• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1369643
審判番号 不服2019-13637  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-11 
確定日 2020-12-23 
事件の表示 特願2017-128842「酸化スズに基づく導電膜を有する反射防止または反射コーティングを塗膜した光学物品,および製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月7日出願公開,特開2017-215591〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2012-501364号(以下「第1出願」という。)は,2010年(平成22年)3月26日(優先権主張外国庁受理 2009年3月27日 フランス)を国際出願日とする出願である。また,特願2015-167663号(以下「第2出願」という。)は,第1出願の一部を,平成27年8月27日に新たな特許出願としたものである。そして,特願2017-128842号(以下「本件出願」という。)は,第2出願の一部を平成29年6月30日に新たな特許出願としたものであって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 7月31日付け:手続補正書
平成30年 5月25日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月 5日付け:意見書
平成30年12月 5日付け:手続補正書
令和 元年 5月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年10月11日付け:審判請求書
令和 元年10月11日付け:手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項19に係る発明は,それぞれ令和元年10月11日にされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項19に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明は次のものである(以下「本願発明」という。)。なお,上記手続補正により,請求項1は補正されていない。
「 帯電防止および反射防止または反射特性を持つ光学物品で,反射防止または反射コーティングを塗工された少なくとも1つの主表面を持つ基材を有し,前記コーティングが少なくとも1つの導電層を含有し,ここに:
前記導電層が導電層の全重量に対して重量で少なくとも30%の酸化スズ(SnO_(2))を含有し,
前記導電層の堆積がイオン-アシストの下で実施されていて,さらに
前記基材の水分吸収率が前記基材の全重量に対して重量で0.6%以上であり,水分吸収率が前記基材を予備乾燥し次いで50℃で相対湿度100%および大気圧下のチャンバー内で800時間保管後に測定されたものである,
帯電防止および反射防止または反射特性を持つ光学物品。」

3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は,本件出願の請求項1?請求項19に係る発明は,その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開昭63-280790号公報
引用文献2:特開2004-341052号公報
引用文献3:国際公開第2008/001011号
引用文献4:国際公開第2009/004222号
引用文献5:特開2008-225210号公報
引用文献6:特開2005-55899号公報
引用文献7:特開2009-42278号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献1であり,引用文献2?引用文献7は,周知技術を示す文献である。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された,特開昭63-280790号公報(以下「引用文献1」という。)には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 特許請求の範囲の(1)及び(2)
「 (1) 透明基体の表面に硬化被膜を設け,さらに該被膜上にSnO_(2)を主成分としてなる層を少なくとも1層有する,2層以上の反射防止被膜を設けたことを特徴とする反射防止効果を有する帯電防止物品。
(2) 透明基体が,プラスチック成型品であることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載の反射防止効果を有する帯電防止物品。」

イ 2頁左上欄7行?右上欄12行
「3.発明の詳細な説明
[産業上の利用分野]
本発明は,眼鏡用レンズ,カメラ用レンズ,CRT用フィルター,計器盤などの光学用に適した反射防止効果を有する帯電防止物品に関する。
[従来の技術]
プラスチック成形品は,その透明性,軽量性,易加工性,耐衝撃性,染色が容易であるなどの特徴を生かして多用途に使用され近年大幅に需要が増えている。
しかし,その反面表面硬度,反射防止性,帯電防止性が不充分であった。これらの欠点の改良手段として数多くの提案がなされている。
その中で,透明な導電性を有する反射防止膜として特公昭53-28214号公報に,真空蒸着により,Inまたはその酸化物を含む反射防止膜をコートする方法が開示されている。
[発明が解決しようとする問題点]
しかしながら,この技術は,充分な密着力が得られないために被膜の剥離,表面硬度の低下さらには,Inまたはその酸化物を使用しているため屋外暴露などにより自然剥離が生じるなどの実用耐久性に乏しいという問題点がある。
本発明は,密着性,耐久性に優れた,良好な反射防止効果を有する帯電防止物品を提供することを目的とする。」

ウ 2頁左下欄1?12行
「 本発明における透明基体としては,…(省略)…とくに,基体上に硬化被膜を設けるという点からプラスチックが好ましく適用される。」

エ 2頁右下欄11?19行
「 本発明はこれらの透明基体上にまず硬化被膜を設けてなるものであるが,…(省略)…とくに表面硬度向上の点からポリシロキサン樹脂が好ましく用いられる。」

オ 4頁右下欄11?15行
「 本発明は,これらの硬化被膜上にSnO_(2)を主成分としてなる透明導電膜を少なくとも1層含む反射防止被膜を設けてなるものであるが,形成に際しては,被膜の前処理として活性化ガス処理,薬品処理などを施してもよい。」

カ 5頁左上欄17行?左下欄6行
「 つぎに本発明における,SnO_(2)を主成分としてなる透明導電膜を少なくとも1層有する,2層以上の反射防止被膜とは,SnO_(2)を60重量%以上含有してなる層を少なくとも1層有し,さらにSnO_(2)を主成分としてなる層以外に,1層以上の被膜を有する多層被膜である。ここで,透明導電膜を形成する成分において,SnO_(2)以外の添加可能な成分としては,Sb,Inなどの金属酸化物が導電性向上の点から好ましい。SnO_(2)を主成分としてなる被膜は,従来のITO膜に比べて被膜の吸収が少ないばかりか,耐候性が良好なことから屋外用途に有用である。被膜の厚さは,導電性および透明性の観点から5?500nmであることが好ましく,さらには20?300nmが好ましい。
本発明におけるSnO_(2)を主成分とする透明導電膜を形成する手段としては,液状コーティングあるいは真空蒸着,スパッタリングなどのドライコーティングが適用可能である。特に被膜の緻密性,導電性などの観点からドライコーティングが好ましく使用される。また,ドライコーティングの中でも被膜形成時間の短縮のためには真空蒸着,とくに1Å/sec?5Å/secの速度で蒸着することが透明性,導電性向上により好ましい。さらに,真空蒸着による被膜形成に際しては,酸素ガス雰囲気下での高周波放電中,好ましくは1×10^(-3)Torr以下のガス導入下での蒸着,さらに高周波放電出力を高めること,例えば50ワット以上が透明性,導電性などの観点から好ましく使用される。さらに,導電性を向上させる目的から被コーティング基体を加熱することも有効な手段である。」

キ 6頁右下欄2?16行
「 (3) プラスチック基体としてCR-39(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体)のプラノレンズを使用し,前記(2)で調製した,コーティング組成物を引き上げ速度10cm/分の速度で浸漬塗布し,次いで,82℃/12分の予備硬化を行ない,さらに100℃/4時間加熱した後,硬化被膜を有するプラスチック基体が得られた。
(4) 前記(3)によって得られた硬化被膜を有するプラスチック基体の上に無機酸化物質のSiO_(2)/ZrO_(2)の混合物,SnO_(2),SiO_(2)を真空蒸着法でこの順序にそれぞれ光学膜厚をλ/4,λ/4,λ/4(λ=521nm)に設定して多層被覆させた。得られた反射防止効果を有する帯電防止物品の反射干渉色は緑色を呈し,全光線透過率は98.0%であった。」

(2) 引用発明
引用文献1には,次の発明が記載されている。
「 光学用に適した反射防止効果を有する帯電防止物品であって,
プラスチックからなる透明基体上に硬化被膜を設けて,硬化被膜上にSnO_(2)を主成分としてなる透明導電膜を少なくとも1層含む反射防止被膜を設けてなり,
SnO_(2)を主成分としてなる透明導電膜を少なくとも1層有する反射防止被膜は,SnO_(2)を60重量%以上含有してなる層を少なくとも1層有し,さらにSnO_(2)を主成分としてなる層以外に,1層以上の被膜を有する多層被膜であり,
透明導電膜を形成する手段としては,被膜の緻密性,導電性などの観点からドライコーティングが使用される,
帯電防止物品。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 光学部品
引用発明の「帯電防止物品」は,「光学用に適した反射防止効果を有する帯電防止物品であって」,「プラスチックからなる透明基体上に硬化被膜を設けて,硬化被膜上にSnO_(2)を主成分としてなる透明導電膜を少なくとも1層含む反射防止被膜を設けてな」る。また,引用発明の「透明導電膜を形成する手段としては,被膜の緻密性,導電性などの観点からドライコーティングが使用される」。
上記の構成からみて,引用発明の「帯電防止物品」は,「帯電防止」及び「反射防止」という特性を具備する「光学」「物品」である。また,上記「透明基体」及び「反射防止被膜」の積層関係からみて,引用発明の「透明基体」は,反射防止皮膜が設けられた表面を持つといえる。そして,この表面を「主表面」と称することは当業者の随意である。加えて,本願発明でいう「コーティング」及び「塗工」は,「被膜」及び「ドライコーティング」を含む意味のものと理解される。
以上勘案すると,引用発明の「帯電防止物品」,「反射防止被膜」,「透明基体」及び「透明導電膜」は,それぞれ本願発明の「光学物品」,「コーティング」,「基材」及び「導電層」に相当する。また,引用発明の「透明基体」は,本願発明の「基材」における「反射防止または反射コーティングを塗工された少なくとも1つの主表面を持つ」という要件を満たす。さらに,引用発明の「反射防止被膜」は,本願発明の「コーティング」における「少なくとも1つの導電層を含有し」という要件を満たす。加えて,引用発明の「帯電防止物品」は,本願発明の「光学物品」における「帯電防止および反射防止または反射特性を持つ」及び「反射防止または反射コーティングを塗工された少なくとも1つの主表面を持つ基材を有し」という要件を満たす。

イ 酸化スズ(SnO_(2))
引用発明の「SnO_(2)を主成分としてなる透明導電膜を少なくとも1層有する反射防止被膜は,SnO_(2)を60重量%以上含有してなる層を少なくとも1層有し」ている。
上記構成からみて,引用発明の「透明導電膜」は,透明導電膜の全重量に対して少なくとも30重量%の酸化スズを含有すると理解される。
そうしてみると,引用発明の「透明導電膜」は,本願発明の「導電層」における「導電層の全重量に対して重量で少なくとも30%の酸化スズ(SnO_(2))を含有し」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 帯電防止および反射防止または反射特性を持つ光学物品で,反射防止または反射コーティングを塗工された少なくとも1つの主表面を持つ基材を有し,前記コーティングが少なくとも1つの導電層を含有し,ここに:
前記導電層が導電層の全重量に対して重量で少なくとも30%の酸化スズ(SnO_(2))を含有する,
帯電防止および反射防止または反射特性を持つ光学物品。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する,又は,一応相違する。
(相違点1)
「光学物品」が,本願発明は,「前記導電層の堆積がイオン-アシストの下で実施されていて」という製造方法によって特定される構成を具備する物であるのに対して,引用発明は,「被膜の緻密性,導電性などの観点からドライコーティングが使用される」と特定される構成を具備する物である点。

(相違点2)
「基材」が,本願発明は,「水分吸収率が前記基材の全重量に対して重量で0.6%以上であり,水分吸収率が前記基材を予備乾燥し次いで50℃で相対湿度100%および大気圧下のチャンバー内で800時間保管後に測定されたものである」という要件を満たすものであるのに対して,引用発明の「透明基体」は,一応,これが明らかではない点。

(3) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「透明導電膜を形成する手段としては,被膜の緻密性,導電性などの観点からドライコーティングが使用される」ものであるから,引用発明の「ドライコーティング」を具体化する当業者ならば,「被膜の緻密性,導電性などの観点から」最適な方法を創意工夫するといえる。
ところで,本件優先日前の当業者ならば,「イオン-アシストによる蒸着が,被膜の緻密性,導電性などを高めること」を周知技術として心得ている。
(当合議体注:上記周知技術を例示するものとして,原査定の拒絶の理由において引用文献2として挙げられた特開2004-341052号公報(以下「周知例1」という。)の【請求項1】及び【0065】?【0068】,同じく引用文献3として挙げられた国際公開第2008/001011号(以下「周知例2」という。)の13頁21?29行,同じく引用文献4として挙げられた国際公開第2009/004222号(以下「周知例3」という。)の11頁26?30行及び14頁4?7行,特開2008-185568号公報(以下「周知例4」という。)の【0031】,特開2003-84105号公報(以下「周知例5」という。)の【0011】,国際公開第2008/27225号(以下「周知例6」という。)の[0004],特開2007-270336号公報(以下「周知例7」という。)の【0047】及び【0048】,特開2007-63574号公報(以下「周知例8」という。)の【0003】,並びに,特開2005-42132号公報(以下「周知例9」という。)の【0044】を参照。)
そうしてみると,引用発明の「ドライコーティング」として,イオン-アシストによる蒸着を採用することにより,「前記導電層の堆積がイオン-アシストの下で実施されていて」という製造方法によって特定される構成を具備する物とすることは,周知技術を心得た当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

イ 相違点2について
引用発明の「透明基体」は,「プラスチックからなる」。
そうしてみると,引用発明の「透明基体」が「水分吸収率が前記基材の全重量に対して重量で0.6%以上であり,水分吸収率が前記基材を予備乾燥し次いで50℃で相対湿度100%および大気圧下のチャンバー内で800時間保管後に測定されたものである」という要件を満たすものであることは,技術的にみて明らかである。
例えば,引用文献1の実施例(前記1(1)キ参照)においては,「透明基体」として「CR-39」,すなわち,本件出願の明細書の【0158】の【表1】において水分吸収率が1.7%とされる「ORMA」と同一材料のものが開示されている(当合議体注:「ORMA」と「CR-39」の同一性については,本願明細書の【0043】の記載からも確認できる。)。
相違点2は,相違点ではない。

仮に相違するとしても,引用発明の「透明基体」として,「ORMA」等のプラスチックレンズ基材を使用し,相違点2に係る本願発明の要件を満たすものとすることは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項である。

(4) 審判請求人の主張に関して
ア 発明の効果について
審判請求人は審判請求書(令和元年11月21日にした手続補正後のもの,以下同じ。)の2.b)において,本件出願の明細書の【0093】の記載を挙げて,イオン-アシストがSnO_(2)ベース層の可視域の吸収を低減させる効果があると主張する。
しかしながら,本件出願の明細書の【0018】?【0020】,【0056】,【0080】及び【0116】?【0118】の記載から理解されるとおり,イオン-アシストによる効果は,経時的な表面欠陥のない良好な被膜を作ることにあり,可視域の吸収を低減させる効果は,ITOではなくSnO_(2)を採用したことにより得られる効果と理解される。そして,本件出願の明細書には,例えば,SnO_(2)を採用しつつ,イオン-アシストを用いた場合と用いない場合とを比較し,イオン-アシストを用いた場合の方が可視域の吸収を低減させる効果があったとする実験結果は何ら示されていない。
請求人の主張は,本件出願の明細書の記載に基づくものではない。

さらにすすんで検討すると,例えば,周知例6の[0004]には,イオン-アシストにより膜が緻密となり,堆積された膜の透明性が改善されることが記載されている。
そして,引用文献1の5頁右上欄5?8行に「SnO_(2)を主成分としてなる被膜は,従来のITO膜に比べて被膜の吸収が少ないばかりか,耐候性が良好なことから屋外用途に有用である。」と記載されているとおり,引用発明は,透明導電膜の透明性をも考慮した発明である。
周知例6に開示された事項を考慮すると,イオン-アシストがSnO_(2)ベース層の可視域の吸収を低減させるという請求人が主張する効果は,引用発明においてイオン-アシストによる蒸着を採用する当業者が期待する効果の範囲内の事項である。

なお,本願発明が具備する構成ではないが,イオン-アシストに用いるイオン種として酸素を採用した場合に,形成される膜が酸素不足となることがなくなり,光の吸収が生じ難くなるという効果は,周知例1の【0014】及び【0015】や,周知例9の【0044】の記載からも理解される効果である。

イ 緻密化に係る問題
審判請求人は審判請求書の2.a)において,「引用文献1において,緻密化に係る問題は,ドライコーティング法を用いることによって,すでに解決されております。引用文献1において,もはや緻密化に係る問題は存在しませんので,イオンーアシスト下において,SnO_(2)層を塗布する理由はありません。」と主張する。
しかしながら,請求人が主張する引用文献1の記載は,「本発明におけるSnO_(2)を主成分とする透明導電膜を形成する手段としては,液状コーティングあるいは真空蒸着,スパッタリングなどのドライコーティングが適用可能である。特に被膜の緻密性,導電性などの観点からドライコーティングが好ましく使用される。」(前記1(1)カ参照。)というものである。
上記記載は,液状コーティングに比して,ドライコーティングの方が,被膜の緻密性,導電性などの観点から好ましいと述べているにとどまり,ドライコーティングにより緻密化に係る問題が解決されるとは記載されていない。
引用文献1の上記記載に接しドライコーティングを採用する当業者は,特に被膜の緻密性,導電性などの観点に着目していると理解されるから,引用発明の「ドライコーティング」を具体化する当業者が「被膜の緻密性,導電性などの観点から」最適な「ドライコーティング」の方法を探ることには,動機付けがあるといえる。

ウ 請求項19について
審判請求人代理人は審判請求書の2.d)において,「出願人は,審査官殿から,請求項19に係る具体的なコメントを頂くことを希望しております。」と記載している。
しかしながら,請求項19には,イオン-アシスト法において例示するまでもなく周知の事項が記載されているにとどまる。

第3 むすび
本件出願の請求項1に係る発明は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-07-17 
結審通知日 2020-07-21 
審決日 2020-08-07 
出願番号 特願2017-128842(P2017-128842)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 酸化スズに基づく導電膜を有する反射防止または反射コーティングを塗膜した光学物品、および製造方法  
代理人 伊東 秀明  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ