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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1371043
審判番号 無効2019-800015  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-02-22 
確定日 2020-11-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第6392207号発明「シロドシンの苦味をマスキングした経口投与製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6392207号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕、15について訂正することを認める。 特許第6392207号の請求項1、3、4、6、9?12、14及び15に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 特許第6392207号の請求項2、5、7、8及び13に係る発明についての審判請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6392207号(以下、「本件特許」という。)に係る発明についての出願は、2014年(平成26年) 3月25日(優先権主張 平成25年 3月26日 日本国(JP)、平成25年 8月30日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成30年 8月31日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人から、平成31年 2月22日付け審判請求書によって、本件特許の全ての請求項1?15に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の本件特許無効審判が請求された。以降の主な手続の経緯は次のとおりである。

令和1年 5月27日付け 審判事件答弁書(被請求人)
同年 8月 8日付け 審理事項通知書(当審合議体)
同年10月 3日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 同月 同日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 同月11日付け 上申書(1)(請求人)
同年 同月 同日付け 上申書(2)(請求人)
同年 同月17日 口頭審理
同年 同月24日付け 上申書(請求人)
同年11月 6日付け 上申書(被請求人)
令和2年 1月31日付け 審決の予告
同年 4月 8日付け 訂正請求書(被請求人)
同年 同月 同日付け 上申書(被請求人)
同年 5月15日付け 上申書(請求人)
同年 同月21日付け 通知書(当審合議体)
同年 6月30日付け 弁駁書(請求人)
同年 9月10日付け 上申書(請求人)

第2 訂正請求について

1.令和 2年 4月 8日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?15について訂正することを求めるものである。
本件訂正における訂正事項は、以下のとおりである。
なお、下線は当審が付した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子を、非腸溶性高分子を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して得られるマスキング粒子であって、」と記載されているのを、「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子を、非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して得られるマスキング粒子であって、非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEであり、」に訂正する。
請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項3、4、6、9?12及び14も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%である、」と記載されているのを、「非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%であり、該マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤のpH6.8における15分後の溶出率が、85%以上である、」に訂正する。
請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項3、4、6、9?12及び14も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「該マスキング粒子を含有する経口投与製剤のヒト苦味官能試験における苦味を感じ始める時間が、30秒以上である、」と記載されているのを、「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子が、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒された造粒物であり、該マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤のヒト苦味官能試験における苦味を感じ始める時間が、40秒以上である、」に訂正する。
請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4、6、9?12及び14も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1?2いずれかに記載のマスキング粒子」と記載されているのを、「請求項1に記載のマスキング粒子」に訂正する。
請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4、6、9?12及び14も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子が、シロドシンと添加剤との混合物である、」と記載されているのを、「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子が、シロドシンと添加剤との混合物をヒドロキシプロピルセルロースで造粒して得られる造粒物であり、該添加剤が、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン及びアルファー化デンプンから選択される少なくとも1つを含有する添加剤である、」に訂正する。
請求項4を直接的又は間接的に引用する請求項6、9?12及び14も同様に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれかに記載のマスキング粒子」と記載されているのを、「請求項3に記載のマスキング粒子」に訂正する。
請求項4を直接的又は間接的に引用する請求項6、9?12及び14も同様に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に「添加剤が、糖又は糖アルコール及びデンプン類から選択される少なくとも1つの添加剤である、」と記載されているのを、「添加剤が、部分アルファー化デンプンである、」に訂正する。
請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項9?12及び14も同様に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に「請求項4又は5に記載のマスキング粒子」と記載されているのを、「請求項4に記載のマスキング粒子」に訂正する。
請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項9?12及び14も同様に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれかに記載のマスキング粒子」と記載されているのを、「請求項1、3、4及び6のいずれかに記載のマスキング粒子」に訂正する。
請求項9を直接的又は間接的に引用する請求項10?12及び14も同様に訂正する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれかに記載のマスキング粒子」と記載されているのを、「請求項1、3、4、6及び9のいずれかに記載のマスキング粒子」に訂正する。
請求項10を直接的又は間接的に引用する請求項11、12及び14も同様に訂正する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?10のいずれかに記載のマスキング粒子」と記載されているのを、「請求項1、3、4、6、9及び10のいずれかに記載のマスキング粒子」に訂正する。
請求項11を直接的又は間接的に引用する請求項12及び14も同様に訂正する。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?11のいずれかに記載のマスキング粒子」と記載されているのを、「請求項1、3、4、6及び9 ?11のいずれかに記載のマスキング粒子」に訂正する。
請求項12を引用する請求項14も同様に訂正する。

(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項12に「マスキング粒子を含有する経口投与製剤」と記載されているのを、「マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤」に訂正する。
請求項12を引用する請求項14も同様に訂正する。

(18)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項13を削除する。

(19)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項14に「請求項13記載のマスキング粒子を含有する経口投与製剤」と記載されているのを、「請求項12記載のマスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤」に訂正する。

(20)訂正事項20
特許請求の範囲の請求項15に「(a)シロドシンの微粉末と添加剤を混合又は造粒して薬物粒子を調製する工程」と記載されているのを、「(a)シロドシンの微粉末、部分アルファー化デンプン及びタルクを混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒して薬物粒子を調製する工程」に訂正する。

(21)訂正事項21
特許請求の範囲の請求項15に「(b)工程(a)で得られた薬物粒子に非腸溶性高分子を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%である、マスキング粒子を調製する工程を包含することを特徴とする、」と記載されているのを、「(b)工程(a)で得られた薬物粒子に非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%であり、非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEである、マスキング粒子を調製する工程を包含することを特徴とする、」に訂正する。

2.訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は 、請求項1のコーティング剤における「非腸溶性高分子を含有する」を、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」といい、また、特許請求の範囲及び図面と合わせて「特許明細書等」という。)【0009】、【0016】の記載に基づいて、「非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有する」とし、かつ、「非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE」として、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1の「口腔内崩壊製剤用のマスキング粒子」を特許明細書等の請求項2、【0034】の記載に基づいて、「マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤のpH6.8における15分後の溶出率が、85%以上である」として限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3、8、11、12、18について
訂正事項3、8、11、12、18 は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、 請求項3において、請求項3が引用する請求項1のマスキング粒子における「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子」を、特許明細書の【0033】、【0057】以降の実施例の記載に基づいて、「ヒドロキシプロピルセルロースで造粒された造粒物である」とし、かつ、請求項3における「該マスキング粒子を含有する経口投与製剤の苦味マスキング効果を評価するヒト苦味官能試験における苦味を感じ始める時間が、30秒以上である」を「該マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤の苦味マスキング効果を評価するヒト苦味官能試験における苦味を感じ始める時間が、40秒以上である」として、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5、7、10、13?16について
訂正事項5、7、10、13?16は、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、請求項4のシロドシンの微粉末を含有する薬物粒子における「シロドシンと添加剤との混合物」について、特許明細書の【0013】、【0057】以降の実施例の記載に基づいて、「ヒドロキシプロピルセルロースで造粒された造粒物である」とし、かつ、「該添加剤が、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン及びアルファー化デンプンから選択される少なくとも1つを含有する添加剤である」として、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項9について
訂正事項9は、請求項6の「糖又は糖アルコール及びデンプン類から選択される少なくとも1つの添加剤」を、特許明細書の【0013】にデンプン類として記載されている「部分アルファー化デンプン」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項17について
訂正事項17は、請求項12の「経口投与製剤」を、特許明細書等の請求項13の記載及び、特許明細書の【0035】に基づいて、「口腔内崩壊製剤」として限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項19について
訂正前の請求項14は、請求項13を引用せずに書き下すと、「剤形が錠剤である、請求項12記載のマスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤。」となり、訂正後の請求項14と表記上は同じである。
そして、請求項14は、引用していた請求項13が上記(3)のとおり削除されたことに伴い、請求項13を引用することができなくなったことから、請求項12を引用する形に変更したものであり、訂正の前後で発明の内容に変更が生じていないことは上記のとおりである。
よって、訂正事項19は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)訂正事項20について
訂正事項20は、請求項15の(a)工程の「シロドシンの微粉末と添加剤を混合又は造粒」を、特許明細書の【0015】、【0060】の記載に基づいて、「シロドシンの微粉末、部分アルファー化デンプン及びタルクを混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒」として、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(11)訂正事項21について
訂正事項21は、請求項15の(b)工程のコーティング剤における「非腸溶性高分子を含有する」を、特許明細書の【0009】、【0016】の記載に基づいて、「非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有する」とし、かつ、「非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE」として、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

なお、訂正前の請求項1?14は、請求項2?14が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当する。
したがって、訂正前の請求項1?14について訂正する訂正事項1?19は、当該一群の請求項に対して請求されたものであるといえる 。

3.小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕、15について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?15に係る発明(以下、順に、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明15」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子を、非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して得られるマスキング粒子であって、非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEであり、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%であり、該マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤のpH6.8における15分後の溶出率が、85%以上である、口腔内崩壊製剤用のマスキング粒子。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子が、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒された造粒物であり、該マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤のヒト苦味官能試験における苦味を感じ始める時間が、40秒以上である、請求項1に記載のマスキング粒子。
【請求項4】
シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子が、シロドシンと添加剤との混合物をヒドロキシプロピルセルロースで造粒して得られる造粒物であり、該添加剤が、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン及びアルファー化デンプンから選択される少なくとも1つを含有する添加剤である、請求項3に記載のマスキング粒子。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
添加剤が、部分アルファー化デンプンである、請求項4に記載のマスキング粒子。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して100質量部?200質量部である、請求項1、3、4及び6のいずれかに記載のマスキング粒子。
【請求項10】
該マスキング粒子中のシロドシン含量が、5?25質量%である、請求項1、3、4、6及び9のいずれかに記載のマスキング粒子。
【請求項11】
非腸溶性高分子含量が、薬物粒子100質量部に対して20質量部?40質量部である、請求項1、3、4、6、9及び10のいずれかに記載のマスキング粒子。
【請求項12】
請求項1、3、4、6及び9?11のいずれかに記載のマスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
剤形が錠剤である、請求項12記載のマスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤。
【請求項15】
(a)シロドシンの微粉末、部分アルファー化デンプン及びタルクを混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒して薬物粒子を調製する工程、及び
(b)工程(a)で得られた薬物粒子に非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%であり、非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEである、マスキング粒子を調製する工程を包含することを特徴とする、口腔内崩壊製剤用のマスキング粒子を製造する方法。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
4-1.請求人の主張
請求人は、特許第6392207号の特許請求の範囲の請求項1?15に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1、2を主張し、証拠方法として、甲第1号証?甲第30号証(以下、順に、「甲1」?「甲30」と表記する場合がある。)を提出している。

請求人は、令和2年6月30日付け弁駁書において、本件訂正の適否については意見を述べないとするとともに本件訂正発明は進歩性欠如の無効理由を含むとする一方、本件訂正発明1?14が無効理由1を含むか否かについて特段の主張はしていない。そこで、以下においては、本件訂正発明1?14について、本件訂正前の請求項1?14についてした無効理由1を主張するものとして検討する。

また、請求人は、令和2年9月10付け上申書において、
(1)甲2、甲5、甲18、甲22及び甲23については、その公開日がいずれも本件優先日(平成25年 3月26日)後となっていることから、上記各号証に関して、本件優先日前に公開された書証として、上記各号証に対応する国際公開公報である甲26?甲30を提出する、
(2)上記甲26?甲30の記載内容は、いずれも甲2、甲5、甲18、甲22及び甲23の記載内容と同一である、
(3)したがって、本件における甲2、甲5、甲18、甲22及び甲23に基づく請求人の各主張については、それぞれ、甲26、甲27、甲28、甲29及び甲30に基づく各主張として読み替えての審理を求める、
旨を上申する。

そうすると、請求人が主張する無効理由は以下のとおりである。

(無効理由1)
本件訂正発明1?14は、明確でないから、本件訂正発明1?14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1?14に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(無効理由2)
本件訂正発明1?15は、甲1に記載された発明、甲26(甲2)、甲3、甲4、甲27(甲5)、甲6?甲8に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1?15に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

4-2.証拠方法
甲第1号証:特開2004-339071号公報
甲第2号証:特表2013-532651号公報
甲第3号証:特開2004-175796号公報
甲第4号証:再公表特許WO2006/070845号公報
甲第5号証:再公表特許WO2011/121823号公報
甲第6号証:再公表特許WO2008/018371号公報
甲第7号証:論文「アクリル系ポリマーによる口腔内崩壊錠用主薬顆粒の粒子設計」(製剤機械技術学会誌21巻4号221頁?236頁、2012年)
甲第8号証:特開2010-83886号公報
(以上、審判請求書に添付。)

甲第9号証:知財高裁平成24年12月26日判決(平成24年(行ケ)第10131号)
甲第10号証:特表2005-513008号公報
甲第11号証:特開2007-63263号公報
(以上、口頭審理陳述要領書に添付。)

甲第12号証:特開2003-119122号公報
甲第13号証:後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン(平成24年 2月29日薬食審査発0229第10号)
(以上、上申書(2)に添付。)

甲第14号証:再公表特許WO2004/054574号公報
(以上、令和元年10月17日付け証拠説明書と同時に提出。)

甲第15号証:JAPIC医療用医薬品集2007、1123?1125頁 「シロドシン」の項、平成18年9月1日、財団法人 日本医薬情報センター(JAPIC)
甲第16号証:新薬承認情報集 平成18年No.03 シロドシン[ユリーフカプセル2mg、4mg]2006.6.29、(財)日本薬剤師研修センター
甲第17号証:ユリーフ錠の医薬品インタビューフォーム2010年8月改訂(改訂第3版)
甲第18号証:再公表特許WO2011/108643号公報
甲第19号証:特開2018-100257号公報
甲第20号証:特開2018-83809号公報
甲第21号証:特開2018-150287号公報
甲第22号証:再公表特許WO2012/169614号公報
甲第23号証:再公表特許WO2012/036078号公報
甲第24号証:特開2012-36140号公報
甲第25号証:特開2009-263298号公報
(以上、令和元年10月24日付け上申書に添付。)

甲第26号証:国際公開第2012/010669号
甲第27号証:国際公開第2011/121823号
甲第28号証:国際公開第2011/108643号
甲第29号証:国際公開第2012/169614号
甲第30号証:国際公開第2012/036078号
(以上、令和2年9月10日付け上申書に添付。)

第5 被請求人の主張及び証拠方法
5-1.被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、請求人の本件特許が無効であるとの主張には理由がない旨を主張し、証拠方法として、乙第1?22号証(以下、順に、「乙1」・・・「乙22」と表記する場合がある。)を提出している。

5-2.証拠方法
乙第1号証:薬剤学、2011年、71巻、1号、9?16頁
(以上、審判事件答弁書に添付。)

乙第2号証:特開2012-246252号公報
乙第3号証:特開2011-225468号公報
(以上、口頭審理陳述要領書に添付。)

乙第4号証:再公表特許WO2005/055989号公報
乙第5号証:特開2008-214334号公報
乙第6号証:特開2002-338501号公報
乙第7号証:再公表特許WO2005/039542号公報
乙第8号証:特開2008-81448号公報
乙第9号証:特開2011-93882号公報
乙第10号証:再公表特許WO2012/036078号公報
乙第11号証:特開2008-260712号公報
乙第12号証:特開2005-60310号公報
乙第13号証:特開2004-35518号公報
乙第14号証:特表2007-518670号公報
乙第15号証:再公表特許WO2007/010930号公報
乙第16号証:特開2002-338500号公報
乙第17号証:Chem. Pharm. Bull., 2012,60(3), pp.315-319, 2012
乙第18号証:特開2005-60309号公報
乙第19号証:Chem. Pharm. Bull.,1999, 47(10), pp.1451-1454, 1999
乙第20号証:特開2011-63627号公報
乙第21号証:特開2012-56948号公報
乙第22号証 :再公表特許WO2012/029348号公報
(以上、令和 2年 4月 8日付け上申書に添付。)

第6 証拠の記載事項
6-1.甲号証の記載事項
甲1、甲26(甲2)、甲3、甲4、甲27(甲5)、甲6?8、甲13、甲14、甲16及び甲17には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。

甲1
(摘示事項1A)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)賦形剤と混合した苦味を有する薬物を水に不溶であるが消化液に可溶なフィルム形成性ポリマーで造粒もしくは被覆してなる薬物含有顆粒、及び
(b)糖または糖アルコールを水に不溶であるが親水性の造粒成分で造粒もしくは被覆してなる薬物不含顆粒、
との混合圧縮成形物である、苦味を低減した口腔内崩壊錠剤。
・・・
【請求項3】
水に不溶であるが消化液に可溶なフィルム形成性ポリマーが、胃溶性コーティング剤または腸溶性コーティング剤である請求項1または2の口腔内崩壊錠剤。
【請求項4】
胃溶性コーティング剤がアミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートであり、腸溶性コーティング剤がメタクリル酸コポリマーである請求項3の口腔内崩壊錠剤。
【請求項5】
薬物含有顆粒(a)中の薬物に対するフィルム形成性ポリマーの重量比が、1:1ないし6:1である請求項1ないし4のいずれかの口腔内崩壊錠剤。
【請求項6】
薬物含有顆粒(a)中に占めるフィルム形成性ポリマーの割合が10ないし50重量%である請求項1ないし5のいずれかの口腔内崩壊錠剤。」

(摘示事項1B)
「【0001】
【技術分野】
本発明は、苦味を低減した口腔内崩壊錠剤に関する。
【0002】
【背景技術】
経口投与のための固形製剤の剤形としては錠剤やカプセル剤が一般的である。これらは投与後そのままの形で食道を通って消化管に達し、消化管内で崩壊して薬物を放出するように設計されている。しかしながら老齢者や小児にとってはその嚥下が困難な場合があり、そのような患者に適した剤形として口腔内崩壊錠剤がある。この剤形は水を同時に飲用しなくても口腔内で唾液により速やかに崩壊し、老齢者や小児でも容易に嚥下し得るようになっている。
【0003】
苦味を有する薬物の場合、口腔内で崩壊した錠剤から放出された薬物は口腔内の味覚神経を強く刺激し、普通の錠剤よりむしろ苦味を強く感じさせる。」

(摘示事項1C)
「【0005】
また、この公報には、苦味を有する薬物自体をフィルムでコーティングし、口腔内で放出する薬物量を極力抑制することが考えられるが、しかしながら口腔内放出薬物量を低く抑制することは同時に消化管内放出を低くし、バイオアベイラビリティの低下を招く問題点があるとしている。特表平6-502194に開示されている急速崩壊性多粒子状錠剤はこれに当る。
【0006】
そこで本発明は、口腔内での薬物の放出を最小化する一方で、消化管内での薬物の放出を低下させない苦味を低減した口腔内崩壊錠剤を提供する。」

(摘示事項1D)
「【0007】
【本発明の開示】
本発明によれば、(a)賦形剤と混合した苦味を有する薬物を水に不溶であるが消化液に可溶なフィルム形成性ポリマーで造粒もしくは被覆してなる薬物含有顆粒、及び(b)糖または糖アルコールを水に不溶である親水性の造粒成分で造粒もしくは被覆してなる薬物不含顆粒、との混合圧縮成形物である、苦味を低減した口腔内崩壊錠剤が提供される。
【0008】
本錠剤は、口腔内で唾液と接触する時、顆粒(b)は口腔内で崩壊するが、顆粒(a)はそのままの形で消化管へ通過するからその中に含まれる薬物は口腔内で放出されない。消化管に到達した顆粒(a)は、通常の胃溶性顆粒または腸溶性顆粒と同様に消化管内において崩壊し、同様なバイオアベイラビリティーを発揮する。
【0009】
【好ましい実施態様】
苦味を呈する薬物は錠剤や顆粒に用いられる通常の賦形剤と混合される。その例は、デンプン、マンニトール、乳糖などである。苦味を呈する薬物の種類は問わない。また賦形剤と薬物の混合比は造粒が可能であり、かつ所定の薬物含量が達成可能である限り任意である。
【0010】
薬物含有顆粒(a)は、この混合物を水に不溶であるが消化液に可溶なフィルム形成性ポリマーで造粒もしくは被覆することによって調製される。使用されるポリマーは製剤分野で錠剤や顆粒を胃溶性もしくは腸溶性とするために使用されるポリマーである。多数のそのようなポリマーが知られているが、環境および人体に対して無害なエタノールまたは含水エタノールに溶解するポリマーが好ましい。具体例としては、胃溶性ポリマーとしてアミノアルキルメタクリレートコポリマー(商品名オイドラギットEおよびRS)、およびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートがあり、腸溶性ポリマーとしてメタクリル酸コポリマー(商品名オイドラギットS)などがある。薬物の性質によって顆粒を胃溶性とすべきかそれとも腸溶性とすべきかを選択する。
【0011】
薬物と賦形剤の混合物は上記ポリマーの溶液を用いて造粒される。造粒方法は任意であるが、流動層造粒法が好ましい。この場合賦形剤と混合した薬物を粉末状で流動させ、それへ前記ポリマーの溶液を噴霧してコーティングし、乾燥して薬物含有顆粒(a)を調製する。薬物に対するフィルム形成性ポリマーの比は、重量で1:1ないし6:1の範囲内が適当である。フィルム形成性ポリマーの重量比をあまり大きくすると薬物のバイオアベイラビリティが低下するので好ましくない。」

甲26(甲2)
(摘示事項26A)クレーム
「1.シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と塩基性コポリマーとの混合物を含む経口投与用医薬品。
2.前記塩基性コポリマーがアクリレートコポリマーまたはメタクリレートコポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の医薬品。
3.前記塩基性コポリマーがアミノ基を有するコポリマーであることを特徴とする請求項1または2に記載の医薬品。
4.前記コポリマーが、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレートおよびジメチルアミノエチルメタクリレートのそれぞれに由来するモノマー構成単位を有するコポリマーであることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の医薬品。
5.錠剤またはカプセル剤である請求項1?4のいずれか1項に記載の医薬品。
6.少なくとも1種のさらなる薬学的に許容される添加剤を含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の医薬品。
7.前記添加剤が、界面活性剤、結合剤、充填剤、崩壊剤、滑沢剤、またはこれらの成分の2以上の混合物であることを特徴とする請求項6に記載の医薬品。
8.pH1.1の水溶液中において1時間以内に有効成分の少なくとも80%が放出されることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の医薬品。
9.シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と塩基性コポリマーの重量比が、1:1?1:500であることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の医薬品。
10.請求項1?9のいずれか1項に記載の医薬品の調製方法であって、シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と塩基性コポリマーとを
a)溶媒の存在下で必要に応じて加えたさらなる薬学的に許容される添加剤とともに混合し、次いで造粒し、該造粒物を必要に応じて乾燥し、必要に応じて乾燥させた該造粒物を必要に応じて篩過する工程、
b)必要に応じて加えたさらなる薬学的に許容される添加剤とともに溶媒に溶解し、次いで該溶液をスプレー乾燥する工程、または
c)必要に応じてさらなる薬学的に許容される添加剤を加えて溶融押出する工程により加工すること、
および必要に応じてさらなる薬学的に許容される添加剤を加え、工程a)、b)またはc)の生成物を単位剤形に製剤化することを含む方法。
11.前記単位剤形がカプセル剤または錠剤であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
12.経口投与用医薬品に含まれるシロドシンまたはその薬学的に許容される塩を安定化させるための塩基性コポリマーの使用。」

(摘示事項26B)p1下から13行?p3 7行
「シロドシンは、良性前立腺肥大症(前立腺の非悪性腫瘍)の症状を治療するために使用される公知の薬剤である。・・・
・・・
シロドシンは光に対して感受性であると考えられ、また高温にさらすことができない。このため、有効成分シロドシンを含む医薬品の調製には数多くの困難が伴う。さらに、シロドシンは、医薬品の調製においてよく使用される薬学的に許容される添加剤の多くと不適合であり、シロドシンを含む医薬品の調製時および保存時に望ましくない分解産物が形成されることがしばしばある。このような問題は、例えば欧州特許公開第1 574 215号に記載されている(シロドシンは初期の名称であるKMD-3213で称されている)。さらに、欧州特許公開第1 574 215号には、有効成分シロドシンを含む錠剤は溶解性に問題があること、および滑沢剤を使用したシロドシンの製剤化は困難であることも示されている。有効成分シロドシンを使用したカプセル剤の調製においては、カプセル内容物の混合時間によって有効成分の放出プロファイルが影響を受ける。
上記の問題に対する解決策として、欧州特許公開第1 574 215号には医薬品の具体例がいくつか開示されており、これらの医薬品ではD-マンニトールが充填剤として、また、ステアリン酸マグネシウムが滑沢剤として使用されている。
特開2004-175796号には口腔内崩壊錠が開示されており、この文献は特に有効成分の不快な味のマスキングに関する。記載されている複数の有効成分のうちの1つがシロドシン(すなわちKMD-3213)である。
例えば欧州特許第1 541 554号に記載されているように、有効成分シロドシンを含む医薬品の調製において、シロドシン特にシロドシンの塩を非晶質形態で存在させることは困難であり、種々の多形形態や結晶形態で存在させることも同様に困難である。形態の相違によってシロドシンはある程度の吸湿性を示す。さらに、有効成分シロドシンまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬品の調製中および保存中に、多形形態の該成分が(部分的に)別の多形形態または非晶質形態へと変化し、これによって該医薬品の薬物動態特性、特に有効成分の放出特性および生物学的利用能、ならびに該医薬品の吸湿性が影響を受けることは考慮に入れなければならない。
上記の問題によって、医薬品の製剤化においてさらなる問題が生じ、有効成分を再現性よく速い速度で放出でき、多様な賦形剤を使用して容易かつ安価に得ることができる医薬品を提供することが困難となる。さらに、医薬品に含まれるシロドシンは非常に高い化学的安定性を有するべきであり、医薬品の調製時および保存時におけるシロドシン分解産物の形成はできる限り抑制されるべきである。」

(摘示事項26C)p3下から8行?p4 12行
「したがって、本発明は、従来技術における問題が見られない経口医薬品、例えば、調製に使用されたシロドシンまたはその薬学的に許容される塩の多形形態に関わりなく、胃内において再現性よく非常に速い速度で溶解して有効成分を放出し、その生物学的利用能が高く、かつ特に光および温度の作用下での保存安定性が改善された経口医薬品を提供することを目的とする。さらに、本発明の医薬品は簡便かつ安価に得られるべきである。さらに、シロドシンの不快味がマスキングされていることが好ましい。
上記課題は本発明の請求項の主題によって解決される。上記課題は、シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と塩基性コポリマーとの混合物は保存安定性を有し、簡便に経口医薬品へと製剤化できるという驚くべき知見に基づいて解決される。このような混合物を含む本発明の経口医薬品には、従来技術における問題は見られない。具体的には、本発明の経口医薬品に含まれるシロドシンは化学的に非常に安定しており、上記の混合物は、通常使用される多様な医薬品添加剤とともに問題なく経口医薬品に製剤化することができる。さらに、経口医薬品に含まれるシロドシンの物理的形態は保存中に変化しないことが好ましく、本発明の混合物を含む経口医薬品は胃内において有効成分を再現性よく非常に速い速度で放出し、その放出特性も医薬品の保存中に顕著に変化することはない。」

(摘示事項26D)p4 13行?最下行
「より具体的には、驚くべきことに塩基性コポリマーは光および熱の作用下におけるシロドシンの分解を顕著に低減し、これによって光および熱の作用下における医薬品の安定性をも改善できることが示されている。本発明において使用できる塩基性コポリマーは当業者に知られたものである。塩基性コポリマーは、塩基性基としてたとえばアミノ基またはカルボキシレート基を有しうる。本発明にしたがってシロドシンまたはその薬学的に許容される塩を含む混合物とともに使用されるコポリマー中の塩基性基は、アミノ基、特に第3級アミノ基であることが好ましい。通常、塩基性コポリマーのアミノ基は溶液中でプロトン化されるため塩基性コポリマーはカチオン性を示し、いくつかの文献においてはカチオン性コポリマーとも称されている。
本発明によれば、塩基性コポリマーは、塩基性アクリレートコポリマーまたは塩基性メタクリレートコポリマーであり、これらのコポリマーも同様にアミノ基を有することが好ましい。
本発明によれば、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレートおよびジメチルアミノエチルメタクリレートのそれぞれに由来するモノマー構成単位を有するコポリマーが特に好ましい。このような塩基性コポリマーは、例えば、オイドラギット(上付き文字〇の中にR)Eの商標で市販されており、具体的には、オイドラギット(上付き文字〇の中にR)E 100、オイドラギット(上付き文字〇の中にR)E PO、オイドラギット(上付き文字〇の中にR)E 12,5などの製品が挙げられる。」

(摘示事項26E)p5下から7行?p6 9行
「塩基性コポリマーとシロドシンの比は特に限定されないが、通常、塩基性コポリマーの割合は、シロドシンの割合と同じであるかそれよりも多い。塩基性コポリマーとシロドシン(またはその塩)の重量比は、1:1?500:1が好ましく、2:1?50:1がより好ましい。
シロドシンまたはその薬学的に許容される塩の混合物は、本発明の経口医薬品としてそのまま使用することができ、患者に直接投与することができる。しかしながら、シロドシンまたはその薬学的に許容される塩の混合物を含む医薬品には1以上の薬学的に許容される賦形剤がさらに含まれることが好ましい。本発明の医薬品は、まず経口投与に適した一般的な単位剤形に製剤化することが好ましい。適切な単位剤形は、例えば分包剤、カプセル剤、または錠剤である。本発明によれば、錠剤およびカプセル剤が好ましく、カプセル剤とは具体的には硬質ゼラチンカプセルを意味する。本発明によれば、本発明の医薬品は、カプセル剤または錠剤が好ましく、錠剤または硬質ゼラチンカプセルが最も好ましい。」

(摘示事項26F)p7 8?11行
「加えて、本発明の医薬品はたとえば結合剤をさらに含んでいてもよい。結合剤としては、コポビドン、ゼラチンおよびヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。他の結合剤は当業者に知られている。結合剤の含有量は、0?10重量%が好ましく、0.5?10重量%が特に好ましい。」

(摘示事項26G)p10 10?17行
「本発明の錠剤がインビトロにおいて速放性であることも本発明の特に有利な点である。より好ましいことに、本発明の錠剤の溶出プロファイルをUSPパドル法装置IIにしたがい0.1N HCl(pH1.2)中、攪拌速度50rpm、37℃の条件で測定した場合、60分後に有効成分の通常少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも80%が放出されている。本発明の錠剤の放出プロファイルは保存中に顕著に変化することがなく、このことも本発明の錠剤の特に有利な点である。」

甲3
(摘示事項3A)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
排尿障害及び/又はそれに関連する疾患の治療用薬物を含有する口腔内崩壊製剤。
・・・
【請求項3】
水難溶性であって粒径が実質的に0.4?105μmの排尿障害及び/又はそれに関連する疾患の治療用薬物と、必要により添加してもよい第1の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤とを混合し、造粒し、又は造粒せずに、さらに第2の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤を必要により混合し、得られた造粒物又は混合物を型に投入して0.1?100MPaの圧力で圧縮成型することにより得られる口腔内崩壊製剤であって、該製剤中における水不溶性添加剤の含有率が10%w/w以上である場合には、その水不溶性添加剤の平均粒径が100μm以下である請求項1又は2に記載の口腔内崩壊製剤。
【請求項4】
水難溶性であって粒径が実質的に0.4?105μmの排尿障害及び/又はそれに関連する疾患の治療用薬物と、第1の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤とを混合し、造粒し、さらに第2の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤を必要により混合し、得られた造粒物又は混合物を型に投入して0.1?100MPaの圧力で圧縮成型することにより得られる口腔内崩壊製剤であって、該製剤中における水不溶性添加剤の含有率が10%w/w以上である場合には、その水不溶性添加剤の平均粒径が100μm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の口腔内崩壊製剤。
【請求項5】
水難溶性であって粒径が実質的に0.4?105μmの排尿障害及び/又はそれに関連する疾患の治療用薬物と、第1の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤とを混合し、造粒し、さらに第2の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤を必要により混合し、得られた混合物又は造粒物を湿潤条件下で型に投入して0.1?100MPaの圧力で圧縮成型した後、乾燥することにより得られる口腔内崩壊製剤であって、該製剤中における水不溶性添加剤の含有率が10%w/w以上である場合には、その水不溶性添加剤の平均粒径が100μm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の口腔内崩壊製剤。
【請求項6】
水難溶性であって粒径が実質的に0.4?105μmの排尿障害及び/又はそれに関連する疾患の治療用薬物と、第1の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤とを混合し、造粒し、さらに第2の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤を混合し(ただし第2の添加物の少なくとも一部は造粒されている)、得られた造粒物又は混合物を型に投入して0.1?100MPaの圧力で圧縮成型することにより得られる口腔内崩壊製剤であって、該製剤中における水不溶性添加剤の含有率が10%w/w以上である場合には、その水不溶性添加剤の平均粒径が100μm以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の口腔内崩壊製剤。
・・・
【請求項21】
薬物が不快な味を呈する薬物である請求項1ないし20のいずれか1項に記載の口腔内崩壊製剤。
【請求項22】
薬物がナフトピジル、YM-905、又はKMD-3213のいずれかである請求項1ないし21のいずれか1項に記載の口腔内崩壊製剤。」

(摘示事項3B)
「【0011】
5.水難溶性であって粒径が実質的に0.4?105μmの排尿障害及び/又はそれに関連する疾患の治療用薬物と、第1の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤とを混合し、造粒し、さらに第2の添加物である水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤を必要により混合し、得られた混合物又は造粒物を湿潤条件下で型に投入して0.1?100MPaの圧力で圧縮成型した後、乾燥することにより得られる口腔内崩壊製剤であって、該製剤中における水不溶性添加剤の含有率が10%w/w以上である場合には、その水不溶性添加剤の平均粒径が100μm以下である上記1ないし3のいずれか1項に記載の口腔内崩壊製剤。
6.・・・」

(摘示事項3C)
「【0023】
本発明において特に好ましいのは、ナフトピジル、塩酸プラゾシン、ウラピジルである。さらにナフトピジルが特に好ましい例として挙げられる。また、YM-905(solifenacin succinate;(+)-(1S,3'R)-quinuclidin-3'-yl-1-phenyl-1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline-2-carboxylate monosuccinate;国際公開WO96/20194号)、又はKMD-3213(silodosin;(-)-(R)-1-(3-hydroxypropyl)-5-[2-[2-[2-(2,2,2-trifluoroethoxy)phenoxy]ethylamino]propyl]indoline-7-carboxamide;米国特許第5387603号明細書)も好ましい例として挙げられる。」

(摘示事項3D)
「【0056】
上記の方法に密接に関連する製造方法としては、上記5.の態様に従う製造方法が挙げられる。この製造方法においては、添加物として賦形剤と結合剤の組み合わせが通常好ましく選択される。賦形剤としては水溶性添加物の糖または糖アルコールが好ましく、具体的にはD-マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、トレハロース、乳糖、造粒乳糖(通常、噴霧乾燥による)、造粒D-マンニトール(通常、噴霧乾燥による)が挙げられ、このうち、D-マンニトール、乳糖、エリスリトール、造粒乳糖、造粒D-マンニトールが好ましい例として挙げられる。結合剤としては水溶性添加物を用いることが好ましく、具体的にはヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キタンサンガム、アラビアゴム末、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、部分けん化ポリビニルアルコール、メチルセルロース、プルラン、部分α化澱粉が挙げられ、このうち、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン(ポビドン)を使用することが好ましい。」

甲4
(摘示事項4A)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)有効成分と、アクリルコポリマーと、少なくとも1種の薬理学的に許容される添加剤とを混合する工程、(2)前記(1)の工程で得られた混合物を、圧縮成型する工程、及び (3)前記(2)の工程で得られた圧縮成型物を、50?100℃の温度条件下で一定時間保温する工程からなることを特徴とする速崩壊性錠剤の製造方法。
【請求項2】
有効成分が、薬効成分である請求項1に記載の速崩壊性錠剤の製造方法。
【請求項3】
アクリルコポリマーが、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、及びジメチルアミノエチルメタクリレートからなる共重合体である請求項1から2のいずれかに記載の速崩壊性錠剤の製造方法。
【請求項4】
アクリルコポリマーが、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEである請求項1から3のいずれかに記載の速崩壊性錠剤の製造方法。」

(摘示事項4B)
「【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、アクリルコポリマーと、少なくとも1種の薬理学的に許容される添加剤とを混合し、得られた混合物を、圧縮成型し、得られた圧縮成型物を、アクリルコポリマーのガラス転移温度以上に加熱することにより、該アクリルコポリマーの少なくとも一部(又は全部)が架橋し、安定な構造体を形成することにより、速崩壊性と強度とが両立された速崩壊性錠剤を製造できることを知見した。」

(摘示事項4C)
「【0079】
(実施例2)
前記薬剤としてベシル酸アムロジピン(Dr.Reddy’s社製)0.35g、前記添加剤として結晶セルロース(商品名:アビセルPH101、旭化成工業株式会社、以下「アビセルPH101」とする)6.9g、及びマンニトール(東和化成工業株式会社製)10.4g、並びに前記アクリルコポリマーとしてアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(商品名:オイドラギッド(登録商標)EPO、デグサ社)0.35gをポリエチレン袋で十分に混合し、混合物を得た。次に、得られた前記混合物を島津オートグラフAGS-1000Dにて圧縮成型圧2.9kNで圧縮成型し、重量180mg、直径8mmの圧縮成型物を得た。圧縮成型時、臼と杵にはステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社)を塗付した。前記圧縮成型物を、恒温槽(保温温度80℃)で10時間保温した後、室温に放置し冷却し、前記速崩壊性錠剤(口腔内速崩壊性錠剤)を得た。得られた前記速崩壊性錠剤について、実施例1と同様にして口腔内崩壊時間、及び硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
また、得られた前記速崩壊性錠剤について、以下の方法により、ベシル酸アムロジピンの溶出試験を行った。結果を図3に示す。
【0081】
<溶出試験>
前記溶出試験は、日局の溶出試験法の第2法(パドル法)で評価した。
溶出試験装置としては、富山産業製Dissolution tester NTR-VS6P又はNTR-6100を用いた。
溶出液中の薬物の定量は、液体クロマトグラフ(株式会社島津製作所10Aシリーズ、以下、「HPLC」とする)を用いた。
試験条件は、装置:パドル法(50rpm)、試験液:日局の崩壊試験第2液(pH6.8)、試験液の量:900mL、試験液の温度:37±0.5℃、試験時間:5、10、15、30、45分とした。
【0082】
-HPLC- HPLCの定量条件は、検出器:紫外吸光光度計(測定波長:240nm)、カラム:Inertsil ODS-2 4.6mm×15cm、5μm、カラム温度:40℃、流量:0.9mL/min、分析時間:6分、注入量:40μL、HPLC用移動相:メタノール・リン酸二水素カリウム溶液(41→10000)混液(13:7)とした。
【0083】
<定量用の標準溶液の調製> 標準品38.5mgをとり、メタノールを加え溶かし100mLとした(0.385mg/mL)。この液、2mLをとり、メタノールを加え200mLとした(0.00385mg/mL)。この液を標準母液とする。標準母液と各溶出試験溶媒の1:1混液を、それぞれの溶液条件での標準溶液とした。
【0084】
<試料溶液の調製> 溶出液10mLをサンプリングし、フィルター濾過(HLC-DISK 25水系:孔径0.45μm、関東化学)した。前記溶出液は、初期留分の少なくとも4mLは廃棄し、その後回収したものを用い、回収した溶出液ろ液とメタノールとの1:1混液を試料溶液とした。
【0085】
(実施例3)
前記薬剤としてベシル酸アムロジピン(Dr.Reddy's社)0.054g、前記添加剤として、アビセルPH101(旭化成工業株式会社製)1.13g、及びマンニトール(東和化成工業株式会社製)1.70g、並びに前記アクリルコポリマーとして、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(商品名:オイドラギッド(登録商標)EPO、デグサ社)0.114gをポリエチレン袋で十分に混合し、混合物を得た。
次に、得られた前記混合物を島津オートグラフAGS-1000Dにて圧縮成型圧2.9kNで圧縮成型し、重量180mg、直径8mmの圧縮成型物を得た。圧縮成型時、臼と杵にはステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社)を塗付した。
前記圧縮成型物を、恒温槽(保温温度80℃)で10時間保温した後、室温に放置し冷却し、前記速崩壊性錠剤(口腔内速崩壊性錠剤)を得た。得られた前記速崩壊性錠剤について、実施例1と同様にして口腔内崩壊時間、及び硬度を測定した。結果を表1に示す。
また、実施例2と同様にして、ベシル酸アムロジピンの溶出試験を行った。結果を図3にあわせて示す。」

(摘示事項4D)
「【0089】
また、図3のベシル酸アムロジピンの溶出試験結果から、本発明の前記速崩壊性錠剤は、医薬組成物として十分な溶出プロファイルを得られることが確認できた。
【0090】
以上の結果から、本発明の速崩壊性錠剤の特性に寄与する成分は、アクリルコポリマー(アミノアルキルメタクリレートコポリマーE)であることが確認された。
つまり、医薬組成物において、薬物の種類やその他の添加剤の種類による影響を受けることなく、本発明の目的を達成することを示唆するものである。本発明は、薬物を配合しない食品用や化粧品用のタブレットにも応用できるものである。また、口腔内速崩壊性錠剤としてアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを配合する場合、圧縮成型物100質量部に対し10質量部未満の配合でも効果があり、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEの保温による架橋構造が崩壊性や溶出性への影響が少なく、速崩壊性錠剤に重要な因子である服用感にも全く影響を与えなかった。」

(摘示事項4E)




甲27(甲5)
(摘示事項27A)
「請求の範囲
[請求項1]
アトルバスタチン又はその製薬学的に許容される塩およびラウリル硫酸ナトリウムを含有する粒子が、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートおよび水溶性高分子物質を含む被膜物質により被覆されてなる、経口投与用粒子状医薬組成物。」

(摘示事項27B)
「[0011]
また、アトルバスタチン又はその製薬学的に許容される塩は強い苦味を有する薬物である。薬物の不快な味の隠蔽、口腔内での吸収回避などの目的のために、薬物或いは薬物を含んでなる組成物に口腔内で一定時間薬物放出を抑制するコーティングなどの処理がなされる場合がある。コーティングは一般的に水不溶性の高分子等を用いるため、薬物の分散性・溶出性は低下する問題がある。」

(摘示事項27C)
「[0021]
上記状況下、アトルバスタチンの初期薬物溶出量を低減し、その後の速やかな薬物放出を維持しつつ、圧縮成形後も薬物溶出速度の変化を抑制または低減可能な、経口投与用粒子状医薬組成物、すなわち口腔内における不快な味の隠蔽(服用コンプライアンス)を施した際の、消化管内における速やかな分散性・溶出性を達成する経口投与用粒子状医薬組成物、及び該組成物を含有する口腔内崩壊錠に関する技術開発が必要である。」

甲6
(摘示事項6A)
「【請求項10】
苦味のマスキングされた口腔内崩壊錠の製造方法であって、
(1)ミチグリニドカルシウム水和物および結晶セルロースの混合物を、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーおよびエチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のマスキング剤を噴霧しながら造粒する工程、および
(2)該造粒工程で得られた造粒物に、糖または糖アルコールと、トウモロコシデンプンおよび部分アルファー化デンプンから選択される少なくとも1種とを混合し、圧縮成形する工程を包含することを特徴とする、製造方法。」

(摘示事項6B)
「【0014】
本発明の口腔内崩壊錠において、結晶セルロースは、口腔内において錠剤が崩壊後、消化管内、特に胃内においてミチグリニドカルシウム水和物の濡れと分散性を高め、その結果、溶出性を高める効果を有する。本発明の口腔内崩壊錠に用いられる結晶セルロースとしては、例えば、セオラスPH-101、PH-102、PH-301、PH-302、F-20、KG-802(旭化成ケミカルズ社製)などが挙げられ、これらを2つ以上組み合わせて用いてもよい。本発明の口腔内崩壊錠において、結晶セルロースの含有量は、ミチグリニドカルシウム水和物100重量部に対して、通常、約10?約500重量部であり、好ましくは約30?約300重量部である。」

(摘示事項6C)
「【0023】
本発明の口腔内崩壊錠は、
(1)ミチグリニドカルシウム水和物および結晶セルロースの混合物を、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーおよびエチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のマスキング剤を噴霧しながら造粒する工程、および
(2)該造粒物に、糖または糖アルコールと、トウモロコシデンプンおよび部分アルファー化デンプンから選択される少なくとも1種とを混合し、圧縮成形する工程を包含する。
このように本発明の口腔内崩壊錠の製造方法では、造粒物中に結晶セルロースおよび水不溶性高分子を含有することにより、ミチグリニドカルシウム水和物の苦味のマスキングと速やかな溶出性が得られ、さらに該造粒物と、糖または糖アルコール、ならびにトウモロコシデンプンおよび部分アルファー化デンプンから選択される少なくとも1種とを混合し、圧縮成型することにより、十分な錠剤硬度と口腔内における速やかな崩壊性が得られる特徴を有する。」

甲7
(摘示事項7A)p222
「2.1 EUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)EPO
2.1.1 性質
EUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)EPOはポリマー官能基位に3級アミノ基を有するカチオン性のポリマーを粉砕した粉末品である(Fig.1)。EUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)EPOはpH5以下の酸性条件下ではポリマー自身の3級アミノ基が4級アンモニウム化するため速やかに溶解し、pH5以上では水を吸収することで膨潤する性質を有する。また、コーティングされた苦味マスキング顆粒を打錠する際、その打錠圧によりコーティング膜が破壊され、製剤の苦味マスキング性能が低下することが懸念されるが、EUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)EPOは引っ張り強度が200%であるため、上記のような問題が起こる可能性が極めて低いことが言える。



(摘示事項7B)p222
「2.1.2 処方
推薦処方をTable1に、コーティング液の調製方法をFig.2に示す。・・・
処方中のステアリン酸(SA)・・・粉末状態でのEUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)EPOの50%粒子系は約20μmであるが、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)とSAを加える事によって50%粒子系が約0.06μmまで小さくなり、Fig.3に示すような安定なコロイド溶液が得られる。
・・・」

(摘示事項7C)p223
「2.1.3 実験と結果
苦味を有するモデル薬物としてアセトアミノフェンを用い、上述したEUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)EPOコロイド液を用いて実験を行った。・・・
核粒子:アセトアミノフェン・・・
Fig.4に顆粒に対してポリマー量として15%および30%のコーティングを施したアセトアミノフェン顆粒と、その被覆された顆粒を用いて製錠した錠剤の溶出試験結果を示す。コーティングされた顆粒とその顆粒を用いて製せられた錠剤の溶出結果が良好に一致しており、打錠前後でのコーティング皮膜が破壊されていないことが示された。・・・」

(摘示事項7D)p223




(摘示事項7E)p223
「2.2 EUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)RL30D+Na-CMC
2.2.1 性質
EUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)RL30Dはポリマー官能基位に4級アンモニウム基が配された、ポリマー濃度30%の水系ディスパージョンである(Fig.5)。EUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)EPOとは異なり、ポリマー内の窒素原子は既に4級化されているためpH非依存の不溶性ポリマーである。このEUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)RL30Dと高膨潤性の水溶性基剤であるカルメロースナトリウム(Na-CMC)を組み合わせて用いることにより、口腔内の水量程ではNa-CMCが十分に膨潤せず、EUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)RL30Dのフィルムは破壊されないが、多量の水の存在下ではNa-CMCが十分に膨潤し、EUDRAGIT 丸の中にR(登録商標)RL30Dのフィルムを瞬時に破壊する効果を持たせることができる(Fig.6)。従って、苦味の強い原薬に対してコーティング量を増やしても崩壊遅延、溶出遅延を起こさない製剤を得ることが可能である。



(摘示事項7F)p224右欄末行?225頁左欄末行
「コーティング率を変化させたときの組マスキング時間(官能試験による苦味抑制時間の評価結果)と溶出試験結果をそれぞれFig.9およびFig.10に示す。・・・Fig.10に示したそれぞれのコーティング率における顆粒の溶出試験結果では、コーティング率の大小によらず溶出遅延が起こらない良好な溶出曲線が得られた。これらの結果から、苦味強い主役に対しても口腔内速崩壊錠の設計が可能となることが示唆された。」

(摘示事項7G)p225




甲8
(摘示事項8A)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物含有粒子が、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、および水溶性高分子物質を含む被膜物質により被覆されてなる、経口投与用粒子状医薬組成物。
・・・
【請求項4】
水溶性高分子物質が、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、およびヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される1種または2種以上である、請求項1?3のいずれか一項に記載の経口投与用粒子状医薬組成物。」

(摘示事項8B)
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物を含有してなる経口投与用粒子状医薬組成物に関する。
詳細には、本発明は、薬物含有粒子を、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、および水溶性高分子物質を含む被膜物質により被覆されてなる、経口投与用粒子状医薬組成物、および該経口投与用粒子状医薬組成物を含有してなる口腔内崩壊錠に関するものである。
また、本発明は、薬物含有粒子に被覆し、圧縮成形後も溶出速度の変化を低減する経口投与用粒子状医薬組成物を製造するためのメタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体および水溶性高分子物質の使用に関するものである。
更に、本発明は、薬物含有粒子に被覆し、圧縮成形後も溶出速度の変化を低減する経口投与用粒子状医薬組成物の製造方法に関するものである。」

(摘示事項8C)
「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、初期薬物溶出量を抑制または低減し、その後の速やかな薬物放出を維持しつつ、圧縮成形後も薬物溶出速度の変化を低減可能な、経口投与用粒子状医薬組成物と、該医薬組成物を含有してなる口腔内崩壊錠を提供するものである。
また、本発明は、薬物含有粒子に被覆し、圧縮成形後も溶出速度の変化を低減する経口投与用粒子状医薬組成物を製造するためのメタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体および水溶性高分子物質の使用を提供するものである。
更に、本発明は、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、および水溶性高分子物質を含む被膜物質により被覆されてなる、経口投与用粒子状医薬組成物の製造方法を提供するものである。
・・・
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、(1)不快な味を有する薬物による不快感を軽減することにより、服用コンプライアンスを向上させることができる、(2)圧縮成形後に粒子状医薬組成物の核部から薬物の放出を口腔内に粒子が存在する一定時間低減することができる、(3)一定時間後に薬物が速やかに放出(薬物が消化管上部において放出)されることにより十分な薬効を発現することができる、(4)幅広い物性を有する薬物に適用することができる等の効果を有する医薬品製剤を提供することができる。」

(摘示事項8D)
「【0055】
以下に本発明の粒子状医薬組成物の製造法を説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
本発明の粒子状医薬組成物は、例えば、コーティング、乾燥、熱処理、打錠等、自体公知の方法により製造可能である。
本発明の粒子状医薬組成物を得るには、薬物を含有する核に対して本発明における被膜物質を被覆する。薬物を含有する核としては、薬物のみからなる粒子を用いることもできる。また公知の技術を用いて、薬物と1種または2種以上の添加物からなる粒子を製造し、それを用いてもよい。薬物と添加物からなる粒子の製造は、例えば薬物と適当な賦形剤(例えば結晶セルロース、乳糖、トウモロコシデンプン等)とを混合し、必要に応じて結合剤(例えばヒドロキシプロピルセルロース等)を加えて、造粒し、整粒、乾燥してもよい。また適当な核となる添加物粒子(例えば結晶セルロース(粒)(微結晶セルロースとして記載している場合がある)、精製白糖球状顆粒、白糖・デンプン球状顆粒等)に薬物と結合剤を溶解または分散した液を噴霧してもよい。」

(摘示事項8E)
「【0171】
実験例1
[粒子状医薬組成物の溶出試験]
実施例4?14、16?18または比較例1?3の粒子状医薬組成物(打錠前)及びそれらを含有する口腔内崩壊錠(打錠後)について自動6連溶出試験機を用いて、日本薬局方溶出試験法第2法に従い溶出試験を行った。対照試料として、薬物を10mgを含む粒子を量り取った。試験液は水900mLを用いた。比較例3は日本薬局方崩壊試験第2液(JP2)900mLを用いた。なおパドルの回転数は100回転/分であった。
【0172】
試験の結果得られた溶出プロファイルを図1?図18に示す。また、溶出プロファイルから算出したT_(2%)、T_(50%)、D_(T2%)、D_(T50%)、D_(T2%)溶出変化、D_(T50%)溶出変化を表28?表36に示す。T_(2%)は溶出率2%までの時間を表し、T_(50%)は溶出率50%を超えるまでの時間を表し、D_(T2%)は打錠前T_(2%)の時点での溶出率を表し、D_(T50%)は打錠前T_(50%)の時点での溶出率を表す。溶出変化については以下の式から算出した。
D_(T2%)溶出変化(%)=D_(T2%)-2(%)
D_(T50%)溶出変化(%)=D_(T5%)-50(%)」

(摘示事項8F)
「【0182】
実験例2
溶出挙動の同等性を評価する指標としてf2関数が知られている。・・・f2関数の値が50以上のとき試験製剤は標準製剤と同等と判定される(出典:医薬品製造販売指針2008(じほう)272-277)。実施例5、8、および比較例1で製した粒子状医薬組成物(打錠前)及びそれらを含有する口腔内崩壊錠(2kN打錠後)について自動6連溶出試験機を用いて、日本薬局方溶出試験法第2法に従い溶出試験を行いf2関数で評価した。粒子状医薬組成物は、いずれも第4層までは同一処方であり、第5層中の水溶性高分子物質の配合量が異なるものである。第5層中の水溶性高分子物質HPMC含有率とf2関数の関係、または第5層中の流動化剤であるタルク含有率とf2関数の関係をそれぞれ図19、図20に示す。第5層中のHPMC含有率依存的にf2関数の増加が認められたのに対し、第5層中のタルク含有率依存的なf2関数の変化は認めらなかった。これは圧縮成形後の放出速度の変化の低減が、水溶性高分子物質HPMCの添加により達成されることを示唆するものである。」

甲13
(摘示事項13A)p4?5 第3章 A I.標準試験と試験製剤
「原則として,先発医薬品の3ロットにつき,以下の1(原文では○の中に1)、2(原文では○の中に2)試験液で,第3章,A.V.に示した溶出試験を行い・・・,中間の溶出性を示すロットの製剤を標準製剤とする.・・・
1(原文では○の中に1)規格及び試験方法に溶出試験が設定されている場合には,その溶出試験液.
2(原文では○の中に2)第3章,A.V.に示した溶出試験条件の中で,少なくとも1ロットにおいて薬物が平均85%以上溶出する場合は溶出速度が最も遅い試験液,いずれのロットもすべての試験液において平均85%以上溶出しない場合は溶出速度が最も速い試験液.

上記の溶出試験により標準製剤を適切に選択できない医薬品においては,製剤の特性に応じた適当な溶出(放出)試験又はそれに代わる物理化学的試験を行い,中間の特性を示したロットの製剤を標準製剤とする.有効成分が溶解した状態で投与される製剤は,溶出試験を行わずに,適当なロットを標準製剤としてよい.
・・・」

(摘示事項13B)p9?10 第3章 A V.溶出試験
「適当な方法でバリデーションを行った溶出試験法及び分析法を用いて試験を行う.
・・・
3.試験条件
・・・
試験液:pH1.2,pH6.8には,それぞれ,第十六改正日本薬局方の溶出試験第1液,溶出試験第2液を・・・用いる.
・・・



甲14
(摘示事項14A)p4 1?3行
「本発明の溶出試験において用いられる試験液の第1液とは、日本薬局方崩壊試験法の試験液第1液を意味し、塩化ナトリウム2.0gに塩酸7.0mlおよび水を加えて1000mlにした試験液である。」

(摘示事項14B)p5 3?9行
「溶出試験は、生物学的同等性確保の点からできるだけ多くの試験条件で行う方が望ましいが、現実には多くの条件下での規格設定は困難であるため、生物学的非同等性を最も捉えやすい試験条件で試験される。溶出試験の試験液としては、生理学的変動範囲のpH試験液(pH1?7)または水が用いられるが、通常、溶出速度が遅い、すなわち溶出性が悪い試験液の方が製剤間の差を検出しやすい。また、水はpHが変動しやすいという欠点をもつ一方で、処方、製法の差に鋭敏に反応しやすい試験液であり、水で試験できる場合はできるだけ水を使用することが、試験効率、経済性、環境面などから推奨されている。」

(摘示事項14C)p5 10?16行
「KMD-3213は酸性の液には比較的溶解性が高いが、中性の水には難溶であることから、水における溶出試験が最も生物学的非同等性を捉えやすい条件といえる。従って、KMD-3213を有効成分として含有する経口固形製剤については、水における溶出特性が良好な製剤が求められる。本発明の医薬においては、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)で、水を試験液とし、回転数を50回/分とする溶出試験において少なくともT85%が60分以下であることが望ましく、T85%が30分以下であることがより望ましく、T85%が15分以下であることが最も望ましい。」

(摘示事項14D)p5 17?23行
「また、経口固形製剤の場合、酸に対して不安定であることなどにより腸溶性製剤が求められるなどの特別の場合を除き、胃内での溶出性が良好であることが望まれるが、KMD-3213は酸に対して安定であるので、KMD-3213を有効成分として含有する経口固形製剤については、胃液に相当する第1液における溶出試験においても良好であることが望ましい。具体的には、第1液における溶出試験においても、水における溶出試験と同様に、少なくともT85%が60分以下であることが望ましく、T85%が30分以下であることがより望ましく、T85%が15分以下であることが最も望ましい。」

甲16
(摘示事項16A)2.3.S 原薬(1)、(2)
「(1)名称
1)一般名:シロドシン(Silodosin)
・・・
(2)物理化学的性質
1)性状:白色の結晶性の粉末。無臭,味は苦い。」

甲17
(摘示事項17A)p2?3 II.名称に関する項目、III.有効成分に関する項目
「II.名称に関する項目
・・・
2.一般名
(1)和名(命名法):シロドシン(JAN)
(2)洋名(命名法):Silodosin(JAN)
Silodosin(INN)
・・・
III.有効成分に関する項目
1.物理化学的性質
(1)外観・性状
白色?微黄白色の粉末であり,においはなく,味は苦い。」

(摘示事項17B)p5?6 IV.製剤に関する項目
「・・・
2.製剤の組成
(1)有効成分(活性成分)の含量
2mg錠:1錠中にシロドシン2mgを含有
4mg錠:1錠中にシロドシン4mgを含有
・・・
7.溶出性
2mg錠,4mg錠とも15分間の溶出率は75%以上であった(日局溶出試験パドル法,試験液 水)。」

6-2.乙号証の記載事項
乙1、乙4?6、乙12及び乙16には、以下の記載がある。

乙1
(摘示事項乙1A)p12 左欄10行?右欄10行
「4.3.2 ヒト官能試験による評価
調製したOD錠について,官能試験(パネル数=3名)を行った.各パネルは調製されたOD錠を口に含んで崩壊させ,その時に感じられる苦味をTable2に示す苦味スコアに照らし合わせて評価するとともに口腔内で完全に崩壊するまでの時間を測定した.・・・

5.結果および考察
5.1 ヒト官能試験と味覚センサによる苦味評価
5.1.1 ヒト官能試験の結果
各薬物と乳酸Caの混合水溶液のヒト官能試験結果Table4に示しました.アセトアミノフェン水溶液の苦味スコアは1.5であった・・・また,ドネペジル塩酸塩とトラネキサム酸水溶液 の苦味スコアはそれぞれ4,3.3であった・・・」

乙4
(摘示事項乙4A)
「【背景技術】
【0002】
医薬品に含まれる薬物には、苦味、渋味、辛味のごとき服用時に不快感を伴う成分が多い。薬物がこのような不快な味を伴う場合、患者が該薬物を含む医薬品を服用することは非常に困難である。そこで、薬物自体の不快な味を製剤中において遮蔽させることが製剤上の大きな課題となっている。この課題を解決するために、即ち、服用時の薬物の不快な味をマスキングするために、従来から、甘味料や香料等を添加する方法が用いられているが、十分な苦味マスキングのためには甘味料の量を増加させる必要がある場合があった。また、水不溶性高分子基剤、たとえばエチルセルロース等を利用して薬物自体または薬物を含む顆粒等をコーティングする方法も行われているが、この方法では、不快な味を有する薬物の味を抑えようとすればするほど、コーティング量が増大し、その結果、消化管内に移行した際の薬物の放出量にも影響を与え、十分な薬物放出が得られないという問題がある。」

乙5
(摘示事項乙5A)
「【0004】
この課題を解決するために、即ち、服用時の薬物の不快な味をマスキングするために、従来から、甘味料や香料等を添加する方法が用いられているが、十分な苦味マスキングのためには甘味料の量を増加させる必要がある場合があった。また、水不溶性高分子基剤、たとえばエチルセルロース等を利用して薬物自体または薬物を含む顆粒等をコーティングする方法も行われている。しかし、この方法では、不快な味を有する薬物の味を抑えようとしてコーティング量を増大させると、水不溶性高分子が体内で溶解しないために服用時の薬物放出が極端に抑制され、十分な薬効を得られないという問題がある。」

乙6
(摘示事項乙6A)
「【0004】製剤工夫によって苦味を抑制する技術として現在一般によく用いられる方法は、pH非依存性の水不溶性高分子基剤、たとえばエチルセルロース等を利用して苦味薬物を含有する顆粒剤、散剤あるいは苦味薬物自体をコーティングする方法である。この方法では、口腔内における薬物の放出を、ヒトが苦味を感知し得る最低の薬物濃度、すなわち閾値以下に抑制することが意図されており、閾値が低い薬物(苦味の強い薬物)になるほど薬物の放出量を低く抑制する必要があるため、コーティング量が多く要求される。したがって、pH非依存性の水不溶性高分子基剤を用いた通常のコーティングによる方法では、口腔内で苦味薬物、特に閾値の低い苦味薬物の味を抑えようとすればするほど、即ち初期の薬物放出を抑制すればするほど、また抑制の時間を長くすればするほど、消化管内に移行した際の薬物の放出量にも影響を与え、十分な薬物放出が得られない。」

乙12
(摘示事項乙12A)
「【0004】
一般に苦み等の不快な味のマスキングのため薬物を唾液および水に不溶なマスキング層を被覆する時、マスキング効果と薬物の溶出性が両立せず、両者を適度にバランスさせなければならない。」

乙16
(摘示事項乙16A)
「【0005】しかしながら、閾値が低い薬物にフィルムコーティング法を適用し、製剤化を考えた場合、特に口腔内速崩壊錠などの水の服用を伴わない剤形への製剤化を考えた場合、口腔内で放出する薬物量を極力抑制しなければならないために、コーティング量を増大させ、その結果、消化管内における薬物の十分な放出を確保できず、通常製剤との比較において、バイオアベイラビリティの低下を招いてしまうことが問題点として挙げられる。」

第7 当合議体の判断
当合議体は、以下のとおり判断する。

まず、令和2年9月10日付け上申書において、請求人は上記第4 4-1のとおり上申した。そこで、該上申書中の請求人の主張及び新たに提出された甲26?甲30の記載内容を検討したところ、甲26?甲30は、順に、甲2、甲5、甲18、甲22及び甲23に対応する国際公開公報であり、また、両者の記載内容は同じであるから、以下においては、本件における甲2、甲5、甲18、甲22及び甲23に基づく請求人の主張、並びに、これらに対する被請求人の反論については、それぞれ、甲26、甲27、甲28、甲29、甲30と読み替えて検討する。

本件訂正発明2、5、7、8及び13は訂正により削除されたので、本件訂正発明2、5、7、8及び13に係る特許についての特許無効審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。

7-1.無効理由1について
(1)物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日 平成24年(受)1204号、同2658号)。

(2)本件訂正発明1は、「マスキング粒子」という物の発明であり、また、請求項1の「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子を、非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して得られる」との特定は、形式的にみれば、マスキング粒子をその製造方法によって特定したということもできる。
しかしながら、請求項1の上記特定は、所定のコーティング剤で造粒又は被覆した結果得られたマスキング粒子という物の状態を示すことにより、その物の構造又は特性を特定しているにすぎないと認められるのであって、本件訂正発明1は、請求項にその物の製造方法が記載されている場合に該当するものではないといえる。
したがって、請求項1及び請求項1を引用する請求項3、4、6、9?12、14の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものである。

(3)請求人は、請求項1の、「コーティング剤で造粒又は被覆して得られる」との記載は、「マスキング粒子」の製造方法を特定したものである。しかし、物の発明である請求項1記載のマスキング粒子を特定するに際し、その出願時において、当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するとすることはできないから、特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合しないものであると主張する。
しかし、本件訂正発明1が、請求項にその物の製造方法が記載されている場合に該当するものではないといえることは上記(2)で説示のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3、4、6、9?12及び14に係る特許は明確性要件に違反してなされたものとはいえないから、無効理由1によって無効とすべきものであるとはいえない。

7-2.無効理由2について
(1)本件訂正発明1について
ア 引用発明1
甲1の摘示事項1Aの請求項6(請求項1、3、5を引用する)及び摘示事項1Dの【0010】、【0011】の記載から、甲1には、

「賦形剤と混合した苦味を有する薬物を、胃溶性ポリマーまたは腸溶性ポリマーから選ばれる、水に不溶であるが消化液に可溶なフィルム形成性ポリマーで造粒もしくは被覆してなる、口腔内崩壊錠剤用の薬物含有顆粒であって、該薬物含有顆粒中の薬物に対する該フィルム形成性ポリマーの重量比が、1:1ないし6:1であり、かつ該薬物含有顆粒中に占める該フィルム形成性ポリマーの割合が10ないし50重量%である薬物含有顆粒。」の発明(以下、「引用発明1」という。)

が記載されていると認める。

イ 対比
本件明細書の【0001】、【0005】、【0006】、【0070】の記載に照らせば、シロドシンは本件明細書において苦味を有する薬物として認識されているといえる。そうすると、引用発明1の「賦形剤と混合した苦味を有する薬物」と本件訂正発明1の「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子」とは「苦味を有する薬物組成物」の点である限りにおいて一致する。
そして、引用発明1の「フィルム形成性ポリマー」は、苦味を有する薬物と賦形剤との混合物を造粒若しくは被覆して薬物含有顆粒を調製するためのものであるから(摘示事項1Dの【0010】)、本件訂正発明1の「コーティング剤」に相当する。ゆえに、引用発明1の薬物含有顆粒も本件訂正発明1のマスキング粒子も共に、コーティング剤で造粒又は被覆された薬物を含有する粒子である。

以上によれば、本件訂正発明1と引用発明1との一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
苦味を有する薬物組成物をコーティング剤で造粒又は被覆して得られる、口腔内崩壊製剤用の薬物含有粒子である点
<相違点>
1 苦味を有する薬物組成物が、本件訂正発明1では、シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子であるのに対し、引用発明1では、賦形剤と混合した苦味を有する薬物であり、苦味を有する薬物がシロドシンの微粉末を含有する薬物粒子であることが特定されていない点
2 コーティング剤が、本件訂正発明1では、非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するものであって、非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEであるのに対し、引用発明1では、胃溶性ポリマーまたは腸溶性ポリマーから選ばれる、水に不溶であるが消化液に可溶なフィルム形成性ポリマーである点
3 本件訂正発明1が、「非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%である」と特定しているのに対し、引用発明1では、薬物に対するフィルム形成性ポリマーの重量比が、1:1ないし6:1であり、かつ該薬物含有顆粒中に占めるフィルム形成性ポリマーの割合が10ないし50重量%である点
4 薬物含有粒子が、本件訂正発明1では、マスキング粒子であるのに対し、引用発明1では、マスキング粒子であることが特定されていない点
5 本件訂正発明1が、「マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤のpH6.8における15分後の溶出率が、85%以上である」と特定しているのに対し、引用発明1では、そのような特定がない点

事案に鑑み、まず相違点4を検討する。

ウ 相違点4について
引用発明1が解決しようとする課題は、「口腔内での薬物の放出を最小化する一方で、消化管内での薬物の放出を低下させない苦味を低減した口腔内崩壊錠剤を提供する」ことであり(摘示事項1Cの【0006】)、甲1には、当該口腔内崩壊錠剤の成分である「(a)賦形剤と混合した苦味を有する薬物を水に不溶であるが消化液に可溶なフィルム形成性ポリマーで造粒もしくは被覆してなる薬物含有顆粒」は、そのままの形で消化管へ通過するからその中に含まれる薬物は口腔内で放出されないことが記載されている(摘示事項1Dの【0007】、【0008】)。
上記顆粒(a)である引用発明1の薬物含有顆粒は、フィルム形成性ポリマーで造粒もしくは被覆したことにより、苦味を有する薬物が口腔内で放出されず苦味が低減されているものと解されるから、本件訂正発明1の「マスキング粒子」に相当する。
したがって、相違点4は実質的な相違点ではない。

エ 相違点1について
a 上記ウで説示のとおり、引用発明1の薬物含有顆粒は、フィルム形成性ポリマーで造粒もしくは被覆したことにより、苦味を有する薬物が口腔内で放出されず苦味が低減されているものと解され、また、甲1には、「苦味を呈する薬物の種類は問わない」(摘示事項1Dの【0009】)と記載されている。
また、シロドシンが苦味を有する薬物であることは、本件優先日当時周知であり(摘示事項26C、摘示事項3Aの請求項1、21、22、摘示事項3C、摘示事項16A、摘示事項17A)、シロドシンを口腔内崩壊錠として提供することも、本件優先日当時既に試みられていたところである(摘示事項3Aの請求項1、21、22、摘示事項3C)。
そして、被請求人が提示した乙1(摘示事項乙1A)をみても、苦味の程度は薬物毎に異なることが記載されているにすぎず、また、引用発明1の苦味を有する薬物として、シロドシンを用いることができないとすべき特段の事情は見いだせない。
そうすると、引用発明1の苦味を有する薬物として、シロドシンを用いることは当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

b 薬物や添加剤を必要に応じて粉砕し、粉状の粒子とすることは、錠剤等の固形製剤の製造における一般的な工程である。
そうすると、口腔内崩壊錠剤用の薬物含有顆粒に関する引用発明1において、シロドシンを賦形剤と混合した苦味を有する薬物として用いる際に、好適な粒径を検討し、「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子」とすることは当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

c さらに、本件訂正発明1における「シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子」は、本件明細書の【0011】?【0013】の記載によれば、他の成分の存在を除外するものではないから、引用発明1において、苦味を有する薬物が賦形剤と混合したものである点は実質的な相違点ではない。

以上によれば、引用発明1において、賦形剤と混合する苦味を有する薬物としてシロドシンを選択し、また該シロドシンとして微粉末を含有する粒子形態のものを用いるという、相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなくなし得たことといえる。

オ 相違点2、3、5について
a 甲1には、薬物の性質によって顆粒を胃溶性とすべきかそれとも腸溶性とすべきかを選択し、胃溶性ポリマーとして、アミノアルキルメタクリレートコポリマー(商品名オイドラギットEおよびRS)、およびポリビニルアセタールジエチルジアミノアセテートがあることが記載されている(摘示事項1Dの【0010】)。

b 他方、甲26(甲2)には、シロドシンと塩基性コポリマーとの混合物を含む経口投与用医薬品に関する発明が開示され(摘示事項26Aのクレーム1)、該経口医薬品は胃内において有効成分を再現性よく非常に速い速度で放出し、その放出特性も医薬品の保存中に顕著に変化することはないことが記載されている(摘示事項26C)。
また、塩基性コポリマー(具体的には、オイドラギットEの登録商標で市販されているオイドラギットE 100、オイドラギットE PO等)は、光および熱の作用下におけるシロドシンの分解を顕著に低減し、医薬品の安定性を改善できるものであり(摘示事項26D)、塩基性コポリマーとシロドシンの重量比は、1:1?500:1が好ましいこと(摘示事項26E)が記載されている。
さらに、甲26(甲2)には、上記医薬品が錠剤である場合、USPパドル法装置IIにしたがい0.1N HCl(pH1.2)中、攪拌速度50rpm、37℃の条件で測定した場合、60分後に有効成分の通常少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも80%が放出されていることが記載されている(摘示事項26G)。なお、この試験条件における「放出」は「溶出」と同義である。

甲26(甲2)の上記記載に接した当業者であれば、引用発明1の苦味を有する薬物として、シロドシンを用いた場合には、胃内において有効成分を再現性よく非常に速い速度で放出し、その放出特性が医薬品の保存中に顕著に変化することはないように、甲1に例示されている塩基性コポリマーであるオイドラギットE、すなわち、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを採用する一応の動機付けがあるといえる。

c しかし、上記bで説示のとおり、甲26(甲2)には、塩基性コポリマー(オイドラギッドE等)を用いれば、通常pHが1.2程度である胃内において有効成分を再現性よく非常に速い速度で放出することは記載されているものの、口腔内や腸内のpHと近いpH6.8における放出速度をある一定値以上とすることは、何ら記載されていない。
一般に、塩基性物質は、酸性条件下では溶解しやすく、中性ないし塩基性条件下では溶解しにくいことから、甲26(甲2)記載の塩基性コポリマー(オイドラギッドE等)を含む経口投与用医薬品が、pH1.2程度の酸性条件だけでなく、中性近傍のpH6.8における放出速度も速いことを当業者は理解できないし、甲3、甲4、甲27(甲5)、甲6?甲8の記載をみてもどのような条件とすればそれが可能であるのかも当業者において自明ではない。
加えて、口腔内崩壊錠において、ポリマーでコーティングして薬物の苦味を低減しようとポリマーの量を増やすと、消化管内での溶出性が低下することなどから、本件優先日当時、口腔内崩壊錠において、口腔内での薬物の苦味の低減と消化管内での優れた溶出性との両者を同時に行うことには困難を伴うとされていた(摘示事項乙4A、乙5A、乙6A、乙12A、乙16A)。

そうすると、引用発明1に係る薬物含有顆粒において、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを採用したとしても、かかる顆粒を含有する口腔内崩壊錠について、苦味を低減させると同時に、中性近傍のpH6.8における放出速度を早くすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

d 以上によれば、引用発明1の「口腔内での薬物の放出を最小化する一方で、消化管内での薬物の放出を低下させない苦味を低減した口腔内崩壊錠剤を提供する」という課題を解決できる、胃溶性ポリマーであるアミノアルキルメタクリレートコポリマーEの含量を 、「シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり」、かつ「マスキング粒子中」の非腸溶性高分子含量が、「15?30質量%である」ものに調節し、それと同時に、該「マスキング粒子を含有する経口投与製剤のpH6.8における15分後の溶出率が、85%以上である」との、相違点2、3、5に係る本件訂正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、相違点2におけるその余の相違点、すなわち、コーティング剤がラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するものである点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者が容易に想到し得たものではない。

カ 効果について
本件訂正発明1は、(i)シロドシン特有の苦味を抑制し(本件明細書の【0033】、【0038】)、(ii)消化管内のpHに依存せずに速やかな溶出性を示し(本件明細書の【0034】)、(iii)市販のシロドシンの錠剤と同様の速やかな溶出性及び生物学的同等性を有する(本件明細書の【0038】)、という効果を奏するものであり、本件明細書中、本件訂正発明1に係るマスキング粒子を用いて製造した口腔内崩壊製剤について、苦味官能試験(本件明細書の【0040】【0041】、表5)、第1液(pH1.2)と第2液(pH6.8)を用いた溶出試験(本件明細書の【0044】?【0046】、表5)及び生物学的同等性試験(本件明細書の【0051】?【0053】、表4)を行い、それら上記(i)?(iii)の効果を奏することが実際に確認されている。
そして、甲1及び甲26(甲2)の記載から、口腔内崩壊錠剤に用いられるシロドシンについて、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを用いた場合に、苦味抑制と、第1液(pH1.2)及び第2液(pH6.8)の両方での高い溶解性とを、両方同時に満足することを当業者が予測することができず、また、甲3、甲4、甲27(甲5)、甲6?甲8の記載をみても、同様である。
したがって、本件訂正発明1は、引用発明1及び甲1、甲26(甲2)、甲3、甲4、甲27(甲5)、甲6?甲8に記載された技術的事項から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものであると認める。

キ 請求人の主張について
請求人は、相違点3、5及び本件訂正発明1の課題及び効果について、以下のとおり主張している。

a 本件訂正発明1と引用発明1とは、(A)マスキング粒子中の薬物に対する非腸溶性高分子含量について、薬物100質量部に対して非腸溶性高分子100質量部?400質量部を含有している点で共通し、また、(B)マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量を15?30質量部とする点において一致しており(口頭陳述p10?11 イ(ア)(イ)、弁駁書p5 2(1))、相違点3は相違点ではない。

b 甲27(甲5)、甲8の記載によれば(摘示事項27B、27C、8Cの【0012】)、苦味を有する薬物をマスキングするために非腸溶性高分子を含有するコーティング剤を用いた場合に、口腔内では苦味を感じないように初期薬物溶出量を抑制または低減し、その後の速やかな薬物放出を維持することは、すでに本件優先日前に要請されていたことであり(請求書p60 10?20行及び口頭陳述p12 下から10行?下から5行)、引用発明に苦味を有する薬物に関する甲4、甲27(甲5)、甲7、甲8記載の技術事項を適用することによって、pH6.8における15分後の溶出率を85%以上とすることは当業者において容易想到な事項である(審判請求書p60 下から4行?p64 下から4行)。

c シロドシンを主薬とする口腔内崩壊製剤の開発にあたり、投与対象とする患者群を念頭に、胃内pH変動を考慮して第1液(pH約1.2)と第2液(pH約6.8)における溶出の両立を図ろうとすること(弁駁書 p17 下から9行?p18 2行)、及び本件訂正発明1が開発対象とした試験製剤(シロドシンの口腔内崩壊錠)には、先行して標準製剤(シロドシンの錠剤)が上市されていたから、標準製剤との溶出挙動の類似性を検証するために、当業者において、「後発医薬品の生物学的同等性試験のガイドライン」(甲13)記載の試験条件を参考に、シロドシンの口腔内崩壊錠について第2液(pH6.8)における溶出を得ようと試みることは、当業者において通常のことであり(弁駁書 p18 3?9行、令和1年10月11日付け上申書(2)p2 第3 1、2)、被請求人が主張する、本件訂正発明1のマスキング粒子の課題、すなわち、胃内のpH変動を考慮した種々の液性(日本薬局方溶出試験の第1液(pH約1.2)と第2液(pH約6.8))における速やかな溶出性の両立という課題は、本件優先日当時当業者にとってはそれ自体周知の課題にすぎず、本件訂正発明1が新たな課題を見いだしてこれを解決したものではない(弁駁書 p17 12?16行及びp18 3?12行)。

d 本件明細書には、シロドシンの錠剤及び顆粒剤に関する溶出試験結果は開示されているものの、マスキング粒子に関する溶出試験結果は実施例の開示もなく、したがって、本件訂正発明1のマスキング粒子については、溶出性の有無について、効果の存否が検証できない。また、本件訂正発明1が非腸溶性高分子として採用するアミノアルキルメタクリレートコポリマーEは汎用の胃溶性ポリマーであって、第2液(pH6.8)の液性下においても薬物の溶出が現に確認されている(甲4、甲7、甲8)。
したがって、本件訂正発明1が、非腸溶性高分子としてアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを選択し、第1液(pH1.2)のみならず第2液(pH6.8)の液性下において薬物の溶出が確認されたとしても、かかる効果は何ら当業者にとって想定内のことである(弁駁書 p18 下から8行?最終行)。

請求人の上記主張について検討するに、
aについて
甲1には、非腸溶性高分子について胃溶性、腸溶性ポリマーが、また、それぞれのポリマーについて複数のポリマーが記載されているから、甲1記載の高分子含量は、非腸溶性高分子全般について記載したものであるといえる。上記甲1記載の高分子含量は、胃溶性ポリマーもしくは腸溶性ポリマーの含量割合にすぎず、たとえば、胃溶性ポリマーの中からアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを採用した場合、上記含量は、あくまで通常pHが1.2程度である胃内での薬物の放出を低下させないための胃溶性ポリマーの含量であるといえるとしても、口腔内や腸内のpHと近いpH6.8における薬物の放出性に影響する含量についての技術的知見を与えるものであることを当業者といえども理解することはできない。
そうすると、本件訂正発明1と引用発明1とが、その高分子含量において共通しているとしても、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを甲1記載の上記高分子含量用いることによって、苦味を低減させると同時に、中性近傍のpH6.8における15分後の溶出率が85%以上であるとし得ることを当業者が容易に想到し得るとはいえない。

bについて
甲4には、実施例2において、ベシル酸アムロジピン、結晶セルロース、マンニトール及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを圧縮成型後、80℃で10時間保温して、口腔内速崩性錠剤を得たことが記載され(摘示事項4Cの【0079】)、当該崩壊錠のpH6.8でのベシル酸アムロジピンの溶解性が15分で約80%であることが示されている(摘示事項4Eの図3)。
しかし、甲4には、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを、有効成分の薬物粒子のコーティング剤として用いることは記載されておらず、有効成分の苦味抑制についても何ら記載されていない。
甲27(甲5)には、アトルバスタチン又はその製薬学的に許容される塩およびラウリル硫酸ナトリウムを含有する粒子が、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートおよび水溶性高分子物質を含む被膜物質により被覆されてなる、経口投与用粒子状医薬組成物が記載されているが(摘示事項27A)、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを有効成分の薬物粒子のコーティング剤として用いることについては何ら記載されてない。
甲7には、オイドラギットRL300+Na-CMCをコーティング剤とするアセトアミノフェン顆粒について、pH6.8における15分後の溶出率が90%を超えることが記載されているが(摘示事項7E、7F)、オイドラギットRL300はアミノアルキルメタクリレートコポリマーEとは異なるものである。一方、甲7のFig.4に示されるように、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEにより、顆粒に対してポリマー量として15%又は30%のコーティングを施したアセトアミノフェン顆粒(particles)及び該顆粒を用いて製造した錠剤(tablet)のpH6.8における15分後の溶出率は、いずれも85%には満たないものである(摘示事項7A?7D)。
甲8には、薬物含有粒子が、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(すなわち、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE)、および水溶性高分子物質を含む被膜物質により被覆されてなる、経口投与用粒子状医薬組成物が記載され(摘示事項8A)、圧縮成形後に粒子状医薬組成物の核部から薬物の放出を口腔内に粒子が存在する一定時間低減することができ、一定時間後に消化管上部において薬物が速やかに放出されることが記載されている(摘示事項8Cの【0015】)。
そして、甲8に「これは圧縮成形後の放出速度の変化の低減が、水溶性高分子物質HPMCの添加により達成されることを示唆するものである」(摘示事項8F)と記載されているように、甲8には、該水溶性高分子物質の添加が、圧縮成形後の放出速度の変化の低減の達成に大きく影響することを示唆する記載はあるが、該メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(アミノアルキルメタクリレートコポリマーE)の添加が、圧縮成形後の放出速度の変化の低減にどの程度影響するのかは不明であるので、甲8の記載を参酌しても、引用発明1において「マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤のpH6.8における15分後の溶出率が、85%以上」(相違点5)になるように調製する手段として、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを用いる動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲4、甲27(甲5)、甲7、甲8の記載をみても、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを有効成分の薬物粒子のコーティング剤として用いて、「非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80?400質量部」で薬物粒子を造粒又は被覆した場合に、当該薬物粒子を用いた口腔内崩壊錠が、有効成分の苦味抑制と同時に、pH6.8での溶解性を85%以上とすることができるのかを、当業者は理解することはできない。

以上のとおり、苦味を有する薬物をマスキングするために非腸溶性高分子を含有するコーティング剤を用いた場合に、口腔内では苦味を感じないように初期薬物溶出量を抑制または低減し、その後の速やかな薬物放出を維持することは、すでに本件優先日前に要請されていたことが事実であるとしても、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEをコーティング剤に用いた場合にいかにして該要請を解決できるかについて上記各甲号証のいずれにも記載若しくは示唆がない以上、容易想到であるとはいえない。

cについて
請求人が主張するように、第1液(pH約1.2)と第2液(pH約6.8)における溶出の両立を図ろうとすることが当業者にとって通常のことであるとしても、苦味を抑制しつつ、第1液と第2液における溶出の両立を実現するための技術的手段について、各甲号証のいずれにも記載も示唆もない。
また、甲13には、コーティング製剤の溶出試験のpHとして、1.2、6.8が記載されている(摘示事項13B)。しかし、標準製剤であるユリーフ錠剤(甲17)の溶出性は、試験液 水で測定されると記載されており(摘示事項17B)、生物学的同等性を試験するのであれば、標準製剤と同じ試験液を選択する可能性を排除できず、必ずしも、pH1.2、pH6.8で測定するものと直ちに特定できるものではない。

dについて
請求人は、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEをコーティング剤として用いて、第2液(pH6.8)の液性下においても、薬物溶出が確認されているとして、甲4、甲7、甲8を引用する。
しかし、上記各甲号証には、上記bについての項で説示した事項が記載されているにすぎず、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEをコーティング剤として用いることで、pH6.8において15分後に「85%以上」という溶出性を達成できたことは記載されていない。

したがって、請求人の上記いずれの主張も上記オ、カの判断を左右しない。

ク 小括
よって、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、甲26(甲2)、甲3、甲4、甲27(甲5)、甲6?8に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件訂正発明3、4、6、9?12及び14は、いずれも本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含むものであるといえる。

そして、上記(1)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、甲26(甲2)、甲3、甲4、甲27(甲5)、甲6?8に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められないから、本件訂正発明3、4、6、9?12及び14も、同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件訂正発明15について
ア 引用発明2
甲1の摘示事項1Aの請求項6(請求項1、3、5を引用する)及び摘示事項1Dの【0010】、【0011】の記載から、甲1には、

「苦味を有する薬物と賦形剤を混合し、粉末状で流動させ、それへ、胃溶性ポリマーまたは腸溶性ポリマーから選ばれる、消化液に可溶なフィルム形成性ポリマーの溶液を噴霧してコーティングし、造粒し、乾燥して、口腔内崩壊錠剤用の薬物含有顆粒を製造する方法であって、該薬物含有顆粒中の薬物に対する該フィルム形成性ポリマーの重量比が、1:1ないし6:1であり、かつ該薬物含有顆粒中に占める該フィルム形成性ポリマーの割合が10ないし50重量%である薬物含有顆粒を製造する方法。」の発明(以下、「引用発明2」という。)

が記載されていると認める。

イ 対比
引用発明2の方法によって製造される薬物含有顆粒は、引用発明1の薬物含有顆粒であるから、上記(1)イで説示したのと同じ理由により、苦味を有する薬物と賦形剤を混合し粉末状で流動させる方法は、本件訂正発明15のシロドシンを造粒して薬物粒子を調製する工程に、また、引用発明2のフィルム形成性ポリマーは、本件訂正発明15のコーティング剤に相当する。ゆえに、引用発明2の薬物含有顆粒も本件訂正発明15のマスキング粒子も共に、コーティング剤で造粒又は被覆された薬物を含有する粒子である。
また、引用発明2は、苦味を有する薬物と賦形剤を混合したものである。本件明細書の【0012】には、薬物粒子に用いられる添加剤として、賦形剤等を用いることができること、該賦形剤として部分アルファー化デンプンが記載されているから、両者は、苦味を有する薬物と添加剤を混合して薬物組成物を調製する工程を包含する限りにおいて一致する。

以上によれば、本件訂正発明15と引用発明2との一致点、相違点は、以下のとおりと認める。

<一致点>
(a)苦味を有する薬物と添加剤を混合して薬物組成物を調製する工程、及び
(b)工程(a)で得られた薬物組成物にコーティング剤で造粒又は被覆して、薬物含有粒子を調製する工程を包含することを特徴とする、口腔内崩壊製剤用の薬物含有粒子を製造する方法である点
<相違点>
6 薬物組成物を調製する工程が、本件訂正発明15では、シロドシンの微粉末と部分アルファー化デンプン及びタルクを混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒して薬物粒子を調製するものであるのに対し、引用発明2では、苦味を有する薬物と賦形剤を混合するものであり、苦味を有する薬物としてシロドシンの微粉末を用いること及び該微粉末と部分アルファー化デンプン及びタルクを混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒して薬物粒子を調製することが特定されていない点
7 コーティング剤が、本件訂正発明15では、非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するものであって、非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEであるのに対し、引用発明2では、胃溶性ポリマーまたは腸溶性ポリマーから選ばれる、水に不溶であるが消化液に可溶なフィルム形成性ポリマーである点
8 本件訂正発明15が、「非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%である」と特定しているのに対し、引用発明2では、薬物に対するフィルム形成性ポリマーの重量比が、1:1ないし6:1であり、かつ該薬物含有顆粒中に占めるフィルム形成性ポリマーの割合が10ないし50重量%である点
9 薬物含有粒子が、本件訂正発明15では、マスキング粒子であるのに対し、引用発明2では、薬物の苦味が抑制された マスキング粒子であることが特定されていない点

相違点7、8、9は、マスキング粒子という物の発明であるか、それともマスキング粒子という物を製造する方法の発明であるか、という発明のカテゴリーの相違に基づく表記上の違いはあるものの、順に、上記相違点2、3、4と実質的に同じである。

そこで、事案に鑑み、まず相違点9を検討する。

ウ 相違点9について
相違点4が実質的な相違点ではないことは、上記(1)ウで説示したとおりであるから、相違点4と実質的に同じである相違点9も、同様に判断される。
よって、相違点9は実質的な相違点ではない。

エ 相違点6について
a 引用発明2の方法によって製造される薬物含有顆粒は、引用発明1の薬物含有顆粒であるから、上記(1)エ aにおいて説示したのと同様の理由で苦味を有する薬物が口腔内で放出されず苦味が低減されているものと解される。
また、甲1に、「苦味を呈する薬物の種類は問わない」と記載されていること、シロドシンが本件優先日当時周知の苦味を有する薬物であること、シロドシンを口腔内崩壊錠として提供することも本件優先日当時既に試みられていることも上記(1)エ aで説示のとおりである。
そうすると、引用発明2の苦味を有する薬物として、「シロドシン」を用いることは当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

b 甲1には、引用発明2の「賦形剤と混合した苦味を有する薬物」における賦形剤について、錠剤や顆粒に用いられる通常のものであり、その例は、デンプン、マンニトール、乳糖などであることが記載されているが(摘示事項1Dの【0009】)、本件訂正発明15で特定する部分アルファー化デンプンやタルク、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることについては記載も示唆もない。また、甲26(甲2)には、シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と塩基性ポリマーとの混合物を薬学的に許容される添加剤とともに混合し、次いで造粒することは記載されているが(摘示事項26Aのクレーム10)、シロドシンを含む薬物粒子を製造する際に用いる賦形剤について何ら記載されていない。
したがって、甲1、甲26(甲2)のいずれにも、薬物と部分アルファー化デンプン及びタルクを混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒して薬物粒子を調製することについて、何らの記載もない。

c また、甲3には、排尿障害及び/又はそれに関連する疾患の治療用薬物と、必要により添加してもよい添加剤として水溶性添加物及び/又は水不溶性添加剤を混合し、得られた造粒物又は混合物を圧縮成形することにより得られる口腔内崩壊製剤が記載され(摘示事項3B)、該添加物として賦形剤と結合剤の組み合わせが通常好ましく選択されることや、賦形剤としては水溶性添加物の糖または糖アルコールが好ましく、具体的にD-マンニトール等が、また、結合剤としては水溶性添加物を用いることが好ましく、具体的にヒドロキシプロピルセルロース・・・ポリビニルピロリドン・・・部分α化澱粉等が挙げられている(摘示事項3D)。
甲6には、ミチグリニドカルシウム水和物および結晶セルロースの混合物を、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE等からなる群から選択される少なくとも1種のマスキング剤を噴霧しながら造粒する工程、および該造粒物に、糖または糖アルコールと、トウモロコシデンプンおよび部分アルファー化デンプンから選択される少なくとも1種とを混合し、圧縮成形する工程を包含する、苦味のマスキングされた口腔内崩壊錠の製造方法が記載されている(摘示事項6A、摘示事項6C)。甲6記載の口腔内崩壊錠の製造において、部分アルファー化デンプンは、上記のとおり、薬物粒子を構成する成分としてではなく、マスキングされた薬物粒子と混合する成分として記載されている。
甲8には、薬物含有粒子が、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、および水溶性高分子物質を含む被膜物質により被覆されてなる経口投与用粒子状医薬組成物が記載され(摘示事項8A)、該経口投与用粒子状医薬組成物を、薬物を含有する核に対して被膜物質を被覆して得ること、該薬物を含有する核として、薬物と適当な賦形剤(例えば結晶セルロース、乳糖、トウモロコシデンプン等)とを混合し、必要に応じて結合剤(例えばヒドロキシプロピルセルロース等)を加えて、造粒し、整粒、乾燥して薬物と1種または2種以上の添加物からなる粒子を製造できること(摘示事項8D)が記載されている。
しかし、甲3、甲6、甲8のいずれにも、薬物粒子の調製において部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース及びタルクを組み合わせて用いること、とりわけヒドロキシプロピルセルロースで造粒することは記載されておらず、ましてや、薬物と部分アルファー化デンプン及びタルクを混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒して薬物粒子を調製することについては何らの記載もない。また、上記3成分を組み合わせてなる薬物粒子を用いて、苦味を有する薬剤を含有する口腔内崩壊製剤を製造することが本件優先日当時の技術常識であったとも認められない。

d 以上によれば、引用発明2の「口腔内崩壊錠剤用の薬物含有顆粒を製造する方法」において、苦味を有する薬物と賦形剤を混合し、粉末状で流動させるにあたり、苦味を有する薬物であるシロドシンと部分アルファー化デンプン及びタルクを混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒して薬物粒子を調製する」との、相違点6に係る本件訂正発明15の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

したがって、相違点7、8について検討するまでもなく、引用発明2を本件訂正発明15の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

オ 効果について
本件訂正発明15に係る方法によって製造されるマスキング粒子は、上記(1)カに説示のとおり、顕著な効果を奏するから、本件訂正発明15に係る方法も、同様に、顕著な効果を奏する。

カ 請求人の主張について
請求人は、相違点6について、部分アルファー化デンプン、タルク及びヒドロキシプロピルセルロースは周知慣用の医薬品添加物であり、それら成分を組み合わせて、上記相違点6に係る本件訂正発明15の発明特定事項を、当業者が格別の創意を要することなく想到し得たといえると主張する(弁駁書p8 13行?p14 11行)。
一般に、医薬品添加物は、「医薬品添加物事典」等に掲載されている周知の成分が用いられるものであるが、それをどのような工程でどのように組み合わせて製剤を製造するかで、得られる製剤の物性は大きく変化するものである。
したがって、単に、上記の成分が周知慣用の医薬品添加物であるというだけでは、本件訂正発明15に係る方法を当業者において容易想到し得たとするには、具体的根拠に欠ける。
よって、請求人の上記主張は採用し得ない。

キ 小括
したがって、相違点7、8について検討するまでもなく、本件訂正発明15は、甲1に記載された発明、甲26(甲2)、甲3、甲4、甲27(甲5)、甲6?甲8に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正は適法であり、本件の請求項1、3、4、6、9?12、14及び15に係る特許は、請求人が主張するいずれの理由及び証拠方法によっても無効とすることはできない。
本件特許の請求項2、5、7、8及び13は、訂正により削除されたため、それらの請求項に係る発明についての審判請求は、不適法な請求であってその補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により、これを却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子を、非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して得られるマスキング粒子であって、非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEであり、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%であり、該マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤のpH6.8における15分後の溶出率が、85%以上である、口腔内崩壊製剤用のマスキング粒子。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子が、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒された造粒物であり、該マスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤のヒト苦味官能試験における苦味を感じ始める時間が、40秒以上である、請求項1に記載のマスキング粒子。
【請求項4】
シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子が、シロドシンと添加剤との混合物をヒドロキシプロピルセルロースで造粒して得られる造粒物であり、該添加剤が、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン及びアルファー化デンプンから選択される少なくとも1つを含有する添加剤である、請求項3に記載のマスキング粒子。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
添加剤が、部分アルファー化デンプンである、請求項4に記載のマスキング粒子。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して100質量部?200質量部である、請求項1、3、4及び6のいずれかに記載のマスキング粒子。
【請求項10】
該マスキング粒子中のシロドシン含量が、5?25質量%である、請求項1、3、4、6及び9のいずれかに記載のマスキング粒子。
【請求項11】
非腸溶性高分子含量が、薬物粒子100質量部に対して20質量部?40質量部である、請求項1、3、4、6、9及び10のいずれかに記載のマスキング粒子。
【請求項12】
請求項1、3、4、6及び9?11のいずれかに記載のマスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
剤形が錠剤である、請求項12記載のマスキング粒子を含有する口腔内崩壊製剤。
【請求項15】
(a)シロドシンの微粉末、部分アルファー化デンプン及びタルクを混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースで造粒して薬物粒子を調製する工程、及び
(b)工程(a)で得られた薬物粒子に非腸溶性高分子、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15?30質量%であり、非腸溶性高分子が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEである、マスキング粒子を調製する工程を包含することを特徴とする、口腔内崩壊製剤用のマスキング粒子を製造する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-09-30 
結審通知日 2020-10-05 
審決日 2020-10-22 
出願番号 特願2015-508511(P2015-508511)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (A61K)
P 1 113・ 121- YAA (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 常見 優参鍋 祐子  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 穴吹 智子
前田 佳与子
登録日 2018-08-31 
登録番号 特許第6392207号(P6392207)
発明の名称 シロドシンの苦味をマスキングした経口投与製剤  
代理人 清水 紘武  
代理人 鈴木 皓  
代理人 柳 伸子  
代理人 鈴木 皓  
代理人 森山 航洋  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 柳 伸子  

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