが明示されていない点。

相違点1-2’
本件発明10は、「前記湿式集塵工程で得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする」のに対して、引用発明1-1は、湿式集塵において水を通過させた際に水中にはシアンイオン及びシアン塩が全く存在しない点。

上記相違点1-2’は、上記ア.の相違点1-2で検討したとおり、当業者が容易に想到することができたものではないから、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明10は、文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明11について

本件発明11と引用発明1-2を対比する。
引用発明1-2の排ガスは、シアン成分及び鉄微粉を含むものであり、引用発明1-2の排ガスの無害化処理装置は、当該排ガスを水に通過させて廃水を得るものであるため、引用発明1-2の「N_(2)、O_(2)、CO_(2)、シアン、硫化水素及び鉄粉を含む排ガス」を「水」に「通過させ」ることは、本件発明11における「シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを洗浄水で洗浄する湿式集塵装置」が存在することに相当する。
そして、引用発明1-2においては後工程として湿式集塵が実施され、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体はシアン化物イオンが存在することにより生成されるものである。してみると、引用発明1-2の湿式集塵において水を通過させた際に水中にシアンイオン及びシアン塩が全く存在しないことから、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体はその発生が抑制されており、引用発明1-2の排ガスの無害化処理装置は、本件発明11の「鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する」「排ガス処理システム」に相当する。
したがって、本件発明11と引用発明1-2とは、「シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを洗浄水で洗浄する湿式集塵装置と、を備え、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する、排ガス処理システム。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1’’
本件発明11は、排ガスが「一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有」しているのに対して、引用発明1-2の排ガスは、「シアン成分、鉄、及び水」を含有しており、一酸化炭素が明示されていない点。

相違点1-4
本件発明11は、「前記湿式集塵装置により得られる集塵水を固液分離処理する固液分離装置と、前記固液分離装置により得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する酸化剤供給装置と、前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用させることで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給する循環機構と、を備え」るのに対して、引用発明1-2は後工程の湿式集塵における水に対しての処理が明示されていない点。

相違点1-2’’
本件発明11は、「前記湿式集塵装置により得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする」のに対して、引用発明1-2は、湿式集塵において水を通過させた際に水中にはシアンイオン及びシアン塩が全く存在しない点。

上記相違点1-2’’は、上記ア.の相違点1-2で検討したとおり、当業者が容易に想到することができたものではないから、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明11は、文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.特許異議申立人の主張について

令和2年7月15日付け意見書における、特許異議申立人の進歩性に係る主張は、要するに、以下の(iii)のとおりである。

(iii)文献1には、シアン除去剤を排ガスに直接吹き込んでシアン成分を分解処理することより、後工程の湿式集塵時には処理水中にシアンイオン及びシアン塩が全く存在しないようにしたことが記載されており、「気液固混合系から生じる廃水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする」ことを追加したとしても、容易想到性(進歩性)がないことの反論になっていない。(第3頁第21行?第26行)

特許異議申立人の上記主張について検討すると、文献1に記載された発明が、処理水中にシアンイオン及びシアン塩が全く存在しないものであることは、上記(iii)の主張で特許異議申立人も認めるとおりであって、その場合に、廃水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとすることは不可能であることは、上記1.(5)のア.で検討したとおりである。
したがって、特許異議申立人の主張する(iii)は採用しない。

カ.小括

以上で検討したとおり、本件発明1?3、5?7、9?11は、文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由2に理由はない。

第5.取消理由において、採用しなかった特許異議申立理由

特許異議申立人は、訂正前の請求項1?11に係る発明は、文献1(甲第1号証)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、同法第11条第2項の規定により、取り消されるべきものであるとの申立理由を主張している。
しかしながら、上記第4.1の(5)で検討したとおり、本件発明1?3、5?7、9?11と、文献1に記載された発明とを対比すると、少なくとも相違点1-2、相違点1-2’、あるいは、相違点1-2’’の点で相違し、これら相違点は実質的なものであるから、本件発明1?3、5?7、9?11は、文献1に記載された発明とはいえない。
よって、特許異議申立人の主張する上記申立理由に理由はない。

第6.特許異議申立人が主張するその他の取消理由について

特許異議申立人は、特許異議申立書における文献1を証拠方法とした特許法第29条第1項及び同条第2項の取消理由の他に、上記意見書において、特許法第36条第6項第2号の取消理由を主張しているため、検討する。
特許異議申立人が主張する特許法第36条第6項第2号の取消理由は、要するに、本件発明の「シアン化イオンの主をシアン化物イオンとする」との記載における「主」とは、どの程度のものであるかが本件明細書には記載されていないため不明確である、というものである。
これに対し、「主」とは、「おもなこと。肝要なこと。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」を意味し、「おもなこと」とは、一般的に対象となる物がその他の物よりも多いことを意味するものである。
してみると、本件発明における「シアン成分の主をシアン化物イオンとする」こととは、シアン成分中のシアン化物イオンがその他のシアン成分よりも多いことを意味することが自明である。
したがって、特許異議申立人が主張するように、「シアン化イオンの主」の「主」が不明確とまではいえない。

第7.むすび

以上のとおり、請求項1?3、5?7、9?11に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に請求項1?3、5?7、9?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項4、8は、訂正により削除されたため、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素、シアン成分、鉄、及び水が共存し、かつ、シアン成分を含有し得る廃水が生じる場である気液固混合系に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を供給して、前記廃水を処理する前段である前記気液固混合系において、鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記気液固混合系から生じる前記廃水中の前記シアン成分の主をシアン化物イオンとすることを特徴とする、シアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項2】
前記鉄は、前記気液固混合系において鉄(II)イオンを生じるものを含み、
前記酸化剤は、前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化可能なものを含む請求項1に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項3】
前記気液固混合系における液相のpHが6.0以上である条件において前記酸化剤を用いる請求項1又は2に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記気液固混合系が、一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを、洗浄水を用いて湿式集塵処理する場であり、
前記廃水が、前記湿式集塵処理により得られる集塵水であり、
前記湿式集塵処理する場に前記酸化剤を供給することにより、前記湿式集塵処理する場における前記鉄シアノ錯体及び前記鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制する請求項1?3のいずれか1項に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項6】
前記洗浄水に前記酸化剤を含有させることにより、前記湿式集塵処理する場に前記酸化剤を供給する請求項5に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項7】
前記湿式集塵処理後の前記集塵水を固液分離処理して得られる処理水の一部が、再度、前記湿式集塵処理する場に流入して前記洗浄水として循環使用される循環水系における前記処理水に、前記酸化剤を含有させておくことにより、前記湿式集塵処理する場に前記酸化剤を供給する請求項5又は6に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記酸化剤は、過酸化水素を含む請求項1?3、5?7のいずれか1項に記載のシアノ錯体の生成抑制方法。
【請求項10】
一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを湿式集塵装置により洗浄水で洗浄する湿式集塵工程と、
前記湿式集塵工程で得られる集塵水を固液分離処理する固液分離工程と、
前記固液分離工程で得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する工程と、
前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用することで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給し、前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記湿式集塵工程で得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする工程と、
を含む、排ガスの処理方法。
【請求項11】
一酸化炭素、シアン成分、及び鉄を含有する排ガスを洗浄水で洗浄する湿式集塵装置と、
前記湿式集塵装置により得られる集塵水を固液分離処理する固液分離装置と、
前記固液分離装置により得られる処理水の一部に、過酸化水素、次亜塩素酸塩、及び溶存酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸化剤を添加する酸化剤供給装置と、
前記酸化剤が添加された前記処理水を再度、前記洗浄水として前記湿式集塵装置に流入させて循環使用させることで前記湿式集塵装置内に前記酸化剤を供給する循環機構と、を備え、
前記湿式集塵装置内における鉄シアノ錯体及び鉄カルボニルシアノ錯体の生成を抑制し、かつ、前記湿式集塵装置により得られる前記集塵水中のシアン成分の主をシアン化物イオンとする、排ガス処理システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-29 
出願番号 特願2018-233957(P2018-233957)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C02F)
P 1 651・ 113- YAA (C02F)
P 1 651・ 851- YAA (C02F)
P 1 651・ 121- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松井 一泰  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 金 公彦
川村 裕二
登録日 2019-06-28 
登録番号 特許第6547055号(P6547055)
権利者 日鉄環境株式会社
発明の名称 シアノ錯体の生成抑制方法、排ガスの処理方法、及び排ガス処理システム  
代理人 竹山 圭太  
代理人 岡田 薫  
代理人 岡田 薫  
代理人 近藤 利英子  
代理人 菅野 重慶  
代理人 近藤 利英子  
代理人 竹山 圭太  
代理人 菅野 重慶  

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