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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1369008
異議申立番号 異議2020-700484  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-14 
確定日 2020-11-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6629632号発明「フライアッシュセメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6629632号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6629632号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年2月29日に特許出願され、令和1年12月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月15日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?4に係る特許に対して、令和2年7月14日に特許異議申立人浜俊彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

2 本件特許発明
本件特許の請求項1?4の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
セメントにフライアッシュを混合してなる混合セメントとしてのフライアッシュセメントのベースセメントとして、ボーグ式により求めたC_(3)S量が60?71%かつC_(2)S量が1%以上かつC_(3)SとC_(2)Sの合量が70?80%で、C_(3)S/C_(2)S量比が7?50のクリンカ鉱物組成を有し、遊離石灰量が1.0?4.0重量%のエーライト高含有クリンカに石膏を添加してなるセメントを用いたフライアッシュセメントに、内割で、高炉スラグ微粉末及び/又は石灰石微粉末を合量で2?10重量%添加してなるフライアッシュセメント組成物。
【請求項2】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたC_(2)S量が1?15%のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1に記載のフライアッシュセメント組成物。
【請求項3】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、C_(3)S/C_(2)S量比が7?20のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフライアッシュセメント組成物。
【請求項4】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたC_(3)A量が8?12%、C_(4)AF量が7?10%かつC_(3)AとC_(4)AFの合量が18?19%で、C_(3)A/C_(4)AF量比が0.9?1.5のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載するフライアッシュセメント組成物。」

3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証?甲第4号証を提出し、本件特許発明1?4は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである旨を主張する。
(証拠方法)
甲第1号証 K. De Weerdt et al., Hydration mechanisms of ternary
Portland cements containing limestone powder and fly
ash, Cement and Concrete Research, 2011, Vol.41,
p.279-291
甲第2号証 セメントの常識、一般社団法人セメント協会、2013年、
第13頁
甲第3号証 盛岡実他、早強セメントとフライアッシュから調製したフラ
イアッシュセメントの物性とエコロジカル評価、コンクリー
ト工学論文集、2002年、第13巻、第2号、第33?
39頁
甲第4号証 (社)セメント協会規格専門委員会、セメントのJISはこ
う変わった セメントの品質規格 改正の概要、セメント・コ
ンクリート、2009年、No.754、第1?10頁

4 甲号証の記載事項及び甲1発明について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「The effect of minor additions of limestone powder on the properties of fly ash blended cements was investigated in this study using isothermal calorimetry, thermogravimetry (TGA), X-ray diffraction (XRD), scanning electron microscopy (SEM) techniques, and pore solution analysis. The presence of limestone powder led to the formation of hemi- and monocarbonate and to a stabilisation of ettringite compared to the limestone-free cements, where a part of the ettringite converted to monosulphate. Thus, the presence of 5% of limestone led to an increase of the volume of the hydrates, as visible in the increase in chemical shrinkage, and an increase in compressive strength. This effect was amplified for the fly ash/limestone blended cements due to the additional alumina provided by the fly ash reaction.」(第279頁ABSTRACT)
(当審仮訳:この研究では、等温熱量測定、熱重量分析(TGA)、X線回折(XRD)、走査型電子顕微鏡(SEM)技術や、細孔溶液分析を使用して、フライアッシュ混合セメントに石灰石微粉末を少量添加した効果を調査した。石灰石微粉末のセメントへの添加は、無添加のセメントと比較して、ヘミ及びモノカーボネートの形成を促し、一部のエトリンガイトがモノサルフェートに変わることによりエトリンガイトを安定化させる。よって、5%の石灰石微粉末の存在は、水和量の増大をもたらし、化学収縮の増大と圧縮強度の増大となる。この効果は、フライアッシュ/石灰石微粉末を混合したセメントにおいては、フライアッシュ反応によって生じたアルミナにより増幅される。)
イ 「The aim of this paper is to find out how exactly minor additions of limestone powder affect the hydration of OPC and blended fly ash cement. In order to investigate the effect quantitatively, a multi-method approach was adopted on the four following mixes: 100% OPC, 95% OPC+5% limestone, 65% OPC+35% fly ash and 65% OPC+30% fly ash+5% limestone.」(第280頁左欄第21?26行)
(当審仮訳:本研究は、石灰石微粉末の少量添加が、OPC及びフライアッシュ混合セメントの水和にどの様な影響を及ぼすか明らかにすることを目的とする。効果を定量的に調査するために、次の4つの混合物(100%OPC、95%OPC+5%石灰石、65%OPC+35%フライアッシュ、65%OPC+35%フライアッシュ+5%石灰石)で、マルチメソッドアプローチを採用した。)
ウ 「The materials used in this study are: ordinary Portland clinker, class F siliceous fly ash (FA), limestone powder (L), natural gypsum and crystalline quartz (Q). The chemical composition determined by XRF and the physical properties of the clinker, fly ash, limestone and quartz are given in Table 1. The clinker was interground with 3.7% of natural gypsum and is further referred to as ordinary Portland cement (OPC).・・・The mineral composition of the OPC and the fly ash determined by Rietveld analysis are given in Tables 2 and 3.・・・
The experimental matrix is given in Table 4.」(第280頁左欄第28?42行)
(当審仮訳:本研究で使用された材料は、通常のポルトランドクリンカ、クラスF珪質フライアッシュ(FA)、石灰石微粉末(L)、天然石膏、結晶石英(Q)である。クリンカ、フライアッシュ、石灰石、石英のWRFで決定した化学組成と物理的特性をTable 1に示す。クリンカは、3.7%の天然石膏と粉砕され、通常のポルトランドセメント(OPC)とも呼ばれる。・・・OPCとフライアッシュの鉱物組成をリートベルト解析で測定すると、Table 2及び3のようになる。・・・
実験マトリックスをTable 4に示す。)
エ 「


(第280頁左欄)
オ 「


(第281頁左欄)
カ 「Five percent of limestone powder can have a beneficial effect on the compressive strength of OPC [13].」(第289頁右欄下から2行?末行)
(当審仮訳:石灰石微粉末の5%添加は、OPCの圧縮強度に有益な影響を及ぼす[13]。)

(2)甲1発明について
甲第1号証には、上記(1)イ?オによれば、実験マトリックスとして、ポルトランドセメント(OPC)65wt%とフライアッシュ(FA)30wt%と石灰石微粉末5wt%のセメント混合物が記載され、さらに、前記ポルトランドセメントは、ポルトランドクリンカと石膏を混合粉砕したものであることや、前記ポルトランドクリンカは、Table 1に記載された化学組成を有していることが記載されている。
また、甲第1号証には、上記(1)ウによれば、クリンカの鉱物組成が記載されているが、当該鉱物組成はリートベルト解析で測定された値であるので、ボーグ式(例えば、特開2012-91992号公報の段落【0042】参照)によって求めた鉱物組成を、Table 1に記載された化学組成から算出すると、次のとおりになる。
C_(3)S量=(4.07×60.6wt%)-(7.60×20.0wt%)
-(6.7×5.4wt%)-(1.43×3.1wt%)
-(2.85×1.5wt%)
=49.8wt%
C_(2)S量=(2.8×20.0wt%)-(0.754×49.8wt%)
=18.5wt%
C_(3)A量=(2.65×5.4%)-(1.69×3.1wt%)
=9.1wt%
C_(4)AF量=3.04×3.1wt%
=9.4wt%
したがって、これら記載を総合的に勘案すると、甲第1号証には、
「ボーグ式により求めたC_(3)S量が49.8wt%、C_(2)S量が18.5wt%、C_(3)A量が9.1wt%、C_(4)AF量が9.4wt%の鉱物組成を有し、遊離石灰が1.85wt%含有するポルトランドクリンカに石膏を混合したポルトランドセメントに、当該ポルトランドセメント65wt%に対して、フライアッシュ30wt%及び石灰石微粉末5wt%を混合した、セメント混合物。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

5 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比
甲1発明の「鉱物組成」、「ポルトランドクリンカ」、「石膏を混合した」、「ポルトランドセメント」は、それぞれ、本件特許発明1の「クリンカ鉱物組成」、「クリンカ」、「石膏を添加してなる」、「ベースセメント」に相当する。
また、甲1発明の「セメント混合物」は、ポルトランドセメントとフライアッシュを混合したものであるから、本件特許発明1の「セメントにフライアッシュを混合してなる混合セメントとしてのフライアッシュセメント」、及び、「フライアッシュセメント組成物」に相当する。
さらに、甲1発明の「C_(2)S量が18.5wt%」、「遊離石灰が1.85wt%含有する」、「石灰石微粉末5wt%を混合した」ことは、それぞれ、本件特許発明1の「C_(2)S量が1%以上」、「遊離石灰量が1.0?4.0重量%」、「内割で、高炉スラグ微粉末及び/又は石灰石微粉末を合量で2?10重量%添加してなる」ことに相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「セメントにフライアッシュを混合してなる混合セメントとしてのフライアッシュセメントのベースセメントとして、ボーグ式により求めたC_(2)S量が1%以上のクリンカ鉱物組成を有し、遊離石灰量が1.0?4.0重量%のクリンカに石膏を添加してなるセメントを用いたフライアッシュセメントに、内割で、高炉スラグ微粉末及び/又は石灰石微粉末を合量で2?10重量%添加してなるフライアッシュセメント組成物」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件特許発明1のクリンカ鉱物組成は、「C_(3)S量が60?71%」、「C_(3)SとC_(2)Sとの合量が70?80%」及び「C_(3)S/C_(2)S量比が7?50」であるのに対して、甲1発明の鉱物組成は、「C_(3)S量が49.8wt%」であり、当該C_(3)S量とC_(2)S量(18.5wt%)から算出されるC_(3)SとC_(2)Sの合量が68.3wt%(=49.8wt%+18.5wt%)、C_(3)S/C_(2)S量比が2.7(=49.8wt%/18.5wt%)となる点。
(相違点2)
本件特許発明1のクリンカは、「エーライト高含有クリンカ」であるのに対して、甲1発明のポルトランドクリンカは、C_(3)S量が49.8wt%であり、「エーライト高含有クリンカ」であることが明らかでない点。

イ 相違点1及び2の検討
甲1発明は、上記4(1)ア、イ及びカのとおり、ポルトランドセメントに石灰石微粉末を添加したときの影響を明らかにすることを目的になされたものであって、ポルトランドクリンカの化学組成及び鉱物組成の調整を目的とするものでない。そのため、甲1発明は、そもそも、当該化学組成及び鉱物組成を変更することを予定したものとは認められない。また、甲第1号証全体をみても当該変更の動機付けとなるような教示は見当たらないから、甲第2号証?甲第4号証に、上記相違点に関連する早強セメントに関する一般的な記載があったとしても、甲1発明において、ポルトランドクリンカの遊離石灰量を維持しつつ、その鉱物組成が「C_(3)S量が60?71%」、「C_(3)SとC_(2)Sとの合量が70?80%」及び「C_(3)S/C_(2)S量比が7?50」の「エーライト号含有クリンカ」となるように、C_(3)S量及びC_(2)S量を調整することは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、甲第2号証には、C_(3)S含有量が60?70%である早強セメントのクリンカが、また、甲第3号証には、フライアッシュを混合するセメントとして、普通ポルトランドセメントの代わりに早強セメントを用いることで、より高い初期強度を発現し、材齢28日での強度も十分確保できることが、それぞれ記載されていることから、甲1発明を出発点として、そのフライアッシュ混合セメントの初期強度を増大させるために、早強セメントを採用して、C_(3)S含有量を増やして、本件特許発明1をなすことは、当業者が容易になし得たことである旨を主張している(特許異議申立書第15頁第17行?第17頁第5行)。
しかしながら、上記イで検討したとおり、甲1発明のクリンカの化学組成及び鉱物組成を変更する動機付けはないし、また、甲第2号証及び甲第3号証の記載に基づき、甲1発明のクリンカのC_(3)S含有量を増やすことが当業者にとって容易に想到し得ることであるとしても、甲第2号証及び甲第3号証には、クリンカ鉱物組成のC_(3)SとC_(2)Sの合量を70?80%、C_(3)S/C_(2)S量比を7?50の数値範囲とし、かつ、遊離石灰量を1.0?4.0重量%との数値範囲とすることは記載も示唆もされていないから、申立人の上記主張は採用できない。

(2)本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4は、本件特許発明1を引用するものであって、本件特許発明1の特定事項をさらに減縮したものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-11-17 
出願番号 特願2016-37044(P2016-37044)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 金 公彦
宮澤 尚之
登録日 2019-12-13 
登録番号 特許第6629632号(P6629632)
権利者 株式会社デイ・シイ 太平洋セメント株式会社
発明の名称 フライアッシュセメント組成物  
代理人 中井 潤  

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