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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1370484
審判番号 不服2020-6386  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-12 
確定日 2021-02-09 
事件の表示 特願2018- 2532「電力変換装置及び空気調和装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月 6日出願公開,特開2019- 88179,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年11月6に出願した特願2017-214229号の一部を,平成30年1月11日に新たな特許出願として出願されたものであって,平成31年1月21日付けで拒絶理由通知がされ,平成31年3月26日付けで意見書が提出されると同時に手続補正がされ,令和1年7月10日付けで最後の拒絶理由通知がされ,令和1年9月20日付けで意見書が提出されると同時に手続補正がされ,令和2年2月3日付けで令和1年9月20日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年5月12日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和2年6月4日に前置報告がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和2年2月3日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1) 本願の請求項1,8に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
2) 本願の請求項1,8に係る発明は,以下の引用文献1に基づいて,また,本願の請求項3-7に係る発明は,以下の引用文献1-2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2016-208575号公報
2.特開2007-202378号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6という。)は,令和2年5月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
三相交流電源の交流電力を整流する整流回路(110)と、
制御信号の入力に基づいて、前記整流回路で整流された電圧を所定の周波数の交流電圧に逆変換し、圧縮機(21)のモータ(103)に印加する逆変換回路(130)と、
前記整流回路と前記逆変換回路との間に設けられるコンデンサ(122)と、
前記圧縮機の吐出圧力の異常を示す異常信号を受信した場合、前記逆変換回路への前記制御信号の入力を停止する制御回路(150S)と、
前記整流回路と前記逆変換回路との間に設けられ、前記整流回路及び前記逆変換回路と直列に接続されるインダクタンスL([H])を有するリアクトル(121)と、
を備え、
前記三相交流電源と前記コンデンサとの間に、リレーを含む限流回路、を存在させていない、
且つ、
前記三相交流電源と前記整流回路との間にヒューズ(104)が設けられており、
前記逆変換回路で用いられるキャリア周波数がfc([Hz])であり、定数Kの値が1/4であるときに、前記リアクトルのインダクタンスL([H])及び前記コンデンサの容量C([F])が、下式(2)の条件を満たす、
電力変換装置(105S)。


【請求項2】
前記整流回路は、最大定格出力電流に対する最大定格電流二乗時間積の比の値がαm([A・s])のダイオード(D1?D6)により構成されるものであり、
前記モータは、最大消費電力がPmax([W])であり、
前記コンデンサは、前記整流回路及び前記逆変換回路と並列に接続される容量C([F])を有するものであり、
前記三相交流電圧の電圧値がVac([V])であり、定数aの値が4.3であるときに、前記リアクトルのインダクタンスL([H])及び前記コンデンサの容量C([F])が、下式(1)の条件を満たし、
前記三相交流電源と前記コンデンサとの間の限流回路を不要とする、
請求項1に記載の電力変換装置。


【請求項3】
前記コンデンサは、下式(3)の条件を満たす容量C([F])を有する、
請求項1又は2に記載の電力変換装置。


【請求項4】
前記コンデンサは、下式(4)の条件を満たす容量C([F])を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の電力変換装置。


【請求項5】
前記モータの最大消費電力Pmaxが2kW以上である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電力変換装置、が搭載された空気調和装置(1,1A)。」


第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)本願の原出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,特開2016-208575号公報(以下,これを「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。)

ア 「【0035】
室内機20の室内制御部50及び室外機30の室外制御部60には、種々のセンサが接続されている。種々のセンサには、各部の温度を測定するための温度センサ40、圧縮機31に吐出される冷媒の高圧異常を検知する高圧異常検知部41、及び圧縮機31から吸入される冷媒の圧力を測定するための圧力センサ42などが含まれる。高圧異常検知部41は例えば高圧圧力センサで構成される。
【0036】
また、室内機20においては、室内ファン22のインバータモータ70が室内制御部50に接続されている。室外機30においては、圧縮機31のインバータモータ80、四路切換弁32、電動弁34及び室外ファン37のインバータモータ90が室外制御部60に接続されている。この室内制御部50により、インバータモータ70の回転数や運転・停止が制御される。また、この室外制御部60により、圧縮機31のインバータモータ80及び室外ファン37のインバータモータ90のモータ速度並びにそれらの運転・停止が制御され、四路切換弁32の切換えが制御され、電動弁34の開度が制御される。」

イ 「【0037】
(2)インバータ駆動装置の構成
上述のインバータモータ70,80,90及びそれらを含む室内ファン22、圧縮機31及び室外ファン37は、空気調和機10を動作させるアクチュエータである。ここでは、圧縮機31とインバータモータ80を例に挙げて、空気調和機10に設けられているアクチュエータとそのアクチュエータに交流電圧を供給するためのインバータを駆動するインバータ駆動装置について説明する。
【0038】
図2は、室外制御部60と圧縮機31との接続関係を示す回路図である。なお、図2に示されている回路図には、室外機30が運転中であってかつ異常が検知されていないときの状態が示している。
【0039】
室外制御部60は、インバータ基板PCB1と制御基板PCB2とを含んでいる。
【0040】
インバータ基板PCB1の上には、インバータ61と、インバータ61を駆動するインバータ駆動装置62とが実装されている。インバータ61が圧縮機31に接続されており、圧縮機31にはインバータ61から交流電圧が供給される。インバータ61は、後述するフィルタ回路69から出力される直流電圧をPWM(Pulse Width Modulation)制御によって交流電圧に変換する。
【0041】
インバータ駆動装置62は、整流回路68とフィルタ回路69を備えている。整流回路68は、商用電源PS1に接続されている。整流回路68は、商用電源PS1から供給される交流電圧を直流電圧に整流する。フィルタ回路69は整流回路68に接続されている。フィルタ回路69は、リアクタL1とコンデンサC1を含んでおり、リアクタL1のインダクタンスで高調波電流を抑制したり、コンデンサC1の容量によって整流回路68から出力される直流電圧のリップル成分を平滑化したりするなどのノイズのフィルタリングを行う。インバータ61はフィルタ回路69に接続されている。
【0042】
インバータ駆動装置62は、インバータ61に対してPWM制御を行っている。PWM制御のために、インバータ駆動装置62は、PWM駆動回路65を備えている。PWM駆動回路65は、インバータ61にゲート信号GSを送信するインバータ61の駆動回路である。このゲート信号GSは、インバータ61を駆動するための駆動信号である。」
【0043】
インバータ駆動装置62には、PWM駆動回路65を駆動するためのインバータ駆動用電源PS2から電圧V1(例えばDC15V)が供給されている。また、インバータ駆動装置62は、PWM駆動回路65からインバータ駆動用電源PS2を切断するための第1機械式リレーRY1を備えている。第1機械式リレーRY1の共通接点CP1がインバータ駆動用電源PS2に接続され、第1機械式リレーRY1のブレーク接点CP2(図3(h)にはA接点記す。)にはPWM駆動回路65が接続され、第1機械式リレーRY1のメーク接点CP3(図3(h)にはB接点記す。)には後述する異常信号送信回路66が接続されている。」

ウ 「【0055】
(3-1)第1機械式リレーRY1により圧縮機31が停止する場合
時刻t3に高圧異常信号HPSが高圧異常検知部41から送信されてから圧縮機31の運転が停止されるまでの動作は第1機械式リレーRY1により圧縮機31が停止するときの動作である。このとき、時刻t4に第2機械式リレーRY2がオープンになり、それから少し遅延した時刻t5に、第1機械式リレーRY1は、ブレーク接点CP2(A接点)からメーク接点PC3(B接点)に切り換わる。その第1機械式リレーRY1の切換動作と同時にインバータ駆動用電源PS2の電圧V1が0Vになる。その結果、図3(j)に示されているようにPWM駆動回路65のゲート信号GSの送信が停止され、図3(k)に示されているように圧縮機31の運転が停止される。なお、時刻t6にはCPU63からPWM駆動回路65へのPWM信号PWMSの送信が停止されるが、このときには既にPWM駆動回路65がオフしているのでPWM信号PWMSの送信の停止は圧縮機31の運転の停止に影響を及ぼさない。」

エ 「図2



オ 「図3」



カ 図2(上記エ)から,“フィルタ回路69のリアクタL1は,整流回路68及びインバータ61と直列に接続されている”,ことが看取できる。

キ また,図2から,“商用電源PS1とコンデンサC1との間に,リレーを含む限流回路を存在していない”,ことが看取できる。

ク 上記アには,「高圧異常検知部41」が「圧縮機31に吐出される冷媒の高圧異常を検知する」ものであることが,また,上記ウには,「高圧異常信号HPSが高圧異常検知部41から送信され」ることが記載されている。
してみると,引用文献1には,“圧縮機31に吐出される冷媒の高圧異常を検知する高圧異常検知部41から高圧異常信号HPSが送信される”ことが記載されているといえる。

(2)上記アないしクの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「圧縮機31のインバータモータ80の制御を行う室外制御部60のインバータ基板PCB1において,
インバータ基板PCB1の上には,インバータ61と,インバータ61を駆動するインバータ駆動装置62とが実装されており,
インバータ61は,インバータ61から交流電圧が供給される圧縮機31に接続されており,また,フィルタ回路69から出力される直流電圧をPWM(Pulse Width Modulation)制御によって交流電圧に変換するものであって,
インバータ駆動装置62は,整流回路68とフィルタ回路69を備えており,
整流回路68は,商用電源PS1に接続され,商用電源PS1から供給される交流電圧を直流電圧に整流し,
フィルタ回路69は整流回路68に接続されており,リアクタL1とコンデンサC1を含んでおり,リアクタL1は整流回路68及びインバータ61と直列に接続され,リアクタL1のインダクタンスで高調波電流を抑制し,コンデンサC1の容量によって整流回路68から出力される直流電圧のリップル成分を平滑化するなどのノイズのフィルタリングを行うものであって,
商用電源PS1とコンデンサC1との間に,リレーを含む限流回路,を存在しておらず,
さらに,インバータ駆動装置62は,インバータ61に対してPWM制御を行うためのPWM駆動回路65を備えており,PWM駆動回路65は,インバータ61を駆動するための駆動信号であるゲート信号GSをインバータ61に送信するものであって,
インバータ駆動装置62は,PWM駆動回路65を駆動するための電圧V1を供給するインバータ駆動用電源PS2と,PWM駆動回路65からインバータ駆動用電源PS2を切断するための第1機械式リレーRY1を備えるものであり,
圧縮機31に吐出される冷媒の高圧異常を検知する高圧異常検知部41から高圧異常信号HPSが送信されると,第1機械式リレーRY1は,ブレーク接点CP2(A接点)からメーク接点PC3(B接点)に切り換わり,インバータ駆動用電源PS2の電圧V1が0Vになり,PWM駆動回路65のゲート信号GSの送信が停止し,圧縮機31の運転が停止する,
インバータ基板PCB1。」

2 引用文献2について
本願の原出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-202378号公報(以下,これを「引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0049】
ところで、前述の(1)式における1/(10.935・f)をKkとおくと、(1)式は次のようになる。
C≦(Pm/Vac^(2))・Kk (11)式
この式によればコンデンサCの容量はモータ13の消費電力Pm〔W〕に比例し、電源電圧Vac〔V〕の2乗に反比例する。仮にKkを変化させ(10)式の定義による電流ひずみ率THDをシミュレーションした結果を図4に示す。
【0050】
この結果によると、コンデンサCの平均蓄積エネルギーEcが直流電圧Vdcのリップル1周期(1/(6・f))の放電期間T2においてモータ13が必要とするエネルギーを上回ると電流ひずみ率THDは急に増加することがわかる。急増加する点は電源周波数f(Hz)が50Hzの場合でKk=1829×10^(-6)、60Hzの場合でKk=1524×10^(-6)となる。」

イ 「図4




3 引用文献3について
本願の原出願日前に頒布され,前置報告にて周知技術を示す文献として引用された特開2015-154693号公報(以下,これを「引用文献3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0033】
さて、電力変換部2はスイッチング動作を行うので、スイッチングに伴って直流電圧Vdcが変動する。つまり直流電圧Vdcに高調波成分が生じる。なお、スイッチング周波数は、整流による直流電圧Vdcの脈動の周波数(以下、脈動周波数とも呼ぶ)よりも高いので、ここでいう高調波成分の周波数は脈動周波数よりも高い。また本電力変換装置は、上述のように、コンデンサC1とリアクトルL1とによって形成されるLCフィルタを有している。よって、スイッチング周波数がLCフィルタの共振周波数に近いほど、コンデンサC1の直流電圧Vdcの高調波成分の変動幅が増大する。」

4 引用文献4について
本願の原出願日前に頒布され,前置報告にて周知技術を示す文献として引用された特開2013-247784号公報(以下,これを「引用文献4」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0013】
上記実施形態によれば、制御部がインダクタンス素子の両端電圧を検出してインバータ部をPWM制御するときの遅れ時間の逆数、すなわち、インバータ部をPWM制御するときのキャリヤ周波数を、LCフィルタの共振周波数よりも大きく、かつ、LCフィルタの共振周波数の10倍以下とすることによって、位相改善効果が確実に得られる。これに対して、遅れ時間の逆数(すなわちキャリヤ周波数)がLCフィルタの共振周波数の10倍を越えると、抵抗による損失が増大し、十分な位相改善効果が得られない。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「整流回路68」は,「商用電源PS1に接続され,商用電源PS1から供給される交流電圧を直流電圧に整流」するものであって,「商用電源PS1」が交流電力を供給していることは明らかであるから,引用発明の「整流回路68」と,本願発明1の「三相交流電源の交流電力を整流する整流回路(110)」とは,後記の点で相違するものの,“交流電源の交流電力を整流する整流回路”の点で共通する。

イ 引用発明の「圧縮機31」,「インバータモータ80」は,各々,本願発明1の「圧縮機」,「モータ」に相当する。
引用発明の「インバータ61」は,「インバータ61から交流電圧が供給される圧縮機31に接続されており,また,フィルタ回路69から出力される直流電圧をPWM(Pulse Width Modulation)制御によって交流電圧に変換するものであ」る。そして,引用発明は「インバータ61に対してPWM制御を行うためのPWM駆動回路65を備えており,PWM駆動回路65は,インバータ61を駆動するための駆動信号であるゲート信号GSをインバータ61に送信するものであ」って,また,「フィルタ回路69は整流回路68に接続され」るものであるから,引用発明の「インバータ61」は,PWM制御を行うためのPWM駆動回路65からのゲート信号GSの入力に基づいて,整流回路68で整流された電圧を所定の周波数の交流電圧に逆変換し,圧縮機31のインバータモータ80に印加しているといえる。
したがって,引用発明の「ゲート信号」は,本願発明の「制御信号」に相当し,さらに,引用発明の「インバータ61」は,本願発明1の「制御信号の入力に基づいて、前記整流回路で整流された電圧を所定の周波数の交流電圧に逆変換し、圧縮機のモータに印加する逆変換回路」に相当する。

ウ 引用発明では,「フィルタ回路69は整流回路68に接続されており」,また,「インバータ61は,」「フィルタ回路69から」「直流電圧」が「出力される」ものであるから,引用発明では,「整流回路68」と「インバータ61」との間に「フィルタ回路69」が設けられているといえる。そして,引用発明の「フィルタ回路69」は,「コンデンサC1を含」むものである。
したがって,引用発明の「コンデンサC1」は,本願発明1の「整流回路と前記逆変換回路との間に設けられるコンデンサ」に相当する。
さらに,引用発明の「フィルタ回路69」は,「リアクタL1」を「含」むものであって,また,「リアクタL1は整流回路68及びインバータ61と直列に接続され」るものであるから,引用発明の「リアクタL1」は,本願発明1の「整流回路と前記逆変換回路との間に設けられ、前記整流回路及び前記逆変換回路と直列に接続されるインダクタンスL([H])を有するリアクトル」に相当する。

エ 引用発明の「高圧異常信号HPS」は,「高圧異常検知部41」が「圧縮機31に吐出される冷媒の高圧異常を検知する」と「送信される」信号であるから,本願発明1の「圧縮機の吐出圧力の異常を示す異常信号」に相当する。
ここで,引用発明の「PWM駆動回路65」は,「インバータ61を駆動するための駆動信号であるゲート信号GSをインバータ61に送信するものであって」,さらに,「インバータ駆動用電源PS2」が「PWM駆動回路65を駆動するための電圧V1を供給する」ものである。
そして,引用発明では,「圧縮機31に吐出される冷媒の高圧異常を検知する高圧異常検知部41から高圧異常信号HPSが送信されると,第1機械式リレーRY1は,ブレーク接点CP2(A接点)からメーク接点PC3(B接点)に切り換わり,インバータ駆動用電源PS2の電圧V1が0Vになり,PWM駆動回路65のゲート信号GSの送信が停止し,圧縮機31の運転が停止する」ものであるから,引用発明の「PWM駆動回路65」は,「高圧異常信号HPSが送信されると」,「インバータ駆動用電源PS2」から供給される電圧V1が0Vとなり,「インバータ61」への「ゲート信号GSの送信」を「停止」しているものと認められる。
したがって,引用発明の「PWM駆動回路65」は,本願発明1の「圧縮機の吐出圧力の異常を示す異常信号を受信した場合、前記逆変換回路への前記制御信号の入力を停止する制御回路」に相当する。

オ 引用発明の「商用電源PS1とコンデンサC1との間に,リレーを含む限流回路,を存在して」いないこと,本願発明1の「三相交流電源と前記コンデンサとの間に、リレーを含む限流回路、を存在させていない」こととは,後記の点で相違するものの,“交流電源と前記コンデンサとの間に、リレーを含む限流回路、を存在させていない”ことの点で共通する。

カ 引用発明の「インバータ基板PCB1」は,「整流回路68」と,「インバータ61」と,「コンデンサC1」と,「PWM駆動回路65」と,「リアクタL1」を備えるものであって,「商用電源PS1」の交流電力を直流,交流へと変換をするものであるから,本願発明1の「電力変換装置」に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。

〈一致点〉
「交流電源の交流電力を整流する整流回路と,
制御信号の入力に基づいて,前記整流回路で整流された電圧を所定の周波数の交流電圧に逆変換し,圧縮機のモータに印加する逆変換回路と,
前記整流回路と前記逆変換回路との間に設けられるコンデンサと,
前記圧縮機の吐出圧力の異常を示す異常信号を受信した場合,前記逆変換回路への前記制御信号の入力を停止する制御回路と,
前記整流回路と前記逆変換回路との間に設けられ,前記整流回路及び前記逆変換回路と直列に接続されるインダクタンスL([H])を有するリアクトルと,
を備え,
前記交流電源と前記コンデンサとの間に,リレーを含む限流回路,を存在させていない,
電力変換装置。」 」

〈相違点1〉
「交流電源」が,本願発明1では「三相交流電源」であるのに対して,引用発明では「商用電源PS1」であって「三相」とは特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明では「前記三相交流電源と前記整流回路との間にヒューズ(104)が設けられて」いるのに対して,引用発明ではヒューズが設けられている旨の特定がされていない点。

〈相違点3〉
本願発明では「前記逆変換回路で用いられるキャリア周波数がfc([Hz])であり、定数Kの値が1/4であるときに、前記リアクトルのインダクタンスL([H])及び前記コンデンサの容量C([F])が、下式(2)の条件を満たす」



ものであるのに対して,引用発明では「インバータ61」で用いられるキャリア周波数と,「リアクタL1のインダクタンス」と,「コンデンサC1の容量」の間にその旨の特定がされていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,先に上記相違点3について検討する。
引用文献2には,コンデンサCの容量とモータ消費電力Pm〔W〕と電源電圧Vac〔V〕の関係は記載されているが,逆変換回路で用いられるキャリア周波数fc([Hz])と,リアクトルのインダクタンスL([H])とコンデンサの容量Cの関係を特定することは記載されていない。
また,前置報告で引用した引用文献3には,スイッチング周波数(本願の「キャリア周波数fc」に相当)がLCフィルタの共振周波数に近いほど、コンデンサの直流電圧の高調波成分の変動幅が増大することは記載されており,スイッチング周波数をLCフィルタの共振周波数からより離すこと,すなわち,1/(2π×sqrt(LC))<<fc,或いは,1/(2π×sqrt(LC))>>fcとすることが記載されていると認められる。
また,前置報告で引用した引用文献4には,キャリア周波数をLCフィルタの共振周波数より大きくすること,すなわち,1/(2π×sqrt(LC))<fcとすること,及び,キャリヤ周波数がLCフィルタの共振周波数の10倍を越えないようにすること,すなわち,10/(2π×sqrt(LC))>fc,変形すると,0.1×fc<1/(2π×sqrt(LC))とすることが記載されていると認められる。
しかしながら,引用文献3及び引用文献4には,本願発明1の相違点3に係る構成である,上記式(2)において定数Kの値を1/4とした,1/(2π×sqrt(LC))<1/4×fcとすることは記載されていない。また,引用文献3及び引用文献4において,定数Kの値を1/4とする特段の理由も存在しない。
したがって,本願発明1の相違点3に係る構成が,引用発明及び引用文献2ないし4に記載の技術に基づき当業者が容易に構成し得たものであるとはいえない。
以上のとおりであるから,他の相違点を検討するまでもなく,本願発明1は,引用文献1に記載された発明とはいえない。また,本願発明1が引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載の技術に基づき当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-6について
本願発明2ないし6は,本願発明1を更に限定したものであるので,同様に,引用文献1に記載された発明ではないし,また,当業者であっても引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載の技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 原査定について
審判請求時の補正により,本願発明1ないし6は,上記第3に示したとおりのものとなっており,引用文献1に記載された発明とはいえないし,また,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1及び2(上記第4の引用文献1及び2)に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-01-22 
出願番号 特願2018-2532(P2018-2532)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H02M)
P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柳下 勝幸  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 小林 秀和
山澤 宏
発明の名称 電力変換装置及び空気調和装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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