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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01C
管理番号 1372535
審判番号 不服2020-12278  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-02 
確定日 2021-04-23 
事件の表示 特願2019- 8898「シャント抵抗器」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月23日出願公開、特開2019- 80075、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年4月28日の出願である特願2015-91883号の一部を平成31年1月23日に新たな特許出願としたものであって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
令和 2年 3月 2日付け:拒絶理由(特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由)通知
令和 2年 4月16日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 6月 9日付け:令和2年4月16日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
令和 2年 9月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年6月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1に係る発明は、下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.国際公開第2012/157435号
2.特開平3-259501号公報

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年9月2日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
互いに対して板面方向に離間された一対の電極板材と前記一対の電極板材を連結し且つ所定の設定抵抗値を有する抵抗合金板材とを備えたシャント抵抗器であって、
前記抵抗合金板材の表面には、レーザー加工によって形成され且つ前記抵抗合金板材の設定抵抗値を示す視認可能な文字列パターンが前記一対の電極板材間の電流流れ方向に直交する当該抵抗合金板材の幅方向全域に亘って設けられ、
前記抵抗合金板材の抵抗値が初期抵抗値から前記設定抵抗値まで上昇するように前記文字列パターンの表面積及び削り取り深さが設定されていることを特徴とするシャント抵抗器。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。)
「[0049]
チップ抵抗器101は、第1電極1と、第2電極2と、抵抗部3と、第1中間層4と、第2中間層5と、を備える。
[0050]
第1電極1は導電材料よりなる。このような導電材料としては、たとえば、Cu,Ni,Feが挙げられる。チップ抵抗器101が実装基板801に実装された状態において、第1電極1はハンダ層802に接合している。第1電極1は、ハンダ層802を介して、実装基板801におけるパターン電極(図示略)に導通している。本実施形態において、第1電極1は、板状部181と、斜行部182とを含む。
[0051]
板状部181はXY平面に沿って広がる板状である。板状部181は、第1電極1の大部分を占めている。斜行部182はXY平面に対し傾斜している形状である。具体的には、斜行部182は、板状部181から離れるほど方向Z1に向かって傾斜している。斜行部182は、方向Yに沿って延びる帯状である。斜行部182は板状部181につながっている。」

「[0058]
第2電極2は導電材料よりなる。このような導電材料としては、たとえば、Cu,Ni,Feが挙げられる。チップ抵抗器101が実装基板801に実装された状態において、第2電極2はハンダ層802に接合している。第2電極2は、ハンダ層802を介して、実装基板801におけるパターン電極(図示略)に導通している。本実施形態において、第2電極2は、板状部281と、斜行部282とを含む。
[0059]
板状部281はXY平面に沿って広がる板状である。板状部281は、第2電極2の大部分を占めている。斜行部282はXY平面に対し傾斜している形状である。具体的には、斜行部282は、板状部281から離れるほど方向Z1に向かって傾斜している。斜行
部282は、方向Yに沿って延びる帯状である。斜行部282は板状部281につながっている。」

「[0064]
抵抗部3は抵抗材料よりなる。このような抵抗材料としては、たとえば、CuとMnとの合金、NiとCrとの合金、NiとCuとの合金、ないしFeとCrとの合金が挙げられる。CuとMnとの合金は、比較的軟らかい。一方、NiとCrとの合金、NiとCuとの合金、および、FeとCrとの合金は比較的硬い。抵抗部3を構成する材料である抵抗材料の抵抗率は、第1電極1ないし第2電極2を構成する材料である導電材料の抵抗率よりも、大きい。抵抗部3は、第1電極1および第2電極2に接合している。本実施形態において抵抗部3は、第1電極1および第2電極2に挟まれた位置に配置されている。」

「[0076]
次に、図12、図13に示すように、抵抗器集合体703を形成する。抵抗器集合体703を形成するには、導電性部材701における少なくとも3つの導電性長板711に、抵抗体部材702を接合する。本実施形態においては、複数の抵抗体長板721をそれぞれ、少なくとも3つの導電性長板711のうちの互いに隣接するいずれか2つに接合する。このとき、少なくとも3つの導電性長板711のうち互いに隣接するいずれか2つに挟まれた位置に、複数の抵抗体長板721はそれぞれ配置される。」

「[0078]
次に、図14?図16に示すように、抵抗器集合体703を、打ち抜きにより、複数のチップ抵抗器101に一括して分割する。図14においては、抵抗器集合体703におけるチップ抵抗器101となるべき領域を、それぞれ、2点鎖線で示している。一つの抵抗器集合体703から、たとえば40個程度のチップ抵抗器101を得ることができる。抵抗器集合体703を複数のチップ抵抗器101に分割するには、平面視のサイズが複数のチップ抵抗器101に相当する2つの打ち抜き金型831,832(図15参照)を用いる。打ち抜き金型831と打ち抜き金型832とで抵抗器集合体703を挟みこむことにより、抵抗器集合体703を打ち抜く。抵抗器集合体703を打ち抜くことにより、上述の第1電極1における曲面15や、上述の第2電極2における曲面25が形成されることがある。」

図1より、第1電極1と第2電極2はX方向に離間していることが見て取れる。

(2)上記記載より、引用文献1には、チップ抵抗器101に関して次の技術的事項が記載されている。
・チップ抵抗器101は、第1電極1と、第2電極2と、抵抗部3と、を備えている([0049])。
・抵抗部3は、第1電極1および第2電極2に挟まれた位置に配置されている([0064])。
・第1電極1は、XY平面に沿って広がる板状である板状部181を含む([0050][0051])。
・第2電極2は、XY平面に沿って広がる板状である板状部281を含む([0058][0059])。
・第1電極1と第2電極2はX方向に離間している(図1)。
・抵抗部3は、合金よりなる([0064])。
・抵抗体長板721を、2つの導電性長板711に挟まれた位置に配置し接合することにより抵抗器集合体703を形成する([0076])。
・抵抗器集合体703を、チップ抵抗器101に分割する([0078])。

(3)以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「第1電極1と、第2電極2と、第1電極1および第2電極2に挟まれた位置に配置された抵抗部3と、を備えるチップ抵抗器101であって、
第1電極1は、XY平面に沿って広がる板状である板状部181を含み、
第2電極2は、XY平面に沿って広がる板状である板状部281を含み、
第1電極1と第2電極2はX方向に離間しており、
抵抗部3は、合金よりなり、
抵抗体長板721を、2つの導電性長板711に挟まれた位置に配置し接合することにより抗器集合体703を形成し、抵抗器集合体703を分割することにより作成したチップ抵抗器101。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「即ち、予め抵抗体の長さおよび幅寸法が適切に設計された抵抗パターンに対し抵抗体番号、抵抗値および精度を含む情報が、その抵抗体からはみ出さないように抵抗体内部にレーザによって先ず刻印されるようになっている。これにより抵抗値は初期値に比し増加するが、その増加量は刻印が抵抗体からはみ出した場合に比しはるかに小さいため所望の抵抗値を超えることはないものである。」(第2頁右上欄第12-19行)

(2)「その後刻印された情報を包み込むように、且つ抵抗値をモニタしつつ所望の抵抗値となるべくレーザトリミングを行なえば、包み込まれた情報の刻印はトリミング後の実際の抵抗値に何の影響も与えないというものである。加えて抵抗値のドリフトに影響が大きいトリミング後の抵抗体の残存幅も、抵抗パターンの長さおよび幅寸法が適切に設計されている場合には、幅寸法の約1/3以上を確保することが可能であるので、トリミング後の抵抗体の精度および信頼度を損うことなく識別情報が抵抗体に刻印され得るものである。」(第2頁右上欄第20行-同左下欄第10行)

上記(1)より、引用文献2には次の技術が記載されている。
「抵抗パターンに抵抗値を含む情報を、抵抗体内部にレーザによって刻印する技術。」

第5 対比、判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(1)引用発明の「第1電極1」は「XY平面に沿って広がる板状である板状部181を含み」、「第2電極2」は「XY平面に沿って広がる板状である板状部281を含み」、「第1電極1」と「第2電極2」は「X方向に離間して」いるのであるから、「第1電極1」と「第2電極2」は、板状部の板面方向に離間しているといえる。
また、引用発明の「チップ抵抗器101」は「抵抗体長板721を、2つの導電性長板711に挟まれた位置に配置し接合することにより抗器集合体703を形成し、抵抗器集合体703を分割することにより作成した」のであるから、「第1電極1」と「第2電極2」は、「導電性長板711」から作成したものであり、板材である。
そうすると、引用発明の「第1電極1」及び「第2電極2」は、本願発明の「互いに対して板面方向に離間された一対の電極板材」に相当する。

(2)引用発明の「抵抗部3」は「合金」である。そして、引用発明の「チップ抵抗器101」は「抵抗体長板721を、2つの導電性長板711に挟まれた位置に配置し接合することにより抗器集合体703を形成し、抵抗器集合体703を分割することにより作成した」のであるから、「抵抗部3」は「抵抗体長板721」から作成したものであり、板材である。
また、引用発明の「抵抗部3」が所定の抵抗値を有することは、自明な事項である。
そうすると、引用発明の「第1電極1および第2電極2に挟まれた位置に配置された抵抗部3」は、本願発明の「前記一対の電極板材を連結し且つ所定の設定抵抗値を有する抵抗合金板材」に相当する。

(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、引用発明の「第1電極1と、第2電極2と、第1電極1および第2電極2に挟まれた位置に配置された抵抗部3と、を備えるチップ抵抗器101」と本願発明は、「互いに対して板面方向に離間された一対の電極板材と前記一対の電極板材を連結し且つ所定の設定抵抗値を有する抵抗合金板材とを備えた抵抗器」である点で共通する。
但し、抵抗器が、本願発明は「シャント抵抗器」であるのに対して、引用発明は「チップ抵抗器101」である点で相違する。
また、本願発明は「前記抵抗合金板材の表面には、レーザー加工によって形成され且つ前記抵抗合金板材の設定抵抗値を示す視認可能な文字列パターンが前記一対の電極板材間の電流流れ方向に直交する当該抵抗合金板材の幅方向全域に亘って設けられ」ているのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
さらに、本願発明は「前記抵抗合金板材の抵抗値が初期抵抗値から前記設定抵抗値まで上昇するように前記文字列パターンの表面積及び削り取り深さが設定されている」のに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
「互いに対して板面方向に離間された一対の電極板材と前記一対の電極板材を連結し且つ所定の設定抵抗値を有する抵抗合金板材とを備えた抵抗器。」

(相違点1)
抵抗器が、本願発明は「シャント抵抗器」であるのに対して、引用発明は「チップ抵抗器101」である点。
(相違点2)
本願発明は「前記抵抗合金板材の表面には、レーザー加工によって形成され且つ前記抵抗合金板材の設定抵抗値を示す視認可能な文字列パターンが前記一対の電極板材間の電流流れ方向に直交する当該抵抗合金板材の幅方向全域に亘って設けられ」ているのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点3)
本願発明は「前記抵抗合金板材の抵抗値が初期抵抗値から前記設定抵抗値まで上昇するように前記文字列パターンの表面積及び削り取り深さが設定されている」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。

2 相違点についての判断
事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。
引用文献2には、抵抗パターンに抵抗値を含む情報を、抵抗体内部にレーザによって刻印する技術が記載されている(上記「第4 2」)。
しかしながら、引用文献2には「その後刻印された情報を包み込むように、且つ抵抗値をモニタしつつ所望の抵抗値となるべくレーザトリミングを行なえば、包み込まれた情報の刻印はトリミング後の実際の抵抗値に何の影響も与えないというものである。」(上記「第4 2(2)」)と記載されており、レーザによる情報の刻印はトリミング後の抵抗値に影響を与えないものである。
そうすると、引用発明に、抵抗値を含む情報を抵抗体内部にレーザによって刻印する技術を適用したとしても、刻印はトリミング後の抵抗値に影響を与えないものであるから、刻印の表面積及び削り取り深さを設定することにより設定抵抗値まで抵抗値を上昇させることは想定できないことであり、そのようなことをする動機付けがない。

したがって、上記相違点3に係る構成は、引用発明、引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明は「前記抵抗合金板材の抵抗値が初期抵抗値から前記設定抵抗値まで上昇するように前記文字列パターンの表面積及び削り取り深さが設定されている」という事項(前記「第5 2」で検討した相違点3に係る構成)を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1及び2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-04-09 
出願番号 特願2019-8898(P2019-8898)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 須原 宏光
赤穂 嘉紀
発明の名称 シャント抵抗器  
代理人 特許業務法人アローレインターナショナル  

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