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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1371959
審判番号 不服2019-5588  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-25 
確定日 2021-03-10 
事件の表示 特願2017-175724「装置、方法、コンピュータ読取可能な媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月18日出願公開、特開2018- 11340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯
本件出願は、2012年(平成24年)1月18日(国内優先権主張 平成23年2月10日、平成23年3月4日、平成23年8月30日)を国際出願日とする特願2012-556813号の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願した特願2016-132584号の一部を更に同法第44条第1項の規定に基づいて分割出願したものであり、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 9月13日 :上申書の提出
平成30年 8月 8日付け:拒絶理由通知
平成30年11月14日 :意見書の提出及び手続補正
平成30年12月14日付け:拒絶査定
平成30年12月25日 :拒絶査定の謄本の送達
平成31年 4月25日 :審判請求
令和 元年 5月23日 :手続補正(審判請求書の補正)
令和 2年 3月19日付け:当審の拒絶理由通知
令和 2年 6月23日 :意見書の提出及び手続補正

第2 本願発明について
本願の請求項に係る発明は、令和2年6月23日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載した事項により特定されるものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
なお、各構成の符号(A)?(B2)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成A?構成B2と称する。

(本願発明)
「【請求項1】
(A1)少なくとも1つのプロセッサと、
(A2)コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリと、
(A)を備える装置であって、
(B)前記メモリ及び前記コンピュータプログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサと連携して、少なくとも次の動作を前記装置に実行させるように構成されており、これらの動作は、
(B1)スケーリングリストからの値のセットが参照スケーリングリストからの値のセットと同一であるか否かを示すシンタックス要素を受信することと、
(B2)前記参照スケーリングリストからの前記値のセットを、行列サイズ、予測方法及び/又は信号成分の少なくとも1つに基づいて決定することと、
(A)を含む装置。」

第3 当審の拒絶理由通知
令和2年3月19日付け拒絶理由通知書によって当審が通知した拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。

理由1.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



請求項1には、「スケーリングリストからの値のセットが参照スケーリングリストからの値のセットと同一であるか否かを示すシンタックス要素を受信することと、
前記参照スケーリングリストからの前記値のセットを、行列サイズ、予測方法及び/又は信号成分の少なくとも1つに基づいて判定することと、」と記載されている。
しかしながら、当該発明特定事項は発明の詳細な説明のいずれの記載に基づくものかが不明であるから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
当該発明特定事項は、特に以下の点で発明の詳細な説明との対応関係が不明である。

(1)「スケーリングリストからの値のセット」について
(中略)
さらに、発明の詳細な説明には、「規定の量子化行列」「あるスライスについて使用される量子化行列」「(以前に生成した)量子化行列」その他の技術的意味合いの異なる量子化行列が複数記載されており、単に「スケーリングリストからの値のセット」と記載したのみでは、発明の詳細な説明のいずれの量子化行列を指して「スケーリングリスト」と規定しているのか不明である。

(2)「参照スケーリングリスト」について
発明の詳細な説明には、「参照スケーリングリスト」との用語も「参照量子化行列」との用語も記載がなく、請求項1の「参照スケーリングリスト」は、発明の詳細な説明のいずれの記載に基づくものか不明である。

(3)「同一であるか否かを示すシンタックス要素」について
発明の詳細な説明には、「シンタックス要素」に関する説明として、[図13]-[図20]及びこれらの図を説明する記載がある。また、段落[0051]-[0059]及び[図3]に「量子化行列パラメータセット」が記載され、段落[0060]及び[図4]に「スライスヘッダ」が記載されている。
しかしながら、ここで説明されるいずれのシンタックス要素も、量子化行列に関する値同士が同一であるか否かを示すものとして説明されていない。
よって、当該シンタックス要素は発明の詳細な説明のいずれのシンタックス要素に対応したものか不明である。
(以下略)

第4 本願の発明の詳細な説明の記載
1 「量子化行列パラメータセット」、「スライスヘッダ」及び「シンタックス要素」に関する記載
本願の発明の詳細な説明には、「量子化行列パラメータセット」、「スライスヘッダ」及び「シンタックス要素」に関して、以下の記載がある。
なお、下線は、強調のために当審が付与した。

(1)「【0051】
[1-3.パラメータ構成例]
(1)量子化行列パラメータセット
図3は、本実施形態において各QMPSに含まれるパラメータの一例を示す説明図である。図3を参照すると、各QMPSには、「QMPS ID」、「生成モード存在フラグ」、「生成モード」及び各モードごとに異なる量子化行列パラメータが含まれる。
【0052】
「QMPS ID」は、各QMPSを互いに識別するための識別子である。QMPS IDは、例えば、0?31の範囲の整数などであってよい。未使用のQMPS IDの指定は、新たなQMPSが定義されることを意味する。シーケンス内で既に使用されているQMPS IDの再指定は、定義済みのQMPSが更新されることを意味する。
【0053】
「生成モード存在フラグ」は、量子化行列生成処理のモードを表す区分である「生成モード」が当該QMPS内に存在するか否かを示すフラグである。生成モード存在フラグが「0:存在せず」を示す場合には、当該QMPS内では、全スキャンモードで量子化行列が定義される。一方、生成モード存在フラグが「1:存在する」を示す場合には、当該QMPS内に「生成モード」が存在する。
【0054】
「生成モード」は、例えば、「0:コピー」、「1:軸指定」又は「2:全スキャン」のいずれかの値をとり得る区分である。後に説明するシンタックスの擬似コードでは、生成モードは“pred_mode”という変数によって表される。
【0055】
コピーモード(即ち、pred_mode=0)の場合には、QMPSは、量子化行列パラメータとして、「ソースID」、「コピー元サイズ」、「コピー元タイプ」、「残差フラグ」及び「残差データ」を含み得る。「ソースID」は、コピー元の量子化行列が定義されたQMPSを指定するQMPS IDである。「コピー元サイズ」は、コピー元の量子化行列のサイズである。「コピー元タイプ」は、コピー元の量子化行列のタイプ(イントラ-Y、イントラ-Cb、…、インターCr)である。「残差フラグ」は、残差が存在するか否かを示すフラグである。「残差データ」は、残差が存在する場合に残差を表す残差行列を生成するためのデータである。残差フラグが「0:存在せず」を示す場合には、残差データは省略され得る。
【0056】
なお、あるQMPSのソースIDが当該QMPS自身のQMPS IDと等しい場合には、図38に例示したような既定の量子化行列が指定されたものと解釈されてよい。それにより、既定の量子化行列を指定するための独立したフラグをQMPSに含めなくてもよくなるため、QMPSの符号量が削減され得る。
【0057】
軸指定モード(即ち、pred_mode=1)の場合には、QMPSは、量子化行列パラメータとして、「指定方式フラグ」に加えて、「基準軸データ」及び「コーナーデータ」のいずれか一方、「残差フラグ」、並びに「残差データ」を含み得る。指定方式フラグは、量子化行列の生成の基準となる基準軸の要素の値をどのように指定するかを示すフラグであり、例えば、「0:差分」又は「1:補間」のいずれかの値をとり得る。指定方式が「0:差分」の場合には、量子化行列の基準軸である縦軸、横軸及び斜め軸に該当する要素の値が、基準軸データにより指定される。指定方式が「1:補間」の場合には、量子化行列の左上、右上、左下及び右下という4つのコーナーに該当する要素の値が、コーナーデータにより指定される。3つの基準軸の要素の値は、これら4つのコーナーの値から補間によって生成され得る。残差フラグ及び残差データは、コピーモードの場合と同様である。
【0058】
全スキャンモード(即ち、pred_mode=2)の場合には、QMPSは、量子化行列パラメータとして、DPCMの差分データの一次元配列を含み得る。
【0059】
なお、各QMPSは、量子化行列の種類ごとに異なる生成モード及び各モードに対応する量子化行列パラメータを含んでよい。即ち、一例として、1つのQMPS内で、ある種類の量子化行列は全スキャンモードで定義され、別の種類の量子化行列は軸指定モードで定義され、残りの量子化行列はコピーモードで定義されてもよい。」

(2)「【図3】



(3)「【0060】
(2)スライスヘッダ
図4は、本実施形態において各スライスヘッダに含まれるパラメータの一例を部分的に示す説明図である。図4を参照すると、各スライスヘッダには、「スライスタイプ」、「PPS ID」、「QMPS ID存在フラグ」及び「QMPS ID」が含まれ得る。「スライスタイプ」は、当該スライスの符号化タイプを示す区分であり、Pスライス、Bスライス又はIスライスなどに対応する値をとる。「PPS ID」は、当該スライスのために参照されるピクチャパラメータセット(PPS)のIDである。「QMPS ID存在フラグ」は、当該スライスヘッダ内にQMPS IDが存在するか否かを示すフラグである。「QMPS ID」は、当該スライスのために参照される量子化行列パラメータセット(QMPS)のQMPS IDである。」

(4)「【図4】



(5)「【0108】
<5.シンタックスの例>
[5-1.第1の例]
図13?図15は、本実施形態に係るQMPSのシンタックスを表現する例示的な擬似コードの第1の例を示している。擬似コードの左端には、行番号が付されている。また、擬似コード内の変数に付された下線は、当該変数に対応するパラメータがQMPS内で特定されることを意味する。
【0109】
図13の第1行の関数QuantizationMatrixParameterSet()は、1つのQMPSのシンタックスを表現する関数である。第2行及び第3行において、QMPS ID(quantization_matrix_parameter_id)及び生成モード存在フラグ(pred_present_flag)が特定される。その後の第6行から第56行までのシンタックスは、量子化行列のサイズ及びタイプごとにループされる。ループ内の第7行から第53行までのシンタックスは、生成モードが存在する場合(pred_present_flag=1)にQMPSに挿入される。
【0110】
生成モードが存在する場合の第9行から第16行までのシンタックスは、コピーモードでのシンタックスである。第9行から第11行では、ソースID、コピー元サイズ及びコピー元タイプが特定される。第12行の関数pred_matrix()は、ソースID、コピー元サイズ及びコピー元タイプにより特定される量子化行列がコピーされることを意味する。第13行では、残差フラグが特定される。第15行の関数residual_matrix()は、残差成分が存在する場合に残差データがQMPSにおいて特定されることを意味する。
【0111】
第18行から第50行までのシンタックスは軸指定モードでのシンタックスであり、図14に記載されている。第18行では、指定方式フラグが特定される。指定方式が差分(DPCM)方式の場合には、第21行から第25行において縦軸の要素の値、第26行から第34行において横軸の要素の値、第35行から第40行において斜め軸の要素の値がそれぞれ特定される。この場合の基準軸データは、DPCMの差分データの一次元配列である。なお、横軸の要素の値を縦軸からコピーし得る場合には、横軸の要素についてのシンタックスは省略され得る(第27行、第28行)。指定方式が補間方式の場合には、第42行から第45行において左上(DC成分)、右上、左下及び右下の要素の値がコーナーデータとしてそれぞれ特定される。
【0112】
第52行の処理は、全スキャンモードでのシンタックスである。第55行の処理は、生成モードが存在しない場合のシンタックスである。いずれの場合にも、H.264/AVCにおける量子化行列のシンタックスを表す関数qmatrix()によって、全スキャン方式で量子化行列が特定される。
【0113】
図15の第1行の関数residual_matrix()は、図13の第15行及び図14の第49行において使用されている、残差データを特定するための関数である。図15の例において、残差データは、DPCM方式又はランレングス方式で特定される。DPCM方式の場合には、第4行から第8行において、一次元配列の要素ごとに前の要素との間の差分の値(delta_coef)が特定される。ランレングス方式の場合には、第11行から第18行において、値にゼロが続く部分の要素群の長さ(run)及び非ゼロの要素の値(data)が繰り返し特定される。
【0114】
[5-2.第2の例]
図16?図20は、本実施形態に係るQMPSのシンタックスを表現する例示的な擬似コードの第2の例を示している。
【0115】
図16の第1行の関数QuantizationMatrixParameterSet()は、1つのQMPSのシンタックスを表現する関数である。第2行において、QMPS ID(quantization_matrix_parameter_id)が特定される。また、既定の量子化行列のみが指定されるケースを除き、第6行において、生成モード存在フラグ(pred_present_flag)が特定される。
【0116】
さらに、第2の例では、関数QuantizaionMatrixParameterSet()の第7行から第10行において、4種類の量子化スケール(Qscale0?Qscale3)が特定される。これら量子化スケールは、量子化行列の各要素の値を量子化して符号量をより少なくするために採用され得るパラメータである。より具体的には、例えば、8×8の量子化行列に、図21に示すような4つの量子化スケール設定領域A1?A4が定義される。量子化スケール設定領域A1は、DC成分を含む低域信号に対応する要素群のための領域である。量子化スケール設定領域A2及びA3は、それぞれ中間域の信号に対応する要素群のための領域である。量子化スケール設定領域A4は、高域信号に対応する要素群のための領域である。このような領域ごとに、量子化行列の要素の値を量子化するための量子化スケールが設定され得る。例えば、図22を参照すると、量子化スケール設定領域A1についての第1の量子化スケール(Qscale0)は“1”である。これは、低域信号に対応する要素群については量子化行列の値が量子化されないことを意味する。一方、量子化スケール設定領域A2についての第2の量子化スケール(Qscale1)は“2”である。量子化スケール設定領域A3についての第3の量子化スケール(Qscale2)は“3”である。量子化スケール設定領域A4についての第4の量子化スケール(Qscale3)は“4”である。量子化スケールが大きくなるほど、量子化により生じる誤差は増加する。しかし、一般的に、高域信号については、ある程度の誤差が許容され得る。従って、高い符号化効率を達成することが望まれる場合には、量子化行列の量子化のためのこのような量子化スケールの設定によって、量子化行列の定義に要する符号量を、画質を大きく劣化させることなく効果的に削減することができる。量子化行列の量子化が行われる場合には、実質的には、図3に例示した残差データ又は差分データの各要素の値が、各要素が属する量子化スケール設定領域について設定された量子化ステップで量子化され又は逆量子化され得る。
【0117】
なお、図21に示した量子化スケール設定領域の配置は一例に過ぎない。例えば、量子化行列のサイズごとに異なる数の量子化スケール設定領域が定義されてもよい(例えば、サイズが大きいほど多くの量子化スケール設定領域を定義され得る)。また、量子化スケール設定領域の境界の位置も図21の例に限定されない。通常、量子化行列を一次元化する際のスキャンパターンはジグザグスキャンである。そのため、図21に示したような右上から左下にかけての斜めの領域境界が用いられることが好ましい。しかしながら、量子化行列の要素間の相関又は使用されるスキャンパターンなどに応じて、縦方向又は横方向に沿った領域境界が用いられてもよい。さらに、量子化スケール設定領域の配置(領域の数及び境界の位置など)は、符号化効率の観点で適応的に選択されてもよい。例えば、フラットに近い量子化行列が定義される場合には、より少ない数の量子化スケール設定領域が選択されてもよい。
【0118】
図16において、その後の第13行から第76行までのシンタックスは、量子化行列のサイズ及びタイプごとにループされる。ループ内の第14行から第66行(図18参照)までのシンタックスは、生成モードが存在する場合(pred_present_flag=1)にQMPSに挿入される。
【0119】
生成モードが存在する場合の第16行から第22行までのシンタックスは、コピーモードでのシンタックスである。第16行から第18行では、ソースID、コピー元サイズ及びコピー元タイプが特定される。第19行では、残差フラグが特定される。第21行の関数residual_matrix()は、残差成分が存在する場合に残差データがQMPSにおいて特定されることを意味する。ここでの残差データは、上述した4種類の量子化スケール(Qscale0?Qscale3)の値に応じて量子化され得る。第23行から第56行までのシンタックスは軸指定モードでのシンタックスであり、図17に記載されている。軸指定モードでの残差データもまた、上述した4種類の量子化スケール(Qscale0?Qscale3)の値に応じて量子化され得る(第55行)。
【0120】
図18の第57行から第66行までのシンタックスは、全スキャンモードでのシンタックスである。また、第68行から第75行までのシンタックスは、生成モードが存在しない場合のシンタックスである。いずれの場合にも、関数qmatrix()によって全スキャン方式で量子化行列が特定される。但し、第2の例では、符号化効率をより高めるために、DPCM方式の差分データ(delta_coef)又はランレングス方式のランの値(run)及び非ゼロ要素の値(data)をエントロピー符号化するためのVLCテーブルが、適応的に切り替えられる。第61行及び第71行のvlc_table_dataは、DPCM方式の差分データ(delta_coef)又はランレングス方式の非ゼロ要素の値(data)のために選択されるVLCテーブルのテーブル番号を特定する。第63行及び第73行のvlc_table_runは、ランレングス方式のランの値(run)のために選択されるVLCテーブルのテーブル番号を特定する。
【0121】
図19の第1行の関数qmatrix()は、全スキャン方式で量子化行列を特定するためのシンタックスである。図19の第3行から第8行はDPCM方式でのシンタックスを示しており、第5行の差分データ(delta_coef)は、上述したvlc_table_dataにより特定されるVLCテーブルを用いて符号化される。また、第10行から第21行はランレングス方式でのシンタックスを示しており、第12行のランの値(run)は、上述したvlc_table_runにより特定されるVLCテーブルを用いて符号化される。第13行の非ゼロ要素の値(data)は、上述したvlc_table_dataにより特定されるVLCテーブルを用いて符号化される。
【0122】
図23は、LCEC(Low Complexity Entropy Coding:低負荷エントロピー符号化)方式において選択可能な11種類のVLC(Variable Length Coding)テーブルの符号語リストを示している。図23における各符号語内の“x”は、所謂サフィックスである。例えば、“15”という値を指数ゴロム符号で符号化すると“000010000”という9ビットの符号語が得られるが、当該値をVLC4で符号化すると“11111”という5ビットの符号語が得られる。このように、より大きい値が多く符号化される場合には、短い符号語の中により桁数の多いサフィックスを有するVLCテーブルを選択することで、符号化効率を高めることができる。図23の11種類のVLCテーブルの中では、例えばVLC4は、5ビットの符号語の中に4桁のサフィックスを有している。また、VLC9は、6ビットの符号語の中に4桁のサフィックスを有している。従って、これらVLCテーブルは、より大きい値が多く符号化される場合に適している。
【0123】
量子化行列のシンタックスに戻ると、量子化行列の一次元配列の差分データではゼロが続くことが多いため、ランレングス方式のランの値については、ゼロ、1又は2などの小さい値ではなくより大きい値が多く発生する。一方、ランレングス方式の非ゼロ要素の値及び差分データの値については、大きい値は少ない頻度でしか発生しない。従って、上述したシンタックスのように差分データの指定方式(DPCM/ランレングス)及び値の種類(ランレングス方式の場合のラン/非ゼロ要素)ごとにVLCテーブルを切り替えることで、量子化行列の定義に要する符号量は一層削減される。
【0124】
図20の第1行の関数residual_matrix()においても、VLCテーブルの適応的な切り替えが採用されている。即ち、第7行のvlc_table_dataは、DPCM方式の差分データ(delta_coef)のために選択されるVLCテーブルのテーブル番号を特定する。第10行の差分データ(delta_coef)は、第7行で特定されるVLCテーブルを用いて符号化される。第15行のvlc_table_dataは、ランレングス方式の非ゼロ要素の値(data)のために選択されるVLCテーブルのテーブル番号を特定する。第16行のvlc_table_runは、ランレングス方式のランの値(run)のために選択されるVLCテーブルのテーブル番号を特定する。第19行のランの値(run)は、上述したvlc_table_runにより特定されるVLCテーブルを用いて符号化される。第20行の非ゼロ要素の値(data)は、上述したvlc_table_dataにより特定されるVLCテーブルを用いて符号化される。
【0125】
このようなQMPSのシンタックスの様々な特徴により、量子化行列の定義に要する符号量が効果的に削減され、符号化効率は向上し得る。なお、本節で説明したシンタックスは一例に過ぎない。即ち、ここで例示したシンタックスの一部が省略され、パラメータの順序が変更され、又は他のパラメータがシンタックスに追加されてもよい。また、本節で説明したシンタックスのいくつかの特徴は、QMPSではなくSPS又はPPSにおいて量子化行列を定義する際に採用されてもよい。その場合には、SPS又はPPSにおける量子化行列の定義に要する符号量を削減することができる。」

(6)「【図13】


【図14】


【図15】


【図16】


【図17】


【図18】


【図19】


【図20】



2 シンタックス処理部の構成例」及び「量子化行列の生成」に関する記載
本願の発明の詳細な説明には、「シンタックス処理部の構成例」及び「量子化行列の生成」に関して、以下の記載がある。
なお、下線は、強調のために当審が付与した。

(1)「【0083】
[3-2.シンタックス処理部の構成例]
図8は、図7に示した画像復号装置60のシンタックス処理部61の詳細な構成の一例を示すブロック図である。図8を参照すると、シンタックス処理部61は、パラメータ取得部160及び設定部170を有する。
【0084】
(1)パラメータ取得部
パラメータ取得部160は、画像データのストリームからSPS、PPS、QMPS及びスライスヘッダなどのヘッダ情報を認識し、ヘッダ情報に含まれるパラメータを取得する。例えば、本実施形態において、パラメータ取得部160は、量子化行列を定義する量子化行列パラメータをQMPSから取得する。上述したように、QMPSは、SPS及びPPSとは異なる非VCL NALユニットである。そして、パラメータ取得部160は、取得したパラメータを設定部170へ出力する。また、パラメータ取得部160は、画像データのストリームを可逆復号部62へ出力する。
【0085】
(2)設定部
設定部170は、パラメータ取得部160により取得されるパラメータに基づいて、図7に示した各部の処理のための設定を行う。例えば、設定部170は、LCU及びSCUの値の組から符号化単位のサイズの範囲を認識すると共に、split_flagの値に応じて符号化単位のサイズを設定する。ここで設定される符号化単位を処理の単位として、画像データの復号が行われる。また、設定部170は、変換単位のサイズをさらに設定する。ここで設定される変換単位を処理の単位として、上述した逆量子化部63による逆量子化及び逆直交変換部64による逆直交変換が行われる。
【0086】
また、本実施形態において、設定部170は、パラメータ取得部160によりQMPSから取得される量子化行列パラメータに基づいて、量子化行列を設定する。より具体的には、設定部170は、QMPSに含まれる量子化行列パラメータに基づき、サイズ及びタイプの互いに異なる複数の量子化行列を、全スキャンモード、コピーモード又は軸指定モードでそれぞれ生成する。量子化行列の生成は、画像データのストリーム内でQPMSが検出される都度行われ得る。
【0087】
例えば、設定部170は、全スキャンモードにおいて、量子化行列パラメータに含まれる差分データの一次元配列をDPCM方式で復号する。そして、設定部170は、復号後の一次元配列を、ジグザグスキャンのスキャンパターンに従って二次元の量子化行列に変形する。
【0088】
また、設定部170は、コピーモードにおいて、量子化行列パラメータに含まれるソースID、コピー元サイズ及びコピー元タイプにより特定される(以前に生成した)量子化行列をコピーする。このとき、設定部170は、コピー元の量子化行列のサイズよりも新たな量子化行列のサイズが小さい場合には、コピーした量子化行列の要素を間引くことにより、新たな量子化行列を生成する。また、設定部170は、コピー元の量子化行列のサイズよりも新たな量子化行列のサイズが大きい場合には、コピーした量子化行列の要素を補間することにより、新たな量子化行列を生成する。そして、設定部170は、残差成分が存在する場合には、新たな量子化行列に残差成分を加算する。
【0089】
また、設定部170は、あるQMPS内の量子化行列パラメータに含まれるソースIDが当該QMPSのQMPS IDと等しい場合には、新たな量子化行列を既定の量子化行列とする。
【0090】
また、設定部170は、軸指定モードにおいて、量子化行列パラメータに含まれる指定方式フラグを認識する。そして、設定部170は、差分方式の場合には、量子化行列パラメータに含まれる基準軸データに基づいて縦軸、横軸及び斜め軸に該当する量子化行列の要素の値を生成し、残りの要素の値を補間により生成する。また、設定部170は、補間方式の場合には、量子化行列パラメータに含まれるコーナーデータに基づいて4つのコーナーに該当する量子化行列の要素の値を生成し、基準軸の要素の値を補間により生成した後、さらに残りの要素の値を補間により生成する。そして、設定部170は、残差成分が存在する場合には、新たな量子化行列に残差成分を加算する。
【0091】
その後、設定部170は、スライスヘッダにおいてQMPS IDが指定されると、指定されたQMPS IDにより識別されるQMPSについて生成した量子化行列を、逆量子化部63が使用すべき量子化行列として設定する。
【0092】
<4.一実施形態に係る復号時の処理の流れ>
[4-1.量子化行列の生成]
(1)量子化行列生成処理
図9は、本実施形態に係るシンタックス処理部61による量子化行列生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。図9の量子化行列生成処理は、画像データのストリーム内でQPMSが検出される都度行われ得る処理である。
【0093】
図9を参照すると、パラメータ取得部160は、まず、QMPSからQMPS IDを取得する(ステップS200)。ここで取得されるQMPS IDがストリーム内で未使用のIDであれば、設定部170は、当該QMPS IDに関連付けられる量子化行列を、以下に説明する処理に従って新たに生成する。一方、QMPS IDが既に使用されているIDであれば、設定部170は、当該QMPS IDと関連付けて保持している量子化行列を、以下に説明する処理に従って生成される行列に更新する。次に、パラメータ取得部160は、QMPSから生成モード存在フラグを取得する(ステップS202)。
【0094】
その後のステップS206からステップS240までの処理は、量子化行列の種類ごとに繰り返される(ステップS204)。なお、量子化行列の種類とは、量子化行列のサイズとタイプ(即ち、予測方式及び信号成分)との組合せに相当する。
【0095】
ステップS206では、設定部170は、生成モード存在フラグの値に応じて、QMPS内に生成モード(の区分)が存在するか否かを判定する(ステップS206)。ここで生成モードが存在しない場合には、設定部170は、H.264/AVCにおける量子化行列の復号処理と同様に、全スキャン方式で量子化行列を生成する(ステップS208)。一方、生成モードが存在する場合には、パラメータ取得部160は、QMPSから生成モードを取得する(ステップS210)。そして、設定部170は、生成モードに応じて異なる処理を行う(ステップS212、S214)。
【0096】
例えば、設定部170は、コピーモードが指示されている場合には、図10に例示するコピーモードでの処理を行う(ステップS220)。また、設定部170は、軸指定モードが指示されている場合には、図11に例示する軸指定モードでの処理を行う(ステップS240)。また、設定部170は、全スキャンモードが指示されている場合には、H.264/AVCにおける量子化行列の復号処理と同様に、全スキャン方式で量子化行列を生成する(ステップS208)。
【0097】
その後、全ての量子化行列の種類について量子化行列が生成されると、図9に示した量子化行列生成処理は終了する。
【0098】
(2)コピーモードでの処理
図10は、図9のステップS220におけるコピーモードでの処理の詳細な流れの一例を示すフローチャートである。
【0099】
図10を参照すると、まず、パラメータ取得部160は、QMPSからソースIDを取得する(ステップS221)。次に、設定部170は、図9のステップS200において取得されたQMPS ID(現在のQMPSのQMPS ID)とソースIDとが等しいか否かを判定する(ステップS222)。ここで、現在のQMPSのQMPS IDとソースIDとが等しい場合には、設定部170は、新たな量子化行列を既定の量子化行列として生成する(ステップS223)。一方、現在のQMPSのQMPS IDとソースIDとが等しくない場合には、処理はステップS224へ進む。
【0100】
ステップS224において、パラメータ取得部160は、QMPSからコピー元サイズ及びコピー元タイプを取得する(ステップS224)。次に、設定部170は、ソースID、コピー元サイズ及びコピー元タイプにより特定される量子化行列をコピーする(ステップS225)。次に、設定部170は、コピー元サイズと生成対象の量子化行列のサイズとを比較する(ステップS226)。ここで、コピー元サイズと生成対象の量子化行列のサイズとが等しくない場合には、設定部170は、サイズの相違に応じて、コピーした量子化行列の要素を補間し又は間引くことにより、新たな量子化行列を生成する(ステップS227)。
【0101】
さらに、パラメータ取得部160は、QMPSから残差フラグを取得する(ステップS228)。次に、設定部170は、残差フラグの値に応じて、残差データが存在するか否かを判定する(ステップS229)。ここで、残差データが存在する場合には、設定部170は、ステップS223又はステップS225?S227において生成された新たな量子化行列に残差を加算する(ステップS230)。
【0102】
(3)軸指定モードでの処理
図11は、図9のステップS240における軸指定モードでの処理の詳細な流れの一例を示すフローチャートである。
【0103】
図11を参照すると、まず、パラメータ取得部160は、QMPSから指定方式フラグを取得する(ステップS241)。次に、設定部170は、指定方式フラグの値に応じて、指定方式を判定する(ステップS242)。ここで、差分方式が指示されている場合には、処理はステップS243へ進む。一方、補間方式が指示されている場合には、処理はステップS246へ進む。
【0104】
差分方式の場合、設定部170は、量子化行列パラメータに含まれる基準軸データに基づいて、縦軸、横軸及び斜め軸に該当する量子化行列の要素の値を生成する(ステップS243、S244及びS245)。一方、補間方式の場合、設定部170は、量子化行列パラメータに含まれるコーナーデータに基づいて、4つのコーナーに該当する量子化行列の要素の値を生成する(ステップS246)。次に、設定部170は、4つのコーナーを結ぶ基準軸(縦軸、横軸及び斜め軸)の要素の値を補間により生成する(ステップS247)。その後、設定部170は、基準軸の要素の値に基づいて、残りの要素の値を補間する(ステップS248)。
【0105】
さらに、パラメータ取得部160は、QMPSから残差フラグを取得する(ステップS249)。次に、設定部170は、残差フラグの値に応じて、残差データが存在するか否かを判定する(ステップS250)。ここで、残差データが存在する場合には、設定部170は、ステップS248において生成された新たな量子化行列に残差を加算する(ステップS251)。」

(2)「【図8】


【図9】


【図10】


【図11】



第5 判断
1 当審が通知した拒絶理由の理由1(サポート要件)の(3)について
上記「第3 当審の拒絶理由通知」に示した、当審が通知した拒絶理由の理由1(サポート要件)の(3)に関する「同一であるか否かを示すシンタックス要素」について、以下に検討する。

(1)「スケーリングリストからの値のセット」について
「スケーリングリストからの値のセット」が発明の詳細な説明におけるいずれの記載に対応したものかは、上記「第3 当審の拒絶理由通知」に示した、当審が通知した拒絶理由の理由1(サポート要件)の(1)において指摘したとおり、不明である。
この点について、令和2年6月23日付け意見書の2.(1)を参照しても、請求人は「スケーリングリスト」が「量子化行列」を指すことを説明するのみで、量子化行列「からの値のセット」が発明の詳細な説明のいずれの記載に対応しているかを説明しておらず、上記の点は依然として不明であるが、以下においては、量子化行列を構成する各要素を「スケーリングリストからの値」、あるいは、またそれらの各行列を単位とする集合である、量子化行列そのものを「スケーリングリストからの値のセット」、とそれぞれみなして判断する。

(2)発明の詳細な説明に記載されたシンタックス要素について
本願発明の構成B1は、「スケーリングリストからの値のセットが参照スケーリングリストからの値のセットと同一であるか否かを示すシンタックス要素」を「受信する」ものであるから、発明の詳細な説明において、受信の対象となるシンタックスについて説明する記載を参照すると、上記第4の1(1)及び(2)に摘記した箇所に「量子化行列パラメータセット」が説明され、上記第4の1(3)及び(4)に摘記した箇所に「スライスヘッダ」が説明され、上記第4の1(5)及び(6)に摘記した箇所にQMPSのシンタックスを表現する例示的な擬似コードの例が記載されている。
しかしながら、これらの記載箇所で説明される、いずれのシンタックス要素も、直接的に量子化行列に関する値同士が同一であるか否かを示すものとしては説明されていない。

(3)量子化行列の生成処理について
上記(2)において検討したとおり、発明の詳細な説明に記載されたいずれのシンタックス要素も直接的に量子化行列に関する値同士が同一であるか否かを示すものではないが、これらのシンタックス要素のいずれかが実質的に量子化行列に関する値同士が同一であるか否かを示すか否かについて、以下に検討する。
明細書の段落【0088】及び【0089】には、「設定部170は、コピーモードにおいて、量子化行列パラメータに含まれるソースID、コピー元サイズ及びコピー元タイプにより特定される(以前に生成した)量子化行列をコピーする。」との記載及び「設定部170は、あるQMPS内の量子化行列パラメータに含まれるソースIDが当該QMPSのQMPS IDと等しい場合には、新たな量子化行列を既定の量子化行列とする。」との記載がある。
また、明細書の段落【0054】及び【0055】には、「『生成モード』は、例えば、『0:コピー』、『1:軸指定』又は『2:全スキャン』のいずれかの値をとり得る区分である。」との記載及び「コピーモード(即ち、pred_mode=0)の場合には、QMPSは、量子化行列パラメータとして、「ソースID」、「コピー元サイズ」、「コピー元タイプ」、「残差フラグ」及び「残差データ」を含み得る。「ソースID」は、コピー元の量子化行列が定義されたQMPSを指定するQMPS IDである。」との記載がある。
そこで、明細書の段落【0054】及び【0055】並びに【図3】に、値が0の場合に「コピーモード」であることを示すものとして記載されたシンタックス要素である「生成モード」並びに明細書の段落【0099】に、当該QMPSのQMPS IDと等しい場合に既定の量子化行列を生成することを示すものとして記載されたシンタックス要素である「ソースID」について以下に検討する。
明細書の段落【0092】?【0101】並びに【図9】及び【図10】には、ステップS220におけるコピーモードでの処理の流れが記載されている。
当該記載によれば、パラメータ取得部160は、まず、QMPSからQMPS IDを取得する(ステップS200)。ステップS206では、設定部170は、生成モード存在フラグの値に応じて、QMPS内に生成モード(の区分)が存在するか否かを判定する(ステップS206)。生成モードが存在する場合には、パラメータ取得部160は、QMPSから生成モードを取得する(ステップS210)。そして、設定部170は、生成モードに応じて異なる処理を行う(ステップS212、S214)。設定部170は、コピーモードが指示されている場合には、コピーモードでの処理を行う(ステップS220)。
そして、現在のQMPSのQMPS IDとソースIDとが等しい場合には、設定部170は、新たな量子化行列を既定の量子化行列として生成する(ステップS223)ものの、残差データが存在する場合には、設定部170は、ステップS223又はステップS225?S227において生成された新たな量子化行列に残差を加算する(ステップS230)。
また、現在のQMPSのQMPS IDとソースIDとが等しくない場合には、処理はステップS224へ進み、設定部170は、ソースID、コピー元サイズ及びコピー元タイプにより特定される量子化行列をコピーする(ステップS225)。そして、コピー元サイズと生成対象の量子化行列のサイズとが等しくない場合には、設定部170は、サイズの相違に応じて、コピーした量子化行列の要素を補間し又は間引くことにより、新たな量子化行列を生成する(ステップS227)とともに、残差データが存在する場合には、設定部170は、ステップS223又はステップS225?S227において生成された新たな量子化行列に残差を加算する(ステップS230)。
以上の処理の流れを総合すると、「生成モード」によって「コピーモード」が指定されたとしても、現在のQMPSのQMPS IDとソースIDとが等しくなく、かつ、コピー元サイズと生成対象の量子化行列のサイズとが等しくない場合や、残差データが存在する場合には、生成される量子化行列は、補間、間引き又は残差データの加算が行われることによって、コピー元の量子化行列又は既定の量子化行列と同一とはならず、他の場合には同一となる。さらに、「ソースID」が現在のQMPSのQMPS IDと等しかったとしても、残差データが存在する場合には、生成される量子化行列は、残差データの加算が行われることによって、既定の量子化行列と同一とはならず、他の場合には同一となる。
したがって、「生成モード」及び「ソースID」のいずれも、それらが特定の値となったとしても量子化行列に関する値同士が同一となる場合と同一とならない場合が存在する。
よって、「生成モード」及び「ソースID」のいずれも、量子化行列に関する値同士が同一であるか否かを示すものとはいえない。

(4)発明の詳細な説明の他の記載について
本願の発明の詳細な説明の他の記載を参照しても、構成B1の「スケーリングリストからの値のセットが参照スケーリングリストからの値のセットと同一であるか否かを示すシンタックス要素」に相当する構成を見いだすことはできない。

(5)小括
以上から、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

2 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年6月23日付け意見書の2.(1)及び(2)において、「『スケーリングリスト』は、図9および図10に対応する明細書中の説明にある、生成対象の量子化行列に対応します。」及び「これに関して、『参照スケーリングリスト』は、図10に対応する明細書中の説明にある、コピー元の量子化行列に対応します。」と主張するとともに、同2.(3)において、「審判官殿は、拒絶理由通知書において、当該シンタックス要素は発明の詳細な説明のいずれのシンタックス要素に対応したものか不明である、と判断されています。これに関して、当該シンタックス要素は、段落[0095]の『パラメータ取得部160は、QMPSから生成モードを取得する(ステップS210)』(下線部は強調)との記載、および段落[0096]の『例えば、設定部170は、コピーモードが指示されている場合には、図10に例示するコピーモードでの処理を行う(ステップS220)』(下線部は強調)との記載における、例えば、QMPSまたはQMPSから取得された生成モードに対応します。」と主張している。

しかしながら、上記1(3)において検討したとおり、「生成モード」を「スケーリングリストからの値のセットが参照スケーリングリストからの値のセットと同一であるか否かを示すシンタックス要素」ということはできない。
また、QMPSそのものは、【図3】にも示されるとおり、多様なパラメータを包含するパラメータセットであって、そもそも「シンタックス要素」ということはできない。

したがって、審判請求人の主張は、採用することができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について言及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-09-30 
結審通知日 2020-10-06 
審決日 2020-10-20 
出願番号 特願2017-175724(P2017-175724)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牛丸 太希  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 川崎 優
間宮 嘉誉
発明の名称 装置、方法、コンピュータ読取可能な媒体  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  

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