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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1369646
審判番号 不服2020-1293  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-30 
確定日 2020-12-23 
事件の表示 特願2017-549747「選択されたビデオセグメントの再生を提供するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月29日国際公開、WO2016/153573、平成30年 5月31日国内公表、特表2018-514127〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の概要

1 経緯
本願は、2015年(平成27年)12月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年3月24日、米国、2015年12月16日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年 4月19日付け:拒絶理由通知
令和1年 8月 7日 :意見書の提出、手続補正
同年 9月24日付け:拒絶査定
令和2年 1月30日 :審判請求、手続補正
同年 7月 2日 :上申書の提出

2 原査定の拒絶理由
(理由1)この出願の請求項1-4、9、11-13、15-18、20に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


引用文献1:特開2008-283486号公報

3 令和2年1月30日付け手続補正の内容
令和2年1月30日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、令和1年8月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項20(以下、「補正前の請求項1?補正前の請求項20」という。)を本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項20(以下、「補正後の請求項1?補正後の請求項20」という。)とするものである。
本件補正により、補正前の請求項1は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所である。)。

符号A?Eは説明のため当審で付与したものであり、以下、構成A?構成Eと称する。各請求項において同じ記載内容の構成には同じ符号を付した。

(補正前の請求項1)
「【請求項1】
(A)コンピュータ実行方法であって、
(B)コンピューティングシステムがビデオを表現する一組のビデオセグメントを識別するステップと、
(C)前記コンピューティングシステムが、1つまたは複数のオブジェクト認識プロセスを使用して前記一組のビデオセグメントから一部のビデオセグメントを選択するステップと、
(D)前記コンピューティングシステムが前記一部のビデオセグメントに関する再生シーケンスを示すリストを生成するステップと、
(E)前記コンピューティングシステムが前記リストにより示される再生シーケンスに基づいて前記一部のビデオセグメントの再生を提供するステップと
を含む
(A)コンピュータ実行方法。」

(補正後の請求項1)
「【請求項1】
(A)コンピュータ実行方法であって、
(B)コンピューティングシステムがビデオを表現する一組のビデオセグメントを識別するステップと、
(C)前記コンピューティングシステムが、1つまたは複数のオブジェクト認識プロセスを使用して前記一組のビデオセグメントから一部のビデオセグメントを選択するステップと、
(D)前記コンピューティングシステムが前記一部のビデオセグメントに関する再生シーケンスを示すリストを生成するステップと、
(E)前記コンピューティングシステムが前記リストにより示される再生シーケンスに基づいて前記一部のビデオセグメントの再生を提供するステップと
を含み、
(B1)前記ビデオは一組のイントラフレームを有することができ、
(B2)前記識別するステップは、前記一組のイントラフレームに関する情報を取得することをさらに含む、
(A)コンピュータ実行方法。」

第2 本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和2年1月30日付け手続補正(「本件補正」)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正における請求項1に係る補正事項は、以下のとおりである(以下、「補正事項ア」、「補正事項イ」という。)。

(補正事項ア)
構成B1を追加する補正

(補正事項イ)
構成B2を追加する補正

2 補正の目的
補正事項アの補正は、構成Bの「ビデオ」が、「一組のイントラフレームを有することができ」ることに限定するものである。

補正事項イの補正は、構成Bの「識別するステップ」が、「前記一組のイントラフレームに関する情報を取得することをさらに含む」ことに限定するものである。

よって、補正事項ア及びイは、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正といえ、特許法第17条の2第5項第2号の規定に該当する。

3 新規事項、発明の特別な技術的特徴の変更
補正事項ア及びイは、願書に最初に添付した明細書の段落【0022】及び【0023】に記載されているから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、新たな技術事項を導入するものでないといえるから、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するものである。

4 独立特許要件
上記2のとおり本件補正のうち請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に係る発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記第1の3の「補正後の請求項1」に記載されたとおりのものである。

(2)引用文献、引用発明
ア 引用文献1の記載事項、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2008-283486号公報)には、図面と共に次の事項(ア)?(エ)が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

(ア)(段落0001)
「【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関し、例えば、テレビジョン番組に代表される映像コンテンツを、特定の出演者が出現している部分だけを時間的に抽出して再生する場合に用いて好適な情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関する。」

(イ)(段落0026?0034)
「【0026】
図2は、本発明の一実施の形態である記録再生装置の構成例を示している。この記録再生装置1は、テレビジョン番組などの映像コンテンツを録画するコンテンツ記録部10、録画された映像コンテンツを記憶するコンテンツDB(データベース)11、録画された映像コンテンツの時系列の盛り上がり具合を検出する盛り上がり検出部12、記録再生装置1の全体を制御する制御部13、各映像コンテンツに出現する人物を検出してリスト化する人物リスト生成部14、各映像コンテンツの出現人物がリスト化されている人物リストを記憶する人物リストDB15、録画された映像コンテンツを時間的に分割する区間分割部16、分割された映像コンテンツの区切り位置を示す区間リストを記憶する区間リストDB17、特定の人物が出現する区間だけを人物リストと区間リストに基づいて抽出した人物ダイジェストプレイリストを生成するプレイリスト生成部18、生成された人物ダイジェストプレイリストを記憶するプレイリストDB19、および、人物ダイジェストプレイリストに従って映像コンテンツのダイジェスト再生を行う再生部20から構成される。
(略)
【0030】
人物リスト生成部14は、映像コンテンツの画面上から人の顔を検出、識別したり、実況や解説などの音声信号に基づいて映像コンテンツに出現している人物を検出、識別したり、あるいは文字データや画面上に重畳されているテロップ文字を解析したりして映像コンテンツに出現している人物を検出し、映像コンテンツに出現する人物とその出現時刻(映像コンテンツの先頭からの経過時刻)を対応付けて記録した人物リストを生成する。
【0031】
区間分割部16は、映像コンテンツを所定の時間毎、シーン毎、あるいはショット毎の区間に分割し、区切りの位置を示す区間リストを生成し、生成した区間リストを区間リストDB17に出力する。
【0032】
プレイリスト生成部18は、人物リストを基に注目人物を決定し、当該注目人物が出現する区間を区間リストから抽出し、抽出した区間を連結して人物ダイジェストプレイリストを生成する。
【0033】
なお、注目人物の決定には様々な条件の設定が考えられるが、映像コンテンツが例えば図2に示されたようなトーナメント戦であって、優勝者を注目人物としたい場合、出現時刻が遅く、かつ、出現頻度が最も高い人物を注目人物として選択する、あるいは出現頻度が高く、出現時刻が最も遅い人物を注目人物として選択するようにすればよい。また、映像コンテンツに登場する人物の顔の一覧をユーザに提示して、注目人物をユーザに選択させるようにしてもよい。
【0034】
再生部20は、プレイリストDB19から人物ダイジェストプレイリストを取得し、取得した人物ダイジェストプレイリストに従って、コンテンツDB11に記憶されている映像コンテンツのダイジェスト再生を行い、その結果得られる映像および音声をテレビジョン受像機(不図示)などに出力する。」

(ウ)(段落0035?0078)
「【0035】
次に、記録再生装置1の動作について、図3のフローチャートを参照して説明する。なお、この動作は、映像コンテンツの録画と平行して実行するか、あるいは録画が完了した後に実行する。
(略)
【0047】
ステップS3において、区間分割部16は、制御部13からの制御に従い、現在注目している映像コンテンツ(以下、対象コンテンツと称する)を所定の区間に分割し、区切りの位置を示す区間リストを生成して区間リストDB17に出力する。
【0048】
ステップS4において、人物リスト生成部14は、制御部13からの制御に従い、対象コンテンツに出現する人物を検出して人物リストを生成し、生成した人物リストを人物リストDB15に出力する。
(略)
【0050】
ステップS4の詳細な処理(以下、人物リスト生成処理を称する)について、その2種類の例を図5または図6のフローチャートを参照して説明する。
【0051】
図5は、人物リスト生成処理に、対象コンテンツの画面上から人の顔を検出、識別する手法を採用した場合のフローチャートである。
(略)
【0071】
図3に戻る。ステップS5において、プレイリスト生成部18は、制御部13からの制御に従い、人物リストを基にして注目人物を決定し、決定した注目人物が出現する区間を区間リストから抽出し、抽出した区間を連結して人物ダイジェストプレイリストを生成し、生成した人物ダイジェストプレイリストをプレイリストDBに出力する。
(略)
【0078】
図3に戻る。ステップ5の処理で生成された人物ダイジェストプレイリストは、プレイリストDB19に記録される。そして、ユーザからダイジェスト再生の指示が行われたとき、再生部20によりプレイリストDB19から読み出され、コンテンツDB11から映像コンテンツを部分的に読み出し再生するために使用される。以上で、記録再生装置1の動作の説明を終了する。」

(エ)(段落0080)
「【0080】
ところで、上述した一連の処理は、図2に示されたように構成されているハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウェアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる。」

(オ)引用発明
上記(ア)?(エ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
符号a?dは説明のため当審で付与したものであり、以下、構成a?構成dと称する。

(引用発明)
(a)情報処理方法であって、

(b)(b1)記録再生装置1は、人物リスト生成部14、区間分割部16、プレイリスト生成部18、再生部20から構成され、
(b2)区間分割部16は、映像コンテンツを所定の時間毎の区間に分割し、区切りの位置を示す区間リストを生成し、
(b3)人物リスト生成部14は、映像コンテンツの画面上から人の顔を検出、識別したり、実況や解説などの音声信号に基づいて映像コンテンツに出現している人物を検出、識別したり、あるいは文字データや画面上に重畳されているテロップ文字を解析したりして映像コンテンツに出現している人物を検出し、映像コンテンツに出現する人物とその出現時刻(映像コンテンツの先頭からの経過時刻)を対応付けて記録した人物リストを生成し、
(b4)プレイリスト生成部18は、人物リストを基に注目人物を決定し、当該注目人物が出現する区間を区間リストから抽出し、抽出した区間を連結して人物ダイジェストプレイリストを生成し、
(b5)再生部20は、人物ダイジェストプレイリストを取得し、取得した人物ダイジェストプレイリストに従って、映像コンテンツのダイジェスト再生を行い、その結果得られる映像および音声をテレビジョン受像機などに出力し、

(c)記録再生装置1の動作について、
(c1)区間分割部16は、現在注目している映像コンテンツ(以下、対象コンテンツと称する)を所定の区間に分割し、区切りの位置を示す区間リストを生成するステップと、
(c2)人物リスト生成部14は、対象コンテンツの画面上から人の顔を検出、識別する手法を採用して、対象コンテンツに出現する人物を検出して人物リストを生成するステップと、
(c3)プレイリスト生成部18は、人物リストを基にして注目人物を決定し、決定した注目人物が出現する区間を区間リストから抽出し、抽出した区間を連結して人物ダイジェストプレイリストを生成するステップと、
を含み、
(c4)人物ダイジェストプレイリストは、ユーザからダイジェスト再生の指示が行われたとき、再生部20により読み出され、映像コンテンツを部分的に読み出し再生するために使用され、

(d)一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる、

(a)情報処理方法。

イ 文献2の記載事項、文献2技術
文献2(特開平7-284042号公報)には、図面と共に次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

(ア)文献2の記載事項

「【0011】MPEGビデオ・ストリームは、3種類のフレームすなわち、intraframes(フレーム内符号化フレーム。以下、Iフレームと呼称する)、predictiveframes(順方向予測符号化フレーム。以下、Pフレームと呼称する)およびinterpolated frames(双方向予測符号化フレーム。以下、Bフレームと呼称する)からなる。本記憶方法では、MPEGビデオ・フレームのストリームを媒体セグメントに分割する。各セグメントには、Iフレームから始まり、もう1つのIフレームの前で終わる連続したフレームが含まれる。マルチメディア・ストリームの割振りと検索は、セグメント単位で行われる。連続したセグメントは、ディスク・アレイ内の異なるディスクに記憶される。」

(イ)文献2技術
上記(ア)の記載から、文献2には、次の技術(文献2技術)が記載されている。

(文献2技術)
ビデオストリームのセグメント分割において、イントラフレームから始まり、もう1つのイントラフレームの前で終わる連続したフレームを含むセグメントに分割する技術。

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 構成Aについて
構成aの「情報処理方法」は、構成dから、コンピュータが実行可能な方法であるので、構成Aの「コンピュータ実行方法」に相当する。

したがって、引用発明は本件補正発明と構成Aを有する点で一致する。

イ 「コンピューティングシステム」について
本件補正発明の「コンピューティングシステム」に関し、本願明細書の【0020】及び【0021】によれば、「システム」は複数のモジュールから構成され、「モジュール」は「ソフトウェア、ハードウェア、またはそれらの任意の組合せ」である。

引用発明の「記録再生装置1」は、構成b1、構成c及び構成dから、「人物リスト生成部14」、「区間分割部16」、「プレイリスト生成部18」、「再生部20」という複数のモジュールから構成されるといえることから、本件補正発明の「コンピューティングシステム」に相当する。

また、引用発明の構成c1?構成c4において、「区間分割部16」、「人物リスト生成部14」、「プレイリスト生成部18」、「再生部20」のそれぞれが実行する処理は、本件補正発明の構成B?構成Eの処理と、「コンピューティングシステム」が実行するという点で共通する。

ウ 構成B、B1、B2について
構成c1の「映像コンテンツ」、「区間」は、構成Bの「ビデオ」、「ビデオセグメント」にそれぞれ相当する。
そして、構成c1において、「映像コンテンツを所定の区間に分割」して得られる一組の「区間」は、構成Bの「一組のビデオセグメント」に相当する。
また、構成c1の「区切りの位置を示す区間リストを生成」することは、映像コンテンツの一組の区間を識別することといえるので、「ビデオを表現する一組のビデオセグメントを識別する」ことに相当する。

しかしながら、構成c1の「映像コンテンツ」が「一組のイントラフレーム」を有するかは明らかでない。
また、構成c1において、「映像コンテンツ」を「所定の区間に分割する」に際し、「一組のイントラフレームに関する情報を取得」しているかは明らかでない。

よって、本件補正発明と引用発明は、構成Bを含む点で共通する。
しかしながら、構成Bについて、本件補正発明は、構成B1及び構成B2を含むのに対して、引用発明はそのような構成を備えるか明記がない点で相違する。

エ 構成Cについて
構成c2の「対象コンテンツの画面上から人の顔を検出、識別する手法」は、構成Cの「1つまたは複数のオブジェクト認識プロセス」に相当する。

構成c3の「注目人物が出現する区間」は、映像コンテンツの一部の区間であるので、構成Cの「一部のビデオセグメント」に相当する。

そして、構成c3の「注目人物を決定し、決定した注目人物が出現する区間を区間リストから抽出」することは「人物リストを基にして」行われ、その「人物リスト」は、構成c2において、「対象コンテンツの画面上から人の顔を検出、識別する手法」により生成するものである。
よって、構成c3の「注目人物を決定し、決定した注目人物が出現する区間を区間リストから抽出」することは、「1つまたは複数のオブジェクト認識プロセスを使用して」行うことであるといえる。

したがって、引用発明は本件補正発明と構成Cを有する点で一致する。

オ 構成Dについて
構成c3の「抽出した区間を連結して」生成する「人物ダイジェストプレイリスト」は、一部のビデオセグメントを連結して再生するためのものであるので、構成Dの「一部のビデオセグメントに関する再生シーケンスを示すリスト」に相当する。

したがって、引用発明は本件補正発明と構成Dを有する点で一致する。

カ 構成Eについて
構成c4の「映像コンテンツを部分的に読み出し再生する」ことは、構成Eの「一部のビデオセグメントの再生」に相当する。

したがって、引用発明は本件補正発明と構成Eを有する点で一致する。

キ まとめ
以上によると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
(A)コンピュータ実行方法であって、
(B)コンピューティングシステムがビデオを表現する一組のビデオセグメントを識別するステップと、
(C)前記コンピューティングシステムが、1つまたは複数のオブジェクト認識プロセスを使用して前記一組のビデオセグメントから一部のビデオセグメントを選択するステップと、
(D)前記コンピューティングシステムが前記一部のビデオセグメントに関する再生シーケンスを示すリストを生成するステップと、
(E)前記コンピューティングシステムが前記リストにより示される再生シーケンスに基づいて前記一部のビデオセグメントの再生を提供するステップと
を含む
(A)コンピュータ実行方法。

[相違点]
「コンピューティングシステムがビデオを表現する一組のビデオセグメントを識別するステップ」について、本件補正発明は、「(B1)前記ビデオは一組のイントラフレームを有することができ、(B2)前記識別するステップは、前記一組のイントラフレームに関する情報を取得することをさらに含む」のに対して、引用発明はそのような構成を備えるか明記がない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

ビデオストリームをセグメントに分割するに際し、上記(2)イ(イ)記載の文献2技術のように、イントラフレームから始まり、もう1つのイントラフレームの前で終わる連続したフレームを含むセグメントに分割することは、当該技術分野における周知技術である。
また、当該周知技術において、ビデオストリームに含まれるイントラフレームに関する情報を取得することは、当然に行うものといえる。

引用発明と当該周知技術は、ビデオストリームをセグメントに分割するという点で共通の技術分野に属することから、引用発明に当該周知技術を適用することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

よって、引用発明に当該周知技術を適用し、一組のビデオセグメントを識別するステップにおいて、「ビデオは一組のイントラフレームを有することができ」、「前記一組のイントラフレームに関する情報を取得することをさらに含む」構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

ここで、引用発明に当該周知技術を適用して生成した区間リストは、各区間の区切りの位置をイントラフレームによって表すものである。そして、その区間リストから注目人物が出現する区間を抽出することは、注目人物の出現時刻に応じて、イントラフレームが表す区間を一ないし複数抽出することであることから、「一組のビデオセグメントから一部のビデオセグメントを選択するステップ」(構成C)についても、本件補正発明と引用発明に当該周知技術を適用して構成される発明との間に実質的な差異は認められない。

(5)請求人の主張について
ア.審判請求書における主張
請求人は、令和2年1月30日付け審判請求書(「4.本願発明が特許されるべき理由」)において、以下のとおり主張している。

「しかしながら、引用文献1の識別ステップは、映像コンテンツに出現する人物を識別し(段落0018)、識別された人と、映像コンテンツ中における出現時刻とを対応付けて記録した人物リストを生成する(段落0014)ためのステップに過ぎません。 一方、本願発明の識別ステップにおいては、ビデオを表現する一組のビデオセグメントを識別することが可能であり、ここで各ビデオは一組のイントラフレームを有することができ、いくつかの場合においては、個々のイントラフレームをビデオ内の各新たなシーンの冒頭に配置することができます。
そして、一組のイントラフレームに関する情報を取得することを含む本願発明の識別ステップによれば、後続する選択ステップを行うことができる部分を識別
することが可能となります。これにより、一組のビデオセグメントから一部のビデオセグメントを選択するステップを容易に行うことができるという有利な技術的効果がもたらされます。」

上記主張について検討すると、上記(4)で検討したとおり、引用発明に周知技術を適用し、一組のビデオセグメントを識別するステップにおいて、「ビデオは一組のイントラフレームを有することができ」、「前記一組のイントラフレームに関する情報を取得することをさらに含む」構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものであるから、請求人の上記主張は採用できない。

イ.上申書における主張
請求人は、令和2年7月2日付け上申書(「3.審判請求人の主張」)において、以下のとおり主張している。

「[本願発明と各引用文献に記載の発明との相違点]
本願発明は、選択されたビデオセグメントの再生を提供するための技術に関するものです。より詳細には、本請求の明細書の段落【0004】等に、
「ビデオを表現する一組のビデオセグメントを識別するように構成されたシステム、方法、および非一時的なコンピュータ可読媒体を含むことができる。一組のビデオセグメントから一部のビデオセグメントを選択することができる。一部のビデオセグメントに関する再生シーケンスを示すリストを生成することができる。一部のビデオセグメントの再生は、リストにより示された再生シーケンスに基づいて提供することができる。」
と記載されている特徴を備えており、これにより、従来のアプローチの下では、メディアコンテンツサービスからのビデオは一般に長編で再生されるので、ビデオ中の無益な、魅力のない、または無関係なコンテンツが提示されることが多く、視聴者または観客は、ビデオで再生されているもののためにビデオへの関心を失う可能性があるという課題を解消するものです。
引用文献1には、上記の本願発明の特徴のうち映像コンテンツを所定の時間毎、シーン毎、あるいはショット毎の区間に分割することは記載されておりますが、その他の特徴については触れておりません。
引用文献2は、単にビデオストリームをセグメントに分割する場合において、各セグメントがIフレームから始まるよう分割する技術を開示しているに過ぎず、上記の本願発明の特徴や、本願発明の課題について何ら触れるところはありません。」

上記主張について検討すると、上記(4)で検討したとおり、引用発明に周知技術を適用し、一組のビデオセグメントを識別するステップにおいて、「ビデオは一組のイントラフレームを有することができ」、「前記一組のイントラフレームに関する情報を取得することをさらに含む」構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものであるから、請求人の上記主張は採用できない。

また、請求人は、上記上申書において、請求項1の補正案を示しているが、該補正案は、審判請求時に補正された特許請求の範囲を変更するものであり(本件補正発明の構成B1及び構成B2が削除され、さらに、新たな発明特定事項が追加されている。)、審理の対象を拡張・変更させるような補正案を採用することはできない。

(6)まとめ
以上のように、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

5 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年1月30日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和1年8月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項20に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第1の3において、「補正前の請求項1」として記載したとおりのものである。

2 引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]4(2)アに記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]1で摘記した本件補正発明に追加された限定事項を省いたものである。
そうすると、上記第2[理由]4(3)の「対比」における検討を援用すると、本願発明と引用発明は一致する。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-07-14 
結審通知日 2020-07-21 
審決日 2020-08-07 
出願番号 特願2017-549747(P2017-549747)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 113- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富樫 明  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 須田 勝巳
曽我 亮司
発明の名称 選択されたビデオセグメントの再生を提供するためのシステムおよび方法  
代理人 特許業務法人World IP  

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