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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M |
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管理番号 | 1373477 |
審判番号 | 不服2019-17640 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-26 |
確定日 | 2021-05-11 |
事件の表示 | 特願2015-122107「インバータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日出願公開、特開2017- 11794、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
結 論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 理 由 第1 手続きの経緯 本願は,平成27年6月17日の出願であって,平成30年12月7日付けで拒絶理由通知がされ,平成31年2月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年4月2日付けで拒絶理由通知がされ,令和1年6月7日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものの,同年9月20日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年12月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和1年9月20日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1?3,及び6に係る発明は,以下の引用文献1?2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2014-56951号公報 2.特開2013-187354号公報 第3 本願発明 本願請求項1?6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明6」という。)は,令和1年6月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された,次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 整流部(21)から供給される直流電圧をインバータ(25)で交流電圧に変換して誘導性負荷に印加するインバータ装置であって、 前記整流部(21)と前記インバータ(25)とを接続する直流リンク(801,802)に設けられるシャント抵抗(31)と、 前記シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)と、 前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる第2端子(42)と、 前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51)、及び前記シャント抵抗(31)と前記第2端子(42)とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)と、 を備え、 前記第1端子(41)から前記シャント抵抗(31)を臨む位置から視た前記第1導電パターン部(51)は、 前記シャント抵抗(31)の右側端及び左側端と前記第1端子(41)の右側端及び左側端とを繋いだ第1中央領域(510)と、 前記第1中央領域(510)よりも右側方にはみ出る第1右側膨出領域(511)と、 前記第1中央領域(510)よりも左側方にはみ出る第1左側膨出領域(512)と、 を含み、 前記第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異なり、 前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6?1.6の範囲内である、 インバータ装置(20)。 【請求項2】 前記シャント抵抗(31)から前記第2端子(42)を臨む位置から視た前記第2導電パターン部(52)は、 前記シャント抵抗(31)の右側端及び左側端と前記第2端子(42)の右側端及び左側端とを繋いだ第2中央領域(520)と、 前記第2中央領域(520)よりも右側方にはみ出る第2右側膨出領域(521)と、 前記第2中央領域(520)よりも左側方にはみ出る第2左側膨出領域(522)と、 を含み、 前記第2右側膨出領域(521)の面積(SB1)に対する前記第2左側膨出領域(522)の面積(SB2)の比率(SB2/SB1)が0.6?1.6の範囲内である、 請求項1に記載のインバータ装置(20)。 【請求項3】 前記第1導電パターン部(51)及び/又は前記第2導電パターン部(52)には、前記シャント抵抗(31)へ流れる電流及び/又は前記シャント抵抗(31)から流れる電流の方向を矯正する電流矯正手段(53)が設けられている、 請求項1又は請求項2に記載のインバータ装置(20)。 【請求項4】 前記第1導電パターン部(51)に、前記シャント抵抗(31)へ流れる電流の方向を矯正する電流矯正手段(53)が設けられており、 前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)と前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)とが異なり、且つ、 前記シャント抵抗(31)の右側端を基準とした前記第1右側膨出領域(511)の膨出距離(d1)と、前記シャント抵抗(31)の左側端を基準とした前記第1左側膨出領域(512)の膨出距離(d2)とが異なるとき、 前記電流矯正手段(53)は、前記第1右側膨出領域(511)及び前記第1左側膨出領域(512)のうち前記面積が大きく且つ前記膨出距離の大きい側に設けられる、 請求項1に記載のインバータ装置(20)。 【請求項5】 前記第2導電パターン部(52)に前記シャント抵抗(31)から流れる電流の方向を矯正する電流矯正手段(53)が設けられており、 前記第2右側膨出領域(521)の面積(SB1)と前記第2左側膨出領域(522)の面積(SB2)とが異なり、且つ、 前記シャント抵抗(31)の右側端を基準とした前記第2右側膨出領域(521)の膨出距離と、前記シャント抵抗(31)の左側端を基準とした前記第2左側膨出領域(522)の膨出距離とが異なるとき、 前記電流矯正手段(53)は、前記第2右側膨出領域(521)及び前記第2左側膨出領域(522)のうち前記面積が大きく且つ前記膨出距離の大きい側に設けられる、 請求項2に記載のインバータ装置(20)。 【請求項6】 前記シャント抵抗(31)は、並列に接続された複数の抵抗群(31a,31b)である、 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインバータ装置。」 第4 引用文献,引用発明等 1.引用文献1について (1) 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献1(特開2014-56951号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。) A「【0002】 従来、電流値を検出するシャント抵抗は、図11に示すように、シャント抵抗(12)の両端に電極(12a)、(12b)を有する抵抗体を備えている。このようなシャント抵抗(12)を基板上に面実装して電流値を検出する場合、図12に示すように、シャント抵抗(12)を面実装するパターン(50)、(51)は、シャント抵抗の両端の電極の幅に合わせたパターンが推奨される。このような推奨パターンでは、電流発生箇所(50a)から発生した電流はシャント抵抗(12)の電極(12a)、(12b)に対し垂直に流入し、シャント抵抗(12)を真横方向に通過して、電流流入箇所(51a)に流れ込む。シャント抵抗(12)には、このシャント抵抗(12)の両端に接続された検出パターン(12c)を介して電流検出回路(40)が接続されており、上記検出パターン(12c)を通じて検出したシャント抵抗(12)の両端の電圧値と抵抗体の抵抗値とに基づいて上記通過する電流の値を検出する。」 B「【0003】 しかし、例えばモータからコンデンサに流れる電流値をシャント抵抗(12)で検出する場合などでは、モータ駆動用パワーモジュールやコンデンサのような部品のレイアウトなどの制約から、図13に示すように、例えばモータ駆動用パワーモジュールに接続されるパターン(52)内の電流発生箇所(52a)と例えばコンデンサに接続されるパターン(53)内の電流流入箇所(53a)とがシャント抵抗(12)を挟んで斜め方向に配置されるなど、シャント抵抗(12)を真横に横切るラインから外れる配置では、図12のような推奨パターンとならない場合が多い。このような場合には、図13及び図14に示したように、発生した電流はパターン上を広がり、シャント抵抗(12)の真横方向だけでなく、縦方向、斜め方向など、様々な方向からシャント抵抗(12)を通過する。その結果、シャント抵抗(12)の電極(12a)、(12b)の延びる方向(長さ方向)に電位差が発生し、このため、シャント抵抗(12)の電流検出値に誤差が生じる。更に、図15に示したように、三相モータの出力端子が三相U、V、Wの各相で独立していて各相毎に電流発生箇所(52u)、(52v)、(52w)があるような場合には、シャント抵抗(12)への電流流通経路が各相で異なるため、相毎の電流検出値にバラツキが生じるという課題がある。」 C「【0030】 この電力変換装置(1)は、図示しない交流電源からの交流電圧を直流電圧に変換するコンバータ部(2)と、上記コンバータ部(2)で変換された直流電圧を三相交流電圧に変換するインバータ部(3)と、該インバータ部(3)とコンバータ部(2)との間に配置された電解コンデンサ(C)とを備える。上記インバータ部(3)は、ダイオード(D)が逆並列接続されたIGBTやMOSFETなどのスイッチング素子(5)が6個、三相ブリッジ結線されてなる。また、上記インバータ部(3)は、例えば空気調和機の圧縮機を駆動する三相モータ(4)に接続されており、電力変換装置(1)から電力を空気調和機に供給する。上記三相モータ(4)は、例えばIPM(埋込磁石型同期モータ)である。 【0031】 そして、上記電力変換装置(1)には、三相モータ(4)の電流を検出するために、電解コンデンサ(C)との接続部分に、シャント抵抗(12)を含む電子回路装置(10)が配置されていて、三相モータ(4)からの電流がシャント抵抗(12)を介して電解コンデンサ(C)に流れ込む際に、シャント抵抗(12)に流れる電流を電流検出回路(7)により検出する。上記電流検出回路(7)により検出された電流はコントローラ(8)に送られ、コントローラ(8)は上記電流検出回路(7)により検出されたモータ電流に基づいて、上記インバータ部(3)の6個のスイッチング素子(5)に対して各々出力するPWM制御信号を調整して、三相モータ(4)に供給する電圧を三相交流電圧に制御する。」 D「【図12】 」 図12から,「パターン(50)はシャント抵抗(12)と電流発生箇所(50a)とを結ぶものである」態様,「パターン(51)はシャント抵抗(12)と電流流入箇所(51a)とを結ぶものである」態様,及び「電流発生箇所(50a)からシャント抵抗(12)を臨む位置から視たパターン(50)は,前記シャント抵抗(12)の右側端及び左側端と前記電流発生箇所(50a)の右側端及び左側端とを繋いだ中央の領域と,前記中央の領域よりも右側方にはみ出る右側の領域と,前記中央の領域よりも左側方にはみ出る左側の領域と,を含む」態様が読み取れる。 (2) 上記A,及びDの(特に下線部)の記載から,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「シャント抵抗(12)を基板上に面実装したものであって, シャント抵抗(12)を面実装するパターン(50),(51)は,シャント抵抗の両端の電極の幅に合わせたパターンが推奨されるものであり,推奨パターンでは,電流発生箇所(50a)から発生した電流はシャント抵抗(12)に対し垂直に流入し,シャント抵抗(12)を真横方向に通過して,電流流入箇所(51a)に流れ込むものであり,シャント抵抗(12)には,電流検出回路(40)が接続されており,シャント抵抗(12)の両端の電圧値に基づいて電流の値を検出するものであり,パターン(50)はシャント抵抗(12)と電流発生箇所(50a)とを結ぶものであり,パターン(51)はシャント抵抗(12)と電流流入箇所(51a)とを結ぶものであり,電流発生箇所(50a)からシャント抵抗(12)を臨む位置から視たパターン(50)は,前記シャント抵抗(12)の右側端及び左側端と前記電流発生箇所(50a)の右側端及び左側端とを繋いだ中央の領域と,前記中央の領域よりも右側方にはみ出る右側の領域と,前記中央の領域よりも左側方にはみ出る左側の領域と,を含むものである, シャント抵抗(12)を基板上に面実装したもの。」 (3) 上記Cの(特に下線部)の記載から,引用文献1には,上記引用発明の他に,“交流電圧を直流電圧に変換するコンバータ部と,コンバータ部で変換された直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部とを備える電力変換装置であって,インバータ部はモータに接続されており,インバータ部とコンバータ部との間に配置された電解コンデンサとの接続部分に,シャント抵抗を含む電子回路装置が配置されている,電力変換装置”,という技術的事項(以下,「引用文献1に記載された技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。 2.引用文献2について (1) 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献2(特開2013-187354号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。) E「【0002】 電池の充放電電流を監視し、電池の充放電電流を制御する等の目的で電流検出用抵抗器が使用される。電流検出用抵抗器は、監視対象電流の経路に挿入され、該電流によって抵抗器両端に生じる電圧を検出し、既知の抵抗値から電流を検出する。このような用途では、例えば10mΩ以下の低抵抗値の電流検出用抵抗器が用いられる場合があるが、さらなる低抵抗値の要求に対して、電流検出用抵抗器15a,15bを配線パターン11a、11b間に複数並列に実装することがある(図1参照)。」 (2) 上記Eの(特に下線部の)記載から,引用文献2には,“電流検出用抵抗器を配線パターン間に複数並列に実装する”,という技術的事項(以下,「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明の「シャント抵抗(12)」は,本願発明1の「シャント抵抗(31)」に相当する。また,引用発明は,「電流発生箇所(50a)から発生した電流はシャント抵抗(12)に対し垂直に流入し,シャント抵抗(12)を真横方向に通過して,電流流入箇所(51a)に流れ込む」ものであるから,引用発明の「電流発生箇所(50a)」及び「電流流入箇所(51a)」は,それぞれ,本願発明1の「前記シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)」及び「前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる第2端子(42)」に相当する。さらに,引用発明は,「パターン(50)はシャント抵抗(12)と電流発生箇所(50a)とを結ぶものであり,パターン(51)はシャント抵抗(12)と電流流入箇所(51a)とを結ぶものであ」るところ,これらの「パターン(50)」及び「パターン(51)」は,「電流発生箇所(50a)から発生し」て「電流流入箇所(51a)に流れ込む」「電流」を伝導するものであるといえることから,引用発明の「パターン(50)」及び「パターン(51)」は,それぞれ,本願発明1の「前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51)」及び「前記シャント抵抗(31)と前記第2端子(42)とを結ぶ第2導電パターン部(52)」に相当する。加えて,引用発明は,「シャント抵抗(12)を基板上に面実装」するものであり,このことから,引用発明の「シャント抵抗(12)を面実装するパターン(50),(51)」は,「シャント抵抗」を「基板上に面実装」するような態様で「基板上に」形成されるものであるといえ,しかも,引用発明の「基板」は,「パターン(50),(51)」を含む,電流を伝導するための各種パターンが形成されたプリント基板であるといえることから,引用発明の「基板」は,本願発明1の「前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51)、及び前記シャント抵抗(31)と前記第2端子(42)とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)」に相当する。 そして,引用発明の「シャント抵抗(12)」は,「電流検出回路(40)が接続されており,シャント抵抗(12)の両端の電圧値に基づいて電流の値を検出する」ことができるものであるから,引用発明の「シャント抵抗(12)を基板上に面実装したもの」は,電流検出のための“装置”であるといえる。 してみると,引用発明の「シャント抵抗(12)を基板上に面実装したもの」と本願発明1の「インバータ装置(20)」とは,後記する点で相違するものの,“シャント抵抗(31)と,前記シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)と,前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる第2端子(42)と,前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51),及び前記シャント抵抗(31)と前記第2端子(42)とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)と,を備える装置”である点で共通する。 イ 引用発明の「電流発生箇所(50a)からシャント抵抗(12)を臨む位置から視たパターン(50)」が「含む」,「シャント抵抗(12)の右側端及び左側端と前記電流発生箇所(50a)の右側端及び左側端とを繋いだ中央の領域」は,本願発明1の「前記第1端子(41)から前記シャント抵抗(31)を臨む位置から視た前記第1導電パターン部(51)」が「含」む,「前記シャント抵抗(31)の右側端及び左側端と前記第1端子(41)の右側端及び左側端とを繋いだ第1中央領域(510)」に相当する。また,引用発明の「前記中央の領域よりも右側方にはみ出る右側の領域」及び「前記中央の領域よりも左側方にはみ出る左側の領域」は,それぞれ,本願発明1の「前記第1中央領域(510)よりも右側方にはみ出る第1右側膨出領域(511)」及び「前記第1中央領域(510)よりも左側方にはみ出る第1左側膨出領域(512)」に相当する。 してみると,引用発明の「パターン(50)」と本願発明1の「第1導電パターン部(51)」とは,後記する点で相違するものの,“前記第1端子(41)から前記シャント抵抗(31)を臨む位置から視た前記第1導電パターン部(51)は,前記シャント抵抗(31)の右側端及び左側端と前記第1端子(41)の右側端及び左側端とを繋いだ第1中央領域(510)と,前記第1中央領域(510)よりも右側方にはみ出る第1右側膨出領域(511)と,前記第1中央領域(510)よりも左側方にはみ出る第1左側膨出領域(512)と,を含む”ものである点で共通する。 以上から,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。 (一致点) シャント抵抗(31)と, 前記シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)と, 前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる第2端子(42)と, 前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51),及び前記シャント抵抗(31)と前記第2端子(42)とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)と, を備え, 前記第1端子(41)から前記シャント抵抗(31)を臨む位置から視た前記第1導電パターン部(51)は, 前記シャント抵抗(31)の右側端及び左側端と前記第1端子(41)の右側端及び左側端とを繋いだ第1中央領域(510)と, 前記第1中央領域(510)よりも右側方にはみ出る第1右側膨出領域(511)と, 前記第1中央領域(510)よりも左側方にはみ出る第1左側膨出領域(512)と, を含む, 装置。 (相違点1) 本願発明1が,「整流部(21)から供給される直流電圧をインバータ(25)で交流電圧に変換して誘導性負荷に印加するインバータ装置」であるのに対し,引用発明の「シャント抵抗(12)を基板上に面実装したもの」は,そのような「インバータ装置」であることについて特定されていない点。 (相違点2) 本願発明1の「シャント抵抗(31)」が,「前記整流部(21)と前記インバータ(25)とを接続する直流リンク(801,802)に設けられる」ものであるのに対し,引用発明の「シャント抵抗」は,そのような箇所に設けられることについて特定されていない点。 (相違点3) 本願発明1が,「第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異なり、前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6?1.6の範囲内である」のに対し,引用発明のパターン(50)は,中央の領域よりも右側方にはみ出る右側の領域の面積と,前記中央の領域よりも左側方にはみ出る左側の領域の面積とが,そのような関係を満たすことについて特定されていない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて,上記相違点3について先に検討する。引用発明は,「推奨パターンでは,電流発生箇所(50a)から発生した電流は」「シャント抵抗(12)を真横方向に通過して,電流流入箇所(51a)に流れ込む」ものであり,この「推奨パターン」は,引用文献1の上記Bの段落【0003】の「パターン(52)内の電流発生箇所(52a)と」「パターン(53)内の電流流入箇所(53a)とが」「シャント抵抗(12)を真横に横切るラインから外れる配置では」「推奨パターンとならない場合が多い」との記載を参照すると,「電流発生箇所(50a)」と「電流流入箇所(51a)」とを,「シャント抵抗(12)」を真横に横切るラインから外れないように配置するものであることが理解されるものの,「真横方向」と直交する方向における「シャント抵抗(12)」のいずれの位置を横切るラインに,「電流発生箇所(50a)」と「電流流入箇所(51a)」とを配置するものであるのかについての開示はなく,引用発明の「パターン(50)」において,「第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異な」るものであることや,「第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6?1.6の範囲内である」ことが示唆されているとまでは認められない。また,この点は,引用文献1に記載された技術的事項や,引用文献2に記載された技術的事項において開示されているものとも認められない。 してみると,相違点3に係る本願発明1の「第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異なり、前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6?1.6の範囲内である」という構成は,上記引用文献1及び2には記載されておらず,また,本願の出願日前において周知であったともいえない。 したがって,本願発明1は,他の相違点を検討するまでもなく,当業者であっても引用発明,引用文献1に記載された技術的事項,及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2?6について 本願発明2?6は,本願発明1を直接又は間接的に引用するものであり,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献1に記載された技術的事項,及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 1.理由1(特許法第29条第2項)について 本願発明1?3,及び6は,「第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異なり、前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6?1.6の範囲内である」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1?2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-04-16 |
出願番号 | 特願2015-122107(P2015-122107) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H02M)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 宮本 秀一、東 昌秋 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 小林 秀和 |
発明の名称 | インバータ装置 |
代理人 | 新樹グローバル・アイピー特許業務法人 |