ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F |
---|---|
管理番号 | 1372591 |
審判番号 | 不服2020-4868 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-04-09 |
確定日 | 2021-04-01 |
事件の表示 | 特願2018-93107「感光性樹脂組成物,これを硬化させてなる硬化物,ブラックマトリックス及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月11日出願公開,特開2018-159930〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2018-93107号(以下「本件出願」という。)は,平成26年7月18日を出願日とする特願2014-148090号の一部を新たな特許出願としたものであって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成30年 5月29日付け:手続補正書(1) 平成30年 5月29日付け:上申書 令和 元年 5月28日付け:拒絶理由通知書 令和 元年 9月20日付け:意見書 令和 元年 9月20日付け:手続補正書(2) 令和 2年 2月14日付け:補正の却下の決定 (手続補正書(2)でした補正が却下された。) 令和 2年 2月14日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 4月 9日付け:審判請求書 令和 2年 4月 9日付け:手続補正書(3) 第2 補正の却下の決定 [結論] 令和2年4月9日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1) 本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の(平成30年5月29日にした手続補正後の)請求項1,請求項2及び請求項5の記載は,以下のとおりである。 「【請求項1】 アルカリ可溶性樹脂(a),光重合性モノマー(b),光重合開始剤(c),色材(d),分散剤(e)及び有機ケイ素化合物(f)を含む感光性樹脂組成物であって, 色材(d)の含有量が全固形分量に対して40質量%以上であり, 有機ケイ素化合物(f)が,少なくとも下記一般式(1)で表される構造を有する有機ケイ素化合物(f-1)を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。 【化1】 (上記式中,R^(1)は水素原子又は炭素数1?8のアルキル基である。R^(a)は下記式(1-1)で表される基である。*は結合手である。) 【化2】 (上記式中,R^(2)及びR^(3)はそれぞれ独立に炭素数1?8のアルキレン基であり,R^(4)は水素原子又はメチル基である。*はSi原子との結合手である。)」 「【請求項2】 有機ケイ素化合物(f-1)が,下記一般式(2)で表される有機ケイ素化合物を含むことを特徴とする,請求項1に記載の感光性樹脂組成物。 【化3】 (上記式中,R^(1)及びR^(a)は前記一般式(1)と同義である。式中に複数含まれるR^(1)同士は,それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)」 「【請求項5】 色材(d)が黒色色材であることを特徴とする,請求項1?4の何れか1項に記載の感光性樹脂組成物。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の請求項1の記載は,次のとおりである。 「【請求項1】 アルカリ可溶性樹脂(a),光重合性モノマー(b),光重合開始剤(c),色材(d),分散剤(e)及び有機ケイ素化合物(f)を含む感光性樹脂組成物であって, 色材(d)が黒色顔料であり,色材(d)の含有量が全固形分量に対して45質量%以上であり, 有機ケイ素化合物(f)が,少なくとも下記一般式(1)で表される構造を有する有機ケイ素化合物(f-1)を含有し, 有機ケイ素化合物(f-1)が,下記一般式(2)で表される有機ケイ素化合物を含むことを特徴とする感光性樹脂組成物。 【化1】 (上記式中,R^(1)は水素原子又は炭素数1?8のアルキル基である。R^(a)は下記式(1-1)で表される基である。*は結合手である。) 【化2】 (上記式中,R^(2)及びR^(3)はそれぞれ独立に炭素数1?8のアルキレン基であり,R^(4)は水素原子又はメチル基である。*はSi原子との結合手である。) 【化3】 (上記式中,R^(1)及びR^(a)は前記一般式(1)と同義である。式中に複数含まれるR^(1)同士は,それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)」 (3) 本件補正の内容 本件補正のうち,請求項1についてした補正について検討すると,この補正は,本件補正前の請求項5に係る発明(請求項1及び請求項2に記載された発明特定事項を具備するもの)を特定するために必要な事項である,[A]「色材」を,「黒色色材」から「黒色顔料」に限定し,[B]「色材(d)」の含有量を,「全固形分量に対して40質量%以上」から「全固形分量に対して45質量%以上」に限定して,本件補正後の請求項1に係る発明とするものである。また,この補正は,本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0251】の記載に基づくものである。そして,本件補正前の請求項5に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は,同一である(【0001】及び【0009】)。 そうしてみると,上記の補正は,特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに,同条第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。 2 独立特許要件についての判断 (1) 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由において引用された,韓国公開特許第10-2008-0035918号公報(以下「引用文献1」という。)は,本件出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,参考訳に対して付した下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「 」 (参考訳) <1> 本発明は,着色感光性樹脂組成物,カラーフィルター及びこれを具備した液晶表示装置並びに撮像素子に関する。 <2> カラーフィルターは,撮像素子,液晶ディスプレイ(LCD)などに広く利用されることで,その応用範囲が急速に拡がっている。カラー液晶表示装置や,撮像素子などに用いられるカラーフィルターは,通常,ブラックマトリクスがパターン形成された基板上に,赤色,緑色及び青色の各色に相当する顔料を含む着色感光性樹脂組成物を,スピンコーティングによって均一に塗布した後,加熱乾燥(以下「プリベーク」という場合もある。)して形成された塗膜を露光,現像して,必要に応じてさらに加熱硬化(以下「ポストベーク」という場合もある。)する操作を色ごとに繰り返して,各色の画素を形成することにより,製造されている。また,最近では,工程上の収率を向上させるために,少ない露光量においても,同等の感度と密着性を有する着色感光性樹脂組成物が要求されている。 <3> このような着色感光性樹脂組成物として,顔料及びバインダー樹脂とともに,光重合性化合物及び光重合開始剤を含む組成物が多く用いられている。また,ブラックマトリクスの形成においても,黒色顔料を含む感光性樹脂組成物が利用されている。このような感光性着色組成物には,耐光性に優れて色変化が少ない樹脂として,側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系樹脂が用いられている。例えば,側鎖にカルボキシル基を含むアクリル系樹脂,顔料及び多官能アクリレートを混ぜ合わせることにより得られた着色樹脂組成物が知られている。また,感度を高めるために,エポキシ基と不飽和2重結合を有する単量体の重合体に,不飽和カルボン酸を付加した後,カルボン酸無水物を付加させて得た反応性アクリル系樹脂を使用した,感光性樹脂組成物も知られている。 <4> しかしながら,従来,組成物を使用して画素を形成する場合,基板に形成した着色層は,少ない露光量では密着性が不足し,パターンを維持することができない短所を有している。これを克服するために,様々なタイプのシランカップリング剤が,添加剤として用いられている。このとき用いられるシランカップリング剤は,密着性向上にある程度は寄与するものの,他の感光性着色組成物との相溶性が良くなく,保存安全性が悪く,また,多量に用いても,要求される性能に及ぶことができなくて,高感度に適合した密着性を得るのには限界がある。 イ 「 」 (参考訳) <5> 本発明者は,上記したような問題が少ない,着色感光性樹脂組成物を見いだすべく検討した結果,特定の不飽和基含有バインダー樹脂,光重合開始剤及び有機シランモノマーを含む着色感光性樹脂組成物が,画素を形成するときにに現象残渣を発生させず,画素部に表面不良などを発生させず,感度,解像性,透明性,耐熱性,耐薬品性及び表面の平坦性が優れて,特に少ない露光量においても密着性が優れることを見いだし,本発明を完成するに至った。 <6> 本発明は,着色剤を含んでも高感度であり,密着性が優れた着色感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。 ウ 「 」 (参考訳) <9> 上記の目的を果たすため,本発明は, <10> バインダー樹脂,光重合性化合物,光重合開始剤,着色剤及び溶剤を含む着色感光性樹脂組成物であって,前記光重合性化合物は,下記化学式1の構造を有する有機シランモノマーを,前記光重合性化合物100重量部に対し1ないし95重量部含む,着色感光性樹脂組成物を提供する。 <11> <化学式1> <12> <13> (上記式において,nは0又は1であり,R^(1),R^(2)及びXはそれぞれ独立して炭素数1ないし12のアルキル基であり,R^(3)は光重合性ビニル基を一つ以上有する基である。) エ 「 」 (参考訳) <25> 以下,本発明をより詳細に説明する。 <26> 本発明による着色感光性樹脂組成物は,バインダー樹脂(A),光重合性化合物(B),光重合開始剤(C),着色剤(D)及び溶剤(E)を含む着色感光性樹脂組成物であって,前記光重合性化合物は,下記化学式1の構造を有する有機シランモノマー(B-1)を,前記光重合性化合物100重量部に対し1ないし95重量部で含むことを特徴とする。 <27> <化学式1> <28> <29> 上記式において,nは0又は1であり,R^(1),R^(2),Xはそれぞれ独立して炭素数1ないし12のアルキル基であり,R^(3)は光重合性ビニル基を一つ以上有する基である。R^(3)の光重合性ビニル基としては,光重合性結合可能なアクリレート,メタクリレート,ビニルエステル又はスチレンなどを挙げることができる。R^(3)は,これに限定されるものではないが,炭素数が2ないし50の範囲内の基であることが望ましく,エーテル結合,エステル結合などのヘテロ結合が部分的に存在しても良い。 <30> また,これに限定されるものではないが,その他成分として,添加剤(F)が溶剤(E)に溶解又は分散しているものが好ましい。 <31> バインダー樹脂(A) <32> 前記バインダー樹脂(A)は,通常,光や熱の作用による反応性及びアルカリ溶解性を有しており,着色剤の分散媒として作用するものである。 オ 「 」 (参考訳) <60> 光重合性化合物(B) <61> 本発明の着色感光性樹脂組成物に含有される光重合性化合物(B)は,光及び後述する光重合開始剤の作用によって,重合することができる化合物であって,有機シランモノマー(B-1)を含むことを特徴とする。また,単官能単量体,2官能単量体及びその他の多官能単量体(B-2)を,さらに含むことができる。 <62> 本発明の有機シランモノマーは,下記の化学式1で表すことができる。 <63> <化学式1> <64> <65> 上記式において,nは0又は1であり,R^(1),R^(2),Xはそれぞれ独立して炭素数1ないし12のアルキル基であり,R^(3)は光重合性ビニル基を一つ以上有する基である。R^(3)の光重合性ビニル基としては,光重合性結合可能なアクリレート,メタクリレート,ビニルエステル又はスチレンなどを挙げることができる。R^(3)は,これに限定されるものではないが,炭素数が2ないし50の範囲内の基であることが望ましく,エーテル結合,エステル結合などのヘテロ結合が部分的に存在しても良い。 <66> 具体例として,本発明の実施形態における前記化学式1のより具体的な構造式は,下記化学式2ないし7で示される。 <67> <化学式2> <68> <69> <化学式3> <70> <71> <化学式4> <72> <73> <化学式5> <74> <75> <化学式6> <76> <77> <化学式7> <78> <79> 本発明の実施形態において,光重合性化合物は,単官能単量体,2官能単量体,その外の多官能単量体を,さらに含むことができる(B-2)。 カ 「 」 (参考訳) <88> 光重合開始剤(C) <89> 本発明の着色感光性樹脂組成物に含有される光重合開始剤(C)は,これに限定されるものではないが,トリアジン系化合物,アセトフェノン系化合物,ビイミダゾール系化合物及びオキシム化合物からなる群から選択される,1種以上の化合物である。上記した光重合開始剤(C)を含む着色感光性樹脂組成物は,高感度で,この組成物を使用して形成される膜は,その画素部の強度や表面平滑性が良好になる。 キ 「 」 (参考訳) <128> 着色剤(D) <129> 本発明で用いられる着色剤(D)は,通常,顔料として顔料分散レジストに用いられる有機顔料又は無機顔料であることが望ましい。本発明においては,必要に応じて,染料を使用することもできる。 <130> 無機顔料としては,金属酸化物や金属錯塩などの金属化合物を含むことができ,具体的には,鉄,コバルト,アルミニウム,カドミウム,鉛,銅,チタン,マグネシウム,クロム,亜鉛,アンチモンなどの金属の酸化物又は複合金属酸化物などを挙げることができる。 <131> 前記有機顔料及び無機顔料として,具体的には,カラーインデックス(The Society of Dyers and Colourists 出版)において顔料として分類されている化合物を含むことができ,より具体的には,以下のようなカラーインデックス(C.I.)番号の顔料を有することができるが,必ずしもこれらに限定されるものではない。 <132> C.I.ピグメントイエロー20,24,31,53,83,86,93,94,109,110,117,125,137,138,139,147,148,150,153,154,166,173及び180 <133> C.I.ピグメントオレンジ13,31,36,38,40,42,43,51,55,59,61,64,65,及び71 <134> C.I.ピグメントレッド9,97,105,122,123,144,149,166,168,176,177,180,192,215,216,224,254,255及び264 <135> C.I.ピグメントバイオレット14,19,23,29,32,33,36,37及び38 <136> C.I.ピグメントブルー15(15:3,15:4,15:6),21,28,60,64及び76 <137> C.I.ピグメントグリーン7,10,15,25,36及び47 <138> C.Iピグメントブラウン28 <139> C.Iピグメントブラック1及び7 <140> これら着色剤(D)は,それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて,使用することができる。着色剤(D)の含有量は,着色感光性樹脂組成物中の全体固形分100重量部に対して,通常3ないし60重量部,望ましくは,5ないし55重量部の範囲である。着色剤(D)の含有量が上記の範囲内ならば,薄膜を形成しても画素の色濃度が十分で,現象時に非画素部の溶解性が低下することがなく,残渣が発生しにくいため,望ましい。 <141> 溶剤(E) <142> 本発明の着色感光性樹脂組成物に含有される溶剤(E)は,特に限定されることはなく,着色感光性樹脂組成物の分野で用いられている,各種有機溶剤を使用することができる。 ク 「 」 (参考訳) <147> 添加剤(F) <148> 本発明の着色感光性樹脂組成物には,必要に応じて,充填剤,他の高分子化合物,顔料分散剤,密着促進剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,凝集防止剤などの添加剤(F)を,併用することも可能である。 ケ 「 」 (参考訳) <156> 本発明の着色感光性樹脂組成物は,例えば,以下のような方法によって,製造することができる。まず,着色剤(D)をあらかじめ溶剤(E)と混合して,着色材料の平均粒径が0.2μm以下程度になるまで,ビーズミルなどを利用して,分散させる。このとき,必要に応じて顔料分散剤が用いられ,また,バインダー樹脂(A)の一部又は全部が配合される場合もある。得られた分散液(以下「ミルベース」という場合もある。)にバインダー樹脂(A)の残り,光重合性化合物(B)及び光重合開始剤(C),必要に応じて用いられるその外の成分,必要に応じて追加の溶剤を所定の濃度になるようにさらに添加して,目的とする着色感光性樹脂組成物が得られる。 <157> 以下,本発明による着色感光性樹脂組成物の,パターン形成方法を説明する。 <158> 本発明による着色感光性樹脂組成物のパターン形成方法は,前述の着色感光性樹脂組成物を基材上に塗布するステップ,前記着色感光性樹脂組成物の一部領域を選択的に露光するステップ,及び前記着色感光性樹脂組成物の露光領域又は非露光領域を除去するステップ,を含む。 コ 「 」 (参考訳) <188> <実施例> <189> <結合剤樹脂A-1合成例> <190> 撹拌機,温度計還流冷却管,滴下ロット及び窒素導入管を具備したフラスコに,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート182gを入れ,フラスコ内雰囲気を空気から窒素にして100℃に昇温した後,ベンジルメタクリレート70.5g(0.40モル),メタクリル酸43.0g(0.5モル),トリシクロデカン骨格モノメタクリレート(日立化成(株)製 FA-513M)22.0g(0.10モル)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート136gを含む混合物にアゾビスイソブチロニトリル3.6gを添加した溶液を,滴下ロットから2時間にわたってフラスコに滴下し,100℃で5時間さらに撹拌を続けた。続いて,フラスコ内雰囲気を窒素から空気に換え,グリシジルメタクリレート30g[0.2モル,(本反応に使用したメタクリル酸のカルボキシル基に対して50モル%)],トリスジメチルアミノメチルフェノール0.9g及びハイドロキノン0.145gをフラスコ内に投入し,110℃で6時間反応を続け,固形分酸価が94mgKOH/gである樹脂Aを得た。GPCによって測定した,ポリスチレン換算の重量平均分子量は30,000で,分子量分布(Mw/Mn)は2.1だった。 サ 「 」 (参考訳) <204> <多官能アクリレートシリコーン化合物B-1合成例> <205> 多官能アクリレートシリコーン化合物単量体(B-1)の合成は,30ないし110℃のジペンタエリストールペンタアクリレート90.45重量部を,3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート50重量部及びジブチル錫ジラウレート0.2重量部の溶液に,30分間かけてゆっくり添加した。温度を60℃に上げて,3時間撹拌した。この反応物は,赤外線吸収スペクトラムで分析した結果,イソシアネート基の2266.1cm^(-1)の吸収が全くみられず,反応が終了していることを確認した。 <206> <実施例1> <207> 下記表1に記載した各成分中,あらかじめ着色剤(D)である顔料及び添加剤(F)である顔料分散剤の合計量が,顔料,顔料分散剤及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに対して20重量%の混合物を,ビーズミルを利用してできるだけ混合し顔料を十分に分散させた後,ビーズミルを分離して,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの残量である残り成分をさらに添加して,混合して着色感光性樹脂組成物を得た。 <208> 2平方インチのガラス基板(コーニング社製造,#1737)を,中性洗剤,水及びアルコールで順に洗浄してから,乾燥した。この硝子基板上に,前記着色感光性樹脂組成物(表1)を100mJ/cm^(2)の露光量(365nm)で露光して,現象工程を経ない場合におけるポストベーク後の膜厚が,1.9μmになるようにスピンコーティングし,続いて,不活性雰囲気下のオーブン中100℃で3分間予備乾燥した。冷却後,この着色感光性樹脂組成物を塗布した基板と石英ガラス製フォトマスク(透過率を1ないし100%の範囲でステップ状に変化させたパターンと,1μmで50μmまでのライン/スペースパターンを有している。)の間隔を100μmとして,ウシオ電気(株)製の超高圧水銀ランプ(商品名USH-250D)を用いて大気雰囲気下において100mJ/cm^(2)の露光量(365nm)で露光した。その後,非イオン系界面活性剤0.12%と水酸化カリウム0.06%を含む水系現像液に,前記塗膜を26℃で所定時間浸漬して現像し,水洗後,220℃で30分間乾燥した。得られた画素部の表面に,荒さは観察されなかった。また,非画素部において,基板上に現象残渣は発生していなかった。そして,パターンエラーがない薄膜を現像により形成するために必要な,最低必要露光量は,50mJ/cm^(2)だった。 <209> <表1> <210> シ 「 」 (参考訳) <217> <実施例4> <218> 表1に記載した実施例1において,光重合性化合物(B)の成分比を,表1に記載したとおり変更した以外は,実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示した。 ス 「 」 (参考訳) <241> 本発明によると,着色材料を含んでも高感度の着色感光性樹脂組成物を提供することができる。前述の着色感光性樹脂組成物を利用して画素を形成しても,基板上に現象残渣は発生せず,画素部に表面不良なども発生せず,感度,解像性,透明性,耐熱性,耐薬品性及び表面の平坦性が優れて,特に少ない露光量においても感度と密着性に優れた着色感光性樹脂組成物を提供することができる。 (2) 引用発明 引用文献1の<210>の<表1>には,実施例4として,「着色剤(D)としてのC.I.ピグメントグリーン36が5.28重量部,着色剤(D)としてのC.I.ピグメントイエロー150が2.97重量部,バインダー樹脂(A)としての反応性樹脂(A-1)が4.56重量部,光重合性化合物(B)としての有機シランモノマー(B-1)が3重量部,光重合性化合物(B)としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(B-2)が2.57重量部,光重合開始剤(C)としての2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1(4-モルフォリノフェニル)ブタノンが0.81重量部,光重合開始剤(C)としての4,4’-ビス(N,N’-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンが0.81重量部,溶剤(E)としてのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが78重量部,添加剤(F)としての顔料分散剤が1.7重量部,及び添加剤(F)としてのエポキシ樹脂が0.3重量部からなる感光性樹脂組成物」が記載されている。 ここで,上記「バインダー樹脂(A)としての反応性樹脂(A-1)」は,引用文献1の<190>の記載からみて,「ベンジルメタクリレート,メタクリル酸及びトリシクロデカン骨格モノメタクリレートの共重合体に,グリシジルメタクリレートを反応させてなる,固形分酸価が94mgKOH/gの樹脂」と理解される。また,上記「光重合性化合物(B)としての有機シランモノマー(B-1)」は,引用文献1の<205>の記載からみて,「3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートを反応させて得られた,次の【化6】式で表される化合物」と理解される。 【化6】 加えて,この感光性樹脂組成物は,引用文献1の<241>の記載からみて,「特に少ない露光量においても感度と密着性に優れた着色感光性樹脂組成物」と理解される。 そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「 着色剤(D)としてのC.I.ピグメントグリーン36が5.28重量部,着色剤(D)としてのC.I.ピグメントイエロー150が2.97重量部,バインダー樹脂(A)としての反応性樹脂(A-1)が4.56重量部,光重合性化合物(B)としての有機シランモノマー(B-1)が3重量部,光重合性化合物(B)としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(B-2)が2.57重量部,光重合開始剤(C)としての2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1(4-モルフォリノフェニル)ブタノンが0.81重量部,光重合開始剤(C)としての4,4’-ビス(N,N’-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンが0.81重量部,溶剤(E)としてのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが78重量部,添加剤(F)としての顔料分散剤が1.7重量部,及び添加剤(F)としてのエポキシ樹脂が0.3重量部からなる感光性樹脂組成物であって, バインダー樹脂(A)としての反応性樹脂(A-1)は,ベンジルメタクリレート,メタクリル酸及びトリシクロデカン骨格モノメタクリレートの共重合体に,グリシジルメタクリレートを反応させてなる,固形分酸価が94mgKOH/gの樹脂であり, 光重合性化合物(B)としての有機シランモノマー(B-1)は,3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートを反応させて得られた,次の【化6】式で表される化合物であり, 【化6】 特に少ない露光量においても感度と密着性に優れた着色感光性樹脂組成物。」 (3) 対比,一致点及び相違点 ア 対比 引用発明の「着色感光性樹脂組成物」は,「着色剤(D)としてのC.I.ピグメントグリーン36が5.28重量部,着色剤(D)としてのC.I.ピグメントイエロー150が2.97重量部,バインダー樹脂(A)としての反応性樹脂(A-1)が4.56重量部,光重合性化合物(B)としての有機シランモノマー(B-1)が3重量部,光重合性化合物(B)としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(B-2)が2.57重量部,光重合開始剤(C)としての2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1(4-モルフォリノフェニル)ブタノンが0.81重量部,光重合開始剤(C)としての4,4’-ビス(N,N’-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンが0.81重量部,溶剤(E)としてのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが78重量部,添加剤(F)としての顔料分散剤が1.7重量部,及び添加剤(F)としてのエポキシ樹脂が0.3重量部からなる」。また,引用発明の「反応性樹脂(A-1)」は,「ベンジルメタクリレート,メタクリル酸及びトリシクロデカン骨格モノメタクリレートの共重合体に,グリシジルメタクリレートを反応させてなる,固形分酸価が94mgKOH/gの樹脂であ」る。 ここで,上記「バインダー樹脂(A)としての反応性樹脂(A-1)」は,その材料及び固形分酸価の値からみて,アルカリ可溶性を示す樹脂である(当合議体注:<32>の記載からも確認される事項である。)。また,上記「光重合性化合物(B)としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(B-2)」,「光重合開始剤(C)としての2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1(4-モルフォリノフェニル)ブタノン」,「着色剤(D)としてのC.I.ピグメントグリーン36」,「着色剤(D)としてのC.I.ピグメントイエロー150」,「添加剤(F)としての顔料分散剤」及び「光重合性化合物(B)としての有機シランモノマー(B-1)」は,いずれも,その文言から理解されるとおりの材料である。 そうしてみると,引用発明の「バインダー樹脂(A)としての反応性樹脂(A-1)」,「光重合性化合物(B)としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(B-2)」,「光重合開始剤(C)としての2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1(4-モルフォリノフェニル)ブタノン」,「着色剤(D)としてのC.I.ピグメントグリーン36」,「着色剤(D)としてのC.I.ピグメントイエロー150」,「添加剤(F)としての顔料分散剤」及び「光重合性化合物(B)としての有機シランモノマー(B-1)」は,それぞれ本件補正後発明の「アルカリ可溶性樹脂(a)」,「光重合性モノマー(b)」,「光重合開始剤(c)」,「色材(d)」,「色材(d)」,「分散剤(e)」及び「有機ケイ素化合物(f)」に相当する。また,引用発明の「着色感光性樹脂組成物」は,本件補正後発明の「感光性樹脂組成物」に相当するとともに,「アルカリ可溶性樹脂(a),光重合性モノマー(b),光重合開始剤(c),色材(d),分散剤(e)及び有機ケイ素化合物(f)を含む」との要件を満たす。 イ 一致点 本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。 「 アルカリ可溶性樹脂(a),光重合性モノマー(b),光重合開始剤(c),色材(d),分散剤(e)及び有機ケイ素化合物(f)を含む感光性樹脂組成物。」 ウ 相違点 本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。 (相違点1) 「色材(d)」が,本件補正後発明は,「黒色顔料であり,色材(d)の含有量が全固形分量に対して45質量%以上であ」るのに対して,引用発明は,「黒色顔料」ではなく,「色材(d)の含有量が全固形分量に対して45質量%以上で」もない(37.5重量%と計算される)点。 (相違点2) 「有機ケイ素化合物(f)」が,本件補正後発明は,「少なくとも下記一般式(1)で表される構造を有する有機ケイ素化合物(f-1)を含有し」,「有機ケイ素化合物(f-1)が,下記一般式(2)で表される有機ケイ素化合物を含」むのに対して,引用発明は,「下記一般式(1)で表される構造を有する有機ケイ素化合物(f-1)を含有し」ない点。 (当合議体注:「下記一般式」については,前記1(2)を参照。) (4) 判断 相違点についての判断は,以下のとおりである。 ア 相違点1について 引用文献1の<1>?<6>及び<9>?<13>の記載からみて,引用文献1でいう「本発明」の「着色感光性樹脂組成物」は,カラーフィルターへの利用のみならず,ブラックマトリクスの形成のための,黒色顔料を含む感光性樹脂組成物への利用をも考慮したものと理解される。 (当合議体注:この点は,引用文献1の<139>において,「着色剤(D)」として「C.Iピグメントブラック1及び7」が例示されていることからも確認される。) また,引用文献1の<140>には,着色感光性樹脂組成物中の全体固形分100重量部に対する,「着色剤(D)」の望ましい含有量の上限値として,55重量部が示されている。また,この値は,着色剤の添加にあたり,通常用いられている添加割合の範囲にすぎない。 (当合議体注:この点は,特開平10-133370号公報の【0021】及び【0024】,特開2010-204363号公報の【0039】及び【0060】,特開2008-203841号公報の【0070】及び【0239】,特開平9-43412号公報の【0021】及び【0084】,特開平9-33717号公報の【0019】及び【0047】,特開2009-288703号公報の【0017】及び【0196】?【0201】等の記載からも確認される事項である。) そうしてみると,引用発明の「着色剤(D)」を黒色顔料に替えるとともに,全固形分量に対する含有量を,引用発明の37.5重量部から45質量%以上にまで引き上げることは,引用文献1の示唆に基づいて当業者が適宜調整し得る範囲内の事項といえる。 なお,「着色剤(D)」の含有量の調整は,通常,他の成分の見直しを伴うと考えられる。しかしながら,引用発明の「着色感光性樹脂組成物」に含まれる各成分は,着色感光性樹脂組成物において通常含まれる成分(バインダー樹脂(A)等)又は引用発明の特徴をなす成分(有機シランモノマー(B-1))であるから,当業者ならば,前記(3)イで述べた一致点が相違点となるような見直しまでは行わないと考えられる。 イ 相違点2について 引用発明の「【化6】式で表される化合物」は,引用文献1の<63>?<65>に記載された<化学式1>で表される有機シランモノマーの具体例と理解されるところ,引用文献1の<67>?<70>には,相違点2に係る本件補正後発明の要件を満たす有機シランモノマーも,例示されている。 そうしてみると,引用発明の「【化6】式で表される化合物」に替えて,あるいはこれと併せて,引用文献1の<67>?<70>に記載の有機シランモノマーを採用することは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項である。 (5) 発明の効果について 本件補正後発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0024】には,「本発明によれば,高色材濃度の場合や,高微細化の場合において,室温下及び高温高湿下における基板密着性が良好となる,感光性樹脂組成物を提供することができる。」と記載されている。 しかしながら,このような効果は,引用文献1の<1>?<6>の記載及び<60>?<79>に記載の有機シランモノマーの構造から予測可能な範囲内の効果である。すなわち,引用文献1に記載された有機シランモノマーは,基板との密着に寄与するアルコキシシリル基を有し,かつ光重合性化合物としても機能する化合物であるから,その結合力の強さからみて,「着色剤(D)」の含有量が多くても,また,高温高湿下であっても,基板との密着性や硬化性が確保されると予測される。 (6) 請求人の主張について 審判請求人は,審判請求書の3.(16頁?)において,高温高湿下における基板密着性に関する課題の欠如を指摘して,引用発明において,本件補正後発明の態様を採用することを容易に想到することはできず,また,その効果を予測することもできないと主張する。 しかしながら,当業者ならば,前記(3)で述べたとおり容易推考することにより,本件補正後発明の構成に到るといえる。また,本件補正後発明の効果については,前記(5)で述べたとおりである。 なお,本件補正後発明は,基板密着性に大きく左右すると考えられる,一般式(2)で表される有機ケイ素化合物や,これに準ずる一般式(1)で表される有機ケイ素化合物(f-1)の含有量を何ら規定しないものであり,本件出願の明細書の【0407】及び【0408】に記載の基準において,良い評価結果が得られるとは限らない態様を含む。 (当合議体注:「一般式(1)」や「一般式(2)」で表されない「有機ケイ素化合物(f)」はアルコキシ基を具備するとは限らない。また,「一般式(2)」で表される「有機ケイ素化合物(f)」のR^(1)-O-の選択肢には,引用発明のエトキシ基よりも加水分解反応性が高いとはいえないものも含まれる。) (7) 小括 本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定のむすび 本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり,決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項5に係る発明(請求項1及び請求項2を引用するもの)は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。 2 原査定の拒絶の理由 本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献1:韓国公開特許第10-2008-0035918号公報 3 引用文献1及び引用発明 引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,同1(3)で述べた限定事項[A]及び[B]を除いたものである。また,本願発明の構成を全て具備し,これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2(3)?(7)で述べたとおり,引用文献1に記載された発明に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 そうしてみると,本願発明も,引用文献1に記載された発明に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-01-08 |
結審通知日 | 2021-01-12 |
審決日 | 2021-02-09 |
出願番号 | 特願2018-93107(P2018-93107) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03F)
P 1 8・ 575- Z (G03F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 塚田 剛士 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
植前 充司 樋口 信宏 |
発明の名称 | 感光性樹脂組成物、これを硬化させてなる硬化物、ブラックマトリックス及び画像表示装置 |
代理人 | 伏見 俊介 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |
代理人 | 大浪 一徳 |