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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1371161
審判番号 不服2020-8284  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-15 
確定日 2021-03-02 
事件の表示 特願2018- 15522「電装品ユニット及び空気調和装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月 8日出願公開、特開2019-134607、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,平成30年1月31日の出願であって,平成31年3月26日付けで拒絶理由通知がされ,令和1年5月31日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ,令和1年7月22日付けで拒絶理由通知がされ,令和1年9月27日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ,令和1年12月4日付けで最後の拒絶理由通知がされ,令和2年2月4日に意見書が提出されたものの,令和2年3月25日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,令和2年6月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年3月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.理由1(特許法第29条第2項)
本願請求項1?7に係る発明は,以下の引用文献1?6に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2012-233622号公報
2.国際公開第2017/187606号
3.特開2017-046402号公報
4.特開2012-225537号公報
5.特開2011-130524号公報
6.特開2000-111100号公報

第3 本願発明
本願請求項1?7に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は,令和1年9月27日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1及び本願発明3は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
空気の流入口(15a)と流出口(15b)を有した箱状の第1筐体(15)と、
前記第1筐体(15)に収容された電力変換装置(20)と、
前記第1筐体(15)に収容され、電源配線(12)の高調波電流を抑制する高調波抑制装置(40)と、
前記第1筐体(15)内に設けられて、前記第1筐体(15)内の空気を撹拌する第1ファン(46)と、
を備え、
前記電力変換装置(20)は、前記高調波抑制装置(40)よりも多くの熱を発生するものであり、
前記電力変換装置(20)は、前記高調波抑制装置(40)と前記流出口(15b)との間の距離よりも、前記流出口(15b)に近い位置に配置されていることを特徴とする電装品ユニット。
【請求項3】
空気の流入口(15a)と流出口(15b)を有した箱状の第1筐体(15)と、
前記第1筐体(15)に収容された電力変換装置(20)と、
前記第1筐体(15)に収容され、電源配線(12)の高調波電流を抑制する高調波抑制装置(40)と、
前記第1筐体(15)内に設けられて、前記第1筐体(15)内の空気を撹拌する第1ファン(46)と、
を備え、
前記第1筐体(15)内には、前記流入口(15a)に繋がり、前記流出口(15b)側に延びるダクト(15c)が設けられ、
前記電力変換装置(20)と前記流出口(15b)との距離は、前記電力変換装置(20)と前記ダクト(15c)の出口(15g)との距離よりも小さいことを特徴とする電装品ユニット。」

なお,本願発明2,本願発明4?7の概要は以下のとおりである。

本願発明2は,本願発明1を減縮した発明である。
本願発明4は,本願発明3を減縮した発明である。
本願発明5?7は,本願発明1又は本願発明3を減縮した発明である。

第4 引用文献,引用発明等

1.引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献1(特開2012-233622号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A「【0014】
本発明の請求項1に係る室外機によれば、外気温に比べて大幅に低温状態にあるアキュムレータの設置部位近傍の、室外機のハウジング背面に、外気を取り込んで空冷させるための外気吸引孔が開口されており、外気吸引孔から取り込んだ直後の外気は、ハウジング内部に流入すると、まず初めにアキュムレータで冷却されてから、ハウジング内部を、機械室、電装室の順で、通過する。即ち、室外機に入り込んだ外気は、通過しても特段に昇温される虞の少ない機械室を通過後に発熱量の多い電気部品が搭載された電装室に流入するので、電装室まである程度冷却された外気がそのまま電装室へ輸送できる。従って、発熱量の多い電気部品が搭載された電装室に対して、専用の放熱手段を設けなくても、安価で効果的な排熱作用が得られ、ハウジングの大型化をもたらすことのない室外機が提供できる、といった利点が得られる。」

B「【0020】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る室外機30を備えた冷凍装置に用いる冷媒循環回路を構成する冷媒回路1を示すものであり、この冷媒回路1には、スラッジ等の異物を除去するためのストレーナ2と、液冷媒(液状の冷媒、以下同じ。)を貯留しガス化させるアキュムレータ3と、低温・低圧のガス冷媒(ガス状の冷媒、以下同じ。)を吸入し圧縮するスクロール型の圧縮機(以下、「圧縮機」とよぶ)4と、この圧縮機4から吐出された高温・高圧の冷媒に含まれる潤滑油であるオイルを分離・貯留し圧縮機4に戻すオイルセパレータ5と、凝縮器として作用する熱交換器(以下、「コンデンサ」とよぶ)6と、このコンデンサ6から流出した液冷媒を貯留するレシーバタンク7と、液冷媒に含まれる水分を除去するフィルタードライヤ8と、膨張弁等の減圧装置9と、蒸発器などとして作用する熱交換器(以下、「エバポレータ」とよぶ)10と、が環状に順次配管接続されており、冷凍サイクルを構成している。なお、図中、符号Fはコンデンサ6に送風する冷却ファンを示す。」

C「【0023】
室外機30のハウジング31は、図2?図5に示すように略箱状に形成されており、図3に示すように、表面31Aには正面板32とねじ止めされたパネル34とを有する。」

D「【0027】
一方、ハウジング31の内部には、図5に示すように、内部ほぼ中央部に室内を左右2分割する仕切板41が上から下まで縦(高さ)方向全体に亘って形成されているとともに、左右両半室のうちの一方側(図5では左側室内)の半室内を上下に2分するように、仕切板41には縦(高さ)方向のほぼ中央部に棚板42Aを設けたシャーシ42が固設されている。この棚板42A及びこれを設けたシャーシ42については、絶縁性の適宜材料で形成されている。このような構成によって、ハウジング31の内部は、ファン室Aと、機械室Bと、電装室Cと、が形成されている。
【0028】
図5(A)に示すように、ファン室Aには、レシーバタンク7が設置されているとともに、コンデンサ6及びこれを冷やすファンFが設置されている。一方、機械室Bには、アキュムレータ3、圧縮機4、図示外の、ストレーナ、フィルタードライヤ、及び、減圧装置などが設置されている。電装室Cには、フィルタ回路12、基盤13、インバータ11などの各種電装部品がシャーシ42に搭載されているが、特に発熱量が多いインバータ11については、外気吸引孔35Bから取り込んだ外気の流れの最も下流側である最奥部に配置されている。また、このシャーシ42には、図示外の正面板32寄りに積層するようにして、図示外の制御回路をさらに搭載させるようにするため、仕切板41に蝶番で図示外の積層板が取り付けられている。」

E「【0032】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、外気温に比べて大幅に低温状態にあるアキュムレータ3に着目し、図4に示す室外機30のハウジング31の背面板35において、特にアキュムレータ3の設置場所に対面する領域に、別言すれば、図5に示す機械室B内の、ファン室Fから最も離間した部分に相当する、背面板35の角隅部分に、外気を取り込んで空冷させるための外気吸引孔35Bが開口されている。」

F「【0034】
即ち、室外機30のハウジング31内部に入り込んだ外気は、機械室Bを通過後に発熱量の多い電装部品が搭載された電装室に流入する。従って、例えば夏季などには高温になりやすい地域、特に東南アジアのタイ、インドネシア、ベトナム、或いは熱帯地方の他の国々などで使用する場合であっても、冷凍装置の連続運転が可能となる。例えば40℃を超えるような高温の(例えば43℃前後に達する)外気を外気吸引孔35Bから取り込む場合であっても、その外気は、まず初めに外気吸引孔35Bに最も近く設置してあるアキュムレータ3に吹き込んでいく。これにより、外気温に比べて遥かに低温下にあるアキュムレータ3の表面近傍を通過させることで外気温を大幅に冷却させてから、各種電装部品の冷却用の空気などとして使用する構成となっているので、電装部品を効率的に冷却させることができる。」

G「【0035】
従って、一体型のヒートシンクを備えていない汎用のインバータを使用する場合であっても、高温状態となるインバータ11が例えば60℃を超えないように冷却させることができるようになる。これにより、インバータ11が常時安定的に動作するので、例えば東南アジアや赤道直下の熱帯地方の国々などにおいて室外機30を屋外に設置した場合であっても、冷凍装置の連続運転が可能となる。しかも、電装室Cでは、電装部品のうち最も発熱量の多いインバータ11を電装室C内で最後に通過させるように配置しているので、効率的な空冷作用を発揮させることができる。このため、インバータ11に専用の放熱手段を設けなくても、安価で効果的な排熱作用が得られ、ハウジング31の大型化をもたらすことのない室外機30が提供できる。
【0036】
このように、本実施形態によれば、図5において、機械室Bの背後の背面板35において、アキュムレータ3の対面領域に開口した外気吸引孔35Bから取り込んだ外気をアキュムレータ3の容器外表面近傍を通過する際に冷却させたのち、外気を機械室Bと電装室Cとの境界をなすシャーシの42Aと、ハウジング31の一方側の側壁面31Cとの間の隙間Dから電装室Cへ流入させる。
【0037】
そして、さらに、その外気を、電装室Cを通過させた後、仕切板41に設けた防雨排気部50を介して、電装室Cからファン室Aへ逃がすように構成している。換言すれば、機械室Bに設置している冷凍装置用の部品の中で最も低温状態にあるアキュムレータ3に外気を最初に通過させ、ジュール熱の発生が最も多い電装部品であるインバータ11には、外気を最後に通過させる構成としてある。従って、専用の放熱手段や放熱装置などを設けなくても、安価で効果的な排熱作用が得られ、ハウジング31の大型化をもたらすことのない室外機30が提供できる。
【0038】
さらに、本実施形態では、仕切板41における、電装室Cに臨むファン室A側の壁面に開口した開口孔41Aの部分に設置された、防雨排気部50は、この防雨排気部50のケーシング51が、薄い厚さ形状の略中空箱(防滴箱)で形成されている。そして、このケーシング51の一方の側面には、仕切板41の開口孔41Aに連通するように設けた外気が入り込む入口52を、また、ケーシング51の底面には、外気がファン室Aへ排気される出口53をそれぞれ有する。従って、ファン室A内での防雨排気部50の開口部分、つまり電装室Cからの空気の流入口がファン室A内に向けてケーシング51の下面側のみに形成されているので、大雨などの天候の日にファン室A内に雨水が多く差し込んできても、上下方向に深い庇として機能するので、その雨水が電装室C内に入り込むのを防止できる。これにより、電装室C内の電装部品のショートなどの発生を回避でき、安全で信頼度の高い室外機30、延いては安全で信頼度の高い冷凍装置が実現できる。」

上記B?E,及びGの(特に下線部)の記載から,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「室外機を備えた冷凍装置であって,
室外機のハウジングは,略箱状に形成されており,ハウジングの内部には,室内を左右2分割する仕切板が高さ方向全体に亘って形成されているとともに,左側室内を上下に2分するようにシャーシが固設され,ハウジングの内部は,ファン室と,機械室と,電装室と,が形成されているものであり,電装室には,フィルタ回路などの電装部品が搭載されているが,発熱量が多いインバータについては,外気吸引孔から取り込んだ外気の流れの最も下流側である最奥部に配置されているものであり,機械室内の背面板の角隅部分に外気吸引孔が開口されているものであり,
電装室では,電装部品のうち最も発熱量の多いインバータを電装室内で最後に通過させるように配置しているものであり,外気吸引孔から取り込んだ外気を機械室と電装室との境界をなすシャーシと,ハウジングの一方側の側壁面との間の隙間から電装室へ流入させ,さらに,その外気を,仕切板に設けた防雨排気部を介して,電装室からファン室へ逃がすように構成しているものであり,仕切板における,電装室に臨む壁面に開口した開口孔の部分に設置された,防雨排気部のケーシングの底面には,外気がファン室へ排気される出口を有するものである,
室外機を備えた冷凍装置。」

2.引用文献2?6について

(1)引用文献2

原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献2(国際公開第2017/187606号)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

H「[0013] 実施の形態1
はじめに、実施の形態1に係る電力変換装置の概要について説明する。図1にブロック図を示す。図1に示すように、交流電源51に負荷装置53が電気的に接続されている。その負荷装置53に対して、高調波を打ち消すための電力変換装置1が、アクティブフィルタとして電気的に並列に接続されている。
[0014] 負荷装置53は、負荷57と、交流電源51から送られた三相交流電力を整流して直流に変換する整流器54と、整流器54の出力側に接続された直流リアクタ55と、整流器54から出力される出力電力を平滑化する平滑コンデンサ56と、平滑化された直流電力を負荷57の駆動用の交流電力に変換するインバータ58とを備えている。」

上記Hの(特に下線部の)記載から,引用文献2には,“インバータを備えている負荷装置に対して電気的に並列に接続されているアクティブフィルタとしての電力変換装置”,という技術的事項が記載されていると認められる。

(2)引用文献3

原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献3(特開2017-046402号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

J「【0013】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置100の主回路構成を示す概略ブロック図である。電力変換装置100は、代表的には無停電電源装置に適用される。
【0014】
図1を参照して、電力変換装置100は、入力フィルタ2と、コンバータ3と、インバータ4と、出力フィルタ5と、直流電圧変換器(図中「DC/DC」と示す)7と、制御装置10と、直流正母線13と、直流負母線14と、コンデンサ15と、電圧センサ31,34,35,37と、電流センサ32,36と、停電検出回路33と、R相ラインRLと、S相ラインSLと、T相ラインTLと、U相ラインULと、V相ラインVLと、W相ラインWLとを備える。
【0015】
入力フィルタ2は、商用交流電源1への高調波の流出を防止する。商用交流電源1は三相交流電源である。入力フィルタ2は、コンデンサ11(コンデンサ11R,11S,11T)およびリアクトル12(リアクトル12R,12S,12T)により構成された三相のLCフィルタ回路である。」

上記Jの(特に下線部の)記載から,引用文献3には,“インバータとともに電力変換装置に備えられ,商用交流電源への高調波の流出を防止する,入力フィルタ”,という技術的事項が記載されていると認められる。

(3)引用文献4

原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献4(特開2012-225537号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

K「【0036】
(高調波抑制装置20の冷却)
図9は、AF筐体70の内部を抽出して模式的に示す斜視図である。図10は、AF筐体70内の風路構成を概略的に示す概略断面図である。図9及び図10に基づいて、高調波抑制装置20の冷却について説明する。図9及び図10に示すように、AF筐体70内の下部には高調波抑制装置20を冷却する冷却風を取り込むための冷却ファン78が設置されている。また、図10に示すように、空気取込口71から冷却ファン78に至るまでの風路は、迷路構造96になっている。さらに、空気取込口71から排気口72に至るまでの風路は、縦断面が略L字構造となっている。つまり、AF筐体70の空気取込口71から冷却ファン78に至るまで風路を略水平方向に、冷却ファン78からAF筐体70の排気口72に至るまでの風路を略垂直方向に形成することで、空気取込口71から排気口72に至るまでの風路を縦断面略L字構造としている。」

L「【0045】
冷却ファン78は、回転数が可変になっている。また、冷却ファン78は、ON/OFFが可能になっている。この冷却ファン78のON/OFF及び回転数の制御は、制御回路30が実行するようになっている。制御回路30は、AF筐体70内の温度が所定値よりも上昇した時に冷却ファン78を駆動させる、もしくは、室外ファン54が所定値よりも低速で回転している時に冷却ファン78を駆動させる。冷却ファン78の駆動条件を定めておけば、冷却ファン78の寿命を向上させることができる。」

上記K?Lの(特に下線部の)記載から,引用文献4には,“AF筐体に設置され,室外ファンが所定値よりも低速で回転している時に駆動させられる,高調波抑制装置を冷却する冷却風を取り込むための冷却ファン”,という技術的事項が記載されていると認められる。

(4)引用文献5

原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献5(特開2011-130524号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

M「【0031】
図1において、受熱部201,ヒートパイプ202,放熱部(フィン含む)203,吸気ダクト204,及び吸気ファン205からなる放熱器2を備えている。この放熱器2には、図1の(b)に示す受熱部201にコンバータ15及びインバータ17を構成する半導体モジュール(ここでは6個)が取り付けられている。受熱部201は、半導体モジュールでの熱を受け、ヒートパイプ202で上方の放熱部203内の放熱フィン(図示せず)に熱を輸送する。放熱フィンには、ファン205により図2(a)の正面外観図に示す吸気口210から、図1(b)に示す吸気ダクト204を介して外部から取り込んだ空気が送り込まれる。これにより、半導体モジュールでの熱を放熱し、半導体モジュールの温度上昇を許容範囲以内に抑制できる。」

上記Mの(特に下線部の)記載から,引用文献5には,“インバータを構成する半導体モジュールが取り付けられている受熱部,及び,吸気口から吸気ダクトを介して外部から取り込んだ空気が送り込まれる放熱フィンを含む放熱部,等からなる放熱器”,という技術的事項が記載されていると認められる。

(5)引用文献6

原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献6(特開2000-111100号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

N「【0014】
【実施例】以下、図面に基づいて本発明による室外機を詳細に説明する。図1は従来の室外機を示す要部透視図で、同図については従来の技術の項で説明したので説明を省略する。図2は本発明による室外機の一実施例を示す要部断面図、図3は同要部分解斜視図で、図1と同一機能を同一記号で示しており、説明を省略する。図において、10は前記電装品箱9の背面に配置して前記仕切板2等に固定され、前面を前記電装品箱9に対応して開口する第2の電装品箱で、アクティブフィルタ用の部品を収容している。この第2の電装品箱10の背面には開口10dが設けられ、同開口10dに前記アクティブフィルタを構成するモジュール21の発生する熱を放熱する放熱板22を臨ませ、同放熱板22が前記室外熱交換器5に沿うようにしている。また、この放熱板22の放熱フィン22aを水平方向に平行して配置することにより、前記送風機6により吸引され室外熱交換機5を通過した流風により効果的に放熱するようにしている。また、この第2の電装品箱10の底面には熱交換室3側に低く、機械室4側に高い段差部10aが形成されている。そして、この第2の電装品箱10の熱交換室3側の背面に前記開口10dが設けられており、同底面にアクティブフィルタ用電源トランス23を固定されている。また、この第2の電装品箱10の機械室4側の背面にはアクティブフィルタ用フィルタ基板24が固定されている。」

上記Nの(特に下線部の)記載から,引用文献6には,“アクティブフィルタ用の部品を収容している第2の電装品箱であって,その背面に設けられる開口にアクティブフィルタを構成するモジュールの発生する熱を放熱する放熱板を臨ませている,第2の電装品箱”,という技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断

1.本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明は,「ファン室と,機械室と,電装室と,が形成されている」「ハウジングの内部には,室内を左右2分割する仕切板が高さ方向全体に亘って形成されている」ものであって,「機械室と電装室との境界をなすシャーシ」が,「左側室内を上下に2分するように」「固設され」ているものであるから,引用発明の「左側室」は,「機械室」と「電装室」とが形成されている筐体であるといえ,しかも,当該「左側室」は,「略箱状に形成されて」いる「ハウジング」の「室内を左右2分割」したものの一方であることから,「ハウジング」同様,「箱状に」形成されているものであるといえるから,本願発明1の「箱状の第1筐体」に相当する。さらに,引用発明は,「外気吸引孔が」「機械室内の背面板の角隅部分に」「開口され」,「外気吸引孔から取り込んだ外気を」「電装室へ流入させ」,「その外気を,仕切板に設けた防雨排気部を介して,電装室からファン室へ逃がすように構成し」,「防雨排気部」は,「仕切板における,電装室に臨む壁面に開口した開口孔の部分に設置され」るものであるから,引用発明の「外気吸引孔」及び「開口孔」は,それぞれ,「左側室」が有する空気の流入口及び流出口であるといえる。
してみると,引用発明の「外気吸引孔」及び「開口孔」を有した「左側室」と本願発明1の「空気の流入口(15a)と流出口(15b)を有した箱状の第1筐体(15)」とは,“空気の流入口と流出口を有した箱状の第1筐体”を備える点で共通する。

イ 引用発明は,「電装室では,電装部品のうち最も発熱量の多いインバータを電装室内で最後に通過させるように配置している」ものであり,インバータは電力変換装置の一種であることから,引用発明の「インバータ」は,電装室が形成されている「左側室」に収容された電力変換装置であるといえる。
してみると,引用発明の「左側室」に収容された「インバータ」と本願発明1の「前記第1筐体(15)に収容された電力変換装置(20)」とは,“前記第1筐体に収容された電力変換装置”を備える点で共通する。

ウ 引用発明は,「電装室には,フィルタ回路などの電装部品が搭載されている」ものであり,電気回路の技術分野において,フィルタ回路が電気信号のうち特定の周波数成分のものを通過しにくいように抑制するものであることは技術常識であるから,引用発明の「フィルタ回路」は,何らかの電気信号の電気的変量における特定の周波数成分を抑制するための,電装室が形成されている「左側室」に収容された抑制装置であるといえる。
してみると,引用発明の「左側室」に収容され,何らかの電気信号の電気的変量における特定の周波数成分を抑制する「フィルタ回路」と本願発明1の「前記第1筐体(15)に収容され、電源配線(12)の高調波電流を抑制する高調波抑制装置(40)」とは,後記する点で相違するものの,“前記第1筐体に収容され、ある周波数成分の電気的変量を抑制する抑制装置”を備える点で共通する。

エ 引用発明の「インバータ」は,「フィルタ回路」を含む「電装部品」のうち「最も発熱量の多い」ものであるから,「フィルタ回路」よりも多くの熱を発生するものであるといえる。
してみると,引用発明の「インバータ」と本願発明1の「電力変換装置」とは,後記する点で相違するものの,“前記抑制装置よりも多くの熱を発生するものである”点で共通する。

オ 引用発明は,「電装室には,フィルタ回路などの電装部品が搭載され」,「発熱量が多いインバータについては,外気吸引孔から取り込んだ外気の流れの最も下流側である最奥部に配置されている」ものであるから,引用発明の「インバータ」は,「フィルタ回路」と「開口孔」との間の距離よりも、前記「開口孔」に近い位置に配置されているといえる。
してみると,引用発明の「インバータ」と本願発明1の「電力変換装置」とは,後記する点で相違するものの,“前記抑制装置と前記流出口との間の距離よりも、前記流出口に近い位置に配置されている”点で共通する。

カ 引用発明の「インバータ」や「フィルタ回路」は,いずれも「電装部品」であることから,これらを電装室が形成されている「左側室」に収容したものは,電装品のユニットであるといえる。
してみると,引用発明の「インバータ」及び「フィルタ回路」を収容した「左側室」を有する「室外機」は,本願発明1の「電装品ユニット」に相当する。

以上から,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)

空気の流入口と流出口を有した箱状の第1筐体と,
前記第1筐体に収容された電力変換装置と,
前記第1筐体に収容され,ある周波数成分の電気的変量を抑制する抑制装置と,
を備え,
前記電力変換装置は,前記抑制装置よりも多くの熱を発生するものであり,
前記電力変換装置は,前記抑制装置と前記流出口との間の距離よりも,前記流出口に近い位置に配置されていることを特徴とする電装品ユニット。

(相違点1)

本願発明1の「高調波抑制装置」が,「電源配線(12)の高調波電流を抑制する高調波抑制装置(40)」であるのに対し,引用発明の「フィルタ回路」は,「電源配線(12)の高調波電流を抑制」する,「高調波」抑制装置であることについて特定されていない点。

(相違点2)

本願発明1が,「第1筐体(15)内に設けられて、前記第1筐体(15)内の空気を撹拌する第1ファン(46)」を備えているものであるのに対し,引用発明は,そのようなものを備えることについて特定されていない点。

(2)相違点についての判断

事案に鑑みて,上記相違点2について先に検討する。相違点2に係る本願発明1の「第1筐体(15)内に設けられて、前記第1筐体(15)内の空気を撹拌する第1ファン(46)」という構成は,上記引用文献1?6には記載されておらず,本願の出願日前において周知であったともいえない。
また,引用発明は,「機械室内の背面板」「に」「開口され」た「外気吸引孔から取り込んだ外気を」「電装室へ流入させ」,「その外気を,仕切板に設けた防雨排気部を介して,電装室からファン室へ逃がすように構成し」たものであるが,上記引用文献1の上記Aの段落【0014】に「外気吸引孔から取り込んだ直後の外気は、ハウジング内部に流入すると、まず初めにアキュムレータで冷却されてから、ハウジング内部を、機械室、電装室の順で、通過する。即ち、室外機に入り込んだ外気は、通過しても特段に昇温される虞の少ない機械室を通過後に発熱量の多い電気部品が搭載された電装室に流入するので、電装室まである程度冷却された外気がそのまま電装室へ輸送できる。」と記載され,上記Fの段落【0034】に「外気温を大幅に冷却させてから、各種電装部品の冷却用の空気などとして使用する構成となっているので、電装部品を効率的に冷却させることができる」と記載されていることを踏まえると,引用発明は,ハウジング内部に流入した外気について,上流部分が大幅に冷却されて昇温されないようにすることを前提とするものであるといえる。これに対して,筐体内の空気を撹拌すると,その温度分布がなだらかになることが技術常識であるが,引用発明において,左側室内の温度分布をなだらかにするべきであるとする課題について何ら言及されておらず,むしろ,左側室内の温度分布をなだらかにすると,ハウジング内部に流入した外気の上流部分が昇温されることとなり,このことは引用発明の前提に反することから,引用発明において上記相違点2に係る構成を採用する動機付けを認めることはできず,また,他に引用発明に対し上記相違点2に係る構成を採用する動機づけも見出すことはできない。

したがって,本願発明1は,他の相違点を検討するまでもなく,当業者であっても引用発明,引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明3について

その他の独立項である,本願発明3も,本願発明1の上記相違点2と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明2及び本願発明4?7について

本願発明2及び本願発明4?7も,本願発明1の上記相違点2と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について

1.理由1(特許法第29条第2項)について
本願発明1?7は,「第1筐体(15)内に設けられて、前記第1筐体(15)内の空気を撹拌する第1ファン(46)」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1?6に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第7 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-02-12 
出願番号 特願2018-15522(P2018-15522)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 東 昌秋土井 悠生麻生 哲朗  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 小林 秀和
山澤 宏
発明の名称 電装品ユニット及び空気調和装置  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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