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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1370016
異議申立番号 異議2020-700209  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-25 
確定日 2020-11-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6578778号発明「固形組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6578778号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6578778号の請求項1、2、4に係る特許を維持する。 特許第6578778号の請求項3に係る特許についての特許異議申立ては、却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6578778号の請求項1-4に係る特許についての出願は、平成27年7月17日(優先権主張 平成26年8月19日)を出願日とする特願2015-142887号であって、令和1年9月6日にその特許権の設定登録がされ、同年9月25日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和2年3月25日 : 特許異議申立人 横山敬治(以下、「異議申立人 」という。)による請求項1-4に係る特許に対す る特許異議の申立て
令和2年7月1日付け: 取消理由通知書
令和2年9月3日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

なお、令和2年9月3日に訂正請求書が提出されたことにより、特許法第120条の5第5項の規定により、異議申立人に相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年9月3日に特許権者が行った訂正請求は、「特許第6578778号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求める」ものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(a)ハイアミロースコーンスターチ、及び(b)還元パラチノース、還元麦芽糖水飴、エリスリトール、及びキシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種である糖アルコール類を含有することを特徴とする固形組成物。」と記載されているのを、「(a)顆粒剤全体に対し30?70質量%のハイアミロースコーンスターチと(b)還元麦芽糖水飴、エリスリトール、及びキシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種である糖アルコール類とを含有することを特徴とする顆粒剤。」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?4も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「食品、経口医薬品又は経口医薬部外品である、請求項1に記載の固形組成物。」と記載されているのを、「食品、経口医薬品又は経口医薬部外品である、請求項1に記載の顆粒剤。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「ハイアミロースコーンスターチの含有量が、固形組成物全体対し30質量%以上である請求項1に記載の固形組成物。」と記載されているのを、「(a)ハイアミロースコーンスターチの含有量が、顆粒剤全体に対し50?70質量%であり、(b)糖アルコール類の含有量が、顆粒剤全体に対し28?48質量%であり、食品、経口医薬品又は経口医薬部外品である、請求項1に記載の顆粒剤。」に訂正する。

訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項[1?4]について請求されている。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1において、
・ハイアミロースコーンスターチの含有量を限定し、
・択一的に記載されていた糖アルコール類の具体物から「還元パラチノース」を削除し、
・「固形組成物」を「顆粒剤」に限定する
ものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、ハイアミロースコーンスターチの含有量は特許明細書の段落【0010】の記載から、また、剤型としての「顆粒剤」は段落【0014】の記載から導かれるものであるから、この訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2において、「固形組成物」を「顆粒剤」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、この訂正は、特許明細書の段落【0014】の記載から導かれるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4において、
・ハイアミロースコーンスターチの含有量をさらに限定し、
・糖アルコール類の含有量を限定し、
・用途を「食品、経口医薬品又は経口医薬部外品」に限定し、
・「固形組成物」を「顆粒剤」に限定する
ものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、ハイアミロースコーンスターチの含有量は特許明細書の段落【0010】及び段落【0016】の実施例2?8の記載から、糖アルコール類の含有量は段落【0016】の実施例2?8の記載から、用途の限定は段落【0012】の記載から、また、剤型としての「顆粒剤」は段落【0014】の記載から導かれるものであるから、この訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。

(5)独立特許要件について
特許異議申立ては、全ての請求項1?4についてされているので、訂正事項1?4に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括
上記のとおり、訂正事項1?4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-4]について訂正することを認める。

第3 訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)顆粒剤全体に対し30?70質量%のハイアミロースコーンスターチと(b)還元麦芽糖水飴、エリスリトール、及びキシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種である糖アルコール類とを含有することを特徴とする顆粒剤。
【請求項2】
食品、経口医薬品又は経口医薬部外品である、請求項1に記載の顆粒剤。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
(a)ハイアミロースコーンスターチの含有量が、顆粒剤全体に対し50?70質量%であり、(b)糖アルコール類の含有量が、顆粒剤全体に対し28?48質量%であり、食品、経口医薬品又は経口医薬部外品である、請求項1に記載の顆粒剤。」

以下、請求項番号に対応して、それぞれ「訂正発明1」等といい、訂正発明1、2及び4をまとめて「訂正発明」ともいう。

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
令和2年7月1日付けの取消理由通知に記載した取消理由は、下記の新規性欠如、進歩性欠如ないしサポート要件違反を指摘するものである。

(新規性)下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は
外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は
外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

より具体的には、特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明4」という。)に対し、下記の引用文献等を提示し、以下のA?Fの取消理由を指摘するものである。

A 新規性及び進歩性について(異議申立人の申立理由1に相当)
本件発明1?3は、甲1に記載された発明と同じであるか、甲1に記載された発明並びに甲1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明4は、甲1に記載された発明並びに甲1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

B 進歩性について(異議申立人の申立理由2に相当)
本件発明1,2,4は、甲2に記載された発明並びに甲2の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

C 進歩性について(異議申立人の申立理由3に相当)
本件発明1?4は、甲21に記載された発明並びに甲21の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

D 進歩性について(異議申立人の申立理由4に相当)
本件発明1?4は、甲22に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明1?4は、甲23に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

E 進歩性について(異議申立人の申立理由5に相当)
本件発明1?4は、甲32、甲33、甲34、甲35又は甲36に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

F サポート要件について(異議申立人の申立理由7に相当)
(F-1)本件発明1?3においては、成分(a)及び(b)の含有量は特定されておらず、本件発明4においては、成分(a)の含有量は30質量%以上と特定されているが、成分(b)の含有量の特定はない。
そうすると、本件発明1?4において、成分(a)の含有量が多く、成分(b)の含有量が少ない組成物(例えば、成分(a)が99質量%で、成分(b)が1質量%以下)の場合に、味、くちどけ、粉っぽさ及び流動性が改善されることを、出願当時の技術常識に照らしても、当業者は認識することができない。
また、本件発明1?3において、成分(a)の含有量が少なく、成分(b)の含有量が多い組成物(例えば、成分(a)の含有量が0.1質量%)の場合には、そもそも成分(a)に起因する課題の存在を、当業者は認識することができない。

(F-2)特許明細書の実施例において課題解決を確認しているのは、剤型が顆粒の場合のみである。
しかしながら、経口摂取時の固形組成物の剤型によって、味、くちどけ、粉っぽさ及び流動性が異なるという技術常識を踏まえると、実施例において効果の確認された顆粒以外の剤型で、本件発明の課題が解決されることを、当業者は認識できない。また、剤型が錠剤、丸剤、カプセル剤の場合は、通常、経口摂取時に味、くちどけ、粉っぽさといった感覚が知覚されることはないから、そもそも成分(a)に起因する課題の存在を、当業者は認識することができない。

(F-3)成分(b)として、還元パラチノースを用いる場合は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

(F-4)実施例においては、流動性評価基準について単に「良い」「悪い」と示されるのみで、どのような場合に流動性が良いといえるのか、流動性に関する客観的な判断基準が示されていない。
そうしてみると、実施例において、本件発明の課題が解決されたことを当業者は認識できるとはいえない。

<引用文献等一覧>
甲1.特開2003-137815号公報
甲2.Journal of Food Science,2007,Vol.72,Nr.6,S407-S411
甲4.日本食品工業会誌,1988,35巻5号,p.377-378
甲5.栄養学雑誌,1986,44巻6号,p.337-342
甲10.特開2012-95562号公報
甲12.特開2014-129324号公報
甲13.特開昭49-94851号公報
甲21.特表2005-508359号公報
甲22.特開2001-270832号公報
甲23.特開2002-47193号公報
甲27.薬剤学,2005,65巻2号,p.98-105
甲28.特開2013-47190号公報
甲29.“製品情報 パーフィラー(R)102”(合議体注:(R)は○の中にR),[online],公開日不明,フロイント産業,[令和2年5月8日検索],インターネット
<URL:https://www.freund.co.jp/chemical/dd/p102.html>
甲30.国際公開2013/161805号
甲31.特開2004-137230号公報
甲32.特開2007-153807号公報
甲33.特開2006-290782号公報
甲34.特開2014-141438号公報
甲35.特開2001-31590号公報
甲36.特開平11-147828号公報
引用例A.日本調理科学会誌, 2014,47 巻,1号, p.49-52, [online],2014年4月11日,インターネット
<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/47/1/47_49/_article/-char/ja>
引用例B.“砂糖以外の甘味料について”,[online],2007年7月(最終更新日:2010年3月6日),農畜産業振興機構,[令和2年6月25日検索],インターネット
<URL:https://sugar.alic.go.jp/japan/fromalic/fa_0707c.htm>

第5 上記第4の取消理由についての当審の判断
1 上記取消理由Aについて
(1)甲1に記載された発明について
甲1の特許請求の範囲の請求項1及び3の記載からみて、甲1には、以下の発明が記載されているものと認める。
「糖アルコールおよび澱粉を含有する多孔性錠剤であって、糖アルコールとしてエリスリトールまたはキシリトールを全固形分重量の50重量%以上で含有し、澱粉が、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、ハイアミロース澱粉、サゴ澱粉、およびこれらの加工澱粉から選択される少なくとも1種である多孔性錠剤。」(以下「甲1発明」という。)

(2)対比・判断
ア 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲1発明における「多孔性錠剤」とは、固形組成物である点で共通する。
訂正発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「(a)ハイアミロース澱粉、及び(b)エリスリトール及びキシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種である糖アルコール類を含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)ハイアミロース澱粉として、訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲1発明では単にハイアミロース澱粉とされ、多孔性錠剤における含有量は特定されていない点。
(相違点1a)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲1発明は多孔性錠剤である点。
(相違点2)糖アルコールとして、訂正発明1では、エリスリトール及びキシリトール以外に還元麦芽糖水飴が選択肢として特定されているのに対し、甲1発明では、そのような選択肢の特定がなされていない点。

事案に鑑み、まず、相違点1aから検討する。
甲1発明は、キシリトール又はエリスリトールなどの糖アルコールを主成分として含有する錠剤の課題(成形が容易で、口中での崩壊性や溶解性を損なうことなく、口当たりの悪さの改善された錠剤を提供すること)を解決するために、「多孔性錠剤」としたというものである(甲1の段落【0003】?【0006】等参照)から、相違点1aは実質的な相違点であり、また、甲1の剤型の形態を「多孔性錠剤」から「顆粒剤」に変更する動機付けはなく、むしろ阻害要因があるというべきである。
よって、訂正発明1は、甲1発明ではない。また、相違点1及び2について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲1発明並びに甲1の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記アで検討したのと同様の理由により、甲1発明に基づいて新規性及び進歩性を否定することはできない。

ウ 小括
以上のとおり、上記取消理由Aは、理由がない。

2 上記取消理由Bについて
(1)甲2に記載された発明について
甲2のABSTRACT、S407右欄下から8行?S408左欄14行、同欄下から13?8行の記載からみて、甲2には以下の発明が記載されているものと認める。
「マルチトール及びハイアミロースコーンスターチを配合した低カロリーマフィン(LCM)。」(以下「甲2発明」という。)

(2)対比・判断
ア 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲2発明における「低カロリーマフィン(LCM)」とは、固形組成物である点で共通する。また、甲2発明における「マルチトール」は糖アルコールの一種である(要すれば、特許明細書の段落【0011】も参照)。
訂正発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、
「ハイアミロースコーンスターチ及び糖アルコールを含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点4)糖アルコールとして、訂正発明1では、還元麦芽糖水飴、エリスリトール及びキシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種が配合されているのに対し、甲2発明では、マルチトールが配合されている点。
(相違点4a)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲2発明は低カロリーマフィンである点。
(相違点4b)訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲2発明では低カロリーマフィンに対するハイアミロースコーンスターチの含有量が特定されていない点。

事案に鑑み、まず、相違点4aから検討する。
甲2発明は、低カロリーマフィンという食品の発明であって、これを「顆粒剤」に変更する動機付けはなく、むしろ阻害要因があるというべきである。
よって、相違点4及び4bについて検討するまでもなく、訂正発明1は、甲2発明並びに甲2の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記アで検討したのと同様の理由により、甲2発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

ウ 小括
以上のとおり、上記取消理由Bは、理由がない。

3 上記取消理由Cについて
(1)甲21に記載された発明について
甲21には、段落【0093】に記載の処方物を用いて製造された軟質カプセルが記載されており、当該処方物を構成する各成分は、特許請求の範囲の請求項4の記載等を踏まえると、最終的には軟質カプセル中に含まれることとなるものといえるから、結局のところ、甲21には、以下の発明が記載されているものと認める。
「構成成分として、高アミロース澱粉及びマルチトールを含む軟質カプセル。」(以下「甲21発明」という。)

(2)対比・判断
ア 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲21発明における「軟質カプセル」とは、固形組成物である点で共通する。また、甲21発明における「マルチトール」は糖アルコールの一種である。
訂正発明1と甲21発明とを対比すると、両者は、
「(a)ハイアミロース澱粉、及び(b)糖アルコール類を含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点5)ハイアミロース澱粉として、訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲21発明では単にハイアミロース澱粉とされ、軟質カプセルにおける含有量は特定されていない点。
(相違点5a)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲21発明は軟質カプセルである点。
(相違点6)糖アルコールとして、訂正発明1では、還元麦芽糖水飴、エリスリトール及びキシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種が配合されているのに対し、甲21発明では、マルチトールが配合されている点。

事案に鑑み、まず、相違点5aから検討する。
甲21は、その記載(段落【0001】等)によれば、ゼラチン不含澱粉ゲルを基剤とする軟質カプセルに関する発明を開示する文献であるから、甲21発明の「軟質カプセル」を「顆粒剤」に変更する動機付けはなく、むしろ阻害要因があるというべきである。
よって、相違点5及び6について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲21発明並びに甲21の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記アで検討したのと同様の理由により、甲21発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

ウ 小括
以上のとおり、上記取消理由Cは、理由がない。

4 上記取消理由Dについて
(1)甲22又は甲23に記載された発明について
甲22の段落【0017】の実施例2の記載によれば、甲22には、以下の発明が記載されているものと認める。
「以下の成分を含有するタブレット剤。
茶抽出物(テアフラン90S) … 100 mg
ビタミンC … 50 mg
ビタミンE製剤 … 10 mg
カロチン製剤 … 10 mg
乳化オリゴ糖 … 90 mg
結晶セルロース … 100 mg
還元麦芽糖水飴 … 90 mg
でんぷん … 150 mg
香料… 適量」(以下「甲22発明」という)

また、甲23の段落【0033】の実施例1の記載によれば、甲23には、以下の発明が記載されているものと認める。
「以下の処方により製造された糖衣錠剤。
成分 配合量(%)
澱粉 60.0
粉末還元麦芽糖水飴 20.0
乳糖 15.0
イタドリ抽出物 5.0
合計 100.0」(以下「甲23発明」という)

(2)対比・判断
ア 甲22発明との対比・判断
ア-1 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲22発明における「タブレット剤」とは、固形組成物である点で共通する。
訂正発明1と甲22発明とを対比すると、両者は、
「(a)でんぷん、及び(b)還元麦芽糖糖水飴を含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点8)でんぷんとして、訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲22発明では単にでんぷんとされ、タブレット剤中25質量%用いられている点。
(相違点8a)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲22発明はタブレット剤である点。

以下、上記相違点について、検討する。
甲22には、茶の抽出物を有効成分とする網膜障害予防剤の発明が記載され(特許請求の範囲等)、その剤形として、錠剤とともに顆粒も記載されている(段落【0013】)。そして、甲22発明の認定の基礎とした甲22の実施例2は、網膜障害予防剤の剤形を「タブレット剤」として提供する場合の具体的な処方例であるところ、甲22には、網膜障害予防剤の剤形を「顆粒剤」とする場合の処方例の開示はない。
また、ハイアミロースコーンスターチは、本件特許の優先日当時に、高成形性デンプン系打錠賦形剤として市販されており(甲27の表1、甲28の段落【0017】、甲29の2及び4ページ、甲30の段落【0080】及び【0081】を参照)、これを使用することで硬度が高い錠剤を得ることができることも知られていた(甲31の表1を参照)が、ハイアミロースコーンスターチを顆粒製造時の賦形剤として用いることは、優先日当時の当業者が知るところであったとはいえない。
さらに、錠剤の組成が知られていれば、それと同じ組成で顆粒剤とすることができることが技術常識であったともいえない。
そうしてみると、甲22発明の「タブレット剤」を「顆粒剤」へと剤形変更すること、その際に、甲22発明における「でんぷん」をハイアミロースコーンスターチに変更することは、甲22の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ア-2 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記ア-1で検討したのと同様の理由により、甲22発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

イ 甲23発明との対比・判断
イ-1 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲23発明における「糖衣錠剤」とは、固形組成物である点で共通する。
訂正発明1と甲23発明とを対比すると、両者は、
「(a)澱粉、及び(b)還元麦芽糖糖水飴を含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点8’)澱粉として、訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲23発明では単に澱粉とされ、糖衣錠剤中60質量%用いられている点。
(相違点8a’)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲23発明は糖衣錠剤である点。

以下、上記相違点について、検討する。
甲23には、ブドウ属植物及びイタドリ科植物から選ばれる少なくとも1種以上を含有するアレルギー性皮膚炎の予防・症状緩和に有用な経口組成物の発明が記載され(特許請求の範囲等)、その剤形として、錠剤状とともに顆粒状も記載されている(段落【0020】)。そして、甲23発明の認定の基礎とした甲23の実施例1は、イタドリ抽出物を含む経口組成物の剤形を糖衣錠という「錠剤」の形態とする場合の具体的な処方例であるところ、甲23には、経口組成物の剤形を「顆粒剤」とする場合の処方例の開示はな。
また、上記ア-1で説示したとおり、ハイアミロースコーンスターチを顆粒製造時の賦形剤として用いることは、優先日当時の当業者が知るところではなく、錠剤と同じ組成で顆粒剤を製造できることが技術常識であったともいえない。
そうしてみると、甲23発明の「糖衣錠剤」を「顆粒剤」へと剤形変更すること、その際に、甲23発明における「澱粉」をハイアミロースコーンスターチに変更することは、甲23の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

イ-2 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記イ-1で検討したのと同様の理由により、甲23発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

ウ 小括
以上のとおり、上記取消理由Dは、理由がない。

5 上記取消理由Eについて
(1)甲32?甲36に記載された発明について
ア 甲32に記載された発明
甲32の実施例5の記載によれば、甲32には、以下の発明が記載されているものと認める。
「打錠により製造された、以下の配合の鉄剤の錠剤。
ニコチアナミン 1000g
硫酸第一鉄 500g
コーンスターチ 180g
シュークロース 1160g
還元麦芽糖水飴 540g
ショ糖脂肪酸エステル 120g
計 3500g」(以下「甲32発明」という)

イ 甲33に記載された発明
甲33の実施例21?25の記載によれば、甲33には、以下の発明が記載されているものと認める。
「以下の配合の錠剤(単位:mg)。
メリロートエキス 30
フーカスエキス、ヒハツエキス、ハトムギエキス末、ホップエキス末又はアロエベラエキスのいずれか一種 30
ニコチン酸 5.0
パントテン酸カルシウム 2.0
塩酸ピリドキシン 0.5
リボフラビン 0.4
塩酸チアミン 0.3
還元麦芽糖水飴 466.8
トウモロコシデンプン 80
グリセリン脂肪酸エステル 15
香料 20
合計 650」(以下「甲33発明」という)

ウ 甲34に記載された発明
甲34の表4の記載によれば、甲34には、以下の発明が記載されているものと認める。
「以下の組成の錠剤。
雲南百薬マイクロ波減圧乾燥粉砕物
(雲南百薬加工物) 40重量%
還元麦芽糖水飴 40重量%
コーンスターチ 20重量%
合計 100重量%」(以下「甲34発明」という。)

エ 甲35に記載された発明
甲35の実施例5の記載によれば、甲35には、以下の発明が記載されているものと認める。
「以下の組成を有する錠剤A又は錠剤B。
A(%) B(%)
L-アスコルビン酸カルシウム 30.00
被覆L-アスコルビン酸カルシウム 33.30
(90%)
粉末還元麦芽糖水飴 60.00 58.00
アスパラテーム 1.00 1.00
コーンスターチ 8.30 7.00
ステアリン酸マグネシウム 0.70 0.70
計 100.0 100.0」(以下「甲35発明」という)

オ 甲36に記載された発明
甲36の表6の記載によれば、甲36には、以下の発明が記載されているものと認める。
「以下の組成を有する錠剤。
成分 重量(%)
イカ骨由来のβ-キチンを
原料とするキチン・キトサン 40
還元麦芽糖水飴 40
コーンスターチ 20
計 100」(以下「甲36発明」という)

(2)対比・判断
ア 甲32発明との対比・判断
ア-1 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲32発明における「錠剤」とは、固形組成物である点で共通する。
訂正発明1と甲32発明とを対比すると、両者は、
「(a)コーンスターチ、及び(b)還元麦芽糖糖水飴を含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点10)コーンスターチとして、訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲32発明では単にコーンスターチとされ、錠剤中約5質量%用いられている点。
(相違点10a)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲33発明は錠剤である点。

以下、上記相違点について、検討する。
甲32には、ニコチアナミン及び鉄化合物を含有する鉄剤の発明が記載され(特許請求の範囲等)、その剤形として、錠剤とともに顆粒剤も記載されている(段落【0023】)。そして、甲32発明の認定の基礎とした甲32の実施例5は、鉄剤の剤形を「錠剤」の形態とする場合の具体的な処方例であるところ、甲32には、鉄剤の剤形を「顆粒剤」とする場合の処方例の開示はない。
また、ハイアミロースコーンスターチを顆粒製造時の賦形剤として用いることは、優先日当時の当業者が知るところではなく、錠剤と同じ組成で顆粒剤を製造できることが技術常識であったともいえないことは、上記4(2)ア-1で説示したとおりである。
そうしてみると、甲32発明の「錠剤」を「顆粒剤」へと剤形変更すること、その際に、甲32発明における「コーンスターチ」をハイアミロースコーンスターチに変更することは、甲32の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ア-2 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記ア-1で検討したのと同様の理由により、甲32発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

イ 甲33発明との対比・判断
イ-1 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲33発明における「錠剤」とは、固形組成物である点で共通し、また、訂正発明1における「ハイアミロースコーンスターチ」と甲33発明における「トウモロコシデンプン」とは、「コーンスターチ」である点で共通する。
訂正発明1と甲33発明とを対比すると、両者は、
「(a)コーンスターチ、及び(b)還元麦芽糖水飴を含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点10’)コーンスターチとして、訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲33発明では単にトウモロコシデンプンとされ、錠剤中約12質量%用いられている点。
(相違点10a’)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲33発明は錠剤である点。

以下、上記相違点について、検討する。
甲33には、少なくとも、第1成分として、メリロートエキス、第2成分として、フーカスエキス、ヒハツエキス、ハトムギエキス、ホップエキスおよびアロエベラエキスよりなる群から選択される天然物由来エキスまたはそれらの組合せ、および第3成分として、ビタミンB群を含む抗浮腫組成物の発明が記載され(特許請求の範囲等)、また、本発明の抗浮腫組成物を顆粒剤や錠剤等の固形製剤に加工する場合、上記の第1ないし第3の成分に加えて、固形製剤を製造するために通常用いられる成分、例えば、乳糖、還元麦芽糖水飴、トウモロコシデンプンのごときデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、グリセリン脂肪酸エステル、香料等を添加することができることも記載されている(段落【0010】)。
そして、甲33発明の認定の基礎とした甲33の実施例21?25は、抗浮腫組成物の剤形を「錠剤」の形態とする場合の具体的な処方例である。他方、甲33の実施例16?20には、その剤形を「顆粒剤」とする場合の処方例の開示はあるが、還元麦芽糖水飴を含まないものである。
また、ハイアミロースコーンスターチを顆粒製造時の賦形剤として用いることは、優先日当時の当業者が知るところではなく、錠剤と同じ組成で顆粒剤を製造できることが技術常識であったともいえないことは、上記4(2)ア-1で説示したとおりである。
そうしてみると、甲33発明の「錠剤」を「顆粒剤」へと剤形変更すること、その際に、甲33発明における「トウモロコシデンプン」をハイアミロースコーンスターチに変更することは、甲33の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

イ-2 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記イ-1で検討したのと同様の理由により、甲33発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

ウ 甲34発明との対比・判断
ウ-1 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲34発明における「錠剤」とは、固形組成物である点で共通する。
訂正発明1と甲34発明とを対比すると、両者は、
「(a)コーンスターチ、及び(b)還元麦芽糖水飴を含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点10’’)コーンスターチとして、訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲34発明では単にコーンスターチとされ、錠剤中20質量%用いられている点。
(相違点10a’’)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲34発明は錠剤である点。

以下、上記相違点について、検討する。
甲34には、雲南百薬加工物を有効成分として含有することを特徴とする高血圧改善用、および血中総コレステロール上昇抑制用、および中性脂肪上昇抑制用、および血糖値上昇抑制用の製剤の発明が記載され(特許請求の範囲等)、また、本発明の製剤は、錠剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤の種々の形態の医薬品とすることができること(段落【0042】)が記載されている。
そして、甲34発明は、甲34の実施例2の表4に基づいて認定されたものであるところ、この実施例に関連した段落【0078】には、以下の事項も記載されているが、製剤の剤形を「顆粒剤」とする場合の処方例の開示はない。
・各成分の組成比率は表4に示すものに限定されるものではなく、適宜比率を変更してもよいこと、
・本実施例では錠剤に形成するものとしたが、これに限定されるものではなく、顆粒状にして、カプセルに封入してもよいこと、
・賦形剤は還元麦芽糖水飴やコーンスターチに限定されるものではなく、錠剤や顆粒にするに際して他の賦形剤材料、例えば乳糖などを用いてもよいこと、
・各製剤における、雲南百薬加工物の配合量は、期待する効果など考慮して適宜決定すれば良いが、1?99%で好適に用いられること
また、ハイアミロースコーンスターチを顆粒製造時の賦形剤として用いることは、優先日当時の当業者が知るところではなく、錠剤と同じ組成で顆粒剤を製造できることが技術常識であったともいえないことは、上記4(2)ア-1で説示したとおりである。
そうしてみると、甲34発明の「錠剤」を「顆粒剤」へと剤形変更すること、その際に、甲34発明における「コーンスターチ」をハイアミロースコーンスターチに変更することは、甲34の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ-2 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記ウ-1で検討したのと同様の理由により、甲34発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

エ 甲35発明との対比・判断
エ-1 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲35発明における「錠剤A又は錠剤B」とは、固形組成物である点で共通する。
訂正発明1と甲35発明とを対比すると、両者は、
「(a)コーンスターチ、及び(b)還元麦芽糖水飴を含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点10’’’)コーンスターチとして、訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲35発明では単にコーンスターチとされ、錠剤中8.3質量%又は7質量%用いられている点。
(相違点10a’’’)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲35発明は錠剤である点。

以下、上記相違点について、検討する。
甲35には、被覆製剤の製法の発明として、有機酸等の親水性の芯物質の周囲を疎水性熱溶融性脂質から選ばれる被覆物質で被覆する際に、被覆層を構成する疎水性熱溶融性脂質のβ晶化を促進させることで、親水性の芯物質の水溶出を防止又は抑制し、また、製剤製造時の粒子同士のブロッキングも防止することが記載されている(段落【0004】)。また、甲35には、この製法と、アスパルテーム等の甘味剤とを組み合わせることにより、より一層、矯味効果が向上し、かつ各種の性能を改善した水溶性ビタミン製剤が得られること(段落【0005】)、水溶性ビタミン製剤の剤形は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤等の経口投与剤形とすることができること(段落【0019】)も記載されている。
そして、甲35発明の認定の基礎とした甲35の実施例5は、シュガーレスビタミン錠剤の場合の具体的な処方例であるところ、甲35には、これを「顆粒剤」とする場合の処方例の開示はない。
また、ハイアミロースコーンスターチを顆粒製造時の賦形剤として用いることは、優先日当時の当業者が知るところではなく、錠剤と同じ組成で顆粒剤を製造できることが技術常識であったともいえないことは、上記4(2)ア-1で説示したとおりである。
そうしてみると、甲35発明の「錠剤」を「顆粒剤」へと剤形変更すること、その際に、甲35発明における「コーンスターチ」をハイアミロースコーンスターチに変更することは、甲35の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

エ-2 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記エ-1で検討したのと同様の理由により、甲35発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

オ 甲36発明との対比・判断
オ-1 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲36発明における「錠剤」とは、固形組成物である点で共通する。
訂正発明1と甲36発明とを対比すると、両者は、
「(a)コーンスターチ、及び(b)還元麦芽糖水飴を含有する固形組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点10’’’’)コーンスターチとして、訂正発明1ではハイアミロースコーンスターチを顆粒剤全体に対して30?70質量%用いるのに対し、甲36発明では単にコーンスターチとされ、錠剤中20質量%用いられている点。
(相違点10a’’’’)訂正発明1は顆粒剤であるのに対し、甲36発明は錠剤である点。

以下、上記相違点について、検討する。
甲36には、烏賊骨由来のβ-キチンより製造されたキチン・キトサンを有効成分として含有するコレステロール及び脂質吸収阻害剤が記載され(特許請求の範囲)、その形態は、錠剤、顆粒又は粉末のいずれかであること(特許請求の範囲)が記載されている。
また、甲36発明の認定の基礎とした表6の直上の段落【0035】には、以下の事項が記載されているが、製剤の剤形を「顆粒剤」とする場合の処方例の開示はない。
・表6は、イカ骨由来のβ-キチンを原料とするキチン・キトサンの錠剤とする場合の組成例であること、
・各構成要素の組成比率は表6に示すものに限定されるものではなく、適宜比率を変更したり、他の健康補助要素を添加してもよいこと、
・本実施例では錠剤に形成するものとしたが、これに限定されるものではなく、顆粒状や粉末状にして、カプセルに封入するようにしてもよく、また、賦形剤は還元麦芽糖水飴やコーンスターチに限定されるものではなく、錠剤や顆粒にするに際して他の賦形剤材料、例えば乳糖などを用いてもよいこと
そして、ハイアミロースコーンスターチを顆粒製造時の賦形剤として用いることは、優先日当時の当業者が知るところではなく、錠剤と同じ組成で顆粒剤を製造できることが技術常識であったともいえないことは、上記4(2)ア-1で説示したとおりである。
そうしてみると、甲36発明の「錠剤」を「顆粒剤」へと剤形変更すること、その際に、甲36発明における「コーンスターチ」をハイアミロースコーンスターチに変更することは、甲36の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

オ-2 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記オ-1で検討したのと同様の理由により、甲36発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

カ 小括
以上のとおり、上記取消理由Eは、理由がない。

6 上記取消理由Fについて
(1)上記(F-1)について
上記(F-1)のサポート要件違反の指摘は、本件訂正により、訂正発明1?3においては、成分(a)の含有量が「顆粒剤全体に対し30?70質量%」であること、訂正発明4において、成分(a)及び(b)の含有量がそれぞれ「顆粒剤全体に対し50?70質量%」及び「28?48質量%」であることが特定されたことで解消した。
(2)上記(F-2)について
上記(F-2)のサポート要件違反の指摘は、訂正発明1、2及び4において、剤形が「顆粒剤」に限定されたことで解消した。
(3)上記(F-3)について
上記(F-3)のサポート要件違反の指摘は、訂正発明1、2及び4において、成分(b)の選択肢から「還元パラチノース」が削除されたことで解消した。
(4)上記(F-4)について
特許権者が令和2年9月3日付けの意見書に添付して提出した乙第2号証(特許第4603245号公報)の段落【0057】等に記載されるように、顆粒の流動性は、顆粒をガラス瓶に採り、これを傾けることで評価することは一般的な手法であるといえる。そして、同意見書に添付して提出した乙第1号証(実験成績証明書)において、本件特許明細書の実施例3、4、6及び比較例1、2の顆粒剤をポリスチレン製の瓶に入れ、これを45°に傾けた状態で数回タッピングし、静かに水平に戻した際の外観評価することで流動性を評価した結果が示されている。
そうしてみると、上記(F-4)のサポート要件違反の指摘は、解消したといえる。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)甲27又は甲30を主引例とし、これと優先日当時の周知技術を組み合わせることによる進歩性欠如(特許法第29条第2項。異議申立人の申立理由6)
甲27.薬剤学,2005,65巻2号,p.98-105
甲30.国際公開2013/161805

(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明においては、「還元麦芽糖水飴」と「マルチトール」が区別されているが、明確な違いについては説明がなく、本件発明1-4は、請求項の記載自体が不明確である(特許法第36条第6項第2号。異議申立人の申立理由7の(オ))。

2 当審の判断
(1)上記1(1)の申立理由について
ア 甲27又は甲30に記載された発明
甲27には、直接打錠用澱粉である「パーフィラー102」(フロイント産業製)が市販されていたことが記載されているところ、この「パーフィラー102」は、ハイアミロースコーンスターチであり、錠剤の賦形剤として用いられるものである(甲28の段落【0017】、甲29の2及び4ページ)。
そうしてみると、甲27には、「ハイアミロースコーンスターチからなる錠剤の賦形剤であるパーフィラー102。」(以下、「甲27発明」という。)が記載されていると認める。

また、甲30の段落【0080】及び【0081】によれば、甲30には
、「ハイアミロースコーンスターチを造粒した、市販の打錠用澱粉顆粒を用いて製造された錠剤。」(以下、「甲30発明」という。)が記載されていると認める。

イ 甲27発明との対比・判断
イー1 訂正発明1について
訂正発明1と甲27発明とを対比すると、両者は、
「(a)ハイアミロースコーンスターチを含有するもの」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点11)訂正発明1は、顆粒剤全体に対し30?70質量%のハイアミロースコーンスターチを含む顆粒剤であるのに対し、甲27発明は、ハイアミロースコーンスターチからなる錠剤の賦形剤である点。
(相違点12)訂正発明1の顆粒剤は、さらに(b)還元麦芽糖水飴、エリスリトール、及びキシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種である糖アルコール類を含有するのに対し、甲27発明ではそのような特定がなされていない点。

事案に鑑み、まず、相違点11から検討する。
上記のとおり、甲27発明は、ハイアミロースコーンスターチからなる錠剤の賦形剤であるところ、これを顆粒製造時の賦形剤として用いることが、優先日当時の当業者に知られたところでないことは、上記第4の4(2)ア-1で説示したとおりである。
そうしてみると、甲27発明の賦形剤を用いて、顆粒剤を製造すること自体、甲27の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲27発明並びに甲27の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ-2 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記イ-1で検討したのと同様の理由により、甲27発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

ウ 甲30発明との対比・判断
ウー1 訂正発明1について
訂正発明1における「顆粒剤」と甲1発明における「錠剤」とは、固形組成物である点で共通する。
訂正発明1と甲30発明とを対比すると、両者は、
「(a)ハイアミロースコーンスターチを含有する固形組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点13)訂正発明1は、顆粒剤全体に対し30?70質量%のハイアミロースコーンスターチを含む顆粒剤であるのに対し、甲30発明は、ハイアミロースコーンスターチを造粒した打錠用澱粉顆粒を用いて製造された錠剤である点。
(相違点14)訂正発明1の顆粒剤は、さらに(b)還元麦芽糖水飴、エリスリトール、及びキシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種である糖アルコール類とを含有するのに対し、甲30発明ではそのような特定がなされていない点。

事案に鑑み、まず、相違点13から検討する。
上記のとおり、甲30発明は、ハイアミロースコーンスターチを造粒した、市販の打錠用澱粉顆粒を用いて製造された錠剤であるところ、甲30には、かかる打錠用澱粉顆粒を用いて顆粒を製造することについては開示も示唆もなく、また、ハイアミロースコーンスターチからなる錠剤の賦形剤を顆粒製造時の賦形剤として用いることが、優先日当時の当業者に知られたところでないことは、上記第4の4(2)ア-1で説示したとおりである。
そうしてみると、甲30発明の「錠剤」を「顆粒剤」に剤形変更すること自体、甲30の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲30発明並びに甲30の記載及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ-2 訂正発明2、4について
訂正発明2及び4は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、上記ウ-1で検討したのと同様の理由により、甲30発明に基づいて、進歩性を否定することはできない。

エ 小括
以上のとおり、上記1(1)の申立理由は、理由がない。

(2)上記1(2)の申立理由について
異議申立人も、異議申立書の28ページ下から8行?29ページ下から11行で述べるとおり、本件特許の技術分野において、「マルチトール」と「還元麦芽糖水飴」がほぼ同義で使われていることは周知であり、本件特許明細書において、両者が定義づけられることなく記載されていたとしても、訂正発明における「還元麦芽糖水飴」の記載自体が、不明確とはいえないことは明らかである。
よって、上記1(2)の申立理由も、理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2及び4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項3に係る特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)顆粒剤全体に対し30?70質量%のハイアミロースコーンスターチと(b)還元麦芽糖水飴、エリスリトール、及びキシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種である糖アルコール類とを含有することを特徴とする顆粒剤。
【請求項2】
食品、経口医薬品又は経口医薬部外品である、請求項1に記載の顆粒剤。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
(a)ハイアミロースコーンスターチの含有量が、顆粒剤全体に対し50?70質量%であり、(b)糖アルコール類の含有量が、顆粒剤全体に対し28?48質量%であり、食品、経口医薬品又は経口医薬部外品である、請求項1に記載の顆粒剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-18 
出願番号 特願2015-142887(P2015-142887)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 榎本 佳予子  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 滝口 尚良
松本 直子
登録日 2019-09-06 
登録番号 特許第6578778号(P6578778)
権利者 大正製薬株式会社
発明の名称 固形組成物  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人津国  

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