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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1373020
審判番号 不服2019-10593  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-08 
確定日 2021-04-07 
事件の表示 特願2016-544840「小児における急性呼吸促迫症候群の治療のための吸入一酸化窒素ガスを使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日国際公開、WO2015/106115、平成29年 2月 2日国内公表、特表2017-503801〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2015年1月9日(パリ条約による優先権主張 2014年1月10日、2015年1月9日 いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とするものであり、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 8月24日付け:拒絶理由通知
平成30年11月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 4月 4日付け:拒絶査定
令和 1年 8月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年10月 3日付け:前置報告
令和 2年 1月23日 :上申書の提出

第2 令和1年8月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和1年8月8日にされた手続補正(以下、「本件補正」ともいう。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲(平成30年11月28日提出の手続補正書により補正されたもの)の請求項12について、以下の(1)のとおり記載されていたのを、以下の(2)の請求項11のとおりの記載とする補正を含むものである。
なお、本件補正により請求項8が削除されたために、本件補正後の請求項の項番は補正前の「12」から「11」となっている。また、(2)における下線部は補正箇所である。

(1)本件補正前
「 【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載のガスを送達するためのNO送達システムであって、該ガスを送達するための手段を含み、NOを含むガスは、ガスボンベから、又は投与の場所で、若しくは投与の場所付近で化学的にNOを発生するような、任意の公知の方法により供給される、システム。」

(2)本件補正後
「 【請求項11】
小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療における使用のための一酸化窒素(NO)送達システムであって、ガスを送達するための手段を含み、NOを含むガスは、ガスボンベから、又は投与の場所で、若しくは投与の場所付近で化学的にNOを発生するような、任意の公知の方法により供給され、NOは、10ppm未満のNOの用量でそれを必要とする小児へ投与され、NOは吸気の一部のみに投与され、且つ投与される患者群が、NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられなかった小児を含む、システム。」

2 補正の適否
(1)本件補正の目的について
ア 上記1によれば、補正後の請求項11に係る本件補正は、補正前の請求項12において、「請求項1から11の何れか一項に記載のガスを送達するためのNO送達システム」と、他の請求項の記載を引用して記載していたのを削除する(補正事項i)とともに、NO送達システムについて、「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療における使用のための一酸化窒素(NO)送達システム」(補正事項ii)であって、「NOは、10ppm未満のNOの用量でそれを必要とする小児へ投与され」(補正事項iii)、「NOは吸気の一部のみに投与され」(補正事項iv)、「投与される患者群が、NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられなかった小児を含む」(補正事項v)との発明特定事項を加入するものである。

イ ここで、補正前の請求項12が引用する補正前の請求項1?11には、以下の記載があった。
「 【請求項1】
小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療における使用のためのガスであって、一酸化窒素(NO)を含み、NOは、10ppm未満のNOの用量でそれを必要とする小児へ投与され、該小児が、NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられていない、ガス。
【請求項2】
NOが、約0.1ppmから約8ppmの範囲の用量で投与される、請求項1に記載のガス。
【請求項3】
NOが、約2ppmから約6ppmの範囲の用量で投与される、請求項1に記載のガス。
【請求項4】
NOが、約8ppm未満の用量で投与される、請求項1に記載のガス。
【請求項5】
NOが、約5ppmの用量で投与される、請求項1に記載のガス。
【請求項6】
NOが、最大28日の治療期間で投与される、請求項1から5の何れか一項に記載のガス。
【請求項7】
NOが、2日から2カ月の範囲の治療期間で投与される、請求項1から5の何れか一項に記載のガス。
【請求項8】
NOが、吸気の一部のみに投与される、請求項1から7の何れか一項に記載のガス。
【請求項9】
NOが、吸気の後半には投与されない、請求項1から8の何れか一項に記載のガス。
【請求項10】
小児が、16歳未満である、請求項1から9の何れか一項に記載のガス。
【請求項11】
NOの投与が、NO投与の開始の28日後に、小児が生存し、且つ人工呼吸器を用いない日数を増加させる、請求項1から10の何れか一項に記載のガス。」

ウ 補正前の請求項12に係る発明は、「請求項1?11の何れか一項に記載のガス」と特定されており、請求項12には、請求項1?11のそれぞれの記載を引用する複数の発明が含まれていた。
そして、補正前の請求項1?11は、いずれも補正前の請求項1を引用する発明を含むものであり、補正前の請求項1には、ガスが「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療における使用のための」ものであり、また、「NOは、10ppm未満のNOの用量でそれを必要とする小児へ投与され」るとの特定が含まれていた。
補正事項ii及びiiiは、補正事項iで他の請求項の記載を引用する記載を削除することに伴い、補正前の請求項12で請求項1を引用する形式で記載していた発明特定事項を、補正後の請求項11の発明特定事項として記載するものである。
また、補正事項ivは、補正前の請求項8に「NOが、吸気の一部のみに投与される」と特定されていたのを、補正後の請求項11の発明特定事項として記載するものである。
そうすると、補正事項i?ivは、補正前の請求項12に記載された発明を特定するために必要な事項である「請求項1から11の何れか一項に記載のガスを送達するためのNO送達システム」を、請求項8に記載されるものに限定した発明に相当するし、補正前の請求項12に記載された発明と補正後の請求項11に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
また、補正事項vは、補正前の請求項12に係る発明に関し、請求項12が引用する請求項1に記載される「該小児が、NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられていない」との発明特定事項が、NOガスの投与の対象が、NOガスの投与の前に、小児が「NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられていない」患者群であることを意味するのか、NOガスの投与の前には「体外式膜型人工肺にかけられていない」患者の選定は行わず、NO投与の結果として、患者である小児が、「NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられていない」状態となることを意味するのか、あるいは、それ以外であるのか、判然としない点で、補正前の請求項12に係る発明は明確ではなく、拒絶理由を有することを、拒絶査定の付記において指摘されたことを受けて、上記特定事項の意味内容を明らかにする目的でなされた補正である。
そうすると、補正前の請求項12についての本件補正は、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮及び同法同条同項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

エ そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項11に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許法第17の2条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか、について、以下、検討する。

(2)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載した以下のとおりのものである。
「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療における使用のための一酸化窒素(NO)送達システムであって、ガスを送達するための手段を含み、NOを含むガスは、ガスボンベから、又は投与の場所で、若しくは投与の場所付近で化学的にNOを発生するような、任意の公知の方法により供給され、NOは、10ppm未満のNOの用量でそれを必要とする小児へ投与され、NOは吸気の一部のみに投与され、且つ投与される患者群が、NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられなかった小児を含む、システム。」

(3)引用文献4に記載されている事項、および引用発明(引用文献4に記載された発明)
ア 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4(特開2011-10865号公報)には、以下の記載がある。

「【0022】
吸入用のINOmax(登録商標)(一酸化窒素)は、米食品医薬品局(「FDA」)によって1999年に米合衆国内で販売するために承認された。INOmax(登録商標)中の活性物質である一酸化窒素は、肺のより良好に換気された領域内の肺血管を拡張させ、低換気/潅流(V/Q)比を備える肺領域から正常な比率を備える領域に向けて肺血流を再分布させることにより動脈血酸素の部分圧(PaO_(2))を増加させる、選択的肺血管拡張剤である。INOmax(登録商標)は、酸素供給を有意に改善し、体外酸素供給の必要を減少させ、換気補助およびその他の適切な薬剤と併せて使用するように指示されている。INOmax(登録商標)についての現行FDA承認処方情報は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0023】
INOmax(登録商標)は、NOおよび窒素のガス状混合物(800ppmについては各々0.08%および99.92%;ならびに100ppmについては各々0.01%および99.99%)であり、高圧下の圧縮ガスとしてアルミニウム製ボンベに入れて供給される。一般に、INOmax(登録商標)は、換気補助およびO_(2)と併用して患者に投与される。吸入用のガス状NOの安全かつ有効な送達のために適切な送達デバイスには、INOvent(登録商標)、INOmax DS(登録商標)、INOpulse(登録商標)、INOblender(登録商標)、または全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,558,083号明細書;第5,732,693号明細書;第5,752,504号明細書;第5,732,694号明細書;第6,089,229号明細書;第6,109,260号明細書;第6,125,846号明細書;第6,164,276号明細書;第6,581,592号明細書;第5,918,596号明細書;第5,839,433号明細書;第7,114,510号明細書;第5,417;950号明細書;第5,670,125号明細書;第5,670,127号明細書;第5,692,495号明細書;第5,514,204号明細書;第7,523,752号明細書;第5,699,790号明細書;第5,885,621号明細書;米国特許出願第11/355,670(US2007/0190184)号明細書;米国特許出願第10/520,270(US2006/0093681)号明細書;米国特許出願第11/401,722(US2007/0202083)号明細書;米国特許出願第10/053,535(US2002/0155166)号明細書;米国特許出願第10/367,277(US2003/0219496)号明細書;米国特許出願第10/439,632(US2004/0052866)号明細書;米国特許出願第10/371,666(US2003/0219497)号明細書;米国特許出願第10/413,817(US2004/0005367)号明細書;米国特許出願第12/050,826(US2008/0167609)号明細書;および国際出願PCT/US2009/045266号明細書を含む様々な特許文書に記載されているその他の適切な送達および調節デバイスもしくはその中に組み込まれたコンポーネント、または他の関連プロセスが含まれる。
【0024】
そのようなデバイスは、INOmax(登録商標)を、吸気を通して患者へ一定濃度のNOを提供する方法で患者の呼吸回路の吸息肢(inspiratory limb)へ送達する。重要なことに、適切な送達デバイスは、吸い込まれたO_(2)、NO_(2)およびNOの持続的統合監視、包括的アラームシステム、連続的なNO送達のために適切な電源装置ならびに予備NO送達能力を提供する。」

イ 引用文献4に記載された発明(引用発明)
上記アの記載(【0023】及び【0024】)によれば、引用文献4には、
「吸入用のガス状NOの送達のために適切な送達デバイスであって、NOおよび窒素のガス状混合物であるINOmax(登録商標)を、O_(2)と併用して、患者の吸気を通して、患者へ一定濃度のNOを提供する方法で患者の呼吸回路の吸息肢へ送達する送達デバイス。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(4)本件補正発明と引用発明との対比および判断
ア 対比
引用発明における「吸入用のガス状NOの送達のために適切な送達デバイス」であって、「患者へ一定濃度のNOを提供する方法で患者の呼吸回路の吸息肢へ送達する送達デバイス」は、本件補正発明における「一酸化窒素(NO)送達システム」に相当するし、引用発明の「吸入用のガス状NOの送達のために適切な送達デバイス」は、ガスを送達するための何らかの手段を含んでいると認められるから、本件補正発明の「ガスを送達するための手段を含み」との構成を備えているといえる。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1で一応相違する。
<一致点>
一酸化窒素(NO)送達システムであって、ガスを送達するための手段を含むシステム。
<相違点1>
本件補正発明では、一酸化窒素(NO)送達システムが、(i)「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療における使用のため」のものであり、(ii)「NOを含むガスは、ガスボンベから、又は投与の場所で、若しくは投与の場所付近で化学的にNOを発生するような、任意の公知の方法により供給され」、(iii)「NOは、10ppm未満のNOの用量でそれを必要とする小児へ投与され」、(iv)「NOは吸気の一部のみに投与され」、且つ、(v)「投与される患者群が、NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられなかった小児を含む」ことが特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はなされていない点。

イ 相違点1についての判断
相違点1について検討する。
(ア)本件補正発明における上記(i)の発明特定事項は、一酸化窒素(NO)送達システム(以下「NO送達システム」と記載する。)を使用する目的が「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療」であること、つまり、「NO送達システムの使用目的」を特定するものであり、(ii)の発明特定事項は、NO伝達システムに供給されるガスが「ガスボンベから、又は投与の場所で、若しくは投与の場所付近で化学的にNOを発生するような、任意の公知の方法により供給され」るものであること、つまり、「NO送達システムに供給するガスの供給手法」を特定する事項である。また、(iii)の発明特定事項は、NO送達システムを使用してNOを投与する際に、「NO」の投与が「10ppm未満のNOの用量」で行われること及び、「NO」の投与が「それを必要とする小児へ」行われること、つまり、「NOの用量」及び「NOの投与対象」を特定する事項であり、(iv)の発明特定事項は、NOの投与対象への投与が、「NO」が「吸気の一部のみに投与され」るように行われること、つまり、「NOの用法」を特定する事項である。さらに、(v)は、NO送達システムを使用してNOを投与する患者群が「NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられなかった小児を含む」こと、つまり、「NOの投与対象」を特定するものである。

(イ)すなわち、上記(i)?(v)の発明特定事項は、本件補正発明の「NO送達システム」の「使用目的」(上記(i)の発明特定事項)、「NOの投与対象・用法・用量」(上記(iii)?(v)の発明特定事項)、「NO送達システムに供給するガスの供給手法」(上記(ii)の発明特定事項)を特定する事項であり、いずれも、本件補正発明のNO送達システム自体の形状や構造等の装置としての特徴(以下、「構造等」という。)を特定する記載であるとは認められない。
また、本願明細書及び図面には、上記(i)?(v)の発明特定事項とNO送達システムの構造等との関係についての記載はなく、本願明細書及び図面の記載を参酌しても、これらの発明特定事項により、本件補正発明のNO送達システムが、これらの発明特定事項を有していないNO送達システムとは異なった「構造等」を有するものとなっているとは認められない。

(ウ)以上のとおり、(i)?(v)の発明特定事項により、本件補正発明のNO送達システムが、これらの発明特定事項を有していないシステムとは異なった「構造等」を有するものとなっているとは認められないから、(i)?(v)の発明特定事項を備える点、つまり、相違点1は、本件補正発明のNO送達システムと引用発明の送達デバイスという「物」の発明としての対比においては、実質的には相違点とはならない。
そうすると、本件補正発明の「NO送達システム」と引用発明の「送達デバイス」との間には、「物」の発明としては、実質的な差異はないのであるから、本件補正発明は、引用発明、すなわち、引用文献4に記載された発明である。

(5)上記のとおり、本件補正発明と引用発明との間には、「物」の発明としては実質的な差異はないが、請求人は、審判請求書の【請求の理由】の3.(3)(3-1)において、補正後の請求項11について、「審判請求人は・・・補正前の・・・請求項12に係る発明を、補正前の請求項8に係る発明の特徴を導入することにより、「NOは吸気の一部のみに投与され」ることをさらに特定した、特定用途のためのNO送達システムを記載するものに補正しました」と主張している。
そうすると、請求人は、本件補正発明における(i)?(v)の発明特定事項を備えた本件補正発明が「用途発明」として、引用発明とは区別されるものであると主張しているとも解される。
そこで、本件補正発明を「用途発明」と解する余地があるか否かについて検討する。

用途発明とは、(a)ある物の未知の属性を発見し、(b)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう(特許・実用新案審査基準、第III部第2章第4節「特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の「3.1.2 用途限定が付された物の発明を用途発明と解すべき場合の考え方」を参照)。

まず、(ii)の発明特定事項は、「NO送達システムに供給するガスの供給手法」についての特定であって、NO送達システムの「用途」を特定するものとは認められない。
次に、(i)の発明特定事項は、上記(4)イ(ア)及び(イ)で説示したとおり、「NO送達システムの使用目的」、つまり、NO送達システムを「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療のため」という医薬用途に用いることを特定するものであるが、「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療」は、「NO」の属性に基づいてなされることであり、「NO送達システム」の属性に基づいてなされることではない。つまり、(i)の発明特定事項で規定される用途は、「NO送達システム」の「未知の属性」の発見に基づくものあるとはいえない。
また、(iii)?(v)の発明特定事項は、上記(4)イ(ア)及び(イ)で説示したとおり、「NOの投与対象・用量・用量」を特定するものであって、「投与対象・用量・用量」の特定は、医薬用途の特定であるとはいえるが、これらは「NO」の属性に基づくものであり、「NO送達システム」の属性に基づくものではない。つまり、(iii)?(v)の発明特定事項で規定される用途は、「NO送達システム」の「未知の属性」の発見に基づくものあるとはいえない。

以上のとおりであるから、(i)?(v)の発明特定事項を備える本件補正発明について、「NO送達システム」の「未知の属性」を発見し、(b)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明であるとはいえない。
よって、本件補正発明を用途発明と解する余地はない。

(6)以上のとおり、本件補正発明は引用文献4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
令和1年8月8日にされた手続補正は、上記第2で説示したように却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年11月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項12に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載のガスを送達するためのNO送達システムであって、該ガスを送達するための手段を含み、NOを含むガスは、ガスボンベから、又は投与の場所で、若しくは投与の場所付近で化学的にNOを発生するような、任意の公知の方法により供給される、システム。」

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由の概要は、平成30年8月24日付け拒絶理由通知書に記載のように、本願発明は、引用文献4(特開2011-10865号公報)に記載された発明であるから新規性を有しないという理由2(特許法第29条第1項第3号)を含むものである。

3 引用文献4に記載されている事項、および引用発明(引用文献4に記載された発明)
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4に記載された事項は、上記第2の[理由]2(3)アに記載したとおりである。
そして、引用文献4に記載された発明(すなわち、「引用発明」)は、上記第2の[理由]2(3)イに記載した、以下のとおりのものである。
「吸入用のガス状NOの送達のために適切な送達デバイスであって、NOおよび窒素のガス状混合物であるINOmax(登録商標)を、O_(2)と併用して、患者に投与される吸気を通して、患者へ一定濃度のNOを提供する方法で患者の呼吸回路の吸息肢へ送達する送達デバイス。」

4 本願発明と引用発明との対比・判断
(1)対比
本願発明と、引用発明を対比する。
引用発明における「ガス状NOの送達のために適切な送達デバイス」は、本願発明における「ガスを送達するためのNO送達システム」に相当する。
本願発明の「NOを含むガスは・・・より供給される」なる規定からみて、本願発明のNO送達システムにより送達される「ガス」は、「NOを含むガス」であると認められるところ、引用発明の送達デバイスは、「NOおよび窒素のガス状混合物であるINOmax(登録商標)を、O_(2)と併用して」患者の呼吸回路の吸息肢へ送達するものであるから、引用発明は、本願発明の「NOを含むガス」との発明特定事項を満足するといえる。
引用発明の「ガス状NOの送達のために適切な送達デバイス」は、ガスを送達するための何らかの手段を含んでいると認められるから、本願発明の「該ガスを送達するための手段を含み」との構成を備えているといえる。

そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点2及び3で一応相違する。
<一致点>
NOを含むガスを送達するためのNO送達システムであって、該ガスを送達するための手段を含む、システム。
<相違点2>
NO送達システムにより送達されるガスについて、本願発明では、「請求項1から11の何れか一項に記載のガス」と特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はなされていない点。
<相違点3>
NO送達システムについて、本願発明では、「NOを含むガスは、ガスボンベから、又は投与の場所で、若しくは投与の場所付近で化学的にNOを発生するような、任意の公知の方法により供給され」ることが特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はなされていない点。

(2)相違点2及び3についての判断
ア 相違点2について検討する。
(ア) 「NO送達システムにより送達されるガス」が「請求項1に記載のガス」である場合の本願発明について検討する。

本件補正前の請求項1には、
「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療における使用のためのガスであって、一酸化窒素(NO)を含み、NOは、10ppm未満のNOの用量でそれを必要とする小児へ投与され、該小児が、NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられていない、ガス。」
と記載されている。
そして、上記の「一酸化窒素(NO)を含」む点は相違点とはならないから、本願発明の「NO送達システムにより送達されるガス」が「請求項1に記載のガス」である場合についての相違点2は、より具体的には以下の相違点2’のとおりとなる。
<相違点2’>
本願発明では、NO送達システムにより送達されるガスについて、(I)「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療における使用のため」のものであること、及び、(II)「NOは、10ppm未満のNOの用量で、それを必要とする小児に投与され、該小児が、NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられていない」ことが特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はされていない点。

(イ) 本願発明における上記(I)の発明特定事項は、NO送達システムによる送達されるガスを使用する目的が「小児における急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療」であること、つまり、「NOを含むガスの使用目的」を特定するものであり、(II)の発明特定事項は、「NO」の投与が「10ppm未満のNOの用量」で行われること及び、「NO」の投与が「それを必要とする小児」であって、「NO投与中に体外式膜型人工肺にかけられていない小児」を対象として行われること、つまり、「NOの用量」及び「NOの投与対象」を特定するものである。

(ウ) すなわち、上記(I)及び(II)の発明特定事項は、本願発明の「NOを含むガスの使用目的」(上記(I)の発明特定事項)及び「NOの投与対象・用量」(上記(II)の発明特定事項)を特定する事項であり、いずれも、本願発明のNO送達システム自体の形状や構造等の装置としての特徴(「構造等」)を特定する記載であるとは認められない。また、本願明細書及び図面には、上記(I)及び(II)の発明特定事項とNO送達システムの構造等との関係についての記載はなく、本願明細書及び図面の記載を参酌しても、これらの発明特定事項により、本願発明のNO送達システムが、これらの発明特定事項を有していないシステムとは異なった「構造等」を有するものとなっているとは認められない。

イ 次に、相違点3について検討する。
本願発明は、NO送達システムについて、(III)「NOを含むガスは、ガスボンベから、又は投与の場所で、若しくは投与の場所付近で化学的にNOを発生するような、任意の公知の方法により供給され」るものであること、つまり、「NO送達システムに供給するガスの供給手法」を特定するものである。
しかしながら、「NO送達システムに供給するガスの供給手法」の特定は、本願発明のNO送達システム自体の形状や構造等の装置としての特徴(つまり、「構造等」)を規定するものではなく、(III)の発明特定事項により、本願発明のNO送達システムが、(III)の発明特定事項を有していないNO送達システムとは異なった「構造等」を有するものとなっているとは認められない。

ウ 以上のとおり、(I)?(III)の発明特定事項により、本願発明のNO送達システムが、これらの発明特定事項を有していないシステムとは異なった「構造等」を有するものとなっているとは認められないから、発明特定事項(I)?(III)を備える点、つまり、相違点2及び3は、本願発明のNO送達システムと引用発明の送達デバイスという「物」の発明としての対比においては、実質的には相違点とはならない。
そうすると、本願発明の「NO送達システム」と引用発明の「送達デバイス」との間には、「物」の発明としては、実質的な差異はないのであるから、本願発明は、引用発明、すなわち、引用文献4に記載された発明である。

エ 次に、本願発明を「用途発明」と解する余地があるか否かについて検討する。
本願発明における(I)の発明特定事項は、上記第2[理由]2(4)アの本件補正発明と引用発明との対比において、相違点1として記載した(i)の発明特定事項に相当するし、本願発明における(II)の発明特定事項は、(iii)及び(v)の発明特定事項に相当するし、(III)の発明特定事項は(ii)の発明特定事項に相当する。そして、本願発明が、これら(I)?(III)の発明特定事項を備える点については、上記第2[理由]2(5)において本件補正発明が(i)?(iii)、(v)の発明特定事項を備える点について説示したと同様の理由によって、「NO送達システム」の「未知の属性」の発見に基づくものであるということはできない。
よって、本願発明を用途発明と解する余地はない。

(3)以上のとおりであるから、本願発明は引用文献4に記載された発明である。

第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項12に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-10-28 
結審通知日 2020-11-04 
審決日 2020-11-17 
出願番号 特願2016-544840(P2016-544840)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 渕野 留香
松本 直子
発明の名称 小児における急性呼吸促迫症候群の治療のための吸入一酸化窒素ガスを使用する方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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