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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01M
管理番号 1371600
審判番号 不服2019-9116  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-05 
確定日 2021-03-01 
事件の表示 特願2016-568943「流体システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日国際公開、WO2015/177488、平成29年7月 6日国内公表、特表2017-518457〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)5月21日を国際出願日とする出願であって、平成30年3月22日付け(発送日:平成30年3月28日)で拒絶理由が通知され、平成30年6月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年8月27日付け(発送日:平成30年8月29日)で拒絶理由が通知され、平成31年1月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが平成31年2月28日付け(発送日:平成31年3月6日)で拒絶査定がされ、これに対して令和元年7月5日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、令和2年2月25日付け(発送日:令和2年2月26日)で当審より拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和2年8月25日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、令和2年8月25日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
車両の液体配送システムに液体を供給する方法であって、液体を含有するタンクを含む交換可能な液体容器を車両の作動中、前記タンクと前記車両の液体配送システムとの間に液体連通を行うように前記車両に着脱可能に連結される方法であって、前記方法は、
(i) 前記タンクと前記車両の前記液体配送システムとの間に液体連通を確立するのに先立ち、前記交換可能な液体容器により担持されたデータキャリアと情報交換して、
(ii) 前記データキャリアとの情報交換に基づいて、前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物の少なくとも1つに関連するデータを決定し、
(iii) 前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物の少なくとも1つと関連するデータを使用して、前記車両のための前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物の適合性を分析し、前記液体配送システムは液体循環システムを構成し、
(iv) 前記分析に基づいて、適合性のある出力を生成し、および
(v) 前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物が前記車両に適合することを示す適合性のある出力に応じて、前記タンクと前記車両の前記液体配送システムとの間に液体連通を確立することを含む方法。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

1.(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.(進歩性)本願の請求項1ないし14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(明確性)について

請求項1ないし14に係る発明は明確でない。
特に、請求項1の「循環システム」の意味が明確でない。

●理由2(進歩性)について

請求項1ないし14に対して:引用文献1ないし3

<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2008/0179139号明細書
2.特開平11-286121号公報
3.特開2005-178899号公報(周知技術を示す文献)

第4 特許法第29条第2項(進歩性)についての判断
1 引用文献、引用発明
(1)引用文献1
当審拒絶理由において引用された米国特許出願公開第2008/0179139号明細書(以下「引用文献1」という。)には、「OIL CHANGE APPARATUS」(訳:オイル交換装置)に関し図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。以下同様。

ア 「[0007] The instant invention is directed to an oil change system operable on a continuous or batch basis for changing engine oil for an engine in operation. The system may employ a positive displacement of new oil from a chamber incorporating concatenated bladders separating new oil from used oil. The system also comprises a non-volatile memory which down loads engine data from the engine controller and data related to the date/time of the oil change, oil consumption and other oil related parameters as described. The chamber and non-volatile memory are incorporated into a removable unit that may be connected hydraulically to the engine oil lubrication system and electrically to the engine controller. To the engine data, there may be added to the non-volatile memory data regarding the condition of the used oil. Accumulated data in the non-volatile memory may be transmitted to a remote file server when the removable unit is serviced by recharge with new oil and used oil is collected for disposal. Engine data such as load factors, rpm histograms, and malfunction episodes may be transferred from the engine controller to a remote server by download the non-volatile memory device.」
(当審訳)
「本発明は、動作中のエンジンのエンジンオイルを交換するための連続的またはバッチ式で動作可能なオイル交換システムに向けられている。システムは、使用済みオイル、新しいオイルを分離するように連結された袋を組み込んで、チャンバから新たなオイルの容積を使用することができる。説明したシステムはまた、オイル交換、オイル消費および他のオイル関連パラメータの日/時間に関連するエンジン制御データ、エンジンデータをダウンロードし、不揮発性メモリを含む。チャンバおよび前記不揮発性メモリは、エンジンオイル潤滑システムと電気的にエンジン制御装置に液圧式に接続されてもよい取り外し可能なユニットに組み込まれる。エンジンに使用されるオイルの状態を不揮発性メモリに付加してもよい。不揮発性メモリに蓄積されたデータは、取外し自在なユニットに新しいオイルが再充填され、かつ使用済みオイルが、処分のために収集されたときに、遠隔のファイルサーバに送信することができる。負荷、回転数ヒストグラム及び異常事象のようなエンジンデータは、不揮発性メモリデバイスにダウンロードすることによって、エンジンコントローラからリモートサーバに転送することができる。」

イ 「[0010]Internal combustion engines of the 4-cycle variety utilize a crankcase, a sump, and a pressurized system to circulate lubricating oil within the engine. During use, the utility of oil as a lubricant deteriorates due to the accumulation of combustion-generated compounds, debris, acid, and metallic particles generated from wear of engine parts. Further the lubricity of the oil is compromised by the thermally induced degradation of molecular weight and corresponding reduction of viscosity.
Engine life is extended by periodic exchange of used oil for new oil.」
(当審訳)
「4サイクルの内燃機関は、クランクケース、サンプと、エンジン内の潤滑オイルを循環させるために加圧システムを利用している。使用中に、潤滑剤としてのオイルの有用性は、燃焼生成物、破片、酸、およびエンジン部品の摩耗から発生した金属粒子の蓄積のために、低下する。さらに、オイルの潤滑性は、高分子量の熱的に誘発される分解及び粘度の対応する減少によって損なわれる。エンジンの寿命は、使用済みオイルを新しいオイルに周期的に交換することによって延長される。」

ウ 「[0018] Generation of a signal by the engine controller to change oil may be based upon a variety of parameters considered individually, or as a combination of factors accumulated to an algorithm programmed in the engine controller. Such parameters include by way of illustration: engine revolutions since the last prior partial or batch oil change, sensor derived pH, volume of fuel consumed as measured by the vehicle fuel system, a combination of severity of use and accumulated engine revolutions, or combinations of these or other factors. Advantageously engine manufactures may identify relevant information from that available from engine controllers and generate algorithms programmed into the engine controllers that are relevant to the longevity of the engine.」
(当審仮訳)
「エンジンコントローラにより生成されるオイル交換の信号は、個々に考慮される種々のパラメータ、またはエンジンコントローラにおいてプログラムされたアルゴリズムに蓄積された要因の組み合わせに基づくものとすることができる。このようなパラメータとして、前回の部分的又は一括オイル交換以後のエンジンの回転量、センサから得られたpH、車両燃料システムにより測定された燃料消費量、使用状態と累積エンジン回転数との組合せ、又は、これらの要因や他の要因との組合せ、が例示される。有利には、エンジン製造者は、エンジンコントローラから利用可能な情報から関連情報を特定することができ、エンジンの寿命に関連するエンジンコントローラ中にプログラムされるアルゴリズムを生成することができる。」

エ 「[0019] In one embodiment of a concatenated chamber, when the preprogrammed condition is met, the engine controller (not shown) initiates a batch oil change by checking that the oil level in the crankcase 15 meets a prescribed level. If crankcase oil level is at the prescribed level, the controller signals to valve 12 to divert a measured portion of the oil pressurized by the crankcase oil pump 14 through conduit 16 to used oil chamber 18 of housing 20. Alternatively, a positive displacement pump may be employed to move used oil to the used oil chamber.」
(当審訳)
「連結室の一実施形態では、予めプログラムされた条件が満たされると、エンジンコントローラ(図示せず)には、クランクケース15内のオイルレベルが所定のレベルを満たしていることをチェックすることによって、バッチオイル交換を開始する。クランクケースオイルレベルが所定のレベルにある場合に、弁12への制御信号は、導管16を通してクランクケースオイルポンプ14により加圧されたオイルの一部をハウジング20の油室18に作用させる。或いは、容積移送式ポンプは、使用済みオイルを使用する油室に移動させるために使用することができる。」

オ 「[0020] The controller actively maintains a predetermined level of lubricating oil in the crankcase. Sensors for determining the oil level of an engine in operation have been described as for example in U.S. Pat. No. 4,495,909, incorporated herein by reference. The oil level may fall below a predetermined level for reasons such as leakage, or oil consumption by the engine. When the crankcase oil sensor 36 identifies that the oil level is below the prescribed level, then the controller signals a positive displacement pump 38 to transfer new oil from new oil from chamber 22 to the crankcase 15.」
(当審訳)
「コントローラは、クランクケース内の潤滑オイルの所定のレベルを維持する。動作中のエンジンのオイルレベルを測定するためのセンサは、例えば、米国特許第4,495,909号明細書に記載されている。オイルレベルは、漏れやオイル消費量のような理由から、所定の値を下回ることがある。クランクケースオイルセンサー36は、オイルレベルが所定のレベルを下回っていることを識別すると、コントローラは、容積式ポンプ38に信号を送ってチャンバ22からクランクケース15に新しいオイルを移送する。」

カ 「[0028]Upon completion of the oil change, the housing containing now used oil and the non-volatile memory may be removed from the engine. Removal may be facilitated by known quick-disconnect couplings 30, 32 that incorporate valves preventing loss of oil from the chambers upon removal of the housing and an electrical connection, preferably of a plug type, 34 to the engine controller. Optionally, a standardized housing 20 that connects to a variety of engine types and sizes may be developed.」
(当審訳)
「オイル交換が完了すると、使用済みのオイル及び非揮発性メモリを含むハウジングは、エンジンから取り外される。取り外しは、取り外しの際に室からのオイル損失を防止する弁を組み込んだ既知のクイックディスコネクトカップリング30、32、及び、電気的接続、好ましくはプラグ34、によって容易にすることができる。任意選択的に、様々なエンジンのタイプおよびサイズに接続する標準化されたハウジング20は、開発されてもよい。」

キ 「[0032]A component of the system for automated oil change is a non-volatile memory component 46. Typical of such memory capacity are devices popularly known as a “thumb drive” for connection to Universal Serial Buss (USB) ports of computers. Data storable on the memory portion of the engine controller include the date of the housing is connected to the engine, the oil type, manufacturer, and the viscosity.」
(当審訳)
「自動オイル交換のためにシステムの要素は、非揮発性メモリコンポーネント46である。このようなメモリ容量の典型的なものは、コンピュータのユニバーサルシリアルバス(USB)ポートに接続するための「サムドライブ」として広く知られている装置である。エンジンコントローラの記憶部に格納され得るデータは、ハウジングがエンジンに接続された日付、エンジンオイルのタイプ、製造者、および粘度である。」

ク 「[0033]Typical data downloadable from the engine to the non-volatile memory of the oil change system includes the data described above uploaded to the engine controller from the non-volatile memory 46 concerning new oil in the housing, at the time oil housings are exchanged, the date and/or hours of operation of the automatic oil change if a batch change, any engine error codes, engine maintenance requirements, engine performance characteristics such as exhaust gas sensor observations, engine serial number, oil pH, the rate of oil consumption by the engine, fuel consumption, engine loading, and accumulated hours. The information transferred may be an integration of measured data, or an accumulation of individual data measurements and corresponding dates or engine hours.」
(当審訳)
「エンジンからオイル交換装置の不揮発性メモリにダウンロード可能な典型的データは、不揮発性メモリ46からエンジンコントローラにアップロードされた、ハウジング内の新しいオイルに関する上述のデータ、ハウジングが交換される時期、バッチ交換の場合、自動オイル交換の作業の日付および/または時間、エラーコード、エンジン保守要件、排気ガスセンサ観測値のようなエンジンの性能特性を、機関の連続番号、pH、エンジンによって消費される油量、燃料消費量、エンジン負荷、累積時間、である。転送される情報は、測定データの積分、又は蓄積する個別のデータ測定値および対応する日付または時間であってもよい。」

ケ 上記ウから、エンジン及びエンジンコントローラは、車両用のものを含むことが分かるので、エンジン及びエンジンコントローラは車両の一部ということができる。また、上記エから、オイル交換時には、少なくともエンジンコントローラは作動していることが分かり、上記カ及びキから、ハウジングはエンジンに着脱可能であることが分かる。そうすると、ハウジング20は、車両の作動中、オイル潤滑システムとの間でオイル連通を行うよう車両に着脱可能に連結される、ということができる。

コ 上記カ及び図1の図示内容並びに技術常識から、クイックディスコネクトカップリング30、32が接続されると、油室18及びチャンバ22とオイル潤滑システムとの間にオイル連通が確立されることは自明である。

上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「車両のオイル潤滑システムにオイルを供給する方法であって、オイルを含有する油室18及びチャンバ22を含む交換可能なハウジング20を車両の作動中、前記油室18及びチャンバ22と前記車両のオイル潤滑システムとの間にオイル連通を行うように前記車両に着脱可能に連結される方法であって、前記方法は、
交換可能なハウジング20が不揮発性メモリ要素46を有していて、前記不揮発性メモリ要素46はオイルに関連するデータを備えており、オイル潤滑システムはオイル循環システムを構成し、
クイックディスコネクトカップリング30、32が接続されると前記油室18及びチャンバ22と前記車両の前記オイル潤滑システムとの間にオイル連通を確立することを含む方法。」

(2)引用文献2
当審拒絶理由において引用された特開平11-286121号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は上述の技術課題を従来とは全く異なる観点から解決することを目的とするものであり、そのために、本発明のインクタンクは、インクジェットプリントヘッドに供給するためのインクを貯蔵するとともに該インクジェットプリントヘッドに対し着脱可能なインクタンクにおいて、前記インクの貯蔵部と、前記インクジェットプリントヘッドに対するインク供給を開閉するためのインク流路開閉手段を備えるとともに、前記貯蔵部のインクを外部に送給するためのインク送給部と、前記開閉手段を制御する制御手段と、前記インク貯蔵部にインクを外部に対して加圧した状態で保持させる加圧手段と、を具えたことを特徴とする。」

イ 「【0020】図3にその構造の一例を示す。流路を開閉する芯棒27の一端は圧縮ばね28に結合し、常に一定方向(流路を閉じる方向)に付勢されている。芯棒27の他端には永久磁石29が配置されており、この永久磁石29と接して高透磁性の鉄心30がインク流路開閉器5の筐体に固定されている。そしてこの鉄心30の周りには、コイル31が巻回されている。
【0021】芯棒27の中央部には直径1mm程度の貫通穴32が形成されている。この貫通穴32は、図3(A)に示すように、コイル31の非通電時にはインクの流入口33おおよび導出路とは位置が異なっており、その状態ではインク流路開閉器5はインク3が流れない状態(閉状態)である。
【0022】一方、インク流路開閉器制御電気回路9によってコイル31に通電された場合、鉄心31はその磁極を瞬間的に反転させ、永久磁石29と一体化された芯棒27をばね28の付勢力に逆らって図中左方向に移動させる。すると、芯棒27に配置され貫通穴32がインク流入口33および導出路と一致し、インク3が袋2の加圧力によって流れ、インク送給部6の出口より飛び出す構成となっている。図3(B)はインク3が流れる状態(開状態)の概略図である。また、インクの供給を停止させる場合は、コイルに流れる電流を停止すれば良い。なお、磁力の反発力を用いるかわりに、吸引力を用いてもよい。」

ウ 「【0060】これに対し、本発明の加圧インクタンクは、これを装着した段階ではインク供給口とインク受給口とが接触していないために、固着や混合が生じる問題点は回避できる。しかし、異種インクを収納したタンクが誤装着された場合、インクジェットプリントヘッド12からの信号でインク流路開閉器5が開放の状態になった時点で、固着や混合の問題は発生する。そこで、この問題を解決するために、インク流路開閉器制御電気回路部9に、16ビットのEPROMなどのメモリ部を設け、正しいインクタンクが装着された時にのみ、インク流路開閉器5が動作するように設定する。すなわち、プリンタ側には、インクタンクの持つ情報(メモリ内容)とインクジェットプリントヘッドの種類の持つ信号とを演算し、合致する条件の時のみインク流路開閉器5が能動するように構成した。このようなシステム構成としたことで、操作者が行なうおそれのある異種インクタンクの誤装着を防止できるものである。」

エ 「【0066】409はプリントヘッド12のインク吐出機構部19を駆動するためのヘッド駆動部であり、さらにインク有無検知器18の信号をインクタンク11側に伝達したり、インクタンク11側とMPU401との間で所要の信号を授受するための回路部等を有している。
【0067】一方インクタンク11において、421はDRAM等のメモリであり、上述したような所要のデータを格納する。また、431はインクタンク筐体1の上に構成した太陽電池ボードであり、これをインク流路開閉器制御部9等に対し、電力供給用の内部電池433と並列に配線した。さらに、441は無接点型の信号伝送手段であり、本例ではインク流路開閉器制御部9等各部に対する入出力信号を光信号(可視光または赤外線でもよい)の形態で外部との間で授受するためのフォトダイオードセット(送信用と受信用)である。なお、インク流路開閉器制御部9は、後述する制御動作フローの過程で授受される信号との関連において、メモリ421の記憶内容や圧力検出器7の検出状態に応じ、流路開閉器5の作動の可否を定めるロジック回路などの電気回路部とすることができる。
【0068】インクジェットプリントヘッド12側にも同様のフォトダイオードセット411があり、これらにより両者間での信号の授受が行われる。インクタンク11側へインクジェットプリントヘッド12側から特定周波数(例えば1MHz)の所定のスタートアップ信号が出され、これを受けてインクタンク11側はインクタンク存在を示す同じく1MHzの所定パターンの信号を発する構成とした。その後、インクジェットプリントヘッド12側がインクタンク11の存在を確認した旨の所定パターンの確認信を送信すると、インクタンク側11から8ビットのシリアル信号が後述する順序で送信される構成とした。
【0069】インクタンク11とインクジェットプリントヘッド12との間で授受される信号の構成および順序は、シフト信号(同期信号)を含むインクタンクの種類番号、インクタンクの色信号、インクタンクのグレード信号、インクタンクの製造ロット信号、インクタンクのインク圧信号、インク流路開閉器5の状態信号、インクタンクの製造番号である。
【0070】図8はインクジェットプリントヘッドとインクタンクとの信号授受の動作例を説明するためのフローチャートを、図9には双方が送出する信号の形態の概略例を示す。
【0071】図9の起動クロック信号に示すように、インクジェットプリントヘッド12が送出するシフト信号(同期信号)71の間にはデータ信号72が有り、これが1つのブロック信号として処理され、送信される(処理SH1)。そして、当該起動クロック信号をインクタンク側が受けて、起動開始信号を返信する(処理ST1,ST3)。これをインクジェットプリントヘッド側が確認し、確認信号をインクタンク側へ送信すると(処理SH3,SH5)、インクタンク側は各種データ信号を図9に示されるような形態で送信する(処理ST5,ST7)。
【0072】本例では、各種データは、18個のブロックデータ信号からなり、その一例を図9に示すように、インク種類(“6A”)、色(“B”)、グレード(“F”)、製造ロット(“97年A月27日Fライン”)、インク圧力(レベル5)、インク流路開閉器状態0<OFF>、製造番号(“555555”)というような信号形態で構成されている。
【0073】これを、インクジェットプリントヘッド側は受けて、このインクタンクが使用するに合致しているかどうか判断処理を行う(処理SH5,SH7)。そして合致していればインク貯留部17のインク有無信号を返信し、合致していなければプリンタ本体のMPU401に不良(NG)信号を送出する(処理SH9,SH11,SH13)。信号の形態を変えれば、何が合致していないかの信号送致も可能である。すなわち、インクタンクのインク圧力が足りないのか、インクが消費期限を過ぎてて古くなっているか、インクのグレードが異なるかなどの信号であり、これをプリンタ本体で何らかの処理で操作者に報知することも可能であり、さらにはインターフェース400を介してパーソナルコンピュータなどのホスト装置(入力機器)に報知ないし表示を行わせることも可能である。
【0074】インクタンク側は、インク貯留部17のインク有無の信号を受けて、インク無しを示す信号であればインク流路開閉器5を開放処理し(信号の出力)、一方インク有りを示す信号であればインク流路開閉器5を開放することはしない(処理ST9,ST11)。その後、インクジェットプリントヘッド側にインク流路開閉器5の状態信号を送信する(処理ST13)。これを、インクジェットプリントヘッド側は受けて、この一連の処理を終了し、次に別の色や種類のインクタンクの処理に移る(SH15,SH17)。」

上記記載事項及び図面(特に、図1、2及び7を参照。)の図示内容からみて、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献2記載事項〕
「インクタンク11とプリントヘッド12とのインク流路を開放するのに先立ち、インクタンク11のメモリ421と信号の授受を行い、メモリ421と信号の授受に基いて、前記インクタンク11または内容物であるインクに関連するデータを決定し、該データを使用して、前記インクタンク11または内容物であるインクが使用するに合致しているかどうか判断処理を行い、該判断処理において、合致していれば、インク有無信号を返信し、インクタンク11とプリントヘッド12とのインク流路を開放すること。」

(3)引用文献3
当審拒絶理由において引用された特開2005-178899号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。


ア 「【0010】
容器アセンブリ110は、情報タグ200(図2参照)などのその中に含まれる材料に関する情報を記憶するための情報記憶メカニズムを含んでいる。図1に示すように、容器本体120に結合したキャップ115が配設されている。図示の実施形態では、情報タグ200は、具体的には、キャップ115に配されている。キャップ115はコネクタ118を受容して固定するように構成されている。このコネクタ118は、容器アセンブリ110を、以下にさらに説明するようなプロセスアセンブリ103および制御ユニット102に同時に結合するように構成されている。」

「【0019】
図2および3の参照を続けると、容器アセンブリ110が特定の塗布に用いるフォトレジスト材料300を含む場合がある。コネクタ118は、適正なフォトレジスト材料300および適正なフォトレジスト材料300を有する容器アセンブリ110を塗布に用いるコネクタ118に結合することを確実にする構成を含む。
【0020】
情報ケーブル122は、既述したようにアンテナアセンブリ275において終端する。プローブ215を容器本体120内に入れるとともにアンテナアセンブリ275を情報タグ200に隣接させた状態でコネクタ118を物理的にキャップ115に結合することができる。一旦このように配置すると、アンテナアセンブリ275はキャップ115において情報タグ200から情報を読み取ることができる。一実施形態において、ここで説明したこの種のコネクタ118とキャップ115間の結合が採用されるまでアンテナアセンブリ275は情報を読み取ることができない。コネクタ118を容器アセンブリ110において物理的に固定且つ配置する方法のため、アンテナアセンブリ275によって読み取られた情報を、容器アセンブリ110と独占的に関連付けることができる。このようにコネクタ118は容器アセンブリ110内の材料および情報タグ200からの情報が通過可能な唯一の経路として機能する。
【0021】
所望の塗布をするために、適正材料および容器アセンブリ110をコネクタ118に結合することをさらに確実にするために、コネクタ118を容器アセンブリ110のキャップ115に結合する前に、確認ツール250を使用することができる。確認ツール250はコントローラ150(図1参照)に結合された確認ケーブル255を含む。確認ケーブル255は情報タグ200から情報を読み取るための確認アンテナ265で終端する。確認アンテナ265は、可視光発光ダイオード(LED)または他の適当なメカニズムなどの確認表示器260を含む。
【0022】
さらに図7を参照すると、制御ユニット102(図1参照)において塗布を選択することができる。730に示すように、確認ツール250の確認アンテナ265を情報タグ200に隣接配置し、コントローラ150(図1参照)によって指示することにより情報タグ200から情報を読み取ることができる。その後確認表示器260は確認アンテナ265によって読み取られた情報に対して目に見える応答を示すことができる。例えば、一実施形態において、確認表示器260は、情報タグ200から読み取られた情報が所定の塗布用の許容材料300および容器アセンブリ110が存在することを示す場合に緑色光を発することができる。代替的には、確認表示器260は、情報タグ200からの情報がそうでないことを示す場合に赤色光を発することができる。このような方法で、コネクタ118を容器アセンブリ110のキャップ115に結合する前にフォトレジスト材料300および容器アセンブリ110を確認することができる。
【0023】
図示の実施形態において上述したような確認により、所望の塗布に用いる容器アセンブリ110およびフォトレジスト材料300を確認するため、破断可能膜210の破断およびフォトレジスト材料300の露出を防止することができる。さらに、確認表示器260はコントローラ150で指示されたときにアンテナアセンブリ275から目に見える応答を引き出すことができる。これは、図5に示した材料引出し130におけるような多数のアンテナアセンブリ275からの同時に目に見える応答を含む場合もある。」

上記記載事項及び図面(特に、図1ないし3を参照。)の図示内容からみて、引用文献3には次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献3記載事項〕
「容器アセンブリ110とプロセスアセンブリ103との間に材料の連通を確立するのに先立ち、容器アセンブリ110の情報タグ200に確認ツール250の確認アンテナ265を隣接配置し、コントローラ150によって指示することにより前記情報タグ200から情報を読み取り、前記情報タグ200から読み取られた情報が所定の塗布用の許容材料300および容器アセンブリ110が存在することを示す場合に確認表示器260は緑色光を発し、このような方法でコネクタ118を容器アセンブリ110のキャップ115に結合する前にフォトレジスト材料300および容器アセンブリ110を確認し、該確認結果に応じて、容器アセンブリ110とプロセスアセンブリ103との間に材料の連通を確立すること。」

2 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「オイル」は、その機能、構成又は技術的意義からみて本願発明における「液体」に相当し、以下同様に、「油室18及びチャンバ22」は「タンク」に、「ハウジング20」は「液体容器」および「容器」に、「オイル潤滑システム」は「液体配送システム」に、「不揮発性メモリ要素46」は「データキャリア」に、それぞれ相当する。

そして、引用発明における「交換可能なハウジング20が不揮発性メモリ要素46を有していて、前記不揮発性メモリ要素46はオイルに関連するデータを有しており、オイル潤滑システムはオイル循環システムを構成し、クイックディスコネクトカップリング30、32が接続されると」と、本願発明における「(i) 前記タンクと前記車両の前記液体配送システムとの間に液体連通を確立するのに先立ち、前記交換可能な液体容器により担持されたデータキャリアと情報交換して、(ii) 前記データキャリアとの情報交換に基づいて、前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物の少なくとも1つに関連するデータを決定し、(iii) 前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物の少なくとも1つと関連するデータを使用して、前記車両のための前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物の適合性を分析し、前記液体配送システムは液体循環システムを構成し、(iv) 前記分析に基づいて、適合性のある出力を生成し、および(v) 前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物が前記車両に適合することを示す適合性のある出力に応じて」とは、「交換可能な液体容器はデータキャリアを担持しており、前記データキャリアは、液体容器の内容物に関連するデータを有しており」という限りにおいて一致している。

よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

〔一致点〕
「車両の液体配送システムに液体を供給する方法であって、液体を含有するタンクを含む交換可能な液体容器を車両の作動中、前記タンクと前記車両の液体配送システムとの間に液体連通を行うように前記車両に着脱可能に連結される方法であって、前記方法は、
交換可能な液体容器はデータキャリアを担持しており、前記データキャリアは液体容器の内容物に関連するデータを有しており、前記液体配送システムは液体循環システムを構成し、
前記タンクと前記車両の前記液体配送システムとの間に液体連通を確立することを含む方法。」

〔相違点〕
本願発明においては「(i) 前記タンクと前記車両の前記液体配送システムとの間に液体連通を確立するのに先立ち、前記交換可能な液体容器により担持されたデータキャリアと情報交換して、(ii) 前記データキャリアとの情報交換に基づいて、前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物の少なくとも1つに関連するデータを決定し、(iii) 前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物の少なくとも1つと関連するデータを使用して、前記車両のための前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物の適合性を分析し」、「(iv) 前記分析に基づいて、適合性のある出力を生成し、および(v) 前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物が前記車両に適合することを示す適合性のある出力に応じて」前記タンクと前記車両の前記液体配送システムとの間に液体連通を確立するものであるのに対して、引用発明においては、かかる事項を備えていない点。

上記相違点について検討する。
引用文献2記載事項は上記のとおり「インクタンク11とプリントヘッド12とのインク流路を開放するのに先立ち、インクタンク11のメモリ421と信号の授受を行い、メモリ421と信号の授受に基いて、前記インクタンク11または内容物であるインクに関連するデータを決定し、該データを使用して、前記インクタンク11または内容物であるインクが使用するに合致しているかどうか判断処理を行い、該判断処理において、合致していれば、インク有無信号を返信し、インクタンク11とプリントヘッド12とのインク流路を開放すること。」というものであり、引用文献3記載事項は上記のとおり「容器アセンブリ110とプロセスアセンブリ103との間に材料の連通を確立するのに先立ち、容器アセンブリ110の情報タグ200に確認ツール250の確認アンテナ265を隣接配置し、コントローラ150によって指示することにより前記情報タグ200から情報を読み取り、前記情報タグ200から読み取られた情報が所定の塗布用の許容材料300および容器アセンブリ110が存在することを示す場合に確認表示器260は緑色光を発し、このような方法でコネクタ118を容器アセンブリ110のキャップ115に結合する前にフォトレジスト材料300および容器アセンブリ110を確認し、該確認結果に応じて、容器アセンブリ110とプロセスアセンブリ103との間に材料の連通を確立すること。」というものである。
これらの記載事項から「液体容器(インクタンク11;容器アセンブリ110)とその内容物である液体(インク;材料300)を利用するシステム(プリントヘッド12;プロセスアセンブリ103)との間に液体連通を確立するのに先立ち、前記液体容器により担持されたデータキャリア(メモリ421;情報タグ110)と情報交換(信号の授受;コントローラ150の指示による情報の読み取り)して、前記データキャリアとの情報交換に基づいて、前記液体容器または前記液体容器の内容物の少なくとも1つに関連するデータを決定し、前記液体容器または前記液体容器の内容物の少なくとも1つと関連するデータを使用して、前記液体容器または前記液体容器の内容物の適合性を分析し(合致しているかどうかの判断を行い;確認し)、前記分析に基づいて、適合性のある出力(インク有無信号;緑色光)を生成し、および前記交換可能な液体容器または前記交換可能な液体容器の内容物が前記車両に適合することを示す適合性のある出力に応じて液体連通を確立すること。」は、本願出願前に周知の技術(以下「周知技術」という。)であったといえる。
引用発明と周知技術とは、液体容器とその内容物である液体を利用するシステムとの間で液体連通を行うという点で共通するものであり、引用発明も液体容器(ハウジング20)のデータキャリア(不揮発性メモリ要素46)が、液体容器の内容物(オイル)に関する情報を有しているから、引用発明において周知技術を参酌し、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 特許法第36条第6項第2号(明確性)についての判断
当審拒絶理由において、特許請求の範囲の記載不備について、次のように指摘した。

「請求項1に『循環システムを構成し』との記載があるが、『循環システム』の意味が不明確である。
請求項2及び発明の詳細な説明の段落【0012】では、通常の意味での循環はしない『ウォッシャ液』、『燃料添加剤』を含むとしている。そうすると、どのようなものまで『循環』に含むのか不明確である。」

これに対して、請求人は、令和2年8月25日の意見書において、「不明確であった『循環システム』の語を削除し、」と述べている。
しかしながら、「循環システム」との記載は請求項1に依然として存在し、上記意見書の記載を参酌してもその意味は明確ではないから、「循環システム」との記載を含む請求項1に係る発明は、特許を受けようとする発明の範囲が依然として明確でない。

よって、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-09-29 
結審通知日 2020-09-30 
審決日 2020-10-15 
出願番号 特願2016-568943(P2016-568943)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (F01M)
P 1 8・ 121- WZ (F01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
谷治 和文
発明の名称 流体システムおよび方法  
代理人 浜田 治雄  

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