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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1372295
審判番号 不服2019-16892  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-13 
確定日 2021-04-06 
事件の表示 特願2015- 26333「積層コンデンサ及び積層コンデンサの実装構造」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月18日出願公開、特開2016-149487、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年2月13日の出願であって、平成30年9月7日付け拒絶理由通知に対して同年10月22日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成31年3月15日付け拒絶理由通知に対して同年4月19日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、令和1年9月19日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年12月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和1年9月19日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1ないし7、9について 引用文献1ないし6、9
・請求項8について 引用文献1ないし9

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2008/155967号
2.特開2014-36214号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2005-26403号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2005-123407号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2015-23269号公報
6.特開2010-183025号公報(周知技術を示す文献)
7.特開2012-28503号公報(周知技術を示す文献)
8.特開2014-130987号公報(周知技術を示す文献)
9.特開2014-170874号公報(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、請求項1ないし9に記載された発明を特定するために必要な事項であるビアホール内の「ビア導体」について、「無電解めっきにより形成されるビア導体」との限定を付加するものであり、補正前の請求項1ないし9に記載された発明と補正後の請求項1ないし9に記載された発明は産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、「ビア導体」について、「無電解めっきにより形成される」という事項は、当初明細書の【0077】に記載されており、当該補正は当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。さらに、当該補正は特許法第17条の2第4項の規定に違反するところもない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1ないし9に係る発明は、独立して特許を受けることができるものであるから、特許法第17条の2第6項で準用する同法126条第7項の規定にも適合する。
したがって、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの規定に違反するところはない。

第4 本願発明
本願請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、令和1年12月13日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
基板に内蔵される積層コンデンサであって、
直方体形状を呈しており、第一方向で互いに対向している一対の主面と、前記一対の主面を連結するように前記第一方向に延びていると共に前記第一方向と直交する第二方向で互いに対向している一対の第一側面と、前記一対の主面を連結するように前記第一方向に延びていると共に前記第一及び第二方向に直交する第三方向で互いに対向している一対の第二側面と、を有している素体と、
前記第一方向で互いに対向するように前記素体内に交互に配置された、それぞれ複数の第一及び第二内部電極と、
前記素体に配置され、前記複数の第一内部電極と接続される第一端子電極と、
前記素体に配置され、前記複数の第二内部電極と接続される第二端子電極と、を備え、
前記素体は、前記複数の第一内部電極と前記複数の第二内部電極とが位置している内層部と、前記内層部を前記第一方向で挟むように位置している一対の外層部と、を有し、
前記素体の前記第一方向の長さは、前記素体の前記第二方向の長さ及び前記素体の前記第三方向の長さよりも小さく、
前記第一端子電極は、
前記主面に配置されており、前記基板にレーザー加工により形成されるビアホール内に無電解めっきにより形成されるビア導体が接続される第一電極部分と、
一方の前記第一側面に配置されていると共に前記複数の第一内部電極に接続されている第二電極部分と、を有し、
前記第二端子電極は、
前記主面に配置されていると共に該主面上において前記第一電極部分と前記第二方向で離間しており、前記基板にレーザー加工により形成されるビアホール内に無電解めっきにより形成されるビア導体が接続される第三電極部分と、
他方の前記第一側面に配置されていると共に前記複数の第二内部電極に接続されている第四電極部分と、を有し、
前記第一電極部分の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第二電極部分の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、
前記第三電極部分の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第四電極部分の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、
前記第一電極部分は、前記第二電極部分に比べて、平坦度が高く、前記第三電極部分は、前記第四電極部分に比べて、平坦度が高いことで、前記基板に形成される配線と前記第一端子電極及び前記第二端子電極との接続信頼性が向上し、
前記第一電極部分の最大厚み及び前記第三電極部分の最大厚みは、各前記外層部の厚みよりも大きいことで、レーザーの照射によるダメージの影響を低く抑え、
前記第一端子電極と前記第二端子電極とは、前記素体に形成されていると共にCu又はNiを含んでいる焼付導体層と、前記焼付導体層に形成されていると共にNi又はSnを含んでいる第一めっき層と、前記第一めっき層に形成されていると共にCu又はAuを含んでいる第二めっき層と、をそれぞれ有しており、
前記第一電極部分と前記第三電極部分とにおいて、前記焼付導体層の最大厚みは、前記第一めっき層の厚みより大きく、かつ、前記第二めっき層の厚み以下である、積層コンデンサ。
【請求項2】
基板に内蔵される積層コンデンサであって、
直方体形状を呈しており、第一方向で互いに対向している一対の主面と、前記一対の主面を連結するように前記第一方向に延びていると共に前記第一方向と直交する第二方向で互いに対向している一対の第一側面と、前記一対の主面を連結するように前記第一方向に延びていると共に前記第一及び第二方向に直交する第三方向で互いに対向している一対の第二側面と、を有している素体と、
前記第一方向で互いに対向するように前記素体内に交互に配置された、それぞれ複数の第一及び第二内部電極と、
前記素体に配置され、前記複数の第一内部電極と接続される第一端子電極と、
前記素体に配置され、前記複数の第二内部電極と接続される第二端子電極と、を備え、
前記素体は、前記複数の第一内部電極と前記複数の第二内部電極とが位置している内層部と、前記内層部を前記第一方向で挟むように位置している一対の外層部と、を有し、
前記素体の前記第一方向の長さは、前記素体の前記第二方向の長さ及び前記素体の前記第三方向の長さよりも小さく、
前記第一端子電極は、
前記主面に配置されており、前記基板にレーザー加工により形成されるビアホール内に無電解めっきにより形成されるビア導体が接続される第一電極部分と、
一方の前記第一側面に配置されていると共に前記複数の第一内部電極に接続されている第二電極部分と、を有し、
前記第二端子電極は、
前記主面に配置されていると共に該主面上において前記第一電極部分と前記第二方向で離間しており、前記基板にレーザー加工により形成されるビアホール内に無電解めっきにより形成されるビア導体が接続される第三電極部分と、
他方の前記第一側面に配置されていると共に前記複数の第二内部電極に接続されている第四電極部分と、を有し、
前記第一電極部分の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第二電極部分の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、
前記第三電極部分の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第四電極部分の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、
前記第一電極部分は、前記第二電極部分に比べて、平坦度が高く、前記第三電極部分は、前記第四電極部分に比べて、平坦度が高いことで、前記基板に形成される配線と前記第一端子電極及び前記第二端子電極との接続信頼性が向上し、
前記第一電極部分の最大厚み及び前記第三電極部分の最大厚みは、各前記外層部の厚みよりも大きいことで、レーザーの照射によるダメージの影響を低く抑え、
前記第一端子電極と前記第二端子電極とは、前記素体に形成されていると共にCu又はNiを含んでいる焼付導体層と、前記焼付導体層に形成されていると共にNi又はSnを含んでいる第一めっき層と、前記第一めっき層に形成されていると共にCu又はAuを含んでいる第二めっき層と、をそれぞれ有しており、
各前記外層部の厚みは、前記第二めっき層の厚みよりも小さい、積層コンデンサ。
【請求項3】
前記第一電極部分が有する前記焼付導体層の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第二電極部分が有する前記焼付導体層の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、
前記第三電極部分が有する前記焼付導体層の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第四電極部分が有する前記焼付導体層の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、
前記第一電極部分が有する前記焼付導体層は、前記第二電極部分が有する前記焼付導体層に比べて、平坦度が高く、前記第三電極部分が有する前記焼付導体層は、前記第四電極部分が有する前記焼付導体層に比べて、平坦度が高いことで、前記基板に形成される配線と前記第一端子電極及び前記第二端子電極との接続信頼性が向上する、請求項1又は2に記載の積層コンデンサ。
【請求項4】
前記素体の前記第一方向の長さは、前記第一電極部分の前記第二方向の長さ及び前記第三電極部分の前記第二方向の長さよりも小さい、請求項1?3のいずれか一項に記載の積層コンデンサ。
【請求項5】
前記素体の前記第一方向の長さは、前記第二方向での前記第一電極部分と前記第三電極部分との間隔よりも小さい、請求項1?4のいずれか一項に記載の積層コンデンサ。
【請求項6】
前記第二方向での前記第一電極部分と前記第三電極部分との間隔は、前記第一電極部分の前記第二方向の長さ以下であり、かつ、前記第三電極部分の前記第二方向の長さ以下である、請求項1?5のいずれか一項に記載の積層コンデンサ。
【請求項7】
各前記外層部の厚みは、前記第二めっき層の厚みよりも小さい、請求項1に記載の積層コンデンサ。
【請求項8】
前記第二めっき層は、Cuめっき層であって、
前記Cuめっき層の表面には、Cuからなる突起が形成されている、請求項1?7のいずれか一項に記載の積層コンデンサ。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか一項に記載の積層コンデンサが基板に内蔵されている積層コンデンサの実装構造であって、
前記第一電極部分と前記第三電極部分とに、無電解めっきにより形成されるビア導体がそれぞれ接続されている、積層コンデンサの実装構造。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、「部品内蔵基板」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

ア.「[0001] この発明は、絶縁層にチップ部品を内蔵した部品内蔵基板及びその製造方法に関し、詳しくは、チップ部品の外部電極と電極層との接続の改良に関する。
[0002] 一般に、チップ部品は、内部電極と、内部電極を有する絶縁体と、絶縁体の両端に形成された外部電極を備える。内部電極と外部電極とは、電気的に接続されている。」

イ.「[0044] [部品内蔵基板1Aの構成]
図1に示す本実施形態の部品内蔵基板1Aは、樹脂からなる絶縁層2に1個又は複数個のチップ部品3を埋設し、各チップ部品3の左、右の両端面に形成された外部電極4a、4bを、ビア導体5(又はスルーホール導体)を通して絶縁層2上の電極層6に電気的に接続した構成である。」

ウ.「[0048] つぎに、チップ部品3の構成を、図2を参照して説明すると、チップ部品3は、例えば積層セラミックコンデンサの場合、セラミックからなる絶縁体9内に、左、右端から中央に突出して重合した対の平板状内部電極10a、10bが形成されている。また、絶縁体9の外側において、左、右の端面に、銀等の金属ペーストで形成された外部電極4a、4bが取り付けられている。そして、各平板状内部電極10aは外部電極4aに接続され、各平板状内部電極10bは外部電極4bに接続されている。
[0049] 外部電極4a、4bは、詳しくは、絶縁体9の端面を覆う端面部分41と、該端面部分41から絶縁体9の上、下及び左、右の側面に延出した縁状の延長部分42とからなり、上面側の延長部分42は、少なくともビア導体5の形成位置42aが平坦化されている。
[0050] その結果、ビア導体5の形成位置42aを底面とする絶縁層2の左、右のビア導体5は円柱状に形成され、図10の従来のビア導体104のように円錐台形状に広がらない。
[0051] したがって、絶縁層2に埋設されたチップ部品3の外部電極4a、4bを、従来の半田付けではなく、絶縁層2内に形成したビア導体5を通して絶縁層2上の電極層6に直接接続する構成であって、ビア導体5が絶縁層2の表面側で広がらず、ビア導体5のストレート性を高くした部品内蔵基板1Aを提供することができる。
[0052] この場合、ビア導体5のストレート性が高いため、ビア導体5の間隔等で定まる電極層6の狭ピッチ化を図り、部品内蔵基板1Aを極めて小型化することができる。
[0053] また、ビア導体5の形成位置の部分42aが平坦化されているため、外部電極4a、4bと樹脂層2との界面に、上記の湾曲に起因した隙間が生じることがなく、この隙間にビア導体5の導電性ペーストやめっき液が浸透することもない。
[0054] ところで、シミュレーションや実験等により、外部電極4a,4bの平坦化した面の十点表面粗さの指標Rzが、0<Rz<5μmであることが好ましいことが判明した。なお、平坦化する面積はビア導体5の径等に依存し、例えばチップ部品3が「0603サイズ」と呼ばれる0.6×0.3×0.3mmの積層セラミックコンデンサの場合には、ビア導体5の径が100μm程度になり、ビア導体5の位置ずれも考慮すると、平坦化する面積は100±20μm程度であることが好ましい。
[0055] そして、ビア導体5の形成位置42aの平坦化は、種々の研磨によって実現することができるが、簡単には、周知の平面研磨によって実現することが容易で好ましい。」

エ.「[0063] つぎに、図6の工程Dにより、つぎに説明する周知の穴加工を施して、絶縁層2内に、外部電極4a、4bの前記形成位置42a(延長部分42のうち平坦化された部分)に電気的に接続された上下方向のビア導体5を形成する。
[0064] まず、図6(a)の矢印線に示すレーザを、絶縁層2の上方からチップ部品3の外部電極4a、4bのビア導体5の前記形成位置42aに照射し、上下方向の穴51を形成する。このとき、外部電極4a、4bの前記形成位置42aが平坦化されているので、従来の湾曲に起因したレーザの乱反射がなく、円柱状の穴51を形成することができる。なお、前記レーザは、具体的には、炭酸ガス(CO2)レーザである。
[0065] さらに、図6(b)に示すように、前記円柱状の穴51にめっきや導電性ペーストを充填して前記形成位置42aに電気的に接続した上下方向のビア導体5を形成する。なお、ビア導体5に替えて、穴51の内壁にめっき膜を形成してスルーホール導体を形成することも可能である。」

オ.「
[図1]




上記アないしオの記載から、引用文献1には以下の事項が記載されている。
・上記[0001]、[0044]及び[0048]によれば、積層セラミックコンデンサは、部品内蔵基板1Aにおいて、樹脂からなる絶縁層2に内蔵されて使用されるものである。
・上記[0002]、[0048]及び[0054]によれば、積層セラミックコンデンサは内部電極10a、10b、絶縁体9及び外部電極4a、4bを備えた、0603サイズと呼ばれる0.6×0.3×0.3mmのチップ部品3として構成されている。
・上記[0048]によれば、積層セラミックコンデンサは、セラミックからなる絶縁体9の外側において、左、右の端面に、銀等の金属ペーストで形成された外部電極4a、4bが取り付けられており、絶縁体9内に、左、右端から中央に突出して重合した対の平板状内部電極10a、10bが形成されており、各平板状内部電極10aは外部電極4aに接続され、各平板状内部電極10bは外部電極4bに接続されている。
・上記[0049]及び[0055]によれば、外部電極4a、4bは、絶縁体9の端面を覆う端面部分41と、該端面部分41から絶縁体9の上、下及び左、右の側面に延出した縁状の延長部分42とからなり、上面側の延長部分42は、少なくともビア導体5の形成位置42aが平面研磨によって平坦化されている。
・上記[0051]及び[0052]によれば、外部電極4a、4bは、絶縁層2内に形成したストレート性の高いビア導体5を通して絶縁層2上の電極層6に直接接続されている。
・上記[0063]ないし[0065]によれば、ビア導体5は、周知の穴加工を施して形成されており、レーザを、絶縁層2の上方からチップ部品3の外部電極4a、4bのビア導体5の形成位置42a(延長部分42のうち平坦化された部分)に照射し、上下方向の穴を形成し、めっきや導電性ペーストを充填して形成されたものである。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「部品内蔵基板1Aにおいて、樹脂からなる絶縁層2に内蔵される積層セラミックコンデンサであって、
内部電極10a、10b、絶縁体9及び外部電極4a、4bを備えた、0603サイズと呼ばれる0.6×0.3×0.3mmのチップ部品3として構成されており、
セラミックからなる絶縁体9の外側において、左、右の端面に、銀等の金属ペーストで形成された外部電極4a、4bが取り付けられており、
絶縁体9内に、左、右端から中央に突出して重合した対の平板状内部電極10a、10bが形成されており、各平板状内部電極10aは外部電極4aに接続され、各平板状内部電極10bは外部電極4bに接続されており、
外部電極4a、4bは、絶縁体9の端面を覆う端面部分41と、該端面部分41から絶縁体9の上、下及び左、右の側面に延出した縁状の延長部分42とからなり、上面側の延長部分42は、少なくともビア導体5の形成位置42aが平面研磨によって平坦化されており、
外部電極4a、4bは、絶縁層2内に形成したストレート性の高いビア導体5を通して絶縁層2上の電極層6に直接接続されており、
ビア導体5は、周知の穴加工を施して形成されており、レーザを、絶縁層2の上方からチップ部品3の外部電極4a、4bのビア導体5の形成位置42a(延長部分42のうち平坦化された部分)に照射し、上下方向の穴を形成し、めっきや導電性ペーストを充填して形成されたものである、
積層セラミックコンデンサ。」

2.引用文献5について
同じく原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には、「基板内蔵用積層セラミックキャパシタ」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

ア.「【0001】
本発明は基板内蔵用積層セラミックキャパシタ、その製造方法及び埋め込み基板の製造方法に関する。」

イ.「【0009】
上記基板内蔵用積層セラミックキャパシタは基板に埋め込んだ後、レーザーを利用し、樹脂を貫通して積層セラミックキャパシタの外部電極が露出するようにビアホールを形成し、上記ビアホールを銅めっきにより充填して外部の配線と積層セラミックキャパシタの外部電極が互いに電気的に連結されるようにする。
【0010】
このとき、レーザーが積層セラミックキャパシタのめっき層を貫通する間、外部電極のガラス成分により、レーザーが吸収されてセラミック本体に直接害を与える恐れがあるため、めっき層は厚くなければならず、外部電極の厚さは均一で、表面が平坦な必要がある。
【0011】
外部電極の厚さが均一でなく、表面が平坦でなければ、レーザーがめっき層の表面で乱反射して周りの樹脂部分にダメージを与えるため、加工面が平坦に形成されない。それによって、めっき時、ビアホールの内部が不均一にめっきされてビア電極にクラックなどが発生する原因となる。
【0012】
一方、ビルドアップフィルムを付着し圧着した後、チップとエポキシ層の間に空間が生じると、デラミネーション(delamination)が発生し得るため、ビルドアップフィルムを付着する過程で、チップとフィルム間の空間をうまく密着させることが重要である。
【0013】
また、積層セラミックキャパシタのセラミック本体と外部電極は、外部電極の厚さ分だけ段差が発生することができる。該段差が大きすぎると、積層セラミックキャパシタとフィルム間の空間が大きくなるため、デラミネーションの発生確率がさらに増加する。
【0014】
従って、このようなデラミネーションを減少させるために、外部電極の厚さを減少させたり、めっき層の厚さを減少させるが、レーザー加工時にセラミック本体にダメージを与える恐れがあるため、厚さを減少させるには限界があった。」

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、上記引用文献5には次の技術事項が記載されている。
「基板内蔵用積層セラミックキャパシタにおいて、レーザー加工時にセラミック本体にダメージを与える恐れがあるため、外部電極の厚さを減少させたり、めっき層の厚さを減少させるには限界があること。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明との対比
ア.引用発明の「部品内蔵基板1A」及び部品内蔵基板1Aの絶縁層2に内蔵される「積層セラミックコンデンサ」は、本願発明1の「基板」及び「基板に内蔵される積層コンデンサ」にそれぞれ相当する。

イ.引用発明の「セラミックからなる絶縁体9」は、積層セラミックコンデンサをなすセラミックの素体といえ、また、0603サイズに合うように縦、横、高さ方向にそれぞれ一対の面を有する直方体形状を呈していることが明白といえ、本願発明1の「直方体形状を呈しており、第一方向で互いに対向している一対の主面と、前記一対の主面を連結するように前記第一方向に延びていると共に前記第一方向と直交する第二方向で互いに対向している一対の第一側面と、前記一対の主面を連結するように前記第一方向に延びていると共に前記第一及び第二方向に直交する第三方向で互いに対向している一対の第二側面と、を有している素体」に相当する。

ウ.引用発明の積層セラミックコンデンサの絶縁体9内に、左、右端から中央に突出して重合した対の平板状「内部電極10a、10b」は、本願発明1の「前記第一方向で互いに対向するように前記素体内に交互に配置された、それぞれ複数の第一及び第二内部電極」に相当する。

エ.引用発明の積層セラミックコンデンサの絶縁体9の外側において、左、右の端面に形成されており、各平板状内部電極10aに接続される「外部電極4a」、及び各平板状内部電極10bに接続される「外部電極4b」は、本願発明1の「前記素体に配置され、前記複数の第一内部電極と接続される第一端子電極」、及び「前記素体に配置され、前記複数の第二内部電極と接続される第二端子電極」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「絶縁体9」は、図1(上記「第5 1.オ.」)を参照すると、平板状内部電極10a、10bが配置されている部分と、その部分の外側を上下で挟む部分とを有しており、本願発明1の「前記複数の第一内部電極と前記複数の第二内部電極とが位置している内層部」及び「前記内層部を前記第一方向で挟むように位置している一対の外層部」に相当する構成を備えている。
ただし、本願発明1は「前記素体の前記第一方向の長さは、前記素体の前記第二方向の長さ及び前記素体の前記第三方向の長さよりも小さ」いのに対して、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。

オ.引用発明の外部電極4a、4bの「上面側の延長部分42」は、ビア導体5の形成位置42a(延長部分42のうち平坦化された部分)を含み、ビア導体5はレーザを照射して形成された穴にめっきや導電性ペーストを充填して形成されており、本願発明1の「前記主面に配置されており、前記基板にレーザー加工により形成されるビアホール内に」「めっきにより形成されるビア導体が接続される第一電極部分」、及び「前記主面に配置されていると共に該主面上において前記第一電極部分と前記第二方向で離間しており、前記基板にレーザー加工により形成されるビアホール内に」「めっきにより形成されるビア導体が接続される第三電極部分」にそれぞれ相当する。
ただし、ビア導体を形成するめっきに関して、本願発明1は「無電解めっき」であるのに対して、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。

カ.引用発明の外部電極4a、4bの「端面部分41」は、図1(上記「第5 1.オ.」)を参照すると、内部電極10a、10bにそれぞれ接続されており、本願発明1の「一方の前記第一側面に配置されていると共に前記複数の第一内部電極に接続されている第二電極部分」及び「他方の前記第一側面に配置されていると共に前記複数の第二内部電極に接続されている第四電極部分」にそれぞれ相当する。

キ.引用発明の外部電極4a、4bの「上面側の延長部分42」は、ビア導体5の形成位置42aが平坦化されており、「端面部分41」より平坦度が高いといえる。また、形成位置42aを平坦化することによって、ストレート性の高いビア導体5を形成し、引用文献1[0053]等に記載された、外部電極と樹脂層との界面に生じる隙間に導電性ペーストやめっき液が浸透するという課題を解決できるから、接続信頼性が向上するといえ、本願発明1の「前記第一電極部分の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第二電極部分の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、前記第三電極部分の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第四電極部分の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、前記第一電極部分は、前記第二電極部分に比べて、平坦度が高く、前記第三電極部分は、前記第四電極部分に比べて、平坦度が高いことで、前記基板に形成される配線と前記第一端子電極及び前記第二端子電極との接続信頼性が向上し」ていることに相当する。
ただし、本願発明1は「前記第一電極部分の最大厚み及び前記第三電極部分の最大厚みは、各前記外層部の厚みよりも大きいことで、レーザーの照射によるダメージの影響を低く抑え」るのに対して、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。

ク.本願発明1は「前記第一端子電極と前記第二端子電極とは、前記素体に形成されていると共にCu又はNiを含んでいる焼付導体層と、前記焼付導体層に形成されていると共にNi又はSnを含んでいる第一めっき層と、前記第一めっき層に形成されていると共にCu又はAuを含んでいる第二めっき層と、をそれぞれ有して」いるのに対して、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。

ケ.本願発明1は「前記第一電極部分と前記第三電極部分とにおいて、前記焼付導体層の最大厚みは、前記第一めっき層の厚みより大きく、かつ、前記第二めっき層の厚み以下である」のに対して、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、
「基板に内蔵される積層コンデンサであって、
直方体形状を呈しており、第一方向で互いに対向している一対の主面と、前記一対の主面を連結するように前記第一方向に延びていると共に前記第一方向と直交する第二方向で互いに対向している一対の第一側面と、前記一対の主面を連結するように前記第一方向に延びていると共に前記第一及び第二方向に直交する第三方向で互いに対向している一対の第二側面と、を有している素体と、
前記第一方向で互いに対向するように前記素体内に交互に配置された、それぞれ複数の第一及び第二内部電極と、
前記素体に配置され、前記複数の第一内部電極と接続される第一端子電極と、
前記素体に配置され、前記複数の第二内部電極と接続される第二端子電極と、を備え、
前記素体は、前記複数の第一内部電極と前記複数の第二内部電極とが位置している内層部と、前記内層部を前記第一方向で挟むように位置している一対の外層部と、を有し、
前記第一端子電極は、
前記主面に配置されており、前記基板にレーザー加工により形成されるビアホール内にめっきにより形成されるビア導体が接続される第一電極部分と、
一方の前記第一側面に配置されていると共に前記複数の第一内部電極に接続されている第二電極部分と、を有し、
前記第二端子電極は、
前記主面に配置されていると共に該主面上において前記第一電極部分と前記第二方向で離間しており、前記基板にレーザー加工により形成されるビアホール内にめっきにより形成されるビア導体が接続される第三電極部分と、
他方の前記第一側面に配置されていると共に前記複数の第二内部電極に接続されている第四電極部分と、を有し、
前記第一電極部分の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第二電極部分の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、
前記第三電極部分の最大厚みと最小厚みとの差は、前記第四電極部分の最大厚みと最小厚みとの差よりも小さく、
前記第一電極部分は、前記第二電極部分に比べて、平坦度が高く、前記第三電極部分は、前記第四電極部分に比べて、平坦度が高いことで、前記基板に形成される配線と前記第一端子電極及び前記第二端子電極との接続信頼性が向上する、積層コンデンサ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明1は「前記素体の前記第一方向の長さは、前記素体の前記第二方向の長さ及び前記素体の前記第三方向の長さよりも小さ」いのに対して、引用発明はその旨の特定がない点。

<相違点2>
ビア導体を形成するめっきに関して、本願発明1は「無電解めっき」であるのに対して、引用発明はその旨の特定がない点。

<相違点3>
本願発明1は「前記第一電極部分の最大厚み及び前記第三電極部分の最大厚みは、各前記外層部の厚みよりも大きいことで、レーザーの照射によるダメージの影響を低く抑え」るのに対して、引用発明はその旨の特定がない点。

<相違点4>
本願発明1は「前記第一端子電極と前記第二端子電極とは、前記素体に形成されていると共にCu又はNiを含んでいる焼付導体層と、前記焼付導体層に形成されていると共にNi又はSnを含んでいる第一めっき層と、前記第一めっき層に形成されていると共にCu又はAuを含んでいる第二めっき層と、をそれぞれ有して」いるのに対して、引用発明はその旨の特定がない点。

<相違点5>
本願発明1は「前記第一電極部分と前記第三電極部分とにおいて、前記焼付導体層の最大厚みは、前記第一めっき層の厚みより大きく、かつ、前記第二めっき層の厚み以下である」のに対して、引用発明はその旨の特定がない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3について先に検討する。
引用文献5には、基板内蔵用積層セラミックキャパシタにおいて、レーザー加工時にセラミック本体にダメージを与える恐れがあるため、外部電極の厚さを減少させたり、めっき層の厚さを減少させるには限界があることが記載されている(上記「第5 2」参照)。そして、引用発明においても外部電極の厚さを減少させるのに限界があることは自明な課題といえる。
しかしながら、上記引用文献5記載の技術事項を考慮してもセラミック本体の外層部の厚さに関係して外部電極の厚さを減少できる限界が定かでなく、部品内蔵基板の小型化を目的とする引用発明において、外部電極4a、4bの上面側の延長部分42を平面研磨によって平坦化した後の厚みが、絶縁体9の外層部の厚みよりも大きい構成とする動機付けがあるとはいえない。加えて、本願発明1の「第一電極部分」及び「第二電極部分」は「焼付導体層」、「第一めっき層」、「第二めっき層」を有するものである(相違点4を参照)。これに対して、引用発明の外部電極4a、4bは銀等の金属ペーストで形成されており、「焼付導体層」、「第一めっき層」、「第二めっき層」を有する構成とするには更なる材料や構造の変更が必要となる。そのような変更を行った上で、平面研磨によって平坦化した後の厚さがセラミック本体の外層部の厚さよりも大きくなるようにすることが設計的事項であるとは認められないし、当業者が容易に想到し得る事項であるともいえない。
また、拒絶査定で周知技術を示す文献としてあげた他の引用文献2ないし4、6ないし9にも、本願発明1の相違点3に係る構成は記載されておらず、相違点3に係る構成が周知であるとの証拠や当業者にとって自明であるといえる合理的な理由もない。
よって、本願発明1に記載された上記相違点3に係る構成は、引用発明、引用文献5記載の技術事項、及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

したがって、本願発明1は、相違点1、2、4、5を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明、引用文献5の記載事項、及び周知の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2ないし9について
本願発明2も、本願発明1と同じ相違点3を有するから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明、引用文献5記載の技術事項、及び周知の技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。本願発明3ないし9は、本願発明1または2を減縮した発明であり、同じく相違点3を有するから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明、引用文献5記載の技術事項、及び周知の技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-03-17 
出願番号 特願2015-26333(P2015-26333)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上谷 奈那馬場 慎  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 山田 正文
五十嵐 努
発明の名称 積層コンデンサ及び積層コンデンサの実装構造  
代理人 三上 敬史  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 黒木 義樹  

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