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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1371207
審判番号 不服2018-11196  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-17 
確定日 2021-02-10 
事件の表示 特願2015-549724「プライバシー・モードのあるカメラ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月26日国際公開、WO2014/100455、平成28年 3月 3日国内公表、特表2016-506669〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯及び本願発明
1 経緯
本件出願は、2013年(平成25年)12月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年12月20日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成28年11月30日:手続補正
平成29年11月24日:拒絶理由の通知
平成30年 3月 1日:意見書の提出、手続補正
平成30年 4月 6日:拒絶査定
平成30年 4月17日:拒絶査定の謄本の送達
平成30年 8月17日:拒絶査定不服審判の請求
平成30年 8月17日:手続補正
令和 1年10月23日:拒絶理由の通知(当審)
令和 2年 1月29日:意見書の提出、手続補正
令和 2年 2月28日:拒絶理由の通知(当審)
令和 2年 6月 2日:意見書の提出、手続補正

2 当審拒絶理由の概要
令和1年10月23日付け当審拒絶理由のうち、進歩性に係る拒絶理由は、概略、次のとおりである。

[当審拒絶理由]
この出願の請求項1?10に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特表2010-525667号公報
引用文献2:国際公開第2008/050904号

3 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、令和2年6月2日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
なお、(A)?(F)は、当審で付与した。以下各構成要件を「構成要件A」?「構成要件F」という。

(本願発明)
(A)アレイをなす複数のカメラを含むプライバシー・カメラの動作方法であって:
(B)前景および背景を含むシーン内の関心オブジェクトを判別する段階と;
(C)背景ぼかしおよび背景置換を含むプライバシー・モードからプライバシー・モードを決定する段階と;
(D)前記決定されたプライバシー・モードが背景ぼかしであるとき、前記シーンの前景における関心オブジェクトは焦点が合って見え、前記シーンの背景内のオブジェクトは焦点が合っていないように見えるように、前記プライバシー・カメラについて限られた被写界深度を設定することによって、画像を生成する段階であって、
(D-1)前記複数のカメラからのそれぞれの画像を組み合わせて、焦点があって見える関心オブジェクトと、ぼけて見える前記シーンの背景内のオブジェクトを含む単一の画像を生成し、前記背景内のオブジェクトは、前記アレイの大きさ及び/又は前記アレイ内の前記複数のカメラの間隔に応じたぼかし効果を有する、段階と;
(E)前記決定されたプライバシー・モードが背景置換であるとき、前記前景を判別することにおいて使われる前記プライバシー・カメラの動的に調節可能な前景奥行きを、前記シーン内の関心オブジェクトを含むように設定し、前記背景を置換画像および充填物のうちの少なくとも一方で置き換えることによって画像を生成する段階と;
(F)前記画像を表示する段階とを含む、
(A)方法。

第2 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
当審拒絶理由に引用された引用文献1(特表2010-525667号公報)には、「テレビ電話におけるプライバシーを最大にするための浅い被写界深度の模擬実験」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。

ア「【0017】
図1?3は、本配置に被写界深度の原理を適用することを例示するために与えられている。図1は、カメラ105と、その視野内にある2つの黒色および白色パターン化ターゲット112および115とを示す図形説明図である。図示するように、ターゲット112はカメラの視野の前景にあり、ターゲット115は背景にある。図2に示すのは、深い焦点深度をカメラ105が選択したときの画像の見かけの例である。図示するように、ターゲット112および115は両方とも焦点が合っている。比較して、図3に示すのは、焦点深度がより浅い場合の画像の例である。この場合、前景にあるターゲット112は焦点が合っているが、背景にあるターゲット115はもはや焦点が合っておらず、ぼやけて見える。」

イ「【0018】
図4を参照して、2人のテレビ電話ユーザがビデオ電話通信セッションに参加している例示的な配置400を示す。ユーザ405は、家413でテレビ電話408を用いている。テレビ電話408は、ネットワーク418を介して、家435でユーザ430が用いるテレビ電話426に結合されている。テレビ電話によって一般的に、通話が広帯域ネットワークを介して伝えられるときに、フレーム・レートおよび解像力が両方ともより高いより良好な画質が実現されるが、テレビ電話の中には、通常の公衆交換電話網(「PSTN」)を介して動作するように構成されているものもある。広帯域ネットワーク・サービスは一般的に、ケーブル、DSL(デジタル加入者線)、および人工衛星サービス・プロバイダから提供される。テレビ電話は普通、2人1組になって用いられ、通話上の各当事者はテレビ電話を用いている。
【0019】
図5は、図4に示すテレビ電話408の図形図である。テレビ電話408は、消費者市場に市販されているテレビ電話を表わす。テレビ電話408は、基部505に取り付けアーム512によって取り付けられるディスプレイ・コンポーネントを備えている。基部505は、テレビ電話408をたとえばデスクまたはテーブル上に配置できるように構成されている。カメラ514がディスプレイ・コンポーネント内に配置されている。カメラ514のレンズは、図示するように、テレビ電話ユーザの方に向けられている。またマイクロフォン(図示せず)がカメラ514の付近に配置され、音声および他の、テレビ電話通話に付随する音を取り込むようになっている。」

ウ「【図4】

【図5】



エ「【0021】
表示コンポーネントはスクリーン516を備え、スクリーン516は受像領域520および送像領域525を備えている。スクリーン516の受像領域520は、図4に示すテレビ電話426内のカメラによって取り込まれたユーザ430のビデオ画像を表示するように配置されている。送像領域525は、カメラ514によって取り込まれたユーザ405の比較的より小さい画像を表示する。こうして送像領域525によって、ユーザ405は、送信されて他方のユーザ430によって見られている自分自身の像を見ることができる。このようなフィードバックは、ユーザ405が自分自身をカメラ514の視野内に、取り込まれたビデオ画像内で所望の位置決めおよびフレーミングがなされた状態で配置できるようにするためには重要である。
【0022】
取り付けアーム512が、ディスプレイ・コンポーネントおよびカメラ514を、基部505から上方にある距離を置いて位置決めするように配置されている。この距離は、表示ビデオ画像を快適に見ることが実現され、テレビ電話ユーザの良好な視野を用いてカメラ514を位置決めするようにするためのものである。取り付けアーム512内には、テレビ電話動作制御532が配置されている。テレビ電話動作制御532は、ユーザが、テレビ電話通話を設定し、ユーザ選好を設定し、テレビ電話設定を調整するなどのために、設けられている。
【0023】
図4を再び参照して、テレビ電話ユーザ430は、テレビ電話426内に配置されたカメラによって取り込まれる場面440の前景に位置している。前景を参照数字442によって示す。同様に、図示するように、室内用鉢植え植物450が場面の中景452にあり、家族メンバ460が背景462にいる。
【0024】
図6に、図4における取り込まれた場面440のビデオ画像の、テレビ電話408によってスクリーン516上に表示されたときの例示的なスクリーン・ショット600を示す。図示するように、表示された画像は被写界深度が深い状態で現れており、ユーザ430、室内用鉢植え植物450、および家族メンバ460はすべて焦点が合っている。前述したように、このような深い被写界深度は普通、従来のテレビ電話によって表示されるビデオ画像に対して与えられている。また、取り込んだ場面内のすべての対象をこのように鮮明に結像することは、プライバシーに対する懸念を示す場合がある。
【0025】
図6に示す従来の被写界深度が深いビデオ画像と比べて、図7に、本配置によって実現される模擬実験された浅い被写界深度を有するビデオ画像の例示的なスクリーン・ショット700を示す。スクリーン・ショット700に示すビデオ画像は、テレビ電話408によってスクリーン516上に表示されたものと同じ取り込まれた場面440である。ここでは、前景442におけるユーザ430の画像のみが焦点が合った状態に保持され、一方で、室内用鉢植え植物450および家族メンバ460は、図7におけるドット・パターンによって示されるように、不鮮明にされて不明瞭にされている。」

オ「【図6】 【図7】



カ「【0026】
図8は、取り込まれたビデオ画像を、焦点が合った状態に保持されている対象領域805と、複数の代替的な画像処理技術(後に、図13および14に付随するテキストで述べる)の1つを用いて不鮮明にされている残りの部分810とにする例示的な分離を示す説明図である。この説明例では、物体検出技術として、特定の特徴(この場合はユーザの顔、頭、および肩)を、テレビ電話通話の間にユーザが動いたときおよび/または位置を変えたときに、取り込まれたビデオ画像内で動的に検出して追跡する技術が用いられている。図8に示す対象領域には、ユーザの顔、頭、および肩の領域が含まれているが、他の対象領域を検出および追跡用に規定しても良い。たとえば、動的な検出および追跡技術を用いて焦点が合った状態に保持される画像領域を、ユーザの顔領域のみに限定しても良い。」

キ「【0054】
分離論理回路1520は、カメラ514からビデオ画像を分離して、ターゲット部分(焦点が維持される)と残りの部分(不鮮明化が課される結果、その部分が不明瞭になる)とにするように配置されている。分離は、図8に付随するテキストで説明した物体検出を用いて、あるいは図9?12に付随するテキストで説明したテンプレートの1つを用いて行なう。
【0055】
不鮮明化論理回路1526は、取り込まれたビデオ画像の残りの部分を不鮮明にして、その内部の画素の錯乱円を増加させ、その結果、主体を不明瞭にするように配置されている。このような不鮮明化は、図13および14に付随するテキストで説明したデジタル・フィルタリング技術のうちの1または複数を用いて行なう。不鮮明化論理回路は任意的に、ユーザからの入力に応答可能なように不鮮明化の度合いを調整するように構成される。不鮮明化論理回路1526は代替的に、取り込まれたビデオ画像の残りの部分を、前記したように、あらかじめ定義された画像(たとえば壁紙)と入れ替えるように配置されている。」

ク「【0065】
別の代替的な例示的実施形態では、任意または所定の画像、効果、またはパターンを用いて、取り込まれたビデオ画像の残りの部分(すなわち、取り込まれたビデオ画像の、焦点が合った状態に保持されるターゲット部分以外の部分)と入れ替えても良い。前述したように、残りの部分における画素をそれらの錯乱円を増加させることによって不鮮明にして、その結果、残りの部分を不明瞭にする代わりに、残りの部分の全部または一部を、たとえば特徴のない画像と取り替えても良い。特徴のない画像を、たとえばテレビ電話ユーザが平坦な壁の前方に座っているように見えるようにするであろう任意のまたはユーザ選択可能な色彩を用いて配置しても良い。他の例では、任意のまたはユーザ選択可能な画像として、たとえば写真またはイラストを選択する。たとえば、庭園写真を選択して、テレビ電話ユーザに対する背景景色を提供しても良い。」

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)イによると、図4には、2人のテレビ電話ユーザがビデオ電話通話セッションに参加している配置400が示され、テレビ電話はカメラ、ディスプレイ・コンポーネントを備えている。
上記(1)エの段落【0021】によると、表示コンポーネントはスクリーン516を備え、テレビ電話のスクリーン516の受像領域520は、テレビ電話426内のカメラによって取り込まれたユーザ430のビデオ画像を表示するように配置されている。
上記(1)エの段落【0025】によると、ビデオ画像は、浅い被写界深度を有するビデオ画像、すなわち、前景442におけるユーザ430の画像のみが焦点が合った状態に保持され、一方で、室内用鉢植え植物450および家族メンバ460は、不鮮明にされて不明瞭にされるものである。
また、ビデオ画像として、上記(1)クによると、取り込まれたビデオ画像の、焦点が合った状態に保持されるターゲット部分以外の部分を所定の画像と入れ替えたものがある。
さらに、上記(1)カによると、取り込まれたビデオ画像を、焦点が合った状態に保持されている対象領域と、不鮮明にされている残りの部分とにするために用いる物体検出技術として、ユーザの顔、頭、および肩を取り込まれたビデオ画像内で動的に検出して追跡する技術が用いられている。

以上のテレビ電話のカメラの動作を方法の発明(以下「引用発明」という。)として認定すると、次のとおりである。

(引用発明)
(a)テレビ電話のカメラの動作方法であって、
(b)浅い被写界深度を有するビデオ画像、すなわち、前景442におけるユーザ430の画像のみが焦点が合った状態に保持され、一方で、室内用鉢植え植物450および家族メンバ460は、不鮮明にされて不明瞭にされるビデオ画像を生成する段階、
又は、
(c)取り込まれたビデオ画像の、焦点が合った状態に保持されるターゲット部分以外の部分を所定の画像と入れ替えたビデオ画像を生成する段階、及び、
(d)取り込まれたビデオ画像を、焦点が合った状態に保持されている対象領域と、不鮮明にされている残りの部分とにするために、ユーザの顔、頭、および肩を取り込まれたビデオ画像内で動的に検出して追跡する段階とを含み、
(e)さらに、上記ビデオ画像を表示する段階とを含む
(a)方法。

なお、(a)?(e)は、構成を識別するために付与した。以下各構成を「構成a」?「構成e」という。

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
当審拒絶理由に引用された引用文献2(国際公開第2008/050904号)には、「解像度仮想焦点面画像生成方法」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。

ア「<1-1>撮像面に平行な仮想焦点面
本発明では、「仮想焦点面画像」を生成するために、まず、撮影対象に対して複数の視点から撮影を行うことにより、1組の多視点画像を取得する必要がある。
この多視点画像は、例えば、第1図に示すような格子状配置の25眼ステレオカメラ(以下、単に、カメラアレイとも称する)を用いて、取得することができる。第1図の25眼ステレオカメラを用いて撮影して得られた多視点画像の一例を第2図に示す。
このとき、第1図に示す格子状配置の中心となるカメラから撮影された画像を基準画像(第3図(A)を参照)として、第2図に示す多視点画像に対し、多眼ステレオ3次元計測を行うことにより、第3図(B)に示すような視差マップ(以下、単に「視差画像」とも言う)を得ることができる。
このとき、第2図に示す多視点画像の撮影シーンにおける物体配置関係及び仮想焦点面の配置を模式的に表すと、第4図のようになり、これらを比較することで、視差は実空間中の奥行きと対応し、カメラに近い位置に存在する物体ほど値が大きく、カメラから離れた位置に存在する物体ほど値が小さくなることがわかる。また、同一の奥行きに存在する物体は同一の値となり、視差の値が同一となる実空間中の平面は、カメラに対してフロントパラレルな平面となる。
ここで、視差は参照画像と基準画像のずれ量を示していることから、ある奥行きに存在する点について、対応する視差を用いてすベての参照画像を基準画像と重なるように変形することができる。ここでで言う「参照画像」とは、1組の多視点画像を構成する複数の画像のうち、基準画像として選択された画像を除いて残りの全ての画像を意味する。」(7頁17行?8頁19行)

イ「第5図には、この「ある奥行きに存在する点について、対応する視差を用いてすべての参照画像を基準画像と重なるように変形する」といった方法を用いて、第2図の多視点画像に基づいて合成した仮想焦点面画像の例を示す。第5図(A)は、奥の壁面に対応した視差で変形して合成した場合の例であり、また、第5図(B)は、手前の箱の前面に対応した視差で変形して合成した場合の例である。
本発明では、このときに注目した視差に対応して生じた仮想的な焦点面を「仮想焦点面」と呼び、そして、仮想焦点面に対して合成された画像を、「仮想焦点面画像」と呼ぶこととする。第5図(A)及び第5図(B)は、それぞれ奥の壁面、手前の箱の前面に仮想焦点面を置いたときの仮想焦点面画像である。つまり、第5図(A)に、第4図における点線で示された(a)の位置に仮想焦点面を置いた場合において、合成された仮想焦点面画像を示す。また、第5図(B)に、第4図における点線で示された(b)の位置に仮想焦点面を置いた場合において、合成された仮想焦点面画像を示す。
一般的に、被写界深度の浅い画像では、焦点は画像上でもっとも関心の高い被写体の存在する奥行きに対して合わせられる。このとき、合焦対象となる被写体では鮮鋭度の高い高画質の画像を得ることができ、他の不要な奥行きでは、ぼけの生じた画像となる。「仮想焦点面面像」もこれに似た性質を持ち、仮想焦点面上では画像の鮮鋭度が高く、仮想焦点面から離れた点になるにつれ、画像にぼけが生じる。また、仮想焦点面上では、複数の異なるカメラで同一場面の画像を複数枚撮影することと、同様の効果を得られる。そのため、ノイズを低減し、画質の向上した画像を得ることができる。さらに、視差をサブピクセル単位で推定することで、基準画像と参照画像のサブピクセル単位でのずれ量を推定することもできるため、高解像度化の効果を得ることもできる。」(8頁20行?9頁20行)

(2)引用文献2に記載された発明
上記(1)アによると、引用文献2には、アレイをなす複数のカメラが記載され、当該カメラを用いて得られた多視点画像の1つを基準画像とし、残りの全ての画像を参照画面とし、ある奥行きに存在する点について、対応する視差を用いて全ての参照画像を基準画像に重なるように変形することが記載されている。
また、上記(1)イによると、ある奥行きに存在する点について、対応する視差を用いて全ての参照画像を基準画像に重なるように変形するといった方法を用いて、多視点画像に基づいて合成した仮想焦点面画像を生成する。ここで、仮想焦点面は、注目した視差に対応して生じた仮想な焦点面である。
さらに、上記(1)イによると、「第5図(A)及び第5図(B)は、それぞれ奥の壁面、手前の箱の前面に仮想焦点面を置いたときの仮想焦点面画像である」から、仮想焦点面は設定できるものである。
そして、上記(1)イによると、「仮想焦点面上では画像の鮮鋭度が高く、仮想焦点面から離れた点になるにつれ、画像にぼけが生じる」。

以上によると、引用文献2には、次の発明(以下「引用文献2発明」という。)が記載されている。

(引用文献2発明)
アレイをなす複数のカメラであって、
前記複数のカメラを用いて撮影して得られた多視点画像の1つを基準画像とし、残りの全ての画像を参照画面とし、ある奥行きに存在する点について、対応する視差を用いて、全ての参照画像を基準画像に重なるように変形し、多視点画像に基づいて合成した仮想焦点面画像を生成し、
前記仮想焦点面は、注目した視差に対応して生じた仮想な焦点面であって、設定でき、
仮想焦点面上では画像の鮮鋭度が高く、仮想焦点面から離れた点になるにつれ、画像にぼけが生じる、
アレイをなす複数のカメラ。

第3 対比
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)構成要件Aと構成aとを対比する。
構成aの「テレビ電話のカメラ」は、構成bによると、ユーザの画像以外は不明瞭にされ、構成cによると、ターゲット以外の部分を所定の画像と入れ替えるから、「プライバシー・カメラ」といえる。
したがって、構成要件Aと構成aとは、「プライバシー・カメラの動作方法」として共通する。
しかしながら、「プライバシー・カメラ」が、本願発明においては、「アレイをなす複数のカメラを含む」ものであるのに対し、引用発明においては、「アレイをなす複数のカメラを含む」ものでない点で相違する。

(2)構成要件Bと構成dとを対比する。
構成dの「ユーザの顔、頭、および肩を取り込まれたビデオ画像内で動的に検出」することは、構成要件Bの「前景および背景を含むシーン内の関心オブジェクトを判別する」ことに相当するから、構成要件Bと構成dとは一致する。

(3)構成要件Cについて
引用発明には、「背景ぼかしおよび背景置換を含むプライバシー・モードからプライバシー・モードを決定する段階」はなく、本願発明と相違する。

(4)構成要件Dと構成bとを対比する。
構成bは、「浅い被写界深度を有するビデオ画像、すなわち、前景442におけるユーザ430の画像のみが焦点が合った状態に保持され、一方で、室内用鉢植え植物450および家族メンバ460は、不鮮明にされて不明瞭にされるビデオ画像を生成する段階」であって、浅い被写界深度を有するビデオ画像を生成するから、浅い被写界深度を設定しているといえる。
そして、構成bは、背景をぼかしているといえるから、「背景ぼかしであるとき」といえる。
したがって、構成要件Dと構成bとは、「背景ぼかしであるとき、前記シーンの前景における関心オブジェクトは焦点が合って見え、前記シーンの背景内のオブジェクトは焦点が合っていないように見えるように、前記プライバシー・カメラについて限られた被写界深度を設定することによって、画像を生成する段階」として共通する。
しかしながら、上記(3)のとおり、引用発明は「背景ぼかしおよび背景置換を含むプライバシー・モードからプライバシー・モードを決定する段階」がないから、「背景ぼかしであるとき」が、「前記決定されたプライバシー・モードが背景ぼかしであるとき」と特定されてない点で、本願発明と相違する。

(5)構成要件D-1について
上記(1)のとおり、引用発明は、「アレイをなす複数のカメラを含む」ものでないから、複数のカメラに関連する構成要件D-1を有していない点で、本願発明と相違する。

(6)構成要件Eと構成cとを対比する。
構成cは、「取り込まれたビデオ画像の、焦点が合った状態に保持されるターゲット部分以外の部分を所定の画像と入れ替えたビデオ画像を生成する段階」であって、「焦点が合った状態に保持されるターゲット部分」があるから、「前記前景を判別することにおいて使われる前記プライバシー・カメラの動的に調節可能な前景奥行きを、前記シーン内の関心オブジェクトを含むように設定」されていることは明らかであり、「焦点が合った状態に保持されるターゲット部分以外の部分を所定の画像と入れ替え」るから、「前記背景を置換画像および充填物のうちの少なくとも一方で置き換えることによって画像を生成する」といえる。
そして、構成cは、背景を置換しているといえるから、「背景置換であるとき」といえる。
したがって、構成要件Eと構成cとは、「背景置換であるとき、前記前景を判別することにおいて使われる前記プライバシー・カメラの動的に調節可能な前景奥行きを、前記シーン内の関心オブジェクトを含むように設定し、前記背景を置換画像および充填物のうちの少なくとも一方で置き換えることによって画像を生成する段階」として共通する。
しかしながら、上記(3)のとおり、引用発明は「背景ぼかしおよび背景置換を含むプライバシー・モードからプライバシー・モードを決定する段階」がないから、「背景置換であるとき」が、「前記決定されたプライバシー・モードが背景置換であるとき」と特定されてない点で、本願発明と相違する。

(7)構成要件Fと構成eとを対比する。
構成eは、「前記画像を表示する段階」として、構成要件Fと一致する。

2 一致点、相違点
以上によると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。
なお、共通するものの相違点がある構成要件には、記号に「’」を付与した。

(一致点)
(A’)プライバシー・カメラの動作方法であって:
(B)前景および背景を含むシーン内の関心オブジェクトを判別する段階と;
(D’)背景ぼかしであるとき、前記シーンの前景における関心オブジェクトは焦点が合って見え、前記シーンの背景内のオブジェクトは焦点が合っていないように見えるように、前記プライバシー・カメラについて限られた被写界深度を設定することによって、画像を生成する段階と;
(E’)背景置換であるとき、前記前景を判別することにおいて使われる前記プライバシー・カメラの動的に調節可能な前景奥行きを、前記シーン内の関心オブジェクトを含むように設定し、前記背景を置換画像および充填物のうちの少なくとも一方で置き換えることによって画像を生成する段階と;
(F)前記画像を表示する段階とを含む、
(A)方法。

(相違点1)
「プライバシー・カメラ」が、本願発明においては「アレイをなす複数のカメラを含む」ものであるのに対し、引用発明においては「アレイをなす複数のカメラを含む」ものでない点(以下「相違点1-1」という。)で相違し、当該相違に伴い、本願発明においては、「前記複数のカメラからのそれぞれの画像を組み合わせて、焦点があって見える関心オブジェクトと、ぼけて見える前記シーンの背景内のオブジェクトを含む単一の画像を生成し、前記背景内のオブジェクトは、前記アレイの大きさ及び/又は前記アレイ内の前記複数のカメラの間隔に応じたぼかし効果を有する」のに対し、引用発明においては「前記複数のカメラからのそれぞれの画像を組み合わせて、焦点があって見える関心オブジェクトと、ぼけて見える前記シーンの背景内のオブジェクトを含む単一の画像を生成」するものではなく、「前記背景内のオブジェクトは、前記アレイの大きさ及び/又は前記アレイ内の前記複数のカメラの間隔に応じたぼかし効果を有する」ものではない点(以下「相違点1-2」という。)

(相違点2)
本願発明は、「背景ぼかしおよび背景置換を含むプライバシー・モードからプライバシー・モードを決定する段階」を含むものであるのに対し、引用発明は、「背景ぼかしおよび背景置換を含むプライバシー・モードからプライバシー・モードを決定する段階」を含むものでない点で相違し、当該相違に伴い、「背景ぼかしであるとき」及び「背景置換であるとき」が、本願発明においては「前記決定されたプライバシー・モードが背景ぼかしであるとき」及び「前記決定されたプライバシー・モードが背景置換であるとき」であるのに対し、引用発明においては「前記決定されたプライバシー・モードが背景ぼかしであるとき」及び「前記決定されたプライバシー・モードが背景置換であるとき」ではない点

第4 判断
各相違点について検討する。

1 相違点1について
(1)相違点1-1について
上記第2の2(2)のとおり、引用文献2には、
「アレイをなす複数のカメラであって、
前記複数のカメラを用いて撮影して得られた多視点画像の1つを基準画像とし、残りの全ての画像を参照画面とし、ある奥行きに存在する点について、対応する視差を用いて、全ての参照画像を基準画像に重なるように変形し、多視点画像に基づいて合成した仮想焦点面画像を生成し、
前記仮想焦点面は、注目した視差に対応して生じた仮想な焦点面であって、設定でき、
仮想焦点面上では画像の鮮鋭度が高く、仮想焦点面から離れた点になるにつれ、画像にぼけが生じる、
アレイをなす複数のカメラ。」(引用文献2発明)
が記載されている。
引用文献2発明は、仮想焦点面が設定でき、焦点位置を変更可能なカメラであるから、引用発明の前景(又はターゲット部分)に焦点を合わせるカメラとして、引用文献2発明のカメラを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明の「カメラ」に、引用文献2発明の「アレイをなす複数のカメラ」を採用し、「アレイをなす複数のカメラを含むプライバシー・カメラ」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点1-2について
引用文献2発明のアレイをなす複数のカメラは、多視点画像に基づいて合成した仮想焦点面画像を生成し、仮想焦点面上では画像の鮮鋭度が高く、仮想焦点面から離れた点になるにつれ、画像にぼけが生じるものであるから、焦点があって見える関心オブジェクトと、ぼけて見える前記シーンの背景内のオブジェクトを含む単一の画像を生成するものである。
また、引用文献2発明のアレイをなす複数のカメラのそれぞれのカメラは、アレイにおけるカメラの位置において、画像を取得するものであり、当該画像は、カメラの位置の違いにより、それぞれ異なるものである。そして、カメラの間の距離により、撮像された画像が異なることは自明であり、画像の異なり方により、合成された画像の背景のぼかし効果が異なることは明らかである。そうすると、引用文献2発明のアレイをなす複数のカメラにおいて、前記背景内のオブジェクトは、前記アレイの大きさ及び/又は前記アレイ内の前記複数のカメラの間隔に応じたぼかし効果を有することは明らかである。
したがって、引用発明の「カメラ」に引用文献2発明の「アレイをなす複数のカメラ」を採用した構成は、「前記複数のカメラからのそれぞれの画像を組み合わせて、焦点があって見える関心オブジェクトと、ぼけて見える前記シーンの背景内のオブジェクトを含む単一の画像を生成し、前記背景内のオブジェクトは、前記アレイの大きさ及び/又は前記アレイ内の前記複数のカメラの間隔に応じたぼかし効果を有する」ことは明らかである。

(3)まとめ
以上によると、引用発明の「カメラ」に、引用文献2発明の「アレイをなす複数のカメラ」を採用し、「アレイをなす複数のカメラを含むプライバシー・カメラ」とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記容易想到の構成は、「アレイをなす複数のカメラを含むプライバシー・カメラ」は、「前記複数のカメラからのそれぞれの画像を組み合わせて、焦点があって見える関心オブジェクトと、ぼけて見える前記シーンの背景内のオブジェクトを含む単一の画像を生成」するものであり、「前記背景内のオブジェクトは、前記アレイの大きさ及び/又は前記アレイ内の前記複数のカメラの間隔に応じたぼかし効果を有する」ものである。

2 相違点2について
引用発明は、「浅い被写界深度を有するビデオ画像、すなわち、前景442におけるユーザ430の画像のみが焦点が合った状態に保持され、一方で、室内用鉢植え植物450および家族メンバ460は、不鮮明にされて不明瞭にされるビデオ画像を生成する段階」(構成b)及び「取り込まれたビデオ画像の、焦点が合った状態に保持されるターゲット部分以外の部分を所定の画像と入れ替えたビデオ画像を生成する段階」(構成c)を含んでおり、当該構成は、ユーザの画像以外の画像を不明瞭にされるビデオ画像を生成する段階、及びターゲット部分以外の部分を所定の画像と入れ替えたビデオ画像を生成する段階であり、プライバシーを守るための対処の仕方である。
2つの対処の仕方を選択できるようにすることは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、引用発明において、「背景ぼかしおよび背景置換を含むプライバシー・モードからプライバシー・モードを決定する段階」を含むようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、そのように想到し得た方法においては、「背景ぼかしであるとき」及び「背景置換であるとき」が「前記決定されたプライバシー・モードが背景ぼかしであるとき」及び「前記決定されたプライバシー・モードが背景置換であるとき」となる。

3 効果
本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものでもない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-09-04 
結審通知日 2020-09-08 
審決日 2020-09-28 
出願番号 特願2015-549724(P2015-549724)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松元 伸次  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 小池 正彦
間宮 嘉誉
発明の名称 プライバシー・モードのあるカメラ  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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