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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12P 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P |
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管理番号 | 1373131 |
審判番号 | 不服2019-16202 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-02 |
確定日 | 2021-04-09 |
事件の表示 | 特願2018-513918「微生物由来産物の連続生産方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 1日国際公開、WO2016/189203、平成30年 6月14日国内公表、特表2018-515148〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成28年5月25日(優先権主張 平成27年5月25日 フィンランド)を国際出願日とする出願であって、平成30年11月15日付けの拒絶理由通知に対して、平成31年2月19日に意見書及び手続補正書が提出され、令和1年7月25日付けで拒絶査定がなされ、同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 本願の請求項1?14に係る発明は、平成31年2月19日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載の事項により特定される発明であり、そのうち請求項1に係る発明は、請求項1に記載される次の発明(以下、「本願発明」という。)であると認める。 【請求項1】 バイオリアクターのカスケードにおいて生合成産物を生産する方法であって、前記カスケードが、少なくとも1つのバイオマス生産リアクターを備えたバイオマス生産用バイオリアクターシステムと、濃縮装置と流れ接続している少なくとも1つの産物生成リアクターを備えた産物生成用バイオリアクターシステムと、を備え、前記方法が、さらに、 a)バイオマスを効果的に増殖させることができ栄養分を豊富に含んだ培養培地を、前記バイオリアクターに供給することによって、バイオマス生産バイオリアクター内で微生物を培養することと、 b)前記ステップa)の前記バイオマス生産リアクターから微生物培養物の少なくとも一部を取り出し、これを、生合成産物の生成に最適化され栄養分が欠乏した培地を収容する産物生成リアクターに供給することと、 c)前記産物生成リアクター内の栄養分が欠乏した産物生成培地の存在下で生合成産物を生産することと、 を含み、 前記産物生成リアクターの微生物培養物の菌体濃度が、前記産物生成リアクターと流れ接続している濃縮装置を用いることによって増加し; 前記濃縮装置はバイオマス生産リアクターと産物生成リアクターとの間に配置されるか、又は; 前記濃縮装置は産物生成リアクターの下流に配置される、 方法。 第2 原査定の理由 令和1年7月25日付け拒絶査定は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、との理由を含むものである。 引用文献1 特開2013-183687号公報 第3 当審の判断 1.引用文献1の記載 この出願の優先日前に公知となった特開2013-183687号公報(以下、「引用文献1」という。)には次の記載がある。 (1) 「【請求項1】 従属栄養微生物を用いた油脂生産方法であって、 第一の培地において、前記従属栄養微生物を培養して油脂を生産する第一油脂生産工程と、 第二の培地において、前記第一油脂生産工程で培養された前記従属栄養微生物を培養して油脂を生産する第二油脂生産工程と、を備え、 前記第一の培地は、前記第二の培地よりも多くの糖類を含有し、 前記第二の培地は、前記第一の培地よりも多くのグリセリンを含有する、 油脂生産方法。 【請求項2】 前記第一の培地及び前記第二の培地より前段の増殖培地において、従属栄養微生物を培養する増殖工程を備え、 前記第一の培地は、前記増殖培地よりも多くの糖類を含有し、 前記増殖培地は、前記第一の培地よりも多くの窒素を含有し、 前記第一油脂生産工程においては、前記増殖工程で培養された前記従属栄養微生物を培養して油脂を生産する請求項1に記載の油脂生産方法。」 (2) 「【0023】 増殖槽2、第一油脂生産槽3及び第二油脂生産槽4は、それぞれ従属栄養微生物を培養するための槽である。増殖槽2には、培地として、廃水H(増殖培地)が供給される。第一油脂生産槽3には、増殖槽2から従属栄養微生物を含んだ廃水Hが供給されると共に、廃水Oが供給される。このように、第一油脂生産槽3では、培地として、廃水Hと廃水Oとを混合した第一混合液(第一の培地)を用いる。 【0024】 第二油脂生産槽4には、第一油脂生産槽3から従属栄養微生物を含んだ第一混合液が供給されると共に、廃水Gが供給される。このように、第二油脂生産槽4では、培地として、廃水H、廃水O及び廃水Gを混合した第二混合液(第二の培地)を用いる。 【0025】 廃水Hは、窒素優位の廃水であり、第一混合液や第二混合液よりも多くの窒素を含有している。廃水Hとしては、例えば下水等を用いることが可能である。ここで、従属栄養微生物に対して窒素を与えた場合には、従属栄養微生物の増殖能力が増大する。 【0026】 廃水Oは、糖類優位の廃水であり、廃水Oが混合された第一混合液は、廃水Hや第二混合液よりも多くの糖類を含有する。廃水Oとしては、例えば工場廃水等を用いることができる。 【0027】 ここで、グルコース等の糖類は、従属栄養微生物において、通常時には、増殖等に利用すべく、解糖系からクエン酸回路を通りエネルギーに変換され、一方、窒素欠乏時等には、エネルギーの蓄積に利用すべく、トリグリセリド等の貯蔵物質に変換される。つまり、糖類は、従属栄養微生物の代謝系における取り込みが比較的早く、代謝経路の切り替えも比較的速やかと考えられる。このため、従属栄養微生物に対して糖類を与えた場合には、従属栄養微生物が油脂の生産を始めた初期段階において、従属栄養微生物の油脂の生産能力が増大する。廃水Oが含有する糖類としては、例えばグルコース、果糖等が挙げられる。 【0028】 廃水Gは、グリセリン優位の廃水であり、廃水Gが混合された第二混合液は、廃水Hや第一混合液よりも多くのグリセリンを含有する。廃水Gに含まれるグリセリンは、上述のように、第一バイオディーゼル燃料化装置101や第二バイオディーゼル燃料化装置104において副生成物として得られるグリセリンである。」 (3) 「【0047】 [第二実施形態] 図5は、本発明の第二実施形態に係る油脂生産装置を示す概略構成図である。図5に示すように、第二実施形態に係る油脂生産装置1Bが、第一実施形態に係る油脂生産装置1A(図2参照)と異なる点は、増殖槽2と第一油脂生産槽3との間に第一中間濃縮分離装置7を追加した点、及び、第一油脂生産槽3と第二油脂生産槽4との間に第二中間濃縮分離装置6を追加した点である。 【0048】 具体的には、第一中間濃縮分離装置7は、従属栄養微生物と培地とを固液分離するためのものであり、増殖槽2から供給された従属栄養微生物を含む廃水Hを固液分離する。従属栄養微生物は、第一油脂生産槽3に供給される一方で、残りの培地は、後処理装置109に供給される。また、第二中間濃縮分離装置6は、油脂を含んだ従属栄養微生物と培地とを固液分離するためのものであり、第一油脂生産槽3から供給された従属栄養微生物を含む第一混合液を固液分離する。油脂を含んだ従属栄養微生物は、第二油脂生産槽4に供給される一方で、残りの培地は、後処理装置108に供給される。これら第一中間濃縮分離装置7及び第二中間濃縮分離装置6としては、濃縮分離装置5と同様に、例えば重力沈殿槽、遠心分離機、デカンタ等が使用可能である。 【0049】 次に、油脂生産装置1Bの動作について説明する。 【0050】 油脂生産装置1Bでは、第一実施形態に係る油脂生産装置1Aと同様に、まず、増殖槽2中の廃水Hにおいて従属栄養微生物が培養されて従属栄養微生物が好適に増殖する(増殖工程)。続いて、第一中間濃縮分離装置7に対し、増殖槽2から従属栄養微生物を含む廃水Hが供給され、従属栄養微生物と培地とに分離される(第一中間濃縮分離工程)。そして、従属栄養微生物は、第一油脂生産槽3に供給される。一方、第一中間濃縮分離装置7により分離された培地は、後処理装置109に供給される。続いて、第一油脂生産槽3中の廃水O(第一の培地)において従属栄養微生物が培養される(第一油脂生産工程)。廃水Oは廃水Gに比して糖類を多く含有するため、第一油脂生産槽3においては、初期段階における従属栄養微生物の油脂の生産能力が好適に増大される。第一油脂生産槽3における培養時間は、第一実施形態に係る油脂生産装置1Aと同様に、第二油脂生産槽4における培養時間に比して短く設定されており、例えば1?1.5日程度とされている。 【0051】 続いて、第二中間濃縮分離装置6に対し、第一油脂生産槽3から従属栄養微生物を含む廃水Oが供給され、油脂を含む従属栄養微生物と培地とに分離される(第二中間濃縮分離工程)。そして、油脂を含む従属栄養微生物は、第二油脂生産槽4に供給される。一方、第二中間濃縮分離装置6により分離された培地は、後処理装置108に供給される。 【0052】 続いて、第二油脂生産槽4に対し、廃水G(第二の培地)が供給され、当該廃水Gにおいて従属栄養微生物が培養される(第二油脂生産工程)。廃水Gは廃水Oに比してグリセリンを多く含有するため、第二油脂生産槽4においては、初期段階以降における従属栄養微生物の油脂の生産能力が続けて増大される。第二油脂生産槽4における培養時間は、第一実施形態に係る油脂生産装置1Aと同様に、第一油脂生産槽3における培養時間に比して長く設定されており、例えば1週間程度とされている。」 (4) 「図5 」 2.引用発明 上記1.の(1)?(4)より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「図5に示されるように構成される油脂生産装置により、従属栄養微生物を用いて油脂を生産する方法であって、 該油脂生産装置は、 増殖槽、 第一油脂生産槽、 第二油脂生産槽、 増殖槽と第一油脂生産槽の間に設けられた第一中間濃縮分離装置、及び、 第一油脂生産槽と第二油脂生産槽の間に設けられた第二中間濃縮分離装置を備え、 上記生産する方法は、 窒素優位の廃水Hからなる増殖培地を増殖槽に供給し、上記微生物を増殖させ、 第一中間濃縮分離装置による固液分離を経た増殖槽からの上記微生物に富む培地と糖類優位の廃水Oを混合した第一の培地を第一油脂生産槽に供給して、上記微生物を培養して油脂を生産し、 及び、 第二中間濃縮分離装置による固液分離を経た第一油脂生産槽からの上記微生物に富む培地とグリセリン優位の廃水Gを混合した第二の培地を第二油脂生産槽に供給し、 上記微生物を培養して油脂を生産する方法であり、 増殖培地は第一の培地、第二の培地よりも多くの窒素を含有する、 上記方法。」 3.対比 (1)「栄養分」について 本願発明には「栄養分」という用語を用いて「バイオマスを効果的に増殖させることができ栄養分を豊富に含んだ培養培地」と記載され、バイオマスを増殖・生産する培地はこの「栄養分」を豊富に含み、一方、「生合成産物の生成に最適化され栄養分が欠乏した培地」と記載され、産物を生成する培地はこの「栄養分」が欠乏することが特定されていると認められる。しかし、本願明細書には、段落【0059】に「例えば、バイオマスの培養には栄養分が豊富な供給原料が必要であり、また、産物生成フェーズでは、例えば栄養飢餓を達成するように、栄養分が不十分な供給原料が必要である。」との記載はあるものの、培地において豊富?欠乏へと調整される「栄養分」が何であるかについて具体的な定義等はなされていない。 本願発明と引用発明との対比にあたり、本願発明にいう「栄養分」が具体的に何であるかについて、本願明細書の記載を参酌して検討する。 ア 実施例2、3の記載の参酌 本願明細書の実施例の記載を参酌すると、実施例2、3には、「(水道水1リットル当たり)グルコース40 g、酵母エキス8 g、(NH_(4))_(2)SO_(4)2.5 g、MgSO_(4)・7H_(2)O 1.5 g、KH_(2)PO_(4) 5.0 g、CaCl_(2)・2H_(2)O 0.1 gから構成された」培地を用いたバイオマス生産ステップのあと、細胞濃縮ステップを行い、次いで「20 mlの水中7 gのMgSO_(4)・7H_(2)O、20 mlの水中21 gのKH_(2)PO_(4)、及び、600 mlの水中、硫酸アンモニウムとアミノ酸とを含まない34 gの酵母窒素ベースからなる補充栄養溶液を、バイオリアクターに加えた。」ことが記載され、続けて「54%グルコース溶液又は乾燥グルコースを培養物に供給して、グルコース濃度を5?60 g/lに維持」して脂質生産を行ったことが記載されている。 そうすると、グルコースのような糖類はバイオマス生成培地だけでなく産物生成培地にも添加され続けているのに対し、バイオマス生産培地で添加された酵母エキスや硫酸アンモニウムが、産物生産培地には添加されず、代わりに「硫酸アンモニウムとアミノ酸とを含まない34 gの酵母窒素ベース」なるものが添加されることが記載されており、硫酸アンモニウムやアミノ酸は、当業界において「窒素分」と呼ばれる栄養成分であると認められる。 したがって、硫酸アンモニウムやアミノ酸のような「窒素分」が、本願発明で培地において豊富?欠乏へと調整される「栄養分」に該当すると認められる。この点に関しては、本願明細書の段落【0074】に「例えば産物生成用培地中の窒素の濃度を調整し、これによって、生合成産物の生成を刺激することである。」、段落【0141】に「バイオリアクター2(第2のバイオリアクター)の目的は、微生物の栄養飢餓及び脂質生産を誘導することである。・・・・バイオリアクター2は、微生物によって窒素(又は、P、Fe若しくはSなどの他の栄養素)が消費されるように操作される。」、段落【0142】に「バイオリアクター3は、効果的な脂質生産を達成するように、窒素(又は、P、Fe若しくはSなどの他の栄養素)の飢餓状態下で操作される。」などと記載されており、窒素の濃度が脂質(産物)の生成に関係していることも示されている。 イ 実施例5、図面等の記載の参酌 本願明細書の実施例5には、 「【0194】 165時間の培養後に、油生産バイオリアクターにおける濃縮ステップを開始した。油生産バイオリアクターに、膜ろ過ユニット(3つのMillipore Durapore 0.45μmカセットを有するPellicon 2 Mini)を接続した。油生産バイオリアクターからの培養物を、ポンプによって膜フィルタに送り出し、残余分をバイオリアクターに循環させ、バイオリアクターの連続操作を維持しながら、浸透物を収集タンクに移した。」と記載されており、油生産バイオリアクター中の培養物を濃縮装置にかけて微生物を豊富にしたものを油生産バイオリアクターに循環させたことが記載されている。 また、本願発明の実施形態を示す図4、図5、図8、図10には、産物生成バイオリアクター中の培養物を濃縮装置にかけて微生物を豊富にしたものを該産物生成バイオリアクターに循環することが示されていると認められる。 さらに、本願発明の実施形態を示す図9には、産物生成バイオリアクター中の培養物を濃縮装置にかけて微生物を豊富にしたものを次の産物生成バイオリアクターに供給することが記載されていると認められる。 加えて、本願明細書の段落【0077】には次の記載がある。 「【0077】 本発明の一実施形態は、微生物を豊富に含んだ画分を産物生成リアクターに再循環させるステップを含む。微生物を豊富に含んだ画分を産物生成リアクターに再循環させるか又は供給することによって、産物生成用培地の更なる栄養欠乏が可能になり、これによって、好まれない栄養素、例えば糖の利用が誘導され、その結果、産物生成用培地が完全に利用される。」 これらの記載から、本願発明において、バイオマス生産リアクターや産物生成リアクターからの培養物を濃縮装置に通した画分、すなわち微生物を豊富に含んだ画分を産物生成リアクターに供給又は循環することは、該産物生成リアクター中の培地の「栄養分」を欠乏させることに該当すると認められる。 そして、そうであれば、引用発明において、第一中間濃縮分離装置による固液分離を経た増殖槽からの従属栄養微生物を豊富に含む培地と廃水Oを混合した第一の培地や、第二中間濃縮分離装置による固液分離を経た第一油脂生産槽からの培地と廃水Gを混合した第二の培地は、本願発明にいう栄養分を欠乏した培地に相当するといえる。 (2)「栄養分」以外の構成について 本願発明の「生合成産物」は、本願の請求項14に記載されるように油脂を含むものであるから、引用発明の「図5に示されるように構成される油脂生産装置により、従属栄養微生物を用いて油脂を生産する方法」は、本願発明の「バイオリアクターのカスケードにおいて生合成産物を生産する方法」に相当し、引用発明の「増殖槽」、「(第一及び第二)油脂生産槽」、「(第一及び第二)中間濃縮分離装置」は、それぞれ、本願発明の「バイオマス生産リアクターを備えたバイオマス生産用バイオリアクターシステム」、「産物生成リアクターを備えた産物生成用バイオリアクターシステム」、「濃縮装置」に相当する。そして、引用発明の「増殖槽と第一油脂生産槽の間に設けられた第一中間濃縮分離装置」は、本願発明にいう「前記濃縮装置はバイオマス生産リアクターと産物生成リアクターとの間」に配置されていると認められ、引用発明の「第一油脂生産槽と第二油脂生産槽の間に設けられた第二中間濃縮分離装置」は、本願発明にいう「前記濃縮装置は産物生成リアクターの下流」に配置されていると認められる。 また、引用発明の「窒素優位の廃水Hからなる増殖培地」を用いて従属栄養微生物を培養することは、本願発明の「a)バイオマスを効果的に増殖させることができ栄養分を豊富に含んだ培養培地を、前記バイオリアクターに供給することによって、バイオマス生産バイオリアクター内で微生物を培養すること」に相当し、引用発明の「第一中間濃縮分離装置による固液分離を経た増殖槽からの従属栄養微生物に富む培地と糖類優位の廃水Oを混合した第一の培地」を用いて従属栄養微生物を培養して油脂を生産することは、本願発明の「b)前記ステップa)の前記バイオマス生産リアクターから微生物培養物の少なくとも一部を取り出し、これを、・・・産物生成リアクターに供給することと、 c)前記産物生成リアクター内の・・・産物生成培地の存在下で生合成産物を生産することと」に相当する。 そして、引用発明の「増殖槽と第一油脂生産槽の間に設けられた第一中間濃縮分離装置」を用いることで、本願発明と同様に、「産物生成リアクターの微生物培養物の菌体濃度が、前記産物生成リアクターと流れ接続している濃縮装置を用いることによって増加」すると認められる。 (3)一致点、相違点 本願発明と引用発明を対比すると、両者は、 「バイオリアクターのカスケードにおいて生合成産物を生産する方法であって、前記カスケードが、少なくとも1つのバイオマス生産リアクターを備えたバイオマス生産用バイオリアクターシステムと、濃縮装置と流れ接続している少なくとも1つの産物生成リアクターを備えた産物生成用バイオリアクターシステムと、を備え、前記方法が、さらに、 a)バイオマスを効果的に増殖させることができ栄養分を豊富に含んだ培養培地を、前記バイオリアクターに供給することによって、バイオマス生産バイオリアクター内で微生物を培養することと、 b)前記ステップa)の前記バイオマス生産リアクターから微生物培養物の少なくとも一部を取り出し、これを、培地を収容する産物生成リアクターに供給することと、 c)前記産物生成リアクター内の産物生成培地の存在下で生合成産物を生産することと、 を含み、 前記産物生成リアクターの微生物培養物の菌体濃度が、前記産物生成リアクターと流れ接続している濃縮装置を用いることによって増加し; 前記濃縮装置はバイオマス生産リアクターと産物生成リアクターとの間に配置されるか、又は; 前記濃縮装置は産物生成リアクターの下流に配置される、 方法。」である点で一致する。 そして、上記(1)のアの場合、以下の点で相違する。 (相違点a) 産物生成リアクターに収容される培地が、本願発明では「生合成産物の生成に最適化され栄養分が欠乏した」ものであるのに対して、引用発明の第一油脂生産槽の培地は「糖類優位の廃水Oを混合した第一の培地」である点。 また、上記(1)のイの場合、産物生成リアクターに収容される培地が「栄養分が欠乏した」ものとなることは本願発明と引用発明とで共通すると認められるから、相違点は次のとおりである。 (相違点b) 産物生成リアクターに収容される培地が、本願発明では「生合成産物の生成に最適化され」たものであるのに対して、引用発明の第一油脂生産槽の培地は「糖類優位の廃水Oを混合した第一の培地」である点。 4.検討 (相違点a)について 引用発明で第一油脂生産槽に供給される「第一の培地」とは、窒素優位の廃水Hを用いて微生物を増殖させたあとの、微生物の増殖により窒素分が消費された微生物を多く含む培養液と、工業廃水のような窒素分が少なく糖類優位の廃水Oとの混合物であって、引用発明の廃水Hからなる「増殖培地」は「第一の培地」よりも多くの窒素を含有するものであるから、「第一の培地」は「増殖培地」よりも窒素分が少ないものであるといえる。 そして、引用文献1には「グルコース等の糖類は、従属栄養微生物において、通常時には、増殖等に利用すべく、解糖系からクエン酸回路を通りエネルギーに変換され、一方、窒素欠乏時等には、エネルギーの蓄積に利用すべく、トリグリセリド等の貯蔵物質に変換される」(段落【0027】)と記載されているから、微生物に油脂を生産させるための「第一の培地」は、窒素分が少ないことにより増殖が抑制される代わりに油脂の生産が促進されているといえる。 また、上記3.(1)で検討したとおり、窒素分は本願発明にいう「栄養分」に該当すると認められるから、引用発明の窒素分が少ない「第一の培地」は、本願発明にいう「栄養分が欠乏した培地」に相当すると認められる。 さらに、引用発明では、窒素分が少ない「第一の培地」を収容する第一油脂生産槽において、「第一の培地」に含まれる糖類からトリグリセリド、すなわち油脂が生産されるといえるから、第一油脂生産槽の「第一の培地」は油脂の生成に最適であるか、少なくとも適しているものといえる。 したがって、引用発明において、第一油脂生産槽の「第一の培地」は「生合成産物の生成に最適化され栄養分が欠乏した」ものであるといえ、上記相違点aは実質的な相違点とはいえない。 また、引用発明において、第一油脂生産槽の「第一の培地」を油脂の生成に最適なものとすることは、当業者が容易になし得ることである。 (相違点b)について 上記したとおり、引用発明において、第一油脂生産槽の「第一の培地」は「生合成産物の生成に最適化され」たものであるといえ、上記相違点bは実質的な相違点とはいえない。 また、引用発明において、第一油脂生産槽の「第一の培地」を油脂の生成に最適なものとすることは、当業者が容易になし得ることである。 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.審判請求人の主張について 審判請求人は令和2年1月31日付け手続補正書(方式)により補正された審判請求書において次の点を主張している。 「本願発明は上記a)、b)及びc)の工程を他の工程とともに含むものであるのに対し、文献1には少なくとも上記工程b)及びc)についての記載はありません。同文献における「廃液O」及び「廃水G」はそれぞれ糖類又はグリセリン優位の廃水であり、かかる糖類及びグリセリンは栄養分にほかならないからです。」 上記主張について検討する。 審判請求人は、本願発明においてバイオマス生産用培地?産物生成用培地の移行によって、豊富?欠乏へと調整される「栄養分」に糖類やグリセリンが該当すると主張していると認められる。 確かに、一般的には糖類やグリセリンも「栄養分」に該当するといえるものの、上記3.(1)で検討したとおり、豊富?欠乏へと調整されているのは「窒素分」であり、「窒素分」が少ないことが「栄養分」が欠乏していることに相当するのである。 なお、上記審判請求書には1.(例1)、1.(例2)、2.(例)といった複数の補正案が示されているが、これら補正案に記載された発明についても、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1、または引用文献1及び拒絶査定において引用文献2として引用された米国特許第6596521号明細書に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 すなわち、請求項2、4?8、及び12に記載の構成を付加する補正案1.(例1)では、新たに次の事項が加えられている。 「ただしバイオマス生産リアクターから取り出された微生物培養物の少なくとも一部は、バイオマス生産リアクターと産物生成リアクターとの間に配置された濃縮装置に供給され、微生物を豊富に含んだ画分を得て、該画分が産物生成リアクターに供給され; バイオマス生産リアクターは、カスケードの最後のバイオマス生産リアクターであり、産物生成リアクターは、カスケードの最初の産物生成リアクターであり; バイオマス生産用バイオリアクターシステムは、少なくとも2、3、4、5、6、7又は8つのバイオリアクターを備え; 産物生成用バイオリアクターシステムは、少なくとも2、3、4、5、6、7又は8つのバイオリアクターを備え; 微生物を豊富に含んだ画分は、遠心分離、ろ過、沈降、凝集、浮選、デカンテーションからなる一覧より選択される手段又は方法を用いることによって得られ; バイオリアクターシステム、又は連続連結バイオリアクターのカスケードは、連続式若しくは流加式又はこれらの組合せにより操作され; 生合成産物は、 i)培養微生物からのバイオマス、 ii)一次代謝産物、 iii)二次代謝産物、 iv)細胞内産物、 v)細胞外産物 のうちの1種以上である。」 しかし、上記事項のうち、 ・「バイオマス生産リアクターから取り出された微生物培養物の少なくとも一部は、バイオマス生産リアクターと産物生成リアクターとの間に配置された濃縮装置に供給され、微生物を豊富に含んだ画分を得て、該画分が産物生成リアクターに供給され」る点は、引用文献1に記載されており、 ・「バイオマス生産リアクターは、カスケードの最後のバイオマス生産リアクターであり、産物生成リアクターは、カスケードの最初の産物生成リアクターであり」の点は、引用文献1に記載されているか、引用文献1の記載から当業者が適宜なし得ることであり、 ・「バイオマス生産用バイオリアクターシステムは、少なくとも2、3、4、5、6、7又は8つのバイオリアクターを備え」る点は、引用文献1の記載及び周知技術から当業者が容易になし得ることであり、 ・「産物生成用バイオリアクターシステムは、少なくとも2、3、4、5、6、7又は8つのバイオリアクターを備え」る点は、引用文献1に記載されており、 ・引用文献1に記載された「濃縮分離装置」は、「微生物を豊富に含んだ画分は、遠心分離、ろ過、沈降、凝集、浮選、デカンテーションからなる一覧より選択される手段又は方法を用いることによって得られ」るように機能するものであり、 ・引用文献1に記載された油脂生産においても、「バイオリアクターシステム、又は連続連結バイオリアクターのカスケードは、連続式若しくは流加式又はこれらの組合せにより操作され」るものといえ、 ・引用文献1の油脂生産で得られる油脂は、 「生合成産物は、 i)培養微生物からのバイオマス、 ii)一次代謝産物、 iii)二次代謝産物、 iv)細胞内産物、 v)細胞外産物 のうちの1種以上である」に該当すると認められる。 したがって、補正案1.(例1)の発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。 また、補正案2.(例)では、新たに次の事項が加えられている。 「ただし上記栄養分はN、P、S又はFeである」 しかし、栄養分としてN、すなわち「窒素分」は引用文献1に記載されている。 したがって、補正案2.(例)の発明は、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 なお、補正案1.(例2)は、補正案1.(例1)に請求項2、4?8、及び12以外の請求項に記載の構成をさらに組み入れるとされるのみで具体的な補正案が示されていないから、具体的な検討は行わないが、請求項2、4?8、及び12以外の請求項、すなわち請求項3、9?11、13、14に記載の事項も、引用文献1、引用文献2、及び周知技術から当業者が容易になし得ることであると認められる。 そして、補正案1.(例1)、1.(例2)、2.(例)に記載の発明において、引用文献1、または引用文献1及び引用文献2の記載から予測できない効果が奏されたとも認められない。 6.小括 本願発明は、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、または同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-11-10 |
結審通知日 | 2020-11-11 |
審決日 | 2020-11-25 |
出願番号 | 特願2018-513918(P2018-513918) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C12P)
P 1 8・ 121- Z (C12P) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高山 敏充 |
特許庁審判長 |
森井 隆信 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 小暮 道明 |
発明の名称 | 微生物由来産物の連続生産方法 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |