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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1369386
審判番号 不服2019-8702  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-28 
確定日 2020-12-10 
事件の表示 特願2014-231382「半導体用ウエハ加工用粘着テープ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月26日出願公開,特開2016- 96239〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2014年(平成26年)11月14日を出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 6月20日付け:拒絶理由通知
平成30年 8月24日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年11月12日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知
平成30年12月28日 :意見書の提出
平成31年 3月29日付け:拒絶査定(原査定)
令和 1年 6月28日 :審判請求書
令和 2年 4月27日 :拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)
令和 2年 6月26日 :意見書,補正書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1-8(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)に係る発明は,令和 2年 6月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であるところ,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
樹脂材料と,導電性を有する第2の導電性材料とを含有する基材と,
該基材の一方の面に積層された粘着層と,
前記基材の他方の面に積層され,導電性を有する第1の導電性材料を含有する帯電防止層とを備える積層体により構成された半導体用ウエハ加工用粘着テープであって,
前記第1の導電性材料は,チオフェン骨格を有する導電性高分子であり,前記第2の導電性材料は,永久帯電防止高分子(IDP)であり,
前記基材は,その前記帯電防止層側の表面抵抗率が1.0×10^(4)(Ω/□)超1.0×10^(8)(Ω/□)以下であり,かつ,その体積抵抗率が1.0×10^(10)(Ω・m)超1.0×10^(14)(Ω・m)以下であることを特徴とする半導体用ウエハ加工用粘着テープ。」

第3 拒絶の理由
令和 2年 4月27日付けの,当審が通知した拒絶理由は,概略,次のとおりのものである。
1 理由1(実施可能要件)
請求項1には,「前記基材は,その前記帯電防止層側の表面抵抗率が1.0×10^(5)(Ω/□)以下で」ある点が記載されているが,発明の詳細な説明に,請求項1に記載された基材の「その前記帯電防止層側の表面抵抗率」をどのように測定するのか,当業者が実施できる程度に明確にかつ十分に記載されていない。
2 理由4(進歩性)
この出願の請求項1-9に係る発明は,下記の引用例1-3に記載された発明に基づいて,この出願の請求項10に係る発明は,下記の引用例1-4に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1 特開2014-133859号公報
引用例2 特開2004-035642号公報
引用例3 特開2014-207355号公報
引用例4 特開平 5-114647号公報

第4 引用例,引用発明等
1 引用例1に記載されている事項及び引用発明
ア 令和 2年 4月27日付けの当審拒絶理由に引用された特開2014-133859号公報(以下,引用例1という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同様である。)

「【0001】
本発明は,半導体装置の製造に用いられる接着シート,ダイシングテープ一体型接着シート,当該シートを用いた半導体装置の製造方法,及び,半導体装置に関する。」

「【0003】
従来,上記保護フィルムとしては,ダイシングテープ上に保護フィルムとしてのフリップチップ型半導体裏面用フィルムが積層されたダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムが存在する(例えば,特許文献1参照)。このダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムを用いた半導体装置の製造工程においては,まず,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムのフリップチップ型半導体裏面用フィルム上に半導体ウェハが貼り付けられて固定され,その状態でダイシングが行われる。これにより,半導体ウェハは,所定のサイズに個片化され,半導体チップとなる。次に,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムに固定された半導体チップをフリップチップ型半導体裏面用フィルムととともにダイシングフィルムから剥離するために,半導体チップのピックアップが行われる。」

「【0022】
(ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム)
図1で示されるように,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1は,基材31上に粘着剤層32が設けられたダイシングテープ3と,粘着剤層32上に設けられたフリップチップ型半導体裏面用フィルム(以下,「半導体裏面用フィルム」という場合がある)2とを備える構成である。なお,本発明のダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムは,図1で示されているように,ダイシングテープ3の粘着剤層32上において,半導体ウエハの貼着部分に対応する部分33のみに半導体裏面用フィルム2が形成された構成であってもよいが,粘着剤層32の全面に半導体裏面用フィルムが形成された構成でもよく,また,半導体ウエハの貼着部分に対応する部分33より大きく且つ粘着剤層32の全面よりも小さい部分に半導体裏面用フィルムが形成された構成でもよい。なお,半導体裏面用フィルム2の表面(ウエハの裏面に貼着される側の表面)は,ウエハ裏面に貼着されるまでの間,セパレータ等により保護されていてもよい。
【0023】
半導体裏面用フィルム2は,何れかの表面における表面固有抵抗値が,1.0×10^(11)Ω以下であり,好ましくは1.0×10^(10)Ω以下であり,より好ましくは1.0×10^(9)Ω以下である。半導体裏面用フィルム2が多層構造を有しており,いずれか一方の最外層に帯電防止剤が含有されている場合は,帯電防止剤が含有されている最外層の表面における表面固有抵抗値が,好ましくは1.0×10^(11)Ω以下であり,より好ましくは1.0×10^(10)Ω以下であり,さらに好ましくは1.0×10^(9)Ω以下である。また,前記表面固有抵抗値は,小さいほど好ましいが,例えば,1.0×10^(5)Ω以上,1.0×10^(6)Ω以上,1.0×10^(7)Ω以上を挙げることができる。前記表面固有抵抗値が,1.0×10^(11)Ω以下であるため,帯電し難い。従って,帯電防止効果をより発揮することができる。前記表面固有抵抗値は,実施例記載の方法により測定される値をいう。」

「【0027】
半導体裏面用フィルム2は,帯電防止剤が含有されていることが好ましい。半導体裏面用フィルム2に帯電防止剤が含有されていると,ダイシングテープ3から剥離した後も帯電防止効果を有する。その結果,ダイシングテープ3から剥離した後も,帯電による半導体素子の破壊を抑制することができる。特に,半導体裏面用フィルム2が多層構造を有しており,多層構造の半導体裏面用フィルム2におけるダイシングテープ3側の最外層に帯電防止剤が含有されていると,粘着剤層32と半導体裏面用フィルム2とを剥離した際の剥離帯電をさらに効果的に抑制することができる。
なお,基材31,及び,粘着剤層32のうちの少なくとも1つには,帯電防止剤が含有されていてもよい。基材31に帯電防止剤が含有されていると,ダイシングテープ3を固定する吸着台から取り除く際の,基材31と吸着台との間での剥離帯電を抑制することができる。特に,基材31が多層構造を有しており,多層構造の基材31の粘着剤層32側の最外層に帯電防止剤が含有されていると,基材31と粘着剤層32との双方の帯電を抑制することができる。また,多層構造の基材31の粘着剤層32とは反対側の最外層に帯電防止剤が含有されていると,基材31と吸着台との間の剥離帯電をより効果的に抑制することができる。また,粘着剤層32に帯電防止剤が含有されていると,粘着剤層32と半導体裏面用フィルム2とを剥離した際の剥離帯電をより効果的に抑制することができる。
【0028】
前記帯電防止剤としては,第4級アンモニウム塩,ピリジニウム塩,第1,第2,第3アミノ基などのカチオン性官能基を有するカチオン型帯電防止剤,スルホン酸塩や硫酸エステル塩,ホスホン酸塩,リン酸エステル塩などのアニオン性官能基を有するアニオン型帯電防止剤,アルキルベタインおよびその誘導体,イミダゾリンおよびその誘導体,アラニンおよびその誘導体などの両性型帯電防止剤,アミノアルコールおよびその誘導体,グリセリンおよびその誘導体,ポリエチレングリコールおよびその誘導体などのノニオン型帯電防止剤,更には,上記カチオン型,アニオン型,両性イオン型のイオン導電性基を有する単量体を重合もしくは共重合して得られたイオン導電性重合体(高分子型帯電防止剤)があげられる。これらの化合物は単独で使用してもよく,また2種以上を混合して使用してもよい。なかでも,高分子型帯電防止剤が好ましい。高分子型帯電防止剤を用いると,基材31又は粘着剤層32からブリードし難い。その結果,経時による帯電防止機能の低下を抑制することができる。」

「【0033】
高分子型帯電防止剤の他の例としては,たとえば,ポリアニリン,ポリピロール,ポリチオフェンなどがあげられる。」

「【0036】
ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムにおいては,基材の少なくとも一方の面上に,帯電防止剤を含有する帯電防止剤層が形成されていてもよい。図3,及び,図4は,他の実施形態に係るダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムの断面模式図である。
【0037】
図3に示すように,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム10は,基材31上に粘着剤層32が設けられたダイシングテープ3と,粘着剤層32上に設けられた半導体裏面用フィルム2と,基材31の粘着剤層32とは反対側の面上に帯電防止剤層35が形成されている。ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム10では,基材31の粘着剤層32とは反対側の面上に帯電防止剤層35が形成されているため,基材31と吸着台との間の剥離帯電をより効果的に抑制することができる。
【0038】
また,図4に示すように,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム20は,基材31上に粘着剤層32が設けられたダイシングテープ3と,基材31と粘着剤層32との間に設けられた帯電防止剤層36と,粘着剤層32上に設けられた半導体裏面用フィルム2とを備える構成である。ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム20では,基材31の粘着剤層32側の面上に,帯電防止剤層36が形成されているため,基材31と粘着剤層32との双方の帯電を抑制することができる。
【0039】
(帯電防止剤層)
帯電防止剤層35,36は,少なくとも帯電防止剤を含有する層である。帯電防止剤層35,36に含有させる帯電防止剤としては,基材31,粘着剤層32,半導体裏面用フィルム2に含有させる場合の上記帯電防止剤と同様のものを使用することができる。なお,帯電防止剤層35,36には,帯電防止剤以外に必要に応じて,バインダー成分,溶剤等を含有させてもよい。」

「【0103】
(ダイシングテープ)
前記ダイシングテープ3は,基材31上に粘着剤層32が形成されて構成されている。このように,ダイシングテープ3は,基材31と,粘着剤層32とが積層された構成を有していればよい。基材(支持基材)は粘着剤層等の支持母体として用いることができる。前記基材31は放射線透過性を有していることが好ましい。前記基材31としては,例えば,紙などの紙系基材;布,不織布,フェルト,ネットなどの繊維系基材;金属箔,金属板などの金属系基材;プラスチックのフィルムやシートなどのプラスチック系基材;ゴムシートなどのゴム系基材;発泡シートなどの発泡体や,これらの積層体[特に,プラスチック系基材と他の基材との積層体や,プラスチックフィルム(又はシート)同士の積層体など]等の適宜な薄葉体を用いることができる。本発明では,基材としては,プラスチックのフィルムやシートなどのプラスチック系基材を好適に用いることができる。このようなプラスチック材における素材としては,例えば,ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),エチレン-プロピレン共重合体等のオレフィン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA),アイオノマー樹脂,エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体,エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム,交互)共重合体等のエチレンをモノマー成分とする共重合体;ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;アクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリアミド(ナイロン),全芳香族ポリアミド(アラミド)等のアミド系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリ塩化ビニリデン;ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体);セルロース系樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂などが挙げられる。
【0104】
また基材31の材料としては,前記樹脂の架橋体等のポリマーが挙げられる。前記プラスチックフィルムは,無延伸で用いてもよく,必要に応じて一軸又は二軸の延伸処理を施したものを用いてもよい。延伸処理等により熱収縮性を付与した樹脂シートによれば,ダイシング後にその基材31を熱収縮させることにより粘着剤層32と半導体裏面用フィルム2との接着面積を低下させて,半導体素子の回収の容易化を図ることができる。
【0105】
基材31の表面は,隣接する層との密着性,保持性等を高める為,慣用の表面処理,例えば,クロム酸処理,オゾン暴露,火炎暴露,高圧電撃暴露,イオン化放射線処理等の化学的又は物理的処理,下塗剤(例えば,後述する粘着物質)によるコーティング処理を施すことができる。
【0106】
前記基材31は,同種又は異種のものを適宜に選択して使用することができ,必要に応じて数種をブレンドしたものを用いることができる。また,基材31には,帯電防止能を付与する為,前記の基材31上に金属,合金,これらの酸化物等からなる厚さが30?500Å程度の導電性物質の蒸着層を設けることができる。基材31は単層あるいは2種以上の複層でもよい。」
「【0156】
接着剤組成物溶液Fを,剥離ライナ(セパレータ)としてシリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後,130℃で2分間乾燥させることにより,厚さ(平均厚さ)20μmであり,帯電防止剤としての製品名:ペレスタット(三洋化成社製)を樹脂成分全体に対して,30重量%含有させた接着シートFを作製した。」

「【図1】



「【図3】



イ ここで、引用例1に記載されている事項を検討する。
(ア)上記段落0027には,図1に記載された「ダイシングテープ3」の「基材31」に,「帯電防止剤」が含有されていてもよい旨記載されている。
そして,段落0036-0037及び図3に記載された「ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム10」は,図1の「ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1」において,「ダイシングテープ3」の「基材31」の「粘着剤層32」とは反対側の面上に「帯電防止剤を含有する帯電防止剤層」が形成されたものであるから,図3における「基材31」にも,「帯電防止材」が含有されてもよいことは明らかである。

ウ 以上ア,イで示した事項から,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「 基材上に粘着剤層が設けられたダイシングテープと,
粘着剤層上に設けられた半導体裏面用フィルムと,
基材の粘着剤層とは反対側の面上に帯電防止剤層が形成されているダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムにおいて,
基材には,帯電防止剤が含有されてもよく,
帯電防止剤層は,帯電防止剤を含有する層であり,
基材としては,プラスチックのフィルムやシートなどのプラスチック系基材を用いること。」

(2)その他の文献に記載されている技術事項
ア 令和 2年 4月27日付けの当審拒絶理由に引用された特開2004-035642号公報(以下,引用例2という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は,上記問題点2点を解決し,半導体製造工程中における帯電の発生を防止し,該帯電による半導体デバイスの破壊および製品の劣化を防ぐことができ,尚且つエキスパンド性に優れた半導体加工用粘着シートを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは,上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果,基材フィルムの中にポリエーテルを有するものが,帯電の発生を防止すること,またポリプロピレン25?75重量部と一般式(1)で示されるポリスチレンブロック(A)と一般式(2)で示されるビニルポリイソプレンブロック(B)からなるブロック共重合体75?25重量部の混合物がエキスパンド性に優れることを見出し,この知見に基づき本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち本発明は,
(1) ポリプロピレン25?75重量部と,一般式(1)で示されるポリスチレンブロック(A)と一般式(2)で示されるビニルポリイソプレンブロック(B)とからなるブロック共重合体75?25重量部と,ポリエーテルを主成分とする高分子型帯電防止剤1?30量部との混合物からなるフィルム基材,およびベースポリマーと放射線重合性化合物と放射線重合性重合開始剤とからなる粘着剤層からなる半導体基板加工用粘着シート。
(2) ポリプロピレン25?75重量部と,一般式(1)で示されるポリスチレンブロック(A)と一般式(2)で示されるビニルポリイソプレンブロック(B)からなるブロック共重合体75?25重量部と,ポリエーテルを主成分とする高分子型帯電防止剤1?30重量部との混合物からなるフィルムと他の樹脂フィルムとからなる複層フィルム基材,およびベースポリマーと放射線重合性化合物と放射線重合性重合開始剤とからなる粘着剤層からなる半導体基板加工用粘着シートである。
【0011】
【化3】

(式(1)中,nは2以上の整数)
【0012】
【化4】

(式(2)中,nは2以上の整数)」

「【0029】
【実施例】
以下,本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが,本発明はこれらに限定するものではない。
[実施例1] アクリル酸ブチル70重量部とアクリル酸2-エチルヘキシル25重量部と酢酸ビニル5重量部とを共重合して得られた重量平均分子量500000の共重合体10重量部とアクリル酸2-エチルヘキシル50重量部とアクリル酸ブチル10重量部,酢酸ビニル37重量部,メタクリル酸2-ヒドロキシエチル3重量部とを共重合して得られた重量平均分子量300000の共重合体90重量部からなるベース樹脂100重量部に対し,放射線重合性化合物として分子量が11000の2官能ウレタンアクリレートを30重量部,分子量が500の5官能アクリレートモノマーを30重量部,放射線重合性重合開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを5重量部,ポリイソシアネート系架橋剤を6重量部を配合した粘着剤層となる樹脂溶液を,剥離処理した厚さ38μmのポリエステルフィルムに乾燥後の厚さが10μmになるように塗工し,80℃5分間乾燥した。その後, ポリプロピレン60重量部,ポリスチレンブロック(A)と一般式(2)で示されるビニルポリイソプレンブロック(B)からなるブロック共重合体40重量部,ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー ペレスタット300(株式会社 三洋化成工業製)15重量部を2軸混練機で混練した後,押出し機で押し出しし,作成した厚み90μmのシートをラミネートし,半導体加工用粘着シートを作製した。 なお以下の評価は,剥離処理したポリエステルフィルムを剥離した後に実施した。 得られた半導体加工用粘着シートを室温で7日以上成熟後,帯電時の減衰時間の測定,また実際に該シートを用い,パッケージを組み立てパッケージ破壊状況の有無を評価した。その結果を表1に示す。」

イ 以上アで示した事項から,引用例2には,次の発明(以下,「引用例2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「ポリプロピレン25?75重量部と,一般式(1)で示されるポリスチレンブロック(A)と一般式(2)で示されるビニルポリイソプレンブロック(B)とからなるブロック共重合体75?25重量部と,ポリエーテルを主成分とする高分子型帯電防止剤1?30量部との混合物からなるフィルム基材,および粘着剤層からなる半導体基板加工用粘着シート。



「半導体基板加工用粘着シートの基材に含有される高分子型帯電防止剤として,ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー ペレスタット300(株式会社 三洋化成工業製)を用いること。」

ウ 令和 2年 4月27日付けの当審拒絶理由に引用された特開2014-207355号公報(以下,引用例3という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0013】
本発明に係る半導体ウエハ用ダイシングフィルム10は,図1に例示するように基材1と,その一方の面側に形成された粘着剤層2とを有する。 基材1は,ウエハの搬送時に安定させるため,並びにダイシング後のチップ間隔を広げるためのものであり,粘着剤層2は,半導体ウエハ用ダイシングフィルム10に被着体を保持する役割を有する。」

「【0016】
(基材1)
基材1を構成する樹脂としては,放射線(可視光線,近赤外線,紫外線,X線,電子線など)を透過するものであれば特に限定されず,例えば,ポリ塩化ビニル,低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリブタジエン,ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂,エチレン・酢酸ビニル共重合体,アイオノマー,エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体,エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のオレフィン系共重合体,ポリエチレンテレフタレート,ポリスチレン,ポリスチレンとゴムの混合物,ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート系樹脂,スチレン系熱可塑性エラストマー,オレフィン系熱可塑性エラストマー,ポリビニルイソプレン,ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂や,これらの熱可塑性樹脂の混合物が用いられる。なかでも,エキスパンド性とヒゲ抑制という観点で,アイオノマー,低密度ポリエチレンやポリスチレンとゴムやエラストマーの混合物が好ましい。」

「【0018】
さらに,基材1は,本発明の効果を損なわない範囲で,目的に合わせて,各種樹脂や添加剤等を添加することができる。例えば,帯電防止性を付与するために,ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマーやポリエーテルエステルアミドブロックポリマー等の高分子型帯電防止剤やカーボンブラック等が添加可能な材料として挙げられる。なお,帯電防止効果を付与する場合においては,オレフィン系樹脂との相溶性という観点からは,ポリエーテル/ポリオレフィン共重合体を用いたイオン伝導型帯電防止剤が好ましい。」

「【0034】
(実施例1)
<ダイシングテープの作製>
基材を構成する材料として,低密度ポリエチレンF522N(宇部丸善ポリエチレン製)85重量部とペレスタット230(三洋化成工業製)15重量部を準備し,両者をドライブレンドしたのち,Φ50mm押出機(L/D=25 ユニメルトピンスクリュー スクリュー圧縮比=2.9),300mm幅のコートハンガーダイ(リップ間隙=0.5mm),押出温度=220℃(スクリュー先端)の条件で押出製膜し,厚み100μmのシートを得た。その後,粘着剤塗工面にコロナ処理を施した。」

「【図1】



エ 以上ウで示した事項から,引用例3には,次の発明(以下,「引用例3記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「基材1と,その一方の面側に形成された粘着剤層2とを有する半導体ウエハ用ダイシングフィルムにおいて,
基材1を構成する樹脂に帯電防止性を付与するために,ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマーやポリエーテルエステルアミドブロックポリマー等の高分子型帯電防止剤添加することができ,高分子型帯電防止剤としてペレスタット230(三洋化成工業製)を用いること。」

第5 当審の判断
1 理由1について
(1)本願の発明の詳細な説明には,次の内容が記載されている。

「【0179】
1.原材料の準備
まず,各実施例および各比較例の半導体用ウエハ加工用粘着テープの製造に用いた原材料を以下に示す。
【0180】
(樹脂材料1)
樹脂材料1として,ポリプロピレン60重量部と,下記一般式(1)で示されるポリスチレンセグメントと下記一般式(2)で示されるビニルポリイソプレンセグメントとから成るブロック共重合体40重量部とを含有するものを用意した。
【0181】
【化3】

(式(1)中,nは2以上の整数)
【0182】
【化4】

(式(2)中,nは2以上の整数)」

「【0190】
(第2の導電性材料)
第2の導電性材料(高分子型帯電防止剤)として,ペレスタット300(三洋化成社製)を用意した。」

「【0192】
2.半導体用ウエハ加工用粘着テープの作製
[実施例1]
樹脂材料1(90重量部)と,第2の導電性材料(10重量部)とを2軸混練機で混練した後,混練したものを押出し機で押し出して,厚さ100μmの基材4を作製した。
【0193】
次に,ベース樹脂1(100重量部),硬化性樹脂1(ベース樹脂100重量部に対して140重量部),架橋剤1(ベース樹脂100重量部に対して5重量部)および光重合開始剤1(ベース樹脂100重量部に対して3重量部)が配合された樹脂組成物を含有する液状材料を作製した。この液状材料を,乾燥後の粘着層2の厚さが10μmになるようにして基材4にバーコート塗工した後,80℃で10分間乾燥させて,基材4の一方の面に粘着層2を形成した。
【0194】
次に,第1の導電性材料1を,乾燥後の帯電防止層3の厚さが0.3μmになるようにして基材4の粘着層2の反対側の面にバーコート塗工した後,80℃で10分間乾燥させて,基材4の他方の面に帯電防止層3を形成して実施例1の粘着テープ100を得た。」

「【0210】
[比較例1]
樹脂材料1(90重量部)と,第2の導電性材料(10重量部)とを2軸混練機で混練した後,混練したものを押出し機で押し出して,厚さ100μmの基材4を作製した。
【0211】
次に,ベース樹脂1(100重量部),硬化性樹脂1(ベース樹脂100重量部に対して140重量部),架橋剤1(ベース樹脂100重量部に対して5重量部)および光重合開始剤1(ベース樹脂100重量部に対して3重量部)が配合された樹脂組成物を含有する液状材料を作製した。この液状材料を,乾燥後の粘着層2の厚さが10μmになるようにして基材4にバーコート塗工した後,80℃で10分間乾燥させて,基材4の一方の面に粘着層2を形成して比較例1の粘着テープ100を得た。」

「【0216】
3.評価
得られた各実施例および各比較例の半導体用ウエハ加工用粘着テープを,以下の方法で評価した。
【0217】
3-1.基材の抵抗率の評価
各実施例および比較例の半導体用ウエハ加工用粘着テープについて,その基材4における帯電防止層3側の表面抵抗率および基材4における体積抵抗率を,それぞれ,JIS K 6911に従って,抵抗値測定装置(アドバンテスト社製,「R8340」)を用いて測定した。」

「【0222】
【表1】

【0223】
表1に示したように,各実施例の半導体用ウエハ加工用粘着テープでは,基材4の帯電防止層3側(粘着層2と反対側の面)の表面抵抗率が1.0×10^(8)(Ω/□)以下に設定されており,これにより,半導体用ウエハの貼付時におけるテープ電位を20V以下とすることができ,半導体用ウエハの貼付時における半導体用ウエハ7での静電気の発生を抑制することができた。
【0224】
これに対して,各比較例の半導体用ウエハ加工用粘着テープでは,基材4の帯電防止層3側(粘着層2と反対側の面)の表面抵抗率を1.0×10^(8)(Ω/□)以下に設定することができず,そのため,半導体用ウエハの貼付時におけるテープ電位が120V以上となり,半導体用ウエハの貼付時に半導体用ウエハ7おいて静電気が生じる結果となった。」

(2)特許法第36条第4項第1号違反について
ア 本願発明1には,「前記基材は,その前記帯電防止層側の表面抵抗率が1.0×10^(4)(Ω/□)超1.0×10^(8)(Ω/□)以下であ」ると特定されている。

イ また,本願の発明の詳細な説明の段落0192-0194には,実施例1として,「樹脂材料1(90重量部)と,第2の導電性材料(10重量部)とを2軸混練機で混練した後,混練したものを押出し機で押し出して,厚さ100μmの基材4を作製した」ことが,また,発明の詳細な説明の段落210-0211には,比較例1として,「樹脂材料1(90重量部)と,第2の導電性材料(10重量部)とを2軸混練機で混練した後,混練したものを押出し機で押し出して,厚さ100μmの基材4を作製した」と,実施例1と同様の材料を用いて同様の製造方法により作成された基材を用いることが記載されている。
ここで,同様の材料を用いて同様の製造方法により作成された基材は,同様の特性を有するのが技術常識であるから,実施例1及び比較例1においても,同様の表面抵抗率を有しているものと認められる。

ウ しかしながら、本願の発明の詳細な説明の段落0222の表1には,実施例1の表面抵抗率が「E+05Ω/□」であり,比較例1の表面抵抗率が「E+10Ω/□」であること,すなわち,同様の材料を用いて同様の製造方法により作成された同様の基材である,実施例1と比較例1との基材の表面抵抗率が異なることが記載されている。

エ すると,実施例1と比較例1とでは,表面抵抗率の測定手法や条件等が異なると認められるが,本願の発明の詳細な説明の段落0217には,「各実施例および比較例の半導体用ウエハ加工用粘着テープについて,その基材4における帯電防止層3側の表面抵抗率および基材4における体積抵抗率を,それぞれ,JIS K 6911に従って,抵抗値測定装置(アドバンテスト社製,「R8340」)を用いて測定した」ことのみが記載されており,
その測定手法や条件について,具体的な記載はない。

オ 以上から,本願発明1の,当該測定に基づいた「その前記帯電防止層側の表面抵抗率が1.0×10^(4)(Ω/□)超1.0×10^(8)(Ω/□)以下であ」る基材を備える積層体により構成された半導体用ウエハ加工用粘着テープを,本願の発明の詳細な説明の記載に基づいて,当業者が作製することができない。

カ なお,請求人は令和 2年 6月26日付けの意見書において,「ここで,本願明細書の段落番号0192?0194に記載された実施例1と,段落番号0210,0211に記載された比較例1とでは,ともに,主たる製造方法を明細書中において記載しており,それらが共通した記載となっている。しかしながら,より具体的には,実施例1では,押し出し機で押し出されたものの表面に対して,第2の導電性材料をコートして基材4を得ることで,10^(5)(Ω/□)オーダーの基材4を実現している。これに対して,比較例1では,押し出し機で押し出されたものの表面に対する,第2の導電性材料のコートを省略したものを基材4として用いることから,10^(5)(Ω/□)オーダーとすることができず10^(10)(Ω/□)オーダーのように表面抵抗率が高い基材4となっている。
そして,このようにして得られた基材4について,帯電防止層3を有する積層体とすることなく,基材4と粘着層2との積層体とした状態で,以下に添付した添付文書Aに記載の表面抵抗率測定方法に基づいて,2枚のリング電極で,この積層体を挟み,基材4側のみに電圧をかかることで,基材4の表面抵抗率を測定することができる。」と主張している。

キ しかしながら,本願の発明の詳細な説明には,「実施例1では,押し出し機で押し出されたものの表面に対して,第2の導電性材料をコートして基材4を得ること」は何ら記載されておらず,この点が,出願時の技術常識であるとも認められない。
すると,意見書の主張を参酌しても,本願の発明の詳細な説明の記載に基づいて,「その前記帯電防止層側の表面抵抗率が1.0×10^(4)(Ω/□)超1.0×10^(8)(Ω/□)以下であ」る基材を備える積層体により構成された半導体用ウエハ加工用粘着テープを,当業者が作製することができない。

ク したがって,本願明細書は,本願発明1を実施し得る程度に記載されたものではない。

2 理由4について
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

(ア)引用発明の「基材」に含有される「帯電防止剤」は,本願発明1の「第2の導電性材料」と,「帯電防止剤」である点で一致する。
そして,引用発明の「基材」は,「帯電防止剤が含有され」,「プラスチックのフィルムやシートなどのプラスチック系基材を用いること」から,本願発明1の「基材」と,「樹脂材料と,帯電防止剤とを含有する基材」である点で一致する。

(イ)引用発明において「基材上に粘着剤層が設けられ」ているから,引用発明の「粘着剤層」が,本願発明1の「該基材の一方の面に積層された粘着層」に相当する。

(ウ)引用発明の「帯電防止剤層」に含有される「帯電防止剤」は,本願発明1の「第1の導電性材料」と,「帯電防止剤」である点で一致する。
そして,引用発明の「帯電防止剤層」は,「基材の粘着剤層とは反対側の面上に形成」されており,「帯電防止剤を含有する層」であるから,本願発明1の「帯電防止層」と,「前記基材の他方の面に積層され,帯電防止剤を含有する帯電防止層」である点で一致する。

(エ)引用発明の「ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム」は,「その状態でダイシングが行われ」るものであり,引用発明の「基材」,「粘着剤層」,「帯電防止層」が積層体を構成することは明らかであるから,
本願発明1と引用発明とは,「積層体により構成された半導体用ウエハ加工用粘着テープ」である点で一致する。

(オ)したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「 樹脂材料と,帯電防止剤とを含有する基材と,
該基材の一方の面に積層された粘着層と,
前記基材の他方の面に積層され,帯電防止剤を含有する帯電防止層とを備える積層体により構成された半導体用ウエハ加工用粘着テープ。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は,基材に含有される第2の導電性材料が「永久帯電防止高分子(IDP)」と特定されているのに対し,引用発明では「帯電防止剤」ではあるものの,そのように特定されていない点。
(相違点2)本願発明1は,帯電防止層に含有される第1の導電性材料が「チオフェン骨格を有する導電性高分子」であると特定されているのに対し,引用発明では「帯電防止剤」ではあるものの,そのように特定されていない点。
(相違点3)本願発明1は,「基材の帯電防止層側の表面抵抗率が1.0×10^(4)(Ω/□)超1.0×10^(8)(Ω/□)以下であり,かつ,その体積抵抗率が1.0×10^(10)(Ω・m)超1.0×10^(14)(Ω・m)以下である」と特定されているのに対し,引用発明では表面抵抗率,体積抵抗率の数値範囲について特定されていない点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1,3について
上記相違点1,3について,まとめて検討する。
引用例1の段落0027-0028には,基材に含有させる帯電防止剤として「高分子型帯電防止剤が好ましい。」と記載されている。
ここで,引用例1の段落0156には「帯電防止剤としての製品名:ペレスタット(三洋化成社製)」と記載,また,引用例2記載事項や引用例3記載事項には,半導体用ウエハ加工用の粘着テープの基材に含有させる高分子型帯電防止剤として,「永久帯電防止高分子(IDP)」である「ペレスタット」を用いることが記載されているように,半導体用ウエハ加工用の粘着テープに含有させる高分子型帯電防止剤としての「永久帯電防止高分子(IDP)」は周知のものである。
さらに,引用例2記載事項におけるフィルム基材は,本願の実施例1に用いられた基材4と同様の樹脂材料と導電性材料を,ほぼ同様の配合で同様の製造方法により作製されており,その基材の特性は本願のものとほぼ同様の特性を有するのが技術常識であるから,引用例2記載事項の基材は,基材の帯電防止層側の表面抵抗率が1.0×10^(4)(Ω/□)超1.0×10^(8)(Ω/□)以下であり,かつ,その体積抵抗率が1.0×10^(10)(Ω・m)超1.0×10^(14)(Ω・m)以下であるといえる。
そして,引用発明の基材と引用例2記載事項におけるフィルム基材とは,どちらも,半導体ウエハ加工用の粘着テープの基材という共通の機能を有するものである。
すると,引用発明の基材に含有される導電性材料として,適宜周知の永久帯電防止高分子(IDP)を採用すると共に,引用例2記載事項の樹脂材料を採用することより,上記相違点1,3に係る発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
次に,上記相違点2について検討する。
引用例1の段落0027-0028には,基材に含有させる帯電防止剤として,「高分子型帯電防止剤が好ましい。」と記載されており,さらに段落0033には,「高分子型帯電防止剤の他の例としては,たとえば,ポリアニリン,ポリピロール,ポリチオフェンなどがあげられる。」と,高分子型帯電防止剤として,チオフェン骨格を有する導電性高分子も記載されている。
ここで,引用例1の段落0039には,「帯電防止剤層35,36に含有させる帯電防止剤としては,基材31,粘着剤層32,半導体裏面用フィルム2に含有させる場合の上記帯電防止剤と同様のものを使用することができる。」と記載されている。
そして,帯電防止層にどのような帯電防止剤を含有させるのかは,帯電防止層に含まれる高分子バインダーやその形成方法等によって当業者が最適なものを選択する設計的事項であると認められる。
以上から,引用発明において,帯電防止剤層に含有させる帯電防止剤として,「チオフェン骨格を有する導電性高分子」を採用することにより,上記相違点2に係る発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。

ウ 請求人の主張について
(ア)請求人は,令和 2年 6月26日の意見書において,「しかしながら,引用文献1では,前述の通り,帯電防止剤層35に含有させる帯電防止剤として,基材に含有させる帯電防止剤と同様のものを使用することができる点が記載されている。これに対して,引用文献2,3では,確かに,基材に含まれる導電性物質として永久帯電防止高分子が用いられることについて記載されているものの,この基材を有する半導体基板加工用粘着シートを,帯電防止剤層を備えるものとすることについては記載されていない。
このように,引用文献1と引用文献2,3とでは,粘着テープの基本構成が異なり,さらに,引用文献1では,帯電防止剤層と基材とに含有させる帯電防止剤として同様のものを使用すると言う基本概念を有していることから,当業者は,このような引用文献1に,引用文献2,3の構成を組み合わせるように動機づけられることはなく,引用文献1と引用文献2,3とを組み合わせることは,容易に想到し得ないと言える。」と主張している。

(イ)しかしながら,引用発明は,引用例1の図1に記載されているような,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムの他の実施例として,「基材」と「粘着剤層」とを備えた「ダイシングテープ」において,その基材の粘着剤層とは反対の面上に,帯電防止剤層を形成したものである。
また,引用例2,3記載事項は,どちらも,「基材」と「粘着剤層」とを備えた半導体用ウエハの加工に用いられる「粘着テープ」である。
すると,引用発明と,引用例2,3記載事項は,どちらも,「基材」と「粘着剤層」とを備えた半導体用ウエハ加工用の粘着テープであるから,粘着テープとしての基本構成は同様のものであり,十分な動機付けがあるといえる。
なお,引用例1には,段落0039に「帯電防止剤層35,36に含有させる帯電防止剤としては,基材31,粘着剤層32,半導体裏面用フィルム2に含有させる場合の上記帯電防止剤と同様のものを使用することができる。」と記載されているが,当該記載は,基材に含有させる帯電防止剤として記載した複数の帯電防止剤から,帯電防止剤層に含まれる素材やその形成方法等を参酌し,適当なものを選択して帯電防止剤層に使用するという趣旨であり,帯電防止剤層と基材とで,同じ帯電防止剤を使用するのが好適,という技術思想を意味するものでないと解される。
以上から,請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,拒絶すべきものである。
また,以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-10-07 
結審通知日 2020-10-13 
審決日 2020-10-26 
出願番号 特願2014-231382(P2014-231382)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 儀同 孝信  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 小川 将之
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 半導体用ウエハ加工用粘着テープ  
代理人 増田 達哉  

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