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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61J
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61J
管理番号 1370030
異議申立番号 異議2020-700528  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-28 
確定日 2021-01-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6636700号発明「薬液調製システム及び薬液調製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6636700号の請求項1、2、9、10および18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6636700号の請求項1、2、9、10および18に係る特許についての出願は、平成27年2月6日に出願され、令和1年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年7月28日に特許異議申立人山田宏基(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6636700号の請求項1、2、9、10および18の特許に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」等という。)は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみてそれぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2、9、10および18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
薬液を調製する薬液調製システムであって、
ロボットにより前記薬液の調製作業が行われる調製ゾーンと、
前記調製作業に使用される器具がトレーにセットされる準備ゾーンと、
前記調製ゾーンと前記準備ゾーンとの間に配置され、前記器具がセットされた前記トレー及び調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーをそれぞれ収納可能な複数の第1スペースを有する収納ゾーンと、
前記調製ゾーンと前記収納ゾーンとの間、及び、前記収納ゾーンと前記準備ゾーンとの間で、前記トレーを搬送する、コンベア装置を備えた搬送装置と、を有する、薬液調製システム。
【請求項2】
前記収納ゾーンは、
前記容器が収容された前記トレーを載置可能な載置部が多段に積み重ねて配置された収納棚と、
前記トレーを前記載置部に対して出し入れするように構成された出し入れ装置と、を有する、請求項1に記載の薬液調製システム。
【請求項9】
前記収納棚は、
複数の前記器具が所定の前記器具を1セットとして前記1セットごとに収容された前記トレーを前記載置部に載置する、請求項2?8のいずれか1項に記載の薬液調製システム。
【請求項10】
前記ロボットは、
前記収納棚に載置された複数の前記トレーに収容された前記器具を使用して1回の前記調製作業を実行する、請求項9に記載の薬液調製システム。
【請求項18】
薬液調製方法であって、
準備ゾーンにおいて調製作業に使用される器具をトレーにセットすることと、
前記器具がセットされたトレーをコンベア装置を備えた搬送装置により順次搬送し、収納ゾーンにおいて出し入れ装置によりそれぞれ複数のスペースに収納することと、
前記スペースに収納された前記トレーを前記出し入れ装置により順次取り出し、前記搬送装置により搬送して調製ゾーンにおいてロボットにより薬液の調製作業を行うことと、
調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーを前記搬送装置により順次搬送し、前記収納ゾーンにおいて前記出し入れ装置によりそれぞれ前記複数のスペースに収納することと、を有する、薬液調製方法。」

第3 申立理由の概要
1 特許法第29条第2項違反
申立人は下記の証拠を提出し、請求項1、2、9、10および18に係る特許は、甲1または甲2に記載された発明並びに甲3ないし甲8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、請求項1、2、9、10および18に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
申立人が提出した証拠
1.国際公開2014/065196号(以下「甲1」という。)
2.国際公開2014/054183号(以下「甲2」という。)
3.国際公開2015/002011号(以下「甲3」という。)
4.国際公開2008/142754号(以下「甲4」という。)
5.韓国公開特許10-2011-0112085号公報(以下「甲5」という。)
6.国際公開2014/175060号(以下「甲6」という。)
7.特開2006-219299号(以下「甲7」という。)
8.特開2013-240455号公報(以下「甲8」という。)

2 特許法第36条第6項第1号違反
本件発明1及び18の「調製ゾーン」と発明の詳細な説明に記載された用語との対応関係が不明瞭であるので本件発明1及び18はサポート要件を満たしていないから、本件発明1及び18並びに同発明を直接的または間接的に引用する本件発明2、9および10はサポート要件を満たしていない。
また、「調製ゾーン」が「調製室4内の調製作業が行われる空間」であるならば、本件発明1は、明細書に記載されていないから、本件発明1及び同発明を直接的または間接的に引用する本件発明2、9および10はサポート要件を満たしていない。
したがって、本件発明1、2、9、10および18は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであるから、その特許は同法第113条第4号に該当し、請求項1、2、9、10および18に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 甲1?8に記載された事項および発明
1 甲1
(1) 甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。以下同様である。
ア 「[0001] この発明は、抗ガン剤などの薬剤を輸液(補液)に混合調整する混注装置に関する。」

イ 「[0008] 上記の課題を解決するために、この発明の混注装置は、薬剤容器を保持する第1ロボットアームと、注射器を保持し、当該注射器による液薬の吸引および注入を行う第2ロボットアームと、少なくとも上記2台のロボットアームによって混注処理が行われる混注処理室と、少なくとも上記2台のロボットアームを動作させて、上記薬剤容器内の液薬または上記薬剤容器内で生成した液薬を上記注射器により吸引し、上記液薬を上記注射器によって輸液バッグ内に注入する処理を実行する制御部とを備えたことを特徴とする。」

ウ 「[0038] 以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1および図2に示しているように、混注装置1は、供給部200と本体部300とから成る。上記供給部200には、扉201および作業テーブル202等が設けられている。上記作業テーブル202上にはディスプレイ203やバーコードリーダ204などが配置される。また、上記供給部200は、空気清浄装置206等を有するクリーンベンチとなっている。上記作業テーブル202上に置かれた調整コンテナ101には、患者ごと又は施用ごとに注射器11、薬剤容器10、輸液バッグ12などが例えば人の作業によってセットされる。上記供給部200と上記本体部300は連通開口114によって連通されており、この連通開口114によって上記調整コンテナ101を上記本体部300内に入れることができる。なお、上記供給部200は自動的に上記調整コンテナ101を上記本体部300内に搬入するものでもよい。」

エ 「[0042] また、上記混注処理室104には、多関節構造の第1ロボットアーム21および第2ロボットアーム22が上記天井側に基端部を固定して垂下状に設けられている。上記第1ロボットアーム21は上記第2ロボットアーム22に比べて上記供給部200に近い位置に配置されており、上記第2ロボットアーム22は上記第1ロボットアーム21に比べて上記混注用連通口37に近い位置に配置されている。」

オ 「[0120] また、上記のように、上記コンテナ搬送部110は、上記調整コンテナ101を、上記第1ロボットアーム21に近い位置から上記第2ロボットアーム22に近い位置へと搬送するが、この実施形態では、上記主扉301或いはゴミ収容室扉13を挟むように上記連通開口114(調整コンテナ入口)と調整コンテナ取り出し扉15(調整コンテナ出口)とを配置している。ここで、調整コンテナ入口と調整コンテナ出口とが横並びに隣接していると、入口か出口かの間違いが生じやすいが、上記のように上記主扉301或いはゴミ収容室扉13を挟むように上記調整コンテナ入口と調整コンテナ出口とを配置していると、入口か出口かの間違いが生じにくくなる。なお、上記調整コンテナ取り出し扉15(調整コンテナ出口)は本体部300の左側面に形成されていてもよい。また、上記連通開口114(調整コンテナ入口)は本体部300の前面に形成されていてもよい。」

カ 「[0143] また、患者ごとの薬剤や輸液バッグをセットした調整コンテナをストッカーに溜めておく構成を採用してもよい。例えば、図33に示すように、ストッカー306を設け、患者ごとの薬剤や輸液バッグをセットした調整コンテナ101ができ次第、入口306aから入れていく。各調整コンテナ101には患者ごとに無線タグ(RFID等)やバーコード等が付されており、どの患者の調整コンテナ101が何段目にストックされているかをストッカー306で管理しておくことができる。上記ストッカー306は、混注処理1の本体部300から患者(ID)を指定されると、その患者の調整コンテナ101を上記本体部300の連通開口114の高さに移動し、例えばコンベヤなどで上記調整コンテナ101を上記連通開口114に入れる。」

キ 「

」(図2)

ク 「

」(図33)

ケ 上記カ([0143])およびク(図33)の図示内容から、ストッカー306は、コンテナ101をそれぞれ収納可能な複数のスペースを備えていることは明らかである。

(2) 甲1に記載された発明
上記記載事項ア?ク及び認定事項ケを総合し、上記オ及びク(図33)の実施例に注目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」、「甲1方法発明」という。)がそれぞれ記載されているものと認める。
「薬剤を輸液に混合調整する混注装置1であって、
ロボットアーム21、22により前記薬剤の混注処理が行われる混注処理室104と、
前記混注処理に使用される注射器11、薬剤容器10、輸液バッグ12などがセットされた調整コンテナ101をそれぞれ収納可能な複数のスペースを有するストッカー306と、
前記混注処理室104と前記ストッカー306との間で、前記調整コンテナ101を搬送するコンベヤと、
を有する、混注装置1。」(甲1発明)

「薬剤を輸液に混合調整する混注方法であって、
混注処理に使用される注射器11、薬剤容器10、輸液バッグ12などがセットされたコンテナ101をそれぞれ収納可能な複数のスペースを有するストッカー306にセットすること、
前記スペースに収納された前記コンテナ101をコンベヤにより前記ストッカー306と混注処理室104との間で、前記コンテナ101を搬送して混注処理室104において
ロボットアーム21、22により前記薬剤の混注処理が行われること、
を有する、混注方法。」(甲1方法発明)

2 甲2
(1) 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア 「[0001] 開示の実施形態は、自動調製システムに関する。」

イ 「[0012] かかる自動調製システム1では、ロボット20が、調製前の薬剤が収納されたトレイTをトレイ置場30から取り出し、取り出したトレイTを安全キャビネット10へ搬送する。そして、自動調製システム1では、ロボット20が、トレイTに収納された薬剤の調製作業を安全キャビネット10内で行うとともに、調製後の薬剤が収納されたトレイTを安全キャビネット10から搬出してトレイ置場30へ戻す。
[0013] このように、自動調製システム1は、薬剤の取り出しから調製後の薬剤の払い出しまでの一連の調製作業を自動化したシステムである。かかる自動調製システム1は、各種の薬剤の調製作業に適用可能であるが、特に、抗癌剤の調製作業のように作業者にとって危険な薬剤を取り扱う調製作業への適用が好ましい。以下、自動調製システム1が備える構成要素について説明する。」

ウ 「[0030] 各トレイTには、1回の調製作業に必要となる薬剤がまとめて収納される。本実施例では、各トレイTに、それぞれ異なる薬剤が封入された複数のバイアルと、輸液とが収納されるものとする。また、各トレイTには、各トレイTを識別するためのバーコードが貼り付けられる。」

エ 「請求の範囲
[請求項1] 作業台と、
前記作業台の近傍に配置され、複数のアームを備えるロボットと、
前記作業台に設けられ、シリンジを回転可能に保持する冶具と
を備え、
前記ロボットは、
所定のシリンジストッカから前記シリンジを取り出して前記冶具へ取り付けた後、該シリンジを用いた薬剤の調製作業を前記複数のアームを協働させて行うこと
を特徴とする自動調製システム。」

オ 「

」(図1A)

カ 「

」(図2A)

キ 「

」(図2B)

ク 上記ウ([0030])の記載およびカの(図2A)図示内容から、トレイ置場30は、複数のトレイTを収納可能なスペースを備えていることは明らかである。

(2) 甲2に記載された発明
上記記載事項ア?クおよび認定事項ケを総合すると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」、「甲2方法発明」という。)がそれぞれ記載されているものと認める。
「薬剤を調製する自動調製システム1であって、
ロボット20により前記薬剤の調製作業が行われる安全キャビネット10と、
ロボット20が、調製前の薬剤が収納されたトレイTを複数のトレイTを収納可能なスペースを備えたトレイ置場30から取り出し、取り出したトレイTを安全キャビネット10へ搬送し、ロボット20が、トレイTに収納された薬剤の調製作業を安全キャビネット10内で行うとともに、調製後の薬剤が収納されたトレイTを安全キャビネット10から搬出してトレイ置場30へ戻す、
自動調製システム1。」(甲2発明)

「薬剤を調製する自動調製方法であって、
ロボット20が、調製前の薬剤が収納された複数のトレイTを収納可能なスペースを備えたトレイ置場30から取り出すこと、
取り出したトレイTを安全キャビネット10へ搬送し、ロボット20が、トレイTに収納された薬剤の調製作業を安全キャビネット10内で行うこと、
調製後の薬剤が収納されたトレイTを安全キャビネット10から搬出してトレイ置場30へ戻すこと、を有する薬剤を調製する自動調製方法。」(甲2方法発明)

3 甲3
(1) 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア 「[0001]本発明は、薬剤容器に収容された抗がん剤などの薬剤を輸液容器に注入する混注処理を実行する混注装置の制御技術に関する。」

イ 「[0031]前記扉201は、前記薬剤装填部200の前面に設けられており、垂直方向に開閉可能である。ユーザーは、図2に示すように、前記扉201を少し開いて手を前記薬剤装填部200内に入れた状態で、前記混注装置1により実行される混注処理の準備作業を行う。具体的に、前記作業テーブル202上に載置されているコンテナ101には、図5に示すように、前記混注装置1で実行される混注処理で使用する薬剤容器10、注射器11、及び輸液バッグ12(輸液容器の一例)などが収容されている。前記準備作業には、例えば前記コンテナ101の所定の位置に前記薬剤容器10、前記注射器11、及び前記輸液バッグ12を載置させ、前記コンテナ101を前記混注処理部300に装填する装填作業が含まれる。以下では、前記薬剤容器10がアンプルである場合には、前記薬剤容器10をアンプル10Aと称し、前記薬剤容器10がバイアル瓶である場合には、前記薬剤容器10をバイアル瓶10Bと称する。」

ウ 「[0037]そして、前記コンテナ101は、ユーザーにより前記薬剤容器10、前記注射器11及び前記輸液バッグ12がセットされた後、前記開口114を通じて前記混注処理部300に供給される。なお、前記薬剤装填部200が、自動的に前記コンテナ101を前記混注処理部300に搬入させるベルトコンベアなどの搬入機構を備える
ことも考えられる。」

エ 「[0067][載置棚33]図4に示すように、前記載置棚33は、前記混注装置1において実行される混注処理において前記薬剤容器10及び前記注射器11などを仮置きするために用いられる。また、前記載置棚33は、前記混注処理が実行された後に前記薬剤容器10の内部に薬剤が残存している場合に前記薬剤容器10を待機させるための待機位置としても利用される。もちろん、前記待機位置は、前記載置棚33とは別の位置に設けられていてもよい。」

オ 「[0137]<ステップS23>一方、ステップS23において、前記第2制御部500は、前記第1制御部400から入力された前記調製データに基づいて前記混注処理部300を制御することにより、前記残存薬剤を使用して前記輸液バッグ12に薬剤を注入する例外的な前記混注処理を実行する。即ち、前記第2制御部500は、前記残存薬剤と同種の薬剤を処方薬に含む前記調製データが前記混注処理の対象として選択され且つ前記使用条件を満たす場合に前記混注処理において前記残存薬剤を使用する処理を実行する。ここに、係る処理を実行するときの前記第2制御部500が残薬使用手段に相当する。
[0138]具体的に、前記ステップS23における前記混注処理において、前記第2制御部500は、前記調製データに示された薬剤を、後述のステップS25において前記載置台33に載置された前記薬剤容器10から前記注射器11によって吸引し、前記注射器11から前記輸液バッグ12に注入する。但し、前記第2制御部500は、前記載置台33に載置された前記薬剤容器10内の薬剤の残量で足りない場合には、前記薬剤載置部102に載置された一又は複数の前記薬剤容器10の薬剤を使用して前記混注処理を継続する。」

(2) 甲3に記載された技術的事項
上記記載事項ア?オを総合すると、甲3には、次の技術的事項が記載されているものと認める。
「ユーザーにより薬剤容器10、注射器11及び輸液バッグ12がセットされたコンテナ101を、薬剤装填部200から混注処理部300に搬入させるベルトコンベアなどの搬入機構を備えること。」(以下「甲3に記載された技術的事項」という。)

4 甲4
(1) 甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
ア 「[0001] 本発明は、半導体集積回路素子等の各種電子部品(以下、代表的にICデバイスとも称する。)をテストヘッドのコンタクト部に電気的に接触させてICデバイスを試験する電子部品試験装置及び電子部品試験方法に関する。」

イ 「[0038] 格納部100には、これから試験を受けるICデバイスを収容したカスタマトレイKSTが多数格納されていると共に、試験を終えたICデバイスを試験結果に応じて収容しているカスタマトレイKSTが多数格納されている。搬送部200は、格納部100から試験前のICデバイスを取り出して、当該ICデバイスに所定の熱ストレスを印加した後にテスト部300に供給する。そして、テスト部300において、コンタクトアーム321,331がテストヘッド5のソケット6にICデバイスを押し付けて、テスタ7がテストヘッド5及びケーブル8を介してICデバイスのテストを実行する。テスト部300にて試験の完了したICデバイスは、搬送部200によりテスト部300から搬出されて、それぞれのテスト結果に応じたカスタマトレイKSTに分類されながら格納部100に格納されるようになっている。」

ウ 「[0040] 格納部100は、図3及び図4に示すように、搬入出ユニット120、第1のトレイ移送アーム130、セットプレート140、第2のトレイ移送アーム150、及び、マトリクスストッカユニット160を備えている。図3に示すように、アクセスポート110とマトリクスストッカユニット160との間のカスタマトレイKSTの搬送は、搬入出ユニット120及び第1のトレイ移送アーム130が行い、マトリクススストッカユニット160と各窓部170との間の搬送は、第2のトレイ移送アーム150及びセットプレート140が行うようになっている。」

エ 「[0042] 支持装置121は、複数枚のカスタマトレイKSTを支持可能であると共に、昇降装置122との間でのカスタマトレイKSTの授受の際にアクチュエータ(不図示)により左右方向(図4の矢印方向)に沿って摺動して退避することが可能となっている。この支持装置121は、作業者が格納部100に唯一アクセス可能な出入口110(以下単にアクセスポート110と称する。)内に設けられている。作業者はこのアクセスポート110のみを介してカスタマトレイKSTを投入及び搬出することが可能となっている。このように、本実施形態では、格納部100へのカスタマトレイKSTの搬入出口を一つに限ることで、人為的なミス(例えば、作業者がカスタマトレイKSTを異なるストッカにセットしてしまう)を防止したり、ハンドラ10外における搬送の自動化を図ることができる。なお、本発明においては、アクセスポート110の数は一つに限定されず、例えば、搬入専用と搬出専用の合計2つのアクセスポートを設けても良い。」

オ 「[0045] 第1のトレイ移送アーム130は、図4及び図5に示すように、格納部100の上部に全域に亘ってX軸方向に沿って設けられたX軸方向レール131と、X軸方向レール131上に昇降可能に設けられたZ軸方向レール132と、Z軸方向レール132上に昇降可能に設けられている保持ヘッド133と、保持ヘッド133の下側に設けられ、複数枚のカスタマトレイKSTを同時に把持することが可能な開閉式の把持爪134と、から構成されている。なお、X軸方向レール131は、第1のトレイ移送アーム130と第2のトレイ移送アーム150とで兼用されている。
[0046] この第1のトレイ移送アーム130は、スライド装置123からカスタマトレイKSTを受け取ると、Z軸方向レール132に沿って把持ヘッド133が上昇した後に、Z軸方向レール132がX軸方向レール131上をX軸方向に沿って移動し、マトリクスストッカユニット160内において第2の昇降装置163に当該カスタマトレイKSTを受け渡す。」

カ 「[0055] アクセスポート110から投入されたカスタマトレイKSTをマトリクスストッカユニット160に格納する場合には、第2の昇降装置163がスライド装置162からストッカ161を受け取った後に上昇し、マトリクスストッカユニット160内に移動してきた第1のトレイ移送アーム130がカスタマトレイKSTをストッカ161に引き渡す。ストッカ161内にカスタマトレイKSTが格納されたら、第2の昇降装置163が下降してスライド装置162にストッカ161を引き渡し、スライド装置162が元の位置に戻る。
[0056] 一方、カスタマトレイKSTをマトリクスストッカ160から窓部140に供給する場合には、スライド装置162が移動すると共に第2の昇降装置163が上昇することで、スライド装置162から第2の昇降装置163にストッカ161が受け渡され、さらに第2の昇降装置163が上昇して、第2のトレイ移送アーム150がストッカ161からカスタマトレイKSTを取り出す。ストッカ161からカスタマトレイKSTが取り出されたら、第2の昇降装置163が下降してスライド装置162にストッカ161を引渡し、スライド装置162が元の位置に戻る。
[0057] 第2のトレイ移送アーム150は、図4に示すように、第1のトレイ移送アーム130のX軸方向レール131上にX軸方向に摺動可能に設けられているZ軸方向レール151と、Z軸方向レール151上に昇降可能に設けられている2つの把持ヘッド152と、把持ヘッド152の下側に設けられ、1枚のカスタマトレイKSTを把持することが可能な開閉式の把持爪153と、から構成されている。なお、本発明においては、2つの把持ヘッド152は、相互に独立してX軸方向に移動可能であっても良い。また、本発明においては、把持爪153により複数枚のカスタマトレイKSTを同時に把持するように構成しても良い。
[0058] 第2のトレイ移送アーム150は、一方の把持ヘッド152により、マトリクスストッカユニット160において第2の昇降装置162に保持されているストッカ161からカスタマトレイKSTを受け取った後に、下降しているセットプレート140から、他方の把持ヘッド152が、空又はICデバイスが満載のカスタマトレイKSTを受け取り、一方の把持ヘッド152が新規なカスタマトレイを当該セットプレート140に受け渡す。」

キ 「[0062] 新規のカスタマトレイKSTをマトリクスユニット160内に格納する場合に、作業者がアクセスポート110にカスタマトレイKSTを投入すると、そのカスタマトレイKSTは搬入出ユニット120によりマトリクスストッカユニット160内へ運ばれてストッカ161にそれぞれ格納される。
[0063] 次いで、試験前のICデバイスを収容したカスタマトレイKSTを搬送部200に供給する場合には、スライド装置162により移動したストッカ161が第2の昇降装置163により上昇し、第2のトレイ移送アーム150が当該ストッカ161からカスタマトレイKSTを受け取ってセットプレート140に引き渡す。そして、セットプレート140が窓部170に向かって上昇することで、カスタマトレイKSTが搬送部200に臨む。
(中略)
[0065] 一方、試験済みのICデバイスを収容したカスタマトレイKSTをマトリクスストッカユニット160に戻す場合には、セットプレート140が窓部170から下降して、第2のトレイ移送アーム150がカスタマトレイKSTをセットプレート140から受け取り、第2の昇降装置163により上昇しているストッカ161に当該カスタマトレイKSTを受け渡す。なお、試験済みのICデバイスが満載となったカスタマトレイKSTが搬出された窓部170には、マトリクスストッカユニット160において第9列目に位置しているストッカ161から第2のトレイ移送アーム150及びセットプレート140を介して空のカスタマトレイKSTが供給される。[0066] さらに、マトリクスストッカユニット160に格納されているカスタマトレイKSTをアクセスポート110に搬出する場合には、マトリクスユニット160において、第2の昇降装置163により上昇しているストッカ161から第1のトレイ移送アーム130がカスタマトレイKSTを受け取り、さらに第1のトレイ移送アーム130が搬入出ユニット120に受け渡すことで、カスタマトレイKSTがアクセスポート110に搬出される。
(中略)
[0068] 搬送部200は、図1に示すように、搬送装置210、ヒートプレート220及び2つの搬送系230,240を備えており、図3に示すように、窓部170に位置しているカスタマトレイKSTから試験前のICデバイスを取り出して所定の熱ストレスを印加した後にテスト部300に供給すると共に、試験を終えたICデバイスを分類しながら格納部100に搬出することが可能となっている。
[0069] 搬送装置210は、図1に示すように、ハンドラ10のメインベース11上にY軸方向に沿って設けられた支持レール211と、2本の支持レール211の間にY軸方向に沿って移動可能に支持されている可動レール212と、可動レール212にX軸方向に沿って相互に独立して移動可能に支持されている2つの可動ヘッド213,214と、から構成されている。各可動ヘッド213,214の下側には8個の吸着パッドがそれぞれ装着されており、特に図示しないアクチュエータによりZ軸方向に沿って移動可能となっている。この搬送装置210は、格納部100の全ての窓部170、ヒートプレート220及び各搬送系230,240を包含する動作範囲を有している。例えば、本実施形態では、第1の可動ヘッド213が、図3において左側から1?5番目の窓部170と第1のバッファステージ231との間の搬送を担当し、第2の可動ヘッド214が、図3において左側から6?9番目の窓部170と第2のバッファステージ241との間の搬送を担当するようになっている。」

ク 「[0088] 試験が完了すると、コンタクタアーム321,331によりテスト部300から試験済みのICデバイスがバッファステージ231,241に搬出され、さらに搬送装置310がバッファステージ231,241から試験結果に応じたカスタマトレイKSTにICデバイスを分類しながら搬送する。」

ケ 「[0099] 第2のコンタクトアーム331も、第1のコンタクトアーム321と同様に、固定側アーム331a、ロックアンドフリー機構331b及び保持側アーム331cから構成されている。なお、第1のコンタクトアーム321が、第1のバッファステージ230とテストヘッド5との間でICデバイスを移動させ、第2のコンタクトアーム331が、第2のバッファステージ240とテストヘッド5との間でICデバイスを移動させる。」

コ 「

」(図1)

(2) 甲4に記載された技術的事項
上記記載事項ア?コを総合すると、甲4には、次の技術的事項が記載されているものと認める。
「アクセスポート110と、搬送部200及びテスト部300との間に配置されたマトリクスストッカユニット160において、試験前後のICデバイスが収容されたカスタマトレイKSTを収納すると共に、搬送部200及びテスト部300とマトリクスストッカユニット160とアクセスポート110との間で、試験前後のICデバイスが収容されたカスタマトレイKSTを搬送する電子部品試験装置。」(以下「甲4に記載された技術的事項」という。)
また、甲4には、「第2発明の昇降装置163は、カスタマトレイKSTを、マトリクスストッカユニット160に対して出し入れするように構成された装置。」が記載されていると認められる(以下「甲4発明」という。)。
5 甲5
(1) 甲5に記載された技術的事項
甲5には、以下の技術的事項が記載されている。()内の和訳は、請求人が提出した甲5の訳文によるものである。
ア 「


(和訳:[0001]本発明は多数の薬品を保管して引き出し口を自動で管理する管理システムに関することとして、多数の薬品を一つの本体に自動で収納してこれを保管してから使用者の要求によって自動で薬品を引き出すことができるが、薬品を最適の環境で保管する薬品保管及び引き出し口自動化管理システムに関する。)

イ 「


(和訳:[0071]本体(10)は内部に薬品が保存される収納空間として、多数の棚が設置される。 棚は図2に図示されたように、本体(10)の前方と後方側にそれぞれ前方棚(110)と後方棚(120)で分けられて設置されて、前方棚(110)と後方棚(120)の間には各棚に薬品を収納するか搬出するように後述されるロボット移送部(30)が駆動可能な作業空間(130)が形成される。)

ウ 「


(和訳:[0091]次、薬品引き出し口ドア部材(203)は昇降されながら高さ測定器を通じて測定された薬品(M)の高さを制御部(60)で転送して、薬品(M)はコンベヤーベルトになった薬品安着コンベヤー(201)を通じて本体(10)の内部に引入される。)

エ 「


(和訳:[0093]薬品の体積が算出されると、制御部(60)では薬品(M)が収容されうる前方棚(110)や後方棚(120)を検索して後述されるロボット移送部(30)から薬品(M)を移送してこれを保管するようにする。
[0094]一方、薬品(M)を本体(10)の外側で引き出す場合、上述したところの反対過程を経て引き出しされる薬品(M)がコンベヤーベルトになった薬品安着コンベヤー(201)に安着されると薬品引き出し口ドア部材(203)を開放させて、引き出し口ローラー(202)を反対に回転させて薬品(M)を引き出しさせるようにする。)

オ 「

」(図2)

(2) 甲5に記載された技術的事項
上記記載事項ア?オを総合すると、甲5には、次の技術的事項が記載されているものと認める。
「薬品を最適の環境で保管する薬品保管及び引き出し口自動化管理システムにおいて、薬品(M)を前方棚(110)又は後方棚(120)に対して出し入れするように構成されたロボット移送部(30)を備えること。」(以下「甲5に記載された技術的事項」という。)

6 甲6
(1) 甲6に記載された事項
甲6には、以下の技術的事項が記載されている。
ア 「[0001] この発明は、PTP(Press Through Package)シートやブリスター包装シート等の薬剤シートの払い出しを行う薬剤払出装置、薬剤払出方法および薬剤収容カセットに関する。」

イ 「[0065] 以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示しているように、この実施形態の薬剤払出装置101内には上下左右に複数の装填スペース101aが設けられており、上記装填スペース101aのそれぞれに薬剤収容カセット1が前後方向(奥行き方向)に出し入れ可能に設けられている。この薬剤払出装置101の払出操作部110は、上記薬剤収容カセット1の配置範囲において上下方向及び左右方向に移動可能に設けられている。また、上記薬剤払出装置101には、ディスプレイ102及び入力部103が設けられている。なお、上記薬剤払出装置101の前側となる方向と後ろ側となる方向を図1に示している。
[0066] 図2に示しているように、上記薬剤払出装置101の制御部105は、上記入力部103から入力された情報を処理し、また処理した情報をディスプレイ102に表示する等の処理を行う。例えば、オペレータは、上記入力部103を用いて、どの薬剤収容カセット1にどのPTPシート100が収容されているか等を入力する初期入力、上記薬剤収容カセット1にPTPシート100を補充する際の補充枚数入力、払出のための処方箋情報入力等を行うことができる。上記制御部105の処理によって各種情報を記憶部104に記憶することができる。また、上記制御部105は、上記処方箋情報に基づいて上記払出操作部110を対象となる薬剤収容カセット1の箇所まで移動させて、PTPシート100の払出処理を実行する。」


ウ 「

」(図1)

エ 「

」(図2)

(2) 甲6に記載された技術的事項
上記記載事項ア?エを総合すると、甲6には、次の技術が記載されているものと認める。
「薬剤シートの払い出しを行う薬剤払出装置において、薬剤払出装置101内の複数の装填スペース101aのそれぞれに薬剤収容カセット1を前後方向に出し入れ可能に設けられた、払出操作部110を備えること。」(以下「甲6に記載された技術的事項」という。)

7 甲7
(1) 甲7に記載された事項
甲7には、以下の技術的事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、主に薬品をトレイの所定位置へと払い出すために使用する物品払出装置に関するものである。」

イ 「【0054】
以下同様にして、処方データに含まれる薬品Dについてトレイ5への払出処理が完了すれば、トレイ搬送ライン4でのストッパによるトレイ5の停止状態を解除し、トレイ5を装置本体1から外部へと搬送する(ステップS18)。」

ウ 「【0064】
また、前記ステップS29?S31で、容器仮想領域の全てについて検索し終わるまで薬品Dを配置可能なスペースが検出されない場合、あるいは、ステップS33で、高さ方向に薬品Dを配置可能なスペースが検出されない場合、エラー処理を実行するか、あるいは、次のトレイへの払出へと移行する(ステップS34)。」

(2) 甲7に記載された技術的事項
上記記載事項ア?ウを総合すると、甲7には、次の技術が記載されているものと認める。
「容器仮想領域の全てについて検索し終わるまで薬品Dを配置可能なスペースが検出されない場合、あるいは、ステップS33で、高さ方向に薬品Dを配置可能なスペースが検出されない場合、次のトレイへの払出へと移行する薬品をトレイの所定位置へと払い出すために使用する物品払出装置。」(以下「甲7に記載された技術的事項」という。)

8 甲8
(1) 甲8に記載された事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、薬剤払出装置に関するものである。」

イ 「【0036】
薬剤収容部1は、上下左右(Y軸方向及びX軸方向)に並設した複数の棚にカセット(図示せず)をそれぞれ着脱可能としたものである。各カセットには、金属製の線材を螺旋状としたコイルが回転可能に配置されている。コイルは、一端部を回転可能に支持され、他端側がフリーとなった片持ち構造である。コイルの各巻線の間には、薬剤(ここでは、横向きで、注出部を同じ側に位置させた状態で並設される複数のソフトバッグ6(輸液バッグ)。ソフトバッグ6は注出部6aを有している。注出部6aはソフトバッグ6の他の部分よりも硬質な樹脂材料で構成されている。)がそれぞれ保持され、奥行き方向に並設されている。そして、コイルの(後方側)一端部に図示しないモータ等から駆動力が伝達されると、コイルが自由端側の巻線方向へと回転し、各巻線に保持されたソフトバッグ6が、順次、自由端側から排出されるようになっている。薬剤収容部1の前方側下部には、コイルの回転によって前方へと押し出されたソフトバッグ6の下縁に引っ掛かり、このソフトバッグ6を強制的に倒して排出可能とする突条部(図示せず)が形成されている。」

ウ 「【0063】
(第1薬剤搬送処理)
図11に示すように、前記薬剤払出処理でソフトバッグ6が払い出された薬剤回収容器7を第2薬剤搬送部3の上方の待機位置へと移動させる(ステップS31)。
ここでは、払い出されたソフトバッグ6が、トレイ27の分割領域に収容可能な通常サイズであれば回転搬送部17上の所定位置に移動させ、そうでない大型サイズであれば回動コンベア部18上の所定位置に移動させる。通常、服用時期(例えば、朝、昼、夜)の順で、該当するソフトバッグ6を払い出すが、大型サイズであれば、そのトレイ27には最後に払い出す。但し、大型サイズのソフトバッグ6を別のトレイ27に払い出すのであれば、払出順序は任意に設定できる。また、ソフトバッグ6のサイズ如何に拘わらず、1つのトレイ27に入りきらない場合には、別のトレイ27に収容するようにすればよい。」

エ 「【0084】
また、前記実施形態では、トレイ27内に払い出す印刷物については言及しなかったが、所定の理由により、該当する分割領域に払い出すことができなかった場合には、トレイ搬送部4の下流側で、その旨を印刷した用紙を払い出すようにすればよい。例えば、トレイ27内が「朝」、「昼」、「夕」、「眠前」の4つの服用時期に分割されており、全ての服用時期においてソフトバッグ6の払出があり、「昼」の分割領域に既に多量のアンプルが収容されており、ソフトバッグ6を収容するスペースがない場合には、その旨を用紙に印刷して払い出すようにすればよい。」

オ 「

」(図2)

(2) 甲8に記載された技術的事項
上記記載事項ア?エおよびオ(図2)の図示内容を総合すると、甲8には、次の技術が記載されているものと認める。
「薬剤払出装置において、薬剤を収納するソフトバッグ6が1つのトレイ27に入りきらない場合には、別のトレイ27に収容すること。」(以下「甲8に記載された技術的事項」という。)

第5 当審の判断
1 特許法第29条第2項違反について
(1) 独立請求項である、請求項1および請求項18の特許法第29条第2項違反について、特許異議申立のあった理由は以下のとおりである。
(1-1) 本件発明1について
(1-1-1) 本件発明1は、甲1に記載された発明、甲2、甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-1-2) 本件発明1は、甲1に記載された発明、甲3、甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-1-3) 本件発明1は、甲2に記載された発明、甲1、甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-2) 本件発明18について
(1-2-1) 本件発明18は、甲1に記載された発明、甲2、甲3、甲5、甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-2-2) 本件発明18は、甲1に記載された発明、甲3、甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-2-3) 本件発明18は、甲2に記載された発明、甲1、甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 本件発明1について
(2-1) 甲1発明を主引用発明とした場合(1-1-1)、(1-1-2)
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「薬剤」は、機能、その文言の意味するところからみて本件発明1の「薬液」に相当する。
同様に、「薬剤を輸液に混合調整する混注装置1」は「薬液を調製する薬液調製システム」に、「ロボットアーム21、22により前記薬剤の混注処理が行われる混注処理室104」は「ロボットにより前記薬液の調製作業が行われる調製ゾーン」に、「注射器11、薬剤容器10、輸液バッグ12などがセットされた調整コンテナ101」は「器具がセットされた」「トレー」に、「混注処理室104と前記ストッカー306との間で、前記コンテナ101を搬送するコンベヤ」は「調製ゾーンと前記収納ゾーンとの間」で「トレーを搬送する、コンベア装置を備えた搬送装置」に相当する。
また、甲1発明の「混注処理に使用される注射器11、薬剤容器10、輸液バッグ12などがセットされたコンテナ101をそれぞれ収納可能な複数のスペースを有するストッカー306」は、本件発明1の「器具がセットされた前記トレー及び調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーをそれぞれ収納可能な複数の第1スペースを有する収納ゾーン」と「器具がセットされた前記トレーを収納可能な複数の第1スペースを有する収納ゾーン」の限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「薬液を調製する薬液調製システムであって、
ロボットにより前記薬液の調製作業が行われる調製ゾーンと、
器具がセットされたトレーをそれぞれ収納可能な複数の第1スペースを有する収納ゾーンと、
前記調製ゾーンと前記収納ゾーンとの間、及び、前記トレーを搬送する、コンベア装置を備えた搬送装置と、を有する、薬液調製システム。」で一致し、下記の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は「調製作業に使用される器具がトレーにセットされる準備ゾーン」を備え、また、「前記調製ゾーンと前記収納ゾーンとの間、及び、前記収納ゾーンと前記準備ゾーンとの間で、前記トレーを搬送する、コンベア装置を備え」ているのに対して、甲1発明はそのようなゾーンを備え、また、混注処理室104と準備ゾーンとの間でコンテナ101を搬送するコンベヤを備えているか不明な点。
<相違点2>
本件発明1の「収納ゾーン」は、「調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーをそれぞれ収納可能」であるのに対して、甲1発明の「ストッカー306」は、混注処理が行われたコンテナ101が収納可能であるか不明な点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点2から検討する。
甲1には、ストッカー306に、混注処理後の調整コンテナを収納することを示唆する記載はない。
また、甲1には、「この実施形態では、上記主扉301或いはゴミ収容室扉13を挟むように上記連通開口114(調整コンテナ入口)と調整コンテナ取り出し扉15(調整コンテナ出口)とを配置している。ここで、調整コンテナ入口と調整コンテナ出口とが横並びに隣接していると、入口か出口かの間違いが生じやすいが、上記のように上記主扉301或いはゴミ収容室扉13を挟むように上記調整コンテナ入口と調整コンテナ出口とを配置していると、入口か出口かの間違いが生じにくくなる。」(エ)との記載があり、調整コンテナ入口と調整コンテナ出口を離した位置に設けることが記載されている。
そして、甲1発明において、調整コンテナ入口と離れた位置にある調整コンテナ出口とストッカー306とを、あえて連結し、ストッカー306に、混注処理が行われたコンテナ101を収納可能とすることには阻害要因が存在するものと認められる。
そうすると、甲1発明において、混注処理が行われたコンテナ101をストッカー306に収納可能とする動機付けはない。
したがって、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1発明、甲1?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲1?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2) 甲2発明を主引用発明とした場合(1-1-3)
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「薬剤」は、機能、その文言の意味するところから、本件発明1の「薬液」に相当する。
同様に「薬剤を調製する自動調製システム1」は「薬液を調製する薬液調製システム」に、「ロボット20により前記薬剤の調製作業が行われる安全キャビネット10」は「ロボットにより前記薬液の調製作業が行われる調製ゾーン」に、「調製前の薬剤が封入された複数のバイアルと、輸液とが収納されたトレイT」は「調製作業に使用される器具がトレー」に、「複数のトレイTを収納可能なスペースを備えたトレイ置場30」は「トレーをそれぞれ収納可能な複数の第1スペースを有する収納ゾーン」に相当する。
また、甲2発明の「ロボット20が、調製前の薬剤が収納されたトレイTを複数のトレイTを収納可能なスペースを備えたトレイ置場30から取り出し、取り出したトレイTを安全キャビネット10へ搬送し、ロボット20が、トレイTに収納された薬剤の調製作業を安全キャビネット10内で行うとともに、調製後の薬剤が収納されたトレイTを安全キャビネット10から搬出してトレイ置場30へ戻す」態様は本件発明1の「調製ゾーン」と「収納ゾーンとの間」で、「トレーを搬送する、コンベア装置を備えた搬送装置」と「調製ゾーンと収納ゾーンとの間で、トレーを搬送する搬送装置」の限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「薬液を調製する薬液調製システムであって、
ロボットにより前記薬液の調製作業が行われる調製ゾーンと、
前記器具がセットされた前記トレー及び調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーをそれぞれ収納可能な複数の第1スペースを有する収納ゾーンと、
前記調製ゾーンと前記収納ゾーンとの間で前記トレーを搬送する搬送装置と、を有する、薬液調製システム。」
で一致し、下記の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1は、「調製作業に使用される器具がトレーにセットされる準備ゾーン」を備えているのに対して、甲2発明は「準備ゾーン」を備えているか不明であり、また、「準備ゾーン」と「トレイ置場30」との間で「トレイTを搬送するコンベア装置」が備えられているか不明な点。
<相違点4>
本件発明1の「搬送装置」は「コンベア装置」であるのに対して、甲2発明はの搬送装置は「ロボット20」である点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点4から検討する。
甲2発明は、調製作業の効率化を図るために作業台とロボットと治具とを備えるものであって、「トレイ置場30」と「安全キャビネット10」との間で、調製作業を行う「ロボット20」により「トレイT」を搬送すること、すなわち、調製作業と搬送作業とをロボット20に担わせることで、調製作業の効率化を図るものである。
そうすると、甲2発明において、甲2発明の特徴である、調製作業を行う「ロボット20」により「トレイT」を搬送することに代えて、「トレイ置場30」と「安全キャビネット10」との間で、「コンベア装置」により「トレイT」を搬送する動機付けはない。
したがって、相違点4に係る本件発明1の構成は、甲2発明及び甲1?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲1?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本件発明2、9および10について
本件発明2、9および10は、本件発明1に対して、技術的事項を追加したものである。よって、上記(2)に示した理由と同様の理由により、本件発明2、9および10は、甲1発明及び甲2?8に記載された技術的事項、または、甲2発明及び甲1、甲3?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件発明18について
(4-1) 甲1方法発明を主引用発明とした場合(1-2-1)、(1-2-2)
ア 対比
本件発明1と甲1方法発明とを対比すると、甲1方法発明の「薬剤」は、機能、その文言の意味するところからみて本件発明1の「薬液」に相当する。
以下同様に、「薬剤を輸液に混合調整する混注方法」は「薬液調製方法」に、「コンテナ101」は「トレー」に、「ストッカー306」は「収納ゾーン」に、「混注処理室104」は「調製ゾーン」に相当する。
甲1方法発明の「混注処理に使用される注射器11、薬剤容器10、輸液バッグ12などがセットされたコンテナ101をそれぞれ収納可能な複数のスペースを有するストッカー306にセットすること」と本件発明18の「準備ゾーンにおいて調製作業に使用される器具をトレーにセットすること」とは、「調製作業に使用される器具をトレーにセットすること」の限りおいて一致する。
甲1方法発明の「前記器具がセットされたトレーをコンベア装置を備えた搬送装置により順次搬送し、収納ゾーンにおいて出し入れ装置によりそれぞれ複数のスペースに収納すること」は、本件発明18の「前記器具がセットされたトレーをコンベア装置を備えた搬送装置により順次搬送し、収納ゾーンにおいて出し入れ装置によりそれぞれ複数のスペースに収納すること」に相当する。
甲1方法発明の「スペースに収納された前記コンテナ101をコンベヤにより前記ストッカー306と混注処理室104との間で、前記コンテナ101を搬送して混注処理室104においてロボットアーム21、22により前記薬剤の混注処理が行われること」は、本件発明18の「前記スペースに収納された前記トレーを前記出し入れ装置により順次取り出し、前記搬送装置により搬送して調製ゾーンにおいてロボットにより薬液の調製作業を行うこと」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1方法発明とは、
「薬液調製方法であって、
調製作業に使用される器具をトレーにセットすることと、
前記器具がセットされたトレーをコンベア装置を備えた搬送装置により順次搬送し、収納ゾーンにおいて出し入れ装置によりそれぞれ複数のスペースに収納することと、
前記スペースに収納された前記トレーを前記出し入れ装置により順次取り出し、前記搬送装置により搬送して調製ゾーンにおいてロボットにより薬液の調製作業を行うことと、を有する、
薬液調製方法。」
で一致し、下記の点で相違する。
<相違点5>
本件発明18は、「準備ゾーン」において「調製作業に使用される器具をトレーにセット」するのに対して、甲1方法発明では、「準備ゾーン」において、「混注処理に使用される注射器11、薬剤容器10、輸液バッグ12など」を「コンテナ101」にセットしているか不明である点。
<相違点6>
本件発明18は、「調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーを前記搬送装置により順次搬送し、前記収納ゾーンにおいて前記出し入れ装置によりそれぞれ前記複数のスペースに収納する」のに対して、甲1方法発明は、そのような構成を備えているか不明な点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点6から検討する。
甲1には、甲1方法発明において混注処理後の調整コンテナを収納することを示唆する記載はない。
また、甲1には、「この実施形態では、上記主扉301或いはゴミ収容室扉13を挟むように上記連通開口114(調整コンテナ入口)と調整コンテナ取り出し扉15(調整コンテナ出口)とを配置している。ここで、調整コンテナ入口と調整コンテナ出口とが横並びに隣接していると、入口か出口かの間違いが生じやすいが、上記のように上記主扉301或いはゴミ収容室扉13を挟むように上記調整コンテナ入口と調整コンテナ出口とを配置していると、入口か出口かの間違いが生じにくくなる。」(エ)との記載があり、調整コンテナ入口と調整コンテナ出口を離した位置に設けることが記載されていえる。
そして、甲1方法発明において、「調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーを前記搬送装置により順次搬送し、前記収納ゾーンにおいて前記出し入れ装置によりそれぞれ前記複数のスペースに収納する」ことは、阻害要因が存在するものと認められる。
そうすると、甲1方法発明において、混注処理が行われたコンテナ101をストッカー306に収納可能とする動機付けはない。
したがって、相違点6に係る本件発明18の構成は、甲1方法発明、甲2?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明18は、甲1方法発明及び甲1?8に記載された技術的事項および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-2) 甲2方法発明を主引用発明とした場合(1-2-3)
本件発明18と甲2方法発明とを対比すると、甲2方法発明の「薬剤」は、機能、その文言の意味するところから、本件発明1の「薬液」に相当する。
同様に「薬剤を調製する自動調製方法」は「薬液調製方法」に、「ロボット20」は「ロボット」に、「トレイT」は「トレー」に、「調製前の薬剤が収納された複数のトレイTを収納可能なスペースを備えたトレイ置場30」は「収納ゾーン」に、「前記薬剤の調製作業が行われる安全キャビネット10」は「ロボットにより前記薬液の調製作業が行われる調製ゾーン」にそれぞれ相当する。
甲2方法発明の「ロボット20が、調製前の薬剤が収納されたトレイTを複数のトレイTを収納可能なスペースを備えたトレイ置場30から取り出すこと」と、本件発明18の「前記スペースに収納された前記トレーを前記出し入れ装置により順次取り出し、前記搬送装置により搬送して調製ゾーンにおいてロボットにより薬液の調製作業を行うこと」とは、「前記スペースに収納された前記トレーを前記出し入れ装置により順次取り出し、搬送装置により搬送して調製ゾーンにおいてロボットにより薬液の調製作業を行うこと」の限りで一致する。
甲2方法発明の「調製後の薬剤が収納されたトレイTを安全キャビネット10から搬出してトレイ置場30へ戻すこと」と、本件発明18の「調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーを前記搬送装置により順次搬送し、前記収納ゾーンにおいて前記出し入れ装置によりそれぞれ前記複数のスペースに収納すること」とは、「調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーを搬送装置により順次搬送し、前記収納ゾーンにおいて前記出し入れ装置によりそれぞれ前記複数のスペースに収納すること」の限りで一致する。
そうすると、本件発明18と甲2方法発明とは、
「薬液調製方法であって、
前記器具がセットされたトレーを搬送装置により順次搬送し、収納ゾーンにおいて出し入れ装置によりそれぞれ複数のスペースに収納することと、
前記スペースに収納された前記トレーを前記出し入れ装置により順次取り出し、前記搬送装置により搬送して調製ゾーンにおいてロボットにより薬液の調製作業を行うことと、
調製済みの前記薬液を収容した容器が収容された前記トレーを前記搬送装置により順次搬送し、前記収納ゾーンにおいて前記出し入れ装置によりそれぞれ前記複数のスペースに収納することと、を有する、薬液調製方法。」
で一致し、下記の点で相違する。
<相違点7>
本件発明18は「準備ゾーンにおいて調製作業に使用される器具をトレーにセット」し、「前記器具がセットされたトレーをコンベア装置を備えた搬送装置により順次搬送」するのに対して、甲2方法発明は「準備ゾーン」において「調製前の薬剤」を「トレイT」にセットするものであるか不明な点。
<相違点8>
本件発明18の「搬送装置」は「コンベア装置を備えた搬送装置」であるのに対して、甲2方法発明の「搬送装置」は「ロボット20」である点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点8から検討する。
甲2方法発明は、調製作業の効率化を図るために作業台とロボットと治具とを備えるものであって、「トレイ置場30」と「安全キャビネット10」との間で、調製作業を行う「ロボット20」により「トレイT」を搬送すること、すなわち、調製作業と搬送作業とをロボット20に担わせることで、調製作業の効率化を図るものである。
そうすると、甲2方法発明において、甲2方法発明の特徴である、「トレイ置場30」と「安全キャビネット10」との間で、調製作業を行う「ロボット20」により「トレイT」を搬送することに代えて、「トレイ置場30」と「安全キャビネット10」との間で、「コンベア装置」により「トレイT」を搬送する動機付けはない。
したがって、相違点8に係る本件発明18の構成は、甲2方法発明、甲1?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって、相違点7について検討するまでもなく、本件発明18は、甲2方法発明及び甲1?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 特許法第36条第6項第1号違反について
(1) 特許異議申立の理由
本件発明1および18には「調製ゾーン」が記載されているが、「調製ゾーン」は、「調製室4」を指すのか「調製室4内の調製作業が行われる空間」を指すのか不明である。
その結果、本件発明1及び18の「調製ゾーン」と発明の詳細な説明に記載された用語との対応関係が不明瞭であるので本件発明1及び18はサポート要件を満たしていないから、本件発明1及び18並びに同発明を直接的または間接的に引用する本件発明2、9および10はサポート要件を満たしていない。
そして、「調製ゾーン」が「調製室4内の調製作業が行われる空間」であるならば、調製作業は作業台46上で行われているところ(【0100】[)、トレー5は作業台46上まで搬送されていないため、「前記調製ゾーンと前記収納ゾーンとの間、及び、前記収納ゾーンと前記準備ゾーンとの間で、前記トレーを搬送する」(本件発明1)ことは、発明の詳細な説明に記載されていないから、本件発明1及び同発明を直接的または間接的に引用する本件発明2、9および10はサポート要件を満たしていない。
したがって、本件発明1、2、9、10および18は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであるから、その特許は同法第113条第4号に該当し、請求項1、2、9、10および18に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

(2) 明細書に記載された事項
発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
ア 「【0020】
調製室4は、ロボット100(後述の図2、図3参照)が内部で薬液の調製作業等を行うためのキャビネットである。調製室4には、収納室3からトレー5が搬入される。ロボット100は、搬入された1又は複数のトレー5に収容された器具を使用して調製作業を行い、調製済みの薬液が収容された容器55(バッグ55、ボトル56a,56b、シリンジ53等を含む)をトレー5に収容する。容器55が収容されたトレー5は、調製室4から収納室3に搬出され、再び収納棚7に収納される。」

イ 「【0024】
なお、上記準備室2は準備ゾーン及び第2ゾーン、収納室3は収納ゾーン及び第3ゾーン、調製室4は調製ゾーン及び第1ゾーンの一例である。本実施形態では、各ゾーンを実質的な閉空間である部屋として区画した場合を一例として説明するが、これに限定されるものではない。各ゾーンは外部に開放されていてもよく、各ゾーンの用途に応じて区画された領域であればよい。」

ウ 「【0050】
コンベア装置64,67によって、トレー5は収納室3から調製室4に搬入される。したがって、コンベア装置64,67は搬入装置の一例に相当する。また、コンベア装置68,65によって、トレー5は調製室4から収納室3に搬出される。したがって、コンベア装置68,65は搬出装置の一例に相当する。カバー110は、コンベア装置64,67によるトレー5の搬入位置(すなわちコンベア装置67の位置)と、コンベア装置68,65によるトレー5の搬出位置(すなわちコンベア装置68の位置)とを覆うように設置される。」

エ 「【0101】
このように、カバー110のシャッタ119は、ロボット100により調製作業が実行される場合に開かれる。なお、調製作業の実行中においても、ロボット100がトレー5にアクセスするときのみシャッタ119を開き、トレー5にアクセスしない間(例えば作業台46上で調製作業を行っている間)はシャッタ119を閉じてもよい。
【0102】
なお、カバー110の構成態様は、上記に限定されるものではない。例えば、右側の側板114を設けずに開放し、調製室4の筐体40の壁部45を利用した構成としてもよい。」

オ 「

」(図3)

(3) 判断
申立人は、本件発明1及び18の「調製ゾーン」は、発明の詳細な説明に記載された「調製室」を指すのか、「調製室4内の調製作業が行われる空間」を指すのか対応関係が不明瞭であるので、本件発明1及び18はサポート要件を満たさないと主張する。
申立人の主張は、「調製ゾーン」を「調製室4内の調製作業が行われる空間」と解釈すれば、ロボット100が調製作業を行うときには、トレー5はコンベア装置68上に裁置されたままであり、ロボット100が調製作業を行う作業台46上、すなわち、「調製室4内の調製作業が行われる空間」まで搬送されていないから、発明の詳細な説明には、「前記調製ゾーンと前記収納ゾーンとの間、及び、前記収納ゾーンと前記準備ゾーンとの間で、前記トレーを搬送する」ことが記載されていないことを前提とするものと解される。
しかしながら、上記(2)ア?ウより、「調製室4」は「調製作業が行われる調製ゾーン」であり、コンベア装置64、67によってトレー5は収納室3から調製室4に搬入され、またはコンベア68、65によって搬出されることが理解できる。
そうすると、発明の詳細な説明には、「前記調製ゾーンと前記収納ゾーンとの間、及び、前記収納ゾーンと前記準備ゾーンとの間で、前記トレーを搬送する、コンベア装置を備えた」ことが記載されているといえる。
また、上記(2)エおよびオの図示内容から調製作業が行われる「作業台46上」は、「調製室4」内で実際に薬液を調製する場所であり、「調製ゾーン」の空間の一部であり「調製ゾーン」でないことは明らかである。
したがって、申立人の「調製ゾーン」が「調製室4内の調製作業が行われる空間」であるならば、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されていないとの主張は、前提において失当であり、また、本件発明1、2、9および10は、発明の詳細な説明に記載されているから、サポート要件を満たしていないとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1、2、9、10及び18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、9、10及び18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-12-22 
出願番号 特願2015-22637(P2015-22637)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (A61J)
P 1 652・ 537- Y (A61J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 睦  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 莊司 英史
倉橋 紀夫
登録日 2019-12-27 
登録番号 特許第6636700号(P6636700)
権利者 株式会社安川電機 日科ミクロン株式会社
発明の名称 薬液調製システム及び薬液調製方法  
代理人 特許業務法人第一テクニカル国際特許事務所  
代理人 特許業務法人第一テクニカル国際特許事務所  

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