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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B65D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65D
管理番号 1372462
審判番号 不服2020-3589  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-16 
確定日 2021-04-13 
事件の表示 特願2015-234248「吐出容器用キャップ、及び吐出容器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月8日出願公開、特開2017-100755、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、平成27年11月30日の出願であって、その主な手続は以下のとおりである。

平成31年4月19日付け
拒絶理由通知
令和元年7月5日
意見書の提出
同年12月12日付け
拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年3月16日
拒絶査定不服審判の請求
同年10月1日付け
拒絶理由通知
同年12月7日
意見書及び手続補正書の提出


第2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明(以下「本願発明1」等という。)は、令和2年12月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された以下の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
内容物を収容する容器本体に装着可能な吐出容器用キャップであって、
前記容器本体の口部に装着されるキャップ本体と、
該キャップ本体の開孔を上方から覆うと共に内容物を注出する注出孔を有し、上下に移動可能なノズルと、
前記キャップ本体から下方に延び、前記ノズル及び前記容器本体の内部に連通する有底筒状部材と、
該有底筒状部材の内部空間に配置された弁体、及び該有底筒状部材の底部とは対向する位置に設けられる弁座を有する弁部と
を備え、
前記ノズルが移動範囲の下端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接して、前記弁部は開放状態となり、
前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接せず、前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となることを特徴とする吐出容器用キャップ。
【請求項2】
前記有底筒状部材は側面に開孔を有する、請求項1に記載の吐出容器用キャップ。
【請求項3】
前記有底筒状部材は前記底部に開孔を有する、請求項1又は2に記載の吐出容器用キャップ。
【請求項4】
前記ノズルの一部は、前記ノズルの下方に突出する棒状部材である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の吐出容器用キャップ。
【請求項5】
前記注出孔を覆う開閉可能な蓋体を更に備え、該蓋体は、閉塞時に、上方に変位しているノズルを下方に押圧するための押圧部を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の吐出容器用キャップ。
【請求項6】
内容物を収容する容器本体に吐出容器用キャップを装着した吐出容器であって、
前記吐出容器用キャップは、
前記容器本体の口部に装着されるキャップ本体と、
該キャップ本体の開孔を上方から覆うと共に内容物を注出する注出孔を有し、上下に移動可能なノズルと、
前記キャップ本体から下方に延び、前記ノズル及び前記容器本体の内部に連通する有底筒状部材と、
該有底筒状部材の内部空間に配置された弁体、及び該有底筒状部材の底部とは対向する位置に設けられる弁座を有する弁部と
を備え、
前記ノズルが移動範囲の下端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接して、前記弁部は開放状態となり、
前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接せず、前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となることを特徴とする吐出容器。」


第3.当審で通知した拒絶理由及び原査定の概要
1.当審において令和2年10月1日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1の「前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となること」と「ノズルの一部」との関係が不明である。

請求項6の「前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となること」と「ノズルの一部」との関係についても同様である。

よって、請求項1、6及び請求項1を引用する請求項2?5は不明確である。

2.原査定の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2015-030488号公報
2.特開2003-054605号公報


第4.当審の判断
1.当審で通知した拒絶理由(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1の「前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となること」と「ノズルの一部」との関係は、令和2年12月7日に提出された手続補正書により、「前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接せず、前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となること」であることが明確となった。

(2)請求項6の「前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となること」と「ノズルの一部」との関係は、令和2年12月7日に提出された手続補正書により、「前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接せず、前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となること」であることが明確となった。

(3)したがって、請求項1、6及び請求項1を引用する請求項2?5の記載は明確であるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するものである。


2.原査定の理由(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献の記載事項
ア.本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2015-030488号公報)には、以下の記載がある。
なお、下線部は、当審が付した。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、内容液を収容する容器本体と、この容器本体の口部に装着される注出キャップとを備え、容器本体を傾倒させて注出キャップから内容液を注出させる注出容器に関するものである。」

(イ)「【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。・・・
【0021】
図1において、符号1は、本発明の注出容器の一実施形態を示す。注出容器1は、内容液を収容する容器本体10と容器本体10の口部に装着される注出キャップ40とを備えている。また、注出キャップ40の内側には、中栓20が設けられていて、後述する中栓20の筒状体には、球状体(移動弁体)30が設けられている。
【0022】
容器本体10は、内容液の収容空間Mを有する減容変形自在な内層体11と、容器本体10の外殻をなし内層体11を内側に収める外層体12を備えている。本実施形態において外層体12は、円形状となる底部13の縁部から円筒状となる胴部14を起立させるとともに、胴部14の上部に、径方向内側に向けて縮径する肩部15を介して容器本体10の口部となる円筒状の口頸部16が一体に連結されている。口頸部16の外周面には、ねじ部16aが設けられている。また外層体12には、図示は省略するが内層体11との相互間と外界とを常時連通させる貫通孔(外気導入孔)が設けられている。なお、常時連通させるとは、内容液の注出に係る間(起立姿勢の容器本体10を傾倒姿勢にして内容液を注出した後、再び起立姿勢に戻して収容空間M内の内容液が元の状態に戻るまで)は外気導入孔が開いたままであることを意味するものであり、例えば内層体11と外層体12との相互間から外界へ空気が逃げるのを防止する逆止弁は設けられていないことを意図する。
・・・
【0024】
中栓20は、外層体12の軸線Oに沿って延在する円筒状の筒状体21を備えていて、その内側に内部通路22を形成している。筒状体21は、底壁21aと底壁21aの縁部より起立する周壁21bとで形成され、底壁21aには、外層体12の底部13に向けて突出する凸部21c、及び凸部21cを貫通する孔21dが設けられている。また、周壁21bには、内容液の収容空間Mと内部通路22とをつなぐ貫通孔23が設けられている。
・・・
【0026】
筒状体21の内側には、内部通路22を移動する移動弁体として球状体30を設けている。球状体30は、図1に示すように容器本体10の起立姿勢において底壁21aに着座し、保持されている。」

(ウ)「【0032】
次に、図4?図6を参照して、本発明に従う注出容器の他の実施形態について説明する。なお、注出キャップ40以外の部分は前述の実施形態と同一であるため、図面に同一の符号を付してここでは説明を省略する。
【0033】
図4に示す注出容器2は、前述の注出キャップ40に代えて、注出キャップ50を装着したものである。注出キャップ50は、口頸部16に装着されるキャップ本体51を備えている。キャップ本体51は、口頸部16を取り囲む円筒状の外周壁52を有していて、外周壁52の内周面には、口頸部16のねじ部16aに係合するねじ部52aを設けている。また外周壁52の上端には、中栓20を覆う天壁53が一体に連結されていて、その中央部には貫通開口53aが設けられている。更に貫通開口53aの縁部には、上端を径方向外側に湾曲させてリップを形成した注出筒54が設けられ、注出筒54の下方には、内部通路22に向けて延在し筒状体21の周壁21bの内周面と液密に当接する環状壁55が設けられている。
【0034】
また注出キャップ50は、キャップ本体51の外周壁52に一体に連結する下段ヒンジ56を介して、中蓋57を一体に連結している。中蓋57は、キャップ本体51の外周壁52に連なる外壁58と、外壁58の上端で一体に連結するとともに注出筒54を覆う中間壁59とを備えていて、その中央部には貫通開口59aが設けられている。更に貫通開口59aの縁部には、上端を径方向外側に湾曲させてリップを形成した第二注出筒60が設けられ、第二注出筒60の下方には、注出筒54の内周面と液密に当接する第二環状壁61が設けられている。そして第二注出筒60の内側には、第二注出筒60の周方向に沿って間隔をあける複数の連結片62を介して一体に連結するとともに、注出筒54及び環状壁55を挿通する円柱状の棒状体63が設けられている。ここで棒状体63は、その先端部(底壁21a側の端部)が環状壁55の先端部よりも底壁21a寄りとなる長さで設けられている。また外壁58において、軸線Oを挟んで下段ヒンジ56と反対側には、中蓋57を開く際に指掛かりとなる指掛け部58aが設けられている。なお棒状体63は、中実状のものに限られず、中空状であってもよい。またその断面形状は円形に限られず、四角形や六角形のような多角形になるものであってもよい。
【0035】
更に注出キャップ50は、軸線Oを挟んで下段ヒンジ56と反対側で、中蓋57の外壁58に一体に連結する上段ヒンジ64を有していて、上段ヒンジ64には外蓋65を一体に連結している。外蓋65は、中蓋57の外壁58に連なる外壁66と、外壁66の上端で一体に連結するとともに第二注出筒60を覆う頂壁67を備えていて、頂壁67の下面には、第二注出筒60の内周面と液密に当接するシール筒67aが設けられている。また外壁66において、軸線Oを挟んで上段ヒンジ64と反対側には、外蓋65を開く際に指掛かりとなる指掛け部66aが設けられている。
【0036】
このように注出キャップ50は、キャップ本体51の上方に、中蓋57、外蓋65を順次に設けた多段キャップの形態をなすものである。
【0037】
上記のように構成される注出容器2において、図5に示すように中蓋57を開いて容器本体10を傾倒姿勢に変位させる場合は、前述の実施形態と同様に、球状体30が環状壁55の先端部に着座するまでの間のみ内容液が注出されるので、略一定量の内容液を注出することができる。
【0038】
一方、図6に示すように外蓋65を開いて容器本体10を傾倒姿勢に変位させる場合、球状体30は、環状壁55の先端部に着座する手前で棒状体63の先端部に当接する。これにより収容空間M内の内容液は、貫通孔23(及び孔21d)を通り、周壁21bと球状体30との相互間を経て、隣り合う連結片62の間を通り抜けて第二注出筒60から注出される。すなわち、容器本体10を傾倒姿勢に維持している間、内容液を注出させ続けることができる。このように注出容器2によれば、中蓋57又は外蓋65の何れを開くかによって注出形態を切り換えることができる。」

(エ)「【図4】



(オ)「【図5】



(カ)「【図6】



上記(ア)?(カ)によれば、引用文献1には、以下の発明(「引用発明」という。)が記載されている。
「内容液を収容する容器本体10と、容器本体10の口部に装着される注出キャップ50とを備えた注出容器2であって、
注出キャップ50は、
容器本体10の口部となる円筒状の口頸部16に装着され、貫通開口53aの縁部に注出筒54が設けられたキャップ本体51と、
キャップ本体51の注出筒54を覆う中間壁59と、中間壁59の中央部に設けられた貫通開口59aの縁部に設けられた第二注出筒60を備える中蓋57と、
を備え、
中蓋57は下段ヒンジ56を介してキャップ本体51の外周壁52に一体に連結しており、中蓋57は上段ヒンジ64により外蓋65と一体に連結しており、
注出キャップ40の内側には中栓20が設けられていて、中栓20は円筒状の筒状体21を備えており、円筒状の筒状体21は、底壁21aと底壁21aの縁部より起立する周壁21bとで形成され、内容液の収容空間Mと内部通路22とをつなぐ貫通孔23が設けられており、
筒状体21の内側には、内部通路22を移動する移動弁体としての球状体30が設けられ、
キャップ本体51の注出筒54の下方には、内部通路22に向けて延在し筒状体21の周壁21bの内周面と液密に当接する環状壁55が設けられ、
中蓋57の第二注出筒60の内側には、注出筒54及び環状壁55を挿通する円柱状の棒状体63が設けられており、
外蓋65を開いて容器本体10を傾倒姿勢に変位させる場合、球状体30は、環状壁55の先端部に着座する手前で棒状体63の先端部に当接して、中蓋57の第二注出筒60から内容液を注出させ続けることができ、
中蓋57を開いて容器本体10を傾倒姿勢に変位させる場合、球状体30が環状壁55の先端部に着座するまでの間のみ、キャップ本体51注出筒54から内容液が注出される、
注出キャップ50、及び注出キャップ50とを備えた注出容器2。」

イ.本願出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2003-054605号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】 回動キャップを開いたとき噴出部材を移動して出口を開き、その後容器の胴部を潰したときその容器の内容物を前記出口を通して前記噴出部材内に入れ、その噴出部材の噴口から外部へと噴出してなる、噴出器。
【請求項2】 前記回動キャップを回動して開いたときその回動キャップにより前記噴出部材を持ち上げ、その噴出部材の棒状弁を引き抜いて前記出口を開いてなる、請求項1に記載の噴出器。」

(イ)「【0016】図示例の噴出部材28には、図3に示すように、筒部29とともに、その中心に下向きに突出して棒状弁30、筒部29の外周に鍔部31、筒部29の上端から斜め上向きに嘴状に突出して噴出部32を設ける。噴出部32の先には、噴口33を有する。図示するように、鍔部31は、四角い外形状につくり、まわりをカバー部材18に当てて回り止めし、カバー部材18内で噴出部32が一定の方向を向くようにする。
・・・
【0018】そして、回動キャップ収納部20内に挿入して軸部39をカバー部材18の軸穴41(図2参照)に入れ、カバー部材18に回動自在に取り付け、不使用時は図1に示すように閉じてキャップ部35で噴出部材28を被い、係止部42をカバー部材に係止して押え部43で噴出部材28を上から押さえる。
【0019】この噴出器を使用するときは、指掛部44に指を掛けて回動キャップ35を開き、図5に示すように板ばね部21の先端に当てて緩衝する。すると、その動作に連動し、突き上げ凸部40を鍔部31に当てて噴出部材28を上方へと移動し、棒状弁30を引き抜いて出口16をあける。
・・・
【0022】また、棒状弁30を挿入して出口16を塞ぎ、この状態で容器10の胴部を潰しても噴口33から内容物を噴出しないようにする。」

(ウ)「【図1】



(2)本願発明1について
ア.対比
本願発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「内容液」は、本願発明1の「内容物」に相当し、以下同様に、「容器本体10」は「容器本体」に、「注出キャップ50」は「吐出容器用キャップ」に、「キャップ本体51」は「キャップ本体」に、「中蓋57」は「ノズル」に、「円筒状の筒状体21」は「有底筒状部材」に、「移動弁体としての球状体30」は「弁体」に、「環状壁55」は「弁部」に、「環状壁55の先端部」は「弁座」に、「傾倒姿勢」は「倒立姿勢」にそれぞれ相当する。

引用発明の「キャップ本体51」が「容器本体10の口部となる円筒状の口頸部16に装着され」る態様は、本願発明1の「キャップ本体」が「前記容器本体の口部に装着される」態様に相当する。

引用発明の「中蓋57」が「キャップ本体51の注出筒54を覆う中間壁59と、中間壁59の中央部に設けられた貫通開口59aの縁部に設けられた第二注出筒60を備える」ことは、本願発明1の「ノズル」が「該キャップ本体の開孔を上方から覆うと共に内容物を注出する注出孔を有」することに相当する。

引用発明の「円筒状の筒状体21」が「注出キャップ40」の内側に設けられた「中栓20」に設けられたものであって、「底壁21aと底壁21aの縁部より起立する周壁21bとで形成され、内容液の収容空間Mと内部通路22とをつなぐ貫通孔23が設けられた」ものであることは、本願発明1の「有底筒状部材」が「前記キャップ本体から下方に延び、前記ノズル及び前記容器本体の内部に連通する」ものであることに相当する。

引用発明の「移動弁体としての球状体30」が「筒状体21の内側に」設けられていることは、本願発明1の「弁体」が「該有底筒状部材の内部空間に配置され」ていることに相当する。
引用発明の「環状壁55」が「キャップ本体51の注出筒54の下方」に「内部通路22に向けて延在」するものであることは、本願発明1の「該有底筒状部材の底部とは対向する位置に設けられる弁座を有する弁部」であることに相当する。

引用発明の「円柱状の棒状体63」は「中蓋57」に設けられたものであるから、本願発明1の「ノズルの一部」に相当する。

本願発明1の「前記ノズルが移動範囲の下端にあるとき」は、本願の発明の詳細な説明の段落【0031】によれば「連続的に吐出される」ものである。そうすると、引用発明の「外蓋65を開いて容器本体10を傾倒姿勢に変位させる場合」は「内容液を注出させ続けることができ」る状態であるから、「連続抽出モードの場合」の限りにおいて、本願発明1の「前記ノズルが移動範囲の下端にあるとき」と一致する。
そして、「連続抽出モードの場合」において、引用発明の「球状体30は、環状壁55の先端部に着座する手前で棒状体63の先端部に当接して、中蓋57の第二注出筒60から内容液を注出させ続けることができ」ることは、本願発明1の「前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接して、前記弁部は開放状態とな」ることに相当する。

本願発明1の「前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき」は、本願の発明の詳細な説明の段落【0033】?【0035】によれば「定量吐出」を行うものである。そうすると、引用発明の「中蓋57を開いて容器本体10を傾倒姿勢に変位させる場合」は「球状体30が環状壁55の先端部に着座するまでの間のみ、キャップ本体51注出筒54から内容液が注出される」ものであるから、「定量抽出モードの場合」の限りにおいて、本願発明1の「前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき」と一致する。
そして、引用発明の「球状体30が環状壁55の先端部に着座するまでの間のみ、キャップ本体51注出筒54から内容液が注出される」ことは、本願発明1の「前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接せず、前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となること」に相当する。

よって、本願発明1と引用発明は、以下の点で一致する。
<一致点>
「内容物を収容する容器本体に装着可能な吐出容器用キャップであって、
前記容器本体の口部に装着されるキャップ本体と、
該キャップ本体の開孔を上方から覆うと共に内容物を注出する注出孔を有するノズルと、
前記キャップ本体から下方に延び、前記ノズル及び前記容器本体の内部に連通する有底筒状部材と、
該有底筒状部材の内部空間に配置された弁体、及び該有底筒状部材の底部とは対向する位置に設けられる弁座を有する弁部と
を備え、
連続抽出モードの場合、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接して、前記弁部は開放状態となり、
定量抽出モードの場合、前記弁体は、前記容器本体の倒立姿勢によって前記ノズルの一部に当接せず、前記弁座に着座して、前記弁部は閉塞状態となる吐出容器用キャップ。」

そして、本願発明1と引用発明は、以下の点で相違する。
<相違点1>
ノズルについて、本願発明1は、「上下に移動可能なノズル」であるのに対して、引用発明の中蓋57は、下段ヒンジ56を介してキャップ本体51の外周壁52に一体に連結したものであって、上下に移動可能なものではない点。

<相違点2>
連続抽出モードについて、本願発明1は、「前記ノズルが移動範囲の下端にあるとき」であるのに対して、引用発明は、外蓋65を開いたときである点。

<相違点3>
定量抽出モードについて、本願発明1は、「前記ノズルが移動範囲の上端にあるとき」であるのに対して、引用発明は、中蓋57を開いたときである点。

イ.相違点についての検討
<相違点1>?<相違点3>は、ノズルの動作と抽出モードに関するもので、密接に関連する相違点であるから、あわせて検討する。

引用発明は、連続抽出モードにおいては球状体30が環状壁55の先端部に着座する手前で棒状体63の先端部に当接する位置関係であるのに対して、定量吐出モードにおいては、中蓋57及び外蓋65開状態であるから、棒状体63が完全に離脱しており、そのため球状体30が環状壁55の先端部に着座するものである。
すなわち、引用発明の中蓋57と外蓋65は、下段ヒンジ56と上段ヒンジ64によって、外蓋65のみ開状態、中蓋57及び外蓋65開状態と、その開閉状態を切り替えることによって、連続抽出モードと定量抽出モードを切り替えることに技術的な特徴がある。
そして、中蓋57のみを上下に移動可能とすること、及び中蓋57のみの上下移動状態により連続抽出モードと定量抽出モードを切り替えることについては、記載も示唆もない。

一方、引用文献2に記載された噴出器(上記(1)イ.)は、キャップ35に設けられた押さえ部43が噴出部材28を上から押さえることにより、棒状弁30で出口16を塞ぐものであるから、棒状弁30が弁体、出口16が弁座に相当するものである。
よって、引用文献2に記載された事項(以下「引用文献2記載事項」という。)は、上下に移動可能なノズルに関する技術ではあるものの、棒状弁30は弁体そのものであって連続抽出モードと定量抽出モードを切り替えるものではない。
そして、引用文献2記載事項において弁体の位置状態を変化させるものは、キャップ部35に設けられた押え部43であり、押え部43は、キャップ部35が閉状態にあるとき強制的に弁を閉鎖し、開状態にあるとき完全に離脱して弁を開放するものであって、キャップ部35は、回動により開閉するものである。
すなわち引用文献2記載事項は、何らかの部材の上下移動状態により連続抽出モードと定量抽出モードを切り替える事項を示すものではない。

そうすると、引用文献2記載事項に接した当業者が、引用発明において、中蓋57を上下に移動可能なものとした上で、上下移動の上下端における環状壁55の先端部と棒状体63の先端部の位置関係を、連続抽出モードと定量抽出モードを実現できるものとなるように設定することが容易に想到できたものであるということはできない。

そして、本願発明1は、<相違点1>?<相違点3>に係る構成により、「ノズル20の上下方向への移動という簡便な操作によって、吐出容器100の吐出態様を、連続吐出と定量吐出との間で切り換えることが可能となる。」(段落【0037】)という格別の効果を奏するものである。

よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

(3)本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本願発明2?5についても同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

(4)本願発明6について、
本願発明6と引用発明を対比すると、上記(2)ア.で述べた本願発明1と引用発明の相当関係に加えて、引用発明の「注出容器2」は、本願発明6の「吐出容器」に相当する。
そうすると、本願発明6と引用発明は、上記(2)ア.で述べた<一致点>で一致し、<相違点1>?<相違点3>で相違するから、上記(2)イ.で述べたのと同様に、本願発明6は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

(5)小括
以上のとおり、本願発明1?6は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということができない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第5.むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審が通知した理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-03-29 
出願番号 特願2015-234248(P2015-234248)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65D)
P 1 8・ 537- WY (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植前 津子  
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 横溝 顕範
藤井 眞吾
発明の名称 吐出容器用キャップ、及び吐出容器  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 杉村 憲司  
代理人 片岡 憲一郎  

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