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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01M
管理番号 1371218
審判番号 不服2019-5961  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-08 
確定日 2021-02-10 
事件の表示 特願2018-517169「索類製品の非破壊評価」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日国際公開、WO2017/059365、平成30年10月25日国内公表、特表2018-531384〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)9月30日(パリ条約による優先権主張 2015年9月30日 米国、2015年12月3日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年8月10日付けで拒絶理由が通知され、同年11月21日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月19日付けで拒絶査定されたところ、令和元年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において令和2年2月20日付けで拒絶理由が通知され、同年7月22日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされるとともに、意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本件補正によって補正された、特許請求の範囲の請求項1(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

「 【請求項1】
稼働中の繊維の索類製品の最新の物理条件を非破壊的に評価するシステムであって、
前記システムは、
前記繊維の索類製品の二つ若しくはそれ以上の周知の特徴の間の距離における変化を示す繊維の索類製品の伸長データを提供するように構成された距離センサと、
稼働の間に軸方向に前記繊維の索類製品に及ぶ張力を示す、加えられる荷重データを提供するように構成された張力センサと、及び、
前記距離センサ及び前記張力センサと接続するモニタリングデバイスと
を備え、
前記モニタリングデバイスは、
荷重を操作する稼働に配されていた間に、繊維の索類製品に係る、繊維の索類製品の伸長データと加えられる荷重データとの両方を含む、センサデータを取得することと、
前記センサデータに基づいて、前記繊維の索類製品と関連する軸方向剛性値を判別することであって、前記軸方向剛性値は前記繊維の索類製品の判別した伸長に基づくものであり、前記軸方向剛性値は前記繊維の索類製品の長さから独立しており、前記繊維の索類製品の判別した伸長は前記繊維の索類製品の伸長データに基づくものである、軸方向剛性値を判別することと、及び、
或る期間に亘って判別された複数の軸方向剛性値に基づいて前記繊維の索類製品の健全状態を推定することであって、前記健全状態は前記繊維の索類製品の最新の物理条件を示すものである、推定することと
を行うように構成されている、
システム。」

第3 拒絶の理由
令和2年2月20日付けで当審が通知した拒絶理由のうち、請求項1に対する理由2(進歩性)の概要は、次のとおりのものである。

2.(進歩性)本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特表2008-533482号公報
引用文献2.塚田和彦,ワイヤロープの劣化の非破壊検査に関する研究,日本,1990年 1月23日,表紙、P.132?139,[平成30年8月10日検索],URL,https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/74741/1/D_Tsukada_Kazuhiko.pdf

第4 引用文献及びその記載事項
1 引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、以下の摘記において、2の引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。

(1-ア)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの構造物の部分(6,12,13,15)であって、該構造物の第1の基準点(7,16)と第2の基準点(7,17)とによって範囲が定められ、破断がない状態で所定の剛性を有し、引張力または圧縮力(F)が加えられている部分の内部の破断を検出する方法であって、
前記部分に加えられた引張力または圧縮力の変化量(ΔF)に応じて、前記構造物の前記部分の内部の少なくとも1つの長さの変化を検出するステップと、
検出された前記長さの変化から、前記構造物の前記部分の内部に破断があるかどうかを推定するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記部分に加えられる引張力または圧縮力の変化量(ΔF)はあらかじめ定められており、前記構造物の前記部分(6)の内部に破断があるかどうかの前記推定は、さらに前記部分の前記所定の剛性と、該部分に加えられた前記引張力または圧縮力の前記あらかじめ定められた変化量と、に基づいてなされる、請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項20】
請求項1から19のいずれか1項に記載の方法を実施するようにされたシステムであって、少なくとも1つの構造物の部分(6,12,13,15)の内部の少なくとも1つの長さの変化を検出する検出手段を有し、該部分は、前記構造物の第1の基準点(7,16)と第2の基準点(7,17)とによって範囲を定められ、破断がない状態で所定の剛性を有しており、前記部分に加えられた引張力または圧縮力(F)の変化量(ΔF)に応じて、前記検出手段によって検出された長さの変化が、前記構造物の前記部分の内部に破断があるかどうかについての指標を与えるシステム。」

(1-イ)
「【技術分野】
【0001】
本発明は構造物内部の破断の検出に関する。本発明は、特に、吊橋の主サスペンションケーブルなど、ケーブルの内部の破断検出に適用されるが、それに限定されない。
【背景技術】
・・・
【0006】
主サスペンションケーブル3は、通常、実質的に平行な、一般に鋼で作られた複数の金属撚線(綯われる場合もある。)からなっている。これらの撚線は、様々な手段、すなわち熱処理、化学処理、塗料の塗布、被覆等により腐食から保護されている。」

(1-ウ)
「【0010】
従って、これらの理由により、このようなケーブルの内部で、あるいは考えられる引張力または圧縮力を受ける他のあらゆる構造物の内部で発生する可能性のある破断を早期に信頼できる方法で検出することは重要である。
【0011】
ケーブルの音響検査を利用して、ケーブル内部の破断の開始を検出する方法は公知である。ケーブルを構成する撚線の破断時に解放されたエネルギーが、これによりマイクロホンを用いて収集、記録される。しかし、この技術は、破断が生じる瞬間で破断を検出できるだけである。この技術は、破断回数の履歴を直接提供しないのみならず、ケーブルの状態に関するいかなる決定論的な徴候も与えるものではない。さらに、この技術は、発生した破断の特徴を、特に破断位置及び破断の程度の点で直接明らかにすることもできない。
【発明の開示】
【0012】
本発明の第1の目的は、公知の技術の不都合を解消することである。
【0013】
より具体的には、本発明の1つの目的は、ケーブルなどの構造物の内部で生じている可能性のある破断を検出することである。
【0014】
本発明の他の目的は、特に破断位置及び破断の程度の点から破断の特徴を明らかにすることである。
【0015】
従って、本発明は、少なくとも1つの構造物の部分であって、構造物の第1の基準点と第2の基準点とによって範囲が定められ、破断がない状態で所定の剛性を有し、引張力または圧縮力が加えられている部分の内部の破断を検出する方法を提案する。本方法は、
部分に加えられた引張力または圧縮力の変化量(ΔF)に応じて、構造物の部分の内部の少なくとも1つの長さの変化を検出するステップと、
検出された長さの変化から、構造物の部分の内部に破断があるかどうかを推定するステップと、
を有している。
【0016】
このように、本方法は、構造物の内部に存在しうる、起こり得るあらゆる破断の検出を可能にする。」

(1-エ)
「【0020】
図2は、本発明によるシステム及び方法を適用できるケーブルの部分または区間6を示している。本発明は橋梁、スラブ等の所定の剛性を持つあらゆる種類の構造物にも適用できることが理解されよう。
【0021】
図1のケーブルは、例えば、実質的に平行な金属撚線(綯われる場合もある。)からなる吊橋の主サスペンションケーブルである。区間6は、このようにハンガーケーブル8がしっかりと取り付けられている2つのハンガーケーブル環7の間を延びている。区間は長さLと、断面積Sと、弾性係数Eとを有している。ケーブルを構成する撚線が鋼で作られている場合、弾性係数Eは鋼の弾性係数となる。従って、ばねと同様に、すなわち次式
K=E×S/L (1)
を用いて、区間6の剛性Kを計算することができる。
【0022】
ケーブル区間6は、通常、力Fを受けている。力の変動ΔFがケーブルに生じると、この変動は、ΔFに比例し剛性Kに反比例する長さの変化ΔLを区間6に引き起こす。すなわち、
ΔL=ΔF/K (2)
である。
【0023】
ケーブルの1本以上の撚線が区間6内で破断していると、この区間の断面積は、破断点を囲む区域において、破断した撚線の断面積に対応する断面積、すなわちΔSだけ減少する。上述したように、この破断区域は、撚線間の内部摩擦によって限定される。従って、この区間は、各々のばねがその断面積に応じた剛性を持つ、直列に連結された複数のばねのように挙動すると考えることができる。
【0024】
図3はこのモデルを示している。図3は、2つのハンガーケーブル環7間を延びるケーブル区間12を示している。
【0025】
この区間の全長Lは、各々の長さがL1,L2,L3である3つの連続する区域9?11に分割されている。区域10は破断区域、すなわちケーブルの撚線が破断した区域である。つまり、区間12の断面積が、破断による影響を受けなかった区域9,11のSと比較して、この区域ではS-ΔSとなることを意味している。
【0026】
式(1)より、区域9?11の剛性は、それぞれ、
K1=E×S/L1
K2=E×(S-ΔS)/L2
K3=E×S/L3 (3)
となる。
【0027】
従って、区間12の全体剛性K'は、これらのばねの直列に組み合わせとして記述でき、
1/K'=1/K1+1/K2+1/K3 (4)
として与えられる。
【0028】
剛性K'は、「正常な」部分、すなわち図2の区間6のようにその内部にいかなる破断も生じていない区間の剛性よりも小さくなる。
【0029】
その結果、区間12で力を増やすと、局所的な断面積の欠損がない部分よりも大きい伸びが生じる。余分な伸びは、力の増加と断面積の欠損によって影響を受けた部分の長さに比例する。
【0030】
従って、追加の力ΔFが加えられたときの区間12の長さの増加ΔL'を検出することによって、この区間の内部に破断があることが結論付けられる。追加の力ΔFの値と破断がないときの当該区間の剛性Kとを知ることにより、伸びΔL'が正常な区間の伸びΔLより大きいことを確認することができ、従って、このことから区間12の内部に破断が生じていることが推定できる。」

2 引用発明について
上記(1-ア)?(1-エ)の記載を踏まえ、さらに、「区間6」、「ケーブル区間6」及び「区間12」は、いずれも2つのハンガーケーブル環7の間の区間を表す(【0021】、【0024】)ことから、これらを「ケーブル区間」と用語を揃えれば、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、引用発明の認定に使用した引用文献1の段落番号等を付記してある。
「a)サスペンションケーブルのハンガーケーブル8がしっかりと取り付けられている2つのハンガーケーブル環7の間を延びているケーブル区間について、【0021】
b)破断がないときの当該ケーブル区間の剛性Kを計算し、【0021】【0030】
c)追加の力ΔFの値と破断がないときの当該ケーブル区間の剛性KとからΔL=ΔF/Kにより破断がないときの伸びΔLを求め、【0022】【0030】
d)通常の力Fに追加の力ΔFが加えられたときの当該ケーブル区間の長さの伸びΔL'を検出し、【0030】
e)伸びΔL'が破断がないときの伸びΔLより大きいことを確認し、【0030】
f)ケーブル区間の内部に破断が生じていることを推定する、【0030】
g)ケーブル区間内部で生じている可能性のある破断を検出する装置。【0020】」

3 引用文献2には、次の事項が記載されている。
(3-ア)
「9.4 結言
構造用ワイヤロープの引張疲労試験を実施し、繰返し引張荷重下におけるワイヤロープの挙動と劣化進行の過程について、ロープの伸び・剛性の変化ならびに素線破断数の推移に注目して検討した。得られた結果を要約すると以下のようである。
1)構造用ワイヤロープの引張疲労試験においては、各繰返しサイクルでのロープの平均伸びや剛性の変化も、その劣化の進行度合いを知るための指標として有用である。とくにロープ剛性は、劣化の進行に対して敏感で、その変化は素線破断の発生とよく対応する。」(139頁1?7行)

第5 対比・判断
1 対比
(1)本願発明1との対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「サスペンションケーブル」は、段落【0021】に「実質的に平行な金属撚線(綯われる場合もある。)からなる」と記載されているように金属繊維から構成されるものなので本願発明1の「繊維の索類製品」に相当する。
引用発明の「ハンガーケーブル環7」、「ケーブル区間の長さ」、「ケーブル区間の長さの伸びΔL'」、「通常の力F」、「追加の力ΔF」及び「当該ケーブル区間の剛性K」は、それぞれ、本願発明1の「周知の特徴」、「周知の特徴の間の距離」、「周知の特徴の間の距離における変化を示す繊維の索類製品の伸長データ」、「稼働の間に軸方向に前記繊維の索類製品に及ぶ張力を示す、加えられる荷重データ」、「「荷重を操作する稼働に配されていた間に、繊維の索類製品に係る」「加えられる荷重データ」」及び「繊維の索類製品と関連する軸方向剛性値」に相当する。

イ 引用発明の「g)ケーブル区間内部で生じている可能性のある破断を検出する装置。」は、使用中のサスペンションケーブルの現在の物理的状態である破断を検出するのであり、サスペンションケーブルを破壊しない測定装置を用いることは自明であるから、本願発明1の「稼働中の繊維の索類製品の最新の物理条件を非破壊的に評価するシステム」に相当する構成を備えているといえる。

ウ 引用発明の「a)サスペンションケーブルのハンガーケーブル8がしっかりと取り付けられている2つのハンガーケーブル環7の間を延びているケーブル区間について、」「d)通常の力Fに追加の力ΔFが加えられたときの当該ケーブル区間の長さの伸びΔL'を検出」することは、2つのハンガーケーブル環7の間の追加の力ΔFと区間の長さの伸びΔL'を検出することであるから、上記アを踏まえると、
引用発明の「a)サスペンションケーブルのハンガーケーブル8がしっかりと取り付けられている2つのハンガーケーブル環7の間を延びているケーブル区間について、」「d)通常の力Fに追加の力ΔFが加えられたときの当該ケーブル区間の長さの伸びΔL'を検出」することと、
本願発明1の「前記繊維の索類製品の二つ若しくはそれ以上の周知の特徴の間の距離における変化を示す繊維の索類製品の伸長データを提供するように構成された距離センサと、
稼働の間に軸方向に前記繊維の索類製品に及ぶ張力を示す、加えられる荷重データを提供するように構成された張力センサと、及び、
前記距離センサ及び前記張力センサと接続するモニタリングデバイスと
を備え、
前記モニタリングデバイスは、
荷重を操作する稼働に配されていた間に、繊維の索類製品に係る、繊維の索類製品の伸長データと加えられる荷重データとの両方を含む、センサデータを取得すること」とは、
「センサ」及び「デバイス」を省いて上位概念化した、
「前記繊維の索類製品の二つ若しくはそれ以上の周知の特徴の間の距離における変化を示す繊維の索類製品の伸長データを検出」し「稼働の間に軸方向に前記繊維の索類製品に及ぶ張力を示す、加えられる荷重データを検出し」て、「荷重を操作する稼働に配されていた間に、繊維の索類製品に係る、繊維の索類製品の伸長データと加えられる荷重データとの両方を含む、データを取得すること」で共通する。

エ 引用発明の「伸びΔL'」は「破断がないときの伸びΔL」と比較して、サスペンションケーブル内部で生じている可能性のある破断を検出するので、「伸びΔL'」は「f)ケーブル区間の内部に破断が生じていることを推定する」ために用いる健全状態を推定するための値といえる。
さらに、引用発明の「e)伸びΔL'が破断がないときの伸びΔLより大きいことを確認し、
f)ケーブル区間の内部に破断が生じていることを推定する」ことは、「伸びΔL'が破断がないときの伸びΔL」以下である「ことを確認し、ケーブル区間の内部に破断」という物理条件「が生じて」いない健全状態を「推定する」ことであるともいえる。
また、本願発明1の「剛性」は単位長さ当たりの物理量であるから、剛性が長さと独立していることは、剛性の自明な性質である。

そうすると、引用発明の「c)追加の力ΔFの値と破断がないときの当該ケーブル区間の剛性KとからΔL=ΔF/Kにより破断がないときの伸びΔLを求め」、
「e)伸びΔL'が破断がないときの伸びΔLより大きいことを確認し、
f)ケーブル区間の内部に破断が生じていることを推定する」ことと、
本願発明1の「前記センサデータに基づいて、前記繊維の索類製品と関連する軸方向剛性値を判別することであって、前記軸方向剛性値は前記繊維の索類製品の判別した伸長に基づくものであり、前記軸方向剛性値は前記繊維の索類製品の長さから独立しており、前記繊維の索類製品の判別した伸長は前記繊維の索類製品の伸長データに基づくものである、軸方向剛性値を判別することと、及び、
或る期間に亘って判別された複数の軸方向剛性値に基づいて前記繊維の索類製品の健全状態を推定することであって、前記健全状態は前記繊維の索類製品の最新の物理条件を示すものである、推定すること」とは、
「前記データに基づいて、前記繊維の索類製品と関連する健全状態を推定するための値を判別することであって、前記値は前記繊維の索類製品の判別した伸長に基づくものであり、前記繊維の索類製品の判別した伸長は前記繊維の索類製品の伸長データに基づくものである、前記値を判別することと、及び、
判別された前記値に基づいて前記繊維の索類製品の健全状態を推定することであって、前記健全状態は前記繊維の索類製品の最新の物理条件を示すものである、推定すること」で共通する。

(2)よって、本願発明1と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点1?3で相違する。

(一致点)
「稼働中の繊維の索類製品の最新の物理条件を非破壊的に評価するシステムであって、
前記システムは、
前記繊維の索類製品の二つの周知の特徴の間の距離における変化を示す繊維の索類製品の伸長データを検出し、
稼働の間に軸方向に前記繊維の索類製品に及ぶ張力を示す、加えられる荷重データを検出して、
荷重を操作する稼働に配されていた間に、繊維の索類製品に係る、繊維の索類製品伸長データと加えられる荷重データとの両方を含む、データを取得することと、
前記データに基づいて、前記繊維の索類製品と関連する健全状態を推定するための値を判別することであって、前記値は前記繊維の索類製品の判別した伸長に基づくものであり、前記繊維の索類製品の判別した伸長は前記繊維の索類製品の伸長データに基づくものである、前記値を判別することと、及び、
判別された前記値に基づいて前記繊維の索類製品の健全状態を推定することであって、前記健全状態は前記繊維の索類製品の最新の物理条件を示すものである、推定することと
を行うように構成されている、
システム」

(相違点1)
「繊維の索類製品の伸長データの検出」、「荷重データの検出」、及び「前記データに基づいて、前記繊維の索類製品と関連する値を判別することであって、前記値は前記繊維の索類製品の判別した伸長に基づくものであり、前記値は前記繊維の索類製品の長さから独立しており、前記繊維の索類製品の判別した伸長は前記繊維の索類製品の伸長データに基づくものである、前記値を判別することと、及び、
判別された前記値に基づいて前記繊維の索類製品の健全状態を推定することであって、前記健全状態は前記繊維の索類製品の最新の物理条件を示すものである、推定することとを行う」ために、本願発明1では、それぞれ、「距離センサ」、「張力センサ」、及び「モニタリングデバイス」を備えているのに対して、引用発明ではそれらが特定されていない点。

(相違点2)
繊維の索類製品の健全状態を推定するための値として、本願発明1では、「繊維の索類製品の長さから独立して」いる「軸方向剛性値」を用いているのに対して、引用発明では「伸び」を用いている点。

(相違点3)
判別された前記値に基づいて前記繊維の索類製品の健全状態を推定することについて、本願発明1では、「或る期間に亘って判別された複数の」値を用いているのに対して、引用発明では、複数の値を用いるとの特定がされていない点。

2 判断
(1)相違点1について
ケーブル区間の長さの伸びΔL'を検出するために、距離センサを用いること、追加の力ΔFを検出するために、張力センサを用いること、複数のセンサ出力から演算し判断するためにモニタリングデバイスを用いることは、いずれも周知の技術事項であるから、追加の力ΔFの値と破断がないときの当該ケーブル区間の剛性KとからΔL=ΔF/Kにより破断がないときの伸びΔLを求め、伸びΔL'が破断がないときの伸びΔLより大きいことを確認し、ケーブル区間の内部に破断が生じていることを推定するために、伸びΔL'を検出するための距離センサ及び追加の力ΔFを検出するための張力センサ並びに各センサと接続するモニタリングデバイスを用い、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用文献1には、上記「第4 1(1-エ)」に「【0022】ケーブル区間6は、通常、力Fを受けている。力の変動ΔFがケーブルに生じると、この変動は、ΔFに比例し剛性Kに反比例する長さの変化ΔLを区間6に引き起こす。」と、剛性Kと長さの変化ΔLが反比例することが記載されており、また、引用文献2にはロープ剛性が劣化の進行に敏感である旨の記載があることから、長さの変化ΔL(伸び)に代えて剛性Kを採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、剛性Kは単位長さ当たりの物理量であるから、長さと独立していることは自明である。

(3)相違点3について
引用文献1には、上記「第4 1(1-ウ)」に「【0010】」「ケーブルの内部で」「発生する可能性のある破断を早期に信頼できる方法で検出することは重要である。」と引用発明の課題が記載されている。
そして、破断を早期に検出するためには、破断を検出するまでのある期間に亘って、複数回の測定をすることが課題解決手段となることは自明であるから、引用発明に上記課題解決手段を付加して相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)作用効果について
本願発明1の作用効果は、引用文献1、2の記載事項及び周知の技術事項から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。

(5)請求人の主張について
請求人は、令和2年7月22日付けの意見書の「(2)理由2(進歩性)に対する意見 (2-1)」において「更に、引用文献1、2は、ワイヤケーブルとロープにのみ関連するものです。引用文献1、2は、「繊維の索類製品を分析すること」を開示又は関連していません。
上述のように、引用文献1は、つり橋の主ケーブルの断線検出に関するものであり、麻ではなく、金属より糸を含む、それらケーブルを記載するに過ぎません。引用文献1に記載の破損検出システムは、具体的にそれらワイヤケーブルに対するものであり、従って、引用文献1の明細書に記載のように、ワイヤロープとケーブルの構造に限定され、他のタイプのケーブル、特に、繊維の索類製品には適用されません。」と主張するが、ロープやケーブルは針金等の金属繊維を用いており、また、本願発明1は、繊維が麻であるものに特定されていないことから、「繊維の索類製品」と相違するとはいえないので、請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明、引用文献2の記載事項及び周知の技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-09-07 
結審通知日 2020-09-08 
審決日 2020-09-23 
出願番号 特願2018-517169(P2018-517169)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本村 眞也  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 渡戸 正義
信田 昌男
発明の名称 索類製品の非破壊評価  
代理人 柏原 啓伸  
代理人 山尾 憲人  
代理人 岡部 博史  

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