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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F03G 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F03G 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F03G 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F03G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F03G |
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管理番号 | 1371180 |
審判番号 | 不服2018-14937 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-24 |
確定日 | 2021-02-06 |
事件の表示 | 特願2016-89537「地熱発電施設設置方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年3月22日出願公開、特開2018-44439〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年4月27日の出願であって、平成29年5月29日付け(発送日:平成29年6月20日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の平成29年8月21日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年12月4日付け(発送日:平成30年1月9日)で最後の拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成30年3月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年7月13日付け(発送日:平成30年7月24日)で平成30年3月8日付けの手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成30年10月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 平成30年10月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年10月24日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正について (1)本件補正前の平成29年8月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 我国地熱エネルギ活用の地熱発電を促進するため、地熱発電発電反対を抑止する目的のため、第一に地熱発電用の井戸を掘らないこと、第二に既存の温泉の源泉からのお湯で発電すること、第三に発電により源泉の温度を下げ、第四に入浴に適する温度に下げた温泉を温泉業者に提供し、第五に温泉業者の源泉低温化のコストを不用にしてメリットを与えるという五つの組み合わせの方法により温泉業界の地熱発電反対を抑止し、地熱発電を促進し、我国地熱エネルギ活用を増大し得ることを特徴とする我国地熱発電促進方法。」 (2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。 「【請求項1】 既存の温泉において高温の源泉を冷却する低温化施設を一部取り替えて地熱発電装置を設けることにより地熱発電反対の合意を得て地熱発電施設を設置促進できる地熱発電施設設置方法において、 前記地熱発電装置には地上において水平に配置された熱電素子が含まれ、 前記熱電素子は、前記高温の源泉により加熱される事で電力を発生するとともに、前記源泉は、前記熱電素子の吸熱により冷却される事で温泉として提供されるものであり、 地熱発電用の井戸を掘らずに高温の源泉を適温の温泉として供給し、かつ、発電が可能であり、 温泉業者の得になるとともに国益を増す ことを特徴とする地熱発電施設設置方法。」 2.補正の適否 (1)補正の目的について ア 本件補正により、補正前の請求項1に記載された発明が「我国地熱発電促進方法」であったものが、補正後の請求項1に記載される発明は「地熱発電施設設置方法」となった。すなわち、この補正は、補正の目的に関し、特許法第17条の2第5項に規定するいずれの事項にも該当しない。 イ 本件補正により、補正前の請求項1に記載された発明の「我国地熱エネルギ活用の地熱発電を促進するため」という事項が削除され、補正後の請求項1に記載される発明の「地熱発電施設を設置促進できる」という事項が追加された。両者を対比すると、補正前の請求項1に記載された「我国地熱エネルギ活用の」という事項が削除されているから、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮には該当せず、また、特許法第17条の2第5項のいずれの事項にも該当しない。 上記ア及びイに示すように、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項のいずれの事項にも該当しないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 (2)新規事項の追加について 本件補正により、「前記地熱発電装置には地上において水平に配置された熱電素子が含まれ、前記熱電素子は、前記高温の源泉により加熱される事で電力を発生するとともに、前記源泉は、前記熱電素子の吸熱により冷却される事で温泉として提供されるものであり、」という事項が追加された。 この補正の根拠について、審判請求書の「【本願発明が特許されるべき理由】 2.補正の根拠の明示」には「本書と同日に提出した手続補正書の内容は、出願当初の明細書の段落0003?0014、図4等の記載に基づくものである。」と記載されている。 そこで、出願当初の明細書の段落【0012】を参照すると、「図4は本発明第3の実施例である。源泉4からの熱湯をヒーター管32(形状は加熱効率を最大にするように曲管としてもよい)に導き、熱電素子33を加熱する。熱電素子33は熱を加えると、発電することは公知である。これを所定の電圧、電流を得るように直列又は並列に結合34して電力28を得る。第1と第2実施例は、タービンを使用する動的且つ大型,中型発電であり、第3実施例は熱電素子を使用するソリッドステートの静的且つ無音の小型発電であり、それぞれに適している温泉に使用する実施例である。」と記載されている。 しかしながら、出願当初の段落【0012】には、本件補正後の発明における「前記地熱発電装置には地上において水平に配置された熱電素子が含まれ」(下線部は当審で付した。)という事項は記載されていない。(なお、図4は略図にすぎず、図4をもって「地上において水平に配置された熱電素子」を開示しているとはいえない。) してみれば、上記「前記地熱発電装置には地上において水平に配置された熱電素子が含まれ、前記熱電素子は、前記高温の源泉により加熱される事で電力を発生するとともに、前記源泉は、前記熱電素子の吸熱により冷却される事で温泉として提供されるものであり、」という事項を追加する本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 (3)独立特許要件について (1)、(2)で述べたように、本件補正は、特許法第17条の2第5項の目的に該当せず、新規事項を含むものであるが、仮に、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合について、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、予備的な検討を行う。 ア 本件補正発明 本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。 イ 引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013-133705号公報(以下、「引用文献」という。)には、「熱水蒸気発電装置」に関して、図面(特に、【図1】及び【図4】を参照。)とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。 a 「【0001】 本発明は、温泉地や熱水の豊富な地域において、低コストかつ簡易な設置によって設置可能であり、熱水および水蒸気を有効活用して発電を行なう熱水蒸気発電装置に関する。」 b 「【0009】 日本は、火山列島であり、国内には多数の温泉地や熱水地がある。加えて、外国の温泉地と異なり、日本の温泉地は観光や湯治場などとしての地域開発が行われており、交通インフラ、住居インフラなどが整っていることが多い。温泉地では、当然ながら多くの温水、熱水などが存在しており、多くの湯気がそこかしこから昇っている状況を目の当たりにできる。日本においては、これらの熱源を無駄にしている問題がある。温水、熱水、熱水蒸気は、発電には十分な熱源であり、発電に用いないことは、資源の無駄といえる。」 c 「【0015】 一方で、温泉地では、温泉に用いる熱水取得の権利処理や開発許諾などの問題もあり、複雑な権利処理の必要性によって、大型の地熱発電装置を設置することが困難である。用地取得や温泉として利用する利用者との間の利害調整が難しくなるからである。あるいは、温泉旅館などの温泉取得権利者の少ない温泉地は、山奥であって地熱発電装置の設置に困難を有していることがある。あるいは、このような温泉取得権利者の少ない温泉地は、国立公園の中にあり、種々の規制で地熱発電装置の設置が困難であることも少なくない。 【0016】 もちろん、温泉旅館や観光施設などのインフラが整備されている温泉地においても、温泉取得権利者の不測の不利益が生じない範囲で、湧出する熱水を利用することは、当然に可能である。 【0017】 このような状況において、観光や生活としてのインフラの整備がなされている温泉地において、次のような条件を満たす地熱発電装置が求められていた。 【0018】 (1)温泉取得権利者の利便を損なわないこと。 (2)大規模な施工や大規模な投資を必要とせず、設置場所に応じたフレキシブルな規模の設置が可能であること。 (3)得られる熱水が、発電のみならず温泉入浴やその他の用途にも流用できること。 (4)コスト対効果の高い発電を実現できること。 【0019】 本発明は、上記課題に鑑み、これらの条件(1)?(4)を満たしつつ、十分な発電を実現できる熱水蒸気発電装置を提供することを目的とする。」 d 「【0023】 また、装置が大型とならず、発電に使用した熱水を温泉として再利用できることで、源泉の規模や温泉権利者の規模などにフレキシブルに対応した熱水蒸気発電装置が実現できる。結果として、種々の規制や権利処理に関らず、地熱発電の普及が実現される。」 e 「【0143】 実施の形態2では、実施の形態1で説明した熱水蒸気発電装置1が、温泉地に種々に設置される場合について説明する。 【0144】 熱水蒸気発電装置1は、熱水を用いて発電を行なう。また、実施の形態1で説明した通り、非常に小型かつ簡便な装置であるので、宿泊施設や観光施設など、温泉の源泉を利用する権利者が既に多く存在する温泉地であっても、設置が容易である。 【0145】 図4は、本発明の実施の形態2における熱水蒸気発電装置の設置を示す模式図である。図4は、複数の源泉が存在する温泉地に、熱水蒸気発電装置1が設置されている状態を示している。 【0146】 図4では、源泉40Aと源泉40Bの2つの源泉が示されている。いずれの源泉40A,40Bも、既に温泉利用設備などによって取水権利が設定されており、温泉利用設備に利用されている状態である。図4では、源泉40Aは、温泉利用設備30Aに利用されており、源泉40Bは、温泉利用設備30Bに利用されている。例えば、入浴用の温泉として利用されている。 【0147】 実施の形態1で説明した熱水蒸気発電装置1は、これらの源泉に設けられる。熱水蒸気発電装置1Aは源泉40Aに設置される。熱水蒸気発電装置1Bは、源泉40Bに設置される。 【0148】 熱水蒸気発電装置1Aの混合熱水管路2Aは、源泉40Aに接続している。この結果、混合熱水管路2Aは、源泉40Aから混合熱水(源泉の温泉水)を吸い上げる。混合熱水管路2Aは、源泉40Aからの混合熱水を熱水蒸気発電装置1Aに供給する。熱水蒸気発電装置1Aは、実施の形態1で説明した機能によって、源泉40Aの混合熱水を用いて発電を行なう。熱水蒸気発電装置1Aが発電した電力は、例えば、源泉40Aの権利を有する温泉利用設備30Aで利用されればよい。 【0149】 次に、熱水蒸気発電装置1Aは、温水還流路6Aを通じて、発電に利用の終わった温水を、温泉利用設備30Aに還流する。すなわち、温水還流路6Aは、発電に使用した温水(凝縮した水蒸気も含む)を、地中に戻すのではなく、温泉水を利用する温泉利用設備30Aに還流する。すなわち、温水還流路6Aは、温泉水として、熱水を温泉利用設備30Aに還流する。 【0150】 熱水蒸気発電装置1Aは、源泉40Aから吸い上げた混合熱水を、タービンを回転させる圧力として利用するだけであるので、熱水そのものを消費することはない。温水還流路6Aは、凝縮した水蒸気を含む温水を、温泉水として、温泉利用設備30Aに還流できる(送出できる)。温水還流路6Aから還流される温水は、温泉水としての変質はしていない。このため、温泉利用設備30Aにおいては、通常の温泉水と同様に利用が可能である。もちろん、衛生管理や衛生処理などの付加的な処理は、温泉利用設備30Aにおいて行われれば良い。 【0151】 同様に、熱水蒸気発電装置1Bは、源泉40Bに設置されている。源泉40Bから、混合熱水管路2Bが混合熱水を吸い上げて、熱水蒸気発電装置1Bに供給する。熱水蒸気発電装置1Bで使用された熱水は、温水還流路6Bによって、温泉利用設備30Bに還流される。この場合も、温泉利用設備30Bにおいて、発電に使用された熱水が、温泉水として再利用できる。もちろん、熱水蒸気発電装置1Bで発電された電力は、温泉利用設備30Bで使用されれば良い、 【0152】 このように、熱水蒸気発電装置1は、小型であって源泉ごとに設置が容易であるので、使用した熱水を、温泉水として本来の温泉利用設備において再利用できる。この結果、温泉地においても、源泉の権利者への不具合を生じさせないで、熱水蒸気発電装置1が設置される。 【0153】 源泉40の権利者である温泉利用設備30は、温泉入浴に用いるために、源泉40を利用している状態であり、源泉を吸い上げる機構を既に設置済みである。この機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで、自らが使用する電力をまかなうことができる。場合によっては売電も可能である。その上で、発電に使用した熱水を、本来の温泉水としても利用できるので、温泉利用設備30の所有者にとっても、熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションが高くなる。 【0154】 もちろん、発電後の熱水を温泉水として利用することに、懸念がある場合には、源泉40から吸い上げた熱水を、まず温泉水として利用し、その後圧力を付与した温泉水を、熱水蒸気発電装置1に供給することでも良い。 【0155】 いずれの場合であっても、温泉利用設備30にとっては、熱水蒸気発電装置1を設置する高いモチベーションを有することになる。この結果、熱水蒸気発電装置1の普及が進みやすくなる。 【0156】 図4では、源泉40のそれぞれに熱水蒸気発電装置1が設置される態様を説明したが、複数の源泉40に一つの熱水蒸気発電装置1が設置されても良い。逆に、一つの源泉40に複数の熱水蒸気発電装置1が設置されても良い。」 f 上記aないしdの記載から、引用文献には、熱水蒸気発電装置1の設置方法が記載されているといえる。 g 上記段落【0009】の「温泉地では、当然ながら多くの温水、熱水などが存在しており、多くの湯気がそこかしこから昇っている状況を目の当たりにできる。日本においては、これらの熱源を無駄にしている問題がある。温水、熱水、熱水蒸気は、発電には十分な熱源であり、発電に用いないことは、資源の無駄といえる。」という記載及び段落【0018】の「得られる熱水が、発電のみならず温泉入浴やその他の用途にも流用できること。」という記載から、引用文献1に記載された熱水蒸気発電装置1の設置方法においては、従来の温泉で無駄にしていた熱水の熱源を発電に用いるものであることが分かる。 h 上記段落【0152】の「温泉地においても、源泉の権利者への不具合を生じさせないで、熱水蒸気発電装置1が設置される。」、【0153】の「源泉40の権利者である温泉利用設備30は、温泉入浴に用いるために、源泉40を利用している状態であり、源泉を吸い上げる機構を既に設置済みである。この機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで、自らが使用する電力をまかなうことができる。場合によっては売電も可能である。その上で、発電に使用した熱水を、本来の温泉水としても利用できるので、温泉利用設備30の所有者にとっても、熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションが高くなる。」及び【0155】の「いずれの場合であっても、温泉利用設備30にとっては、熱水蒸気発電装置1を設置する高いモチベーションを有することになる。この結果、熱水蒸気発電装置1の普及が進みやすくなる。」等の記載から、引用文献に記載された熱水蒸気発電装置1の設置方法は、温泉利用設備30の所有者にとっても利益になること、源泉の権利者への不具合を生じさせないこと、熱水蒸気発電装置1の普及が進みやすくなることが分かる。 ウ 引用発明 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「従来の温泉において無駄にしていた熱源を用いる熱水蒸気発電装置1を設けることにより、源泉の権利者への不具合を生じさせないで熱水蒸気発電装置1の普及が進みやすくなる熱水蒸気発電装置1の設置方法において、 温泉利用設備30用の源泉を吸い上げる機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで、自らが使用する電力をまかなうことができ、発電に使用した熱水を、本来の温泉水としても利用でき、 温泉利用設備30の所有者にとっても利益になり、熱水蒸気発電装置1により発電も行え、地熱発電の普及が実現される熱水蒸気発電装置1の設置方法。」 エ 対比 本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「従来の温泉において無駄にしていた熱源を用いる熱水蒸気発電装置1を設けること」は、従来の温泉において高温の源泉の温度を無駄に冷却していた熱源を利用する熱水蒸気発電装置1を設けることであるから、前者における「既存の温泉において高温の源泉を冷却する低温化施設を一部取り替えて地熱発電装置を設けること」に相当する また、後者の「源泉の権利者への不具合を生じさせないで熱水蒸気発電装置1の普及が進みやすくなる」ことは、源泉の権利者の合意を得やすくして熱水蒸気発電装置1の普及を促進することであるから、前者の「地熱発電反対の合意を得て(審決注:「地熱発電賛成の合意を得て」の誤記と認める。)地熱発電施設を設置促進できる」に相当する。 また、後者の「温泉利用設備30用の源泉を吸い上げる機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで、自らが使用する電力をまかなうことができ、発電に使用した熱水を、本来の温泉水としても利用でき」ることは、地熱発電用の井戸を掘る必要がなく、高温の源泉の温度を下げて温泉水として利用し、熱水蒸気発電装置1による発電も行うことから、前者の「地熱発電用の井戸を掘らずに高温の源泉を適温の温泉として供給し、かつ、発電が可能であり」に相当する。 また、後者の「温泉利用設備30の所有者にとっても利益になり、熱水蒸気発電装置1により発電も行え、地熱発電の普及が実現される」ことは、温泉利用設備30の所有者である温泉業者の利益になり、地熱発電の普及により国益にもなることから、前者の「温泉業者の得になるとともに国益を増す」に相当する。 したがって、両者は、 「既存の温泉において高温の源泉を冷却する低温化施設を一部取り替えて地熱発電装置を設けることにより地熱発電反対の合意を得て地熱発電施設を設置促進できる地熱発電施設設置方法において、 地熱発電用の井戸を掘らずに高温の源泉を適温の温泉として供給し、かつ、発電が可能であり、 温泉業者の得になるとともに国益を増す地熱発電施設設置方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 地熱発電装置について、前者は「地熱発電装置には地上において水平に配置された熱電素子が含まれ、前記熱電素子は、高温の源泉により加熱される事で電力を発生するとともに、前記源泉は、前記熱電素子の吸熱により冷却される事で温泉として提供される」ものであるのに対し、後者は、そのような構成を有さない点。 オ 判断 相違点について検討する。 地熱発電装置の技術分野において、「地熱発電装置には地上において水平に配置された熱電素子が含まれ、前記熱電素子は、高温の源泉により加熱される事で電力を発生するとともに、源泉は、前記熱電素子の吸熱により冷却される事で温泉として提供される」技術は、本願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2003-318453号公報の段落【0048】ないし【0060】及び図面(特に図1ないし図3)、特開平11-247753号公報の段落【0032】ないし【0088】及び図面(特に図8)の記載を参照。)である。 そして、引用発明と周知技術とは、地熱発電装置という共通の技術分野において、温泉水の熱を発電に利用するという共通の課題を有するものである。 したがって、引用発明において、発電装置として、上記周知技術を適用することにより、相違点に係る本件補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 カ 小括 上記のとおり、本件補正は、仮に限定的減縮を目的とするものだとしても、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 (4)むすび 以上のとおりであるから、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成30年10月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成29年8月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1.(1)に記載のとおりのものである。 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、以下のものである。 (1)(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献一覧参照) ●理由(1)(新規性)及び理由(2)(進歩性)について ・請求項 1 ・引用文献 2 <引用文献一覧> 引用文献2:特開2013-133705号公報 3.引用文献及び引用発明A 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2[理由]2.(3)イに記載したとおりである。 そして、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されている。 「地熱発電の普及が実現されるため、源泉の権利者への不具合を生じさせず熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くするため、温泉利用設備30用の源泉を吸い上げる機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで、自らが使用する電力をまかなうことができ、発電に使用した熱水を、本来の温泉水としても利用でき、温泉利用設備30の所有者にとっても利益になり、源泉の権利者への不具合を生じさせず温泉利用設備30の所有者にとって熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くし、熱水蒸気発電装置1の普及を進みやすくする、地熱発電の普及が実現される方法。」 4.対比・判断 本願発明と引用発明Aとを対比すると、後者の「地熱発電の普及が実現されるため」は、地熱エネルギを利用する地熱発電の普及を促進するためであるから、前者の「我国地熱エネルギ活用の地熱発電を促進するため」に相当する。 また、後者の「源泉の権利者への不具合を生じさせず熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くするため」は、源泉の権利者のデメリットをなくしメリットを増やすためであり、その結果地熱発電反対を抑止するためであるから、前者の「地熱発電発電反対を抑止する目的のため」に相当する。 また、後者の「温泉利用設備30用の源泉を吸い上げる機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで、自らが使用する電力をまかなうことができ」は、地熱発電専用の井戸を掘らずに既存の温泉利用設備30用の源泉からのお湯で発電することといえるから、前者の「第一に地熱発電用の井戸を掘らないこと、第二に既存の温泉の源泉からのお湯で発電すること」及び「第五に温泉業者の源泉低温化のコストを不用にしてメリットを与える」ことに相当する。 また、後者の「発電に使用した熱水を、本来の温泉水としても利用でき」は、発電によって温度が下がった熱水を、本来の温泉水として利用することであるから、前者の「第三に発電により源泉の温度を下げ、第四に入浴に適する温度に下げた温泉を温泉業者に提供し」に相当する。 したがって、後者の「温泉利用設備30用の源泉を吸い上げる機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで、自らが使用する電力をまかなうことができ、発電に使用した熱水を、本来の温泉水としても利用でき、温泉利用設備30の所有者にとっても利益になり、源泉の権利者への不具合を生じさせず温泉利用設備30の所有者にとって熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くし」は、前者の「五つの組み合わせの方法により温泉業界の地熱発電反対を抑止し」に相当する。 また、後者の「熱水蒸気発電装置1の普及を進みやすくする」は、地熱発電装置の普及を進めることであるから、前者の「地熱発電を促進し」に相当し、同様に、後者の「地熱発電の普及が実現される方法」は、前者の「我国地熱発電促進方法」に相当する。 したがって、両者は、 「我国地熱エネルギ活用の地熱発電を促進するため、地熱発電発電反対を抑止する目的のため、第一に地熱発電用の井戸を掘らないこと、第二に既存の温泉の源泉からのお湯で発電すること、第三に発電により源泉の温度を下げ、第四に入浴に適する温度に下げた温泉を温泉業者に提供し、第五に温泉業者の源泉低温化のコストを不用にしてメリットを与えるという五つの組み合わせの方法により温泉業界の地熱発電反対を抑止し、地熱発電を促進し、我国地熱エネルギ活用を増大し得る我国地熱発電促進方法。」 という点で一致し、相違点はない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-09-03 |
結審通知日 | 2019-09-10 |
審決日 | 2019-09-24 |
出願番号 | 特願2016-89537(P2016-89537) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F03G)
P 1 8・ 575- Z (F03G) P 1 8・ 57- Z (F03G) P 1 8・ 561- Z (F03G) P 1 8・ 113- Z (F03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西中村 健一 |
特許庁審判長 |
水野 治彦 |
特許庁審判官 |
齊藤 公志郎 金澤 俊郎 |
発明の名称 | 地熱発電施設設置方法 |