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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1372631
審判番号 不服2020-1244  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-29 
確定日 2021-03-31 
事件の表示 特願2018- 26810「RFを使用する位置特定のための部分的に同期化されたマルチラテレーションまたは三辺測量方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月12日出願公開、特開2018-109639〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)10月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年(平成26年)10月24日 米国)を国際出願日として出願された特願2017-522391号の一部を平成30年2月19日に新たな特許出願(外国語書面出願)としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月19日 :翻訳文、上申書、手続補正書の提出
平成30年 4月 2日 :手続補正書の提出
平成30年11月28日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 9月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年10月 1日 :原査定の謄本の送達
令和 2年 1月29日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年1月29日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲についての補正であって、本件補正前(平成31年4月26日付け手続補正書による補正の後をいう。以下同じ。)及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)

(1)本件補正前
「【請求項1】
無線システムにおいて放射器アンテナの位置を決定するための方法であって、前記方法は、
少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットを所定信号の受信範囲内において既知の位置をそれぞれ有するように配備することを含み、前記受信範囲が、前記放射器アンテナにより送信された1つ以上のDLOS(direct line of site)基準信号と、前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットにより受信した基準信号の1つ以上の反射された基準信号とを受信可能な範囲であり、
前記方法は、
前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々において、前記放射器アンテナにより送信された1つ以上のDLOS基準信号のうちのあるDLOS基準信号と、前記1つ以上の反射された基準信号とを受信することと、
前記1つ以上のDLOS基準信号を前記1つ以上の反射された基準信号から分離して前記1つ以上のDLOS基準信号を識別することとを含み、前記1つ以上のDLOS基準信号のうちのあるDLOS基準信号の信号強度が、前記1つ以上の反射された基準信号のうちのある反射された基準信号の信号強度より小さく、
前記方法は、
前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々によって受信した前記基準信号から、前記放射器アンテナの前記位置を示すデータを収集することと、
前記収集したデータを分析して、前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々の前記既知の位置と比較して前記放射器アンテナの前記位置を決定することと、を含む、方法。」

(2)本件補正後
「【請求項1】
無線システムにおいて放射器アンテナの位置を決定するための方法であって、前記方法は、
少なくとも3つの携帯型のアンテナ位置校正ユニットを所定信号の受信範囲内において既知の位置をそれぞれ有するように配備することを含み、前記受信範囲が、前記放射器アンテナにより送信された1つ以上のDLOS(direct line of site)基準信号と、前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットにより受信した基準信号の1つ以上の反射された基準信号とを受信可能な範囲であり、
前記方法は、
前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々において、前記放射器アンテナにより送信された1つ以上のDLOS基準信号のうちのあるDLOS基準信号と、前記1つ以上の反射された基準信号とを受信することと、
前記1つ以上のDLOS基準信号を前記1つ以上の反射された基準信号から分離して前記1つ以上のDLOS基準信号を識別することとを含み、前記1つ以上のDLOS基準信号のうちのあるDLOS基準信号の信号強度が、前記1つ以上の反射された基準信号のうちのある反射された基準信号の信号強度より小さく、
前記方法は、
前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々によって受信した前記基準信号から、前記放射器アンテナの前記位置を示すデータを収集することと、
前記収集したデータを分析して、前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々の前記既知の位置と比較して前記放射器アンテナの前記位置を決定することと、を含む、方法。」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した事項である「少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニット」について、「携帯型の」との記載を追加して、その態様を限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討を行う。

3 独立特許要件についての判断
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)引用文献
以下に示す引用文献1及び引用文献2は、原査定の拒絶の理由に引用された文献であり、引用文献3及び引用文献4は、周知技術を示すために当合議体が新たに引用する文献である。
引用文献1から4の公開日は、いずれも本願の優先日より前である。

引用文献1:特開2013-181876号公報
引用文献2:国際公開第2014/093400号
引用文献3:特開2013-003047号公報
引用文献4:特開2012-255680号公報

(3)引用文献に記載された発明等
ア 引用文献1
(ア)引用文献1には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「【0009】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係るアンテナ位置検出装置について図面を参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る位置検出装置の構成を示す図である。なお、以降の各図中の同一符号は、同一又は相当部分を示す。また、アンテナ10に接続される通信処理などの無線通信システムとしての機能部分については図示を省略しており、各図においては、この発明に必要な部分のみを記載している。
【0010】
図1に示すように、本実施の形態1に係るアンテナ位置検出装置においては、アンテナ10、タイミング制御部11、連続波生成部12、および、周波数制御部13が設けられ、それらは送信系を構成している。なお、アンテナ10は、本実施の形態1に係るアンテナ位置検出装置における位置検出対象(位置測定対象)である。また、周波数制御部13は、使用周波数帯域内の異なるN個の周波数を順次指定する。連続波生成部12は、当該指定されたN個の周波数をそれぞれ有するN個の連続波(CW波:Continuous Wave)を生成する。タイミング制御部11は、アンテナ10から前記N個の連続波を個別に送信するための時間を制御する。アンテナ10は当該制御に基づき前記N個の連続波を順次送信する。
【0011】
また、図1に示すように、実施の形態1に係るアンテナ位置検出装置においては、K個の校正用アンテナ20(20-1、20-2、…、20-3)と、K個の積算部21(21-1、21-2、…、21-3)と、K個の相関処理部22(22-1、22-2、…、22-3)と、K個の到来時間推定部23(23-1、23-2、…、23-3)と、1個の位置推定部24が設けられ、それらは受信系を構成している。なお、図1に示すように、1つの校正用アンテナ20-1に、1つの積算部21-1が接続され、さらに、それに、1つの相関処理部22-1が接続され、さらに、それに、1つの到来時間推定部23-1が接続されている。このように、校正用アンテナ20、積算部21、相関処理部22、および、到来時間推定部23は、各1つずつが直列に接続されて、のべK個の組を構成している。K個の組の最後段に設けられた到来時間推定部23は、それぞれ、位置推定部24に接続されている。
【0012】
各校正用アンテナ20(20-1、20-2、…、20-3)は、それぞれ、既知の位置に互いに離間して配置され、アンテナ10から送信されたN個の連続波をそれぞれ別個に受信する。各積算部21(21-1、21-2、…、21-3)は、それに接続された各校正用アンテナ20(20-1、20-2、…、20-3)で受信した前記N個の連続波を、それぞれ蓄積し、その総和を演算する。各相関処理部22(22-1、22-2、…、22-3)は、それに接続された各積算部21(21-1、21-2、…、21-3)の出力信号を用いて、参照信号との相関演算を行う。当該参照信号については後述する。各到来時間推定部23(23-1、23-2、…、23-3)は、それに接続された各相関処理部22(22-1、22-2、…、22-3)の出力信号を用いて、アンテナ10から校正用アンテナ20に到来した信号の到来時間を推定する。位置推定部24は、各到来時間推定部23(23-1、23-2、…、23-3)で求めた到来時間を受信し、それらの到来時間に基づいて、アンテナ10の位置を推定する。
【0013】
また、図1に示すように、実施の形態1に係るアンテナ位置検出装置においては、送信系と受信系との間に、同期用制御信号発生部15が設けられている。同期用制御信号発生部15は、送信系と受信系との同期をとるための同期用制御信号を、送信系のタイミング制御部11と受信系の各積算部21(21-1、21-2、…、21-3)とに出力する。なお、図1では、積算部21-1から積算部21-2へ矢印が引かれ、同じく、積算部21-2から積算部21-3へ矢印が引かれているが、これは図示を簡単にするためで、実際には、同期用制御信号発生部15からの同期用制御信号が、各積算部21(21-1、21-2、…、21-3)のそれぞれに直接かつ同時に入力される(図4においても同様である)。
【0014】
まず、送信系の動作について説明する。この発明の本実施の形態1に係るアンテナ位置検出装置の送信系においては、まず、予め定められた手順で、周波数制御部13が、使用周波数範囲(使用周波数帯域)および搬送波数に基づいて、アンテナ10から送信する連続波の周波数値を設定し、当該周波数値を連続波生成部12に出力する。連続波生成部12では、前記周波数値に基づき、当該周波数値を搬送波周波数とする連続波を発生させる。当該連続波は、連続波生成部12から出力され、タイミング制御部11に入力される。タイミング制御部11は、同期用制御信号発生部15からの同期用制御信号に合わせて、連続波生成部12で生成された連続波をアンテナ10から放射する時間(送信時間)を制御する。これにより、アンテナ10は、当該タイミング制御部11で制御されたタイミングで、前記連続波を空中に放射する。この一連の送信手順を決められた回数(N回)繰り返す。」

「【0017】
次に、受信系の動作について説明する。この発明の実施の形態1に係るアンテナ位置検出装置の受信系においては、まず、上述の送信系においてアンテナ10から放射されるN個の各連続波を、K個の校正用アンテナ20(20-1、20-2、…、20-3)でそれぞれ受信する。これらのK個の校正用アンテナ20(20-1、20-2、…、20-3)で受信した受信信号は、それぞれ、それに対応するK個の積算部21(21-1、21-2、…、21-3)に順次入力される。
【0018】
K個の積算部21(21-1、21-2、…、21-3)では、それぞれ、入力された受信信号をN個分蓄積し、それらを積算した信号を生成する。この積算部21(21-1、21-2、…、21-3)の動作は、同期用制御信号発生部15からの同期用制御信号に合わせることにより、送信系のタイミング制御部11と同期して行われる。従って、積算部21(21-1、21-2、…、21-3)により得られた出力信号の周波数成分としては、図2(b)のようなマルチキャリア信号が得られることになる。このようなマルチキャリア信号を送信系で直接生成すると、複雑な時間波形となり、振幅は大きく変動する。いわゆるピーク対平均電力比(PAPR:Peak to Average Power Ratio)が問題となり、増幅器など送信系の線形性に注意が必要となる。一方、この発明においては定包絡線かつ単一周波数の連続波を時分割で送信して、受信系側でそれらの総和あるいは平均をとることにより、等価的に所定の周波数帯域幅を有するマルチキャリア信号と等価な距離分解能を得ることができる。
【0019】
K個の相関処理部22(22-1、22-2、…、22-3)は、送信系で設定した周波数配置となるマルチキャリア信号を参照信号として、当該参照信号とそれに対応するK個の積算部21(21-1、21-2、…、21-3)の出力信号との相関演算により相互相関値を求める。この相互相関出力のピーク値を検出することで、直接波や反射波などの各到来波成分が距離分解能に応じて分離される。つまり、アンテナ10と校正用アンテナ20との間の伝搬路における遅延プロファイルが、K個の校正用アンテナ20毎に得られることになる。
【0020】
つぎに、K個の到来時間推定部23(23-1、23-2、…、23-3)は、それに接続された各相関処理部22(22-1、22-2、…、22-3)から出力された相互相関値(遅延プロファイル)をもとに、直接波の到来時間を推定する。最も簡単な方法としては、遅延プロファイルにおいて最も電力の大きな点の時間を直接波の到来タイミングとして検出することである。これらのK個の到来時間推定部23(23-1、23-2、…、23-3)で推定された各直接波の到来時間は、すべて、位置推定部24に入力される。なお、直接波の到来時間の推定方法は、ここで記載した方法に限定されるものではなく、既存の任意の方法を用いてよいことは言うまでもない。
【0021】
最後に、位置推定部24においては、各校正用アンテナ20(20-1、20-2、…、20-3)に対応する到来時間推定部23(23-1、23-2、…、23-3)で得られた複数の到来時間情報から、アンテナ10の位置を検出する。少なくとも3つの到来時間情報があれば、いわゆる三角測量の原理により位置の推定が可能となる。従って、上記の説明における受信系のK個は3個以上(K≧3)であることが望ましい。」

「【0023】
図3に、この発明の本実施の形態1に係るアンテナ位置検出装置の動作フロー(アンテナ位置検出方法)を示す。図3に示すように、本実施の形態1に係るアンテナ位置検出装置は、まず、周波数制御部13により、利用する周波数範囲や搬送波数に基づいて、アンテナ10から送信される搬送波の周波数(周波数値)を設定する(ステップS101)。次に、この値に基づき、連続波生成部12により、連続波を生成する(ステップS102)。次に、同期用制御信号発生部15から発生される同期用制御信号を用いて、タイミング制御部11により、送信系と受信系の動作を同期させる前記連続波の送信タイミング制御を行い、アンテナ10から前記連続波を一定時間送信する(ステップS103)。次に、受信系において、この連続波を、校正用アンテナ20で順次受信し、積算部21で一定時間蓄積する(ステップS104)。その後、ステップS102に戻り、この手順を複数回(図ではN-1回)繰り返し、受信信号を(図ではN個分)蓄積し、それらを積算した信号を生成する(ステップS104)。こうして複数回繰り返した後、相関処理部22により、積算した信号と送信側で設定したマルチキャリア信号(参照信号)との相関演算を行う(ステップS105)。次に、到来時間推定部23により、その相互相関の振幅最大値(ピーク)を検出する(ステップS106)。次に、位置推定部24により、検出されたピークの時刻、すなわち、遅延プロファイルから、直接波の遅延時間を推定する(ステップS107)。この遅延時間の推定は各校正用アンテナ20毎にそれぞれ実行される。次に、位置推定部24により、到来時間推定部23で推定された遅延時間の推定値のうちの3つ以上の遅延時間の推定値を用いて、アンテナ10の位置を推定する(ステップS108)。」

「【0026】
また、校正用アンテナ20は3箇所以上(K≧3)に配置することが望ましく、その場合には、それぞれの校正用アンテナ20で受信した連続波により到来時間を推定して、当該3以上の推定結果を位置推定部24への入力とするので、位置推定部24では、三角測量の原理による位置の推定が可能であり、精度高く、位置推定を行うことができる。」

「【図1】




(イ)引用文献1の前記(ア)の記載をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「無線通信システムにおいてアンテナ10の位置を検出するアンテナ位置検出方法であって(【0009】、【0023】)、
K個の校正用アンテナ20をそれぞれ既知の位置に離間して3箇所以上(K≧3)配置することと(【0012】、【0026】)、
アンテナ10から連続波を送信することと(【0014】、【0023】の「ステップS103」)、
連続波をK個の校正用アンテナ20で受信し、受信信号を積算部21で積算することと(【0017】、【0018】、【0023】の「ステップS104」)、
積算した信号と参照信号との相関演算を相関処理部22で行い、相互相関のピークを検出することで直接波と反射波を分離し、遅延プロファイルにおける最も電力の大きな点から直接波の到来時間を到来時間推定部23で推定することと(【0019】、【0020】、【0023】の「ステップS105?S107)、
直接波の到来時間をすべて位置推定部24に入力することと(【0020】)、
三角測量の原理により、少なくとも3つの到来時間情報からアンテナ10の位置を位置推定部24で検出することと(【0021】、【0023】の「ステップS108」)、
を含む方法。」

イ 引用文献2
(ア)引用文献2には、以下の記載がある。翻訳文は、引用文献2(国際公開第2014/093400号)の公表特許公報である特表2016-508217号公報に依り、参照を容易にするため、公表特許公報の段落番号も記してある。ただし、明らかな誤訳は当合議体で修正した。下線は、当合議体が付した。

「[0002] The present embodiment relates to wireless communications and wireless networks systems and systems for a Radio Frequency (RF)-based identification, tracking and locating of objects, including RTLS (Real Time Locating Service).」
「【0002】
本実施形態は、無線通信および無線ネットワークのシステム、およびRTLS(リアルタイム位置検出サービス)を含む、対象の、無線周波数(RF)ベースの同定、追跡、位置検出のためのシステムに関する。」

「[0005] Although, at VHF and lower frequencies the multi-path phenomena (e.g., RF energy reflections), is less severe than at UHF and higher frequencies, the impact of the multi-path phenomena on location-finding accuracy makes location determination less reliable and precise than required by the industry. Accordingly, there is a need for a method and a system for mitigating the effects of the RF energy reflections (i.e., multi-path phenomena) in RF-based identification and location-finding systems that are employing narrow-band ranging signal(s).」
「【0005】
VHFおよびより低い周波数でのマルチパス現象(例えば、RFエネルギー反射)は、UHFおよびより高い周波数よりも深刻ではないが、位置検出精度へのマルチパス現象の影響によって、位置判定は、産業によって必要とされるよりも、信頼性がなく且つ不正確なものになっている。したがって、狭帯域レンジング信号を利用しているRFベースの同定および位置検出のシステムにおいてRFエネルギー反射(即ち、マルチパス現象)の影響を緩和するための方法およびシステムが必要とされている。」

「[0016] Accordingly, there is a need in the art for more accurate and reliable tracking and locating capability for wireless networks, which can be achieved through multipath mitigation technology.」
「【0016】
したがって、当該技術分野において、マルチパス緩和技術によって達成され得る、無線ネットワークのためのより正確且つ信頼性のある追跡および位置検出の性能が必要とされている。」

「[0079] Typically, tracking and location systems employ Track-Locate-Navigate methods. These methods include Time-Of-Arrival (TOA), Differential-Time-Of-Arrival (DTOA) and combination of TOA and DTOA. Time-Of-Arrival (TOA) as the distance measurement technique is generally described in U.S. Patent No. 5,525,967. A TOA/DTOA- based system measures the RF ranging signal Direct-Line-Of-Site (DLOS) time-of-flight, e.g., time-delay, which is then converted to a distance range.」
「【0054】
典型的に、追跡および位置検出のシステムは、追跡-位置検出-ナビゲート(Track-Locate-Navigate)の方法を利用する。これらの方法は、到着時間(TOA)、微分到着時間(Differential-Time-Of-Arrival)(DTOA)、およびTOAとDTOAの組み合わせを含む。測距技術としての到着時間(TOA)は、米国特許第5,525,967号に一般に記載されている。TOA/DTOAベースのシステムは、RFレンジング信号の直接見通し線(DLOS)の飛行時間、例えば、時間遅延を測定し、これはその後、距離範囲に変換される。」

「[0080] In case of RF reflections (e.g., multi-path), multiple copies of the RF ranging signal with various delay times are superimposed onto the DLOS RF ranging signal. A track- locate system that uses a narrow bandwidth ranging signal cannot differentiate between the DLOS signal and reflected signals without multi-path mitigation. As a result, these reflected signals induce an error in the estimated ranging signal DLOS time-of-flight, which, in turn, impacts the range estimating accuracy.」
「【0055】
RF反射(例えば、マルチパス)の場合には、様々な遅延時間を有するRFレンジング信号の複数のコピーが、DLOS RFレンジング信号上に重畳される。狭帯域幅レンジング信号を使用する追跡-位置検出のシステムは、マルチパス緩和なしでDLOS信号と反射信号を識別することができない。結果として、これらの反射信号は、推定されたレンジング信号DLOの飛行時間の誤差を誘発し、次に、範囲推定精度に影響を与える。」

「[0081] The embodiment advantageously uses the multi-path mitigation processor to separate the DLOS signal and reflected signals. Thus, the embodiment significantly lowers the error in the estimated ranging signal DLOS time-of-flight. The proposed multi-path mitigation method can be used on all RF bands. It can also be used with wide bandwidth ranging signal location-finding systems. And it can support various modulation/demodulation techniques, including Spread Spectrum techniques, such as DSS (Direct Spread Spectrum) and FH (Frequency Hopping).」
「【0056】
本実施形態は、DLOS信号と反射信号を分離するために、マルチパス緩和プロセッサーを好都合に使用する。したがって、本実施形態は、推定されたレンジング信号DLOSの飛行時間の誤差を著しく低下させる。提案されるマルチパス緩和方法は、すべてのRFバンド上で使用され得る。これはまた、広帯域幅レンジング信号の位置検出システムとともに使用され得る。これはまた、DSS(直接拡散スペクトル)およびFH(周波数ホッピング)などの、拡散スペクトル技術(SpreadSpectrum techniques)を含む、様々な変調/復調技術を支持することができる。」

「[0320] The embodiments advantageously use the multi-path mitigation processor/algorithms (see co-pending application No. 12/502,809) that allow separating the DLOS signal and reflected signals, even when DLOS signal is significantly attenuated (10dB - 20dB lower) relatively to one or more reflected signals. Thus, the embodiments significantly lower the error in the estimated ranging signal DLOS time-of-flight and consequently TOA, RTT and DTOA measurements. The proposed multi-path mitigation and DLOS differentiating (recognizing) method can be used on all RF bands and wireless systems/networks. And it can support various modulation/demodulation techniques, including Spread Spectrum techniques, such as DSS (Direct Spread Spectrum) and FH (Frequency Hopping).」
「【0414】
本実施形態は、DLOS信号が、1つ以上の反射信号と比較して、著しく減衰される(10dB-20dB低い)ときであえ、DLOS信号と反射された信号の分離を可能にするマルチパス緩和のプロセッサー/アルゴリズムを好適に使用する(同時係属中の出願第12/502,809号を参照)。したがって、本実施形態は、推測されるレンジング信号DLOSの飛行時間および結果的にTOA、RTTおよびDTOAの測定における誤差を著しく減少させる。提案されるマルチパス緩和およびDLOSの識別(認識)方法は、すべてのRFバンドおよび無線システム/ネットワーク上で使用され得る。また、これは、DSS(直接拡散スペクトル)およびFH(周波数ホッピング)などの、拡散スペクトル技術を含む、様々な変調/復調技術を支持することができる。」

「[0331] To overcome the abovementioned limitations the embodiments use a unique combination of implementations of subspace decomposition high resolution spectral estimation methodologies and multimodal cluster analysis. This analysis and related multi-path mitigation method/techniques and algorithms, described in the co-pending application No. 12/502,809, allow a reliable and accurate separation of DLOS path from other reflected signals paths.」
「【0425】
上述の制限を克服するために、本実施形態は、部分空間分解の高分解能スペクトルの推定方法論とマルチモーダルのクラスター分析の実施の特有の組み合わせを使用する。この分析と、同時係属中の出願第12/502,809号に記載される関連するマルチパス緩和の方法/技術およびアルゴリズムは、他の反射された信号パスからのDLOSパスの信頼性のある且つ正確な分離を可能にする。」

(イ)引用文献2の前記(ア)の記載をまとめると、引用文献2には、以下の技術事項が記載されている。

「無線周波数(RF)ベースの位置検出システムでは、RFレンジング信号のDLOS(直接見通し線)信号の上に様々な遅延時間を有する反射信号が重畳されるが、部分空間分解の高分解能スペクトルの推定方法論とマルチモーダルのクラスター分析の実施の特有の組み合わせを使用したマルチパス緩和のプロセッサー/アルゴリズムにより、DLOS信号が反射信号と比較して著しく減衰されるときでさえ、DLOS信号と反射された信号の分離が可能となる。」

ウ 周知技術
(ア)引用文献3
引用文献3には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「【0014】
<第1の実施形態>
[被災者救助支援システムの構成]
以下、本発明の実施形態による被災者救助支援システムについて説明する。図1は、第1の実施形態としての被災者救助支援システムの構成例を示している。本実施形態の被災者救助支援システムは、RFIDタグ100、ポータブル基地局200および測位サーバ300から成る。また、ポータブル基地局200を無線通信経由でネットワーク600と接続するためのアクセスポイント400を備える。」

「【0019】
ポータブル基地局200は、被災地700において複数が配置されるもので、通信可能範囲に存在するRFIDタグ100と上記第1の無線通信方式により通信を行う。そして、その通信に基づいて生成した位置パラメータ情報をネットワーク600経由で測位サーバ300に送信する。つまり、ポータブル基地局200は、通信を行ったRFIDタグ100から送信されるタグIDを受信して取得するとともに、このRFIDタグ100との通信時の状態に基づいて、RFIDタグ100の位置推定に用いられるパラメータを生成する。そして、タグIDにパラメータを対応付け、位置パラメータ情報として送信する。なお、位置パラメータ情報の具体例については後述する。」

「【0024】
[位置推定手法]
次に、図2を参照して、第1の無線通信方式を利用した位置推定について説明する。図2には、1つのRFIDタグ100と、3つのポータブル基地局200-1?200-3が示されている。なお、ここでポータブル基地局200-1?200-3の位置については既知であるとする。
【0025】
まず、RFIDタグ100とポータブル基地局200-1が通信を行うことにより、その通信時間や受信信号強度などに基づいてRFIDタグ100とポータブル基地局200-1の距離d1が算出される。この段階では、RFIDタグ100の位置は、ポータブル基地局200-1を中心とする半径d1の円周C1上であると推定されることになる。
【0026】
次いで、RFIDタグ100とポータブル基地局200-2が通信を行うことにより、RFIDタグ100とポータブル基地局200-2の距離d2も算出されることになる。このように、1つのRFIDタグ100に対する2つのポータブル基地局200-1および200-2の各距離d1、d2が求められた段階で、RFIDタグ100の位置は、ポータブル基地局200-1に対応する円周C1と、ポータブル基地局200-2を中心とする半径d2の円周C2との交点として求められる。円周C1とC2の交点は2つ存在するため、この段階では、RFIDタグ100の位置は、さらに絞り込まれ、この2つの交点のいずれかであるとして推定されることになる。
【0027】
そして、RFIDタグ100とポータブル基地局200-3が通信を行うことにより、RFIDタグ100とポータブル基地局200-3の距離d3も算出されることになる。これにより、RFIDタグ100の位置は、円周C1と、円周C2と、ポータブル基地局200-3を中心とする半径d3の円周C3との交点として推定されることになる。つまり、RFIDタグ100と3つのポータブル基地局200-3の距離が求められることに応じて、1点のRFIDタグ100の位置が推定される。なお、RFIDタグ100とポータブル基地局200-1?3との通信は同時に行われてもよい。すなわち、RFIDタグ100が送信した信号をポータブル基地局200-1?3が同時に受信することで、位置の推定がなされてもよい。
【0028】
このように、RFIDタグ100の位置は、少なくとも3つのポータブル基地局200との距離が既知となることで1点を特定することが可能になる。このように推定されたRFIDタグ100の位置は、前述のようにUWB-IRによる通信を応用して求められるものであり、したがって、数十センチ程度の非常に高い精度を有している。」

(イ)引用文献4
引用文献4には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る人位置検索システム10の構成の一例を示すシステム構成図である。人位置検索システム10は、複数のセンサ端末20、3台以上の複数の基地局30、およびサーバ40を備える。各センサ端末20と、各基地局30とは、無線通信によりデータを送受信する。また、各基地局30は、LAN等のネットワーク11に接続され、当該ネットワーク11を介してサーバ40と通信する。
【0013】
それぞれのセンサ端末20は、ユーザである被災者に装着され、当該被災者の健康状態を示す生体情報を測定する。そして、センサ端末20は、基地局30から生体情報要求を受信した場合に、当該ユーザの識別情報および当該ユーザの生体情報を含む生体情報応答を基地局30に返信する。
【0014】
それぞれの基地局30は、所定のタイミングで生体情報要求を送信し、生体情報応答をセンサ端末20から受信した場合に、生体情報要求を送信してから当該生体情報応答を受信するまでの所要時間に基づいて、自局から当該生体情報応答の送信元のセンサ端末20までの距離を算出する。そして、基地局30は、算出した距離を示す距離情報、自局の位置情報、ならびに、当該生体情報応答に含まれている生体情報およびユーザの識別情報等を含む端末情報を、ネットワーク11を介してサーバ40へ送信する。
【0015】
サーバ40は、各基地局30からネットワーク11を介して端末情報を随時受信し、当該端末情報に含まれている情報を保持する。そして、サーバ40は、それぞれのセンサ端末20について、3台以上の基地局30によって測定された距離と、これらの基地局30の位置情報とを用いて、センサ端末20の位置を算出する。そして、サーバ40のユーザ(例えば救助隊員等)から位置情報の出力を要求された場合に、各センサ端末20の位置情報を、当該センサ端末20のユーザの生体情報に関連付けて出力する。」

「【0021】
図5は、基地局30の外観の一例を示す概念図である。基地局30は、アンテナ31、アンテナ32、および基地局本体33を有する。基地局30は、持ち運ぶことができ、設置場所において架台34の上に取り付けられ、ケーブル35を介してネットワーク11に接続される。」

(ウ)基地局が「ポータブル」であることと「持ち運ぶことができ」ることは、いずれも基地局が「携帯型」であることにほかならないから、引用文献3及び4に記載された、次の技術は周知技術である。

「端末と少なくとも3つの基地局との間の距離を無線通信により測定して端末の位置を特定する方法において、3つの基地局を携帯型とする技術。」

(4)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。

ア 本件補正発明と引用発明は、ともに「無線システム」を前提とする方法である。また、引用発明の「アンテナ10」は、「連続波」を送信するものであるから、本件補正発明の「放射器アンテナ」に相当する。更に、引用発明において「位置を検出する」ことは、本件補正発明において「位置を決定する」ことと同義である。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「無線システムにおいて放射器アンテナの位置を決定するための方法」である点で一致する。

イ 引用発明の「校正用アンテナ20」は、本件補正発明の「アンテナ位置校正ユニット」に相当し、引用発明において、「K個の校正用アンテナ20をそれぞれ既知の位置に離間して3箇所以上(K≧3)配置すること」は、本件補正発明において、「少なくとも3つ」の「アンテナ位置校正ユニット」を「既知の位置をそれぞれ有するように配備すること」に相当する。更に、引用発明は、「K個の校正用アンテナ20」が「アンテナ10」から送信された「連続波」を受信することができる位置にあるから、当該位置は、本件補正発明における「所定信号の受信範囲内」にあるといえる。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットを所定信号の受信範囲内において既知の位置をそれぞれ有するように配備することを含」む点で一致する。

ウ 引用発明は、「K個の校正用アンテナ20で受信」し、「積算部21で積算」した「連続波」を、「相関処理部22」で「直接波」と「反射波」に分離するものであるから、「連続波」には「直接波」と「反射波」が含まれている。そして、引用発明の「直接波」は、「アンテナ10」と「校正用アンテナ20」との間で送受信されて位置を検出する「連続波」のうち、反射せず直接到達するものであるから、本件補正発明における「1つ以上のDLOS(direct line of site)基準信号」に相当し、引用発明の「反射波」は、「連続波」のうち、反射されて到達するものであるから、本件補正発明における「1つ以上の反射された基準信号」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「前記受信範囲が、前記放射器アンテナにより送信された1つ以上のDLOS(direct line of site)基準信号と、前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットにより受信した基準信号の1つ以上の反射された基準信号とを受信可能な範囲であ」る点で一致する。

エ 引用発明は、「連続波をK個の校正用アンテナ20で受信」することを含むが、上記ウで示したとおり、「連続波」には「直接波」と「反射波」が含まれており、引用発明の「連続波」及び「反射波」は、それぞれ、本件補正発明における「1つ以上のDLOS基準信号」及び「1つ以上の反射された基準信号」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々において、前記放射器アンテナにより送信された1つ以上のDLOS基準信号のうちのあるDLOS基準信号と、前記1つ以上の反射された基準信号とを受信すること」を含む点で一致する。

オ 引用発明において「積算した信号と参照信号との相関演算を相関処理部22で行い、相互相関のピークを検出することで直接波と反射波を分離」することは、本件補正発明において「前記1つ以上のDLOS基準信号を前記1つ以上の反射された基準信号から分離」することに相当する。そして、引用発明において「遅延プロファイルにおける最も電力の大きな点から直接波の到来時間を到来時間推定部23で推定」することは、本件補正発明において「前記1つ以上のDLOS基準信号を識別すること」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「前記1つ以上のDLOS基準信号を前記1つ以上の反射された基準信号から分離して前記1つ以上のDLOS基準信号を識別すること」を含む点で一致する。

カ 引用発明の「直接波の到来時間」は、「K個の校正用アンテナ20」で受信した「連続波」に含まれる「直接波」に由来する情報であり、三角測量の原理によりアンテナ10の位置を検出する基となる情報であるから、本件補正発明の「前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々によって受信した前記基準信号から」得られた「放射器アンテナの前記位置を示すデータ」に相当する。そして、引用発明において「直接波の到来時間をすべて位置推定部24に入力すること」は、本件補正発明において「前記放射器アンテナの前記位置を示すデータを収集すること」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々によって受信した前記基準信号から、前記放射器アンテナの前記位置を示すデータを収集すること」を含む点で一致する。

キ 引用発明において、「少なくとも3つの到来時間情報」により「アンテナ10の位置」を「検出すること」は、本件補正発明において、「前記収集したデータ」の「分析」により「前記放射器アンテナの前記位置を決定すること」に相当する。そして、引用発明における「三角測量の原理」は、「K個の校正用アンテナ20」が配置された「既知の位置」を基準点とするものであるから、引用発明において、「三角測量の原理」により「アンテナ10の位置」を「検出すること」は、本件補正発明において、「少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々の前記既知の位置と比較して前記放射器アンテナの前記位置を決定すること」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「前記収集したデータを分析して、前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々の前記既知の位置と比較して前記放射器アンテナの前記位置を決定すること」を含む点で一致する。

(5)一致点及び相違点
前記(4)の対比の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点
「無線システムにおいて放射器アンテナの位置を決定するための方法であって、前記方法は、
少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットを所定信号の受信範囲内において既知の位置をそれぞれ有するように配備することを含み、前記受信範囲が、前記放射器アンテナにより送信された1つ以上のDLOS(direct line of site)基準信号と、前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットにより受信した基準信号の1つ以上の反射された基準信号とを受信可能な範囲であり、
前記方法は、
前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々において、前記放射器アンテナにより送信された1つ以上のDLOS基準信号のうちのあるDLOS基準信号と、前記1つ以上の反射された基準信号とを受信することと、
前記1つ以上のDLOS基準信号を前記1つ以上の反射された基準信号から分離して前記1つ以上のDLOS基準信号を識別することとを含み、
前記方法は、
前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々によって受信した前記基準信号から、前記放射器アンテナの前記位置を示すデータを収集することと、
前記収集したデータを分析して、前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々の前記既知の位置と比較して前記放射器アンテナの前記位置を決定することと、を含む、方法。」

イ 相違点
(ア)相違点1
「1つ以上の反射された基準信号」から「1つ以上のDLOS基準信号」を分離及び識別するにあたって、本件補正発明では、「前記1つ以上のDLOS基準信号のうちのあるDLOS基準信号の信号強度が、前記1つ以上の反射された基準信号のうちのある反射された基準信号の信号強度より小さ」いことが特定されているのに対して、引用発明にはそのような特定がない点。

(イ)相違点2
「少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニット」について、本件補正発明では「携帯型」であることが特定されているのに対して、引用発明では「携帯型」であることが特定されていない点。

(6)相違点についての判断
ア 相違点1について
引用文献2には、「無線周波数(RF)ベースの位置検出システムでは、RFレンジング信号のDLOS(直接見通し線)信号の上に様々な遅延時間を有する反射信号が重畳されるが、部分空間分解の高分解能スペクトルの推定方法論とマルチモーダルのクラスター分析の実施の特有の組み合わせを使用したマルチパス緩和のプロセッサー/アルゴリズムにより、DLOS信号が反射信号と比較して著しく減衰されるときでさえ、DLOS信号と反射された信号の分離が可能となる」という技術事項が記載されている(前記(3)イ(イ))。
引用発明と引用文献2に記載の技術は、無線通信システムにおける位置検出方法という技術分野において共通する。更に、引用文献1の【0020】には、「直接波の到来時間を推定する。最も簡単な方法としては、遅延プロファイルにおいて最も電力の大きな点の時間を直接波の到来タイミングとして検出することである。(中略)なお、直接波の到来時間の推定方法は、ここで記載した方法に限定されるものではなく、既存の任意の方法を用いてよいことは言うまでもない。」と記載されているから、反射波から直接波を分離及び識別するにあたって、共通の技術分野における他の方法を適用する動機を当業者は有していたというべきである。
したがって、引用発明に対して引用文献2に記載の技術を適用し、「DLOS信号が反射信号と比較して著しく減衰されるとき」であっても反射波から直接波を分離及び識別することを可能とすることで、引用発明が相違点1に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
「端末と少なくとも3つの基地局との間の距離を無線通信により測定して端末の位置を特定する方法において、3つの基地局を携帯型とする技術」は周知技術である(前記(3)ウ(ウ))。
引用発明において、「K個の校正用アンテナ20」をいかなる態様のものとするかは、当業者であれば適宜選択可能なものであるから、周知技術を適用してこれを「携帯型」とし、相違点2に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(7)作用効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載の技術事項及び周知技術から予測されるものを超える格別顕著なものであるとは認めることができない。

(8)審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において下記の点を主張するが、以下のとおり精査したところ、いずれも上記の認定・判断を左右するものではない。

ア 審判請求人は、「引用文献2はDLOS(direct line of sight)について言及していますが、これは放射器アンテナを見つけるためではありません。」と主張しているが、引用発明は「放射器アンテナ」に相当する「アンテナ10」の位置を検出する方法であるから、請求人の主張は採用することができない。

イ 審判請求人は、「引用文献2に記載されたマルチパス緩和技術は、本願の請求項に記載されたものに類似しているものの、DLOSの位置決めのために使用されるものではありません。引用文献2では、DLOSはむしろ距離を決定するために使用され、この距離は、次いで、到達時間差(TDOA)、ベアリングライン(LOB)又は到来角(AOA)の位置決め技術のコンテキストで使用されます。例えば、段落0345?0363を参照してください。」と主張しているが、引用文献2には、無線通信システムにおける位置検出方法で採用する技術として、本件補正発明に類似する、いわゆる「マルチパス緩和技術」が記載されているから(前記(3)イ(イ))、請求人の主張は採用することができない。

ウ 審判請求人は、「引用文献2に記載されたDLOS技術は、携帯型のアンテナ位置校正ユニットに基づくものではなく、既知の位置を有する固定のセルラーアンテナのむしろ様々な形式に基づくものであります。」と主張しているところ、無線通信システムにおける位置検出方法において基地局を携帯型とする技術は周知技術であるから(前記(3)ウ(ウ))、この主張を参酌したとしても、相違点2に係る構成に当業者が容易に想到し得たことに変わりはない。

エ 審判請求人は、「引用文献1と引用文献2とを組み合わせることは無意味であります。引用文献1は、本願の請求項1には無関連な連続波システムに関するものであり、当業者であっても、本願の請求項1の限定事項を実行するように組み合わされたシステムを実現するために引用文献1と引用文献2とを組み合わせることを想到することはないものと思料いたします。」と主張しているが、引用発明に対して引用文献2に記載の技術を適用する動機を当業者は有していたというべきことは前記(6)アにおいて説示したとおりであるから、請求人の主張は採用することができない。

(9)上申書について
審判請求人は、令和2年6月29日に提出した上申書において、請求項1に「前記少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニットの各々が、前記放射器アンテナの距離位置精度に基づいて10ナノ秒以下の標準偏差で時間同期され」という記載を追加する補正案を提示しており、当該補正案の請求項1に係る発明は当業者が容易に想到し得たものではないと主張している。
しかしながら、引用文献1の【0028】には、「送信系および受信系それぞれに原子時計などの精度の高い時計を内蔵させ、これらにより時刻同期をとることも可能である。」と記載されているから、引用発明において「K個の校正用アンテナ20」を10ナノ秒以下という高い精度で時間同期させることは当業者にとって容易である。
したがって、本件補正発明が上記補正案のとおり補正されたとしても、当業者が容易に想到し得たものであるとの結論に変わりはない。

(10)独立特許要件についての判断のまとめ
よって、本件補正発明は、引用発明と引用文献2に記載の技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
以上より、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願に係る発明
本件補正は、上記第2において述べたとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由2の概要
本願発明は、以下の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献1:特開2013-181876号公報(前掲)
引用文献2:国際公開第2014/093400号(前掲)

3 引用文献に記載された発明等
引用文献1には、前記第2の3(3)ア(イ)において記載したとおりの引用発明が記載されている。また、引用文献2には、前記第2の3(3)イ(イ)において記載したとおりの技術事項が記載されている。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「少なくとも3つのアンテナ位置校正ユニット」の態様に関して、「携帯型」であるという特定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明は、前記第2の3(5)イ(ア)で示した相違点1のみにおいて相違する。
そして、前記第2の3(6)アで示したとおり、引用発明に対して引用文献2に記載の技術を適用し、相違点1に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、本願発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2020-10-22 
結審通知日 2020-10-27 
審決日 2020-11-09 
出願番号 特願2018-26810(P2018-26810)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 治企  
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 濱野 隆
岸 智史
発明の名称 RFを使用する位置特定のための部分的に同期化されたマルチラテレーションまたは三辺測量方法およびシステム  
代理人 柏原 啓伸  
代理人 山田 卓二  
代理人 岡部 博史  

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