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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1369732
審判番号 不服2018-10226  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-26 
確定日 2021-01-04 
事件の表示 特願2015-177902「仙腸骨安定化のためのシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月28日出願公開、特開2016- 13461〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)7月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年7月27日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-521956号の一部を、平成27年9月9日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 8月25日付け:拒絶理由通知書
平成29年 2月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 5月 8日付け:拒絶理由(最後)通知書
平成29年11月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 3月15日付け:平成29年11月9日の手続補正につい
ての補正の却下の決定、拒絶査定
平成30年 7月26日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出

第2 平成30年7月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年7月26日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、次の内容を含むものである。
本件補正前の平成29年2月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に
「SI関節を安定化させるためのシステムであって、前記システムは、
a.欠陥生成ツールアセンブリであって、前記ツールアセンブリは、後方アプローチから、患者の仙骨構造と腸骨構造との間に画定されるSI接合部の中に前進させられるように構成されており、前記ツールアセンブリは、前記仙骨と前記腸骨との両方の部分によって少なくとも部分的に画定される欠陥を生成するように構成されており、前記欠陥は、3次元形状を有し、前記3次元形状は、前記ツールアセンブリの長手軸に実質的に垂直な平面における少なくとも1つの円形でない断面形状によって部分的に画定され、前記円形でない断面形状は、中央部分によって接続される2つの葉を含む、ツールアセンブリと、
b.前記ツールアセンブリによって生成される前記欠陥の前記円形でない断面形状に実質的に整合するように構成された外側幾何学形状を有するプロテーゼと
を含む、システム。」
とあるのを、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1として、
「SI関節を安定化させるためのシステムであって、前記システムは、
a.欠陥生成ツールアセンブリであって、前記ツールアセンブリは、後方アプローチから、患者の仙骨構造と腸骨構造との間に画定されるSI接合部の中に前進させられるように構成されており、前記ツールアセンブリは、前記仙骨と前記腸骨との両方の部分によって少なくとも部分的に画定される欠陥を生成するように構成されており、前記欠陥は、3次元形状を有し、前記3次元形状は、前記ツールアセンブリの長手軸に実質的に垂直な平面における少なくとも1つの円形でない断面形状によって部分的に画定され、前記円形でない断面形状は、中央部分によって接続される2つの葉を含む、ツールアセンブリと、
b.前記ツールアセンブリによって生成される前記欠陥の前記円形でない断面形状に実質的に整合するように構成された外側幾何学形状を有するプロテーゼと
を含み、
前記ツールアセンブリは、近位断面形状を有する欠陥を生成するように構成されており、前記近位断面形状は、対応する遠位断面形状よりも面積が大きい、システム。」
と補正する(補正箇所に下線を付した)。

2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ツールアセンブリ」について、上記下線部のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1に本件補正後の発明として記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2010/045749号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。なお、日本語訳は当審で付したものである。
a

(第1頁第1行?第9行)
(日本語訳:本発明は、医療技術の分野に属し、ヒトまたは動物の関節の融合(関節固定)のための方法に関する。この関節は、滑膜関節、すなわち各々が軟骨性関節面を含む2つの骨の結合部位であり、これらの関節面の相対的な移動に対し、関節包の中に閉じ込められた滑液が潤滑剤として機能する。上記方法は特に、ヒトの椎間関節、ヒトの手および足(指およびつま先を含む)の関節、仙腸関節、胸鎖関節、胸肋関節または肋椎関節といった小さな滑膜関節の融合に適している。本発明はさらに、この方法を実施するための融合装置およびツールセットに関する。)

b

(第14頁第22行?第15頁第6行)
(日本語訳:融合装置は、2つのピン形状の固定部分1と、これら2つの固定部分1の間に位置する安定化部分2とを含む。遠位方向に、固定部分1および安定化部分2はともに、骨伝導領域3の範囲を定める凹状の装置輪郭を形成する。この骨伝導領域3において、何らかの骨成長促進材料を、装置の移植前または移植後いずれかに配置してもよい。融合装置とこのような材料を予め組立てるために、上記凹状の装置輪郭の領域における装置の表面に、骨成長促進材料を保持するのに適した釘状部分、鉤状部分またはその他の表面構造を設けてもよい。融合装置は、全体の深さD、全体の幅W、および2つの全体的な厚みを含む厚みプロファイルを有する(固定部分1のT1は安定化部分2のT2よりも大きい)。)

c

(第19頁第9行?第16行)
(日本語訳:図2A-図2Dは、本発明に従う方法の代表的な実施例として、図1A-図1Cに示されるものと同様の融合装置を、たとえばヒトの椎間関節といった関節に移植することを示しており、この関節の関節面はわずかに凸/凹形状であり、この装置の固定部分の固定は、機械的振動によって実現される。図2Aは、この関節の関節面の移植方向に垂直な断面を示す。これらの関節面は、少なくとも健康で損傷のない状態であり、全体が関節の軟骨10で覆われている。)

d

(第20頁第1行?第21行)
(日本語訳:固定ステップ後に実行される調製ステップにおいて、2つのボアを実質的に関節面と平行にかつ互いに平行に開ける。これらのボアは、関節面における溝11を構成し、融合装置の固定部分を収容する役割を果たす。好ましくはボアの直径は、軟骨層および軟骨層の下にある皮質骨の少なくとも一部に溝を設けるのに十分大きい。さらに、2つのボアの間の軟骨層および場合によってはいくらかの皮質骨も、少なくとも融合装置の安定化部分の深さと同じ深さ、好ましくは(骨伝導領域を含む)融合装置全体の深さと同じ深さまで除去することが好ましい。固定技術によっては、ボアの直径を固定部分の直径よりもわずかに小さくする必要があるかもしれない。安定化部分も液化可能材料を含む場合は、安定化部分の厚みを、場合によっては調製された関節面の間の隙間に合うようにし、安定化部分が、実質的に摩擦を伴わずにすなわち実質的に液化が生じないようこの隙間に導入されるようにしてもよい、または、振動させて導入されるときに安定化部分が固定部分と実質的に同じように関節面に固定されてもよい。この調製ステップで作られた関節面間の空間(図2B)を、任意で少なくとも部分的に、2つの関節面の間の骨伝導を改善するため、場合によっては融合装置の骨結合を改善するために、骨成長を促進可能な材料(たとえば骨ペーストまたは骨置換材料)で充填してもよい。)

e

(第21頁第14行?第20行)
(日本語訳:図3は、図2A-図2Dに示される方法のフローチャートであり、固定ステップ、調製ステップ、移植ステップ、および仕上げステップを示す。関節包による関節の固定が十分であれば、固定ステップおよび仕上げステップは不要である。調製ステップは必須のステップではない(以下を参照)、すなわち移植ステップを固定ステップの直後に行なってもよい。いずれにせよ、何らかの調製(たとえば関節面のより大きな領域の剥皮)を固定ステップの前に行なってもよい。)

f

(第21頁第21行?第22頁第6行)
(日本語訳:図4A-図4Hは、本発明に従うツールセットの代表的な実施例のツールを示し、このツールセットは本発明に従う方法の実施に役立つ。ツールセットは、たとえばその主要なステップが図2A-図2Dおよび図3に示されている方法において図1A-図1Cに示される融合装置を移植するのに適している。ツールセットの各ツールは、側面からおよびツールの遠位端を見たものとして示される。これらのツールは、移植方法において使用される順序に従って示され、隙間探知機20(図4A)、ガイドブッシュ21(図4B)、ドリルガイド22(図4C)、ドリル23(図4D)、カッタガイド24(図4E)、カッタ25(図4F)、制御ツール26(図4G)、および振動ツール27(図4H)である。ツール20および21は固定ステップに適用することができ、ツール22-26は調製ステップに適用することができ、ツール27は移植ステップに適用することができる。)

g

(第25頁第14行?第17行)
(日本語訳:図1A-図1Cに従う融合装置を、図4A-図4Hに従うツールセットを用いて、好ましくは最小侵襲または小開放処置によって移植することは、図5のフロー図に概略的に示される以下のステップを含む。)

h

(第25頁第18行?第27頁第14行)
(日本語訳:
・関節面の間の隙間を、隙間探知機20の突起30を隙間の中に配置することによって探知して記録する。隙間探知機20は場合によっては先に配置されたKワイヤに沿って導入される。
・隙間探知機20をガイドブッシュ21の軸方向のトンネル32内に導入し、骨に対してガイドブッシュ21を骨の表面に接触するまで押し、パンチ34を用いてガイドブッシュ21のスパイク33または刃を骨の表面に押込むことにより、ガイドブッシュ21を隙間の両側の骨の表面上に配置し固定する。
・隙間探知機20を除去する。
・ドリルガイド22をガイドブッシュ21の軸方向のトンネル32内に配置しその遠位面が骨の表面に接触していることを確認する。
・ドリル23をドリルガイド22の軸方向のボア35のうちの一方の中に配置し、第1のボアを開け、第2のボアに対して配置および穴あけを繰返す。ドリル23の深さストップ37がドリルガイド22のストップショルダ36に接触したときに、ボアの予め定められた深さに達する。
・ドリル23およびドリルガイド22をガイドブッシュ21から除去する。
・カッタガイド24をガイドブッシュ21の軸方向のトンネル32内に配置し、その遠位面が骨の表面に接していることを確認する。
・カッタ25をカッタガイド24の軸方向のトンネル38の中に配置して起動し、妥当であれば、これをカッタガイド24の軸方向のトンネル38において横方向に動かす。カッタ25の深さストップ40がカッタガイドのストップショルダ39と接触したとき、組織は切削により予め定められた深さまで除去される。
・カッタ25およびカッタガイド24をガイドブッシュ21から除去する。
・関節調製の精度を、制御ツール26をガイドブッシュ21の軸方向のトンネルの中に導入し、導入深さを確認することによって制御し、制御ツールを除去する。
・制御された導入深さが不適切であれば、ドリルガイド22を導入し、ドリル23を導入し、穴を開けるステップ、カッタガイド24を導入し、カッタ25を導入し、組織を除去するステップ、および制御ツール26を導入し、導入深さを確認するステップを、繰返す。
・制御された導入深さが適切であれば、その遠位端に融合装置Fが搭載された振動ツール27をガイドブッシュ21の軸方向のトンネル32内に導入し、ツール27とともに融合装置Fを振動させる一方で、融合装置を穴開けおよび切削ステップによって調製した関節面の間の空間に導入する。振動ツール27の深さストップ41がガイドブッシュ21の近位面に接触したときに予め定められた導入深さに達する、または、振動ツール上の対応する印がガイドブッシュ21の近位面に達したときに自由選択可能な導入深さに達する。
・振動ツール27を固定された融合装置Fから切り離しこれをガイドブッシュ21から除去する。
・ガイドブッシュ21を除去する。)

i

(第31頁第12行?第16行)
(日本語訳:
・固定部分1のおよび/または安定化部分2の遠位領域は先細り形状ではない、または固定部分1および/または安定化部分2は、連続的に、またはその深さ全体にわたってすなわち近位面から遠位端にかけて段階的に先細りになる形状である(ドリル23のおよび場合によってはドリルガイド22の対応する適合化を必要とする)。)

j

(第34頁第18行?第23行)
(日本語訳:
・1つの部品からなる、または2つの固定部分および1つの安定化部分を含む3つの部品からなる融合装置を、その幅が関節面に対して垂直または斜角をなす向きとなる状態で移植する、すなわち関節面の間の隙間の中ではなくその隙間を横切るように移植する(図19および図20も参照、隙間探知機20を、突起が断面の最大の直径に対して平行ではなくたとえば垂直となるように方向付けることによって適合させることが必要である)。)

k

(第46頁第20行?第47頁第13行)
(日本語訳:図19および図20は、本発明に従う方法の、先に述べたさらなる実施例を示し、融合装置は、2つの(または3つ以上の)固定部分1と固定部分の間の少なくとも1つの安定化部分2とを含み、融合させる関節の関節面の間の隙間にではなく、この隙間を横切るように移植される。すなわち、融合装置の幅は、この隙間に対して直角をなすように(図19)または斜角をなすように(図20)方向付けられる。融合装置の固定部分は、関節面の間の隙間の両側であって関節面の軟骨層から一定の距離のところで骨組織に設けられた開口13に固定される。この場合、1つの関節を融合させるために、1つの融合装置を移植してもよく(図19)、または複数の融合装置(図20に示される2つの融合装置)を移植してもよい。関節を融合させるための移植プロセスは、図19および図20に示されるように、図2A-図2Dに示される移植と全く同じやり方で行なわれる。この場合、図4A-図4Hに示されるツールと同様のツールを適用でき、隙間探知機は、隙間を探知する突起の配置の方向が、ツールの断面の最長部分に対して直角または斜角をなすようにされる。)



(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記(ア)b、c、d、e、f、hの記載より、引用文献1には、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25と、融合装置Fとで構成されるシステムが記載されているといえる。
b 上記(ア)cの記載より、融合装置は、ヒトの椎間関節に移植されるものであり、図2Aが、この関節の関節面の移植方向に垂直な断面を示していることから、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25は、患者の椎間関節の骨構造と骨構造との間に画定される接合部の中に前進させられるように構成されているといえる。
c 上記(ア)d、e、fの記載より、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25は、調整ステップにおいて用いられるものであり、穴開けと組織の除去を行うものであるといえる。したがって、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25は、椎間関節の骨構造の両方の部分によって少なくとも部分的に画定される溝を生成するように構成されているといえる。
d 上記(ア)j、kの記載、及び、Fig.19より、融合装置の幅が関節面に対して垂直をなす向きとなる状態で移植することが示されており、Fig.19に示される例においては、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25によって生成される欠陥は3次元形状を有し、3次元形状は、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25の長手軸に実質的に垂直な平面における少なくとも1つの円形でない断面形状によって部分的に画定され、円形でない断面形状は、中央部分によって接続される2つのボアを含んでいるといえる。
e 上記(ア)hの記載より、融合装置Fは、穴開けおよび切削ステップによって調整した関節面の間の空間に導入されるものであるといえる。したがって、融合装置Fは、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25によって生成される溝の円形でない断面形状に実質的に整合するように構成された外側幾何学形状を有しているといえる。
f 上記(ア)iの記載より、融合装置Fは近位面から遠位端にかけて先細りになる形状であり、ドリル23も同様に、先細りになる形状であるから、ドリル23によって開けられる穴についても、近位面から遠位端にかけて先細りになる形状であるといえ、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25によって生成される溝も、近位面から遠位端にかけて先細りになる形状であるといえる。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「椎間関節を安定化させるためのシステムであって、前記システムは、
ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25であって、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25は、患者の椎間関節の骨構造と骨構造との間に画定される接合部の中に前進させられるように構成されており、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25は、椎間関節の骨構造の両方の部分によって少なくとも部分的に画定される溝を生成するように構成されており、溝は3次元形状を有し、3次元形状は、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25の長手軸に実質的に垂直な平面における少なくとも1つの円形でない断面形状によって部分的に画定され、円形でない断面形状は、中央部分によって接続される2つのボアを含む、ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25と、
ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25によって生成される溝の円形でない断面形状に実質的に整合するように構成された外側幾何学形状を有する融合装置Fと
を含み、
ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25は、近位面から遠位端にかけて先細りとなる形状である溝を生成するように構成されている、システム。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「椎間関節を安定化させるためのシステム」と、本件補正発明の「SI関節を安定化させるためのシステム」とは、「関節を安定化させるシステム」である点で共通する。
(イ)その構造または機能からみて、引用発明の「ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25」、「溝」、「ボア」は、それぞれ、本件補正発明における「欠陥生成ツールアセンブリ」、「欠陥」、「葉」に相当する。さらに、引用発明における「近位面から遠位端にかけて先細りとなる形状である」態様は、本件補正発明における「近位断面形状を有しており、近位断面形状は、対応する遠位断面形状よりも面積が大きい」態様に相当する。
(ウ)引用発明における「患者の椎間関節の骨構造と骨構造との間に画定される接合部の中に前進させられるように構成されており、」と、本件補正発明の「後方アプローチから、患者の仙骨構造と腸骨構造との間に画定されるSI接合部の中に前進させられるように構成されており、」とは、「患者の骨構造と骨構造との間に画定される接合部の中に前進させられるように構成されており、」という点において共通する。
(エ)引用発明の「融合装置F」は、本件補正発明における「プロテーゼ」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「関節を安定化させるためのシステムであって、前記システムは、
欠陥生成ツールアセンブリであって、前記ツールアセンブリは、患者の骨構造と骨構造との間に画定される接合部の中に前進させられるように構成されており、前記ツールアセンブリは骨構造の両方の部分によって少なくとも部分的に画定される欠陥を生成するように構成されており、前記欠陥は、3次元形状を有し、前記3次元形状は、前記ツールアセンブリの長手軸に実質的に垂直な平面における少なくとも1つの円形でない断面形状によって部分的に画定され、前記円形でない断面形状は、中央部分によって接続される2つの葉を含む、ツールアセンブリと、
前記ツールアセンブリによって生成される前記欠陥の前記円形でない断面形状に実質的に整合するように構成された外側幾何学形状を有するプロテーゼと
を含み、
前記ツールアセンブリは、近位断面形状を有する欠陥を生成するように構成されており、前記近位断面形状は、対応する遠位断面形状よりも面積が大きい、システム。」

【相違点】
本件補正発明は、SI関節を安定化させるためのシステムであって、ツールアセンブリは、後方アプローチから、患者の仙骨構造と腸骨構造との間に画定されるSI接合部の中に前進させられるように構成されており、生成される欠陥が、仙骨と腸骨との両方の部分によって少なくとも部分的に画定される欠陥であるのに対し、引用発明は、椎間関節を安定化させるためのシステムであって、ツールアセンブリが椎間関節の骨構造の隙間に前進させられるように構成されており、生成される欠陥が、椎間関節の骨構造の両方の部分によって少なくとも部分的に画定される欠陥である点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。上記(2)ア(ア)aより、引用文献1には、引用文献1に記載のシステムを仙腸関節に適用することが示唆されている。ここで、仙腸関節とは、仙骨と腸骨との間にある関節を意味しており、一方、SI関節も、仙骨と腸骨との間にある関節を意味することから、仙腸関節とSI関節とは、同じ関節を意味していると認められる。してみると、上記示唆に基いて、引用発明をSI関節を安定化させるために用いることとし、ツールアセンブリを、患者の仙骨構造と腸骨構造との間に画定されるSI接合部の中に前進させられるように構成し、生成される欠陥が、仙骨と腸骨との両方の部分によって少なくとも部分的に画定される欠陥となるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。そして、引用発明をSI関節を安定化させるために用いる場合、「ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25」の前進の方向が、「後方アプローチ」とするかは不明であるものの、本件補正発明における後方アプローチの「ツールアセンブリ」の前進の方向と、引用発明における「ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25」の前進の方向とは、いずれも、関節の隙間の延在方向と同一の方向であると認められる。また、引用発明における溝の形状からみて、「ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25」の前進の方向は、「側方」ではないと認められる。さらに、SI関節の位置を鑑みれば、引用発明をSI関節を安定化させるために用いる場合、「ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25」の前進の方向は人体に対して、「前方」、「上方」、「下方」となることは考えにくい。してみると、「ドリルガイド22、ドリル23、カッタガイド24、カッタ25」の前進の方向として「後方アプローチ」を採用することは容易に想到し得ることである。

(5)小活
よって、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成29年2月28日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
SI関節を安定化させるためのシステムであって、前記システムは、
a.欠陥生成ツールアセンブリであって、前記ツールアセンブリは、後方アプローチから、患者の仙骨構造と腸骨構造との間に画定されるSI接合部の中に前進させられるように構成されており、前記ツールアセンブリは、前記仙骨と前記腸骨との両方の部分によって少なくとも部分的に画定される欠陥を生成するように構成されており、前記欠陥は、3次元形状を有し、前記3次元形状は、前記ツールアセンブリの長手軸に実質的に垂直な平面における少なくとも1つの円形でない断面形状によって部分的に画定され、前記円形でない断面形状は、中央部分によって接続される2つの葉を含む、ツールアセンブリと、
b.前記ツールアセンブリによって生成される前記欠陥の前記円形でない断面形状に実質的に整合するように構成された外側幾何学形状を有するプロテーゼと
を含む、システム。」

2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、又は、同文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


・国際公開第2010/045749号(上記「引用文献1」に同じ。)

3 引用文献1の記載事項
引用文献1の記載事項及び同文献に記載された発明は、前記第2の[理由]3(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]3で検討した本件補正発明から、「前記ツールアセンブリは、近位断面形状を有する欠陥を生成するように構成されており、前記近位断面形状は、対応する遠位断面形状よりも面積が大きい、」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]3(3)(4)(5)に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-07-31 
結審通知日 2020-08-03 
審決日 2020-08-20 
出願番号 特願2015-177902(P2015-177902)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 利充西尾 元宏佐藤 智弥  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 倉橋 紀夫
宮崎 基樹
発明の名称 仙腸骨安定化のためのシステム  
代理人 上潟口 雅裕  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 須田 洋之  
代理人 山本 泰史  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 松下 満  

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