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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1372994
審判番号 不服2020-11418  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-18 
確定日 2021-04-27 
事件の表示 特願2017-219956「医用画像処理装置、医用画像処理装置に搭載可能なプログラム、及び医用画像処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月22日出願公開、特開2018- 43021、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月4日を出願日とする特願2015-174592号の一部を平成29年11月15日に特願2017-219956号として新たな特許出願としたものであって、令和元年6月5日付けで拒絶理由が通知され、同年8月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月26日付けで拒絶理由が通知され、令和2年2月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年5月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、同年8月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
請求項 1?11
引用文献等 1?7

<引用文献等一覧>
1.WU Xiaoye et al.、"Monochromatic CT Image Representation via Fast Switching Dual kVp"、Proceedings of SPIE, Medical Imaging 2009: Physics of Medical Imaging、Vol. 7258、2009年3月13日、pp. 725845-1 - 725845-9
2.MATSUMOTO Kazuhiro et al.、"Virtual Monochromatic Spectral Imaging with Fast Kilovoltage Switching: Improved Image Quality as Compared with That Obtained with Conventional 120-kVp CT"、Radiology、Vol. 259、No. 1、2011年4月30日、pp. 257-262
3.特開2010-125331号公報
4.米国特許出願公開第2012/0201344号明細書
5.SUDARSKI Sonja et al.、"Objective and Subjective Image Quality of Liver Parenchyma and Hepatic Metastases with Virtual Monoenergetic Dual-source Dual-energy CT Reconstructions: An Analysis in Patients with Gastrointestinal Stromal Tumor"、Academic Radiology、Vol. 21、No. 4、2014年4月30日、pp.514-522
6.特開平3-157638号公報
7.特開平8-248541号公報

第3 本願発明
本願の請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は、令和2年8月18日提出の手続補正書により手続補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である(下線は補正箇所を示す。)。

「【請求項1】
X線CT装置によって互いに異なる2つの管電圧で撮像して得られた、被検体の同一断面における複数の医用画像を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得された前記複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出手段と、
ユーザから医用画像の強調度として、撮像に用いた前記2つの管電圧の間の範囲外の仮想管電圧を受け付ける受付手段と、
前記受付手段で受け付けた前記仮想管電圧と前記相関関係算出手段で算出された相関関係とに基づいて、強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定し、当該強調画像を生成する生成手段と、
前記生成手段で生成された前記強調画像を表示するように制御する表示制御手段と、
を備えることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
前記受付手段は、撮像に用いた前記2つの管電圧の双方よりも小さい前記仮想管電圧を受け付ける請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記生成手段は、前記受付手段で受け付けた仮想管電圧に対応するCT値を特定することを特徴とする請求項1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記被検体の同一断面における1つの医用画像を表示させる際のウィンドウ幅値及び/又はウィンドウレベル値を取得する表示条件取得手段を更に有し、
前記表示制御手段は、前記表示条件取得手段で取得されたウィンドウ幅値及び/又はウィンドウレベル値を用いて得られたウィンドウ幅値及び/又はウィンドウレベル値で前記強調画像を表示するように制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記表示条件取得手段で取得したウィンドウ幅値及び/又はウィンドウレベル値に対応する医用画像のCT値平均値Aとし、前記生成手段で特定された強調画像のCT値平均値Bを算出する平均値算出手段と、を更に有し、
前記表示制御手段は、前記表示条件取得手段で取得したウィンドウ幅値及び/又はウィンドウレベル値に、前記平均値算出手段で算出された前記CT値平均値B/前記CT値平均値Aを乗じることにより得られたウィンドウ幅値及び/又はウィンドウレベル値で前記強調画像を表示するように制御することを特徴とする請求項4に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記複数の医用画像は、造影剤を被検体に投与した状態で撮像された画像であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
X線CT装置によって互いに異なる2つの管電圧で撮像して得られた、被検体の同一断面における複数の医用画像を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得された前記複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出工程と、
ユーザから医用画像の強調度として、撮像に用いた前記2つの管電圧の間の範囲外の仮想管電圧を受け付ける受付工程と、
前記受付工程で受け付けた前記仮想管電圧と前記相関関係算出工程で算出された相関関係とに基づいて、強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定し、当該強調画像を生成する生成工程と、
前記生成工程で生成された前記強調画像を表示するように制御する表示制御工程と、
を備えることを特徴とする医用画像処理方法。
【請求項8】
X線CT装置によって互いに異なる2つの管電圧で撮像して得られた、被検体の同一断面における複数の医用画像を記憶する記憶手段と通信可能に設けられた医用画像処理装置に搭載可能なプログラムであって、
前記医用画像処理装置を、
前記記憶手段から前記複数の医用画像を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得された前記複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出手段と、
ユーザから医用画像の強調度として、撮像に用いた前記2つの管電圧の間の範囲外の仮想管電圧を受け付ける受付手段と、
前記受付手段で受け付けた前記仮想管電圧と前記相関関係算出手段で算出された相関関係とに基づいて、各画素におけるCT値を特定し、当該CT値からなる強調画像を生成する生成手段と、
前記生成手段で生成された前記強調画像を表示するように制御する表示制御手段と、
を備えることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
X線CT装置によって互いに異なる2つの管電圧で撮像して得られた、被検体の同一断面における複数の医用画像を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得された前記複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出手段と、
ユーザから医用画像の強調度として、撮像に用いた前記2つの管電圧の間の範囲外の仮想管電圧を受け付ける受付手段と、
前記受付手段で受け付けた前記仮想管電圧と前記相関関係算出手段で算出された相関関係とに基づいて、各画素におけるCT値を特定し、当該CT値からなる強調画像を生成する生成手段と、
前記生成手段で生成された前記強調画像を表示するように制御する表示制御手段と、
を備えることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項10】
X線CT装置によって互いに異なる2つの管電圧で撮像して得られた、被検体の同一断面における複数の医用画像を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得された前記複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出工程と、
ユーザから医用画像の強調度として、撮像に用いた前記2つの管電圧の間の範囲外の仮想管電圧を受け付ける受付工程と、
前記受付工程で受け付けた前記仮想管電圧と前記相関関係算出工程で算出された相関関係とに基づいて、各画素におけるCT値を特定し、当該CT値からなる強調画像を生成する生成工程と、
前記生成工程で生成された強調画像を表示するように制御する表示制御工程と、
を備えることを特徴とする医用画像処理方法。」

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
原査定に引用された引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(和訳は当審にて作成した。また、下線は当審にて付した。)。

(引1a)
「ABSTRACT
In a conventional X-ray CT system, where an object is scanned with a selected incident x-ray spectrum, or kVp, the reconstructed images only approximate the linear X-ray attenuation coefficients of the imaged object at an effective energy of the incident X-ray beam. The errors are primarily the result of beam hardening due to the polychromatic nature of the X-ray spectrum. Modem clinical CT scanners can reduce this error by a process commonly referred to as spectral calibration. Spectral calibration linearizes the measured projection value to the thickness of water. However, beam hardening from bone and contrast agents can still induce shading and streaking artifacts and cause CT number inaccuracies in the image.
In this paper, we present a dual kVp scanning method, where during the scan, the kVp is alternately switching between target low and high preset values, typically 80kVp and 140 kVp, with a period less than 1ms. The measured projection pairs are decomposed into the density integrals of two basis materials in projection space. The reconstructed density images are further processed to obtain monochromatic attenuation coefficients of the object at any desired energy. Energy levels yielding optimized monochromatic images are explored, and their analytical representations are derived.」
(和訳)
「要約
選択された入射X線スペクトル、すなわちkVp、で対象物がスキャンされる従来のX線CTシステムでは、再構成画像は、入射X線ビームの有効エネルギーにおける撮像対象物の線形X線減衰係数を近似するだけである。誤差は、主に、X線スペクトルの多色性によるビームハードニングの結果である。現代の臨床CTスキャナは、一般にスペクトル較正と呼ばれるプロセスによってこの誤差を低減することができる。スペクトル較正は、測定された投影値を水の厚さに対して線形化する。しかしながら、骨及び造影剤からのビームハードニングは、依然としてシェーディング及びストリーキングアーチファクトを誘発し、画像におけるCT値の不正確さを引き起こす可能性がある。
この論文では、デュアルkVpスキャン方法を提示しており、この方法では、スキャン中に、kVpが、目標の低いプリセット値と高いプリセット値との間、典型的には80kVpと140kVpとの間、を1ms未満の期間で交互に切り替わる。測定された投影対は、投影空間における2つの基底物質の密度積分に分解される。再構成された密度画像は、任意の所望のエネルギーにおける対象物の単色減衰係数を得るためにさらに処理される。最適化された単色画像を生成するエネルギーレベルが探索され、それらの分析表現が導出される。」

(引1b)
「2. MONOCHROMATIC IMAGE PRESENTATION
With basis material decomposition, the linear attenuation of the object can be expressed as,


where, μ, μ_(1) and μ_(2) are the attenuation coefficients of the object, the first and the second basis materials respectively. m_(1)(x,y) and m_(2)(x,y) are the equivalent density values of the imaged object represented by the first and second basis materials at coordinate (x, y). E is the photon energy. In equation (1), the unknown values m_(1)(x,y) and m_(2)(x,y) have no dependence of energy E.
In fast switching dual kVp, low kVp and a high kVp projections are interleaved during the acquisition. As a result, they incur a small angular offset relative to each other and are interpolated to the same angular positions as a pre-processing step. These paired projections are then decomposed into density integrals of the basis materials [3]. During the system calibration, the basis material decomposition functions are obtained. Each detector pixel has a unique function, due to the presence of up-stream beam filters. For a given detector pixel, the functional forms are denoted as, f_(1)(p_(1),p_(2)) and f_(2)(p_(1),p_(2)) for the first and second basis materials respectively, where p_(1), p_(2) are the measured projection values at low and high kVps, respectively. The decomposition functions and the line-integrals of the density images m_(1)(x,y) and m_(2)(x,y) have the following relationship:

The density images can be obtained using the standard tomographic reconstruction technique. The important feature of equation (2) is that there is no energy dependence in the integration. The energy-dependence of the attenuation coefficients of the imaged object is contained in the mass attenuation coefficients of the basis materials. Unlike conventional X-ray CT imaging, where the images are prone to beam hardening artifacts, in dual kVp spectral imaging, the images are naturally free of beam hardening artifacts as illustrated in Figure 2. With the determination of the density images m_(1)(x,y) and m_(2)(x,y), and the known functional form of μ_(1)(E) and μ_(2)(E), the left side of equation (1) can be computed, yielding a set of new images, representing the characteristic of linear attenuation coefficients at various monochromatic energies [5]. The properties of these new images are discussed in the following sections.」

(和訳)
「2. 単色画像の提示
基底物質分解によれば、対象物の線形減衰は次のように表すことができる。

ここで、μ、μ_(1)及びμ_(2)は、それぞれ対象物、第1の基底物質、及び、第2の基底物質の減衰係数である。m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)は、座標(x,y)における第1及び第2の基底物質によって表される撮像対象物の等価な密度値である。Eは光子のエネルギーである。式(1)において、未知の値m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)は、エネルギーEに依存しない。
高速スイッチングデュアルkVpでは、低kVp投影と高kVp投影とが取得中に交互に行われる。その結果、それらは互いに対して小さな角度オフセットを受け、前処理ステップとして同じ角度位置に補間される。次いで、これらの対になった投影は、基底物質の密度積分に分解される[3]。システムの較正中に、基底物質分解関数が得られる。各検出器ピクセルは、上流ビームフィルタの存在により、固有の関数を有する。所定の検出器ピクセルに対して、関数の形は、第1の基底物質及び第2の基底物質それぞれに対してf_(1)(p_(1), p_(2))及びf_(2)(p_(1), p_(2))として示され、ここでp_(1), p_(2)は、それぞれ低kVp及び高kVpで測定された投影値である。密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)の分解関数及び線積分は、以下の関係を有する:

密度画像は、標準的な断層撮影再構成技術を用いて得ることができる。式(2)の重要な特徴は、積分にエネルギー依存性がないということである。撮像対象物の減衰係数のエネルギー依存性は、基底物質の質量減衰係数に含まれる。画像がビームハードニングアーチファクトを受けやすい従来のX線CT撮像とは異なり、デュアルkVpスペクトル撮像では、画像は、図2に示すように、ビームハードニングアーチファクトを自然に含まない。密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)の決定、ならびにμ_(1)(E)及びμ_(2)(E)の既知の関数形を用いて、式(1)の左辺を計算し、様々な単色エネルギーにおける線形減衰係数の特性を表す新しい画像のセットを得ることができる[5]。これらの新しい画像の特性は、以下のセクションで説明される。」

(引1c)
「2.1 Formation of Monochromatic Images for Medical Application
In conventional medical CT, intrinsic values of the images are not directly displayed. Instead, they are normalized to the attenuation value of water, known as Hounsfield units (HU). The monochromatic image Im_(mono) at a given energy E can follow this tradition, expressed as,

where, μ_(water)(E) is the linear coefficients of water.
By choosing water as the first basis material, equation (3) is simplified as,

The corresponding HU presentation is, (Im_(mono)(x, y, E)-1)・1000.
Equation (4) implies that given the density images, we can compute the monochromatic representation for energy E, and E may be selected to be any photon energy value for which the basis material decomposition theory holds, typically from ?30keV to a few hundred keV. Figure 3 presents a material basis pair computed from projection data obtained at 80 kVp and 140 kVp, and a 75keV monochromatic image formed from the material density images using equation (4).
・・・
In medical imaging, tissue contrast can be enhanced with low energy photons at a cost of reduced patient penetration and increased image noise. Given the paired material density representation of the data, monochromatic representation of the image may be computed for a range of energies. For monochromatic representation, the tissue-contrast energy dependence behaves as expected in the traditional manner, and the noise characteristic of the images at different energy E can be derived analytically.」
(和訳)
「2.1 医療用単色画像の形成
従来の医療用CTでは、画像の固有の値は直接表示されない。代わりに、それらは水の減衰値に正規化され、これはハウンスフィールド単位(HU)として知られる。所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)は、この伝統に従うことができ、以下のように表される。

ここで、μ_(water)(E)は水の線形係数である。
第1の基底材料として水を選択することにより、式(3)は次のように簡略化される。

対応するHUでの表現は、(Im_(mono)(x, y, E)-1)・1000である。
式(4)は、密度画像が与えられると、エネルギーEでの単色表現を計算することができ、Eは、基底物質分解理論が成り立つ任意の光子エネルギー値、典型的には約30keVから数百keV、であるように選択することができる、ということを意味する。図3は、80kVp及び140kVpで得られた投影データから計算された物質基底の対と、式(4)を用いて物質密度画像から形成された75keV単色画像とを示す。
・・・
医用撮像では、低エネルギー光子を用いて組織コントラストを向上させることができるが、患者の透過が減少し、画像ノイズが増大する。データの対の物質密度表現が与えられると、画像の単色表現が、ある範囲のエネルギーについて計算され得る。単色表現では、組織コントラストのエネルギー依存性は、従来の方法で予想されるように挙動し、異なるエネルギーEにおける画像のノイズ特性を解析的に導出することができる。」

(引1d)


Fig. 3. (a) water density image, (b) Iodine density image, and (c) monochromatic image at 75keV. ・・・」
(和訳:図の注のみ)
「図3 (a) 水の密度画像、(b) ヨウ素の密度画像、(c) 75keVでの単色画像。・・・」

(引1e)


Fig. 4. illustrates the noise appearance as the monochromatic images vary the energy value from simulated data. It is evident that noise is higher at both low and high keV values. In this case, the minimum noise appears at approximately 70keV.」
(和訳:図の注のみ)
「図4は、単色画像がシミュレートされたデータからエネルギー値を変化させたときのノイズの外観を示す。ノイズは、低いkeV値および高いkeV値の両方でより高いことが明らかである。この場合、最小ノイズは約70keVに現れる。」

2 引用発明
(1)上記(引1a)の「選択された入射X線スペクトル、すなわちkVp、で対象物がスキャンされる従来のX線CTシステム」、及び、「この論文では、デュアルkVpスキャン方法を提示しており、」という記載から、引用文献1は「X線CTシステム」における「デュアルkVpスキャン方法を提示」するものといえる。

(2)上記(引1a)の「この論文では、デュアルkVpスキャン方法を提示しており、この方法では、スキャン中に、kVpが、目標の低いプリセット値と高いプリセット値との間、典型的には80kVpと140kVpとの間、を1ms未満の期間で交互に切り替わる。」及び(引1b)の「高速スイッチングデュアルkVpでは、低kVp投影と高kVp投影とが取得中に交互に行われる。」という記載から、引用文献1の「X線CTシステム」では、低kVpと高kVp、典型的には80kVpと140kVp、にて投影が行われるといえる。

(3)上記(引1b)の「次いで、これらの対になった投影は、基底物質の密度積分に分解される」、「所定の検出器ピクセルに対して、関数の形は、第1の基底物質及び第2の基底物質それぞれに対してf_(1)(p_(1),p_(2))及びf_(2)(p_(1),p_(2))として示され、ここでp_(1), p_(2)は、それぞれ低kVp及び高kVpで測定された投影値である。密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)の分解関数及び線積分は、以下の関係を有する:・・・密度画像は、標準的な断層撮影再構成技術を用いて得ることができる。」という記載から、引用文献1の「X線CTシステム」は、「低kVp」と「高kVp」で行われた「投影」から、「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2) (x,y)」を得るものと認められる。

(4)上記(引1b)の


ここで、μ、μ_(1)及びμ_(2)は、それぞれ対象物、第1の基底物質、及び、第2の基底物質の減衰係数である。」、「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)の決定、ならびにμ_(1)(E)及びμ_(2)(E)の既知の関数形を用いて、式(1)の左辺を計算し、様々な単色エネルギーにおける線形減衰係数の特性を表す新しい画像のセットを得ることができる」という記載、及び、(引1c)の「所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)は、この伝統に従うことができ、以下のように表される。

ここで、μ_(water)(E)は水の線形係数である。 」という記載から、引用文献1の「X線CTシステム」は、得られた「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」と第1の基底物質、及び、第2の基底物質の減衰係数である「μ_(1)(E)及びμ_(2)(E)」の「既知の関数形」から、「所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)」を得るものと認められる。

(5)図3,4には、「単色画像」が示されていることから、引用文献1の「X線CTシステム」は、得られた「所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)」を表示することができるものと認められる。

(6)上記(1)?(5)を踏まえると、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「デュアルkVpスキャンを行う医療用X線CTシステムであって、
低kVpと高kVp、典型的には80kVpと140kVp、にて投影が行われ、低kVpと高kVpで行われた投影から、座標(x, y)における第1及び第2の基底物質によって表される対象物の密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)を標準的な断層撮影再構成技術を用いて得て、密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)はエネルギーEに依存せず、
密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)と、第1の基底物質及び第2の基底物質の減衰係数であるμ_(1)(E)及びμ_(2)(E)の既知の関数形から、所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)(x, y, E)を得て、ここで、Eは、基底物質分解理論が成り立つ任意の光子エネルギー値、典型的には約30keVから数百keV、であるように選択することができ、単色画像Im_(mono)に対応するハウンスフィールド単位(HU)での表現は、(Im_(mono)(x, y, E)-1)・1000であり、
得られた単色画像Im_(mono)(x, y, E)を表示する、
医療用X線CTシステム。」

3 引用文献2
(1)原査定に引用された引用文献2には、図面とともに、次の記載がある(和訳は当審にて作成した。下線は当審にて付した。)。

(引2a)
(第257頁)
「Purpose: To compare image quality obtained in phantoms with virtual monochromatic spectral (VMS) imaging with that obtained with conventional 120-kVp computed tomography (CT) for a given radiation dose.」
(和訳)
「目的:仮想単色スペクトル(VMS)イメージングを用いてファントムにおいて得られた画像品質を、所与の放射線量について従来の120kVpコンピュータ断層撮影(CT)を用いて得られた画像品質と比較すること。」

(引2b)


Figure 4: Graph shows mean CT number and corresponding standard deviation of each syringe on VMS and 120-kVp CT images. CT numbers were higher on lower-energy VMS images. As x-ray energy for VMS imaging increased, the CT number of each syringe decreased.」
(和訳:図の注のみ)
「図4:グラフは、VMSおよび120-kVp CT画像上の各シリンジのCT値の平均および標準偏差を示す。CT値は、低エネルギーVMS画像でより高かった。VMSイメージングのためのX線エネルギーが増加するにつれて、各シリンジのCT値は減少した。」

(2)上記(引2b)には、「CT値は、低エネルギーVMS画像でより高」いという点が記載されているところ、図4から、異なるシリンジについてのCT値の差も低エネルギーVMS画像でより大きくなることが見てとれる。

(3)上記(1)、(2)から、引用文献2には「仮想単色スペクトル(VMS)イメージングにおいて、CT値及びCT値の差は低エネルギーのVMS画像でより大きくなる」という技術的事項が記載されているといえる。

4 引用文献3
原査定に引用された引用文献3には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0021】
図1は、本テクノロジーの一実施形態により使用される方法100を表した流れ図である。102において、デュアルエネルギーデータが受け取られる。例えば、例えばデュアルエネルギーデータを収集するCTシステム及び/またはデュアルエネルギーデータが保存されたデータベースなどのデータソースからワークステーションの位置でデュアルエネルギーデータを受け取ることが可能である。
・・・
【0023】
106において、デュアルエネルギー表示が自動的に調整される。例えば、本テクノロジーのある種の実施形態は、単波長画像を表示するウィンドウの自動調整を提供し、様々なエネルギーレベルでの画像の表示を可能としている。例えば、単波長画像を第1のエネルギーレベルから第2のエネルギーレベルに調整したとき、様々なエネルギーレベルにおける画像内のコントラスト剤の変化を反映させるためにウィンドウ幅及び/またはウィンドウレベルを自動的に調整することが可能である。ある種の実施形態では例えば、エネルギーレベルの各1キロ電子ボルト(keV)の変化に対してあるパーセント値だけウィンドウ幅及び/またはウィンドウレベルを増減させることができる。ある種の実施形態では例えば、単波長画像を表示するウィンドウの自動調整は画像特性に基づくことができる。ある種の実施形態では、ウィンドウの自動調整は例えば、信号対ノイズ、コントラスト剤対ノイズ、標準偏差及び/または関心対象解剖部位に基づくことができる。」

5 引用文献4
原査定に引用された引用文献4には、図面とともに、次の記載がある(和訳は当審にて作成した。また、下線は当審にて付した。)。

(引4a)
「[0038] The adaptation of the greyscale windowing is explained using the graph of FIG. 2. In the diagram, CT values are plotted over values for the tube voltage of the x-ray tube 6 of the computer tomography apparatus 1. The greyscale windowing across all potentially suitable tube voltages is illustrated by the curves 30 and 31. The curve 31 indicates at which CT values the grey value "black" is associated via the tube voltage, the curve 31 shows at which CT values the grey value "white" is assigned via the tube voltage. Therefore, the greyscale windowing or the greyscale window, namely the width W_(W,ref) of the greyscale windowing between the grey values "black" and "white", is apparent from the graph. Furthermore, a central value W_(Z,ref) is apparent from the graph for the reference tube voltage kV_(ref). The central value W_(Z,ref) can be (but does not have to be) the center value of the greyscale windowing.
・・・
[0041] The width WW,acq of the greyscale windowing or the acquisition tube voltage kVacq is finally determined automatically as follows by means of the computer 12: ・・・」
(和訳)
「[0038] グレースケールウィンドウ処理の適応は、図2のグラフを使用して説明される。この図では、コンピュータ断層撮影装置1のX線管6の管電圧の値に対してCT値がプロットされている。全ての潜在的に適切な管電圧にわたるグレースケールウィンドウは、曲線30及び31によって示される。曲線31は、どのCT値にグレー値「黒」が管電圧を介して割り当てられるかを示し、曲線31は、どのCT値にグレー値「白」が管電圧を介して割り当てられるかを示す。したがって、グレースケールウィンドウ、すなわち、グレー値「黒」と「白」との間のグレースケールウィンドウの幅W_(W,ref)は、グラフから明らかである。さらに、中心値W_(Z,ref)は、基準管電圧kV_(ref)のグラフから明らかである。中央値W_(Z,ref)は、グレースケールウィンドウの中央値とすることができる(しかし、そうである必要はない)。
・・・
[0041] グレースケールウィンドウの幅W_(W,acq)または取得管電圧kV_(acq)は、コンピュータ12によって以下のように最終的に自動的に決定される:・・・」

(引4b)
「FIG 2



6 引用文献3,4の記載事項
上記引用文献3,4の記載から、「X線CT装置において、画像を表示するウインドウの自動調整を行うこと」は、本願の原出願の出願前に周知の事項であったと認められる。

7 引用文献5
(1)原査定に引用された引用文献5には、次の記載がある(和訳は当審にて作成した。下線は当審にて付した。)。

(第515頁)
「Image Acquisition
Patients underwent contrast-enhanced DECT of the abdomen performed on a 64-slice dual-source CT system (Somatom Definition; Siemens Healthecare Sector, Forchheim, Germany). ・・・ Contrast enhancement was achieved by injection of 105 mL of nonionic iodinated contrast material (400 mg/mL iomeprol; Iomeron, Bracco, Milan, Italy) via an automated dual-syringe power injector (Stellant D CT Injection System, MEDRAD Inc., Warrendale, PA) at a flow rate of 2.5 mL/s. ・・・」
(和訳)
「患者は、64スライスデュアルソースCTシステム(Somatom Definition;Siemens Healthecare Sector,Forchheim,Germany)で行われる腹部のコントラスト増強DECTを受けた。・・・・自動デュアルシリンジパワーインジェクター(400 mg/mL iomeprol; Iomeron, Bracco, Milan, Italy)を介して105mLの非イオン性ヨウ素化造影材料(Stellant D CT Injection System, MEDRAD Inc., Warrendale, PA)を2.5mL/sの流速で注入することにより、造影増強を達成した。・・・」

(2)上記(1)から、引用文献5には「CTシステムによる撮像時に、造影剤を用いること」という技術的事項が記載されているといえる。

8 引用文献6の記載
原査定に引用された引用文献6には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
(第5頁右下欄第15行-第6頁左上欄第4行)
「(作用および効果)
本発明の放射線画像情報記録読取再生方法は、マーカーの位置を検出する先読みを行ない、この先読みにより検出されたマーカーの位置を使用して位置合せを行なうのでエネルギーサブトラクションや重ね合せにおいて正確な位置合せができる上、本読みはそのマーカーを含んで周辺部を除いた画像領域についてのみ行なうので、本読みの時間や、画像処理の時間が短縮され、再生もマーカーより内側の画像領域についてのみ行なわれるので無駄がなく、画像も見やすい画像が得られる。」

9 引用文献7の記載
原査定に引用された引用文献7には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0065】このように本発明による放射線画像処理方法および装置は、表示された放射線画像に所望とする領域を設定し、この設定された所望とする領域内の画像についてのみ複数の画像間でエネルギーサブトラクション処理を施して表示手段に表示するようにしたため、演算に長時間を要するエネルギーサブトラクション処理を、必要とされる領域についてのみ施せばよくなるため、エネルギーサブトラクション処理行う場合であっても、放射線画像全体に処理を施すものと比較して演算時間を短縮することができる。」

10 引用文献6,7の記載事項
上記引用文献6,7の記載から、「放射線画像を処理するにあたり、一部の領域のみを画像処理することによって、画像処理の時間を短縮すること」は、本願の原出願の出願前に周知の事項であったと認められる。

11 引用文献8の記載
当審が発見した特開昭63-221488号公報(以下、「引用文献8」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
(第6頁左上欄第9行-右上欄第5行)
「(2)領域検出装置
領域検出装置2は、大きく分けて、関心領域検出手段6と画像補正手段7と画像強調手段4と領域探査手段5とから成る。
領域検出装置2は、デジタルX線画像から、極端に偏平でない一定の広がりを有した形状をした濃淡領域、即ち、癌病巣を検出する装置である。
(a)関心領域検出手段
関心領域検出手段6は、処理速度を向上させるために、処理の対象領域を制限するための装置であり、上限探査器61と下限探査器62と左右端探査器63とから成る。
乳房部は、X線画像において、背景に比べれば明るいため、一定の閾値(背景よりやや明るい値)を設定して、デジタルX線画像を判定すれば、乳房部を構成する画素のアドレスを検出することができる。」

12 引用文献9の記載
当審が発見した特開2013-116213号公報(以下、「引用文献9」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0013】
本発明では,少なくとも2種類の被写体のうち所定の被写体を包含する領域を計算により求め、この領域内についてCT画像を生成するため、少ない計算量で、逐次近似再構成手法により高精度なCT画像を得ることができる。
・・・
【0123】
つぎに、画像識別機能164は,計算したCT画像λ(j)の画素について、空気の画素と空気以外の撮影対象の画素とに識別する。識別方法は,公知である閾値判定や領域拡張法等の画像処理技術を利用する。例えば,本実施例では、閾値TH=-950[HU]とし、CT値が閾値TH未満の画素をFOV211内の空気の領域215の画素,閾値TH以上を撮影対象(被検体6と寝台5)の画素と判定する。これにより,図13(a)のように被検体6と寝台5の間等,測定投影データからは原理上空気と判別できないFOV211内の領域215を空気領域と判別できる。よって、領域拡張法等により、空気領域215をFOV211の外側領域となるようにFOV211の形状を調整することにより、図13(b)のように空気領域215をできるだけ排除したFOV211を設定でき、FOV211の精度が向上する。」

13 引用文献8,9の記載事項
上記引用文献8,9の記載から、「X線デジタル画像やX線CT画像において、画像処理の速度を向上させるために撮影対象の画素を識別すること、及び、当該識別のために閾値以上の値を有する画素を撮影対象の画素とすること」は、本願の原出願の出願前に周知の事項であったと認められる。

14 引用文献10の記載
当審が発見した特開2012-245235号公報(以下、「引用文献10」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0034】
X線CTデュアルエネルギー撮影は、例えば、次のようにして行う。
・・・
【0037】
ここでは、一例として、第1X線管電圧V1を80kVpとし、第2X線管電圧V2を140kVpとする。」

15 引用文献11の記載
当審が発見した特開2014-061287号公報(以下、「引用文献11」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線コンピュータ断層撮影装置、高電圧発生装置、及び放射線画像診断装置に関する。
・・・
【0043】
・・・管電圧を高速に切り替える方式としては、ビュー毎に第1の管電圧値と第2の管電圧値とを切替えるfast-kVpが知られている。fast-kVpにおいては、例えば、低管電圧値に対応する高電圧と高管電圧値に対応する高電圧とがビュー毎に切替るようにX線制御部29は、高電圧発生部23を制御する。低管電圧値と高管電圧値とは如何なる値でも良いが、例えば、Dual-Energyスキャンに適切な80kVp及び140kVp等の組み合わせが可能である。」

16 引用文献10,11の記載事項
上記引用文献10,11の記載から、「X線CT装置において、kVpとは管電圧のことを指す」ということは、本願の原出願の出願前に周知の事項であったと認められる。


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1の「取得手段」に関する構成について
(ア)引用発明は「低kVp」と「高kVp」にて「投影」を行い、「低kVp」と「高kVp」で行われた「投影」から、「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)を得」るものである。

(イ)上記「第4」の「16」にて述べたように「X線CT装置において、kVpとは管電圧のことを指す」から、引用文献の「低kVp」と「高kVp」は、本願発明1の「互いに異なる2つの管電圧」に相当する。

(ウ)引用発明の「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」は、「医療用X線CTシステム」を用いて得られる「画像」であるから、本願発明1の「医用画像」に相当する。また、引用発明の「投影」は「密度画像」を得るためのものであるから、本願発明1の「撮像」に相当する。

(エ)引用発明の「対象物」は本願発明1の「被検体」に相当する。

(オ)「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」は、両者の「密度画像」を用いて「所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)」を得ることに鑑みれば、「対象物の同一断面における」画像であるといえる。

(カ)引用発明は「医療用X線CTシステム」であるところ、「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」や「所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)」を得るための「投影」を行う装置を有するといえ、この「装置」が、本願発明1の「X線CT装置」に相当する。また、引用発明は「所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)」を得るために「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」を取得する必要があるところ、そのための手段が、本願発明1「取得手段」に相当する。

イ 本願発明1の「受付手段」に関する構成について
(ア)引用発明において「所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)」を得るにあたり、「Eは、基底物質分解理論が成り立つ任意の光子エネルギー値、典型的には約30keVから数百keV、であるように選択することができ」るものである。ここで、引用発明の「所定のエネルギーE」が、本願発明1の「仮想管電圧」に相当する。

(イ)引用発明では、「所定のエネルギーE」を選択することができるところ、引用発明はEの値を選択することにより受け付ける手段を有することが明らかであるから、当該手段が、本願発明1の「ユーザから」「仮想管電圧を受け付ける受付手段」に相当する。

(ウ)上記(引1c)及び(引1d)には、「80kVp及び140kVpで得られた投影データ」を用いて「75keV単色画像」を得ることが記載されている。75keVは80keV?140keVの範囲外の値であるから、引用発明は「所定のエネルギーE」として「撮像に用いた前記2つの管電圧の間の範囲外の」値を受け付けるものであると認められる。

ウ 本願発明1の「生成手段」に関する構成について
(ア)引用発明は、「低kVpと高kVpで行われた投影から、座標(x, y)における第1及び第2の基底物質によって表される対象物の密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)を標準的な断層撮影再構成技術を用いて得て、密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)はエネルギーEに依存せず、密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)と、第1の基底物質及び第2の基底物質の減衰係数であるμ_(1)(E)及びμ_(2)(E)の既知の関数形から、所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)(x, y, E)を得」るものである。
そして、単色画像Im_(mono)に対応するハウンスフィールド単位(HU)での表現は、(Im_(mono)(x, y, E)-1)・1000であり、ハウンスフィールド単位(HU)とは本願の発明の詳細な説明の【0016】に「一方CT値は、水のX線減衰率を0HU、空気のX線減衰率を-1000と定義し、これらに対する各物質のX線減衰度の相対値を表したものであるため、身体を撮像した際に取得されるCT値は約-100HUから3000HUという幅を持つことになる。」と記載されているように、CT値のことであるから、引用発明において「単色画像Im_(mono)(x, y, E)」を得ることは、選択された「所定のエネルギーE」と「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」に基づいて「単色画像Im_(mono)(x, y, E)」を構成する各画素におけるCT値を特定することにあたる。そして、引用発明の「所定のエネルギーE」に基づいて「単色画像Im_(mono)(x, y, E)」を構成する各画素におけるCT値を特定することが、本願発明1の「仮想管電圧」「に基づいて、強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定」することに相当する。

(イ)よって、本願発明1の「受付手段で受け付けた」「仮想管電圧と前記相関関係算出手段で算出された相関関係とに基づいて、強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定し、当該強調画像を生成する生成手段」と、引用発明の「低kVpと高kVpで行われた投影から、座標(x, y)における第1及び第2の基底物質によって表される対象物の密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)を標準的な断層撮影再構成技術を用いて得て、密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)はエネルギーEに依存せず、密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)と、第1の基底物質及び第2の基底物質の減衰係数であるμ_(1)(E)及びμ_(2)(E)の既知の関数形から、所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)(x, y, E)を得」るための手段とは、「受付手段で受け付けた」「仮想管電圧」に基づいて、「強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定し、当該強調画像を生成する生成手段」という点で共通する。

エ 本願発明1の「表示制御手段」に関する構成について
引用発明は、「得られた単色画像Im_(mono)(x, y, E)を表示する」ものであるから、本願発明1の「生成された」「強調画像を表示するように制御する表示制御手段」に相当する手段を有するといえる。

オ 以上のことから、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。
【一致点】
「X線CT装置によって互いに異なる2つの管電圧で撮像して得られた、被検体の同一断面における複数の医用画像を取得する取得手段と、
ユーザから撮像に用いた前記2つの管電圧の間の範囲外の仮想管電圧を受け付ける受付手段と、
前記受付手段で受け付けた前記仮想管電圧に基づいて、強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定し、当該強調画像を生成する生成手段と、
前記生成手段で生成された前記強調画像を表示するように制御する表示制御手段と、
を備えることを特徴とする医用画像処理装置。」

【相違点1】
本願発明1は「取得手段で取得された」「複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出手段」を有し、「生成手段」が「受付手段で受け付けた」「仮想管電圧」と「前記相関関係算出手段で算出された相関関係」とに基づいて、「強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定」するのに対し、引用発明は「相関関係算出手段」を有さず、「所定のエネルギーEにおける単色画像Im_(mono)(x, y, E)を得」るための手段は「所定のエネルギーE」と「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」に基づいて「単色画像Im_(mono)(x, y, E)」を構成する各画素におけるCT値を特定する点。

【相違点2】
本願発明1の「受付手段」は、「仮想管電圧」を「医用画像の強調度として」受け付けるものであるのに対し、引用発明の「所定のエネルギーE」は画像の強調度ではない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
ア 引用発明の「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」は「対象物の密度」の画像であるから「CT値」を有さず、また、エネルギーEに依存しないものである。そのため、引用発明の「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」について、「同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係」を「算出する」ことはできない。
また、引用発明は「所定のエネルギーE」と「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」に基づいて「単色画像Im_(mono)(x, y, E)」を構成する各画素におけるCT値を特定するものであり、「単色画像Im_(mono)(x, y, E)」を生成するにあたり「CT値」を有する「医用画像」を取得する必要がないことに鑑みれば、引用発明において「所定のエネルギーE」と「密度画像m_(1)(x,y)及びm_(2)(x,y)」に基づいて「単色画像Im_(mono)(x, y, E)」を構成する各画素におけるCT値を特定することに代えて、「複数の」「CT値」を有する「医用画像の同一座標の画素における、CT値」と「所定のエネルギーE」との「相関関係」を算出し、「所定のエネルギーE」と「相関関係」とに基づいて、「強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定」するように構成することが、当業者が容易に想到しうることとはいえない。

イ また、引用文献2-11のいずれにも、「複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出手段」を有する点、及び、「仮想管電圧」と「前記相関関係算出手段で算出された相関関係」とに基づいて、「強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定」するという点は記載されていない。

ウ よって、引用文献2-11に記載された技術的事項に基づいて、引用発明において「複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出手段」を設け、「所定のエネルギーE」と「相関関係」とに基づいて、「強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定」するように構成することは、当業者が容易に想到しうることとはいえない。

(3)小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-11に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-6について
本願発明2-6も、本願発明1の「複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出手段」、及び、「仮想管電圧」と「前記相関関係算出手段で算出された相関関係」とに基づいて、「強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定」するという構成と同一の構成を備えるものであるから、上記「1」と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-11に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明7,8について
本願発明7,8は、それぞれ、本願発明1に対応する方法及びプログラムの発明であり、本願発明1の「複数の医用画像の同一座標の画素における、CT値と管電圧との相関関係を、前記医用画像内の所定の信号以上の画素に対して算出する相関関係算出手段」、及び、「仮想管電圧」と「前記相関関係算出手段で算出された相関関係」とに基づいて、「強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定」するという構成にそれぞれ対応する構成を備えるものであるから、上記「1」と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-11に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明9について
本願発明1の「生成手段」は「受付手段で受け付けた前記仮想管電圧と前記相関関係算出手段で算出された相関関係とに基づいて、強調画像を構成する各画素におけるCT値を特定し、当該強調画像を生成する」ものであるのに対し、本願発明9の「生成手段」は「受付手段で受け付けた前記仮想管電圧と前記相関関係算出手段で算出された相関関係とに基づいて、各画素におけるCT値を特定し、当該CT値からなる強調画像を生成する」ものであり、また、本願発明9は「生成手段」を除いて本願発明1と同一の構成を備える「医用画像処理装置」である。
そして、本願発明9と本願発明1の「生成手段」は、ともに「仮想管電圧」と「相関関係算出手段で算出された相関関係とに基づいて」、「強調画像」の「各画素におけるCT値を特定」するものであるから、上記「1」と同様の理由により、本願発明9は当業者であっても、引用発明及び引用文献2-11に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5 本願発明10について
本願発明10は、本願発明9に対応する方法の発明であるから、上記「1」と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-11に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
上記「第5」のとおり、本願発明1-10は、原査定における引用文献1-7に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-04-07 
出願番号 特願2017-219956(P2017-219956)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 裕之  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
磯野 光司
発明の名称 医用画像処理装置、医用画像処理装置に搭載可能なプログラム、及び医用画像処理方法  
代理人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所  

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