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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1372584
審判番号 不服2020-1325  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-31 
確定日 2021-04-01 
事件の表示 特願2018-187157「光学異方性フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月21日出願公開、特開2019- 28474〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2018-187157号(以下「本件出願」という。)は、平成26年1月23日を出願日とする特願2014-10102号の一部を新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年10月31日付け:上申書
平成30年10月31日付け:手続補正書
令和 元年 8月22日付け:拒絶理由通知書
令和 元年10月24日付け:意見書
令和 元年10月24日付け:手続補正書
令和 元年10月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 1月31日付け:審判請求書
令和 2年 1月31日付け:手続補正書
令和 2年 9月23日付け:上申書

第2 補正の却下の決定
[結論]
令和2年1月31日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項6の記載は、以下のとおりである。
「 【請求項1】
厚さ方向に光軸を有する光学異方性膜と、面内方向に光軸を有する基材とを含む積層体である光学異方性フィルムであって、
基材を構成する樹脂が環状オレフィン系樹脂であり、
nx>nz>nyの屈折率関係を有し、
nx-nzが0.005未満であり、
nz-nyが0.004未満であり、
R_(0)(450)/R_(0)(550)が、0.8?1.2である
光学異方性フィルム。
(式中、nzは、厚さ方向の屈折率を表す。nxは、面内において最大の屈折率を生じる方向の屈折率を表す。nyは、面内においてnxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。R_(0)(550)は、550nmの光に対する正面位相差値を表し、R_(0)(450)は、450nmの光に対する正面位相差値を表す。)」

「 【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれかに記載の光学異方性フィルムと、偏光素子とを有する偏光板。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
なお、下線部は補正箇所を示す。
「 【請求項1】
厚さ方向に光軸を有する光学異方性膜と、面内方向に光軸を有する基材とを含む積層体である光学異方性フィルムと、
偏光素子とが、
接着剤層(1)を介して積層された偏光板であって、
前記光学異方性フィルムは、基材を構成する樹脂が環状オレフィン系樹脂であり、
nx>nz>nyの屈折率関係を有し、
nx-nzが0.005未満であり、
nz-nyが0.004未満であり、
R_(0)(450)/R_(0)(550)が、0.8?1.2
(式中、nzは、厚さ方向の屈折率を表す。nxは、面内において最大の屈折率を生じる方向の屈折率を表す。nyは、面内においてnxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。R_(0)(550)は、550nmの光に対する正面位相差値を表し、R_(0)(450)は、450nmの光に対する正面位相差値を表す。)
であり、
前記偏光素子は、保護フィルム、接着剤層(2)及び偏光子をこの順に貼り合せた偏光素子である
偏光板。」

(3)本件補正の内容
本件補正は、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0126】及び図2(b)の記載に基づいて、本件補正前の請求項1を引用する請求項6に係る発明の「偏光板」を、[A]「光学異方性フィルム」と「偏光素子」とが「接着剤層(1)を介して積層された」ものに限定し、[B]「偏光素子」が「保護フィルム、接着剤層(2)及び偏光子をこの順に貼り合わせた」ものに限定する補正を含むものである。そして、本件補正前の請求項6に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、同一である(本件出願の明細書【0001】?【0002】及び【0004】)。
そうしてみると、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものを含むものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2003-149441号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明1の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ホメオトロピック配向性側鎖型液晶ポリマーまたは当該側鎖型液晶ポリマーと光重合性液晶化合物を含有してなるホメオトロピック配向液晶性組成物により形成されたホメオトロピック配向液晶フィルムと、位相差機能を有する延伸フィルムとを積層一体化したことを特徴とする位相差板。
【請求項2】 ホメオトロピック配向性側鎖型液晶ポリマーが、正の屈折率異方性を有する、液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(a)と非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(b)を含有する側鎖型液晶ポリマーであることを特徴とする請求項1記載の位相差板。
【請求項3】 面内の主屈折率をnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzとし、かつnx>nyとしたとき、Nz=(nx-nz)/(nx-ny)で定義されるNzが、-8<Nz<0.3を満足することを特徴とする請求項1または2記載の位相差板。
・・・中略・・・
【請求項5】 請求項1?3のいずれかに記載の位相差板に、さらに少なくとも1つの光学フィルムが積層されていることを特徴とする光学フィルム。
【請求項6】 請求項1?3のいずれかに記載の位相差板、または請求項5記載の光学フィルムを適用した画像表示装置。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ホメオトロピック配向液晶フィルムと位相差機能を有する延伸フィルムとを積層一体化した位相差板およびその製造方法に関する。本発明の位相差板は、単独でまたは他の光学フィルムと組み合わせて、λ/4フィルム、視角補償フィルム、光学補償フィルム、楕円偏光フィルム、輝度向上フィルム等の光学フィルムとして使用できる。さらには本発明は前記位相差板、光学フィルムを用いた液晶表示装置、有機EL表示装置、PDPなどの画像表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】液晶表示装置等の画像表示装置においては、液晶等による複屈折により、視角の変化とともにコントラスト等が変化する。このようなコントラスト変化等を防止する目的で、液晶表示装置等では、液晶セルに位相差板を配置し複屈折に基づく光学特性を補償して視角特性を改善する技術が提案されている。かかる補償用の位相差板としては、通常、一軸や二軸等による延伸フィルムが用いられているが、すべての液晶セルに満足できる視角特性を有するものではない。
・・・中略・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、厚み方向の位相差を広範囲に制御することができる位相差板およびその製造方法を提供することを目的とする。さらには当該位相差板を用いた光学フィルム、さらには当該位相差板、光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解消するための手段】本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す位相差板により、前記目的を達成できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち本発明は、ホメオトロピック配向性側鎖型液晶ポリマーまたは当該側鎖型液晶ポリマーと光重合性液晶化合物を含有してなるホメオトロピック配向液晶性組成物により形成されたホメオトロピック配向液晶フィルムと、位相差機能を有する延伸フィルムとを積層一体化したことを特徴とする位相差板、に関する。
【0008】上記本発明の位相差板によれば、面内位相差を有する延伸フィルムに、厚み方向に位相差を有するホメオトロピック配向液晶フィルムを積層一体化しており、ホメオトロピック配向液晶フィルムの厚さを調整することにより、厚み方向の位相差を広範囲に制御することが可能である。そのため、液晶セル等の複屈折に基づく視角による表示特性の変化を高度に補償して、広い視野角範囲でコントラスト等の視認性に優れる液晶表示装置等の画像表示装置が得られる。また、ホメオトロピック配向液晶フィルムは薄層を形成することが可能であり、厚み方向の位相差を広範囲に制御し、かつ薄型の位相差板を提供することができる。
・・・中略・・・
【0011】前記本発明の位相差板は、面内の主屈折率をnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzとし、かつnx>nyとしたとき、Nz=(nx-nz)/(nx-ny)で定義されるNzが、-8<Nz<0.3を満足することができる。本発明の位相差板は、上記で定義されるNzの幅が広く、複屈折を高度に補償することができる。たとえば、実施例に記載の材料によれば、通常、(nx-nz)は、-0.0180?0.0035程度、(nx-ny)は、0.0020?0.0033程度である。」

ウ 「【0015】
【発明の実施の形態】本発明においてホメオトロピック配向液晶フィルムを形成しうる液晶ポリマーとしては、たとえば、正の屈折率異方性を有する、液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(a)と非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(b)を含有する側鎖型液晶ポリマーがあげられる。
【0016】前記側鎖型液晶ポリマーは、垂直配向膜を用いずに、液晶ポリマーのホメオトロピック配向を実現することができる。当該側鎖型液晶ポリマーは、通常の側鎖型液晶ポリマーが有する液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(a)の他に、アルキル鎖等を有する非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(b)を有しており、非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(b)の作用により、垂直配向膜を用いなくても、たとえば熱処理により液晶状態としネマチック液晶相を発現させ、ホメオトロピック配向を示すようになったものと推察する。
・・・中略・・・
【0027】前記側鎖型液晶ポリマーには、光重合性液晶化合物を配合して液晶性組成物とすることができる。前記側鎖型液晶ポリマーは垂直配向膜を使用することなく基板上でフィルムを形成できるため、液晶フィルムのTgが低く設計されている。これら液晶フィルムには液晶ディプレイ等の用途として用いうる耐久性を向上させるには、光重合性液晶化合物を含有させたホメオトロピック配向液晶性組成物を用いるのが好ましい。ホメオトロピック配向液晶性組成物は、配向、固定化した後、紫外線等の光照射する。
【0028】光重合性液晶化合物は、光重合性官能基として、たとえば、アクリロイル基またはメタクリロイル基等の不飽和二重結合を少なくとも1つ有する液晶性化合物であり、ネマチック液晶性のものが賞用される。かかる光重合性液晶化合物としては、前記モノマーユニット(a)となるアクリレートやメタクリレートを例示できる。光重合性液晶化合物として、耐久性を向上させるには、光重合性官能基を2つ以上有するものが好ましい。
・・・中略・・・
【0029】上記光重合性液晶化合物は、熱処理により液晶状態として、たとえば、ネマチック液晶層を発現させて側鎖型液晶ポリマーとともにホメオトロピック配向させることができ、その後に光重合性液晶化合物を重合または架橋させることによりホメオトロピック配向液晶フィルムの耐久性を向上させることができる。
【0030】液晶性組成物中の光重合性液晶化合物と側鎖型液晶ポリマーの比率は、特に制限されず、得られるホメオトロピック配向液晶フィルムの耐久性等を考慮して適宜に決定されるが、通常、光重合性液晶化合物:側鎖型液晶ポリマー(重量比)=0.1:1?30:1程度が好ましく、特に0.5:1?20:1が好ましく、さらには1:1?10:1が好ましい。
・・・中略・・・
【0032】ホメオトロピック配向液晶フィルムの作製は、基板上に、ホメオトロピック配向性側鎖型液晶ポリマーを塗工し、次いで当該側鎖型液晶ポリマーを液晶状態においてホメオトロピック配向させ、その配向状態を維持した状態で固定化することにより行う。また前記側鎖型液晶ポリマーと光重合性液晶化合物を含有してなるホメオトロピック配向液晶性組成物を用いる場合には、これを基板に塗工後、次いで当該液晶性組成物を液晶状態においてホメオトロピック配向させ、その配向状態を維持した状態で固定化し、さらに光照射することにより行う。
【0033】前記側鎖型液晶ポリマーまたは液晶性組成物を塗工する基板は、ガラス基板、金属箔、プラスチックシートまたはプラスチックフィルムのいずれの形状でもよい。基板上に垂直配向膜は設けられていなくてもよい。基板の厚さは、通常、10?1000μm程度である。
・・・中略・・・
【0036】プラスチックフィルムとしては、特にゼオノア(商品名,日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(商品名,日本ゼオン(株)製)、アートン(商品名,JSR(株)製)などのノルボルネン構造を有するポリマー物質からなるプラスチックフィルムが光学的にも優れた特性を有する。
【0037】前記垂直配向膜の設けられていない基板上にはアンカーコート層を形成することができる。当該アンカーコート層によって基板の強度を向上させることができ良好なホメオトロピック配向性を確保できる。
【0038】アンカーコート材料としては、金属アルコキシド、特に金属シリコンアルコキシドゾルが賞用される。金属アルコキシドは、通常アルコール系の溶液として用いられる。アンカーコート層は、均一で、かつ柔軟性のある膜が必要なため、アンカーコート層の厚みは0.04?2μm程度が好ましく、0.05?0.2μm程度がより好ましい。
・・・中略・・・
【0045】塗工された前記側鎖型液晶ポリマーまたは液晶性組成物からなるホメオトロピック配向液晶フィルムの厚みは1?10μm程度とするのが好ましい。なお、特にホメオトロピック配向液晶フィルムの膜厚を精密に制御する必要がある場合には、膜厚が基板に塗工する段階でほぼ決まるため、溶液の濃度、塗工膜の膜厚などの制御は特に注意を払う必要がある。
・・・中略・・・
【0050】このようにして、側鎖型液晶ポリマーまたは液晶性組成物の薄膜が生成され、配向性を維持したまま固定化することにより、ホメオトロピック配向した配向液晶層が得られる。当該配向液晶層は同一の方向で配向された分子を有する。従ってこの配向液晶層の配向ベクトルの凍結または安定化およびその異方性物性の保存が達成されることは周知であり、このような薄膜はそれらの光学的性質が確認され、各種の用途で使用される。前記配向液晶層は一軸性の正の複屈折率を有する薄膜である。
【0051】以上のようにして得られるホメオトロピック配向液晶層の配向は、当該液晶層の光学位相差を垂直入射から傾けた角度で測定することによって量化することができる。ホメオトロピック配向液晶層の場合、この位相差値は垂直入射について対称的である。光学位相差の測定には数種の方法を利用することができ、例えば自動複屈折測定装置(オーク製)および偏光顕微鏡(オリンパス製)を利用することができる。このホメオトロピック配向液晶層はクロスニコル偏光子間で黒色に見える。このようにしてホメオトロピック配向性を評価した。
【0052】こうして得られたホメオトロピック配向液晶フィルムは、面内の主屈折率をnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzとし、かつnx>nyとしたとき、厚さd(μm)=1?10程度である場合に、たとえば、実施例に記載の材料によれば、(nx-ny)=0?0.0005程度、(nx-nz)=-0.1200?-0.1030程度を有する。また一般的に、nx=1.5314?1.5354程度、ny=1.5314?1.5354程度、nz=1.6391?1.6472程度、のものである。
【0053】本発明の位相差板は、前記ホメオトロピック配向液晶フィルムと位相差機能を有する延伸フィルムとを積層一体化したものである。
【0054】位相差機能を有する延伸フィルムとしては、たとえば、ポリカーボネート、ノルボルネン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンやその他のポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミドの如き適宜なポリマーからなるフィルムを延伸処理してなる複屈折性フィルムや液晶ポリマーなどの液晶材料からなる配向フィルム、液晶材料の配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。
【0055】上記延伸フィルムとしては、面内の主屈折率をnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzとし、かつnx>nyとしたとき、厚さd(μm)=25?30程度である場合に、たとえば、実施例に記載の材料によれば、(nx-ny)=0.0040?0.0060、(nx-nz)=0.0040?0.0060を有するものが用られる。また一般的には、nx=1.5930?1.5942程度、ny=1.5850?1.5887程度、nz=1.5850?1.5883程度、のものである。
【0056】本発明の位相差板は、たとえば、位相差機能を有する延伸フィルムを基板として、ホメオトロピック配向液晶フィルムを作製することにより得られる。また、基板上に作製されたホメオトロピック配向液晶フィルムを、粘着剤層を介して位相差機能を有する延伸フィルムに転写することにより得られる。かかる本発明の位相差板は、配置角度に拘わらず広範囲においてNzを制御できる。
・・・中略・・・
【0059】なお、ホメオトロピック配向液晶フィルムを粘着剤層を介して、位相差機能を有する延伸フィルムに転写する際には、ホメオトロピック配向液晶フィルム表面を表面処理して粘着剤層との密着性を向上することができる。表面処理の手段は、特に制限されないが、前記液晶層表面の透明性を維持できるコロナ放電処理、スパッタ処理、低圧UV照射、プラズマ処理などの表面処理法を好適に採用できる。これら表面処理法のなかでもコロナ放電処理が良好である。
【0060】得られた位相差板には、さらに偏光板等の光学フィルムを積層して用いることができる。以下、位相差板に、さらに光学フィルムを積層したものについて説明する。
【0061】液晶表示装置等の画像表示装置に適用される光学フィルムには偏光板が用いられる。偏光板は、通常、偏光子の片側または両側に保護フィルムを有するものである。偏光子は、特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、たとえば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等があげられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムを延伸して二色性材料(沃素、染料)を吸着・配向したものが好適に用いられる。偏光子の厚さも特に制限されないが、5?80μm程度が一般的である。
・・・中略・・・
【0063】前記偏光子の片側または両側に設けられている保護フィルムには、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性などに優れるものが好ましい。
・・・中略・・・
【0064】保護フィルムとしては、偏光特性や耐久性などの点より、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマーが好ましい。特にトリアセチルセルロースフィルムが好適である。なお、偏光子の両側に保護フィルムを設ける場合、その表裏で同じポリマー材料からなる保護フィルムを用いてもよく、異なるポリマー材料等からなる保護フィルムを用いてもよい。前記偏光子と保護フィルムとは通常、水系粘着剤等を介して密着している。水系接着剤としては、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリウレタン、水系ポリエステル等を例示できる。
・・・中略・・・
【0069】前記位相差板に偏光板を積層したものは、楕円偏光板または円偏光板として用いることができる。前記楕円偏光板または円偏光板について説明する。これらは位相差板により直線偏光を楕円偏光または円偏光に変えたり、楕円偏光または円偏光を直線偏光に変えたり、あるいは直線偏光の偏光方向を変える。特に、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変える位相差板としては、いわゆる1/4 波長板(λ/4 板とも言う)が用いられる。1/2 波長板(λ/2 板とも言う)は、通常、直線偏光の偏光方向を変える場合に用いられる。
【0070】楕円偏光板はスーパーツイストネマチック(STN)型液晶表示装置の液晶層の複屈折により生じた着色(青又は黄)を補償(防止)して、前記着色のない白黒表示する場合などに有効に用いられる。更に、三次元の屈折率を制御したものは、液晶表示装置の画面を斜め方向から見た際に生じる着色も補償(防止)することができて好ましい。円偏光板は、例えば画像がカラー表示になる反射型液晶表示装置の画像の色調を整える場合などに有効に用いられ、また、反射防止の機能も有する。
【0071】また前記位相差板は、前述の通り、視角補償フィルムとして偏光板に積層して広視野角偏光板として用いられる。視角補償フィルムは、液晶表示装置の画面を、画面に垂直でなくやや斜めの方向から見た場合でも、画像が比較的鮮明にみえるように視野角を広げるためのフィルムである。
【0072】このような視角補償位相差板としては、他に二軸延伸処理や直交する二方向に延伸処理等された複屈折を有するフィルム、傾斜配向フィルムのような二方向延伸フィルムなどが用いられる。傾斜配向フィルムとしては、例えばポリマーフィルムに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下にポリマーフィルムを延伸処理又は/及び収縮処理したものや、液晶ポリマーを斜め配向させたものなどが挙げられる。視角補償フィルムは、液晶セルによる位相差に基づく視認角の変化による着色等の防止や良視認の視野角の拡大などを目的として適宜に組み合わせることができる。
【0073】また、良視認の広い視野角を達成する点などより、液晶ポリマーの配向層、特にディスコティック液晶ポリマーの傾斜配向層からなる光学的異方性層をトリアセチルセルロースフィルムにて支持した光学補償位相差板が好ましく用いうる。
・・・中略・・・
【0082】可視光域等の広い波長範囲で1/4波長板として機能する位相差板は、例えば波長550nmの淡色光に対して1/4波長板として機能する位相差層と他の位相差特性を示す位相差層、例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方式などにより得ることができる。従って、偏光板と輝度向上フィルムの間に配置する位相差板は、1層又は2層以上の位相差層からなるものであってよい。
・・・中略・・・
【0086】本発明の位相差板、光学フィルムには、粘着層を設けることもできる。粘着剤層は、液晶セルへの貼着に用いることができる他、光学層の積層に用いられる。前記光学フィルムの接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
【0087】粘着剤層を形成する粘着剤は特に制限されないが、前記ホメオトロピック配向液晶層と透光性フィルムとの貼り合せに用いたものと同様のものを例示できる。また、同様の方式にて設けることができる。
【0088】粘着層は、異なる組成又は種類等のものの重畳層として偏光板や光学フィルムの片面又は両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光板や光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚さ等の粘着層とすることもできる。粘着層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1?500μmであり、5?200μmが好ましく、特に10?100μmが好ましい。
【0089】粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚さ条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0090】なお本発明において、上記した偏光板を形成する偏光子や透明保護フィルムや光学フィルム等、また粘着層などの各層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やべンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などの方式により紫外線吸収能をもたせたものなどであってもよい。
【0091】本発明の光学フィルムは液晶表示装置等の各種装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明による光学フィルムを用いる点を除いて特に限定はなく、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型などの任意なタイプのものを用いうる。
【0092】液晶セルの片側又は両側に前記光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による光学フィルムは液晶セルの片側又は両側に設置することができる。両側に光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。」

エ 「【0101】
【実施例】以下に実施例をあげて本発明の一態様について説明するが、本発明は実施例に限定されないことはいうまでもない。得られたホメオトロピック配向液晶フィルムについては配向性の評価を行った。
【0102】実施例1
ポリエチレンテレフタレートをポリマー材料とするプラスチックフィルム(東レ(株)製,厚さ50μm)に、アンカーコート用のゾル溶液としてエチルシリケートの酢酸エチル、イソプロピルアルコール2%溶液(商品名コルコート P,コルコート(株)製)を、グラビアロールコーティングにより塗工した。次いで、130℃で30秒間加熱し、透明ガラス質高分子膜(0.08μm)を形成した。
【0103】
【化6】


上記の化6(式中の数字はモノマーユニットのモル%を示し、便宜的にブロック体で表示している、重量平均分子量5000)に示される側鎖型液晶ポリマー5重量部、ネマチック液晶層を示す光重合性液晶化合物(BASF社製,PaliocolorLC242)20重量部および光重合開始剤(チバスペシャルティケミカルズ社製,イルガキュア907)5重量%(対光重合性液晶化合物)をシクロヘキサノン75重量部に溶解した溶液を、フィルム基材に設けたアンカーコート層上に、バーコーティングにより塗工した。次いで、80℃で2分間加熱し、その後室温まで一気に冷却することにより、前記液晶層をホメオトロピック配向させ、かつ配向を維持したままガラス化しホメオトロピック配向液晶層を固定化した。さらに、固定化したホメオトロピック配向液晶層に紫外線を照射することによりホメオトロピック配向液晶フィルム(厚み1.0μm)を形成した。
(ホメオトロピック配向性)サンプル(基板付きホメオトロピック配向液晶フィルム)をクロスニコルさせた偏光顕微鏡により、当該フィルム表面に対し垂直な方向からサンプルを観察したところ、正面からは何も見えなかった。これによりホメオトロピック配向を確認した。すなわち光学位相差が発生していないことがわかった。このフィルムを傾けて斜めから光を入射し、同様にクロスニコルで観察したところ、光の透過が観測された。
【0104】また、同フィルムの光学位相差を自動複屈折測定装置により測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射して、その光学位相差と測定光の入射角度のチャートから、ホメオトロピック配向を確認した。ホメオトロピック配向では、サンプル表面に対して垂直方向での位相差(正面位相差)がほぼゼロである。このサンプルに関しては、液晶層の遅相軸方向に斜めから位相差を測定したところ、測定光の入射角度の増加に伴い、位相差値が増加したことからホメオトロピック配向が得られていると判断できた。以上から、ホメオトロピック配向性は良好であると判断した。
【0105】なお、ホメオトロピック配向液晶フィルムのnx:1.5315、ny:1.5314、nz:1.6472であった。
【0106】(延伸フィルムの貼り合せ)その後、アクリル系粘着剤により形成された粘着剤層(15μm)を介してポリカーボネートをポリマー材料とする延伸フィルム:位相差板(日東電工(株)製,NRF,厚み30μm,nx:1.5930、ny:1.5887、nz:1.5883)に貼り合せるとともに、アンカーコート層を有する基板を剥離することにより、ホメオトロピック配向液晶フィルムとポリカーボネート延伸フィルムを積層した位相差板を得た。
・・・中略・・・
【0113】(評価)実施例および比較例で得られた位相差板について、フィルム面内と厚さ方向の主屈折率nx、ny、nzを自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製,自動複屈折計KOBRA21ADH)により計測し、Nzを算出した。また実施例および比較例で得られた位相差板の厚みも測定した。結果を表1に示す。
【0114】
【表1】

実施例では、比較例に比べて、Nzのマージンが広く、薄型の位相差板が得られていることが認められる。」

(2)引用発明
ア 引用文献1の【0101】?【0106】には、実施例1として、「ホメオトロピック配向液晶フィルムとポリカーボネート延伸フィルムを積層した位相差板」が記載されているところ、「位相差板」のnx、ny、nz及び厚みの計測結果は、【0114】【表1】に記載されたとおりである。また、同文献の【0105】の記載によれば、「ホメオトロピック配向液晶フィルムは、nx:1.5315、ny:1.5314、nz:1.6472である」。
ここで、nx、ny、nzは、引用文献1の【0011】の記載によれば、「面内の主屈折率をnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzとし、かつnx>ny」と定義されるものである。
さらに、この「位相差板」は、「偏光板を積層したものは、楕円偏光板または円偏光板として用いることができる。」(同文献の【0069】)。

イ そうしてみると、引用文献1には、次の位相差板の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、「ポリカーボネートをポリマー材料とする延伸フィルム」及び「ポリカーボネート延伸フィルム」は、後者に用語を統一して記載した。

「ポリエチレンテレフタレートをポリマー材料とするプラスチックフィルムに、アンカーコート用のゾル溶液としてエチルシリケートの酢酸エチル、イソプロピルアルコール2%溶液を塗工し、次いで、加熱し、透明ガラス質高分子膜(0.08μm)を形成し、
【化6】

上記【化6】に示される側鎖型液晶ポリマー5重量部、ネマチック液晶層を示す光重合性液晶化合物(BASF社製,PaliocolorLC242)20重量部および光重合開始剤5重量%を溶解した溶液を、フィルム基材に設けたアンカーコート層上に塗工し、加熱し、その後室温まで一気に冷却することにより、前記液晶層をホメオトロピック配向させ、ホメオトロピック配向液晶層を固定化し、固定化したホメオトロピック配向液晶層に紫外線を照射することによりホメオトロピック配向液晶フィルム(厚み1.0μm)を形成し、
その後、アクリル系粘着剤により形成された粘着剤層(15μm)を介してポリカーボネートをポリマー材料とするポリカーボネート延伸フィルム(厚み30μm,nx:1.5930、ny:1.5887、nz:1.5883)に貼り合せるとともに、アンカーコート層を有する基板を剥離することにより得た、
ホメオトロピック配向液晶フィルムとポリカーボネート延伸フィルムを積層した位相差板であって、
ホメオトロピック配向液晶フィルムは、nxが1.5315、nyが1.5314、nzが1.6472、位相差板の厚みは46μm、nxは1.5912、nyは1.5883、nzは1.5905であり、nx、ny、nzは、面内の主屈折率をnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzとし、かつnx>nyと定義されるものであり、
位相差板に偏光板を積層したものは、楕円偏光板または円偏光板として用いることができる、
位相差板。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア nx、ny、nzの定義
引用発明の「nx、ny、nz」は、「面内の主屈折率をnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzとし、かつnx>nyと定義されるものである」。
したがって、引用発明の「nx、ny、nz」は、本願補正後発明の「nzは、厚さ方向の屈折率を表す。nxは、面内において最大の屈折率を生じる方向の屈折率を表す。nyは、面内においてnxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す」とされる、「nx、ny、nz」に相当する。

イ 光学異方性膜
引用発明の「ホメオトロピック配向液晶フィルム」は、「厚み1.0μm」、「nxが1.5315、nyが1.5314、nzが1.6472であ」る。
ここで、上記屈折率からみて、引用発明の「ホメオトロピック配向液晶フィルム」における、光の入射時に最も小さい複屈折を生じる方向、すなわち、本件補正後発明でいう「光軸」は、厚さ方向である。
(当合議体注:本件補正後発明の「光軸」について、本件出願の明細書の【0012】には、「本明細書において光軸とは、光の入射時に最も小さい複屈折を生じる方向を意味する。」と記載されている。)
また、上記屈折率及び厚さからみて、引用発明の「ホメオトロピック配向液晶フィルム」は光学異方性を具備する、膜状のものといえる。
そうしてみると、引用発明の「ホメオトロピック配向液晶フィルム」は、本件補正後発明の、「厚さ方向に光軸を有する」とされる、「光学異方性膜」に相当する。

ウ 基材
引用発明の「ポリカーボネート延伸フィルム」は、「厚み30μm,nx:1.5930、ny:1.5887、nz:1.5883」である。また、引用発明の「ホメオトロピック配向液晶フィルム」は、「厚み1.0μm」である。そして、引用発明の「位相差板」は、「ホメオトロピック配向液晶フィルムとポリカーボネート延伸フィルムを積層した」ものである。
ここで、上記屈折率からみて、引用発明の「ポリカーボネート延伸フィルム」は、面内方向に光軸を有する。また、上記厚み及び積層関係からみて、引用発明の「ポリカーボネート延伸フィルム」は、「ホメオトロピック配向液晶フィルム」に対する基材として機能している。
そうしてみると、引用発明の「ポリカーボネート延伸フィルム」は、本件補正後発明の、「面内方向に光軸を有する」とされる、「基材」に相当する。

エ 光学異方性フィルム
引用発明の「位相差板」の「厚みは46μm、nxは1.5912、nyは1.5883、nzは1.5905であ」る。
ここで、上記屈折率及び厚さからみて、引用発明の「位相差板」は、光学異方性を具備するフィルム状のものといえる。
そうしてみると、引用発明の「位相差板」は、本願補正後発明の「光学異方性フィルム」に相当する。
さらに、前記ア?ウの対比結果並びに引用発明及び本件補正後発明の全体構成からみて、引用発明の「位相差板」は、本願補正後発明の「光学異方性フィルム」における、「厚さ方向に光軸を有する光学異方性膜と、面内方向に光軸を有する基材とを含む積層体である」及び「nx>nz>nyの屈折率関係を有し」、「nx-nzが0.005未満であり」、「nz-nyが0.004未満であり」という要件を満たす。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
上記(3)によれば、本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「厚さ方向に光軸を有する光学異方性膜と、面内方向に光軸を有する基材とを含む積層体である光学異方性フィルムにおいて、
前記光学異方性フィルムは、
nx>nz>nyの屈折率関係を有し、
nx-nzが0.005未満であり、
nz-nyが0.004未満である。
(式中、nzは、厚さ方向の屈折率を表す。nxは、面内において最大の屈折率を生じる方向の屈折率を表す。nyは、面内においてnxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。)」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「光学異方性フィルム」が、本件補正後発明は、「基材を構成する樹脂が環状オレフィン系樹脂であ」るのに対して、引用発明は、これとは異なる(ポリカーボネート樹脂である)点。
また、「光学異方性フィルム」が、本願補正後発明は、「R_(0)(450)/R_(0)(550)が、0.8?1.2」という要件を満たすものであるのに対して、引用発明は、一応、これが明らかでない点。
(当合議体注:R_(0)(550)は、550nmの光に対する正面位相差値を表し、R_(0)(450)は、450nmの光に対する正面位相差値である。)

(相違点2)
本件補正後発明は、「光学異方性フィルムと、偏光素子とが、接着剤層(1)を介して積層された偏光板」であるのに対して、引用発明は、この構成を具備しない(「位相差板に偏光板を積層したものは、楕円偏光板または円偏光板として用いることができる」とされた「位相差板」にとどまる)点。

(相違点3)
「偏光素子」が、本件補正後発明は、「保護フィルム、接着剤層(2)及び偏光子をこの順に貼り合せた偏光素子である」と特定されているのに対して、引用発明は、この構成を具備しない点。

(5)判断
相違点についての判断は、以下のとおりである。

ア 相違点1について
引用発明の「ポリカーボネート延伸フィルム」に関して、引用文献1の【0054】には、「延伸フィルムとしては、たとえば、ポリカーボネート、ノルボルネン系樹脂・・・中略・・・の如き適宜なポリマーからなるフィルムを延伸処理してなる複屈折性フィルム・・・中略・・・などがあげられる。」と記載されている。一方、特開2002-174724号公報(以下「引用文献2」という。)の【0034】?【0040】には、正面位相差を持つ位相差フィルムである一軸延伸アートンフィルム(当合議体注:ノルボルネン系樹脂に分類される環状オレフィン系樹脂である。)を基板として、ホメオトロピック配向液晶層を形成、固定化してなるホメオトロピック配向液晶フィルムの具体例(実施例4)が記載されている。
ここで、引用発明の「位相差板」は、「楕円偏光板または円偏光板として用いることができる」ものであるところ、引用文献1の【0070】には、「楕円偏光板はスーパーツイストネマチック(STN)型液晶表示装置の液晶層の複屈折により生じた着色(青又は黄)を補償(防止)して、前記着色のない白黒表示する場合などに有効に用いられる。更に、三次元の屈折率を制御したものは、液晶表示装置の画面を斜め方向から見た際に生じる着色も補償(防止)することができて好ましい。円偏光板は、例えば画像がカラー表示になる反射型液晶表示装置の画像の色調を整える場合などに有効に用いられ、また、反射防止の機能も有する。」と記載されている。また、特開2006-208603号公報(以下「引用文献3」という。)の【0114】?【0115】には、nx>nz>nyの関係を満たす積層位相差板は、STN型液晶表示装置に適用すると表示特性(視野角特性)が向上すること、積層位相差板が逆波長分散特性を示すことで、各波長での偏光の形がほぼ同じとなり、白色光が入射した際に有色偏光に変換されることがなく、無色偏光を得ることができることが記載され、【0120】?【0124】には、その具体例(nx>nz>nyの屈折率関係を有し、R_(0)(450)/R_(0)(550)が、0.8729である光学異方性フィルム)も記載されている。
そうしてみると、引用文献3に記載された上記の知見を心得た当業者ならば、引用発明の「位相差板」を「楕円偏光板または円偏光板として用いる」に際しての「延伸フィルム」の選択肢としては、引用発明の「ポリカーボネート延伸フィルム」よりも、引用文献1の【0054】に示唆され、また、引用文献2に記載された「一軸延伸アートンフィルム」の方が、好ましいことに気付くといえる
(当合議体注:「ポリカーボネート延伸フィルム」と「一軸延伸アートンフィルム」を比較すると、後者の方が、逆波長分散特性に近い(アートン部/筑波研究所、「アートン薄膜位相差用フィルム」、[online]、2003年、JSR TECHNICAL REVIEW No.110、[令和3年1月9日検索]、インターネットの図9)。)。
また、引用発明の「ポリカーボネート延伸フィルム」を「一軸延伸アートンフィルム」に替えてなるものは、相違点1に係る本件補正後発明の構成を具備し、また、前記(4)アにおいて一致点とした他の光学特性も満たすといえる。
以上勘案すると、引用発明の「位相差板」を、相違点1に係る本件補正後発明の構成を具備したものとすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

イ 相違点2について
引用文献1には、位相差板と偏光板との積層を、「接着剤層を介して」行うことは記載されていない。
しかしながら、位相差板と偏光板との積層を、接着剤層を介して積層することは、本件出願前において周知技術である。(必要ならば、特開2013-235207号公報(【0036】等)及び特開2012-103443号公報(【0064】等)参照。)
したがって、上記周知技術を心得た当業者が、引用発明において、「位相差板」と「偏光板」との積層を、接着剤層を介して行い、相違点2に係る構成に到ることは容易になし得ることである。

ウ 相違点3について
引用文献1には、「位相差板には、さらに偏光板等の光学フィルムを積層して用いることができる。」(【0060】)及び「偏光子と保護フィルムとは通常、水系粘着剤等を介して密着している。水系接着剤としては、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリウレタン、水系ポリエステル等を例示できる。」(【0064】)と記載されている。
そうすると、引用発明の「位相差板」に積層して用いられる、「偏光板」の構成として、相違点3のような、保護フィルム、接着剤層及び偏光子をこの順に貼り合わせた構成は、引用文献1の上記記載が示唆する範囲内の事項である。

(6)発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0006】には、「本発明によれば、黒表示時の光漏れ抑制に優れる光学異方性フィルムを提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明から容易に想到し得る発明が奏する効果であるか、引用文献1?3に記載された事項(積層型位相差板から期待し得る光学補償に関する記載事項等)から、当業者が予測可能な範囲内の効果である。

(7)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、審判請求書の5頁最終行?6頁5行において、「所定の屈折率関係を満たす光学異方性層を選択し、保護フィルム、接着剤層(2)、偏光子、接着剤層(1)及び該光学異方性フィルムの順で積層された積層構造とすることは、引用文献1、引用文献2及び引用文献3の何れにも記載されていません。ましてや、該積層構造により偏光板の耐久性を向上させて更なる黒表示時の光漏れ抑制の効果を得ることは、各引用文献に示唆すらされておりません。」と主張する。
しかしながら、所定の屈折率関係及び接着剤層(1)ないし接着剤層(2)を介した上記積層構造が、引用発明並びに引用文献2及び引用文献3に記載された事項から容易に想到し得ることは上記(5)ア?ウで述べたとおりである。

イ 審判請求人は、令和2年9月23日付け上申書の2頁26行?27行において、「光学異方性フィルムと偏光素子とを積層する際に接着剤層を介して積層することは、当業者が到底思いつかない事項であると考えます。」と主張する。
しかしながら、上記(5)イで検討したとおり、上記事項は本件出願前における周知技術である。

(8)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


引用文献1:特開2003-149441号公報
引用文献2:特開2002-174724号公報
引用文献3:特開2006-208603号公報

3 引用文献1及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から、前記「第2」[理由]1(3)で述べた限定事項を除いたものである。また、本願発明の構成を全て具備し、これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]2(3)?(8)で述べたとおり、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明も、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-01-15 
結審通知日 2021-01-19 
審決日 2021-02-10 
出願番号 特願2018-187157(P2018-187157)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 神尾 寧
里村 利光
発明の名称 光学異方性フィルム  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  

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