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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60C
管理番号 1372746
異議申立番号 異議2021-700053  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-18 
確定日 2021-04-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6724379号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6724379号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6724379号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は,平成28年1月20日を出願日とする出願であって,令和2年6月29日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ,同年7月15日に特許掲載公報が発行された。
その後,その特許に対し,令和3年1月18日に特許異議申立人 村川 明美(以下「特許異議申立人」という。)が特許異議の申立て(対象請求項1ないし7)を行った。

第2 本件特許発明
特許第6724379号の請求項1ないし7に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)。
「【請求項1】
第1トレッド端と第2トレッド端との間のトレッド部を有する空気入りタイヤであって,
前記トレッド部の中央領域に,複数のクラウンブロックがタイヤ周方向に設けられており,
前記クラウンブロックは,
タイヤ赤道の近傍からタイヤ軸方向に対して10°以下の角度で前記第1トレッド端側へのびる第1横エッジと,前記第1横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めにのびる一対の第1斜めエッジとを有する台形状の先端部を含む第1クラウンブロックと,
タイヤ赤道の近傍からタイヤ軸方向に沿って前記第2トレッド端側へのびる第2横エッジと,前記第2横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めにのびる一対の第2斜めエッジとを有する台形状の先端部を含む第2クラウンブロックとを含み,
前記第1クラウンブロックと前記第2クラウンブロックとは,タイヤ周方向に交互に設けられており,
前記一対の第1斜めエッジは,それぞれ,タイヤ周方向に対する角度が20?45°であり,
前記一対の第1斜めエッジの内,前記第1トレッド端側に配された前記第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度は,前記第2トレッド端側に配された前記第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度よりも大きいことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1クラウンブロック及び前記第2クラウンブロックは,いずれも,タイヤ赤道と交差する位置に配されている請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1クラウンブロックは,前記先端部と,前記先端部の前記第1トレッド端側から前記タイヤ周方向の一方側に位置する前記第2クラウンブロックの前記第2斜めエッジに沿ってのびる第1延長部とを含む請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第2クラウンブロックは,前記先端部と,前記先端部の前記第2トレッド端側から前記タイヤ周方向の一方側に位置する前記第1クラウンブロックの前記第1斜めエッジに沿ってのびる第2延長部とを含む請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第1クラウンブロックには,第1の向きに傾斜した複数の第1クラウンサイプが設けられており,
前記第2クラウンブロックには,前記第1の向きとは逆向きに傾斜した複数の第2クラウンサイプが設けられている請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記各第1クラウンサイプ及び前記各第2クラウンサイプは,それぞれ,タイヤ周方向に対して35?50°の角度で傾斜している請求項5記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第1クラウンサイプの少なくとも1本は,前記第1横エッジに接続されており,
前記第2クラウンサイプの少なくとも1本は,前記第2横エッジに接続されている請求項5又は6記載の空気入りタイヤ。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠方法として下記3のとおり甲第1号証ないし甲第6号証を提出し,要旨以下のとおり主張する。
1 申立理由1(特許法29条2項について)
本件特許発明1ないし7は,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証ないし甲第6号証の記載事項に基いて,本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件特許発明1ないし7は,特許法29条2項の規定に違反するものであるから,本件特許の請求項1ないし7に係る特許は同法113条2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(特許法36条6項1号について)
本件特許発明1ないし7は,発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えており,本件特許の請求項1ないし7の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求しているものである。
したがって,本件特許の請求項1ないし7の記載は,特許法36条6項1号に規定される要件を満たしていないので,本件特許の請求項1ないし7に係る特許は同法113条4号に該当し取り消すべきものである。

3 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2012/046724号
甲第2号証:特開平4-218410号公報
甲第3号証:特開平6-305307号公報
甲第4号証:特開2013-136333号公報
甲第5号証:特開平2-057408号公報
甲第6号証:特開2001-322406号公報
なお,証拠の表記は,特許異議申立書の記載に従った。以下,順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 申立理由1(特許法29条2項)について
(1)主な甲号証に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には,以下の事項が記載されている(下線は当審で付加。以下同様。)。
「[請求項1] トレッド幅方向に平行なトレッド幅方向線に対して傾斜し,タイヤ周方向に沿ってトレッド部に配置された複数の傾斜溝を備え,車体の前進時の回転方向が指定されたタイヤであって,
前記傾斜溝は,
タイヤ赤道線に交差し,回転方向前方側から後方側に行くに連れて一方のタイヤ幅方向外側に向けて延びる第1傾斜溝と,
タイヤ赤道線及び前記第1傾斜溝それぞれに交差し,回転方向前方側から後方側に行くに連れて他方のタイヤ幅方向外側に向けて延びる複数の第2傾斜溝とを有し,
前記第1傾斜溝及び前記第2傾斜溝は,
回転方向前方側に位置しており回転方向前方側から後方側に向けて張り出した曲線で構成され,前記トレッド幅方向線に鋭角に交差する前方側曲線溝と,
前記前方側曲線溝の回転方向後方側の端部に連結され,前記前方側曲線溝と前記トレッド幅方向線との交差角度よりも大きい角度で前記トレッド幅方向線と交差する後方側曲線溝とから構成されており,
前記複数の第2傾斜溝は,
前方側第2傾斜溝と,
前記前方側第2傾斜溝よりも回転方向後方側に配置され,タイヤ周方向において前記前方側第2傾斜溝に隣接する後方側第2傾斜溝とを有し,
前記第1傾斜溝の前方側曲線溝と前記前方側第2傾斜溝の後方側曲線溝とが交差するとともに,前記第1傾斜溝の後方側曲線溝と前記後方側第2傾斜溝の前方側曲線溝とが交差するタイヤ。」
「[0001] 本発明は,氷雪路面における使用に適したタイヤに関する。」
「[0008] そこで,本発明は,氷雪路面における走行性能と排水性能とを高いレベルで両立することができるタイヤの提供を目的とする。」
「[0010] 本発明によれば,第1傾斜溝と第2傾斜溝とが回転方向前方側(回転方向前方側F)から後方側(回転方向後方側B)に行くに連れてタイヤ幅方向外側に向けて延びるように形成されているため,路面の水をタイヤ幅方向外側へ向けて排水する効果が高められる。
[0011] また,本発明によれば,前方側曲線溝が形成されていることにより,加速時又は発進時のエッジ効果が高められる。
[0012] また,第1傾斜溝及び前記第2傾斜溝は,回転方向前方側に位置しており回転方向前方側から後方側に向けて張り出した曲線で構成される。加えて,第1傾斜溝の前方側曲線溝と前方側第2傾斜溝の後方側曲線溝とが交差するとともに,第1傾斜溝の後方側曲線溝と後方側第2傾斜溝の前方側曲線溝121とが交差する。これらにより,交差部分において,溝内の雪の動きが干渉し合い,溝内の雪にかかる圧力が上昇する。これにより,溝内の雪の密度が高められ,雪柱せん断力が増大する。従って,氷雪路面における走行性能を高めることができる。」
「[0015] なお,以下の図面の記載において,同一または類似の部分には,同一又は類似の符号を付している。ただし,図面は模式的なのものであり,各寸法の比率などは現実のものとは異なることを留意すべきである。従って,具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また,図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
[0016] (1)空気入りタイヤの説明
実施形態に係る空気入りタイヤ1の構成について,図面を参照しながら説明する。図1及び図2は,第1実施形態に係る空気入りタイヤ1のトレッドパターンを説明する展開図である。空気入りタイヤ1は,ビード部,カーカス層,ベルト層,トレッド部(以上,不図示)を備える一般的なラジアルタイヤ(スタッドレスタイヤ)である。空気入りタイヤ1は,車体の前進時の回転方向(R方向)が指定されている。
[0017] 空気入りタイヤ1は,トレッド幅W方向に沿った仮想線(トレッド幅方向線L)に対して傾斜した複数の傾斜溝11を備える。
[0018] 傾斜溝11は,複数の第1傾斜溝101と,複数の第2傾斜溝102とを有する。第1傾斜溝101は,タイヤ赤道線CLに交差し,回転方向前方側Fから回転方向後方側Bに行くに連れて一方のタイヤ幅方向外側W1に向けて延びる。第2傾斜溝102は,タイヤ赤道線CL及び第1傾斜溝101に交差し,回転方向前方側Fから回転方向後方側Bに行くに連れて他方のタイヤ幅方向外側W2に向けて延びる。
[0019] 第1傾斜溝101は,前方第1傾斜溝101aと後方第1傾斜溝101bとを有する。前方第1傾斜溝101aと後方第1傾斜溝101bとは,タイヤ周方向に隣接する。前方第1傾斜溝101aは,後方第1傾斜溝101bよりも回転方向前方側F位置する。後方第1傾斜溝101bは,前方第1傾斜溝101aよりも回転方向後方側Bに位置する。
[0020] 第2傾斜溝102は,前方第2傾斜溝102aと後方第2傾斜溝102bとを有する。前方第2傾斜溝102aと後方第2傾斜溝102bとは,タイヤ周方向に隣接する。前方第2傾斜溝102aは,後方第2傾斜溝102bよりも回転方向前方側F位置する。後方第2傾斜溝102bは,前方第2傾斜溝102aよりも回転方向後方側Bに位置する。
[0021] 第1傾斜溝101と,第2傾斜溝102とは,ともにタイヤ赤道線CLに交差するように形成されている。第1傾斜溝101の形状と第2傾斜溝102の形状とは,互いにタイヤ赤道線CLに対して線対称になっている。タイヤ赤道線CLに対して線対称の形状を有する第1傾斜溝101と第2傾斜溝102とが,トレッド部において,タイヤ周方向の前後にずれて形成されている。
[0022] 第1傾斜溝101は,回転方向前方側Fに位置した前方側曲線溝111と,回転方向後方側Bに位置した後方側曲線溝112とを有する。前方側曲線溝111と後方側曲線溝112とは連結されている。第1傾斜溝101は,この連結部分において屈曲している。
[0023] 第2傾斜溝102も第1傾斜溝101と同様に,回転方向前方側Fに位置した前方側曲線溝121と,回転方向後方側Bに位置した後方側曲線溝122とを有する。前方側曲線溝121と後方側曲線溝122とは連結されている。第2傾斜溝102は,この連結部分において屈曲している。
[0024] また,前方側曲線溝111,121と,後方側曲線溝112,122とはともに,回転方向前方側Fから回転方向後方側Bに向けて張り出した曲線で構成される。
[0025] 図1及び図2に示す実施形態では,前方側曲線溝111,121は,後方側曲線溝112,122よりもタイヤ周方向に亘る長さが短くなるように形成されている。前方側曲線溝111,121は,トレッド幅方向線Lに鋭角(角度θ1,θ2)に交差する。
[0026] 後方側曲線溝112,122は,前方側曲線溝111,121の回転方向後方側Bの端部111r,121rに連結されている。後方側曲線溝112,122は,前方側曲線溝111,121とトレッド幅方向線Lとの交差角度θ1,θ2よりも大きい角度φ1,φ2でトレッド幅方向線Lと交差する。ここで,θ1,θ2,φ1,φ2の範囲は,以下のような値にすることができる。30°<θ1,θ2<80°,60°<φ1,φ2<100°。」
「[0036] 第1傾斜溝101及び第2傾斜溝102に区画されてできるブロックB1,B2のトレッド幅方向の長さWaは,タイヤ周方向の長さWbよりも長い横長部分を有する。横長部分には,図示しないが細溝(サイプという)が形成されている。ここで,細溝とは,空気入りタイヤ1が接地した際の接地圧力によって細溝を形成する壁部同士が接するような溝をいう。」
「[0038] 図1及び図2に示す実施形態では,前方側曲線溝111,121は,トレッド幅方向に延びるように形成されている。このため,前方側曲線溝111,121は,加速時又は発進時のエッジ効果に寄与することができる。後方側曲線溝112,122は,タイヤ周方向に延びるように形成されている。このため,後方側曲線溝112,122は,排水性に寄与することができる。
[0039] 実施形態では,タイヤ赤道線CLに対して線対称の形状を有する第1傾斜溝101と第2傾斜溝102とが,トレッド部においては,タイヤ周方向の前後にずれて形成されている。これにより,タイヤが転動することによるトレッド幅方向線上におけるネガティブ比率の変動を低減させることができ,エッジに起因するタイヤ騒音を低減することができる。
[0040] 実施形態では,第1傾斜溝101の前方側曲線溝111と前方側第2傾斜溝102aの後方側曲線溝122とが交差するとともに,第1傾斜溝101の後方側曲線溝112と後方側第2傾斜溝102bの前方側曲線溝121とが交差する。同様に,第2傾斜溝102の前方側曲線溝121と前方側第1傾斜溝101aの後方側曲線溝112とが交差するとともに,第2傾斜溝102の後方側曲線溝122と後方側第1傾斜溝101bの前方側曲線溝111とが交差する。また,第1傾斜溝101の前方側曲線溝111は,タイヤ赤道線CLと交差する。第2傾斜溝102の前方側曲線溝121は,タイヤ赤道線CLと交差する。
[0041] これにより,交差部分において,溝内の雪の動きが干渉し合い,溝内の雪にかかる圧力が上昇する。例えば,加速時には,溝の交差部分において,溝内の雪が黒矢印の方向に動き,互いに干渉し合うことによって,溝内の雪にかかる圧力が上昇する。これにより,溝内の雪の密度が高められ,雪柱せん断力が増大する。また,制動時には,交差部分において,溝内の雪が白抜き矢印の方向に動き,互いに干渉し合うことによって,溝内の雪にかかる圧力が上昇する。従って,氷雪路面における制動性能及び加速性能を高めることができる。
[0042] ここで,θ1,θ2,φ1,φ2の範囲は,以下のような値にすることができる。30°<θ1,θ2<80°,60°<φ1,φ2<100°。特に,前方側曲線溝111,121とトレッド幅方向線Lとの交差角度θ1,θ2を,30°<θ1,θ2<50°に設定すると,良好なエッジ効果を得ることができる。また,後方側曲線溝112,122とトレッド幅方向線Lとの交差角度φ1,φ2を,70°<φ1,φ2<90°に設定すると,良好な排水性能を得ることができる。
[0043] また,前方側曲線溝111,121とトレッド幅方向線Lとの交差角度θ1,θ2を浅くした場合,前方側曲線溝111,121に入り込んだ雪が逃げにくくなる。このため,雪中せん断力をさらに増大することができる。従って,氷雪路面における走行性能(特に,ハンドリング性能)を高めることができる。この場合,交差角度θ1,θ2は,θ1,θ2<○○°の関係を満たすことが好ましい。」
「[図2]



イ 甲1に記載された発明
上記ア,特に[請求項1],[0016],[0018],[0021],[0022],[0026],[0036],[0042]及び[図2]から,甲1には,以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「トレッド幅方向に平行なトレッド幅方向線に対して傾斜し,タイヤ周方向に沿ってトレッド部に配置された複数の傾斜溝及び前記複数の傾斜溝に区画されてできるブロックを備え,車体の前進時の回転方向が指定された空気入りタイヤであって,
前記傾斜溝は,
タイヤ赤道線に交差し,回転方向前方側から後方側に行くに連れて一方のタイヤ幅方向外側に向けて延びる複数の第1傾斜溝と,
タイヤ赤道線及び前記第1傾斜溝それぞれに交差し,回転方向前方側から後方側に行くに連れて他方のタイヤ幅方向外側に向けて延びる複数の第2傾斜溝とを有し,
前記第1傾斜溝及び前記第2傾斜溝は,
回転方向前方側に位置しており回転方向前方側から後方側に向けて張り出した曲線で構成され,前記トレッド幅方向線と30?80°の鋭角で交差する前方側曲線溝と,
前記前方側曲線溝の回転方向後方側の端部に屈曲して連結され,前記前方側曲線溝と前記トレッド幅方向線との交差角度よりも大きい60?100°の角度で前記トレッド幅方向線と交差する後方側曲線溝とから構成されており,
前記第1傾斜溝と前記第2傾斜溝の形状はタイヤ赤道に対して線対称の形状であって,トレッド部において,タイヤ周方向の前後にずれて形成されており,
前記複数の第2傾斜溝は,
前方側第2傾斜溝と,
前記前方側第2傾斜溝よりも回転方向後方側に配置され,タイヤ周方向において前記前方側第2傾斜溝に隣接する後方側第2傾斜溝とを有し,
前記第1傾斜溝の前方側曲線溝と前記前方側第2傾斜溝の後方側曲線溝とが交差するとともに,前記第1傾斜溝の後方側曲線溝と前記後方側第2傾斜溝の前方側曲線溝とが交差するタイヤ。」

ウ 甲2に記載された事項
甲2には,以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,空気入りタイヤ,とくには,高いレベルのドライ性能を確保しつつ,パターンノイズを大きく低減してすぐれた車室内居住性をもたらし,併せて,ウェット性能をもまた向上させる高性能空気入りタイヤに関するものである。」
「【0007】しかもこのタイヤではトレッド端に開口する各傾斜溝の,タイヤ赤道面に対する角度を,トレッド中央区域で10?30°の範囲とすることによって,すぐれた排水性と,パターンノイズの効果的な低減とをもたらす。すなわち,タイヤ赤道面に対する傾斜溝角度が10°未満では,傾斜溝の一定の配設ピッチの下にては,周方向に隣接する傾斜溝間の陸部に所要の剛性を付与することが困難になり,それが30°を越えると,接地部の前方側への素早い排水性の確保が困難になる他,パターンノイズの低減が困難になる。」
「【0008】またここでは,トレッド側部区域で,各傾斜溝のタイヤ赤道面に対する角度を,トレッド中央区域におけるそれより大きく,好ましくは,50?90°の範囲とすることによって,トレッド中央区域で各傾斜溝内へ入り込んだ水の,タイヤの側方への迅速なる排出をもたらし,併せて,傾斜溝間の陸部の高い横剛性を確保する。その角度が50°未満では陸部の剛性が不足することになり,それが90°を越えると,トレッド側部区域での傾斜溝の延在方向が,トレッド中央区域でのその延在方向とは逆になり,円滑な排水を行うことが不可能となる。」
「【0012】
【実施例】以下にこの発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1はこの発明の実施例を示すトレッドパターンであり,図中1はトレッド踏面部を,また2は,パターンセンターの各側部でトレッド踏面部1に形成されて,タイヤの,車両への装着姿勢の正面視で,下方から上方に向けて相互に離隔する方向に延在する傾斜溝をそれぞれ示す。なお,タイヤの内部補強構造は,一般的なラジアルタイヤのそれと同様であるので図示を省略する。ここでは,タイヤ赤道面X-Xおよびトレッドセンターと一致するパターンセンターを隔てて位置するそれぞれの傾斜溝2を,タイヤ周方向にほぼ半ピッチづつ位相をずらして形成して,それらの各傾斜溝2の上端をトレッド端に開口させる一方,各下端をパターンセンターの手前位置にて終了させ,このような各傾斜溝3の,タイヤ赤道面X-Xに対してなす角度αを,好ましくは,トレッドセンターを中心として,トレッド幅の50?90%の範囲内のトレッド中央区域3では10?30°の範囲内の角度とし,またトレッド中央区域3に隣接するそれぞれのトレッド側部区域4では,その角度より大きい,好ましくは50?90°の範囲内の角度とする。ここで,トレッド中央区域3をトレッド幅の50%未満としたときには,傾斜溝2による排水性能の向上をそれほど期待することができず,それが90%を越えると,トレッド側部区域4の陸部に,ドライ路面での操縦安定性を確保するに十分な横剛性を付与することが困難になる。」
「【図1】



エ 甲3に記載された事項
甲3には,以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,高性能の空気入り冬用タイヤに関するものであり,ウェット性能と氷雪上性能とを高い次元で両立させるものである。」
「【0007】ここで排水性に関しては,トレッド踏面部での水の流れは,その中央区域では,周方向に対して0?30°の前方方向となり,また,側部区域では,30°を越えるタイヤの側方方向となるので,このタイヤでは,トレッドセンター部からトレッド端近傍位置まで連続して延在し,タイヤ赤道面に対して比較的小さい角度を有するとともに,所要の溝ボリュームを有する傾斜主溝をもって,従来タイヤの周方向連続溝に代えて,タイヤの前方方向へのすぐれた排水性を確保するとともに,タイヤ赤道面に対する角度が大きい傾斜副溝によって,タイヤの側方方向への排水性を確保する。」
「【0013】ここでは,トレッド踏面部1において,トレッドセンターの左右側部に,タイヤ赤道面X-Xに対して比較的小さい角度,たとえば30°を越えない角度で,相互に八字状に互い違いに延びるそれぞれの傾斜主溝2を設けて,それぞれの傾斜主溝2をトレッドセンターからトレッド端近傍位置まで連続させ,各傾斜主溝2の,タイヤ赤道面に対する角度を,トレッド端側の部分で幾分減少させるとともに,その溝幅をもまた,トレッド端側へ向けて漸減させる。ここにおいて,左右側部のそれぞれの傾斜主溝2の延在領域は,トレッド踏面幅に対し,それの中央部寄りの70?90%の範囲とすることが好ましい。」
「【図1】



オ 甲5に記載された事項
甲5には,以下の事項が記載されている。
「(産業上の利用分野)
この発明は,空気入りタイヤ,とくには,全天候型空気入りラジアルタイヤのトレッドパターンの改良に関するものであり,パターンノイズの低減およびウェット性能の向上をもたらしてなお,雪上もしくは,それに類似する路面でのトラクション性能,直進性能およびコーナリング性能の向上をもたらすものである。」(第1頁右欄第13ないし20行)
「 ここで,トレッド踏面部Cには,タイヤ赤道線1にオーバーラップして位置するセンター周方向溝2を設けるとともに,このセンター周方向溝2に対して対称に位置して,センター周方向溝2と平行に延在する二本一対の側部周方向溝3の少なくとも一対を設け,そして,センター周方向溝2と,それに最も近接して位置するそれぞれの側部周方向溝3との間に,タイヤ周方向へ傾斜して延在して,それぞれの周方向溝2,3に連通する傾斜溝4a,4bの複数本を,タイヤ周方向へ実質的に等間隔をおいて形成する。
このようにして形成される傾斜溝4a,4bの,センター周方向溝1を隔てて位置するそれぞれを,ここでは,タイヤの回転方向の前方から後方,図に示すところでは下方から上方へ向けて次第に末広がりに延在させるとともに,それらのそれぞれを,センター周方向溝1を境にして,タイヤ周方向に,傾斜溝配設ピッチpの1/2ピッチの位相差をつけて配設する。
トレッド踏面部Cに,このようにしてそれぞれの溝2,3,4a,4bを形成した場合には,周方向へ直線状に延在するそれぞれの周方向溝2,3によって,ウェット路面の水膜をより有利に破壊することができるとともに,雪上での横すべりに対する大きな抗力を発生することができる。また,センター周方向溝1を隔てて位置するそれぞれの傾斜溝4a,4bが,タイヤの回転方向の前方から後方へ末広がりに延在することにより,ウェット路面での十分なる排水性を確保し得ることはもちろん,水膜破壊性のより一層の向上をもたらすことができるとともに,雪上での負荷転動時に,トレッド踏面部Cが,その中心から側部にかけて漸次に接地することに基づく雪上直進性の向上と,トレッド踏面部Cが,その中心から雪中へ深く踏み込むことに基づくトラクションフォースの増大とをもたらすことができる。そしてさらに,傾斜溝4a,4bの上述した方向性と,それらの傾斜溝4a,4bが,センター周方向溝1を境として,タイヤ周方向に位相差を有することにより,負荷転動時のインパクト成分を分散してパターンノイズを有効に低減させることができる。」(第3頁右上欄第20行ないし右下欄第20行)
「第1図



カ 甲6に記載された事項
甲6には,以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,空気入りタイヤ,より詳細には,トレッド部に方向性ブロックパターンを備える,回転方向指定の冬用空気入りラジアルタイヤに関し,特に,氷上と雪上とで牽引・制動性能を高度に優れたレベルでバランスさせ,併せて排水性能を向上させたトレッドパターンを備える空気入りタイヤに関する。」
「【0017】図1においてトレッド部1は,踏面部2の幅中央,すなわちタイヤ赤道面E上で周方向に延びる少なくとも1本,図示例は1本の主溝(以下周方向主溝という)3と,踏面部2の両側端領域Reそれぞれから周方向主溝3に向かって延びる傾斜主溝4と,両側端領域Reそれぞれの近傍の傾斜主溝4から分岐して周方向主溝3に向かって延びる傾斜副溝5とを有する。傾斜主溝4は,タイヤ赤道面(以下赤道面という)Eの両側で矢筈状に,あたかもハの字状に傾斜する配列とする。傾斜副溝5は,傾斜主溝4と逆方向で矢筈状に,あたかもハの字状に傾斜して1本以上,図示例は1本の傾斜主溝4を横切って延びる配列とする。」
「【0019】ここに,傾斜主溝4は,踏面部2の両側端領域Reから内側の主溝部分が赤道面Eに対し30?65°の範囲内の傾斜角度を有する。また,傾斜主溝4は,傾斜副溝5の溝幅に比しより広い溝幅を有するものとする。」
「【0021】以上述べた方向性トレッドパターンを備えるタイヤは下記の効果を奏する。すなわち,(1)排水性について:
(a)踏面部2の幅中央に周方向主溝3を配設することにより,最も有効な排水効果を得ることができ,(b)周方向主溝3に向け矢筈状に延びる傾斜主溝4を,傾斜角度30?65°の範囲内で配設し,かつ,傾斜副溝5より溝幅を広くすることにより,踏面部2の幅中央部の水を効率良く踏面部2の側端Teに向け排水することができ,これらにより耐ハイドロプレーニング性が向上する。
【0022】(2)雪上性能について:
(a)踏面部2の幅中央に周方向主溝3を配設することにより,雪上での耐横滑り性が向上し,(b)踏面部2の両側端領域Reそれぞれの近傍の傾斜主溝4から分岐する傾斜副溝5を配設することで,傾斜主溝4と傾斜副溝5との協同で雪上で駆動・制動性能が向上し,(c)傾斜主溝4を,傾斜角度30?65°の範囲内で配設することにより,ブロック剛性を適度な値とし,雪上で駆動・制動性能を有利に確保し,(d)少なくとも2箇所の溝縁段差部4esを回転方向X前方の溝縁4e1に設け,ここで溝幅を拡幅することにより,踏面部2が雪中に貫入する際に,傾斜主溝4が掴む雪のせん断抵抗を大きくし,これにより雪上での駆動力・制動力を高め,これらにより雪上性能が向上する。
【0023】(3)氷上性能について:
(a)傾斜主溝4と傾斜副溝5との協同でタイヤ進行方向の充分なエッジ成分を確保し,これにより氷上の駆動・制動性能が向上し,(b)傾斜主溝4を,傾斜角度30?65°の範囲内で配設することにより,ブロック6,7,8の剛性を適度な値で高め,氷上での駆動・制動性能を向上させ,これらにより氷上性能が向上する。
【0024】なお,傾斜主溝4の傾斜角度を30°未満とすると,雪上での駆動力・制動力に対する効果が小さくなり,傾斜角度が65°を超えると,ブロック6,7,8の剛性低下を招き氷上での駆動力・制動力に対する効果が小さくなるため,いずれも不可である。この観点から,傾斜主溝4の傾斜角度は35?55°の範囲内が好ましい。」
「【図1】



(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「空気入りタイヤ」は,「トレッド部」を有し,トレッド部は両端にトレッド端を有するものであるから,甲1発明の「空気タイヤ」は,本件特許発明1の「第1トレッド端と第2トレッド端との間のトレッド部を有する空気タイヤ」に相当する。
甲1発明の「ブロック」は,「タイヤ周方向の前後にずれて形成」された「タイヤ赤道線に交差」する「複数の第1傾斜溝」及び「タイヤ赤道線及び前記第1傾斜溝それぞれに交差」する「複数の第2傾斜溝」によって区画され,トレッド部のタイヤ赤道線付近,すなわちトレッド部の中央領域に設けられることになるので,本件特許発明1の「クラウンブロック」に相当し,「前記トレッド部の中央領域に,複数のクラウンブロックがタイヤ周方向に設けられており」を満たすものとなる。
甲1発明の周方向に設けられた「ブロック」のうち,「第1傾斜溝」の「前方側曲線溝」及び「後方側曲線溝」並びに「第2傾斜溝」の「後方側曲線溝」を含む溝で区画された「ブロック」については,このブロックの「第1傾斜溝」の「前方側曲線溝」と接する部分が本件特許発明1の「第1横エッジ」に相当し,「第1傾斜溝」の「後方側曲線溝」と接する部分及び「第2傾斜溝」の「後方側曲線溝」と接する部分が,「第1横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めに延びる一対の第1斜めエッジ」に相当する。
そして,甲1発明のこの「ブロック」は,それぞれ本件特許発明1の「第1横エッジ」,「第1横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めに延びる一対の第1斜めエッジ」からなる三辺を有することから,「台形状の先端部」を有すると言える。
甲1発明の周方向に設けられた「ブロック」のうち,「第2傾斜溝」の「前方側曲線溝」及び「後方側曲線溝」並びに「第1傾斜溝」の「後方側曲線溝」を含む溝で区画された「ブロック」については,このブロックの「第2傾斜溝」の「前方側曲線溝」と接する部分が本件特許発明1の「第2横エッジ」に相当し,「第2傾斜溝」の「後方側曲線溝」と接する部分及び「第1傾斜溝」の「後方側曲線溝」と接する部分が,「第2横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めに延びる一対の第2斜めエッジ」に相当する。
そして,甲1発明のこの「ブロック」は,それぞれ本件特許発明1の「第2横エッジ」,「第2横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めに延びる一対の第2斜めエッジ」からなる三辺を有することから,「台形状の先端部」を有すると言える。

したがって,本件特許発明1と甲1発明は,
「第1トレッド端と第2トレッド端との間のトレッド部を有する空気入りタイヤであって,
前記トレッド部の中央領域に,複数のクラウンブロックがタイヤ周方向に設けられており,
前記クラウンブロックは,
前記第1トレッド端側へのびる第1横エッジと,前記第1横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めにのびる一対の第1斜めエッジとを有する台形状の先端部を含む第1クラウンブロックと,
第2トレッド端側へのびる第2横エッジと,前記第2横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めにのびる一対の第2斜めエッジとを有する台形状の先端部を含む第2クラウンブロックとを含み,
前記第1クラウンブロックと前記第2クラウンブロックとは,タイヤ周方向に交互に設けられている,
空気入りタイヤ。」である点で一致する。

そして,本件特許発明1と甲1発明とは下記の相違点1ないし5で相違する。
・相違点1
第1クラウンブロックの第1横エッジについて,本件特許発明1は,「タイヤ軸方向に対して10°以下の角度」と特定するのに対し,甲1発明はこのように特定しない点。
・相違点2
第2クラウンブロックの第2横エッジについて,本件特許発明1は,「タイヤ軸方向に沿って」と特定するのに対し,甲1発明はこのように特定しない点。
・相違点3
第1横エッジ及び第2横エッジについて,本件特許発明1は第1横エッジを「タイヤ赤道の近傍」から「第1トレッド端側へのびる」とする一方,第2横エッジを「タイヤ赤道の近傍」から「第2トレッド端側へのびる」とするのに対し,甲1発明はこのように特定しない点。
・相違点4
一対の第1斜めエッジについて,本件特許発明1は「それぞれ,タイヤ周方向に対する角度が20?45°であり」と特定するのに対し,甲1発明はこのように特定しない点。
・相違点5
一対の第1斜めエッジについて,本件特許発明1は「第1トレッド端側に配された」「第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度は」,「第2トレッド端側に配された」「第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度よりも大きい」と特定するのに対し,甲1発明はこのように特定しない点。

上記相違点について検討する。
事案に鑑み,相違点4及び相違点5をまとめて先に検討する。
甲1発明は,一対の第1斜めエッジに相当する箇所の片方の角度を,前方側曲線溝とトレッド幅方向線との交差角度よりも大きい60?100°の角度と特定することで「良好な排水性能を得る」ものであり,この「60?100°」を「タイヤ周方向に対する角度」に換算すると,「-110?30°」となり,本件特許発明1の対応する角度である「20?45°」と一部重複するが,甲1発明における一対の斜めエッジに相当する箇所のもう片方の角度は明らかではない。
また,甲1発明の一対の斜めエッジに相当する箇所の角度のそれぞれの大小関係も明らかではない。

上記(1)ウのとおり,甲2には,空気入りタイヤにおいて,傾斜溝のタイヤ赤道面に対する角度を,トレッド中央領域で10?30°の範囲とすることによって,すぐれた排水性と,パターンノイズの効果的な低減を図り,トレッド側部領域の傾斜溝の,タイヤ赤道面に対する角度をトレッド中央区域の角度より大きく,好ましくは50?90°の範囲とすることによって,トレッド中央区域で各傾斜溝へ入り込んだ水の,タイヤ側方への迅速な排出をもたらし,併せて,傾斜溝間の陸部の高い横剛性を確保する,という技術的事項が記載されている。
しかしながら,甲2には,一対の第1斜めエッジについて,「それぞれ,タイヤ周方向に対する角度が20?45°であり」とし,「第1トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度は第2トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度よりも大きい」ものとする構成は記載されていない。また,甲2には,空気入りタイヤの雪上での走行について記載されていない。

上記(1)エのとおり,甲3には,空気入り冬用タイヤにおいて,トレッド踏面部のトレッドセンターの左右側部に,タイヤ赤道面に対して0?30°の角度をなして相互に八字状に互い違いに延在する傾斜主溝を設けることで,従来タイヤの周方向連続溝に代えたタイヤの前方方向への優れた排水性を確保し,氷雪路面に対するトラッション性能をもたらすという技術的事項が記載されている。
しかしながら,甲3には,一対の第1斜めエッジについて,「それぞれ,タイヤ周方向に対する角度が20?45°であり」とし,「第1トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度は第2トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度よりも大きい」ものとする構成は記載されていない。

上記(1)オのとおり,甲5には,全天候型空気入りラジアルタイヤのトレッドパターンについて,タイヤ赤道面に対してオーバーラップして位置するセンター周方向溝と,タイヤ周方向へ傾斜して延在する傾斜溝を設けることで,周方向溝によってウェット路面の水膜をより有利に破壊するとともに,雪上での横すべりに対する大きな効力を発生し,また,傾斜溝により,ウェット路面での十分な排水性を確保し,水膜破壊性のより一層の向上をもたらし,雪上でのトラクションフォースの増大をもたらすことができるという技術的事項が記載されている。
しかしながら,甲5には,一対の第1斜めエッジについて,「それぞれ,タイヤ周方向に対する角度が20?45°であり」とし,「第1トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度は第2トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度よりも大きい」ものとする構成は記載されていない。

上記(1)カのとおり,甲6には,冬用空気入りラジアルタイヤのトレッドパターンにおいて,タイヤ赤道面上で周方向に延びる周方向主溝と赤道面に対し30?65°の範囲内の傾斜角度を有する傾斜主溝とを備えることで,排水効果を高め,雪上での耐横滑り性を向上させ,ブロック剛性を適度な値とし,雪上で駆動・制動性能を有利に確保する,という技術的事項が記載されている。
しかしながら,甲6には,一対の第1斜めエッジについて,「それぞれ,タイヤ周方向に対する角度が20?45°であり」とし,「第1トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度は第2トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度よりも大きい」ものとする構成は記載されていない。

また,甲4にも,一対の第1斜めエッジについて,「それぞれ,タイヤ周方向に対する角度が20?45°であり」とし,「第1トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度は第2トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度よりも大きい」ものとする構成は記載されていない。

してみると,一対の第1斜めエッジについて,「それぞれ,タイヤ周方向に対する角度が20?45°であり」とし,「第1トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度は第2トレッド端側に配された第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度よりも大きい」ものとする構成は,甲2ないし6に記載された技術的事項から,本件特許の出願前に周知であったとは言えない。

したがって,甲1発明において,相違点4及び相違点5に係る構成を甲2ないし6に記載された事項を元に採用することは当業者といえども容易になし得たものではなく,また,甲1発明においてこのような構成を採用することによって,「タイヤ周方向及びタイヤ軸方向にバランス良くエッジ効果を発揮」しつつ「第1クラウンブロック」及び「第2クラウンブロック」がタイヤ赤道方向に変形し易く,第1クラウンブロックと第2クラウンブロックとの間の雪がさらに押し固められ,大きな雪柱せん断力を生成するという効果(本件特許明細書【0036】及び【0039】)が奏されることも当業者が予測することができた範囲のものとは言いがたい。

よって,相違点1ないし相違点3について検討するまでもなく,本件特許発明1は,甲1発明,すなわち甲1に記載された発明と甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

イ 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7はいずれも,請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり,本件特許発明1の特定事項を全て含むものである。
そして,上記アのとおり,本件特許発明1は,甲1に記載された発明と甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件特許発明1の特定事項を全て含む本件特許発明2ないし7もまた,甲1発明と甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記相違点4及び相違点5に係る主張はおおむね以下のとおりである。
・本件特許発明1で特定される,一対の第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度を20?45°とすることは甲2,甲3及び甲6に記載された周知事項であり,本件特許発明1で特定される,一対のエッジの一方を他方よりも角度を大きくすることは甲5及び甲6に記載された周知事項であるので,甲1発明において,これらの構成を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。
上記主張について検討するに,上記(2)のとおり,甲1ないし甲6のいずれにおいても,一対の第1斜めエッジのタイヤ周方向に対する角度を20?45°とした上で,一対のエッジの一方を他方よりも角度を大きくする技術的事項は開示されていない。
そして,「クラウンブロック」に関する上記の特定事項の一部のみが記載されている文献が存在するからといって,これらの特定事項をひとまとまりの特徴とした「クラウンブロック」が本件特許発明1の出願前に公知であったという十分な裏付けになるものではないし,タイヤのトレッド形状は全体として意味を有するものであるから,細かく区分けした構成がそれぞれ周知であるからといって,それを組み合わせた構成が容易に想到し得たものということもできない。
よって,特許異議申立人の主張は失当であって,採用できない。

(4)小括
したがって,本件特許の請求項1ないし7に係る特許は,上記申立理由1の理由で取り消すことはできない。

2 申立理由2(特許法36条6項1号)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなく当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否を検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比及び判断
ア 特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は,上記「第2 本件特許発明」で記載したとおりである。

イ 発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書には,下記の記載がある(下線は当審で付加。)。
「【0001】
本発明は,優れた雪上性能を発揮し得る空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば,下記特許文献1には,台形状の先端部を有するクラウンブロックを有する空気入りタイヤが提案されている。この空気入りタイヤでは,同じ形状の各クラウンブロックが,タイヤ軸方向の位置を揃えてタイヤ周方向に隔設されている。しかしながら,このようなクラウンブロック列を例えば冬用の空気入りタイヤに採用した場合,各クラウンブロックの間に雪が詰まり易く,ひいては雪上性能が低下するおそれがあった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は,以上のような問題点に鑑み案出なされたもので,クラウンブロックの形状及び配置を改善することを基本として,優れた雪上性能を発揮し得る空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。」
「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は,第1トレッド端と第2トレッド端との間のトレッド部を有する空気入りタイヤであって,前記トレッド部の中央領域に,複数のクラウンブロックがタイヤ周方向に設けられており,前記クラウンブロックは,タイヤ赤道の近傍からタイヤ軸方向に沿って前記第1トレッド端側へのびる第1横エッジと,前記第1横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めにのびる一対の第1斜めエッジとを有する台形状の先端部を含む第1クラウンブロックと,タイヤ赤道の近傍からタイヤ軸方向に沿って前記第2トレッド端側へのびる第2横エッジと,前記第2横エッジの両端からそれぞれタイヤ軸方向のブロック幅がタイヤ周方向の一方側に向かって漸増するように斜めにのびる一対の第2斜めエッジとを有する台形状の先端部を含む第2クラウンブロックとを含み,前記第1クラウンブロックと前記第2クラウンブロックとは,タイヤ周方向に交互に設けられていることを特徴としている。」
「【0014】
また,第1クラウンブロックの横エッジは第1トレッド端側へのび,第2クラウンブロックの横エッジは,第2トレッド端側へのびている。これにより,第1クラウンブロックと第2クラウンブロックとは,接地圧が作用したとき,互いに異なる方向に変形し易い。従って,第1クラウンブロックと第2クラウンブロックとの間に雪が詰まり難く,ひいては良好な雪上性能が長期に亘って維持される。」

ウ 対比・判断
本件特許明細書の記載,特に【0002】及び【0004】の記載から,本件特許の請求項1ないし7に係る発明の課題(以下,「発明の課題」という。)は「優れた雪上性能を発揮し得る空気入りタイヤを提供すること」と言え,また特に【背景技術】に関する記載から,「優れた雪上性能」の発揮は,タイヤ周方向にクラウンブロック列を配設しても,各クラウンブロックの間に雪が詰まることがないことからもたらされると言える。

本件特許明細書の【0014】の記載から,当業者は,タイヤ周方向に交互に設けられている第1クラウンブロックと第2クラウンブロックにおいて,第1クラウンブロックの第1横エッジがタイヤ赤道の近傍からタイヤ軸方向に沿って第1トレッド端側へのび,第2クラウンブロックの第2横エッジがタイヤ赤道の近傍からタイヤ軸方向に沿って第2トレッド端側へのびる構成を採用することで,第1クラウンブロックと第2クラウンブロックに接地圧が作用したとき,互いに異なる方向に変形し易くなり,第1クラウンブロックと第2クラウンブロックとの間に雪が詰まり難くなること,そして,これにより良好な雪上性能が長期に亘って維持されるとの発明の課題を解決できると認識するといえる。
そして,この構成は,本件特許発明1における「タイヤ赤道の近傍からタイヤ軸方向に対して10°以下の角度で前記第1トレッド端側へのびる第1横エッジ」及び「タイヤ赤道の近傍からタイヤ軸方向に沿って前記第2トレッド端側へのびる第2横エッジ」なる構成に対応するものと言えるから,この構成を有する本件特許発明1は,発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって,本件特許の請求項1の記載は,サポート要件を充足する。
また,本件特許の請求項2ないし7の記載についても同様にサポート要件を充足する。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,本件特許発明1ないし7で特定されるブロックパターンがタイヤ赤道方向に対して線対称であることを特定しておらず,このような形状は,本件特許発明1ないし7の効果を得ることができない蓋然性が高い旨を主張している。
しかしながら,本件特許の請求項1ないし7の記載がサポート要件を満たすか否かは上記(1)の判断基準で判断されるべきものであるところ,本件発明がサポート要件を充足すると判断されるのは上記(2)で検討のとおりであって,ブロックパターンがタイヤ赤道方向に対して線対称であるかどうかとは関係がない。
よって,特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)小括
したがって,本件特許の請求項1ないし7に係る特許は,上記申立理由2の理由で取り消すことはできない。

第5 むすび
以上より,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-23 
出願番号 特願2016-8824(P2016-8824)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B60C)
P 1 651・ 121- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
神田 和輝
登録日 2020-06-29 
登録番号 特許第6724379号(P6724379)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 苗村 潤  
代理人 住友 慎太郎  
代理人 石原 幸信  
代理人 浦 重剛  

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