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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1373352
審判番号 不服2019-12380  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-18 
確定日 2021-04-19 
事件の表示 特願2014-256540「複合容器およびその製造方法、複合プリフォーム、ならびにプラスチック製部材」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日出願公開、特開2016-117166〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月18日の出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月 7日付け:拒絶理由通知
同年11月 9日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月29日付け:拒絶理由通知
平成31年 1月30日 :意見書の提出
令和 1年 6月19日付け:拒絶査定
同年 9月18日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 1月20日 :上申書の提出

第2 令和1年9月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年9月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 令和1年9月18日付けの手続補正の内容
令和1年9月18日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正により補正される前の(すなわち、平成30年11月9日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1の記載である、
「【請求項1】
複合容器において、
口部と、首部と、肩部と、胴部と、底部とを有する、プラスチック材料製の容器本体と、
前記容器本体の外側に接着することなく密着して設けられたプラスチック製部材とを備え、
前記プラスチック部材が、多層からなる収縮チューブであり、
前記プラスチック製部材が、前記容器本体の胴部と、底部の少なくとも一部とを覆うように設けられていることを特徴とする複合容器。」を、
「【請求項1】
複合容器において、
口部と、首部と、肩部と、胴部と、底部とを有する、プラスチック材料製の容器本体と、
前記容器本体の外側に接着することなく密着して設けられたプラスチック製部材とを備え、
前記プラスチック部材が、多層からなる収縮チューブであり、
前記プラスチック製部材が、前記容器本体の口部以外の全域の外側に剥離除去可能に設けられており、容器本体がリサイクル可能となっていることを特徴とする複合容器。」
と補正する事項を含むものである(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)。

2 本件補正の目的
請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明の「プラスチック製部材」及び「容器本体」について、それぞれ、「前記容器本体の口部以外の全域の外側に剥離除去可能に設けられて」いると更に限定するものであること及び「容器本体がリサイクル可能となっている」ことを限定するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものである。

3 独立特許要件違反の有無について
請求項1についての本件補正が限定的減縮を目的とするものであるといえるとしたときには、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するものであるか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)についての検討がなされるべきところ、以下述べるように、本件補正は当該要件に違反するといえる。
すなわち、本件補正発明は、本願の出願日前に頒布された刊行物である下記引用文献6に記載された発明、引用文献7に記載の事項及び周知技術1及び2に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・引用文献6 特開昭61-206623号公報(原査定の理由で引用された「引用文献6」)
・引用文献7 特開昭59-5035号公報(原査定の理由で引用された「引用文献7」)
・引用文献9 特開2001-236019号公報(周知技術を示す文献)
・引用文献10 特開2004-352325号公報(周知技術を示す文献)
・引用文献2 特表2004-532147号公報(周知技術を示す文献、審査段階での最初に通知された拒絶理由で提示された「引用文献2」)

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1の本件補正後の【請求項1】に記載したとおりのものである。

(2)引用文献等に記載された事項等
ア 引用文献6に記載された事項
引用文献6には、「多層容器の製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
(ア) 「2.特許請求の範囲
(1)熱可塑性樹脂製パリソンの表面に熱収縮フィルムを被覆させたのち二軸延伸ブロー成形する多層容器の製造方法において、熱収縮フィルムが環状インフレーションフィルムであることを特徴とする多層容器の製造方法。」(第1ページ左下欄第4?9行)

(イ) 「〔問題を解決するための手段〕
本発明は熱可塑性樹脂製パリソンの表面に熱収縮フィルムを被覆して成る多層パリソンを用いて二軸延伸ブロー成形する多層容器の製造方法において熱収縮フィルムがインフレーションフィルムである事を特徴とする多層容器の製造方法である。
即ち、本発明における多層化の手段は、熱可塑性樹脂製パリソン表面に、あらかじめインフレーション法で直接作られた環状熱収縮フィルムをかぶせ、熱によって収縮させてパリソンに密着させるものである。この多層化されたパリソンを用いて二軸延伸ブロー成形することにより多層容器を得るので、パリソン本体と被覆フィルムとがブローエアーによって賦形される際に金型に押しつけられ、強い密着性が付与される。被覆フィルムも二軸延伸される為に性能が向上し、ガスバリヤ-性フィルムを用いる場合には更にガスバリヤ-性が向上し、肉厚の薄いフィルムでもガスバリヤ-性の優れた容器となるのである。」(第2ページ右上欄最下行?左下欄第18行)

(ウ) 「熱収縮フィルムは、インフレーション法によって製造されたものが使用される。インフレーション法による熱収縮フィルムの製造法は公知の方法によって製造され、例えば通常の製膜温度より低目の温度で熱可塑性樹脂を押出し、横方向に1.1?4倍にブローする方法等によって得られる。
又、パリソン本体と熱収縮フィルムとの接着性を良くする為に必要に応じてパリソンの表面に接着剤を塗布するかコロナ放電処理又はフレーム処理をしたものが使用される。接着剤としては、例えば二液型ポリウレタン系接着剤、シリコン系接着剤が使用できる。」(第3ページ左上欄第8行?第19行)

(エ) 「本発明において熱可塑性樹脂製パリソンの表面に熱収縮フィルムの被覆を行なうには、例えば次の方法によって行なわれる。
射出延伸ブロー成形のうち、いわゆるホットパリソン方式の成形方法では、射出成形→予備加熱→二軸延伸ブローが連続工程で行なわれるが、円筒状の熱収縮フィルムは射出成形されたホットパリソンに装着され、パリソンの保持する熱によって熱収縮して、パリソン表面を被覆する。この多層パリソンは引続き次の工程へ進んで予備加熱後、二軸延伸ブローされ多層容器が得られる。熱収縮フィルムのパリソンへの被覆は、二軸延伸ブローする前であれば他の工程で行なっても良い。」(第3ページ左上欄最下行?右上欄第12行)

(オ) 「このようにしてパリソンは上記いずれの場合も、パリソン全表面のうち口部直下から胴部周囲全面および底部の一部にかかる範囲で熱収縮フィルムで被覆される。
この多層パリソンを二軸延伸ブロー成形して得られる多層容器は、口部および底部の一部分は被覆フィルムで覆われない単層となる。」(第3ページ左下欄第4?10行)

イ 引用文献6に記載された発明
特に上記ア(ア)及び(イ)の記載から、引用文献6には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「熱可塑性樹脂製パリソンの表面に熱収縮フィルムを被覆して成る多層パリソンを用いて二軸延伸ブロー成形した多層容器であって、熱収縮フィルムがインフレーションフィルムである、多層容器。」

ウ 引用文献7に記載された事項
引用文献7には、次の記載がある。
(ア) 「2.特許請求の範囲
合成樹脂の中空体の表面を、熱可塑性樹脂のフイルムをもつて形成した外層体で覆い、その両方を金型内にて加熱して外層体を溶融あるいは軟化するとともに、中空体にエアを吹込み、外層体と中空体表面とを一体的に密着させて複層化することを特徴とする複層中空成形体の製造方法。」(第1ページ左下欄第4?10行)

(イ) 「また、上記外層体は、中空体全部を覆う状態に成形されていることに限定されず、・・・
更にまた外層体は複数の異なった樹脂のフイルムを積層して多層化したものであつてもよい。このフイルムの多層化に用いられる樹脂は、中空成形体の複層化の目的によっていかようにも変え得るが、中空体との接着性を高めるためには、その多層フイルムの最内層は中空体と同一樹脂によるフイルムとするか、または接着性のよい樹脂フイルムとすることが望ましい。」(第2ページ左上欄第18行?同右上欄第14行)

(ウ) 「以下にこの発明の実施例を示す。
実施例1
メルトインデツクス0.3g/10min、密度0.945g/cm^(3)の高密度ポリエチレンを用いて中空成形を行い、300ccの丸瓶を得た。
別に外層が30μ厚の6-ナイロン層、中間層が20μ厚の接着層、内層が30μ厚の低密度ポリエチレン層である多層インフレーシヨンフィルムを準備した。
このフイルムを口部や底部のバリを除去した上記丸瓶に被せ、丸瓶成形時に使用した金型に収容して、ブローピンを瓶口部に差込み、5Kg/cm^(2)の空気圧をかけた。そして加熱油をもつて金型温度を130℃まで昇温させ、約2分間の加熱の後、冷却に移行し、約50℃の温度の複層容器を取出した。
上記のようにして成形した製品は、外層フイルムのピンチオフ部を切断した線は残るものの、その他には皺の発生はなく、密着も極めて良好であった。」(第2ページ右下欄第最下行?第3ページ左上欄第18行)

エ 引用文献9に記載された事項
引用文献9には、次の記載がある。
(ア) 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、容器に装着する際、高収縮を必要とする部位を被覆する場合であっても良好な外観が得られる熱収縮性断熱ラベルと、このようなラベルが装着された断熱ラベル付き容器を提供することにある。また、本発明の他の目的は、容器の側面から底面周縁部にかけて熱収縮性断熱ラベルが装着された断熱ラベル付き容器において、容器の底面周縁部においても良好な外観を呈している断熱ラベル付き容器を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、熱収縮時において熱収縮性フィルム層と発泡樹脂層とを剥離可能に形成すると、容器に装着した場合、高収縮部においても外観が損なわれず、見栄えの良好なラベル付き容器の得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】すなわち、本発明は、少なくとも片面に印刷層が設けられた熱収縮性フィルム層と発泡樹脂層とが積層された熱収縮性断熱ラベルであって、このラベルを一方向に40%以上熱収縮させた際に前記熱収縮性フィルム層と発泡樹脂層とが剥離可能に形成されている熱収縮性断熱ラベルを提供する。前記熱収縮性フィルム層と発泡樹脂層とは、例えば、熱収縮させた際の熱によって軟化するポリエチレン系接着剤層を介して積層されていてもよい。」

(イ) 「【0037】実施例1
片面に印刷を施した延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ30μm)の印刷面に、接着剤組成物として、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量30重量%)を酢酸エチルエステルを主体とした有機溶剤に溶解した溶液をグラビア印刷法によってコーティングして接着剤層(厚さ6μm)を形成し、熱収縮性積層フィルムを作製した。一方、厚さ500μmの発泡ポリエチレン(発泡倍率:35倍)の片面に厚さ10μmの高密度ポリエチレンフィルムを押出成形法により積層し、他面にコロナ放電処理を施して発泡樹脂フィルムを得た。そして、前記熱収縮性積層フィルムと発泡樹脂フィルムとをヒートラミネートし、熱収縮性断熱ラベルを得た。得られた熱収縮性断熱ラベルを所定の幅にスリットして複数個のロール状物とした後、各ロール状物を巻き戻し、発泡樹脂フィルム層側を内側にし、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの幅方向(TD方向)が周方向となるように筒状に丸めて両端部をヒートシールにより接着し、長尺筒状の熱収縮性断熱ラベル連続体を得た。この熱収縮性断熱ラベル連続体を自動ラベル装着装置に供給し、各ラベルに切断した後、図2に示すどんぶり状のポリプロピレン製縦型カップ麺容器(内容積約400ml)に外嵌し、熱風式加熱トンネル(温度80?150℃)を通過させて熱収縮させることにより、ラベルを容器に装着した。この時のラベルの容器底面周縁部における熱収縮率は約60%であった。得られたラベル付き容器のラベルの装着状態を観察したところ、ラベルは全体として緊密に容器に密着しており、良好な外観を呈していた。なお、容器底面周縁部では、ラベルのうち熱収縮性積層フィルム層と発泡樹脂フィルム層とは部分的に非接着の状態にあった。すなわち、外側の熱収縮性積層フィルム層は緊張したフィルム状態を維持しているのに対し、発泡樹脂フィルム層は、熱収縮性積層フィルム層の容器周方向の高収縮に追従できず波状に変形しており、その波の底部でのみ熱収縮性積層フィルム層と接着していた。しかし、容器底面の直径方向については、発泡樹脂フィルム層の方が熱収縮性積層フィルム層よりも熱収縮の度合いが大きいため、前記発泡樹脂層の波状部は熱収縮性積層フィルム層に隠れて外側からはほとんど見えず、外観を損なうことはなかった。」

(ウ) 「



オ 引用文献10に記載された事項
引用文献10には、次の記載がある。
(ア) 「【0002】
【従来の技術】
従来、飲料や食品などの容器として所謂ペットボトルなどの合成樹脂成形容器やガラス容器などが広く用いられている。また、緑茶やヨーグルトなどのように光によって変質や変色が起こりやすい内容物を充填する場合には、遮光性を付与するために着色容器が用いられてきたが、近年、容器リサイクル強化の観点から、透明な容器が使用されている。
【0003】
そこで、透明容器のような光透過性容器の胴部に、例えば、白色系フィルムからなる筒状ラベルを装着した遮光容器が知られている。しかしながら、容器の胴部に遮光性の筒状ラベルを装着だけでは、容器の底面を通じて紫外線などが透過するため、十分に遮光性を備えた容器とならない。このような点に鑑み、特開2002-68202号には、容器の胴部に紫外線遮断フィルムからなる熱収縮性ラベルを装着すると共に、容器の底面に紫外線遮断インキ層を施した紫外線遮断性ボトルが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002-68202号公報(第2頁の[請求項1]及び図1等)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、かかる公報記載の手段では、容器のリサイクル時に、筒状ラベルの除去に加えて、紫外線遮断インキを剥離しなければならず、簡単に容器をリサイクルすることができないという問題点がある。」

カ 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、次の記載がある。
(ア) 「【0036】
ラベルは種々のポリマーから作ることができるので、現位置輪郭フィットラベルの使用はまた、他の機能的可能性を追加する。例えばラベルは容器の透過性の低下を促進するためにEVOH又はメタジレンジアミン(「MXD6」)のような高バリヤーポリマーから作ることができる(単層又は共押出により多層として)。ボトルとラベルとの密着度もまた、樹脂の選択によって左右され得る。PETボトルにPETラベルを用いた試験はかなりの密着を生じたが、ポリプロピレンラベルはPETボトルには貼り付こうとしなかった。密着が必要か否かは通常、リサイクルのための剥離が課題であるか否かによって決まる。」

(3)対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明の対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
引用発明における「多層容器」、「熱収縮フィルム」は、それぞれ、本件補正発明における「複合容器」、「プラスチック製部材」に相当する。
そして、引用発明における「熱可塑性樹脂製パリソン」を「二軸延伸ブロー成形した」容器部分は、本件補正発明の「プラスチック材料製の容器本体」に相当し、当該容器部分が「口部と、首部と、肩部と、胴部と、底部を有する」ことも明らかである。
また、引用発明の「熱収縮フィルム」は、インフレーションフィルムであるので「収縮チューブ」といえることも明らかであり、本件補正発明と同様に、「容器本体の外側に設けられて」いる。

そうすると、本件補正発明と引用発明は、
「複合容器において、
口部と、首部と、肩部と、胴部と、底部とを有する、プラスチック材料製の容器本体と、
前記容器本体の外側に設けられたプラスチック製部材とを備え、
前記プラスチック部材が、収縮チューブであり、
前記プラスチック製部材が、前記容器本体の外側に設けられている、
複合容器。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
プラスチック製部材のそのものの構成に関し、本件補正発明は、「多層からなる」と特定するのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

<相違点2>
プラスチック材料製の容器本体とプラスチック製部材との取付関係に関し、本件補正発明は、「接着することなく密着して」と特定するとともに、「プラスチック製部材が」「容器本体」「に剥離除去可能に設けられており」と特定されており、さらに「容器本体がリサイクル可能となっている」とも特定されているのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

<相違点3>
プラスチック材料製の容器本体とプラスチック製部材の配置関係に関し、本件補正発明は、「口部以外の全域の」と特定するのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

イ 相違点についての判断
そこで、上記相違点について、以下に検討する。
(ア)相違点1について
容器本体の外側に設けられる熱可塑性樹脂のインフレーションフィルム(「収縮チューブ」に相当)として多層のものを用いることは引用文献7に記載されているから、引用発明における熱収縮フィルム(収縮チューブ)を多層チューブとし、相違点1に係る構成とすることは、引用文献7に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
引用発明は、熱可塑性樹脂製パリソンの表面に熱収縮フィルムを被覆して成る多層パリソンを用いて二軸延伸ブロー成形した多層容器であるから、通常、このような熱収縮フィルムと熱可塑性樹脂性パリソンがブローされた容器本体とは、接着することなく密着した状態となるといえる。そして、そのように接着することなく密着した熱収縮フィルムと熱可塑性樹脂性パリソンを二軸延伸ブロー成形した容器本体とは、熱収縮フィルム(プラスチック製部材)が熱可塑性樹脂性パリソンを二軸延伸ブロー成形した容器本体(容器本体)に剥離除去可能に設けられているといえるし、さらに、当該容器本体がリサイクル可能となっているともいえる。
そうすると、相違点2は、実質上の相違点ではない。
仮に、相違点2が実質上の相違点であったとしても、リサイクル性向上のために熱収縮フィルムを接着することなく密着した状態としておき、剥離することで容器本体をリサイクルすることは本件出願時の周知の技術(例えば、引用文献10の段落【0002】?【0005】、引用文献2の段落【0036】を参照のこと、以下、「周知技術1」という。)である。そうすると、引用発明において、リサイクル性の向上のために、引用発明の熱収縮フィルム(プラスチック製部材)を熱可塑性樹脂性パリソンがブローされた容器本体(容器本体)に対して接着することなく密着した状態として熱収縮フィルムが当該容器本体に剥離除去可能に設けて、当該容器本体がリサイクル可能となっているようにすること、すなわち、相違点2に係る構成とすることは、周知技術1から当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)相違点3について
複合容器の外側に設けられる熱収縮フィルムとして、口部以外の全域の外側に設けるものは周知の技術(引用文献7及び9を参照のこと、以下、「周知技術2」という。)である。そうすると、引用発明において、熱収縮フィルムを口部以外の全域の外側に設け、相違点3に係る構成とすることは、周知技術2から当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 審判請求人の主張について
請求人は、審判請求書において以下の主張をしている。
(ア) 「引用文献6において、「熱収縮フィルム」を「パリソン」に対して剥離除去可能かつ容器がリサイクル可能となるように設けることに関する記載はなく、むしろ、引用文献6において、「パリソン本体と熱収縮フィルムとの接着性を良くする為に必要に応じてパリソンの表面に接着剤を塗布するかコロナ放電処理又はフレーム処理をしたものが使用される。」旨、記載されているように(第3頁左上欄第14行-第16行参照)、パリソン本体と熱収縮フィルムとの接着性を良くすることが好ましいことが示唆されております。」(第6ページ第8?14行)

(イ) 「引用文献6において、「熱収縮フィルム」として「アクリロニトリル(正確にはポリアクリロニトリル)」を用いることが記載されており(特許請求の範囲参照)、ポリアクリロニトリルの密度は1.184g/cm^(3)なので、引用文献6の多層容器はリサイクルすることが実質的に不可能であります。
すなわち、容器の材料であるポリエチレンテレフタレートの密度は1.38g/cm^(3)であるため、「熱収縮フィルム」も「容器本体」も比重が1を超え、ポリアクリロニトリル製の「熱収縮フィルム」は「再生処理の比重・風選・洗浄で分離可能な材質」とならず、「自主設計ガイドライン」の基準を満たしません(添付資料参照)。」(第6ページ第15?23行)

(ウ) 「引用文献6において、「この多層パリソンを二軸延伸ブロー成形して得られる多層容器は、口部および底部の一部分は被覆フィルムで覆われない単層となる。」旨記載されており(第3頁左下欄第8行-第10行参照)、引用文献6の「被覆フィルム」は、容器の口部以外の全域を覆っていないことは明らかであります。」(第6ページ第24?28行)

以下、上記主張について検討する。
主張(ア)について
引用文献6の指摘箇所には確かに接着剤を用いることが記載されているが、その記載は、「必要に応じて・・・使用される」との記載であって、接着剤を用いることを必須とするものではない。また、引用文献6に「パリソン本体と熱収縮フィルムとの接着性を良くすることが好ましいこと」が記載され、引用文献6の出願時においてそのような容器を想定していたとはいえるにしても、本願出願時において、ペットボトル等に関する周知慣用技術を踏まえた当業者が引用文献6の記載内容に接した場合には、引用文献6に記載されているプリフォームをブローした容器部分と熱収縮フィルムとが強固に接着しているもののみに限定しては理解しないから、請求人の主張は失当であって採用できない。
主張(イ)について
引用発明の「熱収縮フィルム」と「熱可塑性樹脂製パリソン」の樹脂は特定されていないので、請求人の特定の樹脂組成に基づく主張は失当であって採用できない。また、仮に、熱収縮フィルムと熱可塑性樹脂製パリソンの樹脂が、それぞれ、ポリアクリロニトリルとPETであったとしても、熱収縮フィルムを剥離したPETの容器本体はリサイクル可能であるから、そのような引用発明も本件補正発明で特定する事項である「容器本体はリサイクル可能」といえ、請求人の主張は失当である。
主張(ウ)について
請求人が指摘する引用文献6の指摘箇所に記載の実施態様においては、確かに口部以外の全域を覆っていないものであるが、当該部分は、引用発明との相違点3として検討しており、その判断は上記のとおりである。

よって、請求人の上記主張は採用できない。

エ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献7に記載の事項及び周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)独立特許要件の検討のまとめ
上述のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の請求項1?16に係る発明は、平成30年11月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲のとおりであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1の本件補正前の【請求項1】に記載したとおりである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定は、概略、次のとおりの理由を含むものである。
理由1 この出願の請求項1-3、5-7、9-11、13-15に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・引用文献6 特開昭61-206623号公報
・引用文献7 特開昭59-5035号公報

3 引用文献6及び7の記載事項等
引用文献6及び7の記載事項並びに引用発明は、上記第2[理由]3(2)アないしウのとおりである。

4 対比・判断
上記第2[理由]2で検討したように、本件補正発明は、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に該限定を加えた本件補正発明が、上記第2[理由]3のとおり、引用発明、引用文献7に記載の事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、該限定に対して周知技術1及び2が適用されているものであるから、該限定のない本願発明は、引用発明及び引用文献7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結語
上記第3のとおり、本願発明、すなわち請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2021-02-12 
結審通知日 2021-02-16 
審決日 2021-03-05 
出願番号 特願2014-256540(P2014-256540)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 理絵  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 岩田 健一
大島 祥吾
発明の名称 複合容器およびその製造方法、複合プリフォーム、ならびにプラスチック製部材  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  
代理人 浅野 真理  
代理人 末盛 崇明  
代理人 永井 浩之  

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