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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C22C |
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管理番号 | 1371739 |
異議申立番号 | 異議2020-700769 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-10-07 |
確定日 | 2021-03-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6678757号発明「銅板付き絶縁基板用銅板材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6678757号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6678757号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年)3月28日(優先権主張 平成29年(2017年)3月31日)を国際出願日として出願され、令和2年3月19日に特許権の設定登録がされ、同年4月8日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月7日付けで、請求項1?5に係る特許に対し、特許異議申立人である中川賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrからなる群から選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有し、かつ、EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織を有することを特徴とする銅板付き絶縁基板用銅板材。 【請求項2】 前記銅の含有量が99.99mass%以上であり、かつ、縦弾性係数の平均値が115GPa以下であり、前記縦弾性係数は圧延方向、板幅方向、及びこれらの間の方向で測定される、請求項1に記載の銅板付き絶縁基板用銅板材。 【請求項3】 平均結晶粒径が3μm?100μmである、請求項1又は2に記載の銅板付き絶縁基板用銅板材。 【請求項4】 700?800℃で10分?5時間の熱履歴を受けた状態で、平均結晶粒径が50μm?200μmである、請求項1から3までのいずれか1項に記載の銅板付き絶縁基板用銅板材。 【請求項5】 引張強度が150?330MPaであり、かつ、導電率が95%IACS以上である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の銅板付き絶縁基板用銅板材。」 第3 特許異議申立の理由の概要 申立人は、証拠方法として、後記する甲第1?7号証(以下、単に「甲1」?「甲7」という。)及び参考資料1を提出し、以下の理由により、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 理由1-1 本件発明1?5は、甲1に記載された発明及び甲3?7の記載事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 理由1-2 本件発明1?5は、甲2に記載された発明及び甲3?7の記載事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 甲1:特開2013-237100号公報 甲2:特開2014-60216号公報 甲3:三宅保彦 「工業材料としての高純度銅の製造と応用」、日本金属学会会報、社団法人日本金属学会、1992年4月20日、第31巻第4号、第267?276頁 甲4:Akihito Kurosaka et al. “Influence of recrystallization on the outgassing characteristics of copper”、Journal of Vacuum Science & Technology A、1992年8月、Vol.10、No.6、pp.3465?3471頁、及び抄訳文 甲5:Ph.Gerber et al. “A quantitative analysis of the evolution of texture and stored energy during annealing of cold rolled copper”、Acta Materialia、2003、Vol.51、pp.6359?6371、及び抄訳文 甲6:K.Piekos et al. “Generalized vertex model of recrystallization-Application to polycrystalline copper”、Computational Materials Science、2008年6月、Vol.42、pp.584-594、及び抄訳文 甲7:日本伸銅協会伸銅品データブック編集委員会編 「伸銅品データブック」、第1版、日本伸銅協会、1997年8月1日、第42、50頁 参考資料1:「甲第5号証のFig.4及び甲第6号証のFig.1における方位密度の平均値を読み取った結果」、2020年 第4 当審の判断 1 本件明細書の記載事項 本願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には以下の記載がある。 「【0001】 本発明は、銅板付き絶縁基板用銅板材、特にパワーデバイスの銅板付き絶縁基板に好適な銅板材及びその製造方法に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、特許文献1に開示されている純銅板は、エッチングによって表面に凹凸が生じにくいため他の部材との密着性が優れているとされているが、高温下での他の部材との接合に関しては全く検討されていない。また、特許文献2に開示されている銅合金板は、耐熱性に関して検討されているが、200℃で30分間の熱処理による耐熱性しか考慮されていない。さらに、特許文献2に開示されている銅合金板は、引張強さが350MPa以上であり、銅板付き絶縁基板に用いる銅板材として適切な150?330MPaの範囲に対応していない。 【0007】 そこで、本発明の目的は、圧延方向から板幅方向にかけて連続的に縦弾性係数が低く、さらに引張強度及び導電率に優れ、高温で熱処理(例えば、700℃以上800℃以下で10分以上5時間以下の熱処理)を行った際に結晶粒の成長が抑制される銅板付き絶縁基板用銅板材、及びその製造方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、銅板材の縦弾性係数を制御し、かつ700℃以上の高温における結晶粒の成長を抑制することによって、銅板材とセラミック基板との接合において、銅板材とセラミック基板との熱膨張係数の差によって生じる基板全体の負荷応力を低減し、また結晶粒の成長による組織の不均質化とボンディング性の低下を抑制できることを見出した。」 「【実施例】 【0034】 以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 【0035】 (実施例1?13及び比較例1?17) まず、表1に示す成分組成を有する銅素材を溶解し、鋳造して鋳塊を得た[工程1]。得られた鋳塊に対して、保持温度700?1000℃、保持時間10分?20時間の均質化熱処理を行った[工程2]。そして、総加工率が10?90%となるように熱間圧延を行った[工程3]後、10℃/sec以上の冷却速度で急冷を行った[工程4]。冷却された材料の両面をそれぞれ約1.0mmずつ面削した[工程5]。次に、表2に示す総加工率で第1冷間処理を行った[工程6]後、表2に示す昇温速度、到達温度、保持時間及び冷却速度で第1焼鈍を行った[工程7]。次に、表2に示す総加工率で第2冷間圧延を行った[工程8]表2に示す昇温速度、到達温度、保持時間及び冷却速度で第2焼鈍を行った[工程9]後、表2に示す総加工率で仕上げ圧延を行った[工程10]。到達温度が125?400℃である条件で最終焼鈍を行った[工程11]後、酸洗及び研磨を行い[工程12]、銅板材(供試材)を作製した。 【0036】 (測定方法及び評価方法) <金属成分の定量分析> 作製した各供試材について、VG 9000(VG Scientific社製)を用いて解析を行った。各供試材に含まれるAl、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrの含有量(ppm)、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCr(表1では単に「金属成分」と記す)の合計含有量(ppm)、並びにCuの含有量(mass%)を表1に示す。なお、各供試材には、不可避的不純物が含まれている場合がある。また、表1における「-」は、該当する金属成分が検出されなかったことを意味する。 【0037】 <方位密度> 方位密度は、OIM5.0HIKARI(TSL社製)を用い、EBSD法により測定した。測定面積は、結晶粒を200個以上含む、800μm×1600μmの範囲とし、スキャンステップを0.1μmとした。測定後の結晶粒の解析には、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いた。解析により得られた結晶方位分布関数はオイラー角で表示された。φ2=0°の断面図より、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲(表3では「範囲A」と記す)における方位密度の平均値を算出した。また、オイラー角で表示されたφ2=35°の断面図において、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲(表3では「範囲B」と記す)における方位密度の最大値を読み出した。各供試材について、範囲Aにおける方位密度の平均値及び範囲Bにおける方位密度の最大値を表3に示す。 【0038】 <平均結晶粒径> 平均結晶粒径は、方位密度と同様の方法で測定した。測定範囲に含まれる全ての結晶粒より、平均結晶粒径を算出した。各供試材の平均結晶粒径を表3に示す。 【0039】 <縦弾性係数> 各供試材から、RD方向と、TD方向と、RD方向からTD方向にかけて10°おきに回転させた方向において、それぞれ幅20mm、長さ200mmの短冊状試験片を採取した。まず、試験片の長さ方向に引張試験機により応力を付与した。そして、降伏するときの歪量の80%の歪量を最大変位量とし、その最大変位量までを10分割した変位を与えた。その10点で歪と応力の比例定数を算出し、各比例定数の平均値を縦弾性係数の平均値とした。縦弾性係数の平均値が115GPa以下である場合を「良好」、115GPaを超える場合を「不良」と評価した。各供試材について、縦弾性係数の平均値を表3に示す。 【0040】 <導電率> 導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により計測した比抵抗の数値から算出した。なお、端子間距離は100mmとした。導電率が95%IACS以上である場合を「良好」、95%IACS未満である場合を「不良」と評価した。各供試材の導電率を表3に示す。 【0041】 <引張強度> 各供試材のRD方向から、JIS Z2201-13B号の試験片を3本切り出した。JIS Z2241に準じて、各試験片の引張強度を測定し、その平均値を算出した。引張強度が150MPa以上330MPa以下である場合を「良好」、150MPa未満である場合又は330MPaを超える場合を「不良」と評価した。各供試材の引張強度を表3に示す。 【0042】 <耐熱性> 各供試材に対して、アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気下の管状炉で800℃で5時間の熱処理を施した後、上記平均結晶粒径の測定方法と同様の方法で、平均結晶粒径を測定した。熱処理後の平均結晶粒径が200μm以下である場合を耐熱性が「良好」、200μmを超える場合を耐熱性が「不良」と評価した。各供試材について、熱処理後の平均結晶粒径を表3に示す。一般的に、結晶粒径は、熱処理を高温で長時間行うほど成長する。すなわち、800℃で5時間の熱処理を行った後に平均結晶粒径が200μm以下である供試材については、700?800℃で10分以上5時間以内の熱処理を行った場合に、平均結晶粒径が200μm以下であることは自明である。 【0043】 【表1】 【0044】 【表2】 【0045】 【表3】 【0046】 表1及び表3に示すように、実施例1?13では、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrからなる群から選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有していた。また、実施例1?13では、EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織を有していた。そのため、RD方向からTD方向における縦弾性係数の平均値が115GPa以下と低く、引張強度が150?330MPaであり、さらに導電率が95%IACS以上と高かった。また、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が200μm以下であったため、結晶粒の成長が抑制されることが分かった。 【0047】 これに対して、比較例1、2、4、6、8では、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrからなる群から選択される金属成分の合計含有量が2.0ppmを超えており、かつ、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0未満であった。そのため、RD方向からTD方向における縦弾性係数の平均値が、それぞれ115GPaを超えていた。また、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が、それぞれ200μmを超えていたため、結晶粒の成長がそれぞれ確認された。 【0048】 比較例3、7では、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrからなる群から選択される金属成分の合計含有量がそれぞれ150.0ppm、130.0ppmと多く、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値がそれぞれ2.3、0.1と低く、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値がそれぞれ31.0、37.0と高かった。そのため、RD方向からTD方向における縦弾性係数の平均値が、それぞれ135GPa、150GPaと高かった。また、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が、それぞれ368μm、399μmと大きく、結晶粒の成長が確認された。 【0049】 比較例5では、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrからなる群から選択される金属成分の合計含有量が250.0ppmと多く、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が0.8と低く、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が35.0と高かった。そのため、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が456μmと大きく、結晶粒の成長が確認された。 【0050】 比較例9では、銅の含有量が99.00mass%であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が31.0と高かった。そのため、導電率が93.4%IACSと低かった。また、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が400μmと大きく、結晶粒の成長が確認された。 【0051】 比較例10、12、14、17では、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値がそれぞれ1.9、2.5、2.9、2.9と低かった。そのため、RD方向からTD方向における縦弾性係数の平均値が、それぞれ129GPa、143GPa、153GPa、128GPaと高かった。また、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が、それぞれ402μm、420μm、400μm、399μmと大きく、結晶粒の成長がそれぞれ確認された。 【0052】 比較例11では、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が42.5と高かった。そのため、引張強度が145MPaと低かった。また、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が275μmと大きく、結晶粒の成長が確認された。 【0053】 比較例13では、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が39.0と高かった。そのため、RD方向からTD方向における縦弾性係数の平均値が165GPaと高く、引張強度も385MPaと高かった。また、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が435μmと大きく、結晶粒の成長が確認された。 【0054】 比較例15では、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が31.0と高かった。そのため、RD方向からTD方向における縦弾性係数の平均値が129GPaと高かった。また、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が380μmと大きく、結晶粒の成長が確認された。 【0055】 比較例16では、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が2.7と低く、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が32.0と高かった。そのため、RD方向からTD方向における縦弾性係数の平均値が130GPaと高かった。また、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が432μmと大きく、結晶粒の成長が確認された。」 2 各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載にされた発明 各甲号証には以下の記載がある。 (1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 ア 本件優先日(平成29年3月31日)前に頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付与した。以下同様。)。 「【請求項1】 セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一面にろう材層を介し接合された銅を主体とした回路板と、前記回路板の表面に被着されたNiめっき層を有するセラミックス回路基板の製造方法であって、ろう材を介しセラミックス基板の一面に回路原板を配置する配置工程と、セラミックス基板の一面に回路原板を加熱し接合する接合工程と、接合工程で形成されてなる回路板を化学研磨する化学研磨工程と、化学研磨工程の後に回路板の表面にNiめっき層を被着するめっき工程と、を含み、前記回路原板は、調質記号1/2H?H相当の銅または銅合金からなる銅板であり、前記接合工程は、その温度プロファイルにおいて、第1の温度域と、前記第1の温度域の後に配置された、ろう材が溶融する温度で加熱する第2の温度域とを有し、前記第1の温度域の温度が400?750℃であることを特徴するセラミックス回路基板の製造方法。」 「【請求項4】 セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一面にろう材層を介し接合された銅または銅合金からなる回路板と、前記回路板の表面に被着されたNiめっき層を有するセラミックス回路基板であって、前記回路板は下記で定義される第1再結晶相および第2再結晶相を含み、前記Niめっき層は、前記第1再結晶相の表面上に形成された粒状相および前記第2再結晶相の表面上に形成された平滑相を含み、前記粒状相と平滑相との境界部における酸素濃度が25.0原子%以下であるセラミックス回路基板。 第1再結晶相:成長方位が回路板の表面の垂直方向に対して±30°以内である結晶子からなり、当該結晶子の長軸長の平均値が100?400μmである相 第2再結晶相:成長方位が回路板の表面の平行方向に対して±30°以内である結晶子からなり、当該結晶子の長軸長の平均値が100?400μmである相」 「【0001】 本発明は、セラミックス基板の一面に銅を主体とした回路板がろう材を介して接合されたセラミックス回路基板の製造方法およびセラミックス回路基板に係る発明である。」 「【0009】 そして、化学研磨工程後のNiめっき工程において、図5(c)に示すように、回路板9aの表面にNiめっき層9iが被着される。上記のような表面状態の回路板9aの表面に形成されたNiめっき層9iには、上記第1再結晶相N1の表面状態が転写された表面が粗い粒状相M1と、上記第2再結晶相N2の表面状態が転写された表面が平滑な平滑相M2および上記第3再結晶相N3の表面状態が転写された相M3が形成されるとともに、上記第1再結晶相N1と第2再結晶相N2の境界部Kに生じた段差D1や凹部O1も粒状相M1と平滑相M2の境界に転写される。すると、Niめっき工程後の例えば洗浄工程において、上記粒状相M1と平滑相M2の境界に存在する凹部O2や段差D2に水分が残留し、または雰囲気の酸素により選択的に酸化され、溶融半田との濡れ性の悪い酸化層が当該境界部Kに形成されるため溶融半田の濡れ広がりの障壁となり、Niめっき層9iの表面における溶融半田の濡れ広がりを阻害する。 【0010】 本発明は、上記従来技術に鑑みなされたものであり、溶融半田の濡れ性が改善されたNiめっき層を有する回路板を形成可能なセラミックス回路基板の製造方法および溶融半田の濡れ広がり性が改善されたNiめっき層を有する回路板が形成されたセラミックス回路基板を提供することを目的としている。 【課題を解決するための手段】 【0011】 上記課題を解決するため本発明者らは鋭意検討し、上記したとおり、表面の粗さが異なる二の相、すなわち平滑相と粒状相とがNiめっき層に形成されており、その二の相の境界が障害となり溶融半田の濡れ広がり性を阻害していること、およびその二の相の境界の状態を制御することにより溶融半田の濡れ広がり性を改善できることを知見し、本発明を完成させたものである。」 「【0022】 かかる回路基板によれば、図4(b)に示すように、銅または銅合金からなる回路板1aは、成長方位が回路板1aの表面の垂直方向に対して±30°以内である結晶子S1からなり当該結晶子S1の長軸長L1の平均値が100?400μmである第1再結晶相Q1と、成長方位が回路板1aの表面の平行方向に対して±30°以内である結晶子S2からなり当該結晶子S2の長軸長の平均値L2が100?400μmである第2再結晶相Q2とを有している。なお、回路板1aは、図示するように、成長方位が回路板1aの表面に対して傾斜した結晶子S3からなる第3再結晶相Q3も含み、当該結晶子S3の長軸長の平均値も100?400μm程度となっている。 【0023】 ここで、第1再結晶相Q1および第2結晶Q2相を構成する結晶子S1・S2の長軸長は、いずれも100?400μmの範囲に制御されて結晶子が微細化されている。かかる微細な結晶子S1・S2で構成された第1再結晶相Q1および第2再結晶相Q2からなる回路板1aは、化学研磨工程においての当該第1再結晶相Q1と第2再結晶相Q2との境界部Kに過大な段差T1や凹部U1が発生することが抑制される。そして、図4(c)および図4(d)に示すように、回路板1aの表面に被着されたNiめっき層1iは、第1再結晶相Q1の表面上に形成された粒状相R1、第2再結晶相Q2の表面上に形成された平滑相R2を含んでいる。上記のように微細化された結晶子S1・S2からなる回路板1aの第1再結晶相Q1および第2再結晶相Q2の境界部Kには、化学研磨による過大な段差や凹部が形成されておらず、その結果、回路板1aの表面、すなわち第1再結晶相Q1および第2再結晶相Q2の表面に被着されたNiめっき層1iの粒状部R1および平滑部R2の境界部にも過大な段差や凹部が形成されていない。したがって、上記回路基板1は、そのNiめっき層1iの粒状相R1と平滑相R2との境界部に、溶融半田の濡れ広がりを阻害する酸素濃度の高い酸化層が形成され難く、当該境界部の酸素濃度が25%以下となり、所望の溶融半田の濡れ広がり性を確保することができる。」 「【0032】 回路板1aの表面に形成されたNiめっき層の構成をその要旨とする本発明で使用されるセラミックス基板1eの材質は特に限定されず、酸化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体、炭化珪素質焼結体、窒化アルミニウム質焼結体等、基本的に電気絶縁材料からなる焼結体で構成すればよい。しかしながら、回路基板に実装される半導体素子は、近年、発熱量が増大しかつその動作速度も高速化しているため、強度および破壊靭性など機械的強度が高く、高い熱伝導率を有する窒化珪素質焼結体でセラミックス基板1eを構成することが望ましい。」 「【0034】 以下、上記窒化珪素基板を使用した回路基板の製造方法について説明する。 【0035】 [配置工程] まず、配置工程を行う。図2(a)に示すように、上記セラミックス基板1eの一面にろう材2dを塗布しておく。次いで、ろう材2dを介しセラミックス基板1eの一面に回路原板2aを配置し、被接合体2を形成する。この回路原板2aは、配置工程後に引き続き行われる、回路原板2aとセラミックス基板1eとの接合工程において回路原板2aに付加される熱によりその組織が変化し、回路基板1を構成する回路板1a(図1参照)となる回路板1aの出発材料であり、上記したように調質記号1/2H?H相当の銅または銅合金からなる銅板を使用する。以下の実施例では、回路原板2aとして2種、厚みが0.5mmの無酸素銅基板C1020H材(JIS規格 H3100)で調質記号1/2H相当の回路原板2aおよび同材質で調質記号H相当の回路原板2aを使用した。回路原板2の縦横の大きさは、接合工程における熱膨張を考慮し、各々29.5mmおよび39.5mmとセラミックス基板1eの大きさより小さいものを使用した。また、比較例としては、同材質および同寸法で調質記号のみO相当および1/4H相当の回路原板を使用した。」 「【図1(a)】 」 「【図1(b)】 」 「【図2(a)】 」 「【図4(b)】 」 「【図4(c)】 」 「【図4(d)】 」 「【図5(c)】 」 イ 以上から、特に【0001】、【0032】、【0035】、図2(a)に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されている。 「電気絶縁材料からなる焼結体で構成されるセラミックス基板の一面に塗布されたろう材を介して銅を主体とした回路板が接合されたセラミックス回路基板において、回路基板を構成する回路板の出発原料となる回路原板として使用される、厚みが0.5mmで調質記号1/2H相当の無酸素銅基板C1020H材。」(以下、「甲1発明」という。) (2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明 ア 本件優先日前に頒布された刊行物である甲2には、以下の記載がある。 「【請求項1】 絶縁層と、この絶縁層の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁層の他方の面に形成された金属層と、前記絶縁層の他方の面側に配設されたヒートシンクと、前記金属層と前記ヒートシンクとの間に配設された接合材と、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、 前記金属層及び前記ヒートシンクは、Cu又はCu合金で構成され、 前記金属層及び前記ヒートシンクが、Al又はAl合金で構成された前記接合材と固相拡散接合されていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。」 「【請求項3】 前記金属層の平均結晶粒径が50μm以上200μm以下の範囲内とされ、前記第一拡散層と前記第二拡散層の間に形成されたAl又はAl合金からなるアルミニウム層の平均結晶粒径が500μm以上とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。」 「【0001】 この発明は、絶縁層の一方の面に回路層が配設されるとともに前記絶縁層の他方の面に金属層が配設されたパワーモジュール用基板と、パワーモジュール用基板の他方の面側にヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板、このヒートシンク付パワーモジュール用基板を備えたヒートシンク付パワーモジュール、及びヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法に関するものである。」 「【0008】 特に、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、半導体素子からの発熱量が大きくなっている。そのため、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの接合部における熱抵抗が低く放熱性が良好で、ヒートサイクル負荷時においても接合の信頼性が高いヒートシンク付パワーモジュール用基板が求められている。 【0009】 この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、初期の熱抵抗が低く、かつヒートサイクル負荷において絶縁層に割れが発生することを抑制するとともに熱抵抗の上昇を抑制可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板、このヒートシンク付パワーモジュール用基板を備えたヒートシンク付パワーモジュール、及びヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 前述の課題を解決するために、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、絶縁層と、この絶縁層の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁層の他方の面に形成された金属層と、前記絶縁層の他方の面側に配設されたヒートシンクと、前記金属層と前記ヒートシンクとの間に配設された接合材と、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、前記金属層及び前記ヒートシンクは、Cu又はCu合金で構成され、前記金属層及び前記ヒートシンクが、Al又はAl合金からなる前記接合材と固相拡散接合されていることを特徴としている。 【0011】 本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、Cu又はCu合金で構成された金属層とヒートシンクとが、Al又はAl合金で構成された接合材と固相拡散接合されているので、金属層とヒートシンクとがこの接合材によって強固に接合されている。したがって、ヒートサイクルが負荷された場合に、金属層と接合材との接合界面、及びヒートシンクと接合材との接合界面に剥離が生じることを抑制して熱抵抗の上昇を抑制できる。また、接合材は、強度が低いAl又はAl合金で構成されているので、ヒートサイクル負荷時においてパワーモジュール用基板とヒートシンクとの間に生じる熱応力を接合材で吸収することができ、絶縁層(セラミックス基板)に生じる割れの発生を抑制可能となる。 さらには、金属層とヒートシンクの間に、はんだと比べて熱伝導の良好なAl又はAl合金で構成された接合材が存在しているので、初期の熱抵抗を低減することが可能となる。」 「【0022】 以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。 図1に、本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール1、ヒートシンク付パワーモジュール用基板30、パワーモジュール用基板10を示す。 このヒートシンク付パワーモジュール1は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板30と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板30の一方側(図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。」 「【0026】 パワーモジュール用基板10は、図1に示すように、セラミックス基板11(絶縁層)と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に形成された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に形成された金属層13と、を備えている。 【0027】 セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2?1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。 【0028】 回路層12は、セラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅(純Cu)の圧延板からなる銅板22がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。 【0029】 金属層13は、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に、Cu又はCu合金からなる金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、無酸素銅(純Cu)の圧延板からなる銅板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。」 「【図1】 」 イ 以上から、特に【0026】?【0029】、図1に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されている。 「セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された金属層とを備えたパワーモジュール用基板において、セラミックス基板に接合されることで金属層を形成する無酸素銅(純Cu)の圧延板からなる銅板。」(以下、「甲2発明」という。) (3)甲3の記載事項 本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には、以下の記載がある。 「 」 「 」 (4)甲4の記載事項 本件優先日前に頒布された刊行物である甲4には、以下の記載がある。 「 」 (5)甲5の記載事項 本件優先日前に頒布された刊行物である甲5には、以下の記載がある。 「 」 (6)甲6の記載事項 本件優先日前に頒布された刊行物である甲6には、以下の記載がある。 「 」 (7)甲7の記載事項 本件優先日前に頒布された刊行物である甲7には、以下の記載がある。 「 」 「 」 3 申立理由1-1(甲1を主たる引用例とする進歩性)について (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「銅を主体とした回路板」は、本件発明1の「銅板付き絶縁基板」における「銅板」に相当し、この「銅を主体とした回路板」は「セラミックス回路基板」の「セラミックス基板」に塗布されたろう材を介して接合されるもので、「セラミックス回路基板」の「セラミックス基板」に「付」いているものであり、甲1発明の「セラミックス回路基板」の「電気絶縁材料からなる焼結体で構成されるセラミックス基板」は本件発明1の「絶縁基板」に相当するから、甲1発明の「電気絶縁材料からなる焼結体で構成されるセラミックス基板の一面に塗布されたろう材を介して銅を主体とした回路板が接合されたセラミックス回路基板」は、本件発明1の「銅板付き絶縁基板」に相当する。 そして、甲1発明の「厚みが0.5mmで調質記号1/2H相当の無酸素銅基板C1020H材」は、本件発明1の「銅板材」に相当する。 してみると、甲1発明の「電気絶縁材料からなる焼結体で構成されるセラミックス基板の一面に塗布されたろう材を介して銅を主体とした回路板が接合されたセラミックス回路基板において、回路基板を構成する回路板の出発原料となる回路原板として使用される、厚みが0.5mmで調質記号1/2H相当の無酸素銅基板C1020H材」は、本件発明1の「銅板付き絶縁基板用銅板材」に相当する。 イ 以上によれば、本件発明1と甲1発明との「一致点」並びに「相違点1」及び「相違点2」は以下のとおりである。 (一致点) 「銅板付き絶縁基板用銅板材。」 (相違点1) 銅板材の組成について、本件発明1では、「Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrからなる群から選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有し」と規定されているのに対して、甲1発明では、含有される各金属成分の含有量が不明である点。 (相違点2) 本件発明1では、「EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織を有する」のに対して、甲1発明では、このような「圧延集合組織」を有しているのか不明である点。 ウ 相違点2に係る容易想到性の判断 (ア)事案に鑑み、相違点2から検討する。本件明細書の【0017】?【0020】、並びに、図1(A)及び(B)によれば、「φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である」ことにより、700℃以上の高温でも結晶粒の成長が抑制されるとしている。そして、本件明細書の【0037】、【0045】?【0055】には、実施例1?13は、「φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織」を有しており、800℃で5時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が200μm以下であり、結晶粒の成長が抑制された旨が記載されている。 したがって、本件発明1は、「φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である」とすることにより、高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長が抑制される銅板付き絶縁基板用銅板材が得られるものと認められる。 (イ)他方、甲1の【0010】によれば、甲1発明は、溶融半田の濡れ性が改善されたNiめっき層を有する回路板を形成可能なセラミックス回路基板の製造方法および溶融半田の濡れ広がり性が改善されたNiめっき層を有する回路板が形成されたセラミックス回路基板を提供することを目的とするものであって、甲1には、「φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である」ことについて記載も示唆もされておらず、また、甲1には、厚みが0.5mmで調質記号1/2H相当の無酸素銅基板C1020H材を高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長を抑制することについても記載も示唆もされていない。 さらに、甲5、6及び参考資料1を参照すると、甲5のFig.4には、70%の加工率で冷間圧延を施した無酸素銅における「EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織」が図示され、甲6のFig.1には、銅の再結晶材における「EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織」が図示されているものの、甲5、甲6では、銅板を高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長を抑制することや、そもそも「銅板付き絶縁基板用銅板材」を得ることについて予定しているものではなく、甲5、6には、甲1発明に、甲5、6の技術事項を適用する必要性(動機付け)について記載も示唆もない。 また、甲3、4は、無酸素銅の成分組成についての記載があり、甲7には、純銅の物理的性質や銅及び銅合金の板及び条についての記載があるものの、これら甲3、4、7には、「EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織」について記載も示唆もされておらず、銅板を高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長を抑制することについても記載も示唆もされていないのみならず、甲1発明に、甲5、6の技術事項を適用する必要性(動機付け)について記載も示唆もない。 そして、「EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織」とすることで、銅板を高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長を抑制することは技術常識であるとも認められない。 そうすると、甲1発明において、相違点2に係る特定事項を備えようとする動機付けがない。 (ウ)さらに、本件発明1の高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長が抑制される銅板付き絶縁基板用銅板材を提供するとの効果は、甲1及び甲3?7に記載された事項から予測可能なものとはいえず、顕著な効果であるといえる。 (エ)したがって、甲1発明において、相違点2に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。そうすると、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲3?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件発明2?5について 本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?5も、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明及び甲3?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)以上のとおりであるから、甲1を主たる引用例とする申立理由1-1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由1-2(甲2を主たる引用例とする進歩性)について (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明の「金属層」は、「無酸素銅(純Cu)の圧延板からなる銅板」によって形成されるものであり、本件発明1の「銅板付き絶縁基板」における「銅板」に相当し、この「金属層」は、「パワーモジュール用基板」の「前記セラミックス基板の他方の面」に配設されるものであることから、「パワーモジュール用基板」に「付」いているものであり、甲2発明の「パワーモジュール用基板」の「セラミックス基板」は本件発明1の「絶縁基板」に相当することから、甲2発明の「セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された金属層とを備えたパワーモジュール用基板」は、本件発明1の「銅板付き絶縁基板」に相当する。 さらに、甲2発明の「セラミックス基板に接合されることで金属層を形成する無酸素銅(純Cu)の圧延板からなる銅板」は、本件発明1の「銅板材」に相当する。 してみると、甲2発明の「セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された金属層とを備えたパワーモジュール用基板において、セラミックス基板に接合されることで金属層を形成する無酸素銅(純Cu)の圧延板からなる銅板」は、本件発明1の「銅板付き絶縁基板用銅板材」に相当する。 イ 以上によれば、本件発明1と甲2発明との「一致点」並びに「相違点3」及び「相違点4」は以下のとおりである。 (一致点) 「銅板付き絶縁基板用銅板材。」 (相違点3) 銅板材の組成について、本件発明1では、「Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrからなる群から選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有し」と規定されているのに対して、甲2発明では、含有される各金属成分の含有量が不明である点。 (相違点4) 本件発明1では、「EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織を有する」のに対して、甲2発明では、このような「圧延集合組織」を有しているのか不明である点。 ウ 相違点4に係る容易想到性の判断 (ア)事案に鑑み、相違点4から検討する。上記3(1)ウ(ア)で検討したとおり、本件発明1は、「φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である」とすることにより、高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長が抑制される銅板付き絶縁基板用銅板材が得られるものと認められる。 (イ)他方、甲2の【0009】によれば、甲2発明は、初期の熱抵抗が低く、かつヒートサイクル負荷において絶縁層に割れが発生することを抑制するとともに熱抵抗の上昇を抑制可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することを目的とするものであり、甲2には、「φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である」ことについて記載も示唆もされておらず、また、甲2には、銅板を高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長を抑制することについても記載も示唆もされていない。 さらに、上記3(1)ウ(イ)で検討したとおり、甲5、甲6では、銅板を高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長を抑制することや、そもそも「銅板付き絶縁基板用銅板材」を得ることについて予定しているものではなく、甲5、6には、甲2発明に、甲5、6の技術事項を適用する必要性(動機付け)について記載も示唆もない。 また、上記3(1)ウ(イ)で検討したとおり、甲3、4、7には、「EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織」について記載も示唆もされておらず、銅板を高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長を抑制することについても記載も示唆もされていないのみならず、甲2発明に、甲5、6の技術事項を適用する必要性(動機付け)について記載も示唆もない。 そして、「EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織」とすることで、銅板を高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長を抑制することは技術常識であるとも認められない。 そうすると、甲2発明において、相違点4に係る特定事項を備えようとする動機付けがない。 (ウ)さらに、本件発明1の高温で熱処理を行った際に結晶粒の成長が抑制される銅板付き絶縁基板用銅板材を提供するとの効果は、甲2?7に記載された事項から予測可能なものとはいえず、顕著な効果であるといえる。 (エ)したがって、甲2発明において、相違点4に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。そうすると、相違点3を検討するまでもなく、甲2に記載された発明及び甲3?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件発明2?5について 本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?5も、本件発明1と同様の理由で、甲2に記載された発明及び甲3?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)以上のとおりであるから、甲2を主たる引用例とする申立理由1-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 5 申立人の主張について (1)ア 申立人は、特許異議申立書3(4)ウ(ア)において、まず、「[相違点1(当審注:上記相違点1、3に相当。)について] 甲第3号証には、無酸素銅の不純物分析結果が記載されており、このことから、Al、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrの合計含有量は1.53ppm未満とされている。なお、甲第3号証の表9には、Beの含有量については明記されていないが、甲第4号証に記載されているように、表に記載されていないその他の元素は、当業者であれば検出限界値(0.01ppm)以下の不純物と解釈するものであり、通常の無酸素銅においてBeは含有されておらず、検出限界以下であることは技術常識である。 したがって、甲第1号証及び甲第2号証に記載された無酸素銅からなる回路板及び金属層は、構成要件A(当審注:本件発明1に係る「Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrからなる群から選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有し」)を満足する。」と主張する。 イ 申立人が主張するように、たしかに、甲3の表9に記載の無酸素銅のAl、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrの合計含有量は1.53ppm未満ではあるが、この甲3の表9に記載の無酸素銅の不純物の含有量と、同甲3の表6に記載の無酸素銅の不純物の含有量や甲4のTable IのOFCの不純物とは異なっていることから、無酸素銅の不純物の含有量(成分組成)は一義的に決定されるものとは認められない。そうすると、たとえ、甲第3号証の表9では、無酸素銅のAl、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrの合計含有量は1.53ppm未満とされており、通常の無酸素銅においてBeは含有されておらず、検出限界以下であることは技術常識であったとしても、甲1及び甲2に記載された無酸素銅からなる回路板及び金属層における成分組成は一義的には決定されるとは認められない。 よって、甲1及び甲2に記載された無酸素銅からなる回路板及び金属層は、構成要件Aを満足するとの申立人の主張を採用することはできず、上記相違点1、3は実質的な相違点というほかない。 (2)ア 次に申立人は、「[相違点2(当審注:上記相違点2、4に相当。)について] 甲第5号証には、圧延率70%の冷間圧延を実施した無酸素銅の圧延板のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶包囲分布(ODF)図(Fig.4)が開示されており、甲第6号証には、圧延率70%の冷間圧延を実施した純銅の圧延板のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶包囲分布(ODF)図(Fig.1)が開示されている。 ここで、参考資料に、甲第5号証のFig.4及び甲第6号証のFig.1におけるφ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値を読み取った結果を示す。 参考資料のP.1に示すように、本件特許発明1の構成要件Bで規定された結晶包囲分布は、3次元(Φ,φ1,φ2)で圧延集合組織を表現したものであり、通常、φ2断面で5°刻み(計19断面)とし、3次元を2次元に変換し、等高線図で方位密度の分布を表現したものである。 甲第5号証のFig.4(左下)には、70%の加工率で冷間圧延を施した無酸素銅のODFが開示されている。そして、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲は19分割されたマップの最も左上のマップの左辺上となり、方位密度の平均値が3.00?4.40の値をとることがわかる。また、φ2=35°は、19分割されたマップの、上から2段目の右端であり、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の平均値の最大値は8.00以上の値となる(参考資料のP.2?4)。 また、甲第6号証のFig.1(左)には、銅の再結晶材のODFが開示されている。そして、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値は3.11?4.66の値をとることがわかる。また、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の平均値の最大値は7.76以上の値となる(参考資料のP.5?7)。 よって、本件特許発明1の構成要件B(当審注:本件発明1に係る「EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値が3.0以上35.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が1.0以上30.0未満である圧延集合組織を有する」)については、甲第5号証及び甲第6号証に開示されている。これら甲第5号証及び甲第6号証は無酸素銅の圧延板に関するものであるから、甲第1号証及び甲第2号証に記載された無酸素銅からなる回路板及び金属層は、当然に、構成要件Bを満足する。」と主張する。 イ 上記(1)イで検討したとおり、無酸素銅の不純物の含有量(成分組成)は一義的に決定されるものとは認められず、そして、本件出願の明細書に記載の実施例から銅板の成分組成や製造方法によって、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値や、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値が異なる銅板が製造されうることから、銅板の成分組成や製造方法が明らかではない甲1及び甲2に記載された無酸素銅は、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°?90°の範囲における方位密度の平均値や、φ2=35°、φ1=45°?55°、Φ=65°?80°の範囲における方位密度の最大値も明らかではない。 よって、たとえ甲5や甲6に構成要件Bに関する記載があったとしても、甲1及び甲2に記載された無酸素銅からなる回路板及び金属層は、当然に構成要件Bを満足するとの申立人の主張を採用することはできず、上記相違点2、4は実質的な相違点というほかない。 (3)以上により、申立人の特許異議申立書3(4)ウ(ア)における相違点に関する主張を採用することはできない。 6 まとめ 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-03-01 |
出願番号 | 特願2018-540895(P2018-540895) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(C22C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 本多 仁 |
特許庁審判長 |
粟野 正明 |
特許庁審判官 |
村川 雄一 井上 猛 |
登録日 | 2020-03-19 |
登録番号 | 特許第6678757号(P6678757) |
権利者 | 古河電気工業株式会社 |
発明の名称 | 銅板付き絶縁基板用銅板材及びその製造方法 |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 住吉 秀一 |
代理人 | 前川 純一 |
代理人 | 上島 類 |