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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1372331
審判番号 不服2020-13678  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-30 
確定日 2021-04-13 
事件の表示 特願2018-528311「堆積チャンバでエピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造する方法,エピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造する装置,およびエピタキシャル層を有する半導体ウエハ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 8日国際公開,WO2017/093102,平成30年12月27日国内公表,特表2018-538691,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2016年11月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年12月1日,ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって,平成30年5月31日付けで手続補正がされ,平成31年3月29日付けで拒絶理由通知がされ,令和元年7月1日付けで手続補正がされ,同年12月13日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年3月6日付けで手続補正がされ,同年5月22日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年5月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1 本願請求項1に係る発明は,以下の引用文献1及び4に基づいて,また,本願請求項2に関する発明は,以下の引用文献1ないし4に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2013-016635号公報
2.特開2013-175641号公報
3.特開2014-060327号公報
4.国際公開第2015/030047号

2 請求項2に係る発明は本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから,本願は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-4に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は,令和2年9月30日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
堆積チャンバでエピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造するための方法であって,
ロードロックチャンバで,基板ウエハを前記基板ウエハの背面の縁部領域においてサセプタの配置区域上へ配置することを備え,前記サセプタはリングとして具現され,
前記サセプタと接触させ,前記サセプタおよび前記サセプタ上に位置する前記基板ウエハを前記ロードロックチャンバから前記堆積チャンバへ搬送することによって,前記サセプタおよび前記サセブタ上に位置する前記基板ウエハを前記堆積チャンバへ入れることと,
前記基板ウエハ上にエピタキシャル層を堆積してエピタキシャル層を有する前記半導体ウエハを製造し,その間に前記ロードロックチャンバに被覆されるべきさらなる基板を搬入することと,
前記サセプタと接触させ,前記サセプタおよび前記サセプタ上に位置するエピタキシャル層を有する半導体ウエハを前記堆積チャンバから前記ロードロックチャンバまで搬送することによって,前記堆積チャンバから取り出すこととを備え,前記方法はさらに,
前記ロードロックチャンバで前記サセプタと前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハとを分離することを含み,前記リング上にさらなる基板ウエハを載置することによって新たな堆積サイクルが開始される,方法。
【請求項2】
前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハの温度が650℃以上になる時点で前記堆積チャンバから取り出すことを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造するための装置であって,
単一ウェハ気相堆積チャンバと,
ロードロックチャンバと,
基板ウエハを前記基板ウエハの背面の縁部領域において配置するための配置区域を有し,リングとして具現されるサセプタと,
下方から前記サセプタと接触することで,前記サセプタおよび前記基板ウエハ,または前記サセプタ上に位置するエピタキシャル層を有する前記半導体ウエハを昇降させる,前記ロードロックチャンバのリフト要素と,
前記基板ウエハを載置するための上部保持クランプと,
前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハを載置するための下部保持クランプと,
前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハを前記サセプタから分離するためのリフトピンと,
前記サセプタおよび前記サセプタ上に位置する前記基板ウエハを前記ロードロックチャンバから前記堆積チャンバへ搬送するために,および,前記サセプタおよび前記サセプタ上に位置する前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハを,前記堆積チャンバから前記ロードロックチャンバまで搬送するために,サセプタと接触する,搬送工具とを備える,装置。
【請求項4】
前記サセプタは,内側端縁に前記配置区域を備える,請求項3に記載の装置。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項 1】
基板が載置された載置体と,
前記載置体が複数支持された載置体支持具と,
前記載置体支持具が収容される反応管と,
前記反応管の外側に設けられ,前記反応管内に収容された基板を加熱する加熱部とを備え,
前記載置体の,前記基板と接触する面と前記載置体支持具と接触する面が,同じ粗さに表面加工されたことを特徴とする基板処理装置。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体素子を含む集積回路が作り込まれる半導体ウェハ(以下,ウェハという。)等の基板を処理する基板処理装置や半導体装置の製造方法に関し,特に,鉛直方向に積層するように配置した複数の基板を熱処理する縦型装置において,サセプタ(載置体)上へ基板を載置し,該基板を載置したサセプタを,サセプタ支持具としてのボート(載置体支持具)へ搭載し,サセプタ上の基板を熱処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より縦型装置において,1000℃?1500℃で複数のウェハを熱処理する際に,各ウェハをそれぞれリング状のサセプタ上に載置し,該ウェハを載置したサセプタをボートへ複数搭載した状態で熱処理することが行われている。このサセプタは,シリコン(Si)又は炭化珪素(SiC)で製作され,ボートへできるだけ多くのサセプタを搭載できるよう,厚さの制約がある。サセプタを用いる理由は,ウェハを直接ボートへ搭載して熱処理すると,ボートと接触するウェハ下面に接触傷やスリップと呼ばれる微細な亀裂(結晶欠陥)が生じやすくなるので,これを抑制するためである。
【0003】
ウェハ下面と接触するサセプタ上面には,ウェハ下面に接触傷やスリップが発生するのを抑制するため,適切な表面粗さとなるよう粗面加工を施しているが,ボートと接触するサセプタ下面は,厚さ等の外形寸法の精度は重要視されるものの,スリップ等の問題がないので,機械加工により平坦化したままであり粗面加工を施していない。
【0004】
下記の特許文献1には,サセプタへのウェハ基板の吸着を防止するために,サセプタ上面に凹部及び凸部を連続して形成する技術が開示されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-340896号公報

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように,従来はサセプタ上面と下面の表面粗さが異なっていたが,このようにサセプタ上面と下面の表面粗さが異なっている状態で高温処理を行うと,サセプタが変形する場合があることが分かってきた。サセプタが変形すると,ボート上のサセプタが不安定なバタツキ状態となり,異物が発生し易くなる。また,ウェハの支持が不安定となり,スリップ発生の原因となる。
本発明の目的は,高温処理においても,サセプタ変形を抑制することができる基板処理技術を提供することにある。 」

「【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば,高温処理においてもサセプタ変形を抑制することができ,異物発生やスリップ発生を抑制することができる。 」

「【0013】
ヒータ206の内側には,ヒータ206と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は,石英(SiO_(2))または炭化シリコン(SiC)等の耐熱材料からなり,上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の内側の筒中空部には,処理室201が形成されており,基板としてのウェハ200を後述するボート217によって水平姿勢で垂直方向に多段に整列した状態で収容可能に構成されている。なお,ウェハ200は,後述するサセプタ(載置体)2に載置され,ウェハ200を載置したサセプタ2が複数,垂直方向に多段にボート217に支持される。詳しくは後述する。」

「【0020】
本実施形態におけるサセプタ2とボート217の構造について説明する。 サセプタ(載置体)支持具としてのボート217は,例えば石英や炭化珪素等の耐熱性材料からなり,ウェハ200を載置したサセプタ2を複数,水平姿勢でかつ互いに中心を揃えた状態で整列させて多段に保持するように構成されている。サセプタ2は,例えば石英や炭化珪素等の耐熱性材料で形成されている。 図2は,本実施形態におけるサセプタ2がボート217に支持されている状態を示す側面図であり,ボート217の一部を示す図である。図3は,本実施形態におけるサセプタ2の平面図である。図3に示すように,本実施形態におけるサセプタ2は,上面視(上側から見た形状)がC字のリング状(C字状)をしており,2つのウェハ支持部2bを,繋ぎ部2aで接続する構造である。ウェハ支持部2bは,その上面及び下面が同じ表面粗さに加工された平面をなし,その上面によりウェハ200を面支持する。繋ぎ部2aは,2つのウェハ支持部2bを繋ぎ固定する。
【0021】
なお,サセプタ2をC字のリング状に形成するのは,ウェハ200を搬送するウェハ搬送機が,ウェハ200をサセプタ2上に載置し易くするためである。ウェハ200を載せた搬送機のフィンガーが,サセプタ2上に水平移動した後,C字の空隙部を通って下降することにより,ウェハ200をサセプタ2上に載置できる。ウェハ200をサセプタ2上から取り出すときは,ウェハ搬送機は逆の手順で動作する。 」

「【0037】
次に,上記構成に係る処理炉202を用いて,半導体デバイスの製造工程の一工程として,ウェハ200などの基板上に,Epi-SiGe膜を形成する方法について説明する。尚,以下の説明において,基板処理装置を構成する各部の動作は,コントローラ240により制御される。
【0038】
ロードロック室140内において,ボート217に複数のサセプタ2が装填された状態で,複数枚のウェハ200がそれぞれボート217上のサセプタ2に載置された後,図1に示されるように,複数枚のウェハ200をサセプタ2に載置したボート217は,昇降モータ248による昇降台249及び昇降シャフト250の昇降動作により処理室201内に搬入(ボートローディング)される。この状態で,シールキャップ219はOリングを介してマニホールド209の下端をシールした状態となる。」

「【0040】
第1のガス供給源180,第2のガス供給源181,第3のガス供給源182には,処理ガスとして,それぞれSiH_(4)又はSi_(2)H_(6),GeH_(4),H_(2)が封入されており,次いで,これら処理ガス供給源からそれぞれの処理ガスが供給される。所望の流量となるようにMFC183,184,185の開度が調節された後,バルブ176,177,178が開かれ,それぞれの処理ガスがガス供給管232を流通して,処理室201の上部から処理室201内に導入される。導入されたガスは,処理室201内を通り,ガス排気管231から排気される。処理ガスは,処理室201内を通過する際にウェハ200と接触し,ウェハ200の上面上にEpi-SiGe膜が堆積(デポジション)される。」

「【0042】
その後,昇降モータ248によりシールキャップ219が下降されて,炉口161が開口されると共に,処理済ウェハ200がボート217上のサセプタ2に載置された状態で,炉口161から反応管203の外部,つまりロードロック室140内に搬出(ボートアンローディング)される。その後,処理済のウェハ200は,ボート217上のサセプタ2より取出される(ウェハディスチャージ)。 」

「【0045】
以上,本発明を実施形態に基づき説明したが,本発明はこれに限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々に変更が可能であることはいうまでもない。
上記実施形態では,リング状のサセプタについて説明したが,リング状に限られず他の形状のサセプタであっても,本発明を適用することができる。 また,上記実施形態では,ウェハをボート上のサセプタに載置したが,ウェハを載置したサセプタをボートに搭載するようにしてもよい。
また,上記実施形態では,ウェハをボート上のサセプタに載置,取り出しする場所を真空置換可能なロードロック室としたが,基板への自然酸化膜の付着等がさほど問題とならない処理を行う場合には,真空置換可能なロードロック室に代えて,窒素ガス雰囲気やクリーンエア雰囲気を用い真空置換しないで行うように構成してもよい。
また,上記実施形態では,エピタキシャル成長装置を例示して説明したが,CVD,ALD,酸化,拡散,アニール装置等その他の基板処理装置においても適用可能である。 」









上記摘記を参酌すれば,上記図1ないし3から,引用文献1の実施形態において,ウェハ200の背面の縁部領域が,サセプタ2の配置区域上へ配置されていることを見てとることができる。

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「処理炉202を用いて,半導体デバイスの製造工程の一工程として,ウェハ200などの基板上に,Epi-SiGe膜を形成する方法であって,
ロードロック室140内において,ボート217に複数のサセプタ2が装填された状態で,複数枚のウェハ200をそれぞれウェハ200の背面の縁部領域においてサセプタ2の配置区域上へ配置する工程と,
複数枚のウェハ200がサセプタ2に載置されたボート217を,昇降モータ248による昇降台249及び昇降シャフト250の昇降動作により,反応管203の内側の筒中空部に形成された処理室201内に搬入(ボートローディング)する工程と,
ウェハ200の上面上にEpi-SiGe膜を堆積(デポジション)する工程と,
昇降モータ248によりシールキャップ219を下降し,炉口161を開口すると共に,処理済ウェハ200をボート217上のサセプタ2に載置した状態で,炉口161から反応管203の外部,つまりロードロック室140内に搬出(ボートアンローディング)する工程とを含み,
前記サセプタ2は,上面視(上側から見た形状)がC字のリング状(C字状)をしており,2つのウェハ支持部2bを,繋ぎ部2aで接続する構造であり,ウェハ支持部2bは,その上面及び下面が同じ表面粗さに加工された平面をなし,その上面によりウェハ200を面支持し,繋ぎ部2aは,2つのウェハ支持部2bを繋ぎ固定するものであって,
サセプタ2をC字のリング状に形成するのは,ウェハ200を搬送するウェハ搬送機が,ウェハ200をサセプタ2上に載置し易くするためであり,ウェハ200を載せた搬送機のフィンガーが,サセプタ2上に水平移動した後,C字の空隙部を通って下降することにより,ウェハ200をサセプタ2上に載置し,ウェハ200をサセプタ2上から取り出すときは,ウェハ搬送機は逆の手順で動作するものである方法。」

2 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「[0067] また,ボートAのローディング後,処理室内でのボートA上のウエハ200の成膜処理と並行して,第2ジョブ情報で指定されたボート退避位置Cの空のボートBが,ボート交換装置150により,ウエハ移載位置Aに搬送される。そして,ウエハ移載位置Aにおいて,第2ジョブ情報で指定されたポッドP2内のウエハ200が,ウエハ移載機構125により,ボートBに移載される。そして,ボートAが処理炉202内から引き出され,ボート退避位置Cに搬送された後,ボートBは,ボート交換装置150により,ウエハ移載位置Aからボート下降位置Bに搬送され,シールキャップ219上に載置される。続いて,シールキャップ219がボートエレベータ115によって上昇されて,ボートBが処理炉202内の処理室へ搬入され,第2ジョブ情報で指定されたレシピBで成膜処理される。」

「[0070] ポッドP1が載置台122から搬出された後,ポッドオープナ121には,ボートBの成膜処理中に,回転棚105ないしロードポート114から,第3ジョブ情報で指定された次のポッドP3がポッド搬送装置118によって搬送される。並行して,第3ジョブ情報の使用ボートとして,ウエハ移載位置A上の空ボートAが設定される。このように,次のジョブ情報で指定されたポッド110が,ポッドオープナ載置台122上に載置されると,そのときウエハ移載位置A上にある空ボート217が,次のジョブ情報で使用されるボートとして,制御部10により設定される。そして,ポッドオープナ121により,ポッドP3の開放作業が行われる。ポッドP3の開放後,ウエハ移載位置A上のボートAに,ポッドP3内の未処理ウエハ200が,ウエハ移載機構125により移載される。
[0071] そして,ボートBが成膜処理終了後に処理炉202内から引き出され,ボート退避位置Cに搬送された後,ボートAは,ボート交換装置150により,ウエハ移載位置Aからボート下降位置Bに搬送され,シールキャップ219上に載置される。続いて,シールキャップ219がボートエレベータ115によって上昇されて,ボートAが処理炉202内の処理室へ搬入され,第3ジョブ情報で指定されたレシピCで成膜処理される。」

3 その他の引用文献について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の段落【0006】-段落【0085】,引用文献3の段落【0070】の記載からみて,当該引用文献2,3には,650℃以上の温度で基板をチャンバから取り出すという技術的事項が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
a 引用発明の「『ウェハ200などの基板上に,Epi-SiGe膜を形成する方法』で用いられる『処理炉202』が備える『処理室201』を形成する『反応管203』」と,本願発明1の「堆積チャンバ」とは,「堆積処理用容器」である点で一致する。

b 引用発明の「Epi-SiGe膜」,「ウェハ200」,及び,「ロードロック室140」は,それぞれ,本願発明1の「エピタキシャル層」,「基板ウエハ」,及び,「ロードロックチャンバ」に相当する。

c 引用発明のすべての工程が終了した後に,新たなウェハについて,引用発明の方法が使用されることは明らかであるから,引用発明と本願発明1は,いずれも,「前記サセプタ上にさらなる基板ウエハを載置することによって新たな堆積サイクルが開始される」ものである点で一致する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「堆積処理用容器でエピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造するための方法であって,
ロードロックチャンバで,基板ウエハを前記基板ウエハの背面の縁部領域においてサセプタの配置区域上へ配置することを備え,
前記サセプタと接触させ,前記サセプタおよび前記サセプタ上に位置する前記基板ウエハを前記ロードロックチャンバから前記堆積処理用容器へ搬送することによって,前記サセプタおよび前記サセブタ上に位置する前記基板ウエハを前記堆積処理用容器へ入れることと,
前記基板ウエハ上にエピタキシャル層を堆積してエピタキシャル層を有する前記半導体ウエハを製造することと,
前記サセプタと接触させ,前記サセプタおよび前記サセプタ上に位置するエピタキシャル層を有する半導体ウエハを前記堆積処理用容器から前記ロードロックチャンバまで搬送することによって,前記堆積処理用容器から取り出すこととを備え,前記方法はさらに,
前記ロードロックチャンバで前記サセプタと前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハとを分離することを含み,前記サセプタ上にさらなる基板ウエハを載置することによって新たな堆積サイクルが開始される,方法。」

(相違点)
(相違点1)「堆積処理用容器」が,本願発明1では,「堆積チャンバ」であると特定されているのに対して,引用発明では,「反応管203」が用いられている点。

(相違点2)「サセプタ」が,本願発明1では,「リングとして具現され」ているのに対して,引用発明では,「上面視(上側から見た形状)がC字のリング状(C字状)をしており,2つのウェハ支持部2bを,繋ぎ部2aで接続する構造であり,ウェハ支持部2bは,その上面及び下面が同じ表面粗さに加工された平面をなし,その上面によりウェハ200を面支持し,繋ぎ部2aは,2つのウェハ支持部2bを繋ぎ固定するもの」である点。

(相違点3)本願発明1が,基板ウエハ上にエピタキシャル層を堆積してエピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造する「その間に前記ロードロックチャンバに被覆されるべきさらなる基板を搬入する」ものであるのに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案にかんがみ,上記相違点2について最初に検討する。
引用文献1ないし4のいずれにも,「リングとして具現され」るサセプタは記載されていない。
さらに,引用発明において,サセプタ2がC字のリング状に形成されているのは,ウェハ200を搬送するウェハ搬送機が,ウェハ200をサセプタ2上に載置し易くするためであり,ウェハ200を載せた搬送機のフィンガーが,サセプタ2上に水平移動した後,C字の空隙部を通って下降することにより,ウェハ200をサセプタ2上に載置し,ウェハ200をサセプタ2上から取り出すときは,ウェハ搬送機は逆の手順で動作するものである。
そうすると,引用発明において,サセプタの形状を,リングとすると,C字の空隙部が存在しなくなり,搬送機のフィンガーの通過を損なうことから,引用発明において,サセプタの形状を,リングとすることには阻害要因が存在する。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は,本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

さらに,補正後の請求項2には「前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハの温度が650℃以上になる時点で前記堆積チャンバから取り出す」と記載されている。
そして,本願明細書の発明の詳細な説明には,「堆積チャンバから取り出すプロセスの間,エピタキシャル層を有する半導体ウエハの温度は,好ましくは,650℃以上であり,特に好ましくは700℃以上である。」(段落0025)ことが記載されている。
そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明の前記記載及び技術常識を踏まえれば,請求項2の前記記載は,「前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハの温度が,(エピタキシャル層を形成する時点における温度である堆積温度から変化して,)650℃以上(の温度範囲に含まれる温度)になる時点で前記堆積チャンバから取り出す」という技術的事項を特定しているものと理解できる。
してみると,本願発明2は,発明の詳細な説明に記載された発明であると認められるから,本願が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということもできない。

3 本願発明3,4について
本願発明3,4は,拒絶査定されていない発明であり,当業者であっても,引用発明,拒絶査定において引用された引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
1 理由1(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により,本願発明1,2は「サセプタはリングとして具現され」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

2 理由2(特許法第36条第6項第1号)について
補正後の請求項2には「前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハの温度が650℃以上になる時点で前記堆積チャンバから取り出す」と記載されている。
そして,日本語として,「なる」という動詞は,通常は,「物事ができ上がる。実現する。成就する。今までと違った状態・形に変わる。ある数値に達する。」という程度の意味で用いられる用語である。
そうすると,請求項2の前記記載を,エピタキシャル層を有する半導体ウエハの温度が650℃以上ではない状態,すなわち,650℃未満の温度である状態から,650℃以上の温度というこれまでとは違った状態に達した時点において,堆積チャンバから取り出すという技術的事項を特定しているものと理解することが通常といえる。
しかしながら,請求項1を引用する請求項2に係る発明は,「堆積チャンバでエピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造するための方法」に係る発明であって,堆積チャンバでエピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造する際の温度が通常は高温であること,及び,エピタキシャル層を有する半導体ウエハを堆積チャンバから取り出す際に,堆積温度よりもさらに基板の温度を昇温させることが普通は行われていないこと等の技術常識に照らせば,当業者であれば,請求項2の前記記載に対する前記解釈が適切でない可能性に思い至ることが自然といえる。
そして,請求項2で使用されている用語の日本語としての用法が通常とは異なる場合があるとの理解のもと,本願の発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,段落【0025】には,「堆積チャンバから取り出すプロセスの間,エピタキシャル層を有する半導体ウエハの温度は,好ましくは,650℃以上であり,特に好ましくは700℃以上である。」との記載がある。
そうすると,技術常識及び発明の詳細な説明の記載を踏まえれば,請求項2の前記記載は,「前記エピタキシャル層を有する半導体ウエハの温度が,(エピタキシャル層を形成する時点における温度である堆積温度から変化して,)650℃以上(の温度範囲に含まれる温度)になる時点で前記堆積チャンバから取り出す」という技術的事項を特定しているものと理解でき,このような理解を妨げる特段の事情は認められない。
してみると,本願発明2は,発明の詳細な説明に記載された発明であると認められるから,本願が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとまではいえない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-03-24 
出願番号 特願2018-528311(P2018-528311)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 575- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 綿引 隆山本 一郎  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 小田 浩
加藤 浩一
発明の名称 堆積チャンバでエピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造する方法、エピタキシャル層を有する半導体ウエハを製造する装置、およびエピタキシャル層を有する半導体ウエハ  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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