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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08G |
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管理番号 | 1372763 |
異議申立番号 | 異議2020-700904 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-11-26 |
確定日 | 2021-04-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6699145号発明「光および熱硬化性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6699145号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1 本件特許の設定登録までの経緯 特許第6699145号(請求項の数8。以下、「本件特許」という。)は、平成27年11月30日にされた出願に係る特許であって、令和2年5月7日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は同年5月27日である。)。 2 本件異議申立の趣旨 本件特許異議の申立ては、令和2年11月26日に、本件特許1?8に係る特許に対して、特許異議申立人である合同会社SAS(以下、「申立人」という。)により下記の証拠方法を提示の上されたものである。 (本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許であるから、審理の対象外となる請求項はない。) 申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第1号証:国際公開第2013/005471号 ・甲第2号証:特開2003-238904号公報 ・甲第3号証:特開2002-302517号公報 ・甲第4号証:特開2004-285113号公報 ・甲第5号証:特開2009-086291号公報 ・甲第6号証:特開2015-187993号公報 ・甲第7号証:特開2011-032351号公報 ・甲第8号証:国際公開第2009/011211号 ・甲第9号証:特開2014-179764号公報 ・甲第10号証:特開2014-066921号公報 (以下、甲第1号証?甲第10号証を「甲1」?「甲10」という。) 第2 本件請求項1?8に係る発明 本件特許の請求項1?8に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1?8に係る発明を、順に「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 「【請求項1】 (1)(メタ)アクリロイル基を有する化合物、 (2)1分子中にビニル基又はアリル基を2個以上有するポリエン化合物、 (3)1分子中にチオール基を2個以上有するポリチオール化合物、 (4)光ラジカル発生剤、 (5)熱ラジカル発生剤、及び (6)熱アニオン重合開始剤 を含み、 成分(1)と成分(3)の官能基当量比(成分(1)の(メタ)アクリロイル基の当量/成分(3)のチオール基の当量)が0.5以上、3.0以下であり、 成分(2)と成分(3)の官能基当量比(成分(2)のビニル基又はアリル基の当量/成分(3)のチオール基の当量)が0.3以上、3.0以下であり、並びに 成分(1)及び成分(2)と成分(3)との官能基当量比((成分(1)の(メタ)アクリロイル基の当量+成分(2)のビニル基又はアリル基の当量)/成分(3)のチオール基の当量)が0.8以上、5以下である、樹脂組成物。 【請求項2】 さらに、(7)重合反応禁止剤を含む、請求項1記載の樹脂組成物。 【請求項3】 光および熱硬化用である請求項1又は2記載の樹脂組成物。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項記載の樹脂組成物を含む接着剤。 【請求項5】 カメラモジュールの構成部材間の接着用である、請求項4記載の接着剤。 【請求項6】 請求項1?3のいずれか1項記載の樹脂組成物を含む封止剤。 【請求項7】 請求項1?3のいずれか1項記載の樹脂組成物を含むコーティング剤。 【請求項8】 請求項1?3のいずれか1項記載の樹脂組成物を塗布した接着部品と被接着部品間の位置決めを行う位置決め工程、 光照射により前記硬化性樹脂組成物を硬化させて前記接着部品と前記被接着部品間を仮固定する工程、および 加熱により前記硬化性樹脂組成物を硬化させて前記接着部品と前記被接着部品間を本固定する工程を含む、カメラモジュールの製造方法。」 第3 申立理由の概要 申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりであると認められる。 なお、申立理由2(実施可能要件)と申立理由3(サポート要件)は、特許異議申立書の第38?40頁に併せて申立てられているが、ここでは分けて検討する。 1 申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性) 本件発明1ないし6は、甲1に記載された発明、及び、周知技術(甲2?甲7)から当業者が容易に想到し得るものであり、本件発明7は、甲1に記載された発明、及び、周知技術(甲2?甲8)から当業者が容易に想到し得るものであり、本件発明8は、甲1に記載された発明、及び、周知技術(甲2?甲10)から当業者が容易に想到し得るものであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由2(実施可能要件) 本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明では、本件発明1ないし8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件の請求項1ないし8の記載では、同各項の発明が明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。 よって、本件の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 第4 当審の判断 当審は、申立人が主張する申立理由及び証拠では、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことができないもの、と判断する。 以下、詳述する。 1 申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)について (1)甲1に記載された事項 甲1には、以下の事項が記載されている。 ア「請求の範囲 [請求項1] 以下の(A)?(E)成分を含有することを特徴とする樹脂組成物。 (A)アクリル樹脂 (B)チオール化合物 (C)潜在性硬化剤 (D)ラジカル重合禁止剤 (E)アニオン重合抑制剤 [請求項2] (F)ラジカル重合開始剤を含む請求項1に記載の樹脂組成物。 [請求項3] (G)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物を含む請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。 [請求項4] (G)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物が、ポリブタジエンである請求項3に記載の樹脂組成物。 [請求項5] (G)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物が、ポリビニルエーテルである請求項3に記載の樹脂組成物。 [請求項6] (G)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物が、2つ以上のグリシジル基を有するポリブタジエンである請求項3に記載の樹脂組成物。 [請求項7] (G)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物が、2つ以上のグリシジル基を有するポリビニルエーテルである請求項3に記載の樹脂組成物。 [請求項8] (A)アクリル樹脂/(B)チオール化合物当量比が、0.5?2.0である請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物。 [請求項9] 前記(D)ラジカル重合禁止剤の含有量が、樹脂組成物全量に対して0.0001?1.0wt%である請求項1から請求項8のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物。 [請求項10] 前記(E)アニオン重合抑制剤の含有量が、(C)潜在性硬化剤の含有量に対して重量比で0.001?1.0である請求項1から請求項9のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物。 [請求項11] (D)ラジカル重合禁止剤が、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム、トリフェニルホスフィン、p-メトキシフェノール、及びハイドロキノンから選ばれる少なくとも1種である請求項1から請求項10のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物。 [請求項12] (E)アニオン重合抑制剤が、ホウ酸エステル、アルミニウムキレート、及び有機酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1から請求項11のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物。 [請求項13] 請求項1から請求項12のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む接着剤または封止剤。」 イ「技術分野 [0001] 本発明は、光及び加熱により硬化する樹脂組成物に関する。より詳しくは、光照射により仮固定が可能であり、加熱することで本硬化させることが可能な光及び加熱硬化性樹脂組成物に関する。 背景技術 [0002] 紫外線(UV)照射により仮固定し、熱により本硬化させるタイプの接着剤は多くの分野に使用されており(例えば特許文献1、2を参照)、特にイメージセンサーモジュール用途ではよく利用されている。イメージセンサーは高温に弱いため、接着剤には低温硬化性が要求される。他方、生産コストの面からは、接着剤には短時間硬化性も同時に要求される。低温短時間硬化型の接着剤の例としては、チオール系接着剤が挙げられる(例えば特許文献3、4を参照)。しかし、チオール系接着剤に、UV硬化性を付与するのは非常に難しい。UV硬化性を有するアクリル樹脂とチオール樹脂との反応は、アクリル樹脂以外の樹脂(例えばエポキシ樹脂)とチオール樹脂との反応に比べて進行しやすいため、接着剤のポットライフが実用上使用できないレベルにまで短くなってしまうためである。」 ウ「発明が解決しようとする課題 [0004] 本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであって、十分に長いポットライフを有する光及び加熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0005] 本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々の実験及び検討を行った結果、アクリル樹脂、チオール樹脂、及び潜在性硬化剤に加えて、さらに、ラジカル重合禁止剤及びアニオン重合抑制剤を加えることによって、実使用に耐えうるレベルの十分に長いポットライフを有する光及び加熱硬化性樹脂組成物が得られることを新たに発見し、本発明を完成させた。 [0006] すなわち、本発明は、(A)アクリル樹脂と、(B)チオール化合物と、(C)潜在性硬化剤と、(D)ラジカル重合禁止剤と、(E)アニオン重合抑制剤とを含有する樹脂組成物である。 [0007] 本発明の樹脂組成物は、さらに(F)ラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。 [0008] 本発明の樹脂組成物は、さらに(G)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物を含有することが好ましい。 [0009] (G)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物が、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル、2つ以上のグリシジル基を有するポリブタジエン、及び2つ以上のグリシジル基を有するポリビニルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。」 エ「[0015] また、本発明は、上記いずれかに記載の樹脂組成物を含む接着剤または封止剤を提供する。 発明の効果 [0016] 本発明によれば、十分に長いポットライフを有する光及び加熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。」 オ「[0018] 上記(A)成分のアクリル樹脂とは、アクリル酸エステルモノマー及び/又はメタクリル酸エステルモノマーあるいはこれらのオリゴマーのことである。本発明に使用可能なアクリル酸エステルモノマー及び/又はメタクリル酸エステルモノマーあるいはこれらのオリゴマーとしては、以下のものを例示することができる。」 カ「[0020] 上記(B)成分のチオール化合物とは、チオール基を有する化合物のことであり、1分子当り2個以上のチオール基を有するものが好ましい。保存安定性の観点からは、塩基性不純物含量が極力少ないものが好ましい。 ・・・」 キ「[0022] 上記(C)成分の潜在性硬化剤とは、室温では不溶の固体で、加熱することにより可溶化し硬化促進剤として機能する化合物であり、その例として、常温で固体のイミダゾール化合物や、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤、例えば、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン-エポキシアダクト系)、アミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物との反応生成物(尿素型アダクト系)等が挙げられる。」 ク「[0030] 上記の固体分散型潜在性硬化促進剤として市販されている代表的な例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。すなわち、例えば、アミン-エポキシアダクト系(アミンアダクト系)としては、「アミキュアPN-23」(味の素(株)商品名)、「アミキュアPN-40」(味の素(株)商品名)、「アミキュアPN-50」(味の素(株)商品名)、「ハードナーX-3661S」(エー・シー・アール(株)商品名)、「ハードナーX-3670S」(エー・シー・アール(株)商品名)、「ノバキュアHX-3742」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHX-3721」(旭化成(株)商品名)などが挙げられ、また、尿素型アダクト系としては、「フジキュアFXE-1000」(富士化成(株)商品名)、「フジキュアFXR-1030」(富士化成(株))などが挙げられる。」 ケ「[0031] 上記(D)成分のラジカル重合禁止剤は、樹脂組成物の保存時の安定性を高めるために添加されるものであり、意図しないラジカル重合反応の発生を抑制するために添加されるものである。 ・・・」 コ「[0032] 上記(E)成分のアニオン重合抑制剤は、樹脂組成物の保存時の安定性を高めるために添加されるものであり、意図しないアミノ基とチオール樹脂との反応を抑制するために添加されるものである。 ・・・」 サ「[0033] 本発明の樹脂組成物は、さらに(F)ラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。樹脂組成物がラジカル重合開始剤を含有することによって、短時間のUV照射で樹脂組成物を硬化させることが可能となる。本発明に使用可能なラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、公知の材料を使用することが可能である。ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、チオキサンソン、2-クロルチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、2,4-ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4-ジクロロチオキサンソン、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフインオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、カンファーキノンなどが挙げられる。 [0034] 本発明の樹脂組成物は、さらに、(G)分子中に2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物を含有することが好ましい。分子中に2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物は、加熱によってチオール化合物とあまり反応しないため、アニオン重合抑制剤と同様に樹脂組成物の保存時の安定性を高めることが可能である。 [0035] (G)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物の具体例としては、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル、2つ以上のグリシジル基を有するポリブタジエン、2つ以上のグリシジル基を有するポリビニルエーテル等を挙げることができる。これらのうち2種以上を組み合わせて用いることも可能である。」 シ「[0042] 本発明の樹脂組成物は、例えば部品同士を接合するための接着剤あるいはその原料として用いることができる。 本発明の樹脂組成物は、例えば電子部品の封止剤あるいはその原料として用いることができる。」 ス「実施例 ・・・ [0044] (樹脂組成物の調製) 表1、2に示す配合で各成分を混合して、実施例1?21に係る樹脂組成物を調製した。 表3に示す配合で各成分を混合して、比較例1?2に係る樹脂組成物を調製した。 なお、表1?3において、(A)?(G)の各成分の配合割合を示す数字は、すべて重量部で示している。 [0045] 表1?3において、(A)?(G)の各成分の具体的な物質名等は、以下の通りである。また、(A)?(G)の一部の構造式を、下記の[化1]、[化2]、[化3]、[化4]に示している。 [0046] (A1)アクリル樹脂1:ダイセル・サイテック株式会社製「EBECRYL810」 ポリエステルアクリレート、重量平均分子量約1000、4官能 (A2)アクリル樹脂2:東亜合成株式会社製「M7100」 ポリエステルアクリレート、重量平均分子量約1000、3官能以上 [0047] (B1)チオール化合物1:SC有機化学株式会社製「PEMPII」 ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート) (B2)チオール化合物2:SC有機化学株式会社製「TMMP」 トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、重量平均分子量398 (B3)チオール化合物3:SC有機化学株式会社製「DPMP」 ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、重量平均分子量783 (B4)チオール化合物4:昭和電工株式会社製「カレンズMT」 ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、分子量544.8 [0048] (C1)潜在性硬化剤1:味の素ファインテクノ株式会社製「PN-50」 (C2)潜在性硬化剤2:味の素ファインテクノ株式会社製「PN-23」 [0049] (D1)ラジカル重合禁止剤1:和光純薬工業株式会社製、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム、分子量:488.33 (D2)ラジカル重合禁止剤2:東京化成工業株式会社製、トリフェニルホスフィン 分子量:262.29 [0050] (E1)アニオン重合抑制剤1:東京化成工業株式会社製、ホウ酸トリイソプロピル、分子量:188.07 (E2)アニオン重合抑制剤2:味の素ファインテクノ株式会社製、アルミニウムキレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、分子量:496.70 (E3)アニオン重合抑制剤3:東京化成工業株式会社製、バルビツール酸、分子量:128.09 (E4)アニオン重合抑制剤4:味の素ファインテクノ株式会社製、ホウ酸エステル(ホウ酸トリイソプロピル) [0051] (F1)ラジカル重合開始剤1:BASF社製「ルシリンTPO」 ジフェニル(2,4,6‐トリメトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド、分子量:348.37 [0052] (G1)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物1:株式会社ADEKA製、グリシジル基を有するポリブタジエン、エポキシ化1,2-ポリブタジエン、分子量:1000 (G2)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物2:丸善石油化学株式会社製、グリシジル基を有するポリビニルエーテル、ブタンジオールモノビニルモノグリシジルエーテル、分子量:172.2 [0053] [表1] ・・・ [0056] [表4] ・・・ [0059] [化1] ・・・ [0060] [化2] ・・・ [0061] [化3] ・・・ [0062] [化4] ・・・ [0063] (加熱による硬化、及び、得られた硬化物の外観の観察) 実施例1?21及び比較例1?2で得られた各樹脂組成物を、80℃のホットプレートの上に乗せて20分間放置した。この結果、実施例1?21、及び、比較例1?2のすべての樹脂組成物について、良好な外観を有する樹脂硬化物が得られた。得られた樹脂硬化物について、針状の道具で突いて硬化しているかどうかを確認した。硬化しておらず、液状に近い場合は×、硬化している場合は○と判定した。結果を表4?6に示す。 [0064] (UV照射による硬化、及び、得られた硬化物の外観の観察) 実施例1?21及び比較例1?2の各樹脂組成物に対して、ベルト炉式のUV照射装置を使用して、紫外線(UV)を400mJ/cm^( 2)の条件で照射した。この結果、実施例1?21の樹脂組成物について、仮固定が可能な程度に硬化した樹脂硬化物が得られた。特に、ラジカル重合開始剤を含む実施例5では、他の実施例よりも硬い樹脂硬化物が得られており、UV照射による硬化が容易であった。 [0065] (ポットライフの測定) 実施例1?21及び比較例1?2の各樹脂組成物のポットライフを測定した。この結果、表4?6に示す通り、実施例1?21の各樹脂組成物のポットライフは最低でも24時間(実施例14)であり、実使用に耐えうる程度に十分に長いポットライフが得られた。これに対し、比較例1?2の各樹脂組成物は、ポットライフが最大でも12時間(比較例2)であり、実使用に耐えうる程度に十分に長いポットライフが得られなかった。 [0066] (粘度の測定) 実施例1?21及び比較例1?2の各樹脂組成物の粘度を測定した。 具体的には、樹脂組成物の温度を25±2℃に保ち、東機産業株式会社製TV-22形粘度計TVE-22H1°34’×R24コーンを用い、10rpmの粘度を測定した。 [0067] (線膨張係数の測定) 実施例1?21及び比較例1?2の各樹脂組成物の線膨張係数を測定した。 具体的には、40mm×60mmのステンレス板に、硬化した時の膜厚が150±100μmとなるように孔版で樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、80℃で1時間放置して硬化させた。この塗膜をステンレス板から剥がした後、カッターで所定寸法(5mm×40mm)に切り取った。なお、切り口はサンドペーパーで滑らかに仕上げた。この塗膜を、ブルカー・エイエックスエス株式会社製熱分析装置TMA4000SAシリーズまたはそれに相当する装置を用いて引っ張りモードで測定し、線膨張係数を求めた。 [0068] (引張弾性率の測定) 実施例1?21及び比較例1?2の各樹脂組成物の引張弾性率を測定した。 具体的には、40mm×60mmのステンレス板に、硬化した時の膜厚が150±100μmとなるように孔版で樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、80℃で1時間放置して硬化させた。この塗膜をステンレス板から剥がした後、カッターで所定寸法(5mm×40mm)に切り取った。なお、切り口はサンドペーパーで滑らかに仕上げた。この塗膜を、JIS C6481に従い、セイコーインスツル社製、動的熱機械測定(DMA)を用いて測定した。この25℃の貯蔵弾性率を、引張弾性率とした。 [0069] (Tgの測定) 実施例1?21及び比較例1?2の各樹脂組成物のTgを測定した。 具体的には、40mm×60mmのステンレス板に、硬化した時の膜厚が150±100μmとなるように孔版で樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、80℃で1時間放置して硬化させた。この塗膜をステンレス板から剥がした後、カッターで所定寸法(5mm×40mm)に切り取った。なお、切り口はサンドペーパーで滑らかに仕上げた。この塗膜を、JIS C6481に従い、セイコーインスツル社製、動的熱機械測定(DMA)を用いて測定した。 [0070] 実施例1?21及び比較例1?2のポットライフ、粘度、線膨張係数、引張弾性率、及びTgの測定結果を、表4?6に示す。 [0071] (結果の考察) 実施例1?21の結果を見れば分かる通り、本発明の樹脂組成物は、ポットライフが最低でも24時間以上であり、実使用に耐えうる程度の十分に長いポットライフを有していた。 これに対し、比較例1、2の樹脂組成物は、ラジカル重合禁止剤及びアニオン重合抑制剤のうち少なくとも一方を含有していないために、ポットライフが最大でも12時間であり、実使用に耐えうる程度に十分の長いポットライフを有していなかった。 [0072] 実施例1?21を見れば分かる通り、より長いポットライフを得るためには、(E)アニオン重合抑制剤の含有量は、(C)潜在性硬化剤の含有量に対して重量比で0.001?1.0であることが好ましいことが判明した。」 (2)甲1に記載された発明 甲1の段落[0044]には、表1に示す配合で各成分を混合して、実施例に係る樹脂組成物を調製することが記載され、段落[0045]?[0052]には、実施例で使用する成分の具体的な物質名が記載され、[表1]には、実施例6の各成分の配合組成が記載されている。 甲1には、実施例6に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。 「(A1)アクリル樹脂1:ダイセル・サイテック株式会社製「EBECRYL810」 ポリエステルアクリレート、重量平均分子量約1000、4官能 80重量部、 (B1)チオール化合物1:SC有機化学株式会社製「PEMPII」 ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート) 50重量部、 (C1)潜在性硬化剤1:味の素ファインテクノ株式会社製「PN-50」 10重量部、 (D1)ラジカル重合禁止剤1:和光純薬工業株式会社製、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム、分子量:488.33 0.0001重量部 (E1)アニオン重合抑制剤1:東京化成工業株式会社製、ホウ酸トリイソプロピル、分子量:188.07 1重量部 (G1)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物1:株式会社ADEKA製、グリシジル基を有するポリブタジエン、エポキシ化1,2-ポリブタジエン、分子量:1000 20重量部 を混合してなる樹脂組成物」(以下、「甲1発明」という。) (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 本件明細書の段落【0014】には、「(1)(メタ)アクリロイル基を有する化合物」は、「分子中にアクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有する化合物」と記載されているから、4官能のポリエステルアクリレートである甲1発明における「(A1)アクリル樹脂1」は、本件発明1の「(1)(メタ)アクリロイル基を有する化合物」に相当する。 また、甲1発明における「(G1)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物1」は、甲1の段落[0062]にその構造が記載され、ビニル基を2個以上有するから、本件発明1における「(2)1分子中にビニル基又はアリル基を2個以上有するポリエン化合物」に相当する。 また、甲1発明における「(B1)チオール化合物」は、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)であるから、本件発明1の「(3)1分子中にチオール基を2個以上有するポリチオール化合物」に相当する。 さらに、本件明細書の段落【0065】には、「成分(6)の熱アニオン重合開始剤は、熱によって溶解する塩基性化合物又は熱によって結合が乖離して塩基性化合物となる化合物を意味する。熱アニオン重合開始剤としては、常温で固体のイミダゾール化合物、アミン-エポキシアダクト系化合物(アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物)、アミン-イソシアネート系化合物(アミン化合物とイソシアネート化合物との反応生成物)等が挙げられる」と記載されている。そして、甲1発明における「(C1)潜在性硬化剤1」である味の素ファインテクノ株式会社製「PN-50」は、甲1の段落[0030]によると、「アミン-エポキシアダクト系(アミンアダクト系)」であるから、本件発明1の「(6)熱アニオン重合開始剤」に相当する。 さらに、各成分の官能基当量比について検討する。 甲1発明の「(A1)アクリル樹脂1」は、4官能で重量平均分子量が1000であるから、(メタ)アクリロイル基の当量は250(=1000/4)と計算される。 甲1発明における「(G1)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物1」は、繰り返し単位の分子量が178であり、繰り返し単位中にビニル基が2つあるので、ビニル基の当量は89(=178/2)となる。 甲1発明における「(B1)チオール化合物」は、分子量が488で4官能であるから、チオール基の当量は122(=488/4)と計算される。 そして、上記「(A1)アクリル樹脂1」、「(G1)2つ以上の2重結合を有するアクリル樹脂以外の化合物1」及び「(B1)チオール化合物」は、それぞれ80質量部、20質量部及び50質量部ずつ配合されるから、(メタ)アクリロイル基、ビニル基およびチオール基の各当量は、(メタ)アクリロイル基の当量0.320(=80/250)、ビニル基の当量0.225(=20/89)、チオール基の当量0.410(=50/122)と計算され、これを用いて(メタ)アクリロイル基/チオール基、ビニル基/チオール基及び((メタ)アクリロイル基+ビニル基)/チオール基の各当量比は、(メタ)アクリロイル基/チオール基の当量比0.78(=0.320/0.410)、ビニル基/チオール基の当量比0.55(=0.225/0.410)、及び((メタ)アクリロイル基+ビニル基)/チオール基の当量比1.33(=0.545/0.410)と計算される。 そうすると、甲1発明は、本件発明1の「成分(1)と成分(3)の官能基当量比(成分(1)の(メタ)アクリロイル基の当量/成分(3)のチオール基の当量)が0.5以上、3.0以下であり、 成分(2)と成分(3)の官能基当量比(成分(2)のビニル基又はアリル基の当量/成分(3)のチオール基の当量)が0.3以上、3.0以下であり、並びに 成分(1)及び成分(2)と成分(3)との官能基当量比((成分(1)の(メタ)アクリロイル基の当量+成分(2)のビニル基又はアリル基の当量)/成分(3)のチオール基の当量)が0.8以上、5以下である」との条件を満足するといえる。 してみれば、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違している。 一致点:「(1)(メタ)アクリロイル基を有する化合物、 (2)1分子中にビニル基又はアリル基を2個以上有するポリエン化合物、 (3)1分子中にチオール基を2個以上有するポリチオール化合物、及び (6)熱アニオン重合開始剤 を含み、 成分(1)と成分(3)の官能基当量比(成分(1)の(メタ)アクリロイル基の当量/成分(3)のチオール基の当量)が0.5以上、3.0以下であり、 成分(2)と成分(3)の官能基当量比(成分(2)のビニル基又はアリル基の当量/成分(3)のチオール基の当量)が0.3以上、3.0以下であり、並びに 成分(1)及び成分(2)と成分(3)との官能基当量比((成分(1)の(メタ)アクリロイル基の当量+成分(2)のビニル基又はアリル基の当量)/成分(3)のチオール基の当量)が0.8以上、5以下である、樹脂組成物」 相違点A:前者では、「(4)光ラジカル発生剤」を含むのに対し、後者には含まない点。 相違点B:前者では、「(5)熱ラジカル発生剤」を含むのに対し、後者には含まない点。 イ 判断 上記相違点について検討する。 (ア)相違点Aについて 甲1には、「紫外線(UV)照射により仮固定し、熱により本硬化させるタイプの接着剤は・・・生産コストの面からは、接着剤には短時間硬化性も同時に要求される」(段落[0002])と記載され、甲1発明は、短時間硬化性が求められるものであることが示されている。また、甲1の段落[0033]には、さらにラジカル重合開始剤を含有することが好ましいこと、樹脂組成物がラジカル重合開始剤を含有することによって、短時間のUV照射で樹脂組成物を硬化させることが可能となることが記載され、短時間のUV照射で樹脂組成物を硬化させるためにラジカル重合開始剤を含有することが示されている。ここで、上記ラジカル重合開始剤は、その機能からみて、本件発明1における「光ラジカル発生剤」と同じく、「光照射時に効率的に光硬化し得る樹脂組成物を得る」(本件明細書の段落【0058】)ための成分といえるから、甲1に記載の「ラジカル重合開始剤」と本件発明1における「光ラジカル発生剤」は一致している。 してみれば、甲1発明において、甲1の記載に基づき、短時間のUV照射で樹脂組成物を硬化させるため、光ラジカル発生剤を含有することは、当業者が容易に想到し得たことである。 (イ)相違点Bについて 甲1の段落[0002]には、背景技術として「紫外線(UV)照射により仮固定し、熱により本硬化させるタイプの接着剤は多くの分野に使用されており・・・、特にイメージセンサーモジュール用途ではよく利用されている。イメージセンサーは高温に弱いため、接着剤には低温硬化性が要求される。他方、生産コストの面からは、接着剤には短時間硬化性も同時に要求される。低温短時間硬化型の接着剤の例としては、チオール系接着剤が挙げられる・・・。しかし、チオール系接着剤に、UV硬化性を付与するのは非常に難しい。UV硬化性を有するアクリル樹脂とチオール樹脂との反応は、アクリル樹脂以外の樹脂(例えばエポキシ樹脂)とチオール樹脂との反応に比べて進行しやすいため、接着剤のポットライフが実用上使用できないレベルにまで短くなってしまうためである」と記載され、従来技術の問題点として、UV硬化性を有するアクリル樹脂とチオール樹脂を含む接着剤のポットライフが、実用上使用できないレベルで短いということが指摘されており、このため、甲1には、十分に長いポットライフを有する光及び加熱硬化性樹脂組成物を提供することを課題とすることが記載されている(段落[0004])。 ここで、ポットライフとは、その接着剤が使用される環境(室温、通常の明るさ)で測定されるのが技術常識であるから(例えば、甲1の段落[0065]参照)、甲1の課題は、室温での十分に長いポットライフを有する光及び加熱硬化性樹脂組成物を提供するというものである。 一方、甲2の段落【0046】には、光ラジカル開始剤に加えて、熱ラジカル重合開始剤を併用した光硬化型接着剤組成物は冷暗所で保管する必要があり、特に冷凍保存がポットライフの上では好ましいことが記載されている。ここで、甲2に記載の熱ラジカル重合開始剤は、本件発明1に係る「(5)熱ラジカル発生剤」と一致している。 甲1発明は、上記のとおり、室温での十分に長いポットライフを有する光及び加熱硬化性樹脂組成物を提供するとの課題を有しているから、冷暗所や冷凍保存を必要とする熱ラジカル発生剤を配合することには、甲2からは動機付けられない。 また、甲1発明は、潜在性硬化剤(熱アニオン重合開始剤)を含有しており、また、甲1の段落[0063]には、実施例で得られた各樹脂組成物を80℃のホットプレートの上に乗せて20分間放置し、良好な外観を有する樹脂硬化物が得られたこと、また、針状の道具で突いて硬化しているかどうかを確認し、甲1発明である実施例6では、「○(硬化している)」の評価が得られており、既に良好な熱硬化性が得られているから、さらに、熱硬化性を向上させるという動機が、甲1発明にあるとはいえない。 この点からも、熱ラジカル発生剤を含有させるという相違点Bが動機付けられない。 さらに、甲3?甲10には、以下の事項が記載されている。 甲3には、多官能メタクリレートと分子内に2個以上のチオール基を有するメルカプト化合物を含む重合性組成物において、重合による硬化をすみやかに完了させる目的で、光重合と熱重合を同時に行ってもよいし、光重合後に、得られた硬化体を加熱してもよいこと、これにより重合反応の完結及び重合時に発生する内部歪みを低減することが可能であることが記載され(【特許請求の範囲】、段落【0028】)、ラジカル重合開始剤として熱重合性開始剤、光重合開始剤が挙げられることが記載されているものの(段落【0024】)、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用することは記載されていないし、光重合と熱重合を行うときに必ず、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用するという技術常識が示されているわけでもない。 甲4には、側鎖に二重結合を有する重合体と多価チオール化合物とに、光重合開始剤または熱重合開始剤とを含有させた硬化型組成物が記載されているものの(【請求項1】、段落【0056】、【0067】)、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用することは記載されていない。 甲5には、分子内に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するラジカル硬化性樹脂と、分子内に2個以上の1級または2級メルカプト基を含むチオール化合物を含む液晶シール剤において、ラジカル重合開始剤として、光ラジカル重合開始剤や熱ラジカル重合開始剤を含むことが記載されているものの(【特許請求の範囲】、段落【0053】)、光ラジカル重合開始剤と熱ラジカル重合開始剤を併用することは記載されていない。 甲6には、ポリチオールモノマー、ポリエンモノマー、および、チオエーテルオリゴマーを含有する重合性化合物を含有する表示素子用封止剤において、重合開始剤として、光重合開始剤や熱重合開始剤が挙げられているものの(【請求項1】、段落【0041】)、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用することは記載されていない。 甲7には、芳香族エーテル系多官能二級チオール化合物とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含む重合性組成物において、光重合開始剤や熱重合開始剤のような重合開始剤を使用することができることは記載されているものの(【請求項1】、段落【0039】)、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用することは記載されていない。 甲8には、(メタ)アクリロイル基を有するウレタン化合物、チオール化合物、重合開始剤を含有する硬化性組成物において、重合開始剤として、光重合開始剤あるいは熱重合開始剤が使用できることが記載されているものの(請求項1、段落[0088]?[0089])、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用することは記載されていない。 甲9には、UV+熱併用型の接着剤を塗布して紫外線照射して仮硬化させた後、高温炉において本硬化させること(段落【0041】)、甲10には、エネルギー硬化型接着剤を紫外線照射して仮硬化させた後、その未硬化部分と他の樹脂を加熱によって硬化させること(段落【0084】)が記載されているものの、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用することは記載されていない。 甲3?10は、いずれも長いポットライフを有する熱及び光硬化性組成物の提供を目的とするものではないし、また、上記のとおり、甲3?甲10には、光重合開始剤(光ラジカル発生剤)と熱重合開始剤(熱ラジカル発生剤)を併用することは記載されておらず、甲3?10の記載をみても、甲1発明において、光ラジカル発生剤に加えて熱ラジカル発生剤を用いることは、動機づけられない。 以上のとおりであるから、甲1発明において、光ラジカル発生剤に加えて熱ラジカル発生剤を含有させることは、当業者が容易に想到することできたとはいえない。 ウ 本件発明1の効果について 本件発明1の効果は、本件明細書の段落【0010】?【0011】に「本発明の樹脂組成物は、優れた光硬化性と優れた熱硬化性を併せ持つ。このため、使用環境に応じて、光照射による硬化、加熱による硬化、或いは、両者を組み合わせて実施できる。しかも、いずれの場合も十分に硬化した硬化物を得ることができるので、接着剤、封止剤、コーティング剤等の様々な用途に適用することができる。また、一液型の硬化性樹脂組成物でありながら、重合反応抑制剤を必ずしも配合せずとも、良好な保存安定性を有する。 また、本発明の樹脂組成物は、優れた光硬化性と優れた熱硬化性を併せ持つので、組成物への光照射が組成物中に光未照射部分を生じるような条件下でなされても、その後に加熱することで、光未照射部分を含む組成物全体を完全に硬化させることができ、しかも、高接着強度の硬化物を生成する」と記載され、本件発明1の具体例である実施例1?19では、優れた熱硬化性と優れた光硬化性を有し、保存安定性が良好であることが示されている(【表1】、段落【0118】)。 このうち、優れた熱硬化について、本件明細書の段落【0064】、【0065】、【0075】の記載からみて、本件発明1は、熱硬化性に寄与する成分として、成分(5)の熱ラジカル発生剤と成分(6)の熱アニオン重合開始剤を含有している。すなわち、成分(5)により加熱によるラジカル重合を促進し、成分(6)により加熱によるアニオン重合を促進しているといえる。 これに対し、甲1の段落[0016]には、「本発明によれば、十分に長いポットライフを有する光及び加熱硬化性樹脂組成物を提供することができる」と記載され、甲1発明は、熱硬化性と光硬化性を有するものの、熱硬化性に寄与する成分として、熱アニオン重合開始剤しか配合されないから、熱ラジカル重合の促進によって優れた熱硬化性を得るとの点は、甲1の記載から、予測し得ない効果である。 エ 申立人の主張について (ア)主張の内容 申立人は、特許異議申立書の第30?32頁において、上記相違点Bにつき、下記a?cの事項を主張している。 a「本件特許発明は、発明特定事項E((5)熱ラジカル発生剤)を含むことにより、加熱によって効率的に熱硬化し得る樹脂組成物を得るという課題を解決すると読み取れる(本件特許明細書の段落【0064】)。 ・・・甲1発明は、本件特許発明1と同様、光及び加熱硬化性樹脂組成物に関する(甲1の段落[0001])。熱ラジカル発生剤については、甲1に具体的な記載がないものの、甲1に記載のようなポリエン化合物及びチオール化合物を主成分とする光及び加熱硬化性樹脂組成物において、光照射による硬化反応が不十分な場合に、加熱による硬化促進のために、光ラジカル発生剤とともに熱ラジカル発生剤を添加することは、周知技術である(例えば、甲2の請求項13や段落【0047】、甲3の段落【0024】や【0028】)。」 b「甲1発明のようなポリエン化合物及びチオール化合物を主成分とする接着剤又は封止剤用樹脂組成物において、熱硬化を促進するために熱ラジカル発生剤を添加することは、周知技術である(例えば、甲2の段落【0047】、甲4の段落【0067】、甲5の段落【0053】、甲6の段落【0041】、甲7の段落【0039】)。また、これら接着剤又は封止剤用樹脂組成物は、光硬化性でもあり、光ラジカル発生剤を使用することも記載されている。」 c「本件特許発明1の発明特定事項Eによる、加熱によって効率的に熱硬化し得る樹脂組成物を得るという作用効果について検討すると、本件特許発明1では、組成物を80℃で30分間加熱して硬化を行い、指触による塗膜外観観察にて、熱硬化性を評価している(本件特許明細書の段落【0108】)。一方、甲1では、組成物を80℃で20分間加熱して硬化を行い、針状の道具で突いて硬化しているかどうかを確認しており(甲1の段落[0063])、甲1の実施例6の結果も硬化良好というものである(段落[0056]の[表4])。甲1発明と比較して、加熱時間が短くなっているわけではなく、そうすると、本件発明1の発明特定事項Eによる、加熱によって効率的に熱硬化し得る樹脂組成物を得るという作用効果は、格別優れたものとは言えない。」 (イ)検討 上記(ア)のaないしcの主張について検討する。 a 上記(ア)aの点について 上記イ(イ)で述べたように、甲1発明において、甲2の教示を適用することは、動機付けられない。また、甲3の段落【0024】には、ラジカル重合開始剤として、熱重合開始剤、光重合開始剤を用いることが記載されているものの、それらを併用することまで記載されていないし、甲3の段落【0028】には、光重合と熱重合を同時に行ってもよいこと、光重合後に得られた硬化体を加熱することが記載されているものの、同段落には、このため、熱重合開始剤、光重合開始剤の両方を含有させることは記載されていないし、甲3のそのほかの記載をみても、熱重合開始剤、光重合開始剤の両方を含有させることは記載されていない。 したがって、甲2、甲3の記載をもって、ポリエン化合物及びチオール化合物を主成分とする光及び加熱硬化性樹脂組成物において、光照射による硬化反応が不十分な場合に、加熱による硬化促進のために、光ラジカル発生剤とともに熱ラジカル発生剤を添加することは、周知技術であるとはいえない。 b 上記(ア)bの点について 甲2?7は、光ラジカル発生剤、熱ラジカル発生剤のいずれかを含有することを示す周知技術であることから、既に、潜在性硬化剤を含有し、良好な熱硬化性を有する甲1発明において、甲2?7に記載された周知技術に基づき、光ラジカル発生剤に加えて熱ラジカル発生剤を含有させることは、上記イ(イ)で述べたように、動機付けられない。 c 上記(ア)cの点について 熱ラジカル発生剤を含有させることが動機付けられない以上、効果の点は、検討するまでもないが、念のため、検討しておく。 上記ウで検討したように、熱ラジカル発生剤を含有することによる効果は、熱ラジカル重合の促進によって優れた熱硬化性を得るというものであり、この点は、甲1の記載から予測することができない。 また、申立人は、本件実施例と甲1の実施例の熱硬化性のデータを比較して、本件発明1の熱ラジカル発生剤による、加熱によって効率的に熱硬化し得る樹脂組成物を得るという作用効果は、格別優れたものとは言えないと主張しているものの、本件実施例と甲1の実施例では、用いられる硬化性成分である成分(1)?(3)の化合物が異なるから、両者のデータを比較して、本件発明1の熱硬化性は格別優れたものでないとはいえない。 以上のとおりであるから、申立人の上記(ア)aないしcに係る主張は、いずれも採用することができない。 オ 小括 よって、本件発明1は、甲1発明、並びに、甲1及び甲2?甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2?8について 本件発明2?8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(3)で述べたのと同じ理由により、本件発明2?8は、甲1発明、及び、甲2?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (5)申立理由1のまとめ よって、申立人が主張する申立理由1は理由がない。 2 申立理由2(実施可能要件)について (1)特許法第36条第4項第1号の考え方について 特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 よって、この観点に立って、本件の実施可能要件の判断をする。 (2)判断 本件発明1は物の発明であるから、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明に記載されているかを検討する。 本件発明1は、成分(1)?(6)を含み、成分(1)?成分(3)を特定の官能基当量比で含む、樹脂組成物である。 そして、成分(1)として発明の詳細な説明の段落【0013】?【0026】に、成分(2)として段落【0027】?【0033】に、成分(3)として段落【0034】?【0044】に、成分(4)として段落【0050】?【0058】に、成分(5)として段落【0059】?【0064】に、成分(6)として段落【0065】?【0075】に、具体的にどのような化合物を用いれば良いのかが記載されている。 また、段落【0046】?【0048】には、成分(1)?(3)を特定官能基当量比とすることが記載され、段落【0092】には、硬化性樹脂組成物の製造方法が記載されている。 さらに、実施例では、成分(1)?(6)を含み、成分(1)?(3)を特定官能基当量比で含む組成物の具体例を製造することが記載されている。 そうすると、発明の詳細な説明の記載から、成分(1)?(6)として使用する化合物を決定することができるし、成分(1)?(3)について、本件発明1で特定される官能基当量比で配合するよう調節することは当業者が普通に行うことであるから、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1に係る「樹脂組成物」を作ることができるように記載されているといえる。 また、発明の詳細な説明の段落【0093】?【0097】、及び、実施例の記載からみて、本件発明1に係る「樹脂組成物」を使用する具体的な記載があるといえる。 してみれば、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、本件発明1に係る「樹脂組成物」を作り、使用することができるといえる。 よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載したものといえる。 (3)申立人がする申立理由2について ア 主張の内容 申立人が主張するところは、以下のとおりである。 本件特許発明の樹脂組成物は、カメラモジュールの構成部材間の接着に用いることを意図しており、接着剤の単位面積当たりの接着強度が高いものが求められている(請求項6、段落【0002】)。接着強度については、ポリマー自体の構造(分子量、結晶性、立体規則性等)も重要となってくることは当業者の技術常識であるところ、成分(1)、成分(2)の化合物の主鎖構造について何も規定しておらず、成分(1)、(2)の全ての範囲において、当業者といえども過度の試行錯誤をすることなく、本件特許発明の実施をすることができるとはいえない。 イ 検討 物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができるかという観点で判断するべきところ、上記(2)で述べたように、本件発明1で特定される樹脂組成物であれば、当業者は過度の試行錯誤や複雑硬度な実験等を行わずとも、その物を作り、その物を使用することができるといえる。 また、本件発明1は、「樹脂組成物」であり、樹脂組成物中の成分を重合して得られるポリマー自体の構造や接着強度が特定されているわけではないから、主鎖構造が特定された成分(1)及び(2)を用いなくても、本件発明1に係る「樹脂組成物」を製造でき、また、使用することができるといえる。 これに対して、申立人は、本件発明1に係る「樹脂組成物」を作り、かつ、その「樹脂組成物」を使用することができないとの具体的な証拠を挙げた上で、当業者といえども過度の試行錯誤をすることなく、本件特許発明の実施をすることができないと主張している訳ではない。 よって、申立人の主張は採用することができない。 (4)申立理由2のまとめ よって、申立人が主張する申立理由2は理由がない。 3 申立理由3(サポート要件)について (1)特許法第36条第6項第1号の考え方について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 よって、この観点に立って、本件のサポート要件の判断をする。 (2)本件発明の課題 本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】及び発明の詳細な説明の全体の記載からみて、本件発明1の課題は、(ア)優れた光硬化性と優れた熱硬化性を併せ持ち、光照射が光未照射部分を生じるような条件下でなされた場合には、その後に加熱することで、該光未照射部分を含む組成物全体が完全に硬化して高接着強度の硬化物を生成し得、しかも、(イ)保存安定性も良好な、光および熱硬化性樹脂組成物を提供することであると認める。 以下、(ア)、(イ)の点について検討する。 (3)判断 ア 本件発明1について (ア)優れた光硬化性と優れた熱硬化性、高接着強度について 発明の詳細な説明の段落【0010】には、「本発明の樹脂組成物は、優れた光硬化性と優れた熱硬化性を併せ持つ。このため、使用環境に応じて、光照射による硬化、加熱による硬化、或いは、両者を組み合わせて実施できる。しかも、いずれの場合も十分に硬化した硬化物を得ることができるので、接着剤、封止剤、コーティング剤等の様々な用途に適用することができる」と記載され、また、段落【0011】には、「本発明の樹脂組成物は、優れた光硬化性と優れた熱硬化性を併せ持つので、組成物への光照射が組成物中に光未照射部分を生じるような条件下でなされても、その後に加熱することで、光未照射部分を含む組成物全体を完全に硬化させることができ、しかも、高接着強度の硬化物を生成する」と記載されている。さらに段落【0097】には、「本発明の硬化性樹脂組成物は極めて良好な熱硬化性を有しているため、光の未照射部分が生じても、光照射によって硬化が進行した部分(予備硬化した部分)だけでなく、光の未照射部分も熱硬化によって十分に硬化が進行して完全硬化に至り、塗布された硬化性樹脂組成物が高接着強度を与え得る硬化物に硬化される」と記載されている。これらの記載からみて、優れた光硬化性と熱硬化性を併せ持つ樹脂組成物は、光未照射部分を含む組成物全体を完全に硬化させ、高接着強度の硬化物を得ることができると解される。 そして、発明の詳細な説明の段落【0058】には、成分(4)の光ラジカル発生剤によって、光照射時に効率的に光硬化し得る樹脂組成物を得ること、段落【0064】には、成分(5)の熱ラジカル発生剤によって、加熱によって効率的に熱硬化し得る樹脂組成物を得ることがそれぞれ記載され、段落【0065】には、成分(6)の熱アニオン重合開始剤は、熱によって溶解する塩基性化合物又は熱によって結合が乖離して塩基性化合物となる化合物であること、段落【0075】には、熱による硬化性の観点から成分(6)を含有させることが記載されている。これらの記載からみて、本件発明1に係る「樹脂組成物」において、成分(4)の光ラジカル発生剤は優れた光硬化性に寄与し、成分(5)の熱ラジカル発生剤および成分(6)の熱アニオン重合開始剤は優れた熱硬化性に寄与するといえる。 また、発明の詳細な説明の段落【0013】、【0027】には、成分(1)の「(メタ)アクリロイル基を有する化合物」、成分(2)の「1分子中にビニル基又はアリル基を2個以上有するポリエン化合物」は、主に接着強度を高める役割を担う成分であること、段落【0034】には、成分(3)である「1分子中にチオール基を2個以上有するポリチオール化合物」は、紫外線等の光照射または熱により成分(1)の「(メタ)アクリロイル基を有する化合物」を硬化させる硬化剤、或いは、紫外線等の光照射により成分(2)の「1分子中にビニル基又はアリル基を2個以上有するポリエン化合物」を硬化させる硬化剤の役割を担うことが記載されている。 さらに、段落【0046】?【0048】には、光および熱硬化性の観点から、成分(1)と成分(3)の官能基当量比が規定されていること、光硬化性と接着強度の観点から、成分(2)と成分(3)の官能基当量比が規定されていること、光および熱での硬化性の観点から、成分(3)に対する成分(1)と成分(2)の官能基当量比が規定されていることが記載されている。 これらの記載によれば、本件発明1に係る「樹脂組成物」は、成分(1)と成分(3)は光及び熱により硬化し、成分(2)と成分(3)は光により硬化するものであり、成分(1)?(6)が樹脂組成物中に存在することにより、光硬化及び熱硬化が起こり得るものであるといえる。 また、実施例1?19には、本件発明1に係る「樹脂組成物」について、スライドガラス板に上記樹脂組成物を塗布し、その上にコンデンサーチップを載置したものに対し、UV硬化及び熱硬化を行った硬化物の接着強度が「◎:10N/mm^(2)以上」であったことが具体的に記載されている。 そうすると、本件発明1に係る「樹脂組成物」は、成分(1)?(6)を含有し、成分(1)?(3)を特定の官能基当量比で含むことにより、上記課題のうち、優れた光硬化性と優れた熱硬化性を併せ持ち、光未照射部分を含む組成物全体を完全に硬化させて高接着強度の硬化物を生成することを当業者が認識することができるといえる。 (イ)保存安定性について 保存安定性については、背景技術として、段落【0004】には、従来の組成物の保存安定性が必ずしも良好とはいえず、保存安定性の改良も解決すべき課題として挙げられていることが記載され、段落【0010】には、「本発明の樹脂組成物は、・・・一液型の硬化性樹脂組成物でありながら、重合反応抑制剤を必ずしも配合せずとも、良好な保存安定性を有する」と記載されている。 そして、発明の詳細な説明には、本件発明1に係る「樹脂組成物」の具体例である実施例1?19として、成分(1)?(6)を含有し、成分(1)?(3)を所定の官能基当量比で含む樹脂組成物の製造方法や物性が記載され、いずれの樹脂組成物も保存安定性の評価が○(4日以上)又は△(1?3日)との評価であって1日以上ゲル化しないことが具体的なデータとともに示されている。 そうすると、発明の詳細な説明には、成分(1)?(6)を含有し、成分(1)?(3)を所定の官能基当量比で含む本件発明1に係る「樹脂組成物」が、上記課題のうち、良好な保存安定性を示すことを当業者が認識できるように記載されているといえる。 (ウ)申立人の主張について a 主張の内容 申立人の主張するところは、以下のとおりである。 (a)本件特許発明の樹脂組成物は、カメラモジュールの構成部材間の接着に用いることを意図しており、接着剤の単位面積当たりの接着強度が高いものが求められている(請求項6、段落【0002】)。接着強度については、ポリマー自体の構造(分子量、結晶性、立体規則性等)も重要となってくることは当業者の技術常識であるところ、成分(1)、成分(2)の化合物の主鎖構造について何も規定しておらず、あらゆる範囲の主鎖構造を含むが、段落【0025】、【0032】に記載されている以外の化合物について高接着強度の課題を解決できると当業者が認識できるといえない。そうすると、本件特許発明1において、成分(1)、(2)において官能基の種類や1分子中の官能基の数のみを規定しているだけでは、成分(1)、(2)の範囲は広すぎて、その全ての範囲において高接着強度の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない。 (b)光硬化性、熱硬化性に関しては、架橋構造を形成する官能基が重要であることが技術常識であるところ、成分(2)に関し、ビニル基として、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルの1種類のみが課題が解決できることが確認されている。また、段落【0031】の「1分子中にビニル基を2個以上有するポリエン化合物」の具体例は、全てビニルエーテル基を有するものである。ビニル基にどのような置換基が結合するかで、その反応性が異なることは周知であり、本発明においても、ビニル基の一種である(メタ)アクリロイル基とビニル基を区別している。さらに、本件特許発明では、硬化性とともに、良好な保存安定性を課題としており、保存時の官能基の安定性が重要であり、これもまた、ビニル基にどのような置換基が結合するかに依存するから、ビニルエーテル基又はアリル基以外のビニル基では、本件特許発明の課題の全てを解決できると当業者が認識できるとはいえない。 b 検討 (a)上記a(a)の主張について 上記(ア)で述べたように、本件発明1の上記課題である高接着強度の硬化物を生成し得るとの点は、優れた光硬化性と優れた熱硬化性を併せ持つことにより発現するものであることが、本件明細書の記載から理解できる。そして、上記(ア)で述べたように、本件発明1に係る「樹脂組成物」であれば、優れた光硬化性と熱硬化性を有するから、当業者が上記課題を解決できると認識できるといえる。 これに対して、申立人は、成分(1)、成分(2)の化学構造の主鎖構造によって接着強度が異なるとの具体的な証拠を挙げた上で本件発明の課題が解決できるといえないことを主張している訳ではない。 したがって、申立人の上記主張は採用することができない。 (b)上記a(b)の主張について まず、ビニル基を有する化合物が高い光及び熱硬化性を示すことは、本件出願日時点における技術常識であると解され、本件発明1に係る「樹脂組成物」の成分(2)である「ポリエン化合物」は、「1分子中にビニル基又はアリル基を2個以上有する」ものであるから、高い光及び熱硬化性を示すものであるといえる。そして、成分(2)の「ポリエン化合物」におけるビニル基の置換基の種類によって、本件発明1に係る「樹脂組成物」が優れた光及び熱硬化性を有さないものとなることが本願出願時の技術常識であることを示す具体的証拠は見当たらない。 保存安定性を得るとの課題についても、発明の詳細な説明には、実施例1?19において、成分(2)としてシクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル又はトリアリルイソシアヌレートを用いることにより、優れた保存安定性を示すことを具体的に確認することができる。そして、成分(2)の「1分子中にビニル基又はアリル基を2個以上有するポリエン化合物」における「ビニル基」の置換基の種類によって、本件発明1に係る「樹脂組成物」が優れた保存安定性を示さないことが本願出願時の技術常識であることを示す具体的証拠は見当たらない。そうすると、上記(イ)で述べたように、本件発明1の全般にわたり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。 これに対して、申立人は、成分(2)の「ポリエン化合物」におけるビニル基の置換基の種類によって、優れた光硬化性、熱硬化性又は保存安定性が得られない可能性があることを述べるのみであり、本件発明1が上記課題を解決できないことを示す具体的な証拠を提示している訳ではない。 したがって、申立人の上記主張は採用することができない。 (エ)小括 したがって、本件発明1に係る「樹脂組成物」は、(ア)優れた光硬化性と優れた熱硬化性を併せ持ち、光照射が光未照射部分を生じるような条件下でなされた場合には、その後に加熱することで、該光未照射部分を含む組成物全体が完全に硬化して高接着強度の硬化物を生成し得、しかも、(イ)保存安定性も良好な、光および熱硬化性樹脂組成物を提供するという課題を解決できると当業者が認識できるものであり、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 イ 本件発明2?8について 本件発明2?8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記アで述べたのと同じ理由により、本件発明2?8は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 (4)申立理由3のまとめ よって、申立人が主張する申立理由3は理由がない。 第5 むすび したがって、本件特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に、本件の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-03-29 |
出願番号 | 特願2015-233313(P2015-233313) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C08G)
P 1 651・ 536- Y (C08G) P 1 651・ 121- Y (C08G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大久保 智之 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
佐藤 玲奈 橋本 栄和 |
登録日 | 2020-05-07 |
登録番号 | 特許第6699145号(P6699145) |
権利者 | 味の素株式会社 |
発明の名称 | 光および熱硬化性樹脂組成物 |
代理人 | 高島 一 |