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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01T |
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管理番号 | 1373296 |
審判番号 | 不服2020-13149 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-18 |
確定日 | 2021-05-11 |
事件の表示 | 特願2018-519822「低エネルギー放射線量子及び高エネルギー放射線量子の組み合わされた検出のための放射線検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月27日国際公開、WO2017/067846、平成30年12月20日国内公表、特表2018-537658、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2016年(平成28年)10月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年10月21日、欧州特許庁)を国際出願とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 令和 元年 7月11日 :手続補正書の提出 令和 元年 9月30日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 4月 3日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 5月13日付け:拒絶査定(原査定) 令和 2年 9月18日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 2年10月30日 :審判請求書(手続補正書)の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和2年5月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1-12に係る発明は引用文献1-2に記載された発明に基づいて、請求項13-14に係る発明は、引用文献1-3に記載された発明に基づいて、請求項15に係る発明は、引用文献1-4に記載された発明に基づいて、請求項16に係る発明は、引用文献1-5に記載された発明に基づいて、請求項17-18に係る発明は、引用文献1-6に記載された発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2006-113061号公報 2.特開2012-026932号公報 3.特開2013-037011号公報 4.特表2015-529793号公報 5.特開2011-163966号公報 6.特開2010-127630号公報 第3 本願発明 本願請求項1-18に係る発明(以下「本願発明1」-「本願発明18」という。)は、令和2年9月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-18に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1、13は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 低エネルギー放射線量子であるX線及び高エネルギー放射線量子であるガンマ線の同時検出のための放射線検出器であって、前記放射線検出器は多層構造を有し、 前記多層構造が、 高エネルギー放射線量子が後方シンチレータ層によって吸収されることに応じてシンチレーションフォトンのバーストを放出する後方シンチレータ層と、 後方シンチレータ層の後側に取り付けられた後方フォトセンサ層であって、前記後方シンチレータ層において生成されるシンチレーションフォトンを検出する後方フォトセンサ層と、 前記後方フォトセンサ層と反対側の、前記後方シンチレータ層の前方に光学反射体をはさんで配された前方シンチレータ層であって、前記低エネルギー放射線量子が前記前方シンチレータ層によって吸収されることに応じてシンチレーションフォトンのバーストを放出する前方シンチレータ層と、 前記後方シンチレータ層と反対側の、前記前方シンチレータ層の前側に取り付けられた前方フォトセンサ層であって、前記前方シンチレータ層において生成されるシンチレーションフォトンを検出する前方フォトセンサ層と、 を有し、前記高エネルギー放射線量子がガンマ線であり、前記低エネルギー放射線量子がX線であり、 前記高エネルギー放射線量子は、前記後方シンチレータ層によって吸収される前に、前記前方フォトセンサ層及び前記前方シンチレータ層を通過し、 前記後方フォトセンサ層は、2次元の各次元において後方フォトセンサ層ピクセルピッチを有するピクセルの2次元アレイを有し、前記前方フォトセンサ層は、前記2次元の各次元において前方フォトセンサ層ピクセルピッチを有するピクセルの2次元アレイを有し、前記後方フォトセンサ層ピクセルピッチが、前記前方フォトセンサ層ピクセルピッチに等しくない、放射線検出器。」 「 【請求項13】 低エネルギーのX線放射線及び高エネルギーのガンマ放射線の同時検出のための放射線検出器であって、前記放射線検出器は多層構造を有し、 前記多層構造が、 X線放射線量子が前方シンチレータ層によって吸収されることに応じてシンチレーションフォトンのバーストを放出する前方シンチレータ層と、 前記前方シンチレータ層の前側に取り付けられた前方フォトセンサ層であって、前記前方シンチレータ層において生成されるシンチレーションフォトンを検出する前方フォトセンサ層と、 前記前方シンチレータ層の後方に配され、ガンマ放射線量子が後方シンチレータ層によって吸収されることに応じてシンチレーションフォトンのバーストを放出する後方シンチレータ層と、 前記前方シンチレータ層と反対側の、前記後方シンチレータ層の後側に取り付けられた後方フォトセンサ層であって、前記後方シンチレータ層において生成されるシンチレーションフォトンを検出する後方フォトセンサ層と、 前記前方シンチレータ層と前記後方シンチレータ層との間に配される光学デカップリング層であって、前記後方シンチレータ層又は前記前方シンチレータ層と一体的に形成されている光学反射体層である、光学デカップリング層と、を有する、放射線検出器。」 なお、本願発明2-12は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明14-18は、本願発明13を減縮した発明である。 第4 引用文献、引用発明 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。 「【請求項1】 検出器の内部において透過X線および放出γ線を測定するための透過断層撮影-放出断層撮影複合装置におけるモジュール式検出装置であって、吸収事象を検出するために放射方向に重ね合わされて配置された少なくとも3つの異なる厚みの吸収層(Ax)を有する検出装置において、 少なくとも3つの全ての吸収層(Ax)が単一の材料からなり、各吸収層(Ax)は、検出された吸収事象の位置(x)、時間(t)およびエネルギー(E)の測定値を共通な評価ユニットに伝達することができる測定チップ(Cx)に接続され、この評価ユニットは、吸収事象の伝達された測定値からコンピュータ断層撮影(CT)信号、単光子放出断層撮影(SPECT)信号および陽電子放出断層撮影(PET)信号への分配を行なうことができ、吸収層は多数の検出要素に区分されている ことを特徴とする透過断層撮影-放出断層撮影複合装置におけるモジュール式検出装置。」 「【請求項6】 上側の吸収層(A1)は、150keVよりも小さい、CT検査に使用された低エネルギーのX線を少なくとも大部分検出する層厚を有することを特徴とする請求項1乃至5の1つに記載の検出装置。 【請求項7】 中間の吸収層(A2)は、CT検査および/または核医学検査に使用された100keV?300keVの範囲のX線またはγ線を少なくとも大部分検出する層厚を有することを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載の検出装置。 【請求項8】 少なくとも1つの下側の吸収層(A3)は1cm以上の層厚を有し、500keV以上のγ線を少なくとも大部分検出することを特徴とする請求項1乃至7の1つに記載の検出装置。」 「【0018】 各検出器モジュールは多数の検出要素を有し、これらの検出要素は、公知のマトリックス状に配置された検出器にまとめられて、断層撮影装置の検出器行および検出器列を形成する。」 「【0023】 図1は本発明による検出装置を備えた検出器モジュールの概略図を示す。検出装置は放射方向に厚くなっている3つの吸収層A1,A2,A3からなり、半導体吸収層の下部にはそれぞれ、検出された吸収事象を測定するためのCMOSチップが配置されている。この代替として検出装置はシンチレータ材料からなっていてもよく、その場合に測定チップは光センサチップとして構成されている。測定チップC1?C3およびこれらに付属する吸収層A1?A3は、それらの面に亘ってマトリックス状に個々の検出要素に区分されているので、測定チップC1?C3はデータ線D1?D3を介してそれぞれ、吸収事象の位置を評価ユニット2に転送することができる。これに加えて、測定チップは計時手段を有するので、吸収事象に割り付けるべき時間が同様に評価ユニットに伝達され、更に、測定された吸収事象の信号高さを介して吸収されたエネルギーの検出が指示される。」 「【0026】 図2は同様に本発明による検出装置を備えた検出器モジュールを示す。この場合には図1に示した検出装置と違って測定チップC1?C3の位置の下側にそれぞれ1つの、例えばセラミックスである基板を有する層S1?S2が配置されている。更に、吸収層A1?A3は面内に異なるマトリックス状の区分を有する。この種の装置の場合には、図1に示した装置に比べると、測定チップがその下側にある基板によって機械的に安定であり、更に電気的にもすぐ次の吸収層に対して絶縁される点で有利である。 【0027】 本発明によれば、模範的に図1または図2に示した検出器モジュールをマトリックス状に組み立てて1つの完全な検出器を構成することができ、この場合に個々の検出器モジュールにおける多数の検出要素が検出器全体の行および列を形成する。」 図1の記載から、上側の吸収層(A1)の下側に、測定チップ(C1)を有し、中間の吸収層(A2)の下側に、測定チップ(C2)を有し、下側の吸収層(A3)の下側に、測定チップ(C3)を有していることが、見て取れる。 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「検出器の内部において透過X線および放出γ線を測定するための透過断層撮影-放出断層撮影複合装置におけるモジュール式検出装置であって、吸収事象を検出するために放射方向に重ね合わされて配置された少なくとも3つの異なる厚みの吸収層(Ax)を有する検出装置において、 検出装置はシンチレータ材料からなっていてもよく、その場合に測定チップは光センサチップとして構成され、 上側の吸収層(A1)は、150keVよりも小さい、CT検査に使用された低エネルギーのX線を少なくとも大部分検出する層厚を有し、上側の吸収層(A1)の下側に、測定チップ(C1)を有し、 中間の吸収層(A2)は、CT検査および/または核医学検査に使用された100keV?300keVの範囲のX線またはγ線を少なくとも大部分検出する層厚を有し、中間の吸収層(A2)の下側に、測定チップ(C2)を有し、 少なくとも1つの下側の吸収層(A3)は1cm以上の層厚を有し、500keV以上のγ線を少なくとも大部分検出し、下側の吸収層(A3)の下側に、測定チップ(C3)を有し、 吸収層A1?A3は、それらの面に亘ってマトリックス状に個々の検出要素に区分され、 これらの検出要素は、公知のマトリックス状に配置された検出器にまとめられて、断層撮影装置の検出器行および検出器列を形成する 透過断層撮影-放出断層撮影複合装置におけるモジュール式検出装置。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0086】 また、上述のような第1光電変換層30が、第1蛍光材料26を含んだシンチレータ層24よりも放射線Xの照射側に隣接して配置されているので、放射線Xは、シンチレータ層24の中では、まず第1光電変換層30側のシンチレータ部分(例えば図8中の部分24A)に照射されることになる。したがって、第1光電変換層30側のシンチレータ部分24Aが主に放射線Xを吸収して発光することになる。そして、シンチレータ層24の中で主に放射線Xを吸収して発光するシンチレータ部分24Aが第1光電変換層30側であると、当該シンチレータ部分24Aと第1光電変換層30との距離が、第1光電変換層30とシンチレータ層24とが逆の配置に比べ、シンチレータ層24の厚み分だけ短くなる。」 「【0095】 -放射線検出器の構成- 図10は、本発明の第3実施形態に係る放射線検出器400の断面構成を示した断面図である。 同図に示すように、本発明の第3実施形態に係る放射線検出器400の構成は、第1実施形態で説明した図3に示す構成と同様の構成を備えているが、第1実施形態と異なりシンチレータ層の第1蛍光材料と第2蛍光材料とが混合されず別層とされている。 【0096】 具体的に、本発明の第3実施形態に係る放射線検出器400では、第1蛍光材料26で構成された一方のシンチレータ層402と、第2蛍光材料28で構成された他方のシンチレータ層404と、を備えている。そして、放射線Xの照射面300とされたTFT基板32から順に、第1光電変換層30、一方のシンチレータ層402、他方のシンチレータ層404、第2光電変換層34、TFT基板36が積層されている、 【0097】 -作用- 以上、本発明の第3実施形態に係る放射線検出器400の構成によれば、放射線Xが当たると一方のシンチレータ層402は第1波長の光26Aを発光し、他方のシンチレータ層404は第2波長の光28Aを発光する。 そして、第1光電変換層30は、第2光電変換層34側にある第2波長の光28Aを発光する他方のシンチレータ層404よりも第1光電変換層30側にある第1波長の光26Aを発光する一方のシンチレータ層402との距離が短い分だけ、第2波長の光28Aよりも第1波長の光26Aを多く受光し、ノイズの少ない低圧画像を得ることができる。 また、第2光電変換層34は、第1光電変換層30側にある第1波長の光26Aを発光する一方のシンチレータ層402よりも第2光電変換層34側にある第2波長の光28Aを発光する他方のシンチレータ層404との距離が短い分だけ、第1波長の光26Aよりも第2波長の光28Aを多く受光し、ノイズの少ない高圧画像を得ることができる。」 図10は、以下のとおりである。 したがって、上記引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる(以下「引用文献2の技術的事項」という。)。 「第1蛍光材料26で構成された一方のシンチレータ層402と、第2蛍光材料28で構成された他方のシンチレータ層404と、を備え、 放射線Xの照射面300とされたTFT基板32から順に、第1光電変換層30、一方のシンチレータ層402、他方のシンチレータ層404、第2光電変換層34、TFT基板36が積層され、 放射線Xが当たると一方のシンチレータ層402は第1波長の光26Aを発光し、他方のシンチレータ層404は第2波長の光28Aを発光する放射線検出器400。」 3 引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0046】 例えば、図6に示す本発明の変形例であるシンチレータプレート101のように、仕切板102の両面又は片面に、シンチレータ3,4によって発生するシンチレーション光を反射する反射面102a,102bが形成されてもよい。このような反射面102a,102bは、仕切板102の両面又は片面に、アルミニウムを蒸着したり、アルミニウムの薄膜を貼り合わせたり、放射線を透過する金属粒子を厚さ0.1μm以下でコーティングしたり、白色塗料を塗布したりすることによって形成される。また、仕切板102自体をアルミニウム板等の金属板で構成し、その両面又は片面を鏡面研磨することで反射面102a,102bを形成してもよい。さらに、シンチレータ3,4の表面に反射面102a,102bを形成した後に仕切板102にシンチレータ3,4を接合することによって、仕切板102の両面又は片面に反射面102a,102bを配置させてもよい。このような構成により、シンチレータ3,4のうち一方において発生したシンチレーション光が、他方のシンチレータ3,4へ入射することを確実に防止することができるとともに、放射線画像取得装置11,31によるシンチレーション光の効率的な検出が可能にされる。これにより、放射線画像のエネルギー分別性を高めつつ高コントラストの放射線画像を取得することができる。」 図6の記載から、反射面102aの面に接するシンチレータ3及び反射面102bの面に接するシンチレータ4が、見て取れる。 したがって、上記引用文献3には次の技術的事項が記載されていると認められる(以下「引用文献3の技術的事項」という。)。 「仕切板102の両面又は片面に、シンチレータ3,4によって発生するシンチレーション光を反射する反射面102a,102bが形成され、反射面102aの面に接するシンチレータ3及び反射面102bの面に接するシンチレータ4を備えたシンチレータプレート101。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明の「検出器の内部において透過X線および放出γ線を測定するための透過断層撮影-放出断層撮影複合装置におけるモジュール式検出装置」は、本願発明1の「低エネルギー放射線量子であるX線及び高エネルギー放射線量子であるガンマ線の同時検出のための放射線検出器」に、 引用発明の「『検出装置』は、『吸収事象を検出するために放射方向に重ね合わされて配置された少なくとも3つの異なる厚みの吸収層(Ax)を有』し、『上側の吸収層(A1)の下側に、測定チップ(C1)を有し、』『中間の吸収層(A2)の下側に、測定チップ(C2)を有し、』『下側の吸収層(A3)の下側に、測定チップ(C3)を有し』」は、本願発明1の「放射線検出器は多層構造を有し」に、 引用発明の「『1cm以上の層厚を有し、500keV以上のγ線を少なくとも大部分検出し、』『シンチレータ材料からなってい』る『少なくとも1つの下側の吸収層(A3)』」は、本願発明1の「高エネルギー放射線量子が後方シンチレータ層によって吸収されることに応じてシンチレーションフォトンのバーストを放出する後方シンチレータ層」に、 引用発明の「『光センサチップとして構成され、』『下側の吸収層(A3)の下側』の『測定チップ(C3)』」は、本願発明1の「後方シンチレータ層の後側に取り付けられた後方フォトセンサ層であって、前記後方シンチレータ層において生成されるシンチレーションフォトンを検出する後方フォトセンサ層」に、 引用発明の「放出γ線」は、本願発明1の「高エネルギー放射線量子がガンマ線」に、 引用発明の「透過X線」は、本願発明1の「低エネルギー放射線量子がX線」に、 それぞれ相当する。 イ 引用発明は「上側の吸収層(A1)」は下側の吸収層(A3)よりも上方であることは明らかであり、また、「少なくとも1つの下側の吸収層(A3)は1cm以上の層厚を有し、500keV以上のγ線を少なくとも大部分検出し、下側の吸収層(A3)の下側に、測定チップ(C3)を有している」と特定されていることから、測定チップ(C3)の反対側の、下側の吸収層(A3)の上方に上側の吸収層(A1)が配置されている。 そうすると、引用発明の「『150keVよりも小さい、CT検査に使用された低エネルギーのX線を少なくとも大部分検出する層厚を有し、』『シンチレータ材料からなってい』る『上側の吸収層(A1)』」は、本願発明1の「前記後方フォトセンサ層と反対側の、前記後方シンチレータ層の前方に光学反射体をはさんで配された前方シンチレータ層であって、前記低エネルギー放射線量子が前記前方シンチレータ層によって吸収されることに応じてシンチレーションフォトンのバーストを放出する前方シンチレータ層」と、「前記後方フォトセンサ層と反対側の、前記後方シンチレータ層の前方に配された前方シンチレータ層であって、前記低エネルギー放射線量子が前記前方シンチレータ層によって吸収されることに応じてシンチレーションフォトンのバーストを放出する前方シンチレータ層」の点で一致する。 ウ 引用発明の「『光センサチップとして構成され、』『上側の吸収層(A1)の下側』の『測定チップ(C1)』」は、本願発明1の「前記後方シンチレータ層と反対側の、前記前方シンチレータ層の前側に取り付けられた前方フォトセンサ層であって、前記前方シンチレータ層において生成されるシンチレーションフォトンを検出する前方フォトセンサ層」と、「前方フォトセンサ層であって、前記前方シンチレータ層において生成されるシンチレーションフォトンを検出する前方フォトセンサ層」の点で一致する。 エ 引用発明は、下側の吸収層(A3)の上側に、上側の吸収層(A1)及び当該上側の吸収層(A1)の下側の測定チップ(C1)を有し、「少なくとも1つの下側の吸収層(A3)は・・・(中略)・・・、500keV以上のγ線を少なくとも大部分検出し」ていることから、引用発明は、本願発明1の「前記高エネルギー放射線量子は、前記後方シンチレータ層によって吸収される前に、前記前方フォトセンサ層及び前記前方シンチレータ層を通過し」との構成を有している。 オ 引用発明の「『個々の検出要素は、』『公知のマトリックス状に配置された検出器にまとめられて、断層撮影装置の検出器行および検出器列を形成する』」は、本願発明1の「前記後方フォトセンサ層は、2次元の各次元において後方フォトセンサ層ピクセルピッチを有するピクセルの2次元アレイを有し、前記前方フォトセンサ層は、前記2次元の各次元において前方フォトセンサ層ピクセルピッチを有するピクセルの2次元アレイを有し」に相当する。 カ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「低エネルギー放射線量子であるX線及び高エネルギー放射線量子であるガンマ線の同時検出のための放射線検出器であって、前記放射線検出器は多層構造を有し、 前記多層構造が、 高エネルギー放射線量子が後方シンチレータ層によって吸収されることに応じてシンチレーションフォトンのバーストを放出する後方シンチレータ層と、 後方シンチレータ層の後側に取り付けられた後方フォトセンサ層であって、前記後方シンチレータ層において生成されるシンチレーションフォトンを検出する後方フォトセンサ層と、 前記後方フォトセンサ層と反対側の、前記後方シンチレータ層の前方に配された前方シンチレータ層であって、前記低エネルギー放射線量子が前記前方シンチレータ層によって吸収されることに応じてシンチレーションフォトンのバーストを放出する前方シンチレータ層と、 前方フォトセンサ層であって、前記前方シンチレータ層において生成されるシンチレーションフォトンを検出する前方フォトセンサ層と、 を有し、前記高エネルギー放射線量子がガンマ線であり、前記低エネルギー放射線量子がX線であり、 前記高エネルギー放射線量子は、前記後方シンチレータ層によって吸収される前に、前記前方フォトセンサ層及び前記前方シンチレータ層を通過し、 前記後方フォトセンサ層は、2次元の各次元において後方フォトセンサ層ピクセルピッチを有するピクセルの2次元アレイを有し、前記前方フォトセンサ層は、前記2次元の各次元において前方フォトセンサ層ピクセルピッチを有するピクセルの2次元アレイを有する放射線検出器。」 (相違点1) 本願発明1は、後方シンチレータ層の前方に光学反射体をはさんで配された前方シンチレータ層であるのに対し、引用発明は、少なくとも1つの下側の吸収層(A3)の上側に上側の吸収層(A1)があるものの、光学反射体をはさんでいない点。 (相違点2) 前方フォトセンサ層が、本願発明1は、前記後方シンチレータ層と反対側の、前記前方シンチレータ層の前側に取り付けられたものであるのに対し、引用発明は、上側の吸収層(A1)の下側に、測定チップ(C1)を有している点。 (相違点3) 本願発明1は、前記後方フォトセンサ層ピクセルピッチが、前記前方フォトセンサ層ピクセルピッチに等しくないのに対し、引用発明は、そのようなものか明らかでない点。 (2)相違点についての判断 相違点1について ア 引用文献3には、「仕切板102の両面に、シンチレータ3,4によって発生するシンチレーション光を反射する反射面102a,102bが形成され、反射面102aの面に接するシンチレータ3及び反射面102bの面に接するシンチレータ4を備えたシンチレータプレート101。」の技術的事項が記載されている。 イ しかしながら、引用発明は、「上側の吸収層(A1)の下側に、測定チップ(C1)を有し、」「中間の吸収層(A2)の下側に、測定チップ(C2)を有し、」「下側の吸収層(A3)の下側に、測定チップ(C3)を有している」と特定されており、上側の吸収層(A1)と中間の吸収層(A2)の間には測定チップ(C1)があり、中間の吸収層(A2)と下側の吸収層(A3)の間には測定チップ(C2)があることから、上側の吸収層(A1)と中間の吸収層(A2)、又は中間の吸収層(A2)と下側の吸収層(A3)間には測定チップが存在しており、両層は直接接してはいない。 そうすると、上記引用文献3の技術的事項は、シンチレータ3及びシンチレータ4の間にある反射面102a,102bが両面に形成された仕切板102の配置としたものなので、そもそも前提となる構成が異なるから、引用発明において、引用文献3の技術的事項を採用する動機付けはないというべきである。 また、仮に、引用発明に引用文献3の反射面102a,102bが両面に形成された仕切板102を適用したとしても、上側の吸収層(A1)の下側に、測定チップ(C1)を有し、その測定チップ(C1)の下側に、反射面102a,102bが両面に形成された仕切板102を配置し、当該仕切板102の下側に、中間の吸収層(A2)を有するような構成となることから、そもそも充分検出器として機能するのか明らかでなく、仮に検出器として機能したとしても、相違点1に係る本願発明1の構成には到達しない。 ウ さらに、引用発明に引用文献3の技術的事項を適用し、相違点1に係る本願発明1の構成に到達させようとする場合には、相違点2に係る本願発明1の構成が必要になることから、相違点1、2について併せて検討すると、まず、引用発明に引用文献2の技術的事項を適用し、上側の吸収層(A1)の上側に、測定チップ(C1)を有すようにし、その後、引用文献3の技術的事項を適用して、上側の吸収層(A1)と中間の吸収層(A2)の間に反射面102a,102bが両面に形成された仕切板102としなければならないが、引用発明において、引用文献2、3の技術的事項を相違点1、2に係る本願発明1の構成のように取捨選択して採用する理由はなく、引用発明において引用文献2、3の技術的事項を併せて適用する動機付けはない。 エ さらに、相違点1に係る本願発明1の後方シンチレータ層の前方に光学反射体をはさんで配された前方シンチレータ層の構成は、上記引用文献4-6には、記載されていない。 オ したがって、上記相違点2及び3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2-6の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 本願発明2-12について 本願発明2-12は、本願発明1を減縮する発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-6の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 3 本願発明13について 本願発明13は、本願発明1の後方シンチレータ層の前方に光学反射体をはさんで配された前方シンチレータ層と同様な構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-6の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 4 本願発明14-18について 本願発明14-18は、本願発明13を減縮する発明であるから、本願発明13と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-6の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 原査定について 上記第5で検討したように、請求項1-18に係る発明は、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明、引用文献2-6の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-04-19 |
出願番号 | 特願2018-519822(P2018-519822) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01T)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 祐樹 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 野村 伸雄 |
発明の名称 | 低エネルギー放射線量子及び高エネルギー放射線量子の組み合わされた検出のための放射線検出器 |
代理人 | 五十嵐 貴裕 |
代理人 | 笛田 秀仙 |