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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21F
管理番号 1369310
審判番号 不服2020-3379  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-11 
確定日 2021-01-12 
事件の表示 特願2017-5237号「臨界防止被覆層の形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年3月30日出願公開、特開2017-62268号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年3月22日に出願した特願2013-60118号(以下「原出願」という。)の一部を平成29年1月16日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 2月13日 :上申書、手続補正書提出
平成29年12月19日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月 9日 :意見書の提出
平成30年 7月17日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月24日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 1月18日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月21日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年 7月16日付け:拒絶理由通知書
令和元年 8月27日 :意見書の提出
令和元年12月 9日付け:拒絶査定(謄本送達日 同年同月17日 以下「原査定」という。)
令和2年 3月11日 :審判請求書の提出
令和2年 9月30日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由」という。)
令和2年10月29日 :意見書の提出

2.本願発明
本願請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、平成31年2月21日付け手続補正書により補正がされた特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(A?Dは、本願発明1を分説するために当審で付した。)。
「【請求項1】
A 熱中性子吸収材と、
セメントと、
セメント急硬材と、
を含む臨界防止被覆層を、
B 炉心溶融が生じた後、冷温停止した炉心の表面に形成し、
C 前記臨界防止被覆層を前記表面に付着させる
D ことを特徴とする臨界防止被覆層の形成方法。」

3.引用文献及び引用発明
(1)引用文献1及び引用発明
ア 当審拒絶理由で引用文献1として引用された原出願の出願前に頒布された引用文献である特開2013-15375号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば原子力プラント事故時に核燃料の反応度を抑制する技術に関する。」

(イ)「【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、炉心溶融の有無、原子炉圧力容器の損傷有無等にかかわらず核燃料の反応度を効果的に抑制できる技術の提供を目的とする。」

(ウ)「【0014】
図1(B)に示されるように、炉心溶融後に溶融核燃料12A、12Bが水没した場合、核分裂の連鎖反応が再開されて再臨界となる懸念がある。そこで、図2(C)に示すように、ノズル16から原子炉圧力容器11の内部に、散水18とともに水に不溶の中性子吸収体20を投入する。例えばノズル16に接続された配管系に中性子吸収体20を多数収容するタンクを接続し、この中性子吸収体20を冷却水とともにポンプで供給する。
【0015】
中性子吸収体20は、例えば、金属製の球殻21の内部に中性子吸収体20が充填されたものである。もしくは、中性子吸収体20を組成に含む化合物、中性子吸収体20として用いられる元素を含有するものであればよい。中性子吸収材22としては、中性子吸収断面積の大きな、ホウ素、ハフニウム、ガドリニウム、カドミウム等を成分に含むものが挙げられる。・・・
【0018】
径の異なる中性子吸収体20を混合して投入した場合、図2(D)に示すように、投入された中性子吸収体20のうち大径の中性子吸収体20Aは主に炉心支持板14上の溶融核燃料12Aに堆積し、小径の中性子吸収体20Bは主に容器下部15の溶融核燃料12Bに堆積すると考えられる。・・・
【0019】
このように、堆積した中性子吸収体20が中性子を吸収することで溶融核燃料12A、12Bの反応度が抑制され、臨界を防止することができる。」

(エ)図1、2は次のとおりである。


(オ)上記(ア)ないし(ウ)の記載を踏まえて、上記(エ)の図2(D)を見ると、中性子吸収体20A及びBは、炉心溶融後の炉心の溶融核燃料12A及び12Bのそれぞれの表面に接して堆積し被覆していることが見てとれる。
また、当該図2(D)の状態の炉心が停止していることは明らかである。

イ 上記アによれば、引用文献1には下記各事項が記載れていると認められる。
(ア)「中性子吸収材22として」「ホウ素」等「を成分に含む」「中性子吸収体20を組成に含む化合物」(【0015】)を、「溶融核燃料12Aに堆積し」、「溶融核燃料12Bに堆積する」(【0018】)ことで、「堆積した中性子吸収体20が中性子を吸収することで溶融核燃料12A、12Bの反応度が抑制され、臨界を防止することができる」(【0019】)ことは、中性子吸収材としてホウ素を成分に含む中性子吸収体を組成に含む化合物とを含む臨界を防止する堆積層を形成する方法であるといえる。

(イ)「炉心が停止した」後、「中性子吸収体20A及びBは、炉心溶融後の炉心の溶融核燃料12A及び12Bのそれぞれの表面に接して堆積し」(上記「ア」「(オ)」)しているから、臨界を防止する堆積層は、炉心溶融後の停止した炉心の溶融核燃料の表面に堆積して被覆するといえる。
また、当該臨界を防止する堆積層は、前記炉心溶融後の停止した炉心の溶融核燃料の表面に接するようになしているといえる。
さらに、堆積層は被覆するものであるから、堆積して被覆する層であるといえる。

ウ 以上ア及びイによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(aないしdは、構成AないしDに対応させて当審が付した。)。
「a 中性子吸収材としてホウ素を成分に含む中性子吸収体を組成に含む化合物を含む臨界を防止する堆積して被覆する層を、
b 炉心溶融後の停止した炉心の溶融核燃料の表面に堆積して被覆し、
c 前記臨界を防止する堆積して被覆する層が前記炉心溶融後の停止した炉心の溶融核燃料の表面に接するようになす、
d 前記臨界を防止する堆積して被覆する層を形成する方法。」

(2)引用文献2及び引用文献2に記載された技術的事項発明
ア 当審拒絶理由で引用文献2として引用された原出願の出願前に頒布された引用文献である特開平1-147399号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
(ア)「1.硼素化合物がセメント等の水硬性物質に対し5?200重量%・・・、補強繊維が0.3?5%、セメント硬化促進剤が40%以下よりなる繊維強化中性子遮蔽モルタルコンクリート。」(特許請求の範囲)

(イ)「成形はかかるモルタルペーストを所定の型枠へ流し込み、又は必要に応じ振動成形、プレス成形、遠心成型等の方法により行う。」(5頁左上欄7?9行)

イ 以上アによれば、引用文献2には、次の技術的事項(以下「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「硼素化合物、セメント、セメント硬化促進剤を含む、流し込みできる中性子遮蔽モルタルコンクリート用モルタルペースト。」

4.対比・判断
(1)対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「臨界を防止する堆積して被覆する層」は、本願発明の「臨界防止被覆層」に相当するとともに、ホウ素が熱中性子のエネルギーレベルの中性子を吸収することができることは周知の事項であり、「中性子吸収材としてホウ素を成分に含む中性子吸収体を組成に含む化合物」が、熱中性子吸収材と、当該中性子吸収体以外の化合物からなることは明らかであるから、引用発明の「中性子吸収材としてホウ素を成分に含む中性子吸収体を組成に含む化合物を含む臨界を防止する堆積して被覆する層」(構成a)は、本願発明1の「熱中性子吸収材と、セメントと、セメント急硬材と、を含む臨界防止被覆層」(構成A)と、「熱中性子吸収材と、化合物と、を含む臨界防止被覆層」(構成A´)の点で一致する。

(イ)引用発明の「炉心溶融後の停止した炉心の溶融核燃料の表面に堆積して被覆」(構成b)することは、本願発明1の「炉心溶融が生じた後、冷温停止した炉心の表面に形成」(構成B)と、「炉心溶融が生じた後、停止した炉心の表面に形成」(構成B´)の点で一致する。

(ウ)引用発明の「前記臨界を防止する堆積して被覆する層が前記炉心溶融後の停止した炉心の溶融核燃料の表面に接するようになす」(構成c)ことは、本願発明1の「前記臨界防止被覆層を前記表面に付着させる」(構成C)と、「前記臨界防止被覆層を前記表面に接するようになす」(構成C´)点で一致する。

(エ)引用発明の「前記臨界を防止する堆積して被覆する層を形成する方法」(構成d)は、本願発明1の「臨界防止被覆層の形成方法」(構成D)に相当する。

(オ)以上(ア)ないし(エ)によれば、引用発明と本願発明は、
「A´ 熱中性子吸収材と、
化合物と、
を含む臨界防止被覆層を、
B´ 炉心溶融が生じた後、停止した炉心の表面に形成し、
C´ 前記臨界防止被覆層を前記表面に接するようになす
D 臨界防止被覆層の形成方法。」
である点で一致し、下記点で相違する。

(相違点1)
「炉心溶融が生じた後、停止した炉心」が、本願発明は、「冷温」停止した炉心であるのに対して、引用発明は、このように特定されない点。

(相違点2)
臨界防止被覆層の化合物が、本願発明は、「セメントと、セメント急硬材」であって、臨界防止被覆層を冷温停止した炉心の表面に「付着させる」のに対して、引用発明は、このように特定されない点。

イ 判断
事案に鑑みて、上記相違点2から検討する。
(ア)引用発明において想定されている事故の状況について
引用文献1の【0002】、【0014】及び図2の記載に照らして、引用発明において想定されている事故の状況は、炉水から炉心が露出し、核燃料の崩壊熱により燃料棒及び制御棒が溶解した後、露出した溶融核燃料が再冠水した状況と解される。
当該状況において、中性子吸収体20は、散水18とともに、溶融核燃料12A、12Bが水没している原子炉圧力容器11の内部に投入され(【0014】及び図2)るところ、当該中性子吸収体20は、「水に不溶」(請求項1)であるため、冠水した原子炉圧力容器11の内部において、水に溶けることなく沈殿し、水中で「原子炉圧力容器内の核燃料近傍に堆積」(請求項2、【0018】)し、その結果、中性子吸収体20は、核燃料の反応度を抑制すると解される。
また、中性子吸収体20は所定の大きさを有する球体の集合体であり、堆積した状態で球体の間に隙間が存在するため、「中性子吸収体20が堆積していても、冷却水は中性子吸収体20の隙間を通って溶融核燃料12A、12Bに達して冷却することができ」るとされる(【0018】)。

(イ)引用文献2に記載された技術的事項の使用方法について
引用文献2に記載された技術的事項は、大気中で液状の組成物を型枠へ流し込み成形するという使用方法を想定したものであって、水中に投入し、炉心の表面に付着させるという使用方法は想定されていない。

(ウ)引用文献2に記載された技術的事項の適用可能性について
上記(ア)で説示したように溶融核燃料が再冠水した状況が想定される引用発明においては、中性子吸収材としてホウ素を成分に含む中性子吸収体を組成に含む化合物に代えて、引用文献2に記載された技術的事項を適用し、溶融核燃料が水没している状況にある原子炉圧力容器11の内部に投入した場合には、主成分であるセメントは水に溶け、水中に拡散するため、「水に不溶」の中性子吸収材としてホウ素を成分に含む中性子吸収体を組成に含む化合物の場合とは異なり、「原子炉圧力容器内の核燃料近傍に堆積」(引用文献1の請求項2、【0018】)させることができないと予測される。
したがって、引用発明において、中性子吸収材としてホウ素を成分に含む中性子吸収体を組成に含む化合物に代えて、引用文献2に記載された技術的事項を適用することには阻害要因が存在すると認められる。
また、引用文献1には、「上述した実施形態では、散水18及び中性子吸収体20の投入を同時に実施するように説明したが、別々に実施してもよい。また、他の実施形態として、中性子吸収体20の投入後、溶融核燃料12A,12Bを水冷で無く空気またはガス冷却とすることも可能である。」(【0025】)との記載はあるものの、具体的な実施例がなく、そもそも引用文献2に記載された技術的事項は、(水中であるか否かにかかわらず)炉心の表面に付着させるという使用方法が想定されていないのであるから、引用発明に適用する動機があったとは認められない。
よって、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

5.原査定の概要及び原査定についての判断
(1)原査定は、概略、本願発明の構成により、(きわめて複雑な表面状態を有すると考えられる)「炉心溶融」後の(冷温停止した)炉心の表面に広範囲で安定した被覆層が形成できることが技術的に明らかにされたものとは必ずしもいえないから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないし、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでもないから、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない、というものである。

(2)しかしながら、「炉心溶融が生じた後、冷温停止した炉心の表面」の状態は、本件請求人が審判請求書で釈明するとおり、どのような状態であるのか全くわからないというものではなく、ある程度、どのような状態であるのか知られていたと認められる。また、臨界防止被覆材と、被覆対象物との付着力は、親和性(液体状態では濡れ性)で決まることが技術常識であることに照らして、臨界防止被覆材が、金属から成る基材と、金属酸化物から成る基材との両方に対し、付着性が良好である(すなわち、金属と金属酸化物との両方に対し親和性が高い)のであれば、金属と金属酸化物とが雑多に混合した被覆対象物に対しても付着性が良好であると推測できる。
したがって、「炉心溶融が生じた後、冷温停止した炉心の表面」が、「きわめて複雑な表面状態」であったとしても、金属及び金属酸化物の両方に対し親和性が高い本願発明の臨界防止被覆材は、本願明細書に記載の基材の場合と同様に付着できると解することが自然であり、請求項1に係る発明の臨界防止被覆材によって発明の課題を解決できることは、当業者であれば理解できる程度であるといえる。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえず、また、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないともいえない。
以上の検討によれば、原査定を維持することはできない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。
また、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
さらに、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-12-25 
出願番号 特願2017-5237(P2017-5237)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (G21F)
P 1 8・ 121- WY (G21F)
P 1 8・ 537- WY (G21F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤原 伸二  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
井上 博之
発明の名称 臨界防止被覆層の形成方法  
代理人 名古屋国際特許業務法人  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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