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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1372634
審判番号 不服2020-2693  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-28 
確定日 2021-03-31 
事件の表示 特願2017-511910「超電導体を含む金属組立体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月10日国際公開、WO2016/034503、平成29年11月 9日国内公表、特表2017-533579〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年8月28日(パリ条約による優先権主張 2014年9月1日、フィンランド)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 5月 9日 :手続補正書の提出
平成31年 2月20日付け:拒絶理由通知
令和 1年 5月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年10月25日付け:拒絶査定
令和 2年 2月28日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和2年2月28日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年2月28日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正するものであって、本件補正前に、
「【請求項1】
長手方向に延伸する少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤを含む金属組立体において、該少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤは、
-金属母材に埋め込まれた所定の温度領域内で超電導特性を呈する材料を含む超電導ワイヤと、
-該超電導ワイヤに被覆として配設された電気絶縁層とを含み、該電気絶縁層は、少なくとも10^(7)Ωmの比抵抗を有するポリマベースの絶縁体を含み、
該金属組立体はさらに、伝熱性材料を含む伝熱要素を含み、該伝熱要素は、前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤを少なくとも部分的に囲繞して、前記金属組立体がコイル状に巻回された状態では等方性の熱伝導特性を呈する層として配設され、前記伝熱性材料は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、または銅およびアルミニウムを含む複合体から選択され、
前記伝熱要素は、平均層厚が前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤの等価直径の少なくとも0.2倍であることを特徴とする金属組立体。」
とあったところを、

「【請求項1】
長手方向に延伸する少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤを含む金属組立体において、該少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤは、
-金属母材に埋め込まれた所定の温度領域内で超電導特性を呈する材料を含む超電導ワイヤと、
-該超電導ワイヤに被覆として配設された電気絶縁層とを含み、該電気絶縁層は、少なくとも10^(7)Ωmの比抵抗を有するポリマベースの絶縁体を含み、
該金属組立体はさらに、伝熱性材料を含む伝熱要素を含み、該伝熱要素は、前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤを少なくとも部分的に囲繞して、前記金属組立体がコイル状に巻回された状態では等方性の熱伝導特性を呈する層として配設され、前記伝熱性材料は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、または銅およびアルミニウムを含む複合体から選択され、
前記伝熱要素は、平均層厚が前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤの等価直径の少なくとも0.5倍であることを特徴とする金属組立体。」
とするものである(下線は補正箇所を示す。)。

本件補正について検討する。
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「伝熱要素」の「平均層厚」について、「少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤの等価直径の少なくとも0.2倍である」ところを、「0.5倍」とその下限値について限定をするものである。
したがって本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項に限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

そこで、本件補正における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。

2 引用文献及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平8-329746号公報(平成8年12月13日公開、以下「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様)。
「【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために、安定化母材に多数の超電導素線を挿入し安定化母材に絶縁層を被覆し伸線加工等を繰り返し所定の寸法に加工した超電導線と、超電導線に被せられ熱伝導性に優れた放熱材の薄肉パイプとからなり、機械的多段加工により薄肉パイプを超電導線とほぼ同じ長さの放熱被覆層に形成した超電導線を提案するものである。絶縁層は、複数の層にすることができる。熱伝導性に優れた放熱材とは、具体的には、高純度銅,高純度アルミニウム,純銀,純金,または高熱伝導SiC等のセラミックスの少なくともひとつである。」

「【0033】《実施例1》図1は、本発明による超伝導線の製造方法の一実施例における工具の配置状況を示す図である。最適化熱処理を施し絶縁層を備えた長尺超電導線Aの全長に、縮径ダイスD1?Dnを用いて、薄肉銅被覆層を成型した。外径が5.5mm,肉厚が0.25?0.3mm,長さが5mの高純度銅パイプに、絶縁被覆層を備えた外径が1.0mm,長さが70mの長尺超電導線Aの先端を挿入し、被覆状の複合線とした。この複合線の先端を口付けロールを用いて細く加工し、縮径ダイスD1?D2?Dnに順次通し、高純度銅パイプP1?Pnを多段加工ができるように、外径を調整した。縮径ダイスD1?Dnを通過した先端を巻取機Mに接続し、連続的に縮径加工を加え、仕上がり外径が1.6mm,長さが72mの放熱層Pn付きの超電導線Aaを製造した。最初の長さが70mであり最終仕上がりの長さが72mになったのは、全体的に2?3%の伸びが発生しているからである。この伸びは、最適時効熱処理が完了し絶縁被覆層を備えた長尺超電導線Aの外面と放熱材Pnの内面とが適度に密着したためである。」

「【0046】特に、熱式永久電流スイッチに用いる超電導線Aaは、安定化母材としてCu-Ni等の高抵抗金属を用いるために、熱の拡散速度が、高純度Cuや高純度アルミニウムを用いたものよりはるかに遅く、従来の構造では、超電導線としての性能が低下する。」

「【0049】図9は、本発明による放熱材を取り付けた丸形超伝導線を密巻コイルに巻回した実施例の内部構造と熱の伝わり方とを示す図である。外周全周に取り付けた高純度の低抵抗放熱材1が周囲の放熱材1同士と強固に密着しているので、超電導線Aaから発生した熱は、任意の方向に効率よく拡散される。さらに、巻回し部の隙間を固定材KTを用いて例えば真空含浸法等により固定すると、境界面および隙間を確実になくすことができ、熱の伝導性が向上し、固定力と冷却性能とが飛躍的に向上する。」

上記記載及び図面から、引用文献1には次の技術的事項が記載されている。
・高抵抗金属からなる安定化母材に多数の超電導素線を挿入し安定化母材に絶縁層を被覆した超電導線と、絶縁層を被覆した超電導線に被せられた、熱伝導性に優れた放熱被覆層を備えた放熱被覆層付の超電導線であって、放熱被覆層は高純度銅である(段落【0014】、【0046】)。
・段落【0033】の記載から、絶縁層を備えた長尺超電導線Aの全長に、縮径ダイスD1?Dnを用いて、薄肉銅被覆層を成型したものは、絶縁層を被覆した超電導線の外径が1.0mmで、放熱被覆層付の超電導線の外径が1.6mmであることが読み取れる。
・放熱被覆層付の超電導線を密巻コイルに巻回した状態で、超電導線から発生した熱は任意の方向に効率よく拡散される(段落【0049】)。

したがって、上記記載より引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「高抵抗金属からなる安定化母材に多数の超電導素線を挿入し安定化母材に絶縁層を被覆した超電導線と、
絶縁層を被覆した超電導線に被せられた、熱伝導性に優れた放熱被覆層を備えた放熱被覆層付の超電導線であって、
放熱被覆層は高純度銅であり、
絶縁層を被覆した超電導線の外径が1.0mmで、放熱被覆層付の超電導線の外径が1.6mmであり、
当該放熱被覆層付の超電導線を密巻コイルに巻回した状態で、超電導線から発生した熱は任意の方向に効率よく拡散される、
放熱被覆層付の超電導線。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平2-253517号公報(平成2年10月12日公開、以下「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
a 「第1図はこの発明の一施例を示す概略断面図で、超電導線100は銅あるいは銅-錫合金等の金属母材1に複数の超電導フィラメント2を配置した極細多芯線10の表面に、銅,銀またはダイヤモンド等の熱良導体膜4をコーティングした電気絶縁体膜3の単層膜で被覆したものである。」(第2頁右下欄第7-12行)

b 「電気絶縁体膜3として厚さが50μmのポリイミド系絶縁体膜を用いる」(第3頁左上欄第5-6行)

(3)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特表2009-544113号公報(平成21年12月10日公開、以下「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0003】
このような線材内蔵チャネル型超伝導体は、長い連続する長さを実現し、永続的マグネットに適した超伝導体を提供するのに有効であることが分かっている。このタイプの線材内蔵チャネル型超伝導体は一般にポリエステル編組24によって絶縁される。」

(4)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2008-147175号公報(平成20年6月26日公開、以下「引用文献4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0025】
図2は本発明の一実施形態に係るパルス用NbTi超電導成形撚線の断面構成図を示すものである。このパルス用NbTi超電導成形撚線11はパルス用NbTi超電導多芯線10の表面に被覆層18を形成した後、パルス用NbTi超電導多芯線10を6本以上かつ40本以下の撚り合わせ矩形断面に成形されている。
【0026】
前記被覆層18として、金属メッキ層、樹脂絶縁層または酸化膜を用いることができる。例えば、金属メッキ層としてはCr、Ni、Snやそれらの合金など、樹脂絶縁層にはポリビニルホルマールやポリビニルアセタールを用いることができる。また、安定化層17が銅または銅合金の場合には、酸化膜は酸化銅を用いることができる。このうち、コスト的観点からは、好ましくは金属メッキ層を用い、更に好ましくはCrメッキを用いるとよい。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「絶縁層を被覆した超電導線」、「高抵抗金属からなる安定化母材」、「超電導素線」、「放熱被覆層」は、それぞれ、本願補正発明の「絶縁型超電導ワイヤ」、「金属母材」、「超電導ワイヤ」、「伝熱要素」に相当する。

(2)引用発明の「絶縁層を被覆した超電導線」は、長手方向に延伸していることが明らかであるから、本願補正発明の「長手方向に延伸する少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤ」に相当する。
そして、引用発明の「絶縁層を被覆した超電導線」及び「高純度銅」である「放熱被覆層」を備えた「放熱被覆層付の超電導線」は、本件補正発明の「絶縁型超電導ワイヤ」及び「伝熱要素」を含む「金属組立体」に相当する。
したがって、引用発明の「絶縁層を被覆した超電導線に被せられた、熱伝導性に優れた放熱被覆層を備えた放熱被覆層付の超電導線」は、本件補正発明の「長手方向に延伸する少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤを含む金属組立体」に相当する。

(3)引用発明の「高抵抗金属からなる安定化母材に」「挿入」された「超電導素線」は、本件補正発明の「金属母材に埋め込まれた所定の温度領域内で超電導特性を呈する材料を含む超電導ワイヤ」に相当する。
引用発明の「超電導素線を挿入し」た「安定化母材」に「被覆」した「絶縁層」は、本件補正発明の「該超電導ワイヤに被覆として配設された電気絶縁層」に相当する。
そうすると、引用発明の「高抵抗金属からなる安定化母材に多数の超電導素線を挿入し安定化母材に絶縁層を被覆した超電導線」は、本件補正発明の「少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤは、-金属母材に埋め込まれた所定の温度領域内で超電導特性を呈する材料を含む超電導ワイヤと、-該超電導ワイヤに被覆として配設された電気絶縁層とを含」むことに相当する。
但し、本件補正発明は、「該電気絶縁層は、少なくとも10^(7)Ωmの比抵抗を有するポリマベースの絶縁体」であるの対して、引用発明は、そのような特定がない。

(4)上記(2)に拠ると、引用発明の「高純度銅」である「放熱被覆層を備えた放熱被覆層付の超電導線」は、本願補正発明の「該金属組立体」に相当するのであるから、「伝熱性材料を含む伝熱要素を含む」「該金属組立体」に相当するといえる。
引用発明の「放熱被覆層」が「絶縁層を被覆した超電導線に被せられ」ることは、本願補正発明の「該伝熱要素は、前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤを少なくとも部分的に囲繞して」いることに相当する。
引用発明は「当該放熱被覆層付の超電導線を密巻コイルに巻回した状態で、超電導線から発生した熱は任意の方向に効率よく拡散される」ので、引用発明の「放熱被覆層」は、本願補正発明の「前記金属組立体がコイル状に巻回された状態では等方性の熱伝導特性を呈する層として配設され」る「該伝熱要素」に相当する。
引用発明の「放熱被覆層は高純度銅であ」ることは、本件補正発明の「前記伝熱性材料は、銅」であることに相当する。
以上を総合すると、引用発明の「絶縁層を被覆した超電導線に被せられた、熱伝導性に優れた放熱被覆層を備えた放熱被覆層付の超電導線であって、放熱被覆層は高純度銅であり、」「放熱被覆層付の超電導線を密巻コイルに巻回した状態で、超電導線から発生した熱は任意の方向に効率よく拡散される」ことは、本件補正発明の「該金属組立体はさらに、伝熱性材料を含む伝熱要素を含み、該伝熱要素は、前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤを少なくとも部分的に囲繞して、前記金属組立体がコイル状に巻回された状態では等方性の熱伝導特性を呈する層として配設され、前記伝熱性材料は、銅」であることに相当する。

(5)引用発明は「絶縁層を被覆した超電導線の外径が1.0mmで、放熱被覆層付の超電導線の外径が1.6mm」であるから、放熱被覆層の厚さが0.3mmであり、放熱被覆層は、層厚が絶縁層を被覆した超電導線の直径の約0.3倍であるので、本願補正発明と「前記伝熱要素は、層厚が前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤの直径の少なくとも0.3倍である」点で共通する。
但し、本件補正発明は、「前記伝熱要素は、平均層厚が前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤの等価直径の少なくとも0.5倍である」のに対して、引用発明は、そのような特定がない。

(6)そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「長手方向に延伸する少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤを含む金属組立体において、該少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤは、
-金属母材に埋め込まれた所定の温度領域内で超電導特性を呈する材料を含む超電導ワイヤと、
-該超電導ワイヤに被覆として配設された電気絶縁層とを含み、
該金属組立体はさらに、伝熱性材料を含む伝熱要素を含み、該伝熱要素は、前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤを少なくとも部分的に囲繞して、前記金属組立体がコイル状に巻回された状態では等方性の熱伝導特性を呈する層として配設され、前記伝熱性材料は、銅であり、
前記伝熱要素は、層厚が前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤの直径の少なくとも0.3倍である金属組立体。」

(相違点1)
本件補正発明は、「該電気絶縁層は、少なくとも10^(7)Ωmの比抵抗を有するポリマベースの絶縁体」であるの対して、引用発明は、そのような特定がない。
(相違点2)
本件補正発明は、「前記伝熱要素は、平均層厚が前記少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤの等価直径の少なくとも0.5倍である」のに対して、引用発明は、そのような特定がない。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
超電導線を被覆する絶縁層として、ポリマベースの絶縁体を用いることは、引用文献2ないし4に記載されているように周知技術である(上記「2 (2)」ないし「2 (4)」)。
また、ポリマベースの絶縁体として、10^(7)Ωm以上の比抵抗は格別な値ではない(必要であれば、特開2000-133556号公報(段落【0012】、【0013】)参照。比抵抗が10^(12)Ωcm以上の絶縁層の例として、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、合成ゴム、熱可塑性エラストマーが上げられている。)。
そうすると、引用発明において上記周知技術を適用し、「絶縁層」を10^(7)Ωm以上の比抵抗を有するポリマベースの絶縁体として、上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
引用発明の「放熱被覆層」は、「超電導線を密巻コイルに巻回した状態で、超電導線から発生した熱は任意の方向に効率よく拡散さ」せるためのものである。
ここで、放熱被覆層を厚くすると熱の拡散が良好になることは自明な事項であるから、引用発明において、必要に応じて放熱被覆層を厚くすることは、適宜なしうる設計的な事項である。そして、引用文献1に「縮径ダイスD1?D2?Dnに順次通し、高純度銅パイプP1?Pnを多段加工ができるように、外径を調整した。」(段落【0033】)と記載されているように、多段加工の際に縮径ダイスD1?D2?Dnの外径を調整するのであるから、仕上がり外径を変えて放熱被覆層の厚さを調整することは適宜なしうることである。
そうすると、引用発明において「放熱被覆層」の層厚を、絶縁層を被覆した超電導線の直径の約0.3倍よりも厚くして、上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(3)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明及周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし17に係る発明は、令和1年5月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由] 1 本件補正」の本件補正前の「請求項1」として記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由] 2 引用文献及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比、判断
本願発明は、本願補正発明から、上記「第2[理由] 1 本件補正」で検討した「伝熱要素」の「平均層厚」について、「少なくとも1つの絶縁型超電導ワイヤの等価直径の少なくとも0.2倍である」ところを、その下限値について「0.5倍」とする限定を削除するものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に限定したものに相当する本願補正発明が前記「第2[理由] 4 判断」に示したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-10-23 
結審通知日 2020-10-27 
審決日 2020-11-10 
出願番号 特願2017-511910(P2017-511910)
審決分類 P 1 8・ 56- Z (H01F)
P 1 8・ 572- Z (H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 健一  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 須原 宏光
畑中 博幸
発明の名称 超電導体を含む金属組立体  
代理人 あいわ特許業務法人  

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