• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1371518
審判番号 不服2020-5103  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-15 
確定日 2021-02-25 
事件の表示 特願2017-209119「多層基板」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月30日出願公開、特開2019- 83244〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成29年10月30日の出願であって、令和1年9月6日付けで拒絶理由通知がなされ、同年11月1日に手続補正書と意見書が提出され、令和2年1月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年4月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和1年11月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める。

「 多層基板(1)であって、
前記多層基板の厚み方向(D11)において互いに対向して配置されている第1外側配線層(21a)および第2外側配線層(21b)と、
前記第1外側配線層と前記第2外側配線層との間に配置され、前記厚み方向において互いに対向する少なくとも二つの内側配線層(22a,22b)を有する内側配線層組(22)と、
前記内側配線層組において互いに隣り合う前記内側配線層の間に配置されている内側絶縁層(32a)と、
前記第1外側配線層と前記内側配線層組との間に配置されており、いずれの前記内側絶縁層の比較トラッキング指数よりも高い比較トラッキング指数を有する第1外側絶縁層(31a)と、
前記第2外側配線層と前記内側配線層組との間に配置されており、いずれの前記内側絶縁層の比較トラッキング指数よりも高い比較トラッキング指数を有する第2外側絶縁層(31b)と
を備え、
前記第1外側配線層(21a)に形成された配線に印加される電圧の最大値、および、前記第2外側配線層(21b)に形成された配線に印加される電圧の最大値は、前記内側配線層組(22)に形成された配線に印加される電圧の最大値よりも高い、多層基板。」


3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 というものであり、請求項1に係る発明に対して、以下の引用文献1が引用されている。

1.特開平07-216313号公報


4 引用発明と周知の技術事項
(1)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である引用文献1には以下の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、多層プリント配線板用内層回路入り銅張積層板の製造に用いる接着シートおよびその製造方法並びに絶縁接着層付銅箔及びその製造方法に関する。」

イ 「【0018】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1
重合度2000の高重合度ポリビニルブチラール100部(重量部、以下同じ)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社、エピコート-180S65)20部、メラミン樹脂(株式会社三和ケミカル、MSー001)60部に硬化剤としてアジピン酸を配合し、メタノール/メチルエチルケトン/トルエン(1/1/1)の混合溶剤に樹脂分が30%となるように均一に溶解し、高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤を得た。これをロールコータで厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、乾燥させた。ついで、重合度2000の高重合度ポリビニルブチラールに代えて重合度300の低重合度ポリビニルブチラール100部を用いた以外は、高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤と同様に、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤を得た。これを、さきに作製した高重合度のポリビニルブチラールを主成分とする接着剤層の上にロールコータで塗布し、乾燥させて、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤層と、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着層剤層の二層構造を有する、接着層全体の厚さが50μmの接着シートを得た。この接着シートを、ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板に回路加工を施した内層回路板(銅箔厚み35μm)の両側に、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着層の面を内層回路板側にして各1枚配置し、さらにその外側に銅箔を各一枚配置して積層体とし、170℃、4MPaで60分間加熱圧着して内層回路入り銅張積層板を得た。」

上記「ア」、「イ」の記載によれば、引用文献1には次の事項が記載されている。

a 【0001】段落によれば、引用文献1は「多層プリント配線板用内層回路入り銅張積層板」について記載されたものである。

b 【0018】段落によれば、引用文献1は「高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤層と、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着層剤層の二層構造を有する、接着層全体の厚さが50μmの接着シート」を、「ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板に回路加工を施した内層回路板(銅箔厚み35μm)の両側に、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着層の面を内層回路板側にして各1枚配置し、さらにその外側に銅箔を各一枚配置して積層体とし、170℃、4MPaで60分間加熱圧着して」構成されたものである。

以上総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤層と、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着層剤層の二層構造を有する、接着層全体の厚さが50μmの接着シートを、ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板に回路加工を施した内層回路板(銅箔厚み35μm)の両側に、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着層の面を内層回路板側にして各1枚配置し、さらにその外側に銅箔を各1枚配置して積層体とし、170℃、4MPaで60分間加熱圧着して構成された多層プリント配線板用内層回路入り銅張積層板。」


(2)周知の技術事項
a.上記引用文献1には以下の記載がある。

ア 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】最近、多層プリント配線板の薄物化が進行し、ガラス基材を含む絶縁層厚が30?100μmと薄くなっている。その際、ガラスファイバーに沿って発生する銅マイグレーション(CAF:Conductive Anodic Filament)や、吸湿耐熱性が問題となっている。また、エポキシ樹脂プリプレグで用いるエポキシ樹脂は耐トラッキング性が低く、これを用いた多層プリント配線板は、民生機器などの耐トラッキング性の要求が高い分野では使用できなかった。・・・
【0005】
【課題を解決するための手段】・・・また、絶縁接着層は、ポリビニルブチラールを主成分とした接着剤で構成されるため耐トラッキング性が良好となる。・・・」

イ 「【0018】
・・・(略)・・・
実施例1
重合度2000の高重合度ポリビニルブチラール100部(重量部、以下同じ)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社、エピコート-180S65)20部、メラミン樹脂(株式会社三和ケミカル、MSー001)60部に硬化剤としてアジピン酸を配合し、メタノール/メチルエチルケトン/トルエン(1/1/1)の混合溶剤に樹脂分が30%となるように均一に溶解し、高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤を得た。これをロールコータで厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、乾燥させた。ついで、重合度2000の高重合度ポリビニルブチラールに代えて重合度300の低重合度ポリビニルブチラール100部を用いた以外は、高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤と同様に、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤を得た。これを、さきに作製した高重合度のポリビニルブチラールを主成分とする接着剤層の上にロールコータで塗布し、乾燥させて、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤層と、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着層剤層の二層構造を有する、接着層全体の厚さが50μmの接着シートを得た。この接着シートを、ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板に回路加工を施した内層回路板(銅箔厚み35μm)の両側に、低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着層の面を内層回路板側にして各1枚配置し、さらにその外側に銅箔を各一枚配置して積層体とし、170℃、4MPaで60分間加熱圧着して内層回路入り銅張積層板を得た。
【0019】実施例2
実施例1で用いた高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤を、ロールコータで銅箔に塗布し、乾燥させて、絶縁接着層厚さ25μmの絶縁接着層付き銅箔を得た。ついで、実施例1で用いた低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤を、ロールコータで高重合度のポリビニルブチラールを主成分とする接着剤を塗布した絶縁接着層付き銅箔の絶縁接着層上に塗布し、乾燥させて、絶縁接着層と銅箔が一体化しており、銅箔と接する側に高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした絶縁接着層を有し、表面側に低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした絶縁接着層を有する、絶縁接着層全体の厚さが50μmの絶縁接着層付き銅箔を得た。この絶縁接着層付き銅箔を、ガラス布基材エポキシエポキシ樹脂両面銅張積層板に回路加工を施した内層回路板の両側に、絶縁接着層を有する面を内層回路板側にして各1枚配置して積層体とし、170℃、4MPaで60分間加熱圧着して内層回路入り銅張積層板を得た。
【0020】実施例3
低重合度のポリビニルブチラールを用いた接着剤で、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂100部を用いたことに加え、ノボラック型フェノール樹脂50部と2?エチル?4?メチルイミダゾール1部を添加したこと以外は実施例2と同様にして内層回路入り銅張積層板を得た。
【0021】比較例1
ジシアンジアミド硬化系エポキシ樹脂ワニスを厚さ0.1mmのガラス布に含浸させた後、乾燥させプリプレグを得た。これを実施例1に示した内層回路板の両側に配置し、さらにその両面に銅箔を配置した積層体を170℃、4MPaで60分間加熱圧着して内層回路入り銅張積層板を得た。
【0022】比較例2
低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤を塗布せず、高重合度(重合度2000)のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤だけを塗布して作製した絶縁接着層厚さが50μmの絶縁接着層付き銅箔を用いたこと以外は実施例1と同様にして内層回路入り銅張積層板を得た。
【0023】比較例3
高重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤を塗布せず、低重合度(重合度300)のポリビニルブチラールを主成分とした接着剤だけを塗布して作製した絶縁接着層付銅箔を用いたこと以外は実施例1と同様にして内層回路入り銅張積層板を得た。
【0024】以上のようにして得られた銅張積層板を用いて、耐電食性、はんだ耐熱性、内層回路埋め込み性、銅箔引き剥がし強さを評価した。耐電食性は、85℃,85%RHのもとで、内層回路板上に形成した導体幅と導体間隔がともに0.1mmのくし型パターンの電極間に直流電圧100Vを連続して印加し、短絡するまでの時間を測定した。はんだ耐熱性の測定は、JIS C6481に準拠して、表面の銅箔をエッチングにより除去した基板を沸騰水中で4時間煮沸し、260℃のはんだ浴に20秒間浸漬した後のふくれの有無を目視観察した。内層回路埋め込み性は、基板断面の目視観察により評価した。表面平滑性は、基板の表面粗さ測定で評価した。銅箔引き剥がし強さは、JIS C6481に準拠して測定した。耐トラッキング性は、IEC法に準拠して白金電極で測定した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】



b.本願の出願日前に頒布された刊行物である特開昭50-145453号公報には、以下の記載がある。
「積層成形品、特に難燃性の積層成形品を製造するには従来フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂と分子中にハロゲン原子あるいはりん原子を含有する有機系難燃剤との組合せよりなる樹脂組成物が用いられ、これを紙、布、ガラス繊維の織布、不織布などの基材に含浸し、加熱圧縮成形して積層板が製造されていた。しかし、このような樹脂組成物から得られる積層成形品は、近年特に業界で強く望まれている高級電気用積層板、すなわち、難燃性と耐アーク性、耐トラッキング性、電気絶縁性などの電気特性とを兼備した積層品としては必ずしも満足されない。」(1頁右下欄7?19行)

c.本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平10-130399号公報には、以下の記載がある。
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年、配線が高密度化するのに伴い、耐トラッキング性の向上が要求されている。・・・(中略)・・・ガラス布基材積層板の耐トラッキング性改善については満足できる結果が得られていなかった。本発明は、ガラス布基材積層板の耐トラッキング性を改善することを目的とするものである。」

d.上記「a.」「ア」には、エポキシ樹脂プリプレグで用いるエポキシ樹脂は耐トラッキング性が低いが、ポリビニルブチラールを用いることにより耐トラッキング性が良好になることが記載されている。また、上記「a.」「イ」によれば、ジシアンジアミド硬化系エポキシ樹脂ワニスを厚さ0.1mmのガラス布に含浸させた後、乾燥させたプリプレグを用いた比較例1では耐トラッキング性は200(V)以下であるのに対し、ポリビニルブチラールを用いた接着剤を用いた実施例1?3、及び比較例2、3では耐トラッキング性は600(V)以下と高くなっている。さらに、上記「b.」「c.」にもガラス布エポキシ樹脂の耐トラッキング性が低いことが記載されていることも勘案すれば、以下の事項は周知の技術事項と認められる。

「ポリビニルブチラールを主成分とした接着シートの耐トラッキング性は、ガラス布基材エポキシ樹脂の耐トラッキング性よりも大きいこと。」


5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「多層プリント配線板用内層回路入り銅張積層板」は多層に構成されているから、本願発明の「多層基板(1)」に相当する。

イ 引用発明では、内層回路板の両側に接着シートが各1枚配置されたものに、さらにその外側に銅箔が各1枚配置されているから、接着シートの外側に各1枚配置された銅箔の一方と他方は、接着シートの厚み方向において内層回路板と接着シートを挟んで互いに対向しているといえる。
そうしてみると、引用発明の「銅箔」の一方と他方とは、その上に配線を有していることは明らかではないものの、それぞれ本願発明の「第1外側配線層(21a)」と「第2外側配線層(21b)」に対応し、引用発明と本願発明とは「前記多層基板の厚み方向(D11)において互いに対向して配置されている第1外側配線層(21a)および第2外側配線層(21b)」を有している点で一致するといえる。

ウ 引用発明における「ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板に回路加工を施した内層回路板」には、技術常識からみてガラス布基材エポキシ樹脂の両面に張られた銅箔が存在し、当該銅箔は回路加工されているから配線層といえる。また、当該ガラス布基材エポキシ樹脂の両面に張られた銅箔はガラス布基材エポキシ樹脂を挟んで厚み方向に互いに対向していると言うことができる。
そして、ガラス布基材エポキシ樹脂の両面に張られた銅箔は、接着シートの外側に配置された銅箔の一方と他方の間に配置されているといえる。
そうしてみると、引用発明のガラス布基材エポキシ樹脂の両面に張られた銅箔の各々が本願発明の「少なくとも二つの内側配線層(22a,22b)」に相当し、引用発明のガラス布基材エポキシ樹脂の両面に張られた銅箔を合わせた構成が、本願発明の内側配線層組(22)に相当する。
したがって、引用発明と本願発明とは「前記第1外側配線層と前記第2外側配線層との間に配置され、前記厚み方向において互いに対向する少なくとも二つの内側配線層(22a,22b)を有する内側配線層組(22)」を有しているといえる点で一致する。

エ 引用発明における「ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板」は、上記「ウ」でも述べたように「ガラス布基材エポキシ樹脂」の両面に銅箔が張られたものであることは明らかである。そうしてみると、引用発明における「ガラス布基材エポキシ樹脂」により構成される層は、本願発明の「前記内側配線層組において互いに隣り合う前記内側配線層の間に配置されている内側絶縁層(32a)」に相当する。

オ 引用発明における「接着シート」は、ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板に回路加工を施した内層回路板の両側に各1枚配置されているものであり、さらにその外側に銅箔が各1枚配置されている。そうしてみると、引用発明における「接着シート」の一方は、接着シートの外側に設けられた一方の銅箔と内層回路板との間に配置されているから、本願発明における「前記第1外側配線層と前記内側配線層組との間に配置されて」いる「第1外側絶縁層(31a)」に対応する。しかしながら、引用発明では「接着シート」の一方の比較トラッキング指数と、「ガラス布基材エポキシ樹脂」の比較トラッキング指数との関係は明らかではない。
また、同様に、引用発明における「接着シート」の他方は、接着シートの外側に設けられた他方の銅箔と内層回路板との間に配置されているから、本願発明における「前記第2外側配線層と前記内側配線層組との間に配置されて」いる「第2外側絶縁層(31b)」に対応する。しかしながら、引用発明では「接着シート」の他方の比較トラッキング指数と、「ガラス布基材エポキシ樹脂」の比較トラッキング指数との関係は明らかではない。

カ 引用発明においては、接着シートの外側に配置された銅箔に配線が形成されること、及び当該回路と内層回路板に印加される電圧の関係について特定されておらず、本願発明の「前記第1外側配線層(21a)に形成された配線に印加される電圧の最大値、および、前記第2外側配線層(21b)に形成された配線に印加される電圧の最大値は、前記内側配線層組(22)に形成された配線に印加される電圧の最大値よりも高い」という構成に対応する構成を有しているかは明らかではない。

よって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「 多層基板(1)であって、
前記多層基板の厚み方向(D11)において互いに対向して配置されている第1外側配線層(21a)および第2外側配線層(21b)と、
前記第1外側配線層と前記第2外側配線層との間に配置され、前記厚み方向において互いに対向する少なくとも二つの内側配線層(22a,22b)を有する内側配線層組(22)と、
前記内側配線層組において互いに隣り合う前記内側配線層の間に配置されている内側絶縁層(32a)と、
前記第1外側配線層と前記内側配線層組との間に配置された第1外側絶縁層(31a)と、
前記第2外側配線層と前記内側配線層組との間に配置された第2外側絶縁層(31b)と
を備えた、多層基板。」

(相違点1)
本願発明では、第1外側絶縁層(31a)と第2外側絶縁層(31b)がいずれの前記内側絶縁層の比較トラッキング指数よりも高い比較トラッキング指数を有するのに対して、引用発明ではその旨の特定がされていない点。

(相違点2)
本願発明では、「前記第1外側配線層(21a)に形成された配線に印加される電圧の最大値、および、前記第2外側配線層(21b)に形成された配線に印加される電圧の最大値は、前記内側配線層組(22)に形成された配線に印加される電圧の最大値よりも高い」のに対して、引用発明においては、接着シートの外側に配置された銅箔に配線が形成されること、及び当該回路と内層回路板に印加される電圧の関係について特定されていない点。


6 判断
上記相違点1について検討する。
上記「4 (2)」において述べたように、「ポリビニルブチラールを主成分とした接着シートの耐トラッキング性は、ガラス布基材エポキシ樹脂の耐トラッキング性よりも大きいこと。」は周知の技術事項である。
そうしてみると、引用発明においても上記周知の技術事項を勘案すれば、「低重合度のポリビニルブチラールを主成分とした接着層剤層の二層構造を有する、接着層全体の厚さが50μmの接着シート」の耐トラッキング性は、ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板の「ガラス布基材エポキシ樹脂」の耐トラッキング性よりも大きいものと認められるから、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

上記相違点2について検討する。
引用発明では、接着シートの外側に配置された銅箔に配線が形成されることは特定されていない。しかしながら、引用発明は多層プリント配線板用内層回路入り銅張積層板であり、多層基板においては外側に形成される導電層も含め、各導電層に配線が形成されることは技術常識である。そうしてみると、引用発明においても接着シートの外側に配置された銅箔に配線を形成することは当業者が容易に想到できた事項にすぎない。そして、ポリビニルブチラールを主成分とした接着シートの耐トラッキング性はガラス布基材エポキシ樹脂の耐トラッキング性よりも大きく、接着シートの外側の銅箔に形成される配線は内層回路板よりも耐圧が高いから、より高い電圧を印加できることは明らかであり、本願発明のように「前記第1外側配線層(21a)に形成された配線に印加される電圧の最大値、および、前記第2外側配線層(21b)に形成された配線に印加される電圧の最大値は、前記内側配線層組(22)に形成された配線に印加される電圧の最大値よりも高」く構成することは適宜なし得た事項にすぎない。

この点について審判請求人は、令和2年4月15日に提出された審判請求書において、「・・・原査定は、引用文献1における最外導体層たる銅箔への配線の形成という第1ステップと、配線における電圧の最大値同士の比較あるいは隙間の最小値同士の比較という第2ステップとをそれぞれ想到容易と判断し、それらを累積的に用いて想到容易として本願請求項1,2を拒絶するものである。かかる拒絶は、いわゆる進歩性の判断として過剰な累積進歩を要求して適切ではないと思料する。」と主張している。
しかしながら、引用発明において最外導体層である銅箔へ配線を形成した場合、耐トラッキング性の観点から最外導体層である銅箔上の配線の耐圧が内層回路板の耐圧よりも高くなることは明らかであるから、最外導体層である銅箔上の配線に印加する電圧の最大値を内層回路板に印加する電圧の最大値よりも高く構成できると判断することは、進歩性の判断として過剰な累積進歩を要求するものとはいえない。
したがって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

そして、本願発明の効果も、引用発明と周知の技術事項から当業者が予想できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用発明に周知の技術事項を適用することにより、当業者が容易に発明することができたものである。


7 むすび
以上のとおりであって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-12-15 
結審通知日 2020-12-22 
審決日 2021-01-05 
出願番号 特願2017-209119(P2017-209119)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鹿野 博司  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山本 章裕
畑中 博幸
発明の名称 多層基板  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 福市 朋弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ