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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1371276
審判番号 不服2020-7325  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-29 
確定日 2021-03-09 
事件の表示 特願2016-573427「配線シート、構造体および光発電モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月11日国際公開、WO2016/125880、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年2月5日(優先権主張 2015年2月6日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
令和元年 7月31日付け 拒絶理由通知(同年8月6日発送)
同年 9月30日 手続補正・意見書提出
令和2年 2月27日付け 拒絶査定(同年3月3日送達)
同年 5月29日 審判請求

第2 本件発明
本件の請求項1?10に記載された発明は、特許請求の範囲の請求項1?10の記載により特定される、以下のとおりのもの(以下においては、請求項1?10に係る発明を、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」という。)である。
「【請求項1】
樹脂シートと、
前記樹脂シートの一方の面に設けられた微細配線と、
を有し、
JIS-K7105に準じて測定した前記樹脂シートの350nmの波長における光線透過率が、70%以上である、配線シートであって、
前記樹脂シートが、以下の(A)および(B)のいずれかを含む樹脂材料により形成されている配線シート。
(A)エチレンと不飽和カルボン酸を含む共重合体、または前記共重合体のアイオノマー
(B)エチレンと(メタ)アクリル酸グリシジルを含む共重合体
【請求項2】
JIS-K7105に準じて測定した前記樹脂シートの全光線透過率が80%以上である、請求項1に記載の配線シート。
【請求項3】
前記微細配線が、平行に配置されてなる複数のワイヤにより形成されている、請求項1または2に記載の配線シート。
【請求項4】
室温条件下、JIS-K7215に準じてタイプDデュロメータを用いて測定した、前記樹脂シートを形成する材料のショアD硬度が、25を超えて200以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の配線シート。
【請求項5】
前記微細配線の一部が、前記樹脂シートに埋設されている請求項1乃至4のいずれか一項に記載の配線シート。
【請求項6】
前記樹脂シートが、多層構造を有している請求項1乃至5のいずれか一項に記載の配線シート。
【請求項7】
前記樹脂シートにおける前記微細配線が設けられている面とは反対側の面に、フッ素樹脂およびアクリル樹脂からなる群より選択される1以上を含む材料により形成された層を有する、請求項6に記載の配線シート。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載された配線シートと、以下の(A)および(B)のいずれかを含む樹脂材料により形成されている封止材と、からなる構造体。
(A)エチレンと不飽和カルボン酸を含む共重合体、または前記共重合体のアイオノマー
(B)エチレンと(メタ)アクリル酸グリシジルを含む共重合体
【請求項9】
前記封止材が、白色顔料を含む請求項8に記載の構造体。
【請求項10】
透光性基板と、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載された配線シートと、
を備えた光発電モジュール。」

第3 原査定の拒絶の理由について
原査定の拒絶の理由は、本件発明1ないし3は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明および引用文献3?6に記載された周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明3ないし10は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明および引用文献3?7に記載された周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
1 特表2005-536894号公報
2 特開2000-243990号公報
3 特開2000-186114号公報(周知技術文献)
4 特開2012-138467号公報(周知技術文献)
5 特開2012-209462号公報(周知技術文献)
6 特開2014-15544号公報(周知技術文献)
7 特開2006-210906号公報

第4 検討1 刊行物に記載された発明
(1)引用文献1:特表2005-536894号公報
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特表2005-536894号公報(以下「引用文献1」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は、導電性表面に接触する電極に関し、特に光起電力電池、即ち太陽電池の部品としての1つあるいは複数の光起電力素子(PV)に接触する電極に関する。本発明は、さらに、この電池を搭載して製造する光起電力電池に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・
【0008】
したがって、本発明の1つの目的は、低製造コストで電極と導電性表面、特に光起電力素子の一表面あるいは複数の表面との間で低接触抵抗を達成する電極を提供することである。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、このような電極を使用することにより合成直列抵抗とPV電池とPVモジュールの製造コストを低減し、費用効率を向上させることである。
【0010】
本発明は、導電性のある表面、特に光起電力素子の少なくとも1つの表面に接触する電極を提供する目的を達成する。電極は、電気的に絶縁性があり光学的に透明な膜と、膜の1つの表面上に設けられた接着剤層と、接着剤層に埋め込まれ実質的に平行で導電性のある第1の複数のワイヤとを含み、第1の複数のワイヤの表面の一部は、接着剤層から突出し、低融点の合金からなるコーティングで覆われた接着剤層から突出し、第1の複数のワイヤは、第1の端子バーに接続されている。」

(イ)「【0031】
図5Aと図5Bは、上記処理の結果、すなわち透明電極の詳細を示す。ポリマ・フィルム10に沿って延伸するワイヤ5'が接着剤11に埋め込まれ、フィルム10に押し付けられる。ワイヤ5'の一部が接着剤11の表面から突出している。図5Bは、ワイヤ5'の左側右側に、ほかに可能な断面形状をさらに示した。
【0032】
・・・(中略)・・・
【0035】
ポリマ・フィルム10には、広範囲の材料を使用できる。材料は、高い延性、良好な絶縁特性、光学的透明性、温度安定性、収縮耐性、良好な接着能力を有さなければならない。そのような材料の例をあげれば、セロファン(登録商標)、レイヨン、アセテート、フッ素樹脂、ポリスルフォン、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂である。使用すべき適切な材料は、透明ポリマ・フィルム マイラ(登録商標)である。使用することが望ましい材料は、フルオロポリマをベースとしたものであり、たとえば、ポリフッ化ビニル・フィルム・テドラおよび改質ETFEフルオロポリマ樹脂 テフツェル(登録商標)である。これらの材料は、光起電力産業ばかりではなく、一般用途ならびに積層目的で電気技術製品に使用されている。
【0036】
軟化温度が約90℃から110℃であらかじめ下塗したポリマ・フィルムおよびウェーハ3の表面に良好な接着性を有する広い範囲の材料が接着剤11として適切である。好ましい材料は、エポキシ接着剤は、もとより、アクリル接着剤、ゴム接着剤、シリコン接着剤、ポリビニル・エーテル接着剤がある。最も使用することが望ましい材料としては、たとえば、HI-SHEET INDUSTRIES、LTDが供給するエチレン・ビニル・アセテートおよびデュポンが供給する68080ポリ・メチル・メタクリレート、68040メタクリレート・コポリマ、68070メタクリレート・コポリマがある。
【0037】
接着剤層11は、電極とウェーハ3の確実な結合を得るため十分な厚さが必要である。しかし、接着剤層の厚さは、ワイヤ5'の厚さを超えてはならない。合金2で覆われるが接着剤11に埋め込まないワイヤ5'の接着剤11から突出している部分は、このあと、ウェーハ3の伝導性表面と直接オーム接触を形成することができる(図5A、図5D、図6B、図6C)。」

イ ここで、図5は次のものである。

ウ 上記(イ)の【0031】において「図5Aと図5Bは、上記処理の結果、すなわち透明電極の詳細を示す」とされていることから、上記(ア)の【0010】にかかる「光起電力素子の少なくとも1つの表面に接触する電極」は、透明なものとして構成されることがわかる。

エ 以上を総合すると、引用文献1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明1」という。)。
「光起電力素子の少なくとも1つの表面に接触する透明電極であって、
電気的に絶縁性があり光学的に透明な膜であるポリマ・フィルム10と、ポリマ・フィルム10の1つの表面上に設けられた接着剤11と、接着剤11に埋め込まれ実質的に平行で導電性のある第1の複数のワイヤ5'とを含み、
第1の複数のワイヤ5'の表面の一部は、接着剤11から突出し、第1の複数のワイヤ5'は、第1の端子バーに接続されているものであり、
ポリマ・フィルム10には、広範囲の材料を使用でき、当該材料は、高い延性、良好な絶縁特性、光学的透明性、温度安定性、収縮耐性、良好な接着能力を有さなければならず、そのような材料の例をあげれば、セロファン(登録商標)、レイヨン、アセテート、フッ素樹脂、ポリスルフォン、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂であり、
軟化温度が約90℃から110℃であらかじめ下塗したポリマ・フィルム10およびウェーハ3の表面に良好な接着性を有する広い範囲の材料が接着剤11として適切であり、好ましい材料は、エポキシ接着剤は、もとより、アクリル接着剤、ゴム接着剤、シリコン接着剤、ポリビニル・エーテル接着剤がある、
光起電力素子の少なくとも1つの表面に接触する透明電極。」

(2)引用文献2:特開2000-243990号公報
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2000-243990号公報(以下「引用文献2」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、太陽電池の外側に用いるカバーフィルム、およびその製造方法、およびそのカバーフィルムを用いた太陽電池モジュールに関し、更に詳しくは、前記カバーフィルムの構成を、耐候性フィルムに予め熱接着性樹脂層とメッシュ状電極とが積層された構成とすることにより、太陽電池モジュールの性能を維持しながら、その製造工程を簡略化し、生産性の向上と低コスト化を実現できるようにした太陽電池用カバーフィルム、およびその製造方法、およびそのカバーフィルムを用いた太陽電池モジュールに関する。
【0002】
・・・(中略)・・・
【0005】本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、太陽電池のモジュール化に使用するカバーフィルム自体を、耐候性フィルムに、熱接着性樹脂層とセル部の最外層に形成されていたメッシュ状電極とを予め積層して構成し、これをセル部に熱接着させて一体化し、モジュール化する製造方法を採ることにより、製造工程の簡略化と、製造のスピードアップができ、生産性に優れると共に、低コスト化も達成できる太陽電池用カバーフィルムおよびその製造方法、およびそのカバーフィルムを用いた太陽電池モジュールを提供することにある。」

(イ)「【0026】図1に示した太陽電池用カバーフィルム10は、少なくとも基材となる耐候性フィルム1と、その一方の面に積層された熱接着性樹脂層2と更にその上に積層されたメッシュ状電極3とで構成される。そして、耐候性フィルム1は、耐候性を有すると同時に、透明で耐擦傷性、突き刺し強度などの機械的強度のほか、水蒸気その他のガスバリアー性にも優れることが好ましく、例えば、ポリビニルフルオライドフィルム(以下、PVFフィルム)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体フィルム(以下、ETFE樹脂フィルム)などのフッ素樹脂系フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリサルホンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、耐候性ポリエチレンテレフタレートフィルム、セルロースアセテートフィルム、アクリル樹脂フィルム、耐候性ポリプロピレンフィルム、ガラス繊維強化ポリエステルフィルム、ガラス繊維強化アクリル樹脂フィルム、ガラス繊維強化ポリカーボネートフィルムなどを使用することができる。これらは単独のフィルムを用いてもよく、二種以上を積層した積層フィルムを用いてもよい。
【0027】熱接着性樹脂層2は、カバーフィルムを真空ラミネート法などで太陽電池の外側に積層する際、熱接着剤として機能するほか、太陽電池の表面に凹凸がある場合には、その凹凸を埋める充填材としての機能も必要となる。従って、熱接着性樹脂層2に用いる熱接着性樹脂は、前記耐候性フィルムおよび太陽電池の表面(透明電極または基板)に対して、良好な熱接着性を有すると同時に、適度な熱流動性を有していることが好ましい。
【0028】このような熱接着性樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、シングルサイト触媒を用いて重合したエチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、線状低密度ポリエチレン、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂のほか、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリジエン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、フッ素樹脂系、ポリアミド系のエラストマーなどを使用することができ、これらの中から積層面の材質に応じて適するものを選択して使用することができる。また、これらの熱接着性樹脂には、その耐候性を向上させるために、架橋剤、紫外線吸収剤、カップリング剤などを適宜混合して使用することができる。
【0029】次に、前記熱接着性樹脂層2の上に設けるメッシュ状電極3は、本来、太陽電池の光の入射側のITOなどの透明導電層の上に設けて、発電された電流を効率よく外部に取り出すために設けるものであり、本発明では、これをカバーフィルム側に、熱接着性樹脂層2と共に、その上に予め設けることにより、その形成を一層容易に行えるようにすると共に、太陽電池モジュールの製造工程を簡略化し、その生産性を向上できるようにしたものである。このようなメッシュ状電極3については、その形成方法を含めて先に説明しているので、ここでは説明を省略する。
【0030】
・・・(中略)・・・
【0032】また、耐候性フィルム1と熱接着性樹脂層2との間には、更に、機能性を向上させるために、必要に応じて、紫外線遮断層として、平均粒径が1?1000nmのTiO_(2 )、CeO_(2 )、ZnO、α-Fe_(2 )O_(3 )などの粒子を分散した透明樹脂層、赤外線遮断層として、SnO_(2 )などの金属酸化物の微粒子を分散した透明樹脂層、突き刺し強度向上層として、2軸延伸ナイロンフィルム層などを積層することもできる。」

イ ここで、図1は次のものである。


ウ 以上を総合すると、引用文献2には、次の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明2」という。)。
「太陽電池の外側に用いるカバーフィルム10であって、
耐候性フィルム1に予め熱接着性樹脂層2とメッシュ状電極3とが積層された構成とすることにより、太陽電池モジュールの性能を維持しながら、その製造工程を簡略化し、生産性の向上と低コスト化を実現できるようにしたものであり、
少なくとも基材となる耐候性フィルム1と、その一方の面に積層された熱接着性樹脂層2と更にその上に積層されたメッシュ状電極3とで構成され、
耐候性フィルム1は、耐候性を有すると同時に、透明で耐擦傷性、突き刺し強度などの機械的強度のほか、水蒸気その他のガスバリアー性にも優れることが好ましく、例えば、ポリビニルフルオライドフィルム(以下、PVFフィルム)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体フィルム(以下、ETFE樹脂フィルム)などのフッ素樹脂系フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリサルホンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、耐候性ポリエチレンテレフタレートフィルム、セルロースアセテートフィルム、アクリル樹脂フィルム、耐候性ポリプロピレンフィルム、ガラス繊維強化ポリエステルフィルム、ガラス繊維強化アクリル樹脂フィルム、ガラス繊維強化ポリカーボネートフィルムなどを使用することができ、
熱接着性樹脂層2に用いる熱接着性樹脂は、前記耐候性フィルムおよび太陽電池の表面(透明電極または基板)に対して、良好な熱接着性を有すると同時に、適度な熱流動性を有していることが好ましく、熱接着性樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、シングルサイト触媒を用いて重合したエチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、線状低密度ポリエチレン、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂のほか、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリジエン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、フッ素樹脂系、ポリアミド系のエラストマーなどを使用することができ、
メッシュ状電極3は、本来、太陽電池の光の入射側のITOなどの透明導電層の上に設けて、発電された電流を効率よく外部に取り出すために設けるものである、
太陽電池の外側に用いるカバーフィルム10。」

(3)引用文献3:特開2000-186114号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2000-186114号公報(以下「引用文献3」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、不飽和カルボン酸含量が4重量%以上であって、融点が85℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマーであることを特徴とする太陽電池素子封止材料である。本発明はまた、太陽電池素子封止材料として上記のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマーを用いた太陽電池モジュールである。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明の封止材料は、太陽電池モジュールにおいて、太陽電池素子と上部透明保護材及び下部基板保護材とを封止して太陽電池モジュールを形成させるものである。
【0008】上記本発明の封止材料として用いられるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーは、不飽和カルボン酸含量が4重量%以上、好ましくは5?20重量%で、DSCによる融点が85℃以上、好ましくは90?110℃のものである。かかる共重合体又はそのアイオノマーは、エチレン・酢酸ビニル共重合体の場合のように、コモノマー含量の高いエチレン共重合体を使用しなくても優れた透明性を有しているという利点がある。
【0009】ここに不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸などであり、とくにアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、柔軟性付与に効果的であるところから、ビニルエステルや(メタ)アクリル酸エステルなどが共重合されたものを使用してもよいが、一般的にはこれら共重合成分を含むものは融点が低くなるので、多量に含有するものは使用できない。
【0010】本発明におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーとしては、その金属種として、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどの多価金属などを例示することができる。このようなアイオノマーを使用する利点は透明性、高温における貯蔵弾性率が高いことであり、その中和度としては、例えば80%以下程度のものを使用することが望ましいが、接着性等を勘案するとあまり中和度の高いものを使用するのは得策ではなく、例えば中和度が60%以下、とくに30%以下程度のものを使用するのが好ましい。
【0011】不飽和カルボン酸含量が4重量%より少ないような上記共重合体又はそのアイオノマーを使用した場合には透明性が優れたものが得られず、また接着性についても不充分なものとなる。また不飽和カルボン酸含量が大きくなると、透明性に関してはより優れたものが得られるが、融点が低くなったり、吸湿性が増すなどの問題がでてくる。本発明においては融点が85℃以上のものと規定しているため、その含量には自ずから限度がある。
【0012】本発明においては、上記共重合体やアイオノマーとして、融点が85℃より低いものを使用した場合には耐熱性が充分でなく、太陽電池素子封止材料に用いた場合、太陽電池使用時における温度上昇により変形の恐れがあり、また太陽電池モジュールを加熱圧着法で製造するときに、これら封止材料が必要以上に流れ出してバリを生じる恐れがあるので好ましくない。
【0013】上記共重合体やアイオノマーにおいて、透明性、接着性及び耐熱性のバランスを考慮すると、不飽和カルボン酸含量が5?20重量%、好ましくは7?17重量%のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーであって、中和度が1?30%、好ましくは5?20%、融点が90?110℃、好ましくは92?105℃のものを使用するのがとくに好ましい。あるいは不飽和カルボン酸含量が5?20重量%、好ましくは7?17重量%、融点が90?110℃のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、不飽和カルボン酸含量が5?20重量%、好ましくは7?17重量%、融点が90?110℃のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーのブレンドであって、後者アイオノマーの金属成分と両者の不飽和カルボン酸成分を勘案した平均中和度が1?30%、好ましくは5?20%のものを使用するのがとくに好ましい。上記アイオノマーのみを使用する場合にも、不飽和カルボン酸含量が1重量%以上異なる2種以上のアイオノマーを併用するのが望ましく、また後者のように共重合体とアイオノマーをブレンドして用いる場合にも、不飽和カルボン酸含量が1重量%以上異なるものを使用するのが好ましい。後者の場合の例として、例えば融点が90?105℃のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体20?95重量部、好ましくは50?80重量部と、酸含量が該共重合体より1重量%以上少なく、融点が1℃以上高いアイオノマー80?5重量部、好ましくは50?20重量部のブレンドのようなものを例示することができる。
【0014】上記共重合体又はそのアイオノマーとしてはまた、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1?500g/10分、とくに1?200g/10分のものを使用するのが好ましい。MFRが低いものを使用した場合には、若干低めの融点のものを使用しても上記のような封止材料の流れによるトラブルが生じ難いという利点はあるが、あまりMFRの低いものを使用すると加工性が悪くなる。一方、あまりMFRの高すぎるものを使用すると、モジュール作成時に端部からはみ出してラミネート内に付着する量が多くなり、それを取り除く作業に手間がかかり、生産効率が悪くなる。
【0015】本発明の封止材料には、必要に応じ、種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、太陽電池素子の受光側の封止材に配合する場合は、その透明性を損なうものは好ましくないが、太陽電池素子の受光側の反対面の封止材に配合する場合にはそのような制約を受けない。このような添加剤として具体的には、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、光拡散剤、難燃剤、変色防止剤、シランカップリング剤などを例示することができる。」

(4)引用文献4:特開2012-138467号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2012-138467号公報(以下「引用文献4」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
「【0005】
従来、太陽電池封止材料としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)に有機過酸化物と多官能モノマーとシランカップリング剤とを加えてなる架橋EVAがが知られている。しかしながら、架橋EVAは透明性と柔軟性と耐熱性とガラス密着性には比較的優れるものの、金属密着性に劣り、また、使用時などの高温高湿下では酢酸残基が加水分解し、酢酸を発生し、太陽電池素子や透明電極が腐食し、発電性能が低下するという欠点がある。
また、金属密着性に優れる太陽電池封止材料としては、エチレンー(メタ)アクリル酸共重合体を部分中和したアイオノマー樹脂が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、アイオノマー樹脂は透明性と柔軟性と金属密着性には比較的優れるものの、ガラスとの密着性も充分ではなく、有機過酸化物などを用いず、架橋されていないので耐熱性が不十分であり、耐熱性を向上させるために中和度を上げると金属密着性が低下するという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は上記のような問題点を解消するために、本発明者らは鋭意研究を進め、本発明の完成に至ったものである。その目的は、透明性と、太陽電池素子を保護するための柔軟性と、ガラスや金属などの各種素材との密着性と、発電時の温度上昇に耐える耐熱性とを有する太陽電池封止材料、及びこれを用いた太陽電池モジュールを提供することである。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1の発明に係わる太陽電池封止材料は、樹脂(A)及び/又は樹脂(B)が100質量部と、多官能モノマー(C)又は多官能モノマー(D)が0.03?5.0質量部と、有機過酸化物(E)が0.01?3.0質量部とから構成される太陽電池モジュールの封止材料であって、前記樹脂(A)が共重合体中の不飽和カルボン酸含量が3?30質量%で、融点が50?105℃であるエチレンー不飽和カルボン酸共重合体で、前記樹脂(B)が共重合体中の不飽和カルボン酸含量が3?30質量%で、中和度が5?40%で、融点が50?105℃であるエチレンー不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーで、前記多官能モノマー(C)が複数の不飽和二重結合を有する多官能モノマーで、前記多官能モノマー(D)が複数の不飽和二重結合を有する多官能モノマーと、複数のアルコキシル基を有するシランカップリング剤の混合物である多官能モノマーであることを特徴とする封止材料である。
請求項4の発明に係わる太陽電池封止材料は、請求項1?3において、上記シランカップリング剤がエポキシ基を有するシランカップリング剤、又は不飽和二重結合を有するシランカップリング剤であるものである。
請求項5の発明に係わる太陽電池モジュールは、請求項1?4のいずれかに記載の太陽電池封止材料を用いるものである。
・・・(中略)・・・
【0023】
(添加剤)本願発明の太陽電池封止材料21には、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、太陽電池素子の表側の前面透明保護材23A側の前面封止材料21Aに配合する場合はその透明性を損なわなければ良く、背面保護材23B側の背面封止材料21Bに配合する場合はそうした制約は無い。具体的には、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収材、着色剤、光拡散剤、難燃剤、変色防止剤、透明性を高めるための増核剤などである。」

(5)引用文献5:特開2012-209462号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2012-209462号公報(以下「引用文献5」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
「【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、基材と熱可塑性樹脂層との接着性に優れるとともに、十分な絶縁性を有する太陽電池用保護シートおよびその製造方法、ならびに基材と熱可塑性樹脂層との接着性に優れるとともに、十分な絶縁性を有する太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面に積層された熱可塑性樹脂層とを備えた太陽電池用保護シートであって、前記熱可塑性樹脂層は、前記基材上に積層された、エチレンと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸グリシジル、酢酸ビニルおよび無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種との共重合体を主成分とする第1層と、前記第1層上に積層された、オレフィン系樹脂を主成分とする第2層と、前記第2層上に積層された、エチレンと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸グリシジル、酢酸ビニルおよび無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種との共重合体を主成分とする第3層とを備えることを特徴とする太陽電池用保護シートを提供する(発明1)。
【0010】
上記発明(発明1)に係る太陽電池用保護シートは、上記第1層の存在により、基材と熱可塑性樹脂層との接着性に優れるとともに、上記第2層の存在により、十分な絶縁性を有し、さらには、上記第3層の存在により、太陽電池の封止材に対して高い接着力を示す。
・・・(中略)・・・
【0026】
ここで、本実施形態に係る太陽電池用保護シート1を太陽電池モジュールのバックシートとして使用する場合は、樹脂フィルムは、可視光を反射させる顔料を含有することが好ましい。また、本実施形態に係る太陽電池用保護シート1を太陽電池モジュールのフロントシートとして使用する場合は、可視光領域の光の透過率を低下させる顔料を含有しないことが好ましく、耐候性の向上を目的として紫外線吸収剤を含有することがより好ましい。」

(6)引用文献6:特開2014-015544号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2014-015544号公報(以下「引用文献6」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
「【0008】
従って、本発明の目的は、合わせガラス用中間膜や太陽電池用封止膜等に用いられるEVAシートであって、湿熱環境下における酢酸の発生、黄変が抑制され、且つ透明性の低下、接着力の低下が抑制されたEVAシートを提供することにある。
【0009】
また、本発明の目的は、このEVAシートを用いた合わせガラス及び太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため、種々の添加剤を検討した結果、(メタ)アクリル酸グリシジル由来のモノマーの繰り返し単位を有する共重合体が有効であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
即ち、上記目的は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む組成物からなるエチレン-酢酸ビニル共重合体シートであって、
当該組成物が、更に、(メタ)アクリル酸グリシジル由来のモノマーの繰り返し単位と1種又は2種以上の他のモノマーの繰り返し単位とを有し、前記モノマーの繰り返し単位がランダム又は規則的な繰り返し単位である共重合体を含むことを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体シートによって達成される。これは上記共重合体の(メタ)アクリル酸グリシジル由来のモノマーの繰り返し単位のエポキシ基によって、酢酸成分の捕捉、及び水素結合、架橋反応による接着力の向上等の効果が生じるものと考えられる。この共重合体は、金属酸化物等の受酸剤粒子と異なり、透明性に影響し難い。また、ポリマーであることによりEVA組成物からのブリードアウト(添加剤の浸み出し)が防止され、上記効果が十分に発揮されるものと考えられる。
・・・(中略)・・・
【0051】
更に、本発明のエチレン-酢酸ビニル共重合体シートの組成物は、紫外線吸収剤、光安定剤および老化防止剤を含んでいてもよい。」

2 対比
ア 引用発明1と本件発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「電気的に絶縁性があり光学的に透明な膜であるポリマ・フィルム10と、ポリマ・フィルム10の1つの表面上に設けられた接着剤11」は、合わせて、本願発明1の「樹脂シート」に相当する。

(イ)引用発明の「接着剤11に埋め込まれ実質的に平行で導電性のある第1の複数のワイヤ5'」は、本願発明1の「前記樹脂シートの一方の面に設けられた微細配線」に相当する。

(ウ)引用発明1においては「ポリマ・フィルム10には、広範囲の材料を使用でき、当該材料は、高い延性、良好な絶縁特性、光学的透明性、温度安定性、収縮耐性、良好な接着能力を有さなければならず」また、引用発明1自体が「光起電力素子の少なくとも1つの表面に接触する透明電極」として構成されることから、「ポリマ・フィルム10と、ポリマ・フィルム10の1つの表面上に設けられた接着剤11」は、ともに一定以上の光線透過率を備えるといえる。よって、引用発明1の「ポリマ・フィルム10と、ポリマ・フィルム10の1つの表面上に設けられた接着剤11」と、本願発明1の「JIS-K7105に準じて測定した前記樹脂シートの350nmの波長における光線透過率が、70%以上である」こととは、「樹脂シートの光線透過率が一定値以上である」点で一致する。

(エ)引用発明1においては、「ポリマ・フィルム10には、広範囲の材料を使用でき、当該材料は、高い延性、良好な絶縁特性、光学的透明性、温度安定性、収縮耐性、良好な接着能力を有さなければならず、そのような材料の例をあげれば、セロファン(登録商標)、レイヨン、アセテート、フッ素樹脂、ポリスルフォン、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂であり、
軟化温度が約90℃から110℃であらかじめ下塗したポリマ・フィルム10およびウェーハ3の表面に良好な接着性を有する広い範囲の材料が接着剤11として適切であり、好ましい材料は、エポキシ接着剤は、もとより、アクリル接着剤、ゴム接着剤、シリコン接着剤、ポリビニル・エーテル接着剤がある」ことから、引用発明1の当該構成と、
本願発明1の「前記樹脂シートが、以下の(A)および(B)のいずれかを含む樹脂材料により形成されている」「(A)エチレンと不飽和カルボン酸を含む共重合体、または前記共重合体のアイオノマー(B)エチレンと(メタ)アクリル酸グリシジルを含む共重合体」こととは、
「前記樹脂シートが、樹脂材料により形成されている」点で一致する。

(オ)引用発明1の「光起電力素子の少なくとも1つの表面に接触する透明電極」は、「電気的に絶縁性があり光学的に透明な膜であるポリマ・フィルム10と、ポリマ・フィルム10の1つの表面上に設けられた接着剤11と、接着剤11に埋め込まれ実質的に平行で導電性のある第1の複数のワイヤ5'とを含」むものであるから、本件発明1の「配線シート」に相当するといえる。

(カ)よって、引用発明1と本件発明1とは、
「樹脂シートと、
前記樹脂シートの一方の面に設けられた微細配線と、
を有し、
樹脂シートの光線透過率が一定値以上である、配線シートであって、
前記樹脂シートが、樹脂材料により形成されている配線シート。」
である点で一致する。

(キ)一方、両者は以下の各点で相違する。
《相違点1》
本願発明1は、「JIS-K7105に準じて測定した前記樹脂シートの350nmの波長における光線透過率が、70%以上である」構成を備えるのに対し、引用発明1は「樹脂シートの光線透過率が一定値以上である」構成は備えるものの、「光線透過率」が、「JIS-K7105に準じて測定した」「350nmの波長における」ものではなく、当該「光線透過率」が「70%以上である」との特定もされていない点。

《相違点2》
本願発明1は、「前記樹脂シートが、以下の(A)および(B)のいずれかを含む樹脂材料により形成されている」「(A)エチレンと不飽和カルボン酸を含む共重合体、または前記共重合体のアイオノマー (B)エチレンと(メタ)アクリル酸グリシジルを含む共重合体」との構成を備えるのに対し、引用発明1は「記樹脂シートが、樹脂材料により形成されている」構成は備えるものの、当該樹脂材料が、本願発明1に係る「(A)および(B)のいずれかを含む」「(A)エチレンと不飽和カルボン酸を含む共重合体、または前記共重合体のアイオノマー (B)エチレンと(メタ)アクリル酸グリシジルを含む共重合体」とされていない点。

イ 引用発明2と本件発明1とを対比する。
(ア)引用発明2の「少なくとも基材となる耐候性フィルム1と、その一方の面に積層された熱接着性樹脂層2」は、合わせて本願発明1の「樹脂シート」に相当する。

(イ)引用発明2の「少なくとも基材となる耐候性フィルム1と、その一方の面に積層された熱接着性樹脂層2と更にその上に積層されたメッシュ状電極3とで構成され」における「更にその上に積層されたメッシュ状電極3」は、本願発明1の「前記樹脂シートの一方の面に設けられた微細配線」に相当する。

(ウ)引用発明2の「耐候性フィルム1は、耐候性を有すると同時に、透明で耐擦傷性、突き刺し強度などの機械的強度のほか、水蒸気その他のガスバリアー性にも優れることが好ましく」、また「太陽電池の外側に用いるカバーフィルム10」に係る「メッシュ状電極3は、本来、太陽電池の光の入射側のITOなどの透明導電層の上に設け」るものであることから、「少なくとも基材となる耐候性フィルム1と、その一方の面に積層された熱接着性樹脂層2」を合わせたものが、一定以上の光線透過率を備えるを備えるといえる。よって、引用発明2の「少なくとも基材となる耐候性フィルム1と、その一方の面に積層された熱接着性樹脂層2」を合わせたものと、本願発明1の「JIS-K7105に準じて測定した前記樹脂シートの350nmの波長における光線透過率が、70%以上である」こととは、「樹脂シートの光線透過率が一定値以上である」点で一致する。

(エ)引用発明2においては、「耐候性フィルム1は、」「例えば、ポリビニルフルオライドフィルム(以下、PVFフィルム)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体フィルム(以下、ETFE樹脂フィルム)などのフッ素樹脂系フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリサルホンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、耐候性ポリエチレンテレフタレートフィルム、セルロースアセテートフィルム、アクリル樹脂フィルム、耐候性ポリプロピレンフィルム、ガラス繊維強化ポリエステルフィルム、ガラス繊維強化アクリル樹脂フィルム、ガラス繊維強化ポリカーボネートフィルムなどを使用することができ」、「熱接着性樹脂層2に用いる熱接着性樹脂」「としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、シングルサイト触媒を用いて重合したエチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、線状低密度ポリエチレン、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂のほか、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリジエン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、フッ素樹脂系、ポリアミド系のエラストマーなどを使用することができ」るものであるから、引用発明2の当該構成と、
本願発明1の「前記樹脂シートが、以下の(A)および(B)のいずれかを含む樹脂材料により形成されている」「(A)エチレンと不飽和カルボン酸を含む共重合体、または前記共重合体のアイオノマー(B)エチレンと(メタ)アクリル酸グリシジルを含む共重合体」こととは、
「前記樹脂シートが、樹脂材料により形成されている」点で一致する。

(オ)引用発明2の「太陽電池の外側に用いるカバーフィルム10」は、本願発明1の「配線シート」に相当する。

(カ)よって、引用発明2と本件発明1とは、
「樹脂シートと、
前記樹脂シートの一方の面に設けられた微細配線と、
を有し、
樹脂シートの光線透過率が一定値以上である、配線シートであって、
前記樹脂シートが、樹脂材料により形成されている配線シート。」
である点で一致する。

(キ)一方、両者は以下の各点で相違する。
《相違点3》
本願発明1は、「JIS-K7105に準じて測定した前記樹脂シートの350nmの波長における光線透過率が、70%以上である」構成を備えるのに対し、引用発明2は「樹脂シートの光線透過率が一定値以上である」構成は備えるものの、「光線透過率」が、「JIS-K7105に準じて測定した」「350nmの波長における」ものではなく、当該「光線透過率」が「70%以上である」との特定もされていない点。

《相違点4》
本願発明1は、「前記樹脂シートが、以下の(A)および(B)のいずれかを含む樹脂材料により形成されている」「(A)エチレンと不飽和カルボン酸を含む共重合体、または前記共重合体のアイオノマー (B)エチレンと(メタ)アクリル酸グリシジルを含む共重合体」との構成を備えるのに対し、引用発明2は「前記樹脂シートが、樹脂材料により形成されている」構成は備えるものの、当該樹脂材料が、本願発明1に係る「(A)および(B)のいずれかを含む」「(A)エチレンと不飽和カルボン酸を含む共重合体、または前記共重合体のアイオノマー (B)エチレンと(メタ)アクリル酸グリシジルを含む共重合体」とされていない点。

3 判断
(1)前記相違点1及び相違点3は共通するものであり、また前記相違点2及び相違点4も共通するものであるところ、相違点1?4を併せて判断する。

ア 相違点1ないし相違点4について
(ア)引用発明1は「透明電極」であり、引用発明1に係る「ポリマフィルム11」が「光学的透明性」を有さなければならないものとされ、また、引用発明2に係る「太陽電池の外側に用いるカバーフィルム10」についても「太陽電池の光の入射側のITOなどの透明導電層の上に設け」ることが想定され、引用発明2に係る「耐候性フィルム1」が「透明」なものとされている。

(イ)しかしながら、上記引用発明1に係る「透明電極」、及び引用発明2に係る「太陽電池の外側に用いるカバーフィルム10」について、それぞれ引用文献1及び引用文献2のいずれにおいても、紫外線の透過率を向上させることは、記載も示唆もされていない。
また、引用文献3?6のいずれにおいても、紫外線の透過率を向上させることは、記載も示唆もされていない。

(ウ)また、一般に、光起電力素子(太陽電池素子)の光入射面側に設けられる材料については、透明性は要求されるものの、紫外線の透過率については特に考慮されず、むしろ紫外線の入射を防ぐこともされている。
例えば、引用文献2(段落【0032】)には、「耐候性フィルム1と熱接着性樹脂層2との間には、更に、機能性を向上させるために、必要に応じて、「紫外線遮断層」を積層することが記載されている。
また、引用文献6においては、「光線透過率」の測定の対象とする波長帯域は400?1000nmであり、紫外線の透過率は考慮されていない。

(エ)そうすると、引用発明1に係る「電気的に絶縁性があり光学的に透明な膜であるポリマ・フィルム10と、ポリマ・フィルム10の1つの表面上に設けられた接着剤11」を合わせたもの、及び引用発明2に係る「少なくとも基材となる耐候性フィルム1と、その一方の面に積層された熱接着性樹脂層2」を合わせたものについて、紫外線の透過率を向上させる動機が生ずるとはいえない。

(オ)前記(エ)のとおり、引用発明1、2について、紫外線の透過率を向上させる動機は生じないものであり、また、上記(ウ)で指摘したとおり、紫外線の入射を妨げることは普通にされることであるから、仮に、引用文献3?6に記載された各樹脂材料について、紫外線の透過率が良好なものがあるとして、それを、引用発明1に係る「電気的に絶縁性があり光学的に透明な膜であるポリマ・フィルム10と、ポリマ・フィルム10の1つの表面上に設けられた接着剤11」を合わせたもの、あるいは、引用発明2に係る「少なくとも基材となる耐候性フィルム1と、その一方の面に積層された熱接着性樹脂層2」を合わせたものに適用したとしても、紫外線吸収・遮断のための構成を設けることなく、相違点1、3に係る透過率を有するものとして構成されるとは必ずしもいえない。

(カ)よって、前記1(3)?(6)に摘示した、引用文献3ないし引用文献6の各記載を勘案しても、引用発明1において相違点1及び相違点2に係る構成をともに備えることも、引用発明2において相違点3及び相違点4に係る構成をともに備えることも、当業者が容易に想到することができないものである。

イ したがって、本件発明1は、引用発明1または引用文献2、並びに引用文献3ないし引用文献6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)請求項1を引用する請求項2?6、8及び10に係る発明、請求項6を引用する請求項7に係る発明、及び請求項8を引用する請求項9に係る発明は、いずれも本件発明1に係る構成を全て含むものであるから、上記(1)アの検討と同様に、引用発明1または引用文献2、並びに引用文献3ないし引用文献6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 まとめ
よって、本件発明1?10は、引用発明1または引用発明2、並びに引用文献3ないし引用文献6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-02-19 
出願番号 特願2016-573427(P2016-573427)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 配線シート、構造体および光発電モジュール  
代理人 速水 進治  

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