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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G09F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G09F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G09F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G09F |
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管理番号 | 1371686 |
異議申立番号 | 異議2019-700718 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-09-10 |
確定日 | 2020-12-25 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6482977号発明「フレキシブルデバイス用積層フィルム、光学部材、表示部材、前面板、及びフレキシブルデバイス用積層フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6482977号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6482977号の請求項1ないし6及び8ないし12に係る特許を維持する。 特許第6482977号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 特許第6482977号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成27年7月22日(優先権主張 平成26年11月10日、2件)を出願日とする出願であって、平成31年2月22日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行され、その後、次のとおりに手続が行われた。 令和1年 9月10日 :特許異議申立人 加藤浩志(以下、「特許異議 申立人1」という。)による全請求項に係る特 許に対する特許異議の申立て 同年 同月13日 :特許異議申立人 猪狩充(以下、「特許異議申 立人2」という。)による請求項1、5ないし 10及び12に係る特許に対する特許異議の申 立て 同年12月27日付け:取消理由通知 令和2年 3月 5日 :特許権者による意見書の提出 同年 同月31日 :特許異議申立人2による上申書の提出 同年 5月 1日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年 7月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 9月14日 :特許異議申立人1による意見書の提出 同年 9月28日 :特許異議申立人2による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和2年7月22日になされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1ないし6のとおりである(下線は、訂正箇所について付したものである。)。 (1) 訂正事項1 訂正前の請求項1の、 「ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと、 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、」の記載を、 「ポリイミド系高分子を含有する厚さが20μm?80μmの樹脂フィルムと、 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 前記機能層が、ポリ(メタ)アクリレートを含み紫外線吸収の機能を有する厚さが1μm?10μmのハードコート層であり、」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2、3、5、6及び8ないし12も同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 訂正前の請求項1の、 「フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム。」の記載を、 「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム(ただし、ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるものを除く。)」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2、3、5、6及び8ないし12も同様に訂正する。 (3) 訂正事項3 訂正前の請求項4の、 「前記樹脂フィルムの少なくとも一方の主面における、ケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nが8以上である樹脂フィルムであり、 前記樹脂フィルムのSi/Nが8以上である主面側に前記機能層が設けられる、 請求項2又は3に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。」の記載を、 「ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと、 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 前記樹脂フィルムが、ケイ素原子を含むケイ素材料を更に含有し、前記ケイ素材料がシリカ粒子であり、 前記樹脂フィルムの少なくとも一方の主面における、ケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nが8以上である樹脂フィルムであり、 前記樹脂フィルムのSi/Nが8以上である主面側に前記機能層が設けられ、 当該積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満である、 を満たす、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム。」に訂正する。 請求項4の記載を引用する請求項5、6及び8ないし12も同様に訂正する。 (4) 訂正事項4 訂正前の請求項6の、 「前記機能層が、紫外線吸収、表面硬度、粘着性、色相調整及び屈折率調整からなる群から選択される」の記載を、 「前記機能層が、粘着性、色相調整及び屈折率調整からなる群から選択される」に訂正する。 請求項6の記載を引用する請求項8ないし12も同様に訂正する。 (5) 訂正事項5 訂正前の請求項7を削除する。 (6) 訂正事項6 訂正前の請求項8、11及び12の記載を、訂正前の請求項7を削除したことに伴い、請求項7の記載を引用しないものとなるように訂正する。 (7)一群の請求項について 本件訂正の請求は、訂正前の請求項1ないし12について、請求項2ないし12は、それぞれ請求項1を、直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、本件訂正前の請求項1ないし12は、一群の請求項であり、本件訂正の請求は、それらに対してされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等 (1) 訂正事項1に係る請求項1等の訂正について 訂正事項1に係る請求項1の訂正は、 ア 「ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルム」の厚みに関し、 段落【0062】の「樹脂フィルム10の厚さは、・・・20μm?100μmであることがさらに好ましい。」及び【0139】の実施例1の「厚み80μmの樹脂フィルムを得た。」との記載に基づき、「厚さが20μm?80μm」に更に限定するものであり、 イ 「機能層」に関し、 段落【0075】における「紫外線吸収層の主材として・・・ポリ(メタ)アクリレートであってもよい。」との記載、【0088】における「機能層20の厚さは、・・・1μm?100μmであることが好ましく」及び【0140】における「厚さ10μmの機能層(表面硬度及び紫外線吸収の機能を有する層)を形成」との記載に基づき、「ポリ(メタ)アクリレートを含み紫外線吸収の機能を有する厚さが1μm?10μmのハードコート層」に更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1に係る本件訂正は、上記段落に記載される事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 そして、請求項1の記載を引用する請求項2ないし6及び8ないし12に対する訂正事項1に係る訂正も同様である。 (2) 訂正事項2に係る請求項1等の訂正について 訂正事項2に係る請求項1の訂正は、 「フレキシブルデバイス用積層フィルム」に関し、 段落【0143】に記載される「積層フィルムを1cm×8cmに切断した。切断後の積層フィルムの機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付け、積層フィルムにおけるヒビ割れの有無」の確認によって、「A:ヒビ割れが入らず、良好な外観を維持」するものへと更に限定するものであって、また、「ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるもの」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2に係る本件訂正は、上記段落に記載されるか、また、特定事項の一部を除外するものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、当該事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 そして、請求項1の記載を引用する請求項2ないし6及び8ないし12に対する訂正事項2に係る訂正も同様である。 (3) 訂正事項3に係る請求項4等の訂正について 訂正事項3は、訂正前の請求項4が、訂正前の請求項1ないし3を引用するものであったのを、訂正前の請求項3を引用するもののみについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 また、訂正事項3に係る本件訂正は、すべて訂正前の請求項に記載されていた事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 そして、請求項4の記載を引用する請求項5及び6及び8ないし12に対する訂正事項3に係る訂正も同様である。 (4) 訂正事項4に係る請求項6等の訂正について 「機能層」の機能に関し、 訂正前の請求項6に記載された「紫外線吸収、表面硬度、粘着性、色相調整及び屈折率調整からなる群」から、「紫外線吸収」及び「表面硬度」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項4に係る本件訂正は、訂正前の請求項6に記載されていたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 そして、請求項6の記載を引用する請求項8ないし12に対する訂正事項4に係る訂正も同様である。 (5) 訂正事項5に係る請求項7の訂正について 訂正事項5は、訂正前の請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。 (6) 訂正事項6に係る請求項8、11及び12の訂正について 訂正事項6に係る請求項8、11及び12の訂正は、訂正前のこれらの請求項が、訂正前の請求項7をその引用請求項に含んでいた記載であったのを、前記訂正事項5により請求項7を削除したことに伴い、請求項7を引用しないように整合させるためのものであり、しかも、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされた訂正後の請求項1を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。 そして、請求項8及び11の記載を引用する請求項9ないし12に対する訂正事項6に係る訂正も同様である。 (7) 別の訂正単位とする求めについて 特許権者は、訂正請求書において、「訂正後の請求項4については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正すること」を求めるが、訂正後の請求項5、6及び8ないし12は、いずれも請求項1及び4の双方を直接又は間接的に引用するものであるから、別の訂正単位としない。 (8) 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」・・・のようにいう。)は、それぞれ、令和2年7月22日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリイミド系高分子を含有する厚さが20μm?80μmの樹脂フィルムと、 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 前記機能層が、ポリ(メタ)アクリレートを含み紫外線吸収の機能を有する厚さが1μm?10μmのハードコート層であり、 当該積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満である、 を満たす、 1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム(ただし、ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるものを除く。) 【請求項2】 前記樹脂フィルムが、ケイ素原子を含むケイ素材料を更に含有する請求項1に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項3】 前記ケイ素材料がシリカ粒子である請求項2に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。フレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項4】 ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 前記樹脂フィルムが、ケイ素原子を含むケイ素材料を更に含有し、前記ケイ素材料がシリカ粒子であり、 前記樹脂フィルムの少なくとも一方の主面における、ケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nが8以上である樹脂フィルムであり、 前記樹脂フィルムのSi/Nが8以上である主面側に前記機能層が設けられ、 当該積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満である を満たす、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項5】 光照射後の当該積層フィルムが1.0%以下のヘイズを有する請求項1?4のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項6】 前記機能層が、粘着性、色相調整及び屈折率調整からなる群から選択される少なくとも1種の機能を有する層である請求項1?5のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項7】(削除) 【請求項8】 前記樹脂フィルムと前記機能層との間に設けられたプライマー層を更に備える、請求項1?6のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項9】 前記プライマー層がシランカップリング剤を含む、請求項8に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項10】 前記シランカップリング剤が、メタクリル基、アクリル基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有する、請求項9に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項11】 ポリイミド系高分子とケイ素原子を含むケイ素材料とを合有する樹脂フィルムの少なくとも一方の主面にUVオゾン処理を施す工程と、 前記樹脂フィルムの前記UVオゾン処理が施された主面側に機能層を設ける工程と、 を有する、請求項1?6及び8?10のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルムを製造する方法。 【請求項12】 請求項1?6及び8?10のいずれか1項に記載の積層フィルムを具備する、フレキシブルデバイスの前面板。」 第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要 1 特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和1年9月10日に特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1) 申立理由1-1(甲第1号証の1に基づく新規性欠如) 本件特許発明1、6、7及び12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証の1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、6、7及び12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2) 申立理由1-2(甲第1号証の1を主引用文献とする進歩性欠如) 本件特許発明1ないし12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証の1に記載された発明を主たる発明として、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3) 申立理由1-3(甲第4号証を主引用文献とする進歩性欠如) 本件特許発明1ないし12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第4号証に記載された発明を主たる発明として、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4) 申立理由1-4(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 申立理由1-4(1) 本件特許発明1の課題は、ポリイミドにシリカ粒子を30?70%と配合し、かつ紫外線吸収層を設けることによって解決されると認識するものであるが、本件特許発明1はそのような構成を特定していないから、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 イ 申立理由1-4(2) 本件特許明細書には、本件特許発明1に係るポリイミドについて、特定の構造のモノマーを用いた実施例1、2、4が記載されているのみであり(実施例3は市販材料)、それ以外の出発材料、配合材料、添加材料、置換材料及び製造工程について、どのような材料を選択しどのように製造すれば、求められる特性が得られるのかの記載が一切ない。 対して、本件特許発明1は、フィルムに用いられる樹脂が単に「ポリイミド系高分子を含有する」としか特定していない。したがって、本件特許出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (5) 申立理由1-5(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・ 本件特許発明1に特定される光照射試験時における積層フィルムの光学特性による限定は、光学装置又は表示装置に用いられるフィルムの特性について求められる願望を表示するのみであり、その特性を達成するための技術的手段が記載されておらず、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかであり、本件特許発明1が不明確である。 (6) 申立理由1-6(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、その明細書の発明の詳細な説明の記載が以下の理由で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・ 本件特許発明1に特定されたポリイミド系高分子のすべてが光照射試験時における積層フィルムの光学特性で記載された発明特定事項を満足するとはいえず、また、特定のポリイミド樹脂から得られた積層フィルムの光照射試験時において光学特性を満足するか否かを確認するためには当業者にとって過度な負担を要する。 (7) 証拠方法 (以下、特許異議申立人1による異議申立書の記載に基づく。) ・ 甲第1号証の1:国際公開第2013/100557号 ・ 甲第1号証の2:特表2015-508345号公報 (甲第1号証の1の訳文) ・ 甲第2号証 :国際公開第2014/051050号 ・ 甲第3号証 :特開2009-215412号公報 ・ 甲第4号証 :特開2007-63417号公報 ・ 甲第5号証 :特開2013-151624号公報 ・ 甲第6号証の1:国際公開第2014/171679号 ・ 甲第6号証の2:特表2016-518490号公報 (甲第6号証の1の訳文) ・ 甲第7号証:特開2010-42564号公報 ・ 甲第8号証の1:国際公開第2013/105742号 ・ 甲第8号証の2:特表2015-509997号公報 (甲第8号証の1の訳文) ・ 甲第9号証:再公表特許第2011/118305号 2 特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和1年9月13日に特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1) 申立理由2-1(甲第1号証の2を主引用文献とする進歩性欠如) 本件特許発明1、5ないし10及び12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証の2に記載された発明を主たる発明として、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、5ないし10及び12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2) 申立理由2-2(甲第13号証の2を主引用文献とする進歩性) 本件特許発明1、5ないし10及び12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第13号証の2に記載された発明を主たる発明として、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、5ないし10及び12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3) 証拠方法 (以下、特許異議申立人2による異議申立書の記載に基づく。) ・ 甲第1号証:特表2015-523241号公報(甲第1号証の2の訳文) ・ 甲第1号証の2:国際公開第2013/180509号 ・ 甲第2号証:プラスチック-全光線透過率及び全光線反射率の求め方 JIS K 7375、日本規格協会 ・ 甲第3号証:ポリイミドの高機能化と応用技術、第1章、第1節 ・ 甲第4号証:特開2002-234961号公報 ・ 甲第5号証:特開2008-210613号公報 ・ 甲第6号証:プラスチックの光学的特性試験方法 JIS K 7105、 日本規格協会 ・ 甲第7号証:プラスチック-黄色度及び黄変度の求め方 JIS K 7373、 日本規格協会 ・ 甲第8号証:本件特許発明の発明者らが米国特許庁へ提出した 2019年4月25日付応答書 ・ 甲第9号証:プラスチック-実験室光源による暴露試験方法 -第3部:紫外線蛍光ランプ JIS K 7350-3、日本規格協会 ・ 甲第10号証:塗料の研究、「促進耐候性試験(その2)」、 飯田眞司ら、No.146 Oct. 2006、第26ないし39頁 ・ 甲第11号証:塗料一般試験方法-第7部:塗膜の長期耐久性- 第8節:促進耐候性(紫外線蛍光ランプ法) JIS K 5600-7-8、日本規格協会 ・ 甲第12号証:プラスチック-実験室光源による暴露試験方法 第1部:通則 JIS K 7350-1、日本規格協会 ・ 甲第13号証:特表2015-508345号公報 (甲第13号証の2の訳文) ・ 甲第13号証の2:国際公開第2013/100557号 ・ 甲第14号証:国際公開第2011/040541号 ・ 甲第15号証:特開2011-31551号公報公報 ・ 甲第16号証:国際公開第2013/099658号 ・ 甲第17号証:特開2011-51340号公報 ・ 甲第18号証:特表2002-501118号公報 ・ 甲第19号証:特開2012-93724号公報 ・ 甲第20号証:特開2010-42564号公報 ・ 甲第21号証:特開2012-211221号公報 ・ 甲第22号証:特表2015-536555号公報 (甲第22号証の2の訳文) 甲第22号証の2:国際公開第2014/084529号 ・ 甲第23号証:国際公開第2014/041816号 ・ 甲第24号証:特願2014-228099号 ・ 甲第25号証:特願2014-228100号 第5 令和2年5月1日付け取消理由通知(決定の予告)の概要 本件特許の請求項1ないし12に係る特許に対して、当審が令和2年5月1日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、おおむね次のとおりである。 取消理由1(進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし3、5ないし10及び12に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 取消理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし12についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 引用文献等 ・ 特許異議申立人1が提出した甲第1号証の1(以下、「甲1-1」という。特許異議申立人2が提出した甲第13号証の2と同一) ・ 特許異議申立人2が提出した甲第1号証の2(以下、「甲2-1」という。) ・ 特許異議申立人2が提出した甲第10号証(以下、「甲2-10」という。) 第6 当審の判断 当審は、以下に述べるように、上記取消理由1、取消理由2及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 1 主な甲号証の記載事項等 (1)甲1-1の記載事項及び甲1-1に記載された発明 ア 甲1-1に記載された事項 甲1-1には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様。)。 なお、原文の摘記は省略し、対応する日本語訳を記す。日本語訳は、甲1-1のパテントファミリである特表2015-508345号公報(特許異議申立人1が提出した甲第1号証の2)による。 (ア) 「[39] 本発明に係るプラスチック基板は、ジアンヒドリド類とジアミン類との重合、またはジアンヒドリド類と芳香族ジカルボニル化合物とジアミン類との重合によるポリイミド系樹脂前駆体のイミド化物を含み、黄色度が5以下であり、UV分光計で透過度を測定するときに550nmでの透過度が80%以上を満足するポリイミド系フィルムと;前記ポリイミド系フィルムの一面上に形成されたハードコート層と;ポリイミドフィルムの残りの一面上に形成された透明電極層とを含んでなる。このようなハードコート層は、プラスチック基板の高硬度のための層であり、これによりタッチスクリーンパネル形成の際にウィンドウフィルムを省略することができる。また、このようなハードコート層は、後述する有機層と共に耐化学性を向上させることができるが、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、硫酸マグネシウム、水酸化カリウム、N-メチル-2-ピロリドンおよびメチルエチルケトンなどの有機溶媒への浸漬の後に肉眼的変化がないほど耐化学性を向上させることができる。」 (イ) 「[44] 本発明の一実施形態によれば、ポリイミド系フィルムは表面改質されたものであってもよく、表面改質はプラズマ処理またはコロナー処理によるものであってもよい。このような表面改質によって、本発明で例示している様々な層との表面接着力を向上させることができ、これにより光透過度、表面硬度、透湿特性もさらに向上させることができる。 ・・・ [49] 本発明の好適な一実施形態によれば、ハードコート層は1?50μmの厚さを有してもよい。」 (ウ) 「[59] <実施例1?3> ・・・ [61] ・・・厚さ100μmのポリイミドフィルムを得た。 [62] 得られたフィルムを基材として、フィルムの上部に、ポリシラザンまたはシリカ、およびアクリル系樹脂またはウレタン系樹脂を含む有無機ハイブリッド系のハードコート組成物を用いてハードコート層を形成した。・・・ [83] 前述の実施例および比較例で製造されたプラスチック基板フィルムの物性を次のとおり測定して下記表1に示した。・・・ [89] (2)黄色度 [90] 製造されたポリイミドフィルムに対してUV分光計(Varian社製、Cary100)を用いてASTME313規格で黄色度を測定した。 [91] (3)透過度 [92] 製造されたポリイミドフィルムに対してUV分光計(Varian社製、Cary100)を用いて可視光線透過度を測定した。・・・ [97] ・・・ [表1] 」 イ 甲1-1に記載された発明 甲1-1の、特に段落[39]及び実施例1に関連する記載から、甲1-1には、以下の発明が記載されていると認める。 なお、日本語訳の[表1]中の「H/C層の厚さ(nm)」との記載における(nm)は、原文の国際公開から、(μm)の誤記である。 ・ 「黄色度が2.78であり、UV分光計で透過度を測定したときに550nmでの透過度が87.51である厚さ100μmのポリイミド系フィルムと、前記ポリイミド系フィルムの一面上に、ポリシラザンまたはシリカ、およびアクリル系樹脂またはウレタン系樹脂を含む有無機ハイブリッド系のハードコート組成物を用いて厚さが5μmのハードコート層を形成した、タッチスクリーンパネルに用いるプラスチック基板。」(以下、「甲1-1発明」という。) ・ 「黄色度が2.78であり、UV分光計で透過度を測定したときに550nmでの透過度が87.51である厚さ100μmのポリイミド系フィルムと、前記ポリイミド系フィルムの一面上に、ポリシラザンまたはシリカ、およびアクリル系樹脂またはウレタン系樹脂を含む有無機ハイブリッド系のハードコート組成物を用いて厚さが5μmのハードコート層を形成したプラスチック基板を用いたタッチスクリーンパネル。」(以下、「甲1-1装置発明」という。) (2) 甲2-1の記載事項及び甲2-1に記載された発明 ア 甲2-1に記載された事項 甲2-1には、以下の事項が記載されている。 なお、原文の摘記は省略し、対応する日本語訳を記す。日本語訳は、甲2-1のパテントファミリである特表2015-523241号公報(特許異議申立人2が提出した甲第1号証)による。 (ア) 「【請求項1】 支持基材と、 前記支持基材の少なくとも一面に形成されるハードコーティング層とを含み、前記ハードコーティング層は、3?6官能性アクリレート系単量体の光硬化性架橋共重合体と、前記光硬化性架橋共重合体内に分散している無機微粒子とを含むことを特徴とする、ハードコーティングフィルム。」 (イ) 「【請求項5】 前記支持基材は、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephtalate、PET)、サイクリックオレフィン共重合体(cyclic olefin copolymer、COC)、ポリアクリレート(polyacrylate、PAC)、ポリカーボネート(polycarbonate、PC)、ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate、PMMA)、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketon、PEEK)、ポリエチレンナフタレート(polyethylenenaphthalate、PEN)、ポリエーテルイミド(polyetherimide、PEI)、ポリイミド(polyimide、PI)、トリアセチルセルロース(triacetylcellulose、TAC)、およびMMA(methyl methacrylate)からなる群より選択される1種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハードコーティングフィルム。」 (ウ) 「【請求項14】 91%以上の光透過率、0.4以下のヘイズ、および1.0以下のb*値を示すことを特徴とする、請求項1に記載のハードコーティングフィルム。」 (エ) 「【請求項15】 UVB波長の光に72時間露出させた時、ハードコーティング層のb*値の変化が0.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載のハードコーティングフィルム。」 (オ) 「【請求項17】 前記ハードコーティング層の厚さは、50?150μmであることを特徴とする、請求項1に記載のハードコーティングフィルム。」 (カ) 「上記の課題を解決するために、本発明は、高硬度を示しながらも、カールや撓み、またはクラックの発生がないハードコーティングフィルムを提供する。」(第2ページ第13ないし14行) (キ) 「本発明のハードコーティングフィルムによれば、高硬度、耐擦傷性、高透明度を示し、優れた加工性でカールまたはクラックの発生が少なく、モバイル機器、ディスプレイ機器、各種計器盤の前面板、表示部などに有用に適用可能である。」(第2ページ第23ないし26行) (ク) 「前記支持基材の厚さは特に制限されないが、約30?約1,200μm、または約50?約800μmの厚さを有する支持基材を使用することができる。」(第4ページ第23ないし25行) (ケ) 「一方、本発明のハードコーティング層は、前述した光硬化性架橋共重合体と無機微粒子のほか、界面活性剤、黄変防止剤、レベリング剤、防汚剤など、本発明の属する技術分野において通常使用される添加剤を追加的に含むことができる。」(第6ページ第29行ないし第7ページ第2行) (コ) 「前記ハードコーティング層は、完全に硬化した後、厚さが約50μm以上、例えば、約50?約150μm、または約70?約100μmの厚さを有する。本発明によれば、このような厚さを有するハードコーティング層として含みながらも、カールやクラックの発生なしに高硬度のハードコーティングフィルムを提供することができる。」(第8ページ第20ないし23行) (サ) 「このような本発明のハードコーティングフィルムは、多様な分野において活用が可能である。例えば、移動通信端末、スマートフォンまたはタブレットPCのタッチパネル、および各種ディスプレイのカバー基板または素子基板の用途に使用できる。」(第10ページ第15ないし17行) (シ) 「6)円筒形屈曲テスト 各ハードコーティングフィルムを、直径3cmの円筒形マンドレルに挟んで巻いた後、クラックの発生の有無を判断して、クラックが発生しない場合をOK、クラックが発生した場合をXと評価した。・・・ 前記物性測定の結果を、下記の表2に示した。 [表2] 」(第13ページ第26行ないし第14ページ第8行) イ 甲2-1に記載された発明 甲2-1の特許請求の範囲の請求項5及び17の記載並びに上記(キ)及び(ク)から、甲2-1には、以下の発明が記載されていると認める。 ・ 「ポリイミドを含む、厚さ約30?約1,200μmの支持基材と、 前記支持基材の少なくとも一面に形成される、3?6官能性アクリレート系単量体の光硬化性架橋共重合体と、前記光硬化性架橋共重合体内に分散している無機微粒子とを含む、厚さが約50?150μmのハードコーティング層とを含み、ディスプレイ機器の前面板に適用可能なハードコーティングフィルム。」(以下、「甲2-1発明」という。) ・ 「ポリイミドを含む、厚さ約30?約1,200μmの支持基材と、 前記支持基材の少なくとも一面に形成される、3?6官能性アクリレート系単量体の光硬化性架橋共重合体と、前記光硬化性架橋共重合体内に分散している無機微粒子とを含む、厚さが約50?150μmのハードコーティング層とを含むハードコーティングフィルムを適用したディスプレイ機器の前面板。」(以下、「甲2-1装置発明」という。) (3) 甲2-10に記載された事項 ア 「紫外線蛍光ランプは現在3種類(表7^(14、15))、図11^(16、17))参照)がラインアップされ、JIS K5600-7-8 「促進耐候性(紫外線蛍光ランプ法)」にも規定されている。基本的に紫外線に偏った波長分布であることから、この試験法も塗膜や材料の劣化に効果的な促進性を持っていると言える。」(第33ページ右欄第1ないし5行) イ 「 」(第34ページ) 2 取消理由1(進歩性欠如)について (1) 甲1-1を主引用文献とする進歩性について ア 本件特許発明1について (ア) 対比 甲1-1発明の「ハードコート層」は、厚さが1μm?10μmの範囲である5μmであって、本件特許発明1における「機能層」に相当し、紫外線を全く吸収しないとは考えられないため、紫外線吸収の機能を有するものと言える。 甲1-1発明のポリイミド系フィルム上にハードコート層が形成された「プラスチック基板」は、本件特許発明1の「積層フィルム」に相当し、甲1-1発明のプラスチック基板を用いたタッチスクリーンパネルは、表示機能を有するスクリーンであって、かつタッチ時に撓んで機能するものと考えられ、可撓性を有するといえるから、「フレキシブルデバイスである表示装置の前面板」として用いられることが明らかである。 また、甲1-1発明のプラスチック基板は、透明電極層を形成する前のものであるから、本件特許発明1の「ただし、ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるものを除く。」を充足する。 そうすると、本件特許発明1と甲1-1発明は、 「ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと、 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 前記機能層が、紫外線吸収の機能を有する厚さが1μm?10μmのハードコート層であり、 フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム(ただし、ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるものを除く。)。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 光照射試験について、本件特許発明1は「積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満である」のに対して、甲1-1発明は、透過率及び黄色度の評価は、いずれもハードコート層の形成前のポリイミド系フィルムにおけるものであって、ハードコート層の形成後について、そのようには特定されない点。 <相違点2> 樹脂フィルムの厚さについて、本件特許発明1は「樹脂フィルムの厚さが20μm?80μm」であるのに対して、甲1-1発明は、対応するポリイミド系フィルムの厚さが100μmと特定される点。 <相違点3> 機能層の材質について、本件特許発明1における「機能層が、ポリ(メタ)アクリレートを含」むものであるのに対して、甲1-1発明で対応する「ハードコート層」は、「ポリシラザンまたはシリカ、およびアクリル系樹脂またはウレタン系樹脂を含む有無機ハイブリッド系のハードコート組成物を用いて」形成されると特定される点。 <相違点4> 「フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」といった積層フィルムの用途について、本件特許発明1は「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」ものであるのに対して、甲1-1発明は、そのようには特定されない点。 (イ) 判断 事案に鑑み、相違点4から検討する。 a 相違点4について 相違点4は、本件特許発明1における「フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム」を「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」ものに限定するものである。 また、甲1-1の記載を通じてみても、「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない」程度の屈曲性を必要とする用途についての記載も示唆もされておらず、当業者にとって、甲1-1発明の「タッチスクリーンパネルに用いるプラスチック基板」を「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」ものとする動機付けもない。 そして、甲1-1発明から「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない」という効果も、甲各号証及び技術常識から予測可能なものでもない。 そうすると、相違点4に係る特定事項を甲1-1発明に採用することが当業者にとって容易になし得えたとはいえない。 (ウ) 特許異議申立人の主張の検討 上記相違点4に係る「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」との特定事項に関し、特許異議申立人1は、令和2年9月14日に提出した意見書において、当業者が当然に求める課題にすぎない旨主張し(同意見書第8ページ)、また、特許異議申立人2は、令和2年9月28日に提出した意見書において、単なる物の固有の物性であって、物の構成自体が容易に想到し得るのであれば、同じ物性の物が必然的に得られる旨主張する(同意見書第4ページ)。 しかしながら、上記の特定事項が、本件特許発明1の発明特定事項として記載されている以上、本件特許発明1のフレキシブルデバイス用積層フィルムが有している構成であって、当該発明特定事項が、当然に求める課題であるか否かを問わず、その容易想到性について判断されるべきであるし、また、当該特定事項が本件特許発明1のフレキシブルデバイス用積層フィルムが具備する単なる物の固有の特性であるともいえないから、これらの主張は採用できるものではない。 (エ) 本件特許発明1についてのまとめ よって、相違点1ないし3の検討をするまでもなく、本件特許発明1は甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件特許発明5、6、8ないし10について 本件特許発明5、6、8ないし10は、甲1-1を主引用文献とする進歩性に係る取消理由の理由がない訂正後の請求項1ないし4に従属する請求項 に係る発明であるから、本件特許発明1ないし4と同様に、甲1-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件特許発明12について 本件特許発明12は、本件特許発明1ないし6及び8ないし10の何れかのフレキシブルデバイス用積層フィルムを具備する、フレキシブルデバイスの前面板の発明である。すると、本件特許発明12と甲1-1装置発明との相違点は、甲1-1発明との相違点と同一であるから、甲1-1発明との対比・検討で述べたことと同旨により、本件特許発明12は、甲1-1装置発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 甲1-1を主引用文献とする進歩性についてのまとめ したがって、甲1-1を主引用文献とした場合、本件特許発明1ないし3、5ないし10及び12は、甲1-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2) 甲2-1を主引用文献とする進歩性について ア 本件特許発明1について (ア) 対比 甲2-1発明の、3?6官能性アクリレート系単量体の光硬化性架橋共重合体を含むハードコーティング層について、「ハードコーティング層」は、本件特許発明1における「機能層」に相当し、紫外線を全く吸収しないとは考えられないため、紫外線吸収の機能を有するものと言え、「3?6官能性アクリレート系単量体の光硬化性架橋共重合体」を含むことから、本件特許発明1における、ポリ(メタ)アクリレートを含み紫外線吸収の機能を有するハードコート層に相当し、支持基材とともに「積層フィルム」を形成するといえる。 また、甲2-1発明のハードコーティングフィルムを用いたディスプレイ機器の前面板は、甲2-1の段落【0060】におけるタッチパネル等の用途への適用や、段落【0079】及び【表2】における、「屈曲テスト」による評価の記載から、「フレキシブルデバイスである表示装置の前面板」に適用可能であることが明らかである。 また、甲2-1発明のハードコーティングフィルムは、透明電極層の存在を特定事項として有さないから、本件特許発明1の「ただし、ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるものを除く。」を充足する。 そうすると、本件特許発明1と甲2-1発明は、 「ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと、 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 前記機能層が、ポリ(メタ)アクリレートを含み紫外線吸収の機能を有する紫外線吸収の機能を有するハードコート層であり、 フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム(ただし、ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるものを除く。)。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点5> 光照射試験について、本件特許発明1の積層フィルムは、「積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満である」のに対して、甲2-1発明は、そのようには特定されない点。 <相違点6> 樹脂フィルムの厚さについて、本件特許発明1は、「樹脂フィルムの厚さが20μm?80μm」であるのに対して、甲2-1発明は、対応する支持基材の厚さが「約30?約1,200μm」と特定される点。 <相違点7> 機能層の厚さについて、本件特許発明1は「厚さが1μm?10μmのハードコート層」であるのに対して、甲2-1発明は「厚さが約50?150μmのハードコーティング層」と特定される点。 <相違点8> 「フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」といった積層フィルムの用途について、本件特許発明1は「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」ものであるのに対して、甲2-1発明は、そのようには特定されない点。 (イ) 判断 事案に鑑み、相違点8から検討する。 a 相違点8について 相違点8は、本件特許発明1における「フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム」を「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」ものに限定するものである。 また、甲2-1の記載を通じてみても、「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない」程度の屈曲性を必要とする用途についての記載も示唆もされておらず、当業者にとって、甲2-1発明の「ディスプレイ機器の前面板に適用可能なハードコーティングフィルム」を「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」ものとする動機付けもない。 そして、甲2-1発明から「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない」という効果も、甲各号証及び技術常識から予測可能なものでもない。 なお、甲2-1には、段落【0079】に「円筒形屈曲テスト」として、ハードコーティングフィルムを円筒形マンドレルに挟んで巻いた後、クラックの発生の有無を判断する評価は行っているが、上記円筒形マンドレルの直径は3cmであり、より過酷な条件である半径r=1mmのロールに対する巻き付け特定事項を採用する動機とはならないし、その効果が予想できるものではない。 そうすると、相違点8に係る特定事項を甲2-1発明に採用することが当業者にとって容易になし得えたとはいえない。 (ウ) 特許異議申立人の主張の検討 上記相違点8に係る特許異議申立人1及び2の主張は、上記(1)ア(ウ)と同旨であり、採用できるものではない。 (エ) 本件特許発明1についてのまとめ よって、相違点5ないし7の検討をするまでもなく、本件特許発明1は甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件特許発明5、6、8ないし10について 本件特許発明5、6、8ないし10は、甲2-1を主引用文献とする進歩性に係る取消理由の理由がない訂正後の請求項1ないし4に従属する請求項に係る発明であるから、本件特許発明1ないし4と同様に、甲2-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件特許発明12について 本件特許発明12は、本件特許発明1ないし6及び8ないし10の何れかのフレキシブルデバイス用積層フィルムを具備する、フレキシブルデバイスの前面板の発明である。すると、本件特許発明12と甲2-1装置発明との相違点は、甲2-1発明との相違点と同一であるから、甲2-1発明との対比・検討で述べたことと同旨により、本件特許発明12は、甲2-1装置発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 甲2-1を主引用文献とする進歩性についてのまとめ したがって、甲2-1を主引用文献とした場合、本件特許発明1ないし3、5ないし10及び12は、甲2-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 取消理由1(進歩性欠如)についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし3、5ないし10及び12は、甲1-1又は甲2-1に記載された発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、取消理由1には理由がない。 3 取消理由2(サポート要件) (1) 本件特許明細書の記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 ア 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 公知のアクリル系樹脂を基材として有し、基材上に設けられた機能層を有する積層フィルムは、フレキシブルデバイスの表示部材又は前面板として用いるには屈曲性が必ずしも充分ではなかった。 【0005】 そこで、本発明の一側面は、屈曲性に優れる積層フィルムを提供することを目的とする。 【0006】 また、積層フィルムをフレキシブルデバイスの表示部材又は前面板として用いるためには、屈曲時の良好な視認性を有することも求められる。しかし、優れた屈曲性を有する積層フィルムであっても、屈曲時にコントラスト及び色相の変化を生じることがあった。 【0007】 そこで、本発明の別の側面は、機能層を有する積層フィルムに関して、屈曲時の視認性を改善することを目的とする。 【0008】 ポリイミド系高分子及びシリカを含有するハイブリッドフィルムをフレキシブル部材として使用するためには、一般に、光学調整機能及び粘着機能のような様々な機能を有する機能層をハイブリッドフィルム上に形成する必要がある。しかし、ハイブリッドフィルム上に機能層を形成したときに、機能層とハイブリッドフィルムとの密着性が必ずしも充分ではないことがあった。 【0009】 そこで、本発明の更に別の側面は、各種機能層との密着性に優れた樹脂フィルム、及びこれを用いた積層フィルムを提供することを目的とする。」 イ 「【0031】 ポリイミド系高分子を使用すれば、特に優れた屈曲性を有し、高い光透過率(例えば、550nmの光に対して85%以上又は88%以上)、及び、低い黄色度(YI値、例えば5以下又は3以下)、低いヘイズ(例えば1.5%以下又は1.0%以下)の樹脂フィルムが得られ易い。」 ウ 「【0054】 樹脂フィルム10は、無機粒子等の無機材料を更に含有していてもよい。無機材料は、ケイ素原子を含むケイ素材料であってもよい。樹脂フィルム10がケイ素材料等の無機材料を含有することで、屈曲性の点で特に優れた効果が得られる。 【0055】 ケイ素原子を含むケイ素材料としては、シリカ粒子、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等の4級アルコキシシラン等のケイ素化合物等が挙げられる。これらのケイ素材料の中でも、樹脂フィルム10の透明性及び屈曲性の観点から、シリカ粒子が好ましい。」 エ 「【0060】 樹脂フィルム10がポリイミド及びケイ素材料を含有するとき、少なくとも一方の主面10aにおける、ケイ素原子の窒素原子に対する原子数比であるSi/Nが8以上であってもよい。この原子数比Si/Nは、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)によって、主面10aの組成を評価し、これによって得られたケイ素原子の存在量と窒素原子の存在量から算出される値である。 【0061】 樹脂フィルム10の主面10aにおけるSi/Nが8以上であることにより、後述する機能層20との充分な密着性が得られる。密着性の観点から、Si/Nは、9以上であることが好ましく、10以上であることが好ましく、通常50以下であり、40以下であることが好ましい。」 オ 「【0062】 樹脂フィルム10の厚さは、積層フィルム30が適用されるフレキシブルデバイスに応じて適宜調整されるが、10μm?500μmであることが好ましく、15μm?200μmであることがより好ましく、20μm?100μmであることがさらに好ましい。このような構成の樹脂フィルム10は、特に優れた屈曲性を有する。」 カ 「【0069】 次いで、樹脂フィルムの少なくとも一方の主面に、表面処理を施してもよい。表面処理は、好ましくはUVオゾン処理である。UVオゾン処理により、Si/Nを容易に8以上とすることができる。ただし、Si/Nを8以上とする方法は、UVオゾン処理に限られない。樹脂フィルム10の主面10a及び/又は10には、後述する機能層との密着性を向上するために、プラズマ処理又はコロナ放電処理のような表面処理が施されていてもよい。 【0070】 UVオゾン処理は、200nm以下の波長を含む公知の紫外光源を用いて行うことができる。紫外光源の例として、低圧水銀ランプが挙げられる。紫外光源としては、紫外光源を備えた各種市販装置を用いてもよい。市販装置としては、例えば、テクノビジョン社製の紫外線(UV)オゾン洗浄装置UV-208が挙げられる。 【0071】 このようにして得られる本実施形態の樹脂フィルム10は、屈曲性に優れる。また、少なくとも一方の主面10aにおいて、ケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nを8以上としたときに、後述する機能層20との優れた密着性が得られる。」 キ 「【0087】 機能層20は、表面硬度及び紫外線吸収の機能を有することが好ましい。この場合の機能層20は、「表面硬度及び紫外線吸収の機能を有する単層」、「表面硬度を有する層と紫外線吸収を有する層とを含む多層」、又は、「表面硬度及び紫外線吸収の機能を有する単層と表面硬度を有する層とを含む多層」を含むことが好ましい。 【0088】 機能層20の厚さは、積層フィルム30が適用されるフレキシブルデバイスに応じて適宜調整されるが、例えば、1μm?100μmであることが好ましく、2μm?80μmであることがより好ましい。機能層20は、典型的には、樹脂フィルム10よりも薄い。」 ク 「【0134】 -検討1- 実施例1 公知文献(例えば、United States Patent; Patent No. US8,207,256B2)に準拠して、ポリイミドとシリカ粒子とを含有する樹脂フィルム(シリカ粒子含有量60質量%)を以下のように作製した。 ・・・ 【0143】 屈曲性の評価 実施例1及び比較例1の積層フィルムを1cm×8cmに切断した。切断後の積層フィルムの機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付け、積層フィルムにおけるヒビ割れの有無を確認した。以下の基準で屈曲性を判定した。結果を表1に示す。 A:ヒビ割れが入らず、良好な外観を維持した。 C:ヒビ割れが5本以上生じた。 【0144】 光学特性 黄色度(YI値) 実施例1及び比較例1の積層フィルムの黄色度(Yellow Index:YI値)を、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-670によって測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、積層フィルムをサンプルホルダーにセットして、300nm?800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。YI値を、下記の式に基づいて算出した。 YI値=100×(1.28X-1.06Z)/Y 以下の基準で光学特性を判定した。結果を表1に示す。 A:YI値が3未満 C:YI値が3以上 【0145】 透過率 日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用い、300nm?800nmの光に対する透過率を測定した。以下の基準で透過率を判定した。結果を表1に示す。 A:550nmの波長の光に対する透過率が90%以上 C:550nmの波長の光に対する透過率が90%未満 ・・・ 【0147】 紫外線劣化加速試験(QUV試験、光照射試験) 積層フィルムを、Atras社製のUVCONを用いたQUV試験に供した。光源はUV-B 313nm、出力は40Wであり、サンプル(積層フィルム)と光源との距離を5cmに設定した。積層フィルムに対して、機能層側から紫外線を24時間照射した。 紫外線照射後、上述のように光学特性(YI値、透過率)を評価した。結果を表1に示す。 【0148】 【表1】 【0149】 表1の結果から、実施例1の積層フィルムは、屈曲性に優れる。加えて、実施例1の積 層フィルムは耐紫外線特性及び表面硬度等の機能性を有しており、フレキシブルデバイス の光学部材、表示部材及び前面板に用いることができることが分かった。」 ケ 「【0150】 -検討2- 実施例2 実施例1と同様のポリイミドを用いて、濃度20質量%に調整したポリイミドのγブチロラクトン溶液を調製した。 ・・・ 【0152】 得られた混合溶液を用い、実施例1と同様にして、樹脂フィルム、プライマー層、及び機能層がこの順で積層された積層フィルムを得た。ただし、機能層の厚みは6μmに変更した。 【0153】 実施例3 ・・・シリカ粒子とポリイミドの質量比が55:45で、アミノ基を有するアルコキシシランの量がシリカ粒子及びポリイミドの合計100質量部に対して1.67質量部で、水の量がシリカ粒子及びポリイミドの合計100質量部に対して10質量部であった。この混合溶液を用いて、実施例1と同様にして、樹脂フィルム、プライマー層、及び機能層(厚み10μm)がこの順で積層された実施例3の積層フィルムを得た。 【0154】 比較例2 プライマー層及び機能層を形成する前の実施例2の樹脂フィルムを、比較例2のフィルムとして評価した。 【0155】 (評価) 光学特性 実施例2及び比較例2のフィルムを、検討1と同様のQUV試験(光照射試験)に供した。試験前後のフィルムについて、検討1と同様に透過率、YI値及びヘイズを測定した。試験前後でのYI値の差ΔYIも求めた。結果を表2に示す。 【0156】 視認性 光照射試験前のフィルムを屈曲させ、そのときのコントラスト及び色相等の外観の状態を確認し、以下の基準で視認性を判定した。結果を表2に示す。 A:コントラスト及び色相の変化が認められない。 C:コントラスト及び色相の変化などの外観変化が認められた。 【0157】 【表2】 【0158】 表2に示されるように、光照射試験に供された実施例2の積層フィルムは、上述の条件(i)及び(ii)を満たしており、この積層フィルムは、屈曲時に高い視認性を有することが確認された。」 コ 「【0159】 -検討3- 実施例4 実施例1と同様にして、ポリイミドとシリカ粒子とを含有する厚さ75μmの樹脂フィルム(シリカ粒子含有量60質量%)を作製した。 樹脂フィルムの一方の主面にUVオゾン処理を施した。UVオゾン処理は、テクノビジョン社製の紫外線(UV)オゾン洗浄装置UV-208を用いて15分間実施した。 次いで、樹脂フィルムのUVオゾン処理が施された主面に、アミノシ基を有するシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、商品名:Z6011、東レ・ダウコーニング社製)を塗布して、プライマー層を形成した。 次いで、プライマー層の上に、機能層形成用の溶液を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥及び硬化させて、厚さ5μmの機能層(表面硬度及び紫外線吸収の機能を有する層)を形成して、実施例3の積層フィルムを得た。・・・ 【0160】 参考例 実施例1と同様にして、ポリイミドとシリカ粒子とを含有する厚さ75μmの樹脂フィルム(シリカ粒子含有量60質量%)を作製した。 次いで、樹脂フィルムの一方の主面に、アミノ基を有するシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、商品名:Z6011、東レ・ダウコーニング社製)を塗布して、プライマー層を形成した。 次いで、プライマー層の上に実施例3と同様の機能層を形成して、参考例の積層フィルムを得た。 【0161】 樹脂フィルムの表面組成の評価 実施例3の樹脂フィルムにおけるUVオゾン処理が施された面、及び、参考例の樹脂フィルムの一方の主面を、X線光電子分光(XPS)法により評価した。・・・ケイ素原子の窒素原子に対する原子数比(Si/N)を算出した。結果を表3に示す。 ・・・ 【0163】 【表3】 【0165】 表3に示されるように、実施例4の樹脂フィルムにおけるUVオゾン処理が施された面では、ケイ素原子と窒素原子との比であるSi/Nは8.3であった。一方、参考例の樹脂フィルムの一方の面では、Si/Nが6.5であることが分かった。 【0166】 機能層の密着性の評価 実施例及び参考例の積層フィルムにおける機能層の密着性を、JIS-K5600-5-6に準拠したクロスハッチ試験によって評価した。・・・ A:残っている碁盤目の数が100 C:残っている碁盤目の数が99以下 【0167】 【表5】 【0168】 表5の結果から、実施例4の積層フィルムは、機能層の密着性が高く、参考例の積層フィルムは、機能層の密着性が低いことが分かった。」 (2) 本件特許発明1に係るサポート要件の判断 ア 上記(1)ア?コの記載、特に段落【0005】の「本発明の一側面は、屈曲性に優れる積層フィルムを提供することを目的とする。」との記載から、本件特許発明1の課題は、一側面として「屈曲性」に優れるフレキシブルデバイス用積層フィルムを提供することにあると認められる。 イ また、良好な屈曲性を得る手段として、本件特許明細書の段落【0031】には、「ポリイミド系高分子を使用すれば、特に優れた屈曲性を有し」(上記(1)イ)と記載され、段落【0062】には「樹脂フィルム10の厚さ」の調整で、「このような構成の樹脂フィルム10は、特に優れた屈曲性を有する。」(上記(1)オ)と記載されている。 ウ そこで、実際に検証して、良好な屈曲性が得られることが確認できたものは、段落【0148】(上記(1)ク)の記載から、実施例1として、段落【0143】に記載される、積層フィルムの機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けた際のヒビ割れの有無にて確認されることが記載されたものであることが理解できる。 エ そうすると、上記アに記載した本件特許発明1の課題を解決できると当業者が認識することができる技術手段として、本件特許の明細書に記載されているのは「樹脂フィルムとしてポリイミド系高分子を使用し、樹脂フィルムの厚さを10μm?500μmとし、得られた積層フィルムを1cm×8cmに切断し、切断後の積層フィルムの機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付け、積層フィルムにおけるヒビ割れが入らないもの。」であることが理解できる。 オ よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題を解決できると認識できるものであるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (3) 本件特許発明2及び3に係るサポート要件の判断 本件特許発明2及び3は、いずれも本件特許発明1を引用する形式で特定されており、上記(2)エで述べた技術手段を特定事項に含むものであるから、上記(2)での検討と同様に、本件特許発明2及び3は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (4) 本件特許発明4に係るサポート要件の判断 ア 上記(1)ア?コの記載、特に段落【0006】の「積層フィルムをフレキシブルデバイスの表示部材又は前面板として用いるためには、屈曲時の良好な視認性を有することも求められる」との記載から、本件特許発明4の課題は、少なくとも「屈曲時の良好な視認性を有する」フレキシブルデバイス用積層フィルムを提供することにあると認められる。 イ 屈曲時の良好な視認性を得る手段として、本件特許明細書には「ポリイミド系高分子を使用」すること(上記(1)イ)、樹脂フィルムにシリカ粒子を更に含有させること(上記(1)ウ)が記載されている。 ウ そこで、実際に検証して、屈曲時の良好な視認性が得られることが確認できたものは、上記(1)ケの記載から、いずれもシリカ粒子を含むポリイミドフィルム、すなわち「ハイブリッドフィルム」のみであることが理解できる。 また、ハイブリッドフィルムを使った比較例2であっても、機能層を有さないため、視認性に劣ること、機能層を設けた際、その密着性を確保するためには、UVオゾン処理等によって、Si/Nが8以上であることが必要なことが【表3】【表5】に示された参考例の結果によって確認できる。このことは、段落【0008】の「ハイブリッドフィルム上に機能層を形成したときに、機能層とハイブリッドフィルムとの密着性が必ずしも充分ではないことがあった」との記載、及び段落【0071】の「このようにして得られる本実施形態の樹脂フィルム10は、屈曲性に優れる。また、少なくとも一方の主面10aにおいて、ケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nを8以上としたときに、後述する機能層20との優れた密着性が得られる。」(上記(1)カ)と符合する。 エ そうすると、上記アに記載した本件特許発明4の課題を解決できると当業者が認識することができる技術手段として、本件特許の明細書には「シリカ粒子を含むポリイミドフィルムであって、その少なくとも一方の主面における、ケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nが8以上であり、その主面側に機能層が設けられる」もののみが開示されていると認められる。 オ よって、本件特許発明4は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題を解決できると認識できるものであるから、本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (5) 本件特許発明5、6、8ないし12に係るサポート要件の判断 本件特許発明5、6、8ないし12は、いずれも本件特許発明1又は4を、直接又は間接的に引用する形式で特定されており、上記(2)又は(4)で述べた技術手段を特定事項に含むものであるから、上記(2)又は(4)での検討と同様に、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (6) 特許異議申立人の主張等について 特許異議申立人1は、令和2年9月14日に提出した意見書において、本件特許発明の課題を「高い透明性、着色の抑制、屈曲性」とし、技術手段として以下の構成が必要である旨主張する。 「・ポリイミドに用いる酸無水物及びジアミンはフッ素系置換基を有する。 ・重量平均分子量が大きいポリイミド系高分子を用いる。 ・平均一次粒子径が10nm?100nmのシリカ粒子を用いる。 ・樹脂フィルム10の厚さを20μm?100μmとする。 ・樹脂フィルムの主面におけるSi/Nを8以上とする。」 上記主張について検討すると、本件特許明細書の記載全体からみて、本件特許発明につき、上記(2)ア及び(4)アにて摘記したように、複数の課題が認められ、上記(2)イないしオ及び(4)イないしオで述べたように、それぞれの課題に対応し、独立形式の請求項で特定される本件特許発明1及び4それぞれに当業者が当該課題を解決すると認識する手段が記載されていると認められる。したがって、「高い透明性、着色の抑制、屈曲性」のすべての充足を課題として、その手段を特定することを前提とした特許異議申立人1の上記主張は採用できるものではない。 また、特許異議申立人2は、令和2年9月28日に提出した意見書において、半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない結果であった実施例1以外について、屈曲性を有する積層フィルムを提供するという課題をどのように解決することができるか理解できないため、訂正後の請求項1の記載は、サポート要件を満たさない旨主張する。 上記主張について検討すると、屈曲性を得るための手段について、具体例として実施例1が記載されており、また上記(2)イにて述べたように、その他の本件特許明細書中に一般的な技術手段が記載されていることから、本件特許発明1の発明特定事項によって、屈曲性の課題解決ができることは当業者が技術常識を踏まえて認識し得るものであるから、特許異議申立人2の上記主張は採用できるものではない。 (5) 取消理由2についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし6及び8ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている出願に対してされたものであるから、取消理由2には理由がない。 4 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人1が主張する申立理由1-2並びに特許異議申立人2が主張する申立理由2-1及び2-2は、取消理由1に包含されており、特許異議申立人1が主張する申立理由1-4は、取消理由2と同旨である。 そうすると、取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立ての理由は、特許異議申立人1が主張する申立理由1-1、申立理由1-2のうち請求項4及び11に係るもの、申立理由1-3、申立理由1-5及び申立理由1-6である。 これらについて以下検討する。 (1)申立理由1-1(甲1-1に基づく新規性欠如)について 特許異議申立人1が主張する申立理由1-1の対象となる請求項1、6、7及び12について、請求項1、6及び12に係る発明は上記2で述べたように甲1-1に記載された発明と実質的な相違点を有するものであり、また、請求項7は本件訂正によって削除された。 よって、甲1-1に基づく新規性欠如についての申立理由1-1には理由がない。 (2)申立理由1-2(甲1-1を主引用文献とする進歩性欠如)のうち請求項4及び11に係るものについて ア 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲1-1発明を対比すると、以下の点で一致する。 「ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム(ただし、ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるものを除く。)。」 そして以下の点で相違する。 <相違点9> 本件特許発明4は、「樹脂フィルムが、ケイ素原子を含むケイ素材料を更に含有し、前記ケイ素材料がシリカ粒子であり、 前記樹脂フィルムの少なくとも一方の主面における、ケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nが8以上である樹脂フィルムであり、 前記樹脂フィルムのSi/Nが8以上である主面側に前記機能層が設けられ」るのに対して、甲1-1発明は、そのような特定を有しない点。 <相違点10> 光照射試験について、本件特許発明4は「当該積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満である」のに対して、甲1-1発明は、透過率及び黄色度の評価は、いずれもハードコート層の形成前のポリイミド系フィルムにおけるものであって、ハードコート層の形成後について、そのようには特定されない点。 相違点9について検討すると、甲1-1には、シリカ粒子を樹脂フィルムに含有させ、さらに表面のケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nが8以上に制御することの記載はなく、甲各号証にもこの点に関する記載はなく、また技術常識というべきものでもない。 そうすると、甲1-1発明において、相違点9に係る発明特定事項を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 そして、この発明特定事項によって、本件特許明細書の実施例4に示されるように(上記3(1)コ)、積層フィルムに対する機能層の密着性を高めることができるという当業者に予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。 よって、相違点10について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明11について 訂正後の請求項11は、進歩性を有する請求項1又は4を直接又は間接的に引用し、請求項1又は請求項4の特定事項をすべて含む、フレキシブルデバイス用積層フィルムを製造する方法に係るものであり、該積層フィルムが甲1-1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、その製造方法についても当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ よって、請求項4及び11に係る発明についての申立理由1-2は理由がない。 (3)申立理由1-3(甲1-4を主引用文献とする進歩性欠如)について ア 甲1-4に記載された発明 異議申立人1が提出した甲第4号証(特開2007-63417号公報、以下、「甲1-4」という。)には、その【請求項1】、【0053】、【0064】及び【0076】の記載から、次のとおりの発明が記載されていると認める。 <甲1-4発明> 「ポリイミド系高分子を含有する厚さが50μm?150μmのフィルムと、該フィルムの一方の主面側に設けられた機能性層と、 を備える積層フィルムであって、 前記機能性層が、紫外線吸収、及び、耐傷性付与のためのハードコート層であり、 前記フィルムの全光線透過率は85%以上の透過率を有する、 タッチパネル用途に用いるフレキシブルデバイス用積層フィルム。」 イ 甲1-4に記載された発明との対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1-4発明とを対比するに、両発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 <一致点> 「ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと、 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 前記機能層が、紫外線吸収の機能を有するハードコート層であり、 フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム(ただし、ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるものを除く。)」 <相違点11> 樹脂フィルムの厚さに関し、本件特許発明1の「20μm?80μm」であるのに対して、甲1-4発明は「50μm?150μm」であり、一部重複するが範囲において異なる点。 <相違点12> 機能層に関し、本件特許発明1の「ポリ(メタ)アクリレートを含み」、「厚さが1μm?10μm」であるのに対して、甲1-4発明はそのようには特定されない点。 <相違点13> 積層フィルムに関し、本件特許発明1は「当該積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満である、 を満たす」ものであるのに対して、甲1-4発明はそのようには特定されない点。 <相違点14> 「フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」といった積層フィルムの用途について、本件特許発明1は「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」ものであるのに対して、甲1-4発明は、そのようには特定されない点。 事案に鑑み、相違点14から検討する。 相違点14は、本件特許発明1における「フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム」を「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」ものに限定するものである。 また、甲1-4の記載を通じてみても、「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない」程度の屈曲性を必要とする用途についての記載も示唆もされておらず、当業者にとって、甲1-4発明の「タッチパネル用途に用いるフレキシブルデバイス用積層フィルム」を「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる」ものとする動機付けもない。 そして、甲1-4発明から「1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない」という効果は、甲各号証及び技術常識から予測可能なものでもない。 そうすると、相違点14に係る特定事項を甲1-4発明に採用することが当業者にとって容易になし得えたとはいえず、相違点11ないし13の検討をするまでもなく、本件特許発明4は甲1-4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ) 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲1-4発明とを対比するに、両発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 <一致点> 「ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム。 <相違点15> 本件特許発明4の積層フィルムに用いる「樹脂フィルム」は、「ケイ素原子を含むケイ素材料を更に含有し、前記ケイ素材料がシリカ粒子であり、 前記樹脂フィルムの少なくとも一方の主面における、ケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nが8以上である樹脂フィルム」であるのに対し、甲1-4発明はそのようには特定されない点。 <相違点16> 樹脂フィルムのSi/Nが8以上である主面側に機能層が設けられ、当該積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満であることを満たす」ものであるのに対して、甲1-4発明における積層フィルムは、そのような特定を有しない点。 事案に鑑み、相違点15から検討する。 甲1-4には、シリカ粒子を樹脂フィルムに含有させ、さらに表面のケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nが8以上に制御することの記載はなく、甲各号証にもこの点に関する記載はなく、また技術常識というべきものでもない。 そうすると、甲1-4発明において、相違点15に係る発明特定事項を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 そして、この発明特定事項によって、本件特許明細書の実施例4に示されるように(上記3(1)コ)、積層フィルムに対する機能層の密着性を高めることができるという当業者に予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。 よって、相違点16について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1-4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ) 本件特許発明2、3、5、6及び8ないし12について 本件特許発明2、3、5、6及び8ないし12は、いずれも請求項1又は4を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1又は4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1及び4と同様に、甲1-4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ よって、申立理由1-3には理由がない。 (4)申立理由1-5(明確性要件) ア 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 これを踏まえ、以下検討する。 イ 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。 ウ 判断 (ア) 明確性要件の判断 本件特許の特許請求の範囲には不明確な記載はなく、かつ、本件特許明細書の記載も特許請求の範囲の記載と矛盾するものではないから、当業者の出願時における技術常識を基礎として、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (イ) 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人1は、「本件特許発明1に特定される光照射試験時における積層フィルムの光学特性による限定は、光学装置又は表示装置に用いられるフィルムの特性について求められる願望を表示するのみであり、その特性を達成するための技術的手段が記載されておらず、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らか」であるから、本件はいわゆる明確性要件を満足しない旨主張する(特許異議申立書第69ページ)。 そこで検討すると、上記光学特性の測定方法は、本件特許明細書の段落【0144】ないし【0147】に記載されており、当業者の出願時における技術常識を基礎として、係る測定方法によって請求項記載の光学特性は明確に特定されるものであるから、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないから、本件特許発明について、明確性要件違反との特許異議申立人1の主張は採用の限りでない。 エ 申立理由1-5のまとめ したがって、申立理由1-5には理由がない。 (5)申立理由1-6(実施可能要件) ア 実施可能要件の判断基準 実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、物の発明の場合には、その物を生産し、使用することができる程度の記載があるか、方法の発明の場合には、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。 これを踏まえ、以下検討する。 イ 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明の記載には、おおむね上記3(1)のとおりの記載がある。 ウ 判断 (ア) 実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし6及び8ないし12の各発明特定事項について具体的かつ矛盾なく記載されており、当業者であれば、本件特許発明1ないし6及び8ないし12をどのように実施するのか理解できることから、上記3(1)クないしコに示した実施例を参考にすることによって、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし6及び8ないし12を実施することができるといえる。 (イ) 特許異議申立人の主張の検討 特許異議申立人1は、本件特許発明1に特定されたポリイミド系高分子のすべてが光照射試験時における積層フィルムの光学特性で記載された発明特定事項を満足するとはいえず、また、特定のポリイミド樹脂から得られた積層フィルムの光照射試験時において光学特性を満足するか否かを確認するためには当業者にとって過度な負担を要するから、本件はいわゆる実施可能要件を満足しない旨主張する(特許異議申立書第69ないし70ページ)。 そこで検討すると、上記(ア)で述べたように、本件特許明細書の各実施例の記載によれば、出願時の技術常識に基づいて過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明の物や製造方法を実施することができることは明らかである。 エ 申立理由1-6のまとめ したがって、申立理由1-6には理由がない。 (6) 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由まとめ したがって、取消理由(決定の予告)で採用しなかったいずれの特許異議申立理由は理由がない。 第7 結語 以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由(決定の予告)及び特許異議申立人が主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし6及び8ないし12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし6及び8ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件特許の請求項7に係る特許は、本件訂正の請求により削除された。これにより、請求項7に係る特許に対する特許異議申立人1及び2による特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリイミド系高分子を含有する厚さが20μm?80μmの樹脂フィルムと、 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 前記機能層が、ポリ(メタ)アクリレートを含み紫外線吸収の機能を有する厚さが1μm?10μmのハードコート層であり、 当該積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満である、 を満たす、 1cm×8cmに切断し前記機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付けたときにヒビ割れが入らない、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム(ただし、ポリイミド系フィルムの一面上に形成された透明電極層を含んでなるものを除く。)。 【請求項2】 前記樹脂フィルムが、ケイ素原子を含むケイ素材料を更に含有する請求項1に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項3】 前記ケイ素材料がシリカ粒子である請求項2に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項4】 ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと、 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と、 を備える積層フィルムであって、 前記樹脂フィルムが、ケイ素原子を含むケイ素材料を更に含有し、前記ケイ素材料がシリカ粒子であり、 前記樹脂フィルムの少なくとも一方の主面における、ケイ素原子と窒素原子との原子数比であるSi/Nが8以上である樹脂フィルムであり、 前記樹脂フィルムのSi/Nが8以上である主面側に前記機能層が設けられ、 当該積層フィルムから5cmの距離に設けられた出力40Wの光源によって、当該積層フィルムに前記機能層の側から313nmの光を24時間照射する光照射試験を行ったときに、当該積層フィルムが以下の条件: (i)光照射試験後の当該積層フィルムが、550nmの光に対する85%以上の透過率を有する、及び、 (ii)光照射試験前の当該積層フィルムが5以下の黄色度を有し、当該積層フィルムの光照射試験前後での黄色度の差が2.5未満である、 を満たす、フレキシブルデバイスである表示装置の前面板として用いられる、フレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項5】 光照射後の当該積層フィルムが1.0%以下のヘイズを有する請求項1?4のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項6】 前記機能層が、粘着性、色相調整及び屈折率調整からなる群から選択される少なくとも1種の機能を有する層である請求項1?5のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項7】(削除) 【請求項8】 前記樹脂フィルムと前記機能層との間に設けられたプライマー層を更に備える、請求項1?6のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項9】 前記プライマー層がシランカップリング剤を含む、請求項8に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項10】 前記シランカップリング剤が、メタクリル基、アクリル基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有する、請求項9に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルム。 【請求項11】 ポリイミド系高分子とケイ素原子を含むケイ素材料とを含有する樹脂フィルムの少なくとも一方の主面にUVオゾン処理を施す工程と、 前記樹脂フィルムの前記UVオゾン処理が施された主面側に機能層を設ける工程と、 を有する、請求項1?6及び8?10のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用積層フィルムを製造する方法。 【請求項12】 請求項1?6及び8?10のいずれか1項に記載の積層フィルムを具備する、フレキシブルデバイスの前面板。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-12-17 |
出願番号 | 特願2015-145176(P2015-145176) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(G09F)
P 1 651・ 121- YAA (G09F) P 1 651・ 537- YAA (G09F) P 1 651・ 113- YAA (G09F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 大畑 通隆 |
登録日 | 2019-02-22 |
登録番号 | 特許第6482977号(P6482977) |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | フレキシブルデバイス用積層フィルム、光学部材、表示部材、前面板、及びフレキシブルデバイス用積層フィルムの製造方法 |
代理人 | 三上 敬史 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 沖田 英樹 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 沖田 英樹 |
代理人 | 三上 敬史 |